(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011034
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】スイッチング電源装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
H02M3/28 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112700
(22)【出願日】2022-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】510123839
【氏名又は名称】ニデックモビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100155712
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 尚
(72)【発明者】
【氏名】高野 将成
(72)【発明者】
【氏名】大元 靖理
(72)【発明者】
【氏名】山上 正寛
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA18
5H730AS17
5H730BB27
5H730CC04
5H730DD04
5H730EE04
5H730EE57
5H730EE59
5H730FD01
5H730FD11
5H730FG12
(57)【要約】
【課題】簡易な構成によって、充電池の劣化を抑制しつつ、安定した充電が可能となる。
【解決手段】スイッチング電源装置(1)は、充電池(5)を充電する直流電力を供給するスイッチング電源装置(1)であって、自装置に供給された交流電力を整流するためのコンデンサ(13)を備え、コンデンサ(13)の等価直列抵抗に関する所定条件が満たされた場合に、充電池(5)への充電を開始する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電池を充電する直流電力を供給するスイッチング電源装置であって、
自装置に供給された交流電力を整流するためのコンデンサを備え、
前記コンデンサの等価直列抵抗に関する所定条件が満たされた場合に、前記充電池への充電を開始する、スイッチング電源装置。
【請求項2】
前記スイッチング電源装置は、
前記コンデンサの電極間におけるリプル電圧の値が所定値未満である場合に前記所定条件が満たされたと判定し、前記充電池への充電を開始する、請求項1に記載のスイッチング電源装置。
【請求項3】
前記スイッチング電源装置は、
前記充電池への充電を開始する前に、前記コンデンサに蓄えられた電荷を放電する処理を1回以上行う、請求項1又は2に記載のスイッチング電源装置。
【請求項4】
前記スイッチング電源装置は、
前記コンデンサに接続された第1回路と、
前記充電池に接続された第2回路と、
前記第1回路から前記第2回路に電力を伝えるトランスとを備え、
前記第1回路は、
前記充電池を充電するための電流が前記第2回路上を流れない範囲の電圧で、前記トランスに電流が流れるように制御することによって前記コンデンサに蓄えられた電荷を放電する、請求項3に記載のスイッチング電源装置。
【請求項5】
前記第1回路は、
スイッチング素子を用いて、前記トランスに電流が流れる時間の割合を制御することによって、前記トランスにかかる電圧を制御する、請求項4に記載のスイッチング電源装置。
【請求項6】
前記コンデンサ、前記第1回路、前記第2回路及び前記トランスは、単一の回路基板上に配置されている、請求項4に記載のスイッチング電源装置。
【請求項7】
前記スイッチング電源装置は、
前記コンデンサの温度を計測する温度計測部を更に備え、
前記温度計測部が計測した温度が所定値以上である場合に、前記所定条件が満たされたと判定し、前記充電池への充電を開始する、請求項1に記載のスイッチング電源装置。
【請求項8】
充電池を充電する直流電力を供給するスイッチング電源装置を制御する方法であって、
前記スイッチング電源装置は、自装置に供給された交流電力を整流するためのコンデンサを備え、
前記コンデンサの等価直列抵抗に関する所定条件が満たされた場合に、前記充電池への充電を開始させる、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スイッチング電源装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、平滑用コンデンサの劣化の予兆を捉えて電源装置の劣化を検知できる劣化検知装置が開示されている。特許文献2では、電解コンデンサの劣化を容易に判別することができる電解コンデンサの劣化検出回路が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-201934号公報
