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  • 特開-軸部材の製造方法及び軸部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110283
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】軸部材の製造方法及び軸部材
(51)【国際特許分類】
   B21J 9/04 20060101AFI20240807BHJP
   B21K 1/10 20060101ALI20240807BHJP
   B21J 9/06 20060101ALI20240807BHJP
   B21J 5/06 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
B21J9/04
B21K1/10
B21J9/06 A
B21J5/06 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014799
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】591287093
【氏名又は名称】浜名部品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大祐
(72)【発明者】
【氏名】水藤 隆詳
【テーマコード(参考)】
4E087
【Fターム(参考)】
4E087AA04
4E087AA10
4E087CA14
4E087CA27
4E087CA28
4E087CB03
4E087EC13
4E087EC27
4E087HA35
4E087HB02
(57)【要約】
【課題】中間位置に鍔部を成形する際に内部にひけ巣が生じるのを抑制しつつ冷間鍛造により軸部材を精度よく成形することができる軸部材の製造方法及び軸部材を提供する。
【解決手段】中間位置に鍔部1aが成形された中空状の軸部材を冷間鍛造により製造する軸部材の製造方法であって、軸状素材Wの中間位置の内側を除く部位を中空状に成形する前中空成形工程S2と、前中空成形工程S2の後、中間位置に鍔部1aを成形する鍔部成形工程S3と、鍔部成形工程S3の後、中間位置の内側を中空状に成形する後中空成形工程S4とを経て軸部材を得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間位置に鍔部が成形された中空状の軸部材を冷間鍛造により製造する軸部材の製造方法であって、
軸状素材の前記中間位置の内側を除く部位を中空状に成形する前中空成形工程と、
前記前中空成形工程の後、前記中間位置に前記鍔部を成形する鍔部成形工程と、
前記鍔部成形工程の後、前記中間位置の内側を中空状に成形する後中空成形工程と、
を経て前記軸部材を得ることを特徴とする軸部材の製造方法。
【請求項2】
前記後中空成形工程の後、前記軸状素材の中空部を連結させて軸方向に貫通させることを特徴とする請求項1記載の軸部材の製造方法。
【請求項3】
前記鍔部成形工程は、前記軸状素材の端面を押圧して前記中間位置を径方向に膨出させることにより前記鍔部を成形することを特徴とする請求項1記載の軸部材の製造方法。
【請求項4】
前記軸部材は、外周にモータのロータが取り付けられるとともに、前記鍔部は、前記ロータの位置決めのための突起とされることを特徴とする請求項1記載の軸部材の製造方法。
【請求項5】
中間位置に鍔部が成形された中空状の軸部材を冷間鍛造により製造して得られた軸部材であって、
軸状素材の前記中間位置の内側を除く部位を中空状に成形した後、前記中間位置に前記鍔部を成形し、前記中間位置の内側を中空状に成形して得られたことを特徴とする軸部材。
【請求項6】
前記軸部材は、外周にモータのロータが取り付けられるとともに、前記鍔部は、前記ロータの位置決めのための突起とされることを特徴とする請求項5記載の軸部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間位置に鍔部が成形された中空状の軸部材を冷間鍛造により製造する軸部材の製造方法及び軸部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータのロータが取り付けられる軸部材(モータシャフト)は、軽量化及び放熱性の向上のため、中空状に成形されたものとされ、従来、例えば一端が開口した2つの中空状軸部材を冷間鍛造にて得た後、それら中空状軸部材の開口部を互いに合致させつつ摩擦圧接やレーザ溶接により接合して製造されていた。