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特開2024-110232機能性素材、機能性素材の製造方法、及び機能性付与剤
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  • 特開-機能性素材、機能性素材の製造方法、及び機能性付与剤 図1
  • 特開-機能性素材、機能性素材の製造方法、及び機能性付与剤 図2A
  • 特開-機能性素材、機能性素材の製造方法、及び機能性付与剤 図2B
  • 特開-機能性素材、機能性素材の製造方法、及び機能性付与剤 図2C
  • 特開-機能性素材、機能性素材の製造方法、及び機能性付与剤 図3
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  • 特開-機能性素材、機能性素材の製造方法、及び機能性付与剤 図5
  • 特開-機能性素材、機能性素材の製造方法、及び機能性付与剤 図6
  • 特開-機能性素材、機能性素材の製造方法、及び機能性付与剤 図7
  • 特開-機能性素材、機能性素材の製造方法、及び機能性付与剤 図8
  • 特開-機能性素材、機能性素材の製造方法、及び機能性付与剤 図9
  • 特開-機能性素材、機能性素材の製造方法、及び機能性付与剤 図10
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110232
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】機能性素材、機能性素材の製造方法、及び機能性付与剤
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/03 20060101AFI20240807BHJP
   D06M 13/256 20060101ALI20240807BHJP
   D06M 13/224 20060101ALI20240807BHJP
   A01N 43/16 20060101ALI20240807BHJP
   A01N 25/34 20060101ALI20240807BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20240807BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
D06M15/03
D06M13/256
D06M13/224
A01N43/16 A
A01N25/34 A
A01P1/00
A01P3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014702
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】591032703
【氏名又は名称】群馬県
(71)【出願人】
【識別番号】596015527
【氏名又は名称】日本化薬フードテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 康人
(72)【発明者】
【氏名】中村 暢助
(72)【発明者】
【氏名】寺島 和希
(72)【発明者】
【氏名】川野 和男
(72)【発明者】
【氏名】山口 泉
(72)【発明者】
【氏名】林 智子
【テーマコード(参考)】
4H011
4L033
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011AA03
4H011AA04
4H011BB03
4H011BB07
4H011BB08
4H011BC06
4H011BC19
4H011DA07
4H011DH10
4L033AB01
4L033AB04
4L033AC10
4L033BA21
4L033BA28
4L033CA02
(57)【要約】
【課題】 抗ウイルス機能、抗カビ機能、及び抗菌機能の少なくとも1種以上の機能を有し、安全性が高く、基材の色彩に影響を与えず、機能性を繰り返し付与できる機能性素材の提供。
【解決手段】 基材と、前記基材上に、キトサンと、アニオン界面活性剤とを有し、表面のゼータ電位が、5mV以上であり、抗ウイルス機能、抗カビ機能、及び抗菌機能からなる群から選択される1種以上の機能を有する機能性素材。前記基材が、繊維である態様が好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に、キトサンと、アニオン界面活性剤とを有し、
表面のゼータ電位が、5mV以上であり、
抗ウイルス機能、抗カビ機能、及び抗菌機能からなる群から選択される1種以上の機能を有することを特徴とする機能性素材。
【請求項2】
前記基材が、繊維である請求項1に記載の機能性素材。
【請求項3】
前記繊維が、綿、ウール、ポリエステル、アクリル、ナイロン、キュプラからなる群より選択される1種以上である請求項2に記載の機能性素材。
【請求項4】
前記アニオン界面活性剤が、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、及びジアルキルスルホこはく酸塩からなる群より選択される1種以上である請求項1に記載の機能性素材。
【請求項5】
色差b値で表されるカチオン化度が、-10以下である請求項1に記載の機能性素材。
【請求項6】
前記キトサンの分子量が、250Da~200,000Daである請求項1に記載の機能性素材。
【請求項7】
基材に、アニオン界面活性剤を付与するアニオン化工程と、
得られた前記基材に、キトサンを付与するキトサン付与工程と、を有し、
前記アニオン化工程、及び前記キトサン付与工程、を含む交互付与工程を更に実施することにより表面のゼータ電位を5mV以上とすることを特徴とする機能性素材の製造方法。
【請求項8】
前記アニオン化工程が、
前記アニオン界面活性剤を含有する溶液を前記基材に散布する工程、及び
前記アニオン界面活性剤を含有する溶液に前記基材を浸漬させる工程、の少なくともいずれかである請求項7に記載の機能性素材の製造方法。
【請求項9】
前記キトサン付与工程が、
3質量%~5質量%の前記キトサンを含有する水溶液を得られた前記基材に散布する工程、及び
前記キトサンを含有する水溶液に前記基材を浸漬させる工程、の少なくともいずれかである請求項7に記載の機能性素材の製造方法。
【請求項10】
キトサンを含み、
基材に対し、アニオン界面活性剤と前記キトサンとを交互に付与して使用されることを特徴とする、抗ウイルス機能、抗カビ機能、及び抗菌機能からなる群から選択される1種以上の機能を付与するための機能性付与剤。
