(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110248
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】抗ウイルス剤及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/496 20060101AFI20240807BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240807BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240807BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20240807BHJP
【FI】
A61K31/496
A61P31/14
A61P1/16
C12N15/11 Z ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014730
(22)【出願日】2023-02-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 「肝炎等克服実用化研究事業 肝炎等克服緊急対策研究事業 経口感染によるウイルス性肝炎(A型及びE型)の感染防止、病態解明、治療等に関する研究」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】神田 達郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 玲奈
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC82
4C086GA08
4C086GA10
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA75
4C086ZB33
(57)【要約】
【課題】副作用が少なく、A型肝炎ウイルス等のRNAウイルスの増殖抑制に有効な抗ウイルス剤、及び、抗ウイルス剤を含む医薬組成物を提供する。
【解決手段】RNAウイルスに対する抗ウイルス剤を採用する。抗ウイルス剤は、マシチニブ若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RNAウイルスに対する抗ウイルス剤であって、
マシチニブ若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する、抗ウイルス剤。
【請求項2】
前記RNAウイルスは、RNAゲノム中にIRESを有する、請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項3】
前記RNAウイルスは、A型肝炎ウイルスである、請求項2に記載の抗ウイルス剤。
【請求項4】
RNAウイルス感染症を治療又は予防するための医薬組成物であって、
請求項1~3のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤の有効量、及び薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス剤及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
A型肝炎は、RNAウイルスであるA型肝炎ウイルスにより引き起こされる疾患であり、その患者数は世界で年間1億7000万人である。患者の0.5~2%は重症化し、肝移植をしなかった場合には死に至る場合がある(例えば、特許文献1)。近年でも、韓国、米国で、数万人規模の大流行が起きた。
【0003】
A型肝炎治療薬として、インターフェロン等が提案されているが、副作用が多い。A型肝炎の重症化例に対しては、血漿交換、血液持続濾過透析、肝移植等の治療法が採用されるが、これらの治療法は患者の負担が大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
副作用が少なく、A型肝炎ウイルス等のRNAウイルスに対して抗ウイルス活性を示す有効な治療薬は報告されていない。そこで、本発明は、副作用が少なく、A型肝炎ウイルス等のRNAウイルスの増殖抑制に有効な抗ウイルス剤、及び、前記抗ウイルス剤を含む医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]RNAウイルスに対する抗ウイルス剤であって、マシチニブ若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する、抗ウイルス剤。
[2]前記RNAウイルスは、RNAゲノム中にIRESを有する、[1]に記載の抗ウイルス剤。
[3]前記RNAウイルスは、A型肝炎ウイルスである、[2]に記載の抗ウイルス剤。
[4]RNAウイルス感染症を治療又は予防するための医薬組成物であって、
