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特開2024-110312フェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110312
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】フェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240807BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240807BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20240807BHJP
【FI】
C22C38/00 302H
C22C38/58
C21D9/46 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014836
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】平川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】石丸 詠一朗
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA09
4K037EA10
4K037EA12
4K037EA13
4K037EA14
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA28
4K037EA29
4K037EA31
4K037EA32
4K037EA33
4K037EA35
4K037EA36
4K037EB02
4K037EB05
4K037EB07
4K037EB08
4K037EB09
4K037EB14
4K037FB00
4K037FF03
4K037FG00
4K037FJ01
4K037FJ07
4K037FK03
4K037FK08
4K037JA06
(57)【要約】
【課題】強度及び延性に加えて溶接部の耐食性にも優れるフェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材を提供する。
【解決手段】質量基準で、C:0.001~0.050%、Si:1.00%超過3.00%以下、Mn:1.0~5.0%、P:0.050%以下、S:0.030%以下、Ni:1.1~5.0%、Cr:18.0~24.0%、Mo:0.01~1.00%、Cu:0.01~2.00%、N:0.010~0.100%を含み、C+Nが0.070~0.130%であり、残部がFe及び不純物からなる組成を有し、
下記式(1):
Md=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-29(Ni+Cu)-13.7Cr-18.5Mo ・・・ (1)
(式中、元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す)で示されるMdの値が50.0~150.0℃であり、
下記式(2):
DF=7.2(Cr+0.88Mo+0.78Si)-8.9(Ni+0.03Mn+0.72Cu+22C+21N)-44.9 ・・・ (2)
(式中、元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す)で示されるDFの値が50.0~80.0である、フェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量基準で、C:0.001~0.050%、Si:1.00%超過3.00%以下、Mn:1.0~5.0%、P:0.050%以下、S:0.030%以下、Ni:1.1~5.0%、Cr:18.0~24.0%、Mo:0.01~1.00%、Cu:0.01~2.00%、N:0.010~0.100%を含み、C+Nが0.070~0.130%であり、残部がFe及び不純物からなる組成を有し、
下記式(1):
Md=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-29(Ni+Cu)-13.7Cr-18.5Mo ・・・ (1)
(式中、元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す)で示されるMdの値が50.0~150.0℃であり、
下記式(2):
DF=7.2(Cr+0.88Mo+0.78Si)-8.9(Ni+0.03Mn+0.72Cu+22C+21N)-44.9 ・・・ (2)
(式中、元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す)で示されるDFの値が50.0~80.0である、フェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材。
【請求項2】
質量基準で、Nb:0.010~0.500%、Ti:0.010~0.500%、V:0.01~0.50%、W:0.05~0.50%、Co:0.01~0.30%、B:0.0002~0.0050%、Sn:0.010~0.500%、Al:0.010~0.050%、Mg:0.0002~0.0100%、Ca:0.0002~0.0100%、Ta:0.050%以下、Ga:0.050%以下、Zr:0.01~0.50%、REM:0.0002~0.0100%から選択される1種以上を更に含む、請求項1に記載のフェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材。
【請求項3】
