(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110356
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】積層体およびその用途
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20240807BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20240807BHJP
C08F 210/18 20060101ALI20240807BHJP
B32B 27/26 20060101ALI20240807BHJP
F16G 1/08 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
B32B27/32 103
C08L23/08
C08F210/18
B32B27/26
F16G1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014909
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 啓介
(72)【発明者】
【氏名】大久保 太一
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4F100AH02A
4F100AH02H
4F100AK62A
4F100AK66A
4F100AK75A
4F100AL01A
4F100AN02A
4F100AT00
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4F100CA02A
4F100CA02H
4F100DG11B
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4F100JB12A
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4J002BB051
4J002EK036
4J002EK037
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4J002EK047
4J002EK056
4J002EK057
4J002EK066
4J002EK067
4J002EK086
4J002EK087
4J002FD010
4J002FD020
4J002FD030
4J002FD140
4J002FD146
4J002FD147
4J002FD150
4J002FD170
4J002GF00
4J002GM01
4J100AA02P
4J100AA04Q
4J100AA07Q
4J100AA15Q
4J100AA16Q
4J100AA19Q
4J100AR18Q
4J100AR22Q
4J100AS11Q
4J100AS15Q
4J100AS21Q
4J100AS25Q
4J100CA05
4J100JA28
(57)【要約】
【課題】機械物性を維持しつつ、エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体を含有する組成物から形成された層と繊維基材層との接着性に優れる積層体を提供すること。
【解決手段】エチレン[A1]に由来する構造単位と、炭素数4~20のα-オレフィン[A2]に由来する構造単位と、非共役ポリエン[A3]に由来する構造単位と、を含み、かつ、1)~(4)の要件を満たすエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)と、少なくとも2種の有機過酸化物(B)と、を含有するエチレン系共重合体組成物から形成された層(X)および繊維基材層(Y)を備え、前記層(X)と前記繊維基材層(Y)とが接している、積層体およびベルト。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン[A1]に由来する構造単位と、炭素数4~20のα-オレフィン[A2]に由来する構造単位と、非共役ポリエン[A3]に由来する構造単位と、を含み、かつ、下記(1)~(4)の要件を満たすエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)と、
少なくとも2種の有機過酸化物(B)と、
を含有するエチレン系共重合体組成物から形成された層(X)および繊維基材層(Y)を備え、
前記層(X)と前記繊維基材層(Y)とが接している、積層体;
(1)エチレン[A1]に由来する構造単位と、炭素数4~20のα-オレフィン[A2]に由来する構造単位とのモル比〔[A1]/[A2]〕が、40/60~90/10であり、
(2)非共役ポリエン[A3]に由来する構造単位の含有量が、[A1]、[A2]および[A3]の構造単位の合計100モル%に対して、0.1~6.0モル%であり、
(3)125℃におけるムーニー粘度ML(1+4)125℃が、5~100であり、
(4)下記式(i)で表されるB値が1.20以上である;
B値=([EX]+2[Y])/〔2×[E]×([X]+[Y])〕…(i)
[上記式(i)中、[E]、[X]および[Y]は、それぞれ、エチレン[A]、炭素数4~20のα-オレフィン[A2]および非共役ポリエン[A3]のモル分率を示し、[EX]は、エチレン[A1]-炭素数4~20のα-オレフィン[A2]のダイアッド連鎖分率を示す。]
【請求項2】
前記炭素数4~20のα-オレフィン[A2]が、1-ブテンである請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記有機過酸化物(B)が1分子中にペルオキシド構造を1つ有する化合物と、1分子中にペルオキシド構造を2つ有する化合物と、を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
前記1分子中にペルオキシド構造を1つ有する化合物が、ジクミルパーオキサイド(DCP)である、請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
前記1分子中にペルオキシド構造を2つ有する化合物が、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、および、[1,3-フェニレンビス(ジメチルメチレン)]ビス(tert-ブチルペルオキシド)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項3に記載の積層体。
【請求項6】
前記エチレン系共重合体組成物が架橋物である、請求項1に記載の積層体。
【請求項7】
前記繊維基材層(Y)を構成する繊維がレゾルシンホルムアルデヒドラテックス(RFL)処理された繊維を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項8】
前記繊維基材層(Y)の繊維基材が帆布である、請求項1に記載の積層体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の積層体を備える、ベルト。
【請求項10】
伝動ベルトまたは搬送用ベルトである請求項9に記載のベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)などのエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体は、一般に、耐候性、耐熱性、耐オゾン性に優れており、自動車用工業部品、工業用ゴム製品、電気絶縁材、土木建築用材、ゴム引き布などに用いられている。
【0003】
エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体を含有する組成物から形成された層と、繊維基材層とを有し、これらの層の接着性に優れる積層体として、例えば、特許文献1には、エチレン[A1]に由来する構造単位と、炭素数4~20のα-オレフィン[A2]に由来する構造単位と、非共役ポリエン[A3]に由来する構造単位とを有し、特定の要件を満たすエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)と、有機過酸化物(B)と、2つ以上のエチレン性二重結合を有する架橋助剤(C)とを含有する組成物から形成された層(X)と、繊維基材層(Y)とを有し、前記層(X)と前記繊維基材層(Y)とが接している、積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-074906号公報
