(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110256
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】プラスチック生分解性評価システム及びプラスチック生分解性評価方法
(51)【国際特許分類】
A01K 63/04 20060101AFI20240807BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20240807BHJP
C02F 3/04 20230101ALI20240807BHJP
C02F 3/34 20230101ALI20240807BHJP
C02F 3/12 20230101ALI20240807BHJP
【FI】
A01K63/04 A
C02F1/28 M
C02F3/04
C02F3/34 101D
C02F3/12 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014747
(22)【出願日】2023-02-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 共創の場形成支援(共創の場形成支援プログラム)「再生可能多糖類植物由来プラスチックによる資源循環社会共創拠点に関する国立大学法人金沢大学による研究開発」委託研究及び「未利用再生可能資源からの効率的バクテリアセルロースナノファイバー製造に関する国立大学法人北海道大学による研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】竹内 裕
(72)【発明者】
【氏名】高橋 憲司
(72)【発明者】
【氏名】和田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敏文
(72)【発明者】
【氏名】磯野 拓也
(72)【発明者】
【氏名】リ ホウ
【テーマコード(参考)】
2B104
4D003
4D028
4D040
4D624
【Fターム(参考)】
2B104AA01
2B104AA22
2B104ED08
2B104ED17
2B104ED36
4D003AA02
4D003AB01
4D003BA02
4D003CA08
4D003EA06
4D003EA14
4D003EA19
4D028AA08
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4D028BB07
4D040BB07
4D040BB42
4D040BB63
4D040BB82
4D624AA01
4D624AA02
4D624AA05
4D624AB13
4D624BA02
4D624BA07
4D624BB01
4D624BC01
4D624CA01
(57)【要約】
【課題】プラスチック生分解性を迅速に評価可能な、プラスチック生分解性評価システム、及びプラスチック生分解性評価方法の提供。
【解決手段】水生動物を飼育する水槽と、前記水槽中の飼育水を循環ろ過する循環ろ過装置と、を含む、プラスチック生分解性評価システム。また、水槽中の飼育水を循環ろ過しながら、前記水槽中で水生動物を飼育する工程(A)と、前記水生動物を飼育する水に、プラスチックを接触させる工程(B)と、を含む、プラスチック生分解性評価方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水生動物を飼育する水槽と、
前記水槽中の飼育水を循環ろ過する循環ろ過装置と、
を含む、プラスチック生分解性評価システム。
【請求項2】
前記水生動物が、魚類、甲殻類、貝類、頭足類、及び棘皮類からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載のプラスチック生分解性評価システム。
【請求項3】
前記循環ろ過装置が、アンモニア除去用濾材を含む、請求項1又は2に記載のプラスチック生分解性評価システム。
【請求項4】
前記飼育水が、動物プランクトンを含む、請求項1又は2に記載のプラスチック生分解性評価システム。
【請求項5】
水槽中の飼育水を循環ろ過しながら、前記水槽中で水生動物を飼育する工程(A)と、
前記飼育水に、プラスチックを接触させる工程(B)と、
を含む、プラスチック生分解性評価方法。