オーステナイト相が25~49体積%である金属組織を有する、請求項1に記載のフェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材。
【請求項4】
オーステナイト相が25~49体積%である金属組織を有する、請求項2に記載のフェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材。
【請求項5】
オーステナイト相の前記式(1)で示されるMdの値が57~90℃である、請求項1~4のいずれか一項に記載のフェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材。
【請求項6】
以下の特性(a)~(c):
(a)0.2%耐力が500MPa以上である
(b)均一伸びが30%以上である
(c)溶接を行った際に溶接部の孔食電位Vc’100が280mV以上である
の少なくとも1つを満たす、請求項1~4のいずれか一項に記載のフェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材。
【請求項7】
以下の特性(a)~(c):
(a)0.2%耐力が500MPa以上である
(b)均一伸びが30%以上である
(c)溶接を行った際に溶接部の孔食電位Vc’100が280mV以上である
の少なくとも1つを満たす、請求項5に記載のフェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材は、耐食性に優れ、高強度であることから、建材や構造材料などとして使用されている。他方、フェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材は、SUS304などの汎用オーステナイト系ステンレス鋼材に比べて延性が低いため、加工性が要求される用途への適用が制限されている。そのため、延性に優れるフェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材の開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、質量%にて、C:0.001~0.1%、Cr:17~25%、Si:0.01~1%、Mn:0.5~3.7%、N:0.06%以上、0.15%未満を含有し、耐孔食指数(Cr+3Mo+10N-Mn)が18%超を満足し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、フェライト相を母相としてオーステナイト相の体積分率が15~50%である、耐食性及び加工性に優れたフェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材が提案されている。
また、特許文献2には、質量%にて、C:0.05%以下、Si:1%以下、Mn:2~8%、P:0.1%以下、S:0.02%以下、Cr:15~23%、Mo:4%以下、Ni:3.0%以下、Cu:2%以下、N:0.05~0.3%、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Cr当量及びNi当量が所定の範囲内である、耐食性及び加工性に優れたフェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材が提案されている。
【0004】
また、特許文献3には、質量%で、C:0.08%以下(0除外)、Si:0.7~1.1%、Mn:2.4~3.5%、Cr:17.9~20.7%、Ni:0.05~1.15%、N:0.18~0.3%、Cu:0.4~2.8%を含み、残部がFe及びその他不可避な不純物からなり、所定の式によって予測された孔食電位が360~440mVである、耐食性及び加工性が向上したフェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材が提案されている。
さらに、特許文献4には、0.04重量%未満のC、0.2~0.8重量%のSi、0.3~2.0重量%のMn、14.0~19.0重量%のCr、2.0~5.0重量%のNi、4.0~7.0重量%のMo、4.5重量%未満のW、0.1~1.5重量%のCu、0.14~0.23重量%のNを含み、残部が鉄及び不可避的不純物であり、20重量%<(Cr+Mo+0.5W)<23.5重量%の範囲であり、Cr/(Mo+0.5W)比が2~4.75の範囲である、成形性及び耐食性に優れたフェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5156293号公報
【特許文献2】特開2012-126992号公報
【特許文献3】特表2019-501286号公報
【特許文献4】特表2017-522453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~4に記載のフェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材は、強度に加えて耐食性及び加工性(延性)に優れている。
他方、フェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材は、所定の製品を製造する際に溶接されることがあるが、溶接部の耐食性が低下し易いという問題がある。特許文献1~4は、フェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材を溶接したときに、溶接部の耐食性が低下する問題については特に着目していない。
【0007】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、強度及び延性に加えて溶接部の耐食性にも優れるフェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記のような問題を解決すべくフェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材について鋭意研究を続けた結果、以下の知見を得た。
