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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110241
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/36 20060101AFI20240807BHJP
【FI】
F16H55/36 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014716
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000207425
【氏名又は名称】大同工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畠中 雅義
【テーマコード(参考)】
3J031
【Fターム(参考)】
3J031AA03
3J031BA19
3J031CA03
(57)【要約】
【課題】ベルト張力の変動を平滑化することが可能な動力伝達装置を提供する。
【解決手段】動力伝達装置7は、外輪10と、内輪11と、外輪と内輪との間の動力伝達経路上に配置され、内輪と動力伝達可能に連結された第1コイルスプリング13と、動力伝達経路上において、外輪と第1コイルスプリングとの間に配置され、外輪の回転速度が前記内輪の回転速度以上の場合に外輪と摩擦係合して外輪から回転駆動力を前記第1コイルスプリングに伝達すると共に、外輪の回転速度が内輪の回転速度未満の場合に上記摩擦係合が解除されて外輪と間の動力伝達を切断する第2コイルスプリング122と、を備えている。第1コイルスプリング13と第2コイルスプリング122とは、軸方向と直交する方向から視て軸方向に互いにコイル部が重ならないように配置されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からの回転駆動力が入力される外輪と、
前記外輪に入力された回転駆動力が出力される内輪と、
前記外輪と前記内輪との間の動力伝達経路上に配置され、前記内輪と動力伝達可能に連結された第1コイルスプリングと、
前記動力伝達経路上において、前記外輪と前記第1コイルスプリングとの間に配置され、前記外輪の回転速度が前記内輪の回転速度以上の場合に前記外輪と摩擦係合して前記外輪から回転駆動力を前記第1コイルスプリングに伝達すると共に、前記外輪の回転速度が前記内輪の回転速度未満の場合に前記外輪と摩擦係合が解除されて前記動力伝達を切断する第2コイルスプリングと、を備え、
前記第1コイルスプリングと第2コイルスプリングとは、軸方向と直交する方向から視て前記軸方向に互いにコイル部が重ならないように配置されている、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記第2コイルスプリングを支持する円筒状の支持部材をさらに備え、
前記内輪は、前記支持部材の内周面と所定の隙間を介して対向する外周面を有する、
ことを特徴とする請求項1記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記外輪と前記内輪を相対回転可能に支持するボールベアリングをさらに備え、
前記第2コイルスプリングは、前記第1コイルスプリングを挟んで前記ボールベアリングとは反対側に配置されている、
ことを特徴とする請求項1又は2記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記第2コイルスプリングを支持する円筒状の支持部材と、
前記外輪と前記内輪を相対回転可能に支持するすべり軸受と、
をさらに備え、
前記支持部材と前記すべり軸受は一体に形成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記外輪の内周面には、前記第1コイルスプリングの外周面と所定の隙間を介して対向する突出部が設けられている、
ことを特徴とする請求項1記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記突出部は、前記外輪の前記内周面に一体に形成されている、
