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特開2024-110282折れ込み検出方法、熱延鋼板の製造方法、折れ込み検出装置、及び熱延鋼板の製造設備
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110282
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】折れ込み検出方法、熱延鋼板の製造方法、折れ込み検出装置、及び熱延鋼板の製造設備
(51)【国際特許分類】
   B21C 47/00 20060101AFI20240807BHJP
   B21B 38/00 20060101ALI20240807BHJP
   B21C 51/00 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
B21C47/00 H
B21B38/00 G
B21B38/00 F
B21C51/00 P
B21C51/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014797
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 純平
【テーマコード(参考)】
4E026
【Fターム(参考)】
4E026GA08
(57)【要約】
【課題】外乱による誤検出を抑えつつ、安定して尾端部側での折れ込みの検出可能とする。
【解決手段】仕上圧延機で圧延された金属帯を、上下一対のピンチロールを介してマンドレルに巻き取る巻取設備における、上記マンドレルに巻き取られた上記金属帯1の尾端部側での折れ込みを検出する折れ込み検出方法であって、金属帯1を挟持する上記上下一対のピンチロールでの荷重実績を、予め設定したサンプリング周期で取得し、上記サンプリング周期の3倍以上の時間間隔のサンプリング区間内における、上記取得した荷重実績の最大値と最小値を検出し、その最大値と最小値の差分から、折れ込み発生の有無を判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
仕上圧延機で圧延された金属帯を、上下一対のピンチロールを介してマンドレルに巻き取る巻取設備における、上記マンドレルに巻き取られた上記金属帯の尾端部側での折れ込みを検出する折れ込み検出方法であって、
金属帯を挟持する上記上下一対のピンチロールでの荷重実績を、予め設定したサンプリング周期で取得し、
上記サンプリング周期の3倍以上の時間間隔のサンプリング区間内における、上記取得した荷重実績の最大値と最小値を検出し、その最大値と最小値の差分から、折れ込み発生の有無を判定する、
ことを特徴とする折れ込み検出方法。
【請求項2】
上記判定を、上記サンプリング区間を、当該サンプリング区間の間隔よりも短い時間間隔のピッチでずらしながら、繰り返し実行する、
ことを特徴とする請求項1に記載した折れ込み検出方法。
【請求項3】
上記ピッチは、上記サンプリング周期と等しい時間間隔である、
ことを特徴とする請求項2に記載した折れ込み検出方法。
【請求項4】
上記サンプリング周期は、50[ms]以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載した折れ込み検出方法。
【請求項5】
上記サンプリング区間は、300[ms]以下の区間である、
ことを特徴とする請求項1に記載した折れ込み検出方法。
【請求項6】
上記上下一対のピンチロールの一方のピンチロールが、フレームに支持され、そのフレームは、支点を中心に回動可能に構成され、上記フレームの回動を油圧シリンダ装置で駆動することで、上記金属帯の挟持が行われる、
ことを特徴とする請求項1に記載した折れ込み検出方法。
【請求項7】
仕上圧延機で圧延された金属帯を、ピンチロールを介してマンドレルに巻き取る設備を備えた熱延鋼板の製造方法であって、
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の折れ込み検出方法で、折れ込みを検出する、