【請求項11】
基材の表面のゼータ電位が5mV以上となるように、前記アニオン界面活性剤が付与された前記基材に対し、付与して使用される請求項10に記載の機能性付与剤。
【請求項12】
前記キトサンを3質量%~10質量%含有する水溶液である請求項10に記載の機能性付与剤。
【請求項13】
前記キトサンの分子量が、250Da~200,000Daである請求項10に記載の機能性付与剤。
【請求項14】
前記アニオン界面活性剤が、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、及びジアルキルスルホこはく酸塩からなる群より選択される1種以上である請求項10に記載の機能性付与剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性素材、機能性素材の製造方法、及び機能性付与剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、感染予防や衛生上の観点から、抗菌性や抗ウイルス性を備えた衛生用品の需要が高まっており、各種の抗菌性、抗ウイルス性等の機能を物品に付与するための抗菌剤や抗ウイルス剤が使用されている。また、生活環境の多様化と生活意識の変化に伴い、防カビ、消臭、抗アレルゲンといった機能も同時に求められるようになっている。
【0003】
これまでに、金属イオンや金属錯体を利用した抗菌剤や抗ウイルス剤が知られており、基材への付着力や耐洗濯性を得るために、例えば、抗菌性金属成分と無機酸化物とからなる微粒子が分散してなり、前記微粒子が繊維状である抗菌性無機酸化物コロイド溶液である抗菌剤が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、天然由来のカチオン化剤であるキトサンは、繊維に表面処理を施すことで、ダニアレルゲンを吸着してアトピー性皮膚炎のかゆみ症状を緩和することが報告されている(例えば、特許文献2参照)。また、キトサンに消臭性があることが報告されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-017406号公報
【特許文献2】特願5750720号公報
【特許文献3】特開平9-41271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、抗ウイルス機能、抗カビ機能、及び抗菌機能の少なくとも1種以上の機能を有し、安全性が高く、基材の色彩に影響を与えず、機能性を繰り返し付与できる機能性素材、機能性素材の製造方法、及び機能性付与剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を解決すべく、鋭意検討した結果、基材と、前記基材上に、キトサンと、アニオン界面活性剤とを有し、表面のゼータ電位が、5mV以上である本発明の機能性素材が、抗ウイルス機能、抗カビ機能、及び抗菌機能からなる群から選択される1種以上の機能を有することを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 基材と、
前記基材上に、キトサンと、アニオン界面活性剤とを有し、
表面のゼータ電位が、5mV以上であり、
抗ウイルス機能、抗カビ機能、及び抗菌機能からなる群から選択される1種以上の機能を有することを特徴とする機能性素材である。
<2> 前記基材が、繊維である前記<1>に記載の機能性素材である。
<3> 前記繊維が、綿、ウール、ポリエステル、アクリル、ナイロン、キュプラからなる群より選択される1種以上である前記<2>に記載の機能性素材である。
<4> 前記アニオン界面活性剤が、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、及びジアルキルスルホこはく酸塩からなる群より選択される1種以上である前記<1>から<3>のいずれかに記載の機能性素材である。
<5> 色差b値で表されるカチオン化度が、-10以下である前記<1>から<4>のいずれかに記載の機能性素材である。
<6> 前記キトサンの分子量が、250Da~200,000Daである前記<1>から<5>のいずれかに記載の機能性素材である。
<7> 基材に、アニオン界面活性剤を付与するアニオン化工程と、
得られた前記基材に、キトサンを付与するキトサン付与工程と、を有し、
前記アニオン化工程、及び前記キトサン付与工程、を含む交互付与工程を更に実施することにより表面のゼータ電位を5mV以上とすることを特徴とする機能性素材の製造方法である。
<8> 前記アニオン化工程が、
前記アニオン界面活性剤を含有する溶液を前記基材に散布する工程、及び
前記アニオン界面活性剤を含有する溶液に前記基材を浸漬させる工程、の少なくともいずれかである前記<7>に記載の機能性素材の製造方法である。
<9> 前記キトサン付与工程が、
3質量%~5質量%の前記キトサンを含有する水溶液を得られた前記基材に散布する工程、及び
前記キトサンを含有する水溶液に前記基材を浸漬させる工程、の少なくともいずれかである前記<7>から<8>のいずれかに記載の機能性素材の製造方法である。
<10> キトサンを含み、
基材に対し、アニオン界面活性剤と前記キトサンとを交互に付与して使用されることを特徴とする、抗ウイルス機能、抗カビ機能、及び抗菌機能からなる群から選択される1種以上の機能を付与するための機能性付与剤である。
<11> 基材の表面のゼータ電位が5mV以上となるように、前記アニオン界面活性剤が付与された前記基材に対し、付与して使用される前記<10>に記載の機能性付与剤である。
<12> 前記キトサンを3質量%~10質量%含有する水溶液である前記<10>から<11>のいずれかに記載の機能性付与剤である。
<13> 前記キトサンの分子量が、250Da~200,000Daである前記<10>から<12>のいずれかに記載の機能性付与剤である。
<14> 前記アニオン界面活性剤が、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、及びジアルキルスルホこはく酸塩からなる群より選択される1種以上である前記<10>から<13>のいずれかに記載の機能性付与剤である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、抗ウイルス機能、抗カビ機能、及び抗菌機能の少なくとも1種以上の機能を有し、安全性が高く、基材の色彩に影響を与えず、機能性を繰り返し付与できる機能性素材、機能性素材の製造方法、及び機能性付与剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、キトサナーゼ処理を行ったキトサンの分子量をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した結果を示すグラフである。
