(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110276
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】三相回路判別装置及び三相回路判別方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/50 20200101AFI20240807BHJP
【FI】
G01R31/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014786
(22)【出願日】2023-02-02
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(71)【出願人】
【識別番号】591080678
【氏名又は名称】株式会社中電工
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】大地 秀二
(72)【発明者】
【氏名】加村 敦
【テーマコード(参考)】
2G014
【Fターム(参考)】
2G014AA08
2G014AB10
2G014AC02
2G014AC07
2G014AC19
(57)【要約】
【課題】複数の配線が密集している状況であっても、特定の三相回路の判別が正確に行えるようにする。
【解決手段】三相回路判別装置1は、複数の三相回路の配線の分電盤側に接続され、複数の負荷装置の作動時に各配線に流れる電流値を個別に検出可能な検出部21aと、複数の三相回路のうち、任意の一の三相回路の配線に接続され、接続された配線に電流を注入する電流注入部31aと、検出部21aで検出された複数の電流値のうち、電流注入部31aによる電流の注入に同期して変動した電流値に基づいて一の三相回路を判別する判別部21bと、判別部21bで判別された一の三相回路がどの三相回路であるかを報知する報知部32とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電設備側から供給された電力が分電盤を介して複数の負荷装置に分配されるように構成された複数の三相回路を含む配電系統の中で特定の三相回路を判別するための三相回路判別装置であって、
複数の前記三相回路の配線の前記分電盤側に接続され、複数の前記負荷装置の作動時に各配線に流れる電流値を個別に検出可能な検出部と、
複数の前記三相回路のうち、任意の一の前記三相回路の配線に接続され、接続された配線に電流を注入する電流注入部と、
前記検出部で検出された複数の電流値のうち、前記電流注入部による電流の注入に同期して変動した電流値に基づいて前記一の三相回路を判別する判別部と、
前記判別部で判別された前記一の三相回路がどの三相回路であるかを報知する報知部とを備えていることを特徴とする三相回路判別装置。
【請求項2】
請求項1に記載の三相回路判別装置において、
前記検出部及び前記判別部を有する親機と、
前記親機とは別体に構成されるとともに、前記電流注入部を有する子機とを備えていることを特徴とする三相回路判別装置。
【請求項3】
請求項2に記載の三相回路判別装置において、
前記子機は、前記報知部を有し、
前記親機と前記子機とは、通信可能に構成されており、
前記親機の前記判別部による判別結果は、前記子機に送信され、
前記報知部は、前記親機から送信された前記判別結果に基づいて、前記一の三相回路がどの三相回路であるかを報知するように構成されていることを特徴とする三相回路判別装置。
【請求項4】
請求項3に記載の三相回路判別装置において、
前記親機と前記子機とは前記配線を介して通信可能に接続されていることを特徴とする三相回路判別装置。
【請求項5】
請求項2に記載の三相回路判別装置において、
前記子機は、蓄電部を有し、
前記電流注入部は、前記蓄電部に蓄電されている電力を用いて前記一の前記三相回路の配線に電流を注入することを特徴とする三相回路判別装置。
【請求項6】
請求項5に記載の三相回路判別装置において、
前記蓄電部は、前記電流注入部が接続された前記配線から充電されることを特徴とする三相回路判別装置。
【請求項7】
請求項1に記載の三相回路判別装置において、
前記電流注入部は、配線に注入する電流の位相を前記発電設備側から供給される電流の位相と合わせる同期処理を実行することを特徴とする三相回路判別装置。
【請求項8】
請求項1に記載の三相回路判別装置において、
前記電流注入部は、接続された配線に無効電流を注入することを特徴とする三相回路判別装置。
【請求項9】
請求項1に記載の三相回路判別装置において、
前記電流注入部は、接続された配線に有効電流を注入することを特徴とする三相回路判別装置。
【請求項10】
発電設備側から供給された電力が分電盤を介して複数の負荷装置に分配されるように構成された複数の三相回路を含む配電系統の中で特定の三相回路を判別するための三相回路判別方法であって、