ことを特徴とする請求項5記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばエンジン等の駆動源からの動力を伝達する動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車にあっては、エンジン出力軸に固定されるプーリと、冷却ファン、オルタネータ等の補機駆動用のプーリとの間にベルトを巻掛け、エンジンの回転を、ベルトを介してオルタネータ等に伝達している。エンジンの減速時、オルタネータ等の慣性回転がベルトに負荷として作用しないように、オルタネータプーリに一方向クラッチを内蔵し、該プーリ入力側の回転が出力側の回転より低い場合、オーバーランしてベルトの負荷を低減し、ベルト寿命を向上すると共にベルトスリップ音を抑制した伝動装置が、知られている。
【0003】
従来、上記一方向クラッチとしてクラッチバネを用いたものがあり(特許文献1参照)、該伝動装置(デカップラアセンブリ)は、プーリがハブ(内輪)に対して加速された時は、クラッチバネが拡径してプーリ内面に摩擦係合して動力伝達され、プーリがハブに対して減速された時は、クラッチバネが縮径して上記摩擦係合が解除される。更に、該伝動装置は、上記クラッチバネの出力側に連結している担体と上記ハブとの間に捩り(コイル)バネが介在し、該捩りバネは、エンジン出力軸の角速度変動に起因するベルト張力変動(トルク変動)を吸収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5057997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような、クラッチバネ及び捩りバネを用いると、ベルト張力変動を効果的に平滑化することができるが、平滑化機能の信頼性を向上させると共に、コスト削減が可能なものがさらに求められている。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を解決することが可能な動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、駆動源からの回転駆動力が入力される外輪と、前記外輪に入力された回転駆動力が出力される内輪と、前記外輪と前記内輪との間の動力伝達経路上に配置され、前記内輪と動力伝達可能に連結された第1コイルスプリングと、前記動力伝達経路上において、前記外輪と前記第1コイルスプリングとの間に配置され、前記外輪の回転速度が前記内輪の回転速度以上の場合に前記外輪と摩擦係合して前記外輪から回転駆動力を前記第1コイルスプリングに伝達すると共に、前記外輪の回転速度が前記内輪の回転速度未満の場合に前記外輪と摩擦係合が解除されて前記動力伝達を切断する第2コイルスプリングと、を備え、前記第1コイルスプリングと第2コイルスプリングとは、軸方向と直交する方向から視て前記軸方向に互いにコイル部が重ならないように配置されている、ことを特徴とする動力伝達装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、第1コイルスプリングと第2コイルスプリングとを、互いのコイル部が軸方向に重ならないように配置したオフセット構造を有する。第1コイルスプリングは、外輪から回転駆動力が伝達されると弾性変形して回転駆動力の変動(トルク変動)を平滑化しつつ該回転駆動力を内輪に伝達する。本装置は、オフセット構造を有しているので、弾性変形した第1コイルスプリングのコイル部が第2コイルスプリングのコイル部に接触することが防止される。そのため、本装置では、第1、第2コイルスプリングの損傷が防止される。その結果、長期間にわたって円滑な平滑化機能を維持することができるので、本装置の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】補機を駆動するベルト式伝動装置の概略を示す正面図。
図2】第1の実施の形態に係るプーリ装置を示す断面図。
図3】内輪の斜視図。
図4】平滑化用スプリングの斜視図。
図5】プーリ装置の分解図。
図6】第1端部側から視た軸受部の斜視図。
図7】第1端部側の軸受け部の側面図。
図8】ワンウェイクラッチバネの斜視図。
図9】第2端部側から視た軸受部の斜視図。
図10】抜け止め部材の斜視図。
図11】プーリ体の断面図。
図12】第2の実施の形態に係るプーリ装置を示す断面図。
図13】第2の実施の形態に係るプーリ体の断面図。
図14】第2の実施の形態に係るワンウェイクラッチバネの斜視図。
図15】第2の実施の形態に係る支持部材の斜視図。
図16】第2の実施の形態に係る内輪の斜視図。
図17】第2の実施の形態に係る抜け止め部材の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1の実施の形態>
