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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110246
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/15 20160101AFI20240807BHJP
   B60K 6/46 20071001ALI20240807BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20240807BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20240807BHJP
   B60L 50/61 20190101ALI20240807BHJP
【FI】
B60W20/15
B60K6/46 ZHV
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60L50/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014724
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉井 侑典
(72)【発明者】
【氏名】山本 笙太
(72)【発明者】
【氏名】宮田 及
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA07
3D202BB02
3D202BB08
3D202BB11
3D202BB53
3D202CC02
3D202DD05
3D202DD18
3D202DD24
3D202DD45
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BD17
5H125EE42
5H125EE52
(57)【要約】
【課題】駆動要求パワーから乖離した発電要求パワーを戻す場合、または発電要求パワーを乖離させる場合、ドライバへの違和感を抑制することができるハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関と、内燃機関の動力を電力に変換する発電用電動機と、変換された電力を蓄積する電池と、変換された電力または電池から出力された電力のうち少なくともいずれかに基づいて駆動力を供給する駆動用電動機とを備えたハイブリッド車両の制御装置であって、内燃機関の制御を介して、発電用電動機に対してベース状態から乖離した発電要求パワーの発電をさせる制御を開始する場合、ベース状態からの乖離量が所定の変化の割合で大きくなるように制御し、内燃機関の制御を介して、発電用電動機に対してベース状態から乖離した発電要求パワーの発電をさせる制御を停止する場合、ベース状態からの乖離量が所定の変化の割合で小さくなるように制御する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、前記内燃機関の動力を電力に変換する発電用電動機と、前記発電用電動機により変換された電力を蓄積する電池と、前記発電用電動機により変換された電力、または前記電池から出力された電力のうち少なくともいずれかに基づいて駆動力を駆動輪に供給する駆動用電動機と、を備えたハイブリッド車両の制御装置であって、
前記内燃機関の制御を介して、前記発電用電動機に対してベース状態の発電要求パワーから乖離した発電要求パワーの発電をさせる制御を開始する場合、発電要求パワーの前記ベース状態からの乖離量が所定の変化の割合で大きくなるように前記内燃機関を制御し、
前記内燃機関の制御を介して、前記発電用電動機に対して前記ベース状態の発電要求パワーから乖離した発電要求パワーの発電をさせる制御を停止する場合、発電要求パワーの前記ベース状態からの乖離量が所定の変化の割合で小さくなるように前記内燃機関を制御するハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記ハイブリッド車両の挙動の変化に応じて、前記乖離量に対する前記変化の割合を変動させる請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記ハイブリッド車両の挙動の変化に応じて、前記発電用電動機に対して前記ベース状態の発電要求パワーから乖離した発電要求パワーの発電をさせる制御を停止させるタイミング、または当該制御を開始させるタイミングを変動させる請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッドシステムを搭載したハイブリッド車両では、車両を動かすために必要な動力として、エンジンの出力を利用したり、電池に蓄えられた電力を利用したり、さらにはそれらを組み合わせたり、または切り替えたりして供給している。