(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110327
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】積層鉄心、積層鉄心の製造方法及び変圧器
(51)【国際特許分類】
H01F 27/245 20060101AFI20240807BHJP
H01F 27/33 20060101ALI20240807BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20240807BHJP
H01F 30/10 20060101ALI20240807BHJP
H01F 30/12 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
H01F27/245 150
H01F27/33
H01F41/02 B
H01F30/10 A
H01F30/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014857
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203264
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 未久
(72)【発明者】
【氏名】清水 建樹
(72)【発明者】
【氏名】末廣 龍一
(72)【発明者】
【氏名】寺島 敬
【テーマコード(参考)】
5E058
5E062
【Fターム(参考)】
5E058AA27
5E062AC05
5E062AC20
(57)【要約】
【課題】変圧器の鉄損の増加を抑制しつつ、変圧器の騒音を低減させる積層鉄心を提供する。
【解決手段】積層鉄心1は、複数の鋼板10が積層された積層鉄心1であって、ヨーク部2及び脚部3を備える。鋼板10は、ヨーク部2に含まれる第1鋼板部材11,12と、脚部3に含まれる第2鋼板部材13,14,15とを含む。第1鋼板部材11,12の表面の最大山高さRpに対する第2鋼板部材13~15の表面の最大山高さRpの比率は、1を超える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鋼板が積層された積層鉄心であって、ヨーク部及び脚部を備え、
前記鋼板は、前記ヨーク部に含まれる第1鋼板部材と、前記脚部に含まれる第2鋼板部材とを含み、
前記第1鋼板部材の表面の最大山高さRpに対する前記第2鋼板部材の表面の最大山高さRpの比率は、1を超える、積層鉄心。
【請求項2】
前記第1鋼板部材の表面の最大山高さRpに対する前記第2鋼板部材の表面の最大山高さRpの比率は、1.15以上である、請求項1に記載の積層鉄心。
【請求項3】
前記第1鋼板部材の表面の最大山高さRpに対する前記第2鋼板部材の表面の最大山高さRpの比率は、1.15以上、且つ1.45以下である、請求項1に記載の積層鉄心。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の積層鉄心の製造方法であって、前記第2鋼板部材に対して又は前記第2鋼板部材を形成する前の鋼板に対して、化学研磨、ショットブラスト又はエメリー研磨を実施する、積層鉄心の製造方法。
【請求項5】
請求項1から3までの何れか一項に記載の積層鉄心を備える、変圧器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層鉄心、積層鉄心の製造方法及び変圧器に関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器に用いられる鉄心には、様々なことが要求される。その中でも、変圧器の騒音を低減させることは、強く要求される。そこで、積層鉄心において、変圧器の騒音を低減させる手法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、積層鉄心の積層端面に樹脂等の接着剤を塗布することにより、変圧器の騒音を低減させている。しかしながら、積層端面に樹脂等の接着剤を塗布すると、積層鉄心の占積率が低下してしまう場合がある。積層鉄心の占積率が低下すると、変圧器の鉄損が増加してしまう場合がある。
【0005】