【特許文献2】特開昭63-165770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述のような従来技術は、コンデンサのESR(Equivalent Series Resistance:等価直列抵抗)が高い状態で充電池の充電を開始すると、充電池に印加される電圧の変動幅がリプルの影響によって大きくなり、充電の停止や、充電池の劣化が生じるという問題がある。また、ESR又はリプルを減少させるためにコンデンサを追加した場合には、充電池を充電する装置の製造コストが嵩む要因となるという問題がある。
【0005】
本開示の一態様は、前記の問題に鑑みてなされたものであり、簡易な構成によって、充電池の劣化を抑制しつつ、安定した充電を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するために、本開示の態様1に係るスイッチング電源装置は、充電池を充電する直流電力を供給するスイッチング電源装置であって、自装置に供給された交流電力を整流するためのコンデンサを備え、前記コンデンサの等価直列抵抗に関する所定条件が満たされた場合に、前記充電池への充電を開始する。
【0007】
前記の構成によれば、簡易な構成によって、充電池の劣化を抑制しつつ、安定した充電が可能となる。
【0008】
本開示の態様2に係るスイッチング電源装置は、前記の態様1において、前記コンデンサの電極間におけるリプル電圧の値が所定値未満である場合に前記所定条件が満たされたと判定し、前記充電池への充電を開始する構成としてもよい。
【0009】
前記の構成によれば、リプル電圧の値に基づいて前記所定条件を判定し、充電池の劣化を抑制しつつ、安定した充電が可能となる。
【0010】
本開示の態様3に係るスイッチング電源装置は、前記の態様1又は2において、前記充電池への充電を開始する前に、前記コンデンサに蓄えられた電荷を放電する処理を1回以上行う構成としてもよい。
【0011】
前記の構成によれば、コンデンサを充電及び放電することによって、コンデンサの等価直列抵抗を減少させることができる。
【0012】
本開示の態様4に係るスイッチング電源装置は、前記の態様3において、前記コンデンサに接続された第1回路と、前記充電池に接続された第2回路と、前記第1回路から前記第2回路に電力を伝えるトランスとを備え、前記第1回路は、前記充電池を充電するための電流が前記第2回路上を流れない範囲の電圧で、前記トランスに電流が流れるように制御することによって前記コンデンサに蓄えられた電荷を放電する構成としてもよい。
【0013】
前記の構成によれば、トランスにかかる電圧を制御することによって、充電池の充電を行う状態と行わない状態とを切り替えることができる。
【0014】
本開示の態様5に係るスイッチング電源装置は、前記の態様4において、前記第1回路は、スイッチング素子を用いて、前記トランスに電流が流れる時間の割合を制御することによって、前記トランスにかかる電圧を制御する構成としてもよい。
【0015】
前記の構成によれば、スイッチング素子を用いた制御によって、充電池の充電を行う状態と行わない状態とを切り替えることができる。
【0016】
本開示の態様6に係るスイッチング電源装置は、前記の態様4において、前記コンデンサ、前記第1回路、前記第2回路及び前記トランスは、単一の回路基板上に配置されている構成としてもよい。
【0017】
前記の構成によれば、スイッチング電源装置の製造工程を簡略化すること、及び堅牢さを向上させることに寄与する。
【0018】
本開示の態様7に係るスイッチング電源装置は、前記の態様1において、前記コンデンサの温度を計測する温度計測部を更に備え、前記温度計測部が計測した温度が所定値以上である場合に、前記所定条件が満たされたと判定し、前記充電池への充電を開始する構成としてもよい。
【0019】
前記の構成によれば、コンデンサの温度に基づいて前記所定条件を判定し、充電池の劣化を抑制しつつ、安定した充電が可能となる。
【0020】
本開示の態様8に係る制御方法は、充電池を充電する直流電力を供給するスイッチング電源装置を制御する方法であって、前記スイッチング電源装置は、自装置に供給された交流電力を整流するためのコンデンサを備え、前記コンデンサの等価直列抵抗に関する所定条件が満たされた場合に、前記充電池への充電を開始させる、制御方法。
【0021】
前記の方法によれば、充電池の劣化を抑制しつつ、安定した充電が可能となる。
【0022】
本開示の各態様に係るスイッチング電源装置が備える制御装置(制御機構)は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記制御装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記制御装置をコンピュータにて実現させる制御装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本開示の範疇に入る。