図2A図2Aは、比較例の機能性素材(交互付与1回)について、インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果を測定した結果を示すグラフである。
図2B図2Bは、比較例の機能性素材(交互付与2回)について、インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果を測定した結果を示すグラフである。
図2C図2Cは、実施例の機能性素材(交互付与3回)について、インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果を測定した結果を示すグラフである。
図3図3は、実施例及び比較例の機能性素材について、インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果を測定した結果を示すグラフである。
図4図4は、ハロー試験におけるハローの有無、及びハロー長さを示す図である。
図5図5は、実施例及び比較例の機能性素材について、アスペルギルスに対する抗カビ効果を測定した結果を示す写真である。
図6図6は、実施例及び比較例の機能性素材について、アスペルギルスに対する抗カビ効果を測定した結果を示す写真である。
図7図7は、実施例及び比較例の機能性素材について、黄色ブドウ球菌に対する抗菌効果を測定した結果を示すグラフである。
図8図8は、実施例及び比較例の機能性素材について、大腸菌に対する抗菌効果を測定した結果を示すグラフである。
図9図9は、実施例及び比較例の機能性素材について、カチオン化度を測定した結果を示す写真である。
図10図10は、実施例及び比較例の機能性素材の表面におけるキトサン付着量を飛行時間型2次イオン質量分析法により測定した結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(機能性素材)
本発明の機能性素材は、基材と、前記基材上に、キトサンと、アニオン界面活性剤とを有し、表面のゼータ電位が、5mV以上であり、抗ウイルス機能、抗カビ機能、及び抗菌機能からなる群から選択される1種以上の機能を有する。
【0012】
<基材>
前記基材は、抗ウイルス機能、抗カビ機能、及び抗菌機能からなる群から選択される1種以上の機能を付与する対象であり、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記基材としては、例えば、繊維、金属、セラミック、プラスチック、木などが挙げられる。これらの中でも、繊維が好ましい。
前記繊維としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、綿、ウール、ポリエステル、アクリル、ナイロン、キュプラなどが好適に挙げられる。
前記繊維を有する繊維製品としては、肌着、靴下、ブラウス等の一般衣料関連製品;布団カバー、枕カバー、布団綿等の寝具関連製品;包帯、ガーゼ等の医療関連製品;ぬいぐるみ等の玩具関連製品などが挙げられる。
【0013】
<キトサン>
「キトサン」とは、グルコサミンの1,4-重合体、又はグルコサミンとN-アセチルグルコサミンとの1,4-共重合体(ランダム共重合体)であり、直鎖状の多糖類である。
工業的には、主として、カニ、エビ、イカ、昆虫等の甲殻中に多量に含まれるキチン(N-アセチルグルコサミンの1,4-重合体)を抽出し、これをアルカリ中で加水分解して脱アセチル化することにより得られる。分子量、脱アセチル化の割合(%DA)、粘度等において、様々な物性及び品質の市販品のキトサンを入手することができる。キトサンはすでに工業化されており安価に入手できる。
【0014】
前記キトサンとしては、エビやカニなどの甲殻類から精製されたものの他、キノコから精製したキトサンが好適に用いることができ、甲殻類アレルギーを有する利用者が利用可能である点で有利である。
以下に、キチン及びキトサンの構造式を示す。
【0015】
【化1】
ここで、m及びnは整数を示す。
【0016】
前記キトサンの脱アセチル化の割合(%DA)としては、酸性の水溶液に溶解すれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、60%以上100%以下が好ましく、80%以上100%以下がより好ましい。
なお、前記脱アセチル化の割合(%DA)は、前記キトサンの構造式中、m/(m+n)×100に相当する。
【0017】
前記キトサンは、経口摂取することによりコレステロール調整機能、脂肪吸収阻害機能、血圧上昇抑制機能などの様々な生理活性機能を有することや、再生医療素材としての応用が知られており、経口摂取や皮膚への塗布において、その安全性が確認されている(荒井君江、衣巻豊輔、藤田孝夫、「キトサンの毒性について」、東海水研報、56、89~94(1968)参照)。
【0018】
前記キトサンの分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、250Da~200,000Daが好ましく、1,000Da~100,000Daがより好ましく、10,000Da~50,000Daが更に好ましい。
【0019】
<アニオン界面活性剤>
前記アニオン界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、せっけん、金属せっけん、アシルイセチオン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルスルホこはく酸塩、ジアルキルスルホこはく酸塩、アシル加水分解コラーゲン塩、アシルサルコシン塩、α-オレフィンスルホン酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アシルメチルアラニン塩、アシルグルタミン酸塩、アシル乳酸塩、アルキルエーテル酢酸塩、アシルメチルタウリン塩、アシルアスパラギン酸塩、アシルグリシン塩などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
抗カビ機能、及び抗菌機能の観点からは、いずれの前記アニオン界面活性剤も好適に用いることができる。