[1]~[3]のいずれかに記載の抗ウイルス剤の有効量、及び薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、副作用が少なく、A型肝炎ウイルス等のRNAウイルスの増殖抑制に有効な抗ウイルス剤、及び、前記抗ウイルス剤を含む医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】HuhT7-HAV/Luc細胞に導入したコンストラクトのエレメントを模式的に示す図である。
【
図1B】HuhT7-HAV/Luc細胞に対して、IFN-α-2aを投与した後、ルシフェラーゼ活性を測定した結果を示す図である。
【
図2】薬剤ライブラリについて、HuhT7-HAV/Luc細胞を用いて、ルシフェラーゼ活性及び細胞生存率を指標としてスクリーニングを行った結果を示す図である。
【
図3】HAV HA11-1299 genotype IIIA株を用いて、スクリーニングにより選択された薬剤について、HAV感染の抑制効果を評価した結果を示す図である。
【
図4】HM175-18f genotype IB株を感染させたHuh7細胞株に対して、マシニチブを投与した後、HAV VP1タンパク質の発現を観察した結果を示す図である。
【
図5】HAV HA11-1299 genotype IIIA株を用いて、マシニチブによるHAV感染の抑制効果を評価した結果を示す図である。
【
図6A】COS7-HAV-IRES細胞株を用いて、マシニチブによる、IRESを介した翻訳の抑制効果を評価した結果を示す図である。
【
図6B】pSV40-HAV-IRESベクターを一過性にHuh7細胞へ遺伝子導入することで、マシニチブによる、IRESを介した翻訳の抑制効果を評価した結果を示す図である。
【
図6C】COS7-HAV-IRES細胞株を用いて、マシニチブ存在下の細胞生存率を測定した結果を示す図である。
【
図6D】Huh7細胞株を用いて、マシニチブ存在下の細胞生存率を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[抗ウイルス剤]
一実施形態において、本発明は、RNAウイルスに対する抗ウイルス剤であって、マシチニブ若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する、抗ウイルス剤を提供する。
【0010】
<対象となるウイルス>
本実施形態に係る抗ウイルス剤の対象となるウイルスは、RNA感染症の原因となるRNAウイルスである。RNAウイルス感染症としては、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、例えば、A型肝炎及、C型肝炎、ポリオウイルス感染症等のピコルナウイルス感染症が挙げられる。
【0011】
対象となる前記RNAウイルスは、二本鎖RNAウイルスであってもよいし、一本鎖RNAウイルスであってもよい。一本鎖RNAウイルスは、一本鎖プラス鎖RNAウイルスであってもよいし、一本鎖マイナス鎖RNAウイルスであってもよい。
【0012】
抗ウイルス剤の対象となるRNAウイルスとしては、そのゲノム中に、internal ribosome entry site(IRES)を有するRNAウイルスであることが好ましい。
ゲノム中にIRESを有するRNAウイルスとしては、例えば、ピコルナウイルスが挙げられる。ピコルナウイルスとしては、例えば、A型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ポリオウイルス等が挙げられる。これらの中でも、抗ウイルス剤の対象となるウイルスとしては、A型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス及びポリオウイルスからなる群より選択される一種以上が好ましく、A型肝炎ウイルスがより好ましい。
【0013】
<マシニチブ>
本実施形態に係る抗ウイルス剤は、マシチニブ若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する。
マシニチブのCAS番号は、790299-79-5である。マシニチブのIUPAC名は、4-[(4-Methylpiperazin-1-yl)methyl]-N-(4-methyl-3-{[4-(pyridin-3-yl)-1,3-thiazol-2-yl]amino}phenyl)benzamideである。
【0014】
本実施形態に係る抗ウイルス剤が含み得るマシニチブの塩としては、抗ウイルス剤が効果を発揮する限り特に制限されず、例えば、塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、燐酸塩、硝酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、酢酸塩、プロパン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、グルタル酸塩、アジピン酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、フマール酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩等が挙げられる。