【発明の効果】
【0023】
本開示の一態様によれば、簡易な構成によって、充電池の劣化を抑制しつつ、安定した充電が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】スイッチング電源装置の構成を示すブロック図の一例である。
【
図2】PFC及びDC/DCコンバータの回路図の一例である。
【
図3】各スイッチング素子の両端における電圧値、及びトランスに流れる電流の電流値の一例を示している。
【
図4】スイッチング電源装置が実行する処理の流れを示すシーケンス図の一例である。
【
図5】バス電圧と充電池に印加される充電電圧との関係を示すグラフの一例、及び電解コンデンサの温度とESRとの関係を示すグラフの一例である。
【
図6】スイッチング電源装置が有する回路を模したシミュレーション回路の一例である。
【
図7】
図6のシミュレーション回路の各所における電流値及び電圧値を示す波形図の一例である。
【
図8】
図6のシミュレーション回路の各所における電流値及び電圧値を示す波形図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本開示の一実施形態について、詳細に説明する。
【0026】
〔1.スイッチング電源装置1の構成〕
図1は、本実施形態に係るスイッチング電源装置1の構成を示すブロック図の一例である。スイッチング電源装置1は、EV(Electric Vehicle)バッテリー等の充電池を充電するOBC(On Board Charger)等の充電装置である。スイッチング電源装置1は、スイッチング電源装置1に供給された交流電力を整流し、充電池に対して充電用の直流電力を供給する装置である。
【0027】
図1において、Grid3は、交流電力の供給源であって、例えばコンセントである。また、充電池5は、スイッチング電源装置1に接続されたEVバッテリーである。
【0028】
スイッチング電源装置1は、制御部(制御装置)11、PFC(Power Factor Correction:力率補正回路)12、電解コンデンサ13、インバータ14、トランス15、整流部16、ACフィルタ17、DCフィルタ18及び温度計測部19を備えている。一態様において、スイッチング電源装置1が備える制御部11等の前記部材は、単一の回路基板上に配置されている。但し、本開示は、制御部11等の前記部材が単一の回路基板上に配置されている構成を必須とするものではない。
【0029】
制御部11は、インバータ14におけるスイッチング制御、並びにPFC12、インバータ14及び整流部16の各所における電流値及び電圧値の検知等を行う。詳細は後述するが、上述のスイッチング制御とは、インバータ14が、トランス15側に流れる直流電流の方向を交互に逆転させる制御を意味する。
【0030】
PFC12は、供給された交流電力に対して、電流と電圧との位相を合わせる力率補正等を行う。また、後述するように、PFC12は、インバータ14側に流れる電流が一方向となるように制御を行う回路を有している。本開示においては、電流を一方向とする前記の制御を「ダイオード制御」とも呼称する。
【0031】
電解コンデンサ13は、スイッチング電源装置1に供給された交流電力を整流及び平滑化するために設けられたコンデンサである。本開示においては、電解コンデンサ13の電極間における電圧Vbusを「バス電圧」とも呼称する。リプルの影響が無いと仮定した場合、後述する充電前処理中において電解コンデンサ13が充電されたときのバス電圧の値は、Grid3が供給する電圧の実効値に√2を乗じた値となる。なお、電解コンデンサが用いられる構成は必須ではなく、他の種類のコンデンサが用いられる構成であってもよい。
【0032】
インバータ14は、制御部11による制御に基づいてスイッチング制御を繰り返す。また、インバータ14は、制御部11による制御に基づいて、PFC12側から供給された電力を変圧する。
【0033】
トランス15は、インバータ14と整流部16とを絶縁し、トランス15にかかる電圧が充電池5の電池電圧以下である場合に、整流部16側において電流が流れないように機能する。換言すると、トランス15にかかる電圧が充電池5の電池電圧を超える場合に、整流部16において電流が流れることによって充電池5の充電が行われる。
【0034】
インバータ14及びトランス15の前述した構成によって、スイッチング電源装置1は、自装置に接続された充電池5を充電する状態と、充電しない状態とを切り替えることができる。
【0035】
整流部16は、トランス15側から流れてきた電流が一方向となるようにダイオード制御を行う回路を有している。当該ダイード制御により、充電池5に対しては一方向の電流が流れることとなる。
【0036】
ACフィルタ17は、PFC12等において生じ得るスイッチングノイズをGrid3側に伝送させないために設けられたフィルタである。DCフィルタ18は、整流部16等において生じ得るスイッチングノイズを充電池5側に伝送させないために設けられたフィルタである。