以下、図面に沿って本発明の実施の形態について説明する。図1は、エンジン出力軸2の回転を補機に伝達するベルト式伝動装置100を示し、該ベルト式伝動装置100は、駆動源としてのエンジン1の出力軸2に固定されたクランクプーリ3と、補機の一例としての冷却ファン(不図示)に連結されるファンプーリ5と、補機の一例としてのオルタネータ6に連結されるプーリ装置7と、これら各プーリに巻掛けられたベルト9と、ベルト9に対して張力を付与するテンショナ(不図示)と、を有する。エンジン出力軸2の回転は、クランクプーリ3からベルト9を介してファンプーリ5及びプーリ装置7に伝達される。
【0011】
動力伝達装置としてのプーリ装置7は、図2に示すように、円筒状のプーリ体(外輪)10と、プーリ体10に入力された回転駆動力が出力される内輪11と、を有していると共に、これらプーリ体10と内輪11との間の動力伝達経路上にスプリングクラッチ12及び平滑化用スプリング13とが配設されている。
【0012】
上記プーリ装置7は、プーリ体10の回転速度が内輪11の回転速度以上である正伝動状態においては、プーリ体10からの動力のトルク変動を平滑化用スプリング(第1コイルスプリング)13によって吸収しつつ内輪11へと伝動する。一方、プーリ体10の回転速度が内輪11の回転速度未満である負伝動状態では、スプリングクラッチ12によって上記動力伝達を切断し、オルタネータ6の回転がプーリ体10を通してベルト9及びエンジン1に作用し負荷となることを抑制している。以下、伝動装置としてのプーリ装置7の詳細構成について説明をする。なお、以下の説明において、同軸上に配置された内輪11及びプーリ体10の回転軸線方向を単に軸方向とも言い、また、この軸方向において、オルタネータ6への取り付け側を第1端部側、第1端部側とは反対側を第2端部側と言うものとする。
【0013】
内輪11は、図2及び図3に示すように、中空状の軸部材であり、その内周の第1端部側にはオルタネータ6のロータ軸が螺合されるネジ部111が形成されている。また、内輪11の外周には、第1端部側から第2端部側に向かって、大径部112、フランジ部113、小径部114が並んで形成されている。大径部112には、ボールベアリング14が第1端部側から取り付けられており、このボールベアリング14は、フランジ部113の第1端部側の側面に当接して位置決めされている。また、小径部114の外周側には、上述した平滑化用スプリング13及びスプリングクラッチ12が配置されている。これら平滑化用スプリング13及びスプリングクラッチ12は、平滑化用スプリング13、スプリングクラッチ12の順で、第2端部側から第1端部側に向けて並んで小径部114の外周側に配置されている。スプリングクラッチ12の第2端部側には、リング状の抜け止め部材15(図10も併せて参照)が小径部114に圧入されている。抜け止め部材15が圧入された状態で、平滑化用スプリング13は、軸方向に圧縮されて取り付けられている。
【0014】
平滑化用スプリング13は、図4に示すように、コイルスプリングによって形成されており、その第1端部131が内輪11のフランジ部113と係合している。より詳しくは、図3に示すように、フランジ部113の第2端部側の側面には、上記平滑化用スプリング13の第1端部131と係合する係合部113aが形成されている。この係合部113aは、フランジ部113の第2端部側において360度のらせん斜面に形成された面である。らせん斜面に形成したことで、図5に示すように、プーリ装置7の回転方向において平滑化用スプリング13の第1端部131の端面と対向して当接可能な段差部113bが形成されている。平滑化用スプリング13と内輪11とは、上記第1端部131と段差部113bとが当接することによって動力伝達可能に連結されている。なお、以下の説明において、軸方向において平滑化用スプリング13の第1端部131と第2端部132の間にて、スプリング材がコイル状に巻回されている部分のことをコイル部133という。
【0015】
スプリングクラッチ12は、図2に示すように、内輪11の小径部114の外周側に配置される樹脂製の軸受部(支持部材)121と、この軸受部121に支持されたワンウェイクラッチバネ(第2コイルスプリング)122と、を備えている。軸受部121は、その内周が内輪11の小径部114の外周側に配置され、その外周がプーリ体10の内周面と摺動するように構成されたすべり軸受であり、上述した第1端部側を支持するボールベアリング14と共に、プーリ体10を内輪11に対して相対回転可能に支持している。図2から明らかなように、ワンウェイクラッチバネ122は、平滑化用スプリング13を挟んでボールベアリング14とは反対側に位置している。
【0016】