かかる点に鑑みてなされた本開示の目的は、変圧器の鉄損の増加を抑制しつつ、変圧器の騒音を低減させる積層鉄心、積層鉄心の製造方法及び変圧器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態に係る(1)積層鉄心は、
複数の鋼板が積層された積層鉄心であって、ヨーク部及び脚部を備え、
前記鋼板は、前記ヨーク部に含まれる第1鋼板部材と、前記脚部に含まれる第2鋼板部材とを含み、
前記第1鋼板部材の表面の最大山高さRpに対する前記第2鋼板部材の表面の最大山高さRpの比率は、1を超える。
【0007】
(2)上記(1)の積層鉄心において、
前記第1鋼板部材の表面の最大山高さRpに対する前記第2鋼板部材の表面の最大山高さRpの比率は、1.15以上であってもよい。
【0008】
(3)上記(1)又は(2)の積層鉄心において、
前記第1鋼板部材の表面の最大山高さRpに対する前記第2鋼板部材の表面の最大山高さRpの比率は、1.15以上、且つ1.45以下であってもよい。
【0009】
本開示の一実施形態に係る(4)積層鉄心の製造方法は、
上記(1)から(3)までの何れか1つの積層鉄心の製造方法であって、前記第2鋼板部材に対して又は前記第2鋼板部材を形成する前の鋼板に対して、化学研磨、ショットブラスト又はエメリー研磨を実施する。
【0010】
本開示の一実施形態に係る(5)変圧器は、
上記(1)から(3)までの何れか1つの積層鉄心を備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一実施形態によれば、変圧器の鉄損の増加を抑制しつつ、変圧器の騒音を低減させる積層鉄心、積層鉄心の製造方法及び変圧器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の一実施形態に係る積層鉄心の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示に係る実施形態について、図面を参照して説明する。各図面は、模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。
【0014】
(積層鉄心の構成)
本実施形態に係る変圧器は、
図1に示すような積層鉄心1を備える。積層鉄心1は、三相三脚変圧器に用いることができる。積層鉄心1は、ヨーク部2A,2Bと、脚部3A,3B,3Cとを備える。
【0015】
以下、ヨーク部2A,2Bを特に区別しない場合、これらは、単に「ヨーク部2」とも記載される。脚部3A,3B,3Cを特に区別しない場合、これらは、単に「脚部3」とも記載される。
【0016】
本実施形態に係る積層鉄心1は、3つの脚部3を備える。ただし、積層鉄心1が備える脚部3の数は、3つに限定されない。積層鉄心1は、積層鉄心1が用いられる変圧器の種類及び構成に応じて、任意の数の脚部3を備えてよい。他の例として、積層鉄心1が三相五脚変圧器に用いられる場合、積層鉄心1は、5つの脚部3を備えてよい。さらに他の例として、積層鉄心1が単相変圧器に用いられる場合、積層鉄心1は、2つの脚部3を備えてよい。
【0017】
脚部3には、コイルが巻かれる。ヨーク部2Aは、脚部3A~3Cの一方の端部を連結する。ヨーク部2Bは、脚部3A~3Cの他方の端部を連結する。
【0018】
積層鉄心1は、積層された複数の鋼板10を含む。
図1では、積層鉄心1は、積層された5つの鋼板10を含む例が示されている。ただし、積層鉄心1は、積層鉄心1が用いられる変圧器の用途等に応じて、任意の数の鋼板10を含んでよい。
【0019】
鋼板10の材料は、例えば、方向性電磁鋼板である。方向性電磁鋼板は、鉄の磁化容易軸である<001>方位が鋼板の圧延方向に高度にそろった結晶組織を有する。ただし、鋼板10の材料は、任意の材料であってよい。他の例として、鋼板10の材料は、磁場の強さ800[A/m]で励磁した際の磁束密度B8が任意の値となる電磁鋼板であってもよいし、励磁した際の鉄損が任意の値となる鋼板であってもよい。磁場の強さ800[A/m]は、電磁鋼板中の結晶粒の方位集積度を測定する指標である。さらに他の例として、鋼板10の材料は、磁区細分化の処理が実施された鋼板であってもよい。磁区細分化の処理は、例えば、鋼板表面に対して、電解エッチング、歯車ロール又はレーザーエッチング等の処理を実施することにより、鋼板表面に溝を形成する処理である。さらに他の例として、鋼板10の材料は、後述の最大山高さRpを大きくするための表面処理の前後において、レーザー、電子ビーム又はプラズマジェット等による熱歪が導入された非耐熱磁区細分化材であってもよい。