【特許文献2】特開2021-161258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1および2に記載されたエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体より形成される層を備えた積層体とした場合、従来の積層体よりも接着性により優れ、かつ、機械物性にも優れる積層体の改良が求められている。
【0006】
本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、機械物性を維持しつつ、エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体を含有する組成物から形成された層と繊維基材層との接着性に優れる積層体および当該積層体を備えるベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する手段には、以下の態様が含まれる。
<1> エチレン[A1]に由来する構造単位と、炭素数4~20のα-オレフィン[A2]に由来する構造単位と、非共役ポリエン[A3]に由来する構造単位と、を含み、かつ、下記(1)~(4)の要件を満たすエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)と、少なくとも2種の有機過酸化物(B)と、を含有するエチレン系共重合体組成物から形成された層(X)および繊維基材層(Y)を備え、
前記層(X)と前記繊維基材層(Y)とが接している、積層体;
(1)エチレン[A1]に由来する構造単位と、炭素数4~20のα-オレフィン[A2]に由来する構造単位とのモル比〔[A1]/[A2]〕が、40/60~90/10であり、
(2)非共役ポリエン[A3]に由来する構造単位の含有量が、[A1]、[A2]および[A3]の構造単位の合計100モル%に対して、0.1~6.0モル%であり、
(3)125℃におけるムーニー粘度ML(1+4)125℃が、5~100であり、
(4)下記式(i)で表されるB値が1.20以上である;
B値=([EX]+2[Y])/〔2×[E]×([X]+[Y])〕…(i)
[上記式(i)中、[E]、[X]および[Y]は、それぞれ、エチレン[A]、炭素数4~20のα-オレフィン[A2]および非共役ポリエン[A3]のモル分率を示し、[EX]は、エチレン[A1]-炭素数4~20のα-オレフィン[A2]のダイアッド連鎖分率を示す。]
<2> 前記炭素数4~20のα-オレフィン[A2]が、1-ブテンである<1>に記載の積層体。
<3> 前記有機過酸化物(B)が1分子中にペルオキシド構造を1つ有する化合物と1分子中にペルオキシド構造を2つ有する化合物とを含む、<1>または<2>に記載の積層体。
<4> 前記1分子中にペルオキシド構造を1つ有する化合物が、ジクミルパーオキサイド(DCP)である、<3>に記載の積層体。
<5> 前記1分子中にペルオキシド構造を2つ有する化合物が、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、および、[1,3-フェニレンビス(ジメチルメチレン)]ビス(tert-ブチルペルオキシド)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、<3>に記載の積層体。
<6> 前記エチレン系共重合体組成物が架橋物である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の積層体。
<7> 前記繊維基材層(Y)を構成する繊維がレゾルシンホルムアルデヒドラテックス(RFL)処理された繊維を含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の積層体。
<8> 前記繊維基材層(Y)の繊維基材が帆布である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の積層体。
<9> <1>~<8>のいずれか1つに記載の積層体を備える、ベルト。
<10> 伝動ベルトまたは搬送用ベルトである<9>に記載のベルト。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、機械物性を維持しつつ、エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体を含有する組成物から形成された層と繊維基材層との接着性に優れる積層体および当該積層体を備えるベルトが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、「重合体」および「(共)重合体」との語句は、特に断りのない限り、単独重合体および共重合体を包含する意味で用いられる。
本明細書において、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、数値範囲を示す「~」の前後いずれか一方に記載される単位は、特に断りがない限り同じ単位を示すことを意味する。
本明細書において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
また、本明細書において、特に限定しない限りにおいて、組成物中の各成分、または、ポリマー中の各構造単位は1種単独で含まれていてもよいし、2種以上を併用してもよいものとする。
本明細書において、組成物中の各成分、または、ポリマー中の各構造単位の量は、組成物中に各成分、または、ポリマー中の各構造単位に該当する物質または構造単位が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する該当する物質またはポリマー中に存在する複数の各構造単位の合計量を意味する。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
<積層体>
本発明に係る積層体は、エチレン[A1]に由来する構造単位と、炭素数4~20のα-オレフィン[A2]に由来する構造単位と、非共役ポリエン[A3]に由来する構造単位と、を含み、かつ、下記(1)~(4)の要件を満たすエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)と、少なくとも2種の有機過酸化物(B)と、を含有するエチレン系共重合体組成物から形成された層(X)および繊維基材層(Y)を備え、前記層(X)と前記繊維基材層(Y)とが接している。
本発明の積層体は、上記構成を有することで、機械物性を維持しつつ、エチレン系共重合体組成物から形成された層と繊維基材層との接着性に優れる。この理由は明らかではないが以下のようなメカニズムが推測される。
エチレン系共重合体組成物から形成された層は、(1)~(4)の要件を満たすエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)と、少なくとも2種の有機過酸化物(B)と、を含むので、組成物に含まれる少なくとも2種の過酸化物がそれぞれ異なる架橋ネットワークを形成するため、繊維基材層との接着性により優れ、かつ、機械物性も維持されると推察している。したがって、本実施形態の積層体は、例えば、ベルトの構成部材として好適に用いることができる。
以下、積層体を構成する各層について説明する。
【0011】
<層(X)>
層(X)は、エチレン[A1]に由来する構造単位と、炭素数4~20のα-オレフィン[A2]に由来する構造単位と、非共役ポリエン[A3]に由来する構造単位と、を含み、かつ、下記(1)~(4)の要件を満たすエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)と、少なくとも2種の有機過酸化物(B)と、を含有するエチレン系共重合体組成物から形成された層であり、好ましくはエチレン系共重合体組成物を架橋成形してなる層である。
以下、エチレン系共重合体組成物に含まれる各成分について説明する。
【0012】
<エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)>
エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)(以下「共重合体(A)」ともいう。)は、エチレン[A1]に由来する構造単位と、炭素数4~20のα-オレフィン[A2]に由来する構造単位と、非共役ポリエン[A3]に由来する構造単位と、を含み、かつ、下記(1)~(4)の要件を満たす。
【0013】
なお、共重合体(A)は、エチレン[A1]に由来する構造単位と、少なくとも1種の炭素数4~20のα-オレフィン[A2]に由来する構造単位と、少なくとも1種の非共役ポリエン[A3]に由来する構造単位とを有することができる。また、上記エチレン[A1]、並びに、後述するα-オレフィン[A2]および非共役ポリエン[A3]はバイオマス由来のものであってもよい。
【0014】
<<[A2]に由来する構造単位>>
炭素数4~20のα-オレフィン[A2]としては、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ノナデセン、1-エイコセン等の直鎖状α-オレフィン;4-メチル-1-ペンテン、9-メチル-1-デセン、11-メチル-1-ドデセン、12-エチル-1-テトラデセン等の側鎖含有α-オレフィンが挙げられる。これらの中でも、炭素数4~20のα-オレフィン[A2]としては、炭素数4~10のα-オレフィンが好ましく、1-ブテン、1-ヘキセン、および、1-オクテンがより好ましく、1-ブテンがさらに好ましい。
炭素数4~20のα-オレフィン[A2]は1種単独であってもよいし、または2種以上併用してもよい。
【0015】
本発明の積層体において、共重合体(A)はゴム成分となるので、炭素数4~20のα-オレフィン[A2]に由来する構造単位を含むことで、共重合体(A)を含む層(X)と後述する層(Y)との接着性がより向上すると推察している。
【0016】
<<[A3]に由来する構造単位>>
非共役ポリエン[A3]としては、例えば、1,4-ヘキサジエン、1,6-オクタジエン、2-メチル-1,5-ヘキサジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン等の鎖状非共役ジエン;シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、メチルテトラヒドロインデン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペニル-2-ノルボルネン等の環状非共役ジエン;2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-エチリデン-3-イソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-プロペニル-2,5-ノルボルナジエン、1,3,7-オクタトリエン、1,4,9-デカトリエン、4,8-ジメチル-1,4,8-デカトリエン、4-エチリデン-8-メチル-1,7-ノナジエン等のトリエンが挙げられる。
これらの中でも、非共役ポリエン[A3]としては、1,4-ヘキサジエン等の鎖状非共役ジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、および、5-ビニル-2-ノルボルネン等の環状非共役ジエンが好ましく、環状非共役ジエンがより好ましく、5-エチリデン-2-ノルボルネン、および、5-ビニル-2-ノルボルネンがさらに好ましい。
非共役ポリエン[A3]は1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
共重合体(A)としては、例えば、エチレン・1-ブテン・1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン・1-ペンテン・1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン・1-ヘキセン・1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン・1-へプテン・1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン・1-オクテン・1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン・1-ノネン・1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン・1-デセン・1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン・1-ブテン・1-オクテン・1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン・1-ブテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-ペンテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-ヘキセン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-へプテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-オクテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-ノネン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-デセン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-ブテン・1-オクテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-ブテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-ペンテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-ヘキセン・5-エチリデン-2-ノルボルネン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-へプテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-オクテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-ノネン・5-エチリデン-2-ノルボルネン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-デセン・5-エチリデン-2-ノルボルネン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-ブテン・1-オクテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体などが挙げられる。
【0018】
<<要件(1)>>
共重合体(A)は、(1)エチレン[A1]に由来する構造単位と、炭素数4~20のα-オレフィン[A2]に由来する構造単位とのモル比〔[A1]/[A2]〕が、40/60~90/10である。上記モル比が前記範囲にある共重合体(A)は、低温でのゴム弾性と常温での引張強度とのバランスに優れる。
【0019】
[A1]/[A2]の下限は、好ましくは45/55、より好ましくは50/50、さらに好ましくは55/45である。また、[A1]/[A2]の上限は、好ましくは80/20、より好ましくは75/25、さらに好ましくは70/30である。
【0020】
上記要件(1)および後述する要件(2)における、エチレン[A1]に由来する構造単位、炭素数4~20のα-オレフィン[A2]に由来する構造単位および非共役ポリエン[A3]に由来する構造単位のモル量は、1H-NMRスペクトルメーターによる強度測定によって求められる。
【0021】
<<要件(2)>>