より具体的には、軸受部121は、第1円筒部121aと、第1円筒部121aの軸方向第1端部側に位置する第2円筒部121bと、を備えて形成されている。第1円筒部121aは、その外周にて上述したようにプーリ体10の内周面と摺動するすべり軸受となる。また、第2円筒部121bは、第1円筒部121aよりも小径に形成されており、その外周側にワンウェイクラッチバネ122が配置されている。
【0017】
また、図6及び図7に示すように、軸受部121の第1端部側の側面には、ワンウェイクラッチバネ122の第1端部122a(図8参照)が係合する係合溝121cが形成されており、この係合溝121cにワンウェイクラッチバネ122の第1端部122aが係合することによって、ワンウェイクラッチバネ122と軸受部121とが一体に回転するように構成されている。ワンウェイクラッチバネ122の第1端部122aは、腕部となっており、以下の説明において、ワンウェイクラッチバネ122の第1端部(腕部)122aと第2端部122bとの間にてスプリング材がコイル状に巻回されている部分のことをコイル部122cという。図2から明らかなように、ワンウェイクラッチバネ122のコイル部122cと平滑化用スプリング13のコイル部133とは、軸方向に重ならないようオフセットされていると共に、ワンウェイクラッチバネ122のコイル部122cの内径は、平滑化用スプリング13の外径よりも大きく設定されている。
【0018】
図5に示すように、ワンウェイクラッチバネ122の第1端部122aは、上記係合溝121cに嵌め込まれ状態で、その端面が平滑化用スプリング13の第2端部132の端面と対向して当接するよう形成されている。更に、図9に示すように、軸受部121の第2端部側の側面には、図10に示すリング状の抜け止め部材15が収納される溝部121dが形成されている。
【0019】
プーリ体10は、図11に示すように、両端が開口した円筒状の部材であり、その外周面には、複数のV字状の溝部が形成された、ベルト9を巻回する巻回部101が形成されている。プーリ体10の内周面には、軸方向中央部に径方向内側に向かって突出した突出部102が一体に形成されていると共に、突出部102の第1端部側に第1内周部103、突出部102の第2端部側に第2内周部104が形成されている。突出部102は、平滑化用スプリング13の外周面に対して所定の隙間を介して対向している。突出部102は、プーリ体10の内周面に一体に形成されているが、これに代えて、円筒状の弾性部材、例えばウレタンで構成してもよい。第1内周部103には、ボールベアリング14のアウターレースが、内輪11の大径部112にはインナーレースが圧入されている。
【0020】
図2に示すように、上記プーリ体10の第2内周部104と軸受部121の第2円筒部121bとの間の空間は、ワンウェイクラッチバネ122の収容空間となっており、ワンウェイクラッチバネ122は、所定の締め代にてプーリ体10の第2内周部104と密接している。このため、プーリ体10の回転速度が内輪11の回転速度以上の場合、ワンウェイクラッチバネ122が巻き戻されて拡径する方向に力が働くため、ワンウェイクラッチバネ122とプーリ体10とがより強固に密接して動力伝達(トルク伝達)が行われる。一方、プーリ体10の回転速度が内輪11の回転速度未満の場合、ワンウェイクラッチバネ122が巻き回されて縮径する方向に力が働くため、ワンウェイクラッチバネ122とプーリ体10との間の密接度が低下し、内輪11がプーリ体10に対して空転し、動力伝達が切断される(オーバーラン状態)。
【0021】
ワンウェイクラッチバネ122が配置される軸受部121の第2円筒部121bは、図6に示すように、第1端部側の第1部分121b1が、この第1部分121b1と第1円筒部121aとの間の第2部分121b2よりも外径が大きく形成されている。第2部分121b2は、ワンウェイクラッチバネ122が径方向内側(縮径方向)に弾性変形可能に所定の外径寸法となっていると共に、溝形状となっているため、グリース(潤滑剤)溜まりとしても作用している。第1部分121b1も、ワンウェイクラッチバネ122が径方向内側に弾性変形可能なよう所定の外径寸法となっている。
【0022】