ことを特徴とする熱延鋼板の製造方法。
【請求項8】
仕上圧延機で圧延された金属帯を、上下一対のピンチロールを介してマンドレルに巻き取る巻取設備における、上記マンドレルに巻き取られた上記金属帯の尾端部側での折れ込みを検出する折れ込み検出方装置であって、
上記金属帯を挟持する上記上下一対のピンチロールでの荷重実績を、予め設定したサンプリング周期で取得する荷重実績取得部と、
上記サンプリング周期の3倍以上の時間間隔のサンプリング区間内における、上記取得した荷重実績の最大値と最小値を検出し、その最大値と最小値の差分から、折れ込み発生の有無を判定する判定部と、
を備えることを特徴とする折れ込み検出装置。
【請求項9】
上記判定部、上記サンプリング区間を、当該サンプリング区間よりも短い時間間隔のピッチでずらしながら、判定の処理を繰り返し実行する、
ことを特徴とする請求項8に記載した折れ込み検出装置。
【請求項10】
上記ピッチは、上記サンプリング周期と等しい時間間隔である、
ことを特徴とする請求項9に記載した折れ込み検出装置。
【請求項11】
上記サンプリング周期は、50[ms]以下である、
ことを特徴とする請求項8に記載した折れ込み検出装置。
【請求項12】
上記サンプリング区間は、300[ms]以下の区間である、
ことを特徴とする請求項8に記載した折れ込み検出装置。
【請求項13】
上記上下一対のピンチロールを有するピンチロール装置は、一方のピンチロールがフレームに支持され、そのフレームは、支点を中心に回動可能に構成され、上記フレームの回動を行う油圧シリンダ装置を有し、その油圧シリンダ装置の駆動で、上記金属帯の挟持が実行される構成となっている、
ことを特徴とする請求項8に記載した折れ込み検出装置。
【請求項14】
仕上圧延機で圧延された金属帯を、ピンチロールを介してマンドレルに巻き取る設備を備えた熱延鋼板の製造設備であって、
請求項8~請求項13のいずれか1項に記載の折れ込み検出装置を備える、
熱延鋼板の製造設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延された金属帯をピンチロールで挟持しながらマンドレルに巻き取ってコイルとする巻取設備、及びその設備を備えた熱延鋼板の製造設備に関するものである。本発明は、コイルとなった金属帯尾端部側での折れ込み発生の有無を検出する技術に関する。特に本発明は、ホットストリップミルでの熱延鋼板の製造に好適な技術である。
【背景技術】
【0002】
金属帯の異常検出方法としては、特許文献1~4に記載の技術がある。
特許文献1では、薄板ラインに配置された一対のロールを薄板が通板する際の荷重などを検出する。そして、その検出値やその積分値が閾値を越えたか否かで、薄板の折れ込み部の有無を検出する。なお、特許文献1は、薄板における先端部での折れ込みを検出することを対象とする(段落0002,段落0009参照)。
【0003】
また、特許文献2では、マンドレルにまきとったコイル端面を撮像し、撮像した画像を画像処理する。そして、渦巻き図形を取得し、その取得した渦巻き図形からコイルの2枚折れを検出する。
【0004】
また、特許文献3では、鋼板をマンドレル(コイラー)に案内するピンチロールでの荷重及び油圧シリンダの油柱を測定する。そして、油圧シリンダの油柱変動がなく且つ荷重変動のみを検出した場合に耳欠きの発生を検出する。また、油圧シリンダの油柱変動と荷重変動(荷重増加)を共に検出した場合に、折れ込みの発生を検出する。
ここで、特許文献3は、鋼板の先端部及び定常部での折れ込みを対象とする(段落0019参照)。
【0005】
特許文献4では、金属帯を挟持するピンチロールでの荷重実績を取得(採取)するサンプリング周期を、30[ms]以下と短く設定することが開示されている。そして、特許文献4では、採取した荷重実績の変動差が設定した閾値を超えている場合に、尾端部側での折れ込み発生と判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-80547号公報