【0037】
一態様において、ACフィルタ17及びDCフィルタ18は、ノイズとなる電気的な高周波成分を減衰させるハイカットフィルタである。ACフィルタ17及びDCフィルタ18は、例えばスイッチング電源装置1が車両に搭載される場合に、スイッチングノイズの影響によって車両のハーネスがアンテナとして機能して電波を発してしまうことを抑制する。なお、ACフィルタ17及びDCフィルタ18は無くても良い。
【0038】
温度計測部19は、制御部11の制御に基づいて電解コンデンサ13の温度を計測する。なお、スイッチング電源装置1は、温度計測部19を必ずしも備えておらずともよい。スイッチング電源装置1が温度計測部19の計測温度を用いる態様については、「4.変形例」において後述する。
【0039】
続いて、前述したダイオード制御及びスイッチング制御について説明する。
図2は、PFC12及びDC/DCコンバータ20の回路図の一例である。なお、
図2においては、インバータ14、トランス15及び整流部16を、単一の部材であるDC/DCコンバータ20としてまとめて図示している。
図2の回路
図7aと回路
図7bとは、互いに異なる時点における同一の回路を示しており、回路上における電流の流れが相違する。回路
図7a及び回路
図7bにおいて、回路の配線に沿った矢印は、電流の流れを示している。
【0040】
以下、回路
図7aが示す回路に含まれる回路121aと、回路
図7bが示す回路に含まれる回路121bとを特に区別しない場合、その一方又は双方を単に回路121と呼称する。回路201a及び201b、並びに回路202a及び回路202bについても同様である。また、回路201は、インバータ14が備える回路であって、本開示における第1回路の一例である。回路202は、整流部16が備える回路であって、本開示における第2回路の一例である。
【0041】
PFC12が備える回路121、及びDC/DCコンバータ20が備える回路202においては、ダイオード制御が行われ、DC/DCコンバータ20が備える回路201においては、スイッチング制御が行われる。また、
図2においては、ダイオード制御又はスイッチング制御に関与しない部分の回路については記載を省略している。
【0042】
回路121には、電流を一方向にのみ流すダイオードA~Dが配置されている。交流電力を供給するGrid3から第1の方向に電流が流れた場合には、回路121aに示すようにダイオードA及びDに電流が流れてダイオードB及びCには電流が流れず、Grid3から第2の方向に電流が流れた場合には、回路121bに示すようにダイオードB及びCに電流が流れてダイオードA及びDには電流が流れない。これにより、PFC12側とDC/DCコンバータ20側との間においては、常に矢印123及び124に示す方向に電流が流れる。
【0043】
また、回路202においても、回路121と同様に説明される。即ち、回路202においては、回路202aに示すようにダイオードI及びLに電流が流れてダイオードJ及びKに電流が流れない状態と、回路202bに示すようにダイオードJ及びKに電流が流れてダイオードI及びLに電流が流れない状態とが交互に切り替わる。これにより、回路202と、回路202の右方に隣接する回路との間においては、常に一方向に電流が流れる。回路121及び202においては、制御部11がスイッチング素子のON/OFF、即ち接続された状態と切断された状態とを切り替えるスイッチング制御を要しない。
【0044】
回路201には、スイッチング素子E~Hが配置されている。スイッチング素子E~Hは、制御部11による制御にしたがって、それぞれON/OFFが切り替えられる。具体的には、制御部11は、回路201aに示すようにスイッチング素子E及びHをONにしてスイッチング素子F及びGをOFFにする状態と、回路201bに示すようにスイッチング素子F及びGをONにしてスイッチング素子E及びHをOFFにする状態とを交互に切り替える。これにより、トランス15上を流れる直流電流の向きが交互に切り替わる。
【0045】
図3は、各スイッチング素子の両端における電圧値、及びトランス15に流れる電流Imの電流値の一例を示している。具体的には、波形
図31~34は、スイッチング素子E、F、G、Hの両端における電圧値をそれぞれ示しており、波形
図35は、トランス15に流れる電流Imの電流値を示している。
【0046】
各電圧値は、スイッチング素子が閉じているときには、当該スイッチング素子の両端における電圧値は0Vとなり、スイッチング素子が開いているときには、当該スイッチング素子の両端における電圧値は約400Vとなっている。
図3に示すように、スイッチング素子Eとスイッチング素子Hとの電圧値は同位相であり、スイッチング素子F及びGの電圧値は同位相となっている。また、電流Imの値は、各スイッチング素子が切り替えられる度に、逆方向に電流が流れていることを示している。
【0047】