共重合体(A)は、(2)非共役ポリエン[A3]に由来する構造単位の含有量が、前記[A1]に由来する構造単位、前記[A2]に由来する構造単位および前記[A3]に由来する構造単位の合計100モル%に対して、0.1~6.0モル%である。この含有量が前記範囲にある共重合体(A)は、架橋性および柔軟性に優れる。
前記[A3]に由来する構造単位の含有量の下限は、好ましくは0.5モル%である。前記[A3]に由来する構造単位の含有量の上限は、好ましくは4.0モル%、より好ましくは3.5モル%、さらに好ましくは3.0モル%である。
【0022】
<<要件(3)>>
共重合体(A)は、(3)125℃におけるムーニー粘度ML(1+4)125℃が、5~100であり、好ましくは10~70、より好ましくは10~30である。ムーニー粘度が前記範囲にある共重合体(A)は、加工性および流動性が良好であり、また良好な後処理品質(リボンハンドリング性)を示すと共に優れたゴム物性を有する。
【0023】
<<要件(4)>>
共重合体(A)は、(4)下記式(i)で表されるB値が、1.20以上であり、好ましくは1.20~1.80、より好ましくは1.22~1.40である。
【0024】
B値=([EX]+2[Y])/〔2×[E]×([X]+[Y])〕…(i)
上記式(i)中、[E]、[X]および[Y]は、それぞれ、エチレン[A1]、炭素数4~20のα-オレフィン[A2]および非共役ポリエン[A3]のモル分率を示し、[EX]は、エチレン[A1]-炭素数4~20のα-オレフィン[A2]のダイアッド連鎖分率を示す。
【0025】
B値が1.20以上であると、エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)は、低温での圧縮永久ひずみが生じ難く、低温でのゴム弾性と常温での引張強度とのバランスに優れる。また、共重合体(A)は、共重合体を構成するモノマー単位の交互性が高く結晶性が低いため、得られるエチレン系共重合体組成物の加工性が向上する。
【0026】
なお、B値は、共重合体における共重合モノマー連鎖分布のランダム性を示す指標であり、前記式(i)中の[E]、[X]、[Y]、[EX]は、13C-NMRスペクトルを測定し、J. C.Randall [Macromolecules, 15, 353 (1982)]、J. Ray [Macromolecules, 10, 773 (1977)]らの報告に基づいて求めることができる。
【0027】
共重合体(A)の含有量は、エチレン系共重合体組成物の全質量に対して、通常は20質量%以上、好ましくは30~90質量%である。
エチレン系共重合体組成物は、共重合体(A)を1種のみ含有していてもよく、共重合体(A)を2種以上含有してもよい。
【0028】
<<共重合体(A)の製造方法>>
共重合体(A)は、メタロセン触媒を用いた従来公知の製造方法で得られる。メタロセン触媒および当該触媒を用いた製造方法としては、例えば、国際公開第2015/122415号、特に当該公報の段落[0249]~[0320]に記載の例を採用することができる。
具体的には、
下記式(a)で表される遷移金属化合物(a)と、
有機金属化合物(b-1)、有機アルミニウムオキシ化合物(b-2)、および遷移金属化合物(a)と反応してイオン対を形成する化合物(b-3)から選ばれる少なくとも1種の化合物(b)とを含むオレフィン重合用触媒の存在下において、エチレン[A1]と炭素数4~20のα-オレフィン[A2]と非共役ポリエン[A3]とを共重合することにより、共重合体(A)を得ることができる。
【0029】
【0030】
上記式(a)について説明する。
Mは、チタン原子、ジルコニウム原子またはハフニウム原子である。
Rは、それぞれ独立に、アリール基の水素原子の一つ以上をハメット則の置換基定数σが-0.2以下の電子供与性基で置換してなる置換アリール基である。前記置換アリール基が電子供与性基を複数個有する場合、それぞれの電子供与性基は同一でも異なっていてもよい。
【0031】
Qは、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、アニオン配位子および孤立電子対で配位可能な中性配位子から同一のまたは異なる組合せで選ばれ、好ましくはハロゲン原子である。
【0032】
jは、1~4の整数であり、好ましくは2である。
Rにおけるアリール基としては、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、テトラセニル基、クリセニル基、ピレニル基、インデニル基、アズレニル基、ピロリル基、ピリジル基、フラニル基、チオフェニル基が挙げられ、フェニル基が好ましい。
【0033】
ハメット則の置換基定数σが-0.2以下の電子供与性基は、以下のように定義および例示される。ハメット則はベンゼン誘導体の反応または平衡に及ぼす置換基の影響を定量的に論ずるために1935年L. P. Hammettにより提唱された経験則であるが、これは今日広く妥当性が認められている。ハメット則で求められた置換基定数にはベンゼン環のパラ位に置換した際のσpおよびメタ位に置換した際のσmがあり、これらの値は多くの一般的な文献に見出すことができる。例えば、HanschおよびTaftによる文献[Chem. Rev., 91, 165 (1991)]には非常に広範な置換基について詳細な記載がなされている。ただし、これらの文献に記載されているσpおよびσmは、同じ置換基であっても文献によって値が僅かに異なる場合がある。本明細書ではこのような状況によって生じる混乱を回避するために、記載のある限りの置換基においてはHanschおよびTaftによる文献[Chem. Rev., 91, 165 (1991)]のTable 1(168-175頁)に記載された値をハメット則の置換基定数σpおよびσmと定義する。本明細書においてハメット則の置換基定数σが-0.2以下の電子供与性基とは、電子供与性基がフェニル基のパラ位(4位)に置換している場合はσpが-0.2以下の電子供与性基であり、フェニル基のメタ位(3位)に置換している場合はσmが-0.2以下の電子供与性基である。また、電子供与性基がフェニル基のオルト位(2位)に置換している場合、またはフェニル基以外のアリール基の任意の位置に置換している場合は、σpが-0.2以下の電子供与性基である。
【0034】
ハメット則の置換基定数σpまたはσmが-0.2以下の電子供与性基としては、例えば、p-アミノ基(4-アミノ基)、p-ジメチルアミノ基(4-ジメチルアミノ基)、p-ジエチルアミノ基(4-ジエチルアミノ基)、m-ジエチルアミノ基(3-ジエチルアミノ基)等の窒素含有基;p-メトキシ基(4-メトキシ基)、p-エトキシ基(4-エトキシ基)等の酸素含有基;p-t-ブチル基(4-t-ブチル基)等の三級炭化水素基;p-トリメチルシロキシ基(4-トリメチルシロキシ基)等のケイ素含有基が挙げられる。
【0035】
Rは、それぞれ独立に、前記電子供与性基としての窒素含有基および酸素含有基から選ばれる基を含む置換フェニル基であることが好ましい。
前記置換アリール基は、ハメット則の置換基定数σが-0.2以下の電子供与性基以外の、炭素数1~20の炭化水素基、ケイ素含有基、窒素含有基、酸素含有基、ハロゲン原子およびハロゲン含有基から選ばれる他の置換基を有していてもよい。前記置換アリール基が他の置換基を複数個有する場合、それぞれの他の置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0036】
一つの置換アリール基に含まれるハメット則の置換基定数σが-0.2以下の電子供与性基および他の置換基の各々のハメット則の置換基定数σの総和は-0.15以下であることが好ましい。このような置換アリール基としては、例えば、m,p-ジメトキシフェニル基(3,4-ジメトキシフェニル基)、p-(ジメチルアミノ)-m-メトキシフェニル基(4-(ジメチルアミノ)-3-メトキシフェニル基)、p-(ジメチルアミノ)-m-メチルフェニル基(4-(ジメチルアミノ)-3-メチルフェニル基)、p-メトキシ-m-メチルフェニル基(4-メトキシ-3-メチルフェニル基)、p-メトキシ-m,m-ジメチルフェニル基(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル基)などが挙げられる。
【0037】