そのため、システムの構成によっては、エンジンの熱効率の高い運転点で発電する頻度を向上することができる。例えばシリーズ方式のハイブリッドシステムでは、タイヤ軸に接続する走行用モータと、エンジンと接続する発電用モータとを搭載し、エンジンとタイヤ軸とは、動力を伝達するための接続機構がない構成となっている。この場合、発電用モータは、熱効率が高い運転点の領域である最良燃費領域で発電を行い、走行用モータで要求される電力の過不足分は電池で補いながら、効率よく走行することが可能である。
【0003】
このような、エンジンの熱効率を向上させるためのシステムとして、目標エンジン動作点から算出する目標エンジンパワーと目標駆動パワーとの差から目標電力を算出し、目標エンジン動作点から求められる目標エンジントルクを含むトルクバランス式と目標電力を含む電力バランス式とを用いて、複数のモータジェネレータのそれぞれのトルク指令値を算出する技術が開示されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2012/114431号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ハイブリッド車両の走行に必要とされる駆動要求パワーに対して、発電用モータに要求される発電量である発電要求パワーが乖離している場合、その乖離分を電池で補うことになるが、電池のスペック等に起因する能力の限界がある。そのため、電池の能力では補えない状況となる場合には、駆動要求パワーから乖離した発電要求パワーをその乖離分だけ元に戻す必要があるが、そのまま戻す処理を行うとドライバに対して違和感を与える可能性がある。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであって、駆動要求パワーから乖離した発電要求パワーを戻す場合、または発電要求パワーを乖離させる場合、ドライバへの違和感を抑制することができるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、内燃機関と、前記内燃機関の動力を電力に変換する発電用電動機と、前記発電用電動機により変換された電力を蓄積する電池と、前記発電用電動機により変換された電力、または前記電池から出力された電力のうち少なくともいずれかに基づいて駆動力を駆動輪に供給する駆動用電動機と、を備えたハイブリッド車両の制御装置であって、前記内燃機関の制御を介して、前記発電用電動機に対してベース状態の発電要求パワーから乖離した発電要求パワーの発電をさせる制御を開始する場合、発電要求パワーの前記ベース状態からの乖離量が所定の変化の割合で大きくなるように前記内燃機関を制御し、前記内燃機関の制御を介して、前記発電用電動機に対して前記ベース状態の発電要求パワーから乖離した発電要求パワーの発電をさせる制御を停止する場合、発電要求パワーの前記ベース状態からの乖離量が所定の変化の割合で小さくなるように前記内燃機関を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、駆動要求パワーから乖離した発電要求パワーを戻す場合、または発電要求パワーを乖離させる場合、ドライバへの違和感を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に係るハイブリッド車両の要部構成の一例を示す図である。
図2図2は、従来のハイブリッド車両の駆動要求パワーに対する発電要求パワーの制御の一例を示す図である。
図3図3は、従来のハイブリッド車両の発電要求パワーの制御の一例を示す図である。
図4図4は、実施形態に係るハイブリッド車両の発電要求パワーの制御の一例を示す図である。
図5図5は、実施形態に係るハイブリッド車両について発電要求パワーのベース状態からの乖離を所定の変化の割合で解消する動作を説明する図である。
図6図6は、ドライバの操作量または車両の挙動変化に対するエンジン回転数の変化量についてのドライバの官能検査結果の一例を示す図である。
図7図7は、実施形態に係るハイブリッド車両について発電要求パワーの制御の開始時期をずらす制御を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図1図7を参照しながら、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の実施形態を詳細に説明する。また、以下の実施形態によって本発明が限定されるものではなく、以下の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想到できるもの、実質的に同一のもの、およびいわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、以下の実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換、変更および組み合わせを行うことができる。