これらの中でも、マシニチブの塩は、薬学的に許容される塩であることが好ましい。
【0015】
本実施形態に係る抗ウイルス剤が含み得るマシニチブ又はその塩の溶媒和物としては、抗ウイルス剤が効果を発揮する限り特に制限されず、例えば、水和物、有機溶媒和物等が挙げられる。
マシニチブ又はその塩の溶媒和物としては、薬学的に許容される溶媒和物であることが好ましい。
【0016】
<その他の成分>
本実施形態に係る抗ウイルス剤は、マシチニブ若しくはその塩又はそれらの溶媒和物のみからなるものであってもよいし、その他の成分を含んでもよい。
その他の成分としては、抗ウイルス剤が効果を発揮する限り特に制限されず、例えば、賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤化剤、崩壊剤、界面活性化剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤、pH調整剤、抗酸化剤、防腐剤、保存剤、保湿剤、皮膚保護剤、清涼化剤、香料、着色剤、キレート剤、角質軟化剤、血行促進剤、収斂剤、組織修復促進剤、制汗剤、植物抽出成分、動物抽出成分、油性基剤、乳化剤、乳化安定剤、粉末成分、高分子成分、粘着性改良剤、被膜形成剤、保型剤、潤沢剤等が挙げられる。
【0017】
<用途>
本実施形態に係る抗ウイルス剤の用途は、上述のRNAウイルスに対する増殖抑制を目的としている限り特に限定されず、例えば、治療用医薬組成物、予防用医薬組成物等の医薬組成物;身体洗浄用組成物、食物洗浄用組成物等の洗浄用組成物;医療用洗浄用組成物、食器洗浄用組成物等の器具洗浄用組成物等に配合して使用してもよい。
これらの中でも、医薬組成物に配合して用いることが好ましく、治療用医薬組成物に配合して用いることがより好ましい。
【0018】
<使用方法及び使用量>
本実施形態に係る抗ウイルス剤の使用方法及び使用量は、抗ウイルス剤が対象のRNAウイルスに対して効果を発揮する限り特に制限されず、当業者であれば、適宜設定可能である。
【0019】
本実施形態に係る抗ウイルス剤によれば、対象となるRNAウイルスの増殖を抑制することが可能である。本実施形態に係る抗ウイルス剤は、宿主であるヒト細胞に対する毒性が低いため、副作用が少ない。
【0020】
[医薬組成物]
一実施形態において、本発明は、RNAウイルス感染症を治療又は予防するための医薬組成物を提供する。前記医薬組成物は、前記実施形態に係る抗ウイルス剤の有効量、及び薬学的に許容される担体を含む。
【0021】
<薬学的に許容される担体>
本実施形態に係る医薬組成物は、前記実施形態に係る抗ウイルス剤の有効量に加えて、薬学的に許容される担体を含んでもよい。「薬学的に許容される担体」とは、有効成分の生理活性を阻害せず、且つ、その投与対象に対して実質的な毒性を示さない担体を意味する。「実質的な毒性を示さない」とは、その成分が通常使用される投与量において、投与対象に対して毒性を示さないことを意味する。本実施形態に係る医薬組成物において、薬学的に許容される担体は、前記実施形態に係る抗ウイルス剤の抗ウイルス活性を阻害せず、且つ投与対象に対して実質的な毒性を示さない成分であり得る。
【0022】
薬学的に許容される担体は、剤型に応じて、任意のものを用いることができる。
薬学的に許容される担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤;セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤;デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム- グリコール- スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑沢剤;クエン酸、メントール、グリチルリチン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤;安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤;クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤;メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤;界面活性剤等の分散剤;水、緩衝液、生理食塩水等の希釈剤;カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックス等が挙げられる。
【0023】
本実施形態に係る医薬組成物が経口的に投与されるものである場合、医薬組成物の製剤は経口剤のために通常用いられている賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤化剤、崩壊剤、界面活性化剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤等の添加剤を用いて、常法により製造することができる。