【請求項6】
前記水生動物が、魚類、甲殻類、貝類、頭足類、及び棘皮類からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項5に記載のプラスチック生分解性評価方法。
【請求項7】
前記工程(A)における前記循環ろ過が、アンモニア除去用濾材に前記飼育水を通過させることを含む、請求項5又は6に記載のプラスチック生分解性評価方法。
【請求項8】
前記飼育水が、動物プランクトンを含む、請求項5又は6に記載のプラスチック生分解性評価方法。
【請求項9】
前記工程(B)を、前記飼育水を入れた容器において実施する、請求項5又は6に記載のプラスチック生分解性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック生分解性評価システム及びプラスチック生分解性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、軽さ、成形性及び着色性の良さ、耐水性の高さ等から、様々な製品に利用されている。プラスチック製品は、安価で、工業的に大量生産可能であるとうメリットもある。一方、プラスチック製品は、安価であるために、使い捨てされることが多く、プラスチック廃棄物の大量発生の問題を生じている。適正に処理されなかったプラスチック廃棄物は、環境中に放出されて、長期間残存する。環境中において、プラスチックは微細化されて、マイクロプラスチックとなる。マイクロプラスチックは、生物の体表への付着、生物による摂取等により、生物に悪影響を与えることが懸念されている。
【0003】
プラスチック廃棄物による環境汚染リスクの問題から、環境中でのプラスチックの分解性を評価する手法が求められている。近年進められている生分解性プラスチックの開発においても、プラスチックの生分解性を評価する必要がある。
【0004】
プラスチックの生分解性を評価する方法としては、例えば、海水の濾過等により海洋微生物を濃縮した海水調製物を調製し、当該海水調製物をプラスチックと共に培養する方法が提案されている(特許文献1)。
【0005】
一方、水生動物を陸上養殖するための養殖システムとして、閉鎖型循環養殖システムが知られている(例えば、特許文献2~5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-158911号公報
【特許文献2】特開2020-162552号公報
【特許文献3】特開2013-188719号公報
【特許文献4】特開2011-177619号公報
【特許文献5】特開2012-024762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プラスチックの生分解性評価試験では、試験期間の短縮のために、迅速にプラスチックの生分解を評価可能な手法が求められる。
【0008】
そこで、本発明は、プラスチック生分解性を迅速に評価可能な、プラスチック生分解性評価システム、及びプラスチック生分解性評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の態様を含む。
[1]水生動物を飼育する水槽と、前記水槽中の飼育水を循環ろ過する循環ろ過装置と、を含む、プラスチック生分解性評価システム。
[2]前記水生動物が、魚類、甲殻類、貝類、頭足類、及び棘皮類からなる群より選択される少なくとも1種を含む、[1]に記載のプラスチック生分解性評価システム。
[3]前記循環ろ過装置が、アンモニア除去用濾材を含む、[1]又は[2]に記載のプラスチック生分解性評価システム。
[4]前記飼育水が、動物プランクトンを含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載のプラスチック生分解性評価システム。
[5]水槽中の飼育水を循環ろ過しながら、前記水槽中で水生動物を飼育する工程(A)と、前記飼育水に、プラスチックを接触させる工程(B)と、を含む、プラスチック生分解性評価方法。
[6]前記水生動物が、魚類、甲殻類、貝類、頭足類、及び棘皮類からなる群より選択される少なくとも1種を含む、[5]に記載のプラスチック生分解性評価方法。
[7]前記工程(A)における前記循環ろ過が、アンモニア除去用濾材に前記飼育水を通過させることを含む、[5]又は[6]に記載のプラスチック生分解性評価方法。