【0011】
(ハイブリッド車両の構成)
図1は、実施形態に係るハイブリッド車両の要部構成の一例を示す図である。図1を参照しながら、本実施形態にハイブリッド車両1の要部構成について説明する。
【0012】
ハイブリッド車両1は、シリーズ方式のハイブリッドシステム2を搭載した車両である。また、ハイブリッド車両1は、図1に示すように、駆動輪17と、ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)31と、アクセルセンサ32と、ブレーキスイッチ33と、車速センサ34と、を備えている。
【0013】
ハイブリッドシステム2は、エンジン11と、発電モータ(MG1)12(発電用電動機)と、駆動モータ(MG2)13(駆動用電動機)と、電池14と、PCU(Power Control Unit:パワーコントロールユニット)15と、を含む。
【0014】
エンジン11は、例えばガソリンエンジン等の内燃機関である。
【0015】
発電モータ12は、エンジン11の動力を電力に変換するための例えば永久磁石同期モータである。発電モータ12の回転軸は、エンジン11のクランクシャフトに、図示しないギヤを介して機械的に連結されている。例えば、エンジン11のクランクシャフトにエンジン出力ギヤが相対回転不能に支持され、発電モータ12の回転軸にモータギヤが相対回転不能に支持されて、エンジン出力ギヤとモータギヤとが噛合している。
【0016】
駆動モータ13は、例えば、発電モータ12よりも大型の永久磁石同期モータである。駆動モータ13の回転軸は、駆動輪17に回転の駆動力を供給するための駆動系16に連結されている。駆動系16は、デファレンシャルギヤを含み、駆動モータ13の動力は、デファレンシャルギヤに伝達され、デファレンシャルギヤから左右の前輪または後輪からなる駆動輪17に分配されて伝達される。これによって、左右の駆動輪17が回転し、ハイブリッド車両1が前進または後進する。
【0017】
電池14は、複数の二次電池(例えばリチウムイオン電池)を組み合わせた組電池である。電池14は、例えば、約200~350[V]の直流電力を出力する。
【0018】
PCU15は、発電モータ12および駆動モータ13の駆動を制御するためのユニットである、PCU15は、第1インバータ21と、第2インバータ22と、コンバータ23と、を備えている。
【0019】
第1インバータ21は、コンバータ23からの直流電力を交流電力に変換し、または、発電モータ12により発電された交流電力を直流電力に変換するインバータ装置である。第2インバータ22は、コンバータ23からの直流電力を交流電力に変換し、または、駆動モータ13による回生運転により発生した交流電力を直流電力に変換するインバータ装置である。コンバータ23は、電池14から出力される直流電力を昇圧し、または、第1インバータ21もしくは第2インバータ22から出力される直流電力を降圧する装置である。
【0020】
エンジン11の始動時には、電池14から出力される直流電力がコンバータ23により昇圧されて、昇圧された直流電力が第1インバータ21で交流電力に変換され、変換された交流電力が発電モータ12に供給される。これによって、発電モータ12が力行運転されて、エンジン11が発電モータ12によりモータリング(クランキング)される。モータリングによりエンジン11のクランクシャフトの回転数が始動に必要な回転数まで上昇した状態で、エンジン11の点火プラグがスパークされると、エンジン11が始動する。
【0021】
ハイブリッド車両1の走行時には、駆動モータ13が力行運転されて、駆動モータ13が動力を発生する。
【0022】
ハイブリッド車両1の走行時において、駆動モータ13に要求される出力(駆動要求パワー)が電池14の出力より小さいときには、ハイブリッド車両1は、EV(Electric Vehicle)走行を行う。すなわち、EV走行では、エンジン11が停止し、発電モータ12による発電が行われず、電池14からコンバータ23および第2インバータ22を介して供給される電力により駆動モータ13が駆動される。
【0023】
