(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110349
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】ポリスチレン系樹脂発泡シート及びポリスチレン系樹脂多層発泡シート
(51)【国際特許分類】
C08J 9/04 20060101AFI20240807BHJP
【FI】
C08J9/04 101
C08J9/04 CET
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014900
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【復代理人】
【識別番号】100126413
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 太亮
(74)【代理人】
【識別番号】100109601
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 邦則
(72)【発明者】
【氏名】五月女 陽一
(72)【発明者】
【氏名】久保田 真史
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA32
4F074AA33
4F074AA65
4F074AA98
4F074AB03
4F074AB04
4F074AB05
4F074BA37
4F074BA38
4F074BA95
4F074BC12
4F074CA22
4F074DA02
4F074DA03
4F074DA08
4F074DA12
4F074DA14
4F074DA23
4F074DA34
(57)【要約】
【課題】 本発明は、優れた耐熱性を有し、耐衝撃性に優れ、さらに環境負荷の低減に寄与することができるポリスチレン系樹脂発泡シートを提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明のポリスチレン系樹脂発泡シートは、見掛け密度が50kg/m3以上200kg/m3以下、独立気泡率が70%以上のポリスチレン系樹脂発泡シートであり、スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ乳酸及び耐衝撃性ポリスチレンからなる混合樹脂を基材樹脂とし、混合樹脂において、スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体が65質量%以上90質量%以下(ただし、スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ乳酸及び耐衝撃性ポリスチレンの合計が100質量%である)であり、且つポリ乳酸に対する耐衝撃性ポリスチレンの質量比(耐衝撃性ポリスチレン/ポリ乳酸)が0.2以上8以下である
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
見掛け密度が50kg/m3以上200kg/m3以下、独立気泡率が70%以上のポリスチレン系樹脂発泡シートであって、
該発泡シートは、スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ乳酸及び耐衝撃性ポリスチレンからなる混合樹脂を基材樹脂とし、該混合樹脂における、スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体の質量比率が65質量%以上90質量%以下(ただし、スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ乳酸及び耐衝撃性ポリスチレンの合計が100質量%である)であり、且つ該ポリ乳酸に対する該耐衝撃性ポリスチレンの質量比(耐衝撃性ポリスチレン/ポリ乳酸)が0.2以上8以下である、ポリスチレン系樹脂発泡シート。
【請求項2】
前記基材樹脂のビカット軟化温度が110℃以上である、請求項1に記載のポリスチレン系樹脂発泡シート。
【請求項3】
前記混合樹脂中のポリ乳酸の質量比率が20質量%以下である(ただし、スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ乳酸及び耐衝撃性ポリスチレンの合計が100質量%である)、請求項1又は2に記載のポリスチレン系樹脂発泡シート。
【請求項4】
前記ポリスチレン系樹脂発泡シートが表面Aと表面Bとを有し、表面A側において最表面側に位置する気泡の水平方向の平均径が80μm以上400μm以下である、請求項1又は2に記載のポリスチレン系樹脂発泡シート。
【請求項5】
前記ポリスチレン系樹脂発泡シート全体の水平方向の平均気泡径に対する前記最表面側に位置する気泡の水平方向の平均径の比(最表面側に位置する気泡の水平方向の平均径/ポリスチレン系樹脂発泡シート全体の水平方向の平均気泡径)が0.3以上0.7以下である、請求項4に記載のポリスチレン系樹脂発泡シート。
【請求項6】
請求項4に記載のポリスチレン系樹脂発泡シートの表面Aに樹脂層が積層接着されている、ポリスチレン系樹脂多層発泡シート。
【請求項7】
前記ポリスチレン系樹脂発泡シートの坪量が100g/m2以上300g/m2以下であり、且つ前記ポリスチレン系樹脂発泡シートの坪量に対する前記樹脂層の坪量の比(樹脂層の坪量/発泡シートの坪量)が0.2以上0.5以下である、請求項6に記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シート。
【請求項8】
前記樹脂層が、ポリスチレン系樹脂フィルムとポリオレフィン系樹脂フィルムとの多層フィルムであり、前記ポリスチレン系樹脂発泡シートと該ポリスチレン系樹脂フィルムとが、熱ラミネートにより接着されている、請求項6に記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスチレン系樹脂発泡シートとポリスチレン系樹脂多層発泡シートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン発泡シートは、軽量性、断熱性、剛性に優れる材料であり、熱成形により得られた成形体が食品容器をはじめとして広く使用されている。
しかし、ポリスチレン発泡シートを構成するポリスチレン樹脂は耐熱性が不十分なため、電子レンジによる加熱調理用の食品容器用途には、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を主成分とする耐熱性発泡シートからなる成形体が広く利用されるようになった。
【0003】
しかし、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を主成分とする発泡シートは、一般的なポリスチレン発泡シートよりも脆く、外部から力がかかると割れやすく耐衝撃性に欠けるという問題があった。
この問題を解決するために、耐衝撃性ポリスチレンを添加することで発泡シートの脆性を改善することが試みられてきた。
例えば、特許文献1には、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体に対し、耐衝撃性ポリスチレンを10~25重量%添加することで、脆性が改善され、かつ電子レンジで加熱調理しても容器の変形を抑制可能な耐熱性を有する発泡シートが開示されている。
しかし、特許文献1に記載の発泡シートは、環境負荷の低減という観点からは、さらなる改善の余地を有していた。
【0004】
また、特許文献2には、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、耐衝撃性ポリスチレン及びポリ乳酸からなる組成物であって、環境負荷を低減しつつ剛性と衝撃強度を兼ね備えた組成物が開示されている。特許文献2には、該組成物は、スチレン系樹脂の本来の成形性を失わずに、実用的な剛性と衝撃強度及び優れた流動性を兼ね備えたものであり、カーボンニュートラルな材料であるポリ乳酸を用いることによる環境負荷の低減に寄与するものであることが記載されている。
しかし、特許文献2においては、発泡シートの製造は試みられておらず、さらに発泡シートの耐熱性や剛性について検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-044086号公報
【特許文献2】特開2008-050427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れた耐熱性を有し、耐衝撃性に優れ、さらに環境負荷の低減に寄与することができるポリスチレン系樹脂発泡シートを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下に示すポリスチレン系樹脂発泡シート、及びポリスチレン系樹脂多層発泡シートが提供される。