抗ウイルス機能を奏する点から、前記アニオン界面活性剤は、スルホン酸基を有するアニオン界面活性剤であることが好ましく、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、及びジアルキルスルホこはく酸塩からなる群より選択される1種以上であることがより好ましい。
【0020】
[機能性素材の表面のゼータ電位]
前記機能性素材の表面のゼータ電位としては、抗カビ機能、及び抗菌機能を有する点で、5mV以上であり、7mV以上が好ましく、更に抗ウイルス機能を有する点で、10mV以上がより好ましい。
前記機能性素材の表面のゼータ電位は、ゼータ電位測定システム(ELSZ-2000ZS、大塚電子株式会社製)を用いて測定することができる。
具体的には、ゼータ電位測定システムに付属の平板試料用セル用いて、10mMのNaCl溶液中にポリスチレンラテックス(粒子径約500nm)をヒドロキシプロピルセルロース(Mw=30,000)でコーティングして、ゼータ電位をほぼゼロに抑えたモニター粒子を入れることにより、モニター粒子が試料の平面から受ける影響を測定し、森・岡本の下記式(1)(文献:「顕微鏡電気泳動法における長方形セル内の流れの解析」森裕行,岡本嘉夫:浮選,27,117 1-124(1980)参照)により平板試料である機能性素材の表面ゼータ電位を求めた。
式(1)
obs(Z)=AU(Z/b)2+ΔU(Z/b)+(1-A)U+U
obs(Z):位置yにおいて測定される見掛けの速度
Z:セル中心からの距離
A=1/[(2/3)-(0.420166/k)]
k=a/b:セル断面の辺の長さa,bの比(a>b)
:粒子の真の移動度
:セル上下面での溶媒の流速の平均
ΔU:セル上下面での溶媒の流速の差
【0021】
[機能性素材のカチオン化度]
前記機能性素材の色差b値で表されるカチオン化度としては、抗カビ機能、及び抗菌機能を有する点で、-10以下であり、-15以下が好ましく、更に抗ウイルス機能を有する点で、-20以下がより好ましい。
前記機能性素材の色差b値で表されるカチオン化度は、カチオン化度試験により測定することができる。
カチオン化度試験とは、ダイレクトブルー86試薬を用いて染色し、色差計にてb値を測定することにより、繊維表面のカチオン度合いを定量的に調べる方法である。
具体的には、機能性素材を0.01%ダイレクトブルー86水溶液100mLに10分間浸漬後、水道水で十分に濯ぎ、60℃10分間乾燥させた生地をカチオン化度測定用検体とし、分光色彩計(SE7700、日本電色工業株式会社製)を用いて、ダイレクトブルー染色した機能性素材の色差b値を測定することができる。
【0022】
前記機能性素材は、表面のゼータ電位が5mV以上であり、表面のカチオン化度が高いことから、負に帯電しているウイルス、カビ、及び細菌を表面に吸着しつつ、効果的に抗ウイルス機能、抗カビ機能、及び抗菌機能の少なくともいずれかを発揮すると考えられる。
【0023】
前記抗ウイルス機能の対象となるウイルスとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒトインフルエンザウイルス、トリインフルエンザウイルス、コロナウイルス、ノロウイルス、エボラ出血熱ウイルス、エイズウイルスなどが挙げられる。
前記抗カビ機能の対象となるカビとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アスペルギルス属、クリプトコッカス属、カンジダ属、ニューモシスチス属、白癬菌、癜風菌などが挙げられる。
前記抗菌機能の対象となる菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、黄色ブドウ球菌、乳酸菌、ビフィズス菌、表皮ブドウ球菌、腐性ブドウ球菌、肺炎球菌、化膿レンサ球菌(溶連菌)、ミュータンス菌、腸球菌、ペプトコッカス、結核菌、らい菌、セレウス菌、ジフテリア菌、炭疽菌、枯草菌、納豆菌、ボツリヌス菌、ウェルシュ菌、破傷風菌、リステリア菌、乳酸桿菌、ビフィズス菌、アクネ菌等のグラム陽性菌;大腸菌、サルモネラ菌、緑膿菌、髄膜炎菌、淋菌、カタル球菌、百日咳菌、レジオネラ菌、ブルセラ菌、アシネトバクター、カンピロバクター、ピロリ菌、ハイルマニ菌、腸炎ビブリオ、肺炎桿菌、インフルエンザ菌、軟性下疳菌、ペスト菌、赤痢菌、チフス菌、パラチフス菌、セラチア菌、エンテロバクター、バクテロイデス、フゾバクテリウム、プレボテラ、プロテウス菌、ビブリオ・バルニフィカス、コレラ菌、ナグビブリオ、梅毒トレポネーマ、ボレリア、レプトスピラ等のグラム陰性菌などが挙げられる。
【0024】
(機能性素材の製造方法)
本発明の機能性素材の製造方法は、アニオン化工程と、キトサン付与工程と、を有し、前記アニオン化工程、及び前記キトサン付与工程、を含む交互付与工程を更に実施することにより表面のゼータ電位を5mV以上とする方法であり、更に必要に応じてその他の工程を有する。
前記基材、前記アニオン界面活性剤、及び前記キトサンとしては、上記した本発明の機能性素材において説明した事項を適宜選択することができる。
【0025】
<アニオン化工程>
前記アニオン化工程は、基材に、アニオン界面活性剤を付与する工程である。
前記アニオン界面活性剤を付与する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記アニオン界面活性剤を含有する溶液を前記基材に散布する工程、及び前記アニオン界面活性剤を含有する溶液に前記基材を浸漬させる工程、の少なくともいずれかであることが好ましい。
前記浸漬させる方法としては、例えば、前記アニオン界面活性剤を含有する洗濯洗剤を用いて洗濯する方法が挙げられる。
前記アニオン界面活性剤を含有する溶液における前記アニオン界面活性剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.001質量%~3質量%が好ましく、0.01質量%~2質量%がより好ましく、0.02質量%~1質量%が更に好ましい。
【0026】
<キトサン付与工程>
前記キトサン付与工程は、得られた前記基材に、キトサンを付与する工程である。
前記キトサンを付与する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記キトサンを含有する水溶液を得られた前記基材に散布する工程、及び前記キトサンを含有する水溶液に前記基材を浸漬させる工程、の少なくともいずれかであることが好ましい。
前記キトサンを含有する水溶液における前記キトサンの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1質量%~10質量%が好ましく、1質量%~7質量%がより好ましく、3質量%~5質量%が更に好ましい。