【0020】
鋼板10の外形は、長方形である。鋼板10は、
図2に示すように、第1鋼板部材11,12と、第2鋼板部材13,14,15を有する。以下、第1鋼板部材11,12を特に区別しない場合、これらは、単に「第1鋼板部材」とも記載される。以下、第2鋼板部材13~15を特に区別しない場合、これらは、単に「第2鋼板部材」とも記載される。
【0021】
第1鋼板部材11は、積層鉄心1のヨーク部2Aに含まれる。第1鋼板部材11が延在する延在方向は、ヨーク部2Aにおける磁化方向に対応する。第1鋼板部材11は、方向性電磁鋼板の<001>方位が第1鋼板部材11の延在方向に対応するように形成される。第1鋼板部材11は、接合部11A,11B,11Eを含む。接合部11Aは、第1鋼板部材11の延在方向に対して傾斜する傾斜形状を有する。接合部11Bは、第1鋼板部材11の延在方向に対して傾斜する傾斜形状を有する。接合部11Aが有する傾斜形状と接合部11Bが有する傾斜形状とは、線対称である。接合部11Eは、V形状を有する。
【0022】
第1鋼板部材12は、積層鉄心1のヨーク部2Bに含まれる。第1鋼板部材12が延在する延在方向は、ヨーク部2Bにおける磁化方向に対応する。第1鋼板部材12は、方向性電磁鋼板の<001>方位が第1鋼板部材12の延在方向に対応するように形成される。第1鋼板部材12は、接合部12C,12D,12Fを含む。接合部12Cは、第1鋼板部材12の延在方向に対して傾斜する傾斜形状を有する。接合部12Dは、第1鋼板部材12の延在方向に対して傾斜する傾斜形状を有する。接合部12Cが有する傾斜形状と接合部12Dが有する傾斜形状とは、線対称である。接合部12Fは、V形状を有する。
【0023】
第2鋼板部材13は、積層鉄心1の脚部3Aに含まれる。第2鋼板部材13が延在する延在方向は、脚部3Aにおける磁化方向に対応する。第2鋼板部材13は、方向性電磁鋼板の<001>方位が第2鋼板部材13の延在方向に対応するように形成される。第2鋼板部材13は、接合部13A,13Dを含む。接合部13Aは、第2鋼板部材13の延在方向に対して傾斜する傾斜形状を有する。接合部13Dは、第2鋼板部材13の延在方向に対して傾斜する傾斜形状を有する。接合部13Aが有する傾斜形状と接合部13Dが有する傾斜形状とは、線対称である。
【0024】
第2鋼板部材14は、積層鉄心1の脚部3Bに含まれる。第2鋼板部材14が延在する延在方向は、脚部3Bにおける磁化方向に対応する。第2鋼板部材14は、方向性電磁鋼板の<001>方位が第2鋼板部材14の延在方向に対応するように形成される。第2鋼板部材14は、接合部14E,14Fを含む。接合部14E,14Fは、V形状を有する。接合部14Eが有する形状と接合部11Eが有する形状とは、略同一形状である。接合部14Fが有する形状と接合部12Fが有する形状とは、略同一形状である。
【0025】
第2鋼板部材15は、積層鉄心1の脚部3Cに含まれる。第2鋼板部材15が延在する延在方向は、脚部3Cにおける磁化方向に対応する。第2鋼板部材15は、方向性電磁鋼板の<001>方位が第2鋼板部材15の延在方向に対応するように形成される。第2鋼板部材15は、接合部15B,15Cを含む。接合部15Bは、第2鋼板部材15の延在方向に対して傾斜する傾斜形状を有する。接合部15Cは、第2鋼板部材15の延在方向に対して傾斜する傾斜形状を有する。接合部15Bが有する傾斜形状と接合部15Cが有する傾斜形状とは、線対称である。
【0026】
鋼板10の組み立てでは、接合部11Aと接合部13Aとが突き合わされ、接合部11Bと接合部15Bとが突き合わされ、接合部15Cと接合部12Cとが突き合わされ、接合部12Dと接合部13Dとが突き合わされる。また、鋼板10の組み立てでは、接合部11Eと接合部14Eとが突き合わされ、接合部12Fと接合部14Fとが突き合わされる。接合部11A,13A等は、接着剤等を介さずに、突き合わされてよい。接合部11A,13A等が接着剤等を介さずに突き合わされることにより、接合部11A,13A等が接着剤等を介して突き合わされる場合よりも、積層鉄心1における鋼板10の占積率を高くすることができる。