なお、回路201においてスイッチング制御を行う理由は、トランス15を飽和させないためと、電解コンデンサ13を放電させるためである。回路201のスイッチング制御によって、電解コンデンサ13においては、充電と放電とが繰返される。
【0048】
なお、Grid3からの交流電流の向きが逆転する周期と、回路201において制御部11がスイッチング素子を切り替える周期とは、一致していることを要しない。換言すると、制御部11は、Grid3からの交流電流の向きが逆転するタイミングとは無関係なタイミングで、スイッチング素子E~HのON/OFFを切り替えてもよい。
【0049】
以上、スイッチング電源装置1の構成例について説明した。加えて、スイッチング電源装置1の各部は、以降に説明する処理を行う機能を有する。
【0050】
〔2.スイッチング電源装置1の処理〕
続いて、スイッチング電源装置1が実行する処理の流れの一例について説明する。
図4は、スイッチング電源装置1が実行する処理の流れを示すシーケンス図の一例である。
図4に示す処理は、Grid3からスイッチング電源装置1への電力供給が開始されたときに開始される。
【0051】
S101において、PFC12は、Grid3から電解コンデンサ13に向けて流れる突入電流の大きさを一定範囲に制限する制御を行う。また、制御部11は、インバータ14に対して、トランス15にかかる電圧が充電池5の電池電圧以下である状態を維持しながらスイッチング制御を繰り返す充電前処理の開始を指示する。
【0052】
S102において、整流部16は、スイッチング電源装置1に接続された充電池5の電池電圧の値を検出する。
【0053】
S103において、インバータ14は、充電前処理を開始する。充電前処理中においては、整流部16内では電流は流れていない状態である。充電前処理によって、電解コンデンサ13において充電と放電とが繰返されて、電解コンデンサ13の温度が上昇する。つまり、スイッチング電源装置1は、充電前処理において、電解コンデンサ13に蓄えられた電荷を放電する処理を1回以上行い、電解コンデンサ13の温度を上昇させる。
【0054】
S104において、制御部11は、バス電圧の値の検知を開始する。
【0055】
S105において、制御部11は、電解コンデンサ13の電極間に生じるリプル電圧の値が、所定値未満であるか否かを判定する。リプル電圧の増大は、バス電圧の変動幅が増大する要因であり、リプル電圧の値は、バス電圧の変動幅から求められる。
【0056】
図5のグラフ群41は、バス電圧と充電池5に印加される充電電圧との関係を例示しており、グラフ43は、電解コンデンサ13の温度とESR(Equivalent Series Resistance:等価直列抵抗)との関係を例示している。グラフ群41において、グラフ411及び412は、ESRが小さい場合におけるバス電圧と充電電圧とをそれぞれ示しており、グラフ413及び414は、ESRが大きい場合におけるバス電圧と充電電圧とをそれぞれ示している。グラフ群41の各グラフに示すように、バス電圧と充電電圧とには相関がある。
【0057】
充電電圧は、電池電圧である下限値と、所定の上限値との間の値であることが望ましい。電解コンデンサ13のESRが大きい場合、バス電圧及び充電電圧の変動幅が大きくなることによって、充電電圧が上限値を超えて過剰となる場合があり、充電の停止あるいはは充電池5の劣化の要因となる。
【0058】
また、グラフ43は、電解コンデンサ13の温度が上昇するほど、ESRが低下することを例示している。より詳細には、ESRは、一定温度までは急峻に低下し、一定温度からは緩やかに低下する。S105の判定に用いられる所定値は、この一定温度に応じて設定される構成であってもよい。
【0059】
以上を踏まえると、S105の判定は、充電電圧が安定するように電解コンデンサ13が温まってESRが十分に低減したか否かの判定であるとも換言できる。
【0060】
S105において、制御部11は、リプル電圧の値が所定値未満であると判定した場合(S105:YES)、インバータ14に対して、充電前処理の停止を指示する。ここで、リプル電圧の値が所定値未満であることは、電解コンデンサ13のESRに関する所定条件が満たされることの一例である。
【0061】
一方で、制御部11は、リプル電圧の値が所定値以上であると判定した場合(S105:NO)、リプル電圧の値が所定値未満になるまで、S105の判定を継続する。
【0062】
S106において、インバータ14は、充電前処理を停止する。
【0063】
S107において、制御部11は、インバータ14に対して、充電池5に対する充電処理の開始を指示する。
【0064】
S108において、インバータ14は、トランス15にかかる電圧が充電池5の電池電圧を超えるように制御して充電処理を開始する。換言すると、インバータ14は、後述するデューティー比が所定値を超えるようにスイッチング制御を行い、充電処理を開始する。これにより、整流部16において電流が流れることによって充電池5の充電が開始される。S105~S108の処理は、電解コンデンサ13のESRに関する所定条件が満たされた場合に、充電池5への充電を開始する制御が行われることを示している。また、充電処理は、通常、充電池5が満タンになった場合に終了する。