C及びNの含有量を低減することにより、溶接部の耐食性が低下することを抑制することができるものの、オーステナイト相の強度が低下する結果、フェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材の強度も低下してしまう。そこで、Siの含有量を増大させることにより、フェライト相の強度を高め、フェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材の強度を向上させることができる。また、フェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材のMdを所定の範囲に制御することにより、オーステナイト相の安定度を高め、TRIP(変態誘起塑性)効果によって高延性化することができる。
そして、本発明者らは、上記の知見に基づいて、フェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材の組成、Md及びDFを制御することにより、上記の問題を全て解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、質量基準で、C:0.001~0.050%、Si:1.00%超過3.00%以下、Mn:1.0~5.0%、P:0.050%以下、S:0.030%以下、Ni:1.1~5.0%、Cr:18.0~24.0%、Mo:0.01~1.00%、Cu:0.01~2.00%、N:0.010~0.100%を含み、C+Nが0.070~0.130%であり、残部がFe及び不純物からなる組成を有し、
下記式(1):
Md=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-29(Ni+Cu)-13.7Cr-18.5Mo ・・・ (1)
(式中、元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す)で示されるMdの値が50.0~150.0℃であり、
下記式(2):
DF=7.2(Cr+0.88Mo+0.78Si)-8.9(Ni+0.03Mn+0.72Cu+22C+21N)-44.9 ・・・ (2)
(式中、元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す)で示されるDFの値が50.0~80.0である、フェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、強度及び延性に加えて溶接部の耐食性にも優れるフェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
なお、本明細書において成分に関する「%」表示は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
【0012】
本発明の実施形態に係るフェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材(以下、単に「二相ステンレス鋼材」と略す)は、C:0.001~0.050%、Si:1.00%超過3.00%以下、Mn:1.0~5.0%、P:0.050%以下、S:0.030%以下、Ni:1.1~5.0%、Cr:18.0~24.0%、Mo:0.01~1.00%、Cu:0.01~2.00%、N:0.010~0.100%を含み、C+Nが0.070~0.130%であり、残部がFe及び不純物からなる組成を有する。
【0013】
ここで、本明細書において「ステンレス鋼材」とは、ステンレス鋼から形成された材料のことを意味し、その材形は特に限定されない。材形の例としては、板状(帯状を含む)、棒状、管状などが挙げられる。また、断面形状がT形、I形などの各種形鋼であってもよい。
また、本明細書において「フェライト・オーステナイト系」とは、常温で金属組織が主にフェライト相及びオーステナイト相の二相であるものを意味する。したがって、「フェライト・オーステナイト系」にはフェライト相及びオーステナイト相以外の相(例えば、マルテンサイト相など)が僅かに含まれるものも包含される。
さらに、本明細書において「不純物」とは、ステンレス鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップなどの原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。例えば、不純物には、不可避的不純物も含まれる。不純物としては、例えばOが挙げられる。Oの含有量は、例えば0.0001~0.0070%である。
なお、各元素の含有量に関して、「xx%以下」を含むとは、xx%以下であるが、0%超(特に、不純物レベル超)の量を含むことを意味する。
【0014】
本発明の実施形態に係る二相ステンレス鋼材は、必要に応じて、Nb:0.010~0.500%、Ti:0.010~0.500%、V:0.01~0.50%、W:0.05~0.50%、Co:0.01~0.30%、B:0.0002~0.0050%、Sn:0.010~0.500%、Al:0.010~0.050%、Mg:0.0002~0.0100%、Ca:0.0002~0.0100%、Ta:0.050%以下、Ga:0.050%以下、Zr:0.01~0.50%、REM:0.0002~0.0100%から選択される1種以上を更に含むことができる。
以下、各成分について詳細に説明する。
【0015】
<C:0.001~0.050%>