[8]前記飼育水が、動物プランクトンを含む、[5]~[7]のいずれか1つに記載のプラスチック生分解性評価方法。
[9]前記工程(B)を、前記飼育水を入れた容器において実施する、[5]~[8]のいずれか1つに記載のプラスチック生分解性評価方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プラスチックの生分解性を迅速に評価可能な、プラスチック生分解性評価システム、及びプラスチック生分解性評価方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態のプラスチック生分解性評価システムの模式図である。
【
図2】飼育水を入れた容器におけるプラスチック生分解性評価方法の一例を示す。
【
図3】実施例で用いたプラスチック生分解性評価システムを示す。
【
図4】実施例で用いたアンモニア除去用濾材を示す。
【
図5】プラスチック分解における動物プランクトンの影響を評価した結果を示す。
【
図6】プラスチック生分解性評価システムにおける生分解性評価試験の結果を示す。
【
図7】プラスチック生分解性評価システムにおける生分解性評価試験の結果を示す。
【
図8】プラスチック生分解性評価システムにおける生分解性評価試験の結果を示す。
【
図9】プラスチック生分解性評価システムにおける生分解性評価試験の結果を示す。CTA(1)(三酢酸セルロース(熱プレス無、膜厚ca.315μm))、PLLA(ポリ-L-ラクチド(熱プレス無、膜厚ca.273μm))及びCTA/PCL(三酢酸セルロース/ポリカプロラクトンのブレンドフィルム、ブレンド重量比:CTA/PCL=3/1、熱プレス無、膜厚ca.972μm)の試験片端部の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の実施形態について詳細に説明する。図面中、同一又は相当部分には同一又は対応する符号を付し、重複する説明は省略する。各図における寸法比は、説明のため誇張している部分があり、必ずしも実際の寸法比とは一致しない。
【0013】
[プラスチック生分解性評価システム]
本発明の第1の態様は、プラスチック生分解性評価システムである。本態様のプラスチック生分解性評価システムは、水生動物を飼育する水槽と、前記水槽中の飼育水を循環ろ過する循環ろ過装置と、を含む。
【0014】
図1は、一実施形態のプラスチック生分解性評価システム1を示す模式図である。プラスチック生分解性評価システム1は、水槽10、アンモニア除去リアクター20、配管40、及びポンプPを備えている。アンモニア除去リアクター20、配管40、及びポンプPは、循環ろ過装置を構成する。
【0015】
<水槽>
水槽10は、飼育水Wを保持し、水生動物Fを飼育するためのものである。水槽10は、水生動物Fを飼育可能なものであれば、特に限定されない。水槽10は、水生動物Fの種類に応じて、適宜選択することができる。水槽10の容量は、例えば、1L~100000Lの範囲で選択することができる。水槽10の容量は、例えば、5L以上が好ましく、10L以上、20L以上、50L以上、又は100L以上がより好ましい。水槽10の容量が、前記好ましい下限値以上であると、複数個体の水生動物Fを飼育しやすい。また、飼育水の水質を維持しやすい。水槽10の容量は、占有面積及び維持費用の観点から、例えば、8000L以下、5000L以下、3000L以下、1000L以下、800L以下、500L以下、又は300L以下とすることができる。
【0016】
水槽10の材質は、特に限定されず、ガラス製でもよく、樹脂製でもよく、金属製でもよい。水槽10の形状も、特に限定されず、水槽の底面形状としては、円形状、ドーナツ形状、多角形状(正方形状、長方形状、六角形状等)が挙げられる。
【0017】
<水生動物>
「水生動物」とは、水域に生息する動物の総称である。水生動物は、淡水に生息する動物でもよく、海洋に生息する生物でもよく、汽水域に生息する生物でもよい。水生動物は、体長1cm以上の動物が好ましい。本明細書において、「水生動物」には、動物プランクトンは含まれないものとする。
【0018】
水生動物の具体例としては、例えば、魚類(ウナギ類、コイ類、フグ類、ハタ類、カワスズメ類、タイ類、アジ類、ブリ類、ハマチ類、サケ類、ヒラメ類、ニシン類、ナマズ類、ドジョウ類、メダカ類等)、甲殻類(エビ類、カニ類、シャコ類等)、貝類(アワビ類、ホタテ類、カキ類、アサリ類、シジミ類、アカガイ類、サザエ類等)、頭足類(タコ類、イカ類等)、棘皮類(ウニ類、ナマコ類等)等が挙げられる。