【0027】
複数の鋼板10は、接着剤等を介さずに積層される。複数の鋼板10が接着剤等を介さずに積層されることにより、複数の鋼板10が接着剤等を介して積層される場合よりも、積層鉄心1における鋼板10の占積率を高くすることができる。複数の鋼板10は、任意の方式で積層されてよい。例えば、複数の鋼板10は、突き合わされる接合部11A,13A等においてステップラップ形式で、積層されてよい。
【0028】
本実施形態に係る積層鉄心1では、第1鋼板部材の表面の最大山高さRpに対する第2鋼板部材の表面の最大山高さRpの比率は、1を超える。最大山高さRpは、表面粗さの指標の1つである。本実施形態において、最大山高さRpは、基準長さにおける輪郭曲線の中で最も高い山である。山とは、平均線よりも高い部分である。本実施形態では、最大山高さRpは、JIS B0601:2001(ISO 4287:1997)の規格の最大山高さRpを意味する。第2鋼板部材の表面の最大山高さRpの最小値は、好適には、後述の表6に示すように、14.0[μm]である。
【0029】
このように本実施形態に係る積層鉄心1では、第1鋼板部材の表面の最大山高さRpに対する第2鋼板部材の表面の最大山高さRpの比率が1を超えることにより、第2鋼板部材の表面は、第1鋼板部材の表面よりも粗くなる。このように脚部3に含まれる第2鋼板部材の表面が粗くなることにより、積層鉄心1における複数の第2鋼板部材間の摩擦力を大きくすることができる。積層鉄心1における複数の第2鋼板部材間の摩擦力を大きくすることにより、複数の鋼板10を接着剤等を介さずに積層させても、積層鉄心1において複数の鋼板10が横滑りしにくくなる。積層鉄心1において複数の鋼板10が横滑りしにくくなることにより、積層鉄心1の剛性を高めることができる。積層鉄心1の剛性を高めることにより、積層鉄心1の固有振動を低減させることができる。ここで、積層鉄心1の固有振動とは、積層鉄心1が1つの構造体として特定の周波数で振動することである。したがって、本実施形態では、積層鉄心1の固有振動を低減させることにより、積層鉄心1を備える変圧器の騒音を低減させることができる。さらに、本実施形態に係る積層鉄心1では、複数の鋼板10を接着剤等を介さずに積層させることにより、積層鉄心1における鋼板10の占積率を高くすることができる。積層鉄心1における鋼板10の占積率を高くすることにより、積層鉄心1を備える変圧器の鉄損の増加を抑制することができる。
【0030】
さらに、本実施形態に係る積層鉄心1を備える変圧器では、脚部3には、コイルが巻かれる。そのため、脚部3は、部品等によって締め付けられない。これに対し、ヨーク部2は、クランプ又はブラケット等の部品によって締め付けられる。このようにヨーク部2が締め付けられることにより、第1鋼板部材の最大山高さRpを大きくしなくても、積層鉄心1における複数の鋼板10が横滑りしにくくなる。本実施形態では、第1鋼板部材の表面の最大山高さRpを第2鋼板部材の表面の最大山高さRpよりも大きくしないことにより、変圧器の鉄損の増加を抑制することができる。つまり、本実施形態では、第1鋼板部材の表面の最大山高さRpに対する第2鋼板部材の表面の最大山高さRpの比率が1を超えることにより、変圧器の鉄損の増加を抑制することができる。
【0031】
よって、本実施形態に係る積層鉄心1では、第1鋼板部材の表面の最大山高さRpに対する第2鋼板部材の表面の最大山高さRpの比率が1を超えることにより、積層鉄心1を備える変圧器の鉄損の増加を抑制しつつ、当該変圧器の騒音を低減させることができる。この効果については、実験2の結果も参照されたい。
【0032】
(実験1:横滑り)
鉄心材料である鋼板の最大山高さRpと横滑りとの関係について実験した。鉄心材料としてリン塩酸系絶縁被膜付きの方向性電磁鋼板を用いた。この方向性電磁鋼板は、公知の方法を用いて作製されたものである。この方向性電磁鋼板を長方形状の鋼板部材に分割した。この長方形状の鋼板部材は、幅方向のサイズが30[mm]であり、長さ方向のサイズが280[mm]であり、厚さ方向のサイズが0.23[mm]である。分割後の一部の鋼板部材に対して表面を荒らすための表面処理を実施した。表面処理は、鋼板部材を1[mol/L]の水酸化ナトリウム水溶液に2分間浸漬させる処理とした。これにより、表面処理を実施した鋼板部材と、表面処理を実施しない表面未処理の鋼板部材とを準備した。