[1]見掛け密度が50kg/m3以上200kg/m3以下、独立気泡率が70%以上のポリスチレン系樹脂発泡シートであって、該発泡シートは、スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ乳酸及び耐衝撃性ポリスチレンからなる混合樹脂を基材樹脂とし、該混合樹脂における、スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体の質量比率が65質量%以上90質量%以下(ただし、スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ乳酸及び耐衝撃性ポリスチレンの合計が100質量%である)であり、且つ該ポリ乳酸に対する該耐衝撃性ポリスチレンの質量比(耐衝撃性ポリスチレン/ポリ乳酸)が0.2以上8以下である、ポリスチレン系樹脂発泡シート。
[2]前記基材樹脂のビカット軟化温度が110℃以上である、前記1に記載のポリスチレン系樹脂発泡シート。
[3]前記混合樹脂中のポリ乳酸の質量比率が20質量%以下である(ただし、スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ乳酸及び耐衝撃性ポリスチレンの合計が100質量%である)、前記1又は2に記載のポリスチレン系樹脂発泡シート。
[4]前記ポリスチレン系樹脂発泡シートが表面Aと表面Bとを有し、表面A側において最表面側に位置する気泡の水平方向の平均径が80μm以上400μm以下である、前記1~3のいずれか一つに記載のポリスチレン系樹脂発泡シート。
[5]前記ポリスチレン系樹脂発泡シート全体の水平方向の平均気泡径に対する前記最表面側に位置する気泡の水平方向の平均径の比(最表面側に位置する気泡の水平方向の平均径/ポリスチレン系樹脂発泡シート全体の水平方向の平均気泡径)が0.3以上0.7以下である、前記1~4のいずれか一つに記載のポリスチレン系樹脂発泡シート。
[6]前記4に記載のポリスチレン系樹脂発泡シートの表面Aに樹脂層が積層接着されている、ポリスチレン系樹脂多層発泡シート。
[7]前記ポリスチレン系樹脂発泡シートの坪量が100g/m2以上300g/m2以下であり、且つ前記ポリスチレン系樹脂発泡シートの坪量に対する前記樹脂層の坪量の比(樹脂層の坪量/発泡シートの坪量)が0.2以上0.5以下である、前記6に記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シート。
[8]前記樹脂層が、ポリスチレン系樹脂フィルムとポリオレフィン系樹脂フィルムとの多層フィルムであり、前記ポリスチレン系樹脂発泡シートと該ポリスチレン系樹脂フィルムとが、熱ラミネートにより接着されている、前記6又は7に記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シート。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリスチレン系樹脂発泡シートは、優れた耐熱性を有し、耐衝撃性に優れ、さらに環境負荷の低減に寄与できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のポリスチレン系樹脂発泡シート(以下、単に発泡シートともいう。)は、スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ乳酸及び耐衝撃性ポリスチレンからなる混合樹脂を基材樹脂とする。
【0010】
該混合樹脂は、スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ乳酸及び耐衝撃性ポリスチレンからなるものである。該スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体としては、スチレンとアクリル酸との共重合体、スチレンとメタクリル酸との共重合体等が例示される。中でも、スチレンとメタクリル酸との共重合が好ましい。ただし、スチレンとアクリル酸との共重合体は、メタクリル酸がさらに少量共重合されたもの、メタクリル酸メチルやアクリル酸ブチルなどのメタクリル酸アルキルエステル及び/又はアクリル酸アルキルエステルが第三成分として少量共重合されたものでもよい。スチレンとメタクリル酸との共重合体は、アクリル酸がさらに少量共重合されたもの、メタクリル酸メチルやアクリル酸ブチルなどのメタクリル酸アルキルエステル及び/又はアクリル酸アルキルエステルが第三成分として少量共重合されたものでもよい。ただし第三成分による影響を抑制する観点からは、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体における、スチレン及び(メタ)アクリル酸以外の共重合の含有量は3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0質量%であることがさらに好ましい。本明細書において、「(メタ)アクリル酸」という用語は、アクリル酸とメタクリル酸とを包含する概念を示すものとする。
【0011】
スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体における(メタ)アクリル酸成分の含有量は2質量%以上10質量%以下であることが好ましい。(メタ)アクリル酸成分の含有量が、前記範囲を満足すると、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体のガラス転移温度やビカット軟化温度が高く、得られる発泡シートが耐熱性に優れるものとなる。これらの観点から、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体においては、(メタ)アクリル酸成分の含有量は4質量%以上であることが好ましく、6質量%以上であることがより好ましい。一方、発泡シートの耐衝撃性低下の抑制、独立気泡率の低下及び熱成形の低下を抑制する観点からは、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体における(メタ)アクリル酸成分の含有量は、9質量%以下であることが好ましい。なお、スチレンと共重合される(メタ)アクリル酸成分が複数種類用いられる場合、(メタ)アクリル酸成分の含有量は、これら複数種類の(メタ)アクリル酸成分の合計を示す。
【0012】
スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体の耐熱性は、ビカット軟化点温度で評価することができる。本発明の発泡シートに使用されるスチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体のビカット軟化温度は108℃以上であることが好ましい。スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体のビカット軟化温度が108℃以上であることにより、十分な耐熱性を有する発泡シート、さらに成形体を得ることが容易となる。この観点から、スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体のビカット軟化温度は110℃以上であることがより好ましく、115℃以上であることがさらに好ましい。スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体のビカット軟化温度の上限は、樹脂の流動性等の観点から、概ね150℃であることが好ましく、130℃であることがより好ましい。
【0013】
スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体のビカット軟化温度はJIS K7206:2016のA50法により測定される。
【0014】
スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体のガラス転移温度(Tg)は110℃以上130℃以下であることが好ましい。該ガラス転移温度がこの範囲内であれば、発泡シート、さらに得られる成形体の耐熱性が確保されやすくなる。また、前記混合樹脂を基材樹脂とする発泡シートの製造において、発泡温度を好適な範囲に調整しやすく、得られる発泡シートの物性や外観を良好にし易くなる。これらの観点から、スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体のガラス転移温度(Tg)は115℃以上125℃以下であることが好ましい。