Qにおいて、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が例示され;炭素数1~20の炭化水素基としては、炭素数1~10のアルキル基、炭素数3~10のシクロアルキル基が例示され;アニオン配位子としては、アルコキシ基、アリーロキシ基、カルボキシレート基、スルホネート基が例示され;孤立電子対で配位可能な中性配位子としては、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン等の有機リン化合物、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル化合物が例示される。
【0038】
遷移金属化合物(a)としては、例えば、[ビス(4-メトキシフェニル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-2,3,6,7-テトラメチルフルオレニル)]ハフニウムジクロリドが挙げられる。
【0039】
有機金属化合物(b-1)(ただし、有機アルミニウムオキシ化合物(b-2)を除く)としては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリn-オクチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム、トリシクロアルキルアルミニウム、イソブチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、メチルアルミニウムジクロリド、ジメチルアルミニウムクロリド、ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどの有機アルミニウム化合物が挙げられる。
【0040】
有機アルミニウムオキシ化合物(b-2)としては、例えば、従来公知のアルミノキサンが挙げられる。
遷移金属化合物(a)と反応してイオン対を形成する化合物(b-3)としては、例えば、特表平1-501950号公報、特表平1-502036号公報、特開平3-179005号公報、特開平3-179006号公報、特開平3-207703号公報、特開平3-207704号公報、USP-5321106号、国際公開第2015/122415号などに記載されたルイス酸、イオン性化合物、ボラン化合物およびカルボラン化合物が挙げられる。
【0041】
オレフィン重合用触媒は、必要に応じて担体(c)を含むことができる。担体(c)は、無機化合物または有機化合物であって、顆粒状ないしは微粒子状の固体である。このうち無機化合物としては、多孔質酸化物、無機ハロゲン化物、粘土、粘土鉱物またはイオン交換性層状化合物が好ましい。
【0042】
重合方法としては、溶液(溶解)重合、懸濁重合等の液相重合法または気相重合法のいずれにおいても実施可能である。重合温度は、通常は-50~+200℃、好ましくは0~200℃である。重合圧力は、通常は常圧~10MPaゲージ圧、好ましくは常圧~5MPaゲージ圧である。重合反応は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法においても行うことができる。さらに重合を反応条件の異なる2段以上に分けて行うことも可能である。
【0043】
<<有機過酸化物(B)>>
エチレン系共重合体組成物は、少なくとも2種の有機過酸化物(B)を含む。エチレン系共重合体組成物が少なくとも2種の有機過酸化物(B)を含むことにより、共重合体(A)の架橋効率をより向上させることができ、また得られる層(X)の耐熱老化性が向上し、得られる積層体の機械物性がより優れる。
有機過酸化物とは、1分子中にペルオキシド構造(-O-O-)または過カルボン酸構造(-C(=O)-O-O-)を有する化合物を示す。有機過酸化物は、ペルオキシド構造(-O-O-)および過カルボン酸構造(-C(=O)-O-O-)を1分子中に1つ含んでいてもよいし、2以上含んでいてもよい。
【0044】
有機過酸化物(B)としては、例えば、ジクミルパーオキサイド(DCP)、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、[1,3-フェニレンビス(ジメチルメチレン)]ビス(tert-ブチルペルオキシド)、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイドなどが挙げられる。
これらの中でも、共重合体(A)の架橋効率をより向上させることができ、また、得られる積層体の機械物性がより優れるという観点から、1分子中にペルオキシド構造を1つ有する化合物が、ジクミルパーオキサイド(DCP)であることが好ましい。また、同様の観点から、1分子中にペルオキシド構造を2つ有する化合物が、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、および、[1,3-フェニレンビス(ジメチルメチレン)]ビス(tert-ブチルペルオキシド)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0045】
また、得られる積層体の機械物性が維持され、かつ、層(X)と繊維基材層(Y)との接着性に優れるという観点から、有機過酸化物(B)としては、ジクミルパーオキサイド(DCP)を含むことが好ましく、ジクミルパーオキサイド(DCP)と、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、および、[1,3-フェニレンビス(ジメチルメチレン)]ビス(tert-ブチルペルオキシド)からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機過酸化物と、を含むことがより好ましい。
【0046】
これらの中でも、得られる積層体の機械物性が維持され、かつ、層(X)と繊維基材層(Y)との接着性に優れるという観点から、有機過酸化物(B)の分子量が、150以上であることが好ましく、180~400であることがより好ましく、200~350であることがさらに好ましい。
【0047】
1分間に有機過酸化物(B)の50%が分解する温度(℃)(半減期温度)としては、好ましくは120℃以上であり、より好ましくは130~200℃であり、さらに好ましくは140~190℃である。
得られる積層体の機械物性が維持され、かつ、層(X)と繊維基材層(Y)との接着性に優れるという観点から、少なくとも2種の有機過酸化物(B)の半減期温度の差が、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましい。
【0048】
得られる積層体の機械物性が維持され、かつ、層(X)と繊維基材層(Y)との接着性に優れるという観点から、有機過酸化物(B)としては、1分子中にペルオキシド構造を有する化合物を含むことが好ましく、1分子中にペルオキシド構造を1つ有する化合物と1分子中にペルオキシド構造を2つ有する化合物と含むことがより好ましい。
【0049】
得られる積層体の機械物性が維持され、かつ、層(X)と繊維基材層(Y)との接着性に優れるという観点から、1分子中にペルオキシド構造を1つ有する化合物と1分子中にペルオキシド構造を2つ有する化合物との組成比としては、質量基準で、好ましくは3:7~9:1であり、より好ましくは6:4~9:1である。
【0050】
有機過酸化物(B)の合計含有量は、共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは0.2~20質量部、より好ましくは0.5~15質量部である、さらに好ましくは1~10質量部である。有機過酸化物(B)の合計含有量が上記範囲内であると架橋が良好に進み、得られる層(X)の耐熱性および耐摩耗性の観点から好ましい。
【0051】
<<その他の成分>>
エチレン系共重合体組成物は、所望の目的に応じて、上記エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)、および、有機過酸化物(B)以外の成分(以下、「その他の成分」ともいう。)を本発明の効果を損なわない範囲で含んでいてもよい。
その他の成分としては、例えば、有機過酸化物(B)以外の架橋剤、架橋助剤、加硫促進剤、加硫助剤、フィラー、軟化剤、老化防止剤、加工助剤、活性剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、着色剤、滑剤および増粘剤などが挙げられる。