複数の前記負荷装置の作動時に、複数の前記三相回路の各配線の前記分電盤側を流れる電流値を個別に検出する検出ステップと、
複数の前記三相回路のうち、任意の一の前記三相回路の配線に電流を注入する電流注入ステップと、
前記検出ステップで検出された複数の電流値のうち、前記電流注入ステップによる電流の注入に同期して変動した電流値に基づいて前記一の三相回路を判別する判別ステップと、
前記判別ステップで判別された前記一の三相回路がどの三相回路であるかを報知する報知ステップとを備えていることを特徴とする三相回路判別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数の三相回路の中から特定の三相回路を判別することが可能な三相回路判別装置及び三相回路判別方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、発電所等を含む発電設備側から供給された電力は、建物内の分電盤を介して系統側、即ち負荷装置に分配される。例えば階数が複数ある建物の場合、各階に負荷装置が設置されていることがあり、また各階において複数の負荷装置が設置されていることがある。このような場合、複数の負荷装置が共通の分電盤に対して個別の分岐ブレーカ及び配線を介して接続されることになる。このような配電系統を前提とした時、例えば古い建物などで電気工事等を行う際に、分電盤内の分岐ブレーカがどの負荷装置に接続されているのかを判別する必要があるが、一般的に分電盤と負荷装置とは離れて配置されているので、作業者が目視によって配線をたどることは困難である。
【0003】
そこで、例えば特許文献1に開示されているように、探査信号を配線に注入する送信器と、探査信号を検知する受信器とからなる配線路探査器が知られている。送信器は商用周波数とは区別できる探査信号を非接触で配線に注入するように構成されている。一方、受信器は、探査信号を非接触にて検出し、探査信号を検出したときに検出した探査信号に対応した表示を行うように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の配線路探査器を用いることで、特定の三相回路を判別する際に作業者が目視によって配線をたどるといった作業は不要になる。しかしながら、複数の配線が密集していると、誘導によって探索対象の配線とは別の配線に探索信号が流れ、その別の配線を探索対象の配線として検知してしまい、その結果、探索対象の配線の断定が困難になる場合が考えられる。
【0006】
このような場合、作業者の経験により探索対象の配線を断定することになるが、作業者の経験に任せていると誤判断の可能性がある。
【0007】
本開示は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複数の配線が密集していて従来の探索信号による方法では誘導が起こり易い状況であっても、特定の三相回路の判別が正確に行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本開示の一態様では、発電設備側から供給された電力が分電盤を介して複数の負荷装置に分配されるように構成された複数の三相回路を含む配電系統の中で特定の三相回路を判別するための三相回路判別装置を前提とすることができる。三相回路判別装置は、複数の前記三相回路の配線の前記分電盤側に接続され、複数の前記負荷装置の作動時に各配線に流れる電流値を個別に検出可能な検出部と、複数の前記三相回路のうち、任意の一の前記三相回路の配線に接続され、接続された配線に電流を注入する電流注入部と、前記検出部で検出された複数の電流値のうち、前記電流注入部による電流の注入に同期して変動した電流値に基づいて前記一の三相回路を判別する判別部と、前記判別部で判別された前記一の三相回路がどの三相回路であるかを報知する報知部とを備えている。
【0009】
この構成によれば、例えば建物に設けられている複数の負荷装置に電力が供給されている状態で、電流注入部によって任意の一の三相回路の配線に電流が注入されると、電流が注入された配線を流れる電流値は、電流の注入に同期して変動する。検出部は、各三相回路の配線を流れる電流値を個別に検出しているので、電流の注入に同期して変動した電流値も検出される。判別部は、電流の注入に同期して変動した電流値に基づいて、当該電流が注入された三相回路を判別することができる。判別部によって判別された三相回路は、報知部によってどの三相回路であるかが作業者等に報知される。すなわち、電流の注入に同期して変動した電流値に基づいて三相回路を判別することで、従来の探索信号を配線に流す場合のような誘導による誤判別は起こらず、正確な判別が行える。
【0010】