【特許文献2】特開平10-213550号公報
【特許文献3】特開2005-262275号公報
【特許文献4】特開2019-51534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2は、撮像するカメラの設置を必要とすると共に、撮像した画像の画像処理を必要とする。これに対し、特許文献1,3,4に記載の方法は、カメラを必要としない。
一方、特許文献1,3では、ピンチロールで荷重変動における荷重絶対値やその積分値、油柱変動及び荷重変動(荷重絶対値)によって折れ込みの有無を検出する。ここで、ピンチロールの荷重絶対値が閾値を超えた場合に、ピンチロールでの折れ込みを検出する場合を想定する。この場合、荷重測定値のサンプリング周期によっては、折れ込み発生時のピーク値近傍を検出できずに、折れ込み異常検出のための荷重変動(荷重絶対値)を検出できないおそれがある。
【0008】
また、単純にピンチロールの荷重絶対値が閾値を越えるかどうかで判定すると、外乱によって、折れ込みが発生していないのに、折り込み有りと誤検出してしまう可能性がある。
更に、特許文献1,3の方法は、尾端部側での折れ込み部の検出を想定していない。
これに対し、特許文献4では、サンプリング周期を短くすることで対応することが記載されている。しかし、特許文献4の方法では、サンプリング周期が短すぎると、ピンチロールを支承する軸受などからの外乱によって誤検知するおそれがある。
【0009】
また、ピンチロールの構造やピンチロールの荷重実績の測定方法によっては、測定した荷重実績の荷重変動が、急峻に変動せずに緩やかな変動として検出される場合があった。発明者は、このような見地から次の知見を得た。ここで、折れ込み検出に汎用性を持たせようとしたり、荷重実績の荷重変動が、急峻に変動せずに緩やかな変動として検出されたりするような場合を想定する。この場合、発明者は、この構成の場合には、荷重実績の変動差や絶対値によっては、尾端側での折れ込み検出は困難であるとの知見を得た。
【0010】
本発明は、上記のような点に知見に基づきなされもので、外乱による誤検出を抑えつつ、安定して尾端部側での折れ込みの検出可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
課題解決のために、本発明の一態様は、仕上圧延機で圧延された金属帯を、上下一対のピンチロールを介してマンドレルに巻き取る巻取設備における、上記マンドレルに巻き取られた上記金属帯の尾端部側での折れ込みを検出する折れ込み検出方法であって、金属帯を挟持する上記上下一対のピンチロールでの荷重実績を、予め設定したサンプリング周期で取得し、上記サンプリング周期の3倍以上の時間間隔のサンプリング区間内における、上記取得した荷重実績の最大値と最小値を検出し、その最大値と最小値の差分から、折れ込み発生の有無を判定する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、外乱による誤検出を抑えつつ、荷重実績の取得(測定)の応答性の影響を抑え、尾端部側での折れ込みをより安定して検出することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に基づく実施形態に係る熱間圧延ラインを説明する模式図である。
図2】異常検出装置の構成を説明する図である。
図3】タイプAのピンチロール設備の構造を説明する模式図である。
図4】タイプBのピンチロール設備の構造を説明する模式図である。
図5】タイプAのピンチロール設備での荷重実績値の変動の例を示す図である。
図6】タイプBのピンチロール設備での荷重実績値の変動の例を示す図である。
図7】本発明に基づく実施形態に係る、折れ込み部検出の処理を説明する図である。
図8】荷重実績値の検出の応答性が高い場合での、折れ込み部検出について説明する図である。
図9】荷重実績値の検出の応答性が高い場合での、比較の折れ込み部検出について説明する図である。