更に、図3に示すように、内輪11の小径部114についても、第1端部側から第2端部側に向かって第1小径部114a、第2小径部114b、第3小径部114cを備えており、第1小径部114a及び第3小径部114cに比して、第2小径部114bの外径寸法が小さくなっている。第1小径部114a及び第2小径部114bの外周側に平滑化用スプリング13が配置される。第1小径部114a及び第2小径部114bの各外周面と平滑化用スプリング13の内周面との間には所定の隙間が介在している。第3小径部114cの外周側に軸受部121が配置される。第1小径部114aおよび第2小径部114bの外径寸法は、平滑化用スプリング13の内周側への弾性変形量を規制可能な寸法となっている。軸受部121の内周面は、第3小径部114cの外周面に対して僅かな隙間を介して対向している。
【0023】
このようにプーリ装置7は構成されているため、正回転状態となると、図5に示すように、ワンウェイクラッチバネ122が拡径し、プーリ体10と摩擦係合することによって、プーリ体10からワンウェイクラッチバネ122へと動力伝達が行われる。ワンウェイクラッチバネ122は、第1端部122aにて平滑化用スプリング13の第2端部132と当接しているため、ワンウェイクラッチバネ122に伝達された動力は、上記端面同士の接触によって平滑化用スプリング13に伝達される。
【0024】
平滑化用スプリング13は、動力が伝達されると拡径方向に弾性変形して動力のトルク変動を吸収する。また、平滑化用スプリング13は、第1端部131の端面が内輪11のフランジ部113の段差部113bと当接しているため、第1端部131の端面から内輪11に動力が伝達され、内輪11からオルタネータ6へと動力が出力される。
【0025】
上述したように、本実施の形態では、ワンウェイクラッチバネ122と平滑化用スプリング13とが、互いのコイル部122c,133が軸方向にオフセットする(軸方向と直交する方向から視て軸方向に重ならない)ように並設されている。このオフセット構造により、平滑化用スプリング13は、トルク変動を吸収するために拡径方向に弾性変形しても、ワンウェイクラッチバネ122のコイル部122cの内周面に接触しない。これにより、ワンウェイクラッチバネ122、平滑化用スプリング13の損傷が防止される。その結果、円滑な平滑化機能、つまり、平滑化用スプリング13によって、トルク変動を確実に吸収し、動力のトルク変動に起因するベルト張力変動を平滑化する機能を長期間にわたって維持することができ、プーリ装置7の信頼性を向上させることができる。ベルト張力の変動が平滑化されると、ベルト9に付与する初張力を小さくすることができるため、各補機のプーリとベルトとの間のフリクションを低減することができ、燃費の向上を図ることができる。本発明に係る実施の形態では、平滑化とは、変動するベルト張力の最大張力と最小張力との差で表される張力変動幅を小さくすることをいう。
【0026】
ワンウェイクラッチバネ122を支持する軸受部121は、その内周面が内輪11の第3小径部114cの外周面に対して隙間を介して対向しているので、ワンウェイクラッチバネ122が平滑化用スプリング13に変動トルクを伝達する際、変動トルクが内輪11に直接伝達されることが抑制される。その結果、平滑化機能の効率を向上させることができる。
【0027】
また、オフセット構造により、ワンウェイクラッチバネ122を、平滑化用スプリング13を挟んでボールベアリング14とは反対側に配置することができる。そのため、ワンウェイクラッチバネ122から変動トルクが伝達された平滑化用スプリング13の弾性変形動作に伴う負荷がボールベアリング14に伝達されることが低減される。その結果、軸受寿命の向上、ひいては、プーリ装置7の信頼性向上が期待できる。
【0028】
更に、オフセット構造により、第2端部側を支持する軸受とワンウェイクラッチバネ122の支持部材とを軸受部121として一体化して形成することが可能となるため、部品点数を削減することができる。
【0029】
また、プーリ体10の内周面に突出部102を設けたことによって、平滑化用スプリング13の拡径方向への弾性変形量を規制しており、この突出部102がトルクリミッタとして機能して、大きな動力のトルク変動が入力された際に、平滑化用スプリング13が過大に拡径方向に弾性変形してしまうことを規制することができる。突出部102は、プーリ体10の内周面に一体に形成されているので、弾性変形量を規制するための別部材を設ける必要が無く、部品点数を削減することができる。
【0030】
<第2の実施の形態>
ついで、第2の実施の形態について、図面に基づいて説明をする。なお、本実施の形態は、第1の実施の形態に対して、ワンウェイクラッチバネのプーリ体との係合方法が異なっている。このため、以下の説明では、第1の実施の形態と異なる点のみを説明し、その他の点についてはその説明を省略する。
【0031】