【0027】
<交互付与工程>
前記交互付与工程は、前記アニオン化工程、及び前記キトサン付与工程、を含み、前記アニオン化工程、及び前記キトサン付与工程、を更に実施することにより表面のゼータ電位を5mV以上とする工程である。
前記交互付与工程を更に実施することで、基材表面のキトサン付着量を増やし、表面のゼータ電位を5mV以上とし、カチオン化度を高めることができる。
前記交互付与工程を繰り返し実施することで、基材表面のキトサン付着量をさらに増やすことができ、表面のゼータ電位、及びカチオン化度を更に高めることができる。
前記交互付与工程の実施回数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0028】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、洗浄工程、乾燥工程などが挙げられる。
前記洗浄工程としては、例えば、前記アニオン化工程に続いて余分な前記アニオン界面活性剤を洗浄する工程、前記キトサン付与工程に続いて余分な前記キトサンを洗浄する工程などが挙げられる。
前記乾燥工程としては、例えば、前記アニオン化工程、前記キトサン付与工程乃至前記洗浄工程に続いて、必要に応じて脱水した上で、基材を乾燥させる工程などが挙げられる。
【0029】
-水-
前記アニオン界面活性剤を含有する溶液、前記キトサンを含有する水溶液、及び前記洗浄工程に使用できる水としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、工業用水、水道水、ミネラル水、蒸留水、精製水などが挙げられる。
前記水としては、廃水の問題や、回収工程の有無の点で、工業用水、水道水、ミネラル水、蒸留水、精製水が好ましく、前記アニオン界面活性剤を含有する溶液、及び前記キトサンを含有する水溶液の成分として使用することを考慮すると、蒸留水、精製水がより好ましい。
前記水は、含水溶媒の形態で用いられてもよい。前記含水溶媒における溶媒としては、水と任意の割合で混合できる有機溶媒であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アセトン、エタノールなどのキトサンを溶解しない溶媒を用いることが好ましい。また、前記溶媒としては、経口摂取において認容されている有機溶媒が好ましい。
【0030】
前記機能性素材の製造方法の一態様として、機能性素材の再生方法が挙げられる。
前記機能性素材の再生方法は、機能が低下した機能性素材(すなわち、表面のゼータ電位が5mV未満である基材)に、前記アニオン化工程、及び前記キトサン付与工程、を含む交互付与工程を更に実施することにより表面のゼータ電位を5mV以上とする方法である。これにより、前記機能性素材の機能を再生することができる。
前記アニオン化工程に続いて前記洗浄工程を行うことが好ましい。
前記アニオン化工程に続いて前記洗浄工程を行うこと(いわゆる、洗濯)により、機能が低下した機能性素材を洗浄することで、吸着及び失活したウイルス、カビ乃至菌を除去することができる。その上で、キトサン付与工程を行うことにより、前記機能性素材の洗浄及び再生を行うことができ、抗ウイルス機能、抗カビ機能、及び抗菌機能からなる群から選択される1種以上の機能を維持することができる。
前記交互付与工程を更に実施することで、基材表面のキトサン付着量を増やし、表面のゼータ電位を5mV以上とし、カチオン化度を高めることができる。
前記交互付与工程を繰り返し実施することで、基材表面のキトサン付着量をさらに増やすことができ、表面のゼータ電位、及びカチオン化度を更に高めることができる。
前記交互付与工程の実施回数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0031】
(機能性付与剤)
本発明の機能性付与剤は、キトサンを含み、基材に対し、アニオン界面活性剤と前記キトサンとを交互に付与して使用され、抗ウイルス機能、抗カビ機能、及び抗菌機能からなる群から選択される1種以上の機能を付与するための機能性付与剤である。
前記基材、前記アニオン界面活性剤、及び前記キトサンとしては、上記した本発明の機能性素材において説明した事項を適宜選択することができる。
前記機能性付与剤は、基材の表面のゼータ電位が5mV以上となるように、前記アニオン界面活性剤が付与された前記基材に対し、付与して使用されることが好ましい。
また、前記機能性付与剤は、前記キトサンを含有する水溶液であることが好ましく、前記キトサンを含有する水溶液における前記キトサンの含有量としては、0.1質量%~10質量%が好ましく、1質量%~7質量%がより好ましく、3質量%~5質量%が更に好ましい。
【0032】
前記キトサンの分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、250Da~200,000Daが好ましく、1,000Da~100,000Daがより好ましく、10,000Da~50,000Daが更に好ましい。
前記アニオン界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、抗ウイルス機能を奏する点から、前記アニオン界面活性剤は、スルホン酸基を有するアニオン界面活性剤であることが好ましく、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、及びジアルキルスルホこはく酸塩からなる群より選択される1種以上であることがより好ましい。
【実施例0033】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
なお、「%」は「質量%」を示す。
【0034】
[1-1.キトサンの分子量制御と測定]
キトサンとして、マッシュルーム由来のキノコキトサンを使用した。キトサンの物性は、乾燥減量15%以下、1%粘度20mPa・s~60mPa・s、脱アセチル化度90%以上であった。
キトサン5gに20℃に調整した蒸留水90.9gを加え、攪拌しながら50%乳酸4gを徐々に加えキトサンを溶解した。溶解液にキトサン分解酵素キトサナーゼを0.1g加え、40℃で1時間~48時間攪拌し、キトサンを低分子化した。低分子化したキトサン溶液を85℃で30分間加熱し、酵素キトサナーゼを失活させ、分子量の異なる5%濃度キトサン溶液を得た。キトサンの分子量測定は移動相と同じ成分で5%濃度キトサン溶液を希釈して、0.3%濃度キトサン溶液を調整して、これをキトサン分子量測定用検体とした。