その他の成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
〔有機過酸化物(B)以外の架橋剤〕
上記有機過酸化物(B)以外の架橋剤としては、特に制限はなく、例えば、フェノール樹脂、硫黄系化合物(以下、「加硫剤」ともいう。)、ヒドロシリコーン系化合物、アミノ樹脂、キノンまたはその誘導体、アミン系化合物、アゾ系化合物、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物等の、ゴムを架橋する際に一般に使用される架橋剤が挙げられる。
【0053】
〔加硫剤〕
硫黄系化合物(加硫剤)としては、特に制限はなく、例えば、硫黄、塩化硫黄、二塩化硫黄、モルフォリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、ジチオカルバミン酸セレンが挙げられる。
【0054】
架橋剤として硫黄系化合物を用いる場合、エチレン系共重合体組成物中のその含有量は、共重合体(A)100質量部に対して、通常は0.1~10質量部、好ましくは0.2~7.0質量部、さらに好ましくは0.3~5.0質量部である。硫黄系化合物の含有量が上記範囲内であると、得られる成形体の表面へのブルームがなく、エチレン系共重合体組成物が優れた架橋特性を示す。
【0055】
〔加硫促進剤〕
架橋剤として硫黄系化合物を用いる場合、加硫促進剤を併用することが好ましい。
加硫促進剤としては、特に制限はなく、例えば、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N’-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、2-メルカプトベンゾチアゾール(例えば、サンセラーM(商品名;三新化学工業(株)製))、2-(4-モルホリノジチオ)ペンゾチアゾール(例えば、ノクセラーMDB-P(商品名;大内新興化学工業(株)製))、2-(2,4-ジニトロフェニル)メルカプトベンゾチアゾール、2-(2,6-ジエチル-4-モルフォリノチオ)ベンゾチアゾールおよびジベンゾチアジルジスルフィド(例えば、サンセラーDM(商品名;三新化学工業(株)製))などのチアゾール系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、トリフェニルグアニジンおよびジオルソトリルグアニジンなどのグアニジン系加硫促進剤;アセトアルデヒド・アニリン縮合物およびブチルアルデヒド・アニリン縮合物などのアルデヒドアミン系加硫促進剤;2-メルカプトイミダゾリンなどのイミダゾリン系加硫促進剤;テトラメチルチウラムモノスルフィド(例えば、サンセラーTS(商品名;三新化学工業(株)製))、テトラメチルチウラムジスルフィド(例えば、サンセラーTT(商品名;三新化学工業(株)製))、テトラエチルチウラムジスルフィド(例えば、サンセラーTET(商品名;三新化学工業(株)製))、テトラブチルチウラムジスルフィド(例えば、サンセラーTBT(商品名;三新化学工業(株)製))およびジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(例えば、サンセラーTRA(商品名;三新化学工業(株)製))などのチウラム系加硫促進剤;ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(例えば、サンセラーPZ、サンセラーBZおよびサンセラーEZ(商品名;三新化学工業(株)製))およびジエチルジチオカルバミン酸テルルなどのジチオ酸塩系加硫促進剤;エチレンチオ尿素(例えば、サンセラーBUR(商品名;三新化学工業(株)製)、サンセラー22-C(商品名;三新化学工業(株)製))、N,N’-ジエチルチオ尿素およびN,N’-ジブチルチオ尿素などのチオウレア系加硫促進剤;ジブチルキサトゲン酸亜鉛などのザンテート系加硫促進剤が挙げられる。
【0056】
加硫促進剤を用いる場合、共重合体組成物中のこれらの加硫促進剤の含有量は、共重合体(A)100質量部に対して、一般に0.1~20質量部、好ましくは0.2~15質量部、さらに好ましくは0.5~10質量部である。加硫促進剤の含有量が上記範囲内であると、得られる成形体の表面へのブルームなく、共重合体組成物が優れた架橋特性を示す。
加硫促進剤は1種単独であってもよいし、2種以上併用してもよい。
【0057】
〔加硫助剤〕
架橋剤として硫黄系化合物を用いる場合、加硫助剤を併用してもよい。加硫助剤としては、例えば、後述する架橋助剤として用いられる酸化亜鉛(例えば、ZnO#1・酸化亜鉛2種、ハクスイテック(株)製)、酸化マグネシウム、活性亜鉛華(例えば、「META-Z102」(商品名;井上石灰工業(株)製)などの酸化亜鉛)などが挙げられる。
加硫助剤を用いる場合、エチレン系共重合体組成物中の加硫助剤の配合量は、共重合体(A)100質量部に対して、通常1~20質量部である。
【0058】
有機過酸化物(B)以外の架橋剤の含有量としては、エチレン系共重合体組成物の全質量に対して、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%であり、実質的に有機過酸化物(B)以外の架橋剤を含まないことが特に好ましい。
【0059】
〔架橋助剤〕
得られる積層体の機械物性が維持され、かつ、層(X)と繊維基材層(Y)との接着性に優れるという観点から、エチレン系共重合体組成物は架橋助剤を含むことが好ましい。架橋助剤としては、例えば、p-キノンジオキシム等のキノンジオキシム系架橋助剤;エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等のアクリル系架橋助剤;ジアリルフタレート、トリアリルイソシアヌレート等のアリル系架橋助剤;マレイミド系架橋助剤;ジビニルベンゼン;酸化亜鉛(例えば、ZnO#1・酸化亜鉛2種(JIS規格(K-1410))、ハクスイテック(株)製)、酸化マグネシウム、活性亜鉛華(例えば、「META-Z102」(商品名;井上石灰工業(株)製)などの酸化亜鉛)等の金属酸化物が挙げられる。
これらの中でも、架橋助剤(C)としては酸化亜鉛が好ましい。
【0060】
架橋助剤の含有量は、上記有機過酸化物(B)1モルに対して、通常0.5~10モル、好ましくは0.5~7モル、より好ましくは1~6モルである。
架橋助剤は、1種単独であってもよいし、2種以上併用してもよい。
【0061】
〔フィラー〕
フィラーとしては、ゴム組成物に配合される公知のゴム補強剤を用いることができ、例えば、カーボンブラック、無機補強剤と呼称されている無機物が挙げられる。
【0062】
フィラーとしては、具体的には、旭#55G、旭#60UG(以上、旭カーボン(株)製)、シースト(V、SO、116、3、6、9、SP、TA等)のカーボンブラック(東海カーボン(株)製)、これらカーボンブラックをシランカップリング剤等で表面処理したのもの、および、シリカ、活性化炭酸カルシウム、微粉タルク、微粉ケイ酸、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、クレー等が挙げられる。
【0063】
これらの中でもフィラーとしては、好ましくはカーボンブラック、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、および、クレーである。
【0064】
フィラーの含有量は、共重合体(A)100質量部に対し、通常、50~300質量部、好ましくは80~250質量部である。
フィラーは1種単独であってもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
〔軟化剤〕
軟化剤としては、例えば、プロセスオイル、潤滑油、パラフィン油、流動パラフィン、石油アスファルト、ワセリン等の石油系軟化剤;コールタール等のコールタール系軟化剤;ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、大豆油、ヤシ油等の脂肪油系軟化剤;蜜ロウ、カルナウバロウ等のロウ類;ナフテン酸、パイン油、ロジンまたはその誘導体;テルペン樹脂、石油樹脂、クマロンインデン樹脂等の合成高分子物質;ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート等のエステル系軟化剤;その他、マイクロクリスタリンワックス、液状ポリブタジエン、変性液状ポリブタジエン、炭化水素系合成潤滑油、トール油、サブ(ファクチス)が挙げられる。