【0033】
表面処理を実施した鋼板部材及び表面未処理の鋼板部材のそれぞれを積層させ、表面処理を実施した鋼板部材による積層体と、表面未処理の鋼板部材による積層体とを準備した。この2つの積層体のそれぞれの積層数は、70層とした。この2つの積層体について、横滑りのしやすさを測定した。測定方法としては、積層体を水平の台に載せ、その台を水平に対して1度ずつ最大90度まで傾けていき、積層体中の鋼板部材が動き出した角度を測定する方法を採用した。この測定方法では、積層体中の鋼板部材が動き出したときの台の角度が90度に近いほど、その積層体は、横滑りしにくいと言える。実験では、積層体が1つの剛体として振る舞い、積層体が横滑りをせずにそのまま動き出すことを防ぐために、積層体の1/2の高さのストッパーを台上に設けた。
【0034】
表1に、実験1の結果を示す。鋼板部材の表面の最大山高さRpは、株式会社キーエンス製レーザ顕微鏡VK-X100を用いた表面粗さ測定により測定した。
【0035】
【0036】
表1に示すように、表面未処理の鋼板部材の最大山高さRpは、12.2[μm]であった。表面未処理の鋼板部材による積層体中の鋼板部材が動き出した角度は、35度であった。また、表面処理を実施した鋼板部材の最大山高さRpは、16.5[μm]であった。表面処理を実施した鋼板部材による積層体中の鋼板部材が動き出した角度は、48度であった。
【0037】
以上の実験1の結果から、発明者らは、表面処理によって表面を荒らした鋼板部材による積層体の方が、表面未処理の鋼板部材による積層体よりも、横滑りしにくいとの知見を得た。
【0038】
(実験2:変圧器の騒音及び鉄損)
実験2では、積層鉄心を備える変圧器の騒音及び鉄損を測定した。まず、表2に示す条件1から4の鋼板部材を用いて積層鉄心を組み立てた。この鋼板部材は、ヨーク部に含まれる第1鋼板部材と、脚部に含まれる第2鋼板部材とを含む。表面処理は、実験1と同じく、1[mol/L]の水酸化ナトリウム水溶液に2分間浸漬させる処理とした。積層鉄心の組み立てでは、条件1から条件4の鋼板部材を70層、ラップ長さ2[mm]の2枚組の5層ステップラップ形式で積層した。
【0039】
【0040】
条件1では、全ての鋼板部材すなわち第1鋼板部材及び第2鋼板部材に対して、表面処理を実施しなかった。つまり、全ての鋼板部材は、表面未処理である。
【0041】
条件2では、全ての鋼板部材すなわち第1鋼板部材及び第2鋼板部材に対して、表面処理を実施した。
【0042】
条件3では、ヨーク部に含まれる第1鋼板部材に対して表面処理を実施し、脚部に含まれる第2鋼板部材に対して表面処理を実施しなかった。
【0043】
条件4では、脚部に含まれる第2鋼板部材に対して表面処理を実施し、ヨーク部に含まれる第1鋼板部材に対しては表面処理を実施しなかった。
【0044】
条件1から4の鋼板部材のサイズは、表3に示すようなサイズとした。高さaは、
図2に示すように、積層鉄心の高さである。幅bは、
図2に示すように、積層鉄心の幅である。長さcは、
図2に示すように、2つの脚部の間の隙間の高さである。間隔dは、
図2に示すように、2つの脚部の間隔である。長さeは、中央部の第2鋼板部材の長さである。角度fは、接合部が第1鋼板部材の延在方向に対して傾斜する角度である。厚さは、鋼板の厚さである。つまり、条件1から4の鋼板部材では、高さaを500[mm]、幅bを500[mm]、長さcを300[mm]、間隔dを100[mm]、長さeを400mm、角度fを45度、厚さを0.23[mm]とした。
【0045】
【0046】
積層鉄心の組み立て後、ヨーク部の表面及び裏面に当て板を当て、その上からクランプで0.2[МPa]の圧力が均一にかかるように締め付けた。脚部については、脚部にコイルを巻く妨げにならないように、脚部に硝子テープを巻くことにより脚部を固定した。3つの脚部のそれぞれに50ターンの1次コイルと2次コイルとを1本ずつ巻き、三相三脚変圧器用の積層鉄心とした。この積層鉄心に対して周波数50[Hz]で励磁最大磁束密度1.7[T]の条件で三相励磁を行い、変圧器の騒音及び鉄損を測定した。
【0047】