また、三相回路判別装置は、前記検出部及び前記判別部を有する親機と、親機とは別体に構成されるとともに、前記電流注入部を有する子機とを備えていてもよい。親機と離して設置可能な子機を備えていることで、負荷装置が複数配置されている場合に、各負荷装置に対応するように子機を配置して各配線に電流を注入することができる。一方、親機は、分電盤の近傍に配置しておくことができる。
【0011】
また、前記子機は、前記報知部を有していてもよい。この場合、前記親機と前記子機とは、通信可能に構成されていて、前記親機の前記判別部による判別結果は、前記子機に送信され、前記報知部は、前記親機から送信された前記判別結果に基づいて、前記一の三相回路がどの三相回路であるかを報知するように構成することができる。これにより、子機側で三相回路の特定が可能になる。この場合、前記親機と前記子機とは前記配線を介して通信可能に接続されていてもよい。これにより、別途通信線を敷設することなく、既存の配線を利用して親機と子機との通信が可能になる。
【0012】
また、前記子機は、蓄電部を有していてもよい。前記電流注入部は、前記蓄電部から前記一の前記三相回路の配線に電流を注入するように構成されている。これにより、電流注入部から注入する電流を三相回路判別装置内で確保することができる。
【0013】
また、前記蓄電部は、前記電流注入部が接続された前記配線から充電されるように構成されていてもよい。これにより、蓄電部の充電が発電設備側から供給された電力によって簡単に行えるようになる。
【0014】
また、電流注入部は、配線に有効電流を注入してもよい。この場合、電流の注入によって電流値が大きく変動するので、回路判別の正確性がより一層高まる。また、電流注入部は、配線に無効電流を注入してもよい。この場合、バッテリや昇圧チョッパ回路が不要になるので機器を小型化できる。
【0015】
また、本開示の他の態様によれば、発電設備側から供給された電力が分電盤を介して複数の負荷装置に分配されるように構成された複数の三相回路を含む配電系統の中で特定の三相回路を判別するための三相回路判別方法を前提とすることもできる。三相回路判別方法は、複数の前記負荷装置の作動時に、複数の前記三相回路の各配線の前記分電盤側を流れる電流値を個別に検出する検出ステップと、複数の前記三相回路のうち、任意の一の前記三相回路の配線に電流を注入する電流注入ステップと、前記検出ステップで検出された複数の電流値のうち、前記電流注入ステップによる電流の注入に同期して変動した電流値に基づいて前記一の三相回路を判別する判別ステップと、前記判別ステップで判別された前記一の三相回路がどの三相回路であるかを報知する報知ステップとを備えている。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、電流注入部による電流の注入に同期して変動した電流値に基づいて特定の三相回路を判別可能に構成されているので、配線が密集していて誘導が起こり易い状況であっても、三相回路の判別が正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る三相回路判別装置のブロック図である。
【
図2】三相回路判別装置が接続される前の配電系統を示す図である。
【
図3】三相回路判別装置が接続された配電系統を示す図である。
【
図4】三相回路判別装置によって電流を注入する前の配電系統の一部及び電圧・電流をベクトル表記で示す図である。
【
図5】三相回路判別装置によって電流を注入した後の配電系統の一部及び電圧・電流をベクトル表記で示す図である。
【
図6】蓄電部としてコンデンサを使用し、無効電流を注入する場合の三相回路判別方法の手順を示すフローチャートである。
【
図7】無効電流注入の場合の電流変位の検知プロセスを説明するベクトル図である。
【
図8】蓄電部として二次電池を使用し、有効電流を注入する場合の三相回路判別方法の手順を示すフローチャートである。
【
図9】有効電流注入の場合の電流変位の検知プロセスを説明するベクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る三相回路判別装置1のブロック図である。
図2は、三相回路判別装置1が接続される前の配電系統100を示す図である。配電系統100は、U相、V相、W相の三相の配電系統であり、発電設備101側から供給された電力が分電盤102を介して複数の負荷装置103A、103B、103Cに分配されるように構成された複数の三相回路110、120、130を含んでいる。この実施形態では3つの三相回路、即ち、第1の三相回路110、第2の三相回路120、及び第3の三相回路130を図示しているが、三相回路の数は3つに限られるものではなく、2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。同様に、負荷装置の数も限定されるものではない。
【0020】