図12及び図13に示すように、本実施の形態に係るプーリ装置7は、プーリ体20の軸方向第2端部が径方向内側に折り返された折り返し部201によって形成されている。この折り返し部201は断面コの字状の中空部となっており、底部201bと、折り返し部201の径方向内側にて軸方向に延びる円筒状の延設部201aとを有し、延設部201aの外周に、腕部を有しないワンウェイクラッチバネ50が所定の締め代で外嵌されている。
【0032】
また、延設部201aの軸方向第1端部側には、その外周が延設部201aの外周と面一となる形で、円筒状の支持部材30が内輪40の小径部41の外周側に配置されている。ワンウェイクラッチバネ50は、これら延設部201a及び支持部材30の両方に亘って外嵌しており、プーリ体20の回転速度が内輪40(支持部材30)の回転速度以上の場合、巻き回されて縮径する方向に力が働くため、これら延設部201a及び支持部材30と摩擦係合して、プーリ体20から支持部材30に動力伝達が行われる。延設部201aに巻き回されるワンウェイクラッチバネ50の巻数と、支持部材30に巻き回されるワンウェイクラッチバネ50の巻数は、好ましくは同じである。
【0033】
一方、プーリ体20の回転速度が内輪40(支持部材30)の回転速度未満の場合、ワンウェイクラッチバネ50は巻き戻されて拡径する方向に力が働くため、これら延設部201a及び支持部材30との摩擦係合が解除され、プーリ体20からワンウェイクラッチバネ50への動力伝達が切断される。ワンウェイクラッチバネ50は、支持部材30と相対回転可能である。
【0034】
支持部材30は、図15に示すように、第1端部側の側面に平滑化用スプリング13と係合する係合部31が形成されている。この係合部31は、360度のらせん斜面に形成された面である。らせん斜面に形成したことで、平滑化用スプリング13の第2端部132の端面と当接する段差部32が形成されている。また、支持部材30の外周面には、周方向4箇所に、軸方向に延びる溝33が形成されており、この溝33がグリース溜まりとなっている。
【0035】
更に、本実施の形態において、内輪40は、図12及び図16に示すように、グリース溜まりとして機能する第2小径部41bが軸方向に形成されており、この第2小径部41bの外周側に平滑化用スプリング13及び支持部材30が配置されている。
【0036】
また、図12に示すように、支持部材30の第2端部側には、樹脂製の抜け止め部材60が内輪40の小径部41に取り付けられている。この抜け止め部材60は、図17に示すように、リング状の部材であり、その周方向一箇所にスリット61が形成されて、拡径することができるようになっている。また、スリット61とは反対側に肉抜き部62が形成されており、拡径しやすい構成となっている。更に、抜け止め部材60の第1端部側には、径方向内側に突出した爪部63が形成されており、この爪部63は、内輪40の第2小径部41bと第3小径部41cとの間の段差部と係合するようになっている。この抜け止め部材60は、平滑化用スプリング13を圧縮させつつ、拡径させて内輪40に対して嵌挿される。上記爪部63が内輪40の第3小径部41cを超えると、その弾性によって抜け止め部材60が縮径し、爪部63が内輪40の第2小径部41bと第3小径部41cとの間の段差部と係合することによって、内輪40に対して固定される。抜け止め部材60は、延設部201aの内周面に対して相対回転するすべり軸受として作用する。
【0037】
このように、第2の実施の形態においても、ワンウェイクラッチバネ50と平滑化用スプリング13のコイル部53,133を軸方向にオフセットさせた構成とした。このオフセット構造により、平滑化用スプリング13は、トルク変動を吸収するために拡径方向に弾性変形しても、ワンウェイクラッチバネ122のコイル部122cの内周面に接触しない。これにより、ワンウェイクラッチバネ122、平滑化用スプリング13の損傷が防止される。その結果、円滑な平滑化機能が期待できる。
【0038】
また、支持部材30の外周面にグリース溜まりとなる溝33を形成しているため、ワンウェイクラッチバネ50の空転時における引き摺り抵抗を小さくすることができる。
【0039】
なお、上述した実施の形態では、補機として、オルタネータを適用しているが、エアーコンプレッサやウォーターポンプ等の補機であってもよい。
【符号の説明】
【0040】
7:動力伝達装置(プーリ装置)/10:外輪(プーリ体)/11:内輪/13:第1コイルスプリング(平滑化用コイルスプリング)/50,122:第2コイルスプリング(ワンウェイクラッチバネ)
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