使用可能な添加剤としては、例えば、乳糖、果糖、ブドウ糖、デンプン、ゼラチン、メチルセルロース、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、クエン酸、亜硫酸ソーダ、リン酸ナトリウム、β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン等が挙げられる。
本実施形態に係る医薬組成物が経口的に投与されるものである場合、その医薬組成物は、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、細粒剤、トローチ剤等の経口投与に適した剤形に調製されたものであってもよい。
【0024】
<対象の疾患>
本実施形態に係る医薬組成物の適用対象の疾患は、RNAウイルス感染症である。前記RNAウイルス感染症としては、ピコルナウイルス感染症が好ましく、A型肝炎、C型肝炎及びポリオウイルス感染症からなる群より選択される一種以上がより好ましく、A型肝炎が更に好ましい。
本実施形態に係る医薬組成物は、前記RNAウイルス感染症を治療するためのものであってもよく、前記RNAウイルス感染症を予防するためのものであってもよい。
【0025】
<投与対象>
本実施形態に係る医薬組成物の投与対象は、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、哺乳動物が好ましい。哺乳動物としては、例えば、ヒト、ペット、家畜等が挙げられる。哺乳動物としては、ウサギ等のウサギ目;ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄目;イヌ、ネコ等のネコ目;ヒト、サル、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジー等の霊長類等が挙げられる。これらの中でも、投与対象としては、ヒトが好ましい。
【0026】
<投与方法>
本実施形態に係る医薬組成物の投与方法としては、投与対象において、医薬組成物が治療効果を発揮する限り特に限定されず、経口投与でもよく、非経口投与でもよいが、経口投与が好ましい。
非経口投与としては、例えば、静脈内投与、動脈内投与等の全身投与、筋肉内投与、皮下投与、腹腔投与、脳室内投与、髄腔内投与、経皮投与、眼内投与、鼻腔内投与等の局所投与等が挙げられる。
【0027】
本実施形態に係る医薬組成物の投与量は、投与対象の年齢、性別、体重、症状、治療方法、投与方法、処理時間等を勘案して適宜調節される。
本実施形態に係る治療用医薬組成物が経口的に投与されるものである場合、投与量は適宜決定されるが、例えば、治療対象の患者当たり、約0.1~2000mgであってもよく、これを1日あたり1回又は数回に分けて投与してもよいし、数日置きに投与してもよい。
【0028】
<有効量>
本実施形態に係る医薬組成物に含まれる抗ウイルス剤の有効量は、医薬組成物が投与対象に対して効果を発揮する限り特に制限されず、当業者が、適宜設定することができる。
【0029】
本実施形態に係る医薬組成物は、上述の抗ウイルス剤を含むため、投与対象において対象となるRNAウイルスの増殖を抑制することが可能である。そのため、本実施形態に係る医薬を投与することにより、投与対象におけるRNAウイルス感染症を治療することが可能である。本実施形態に係る医薬組成物に含まれるマシチニブは、抗悪性腫瘍薬として用いられており、安全性が確認されている。
【0030】
その他の実施形態としては、例えば、RNAウイルス感染症の治療方法であって、マシチニブ若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含むものが挙げられる。
【0031】
また、その他の実施形態としては、例えば、RNAウイルス感染症の治療のための、マシチニブ若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の使用が挙げられる。
【0032】
また、その他の実施形態としては、例えば、RNAウイルス感染症の治療剤を製造するための、マシチニブ若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の使用が挙げられる。
【0033】
上記の各実施形態において、RNAウイルスとしては、上述したものであってもよい。
上記の各実施形態において、マシチニブ若しくはその塩又はそれらの溶媒和物としては、上述したものであってもよい。
【実施例0034】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
[材料及び方法]
(細胞株)
ヒト肝臓がん細胞として、Huh7細胞及びHuhT7細胞を用いた。HuhT7細胞は、細胞質でT7 RNAポリメラーゼを安定的に発現する、Huh7細胞の形質転換体である。これらの細胞は、10%FBS、100unit/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシンを含むRPMI培地を用いて、5%CO2雰囲気、37℃で培養した。
【0036】