発電設備101は、例えば発電所、変電所等の建物外の各種設備を含んでいる。分電盤102は、例えば建物内やその近傍に設けられており、複数の分岐ブレーカ等を含んでいる。分電盤102の第1の分岐ブレーカには、第1の三相回路110を構成している3本の配線、即ち、U相の配線111、V相の配線112、W相の配線113の分電盤102側(基端側)が接続されている。配線111、112、113の先端側は負荷装置103Aに接続されており、電力が配線111、112、113を介して負荷装置103Aに供給されるようになっている。
【0021】
また、分電盤102の第2の分岐ブレーカには、第2の三相回路120を構成している3本の配線、即ち、U相の配線121、V相の配線122、W相の配線123の分電盤102側(基端側)が接続されている。第2の三相回路120の配線121、122、123の先端側は別の負荷装置103Bに接続されている。さらに、分電盤102の第3の分岐ブレーカには、第3の三相回路130を構成している3本の配線、即ち、U相の配線131、V相の配線132、W相の配線133の分電盤102側(基端側)が接続されている。第3の三相回路130の配線131、132、133の先端側はさらに別の負荷装置103Cに接続されている。
【0022】
負荷装置103A、103B、103Cは、特に限定されるものではないが、例えば電動モータ、空調装置、コンピュータ関連機器等を挙げることができる。尚、全ての三相回路110、120、130に負荷装置103A、103B、103Cが接続されていなくてもよく、負荷装置が接続されていない三相回路が存在している場合もあり得る。
【0023】
図1に示すように、三相回路判別装置1は、親機2と、親機2とは別体に構成された子機3とを備えている。子機3は、1つであってもよいし、複数であってもよい。親機2は、配電系統100に含まれている複数の三相回路110、120、130のうち、特定の三相回路を正確に判別するための機器である。一方、子機3は、複数の三相回路110、120、130のうち、一の三相回路のみに電流を注入するとともに、親機2で特定された三相回路を作業者(ユーザともいう)に報知するための機器である。
【0024】
また、子機3は、親機2から離れた場所に設置可能に構成されている。例えば、親機2は、分電盤102や分電盤102の近傍に設置される一方、子機3は、負荷装置103A、103B、103Cが設置されているフロアや負荷装置103A、103B、103Cの近傍に設置される。分電盤102と負荷装置103A、103B、103Cとが異なるフロアに設置されている場合には、親機2と子機3も異なるフロアに設置されることになる。親機2と子機3とは、互いに通信可能に構成されている。
【0025】
図3に示すように、親機2は、第1の三相回路110の配線111、第2の三相回路120の配線121及び第3の三相回路130の配線131の分電盤102側に接続される。本例では、親機2と配線R(a)とを配線141で接続し、親機2と配線S(b)とを配線142で接続することで、親機2への電源供給を行っている。また、後述するように、配線を介して親機2と子機3との通信も可能になっている。尚、親機3は、配線R(a)、配線S(b)、配線T(c)のうち、どの配線に接続してもよい。
【0026】
親機2には、第1の三相回路110の配線111の分電盤102側に接続される親機側第1接続線2a、第2の三相回路120の配線121の分電盤102側に接続される親機側第2接続線2b及び第3の三相回路130の配線131の分電盤102側に接続される親機側第3接続線2cが設けられている。親機側第1接続線2a、親機側第2接続線2b及び親機側第3接続線2cは、それぞれ、第1の三相回路110を流れる電流値、第2の三相回路120を流れる電流値、及び第3の三相回路130を流れる電流値を検出するための配線であり、分電盤102内の各配線111、121、131に接続されている。親機2と子機3とは、配線141、142を介して通信可能な電力線通信が可能になっている。電力線通信については、従来から周知であるため、詳細な説明は省略する。
【0027】
子機3は、第1の三相回路110、第2の三相回路120、第3の三相回路130のいずれに接続してもよいが、これら三相回路110、120、130のうち、作業者が特定しようとしている三相回路に接続する。この図では、子機3が第1の三相回路110の3本の配線111、112、113に接続された場合を示している。子機3には、第1の三相回路110の3本の配線111、112、113にそれぞれ接続される子機側第1接続線3a、子機側第2接続線3b及び子機側第3接続線3cが設けられている。子機側第1接続線3a、子機側第2接続線3b及び子機側第3接続線3cのうち、親機2が接続された任意の2本は、親機2との通信線としても利用される。
【0028】
ここで、
図4及び
図5に基づいて、子機3が接続されていない状態のフェーザ図及び子機3が接続されている状態のフェーザ図について説明する。フェーザ図は、電力における電圧・電流をベクトル表記で示す図であり、このフェーザ図では、受電端電圧Vを基準としている。つまり、負荷装置103A側から見た場合のフェーザ図である。電力を消費する負荷は基本遅れ力率になる。