【0019】
水生動物Fは、プラスチック生分解性を評価する環境に応じて選択することができる。例えば、河川環境におけるプラスチックの生分解性を評価する場合、当該河川環境に生息する水生動物を用いることができる。あるいは、海洋環境におけるプラスチックの生分解性を評価する場合、当該海洋環境に生息する水生動物を用いることができる。
水生動物Fは、1種であってもよく、2種以上であってもよい。水生動物Fとして、例えば、評価対象の環境に生息する水生動物を2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0020】
水槽10で飼育される水生動物Fの個体数は、特に限定されず、水槽10の大きさに応じて適切な個体数を飼育することができる。水生動物Fの個体数としては、例えば、1~50匹程度が挙げられる。水生動物Fの個体数は、プラスチック生分解性の加速化の観点から、2匹以上が好ましく、3匹以上、4匹以上、又は5匹以上であってよい。水生動物Fの個体数は、飼育環境の維持費用の観点から、例えば、30匹以下、20匹以下、15匹以下、又は10匹以下とすることができる。
【0021】
<飼育水>
飼育水Wは、水生動物Fを飼育にするための水である。飼育水Wは、水槽10内において、水生動物Fに生息環境を提供する。
飼育水Wは、水生動物Fが生存できるものであれば、特に限定されない。飼育水Wは、動物プランクトンを含むことが好ましい。後述の実施例で示されるように、動物プランクトンは、水環境において、プラスチックの生分解に関与していると考えられる。
【0022】
飼育水Wは、プラスチックの生分解性の評価対象である水環境における環境水を用いてもよい。そのような環境水を飼育水として用いることで、当該水環境におけるプラスチックの生分解性速度との相関性を高めることができる。また、飼育水Wとして環境水を用いることで、当該環境水中に生息する動物プランクトン群集を飼育水Wに導入することができる。例えば、河川環境におけるプラスチックの生分解性を評価する場合、当該河川環境の河川水を飼育水Wとして用いることができる。あるいは、海洋環境におけるプラスチックの生分解性を評価する場合、当該海洋環境の海洋水を飼育水Wとして用いることができる。
【0023】
飼育水Wは、人工的に調整されたものであってもよい。例えば、脱塩素処理した水道水、人工海水、人工淡水等を用いてもよい。この場合、脱塩素処理した水道水、人工海水又は人工淡水に、動物プランクトンを加えてもよい。動物プランクトンは、例えば、評価対象である水環境に生息するものを用いることができる。動物プランクトンは、環境水に生息するものを1種、または2種以上組み合わせて用いてもよい。あるいは、環境水からプランクトンネット等を用いて、プランクトン群集を取得し、当該プランクトン群集を、脱塩素処理した水道水、人工海水又は人工淡水に添加してもよい。動物プランクトンは、水生動物Fの体表又は体内に存在するものであってもよい。この場合、飼育水W中で水生動物Fを飼育することで、水生動物Fにより飼育水W中に動物プランクトンが持ち込まれる。
【0024】
<循環ろ過装置>
循環ろ過装置は、飼育水Wを循環ろ過し、飼育水Wの水質を維持するために用いられる。水生動物Fの飼育中、水生動物Fの排泄物等により、飼育水Wにはアンモニア等が蓄積する。循環ろ過装置は、ろ過によりアンモニアを除去する機能を備えることが好ましい。循環ろ過装置は、例えば、アンモニア除去リアクターを備えることが好ましい。
【0025】
プラスチック生分解性評価システム1において、循環ろ過装置は、アンモニア除去リアクター20配管40、及びポンプPから構成される。
【0026】
(アンモニア除去リアクター)
アンモニア除去リアクター20は、飼育水W中のアンモニアを除去するリアクターである。アンモニア除去リアクター20は、カラム22及び濾材21を含み、カラム22の内部に、濾材21が格納されている。濾材21は、アンモニア除去用濾材であり、飼育水Wからアンモニアを除去する機能を有している。濾材21は、物理的吸着によりアンモニアを除去するものでもよく、生物的にアンモニアを除去するものでもよい。物理的吸着によりアンモニアを除去する濾材としては、例えば、ゼオライト、活性炭が挙げられる。