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定条件を表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
酵素キトサナーゼの処理時間を0、1、2、3、及び48時間で比較した。その時のGPCカラムによる分析結果を図1及び表2に示す。
図1及び表2から明らかなように、初期の分子量が18万、酵素処理開始から1時間後に3万、2時間後に2万、3時間後に9千になり、48時間では250にまで低分子化されることがわかった。
【0037】
【表2】
【0038】
[1-2.機能性素材の作製例]
JIS堅ろう度白布(JIS L 0801準拠)の綿布を10cm×4cmに切り出し基材として用い、基材にアニオン界面活性剤の付与、及びキトサンの付与を行う交互付与を合計0回~3回実施し、基材上にアニオン界面活性剤、及びキトサンが交互に付与された機能性素材を作製した。
具体的には、キトサナーゼ処理により得られた分子量の異なる5%濃度キトサン溶液を希釈により0.1%濃度キトサン溶液とし、機能性付与剤とした。綿布は、アニオン界面活性剤を含有する市販洗剤(さらさ 液体、P&G社製)0.83gに対し、水1Lの割合で希釈した水溶液を用いて、10分間洗濯処理をした。脱水後、洗濯した綿布を60℃10分間乾燥した。その後、浴比1:20で各機能性付与剤に10分間浸漬し、脱水、乾燥することで加工した。この操作を繰り返すことで機能性素材を作製した。
【0039】
[1-3.表面のゼータ電位測定]
各機能性素材の平面ゼータ電位測定をゼータ電位測定システム(ELSZ-2000ZS、大塚電子株式会社製)で行った。
具体的には、ゼータ電位測定システムに付属の平板試料用セル用いて、10mMのNaCl溶液中にポリスチレンラテックス(粒子径約500nm)をヒドロキシプロピルセルロース(Mw=30,000)でコーティングして、ゼータ電位をほぼゼロに抑えたモニター粒子を入れることにより、モニター粒子が試料の平面から受ける影響を測定し、森・岡本の下記式(1)(文献:「顕微鏡電気泳動法における長方形セル内の流れの解析」森裕行,岡本嘉夫:浮選,27,117 1-124(1980)参照)により平板試料である機能性素材の表面ゼータ電位を求めた。
式(1)
obs(Z)=AU(Z/b)2+ΔU(Z/b)+(1-A)U+U
obs(Z):位置yにおいて測定される見掛けの速度
Z:セル中心からの距離
A=1/[(2/3)-(0.420166/k)]
k=a/b:セル断面の辺の長さa,bの比(a>b)
:粒子の真の移動度
:セル上下面での溶媒の流速の平均
ΔU:セル上下面での溶媒の流速の差
【0040】
キトサンの付与と表面のゼータ電位に関連があることから、各機能性素材表面のゼータ電位を測定した。その結果を表3に示す。表から洗剤処理のみでキトサン付与していない綿布(0回)は、表面電位-5.22mVの負に帯電していたが、キトサン交互付与回数に比例して表面電位は上昇し、表面電位は、2回では+7.60mV、3回では+12.50mVと大きく正電位を示した。
【0041】
【表3】
【0042】
[2-1.抗ウイルス効果の測定]
抗ウイルス試験は、繊維製品の抗ウイルス性試験方法(JIS L 1922)に基づきインフルエンザウイルス(PR8、ATCC(American Type Culture Collection)より入手)を用いて、TCID50法で評価した。
キトサンの交互付与回数による抗ウイルス効果を検証した。キトサンとしては、キトサナーゼによる酵素分解処理時間を変更して得られた分子量の異なる5%濃度キトサン溶液を用いた。
【0043】
結果を図2A図2Cに示す。
ここで、JIS抗ウイルス活性値効果基準は、表4の通り、定義されている。
図2A図2Cから明らかなように交互付与3回以上で抗ウイルス効果を示した。抗ウイルス効果は、キトサン分子量の影響をほとんど受けないことが明らかとなった。
このことは、250Da~200,000Daの範囲の分子量を有するキトサンを加工剤として使用することで、抗ウイルス機能を効果的に付与できる画期的な機能性付与剤として利用できることを示す結果である。
【0044】
【表4】
【0045】
[2-2.アニオン界面活性剤成分の検討]
洗剤に含まれるアニオン界面活性剤のうち、抗ウイルス効果において有効な成分を同定するために、表5に示す市販の洗剤(No.1)、又は各アニオン界面活性剤(No.2~7)を用いて、基材上にアニオン界面活性剤、及びキトサンが交互に付与された機能性素材を作製した。
具体的には、JIS堅ろう度白布(JIS L 0801準拠)の綿布を10cm×4cmに切り出し基材として用い、市販の洗剤(さらさ 液体、P&G社製、試料番号:No.1)、又は洗剤の各アニオン界面活性剤(No.2~7)の13.5質量%水溶液0.83gを蒸留水1Lで希釈し、10分間洗濯処理をした。脱水後、洗濯した綿布を60℃10分間乾燥した。その後、キトサナーゼ処理(1時間酵素処理)により得られた分子量約3万の5%濃度キトサン溶液を機能性付与剤とし、洗濯した綿布10cm×4cmに1mL染み込ませた。次いで、綿布を60℃10分間乾燥することで、キトサンを付与した。
基材にアニオン界面活性剤の付与、及びキトサンの付与を行う交互付与を合計3回実施することで、基材上にアニオン界面活性剤、及びキトサンが交互に付与された機能性素材を作製した。
【0046】
【表5】
【0047】
前記[2-1.抗ウイルス効果の測定]に従って、得られた各機能性素材について抗ウイルス試験を実施した。抗ウイルス試験による結果を表6に示す。
表4のJIS効果基準によれば、市販洗剤、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ジアルキルスルホこはく酸塩とキトサンの3回交互付与した基材で、効果があった。市販洗剤にはNo.2~5が含まれており、抗ウイルス効果に関与している成分が直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩であることが確認された。
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩は、スルホン酸系のアニオンであり、同じスルホン酸系のアニオンであるα-オレフィンスルホン酸塩、及びジアルキルスルホこはく酸塩もそれぞれ同様に十分な抗ウイルス効果が得られた。
一方で、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩とキトサンを予め混合した液で処理した基材では抗ウイルス効果は得られなかった。これは混合液中で直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩とキトサンとが結合して、効果が失われたと考えられる。