COS7-HAV-IRES細胞株は、HAV IRESの下流に、ホタルルシフェラーゼを連結したレポーター遺伝子を、COS7細胞に導入した細胞である(Kanda T et al., The sirtuin inhibitor sirtinol inhibits hepatitis A virus (HAV) replication by inhibiting HAV internal ribosomal entry site activity. Biochem Biophys. Res. Commun. 2015, 466, 567-571. DOI: 10.1016/j.bbrc.2015.09.083. PMID: 26388050)。COS7-HAV-IRES細胞株において、HAV-IRESは恒常的に発現する。
【0037】
pSV40-HAV-IRES細胞株は、Huh7細胞に、pSV40-HAV-IRESを一過性に遺伝子導入した細胞である(Kanda T et al. Amantadine inhibits hepatitis A virus internal ribosomal entry site-mediated translation in human hepatoma cells. Biochem. Biophys. Res. Commun. 2005, 331, 621-629. DOI: 10.1016/j.bbrc.2005.03.212. PMID: 15850805)。pSV40-HAV-IRES細胞株において、HAV-IRESは一過性に発現する。
【0038】
HuhT7-HAV/Luc細胞株は、HAV HM175 genotype IB subgenomic replicon(すなわち、pT7-18f-LUC)を恒常的に発現する、HuhT7細胞株である。pT7-18f-LUCは、HAV polyproteinのはじめの4アミノ酸残基、及び、HAV HM175 genotype IBのVP1のC末端の12アミノ酸残基で挟まれた、ホタルルシフェラーゼのORFを含む(Gauss-Muller, V. and Kusov, Y.Y. Replication of a hepatitis A virus replicon detected by genetic recombination in vivo. J. Gen. Virol. 2002, 83, 2183-2192. DOI: 10.1099/0022-1317-83-9-2183. PMID: 12185272)。HuhT7-HAV/Luc細胞株の作製方法は後述する。
【0039】
(薬剤ライブラリ)
1134種の薬剤を含む、FDAにより承認された薬剤ライブラリは、大阪大学薬学研究科 創薬サイエンス研究支援拠点より提供された。Masitinib(マシニチブ),cetylpyridinium chloride、nebivolol及びcyclosporineは、Selleck Biotek(Tokyo,Japan)より購入した。Thonzonium bromideは、Toronto Research Chemicals Inc.(Toronto,ON,Canada)より購入した。
【0040】
(HuhT7-HAV/Luc細胞の作製)
pT7-18f-LUCを鋳型として、KOD-plus-Neo polymerase(TOYOBO,Japan)、及び、配列番号1及び配列番号2で表されるプライマーを用いて、PCRにより、HAV/Lucを増幅させた。PCRは、GeneAmp PCR system 9700(Perkin Elmer,Norwalk,CT,USA)を用い、94℃ 2分、次いで、98℃ 10分、55℃ 5秒、及び68℃ 4分を40サイクル、次いで、68℃ 3分の条件で行った。
【0041】
次いで、得られたPCR断片を、In-Fusion cloning kit(Takara Bio,Shiga,Japan)を用いて、nonviral PiggyBac Transposon vector(PB501B-1;System Biosciences,Palo Alto,CA,USA)のEcoRIサイトに挿入した。
【0042】
次いで、Effectene transfection reagents(Qiagen)を用いて、HAV/Lucが挿入されたnonviral PiggyBac Transposon vector、及び、PiggyBac Transposase vector(PB210PA-1;System Biosciences)をHuhT7にトランスフェクションし、HAV/Lucを恒常的に発現する細胞株を作製した。
【0043】
トランスフェクションを行ってから96時間後に、トランスフェクション後の細胞を5 μg/mL puromycin(Thermo Fisher Scientific,Tokyo,Japan)で処理し、HAV/Lucを恒常的に発現するHuhT7を得た。
【0044】
(薬剤スクリーニング)
96-well plate format MS-8096W(Sumitomo Bakelite Company Limited,Tokyo,Japan)に、ウェル当たり、2×104~2.5×104個のHuhT7-HAV/Luc細胞を播種した。