【0027】
生物的にアンモニアを除去する濾材としては、例えば、硝化細菌を含むものが挙げられる。硝化細菌は、アンモニアを酸化して亜硝酸又は硝酸を生成する細菌である。アンモニアを酸化して亜硝酸を生成する細菌を、アンモニア酸化細菌という。亜硝酸を酸化して硝酸を生成する細菌を亜硝酸酸化細菌という。「硝化細菌」は、アンモニア酸化細菌及び亜硝酸酸化細菌を包含する。濾材21は、硝化細菌を含むことが好ましく、アンモニア酸化細菌及び亜硝酸酸化細菌を含むことがより好ましい。
アンモニア酸化細菌としては、Nitrosomonas属、Nitorosococcus属、Nitrosospira属が挙げられる。亜硝酸酸化細菌としては、Nitrobacter属、Nitrospira属が挙げられる。
生物的にアンモニアを除去する濾材としては、例えば、特開2020-162552号公報、特開2013-188719号公報、特開2011-177619号公報、特開2012-024762号公報に記載のもの等が挙げられる。
【0028】
濾材21は、硝化細菌が担持された足場材を含んでもよい。足場材としては、例えば、スポンジ、多孔質粒子等が挙げられる。足場材がスポンジである場合、前記スポンジは、
図4に示されるように、ホルダーに保持されていてもよい。
【0029】
濾材21は、濾材の交換が不要であることから、生物的にアンモニアを除去する濾材であることが好ましく、硝化細菌を含む濾材がより好ましい。
【0030】
プラスチック生分解性評価システム1では、アンモニア除去リアクター20として、DHS(Down-flow Hanging Sponge)リアクターが採用されている。水槽10中の飼育水Wは、ポンプP及び配管40により、アンモニア除去リアクター20の上部に汲み上げられる。その後、飼育水Wは、アンモニア除去リアクター20内を重力の作用により流下する。カラム22の底部には、排液部22mが設けられている。アンモニア除去リアクター20の内部を流下した飼育水Wは、排液部22mから排出されて、水槽10に戻る。排液部22mは、飼育水が通過できる構造であれば、特に限定されない。排液部22mとしては、例えば、メッシュ構造、1個以上の排水口を含む構造等が挙げられる。
【0031】
アンモニア除去リアクター20は、アンモニア除去用濾材に加えて、脱窒用濾材を含んでもよい。脱窒用濾材は、脱窒機能を有する濾材である。アンモニア除去リアクター20が、アンモニア除去用濾材に加えて、脱窒用濾材を含む場合、アンモニア除去リアクター20は、アンモニア除去機能に加えて、脱窒機能を併せ持つ。この場合、アンモニア除去リアクター20は、アンモニア除去及び脱窒リアクターといってもよい。
【0032】
脱窒用濾材としては、例えば、脱窒菌を含むものが挙げられる。脱窒菌は、硝酸を還元して窒素を生成する細菌である。脱窒菌としては、Pseudomonas denitrificans、Paracoccus denitrificans等が挙げられる。脱窒菌は嫌気性菌であるため、脱窒用濾材内は、嫌気性に維持されることが好ましい。脱窒用濾材は、脱窒菌の造粒化菌体であってもよい。
脱窒用濾材としては、例えば、特開2012-024762号公報に記載のもの等が挙げられる。
【0033】
脱窒用濾材は、アンモニア除去リアクターとは別に設けられた脱窒リアクターに格納してもよい。この場合、循環ろ過装置は、アンモニア除去リアクター、脱窒リアクター、配管及びポンプから構成される。アンモニア除去リアクターとは別に脱窒リアクターを設ける場合、脱窒リアクターには、USB(Upflow Sludge Blanket)方式を採用してもよい。USB方式では、ポンプ等により、配管を介して、飼育水が脱窒リアクターの下部に供給される。飼育水は、ポンプ等により、脱窒リアクター内を上方向に押し上げられる。脱窒リアクターの上端に到達した飼育水は、配管等により、水槽に戻してもよいし、アンモニア除去リアクターの上部に供給してもよい。
【0034】
ろ過循環装置における飼育水Wの循環速度は、飼育水の水質を維持できれば、特に限定されない。循環速度は、水槽10の容量に応じて適宜設定することができる。