すなわち、スルホン酸系のアニオンとキトサンのカチオンが基材の表面上で3回交互に付与される(おそらく交互に積層される)ことで、表面のゼータ電位10mV以上を示すキトサンが基材に付与され、有意な抗ウイルス効果が得られると考えられる。
【0048】
【表6】
【0049】
[2-3.キトサン以外のカチオン化剤を用いた比較例]
キトサン以外のカチオン化剤のポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(以下、PDDA)との比較を行った。つまり、表面のゼータ電位の影響で抗ウイルス効果が得られるのであれば、同じくカチオン性のPDDAを用いて、アニオン界面活性剤を含む洗剤とPDDAとの交互付与を行った基材でも効果が得られると予想した。加えて、キトサン付与のみ、PDDA付与のみ、又は洗剤付与のみを3回行った綿布での抗ウイルス効果も測定した。
【0050】
結果を図3に示す。
図から明らかなように、アニオン界面活性剤とキトサンを交互付与した綿布でのみ抗ウイルス効果が得られることがわかった。このことは、抗ウイルス効果の発現には、繊維表面のゼータ電位が高いことが十分条件なのではなくキトサン自体の交互付与による効果であることを示している。
【0051】
以上より、基材に対し、アニオン界面活性剤とキトサンの交互付与を3回以上実施した素材は、抗ウイルス機能を付与した機能性素材として利用できることがわかった。また、キトサン含有水溶液を、抗ウイルス機能を付与するための機能性付与剤として利用できることがわかった。
【0052】
[3-1.抗カビ試験(ハロー試験)(その1)]
アニオン界面活性剤と、キトサンとを交互付与した機能性素材の抗カビ効果を、ハロー試験により評価した。
前記[2-2.アニオン界面活性剤成分の検討]で作製した機能性素材を直径3cmに切り出し、試料として用いた。菌株として、カビ(アスペルギルス属、ニデュランス、野生株、食品を腐敗させて採取した)を使用した。
ハロー試験とは、寒天培地全面に菌を接種し、その上に試料を載せ培養し、培養後の試料周囲にハロー(発育阻止帯、菌の増殖が弱い乃至発育がない部分)の有無から、定性的に抗カビ性を調べる方法である。図4に、ハロー試験の結果を模式的に示す。図4に示すように、ハローの長さは、発育阻止帯をノギスで測定するか、下記式より求めることができる。
(式)
ハローの長さ[mm]=(発育阻止帯の直径[mm]-試料の直径[mm])/2
【0053】
ハロー試験の方法としては、具体的には、以下の手順で行った。
(1) 菌混釈平板培地の作製
滅菌シャーレにカビ胞子液(10~10個/mL)を1mL入れる。続けて約45℃に保温した普通寒天培地約15mLを加え、良く混合する。寒天凝固後、蓋をずらして1時間程度放置し余分な水分を乾燥させる。
(2) 試料(交互付与して得られた機能性素材)を直径3cmの円形に切り抜く。加熱によりキトサン成分の変質の恐れがあるため、試料の滅菌は行なわない。
(3) (1)の平板培地の中央に(2)の試料を一枚置き、滅菌コンラージ棒で上から軽く押さえ、試料を密着させる。
(4) 平板培地を25℃で5日間培養後、ノギスにてハローの長さを測定する。
【0054】
各洗剤成分とキトサンで処理した生地の抗カビ効果をハローの長さで比較した。結果を表7に示す。コントロール(蒸留水、No.8)に対し、アニオン界面活性剤とキトサンとを交互付与した試料No.1~7では、ハローが確認された。
しかし、アニオン界面活性剤とキトサンとを予め混合して用いた、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩-キトサン混合液(No.9)では抗カビ効果は得られなかった。
【0055】
【表7】
【0056】
[3-2.抗カビ試験(ハロー試験)(その2)]
キトサン濃度と抗カビ効果の関係を調べるため、1%~5%のキトサン水溶液を用いてハロー試験を行った。
以下の手順で、交互付与した機能性素材を調製して試料としたこと以外は、前記[3-1.抗カビ試験(ハロー試験)(その1)]に記載の方法に従った。
【0057】
<機能性素材の調製>
<<材料>>
・基材:綿白布(カナキン3号) 約4cm×10cmに裁断
・アニオン界面活性剤水溶液:13.5%アニオン界面活性剤(スルホこはく酸)水溶液0.83gに対し、水1Lの割合で希釈
・キトサン水溶液:キトサナーゼ処理(1時間酵素処理)により得られた分子量約3万のキトサンを水でそれぞれ1%、2%、3%、4%、5%に希釈。
<<処理方法>>
(1) 基材全体にアニオン界面活性剤水溶液(スルホこはく酸)0.5mLを浸み込ませる(布に丁度入り込む量)。
(2) 基材を60℃で約10分間乾燥させる。
(3) 乾燥した基材全体に各濃度のキトサン水溶液0.5mLを浸み込ませる。
(4) 基材を60℃で約10分間乾燥させる。
上記のアニオン界面活性剤とキトサンの交互付与を、4回繰り返したものを作製した。
コントロールとして、無処理布を準備した。
【0058】
その結果を図5及び表8に示す。無処理の綿白布を試料とした場合には、布表面にも菌が増殖していた一方で、1%キトサン水溶液を用いた場合には、試料表面には菌の生育が見られなかった。また、キトサン水溶液の濃度が高くなると抗カビ効果が強くなることが分かった。
【0059】
【表8】
【0060】
[3-3.抗カビ試験(ハロー試験)(その3)]
交互付与の回数と抗カビ効果の関係を調べるため、交互付与の回数を1回~5回に変更してハロー試験を行った。
下記のアニオン界面活性剤水溶液を用いて、交互付与の回数を1回~5回に変更したこと以外は、前記[3-2.抗カビ試験(ハロー試験)(その2)]に記載の方法に従った。
・アニオン界面活性剤水溶液:市販洗剤(さらさ 液体、P&G社製)0.83gに対し、水1Lの割合で希釈
また、コントロールとして、無処理の布、及びキトサン水溶液に代えて水を用い、洗剤(アニオン界面活性剤水溶液)と水の交互付与を5回行った布を準備した。
【0061】
その結果を図6及び表9に示す。その結果、洗剤と水との交互付与を5回行った対照2では、洗剤成分の菌への影響がほとんど見られないのに対し、アニオン界面活性剤とキトサンの交互付与を行った場合には、交互付与の回数の増加に伴い、抗カビ効果が増加することが分かった。
【0062】
【表9】
【0063】
[4-1.抗菌試験(その1)]