図10】荷重実績値の検出の応答性が高い場合での、本発明に基づく折れ込み部検出について説明する図である。
図11】実際に取得した押圧実績と、取得した押圧実績値(荷重実績)に基づく押圧変動との関係を示す例である。(a)が押圧実績の変動の例であり、(b)がそのときの検出した押圧変動の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
本実施形態では、金属帯として熱延鋼板を例に挙げて説明する。但し、本発明が対象とする金属帯は熱延鋼板に限定されるものではない。
【0015】
(ピンチロール設備と荷重実績について)
<ピンチロール設備の例>
ピンチロール設備の構造としては、例えば、図3図4に示すような構造がある。以下、図3に示す設備構造をタイプAと呼び、図4に示す設備構造をタイプBと呼ぶ。
【0016】
[タイプA]
タイプAでは、上側ピンチロール3Aを支承するフレーム20を、下側ピンチロール3Bに向けて、上下にのみ案内可能な案内部21を備える。また、そのフレーム20を上下に移動させる油圧サーボシリンダ装置22を備える。そして、上記フレーム20を油圧サーボシリンダ装置22で上下に駆動することで、上側ピンチロール3Aと下側ピンチロール3Bとの間のギャップと荷重(押圧力)を調整する構造となっている。なお、符号23は、バランスシリンダーを示す。
【0017】
[タイプB]
一方、タイプBでは、上側ピンチロール3Aを支承するフレーム25を、支点26を中心に上下に回動可能な構造とする。また、上記フレーム25を上下方向に回動させる油圧シリンダ装置27を備える。そして、その油圧シリンダ装置27によって、フレーム25を回動変位させることで、上側ピンチロール3Aと下側ピンチロール3Bとの間の荷重(押圧力)を調整する構造となっている。なお、符号28は、ギャップを調整するための電動ジャッキ装置を示す。
【0018】
<荷重実績について>
[タイプA]
図3のようなタイプAのピンチロール設備では、例えば油圧サーボシリンダ装置22の油圧によって、金属帯1を挟持する状態のピンチロール3での荷重実績を取得(測定)する。
この場合、金属帯1の折り込み部が対をなすピンチロール3A,3B間を通過する際に、油圧サーボシリンダ装置22のピストンロッドが上下方向に変動し、ピンチロール3の押圧力が変化する。この際に、タイプAのピンチロール設備では、直に油圧サーボシリンダ装置22の油圧変化が発生するため、荷重変動に対する荷重実績の変化の応答性が高い。図5に、タイプAのピンチロール設備での、取得した荷重実績の変動の例を示す。
【0019】
このように、タイプAのピンチロール設備では、荷重実績が閾値以上か否かの判定で、折り込み部の有無の検出が可能となる。また、サンプリング周期を適切に調整することで、前回値との荷重変化によって、折り込み部の有無の検出が可能となる。ただし、若干の過誤検出もあった。すなわち、金属帯1の折れ込みの具合によっては、図5のように、急激に荷重が変動しないおそれがある。この場合、荷重実績の絶対値や、前回値との荷重変化によっては、折り込み部の有無の検出が出来ないおそれがある。
【0020】
[タイプB]
一方、タイプBのピンチロール設備では、ピンチロール3を、油圧シリンダ装置27でフレーム25の支点26を介しての駆動となっている。このため、油圧シリンダ装置27の圧力にてピンチロール3の圧力変動を測定する為、ピンチロール3の荷重変動が、図6に示すように、急峻で変動せずに、緩やかに検出される場合が多い。したがって、ピンチロール3の荷重実績の単純な変動差及び絶対値での検出方法が難しいという課題がある。
これに対し、本実施形態の方法では、どちらのタイプのピンチロール設備であっても、従来よりも安定して、より確実に、折り込み部の有無の検出を行うことが可能となる。
【0021】
(装置構成)
次に、熱延鋼板の製造装置、及びそれに用いられる折れ込み検出装置の構成例について説明する。
熱間圧延ラインでは、不図示の加熱炉で加熱されたスラブが熱間圧延機に供給される。続いて、スラブは、熱間の圧延機によって圧延されることで金属帯1となる。なお、金属帯1は、熱間圧延ラインのパスラインに沿って配置された不図示のテーブルローラによって搬送される。