【0015】
スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121-1987「プラスチックの転移温度測定方法」に記載の方法に準拠し、熱流束示差走査熱量測定(DSC)により測定される。
【0016】
スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体のメルトフローレイト(以下、MFRともいう。)は0.5g/10分以上2.0g/10分以下であることが好ましく、1.0g/10分以上、1.8g/10分以下であることがより好ましい。MFRがこの範囲内であることにより、発泡シートの独立気泡率の低下を抑制しやすく、発泡シートの熱成形性の向上が容易となる。
【0017】
スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体のMFRは、JIS K7210-1:2014に基づき、試験温度200℃、公称荷重5kgの条件で測定される。
【0018】
本発明で用いられる混合樹脂が含有するポリ乳酸は植物由来の樹脂であり、かつコンポスト化において生分解可能な樹脂である。本発明の発泡シートはポリ乳酸を含有することから、環境負荷の低減に寄与するものである。該ポリ乳酸は、乳酸成分単位を50モル%以上含むポリマーとして定義される。ポリ乳酸には、例えば、次の(1)から(5)で示すポリマー(コポリマーを含む)や、(1)から(5)の何れかの組み合わせによる混合物等が包含される。
【0019】
(1)乳酸の重合体(ポリマー)、(2)乳酸とその他(乳酸以外)の脂肪族ヒドロキシカルボン酸とのコポリマー、(3)乳酸と脂肪族多価アルコールと脂肪族多価カルボン酸とのコポリマー、(4)乳酸と脂肪族多価カルボン酸とのコポリマー、そして(5)乳酸と脂肪族多価アルコールとのコポリマー。
【0020】
乳酸の具体例としては、L-乳酸、D-乳酸、DL-乳酸又はそれらの環状2量体であるL-ラクチド、D-ラクチド、DL-ラクチド又はそれらの混合物を挙げることができる。その他(乳酸以外)の脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、酒石酸、クエン酸などを例示することができる。脂肪族多価カルボン酸としては、ブタンテトラカルボン酸などを例示することができる。脂肪族多価アルコールとしては、例えばグリセリンを例示することができる。
【0021】
乳酸成分単位を構成する化合物(モノマー)としては、前記したようにD体とL体の2種類(以下、それぞれD体化合物とL体化合物と呼ぶことがある)の光学異性体が挙げられる。ポリ乳酸系樹脂としては、L体化合物のみ、D体化合物のみ及びL体化合物とD体化合物の両方のいずれが用いられたものであってもよい。
【0022】
ポリ乳酸としては、(1)乳酸の重合体が好ましい。乳酸の重合体としては、L-乳酸の単独重合体(PLLA)、D-乳酸の単独重合体(PDLA)、L-乳酸とD-乳酸との共重合体、PLLAとPDLAとの混合物等が例示される。発泡性に優れるという観点からは、ポリ乳酸系樹脂は、L-乳酸とD-乳酸との共重合体であることが好ましい。
【0023】
ポリ乳酸の製造方法は、特に限定されない。例えば、乳酸又は乳酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸の混合物を原料として、直接脱水重縮合する方法、乳酸の環状二量体(ラクチド)を重合する開環重合法等を挙げることができる。
【0024】
ポリ乳酸系樹脂のD体含有率(質量%)は、特に限定されるものでないが、0.5質量%以上15質量%以下であることが好ましい。ポリ乳酸のD体含有率が少ないほど、ポリ乳酸の結晶性が向上し、耐熱性が向上する傾向がある。一方、ポリ乳酸のD体含有率が多いほど、ポリ乳酸の結晶性が低下し(非晶性が強まり)、発泡性を向上させやすくなる傾向がある。ポリ乳酸のD体含有率(質量%)がこの範囲内であれば、耐熱性と発泡性とをバランスよく両立させることができる。また、発泡シートの耐衝撃性をより高める観点から、ポリ乳酸のD体含有率は1質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以上8質量%以下であることがさらに好ましい。
【0025】
なお、ポリ乳酸のD体含有率(質量%)とは、ポリ乳酸中の乳酸成分単位を構成する化合物の全量に対する、D体化合物の質量比率(質量%)である。
【0026】
ポリ乳酸の融点は、130℃以上190℃以下であることが好ましい。ポリ乳酸の融点がこの範囲内である場合、発泡シートの耐熱性や発泡性が確保されやすくなる。この観点から、ポリ乳酸の融点は145℃以上185℃以下であることが好ましい。
【0027】
ポリ乳酸の融点は、JIS K7121-1987に基づき求められる。具体的には、状態調節として「(2)一定の熱処理を行なった後、融解温度を測定する場合」を採用し、状態調節された試験片を10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで加熱することによりDSC曲線を測定し、融解(吸熱)ピークの頂点温度を融点とする。なお、DSC曲線に複数の融解ピークが表れる場合は、最も高さの高い融解ピークの頂点温度を融点とする。
【0028】
ポリ乳酸の結晶化温度は、100℃以上130℃以下であることが好ましい。ポリ乳酸の結晶化温度がこの範囲内であれば、例えば発泡シートや発泡シートを熱成形してなる容器等を加熱して結晶化させることにより耐熱性を向上させることが容易となる。この観点から、ポリ乳酸の結晶化温度は、100℃以上125℃以下であることがより好ましく、102℃以上123℃以下であることがさらに好ましい。
【0029】
ポリ乳酸の結晶化温度は、JIS K7121-1987に基づき求められる。具体的には、熱流束示差走査熱量測定装置を用いて、試験片を10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで加熱し、200℃に10分間保った後、200℃から30℃まで冷却することによりDSC曲線を取得し、冷却時のDSC曲線における結晶化(発熱)ピークの頂点温度を結晶化温度とする。なお、結晶化ピークが2つ以上現れる場合には、最も高さの高い結晶化ピークの頂点温度を結晶化温度とする。
【0030】
ポリ乳酸のメルトフローレイト(MFR)は、発泡性に優れるという観点から、好ましくは1.0g/10分以上8.0g/10分以下、より好ましくは2.0g/10分以上5.0g/10分以下である。
【0031】
ポリ乳酸のMFRは、JIS K7210-1:2014に基づき、試験温度190℃、公称荷重2.16kgの条件で測定される。
【0032】
前記混合樹脂が含有する耐衝撃性ポリスチレンとしては、ゴム変性ポリスチレン系樹脂が好ましく用いられる。該ゴム変性ポリスチレン系樹脂は、ゴム状重合体にスチレン系重合体がグラフトし、分散相を形成するゴム状重合体粒子と、連続相を形成するスチレン系重合体で構成されるものである。該ゴム変性ポリスチレン系樹脂は、通常、ゴム状重合体の存在下、スチレン系単量体をラジカル重合して得られる樹脂である。
【0033】
ゴム変性ポリスチレン系樹脂を構成するスチレン系単量体は、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン等の公知のものが使用できるが、好ましくはスチレンである。スチレン系単量体は単独で使用することも混合物として使用することもできる。また、これらのスチレン系単量体と共重合可能なアクリロニトリル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等のスチレン系単量体以外のビニル系モノマーや、ジビニルベンゼン等の多官能モノマーも、ゴム変性ポリスチレン系樹脂組成物の性能を損なわない程度、例えばスチレン系単量体100質量部に対し、5質量部以下であれば、重合時に添加することができる。
【0034】
ゴム変性ポリスチレン系樹脂を構成するゴム状重合体としては、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエンのランダムまたはブロック共重合体、ポリイソプレン、スチレン-イソプレンのランダムまたはブロック共重合体、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴムなどが挙げられ、特にポリブタジエン、スチレン-ブタジエンのランダムまたはブロック共重合体が好適に用いられる。また、これらは一部水素添加されていても差し支えない。
【0035】