一方、ハイブリッド車両1の走行時において、駆動モータ13に要求される出力(駆動要求パワー)が電池14の出力を上回るときには、ハイブリッド車両1は、HV(Hybrid Vehicle)走行を行う。すなわち、HV走行では、エンジン11が稼動状態となり、発電モータ12が発電運転(回生運転)されることにより、エンジン11の動力が発電モータ12で交流電力に変換される。そして、発電モータ12からの交流電力が第1インバータ21で直流電力に変換され、当該直流電力が第2インバータ22で交流電力に変換されて、当該交流電力が駆動モータ13に供給されることにより、駆動モータ13が駆動される。
【0024】
ハイブリッド車両1の減速時には、駆動モータ13が回生運転されて、駆動輪17から駆動モータ13に伝達される動力が交流電力に変換される。このとき、駆動モータ13が駆動系16の抵抗となり、その抵抗がハイブリッド車両1を制動する制動力(回生制動力)として作用する。このとき、PCU15では、駆動モータ13から第2インバータ22に供給される交流電力が第2インバータ22で直流電力に変換され、当該直流電力がコンバータ23で降圧される。そして、降圧後の直流電力が電池14に供給されることにより、電池14が充電される。
【0025】
ECU31は、ハイブリッドシステム2を制御する制御装置である。ECU31には、アクセルセンサ32、ブレーキスイッチ33および車速センサ34が接続されている。ECU31は、アクセルセンサ32から出力される検出信号から、アクセルペダルの最大操作量に対する現在の操作量の割合であるアクセル開度を求める。また、ECU31は、車速センサ34から出力される検出信号から、当該検出信号(パルス信号)の周波数を求めて、当該周波数を車速に換算する。
【0026】
アクセルセンサ32は、ドライバにより足踏み操作されるアクセルペダルの操作量(アクセル開度)に応じた検出信号を出力するセンサである。
【0027】
ブレーキスイッチ33は、ドライバにより足踏み操作されるブレーキペダルの操作量または踏み込んだか否かを示すブレーキ信号を出力するセンサである。
【0028】
車速センサ34は、ハイブリッド車両1の走行に伴って回転する回転体の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するセンサである。
【0029】
ハイブリッド車両1は、ECU31を含む複数のECUを搭載している。各ECUは、マイコン(マイクロコントローラユニット)を備えており、マイコンには、例えば、CPU(Central Processing Unit)、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリ、およびDRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性メモリが内蔵されている。複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。各ECUには、制御に必要な各種センサが接続されており、その接続されたセンサの検出信号が入力される。また、各ECUには、各種センサから入力される検出信号以外に制御に必要な情報が他のECUから入力される。
【0030】
(従来のハイブリッド車両の発電要求パワーの制御について)
図2は、従来のハイブリッド車両の駆動要求パワーに対する発電要求パワーの制御の一例を示す図である。図3は、従来のハイブリッド車両の発電要求パワーの制御の一例を示す図である。図2および図3を参照しながら、従来のハイブリッド車両の発電要求パワーの制御について説明する。なお、ここでの説明および本実施形態において、発電要求パワーとは、発電モータ(ハイブリッド車両1における発電モータ12)に要求される発電量をいう。また、駆動要求パワーとは、ハイブリッド車両(本実施形態ではハイブリッド車両1)の走行に必要とされるパワーである。
【0031】
図2に示すグラフは、横軸を駆動要求パワーとし、縦軸を発電要求パワーとして、駆動要求パワーと発電要求パワーとの関係を示している。図2において、グラフB0は、駆動要求パワーのすべてが、発電モータによる発電量、すなわち発電要求パワーでまかなわれている状態(以下、ベース状態と称する場合がある)を示すグラフである。
【0032】
ここで、エンジンの最良燃費領域について説明する。エンジンの動作においては、エンジントルクと、エンジン回転量との関係によって熱効率の良い運転点の領域と、悪い運転点の領域とが存在し、所定の熱効率以上の運転点の領域であって良好な燃費を実現する領域を最良燃費領域と称する。このようなエンジンの運転点が最良燃費領域となる発電要求パワーの上下限の範囲を、図2に示している。すなわち、発電要求パワーを図2に示す上限値および下限値の範囲となるように制御することによって、エンジンの動作状態を最良燃費領域とすることができ、エンジンを熱効率の高い運転点とすることが可能となる。以下、熱効率向上の観点からエンジンを最良燃費領域の運転点で動作させる制御を、最良燃費制御と称して説明する。