【0045】
細胞を播種して24時間後に、10μMの1134種類の各薬剤、又はDMSO(コントロール)で細胞を処理した。次いで、24時間後に、ルシフェラーゼレポーターアッセイによりルシフェラーゼの活性を測定した。また、Dimethylthiazol carboxymethoxyphenyl sulfophenyl tetrazolium(MTS)アッセイにより、細胞生存率を測定した。
【0046】
(ルシフェラーゼレポーターアッセイ)
細胞は、reporter lysis buffer(Toyo Ink,Tokyo,Japan)を用いて播種した。ルシフェラーゼ活性は、luminometer(AB-2200-R,ATTO,Tokyo,Japan)を用いて測定した。
【0047】
(細胞生存率の測定)
細胞生存率は、One-Solution cell proliferation assay(Promega)を用いて、MTSアッセイにより測定した。酵素活性は、Bio-Rad iMark microplate reader(Bio-Rad,Hercules,CA,USA)を用いて、波長490nmで測定した。
【0048】
(HAV HA11-1299 Genotype IIIAの感染)
ウイルスを感染させる24時間前に、6-well plates(Iwaki Glass,Tokyo,Japan)を用いて、1ウェル当たり、3×105個のHuh7細胞を播種した。次いで、phosphate-buffered saline(PBS)(FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation,Osaka,Japan)を用いて、細胞を2回洗浄した。次いで、Multiplicity of Infection(MOI)を0.1に設定した無血清RPMI培地で、細胞に対してHAV HA11-1299 Genotype IIIAを感染させた。
【0049】
次いで、HAV感染Huh7細胞に対して、1μM thonzonium bromide,5μM cetylpyridinium chloride,5μM nebivolol、5μM cyclosporine、又は10μM masitinibを添加した。コントロールでは、HAV感染Huh7細胞に対して、無血清RPMIを添加した。
【0050】
次いで、24時間静置した後、細胞をPBSで1回洗浄した。次いで、HAV感染Huh7細胞に対して、1μM thonzonium bromide,5μM cetylpyridinium chloride,5μM nebivolol,5μM cyclosporine、又は10μM masitinibを含む、5%FBS-血清RPMI 1mLを添加した。コントロールでは、HAV感染Huh7細胞に対して、5%FBS-血清RPMIを添加した。
【0051】
次いで、72時間の感染後、HAV感染Huh7細胞における、HAV RNAレベルを、以下に示す方法で、real-time reverse transcription-polymerase chain reaction(RT-PCR)により測定した。
【0052】
RNeasy Mini Kit(Qiagen,Hilden,Germany)を用いて、トータルRNAを分離した。次いで、PrimeScript RT reagent (Perfect Real Time;Takara,Otsu,Japan)を用いて、cDNAを合成した。逆転写反応は、37℃で15分、85℃で5秒の条件で行った。
【0053】
Real-time PCRは、Power SYBR Green Master Mix(Thermo Fisher Scientific)、及び、QuantStudio 3 real-time PCR system(Applied Biosystems)を用いて行った。PCR反応は、95℃で10分、次いで、95℃で15秒及び60℃ 1分を40サイクルで行った。HAV RNA及びactin mRNAの定量は、それぞれ、配列番号3及び配列番号4で表されるプライマー、配列番号5及び配列番号6で表されるプライマーを用いて行った。標準化には、ハウスキーピング遺伝子であるactinを用い、データはComparative CT Methodにより解析した。遺伝子発現量の相対値は、standard curveにより得られた遺伝子発現量の絶対値と相関していた。Real-time PCRは、それぞれ2回行った。
【0054】
(IC50の測定)
HAVの最大感染抑制の50%となるmasitinibの濃度は、IC50=10^[LOG(A/B)×(50-C)/(D-C)+LOG(B)]により算出した(Sasaki-Tanaka, R. et al. Favipiravir Inhibits Hepatitis A Virus Infection in Human Hepatocytes. Int. J. Mol. Sci. 2022, 23, 2631. DOI: 10.3390/ijms23052631. PMID: 35269774)。A及びBは薬剤の濃度を示す。Cは、薬剤の濃度がBであるときのHAV RNAレベルを意味する。Dは、薬剤の濃度がAであるときのHAV RNAレベルを意味する。AはIC50よりも高い濃度であり、BはIC50よりも低い濃度である。