【0065】
スイッチング電源装置1によれば、ESR又はリプルを減少させるための電解コンデンサを追加することなく、簡易な構成によって、充電池の劣化を抑制しつつ、安定した充電が可能となるという効果を奏する。また、低温時に特に高いESRを有する、性能が良くない電解コンデンサであっても、前記効果に寄与することが可能となる。
【0066】
〔3.スイッチング電源装置1における電流および電圧〕
続いて、スイッチング電源装置1上の各所における電流及び電圧、並びに充電前処理等について補足する。
図6は、スイッチング電源装置1が有する回路を模したシミュレーション回路の一例である。
図7は、
図6のシミュレーション回路の各所における電流値及び電圧値を示す波形図の一例である。
【0067】
図6及び
図7において「V
ac」は、Grid3に対応する交流電源V
ac、又は当該交流電源V
acから供給される電力の電圧値を示している。「V
bat」は、充電池5に対応する「高電圧バッテリー」の電池電圧を示している。「Duty」は、トランス15に対応するトランスTrに電流が流れる時間の割合を示すデューティー比を示している。「C
bus」は、電解コンデンサ13に対応する電解コンデンサC
busを示している。
図7に示すように、波形図群51に対応するデータと、波形図群52に対応するデータとでは、V
batの電池電圧、及びデューティー比が互いに異なる。
【0068】
また、波形図群51及び52において、波形
図511及び521は、各スイッチング素子に対応するPWM(Pulse Width Modulation)の信号波形を示している。具体的には、波形
図511及び521の波形は、上から順にスイッチング素子E、F、G、Hにそれぞれ対応するPWMの信号波形を示している。
【0069】
波形
図511と波形
図521とを比較すると、(1)スイッチング素子Eに対応する上から1番目の波形と、スイッチング素子Hに対応する4番目の波形との位相差、及び(2)スイッチング素子Fに対応する2番目の波形と、スイッチング素子Gに対応する3番目の波形との位相差が、波形
図511の方が小さい。これは、波形
図511に対応するPWMを用いた制御の方が、波形
図521に対応するPWMを用いた制御よりも、トランスTrに電流が流れる時間が長く、デューティー比が大きい値となることに対応する。
【0070】
波形
図512及び522は、電解コンデンサC
busに流れる電流の電流値を示している。前記電流値の変動に示すように、電解コンデンサC
busは、充電と放電とを繰り返すことによって温度が上昇する。波形
図513及び523は、バス電圧の電圧値であって、電圧計45によって計測された電圧値を示している。波形
図514及び524は、高電圧バッテリーの電池電圧を示している。波形
図515及び525は、トランスTrに流れる電流の電流値であって、電流計46によって計測された電流値を示している。
【0071】
電解コンデンサCbusに流れる電流の電流値、バス電圧の電圧値、トランスTrを流れる電流の電流値、及びトランスTrにかかる電圧の電圧値は、デューティー比に応じた値となる。即ちこれらの各値は、インバータ14に相当する回路が、前述した位相差をどのようにしてスイッチング制御を行うのかに依存する。つまり、インバータ14は、スイッチング素子を用いて、トランス15に電流が流れる時間の割合を制御することによってトランス15にかかる電圧等を制御する。
【0072】
波形
図516及び526は、整流部16に相当する回路上を流れる、電流計47によって計測された電流値であって、高電圧バッテリーを充電するための電流の電流値を示している。前記電流値は0Aである。別の側面から言えば、波形図群51及び52に対応するデータが、充電処理中のデータではなく、充電前処理中のデータであることを意味している。
【0073】
また、スイッチング電源装置1は、充電前処理中においては、トランス15にかかる電圧が充電池5の電池電圧以下である状態を維持するように、つまりデューティー比が所定値以下なるようにスイッチング制御を行う。
【0074】
図2を参照して説明したように、スイッチング電源装置1は、電解コンデンサ13に接続された回路201と、充電池5に接続された回路202と、回路201から回路202に電力を伝えるトランス15とを備えている。充電前処理中において、回路201は、充電池5を充電するための電流が回路202上を流れない範囲の電圧で、トランス15に電流が流れるように制御することによって電解コンデンサ13に蓄えられた電荷を放電する。一方で、スイッチング電源装置1は、充電処理中においては、トランス15にかかる電圧が充電池5の電池電圧を超える状態を維持するように、つまりデューティー比が所定値を超えるようにスイッチング制御を行う。