該耐衝撃性ポリスチレンのビカット軟化温度は90℃以上であることが好ましい。ビカット軟化温度が90℃以上であることにより、十分な耐熱性を有する発泡シートとなる。耐衝撃性ポリスチレンのビカット軟化温度の上限は概ね97℃である。
【0036】
ビカット軟化温度は、JIS K7206:2016に基づきA50法により測定される。
【0037】
本発明においては、本発明の所期の目的が阻害されない程度に、基材樹脂に前記混合樹脂以外の他の熱可塑性樹脂が含まれてもよい。例えば、他の熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-メタクリル酸エチル共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体等のスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体以外のポリスチレン系樹脂や、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂等を挙げることができる。他の熱可塑性樹脂の含有量は、基材樹脂中20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0038】
なお、基材樹脂中には、必要に応じて各種の添加剤、例えば酸化防止剤、熱安定剤、無機充填剤、着色剤、気泡調整剤等を添加することができる。
【0039】
前記混合樹脂中において、スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体の質量比率は65質量%以上90質量%以下(ただし、スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ乳酸及び耐衝撃性ポリスチレンの合計が100質量%である)である。該質量比率が小さすぎると、耐熱性が不十分になるおそれがある。該質量比率が大きすぎると、耐衝撃性が不十分になるおそれがある。かかる観点から、該質量比率の下限は、68質量%であることが好ましく、より好ましくは70質量%、さらに好ましくは、73質量%、特に好ましくは75質量%である。該質量比率の上限は、87質量%であることが好ましく、より好ましくは85質量%、さらに好ましくは、83質量%である。
【0040】
ポリ乳酸の質量比率は、30質量%以下(ただし、スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ乳酸及び耐衝撃性ポリスチレンの合計が100質量%である)が好ましい。本発明の発泡シートの少なくとも片面には、後述するように、(樹脂層)が形成されることがある。例えば、ポリスチレン系樹脂フィルムとポリオレフィン系樹脂フィルムとの積層フィルムを用いてポリスチレン系樹脂フィルムを発泡シート側に向けて、熱ラミネーションにより積層接着して多層発泡シートとされることがある。しかし、ポリ乳酸とポリスチレン系樹脂の接着強度は、スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体とポリスチレン系樹脂との接着強度、耐衝撃性ポリスチレンとポリスチレン系樹脂との接着強度に比べて劣っている。従って、ポリ乳酸の質量比率を小さくすることにより、樹脂層を構成するポリスチレン系樹脂フィルムとの積着性が良好なものとなる。この観点から、ポリ乳酸の質量比率は、30質量%以下(ただし、スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ乳酸及び耐衝撃性ポリスチレンの合計が100質量%である)であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは20質量%以下、特に好ましくは18質量%以下である。その下限は、概ね1質量%であり、好ましくは5質量%であり、より好ましくは10質量%である。
【0041】
混合樹脂中において、耐衝撃性ポリスチレンの質量比率は、3質量%以上20質量%以下(ただし、スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ乳酸及び耐衝撃性ポリスチレンの合計が100質量%である)であることが好ましい。該質量比率が前記範囲であると、高い耐熱性を維持しつつ耐衝撃性に優れる発泡シートとすることができる。かかる観点から、該質量比率の下限は、4質量%であることがより好ましく、さらに好ましくは5質量%である。該質量比率の上限は、15質量%であることがより好ましく、さらに好ましくは12質量%である。
【0042】
さらに、本発明においては、ポリ乳酸に対する耐衝撃性ポリスチレンの質量比(耐衝撃性ポリスチレン/ポリ乳酸)(以下、比(HIPS/PLA)ともいう。)は0.2以上8以下であることを要する。該比(HIPS/PLA)が、この範囲内であれば、耐熱性と耐衝撃性のバランスが良好になる。また、該比(HIPS/PLA)が、この範囲内であると、発泡シートと樹脂層との積層接着を良好にすることができ、樹脂層を積層するための積層用発泡シートとして好適な発泡シートとなる。該比(HIPS/PLA)が小さすぎると、耐衝撃性が不十分になるおそれがある。該比(HIPS/PLA)が大きすぎると、耐熱性が不十分になるおそれがある。かかる観点から、比(HIPS/PLA)の下限は、0.25が好ましく、より好ましくは0.4、さらに好ましくは0.5である。比(HIPS/PLA)の上限は、7が好ましく、より好ましくは3であり、さらに好ましくは2である。
【0043】
本発明においては、前記したように、混合樹脂中のスチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体の質量比率が65質量%以上90質量%以下(ただし、スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ乳酸及び耐衝撃性ポリスチレンの合計が100質量%である)であると共に、ポリ乳酸に対する耐衝撃性ポリスチレンの質量比(HIPS/PLA)が0.2以上8以下である。本発明において、これらの混合樹脂中のスチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体の質量比率と該比(HIPS/PLA)の両方の構成が満たされることが重要である。これらの構成が満たされることにより、本発明の発泡シートは、環境負荷の低減に寄与することができ、且つ耐熱性に優れると共に耐衝撃性に優れるものとなる。本発明の発泡シートは、複数の異なる樹脂からなる混合樹脂を基材樹脂とし、見掛け密度が低いことから、製造することが難しいので、前記両方の構成を満足することが特に重要となる。
【0044】
前記基材樹脂のビカット軟化温度は、110℃以上であることが好ましい。基材樹脂のビカット軟化が110℃以上であれば、電子レンジによる加熱調理用の用途に好適な食品容器の成形に使用できる発泡シートとすることができる。かかる観点から、基材樹脂のビカット軟化温度は、115℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがさらに好ましい。その上限は、概ね150℃であることが好ましく、130℃であることがより好ましい。
【0045】
基材樹脂のビカット軟化温度はJIS K7206:2016に基づきA50法により測定される。
【0046】
本発明においては、発泡シートが表面Aと表面Bとを有し、表面A側において、最表面側に位置する気泡の水平方向の平均径(以下、最表面側平均気泡径ともいう。)の下限が、20μmであることが好ましく、より好ましく40μm、さらに好ましくは80μm、特に好ましくは100μmである。一方、該最表面側平均気泡径の上限は、400μmであることが好ましく、より好ましくは300μm、さらに好ましくは200μm、特に好ましくは160μmである。
なお、表面B側においても最表面側平均気泡径が前記範囲を満足することが好ましい。
【0047】
本明細書においては、通常、発泡シートの押出発泡時に冷却装置(マンドレル)の外面に接触させなかった発泡シートの面をA面とし、接触させた発泡シートの面をB面とする。但し、冷却装置(マンドレル)の外面に接触させた発泡シートの面をA面とし、接触させなかった発泡シートの面をB面とすることもできる。
【0048】
なお、本明細書において、発泡シートの最表面側に位置する気泡(最表面側平均気泡径)とは、発泡シートの表面と気泡の間に他の気泡を介在させていない状態で形成されている気泡をいう。また、発泡シートに関して、水平方向とは、発泡シートの厚み方向に対して垂直な平面に対して平行な方向をいう。
【0049】