Cは、オーステナイト相の安定度に大きな影響を及ぼす元素である。Cの含有量が多すぎると、延性(加工性)が低下したり、Cr炭化物の析出が促進されて粒界腐食が発生したりすることがある。そのため、Cの含有量を0.050%以下、好ましくは0.045%以下、より好ましくは0.040%以下とする。また、耐食性(特に、溶接部の耐食性)の観点から、Cの含有量は低い方がよいが、Cの含有量を低下しすぎるとコストの増加を招く。そのため、Cの含有量を0.001%以上、好ましくは0.002%以上、より好ましくは0.005%以上とする。
【0016】
<Si:1.00%超過3.00%以下>
Siは、フェライト相の強度を高めることにより、二相ステンレス鋼材の強度を向上させる元素である。また、Siは、脱酸元素として添加され、耐酸化性の向上にも有用な元素である。これらの効果を十分に確保する観点から、Siの含有量を1.00%超過、好ましくは1.02%以上、より好ましくは1.05%以上とする。また、Siの含有量が多すぎると、硬質化して延性が低下する。そのため、Siの含有量を3.00%以下、好ましくは2.80%以下、より好ましくは2.50%以下とする。
【0017】
<Mn:1.0~5.0%>
Mnは、オーステナイト相に濃化してオーステナイト相を安定化させるのに重要な役割を持つ元素である。ただし、Mnの含有量が多すぎると、延性に加え、耐食性や熱間加工性も低下する。したがって、Mnの含有量を5.0%以下、好ましくは4.5%以下、より好ましくは4.0%以下とする。また、Mnを過度に低減すると製錬時のコストが増加する。そのため、Mnの含有量を1.0%以上、好ましくは1.1%以上、より好ましくは1.2%以上とする。
【0018】
<P:0.050%以下>
Pは、Crなどの原料に含有される元素である。Pの含有量が多いと、成形性が低下するため、Pの含有量を0.050%以下、好ましくは0.045%以下、より好ましくは0.040%以下とする。一方、Pの含有量は低い方が好ましいが、Pの含有量を低減することには限界がある。Pの含有量の下限値は、一般的に0.001%、好ましくは0.002%、より好ましくは0.003%である。
【0019】
<S:0.030%以下>
Sは、様々な原料に含有される元素である。Sは、Mnと結合して介在物をつくり、発銹の起点となることがあるため、Sの含有量が低いほど耐食性が向上する。したがって、Sの含有量を0.030%以下、好ましくは0.025%以下、より好ましくは0.020%以下とする。一方、Sの含有量を低減することには限界がある。Sの含有量の下限値は、一般的に0.0001%、好ましくは0.0005%である。
【0020】
<Ni:1.1~5.0%>
Niは、オーステナイト生成元素であり、オーステナイト相の安定度を調整するために重要な元素である。また、Niは窒化物の析出を抑制し、耐食性を向上させる効果も有する。これらの効果を発揮させるために、Niの含有量を1.1%以上、好ましくは1.3%以上、より好ましくは1.5%以上、更に好ましくは1.8%以上とする。一方、Niの含有量が多すぎると、原料コストの上昇を招くほか、オーステナイト相の割合が高くなることで応力腐食割れなどの問題が生じる可能性もある。そのため、Niの含有量を5.0%以下、好ましくは4.5%以下、より好ましくは4.0%以下とする。
【0021】
<Cr:18.0~24.0%>
Crは、耐食性を確保するのに必要な元素である。この効果を発揮させるために、Crの含有量を18.0%以上、好ましくは18.5%以上、より好ましくは19.0%以上とする。一方、Crの含有量が多すぎると、熱間加工割れをもたらしたり、精錬工程のコスト増加につながったりする。そのため、Crの含有量を24.0%以下、好ましくは23.5%以下、より好ましくは23.0%以下とする。
【0022】
<Mo:0.01~1.00%>
Moは、耐食性を向上させる元素である。この効果を発揮させるために、Moの含有量を0.01%以上、好ましくは0.03%以上、より好ましくは0.05%以上とする。一方、Moの含有量が多すぎると、原料コストが上昇してしまう。そのため、Moの含有量を1.00%以下、好ましくは0.80%以下、より好ましくは0.50%以下とする。
【0023】
<Cu:0.01~2.00%>
Cuは、Mn及びNiと同様にオーステナイト生成元素であり、窒化物の析出を抑制して耐食性を向上させる効果を有する。これらの効果を発揮させるために、Cuの含有量を0.01%以上、好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.10%以上とする。一方、Cuの含有量が多すぎると、原料コストの上昇を招くほか、熱間加工性も低下する。そのため、Cuの含有量を2.00%以下、好ましくは1.50%以下、より好ましくは1.00%以下とする。
【0024】
<N:0.010~0.100%>
Nは、Cと同様に、オーステナイト相の安定度に大きな影響を及ぼす元素である。また、Nは固溶して耐食性を高める元素でもある。これらの効果を発揮させるために、Nの含有量を0.010%以上、好ましくは0.020%以上とする。一方、Nの含有量が多すぎると、延性が低下するとともに、Cr窒化物の析出によって耐食性も低下する。そのため、Nの含有量を0.100%以下、好ましくは0.090%以下とする。
【0025】
<C+N:0.070~0.130%>
C及びNの合計含有量が多くなると、鋭敏化によって耐食性(特に、溶接部の耐食性)が低下したり、高強度化によって延性が低下したりする。そのため、C及びNの合計含有量を0.130%以下、好ましくは0.120%以下とする。なお、C及びNの合計含有量の下限値は、上述したC及びNの効果を確保する観点から、0.070%、好ましくは0.071%である。
【0026】
<Nb:0.010~0.500%>