【0022】
図1に示すように、仕上圧延後の金属帯1は、ランアウトテーブル2によって搬送される間に冷却される。続いて、金属帯1は、上下で対をなすピンチロール3A、3Bの間を介してマンドレル4に送られ、該マンドレル4に巻き取られてコイルとなる。図1中、符号6は仕上圧延機を示す。
ピンチロール3は、ピンチロール用のモータ5で回転駆動される。また、モータ5のモータ電流(電機子電流)が検出されて制御装置7に供給される。
また、間隙調整装置8によって、ピンチロール3を構成する上側ピンチロール3Aと下側ピンチロール3Bとの間隙(ピンチギャップ)が調整される。
【0023】
本実施形態のピンチロール設備の構造は、例えば上述の図3又は図4に記載の構造とする。図3の構造では、油圧サーボシリンダ装置22が間隙調整装置8を構成する。図4の構造では、電動ジャッキ装置28が間隙調整装置8を構成する。
制御装置7は、金属帯1の先端部が、ピンチロール3を通過する際には、金属帯1の搬送速度よりも早い周速となるようにピンチロール用のモータ5を制御する。更に、制御装置7は、金属帯1の先端部がマンドレル4に数巻きだけ巻き付いたと判定すると、ピンチロール3の周速が金属帯1の搬送速度と揃速するように、ピンチロール用のモータ5を速度制御する。数巻きだけ巻き付くとは、マンドレル4から金属帯1に張力を付与可能な状態になることを指す。
【0024】
また、制御装置7は、金属帯1の尾端部が仕上圧延機6の指定スタンド6bを抜けるまでは、ピンチロール3は、モータ5による速度制御を行わない。若しくは空転させるのに最小限必要な機械的な摩擦(メカニカルロス)分に相当するトルク分を補償的に出力するようにモータ5を制御する。なお、金属帯1の先端部がマンドレル4に巻き付いているとする。ここで、指定スタンド6bとは、第1スタンドから最終スタンド6aまでの間のスタンドのうちから予め設定したスタンドである。
【0025】
そして、制御装置7は、金属帯1の尾端部が仕上圧延機6の指定スタンド6bを抜けて(最終スタンド6aをオフした)、尾端用ピンチロール制御の開始と判定すると、設定目標張力値となるように巻取り張力制御のためのピンチロール3の制御を開始する。例えば、制御装置7は、金属帯1の搬送速度よりも設定ラグ率だけ遅い周速となるようにピンチロール3用のモータ5を制御すると共に、ピンチロール3でのピンチギャップを設定ギャップ量に調整する。これによって、金属帯1の尾端部側は、ピンチロール3で挟持されて所定の張力が付与された状態でマンドレルに巻き取られることとなる。
【0026】
<異常検出装置>
また、本実施形態は、ピンチロール3で発生する、金属帯1の尾端部側の折れ込み異常を検出するための異常検出装置10を備える。
異常検出装置10は、荷重検出部11と異常検出部本体12とを備える。異常検出部本体12は、図2に示すように、荷重実績取得部12Aと判定部12Bとを備える。
荷重検出部11は、金属帯1を挟持するピンチロール3の荷重実績を測定する。荷重実績の検出は、例えば、上下のピンチロール3A、3Bによる押圧力である。
【0027】
本実施形態では、ピンチロール設備が図3の構成にあっては、例えば、油圧サーボシリンダ装置22の油圧を押圧力の実績値として測定する。また、ピンチロール設備が図4の構成にあっては、例えば、油圧シリンダ装置27の油圧を押圧力の実績値として測定する。
ここで、上記の押圧力は、油圧サーボシリンダ装置22や油圧シリンダ装置27の押圧力で規定されるものである。その荷重実績としての押力を、例えば、ロードセルやピンチロール3用のモータ5の電流実績値などから検出しても良い。この場合にあっても、荷重変動は、油圧サーボシリンダ装置22や油圧シリンダ装置27によって規定される。
【0028】
荷重実績取得部12Aは、予め設定したサンプリング周期で、荷重検出部11から荷重情報を取得する。