変圧器の騒音測定では、積層鉄心を囲み、且つ等間隔に位置する8か所で騒音を測定した。この8か所は、積層鉄心の高さの1/2の高さで、積層鉄心の表面から30[cm]離れて位置する。この8か所の平均値を変圧器の騒音とした。
【0048】
変圧器の鉄損測定では、三相励磁中の1次電流及び2次電圧を電力計で測定して無負荷損失を計算した。さらに、その無負荷損失を積層鉄心の重量で除算することにより、変圧器の鉄損を算出(測定)した。
【0049】
表4に、実験2の結果を示す。鋼板部材の表面の最大山高さRpは、実験1と同じく、株式会社キーエンス製レーザ顕微鏡VK-X100を用いた表面粗さ測定により測定した。
【0050】
【0051】
条件1では、第1銅板部材の表面の最大山高さRpは、12.4[μm]であった。第2鋼板部材の表面の最大山高さRpは、12.2[μm]であった。変圧器の騒音は、62.2[dBA]であった。変圧器の鉄損は、1.02[W/kg]であった。
【0052】
条件2では、第1鋼板部材の表面の最大山高さRpは、16.7[μm]であった。第2鋼板部材の表面の最大山高さRpは、16.5[μm]であった。変圧器の騒音は、57.3[dBA]であった。変圧器の鉄損は、1.10[W/kg]であった。
【0053】
条件3では、第1鋼板部材の表面の最大山高さRpは、16.5[μm]であった。第2鋼板部材の表面の最大山高さRpは、12.2[μm]であった。変圧器の騒音は、62.0[dBA]であった。変圧器の鉄損は、1.11[W/kg]であった。
【0054】
条件4では、第1鋼板部材の表面の最大山高さRpは、12.3[μm]であった。第2鋼板部材の表面の最大山高さRpは、16.8[μm]であった。変圧器の騒音は、57.5[dBA]であった。変圧器の鉄損は、1.01[W/kg]であった。
【0055】
条件2から条件4では、条件1よりも、変圧器の騒音が低減された。この結果から、鋼板部材の表面の最大山高さRpを大きくすることにより、変圧器の騒音を低減可能であることが分かる。ただし、条件3では、条件1と比較して、変圧器の騒音低減の度合いが小さかった。この理由は、ヨーク部が締め付けられることにより、ヨーク部に含まれる第1鋼板部材の最大山高さRpを大きくしなくても、積層鉄心における複数の鋼板が横滑りしにくくなるためである。
【0056】
条件2及び条件3では、条件1よりも、変圧器の鉄損が大きくなった。この結果から、変圧器の鉄損の観点からは、ヨーク部に含まれる第1鋼板部材の最大山高さRpを大きくしない方がよいことが分かる。
【0057】
以上の実験2の結果から、発明者らは、第1鋼板部材の表面の最大山高さRpに対する第2鋼板部材の表面の最大山高さRpの比率が1を超える場合、変圧器の鉄損の増加を抑制しつつ、変圧器の騒音を低減可能であるとの知見を得た。
【0058】
(実験3:変圧器の騒音及び鉄損)
実験3では、第1鋼板部材の表面の最大山高さRpに対する第2鋼板部材の表面の最大山高さRpの好適な比率を評価した。実験3では、第1鋼板部材及び第2鋼板部材の最大山高さRpを変えながら、変圧器の騒音及び鉄損を測定した。積層鉄心に用いる鋼板部材のサイズは、表5に示サイズとした。つまり、高さaを700[mm]、幅bを700[mm]、長さcを420[mm]、間隔dを140[mm]、長さeを560mm、角度fを45度、厚さを0.23[mm]とした。積層鉄心の組み立てでは、表5に示すサイズの鋼板部材を70層、ラップ長さ2[mm]の2枚組の10層ステップラップ形式で積層した。組み立て後、3つの脚部のそれぞれに50ターンの1次コイルと2次コイルとを1本ずつ巻き、三相三脚変圧器用の積層鉄心とした。この積層鉄心に対して周波数50[Hz]で励磁最大磁束密度1.7[T]の条件で三相励磁を行い、変圧器の騒音及び鉄損を測定した。
【0059】
【0060】
表6に、実験3の結果を示す。第1鋼板部材及び第2鋼板部材の表面の最大山高さRpは、実験1と同じく、株式会社キーエンス製レーザ顕微鏡VK-X100を用いた表面粗さ測定により測定した。
【0061】
【0062】