2つの中空状軸部材は、冷間鍛造にて得られるため、高強度な軸部材を製造することができる。なお、かかる先行技術は、文献公知発明に係るものでないため、記載すべき先行技術文献情報はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の軸部材は、2つの中空状軸部材を接合させて製造されていたため、製造コストが嵩んでしまうとともに、特に接合部の寸法精度を向上させるのが難しいという課題があった。また、モータの部品としての軸部材は、その中間部にロータを位置決めするための鍔部(径方向に膨出した突起)が必要とされるので、例えば中空状の軸状素材を冷間鍛造にて得た後、中間位置を径方向に膨出すべく更に冷間鍛造すると、中間位置の内部にひけ巣が生じる虞がある。なお、このような課題は、モータのロータが取り付けられる軸部材に限られるものではなく、中間位置に鍔部が成形される中空状の軸部材を製造する際に生じてしまう。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、中間位置に鍔部を成形する際に内部にひけ巣が生じるのを抑制しつつ冷間鍛造により軸部材を精度よく成形することができる軸部材の製造方法及び軸部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明は、中間位置に鍔部が成形された中空状の軸部材を冷間鍛造により製造する軸部材の製造方法であって、軸状素材の前記中間位置の内側を除く部位を中空状に成形する前中空成形工程と、前記前中空成形工程の後、前記中間位置に前記鍔部を成形する鍔部成形工程と、前記鍔部成形工程の後、前記中間位置の内側を中空状に成形する後中空成形工程とを経て前記軸部材を得ることを特徴とする。
【0006】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の軸部材の製造方法において、前記後中空成形工程の後、前記軸状素材の中空部を連結させて軸方向に貫通させることを特徴とする。
【0007】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の軸部材の製造方法において、前記鍔部成形工程は、前記軸状素材の端面を押圧して前記中間位置を径方向に膨出させることにより前記鍔部を成形することを特徴とする。
【0008】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の軸部材の製造方法において、前記軸部材は、外周にモータのロータが取り付けられるとともに、前記鍔部は、前記ロータの位置決めのための突起とされることを特徴とする。
【0009】
請求項5記載の発明は、中間位置に鍔部が成形された中空状の軸部材を冷間鍛造により製造して得られた軸部材であって、軸状素材の前記中間位置の内側を除く部位を中空状に成形した後、前記中間位置に前記鍔部を成形し、前記中間位置の内側を中空状に成形して得られたことを特徴とする。
【0010】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の軸部材において、前記軸部材は、外周にモータのロータが取り付けられるとともに、前記鍔部は、前記ロータの位置決めのための突起とされることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1、5の発明によれば、軸状素材の中間位置の内側を除く部位を中空状に成形する前中空成形工程と、前中空成形工程の後、中間位置に鍔部を成形する鍔部成形工程と、鍔部成形工程の後、中間位置の内側を中空状に成形する後中空成形工程とを経て軸部材を得るので、中間位置に鍔部を成形する際に内部にひけ巣が生じるのを抑制しつつ冷間鍛造により軸部材を精度よく成形することができる。
【0012】
請求項2の発明によれば、後中空成形工程の後、軸状素材の中空部を連結させて軸方向に貫通させるので、軸方向に亘って中空状とされた軸部材を得ることができる。
【0013】
請求項3の発明によれば、鍔部成形工程は、軸状素材の端面を押圧して中間位置を径方向に膨出させることにより鍔部を成形するので、冷間鍛造のための金型を用いて鍔部の成形を良好に行わせることができる。
【0014】