以下のアニオン界面活性剤水溶液と、分子量約4万、濃度0.1%のキトサン水溶液とを用いて、前記[1-2.機能性素材の作製例]に従って、アニオン界面活性剤とキトサンとを交互付与した機能性素材を調製した。
調製した機能性素材を試料として用い、黄色ブドウ球菌(NBRC 12732、独立行政法人 製品評価技術基盤機構より入手)に対する抗菌試験を実施した。
抗菌試験は、繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果(JIS L 1902)を参考に行った。
【0064】
<機能性素材の調製>
<<材料>>
・基材:綿白布(カナキン3号) 約4cm×10cmに裁断
・アニオン界面活性剤水溶液:市販洗剤(さらさ 液体、P&G社製)0.83gに対し、水1Lの割合で希釈
・キトサン水溶液:キトサナーゼ処理(0.75時間酵素処理)により得られた分子量約4万のキトサンを水で0.1%に希釈。
なお、コントロールとして、洗剤のみ使用し、キトサン付与を行っていない対照布(「交互付与0回」)を準備した。
【0065】
黄色ブドウ球菌に対する抗菌試験結果を表10に示す。表から明らかなように、交互付与を行っていないコントロールでは抗菌活性値0であるのに対し、交互付与2回以上で抗菌活性値3以上であり、下記表11に示すJISの基準によれば、強い抗菌効果が認められる結果となった。
キトサンを交互付与することで、基材(生地)表面に強い抗菌作用を付与することができることが明らかとなった。さらに、洗濯時に再度キトサンで加工すれば、抗菌効果を強いまま維持できる。
【0066】
【表10】
【0067】
【表11】
【0068】
[4-2.抗菌試験(その2、及びその3)]
黄色ブドウ球菌に対する抗菌効果について、キトサン分子量が抗菌効果に及ぼす影響について検証した。各酵素処理時間(異なる分子量)のキトサンを3回交互付与した綿布の抗菌活性値を確認した。
グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌に加えて、グラム陰性菌である大腸菌(NBRC 3972、独立行政法人 製品評価技術基盤機構より入手)に対する抗菌効果についても同様に評価を行った。
【0069】
黄色ブドウ球菌に対する抗菌効果の結果を図7に示し、大腸菌に対する抗菌効果の結果を図8に示す。
黄色ブドウ球菌では、1、2、3、4時間処理したキトサンで抗菌活性値2以上が得られた。また、大腸菌では1、2、3時間処理のキトサンで抗菌活性値2以上が得られた。
細菌は大きく2種類に大別され、グラム染色により紫色に染まるものをグラム陽性菌(細胞壁が厚い)、染まらないものをグラム陰性菌(細胞壁が薄い)。グラム陽性菌の例としては黄色ブドウ球菌や乳酸菌、ビフィズス菌、グラム陰性菌の例としては大腸菌、サルモネラ菌、緑膿菌などがある。図7及び図8の結果から、グラム陽性菌、グラム陰性菌共に抗菌効果を示したことで幅広い細菌に効果があると考えられる。
【0070】
[5-1.カチオン化度試験(その1)]
前記[5.アニオン界面活性剤成分の詳細検討]にて作製した機能性素材を0.01%ダイレクトブルー86水溶液100mLに10分間浸漬後、水道水で十分に濯ぎ、60℃10分間乾燥させた生地をカチオン化度測定用検体とした。分光色彩計(SE7700、日本電色工業株式会社製)を用いて、ダイレクトブルー染色した機能性素材の色差b値を測定した。
【0071】
各洗剤成分とキトサンで処理した生地のカチオン化度を色差b値で比較した。結果を表12に示す。
コントロール(蒸留水)以外は、ダイレクトブルー86で青色に染まり、生地の表面がカチオン化されていることが確認された。直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩-キトサン混合液のカチオン化度は若干低いことが確認された。
【0072】
【表12】
【0073】
[5-2.カチオン化度試験(その2)]
キトサン水溶液濃度を変更し、交互付与の回数を変化させた場合の、機能性素材の表面のカチオン化度との関係を評価した。
具体的には、JIS堅ろう度白布(JIS L 0801準拠)の綿布を10cm×4cmに切り出し基材として用い、市販の洗剤0.83gを蒸留水1Lで希釈し、10分間洗濯処理をした後、10分間水濯ぎを行い、分子量約3万の5%濃度キトサン溶液への10分間の浸漬、及び60℃10分間乾燥、を1セット(交互付与1回)とし、交互付与を1回のみ、及び2回~11回繰り返し行い、交互付与回数の異なる機能性素材を作製した。
前記[5.アニオン界面活性剤成分の詳細検討]と同様にして、各交互付与回数における機能性素材を0.01%ダイレクトブルー86水溶液100mLに10分間浸漬後、水道水で十分に濯ぎ、60℃10分間乾燥させた生地をカチオン化度測定用検体とした。
コントロールとして、10分間洗濯処理をした後、60℃10分間乾燥した基材を用いた。
【0074】
交互付与回数の異なる各機能性素材の色差L値、a値、及びb値を測定した。結果を表13に示す。また、ダイレクトブルー染色後の規格布の外観を図9に示す。
その結果、交互付与回数の増加に応じてカチオン化度の指標であるb値が上昇することが分かった。
なお、キトサン溶液に浸漬後、ダイレクトブルー染色を行っていない機能性素材の外観は、ほぼ白いままで、キトサン溶液の色移りがほぼないことが分かった(図示せず)。
【0075】
【表13】
【0076】
[5-3.機能性素材表面のキトサン付着量の測定]
交互付与回数が0回、1回、2回、及び3回の機能性素材について、それぞれ機能性素材の表面のキトサン付着量を飛行時間型2次イオン質量分析法(TOF-SIMS)により測定した。
詳細には、二次イオン質量分析(スペクトル測定、面分析)は、飛行時間型二次イオン質量分析装置(PHI nanoTOF、アルバック・ファイ株式会社製)により、一次イオンとしてBi ++(加速電圧30kV、φ100mmアパーチャー、バンチングモード)を用いて、400μm×400μm領域の正二次イオン質量スペクトルを取得することにより行った。
【0077】
交互付与した機能性素材の表面より得られた二次イオン像を図10に示す。図10中のスケールバーは、100μmを示す。
綿布表面は凹凸があるため、キトサン付着量は、キトサンイオン数を総イオン数で割って求めた。測定結果を表14に示す。その結果、キトサンイオン数は、交互付与回数1回で0.08%、交互付与回数2回で0.08%、交互付与回数3回で0.12%であり、交互付与回数3回により、キトサンイオン数が増加することが分かった。
【0078】
【表14】
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10