【0029】
図4では、発電設備101から供給される電流値がI
Sとされ、負荷装置103Aで消費される電流値がI
Lとされている。負荷装置103Aでは、cosθ=0.8の遅れが生じている。皮相電流が1Aの時には、I
S=I
L=0.8-j0.6となる。jは遅れ力率である。
【0030】
一方、
図5では、子機3が発電設備101と負荷装置103Aとの間の配線に接続されており、子機3から配線に電流I
Cが注入された場合を示している。I
C=-j0.1であり、この場合、I
S’=0.8-j0.5となり、皮相電流I
S’の具体的な値は0.943Aとなる。つまり、子機3から配線に電流I
Cが注入されると、点CT1で検出した電流値は、0.057A減少することになり、この点CT1における電流値の変動は、電流の注入に同期して起こる。本実施形態では、点CT1における電流値の変動を検出することで、電流が注入された三相回路がどの三相回路であるかを判別するようにしている。
【0031】
以下、上述した判別方法の実現が可能に構成された親機2及び子機3の具体的な構造について詳細に説明する。
図1に示すように、親機2は、親機側通信部20と、親機側制御部21とを有している。一方、子機3は、子機側通信部30と、子機側制御部31と、報知部32と、無線通信部33とを有している。親機側通信部20と子機側通信部30とは、上述した電力線通信が可能に構成されているので、親機側通信部20と子機側通信部30との間で各種データを送受信することができる。
【0032】
親機側制御部21は、例えばマイクロコンピュータ等を含んで構成されており、検出部21a及び判別部21bを有している。検出部21a及び判別部21bは、ハードウェアのみで構成されていてもよいし、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせで構成されていてもよい。検出部21aは、複数箇所の電流値を個別に検出する部分であり、親機側第1接続線2a、親機側第2接続線2b及び親機側第3接続線2cを介して第1の三相回路110の配線111の分電盤102側、第2の三相回路120の配線121の分電盤102側及び第3の三相回路130の配線131の分電盤102側に接続されている。そして、検出部21aは、負荷装置103A、103B、103Cの作動時に各配線111、121、131に流れる電流値を個別に検出可能になっている。検出部21aによる電流値の検出サイクルは極めて短時間(例えば数msec等)に設定されており、電流値が変動した場合、その変動をすぐに検出可能になっている。また、検出部21aが電流値を検出することで、電流値が変動した場合にその変動量も検出できる。
【0033】
図1に示すように、子機側制御部31は、例えばマイクロコンピュータやインバータ回路等を含んで構成されており、これらによって構成された電流注入部31aを有している。電流注入部31aは、子機3が接続された配線(
図2に示す例では第1の三相回路110の配線111、112、113)に所定の大きさの電流を注入する部分である。子機3が第2の三相回路120に接続されている場合には、電流注入部31aが第2の三相回路120の配線121、122、123に電流を注入する。また、子機3が第3の三相回路130に接続されている場合には、電流注入部31aが第3の三相回路130の配線131、132、133に電流を注入する。このように、電流注入部31aは、複数の三相回路110、120、130のうち、任意の一の三相回路の配線に接続され、接続された配線に電流を注入可能に構成されている。詳細は後述するが、電流注入部31aは、接続された配線に無効電流または有効電流を注入する。
【0034】
図1に示す親機2の判別部21bは、検出部21aでほぼ同時に検出された複数の電流値のうち、電流注入部31aによる電流の注入に同期して変動した電流値に基づいて、子機3が接続されている三相回路(
図2に示す例では第1の三相回路110)を判別する部分である。すなわち、親機2と子機3とは、電力線通信によって同期して動作するように構成されており、子機3の電流注入部31aが電力を注入したタイミングを親機2の判別部21bで特定可能になっている。判別部21bには検出部21aが検出した電流値が逐次入力されている。この例では、第1の三相回路110の電流値、第2の三相回路120の電流値、第3の三相回路130の電流値がそれぞれ判別部21bに入力される。判別部21bは、入力された電流値を、その直前に入力された電流値と比較する。これにより、判別部21bは、子機3の電流注入部31aが電力を注入したタイミングもしくはその直後において検出部21aが検出した電流値の変動の有無を判定する。子機3が接続されていない三相回路(