Nbは、窒化物(NbN)や炭化物(NbC)を形成し、加工性を向上させる効果を有する。この効果を発揮させるために、Nbの含有量を0.010%以上、好ましくは0.015%以上、より好ましくは0.020%以上とする。一方、Nbの含有量が多すぎると、延性が低下する。そのため、Nbの含有量を0.500%以下、好ましくは0.300%以下、より好ましくは0.200%以下とする。
【0027】
<Ti:0.010~0.500%>
Tiも、Nbと同様に、窒化物(TiN)や炭化物(TiC)を形成し、加工性を向上させる効果を有する。この効果を発揮させるために、Tiの含有量を0.010%以上、好ましくは0.015%以上、より好ましくは0.020%以上とする。一方、Tiの含有量が多すぎると、延性が低下する。そのため、Nbの含有量を0.500%以下、好ましくは0.300%以下、より好ましくは0.200%以下とする。
【0028】
<V:0.01~0.50%>
Vは、窒化物を形成し、加工性を向上させる効果を有する。この効果を発揮させるために、Vの含有量を0.01%以上、好ましくは0.03%以上、より好ましくは0.05%以上とする。一方、Vの含有量が多すぎると延性及び熱間加工性が低下してしまう。そのため、Vの含有量を0.50%以下、好ましくは0.45%以下、より好ましくは0.40%以下とする。
【0029】
<W:0.05~0.50%>
Wは、耐食性を向上させるのに有効な元素である。この効果を発揮させるために、Wの含有量を0.05%以上、好ましくは0.08%以上、より好ましくは0.10%以上とする。一方、Wの含有量が多すぎると、延性が低下する。そのため、Wの含有量を0.50%以下、好ましくは0.45%以下、より好ましくは0.40%以下とする。
【0030】
<Co:0.01~0.30%>
Coは、高温強度を高め、熱間加工性を向上させるのに有効な元素である。これらの効果を発揮させるために、Coの含有量を0.01%以上、好ましくは0.03%以上、より好ましくは0.05%以上とする。一方、Coの含有量が多すぎると、靭性が低下する。そのため、Coの含有量を0.30%以下、好ましくは0.25%以下、より好ましくは0.20%以下とする。
【0031】
<B:0.0002~0.0050%>
Bは、粒界に偏析して熱間加工性を向上させる元素である。この効果を発揮させるために、Bの含有量を0.0002%以上、好ましくは0.0010%以上、より好ましくは0.0015%以上とする。一方、Bの含有量が多すぎると、耐食性が著しく低下する。そのため、Bの含有量を0.0050%以下、好ましくは0.0040%以下、より好ましくは0.0030%以下とする。
【0032】
<Sn:0.010~0.500%>
Snは、耐食性を向上させる元素である。この効果を発揮させるために、Snの含有量を0.010%以上、好ましくは0.020%以上、より好ましくは0.030%以上とする。一方、Snの含有量が多すぎると、熱間加工性が低下してしまう。そのため、Snの含有量を0.500%以下、好ましくは0.450%以下、より好ましくは0.400%以下とする。
【0033】
<Al:0.010~0.050%>
Alは、脱硫及び脱酸に有効な元素である。これらの効果を発揮させるために、Alの含有量を0.010%以上、好ましくは0.015%以上、より好ましくは0.020%以上とする。一方、Alの含有量が多すぎると、製造疵の増加及び原料コストの増加を招く。そのため、Alの含有量を0.050%以下、好ましくは0.045%以下、より好ましくは0.040%以下とする。
【0034】
<Mg:0.0002~0.0100%>
Mgは、脱酸だけでなく、凝固組織を微細化する効果を有する元素である。これらの効果を発揮させるためには、Mgの含有量を0.0002%以上、好ましくは0.0005%以上、より好ましくは0.0010%以上とする。一方、Mgの含有量が多すぎると、原料コストの増加につながる。そのため、Mgの含有量を0.0100%以下、好ましくは0.0095%以下、より好ましくは0.0090%以下とする。
【0035】
<Ca:0.0002~0.0100%>
Caは、脱硫及び脱酸に有効な元素である。これらの効果を発揮させるために、Caの含有量を0.0002%以上、好ましくは0.0005%以上、より好ましくは0.0010%以上とする。一方、Caの含有量が多すぎると、熱間加工割れが生じ易くなるとともに耐食性も低下する。そのため、Caの含有量を0.0100%以下、好ましくは0.0080%以下、より好ましくは0.0050%以下とする。
【0036】
<Ta:0.050%以下>
Taは、介在物の改質により耐食性を向上させる元素である。ただし、Taの含有量が多すぎると、常温延性の低下や靭性の低下を招く。そのため、Taの含有量は0.050%以下、好ましくは0.045%以下、より好ましくは0.040%以下とする。一方、Taの含有量の下限値は特に限定されないが、Taによる効果を発揮させるためには、好ましくは0.001%、より好ましくは0.003%である。
【0037】
<Ga:0.050%以下>
Gaは、耐食性の向上や水素脆化を抑制する元素である。ただし、Gaの含有量が多すぎると、加工性が低下する。そのため、Gaの含有量は0.050%以下、好ましくは0.040%以下、より好ましくは0.030%以下とする。一方、Gaの含有量の下限値は特に限定されないが、Gaによる効果を発揮させるためには、好ましくは0.001%、より好ましくは0.003%である。
【0038】
<Zr:0.01~0.50%>
Zrは、Nb及びTiと類似の作用があるとともに、耐酸化性を向上させる元素である。それらの効果を発揮させるために、Zrの含有量を0.01%以上、好ましくは0.03%以上、より好ましくは0.05%以上とする。一方、Zrの含有量が多すぎると、延性の低下に加えて原料コストの増加を招く。そのため、Zrの含有量を0.50%以下、好ましくは0.40%以下、より好ましくは0.30%以下とする。