請求項4、6の発明によれば、軸部材は、外周にモータのロータが取り付けられるとともに、鍔部は、ロータの位置決めのための突起とされるので、冷間鍛造により高精度なモータシャフトを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る軸部材の製造方法を示すフローチャート
図2】本発明の実施形態に係る軸部材を示す斜視図
図3】同軸部材を示す縦断面図
図4】同軸部材を製造する前の軸状素材を示す側面図及び縦断面図
図5】同軸部材を製造する過程の軸状素材を示す側面図及び縦断面図
図6】同軸部材を製造する過程の軸状素材を示す側面図及び縦断面図
図7】同軸部材を製造する過程の軸状素材を示す側面図及び縦断面図
図8】同軸部材を製造する過程の軸状素材を示す側面図及び縦断面図
図9】同軸部材を製造する過程の軸状素材を示す側面図及び縦断面図
図10】同軸部材を製造する過程の軸状素材を示す側面図及び縦断面図
図11】同軸部材を製造するための金型を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る軸部材は、金属加工法の塑性加工の一種である冷間鍛造により製造されるとともに、図2、3に示すように、中間位置に鍔部1aが成形された中空状のモータシャフト1から成るもので、当該鍔部1aに隣接した位置に取付部1b、一端面側位置にスプライン部1f及び他端面側位置に圧入部1cがそれぞれ成形されている。なお、他端面近傍位置には、冷間鍛造により段部1d、1eが成形されており、他端面に向かって縮径して形状とされている。
【0017】
本実施形態に係る取付部1bは、モータのロータ(不図示)が取り付けられる部位から成るとともに、圧入部1cは、モータのベアリングが取り付けられる部位から成る。また、鍔部1aは、一端面及び他端面の間の位置(中間位置)に成形された大径部位から成り、取付部1bにロータが取り付けられる際、当該ロータの位置決めのための突起とされるものである。かかる鍔部1aは、冷間鍛造により中間位置を径方向に膨出させて成形された部位から成り、図3に示すように、その外径寸法t1は、圧入部1cの外径寸法t2の1.8倍程度とされている。
【0018】
さらに、本実施形態に係るモータシャフト1(軸部材)は、図2に示すように、冷間鍛造によって、軸方向に亘って中空部Hが成形されており、軸方向に貫通した軸部材とされている。なお、本発明における鍔部1aが成形される中間位置は、一端面及び他端面の間の位置であれば任意の位置であってもよく、一端面に近い位置、他端面に近い位置、一端面及び他端面の真ん中である中央位置であってもよい。
【0019】
次に、本実施形態に係るモータシャフト1の製造方法について、図1のフローチャートを用いて説明する。
本実施形態に係るモータシャフト1は、図4に示すような中実の円筒状の軸状素材W(冷間鍛造加工のための鉄・SUS・アルミ・高合金・特殊鋼などの金属素材)に対して複数の冷間鍛造装置(図11参照)にて連続的に冷間鍛造加工して得られるもので、図1に示すように、上側穴成形S1と、前中空成形工程S2と、鍔部成形工程S3と、後中空成形工程S4と、貫通工程S5と、軸絞りS6と、スプライン成形S7とを経て製造される。
【0020】
冷間鍛造金型K1~K5は、各工程において軸状素材Wの外周面を拘束しつつ軸方向にポンチを押圧して冷間鍛造加工するようになっている。上側穴成形S1は、最初の冷間鍛造金型K1にて冷間鍛造加工する工程であり、図5に示すように、軸状素材Wの外周面を拘束しつつ上面に対してポンチを軸方向に押圧することにより中空部H1を成形する。
【0021】
前中空成形工程S2は、2番目の冷間鍛造金型K2にて鍛造加工する工程であり、軸状素材Wの中間位置の内側を除く部位(鍔部1aが成形される位置以外の部位)をポンチにて軸方向に押圧して中空状に成形する。具体的には、かかる前中空成形工程S2は、上側穴成形S1にて中空部H1が成形された軸状素材Wに対し、下面側から軸方向に対してポンチを押圧することにより、図6に示すように、中空部H1に加えて、中空部H2を成形する工程である。
【0022】
鍔部成形工程S3は、3番目の鍛造金型K3にて冷間鍛造加工する工程であり、前中空成形工程S2の後、中間位置に鍔部1aを成形する。具体的には、かかる鍔部成形工程S3は、中空部H1、H2が成形された軸状素材Wに対し、それら中空部H1と中空部H2との間の中実の位置(中間位置)以外の外周面を金型にて拘束するとともに、当該中間位置の外周を拘束せず開放させた状態において、端面(上面及び下面)をそれぞれポンチにて軸方向に押圧することにより、図7に示すように、当該中間位置を径方向に膨出させて鍔部1aを成形する工程である。