【0055】
(免疫染色)
感染の24時間前に、24 well plate(Iwaki Glass)のカバーグラスに、1ウェル当たり5×104個の細胞を播種した。次いで、PBS(FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation,Osaka,Japan)を用いて、細胞を2回洗浄した。次いで、Multiplicity of Infection(MOI)を0.1に設定した無血清RPMI培地で、細胞に対してHAV HM175-18f genotype IBを感染させた。
【0056】
次いで、10μM masitinib又は0.1μg/mL interferon-α-2a(Sigma-Aldrich)を、HAV感染Huh7細胞に添加した。次いで、24時間静置後、HAV感染Huh7細胞を、PBSで1回洗浄した。次いで、HAV感染Huh7細胞に対して、10μM masitinib又は0.1μg/mL interferon-α-2aを含む、5%FBS-血清RPMI 500μLを添加した。
【0057】
ウイルス感染から72時間後に、氷冷したメタノールを用いて、-20℃で5分間、細胞を固定した。メタノールの除去後、細胞を3分間乾燥させた。次いで、細胞をPBSで2回洗浄した。次いで、3%BSA-PBSを用いて、室温で30分間、ブロッキングを行った。次いで、一次抗体として抗HAV VP1抗体(aa7-143,1:50,LS-C137674,LifeSpan BioSciences,WA,USA)、次いで、二次抗体としてAlexa Fluor 488 F(ab’)2 fragment of goat anti-mouse IgG(1:500,A-11017,Thermo Fisher Scientific)を用いた。
【0058】
次いで、核を、5μg/ml Hoechst 33342(Sigma-Aldrich)-PBSで、10分間、染色した。スライドグラスを、anti-fluorescent quencher (SlowFad Gold Antifade Mountant,Thermo Fisher Scientific)を用いてマウントした。
【0059】
蛍光免疫染色の画像は、Keyence BZ-X710 fluorescence microscope(KEYENCE CORPORATION,Osaka,Japan)を用いて、40倍の対物レンズで、取得した。
【0060】
[実験例1]
(HuhT7-HAV/Luc細胞のレポーター活性の確認)
HuhT7-HAV/Luc細胞に導入したHAV/Lucコンストラクトを
図1Aに示す(Gauss-Muller, V. and Kusov, Y.Y. Replication of a hepatitis A virus replicon detected by genetic recombination in vivo. J. Gen. Virol. 2002, 83, 2183-2192. DOI: 10.1099/0022-1317-83-9-2183. PMID: 12185272)。
【0061】
図1A中、T7は、T7プロモーターである。5’-UTRは、5’非翻訳領域であり、HAVのIRESを含む。IRESは、ピリミジン塩基を多く含む領域を有し、これにより、キャップ構造非依存的に翻訳が進行する。FlucはホタルルシフェラーゼのORFであり、HAV polyproteinのはじめの4アミノ酸残基、及び、HAV HM175 genotype IBのVP1のC末端の12アミノ酸残基で挟まれている。P2及びP3は、HAV polyproteinのP2及びP3をコードする配列である。3’-UTRは、3’非翻訳領域である。PolyAは、polyA tailである。
【0062】
HuhT7-HAV/Luc細胞に対して、0.1μg/mLのIFN-α-2aを添加した。48時間静置後、ルシフェラーゼ活性を測定した。結果を
図1Bに示す。IFN-α-2aで処理していないHuhT7-HAV/Luc細胞のルシフェラーゼ活性は約6000RLU/1.5×10
5cellsであり、0.1μg/mLのIFN-α-2aで処理したHuhT7-HAV/Luc細胞のルシフェラーゼ活性は約1000RLU/1.5×10
5cellsであった。HAV/Lucが導入されていないHuhT7細胞のルシフェラーゼ活性は、無視できるほど低い値であった。
【0063】
HuhT7-HAV/Luc細胞、HAV/Lucが導入されていないHuhT7細胞について、HAV RNAをReal-time PCRにより測定した結果、Threshhold cycleはそれぞれ、23.9、40であった。
【0064】
以上の結果から、HuhT7-HAV/Luc細胞が安定してHAV/Lucを発現することが確認された。これにより、HuhT7-HAV/Luc細胞は、ルシフェラーゼ活性を指標とした薬剤スクリーニングに用いることができることが確認された。