【0033】
図2に示す点線のグラフは、グラフB0に対して、実際の発電要求パワーの制御の挙動を示すグラフである。図2に示すように、ハイブリッド車両は、駆動要求パワーが値P1になったときに最良燃費制御を実行して、発電要求パワーを最良燃費領域となる下限値となるように切り替えている。この場合、駆動要求パワーの値P1よりも発電要求パワーが高く乖離した状態となっているため、発電要求パワーのうち値P1を超える分(電力)は、電池に充電されることになる。一方、グラフB0が発電要求パワーの上限値を超えた状態となった場合、ハイブリッド車両が最良燃費制御を実行していると、発電要求パワーは上限値を維持しているため、駆動要求パワーが発電要求パワーよりも大きくなる。この場合、駆動要求パワーよりも発電要求パワーが低く乖離した状態となっているため、駆動要求パワーのうち発電要求パワーを超える分(電力)は、電池からの出力によって補われることになる。そして、ハイブリッド車両は、駆動要求パワーが値P2になったときに最良燃費制御を停止して、駆動要求パワーに対して不足している発電要求パワーをグラフB0上の値に戻す制御を行う。このように、ハイブリッド車両は、エンジンを最良燃費領域となる運転点となるような最良燃費制御を実行することによって、エンジンを熱効率の高い運転点とすることが可能となる。
【0034】
図3においては、ハイブリッド車両において、発電要求パワーに着目し、時間経過による発電要求パワーに対する制御の状態の一例を示している。図3に示すグラフBは、駆動要求パワーのすべてが、発電モータによる発電量、すなわち発電要求パワーでまかなうものとした場合のベース状態を示すグラフであり、時間経過と共に発電要求パワーの値が大きくなる場合を一例として示している。ハイブリッド車両は、図3の破線に示すグラフのように、ベース状態に沿った発電要求パワーの制御をしているときに、発電要求パワーが最良燃費領域の上限値に達した場合には、最良燃費制御に切り替え、発電要求パワーを当該上限値に維持するようにする。この場合、ベース状態の発電要求パワーよりも発電要求パワーが低く乖離した状態となっているため、ベース状態の発電要求パワーからの実際の発電要求パワーの乖離分(電力)は、電池からの出力によって補われることになる。
【0035】
しかし、このような最良燃費制御においては、上述のように、ベース状態からの発電要求パワーの過不足に対しては電池の充放電により補うわけであるが、電池の充放電に関わる能力はスペック等に応じて限界がある。このように電池の能力の限界付近で最良燃費制御を継続すると、電池の保護のための電力制限がかかる可能性がある。電力制限としては、例えば、発電要求パワーの不足分を電池では補いきれないため、ドライバの意図しないタイミングで急に減速する等の状態が起こり得る。したがって、ハイブリッド車両は、このような電池の能力には限界があるため、無制限に最良燃費制御を継続することができず、ベース状態から乖離した発電要求パワーをベース状態の発電要求パワーに戻す制御が必要になる。
【0036】
そのため、従来のハイブリッド車両は、図3の破線で示すグラフのように、電池の能力の限界に達する前の時刻T1において、最良燃費制御を停止し、ベース状態から乖離した発電要求パワーをベース状態の発電要求パワーに戻す制御を実行している。ただし、この場合、図3に示すように、ハイブリッド車両によって発電要求パワーをベース状態の発電要求パワーまで急峻に戻す制御が行われると、ドライバに違和感を与えてしまう可能性がある。例えば、図3に示すように、ベース状態から低く乖離した状態の発電要求パワーを急峻にベース状態の発電要求パワーに戻すということは、エンジンの回転数を急激に回転させる動作となり、ドライバにとってはアクセルペダルの操作量を変えていないにもかかわらずエンジンの回転数が上昇するため、加速しているような違和感を与える可能性がある。
【0037】
本実施形態に係るハイブリッド車両1では、上述のような発電要求パワーを戻す制御を行う場合に、ドライバに違和感を与えることを抑制する制御を行う。以下、本実施形態に係るハイブリッド車両1の制御について説明する。
【0038】
(ハイブリッド車両の発電要求パワーの制御)
図4は、実施形態に係るハイブリッド車両の発電要求パワーの制御の一例を示す図である。図5は、実施形態に係るハイブリッド車両について発電要求パワーのベース状態からの乖離を所定の変化の割合で解消する動作を説明する図である。図4および図5を参照しながら、本実施形態に係るハイブリッド車両1の発電要求パワーの制御について説明する。