【0039】
<REM:0.0002~0.0100%>
REM(希土類)は、熱間加工性を向上させるのに有効な元素である。この効果を発揮させるために、REMの含有量を0.0002%以上、好ましくは0.0005%以上、より好ましくは0.0010%以上とする。一方、REMの含有量が多すぎると、製造性を損なうとともにコスト増加をもたらす。そのため、REMの含有量を0.0100%以下、好ましくは0.0090%以下、より好ましくは0.0080%以下とする。
なお、REMは、Sc、Y及びLa~Luまでの15元素(ランタノイド)の総称である。REMとして、これらの元素を単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
本発明の実施形態に係る二相ステンレス鋼材は、下記式(1)で示されるMdの値が50.0~150.0℃、好ましくは55.0~140.0℃、より好ましくは60.0~130.0℃、更に好ましくは70.0~120.0℃である。
Md=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-29(Ni+Cu)-13.7Cr-18.5Mo ・・・ (1)
式(1)中、元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す。
ここで、Mdは、オーステナイト相の安定度を表す指標である。Mdの値が大きい(高温)ほどオーステナイト相が不安定であること意味する。Mdの値が50.0℃未満であると、オーステナイト相の安定度が高すぎるため、オーステナイト相を加工誘起マルテンサイト相に変態させ難くなり、所望の強度及び延性が得られない。一方、Mdの値が150.0℃を超えると、オーステナイト相から変態する加工誘起マルテンサイト相の量が多くなるため、過度に高強度化してしまい、所望の延性が得られない。
【0041】
本発明の実施形態に係る二相ステンレス鋼材は、下記式(2)で示されるDFの値が、50.0~80.0、好ましくは52.0~79.0、更に好ましくは54.0~78.0である。
DF=7.2(Cr+0.88Mo+0.78Si)-8.9(Ni+0.03Mn+0.72Cu+22C+21N)-44.9 ・・・ (2)
式(2)中、元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す。
ここで、DFは、フェライト相の量を表す指標である。そのため、100-DFは、オーステナイト相の量を意味する。ただし、DFは元素の含有量に基づいて決定される指標であるため、実際に測定されるオーステナイト相の量とは一致しないことに留意すべきである。DFの値が50.0未満であると、過度に高強度化してしまい、所望の延性が得られ難い。一方、DFの値が80.0を超えると、フェライト相の割合が高くなるため、所望の延性が得られ難い。
【0042】
本発明の実施形態に係る二相ステンレス鋼材は、オーステナイト相が好ましくは25~49体積%、より好ましくは26~48体積%である金属組織を有する。オーステナイト相が25体積%未満であると、フェライト相の割合が高くなるため、所望の延性が得られない。一方、オーステナイト相が49体積%を超えると、過度に高強度化してしまい、所望の延性が得られない。
ここで、本明細書において、二相ステンレス鋼材中のオーステナイト相の割合は、EBSD(後方散乱電子回折)測定を用いて求めることができる。具体的には、二相ステンレス鋼材の圧延方向に平行な厚み方向断面を鏡面研磨した試料を用いてEBSD測定を行う。このEBSD測定で得られたデータについて、解析ソフトを用いて相比マップを作成し、フェライト相とオーステナイト相を分離し、オーステナイト相の割合を求めればよい。
【0043】
オーステナイト相は、上記式(1)で示されるMdの値が好ましくは57~90℃、より好ましくは58~89℃、更に好ましくは59~88℃である。オーステナイト相のMdの値が57℃未満であると、オーステナイト相を加工誘起マルテンサイト相に変態させ難くなり、所望の強度及び延性が得られない。一方、オーステナイト相のMdの値が90℃を超えると、オーステナイト相から変態する加工誘起マルテンサイト相の量が多くなるため、過度に高強度化してしまい、所望の延性が得られない。
ここで、本明細書において、オーステナイト相のMdの算出に用いられるオーステナイト相中の各元素の含有量は、EPMA(電子線プローブマイクロアナライザー)によって測定することができる。具体的には、圧延方向に平行な二相ステンレス鋼材の厚み方向断面を鏡面研磨した試料を用い、EPMAによって定性分析を行う。C及びNは、オーステナイト相に濃化する特徴があるため、断面全体についてC又はNの定性マッピングを行ってオーステナイト相を特定する。そして、フェライト相に電子ビームが当たらないようにしてオーステナイト相のほぼ中心部において、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、Cu及びMoを定量分析する。定量分析は3点以上で行い、その平均値を各元素の含有量の結果とする。
【0044】
本発明の実施形態に係る二相ステンレス鋼材は、0.2%耐力が500MPa以上であることが好ましく、510MPa以上であることがより好ましい。このような範囲の0.2%耐力であれば、二相ステンレスの強度が優れるということができる。なお、0.2%耐力の上限値は、特に限定されないが、一般的に800MPa、好ましくは700MPaである。
ここで、二相ステンレス鋼材の0.2%耐力は、JIS Z2241:2011に準拠して測定することができる。
【0045】
本発明の実施形態に係る二相ステンレス鋼材は、均一伸びが30%以上であることが好ましく、31%以上であることがより好ましい。このような範囲の均一伸びであれば、従来の二相ステンレス鋼材に比べて延性に優れるということができる。なお、均一伸びの上限値は、特に限定されないが、一般的に50%、好ましくは48%、より好ましくは45%である。