サンプリング周期は、例えば15[ms]以上50[ms]以下の範囲とする。また、サンプリング周期を2015[ms]以上40[ms]以下の範囲とし、例えば、30[ms]に設定する。
判定部12Bは、コンピュータ処理で実行され、荷重実績取得部12Aが周期的に連続して取得した複数の荷重実績から、金属帯1の尾端部側での折れ込み発生の有無を判定する。
【0029】
本実施形態の判定部12Bは、サンプリング周期の3倍以上の時間間隔のサンプリング区間内における、取得した荷重実績の最大値と最小値を検出する。そして、判定部12Bは、その最大値と最小値の差分から、折れ込み発生の有無を判定する。以下、最大値と最小値の差分を押圧差分とも記載する。
判定部12Bは、サンプリング区間を、当該サンプリング区間よりも短い時間間隔のピッチでずらしながら、上記の判定の処理を繰り返し実行することが好ましい。そして、判定部12Bは、求めた押圧差分が、予め設定した閾値以上の場合に、折れ込み発生と判定する。
【0030】
設定する閾値は、例えば実際に金属帯1の尾端部側での折れ込みが発生したときの荷重変動差を検出可能な値(所定値だけ安全代を持たせた値)を実験などで求めて設定すればよい。
この閾値は、仕上圧延後の金属帯1の板厚によって変動するが、発明者らが調査したところでは、板厚が1.80mm以下の金属帯と、板厚が1.8mm超~5.00mm以下の金属帯では、実際に金属帯の尾端部側での折れ込みが発生したときの荷重変動差はほぼ同じ値であった。一方、板厚が5.00mm超の金属帯の尾端部側での折れ込みが発生したときの荷重変動差は、板厚が5.00mm以下の金属帯の尾端部側での折れ込みが発生したときの荷重変動差に比べて大きなものであった。
【0031】
従って、閾値は、圧延後の板厚が5.00mm以下の場合と、圧延後の板厚が5.00mmを越える場合で異なる値とすることが好ましい。
もっとも、圧延後の板厚が3.2mm以下の金属帯で折れ込みが生じやすいため、そのような板厚の金属帯1を対象とするようにしてもよい。
なお、判定部12Bの処理は、オフラインで実行しても良い。
【0032】
サンプリング区間を、サンプリング周期の3倍以上の時間間隔と規定しているのは、一つのサンプリング区間内に、取得した3以上の連続した荷重実績値を含ませるためである。好ましくは、サンプリング区間を、サンプリング周期の4倍以上の時間間隔に設定する。サンプリング区間は、300[ms]以下の区間が好ましい。
また、サンプリング区間を、当該サンプリング区間よりも短い時間間隔のピッチでずらしながら判定する場合には、隣り合うサンプリング区間に重なりが設定される。その結果、より確実に、一つのサンプリング区間内に、判定に好ましい最大値と最小値の荷重実績を含めることが出来る。
サンプリング区間をずらす時間間隔のピッチは、サンプリング区間よりも短い時間間隔であればよい。そのピッチは、例えば、サンプリング周期の1倍又は2倍とする。
【0033】
図7に、サンプリング区間Tを、サンプリング周期よりも長い時間間隔Δtのピッチでずらした場合の例を示す。図7中、○が荷重実績(押圧力)を取得した位置とする。
図7(a)では、最小値S1と最大値S2の差が小さいので、折れ込み無しと判定される。一方、図7(b)では、最小値S1と最大値S3の差が大きいので、折れ込み有りと判定される。同様に、図7(c)では、最小値S1と最大値S5の差が大きいので、折れ込み有りと判定される。このように、本発明に基づけば、確実に折り込み有りと検出することができる。
なお、図7から分かるように、サンプリング区間T内に最大値S5が含まれている間は、連続して折れ込み有りと判定されるおそれがある。これを短くする観点から、例えばサンプリング区間Tは、300[ms]以下の区間が好ましい。
【0034】
ここで、最大値と最小値の差分を押圧差分は、2つの荷重実績の差である荷重変動差に相当する。そして、荷重変動差として、例えば、現在の荷重実績P(t)と、その5サンプリング前の値P(t-5)との差分を荷重変動差として使用することも考えられる。しかし、単純に、5サンプリング前の値P(t-5)との差分を荷重変動差として使用した場合、実際の荷重実績に含まれる軸受などからの外乱などによるノイズによって、本実施形態の押圧差分で判定する場合に比べて、精度が低くなる。