No.1~15では、第1鋼板部材の表面の最大山高さRpは、12.2[μm]であった。No.1~15において、No.1が比較例であり、No.2~15が実施例である。No.2~4(実施例)では、No.1(比較例)と比較すると、最大山高さRpの比率の変化が小さい。そのため、この実験では、No.2~4(実施例)において変圧器の鉄損の増加の抑制及び騒音の低減についての顕著な改善は、見られなかった。しかしながら、第1鋼板部材の表面の最大山高さRpに対する第2鋼板部材の表面の最大山高さRpの比率が1.15以上となるNo.5~15(実施例)では、No.1(比較例)と比較して、変圧器の鉄損の増加の抑制及び騒音の低減についての顕著な改善が、見られた。特に、第1鋼板部材の表面の最大山高さRpに対する第2鋼板部材の表面の最大山高さRpの比率が1.15以上、且つ1.45以下となるNo.5~11(実施例)では、良好な結果を得られた。最大山高さRpの比率が1.45以上であるNo.12~15の結果がNo.5~11の結果よりも悪くなった理由は、第2鋼板部材の表面が表面処理によって荒れてしまったためと考えられる。つまり、No.12~15では、第2鋼板部材の表面が表面処理によって荒れてしまったことにより、第2鋼板部材間の摩擦力が大きくなるよりも、第2鋼板部材間の接触面積が小さくなってしまったためと考えられる。
【0063】
No.16~34では、第1鋼板部材の表面の最大山高さRpは、13.8[μm]であった。No.16~34において、No.16~19が比較例であり、No.20~34が実施例である。No.20~23(実施例)では、No.16(比較例)と比較すると、最大山高さRpの比率の変化が小さい。そのため、この実験3では、No.20~23(実施例)において変圧器の鉄損の増加の抑制及び騒音の低減についての顕著な改善は、見られなかった。しかしながら、第1鋼板部材の表面の最大山高さRpに対する第2鋼板部材の表面の最大山高さRpの比率が1.15以上となるNo.24~34(実施例)では、No.16等(比較例)と比較して、変圧器の鉄損の増加の抑制及び騒音の低減についての顕著な改善が、見られた。特に、第1鋼板部材の表面の最大山高さRpに対する第2鋼板部材の表面の最大山高さRpの比率が1.15以上、且つ1.45以下となるNo.24~32(実施例)では、良好な結果を得られた。最大山高さRpの比率が1.45以上であるNo.33~34の結果がNo.24~32の結果よりも悪くなった理由は、上述したように、第2鋼板部材の表面が表面処理によって荒れてしまったためと考えられる。
【0064】
No.35~45では、第1鋼板部材の表面の最大山高さRpに対する第2鋼板部材の表面の最大山高さRpの比率を1程度に維持した状態で、第1鋼板部材及び第2鋼板部材の最大山高さRpを大きくした。No.35~45において、No.36~45が比較例であり、No.35が実施例である。No.35~45の結果から、当該比率が1程度であると、変圧器の鉄損の増加の抑制及び騒音の低減についての顕著な改善が見られないことが分かる。
【0065】
(積層鉄心の製造方法)
積層鉄心の製造方法について説明する。まず、仕上げ焼鈍後に絶縁被膜が塗布された方向性電磁鋼板を準備する。次に、仕上げ焼鈍後に絶縁被膜が塗布された方向性電磁鋼板から第1鋼板部材及び第2鋼板部材を形成する。第2鋼板部材の形成後、第2鋼板部材に対して表面処理を実施する。表面処理は、第2鋼板部材の最大山高さRpを大きくする処理である。表面処理は、例えば、化学研磨、ショットブラスト又はエメリー研磨等である。一方、第1鋼板部材に対しては表面処理を実施しない。例えば、第1鋼板部材の表面の最大山高さRpに対する第2鋼板部材の最大山高さRpの比率が1.15以上、且つ1.45以下になるように、第2鋼板部材に対して表面処理を実施してよい。第1鋼板部材に対して表面処理を実施せず、第2鋼板部材に対して表面処理を実施することにより、積層鉄心の製造コストを削減することができる。ただし、第2鋼板部材を形成する前の方向性電磁鋼板に対して表面処理を実施してもよい。
【0066】
積層鉄心の製造方法に含まれる他の処理については、公知の処理が採用されてよい。
【0067】
本開示に係る実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。
【符号の説明】
【0068】
1 積層鉄心
10 鋼板
11,12 第1鋼板部材
11A,11B,11E,12C,12D,12F 接合部
13,14,15 第2鋼板部材
13A,13D,14E,14F,15B,15C 接合部
2,2A,2B ヨーク部
3,3A,3B,3C 脚部