これらの中でも、軟化剤としては、石油系軟化剤が好ましく、プロセスオイルがより好ましい。
【0066】
軟化剤の含有量は、共重合体(A)100質量部に対して、一般に2~100質量部、好ましくは10~100質量部である。
【0067】
〔老化防止剤(安定剤)〕
層(X)が老化防止剤(安定剤)を含む場合、当該層(X)を備える積層体を含むシールパッキンの寿命を長くすることができる。
老化防止剤として、特に制限はなく、従来公知の老化防止剤が挙げられる。例えば、アミン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、イオウ系老化防止剤などが挙げられる。
【0068】
老化防止剤としては、具体的には、フェニルブチルアミン、N,N-ジ-2-ナフチル-p―フェニレンジアミン等の芳香族第2アミン系老化防止剤;ジブチルヒドロキシトルエン、テトラキス[メチレン(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ)ヒドロシンナメート]メタン等のフェノール系老化防止剤;ビス[2-メチル-4-(3-n-アルキルチオプロピオニルオキシ)-5-t-ブチルフェニル]スルフィド等のチオエーテル系老化防止剤;ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル等のジチオカルバミン酸塩系老化防止剤;2-メルカプトベンゾイルイミダゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾールの亜鉛塩、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート等のイオウ系老化防止剤等が挙げられる。
【0069】
老化防止剤の含有量は、共重合体(A)100質量部に対して、通常は0.3~10質量部、好ましくは0.5~7.0質量部である。老化防止剤の配合量が上記範囲内であると、得られる成形体の表面のブルームがなく、さらに加硫阻害の発生を抑制することができる。
【0070】
〔滑剤〕
滑剤としては、一般に滑剤としてゴムに配合されるものを広く使用することができる。具体的には、リシノール酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛またはエステル類等が挙げられる。これらのうち、ステアリン酸が好ましい。
【0071】
滑剤は、共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは1~3質量部である。滑剤の含有量が前記範囲内であると、混練加工性、押出加工性、射出成形性等の加工性にも優れるので好適である。
前記滑剤は、1種単独であってもよく、2種以上併用してもよい。
【0072】
〔活性剤〕
活性剤としては、特に制限はなく、例えば、ジ-n-ブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、モノエラノールアミン等のアミン類;ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、レシチン、トリアリルートメリレート、脂肪族カルボン酸または芳香族カルボン酸の亜鉛化合物等の活性剤;過酸化亜鉛調整物;クタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、合成ハイドロタルサイト、特殊四級アンモニウム化合物が挙げられる。
【0073】
活性剤の含有量は、共重合体(A)100質量部に対して、通常は0.2~10質量部、好ましくは0.3~5質量部である。
【0074】
〔他のポリマー〕
エチレン系共重合体組成物は、共重合体(A)以外の他のポリマーをさらに含有してもよい。他のポリマーとしては、架橋が必要なポリマーが好適に挙げられ、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等のゴムが挙げられる。架橋が不要な他のポリマーとしては、例えば、スチレンとブタジエンとのブロック共重合体(SBS)、ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレン(SEBS)、ポリスチレン-ポリ(エチレン-プロピレン)-ポリスチレン(SEPS)等のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、塩ビ系エラストマー(TPVC)、エステル系熱可塑性エラストマー(TPC)、アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、その他の熱可塑性エラストマー(TPZ)等のエラストマーが挙げられる。
【0075】
他のポリマーの含有量は、共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下であり、実質的に含まないことが特に好ましい。
他のポリマーは、1種単独であってもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0076】
<エチレン系共重合体組成物の調製>
エチレン系共重合体組成物は、上述した各成分を、例えば、ミキサー、ニーダー、ロール等の混練機を用いて所望の温度で混練することにより調製することができる。
組成物は、例えば以下のように調製される。共重合体(A)と、所定のその他の成分とを、混練機に投入して所定の加熱条件(例えば80~200℃で3~30分)で混練して均一化する(A練り)。なお、A練りでは、有機過酸化物(B)、架橋助剤等を投入せずに、A練りの加熱温度まで加熱して、共重合体(A)を架橋させる。A練りで混練された混合物の温度を、次いで、有機過酸化物(B)の架橋温度未満(例えば、130℃以下)まで下げた後、A練りで添加されなかった有機過酸化物(B)および架橋助剤等を上記混合物に添加し、所定の加熱条件(例えばロール温度30~80℃で1~30分間)でさらに混練して均一化し(B練り)、上記組成物を得ることができる。
【0077】
エチレン系共重合体組成物は、有機過酸化物(B)、架橋助剤等を配合する前の組成(A練り)において、125℃におけるムーニー粘度ML(1+4)が、通常は10~250、好ましくは10~100、より好ましくは10~50である。ムーニー粘度が前記範囲にある組成物は、良好な後処理品質を示すと共に優れたゴム物性を有する。
【0078】
<繊維基材層(Y)>
本発明の積層体は、繊維基材層(Y)を備える。繊維基材層(Y)を構成する繊維としては、例えば、ポリアミドからなる繊維(以下、「ポリアミド繊維」ともいう)、ガラス繊維、PAN系カーボン繊維、ピッチ系カーボン繊維、アルミナ繊維、シリコンカーバイド繊維、ホウ酸アルミ繊維、ポリエステル繊維が挙げられる。これらの中でも、繊維基材層(Y)としては、耐摩耗性およびモジュラス向上の観点から、ポリアミド繊維が好ましい。
【0079】
ポリアミドとしては、例えば、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10等の脂肪族ポリアミド;ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)、ポリヘキサメチレンテレフタラミド(6T)、あるいはこれらの単位を含む共重合ポリアミド等の半芳香族ポリアミド;ポリベンズアミド、ポリp-フェニレンテレフタラミド、ポリm-フェニレンイソフタラミド等の全芳香族ポリアミドが挙げられる。
【0080】
上記繊維は、フィラメントまたはステープル繊維の形で繊維基材として使用され、例えばコード糸、紡績糸などのそれ自体公知の形態で使用されてもよい。繊維基材としては、織布、編物、帆布、および、不織布および帆布が好ましく、織布がより好ましい。繊維基材層(Y)は、これらの繊維基材を単層で用いても、あるいは2層以上の多層で用いてもよい。
【0081】
繊維基材層(Y)は、例えば、ポリアミド繊維単独からなる層であってもよいし、ポリアミド繊維と他の補強用繊維、例えばガラス繊維、PAN系カーボン繊維、ピッチ系カーボン繊維、アルミナ繊維、シリコンカーバイド繊維、ホウ酸アルミ繊維、ポリエステル繊維等と、の組合せからなる層であってもよい。