最表面側平均気泡径がこの範囲内であれば、後述する樹脂層を熱ラミネーション等により積層接着し、得られた多層発泡シートを熱成形により成形体とし、得られた成形体を電子レンジで加熱する際、樹脂層の剥離防止可能な接着強度を得ることができる。そのため、樹脂層が積層された多層発泡シートを製造するための好適な発泡シートとなる。また、最表面側平均気泡径がこの範囲内であることにより、発泡シート、さらに多層発泡シートの熱成形性と、得られた成形体の強度、外観、印刷適性などの物性間のバランスが向上する。なお、発泡シートの最表面側平均気泡径は、発泡シートの拡幅比や引取速度の調節、押出直後に発泡中の発泡体にエアーを吹きつけてその表面を急冷すること等によって調整することができる。
【0050】
最表面側に位置する気泡の水平方向の平均径(最表面側平均気泡径)は、次のように測定される。
【0051】
個々の測定試料についての最表面側平均気泡径の測定は、次のように行う。まず、発泡シートの押出方向に沿った切断面(押出方向垂直断面)及び発泡シートの押出方向に沿った方向に法線ベクトルを有するような切断面(幅方向垂直断面)を、顕微鏡等にて拡大し、拡大画像を得る。そして、拡大画像上に認められる、発泡シートの最表面側に位置する気泡全てに対して、各気泡の押出方向あるいは幅方向の気泡径を計測する。なお、気泡の押出方向の気泡径をMD(押出方向)断面水平フェレ径、気泡の幅方向の気泡径をTD(幅方向)断面水平フェレ径と呼ぶことがある。
【0052】
発泡シートの最表面側平均気泡径は以下のようにして測定される。発泡シートを切断する位置を無作為に各10か所選択して各位置で切断面を特定し、前記した気泡径の計測方法を適用して、各垂直断面における水平フェレ径を計測する。10か所の垂直断面における、MD断面水平フェレ径の算術平均値及びTD断面水平フェレ径の算術平均値を算出し、これらの算術平均値の相乗平均を、最表面側平均気泡径とする。
【0053】
本発明の発泡シートにおいては、発泡シート全体の水平方向の平均気泡径(以下、全体平均気泡径ともいう。)は100μm以上500μm以下が好ましく、より好ましくは150μm以上450μm以下、さらに好ましくは200μm以上400μm以下である。全体平均気泡径がこの範囲内であることにより、発泡シート、さらに多層発泡シートの熱成形性と、得られた成形体の強度、外観、印刷適性などの物性間のバランスが特に優れたものとなる。なお、全体平均気泡径は、発泡シートの拡幅比や引取速度の調節、押出直後に発泡中の発泡体に空気を吹きかけて発泡体の表面を急冷すること等によって調整することができる。
【0054】
発泡シート全体の水平方向の平均気泡径(全体平均気泡径)は、次のように測定される。まず、各測定位置の気泡径を測定する。該気泡径は、次のようにして測定される。発泡シートの押出方向に沿った切断面(押出方向垂直断面)及び発泡シートの押出方向に沿った方向に法線ベクトルを有するような切断面(幅方向垂直断面)を、顕微鏡等にて拡大し、拡大画像を得る。そして、拡大画像上に認められる全ての気泡に対して、各気泡の押出方向あるいは幅方向の気泡径(MD断面水平フェレ径、TD断面水平フェレ径)を計測する。
【0055】
発泡シートを切断する位置を無作為に各10か所選択して各位置で切断面を特定し、前記した気泡径の計測方法を適用して、各垂直断面における水平フェレ径を計測する。10か所の垂直断面における、MD断面水平フェレ径の算術平均値及びTD断面水平フェレ径の算術平均値を算出し、これらの算術平均値の相乗平均を、発泡シートの全体平均気泡径とする。
【0056】
本発明の発泡シートにおいては、発泡シート全体の水平方向の平均気泡径(全体平均気泡径)に対する発泡シートの最表面側に位置する気泡の水平方向の平均径(最表面側平均気泡径)の比が0.3以上0.7以下であることが好ましい。該比が前記範囲を満足すると、表層付近の樹脂密度が増加し、曲げ弾性率に優れる発泡シートとなる。また、該発泡シートは、樹脂層積層用発泡シートとして好適に用いることができるものである。即ち、樹脂層が積層された多層発泡シートは、より接着強度に優れると共に外観が良好なものとなる。前記観点から発泡シート全体の水平方向の平均気泡径に対する発泡シートの最表面側に位置する気泡の水平方向の平均径の比は0.4以上0.6以下であることがより好ましい。
【0057】
また、前記したように、本発明においては、ポリスチレン系樹脂発泡シートが表面Aと表面Bとを有し、表面A側において最表面側に位置する気泡の水平方向の平均径(最表面側平均気泡径)が80μm以上400μm以下であることに加え、ポリスチレン系樹脂発泡シート全体の水平方向の平均気泡径(全体平均気泡径)に対する前記最表面側に位置する気泡の水平方向の平均径(最表面側平均気泡径)の比が0.3以上0.7以下であることが好ましい。これらの構成が満たされることにより、より容易に、曲げ弾性率に優れる発泡シートとすることができ、接着強度に優れると共に外観良好な多層発泡シートとすることができる。
【0058】
本発明の発泡シートにおいては、独立気泡率は、70%以上が好ましく、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。独立気泡率が、この範囲内であれば、熱成形時の二次発泡性や得られる成形体の強度等が優れた発泡シートとなる。
【0059】
本明細書における発泡シートの独立気泡率は、ASTM-D2856-70の手順Cに従って、東芝ベックマン株式会社の空気比較式比重計930型を使用して測定(無作為に積層シートから25mm×25mm×シート厚みに切断したカットサンプルを、サンプルの厚みの総和が20mmに最も近づくように(ただし、20mmを超えない。)複数枚重ねてサンプルカップ内に収容して測定する。)された発泡シート(カットサンプル)の真の体積Vxを用い、下記(1)式により独立気泡率S(%)を計算し、n=5の平均値として求める。
S(%)=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ) (1)
【0060】
Vx:前記方法で測定されたカットサンプルの真の体積(cm3)であり、発泡シートを構成する樹脂の容積と、カットサンプル内の独立気泡部分の気泡全容積との和に相当する。
Va:測定に使用されたカットサンプルの外寸から計算されたカットサンプルの見掛け上の体積(cm3)。
W:測定に使用されたカットサンプル全重量(g)。
ρ:発泡シートを構成する樹脂の密度(g/cm3)
【0061】
本発明の発泡シートの厚みは、特に限定されないが、0.5mm以上15mm以下であることが好ましい。発泡シートの厚みがこの範囲内にあれば、発泡シートを食品容器、弁当箱等の折箱、ディスプレイパネル等の用途に好適に用いることができる。また、該発泡シートを熱成形用に用いる場合、その厚みは、0.5mm以上3mm以下であることが好ましく、より好ましくは1mm以上2mm以下である。発泡シートの厚みがこの範囲内にあれば、得られる成形体は、剛性、断熱性、及び取り扱い性等に優れる容器となる。
【0062】
発泡シートの厚み(mm)は、発泡シートの幅方向にわたって等間隔の10箇所についてゲージにより厚みを測定し、それらを算術平均することにより求められる値として定めることができる。
【0063】
発泡シートの見掛け密度は、50kg/m3以上200kg/m3以下である。該見掛け密度が小さすぎると、発泡シートを熱成形することにより得られる容器等の成形体の強度が低下するおそれがある。また、該見掛け密度が大きすぎると、成形体の断熱性及び軽量性が低下するおそれがある。これらの観点から、発泡シートの見掛け密度は、70kg/m3以上180kg/m3以下であることが好ましく、より好ましくは80kg/m3以上160kg/m3以下、さらに好ましくは85kg/m3以上120kg/m3以下である。
【0064】
発泡シートの見掛け密度は、次のようにして測定される。まず、発泡シートから縦25mm×横25mmの試験片を切り出す。試験片の厚みは発泡シートの厚みである。次に、切り出された試験片の質量(g)を測定する。測定された質量を単位換算することで坪量(g/m2)を求める。さらに、求められた発泡シートの坪量(g/m2)を発泡シートの厚み(mm)で除した値を単位換算することにより、発泡シートの見掛け密度(kg/m3)が得られる。この測定を、発泡シートの幅方向における等間隔の10箇所について行い、それらの算術平均値を発泡シートの見掛け密度とする。
【0065】
発泡シートの坪量は、100g/m2以上であることが好ましく、より好ましくは130g/m2以上である。一方、該坪量は、400g/m2以下が好ましく、より好ましくは300g/m2以下である。即ち、発泡シートの坪量が100g/m2以上300g/m2以下であることが好ましい。坪量がこの範囲内であれば、発泡シートを熱成形して得られる成形体が、剛性と軽量性とのバランスに優れたものとなる。また、環境保護のために、発泡シートには軽量性が求められているので、坪量がこの範囲内であれば環境保護に寄与することができる。