循環速度としては、例えば、アンモニア除去リアクター20を、飼育水が1時間に1回以上、好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上、さらに好ましくは4回以上通過する速度とすることができる。循環速度は、例えば、アンモニア除去リアクター20を、飼育水が1時間に10回以下、好ましくは8回以下、より好ましくは6回以下通過する速度とすることができる。飼育水Wの循環速度は、例えば、100~1000L/時間、300~800L/時間、400~700L/時間であってもよい。
【0035】
プラスチック生分解性評価システム1において、飼育水Wは、水槽10→アンモニア除去リアクター20→水槽10の循環経路により循環される。しかしながら、循環経路は、これに限定されない。循環経路は、アンモニア除去リアクターの個数、水槽10の大きさ等に応じて、適宜設定することができる。アンモニア除去リアクターとは別に脱窒リアクターを備える場合、循環経路は、例えば、水槽→脱窒リアクター→アンモニア除去リアクター→水槽であってもよい。
【0036】
プラスチック生分解性評価システム1において、ろ過循環装置は、1個のアンモニア除去リアクター20を備えるが、ろ過循環装置の構成は、これに限定されない。ろ過循環装置は、アンモニア除去リアクターを2個以上備えていてもよく、3個以上備えていてもよい。
【0037】
<他の構成>
プラスチック生分解性評価システムは、上記構成に加えて、他の構成を備えてもよい。他の構成としては、例えば、UVランプ、サーモスタット、ヒーター、クーラー、エアポンプ、サンゴ砂等が挙げられる。
【0038】
プラスチック生分解性評価システム1は、適宜、雑菌を除去するために、UVランプを備えていてもよい。
水槽10内の飼育水Wの温度を維持するために、プラスチック生分解性評価システム1は、サーモスタットを備えていてもよい。あるいは、プラスチック生分解性評価システム1は、水槽10内の飼育水Wの温度を維持するために、ヒーター、クーラー等を備えていてもよい。
水槽10内の飼育水Wに酸素を供給するために、プラスチック生分解性評価システム1は、エアポンプを備えていてもよい。
飼育水WのpHを維持するために、プラスチック生分解性評価システム1は、サンゴ砂を含んでもよい。サンゴ砂は、水槽10の底砂としてもよく、アンモニア除去リアクター内の入れてもよく、サンゴ砂を含むpH維持用リアクターを設置してもよい。
【0039】
<プラスチック生分解性評価の試験方法>
プラスチック生分解性評価システム1内の飼育水に、生分解性評価の対象となるプラスチックを接触させることにより、プラスチックの生分解性評価試験を行うことができる。プラスチックは、例えば、プラスチック片PLとして、プラスチック生分解性評価システム1内に載置し、評価試験を行う。
【0040】
プラスチック片PLの大きさは、特に限定されない。分解を加速するという観点から、プラスチック片PLは、大きすぎない方が好ましい。プラスチック片PLの大きさとしては、例えば、最長径20cm以下が挙げられる。プラスチック片PLの最大径は、10cm以下が好ましく、5cm以下がより好ましく、3cm以下がさらに好ましい。プラスチック片PLは、分解の様子を肉眼で観察できることが好ましい。そのような観点から、プラスチック片PLの最短径は、3mm以上が好ましく、5mm以上がより好ましい。プラスチック片PLの膜厚は、特に限定されないが、例えば、100~2000μm程度が挙げられる。
【0041】
プラスチック片PLを載置する場所は、飼育水Wに接触可能な場所であれば特に限定されない。
図1の例では、プラスチック片PLを、アンモニア除去リアクター20の濾材21の上部に載置している。プラスチック片PLは、アンモニア除去リアクター20の濾材21の上部に載置してもよい。アンモニア除去リアクター20の濾材21の上部に載置することにより、水生動物Fに摂食される等のリスクを回避することができる。また、プラスチック片PLの変化を観察しやすい。
【0042】
プラスチック片PLは、水槽10内の飼育水Wに接触させてもよい。この場合、水生動物Fに摂食される等のリスクを回避するための措置(例えば、保護容器の使用等)を行うことが好ましい。
【0043】
プラスチック片PLを、プラスチック生分解性評価システム1内の適切な位置に載置し、試験を開始する。試験中、飼育水Wを循環ろ過しながら、水生動物Fを水槽10内で飼育する。試験中、水生動物Fには、適宜、給餌を行ってもよい。試験期間中の飼育水の温度は、水生動物Fの種類に応じて適宜設定することができる。飼育水の温度は、例えば、評価対象である環境水と、同程度の温度範囲内に維持してもよい。