ここで、二相ステンレス鋼材の均一伸びは、JIS Z2241:2011に準拠して測定することができる。なお、均一伸びは、最大引張荷重に対する永久伸びとして求められる。
【0046】
本発明の実施形態に係る二相ステンレス鋼材は、溶接を行った際に溶接部の孔食電位Vc’100が280mV以上であることが好ましく、290mV以上であることがより好ましい。このような範囲の溶接部の孔食電位Vc’100であれば、溶接部の耐食性に優れるということができる。なお、溶接部の孔食電位Vc’100の上限値は、特に限定されないが、一般的に500mV、好ましくは450mVである。
ここで、孔食電位Vc’100は、JIS G0577:2014に準拠して測定することができる。具体的には、孔食電位Vc’100は、溶接部の表面を粒度#500の研磨剤で研磨し、30℃、1kmol/LのNaCl水溶液中で当該研磨面を評価面として測定されるVc’100(Vv.s.AG-AGCL)である。また、溶接部は、溶接ビードから10mm以内の領域のことを意味する。この範囲の領域であれば熱影響部(HAZ)の特性を評価することができる。
【0047】
本発明の実施形態に係る二相ステンレス鋼材は、熱延材であっても冷延材であってもよい。また、熱延材又は冷延材には焼鈍や酸洗が施されていてもよい。
【0048】
本発明の実施形態に係る二相ステンレス鋼材の厚みは、用途に応じて適宜調整すればよく特に限定されないが、一般的に5.0mm以下、好ましくは4.0mm以下、より好ましくは3.0mm以下である。なお、二相ステンレス鋼材が棒状の場合、厚みは断面の円相当径を意味する。また、二相ステンレス鋼材が形鋼の場合、厚みは断面の任意の箇所の厚みのことを意味する。
【0049】
本発明の実施形態に係る二相ステンレス鋼材の製造方法は、上記の特徴を有する二相ステンレス鋼材を製造可能な方法であれば特に限定されない。
以下、本発明の実施形態に係る二相ステンレス鋼材の製造方法の一例について説明する。
本発明の実施形態に係る二相ステンレス鋼材は、上記の組成を有するステンレス鋼を真空溶解で溶製して鋼スラブとした後、熱間圧延して焼鈍し、次いで冷間圧延及び仕上焼鈍を行うことによって製造することができる。この製造方法では、熱処理(熱間圧延後の焼鈍、及び仕上焼鈍)の条件を制御することが鍵となる。
【0050】
二相ステンレス鋼材において、オーステナイト相の割合及びMdを所定の範囲に制御するためには、熱処理(焼鈍)の条件(昇温速度、到達温度、保持時間及び冷却速度)を制御する必要がある。これらの条件はいずれも炭素及び窒素の固溶状態に影響する。また、到達温度は熱力学的なオーステナイト量の変動に影響する。さらに、到達温度及び保持時間の制御は、組織全体を十分に再結晶させることも目的としている。
炭素及び窒素の固溶は、オーステナイト相の割合(生成量)及びMdに影響を与えるため、炭化物や窒化物として多く存在すると、オーステナイト相の割合及びMdを所定の範囲に制御できなくなる。そこで、熱処理(焼鈍)工程において、昇温及び冷却中の炭化物や窒化物の析出を抑制しつつ、到達温度での保持によって未固溶の炭化物や窒化物を十分に溶解させる必要がある。また、オーステナイト相の割合によってオーステナイト相を構成する元素(特に、炭素及び窒素)の濃度が変化し、それに由来するMdが変動するため、到達温度を調整してオーステナイト相の割合を制御する必要もある。
【0051】
熱間圧延の条件は、特に限定されず、常法に準じて行えばよい。
熱間圧延後の焼鈍は、昇温速度を20℃/秒以上とし、1050~1150℃の到達温度で10秒以上保持した後、20℃/秒以上の冷却速度で400℃以下まで冷却する。このような条件で焼鈍を行うのは、熱間圧延後の冷却中に析出した炭化物及び窒化物を十分に固溶し、且つ焼鈍後の冷却過程での炭化物及び窒化物の析出を抑制するためである。特に、到達温度が1050℃より低いと、炭化物及び窒化物の固溶が不十分となり、オーステナイト相の割合も多くなり過ぎる。また、到達温度が1150℃より高いと、炭化物及び窒化物が十分に固溶するものの、オーステナイトの割合が少なくなり過ぎる。さらに、フェライト相中にも一定量の炭素や窒素が固溶し、固溶限が小さなフェライト相で冷却中に析出物を形成して耐食性を劣化させる恐れもある。
【0052】
冷間圧延の条件は、特に限定されないが、圧延率を50~90%とすることが好ましい。圧延率を50%以上とするのは、炭化物や析出物を破砕又は伸展させて表面積を拡大することにより、熱処理での固溶を促進することができるためである。また、圧延率を90%以下とするのは、過度な圧延による耳切れを抑制するためである。この効果を安定して得る観点から、圧延率は85%以下がより好ましい。
冷間圧延を2回以上行う場合、それぞれの冷間圧延の間で中間焼鈍を行ってもよい。中間焼鈍を行う場合、その条件は、熱間圧延後の焼鈍条件に準じて行えばよい。
【0053】
仕上焼鈍の条件は、昇温速度を20℃/秒以上とし、1040~1120℃の到達温度で5秒以上保持した後、30℃/秒以上の冷却速度で850℃以下まで冷却し、20℃/秒以上の冷却速度で400℃以下まで冷却する。このような条件で仕上焼鈍を行うのは、昇温中の炭化物及び窒化物の析出抑制、再結晶の完了、炭化物及び窒化物の固溶、オーステナイト相の割合の制御、冷却中のオーステナイト相の割合の変動抑制、並びに炭化物及び窒化物の再析出抑制のためである。
【0054】
本発明の実施形態に係る二相ステンレス鋼材は、SUS304などの汎用オーステナイト系ステンレス鋼材に比べて高強度であり、耐食性も優れている。また、従来のフェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材に比べて溶接部の耐食性に優れ、延性も良好である。したがって、この二相ステンレス鋼材は、これらの特性が要求される様々な用途で用いることができる。