【0039】
図4に示すグラフBは、図3で上述したように、駆動要求パワーのすべてが、発電モータ12による発電量、すなわち発電要求パワーでまかなうものとした場合のベース状態を示すグラフであり、時間経過と共に発電要求パワーの値が大きくなる場合を一例として示している。ハイブリッド車両1のECU31は、図4の破線に示すグラフのように、エンジン11の動作を制御してベース状態に沿った発電要求パワーの制御をしているときに、発電要求パワーが最良燃費領域の上限値に達した場合には、最良燃費制御に切り替え、発電要求パワーを当該上限値に維持するようにする。この場合、上述のように、ベース状態の発電要求パワーよりも発電要求パワーが低く乖離した状態となっているため、ベース状態の発電要求パワーからの実際の発電要求パワーの乖離分(電力)は、電池からの出力によって補われることになる。
【0040】
そして、ECU31は、図4の破線で示すグラフのように、電池の能力の限界に達する前の時刻T2において、最良燃費制御を停止し、エンジン11の制御を介して、ベース状態から乖離した発電要求パワーをベース状態の発電要求パワーに戻す制御を実行している。この場合、ECU31は、発電要求パワーをベース状態の発電要求パワーまで急峻に戻すのではなく、発電要求パワーにレートを設定して、すなわち、実際の発電要求パワーとベース状態の発電要求パワーとの乖離が所定の変化の割合で小さくなるように制御して、ベース状態の発電要求パワーまで戻す。これによって、電池の能力の限定に達する前に、ベース状態までの乖離が解消できると共に、発電要求パワーを徐々にベース状態に戻すためエンジン11の回転数も徐々に変化させることになるため、ドライバに違和感を与えることを抑制することができる。
【0041】
ここで、図5を参照し、ハイブリッド車両1による発電要求パワーの制御について、さらに詳細を説明する。図5(a)には、説明を簡潔にするため、発電要求パワーが一定とするベース状態(すなわち駆動要求パワーが一定)であるものとしてグラフBを表している。この場合、ECU31は、図4の破線で示すグラフのように、電池の能力の限界に達する前の時刻T11において、最良燃費制御を停止し、エンジン11の制御を介して、ベース状態から乖離した発電要求パワーをベース状態の発電要求パワーに戻す制御を実行する。この際、ECU31は、実際の発電要求パワーについて所定の変化の割合でベース状態に近づけていくのではなく、図5(b)に示すように、実際の発電要求パワーとベース状態の発電要求パワーとの乖離量が所定の変化の割合で小さくなるように制御する、時刻T12においてベース状態との乖離を解消している。これによって、駆動要求パワーが変化することによりベース状態が変動する場合においても、発電要求パワーと当該ベース状態との乖離量を解消するように制御することができる。
【0042】
(ハイブリッド車両の挙動が変化した場合に乖離量の変化の割合を変更する制御)
図6は、ドライバの操作量または車両の挙動変化に対するエンジン回転数の変化量についてのドライバの官能検査結果の一例を示す図である。図7は、実施形態に係るハイブリッド車両について発電要求パワーの制御の開始時期をずらす制御を説明する図である。図6および図7を参照しながら、本実施形態に係るハイブリッド車両1において、車両の挙動変化に応じて乖離量の変化の割合を変更する制御について説明する。
【0043】
上述の図4および図5では、ECU31によって、実際の発電要求パワーとベース状態の発電要求パワーとの乖離量が所定の変化の割合で小さくなるように制御される動作について説明したが、ハイブリッド車両1について挙動が変化している場合には、当該挙動の変化に乗じて、乖離量の変化の割合の絶対値を大きくすることにより、発電要求パワーをより早くベース状態に戻すことが可能となると共に、ドライバに対して違和感を与えにくくすることができる。なお、ECU31は、ハイブリッド車両1の挙動の変化に応じて、乖離量の変化の割合の絶対値を大きくするだけでなく、小さくしてもよい。すなわち、ECU31は、当該挙動の変化に応じて乖離量の変化の割合を変動させる制御を行う。ここで、ハイブリッド車両1の挙動の変化とは、例えば、ドライバによるアクセルペダルのアクセル開度(操作量)の変動、車速の変動、駆動要求パワーの変動等が挙げられる。
【0044】