【0023】
後中空成形工程S4は、4番目の冷間鍛造金型K4にて鍛造加工する工程であり、鍔部成形工程S3の後、中間位置の内側を中空状に成形する。具体的には、かかる後中空成形工程S4は、鍔部1aが成形された軸状素材Wに対し、図8に示すように、鍔部1aより下側の外径及び端面、中空部H2内を金型で拘束しつつ中空部H1を更に深く成形するようにポンチにて押圧して中空部H3を成形する工程であり、これにより鍔部1aが成形された中間位置の内側を中空状に成形することができる。
【0024】
貫通工程S5は、5番目の鍛造金型K5にて冷間鍛造加工する工程であり、後中空成形工程S4の後、下側の端面を拘束した状態で軸状素材Wの中空部H2の側からポンチにて押圧して打ち抜き、中空部H3と連結させて軸方向に貫通した中空部Hを成形する。そして、冷間鍛造金型K5から軸状素材Wを取り出し、別個の冷間鍛造金型によって、軸絞りS6にて段部1dを成形して、図10で示す軸状素材Wを得た後、更に別個冷間の鍛造金型によって、段部1e及びスプライン部1fを形成し、図2、3で示すモータシャフト1(軸部材)を得る。
【0025】
このようにして製造されたモータシャフト1(軸部材)は、冷間鍛造により得られたので、高強度且つ高精度とされるとともに、軸方向に中空状とされているので、軽量化及び放熱性の向上を期待することができる。また、本実施形態に係るモータシャフト1(軸部材)は、軸状素材Wの中間位置の内側を除く部位を中空状に成形した後、中間位置に鍔部1aを成形し、中間位置の内側を中空状に成形して得られたので、中間位置に対応する中空部Hにひけ巣等の欠陥が生じるのを抑制することができる。
【0026】
上記実施形態によれば、軸状素材Wの中間位置の内側を除く部位を中空状に成形する前中空成形工程S2と、前中空成形工程S2の後、中間位置に鍔部1aを成形する鍔部成形工程S3と、鍔部成形工程S3の後、中間位置の内側を中空状に成形する後中空成形工程S4とを経て軸部材(モータシャフト1)を得るので、中間位置に鍔部1aを成形する際に内部にひけ巣が生じるのを抑制しつつ冷間鍛造により軸部材を精度よく成形することができる。
【0027】
すなわち、中間位置を中空状とした後、当該中間位置に鍔部1aを成形する場合、鍔部1aを膨出させることにより軸方向に内在するメタルフローが径方向に延出されてひけ巣等が発生してしまうのに対し、本実施形態の如く中間位置に鍔部1aを成形した後、中間位置を中空状とすれば、鍔部1aの成形時には中間位置が中実となっており、ひけ巣等の発生を抑制できるのである。
【0028】
また、後中空成形工程S4の後、軸状素材Wの中空部を連結させて軸方向に貫通させるので、軸方向に亘って中空状とされた軸部材を得ることができる。さらに、鍔部成形工程S3は、軸状素材Wの端面を押圧して中間位置を径方向に膨出させることにより鍔部1aを成形するので、冷間鍛造のための金型を用いて鍔部1aの成形を良好に行わせることができる。またさらに、軸部材は、外周にモータのロータが取り付けられるとともに、鍔部1aは、ロータの位置決めのための突起とされるので、冷間鍛造により高精度なモータシャフト1を得ることができる。
【0029】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば後中空成形工程の後、中空部H2と中空部H3とを貫通させず、圧入部1cやスプライン部1fを形成してモータシャフト1を得るようにしてもよい。また、本実施形態に係る軸部材は、モータに組付けられるモータシャフトとされているが、鍔部が中間位置に形成された中空状の軸部材であれば、他の軸部材に適用してもよい。さらに、本実施形態の如き型鍛造に限定されず、自由鍛造や押し出し等、他の鍛造加工であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
外観形状が異なるもの或いは他の機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 モータシャフト(軸部材)
1a 鍔部
1b 取付部
1c 圧入部
1d、1e 段部
1f スプライン部
H、H1~H3 中空部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11