【0035】
ここで、発明者らは、サンプリング周期を50[ms]に設定し、荷重変動(荷重絶対値)が50[msec]連続して設定閾値(例えば10ton)を越えた場合に、折れ込み異常ありと判定してみた。この場合、尾端部の折れ込みの検出が行われない場合があった。その理由を検討したところ、ピンチロール3の折れ込み時のピンチロール3の荷重実績を評価すると、例えば30[msec]以下でしか変動していない。このため、サンプリング周期を50[ms]とし、且つ荷重絶対値で判定すると、尾端部での折れ込み時の荷重変動が検出できない場合があることを突き止めた。例えば、サンプリング周期を50[ms]の場合に、折れ込み時の荷重変動のピークがサンプリング時間の中間の時刻に位置した場合、その立上りの初期部分だけが検出され、その場合、荷重変動差でみても立ち上りが小さい、との知見を得た。
また、ピンチロール3の外乱は、例えばピンチロール3を支承する軸受からの振動による周期性のあるハンチングである。ここで、この軸受からの振動に起因する周期性のあるハンチングは、上記設定閾値を越える場合が生じることも確認した。
【0036】
以上のことを鑑みて、本実施形態では、荷重絶対値を閾値とて判定しないで、連続した3つ以上の荷重実績のうちの最大値と最小値との差分で判定する。この結果、本実施形態では、外乱によるノイズを抑えつつ、折れ込み異常を検出するようにした。
また、タイプAのようなピンチロール設備を採用した場合、例えば、図8に示すように、折れ込み位置で、ピンチロール押圧力が急峻に変動する場合が多い。この場合、図8のように、今回値Snと前回値Sn-1との差分ΔSが大きいため、サンプリング周期を適切に設定すれば、直前の荷重実績との差分でも、折り込みを検出可能である。
【0037】
これに対し、タイプBのようなピンチロール設備を採用した場合、例えば図9に示すように、折れ込み位置前後で、ピンチロール押圧力が緩やかに変動する。このため、直前の荷重実績との差分ΔS1、ΔSで折り込みを検出しようとすると、図9に示すように、閾値をΔSに基づき設定する必要がある。しかし、この場合、Sn-2とSn-3との荷重変動差ΔS1を折り込みと誤検出する可能性がある。
これに対し、本発明に基づく本実施形態では、図10に示すように、サンプリング周期よりも大きなサンプリング区間内での最大値Snと最小値Sn-3との差分によって判定する。このため、直前の値との差分で判定する場合よりも、判定のための閾値を大きく設定できる。したがって、本実施形態では、直前の値との差分で判定する場合よりも、大幅に精度よく、つまり安定して折れ込みを検出可能となる。
【0038】
すなわち、本実施形態によれば、サンプリング区間を設けて、各サンプリング区間内の荷重実績の最小値と最大値を検出する。これによって、ピンチロールの押圧の応答性が設備上悪くても、ピンチロールのホットストリップ尾端部の折れ込みを検出する事ができるようになる。
【0039】
また、本発明に基づけば、図8のような応答性が良い場合でも、直前の荷重実績との差分で判定する場合に比べ、サンプリング周期の調整作業が緩和できる。例えば、図8の場合に、サンプリング周期を図8でのサンプリング周期の半分などに調整した場合を考える。この場合、直前の荷重実績との差分で判定すると、使用する閾値をその分小さい値に設定する必要がある。これに対し、本実施形態では、サンプリング周期よりも大きなサンプリング区間内での最大値Snと最小値Sn-3との差分によって判定するため、図8の場合よりもサンプリング周期を短く調整しても、判定用の閾値をさほど小さく変更する必要がない。このように、本実施形態では、安定して折り込みを検出可能となる。
【0040】
以上のように、本実施形態の折り込み検出方法は、従来に比べて汎用性があり、且つ安定して折り込みを検出することができる。また、本実施形態の折り込み検出方法は、外乱による誤検出も抑えることが可能である。
【0041】