図2に示す例では第2の三相回路120、第3の三相回路130)では電流値の経時的な変動は起こらないが、子機3が接続されている第1の三相回路110では電流値が経時的に変動する。判別部21bは、電流値の変動の有無を判定した結果、電流値が変動した第1の三相回路110を特定の三相回路として判別する。このようにして、判別部21bは、子機3が接続された三相回路がどの三相回路であるかを判別することができる。
【0035】
判別部21bが判別した三相回路を特定する情報(回路特定情報)は、判別結果として、親機側通信部20と、配線141、142と、第1の三相回路110の配線111と、子機側第1接続線3a、子機側第2接続線3b及び子機側第3接続線3cのいずれか2本と、子機側通信部30とを介して子機側制御部31に送信される。三相回路を特定する情報としては、事前に親機2に登録ないし設定しておくことができ、親機側第1接続線2aが接続された三相回路が第1の三相回路110であり、親機側第2接続線2bが接続された三相回路が第2の三相回路120であり、親機側第3接続線2cが接続された回路が第3の三相回路130であるという情報を登録ないし設定しておくことができる。この場合、当該情報を親機2の記憶部(図示せず)に記憶させておくことができる。
【0036】
子機側制御部31に送信された回路特定情報に基づいて、報知部32は、判別部21bで判別された三相回路がどの三相回路であるかを報知する。報知部32の例としては、例えば表示灯、表示画面等を挙げることができる。報知部32が表示灯で構成されている場合、第1の三相回路110、第2の三相回路120及び第3の三相回路130をそれぞれ示す複数の表示灯を設けておき、判別部21bで判別された三相回路が第1の三相回路110のときには、第1の三相回路110に対応する表示等を点灯ないし点滅させればよい。また、報知部32が表示画面で構成されている場合、判別部21bで判別された三相回路が第1の三相回路110のときには、第1の三相回路110が特定の三相回路であることを示す表示を表示画面に表示させればよい。報知部32の形態は上述した形態に限られるものではなく、音声等によって報知するものであってもよい。
【0037】
子機3の無線通信部33は、例えば近距離無線通信モジュール等で構成されている。その具体例としては、例えばBluetooth等の無線通信技術に対応した通信モジュールを挙げることができる。これにより、
図1に示すように、例えばスマートフォンやタブレット端末、ノート型パーソナルコンピュータ等の携帯端末150との間で通信可能になる。携帯端末150は作業者が所持している機器である。子機側制御部31に送信された回路特定情報は、無線通信部33を介して携帯端末150に送信される。携帯端末150が有する表示画面には、回路特定情報が上記報知部32による表示形態と同様に表示される。
【0038】
子機3は蓄電部34を有している。蓄電部34は、例えばコンデンサや二次電池等で構成されている。無効電流を注入する場合にはコンデンサを用い、有効電流を注入する場合には二次電池を用いることができる。尚、無効電流を注入する場合に二次電池を用いてもよいし、有効電流を注入する場合にコンデンサを用いてもよい。
【0039】
有効電流を注入する場合に用いることが可能な二次電池は、特に限定されるものではないが、例えばリチウムイオン電池等を挙げることができる。蓄電部34は、電流注入部31aが接続された配線、即ち、第1の三相回路110の配線111、112、113から充電される。これにより、蓄電部34の充電が発電設備101側から供給された電力によって簡単に行えるようになる。また、電流注入部31aは、電流を注入する際、蓄電部34に蓄電されている電力を用いて注入する。これにより、電流注入部31aから注入する電流を三相回路判別装置1内で確保することができる。尚、蓄電部34は、別の商用電源から充電されるものであってもよい。
【0040】
電流注入部31aは、接続された配線に注入する電流の位相を発電設備101側から供給される電流の位相と合わせる同期処理を実行する。同期のための情報(電圧値等)は、子機3が接続された配線から取得する。同期は位相差制御によって行うことができ、外部信号を同期させるように設計されたフィードバック回路、例えば位相同期回路(PLL:phase locked loop)を使用することにより、配線に注入する電流の位相を発電設備101側から供給される電流の位相と合わせることができる。位相同期回路を使用することにより、高調波を含む商用電源から供給される電流であっても、位相を合わせることが可能になる。
【0041】
以下、上記のように構成された三相回路判別装置1を用いた三相回路判別方法について説明する。まず、