【0066】
発泡シートの坪量は、次のようにして測定される。まず、発泡シートから縦25mm×横25mmの試験片を切り出す。試験片の厚みは発泡シートの厚みである。次に、切り出された試験片の質量(g)を測定する。測定された質量を1600倍して、単位換算することで坪量(g/m2)を求める。この測定を、発泡シートの幅方向における等間隔の10箇所について行い、それらの算術平均値を発泡シートの坪量とする。
【0067】
本発明の発泡シートは、樹脂層を積層するための積層用発泡シートとして用いることができ、耐油性等を向上させ、強度を向上させるために、発泡シートの表面に樹脂層が積層された多層発泡シートとして構成されていることが好ましい。この場合、樹脂層は、前記した最表面側に位置する気泡の平均径(最表面側平均気泡径)が80μm以上400μm以下である表面Aに積層されていることが好ましい。該最表面側平均気泡径がこの範囲内であれば、接着強度が向上し、得られた成形体を電子レンジで加熱する際の樹脂層の剥離が十分に防止される多層発泡シートが得られる。なお、樹脂層を熱ラミネーションにより積層接着する場合には、最表面側に位置する平均気泡径は、熱ラミネーションの際に加熱され膨張する。そのため、多層発泡シートの最表面側に位置する平均気泡径は、発泡シートの最表面側に位置する平均気泡径より大きな値となる。なお、表面B側において、最表面側に位置する気泡の平均径(最表面側平均気泡径)が80μm以上400μm以下である場合には、表面Bに樹脂層が積層されていてもよく、積層されていなくてもよい。
【0068】
本発明の多層発泡シートは、前記したように、前記混合樹脂中のポリ乳酸の質量比率が20質量%以下(ただし、スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ乳酸及び耐衝撃性ポリスチレンの合計が100質量%である)であることが好ましい。樹脂層が、ポリスチレン系樹脂フィルムとポリオレフィン系樹脂フィルムとの積層フィルムであり、発泡シートとポリスチレン系樹脂フィルム層とが熱ラミネーションにより接着されている場合、質量比率が20質量%以下であると、発泡シートと樹脂層との接着強度がさらに優れる多層発泡シートとなる。
【0069】
さらに本発明の多層発泡シートにおいては、前記したように、発泡シートの坪量が100g/m2以上300g/m2以下であることに加え、発泡シートの坪量に対する前記樹脂層の坪量の比(樹脂層/発泡シート)が0.2以上0.5以下であることが好ましい。樹脂層の坪量がこの範囲内であれば、発泡シートに対する樹脂層の坪量が小さいことから、得られる成形体が軽量になり、環境保護に寄与することができる。かかる観点から、該比(樹脂層/発泡シート)は0.25以上0.4以下であることが好ましい。
【0070】
本発明の発泡シートにおいては、樹脂層を積層することが好ましい。該樹脂層としては、熱可塑性樹脂フィルムが好ましく、熱可塑性樹脂フィルムとしては、ポリ乳酸系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム等の熱可塑性樹脂フィルムが例示される。これらの中では、耐油性に優れることからポリオレフィン系樹脂フィルムが好ましい。これらのフィルムは、通常、接着層を介して発泡シートに積層される。但し、本発明の多層発泡シートに積層される樹脂層は、ポリオレフィン系樹脂フィルムに限定するものではない。
【0071】
ポリオレフィン系樹脂フィルムを発泡シートに接着層を介して積層する方法としては、(1)ポリオレフィン系樹脂フィルムとポリスチレン系樹脂フィルムとを予め接着層を介して積層接着したフィルム(PO/PSドライラミフィルム)を、ポリオレフィン系樹脂フィルム面側が表面となるように加熱融着させて積層する方法、(2)ポリオレフィン系樹脂フィルムに接着層が積層された多層フィルムをポリオレフィン系樹脂フィルム面側が表面となるように加熱融着させて積層する方法、(3)発泡シートに耐衝撃性ポリスチレン層を押出ラミネートにより形成し、その上にポリオレフィン系樹脂フィルムに接着層が設けられた多層フィルムを、ポリオレフィン系樹脂フィルム面側が表面となるように押圧接着する方法、(4)発泡シートに耐衝撃性ポリスチレン層を押出ラミネートにより形成し、その上にPO/PSドライラミフィルムを、ポリオレフィン系樹脂フィルム面側が表面となるように押圧接着する方法等が挙げられる。
【0072】
これらの中では、坪量の小さいフィルムを積層でき、積層発泡シートの全体坪量を小さくできる観点から、(1)または(2)の積層方法が好ましく、(1)ポリオレフィン系樹脂フィルムとポリスチレン系樹脂フィルムとを予め接着層を介して積層接着した積層フィルム(PO/PSドライラミフィルム)を、ポリオレフィン系樹脂フィルム面側が表面となるように、即ちポリスチレン系樹脂フィルムを発泡シート側に向けて、熱ラミネーションにより加熱融着させて接着することが、簡便で生産性に優れているためより好ましい。
【0073】
前記樹脂層の坪量は、10~100g/m2が好ましく、20~70g/m2がより好ましい。
【0074】
本発明の多層発泡シートにおいては、多層発泡シートから樹脂層を引きはがしたときの接着強度が1N/25mm以上であることが好ましく、2N/25mm以上であることがより好ましく、3N/25mm以上であることがさらに好ましい。該接着強度が前記範囲を満足すると、発泡シートと樹脂層とが十分な接着強度を有するので、多層発泡シートを熱成形する際のデラミネーションが防止され、さらに、電子レンジによる加熱時のデラミネーションがより防止される。
【0075】
接着強度の測定は、次のように行う。多層発泡シートから押出方向に沿って幅25mmの試験片を切り出し、例えば(株)エー・アンド・デイ製テンシロン万能試験機RTC-1250A-PLを用いて、JIS Z0237 : 2022に準拠し、剥離速度条件300mm/minの90°引きはがし試験にて多層発泡シートから樹脂層を引きはがし、その際の引きはがすはがし粘着力の値を測定する。
【0076】
本発明の多層発泡シートは熱成形性に優れるものであり、熱成形により成形体を容易に得ることができる。熱成形方法としては、真空成形や圧空成形、さらにこれらの応用としてフリードローイング成形、プラグ・アンド・リッジ成形、リッジ成形、マッチド・モールド成形、ストレート成形、ドレープ成形、リバースドロー成形、エアスリップ成形、プラグアシスト成形、プラグアシストリバースドロー成形等やこれらを組み合わせた成形方法等が挙げられる。かかる熱成形法は、短時間に連続して容器を得ることができるので、好ましい方法である。なお、多層発泡シートを熱成形する場合、得られる成形体の内側に耐油性に優れるポリオレフィン系樹脂フィルムが位置するように成形することが好ましい。
【0077】
熱成形により得られた成形体は、主に電子レンジ加熱用途に用いられるトレー、カップ、丼、弁当箱等の容器として使用することができる。
【0078】
本発明の発泡シートは、従来公知のいわゆる押出発泡により得ることができる。具体的には、前記したスチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体と、ポリ乳酸と、耐衝撃性ポリスチレンとからなる混合樹脂を含む基材樹脂と、必要に応じて添加される気泡調整剤等の各種の添加剤を押出機に供給し、加熱、溶融、混錬して溶融樹脂とし、該溶融樹脂に物理発泡剤を圧入してさらに混練した後、目的とする樹脂温度に調整された発泡性溶融樹脂を、環状ダイを通して大気圧下に押出し、発泡させて円筒状発泡体とする工程により円筒状発泡体を形成し、得られた円筒状発泡体を引取りながら切り開くことにより、該発泡シートは製造される。
【0079】
該混合樹脂を構成するスチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ乳酸、耐衝撃性ポリスチレンとしては、前記した各樹脂を用いることができる。
【0080】
さらに、該混合樹脂の配合は、前記したように、スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体の質量比率が65質量%以上90質量%以下(ただし、スチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ乳酸及び耐衝撃性ポリスチレンの合計が100質量%である)であり、且つ該ポリ乳酸の配合量に対する該耐衝撃性ポリスチレンの配合量の比(耐衝撃性ポリスチレンの配合量/ポリ乳酸)が0.2以上8以下である。