図6には、車両の挙動変化としてのドライバによるアクセル開度(操作量)と、エンジン回転数の変化量との組み合わせを変えた場合に、違和感があるか否かを示す官能検査の結果をプロットしたものである。図6に示すように、同一のアクセルペダルの操作量の場合、エンジン回転数の変化量が大きくなるほど違和感を覚える傾向が強くなる。また、ドライバによるアクセルペダルの操作量が大きいほど、エンジン回転数の変化量を大きくしても違和感を覚えにくくなる傾向がある。図6に示す点線のグラフは、例えば、「違和感なし」となるプロットについて最小二乗法等により求めたグラフである。したがって、例えば、ECU31は、ハイブリッド車両1の挙動の変化に応じて、乖離量の変化の割合の絶対値を大きくすることにより、発電要求パワーをより早くベース状態に戻すことが可能となると共に、ドライバに対して違和感を与えにくくすることができる。具体的には、ECU31は、図6に示す点線のグラフの下側の領域となるような範囲で、エンジン11の制御を介して、乖離量の変化の割合の絶対値を大きくするものとすればよい。
【0045】
以上のように、ハイブリッド車両1の挙動の変化に応じて、乖離量の変化の割合の絶対値を大きくすることにより、図7に示すように、ECU31は、最良燃費制御を停止して、ベース状態から乖離した発電要求パワーをベース状態の発電要求パワーに戻す制御を開始するタイミングを、上述図4に示した時刻T2から時刻T3へずらす(遅らせる)ことが可能となる。この場合、ECU31は、時刻T2に停止していた最良燃費制御を、時刻T3まで継続することが可能となり最良燃費制御を継続できる時間が延びるため、最良燃費領域の運転点で発電モータ12による発電できる頻度が増え、エンジン11の熱効率を向上させることができる。
【0046】
なお、上述の図4図5および図7では、ベース状態の発電要求パワーよりも発電要求パワーが低く乖離した状態になっている場合の発電要求パワーの制御について説明したが、発電要求パワーが高く乖離した状態になっている場合の発電要求パワーの制御についても同様である。また、上述の図4図5および図7では、最良燃費制御を停止して、乖離した発電要求パワーをベース状態に戻す制御を行う場合について説明したが、ベース状態の発電要求パワーとしている状態から最良燃費制御を開始する場合も、同様である。この場合、ECU31は、発電要求パワーを所定の変化の割合でベース状態から乖離させる制御を行う。
【0047】
また、本実施形態では、ベース状態の発電要求パワーから乖離した発電要求パワーとする制御として、熱効率向上の観点からエンジンを最良燃費領域の運転点で動作させる最良燃費制御を一例として説明したが、当該制御に限定されるものではない。例えば、エンジンの騒音または振動を低減させるために、エンジン回転数を低下させてベース状態から発電要求パワーを乖離させる制御等が挙げられる。
【0048】
以上のように、本実施形態に係るハイブリッド車両1では、エンジン11の制御を介して、発電モータ12に対してベース状態の発電要求パワーから乖離した発電要求パワーの発電をさせる制御を開始する場合、発電要求パワーのベース状態からの乖離量が所定の変化の割合で大きくなるようにエンジン11を制御し、エンジン11の制御を介して、発電モータ12に対してベース状態の発電要求パワーから乖離した発電要求パワーの発電をさせる制御を停止する場合、発電要求パワーのベース状態からの乖離量が所定の変化の割合で小さくなるようにエンジン11を制御するものとしている。これによって、ベース状態の発電要求パワー(すなわち駆動要求パワー)から乖離した発電要求パワーを戻す場合、または発電要求パワーを乖離させる場合、ドライバへの違和感を抑制することができる。
【0049】
また、本実施形態に係るハイブリッド車両1では、ハイブリッド車両1の挙動の変化に応じて、乖離量に対する変化の割合を変動させるものとしている。これによって、発電要求パワーをより早くベース状態に戻したり、乖離させたりすることが可能となると共に、ドライバに対して違和感を与えにくくすることができる。
【0050】
また、本実施形態に係るハイブリッド車両1では、ハイブリッド車両1の挙動の変化に応じて、発電モータ12に対してベース状態の発電要求パワーから乖離した発電要求パワーの発電をさせる制御を停止させるタイミング、または当該制御を開始させるタイミングを変動させるものとしている。これによって、最良燃費領域の運転点で発電モータ12による発電できる頻度が増え、エンジン11の熱効率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 ハイブリッド車両
2 ハイブリッドシステム
11 エンジン
12 発電モータ
13 駆動モータ
14 電池
15 PCU
16 駆動系
17 駆動輪
21 第1インバータ
22 第2インバータ
23 コンバータ
31 ECU
32 アクセルセンサ
33 ブレーキスイッチ
34 車速センサ
B、B0 グラフ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7