図6に示すフローチャートに基づいて、蓄電部34としてコンデンサを使用し、無効電流を注入する場合の三相回路判別方法の手順について説明する。この三相回路判別方法は、発電設備101側から供給された電力が分電盤102を介して複数の負荷装置103A,103B、103Cに分配されるように構成された複数の三相回路110、120、130を含む配電系統100の中で特定の三相回路を判別するための方法である。
【0042】
図6のフローチャートでは、左端の欄に親機2による処理を記載し、中央の欄に
図3に示すCT1、CT2、CT3における処理を記載し、右端の欄に子機3による処理を記載している。
【0043】
ステップSA1では、親機2をセットする。具体的には、回路特定情報を親機2に登録ないし設定しておく。ステップSA2では、CTセットを行う。
図3に示すように、親機2の親機側第1接続線2a、親機側第2接続線2b及び親機側第3接続線2cを、それぞれ、第1の三相回路110の配線111、第2の三相回路120の配線121及び第3の三相回路130の配線131の分電盤102側に接続する。親機側第1接続線2a、親機側第2接続線2b及び親機側第3接続線2cがそれぞれ接続される箇所をCT1、CT2、CT3と呼ぶ。
【0044】
ステップSA3では、子機3の蓄電部(コンデンサ)34を充電する。充電は、機器をセットしてから行うことができ、機器をセットした後にすぐに行ってもよいし、後述するステップSA15が終了した後の空き時間を利用して行ってもよい。このステップSA3では、子機3を商用電源に接続して蓄電部34を充電する場合について説明する。蓄電部34へ供給される電力の大きさは、子機側制御部31によって制御される。例えば、蓄電部34の充電量が満充電に近くなるまでは電力を比較的大きくし、それ以降は電力を比較的小さくする。また、三相回路判別装置1を使用していないときに蓄電部34を充電し、三相回路判別装置1を使用しているときには微小な電力を蓄電部34に供給するようにしてもよい。
【0045】
ステップSA4では、子機3をセットする。具体的には、子機3の子機側第1接続線3a、子機側第2接続線3b及び子機側第3接続線3cを、それぞれ、第1の三相回路110の配線111、112、113に接続する。
【0046】
ステップSA5では、負荷装置103A、103B、103Cの作動時に、親機2の検出部21aが第1の三相回路110、第2の三相回路120及び第3の三相回路130の電流値をそれぞれ検出する。ステップSA5は、上述したように極めて短いサイクルで繰り返される。このステップSA5は、複数の負荷装置103A、103B、103Cの作動時に、複数の三相回路110、120、130の各配線111~113、121~123、131~133の分電盤102側を流れる電流値を個別に検出する検出ステップである。ステップSA5で検出された電流値は、ステップSA6において判別部21bに送信され、第1の三相回路110の電流値、第2の三相回路120の電流値、第3の三相回路130の電流値として区別された状態で一旦記憶される。
【0047】
ステップSA7及びステップSA8では、親機2と子機3を同期させる。具体的には、親機2の親機側通信部20と、子機3の子機側通信部30とを用いて同期信号を送信または受信する。これにより、親機2の動作タイミングと子機3の動作タイミングとを合わせることが可能になるとともに、子機3から見たとき、親機2がどのタイミングで処理を実行したか、または親機2から見たとき、子機3がどのタイミングで処理を実行したかを把握可能になる。
【0048】
ステップSA9では、電流注入部31aが、配線111、112、113に注入する電流の位相を発電設備101側から供給される電流の位相と合わせる同期処理を実行する。この時点では、配線111、112、113に電流を注入せず、注入する電流の位相を発電設備101側から供給される電流の位相と合わせるだけである。
【0049】
ステップSA10では、電流注入部31aが、配線111、112、113に無効電流を注入する。ステップSA10は、複数の三相回路110、120、130のうち、任意の一の三相回路の配線に電流を注入する電流注入ステップである。
【0050】
図7は、無効電流注入の場合の電流変位の検知プロセスを説明するベクトル図である。Vsaは、基準位相である。V
Tabは、子機3を配線111、112、113に接続することによって得られる情報によって特定される線間電圧(V)である。Isaは、CT側電流(A)である。I
Laは負荷電流(線電流)(A)である。δは、線間電圧と相電圧(基準位相)の位相差角であり、平衡回路の場合は30°である。θは、基準位相との位相差角であり、cos-1(=0.8~0.95)である。算出した基準位相に対して90°ずらした電流が、注入される無効電流となる。無効電流を注入する場合、有効電流を注入する場合と比較して二次電池が不要になるとともに、昇圧チョッパ回路が不要になる点で相違しており、機器の小型化が可能になる。
【0051】