【実施例0055】
以下に、実施例を挙げて本発明の内容を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
【0056】
二相ステンレス鋼材として冷延焼鈍板を作製した。具体的には、表1に示す鋼種の組成(残部はFe及び不純物である)を有するステンレス鋼を真空溶解で溶製して鋼スラブとした後、常法に従って熱間圧延して焼鈍した。焼鈍は、昇温速度を30℃/秒とし、1100℃の到達温度で180秒保持した後、25℃/秒の冷却速度で400℃以下まで冷却した。次に、焼鈍後の熱延板を圧延率80%で冷間圧延した後、仕上焼鈍を行い、厚みが1.0mmの冷延焼鈍板を得た。仕上焼鈍は、昇温速度を30℃/秒とし、1080℃の到達温度で30秒保持した後、30℃/秒の冷却速度で850℃以下まで冷却し、25℃/秒の冷却速度で400℃以下まで冷却した。なお、表1において、Md及びDFの値は、各元素の含有量に基づいて算出した。
【0057】
【表1】
【0058】
上記で得られた冷延焼鈍板について、以下の評価を行った。
【0059】
<二相ステンレス鋼材中のオーステナイト相(γ相)の割合>
冷延焼鈍板から試験片を切り出した後、圧延方向に平行な厚み方向断面を鏡面研磨してEBSD(後方散乱電子回折)測定を行った。EBSD測定は、走査電子顕微鏡で測定ソフトTSL OIM Data Collection7(株式会社TSLソリューションズ)を用い、試験片の厚み方向中心部において200μm角の領域をステップサイズ0.3μmで測定した。次に、EBSD測定で得られたデータについて、解析ソフトTSL OIM Analysis7(株式会社TSLソリューションズ)を用いて相比マップを作成し、フェライト相とオーステナイト相を分離した。そして、観察領域全体に占めるオーステナイト相の割合を求めた。
【0060】
<オーステナイト相(γ相)のMd>
冷延焼鈍板から試験片を切り出した後、圧延方向に平行な厚み方向断面を鏡面研磨してEPMA(電子線プローブマイクロアナライザー)による成分分析を行った。具体的には、C及びNは、オーステナイト相に濃化する特徴があるため、断面全体についてC又はNの定性マッピングを行ってオーステナイト相を特定した。次に、フェライト相に電子ビームが当たらないようにしてオーステナイト相のほぼ中心部において、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、Cu及びMoを定量分析した。測定領域は約2μm角の領域とし、各試験片において3点以上測定し、その平均値を各元素の含有量の結果とした。また、EPMAの測定は、加速電圧15kV、電流0.2μA、ステップサイズ0.15μmの条件とした。このようにして得られた各元素の含有量に基づいてオーステナイト相のMdを算出した。
【0061】
<0.2%耐力及び均一伸び>
冷延焼鈍板から平行部が圧延方向となるようにJIS 13B号試験片を切り出し、この試験片を用いてJIS Z2241:2011に準拠して引張試験を行った。引張試験は、大気雰囲気下、室温(25℃)にて引張速度10mm/分の条件で実施した。引張試験では、最高到達強度(引張強さ)までの伸びを均一伸びとした。この評価において、0.2%耐力が500MPa以上であれば強度が優れるということができ、また、均一伸びが30%以上であれば延性が優れるということができる。
【0062】
<溶接部の孔食電位Vc’100>
2つの冷延焼鈍板の端面に開先部を設け、溶加材を用いることなく突き合わせ溶接を行った。溶接は、溶接電流120A、溶接速度80cm/分の条件でTIG溶接を行った。
次に、溶接部の表面を粒度#500の研磨剤で研磨し、30℃、1kmol/LのNaCl水溶液中で当該研磨面を評価面として孔食電位Vc’100(Vv.s.AG-AGCL)を測定した。評価を行った溶接部の研磨面は、溶接ビードを中心とした両側の2つ領域(各領域は、溶接ビードが延びる方向に直交する長さが10mm、溶接ビードが延びる方向に平行な長さが10mmの領域)とした。この評価において、孔食電位Vc’100が280mV以上であれば、溶接部の耐食性が優れるということができる。
【0063】
上記の評価結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
表2に示されるように、実施例1~7は、冷延焼鈍板(二相ステンレス鋼材)の組成、Md及びDFを所定の範囲に制御しているため、0.2%耐力(強度)、均一伸び(延性)及び溶接部の孔食電位Vc’100(溶接部の耐食性)の結果が全て良好であった。
これに対して比較例1及び4は、Siの含有量が少なすぎたため、0.2%耐力(強度)が不十分であった。また、比較例4は、均一伸び(延性)も不十分であった。
比較例2及び3は、Cの含有量、及びC+Nの合計量が多すぎるとともに、Mdが低すぎたため、均一伸び(延性)及び溶接部の孔食電位Vc’100(溶接部の耐食性)が十分でなかった。
比較例5は、Mdが高すぎたため、加工誘起マルテンサイト相の量が多くなった結果、均一伸び(延性)が不十分であった。また、比較例5は、0.2%耐力(強度)も不十分であった。
比較例6は、C+Nの合計量が多すぎたため、均一伸び(延性)及び溶接部の孔食電位Vc’100(溶接部の耐食性)が不十分であった。
比較例7は、DFが高すぎてしまい、フェライト相の割合が多すぎたため、均一伸び(延性)が不十分であった。
【0066】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、強度及び延性に加えて溶接部の耐食性にも優れるフェライト・オーステナイト系二相ステンレス鋼材を提供することができる。