【0081】
物理発泡剤としては、例えばプロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の炭素数3から5の脂肪族飽和炭化水素類、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル等のエーテル類、二酸化炭素、窒素、水等の物理発泡剤を用いることができる。これらの中では、前記混合樹脂をより容易に可塑化できるため発泡シートの製造が容易になり、且つ、発泡シートの熱成形性が向上することから、物理発泡剤として、炭素数3から5の飽和炭化水素から選ばれた1種以上を用いることが好ましく、ノルマルブタン、イソブタン又はノルマルブタンとイソブタンの混合ブタンを用いることがより好ましく、入手が容易であることから混合ブタンを用いることがさらに好ましい。
【0082】
炭素数3から5の飽和炭化水素から選ばれた1種以上を物理発泡剤として用いると、二酸化炭素などの発泡剤に比べてガス透過性が抑えられていることから(発泡シート内に残存しやすい)、熱成形時の二次発泡倍率を高めることができ、発泡シートを構成する樹脂を可塑化するので熱成形性を向上させることができる。具体的には、容器等を熱成形する際の加熱温度や加熱時間等の成形条件の範囲を広くすることができる。また、発泡シートを製造後、長期にわたって保管した場合であっても良好な熱成形性を確保することができる。
【0083】
物理発泡剤の添加量、気泡調節剤の添加量は、基材樹脂の種類・発泡剤の種類、気泡調整剤の種類や、目的とする発泡シートの密度によって適宜選択できるが、通常は、基材樹脂100重量部に対して、物理発泡剤は0.5~10重量部、気泡調整剤は0.1~3重量部である。また、前記発泡時の溶融樹脂混合物の樹脂温度は、基材樹脂の種類、発泡剤の種類、気泡調節剤の種類や、目的とする発泡シートの密度によって適宜選択できるが、通常は120~180℃である。
【0084】
本発明においては、得られる発泡シートの見掛け密度は、前記したように50kg/m3以上200kg/m3以下である。そのための調整方法として、押出発泡直後に冷却するために吹き付けるエアー量を調整する方法が挙げられる。具体的には、環状ダイから押出された直後の円筒状発泡体の外周面及び/又は内周面に、冷却風を吹き付けて冷却する方法を採用することができる。また、冷却風を吹き付ける温度、量を調節することにより、前記した最表面側平均気泡径を80μm以上400μm以下の範囲に調整することができる。該冷却風の風量は、吐出量の影響を受けて変化するが、例えば0.5m3/min以上1.5m3/min以下であることが好ましい。
【0085】
なお、前記の製造方法の説明は、混合樹脂を押出機に投入した例であるが、発泡シートの製造方法はこれに限定されない。発泡シートを構成する各種の原料(例えばスチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ乳酸及び耐衝撃性ポリスチレン等)が加熱、溶融、及び混練されるのであれば、各種の原料が混合された状態で押出機に供給されても、各種の原料が個別に押出機に供給されてもよい。
【0086】
以上説明した発泡シートの製造方法によれば、本発明の発泡シートを容易に製造することができる。
【0087】
本発明の発泡シートに、前記樹脂層を接着するには熱ラミネーションによることが好ましい。具体的には、前記した積層フィルム(ポリスチレン系樹脂フィルムとポリオレフィン系樹脂フィルムとの積層フィルム)と発泡シートとを、ポリスチレン系樹脂フィルムを発泡シート側に向けて重ね合わせ、積層フィルムと発泡シートとを加熱ロールとバックアップロールの間を通して、一体として引取りながら、積層フィルムを加熱ロールで圧着することにより、積層フィルムを発泡シートに接着させて、樹脂層を形成することにより、多層発泡シートを得ることができる。熱ラミネーションを行うための装置としては、従来公知の熱ラミネート装置を用いればよい。
【実施例0088】
次に、本発明のポリスチレン系樹脂発泡シートについて、実施例、比較例によりさらに詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0089】
発泡シートの製造装置として、第一押出機(スクリュー径65mm)と第二押出機(スクリュー径90mm)と第二押出機の出口に取付けられた口径80mmの環状ダイとを有するタンデム押出機を用いた。
【0090】
(スチレン-メタクリル酸共重合体)
次に示すスチレン-メタクリル酸共重合体を用いた。
(1)PSジャパン(株)製、スチレン-メタクリル酸共重合体:製品名「G-9001」(略称G9001、ガラス転移温度122℃、ビカット軟化温度118℃、MFR1.6g/10分)
【0091】
(ポリ乳酸)
次に示すポリ乳酸を用いた。
(1)浙江海正生物材料製、ポリ乳酸:製品名「REVODE110」(略称REVODE110、結晶化温度120℃、融点159℃、MFR4.5g/10分)、D体含有率2.7%)
【0092】
(耐衝撃性ポリスチレン)
次に示す耐衝撃性ポリスチレンを用いた。
(1)PSジャパン(株)製、耐衝撃性ポリスチレン:製品名「H8117」(略称H8117、ガラス転移温度104℃、ビカット軟化温度95℃、MFR1.3g/10分)
【0093】
樹脂のMFRは、JIS K7210-1:2014に基づき求めた。測定条件としては、スチレン-メタクリル酸共重合体及び耐衝撃性ポリスチレンの場合は試験温度200℃、公称荷重5kgの条件を採用し、ポリ乳酸系樹脂の場合は試験温度190℃、公称荷重2.16kgの条件を採用した。
【0094】
樹脂のガラス転移温度は、JIS K7121-1987年に準拠してDSC測定を行うことにより求めた。測定装置としては熱流束示差走査熱量測定装置(TA Instruments社製「装置名:DSC Q1000」)を用いた。なお、DSC測定における加熱速度は10℃/分とした。DSC測定により得られるDSC曲線の中間点ガラス転移温度を、樹脂のガラス転移温度とした。
【0095】
耐衝撃性ポリスチレン、ポリ乳酸、耐衝撃性ポリスチレン及び基材樹脂のビカット軟化温度はJIS K7206:2016のA50法に準拠して求めた。なお、基材樹脂のビカット軟化温度の測定に用いた試験片は、発泡シートを200℃でヒートプレスして脱泡させた試験片を使用した。
【0096】
ポリ乳酸の融点Tm(℃)は、JIS K7121-1987に基づき求めた。具体的には、状態調節として「(2)一定の熱処理を行なった後、融解温度を測定する場合」を採用し、状態調節された試験片を10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで加熱することによりDSC曲線を取得し、融解(吸熱)ピークの頂点温度を融点とした。なお、測定装置としては、熱流束示差走査熱量測定装置(TA Instruments社製「装置名:DSC Q1000」)を用いた。
【0097】
ポリ乳酸系樹脂の結晶化温度Tc(℃)は、JIS K7121-1987に基づき求めた。具体的には、熱流束示差走査熱量測定装置を用いて、試験片を10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで加熱し、この温度に10分間保った後、200℃から30℃まで冷却することによりDSC曲線を取得し、冷却時のDSC曲線における結晶化(発熱)ピークの頂点温度を結晶化温度とした。なお、測定装置としては、熱流束示差走査熱量測定装置(TA Instruments社製「装置名:DSC Q1000」)を用いた。
【0098】
実施例1~8、比較例1~6
表1、表2に示す種類、量のスチレン-メタクリル酸共重合体と、表1、表2に示す種類、量のポリ乳酸と、表1、表2に示す種類、量の耐衝撃性ポリスチレンからなる混合樹脂と、混合樹脂100重量部に対し2.6重量部のタルク(気泡調整剤:松村産業社製ハイフィラー#12)を第一押出機のホッパー上にセットしたバッチ式連続混合装置にて均一に混和した後、第一押出機へ供給した。押出機のシリンダー温度は最高設定温度を240℃とし、混合樹脂を加熱、溶融させ、混合樹脂100重量部に対して表1、表2に示す量の混合ブタン(ノルマルブタン35質量%とイソブタン65質量%との混合物)を発泡剤として圧入し、続いて第二押出機にて、押出樹脂温度164℃に冷却してから、環状ダイに供給し、ダイのスリットを通して円筒状に押出しながら発泡させて円筒状発泡体を形成しながら、円筒状発泡体の内側と外側に表1、表2に示す量の冷却エアーを吹きかけて冷却した。その後、直径270mmの冷却装置(マンドレル)の外面に沿わせてさらに冷却しつつ引取りながら、押出方向に沿って2枚に切り開いて幅848mmの発泡シートを得た。得られた発泡シートの物性を表1、表2に示す。