【0065】
[実験例2]
(薬剤スクリーニング)
HuhT7-HAV/Luc細胞を用いて、FDA承認薬剤ライブラリから得られた1134種類の薬剤について、スクリーニングを行った。
【0066】
スクリーニングは、ルシフェラーゼ活性及び細胞生存率を指標として行った。結果を
図2に示す。
図2中、横軸は、ルシフェラーゼの比活性を示し、縦軸は、細胞生存率を示す。ルシフェラーゼの比活性は、薬剤を投与していない細胞のルシフェラーゼ活性に対する、薬剤投与した細胞のルシフェラーゼ活性の比である。
【0067】
スクリーニングの結果を参照し、ルシフェラーゼの比活性が0.33未満であり、かつ、薬剤投与後の細胞生存率が90%超であった、5種類の薬剤を選択した。5種類の薬剤は、masitinib(マシニチブ),cetylpyridiniumchloride,nebivolol,cyclosporineandthonzoniumbromideであった。
【0068】
[実験例3]
(5種類の薬剤の活性)
スクリーニングにより選択した5種類の薬剤について、HAV HA11-1299 genotype IIIA株を用いて、HAV RNAの発現抑制効果、細胞生存率を測定した。
【0069】
5種類の薬剤を用いた場合の、HAV RNAの発現量をReal-time PCRにより測定した。結果を
図3に示す。
図3中、縦軸は、actinで標準化したHAVの発現量(HAV/actin)の比を示す。この比は、薬剤非投与後のHAV/actinに対する、各薬剤投与後のHAV/actinの比を示す。**は、p<0.01(two-tailed Student’s t test)を意味する。
10μM masitinibの投与により、ウイルスの複製が71%減少することが確認された。
【0070】
細胞生存率の測定の結果から、masitinibは10μM以下で細胞毒性を有さず、cetylpyridiniumchloride,nebivolol及びcyclosporineは5μM以下で細胞毒性を有さず,thonzoniumbromideは1μM以下で細胞毒性を有さないことが確認された(図示せず)。
【0071】
[実験例4]
(masitinibによるHAVタンパク質の発現抑制)
Huh7細胞に対してHAV HM175-18f genotype IB株を感染させ、HAV VP1タンパク質の発現量を観察することにより、masitinibのウイルス増殖抑制効果を評価した。HAV VP1タンパク質は、抗VP1抗体を用いて染色した。結果を
図4に示す。
図4中、スケールバーは25μmを示す。
【0072】
HAVを感染させていない細胞では、VP1のシグナルが確認されなかった(Mock)。HAVを感染させた細胞では、VP1のシグナルが確認された(HAV)。IFN-α-2a又はmasitinib存在下では、非存在下に比べて、VP1のシグナルが減弱していた。
【0073】
以上の結果から、masitinibにより、VP1タンパク質の発現量が低下すること、すなわち、ウイルス増殖が抑制されることが確認された。
【0074】
[実験例5]
(masitinibによるHAV RNAの発現抑制)
Huh7細胞に対して、HAV HA11-1299 Genotype IIIA株を感染させ、HAV RNA量をReal-time PCRにより定量することにより、masitinibのウイルス増殖抑制効果を評価した。結果を
図5に示す。
【0075】
図5中、縦軸は、actinで標準化したHAVの発現量(HAV/actin)の比を示す。この比は、薬剤を投与しなかった場合のHAV/actinに対する、各薬剤投与後のHAV/actinの比を示す。横軸は、masitinibの濃度を示す。*はp<0.05、**はp<0.01(two-tailed Student’s t test)を意味する。
【0076】
5μM又は10μMのmasitinibの存在下では、masitinibの非存在下に比べて、HAV RNA量の発現量が、それぞれ、32%、60%低下した。HAVの感染最大抑制の50%となるmasitinibの濃度(IC50)は、7.81μMであった。
【0077】
[実験例6]
(masitinibによるHAVの増殖抑制)
COS7-HAV-IRES細胞株、及び、pSV40-HAV-IRES細胞を用いて、masitinibによるルシフェラーゼ活性の抑制効果を評価した。結果を
図6A~
図6Dに示す。
【0078】
図6A及び
図6B中、縦軸は、ルシフェラーゼの比活性を示す。
図6C及び
図6D中、縦軸は、細胞生存率を示す。*はp<0.05、**はp<0.01(two-tailed Student’s t test)を意味する。
【0079】
5μM masitinib存在下では、COS7細胞におけるHAV-IRESの活性、Huh7細胞におけるHAV-IRESの活性が、それぞれ、66%、33%低下した。10μM masitinib存在下では、Huh7細胞におけるHAV-IRESの活性が、88%低下した。
【0080】
masitinibの濃度が10μM以下の条件では、細胞生存率に大きな影響は確認されなかった。