【0075】
図8は、
図7と同様に、
図6のシミュレーション回路の各所における電流値及び電圧値を示す波形図の一例である。ただし、
図7のデータが、電解コンデンサC
busのESRが1.0Ωであるときのデータであることに対して、
図8のデータは、電解コンデンサC
busのESRが0.1Ωであるときのデータである。換言すると、
図8は、
図7のデータと比較して、電解コンデンサC
busの温度が十分に高い場合における電流値及び電圧値のデータを示している。
【0076】
図8の波形
図513a及び523aに示す波形の変動幅は、
図7の波形
図513及び523に示す波形の変動幅よりも大幅に小さいものとなっている。これは、前述した通り、ESRの値とリプル電圧の値との間には、相関があるためである。
【0077】
一例として、
図7及び
図8に示すデータを、前述したS105の判定に適用するものとすると、バス電圧が波形
図513又は523に示す電圧値である場合、S105において「NO」の判定が行われる。一方で、バス電圧が波形
図513a又は523aに示す電圧値である場合、S105において「YES」の判定が行われる。S105において「YES」の判定が行われた場合、インバータ14は、デューティー比が所定値以上となるようにスイッチング制御を行い、充電処理を開始する。
【0078】
また、充電前処理中と充電処理中とのそれぞれのデューティー比は、交流電源と電池電圧との各電圧値に応じて、制御部11が、図示しない記憶部に格納されたテーブル等を参照して設定する構成であってもよい。或いは制御部11が、インバータ14と整流部16とを流れる電流のそれぞれの電流値を参照してデューティー比を設定するフィードバック制御を行う構成であってもよい。
【0079】
なお、PFC12、インバータ14及び整流部16の各回路構成は、
図2及び
図6に示す構成に限定されない。例えば、スイッチング電源装置1は、ダイオードブリッジPFC或いはハーフブリッジコンバータを備える構成であってもよい。また、バス電圧を変圧する制御は、前述したスイッチング制御に限定されず、周波数制御或いはPWM制御を用いる構成であってもよい。
【0080】
〔4.変形例〕
続いて、スイッチング電源装置1の変形例について説明する。「2.スイッチング電源装置1の処理」においては、電解コンデンサ13のESRに関する所定条件の判定においてリプル電圧を用いる構成について説明したが、電解コンデンサ13の計測温度に基づいて所定条件の判定を行う構成であってもよい。なお、電解コンデンサ13の周辺の計測温度に基づいて所定条件の判定を行う場合も前記構成と同等である。
【0081】
本変形例の構成では、
図4のS105に相当する処理において、温度計測部19が計測した温度が所定値以上である場合に、制御部11が、所定条件が満たされたと判定し、続いてS106からの処理が実行されて充電池5への充電が開始される。
【0082】
本変形例の構成によれば、電解コンデンサ13の温度に基づいて所定条件を判定し、充電池の劣化を抑制しつつ、安定した充電が可能となる。
【0083】
〔5.ソフトウェアによる実現例〕
スイッチング電源装置1の制御部11(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロックとしてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0084】
この場合、前記装置は、前記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により前記プログラムを実行することにより、前記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0085】
前記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、前記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、前記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して前記装置に供給されてもよい。
【0086】
また、前記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、前記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本開示の範疇に含まれる。
【0087】
本開示は前述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0088】
1 スイッチング電源装置
5 充電池
11 制御部
12 PFC
13、Cbus 電解コンデンサ
14 インバータ
15、Tr トランス
16 整流部
17 ACフィルタ
18 DCフィルタ
19 温度計測部
20 DC/DCコンバータ