無効電流の注入時間は、後述するステップSA11で電流値の変動が検出できればよく、例えば1秒間以上とすることができ、最長で例えば30秒間程度とする。このとき、皮相電流を基準として、負荷電流の方が注入電流よりも小さくてもよい。上位系統で吸収されるからである。配線111、112、113に無効電流が注入されると、その注入に同期して、配線111で検出される電流値が変動する。
【0052】
ステップSA11では、親機2の検出部21aが
図3に示すCT1、CT2、CT3における電流値の検出を行う。このステップSA11は、ステップSA5が繰り返されることによって生成されたステップであるが、ステップSA10の後のステップであることから、配線111で検出される電流値が変動後の電流値となる。
【0053】
ステップSA12では、判別部21bが、第1の三相回路110の電流値を、その直前に入力された電流値と比較し、また、第2の三相回路120の電流値を、その直前に入力された電流値と比較し、また、第3の三相回路130の電流値を、その直前に入力された電流値と比較する処理を繰り返し実行する。無効電流が注入されていることで第1の三相回路110の電流値が変動しているので、判別部21bは、ステップSA13で電流値が変動した三相回路が第1の三相回路110であると判別する。ステップSA13は、検出ステップで検出された複数の電流値のうち、電流注入ステップによる電流の注入に同期して変動した電流値に基づいて一の三相回路を判別する判別ステップである。
【0054】
ステップSA14では、判別部21bが判別した回路特定情報を子機側制御部31に送信する。ステップSA15では、報知部32が回路特定情報を表示する。ステップSA14は、判別ステップで判別された一の三相回路がどの三相回路であるかを報知する報知ステップである。
【0055】
次に、
図8に示すフローチャートに基づいて、蓄電部34として二次電池を使用し、有効電流を注入する場合の三相回路判別方法の手順について説明する。ステップSB1、SB2は、それぞれ
図6に示すフローチャートのステップSA1、SA2と同じである。ステップSB3では、子機3の蓄電部(二次電池)34を充電する。蓄電部34は、事前に充電しておく。蓄電部34の充電後、ステップSB4では、モード切替を行う。具体的には、蓄電部34の充電モードから回路判別を実行する判別実行モードへ切り替える。これにより、蓄電部34の充電が終了する。
【0056】
ステップSB5~SB10は、
図6に示すフローチャートのステップSA4~SA9と同じである。ステップSB11では、電流注入部31aが、配線111、112、113に有効電流を注入する。ステップSB12~SB16は、
図6に示すフローチャートのステップSA11~SA15と同じである。
【0057】
図9は、有効電流注入の場合の電流変位の検知プロセスを説明するベクトル図である。Vsaは、基準位相である。V
Tab、I
sa、I
La、δ、θは、
図7に示すものと同じである。有効電流は、基準位相と同相の電流であり、この同相の電流を注入する。負荷電流は、有効電流成分が無効電流成分よりも大きいため、有効電流注入の方が、無効電流注入と比較して電流の変動が大きくなり、回路の判別がより一層正確に行えるようになる。
【0058】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、本実施形態によれば、建物に設けられている複数の負荷装置103A、103B、103Cに電力が供給されている状態で、電流注入部31aによって第1の三相回路103Aの配線111、112、113に電流が注入されると、電流が注入された配線111、112、113を流れる電流値は、電流の注入に同期して変動する。検出部21aは、各三相回路103A、103B、103Cの配線を流れる電流値を個別に検出しているので、電流の注入に同期して変動した電流値も検出される。判別部21bは、電流の注入に同期して変動した電流値に基づいて、当該電流が注入された三相回路103Aを判別することができる。判別部21bによって判別された三相回路103Aは、報知部32によって第1の三相回路103Aであることが作業者等に報知される。すなわち、電流の注入に同期して変動した電流値に基づいて特定の三相回路を判別することができるので、従来の探索信号を配線に流す場合のような誘導による誤判別は起こらず、正確な判別が行える。
【0059】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上説明したように、本開示に係る三相回路判別装置及び三相回路判別方法は、例えば複数の三相回路の中から特定の三相回路を判別する場合に利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 三相回路判別装置
21a 検出部
21b 判別部
31a 電流注入部
32 報知部
100 配電系統
101 発電設備
102 分電盤
110、120、130 三相回路
111、112、113 配線