なお、冷却装置の外面に接触させなかった発泡シートの面をA面とし、接触させた発泡シートの面をB面とした。
【0099】
【0100】
【0101】
以下、表1、表2に記載の各物性の測定方法について説明する。
【0102】
(発泡シートの厚み)
発泡シートの厚みは、前述した方法により測定した。
【0103】
(発泡シートの坪量及び見掛け密度)
発泡シートの見掛け密度は、以下の方法により測定した。具体的には、発泡シートの幅方向における等間隔の10箇所それぞれから縦25mm×横25mm×発泡シートの厚みの寸法で試験片を切り出して質量を測定した。次に、その質量を1600倍して、単位換算することで坪量を算出した。さらに、算出した発泡シートの坪量を発泡シートの厚みで除した値を単位換算し、各試験片の見掛け密度を算出した。そして、それらの算術平均値を発泡シートの見掛け密度とした。
【0104】
(独立気泡率)
発泡シートの独立気泡率は、ASTM-D2856-70の手順Cに従って、東芝ベックマン株式会社の空気比較式比重計930型を使用して測定(無作為に発泡シートから25mm×25mm×シート厚みに切断したカットサンプルを、サンプルの厚みの総和が20mmに最も近づくように(ただし、20mmを超えない。)複数枚重ねてサンプルカップ内に収容して測定した。)された発泡シート(カットサンプル)の真の体積Vxを用い、下記(1)式により独立気泡率S(%)を計算し、n=5の平均値として求めた。
S(%)=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ) (1)
Vx:前記方法で測定されたカットサンプルの真の体積(cm3)であり、発泡シートを構成する樹脂の容積と、カットサンプル内の独立気泡部分の気泡全容積との和に相当する。
Va:測定に使用されたカットサンプルの外寸から計算されたカットサンプルの見掛け上の体積(cm3)。
W:測定に使用されたカットサンプル全重量(g)。
ρ:発泡シートを構成する樹脂の密度(g/cm3)
【0105】
(最表面側に位置する気泡の水平方向の平均径)
最表面側に位置する気泡の水平方向の平均気泡径(最表面側平均気泡径)は、次のように測定した。
発泡シートを切断する位置を無作為に各10か所選択して各位置で切断面を特定し、下記に記す気泡径の計測方法を適用して、10か所の垂直断面における、MD断面水平フェレ径の算術平均値及びTD断面水平フェレ径の算術平均値を算出し、これらの算術平均値の相乗平均を、最表面側に位置する気泡の水平方向の平均気泡径とした。
各位置の気泡径は次のように測定した。発泡シートの押出方向に沿った切断面(押出方向垂直断面)及び発泡シートの押出方向に沿った方向に法線ベクトルを有するような切断面(幅方向垂直断面)を、顕微鏡等にて拡大し拡大画像を得た。そして、拡大画像上に認められる、発泡シートの表面A面側の最表面側に位置する気泡全てに対して、各気泡の押出方向および幅方向の気泡径(MD断面水平フェレ径、TD断面水平フェレ径)を計測した。
【0106】
(全体平均気泡径)
発泡シート全体の水平方向の平均気泡径(全体平均気泡径)は、次のように測定した。
発泡シートを切断する位置を無作為に各10か所選択して各位置で切断面を特定し、下記に記す気泡径の計測方法を適用して、10か所の垂直断面における、MD断面水平フェレ径の算術平均値及びTD断面水平フェレ径の算術平均値を算出し、これらの算術平均値の相乗平均を、全体平均気泡径とした。
各位置の気泡径は次のように測定した。発泡シートの押出方向に沿った切断面(押出方向垂直断面)及び発泡シートの押出方向に沿った方向に法線ベクトルを有するような切断面(幅方向垂直断面)を、顕微鏡等にて拡大し、拡大画像を得た。そして、拡大画像上に認められる全ての気泡に対して、各気泡の押出方向及び幅方向の気泡径(MD断面水平フェレ径、TD断面水平フェレ径)を計測した。
【0107】
(耐衝撃性)
実施例、比較例で得られた発泡シートの耐衝撃性について、下記の試験を行い、下記の基準で評価した。
発泡シートから60mm ×60mm サイズの試験片を切り出し、内径40mmの円形状測定孔を有する筒状支持台の上に、試験片を内径40mmの円形状測定孔が形成された固定具で抑えて固定し、先端に直径20mmの半球を備えたロードセルが接続されたロッドを、上方から下降速度500m/minで降下させて試験片を突き刺し、破壊時の荷重ならびに変位を記録した。得られた測定値について次の基準で評価した(N=5)。
〇 : 破壊時の荷重が60N以上
× : 破壊時の荷重が60N未満
【0108】
(曲げ剛性)
発泡シートの無作為に選択した5か所から、発泡シートの幅方向と試験片の長さ方向とを一致させて、長さ80mm×幅10mm×厚み: 発泡シートの厚みの試験片5個をそれぞれ切り出した。該試験片を23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室に24時間載置して試験片の状態調節を行った。状態調節を行った試験片を用いて、23℃ 、相対湿度50%の恒温恒湿室内で、JIS K7171:2022に基づき、支点間距離:16mm、圧子の半径R1:5.0mm、支持台の半径R2: 2.0mm、試験速度:2mm/分の条件で、試験片の曲げ弾性率を測定し、測定値の算術平均値を発泡シートの曲げ剛性とした。
得られた測定値について次の基準で曲げ剛性を評価した。
◎ : 曲げ弾性率が90MPa超
〇 : 曲げ弾性率が90MPa以下75MPa以下
× : 曲げ弾性率が75MPa未満
【0109】
[ポリオレフィン系樹脂フィルムの積層]
CPP25μm(サントックスKT)とCPS20μm(大石産業SPH)とがドライラミネートにより積層されたフィルム「CPP/PS45μm無地」と前記発泡シートとを、CPSを発泡シートのA面側に向けて重ね合わせて、190℃の熱ロールとバックアップロールの間を通して引取り、積層フィルムを発泡シートに圧着ラミネートし、多層発泡シートを得た。このとき、ライン速度は17m/min、熱ロールとバックアップロールの間隙を0.5mmに設定した。
得られた多層発泡シートの耐衝撃性、ポリオレフィン系樹脂フィルムの接着性、耐熱性の評価を表1、表2に示す。
【0110】
(多層発泡シートの坪量、厚み)
前記方法により測定した。
【0111】
(樹脂層の接着強度)
多層発泡シートから押出方向に沿って幅25mmの試験片を切り出し、(株)エー・アンド・デイ製テンシロン万能試験機RTC-1250A-PLを用いてJIS Z0237 : 2022に準拠し、剥離速度条件300mm/minの90°引きはがし試験にて多層発泡シートから樹脂層を引きはがし、その際の引きはがし粘着力の値を測定した。多層発泡シートの無作為に選択した5箇所から試験片を切り出し、前記方法で引きはがし力の値を5点測定し、それらの算術平均値を接着強度とした。なお、剥離後の発泡シートと樹脂層との剥離状態を確認したところ全て界面剥離であった。
【0112】
(多層発泡シートの外観)
多層発泡シートの樹脂層が積層された面の外観を目視により確認し、以下の基準で評価した。
◎:表面に凹凸なし
〇:表面に若干の凹凸あり
×:表面に著しい凹凸あり
【0113】
前記多層発泡シートを40℃の条件下で30日養生した多層発泡シート用いて、熱成形を行った。
具体的には、該多層発泡シートを用いて、マッチモールド真空成形を行い成形体を得た。真空成形には熱成形機(浅野研究所製 型番FKS-0631-10)を使用した。開口部が直径202mmの円形で、高さが38mmの皿状形(展開倍率1.28倍)の金型を用いて、ヒーター温度を290℃とし加熱時間を10~24秒とする条件で、養生後の多層発泡シートを熱成形した。これにより皿状の成形体を得た。
【0114】
(成形体の耐熱性)
得られた多層発泡シートを熱成形して長辺190mm×短辺140mm×深さ25mmのトレー形状の成形体を得、得られた成形体を用いて電子レンジ試験を実施した。具体的には前記成形体に市販のレトルトカレー90g を入れ、蓋をして、600Wで1分30秒間加熱した。なお、蓋は、トレーのフランジと嵌合可能で、蒸気逃がしを備えた熱成形されたポリスチレン製の蓋を用い、成形体に嵌合させた。加熱前後の成形体の長辺寸法及び短辺寸法をそれぞれ測定し、加熱前の長辺寸法と加熱後の長辺寸法との差の絶対値(長辺寸法差) と、加熱前の短辺寸法と加熱後の短辺寸法との差の絶対値(短辺寸法差)とを求めた。長辺寸法差と短辺寸法差のうち大きい方の値を加熱寸法差とし、次の基準で評価した。
◎ : 加熱寸法差が2mm未満
〇 : 加熱寸法差が2mm以上3mm未満
× : 加熱寸法差が3mm以上