試験期間中、定期的に、プラスチック片PLの変化を観察する。例えば、所定期間内(例えば、10日以内)にプラスチック片PLの分解が観察された場合、当該プラスチックは生分解されやすいと評価してもよい。また、複数種類のプラスチック片PLについて同時に試験を行い、生分解性を比較してもよい。
【0044】
本実施形態のプラスチック生分解性評価システムは、水生動物を飼育する飼育水を用いて、プラスチックの生分解性を評価する。飼育水には、プラスチック分解菌を含む微生物群集が存在する。飼育水では、環境中の環境水と比較して、微生物群集が濃縮された状態になっていると考えられる。これにより、環境水と比較して、プラスチックの生分解が加速されると考えられる。そのため、本実施形態のプラスチック生分解性評価システムを用いることにより、プラスチック生分解性を迅速に評価することが可能である。
【0045】
[プラスチックの生分解性評価方法]
本発明の第2の態様は、プラスチック生分解性評価方法である。本態様のプラスチック生分解性評価方法は、水槽中の飼育水を循環ろ過しながら、前記水槽中で水生動物を飼育する工程(A)と、前記飼育水に、プラスチックを接触させる工程(B)と、を含む。
【0046】
<工程(A)>
工程(A)では、水槽中の水を循環ろ過しながら、前記水槽中で水生動物を飼育する。水槽、水生動物、及び循環ろ過の方法は、上記第1の態様で説明したのと同様とすることができる。工程(A)は、第1の態様にかかるプラスチック生分解性評価システムを用いて実施することができる。
【0047】
<工程(B)>
工程(B)では、飼育水に、プラスチックを接触させる。第1の態様にかかるプラスチック生分解性評価システムを用いる場合、プラスチック生分解性評価システム内に、プラスチック片を載置することで、飼育水にプラスチックを接触させることができる。プラスチックへの載置方法は、上記第1の態様で説明したのと同様に実施することができる。
【0048】
飼育水は、水槽から採取して、水槽とは別の容器に入れてもよい。
図2では、水槽とは別の容器である容器60に、飼育水Wを入れている。この容器60内の飼育水Wに、プラスチック片PLを浸漬することで、飼育水Wにプラスチック片PLを接触させてもよい。この場合、プラスチック片PLは、その全体が飼育水Wに浸漬されてもよく、その一部が飼育水Wに浸漬されてもよい。
容器60は、特に限定されず、例えば、フラスコ、ビーカー、シャーレ、ウェルプレート等を用いることができる。
工程(B)を、容器60において実施する場合も、飼育水の温度は、評価対象である環境水と、同程度の温度範囲内に維持してもよい。
工程(B)を、容器60において実施する場合、飼育水W及びプラスチック片PLを含む容器60を振盪させてもよい。容器60の振盪は、例えば、シェーカー等により行うことができる。振盪速度は、特に限定されないが、例えば、10~200rpm程度が挙げられる。
【0049】
本実施形態のプラスチック生分解性評価方法では、水生動物を飼育している飼育水を用いてプラスチックの分解性を評価するため、環境水と比較して、プラスチックの生分解性を加速させることができる。そのため、プラスチックの生分解性を迅速に評価することが可能である。
【実施例0050】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
[プラスチック生分解性評価システムの作製]
図3に示すプラスチック生分解性評価システム100を作製した。プラスチック生分解性評価システム100では、水槽110の飼育水を、ポンプにより、配管140を介して、アンモニア除去リアクター120の上部に供給するように構成した。アンモニア除去リアクター120には、DHS(Down-flow Hanging Sponge)リアクターを採用し、アンモニア除去リアクター120上部に供給された飼育水が重力により流下して、水槽110に戻るようにした。アンモニア除去リアクター120の濾材121として、
図4に示す濾材121を用いた。濾材121は、スポンジS及びホルダーHにより構成されており、スポンジSには硝化細菌が存在している。濾材121及びアンモニア除去リアクター120は、特開2020-162552号公報、特開2013-188719号公報、特開2011-177619号公報、特開2012-024762号公報等を参照して準備した。