図11に、タイプBのピンチロール設備を用いて、実際に実行した場合における、押圧力の実績の変化と、そのときの押圧変動量の変化の関係の一例を示す。この場合、図11のように、サンプリング周期の時間間隔の3倍以上のサンプリング区間を設定して、サンプリング区間内での最大値と最小値の差を利用することで、確実に折り込みを検出できていることが分かる。
なお、図11に示す例では、押圧力の実績について、立上りが急激な場合が例示されているが、タイプBのピンチロール設備では、通常は、立ち下がりと同様に立上りもゆっくりと立ち上がる場合が多い。
【0042】
(その他)
本開示は、次に構成も取り得る。
(1)仕上圧延機で圧延された金属帯を、上下一対のピンチロールを介してマンドレルに巻き取る巻取設備における、上記マンドレルに巻き取られた上記金属帯の尾端部側での折れ込みを検出する折れ込み検出方法であって、
金属帯を挟持する上記上下一対のピンチロールでの荷重実績を、予め設定したサンプリング周期で取得し、
上記サンプリング周期の3倍以上の時間間隔のサンプリング区間内における、上記取得した荷重実績の最大値と最小値を検出し、その最大値と最小値の差分から、折れ込み発生の有無を判定する、
ことを特徴とする折れ込み検出方法。
(2)上記判定を、上記サンプリング区間を、当該サンプリング区間の間隔よりも短い時間間隔のピッチでずらしながら、繰り返し実行する。
(3)上記ピッチは、上記サンプリング周期と等しい時間間隔である。
(4)上記サンプリング周期は、50[ms]以下である。
(5)上記サンプリング区間は、300[ms]以下の区間である。
(6)上記上下一対のピンチロールの一方のピンチロールが、フレームに支持され、そのフレームは、支点を中心に回動可能に構成され、上記フレームの回動を油圧シリンダ装置で駆動することで、上記金属帯の挟持が行われる。
(7)仕上圧延機で圧延された金属帯を、ピンチロールを介してマンドレルに巻き取る設備を備えた熱延鋼板の製造方法であって、
本開示の折れ込み検出方法で、折れ込みを検出する、
ことを特徴とする熱延鋼板の製造方法。
(8)仕上圧延機で圧延された金属帯を、上下一対のピンチロールを介してマンドレルに巻き取る巻取設備における、上記マンドレルに巻き取られた上記金属帯の尾端部側での折れ込みを検出する折れ込み検出方装置であって、
上記金属帯を挟持する上記上下一対のピンチロールでの荷重実績を、予め設定したサンプリング周期で取得する荷重実績取得部と、
上記サンプリング周期の3倍以上の時間間隔のサンプリング区間内における、上記取得した荷重実績の最大値と最小値を検出し、その最大値と最小値の差分から、折れ込み発生の有無を判定する判定部と、
を備えることを特徴とする折れ込み検出装置。
(9)上記判定部、上記サンプリング区間を、当該サンプリング区間よりも短い時間間隔のピッチでずらしながら、判定の処理を繰り返し実行する。
(10)上記ピッチは、上記サンプリング周期と等しい時間間隔である。
(11)上記サンプリング周期は、50[ms]以下である。
(12)上記サンプリング区間は、300[ms]以下の区間である。
(13)上記上下一対のピンチロールを有するピンチロール装置は、一方のピンチロールがフレームに支持され、そのフレームは、支点を中心に回動可能に構成され、上記フレームの回動を行う油圧シリンダ装置を有し、その油圧シリンダ装置の駆動で、上記金属帯の挟持が実行される構成となっている。
(14)仕上圧延機で圧延された金属帯を、ピンチロールを介してマンドレルに巻き取る設備を備えた熱延鋼板の製造設備であって、
本開示の折れ込み検出装置を備える、熱延鋼板の製造設備。
【符号の説明】
【0043】
1 金属帯
3 ピンチロール
3A 上側ピンチロール
3B 下側ピンチロール
4 マンドレル
5 モータ
6 仕上圧延機
7 制御装置
8 間隙調整装置
10 異常検出装置
11 荷重検出部
12 異常検出部本体
12A 荷重実績取得部
12B 判定部
T サンプリング区間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11