【0052】
飼育水として、脱塩素処理した水道水を用いた。飼育水を水槽110に入れ、ティラピアの成魚4匹を飼育した。水温は、約26℃に保つようにした。生分解性評価の対象となるプラスチック片PLは、アンモニア除去リアクター120内の濾材121の上部に設置した。
【0053】
飼育水の循環速度は、アンモニア除去リアクター120を飼育水が1時間あたり5~6回通過するように設定した。
【0054】
[プラスチック分解における動物プランクトンの影響]
プラスチック生分解性評価システム100から飼育水を採取し、24ウェルプレートを用いてプラスチック生分解性を評価した。
飼育水は、「動物プランクトンあり」の飼育水は、プラスチック生分解性評価システム100から採取した飼育水をそのまま用いた。「動物プランクトンなし」の飼育水は、プラスチック生分解性評価システム100から採取した飼育水を、150μmフィルターで濾過したものを用いた。
【0055】
飼育水(動物プランクトンあり)及び飼育水(動物プランクトンなし)を、24ウェルプレートのウェルにそれぞれ入れた。ウェル中の飼育水に、プラスチック片(1cm×1cm)を浸漬し、プラスチック片の変化を観察した。
【0056】
結果を
図5に示す。
図5は、飼育水に2日間浸漬したプラスチック片の写真を示す。飼育水(動物プランクトンあり)では、プラスチック片の分解が観察された。一方、飼育水(動物プランクトンなし)では、プラスチック片の分解はほとんど観察されなかった。
これらの結果から、プラスチックの生分解に、動物プランクトンが関与していることが確認された。
【0057】
[プラスチック生分解性評価システムによるプラスチック生分解性評価]
プラスチック生分解性評価システム100により、各種プラスチックの生分解性を評価した。プラスチック片PL(1cm×1cm)を、アンモニア除去リアクター120内の濾材121の上部に設置し、プラスチック片PLの変化を観察した。試験に使用した試験片は以下の通りである。
【0058】
<試験片>
ろ紙:桐山ろ紙No.5C
コピー用紙
CTA(1):三酢酸セルロース(熱プレス無、膜厚ca.315μm)
CTA(2):三酢酸セルロース(熱プレス無、膜厚ca.1230μm)
CTA(3):三酢酸セルロース(熱プレス有、膜厚ca.551μm)
PCL(1):ポリカプロラクトン(熱プレス無、膜厚ca.323μm)
PCL(2):ポリカプロラクトン(熱プレス無、膜厚ca.317μm)
PS(1):ポリスチレン(熱プレス無、膜厚ca.481μm)
CTA/PCL:三酢酸セルロース/ポリカプロラクトンのブレンドフィルム(ブレンド重量比:CTA/PCL=3/1)(熱プレス無、膜厚ca.972μm)
PS(2):ポリスチレン(熱プレス有、膜厚ca.258μm)
PLLA:ポリ-L-ラクチド(熱プレス無、膜厚ca.273μm)
【0059】
試験片の経時的な写真を
図6~8に示す。ろ紙、コピー用紙は、迅速に生分解された。プラスチック片の中では、PCL(1)及びPCL(2)の生分解性が高かった。CTA(1)~(3)、PS(1)、PS(2)及びPLLAは、試験期間中、ほとんど分解が観察されなかった。CTA/PCLは、CTAとPCLの中間の生分解性を示した。
【0060】
図9に、CTA(1)及びPLLAの試験片端部の拡大写真を示す。CTA(1)では、Day12の試験片において、試験片端部の分解は確認されなかった。PLLAでは、Day9の試験片において、試験片端部の分解が観察された。
【0061】
図6~9の結果に基づき、表1に、各試験片の生分解性をまとめた。
【0062】
【0063】
PCLは、公知情報及び分子構造から、生分解性を有すると予測されている。CTA、PS及びPLLAは、公知情報及び分子構造から、生分解性が無い又は生分解性が低いと予測されている。表1に示す結果は、これらの公知情報及び分子構造から予測される結果と一致した。このことから、プラスチック生分解性評価システム100により得られる結果は、環境水中での生分解性を反映することが確認された。
1,100…プラスチック生分解性評価システム、10,110…水槽、20,120…アンモニア除去リアクター、21,121…濾材、22…カラム、22m…排液部、40,140…配管、50…UVランプ、60…容器、PL…プラスチック片、W…飼育水、F…水生動物。