【0082】
繊維基材層(Y)を構成する繊維の繊維径は特に限定されないが、好ましくは0.5~400μm、より好ましくは0.5~100μmである。また、繊維基材層(Y)の厚さは、好ましくは10~5000μm、より好ましくは50~3000μmである。
【0083】
<<RFL処理>>
また、上記繊維は繊維同士の接着性、あるいは上記層(X)と繊維基材層(Y)との接着性等を改良するために、繊維基材層(Y)を構成する繊維が、RFL(レゾルシン・ホルマリン・ラテックス)処理(RFL処理)などの公知の方法で表面処理していてもよい。
【0084】
RFL処理は、レゾルシン・ホルマリン・ラテックスを含有する処理液(RFL液)を用いて繊維の接着性を改良する処理である。
このRFL液は、レゾルシンとホルマリンの初期縮合物とゴムラテックスとの混合液である。ゴムラテックスとしては、スチレン・ブタジエン・ビニルピリジン三元共重合体(VP)、スチレン・ブタジエン共重合体(SBR)、クロロプレン(CR)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体(NBR)、水素添加NBR(H-NBR)、クロロスルホン化エチレン(CSM)、天然ゴムなどを用いることができ、ゴムラテックスは1種を単独であってもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0085】
<積層体の製造方法>
本発明の積層体の製造方法としては、特に制限はなく、種々公知の積層体の製造方法を採用し得る。例えば、未架橋の共重合体(A)を含む組成物から形成される層(X)と繊維基材層(Y)とを貼り合わせた後、層(X)を架橋する方法、架橋した共重合体(A)を含む組成物から形成される層(X)と繊維基材層(Y)とを貼り合わせる方法、あるいは、繊維基材層(Y)上に共重合体(A)を含む組成物から形成される層(X)を押出被覆した後、層(X)を架橋する方法等が挙げられる。
組成物を架橋させ、かつ、層(X)と繊維基材層(Y)とを接着させる観点から、未架橋の組成物から形成される層(X)と繊維基材層(Y)とを積層させたのち、必要に応じで加圧してもよい。
【0086】
<層(X)>
層(X)は、上記エチレン系共重合体組成物から形成することができる。層(X)は、種々公知の製造方法により得ることができる。層(X)の成形方法としては、例えば、押出成形、射出成形、プレス成形、カレンダー成形、トランスファー成形、発泡成形等の熱成形方法が挙げられる。
【0087】
混練して得られた未架橋のエチレン系共重合体組成物は、押出成形機、カレンダーロール、プレス、インジェクション成形機、トランスファー成形機など種々の成形方法より、意図する形状に成形した後に架橋してエチレン系共重合体組成物からなる層(X)を形成して繊維基材層(Y)と積層(貼り合わせ)してもよいし、未架橋のエチレン系共重合体組成物を上記方法で意図する形状に成形した後に繊維基材層(Y)と積層(貼り合わせ)して架橋してもよい。
【0088】
層(X)において、エチレン系共重合体組成物は架橋物であることが好ましい。上記組成物の架橋物は、上記組成物を架橋反応させることにより得ることができる。
エチレン系共重合体組成物(X)の架橋物を得る方法(架橋方法)としては、特に制限はなく、加熱する方法、または光、γ線、および、電子線照射による方法が挙げられ、これらの中でも加熱する方法が好ましい。
架橋反応の温度としては、通常は140℃以上、好ましくは150~220℃、より好ましくは160~200℃である。また、この架橋反応は、空気中で行うことができる。
【0089】
また、架橋する際には、金型を用いてもよいし、また金型を用いないで架橋を実施してもよい。金型を用いない場合は成形、架橋の工程は通常連続的に実施される。架橋槽における加熱方法としては、熱空気、ガラスビーズ流動床、UHF(極超短波電磁波)、スチームなどの加熱槽を用いることができる。
【0090】
<<積層体の用途>>
本発明の積層体は、層(X)と繊維基材層(Y)との接着性(剥離強度)にも優れており、さらに、耐摩耗性、耐熱性、耐寒性、機械的強度およびゴム弾性に優れるため、例えば、ベルトとして有用である。ただし、本実施形態の積層体は、ベルト用途に何ら限定されるものではない。
【0091】
<ベルト>
本発明のベルトは、上記積層体を備える。前記ベルトとしては、例えば、Vベルト、平ベルト、丸ベルト、歯付きベルト、Vリブドベルトなどの伝動ベルト;軽搬送用ベルト、円筒形ベルト、ラフトップベルト、フランジ付き搬送用ベルト、U型ガイド付き搬送用ベルト、Vガイド付き搬送用ベルトなどの搬送用ベルトが挙げられる。
【0092】
積層体は、伝動ベルトの構成部材として好適に用いることができる。伝動ベルトとしては、例えば、自動車用伝動ベルト、自動二輪用伝動ベルト、一般産業機械用伝動ベルトである。Vベルトとしては、例えば、ラップドベルト、ローエッジベルトが挙げられる。
【0093】
積層体は、エスカレーター用手すりの構成部材としても好適に用いることができる。すなわち、エスカレーター用手すりは、本実施形態の積層体を有する。
以下、伝動ベルトの一実施形態について説明する。伝動ベルトの一実施形態は、例えば、心線が埋設された接着ゴム部を有しており、さらに、上記接着ゴム部の下面に形成された底ゴム部を有することができる。上記伝動ベルトは、必要に応じて、接着ゴム部上に形成された上部帆布、および/または底ゴム部下に形成された下部帆布を有することができる。伝動ベルトは、接着ゴム部および/または底ゴム部に相当する層(X)と、上部帆布および/または下部帆布に相当する繊維基材層(Y)とを有する積層体を含む。
【0094】
伝動ベルトの抗張部材である心線は、接着ゴム部において、ベルトの長手方向に延在する。心線としては、例えば、ポリエステル系コードが挙げられる。接着ゴム部は、心線を取り囲み、かつ心線に接着されている。一実施形態では、例えば、本実施形態の組成物を心線周りに配置して架橋することにより、心線に接着された接着ゴム部を形成することができる。
【実施例0095】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
本発明の実施例で用いたエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)を以下に示す。
【0096】
〔エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)〕
国際公開第2015/122415号の[合成例C1]の記載に準じて、下記の物性を有するエチレン・1-ブテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)共重合体を得た。以下、これを「エチレン系共重合体(A)」と記載する。
【0097】
エチレン系共重合体(A)の構成および物性は、以下のとおりである。
エチレンに由来する構造単位:67.7モル%
1-ブテンに由来する構造単位:30.0モル%
ENBに由来する構造単位:2.3モル%
ムーニー粘度ML(1+4)100℃:30
ムーニー粘度ML(1+4)125℃:22
B値:1.3
【0098】
<エチレンに由来する構造単位、α-オレフィンに由来する構造単位、および非共役ポリエンに由来する構造単位のモル量>
前記モル量は、1H-NMRスペクトルメーターによる強度測定によって求めた。測定条件の詳細は、国際公開第2015/122415号に記載されている。
【0099】
<ムーニー粘度>
上記ムーニー粘度(ML(1+4)100℃および125℃)は、ムーニー粘度計((株)島津製作所製SMV202型)を用いて、JIS K6300(1994)に準じて測定した。
【0100】
<B値>
o-ジクロロベンゼン-d4/ベンゼン-d6(4/1[v/v])を測定溶媒とし、測定温度120℃にて、13C-NMRスペクトル(100MHz、日本電子(株)製ECX400P)を測定し、下記式(i)に基づき算出した。
【0101】
B値=([EX]+2[Y])/〔2×[E]×([X]+[Y])〕・・・(i)
ここで、式(i)中、[E]、[X]および[Y]は、それぞれ、エチレン[A1]、炭素数4~20のα-オレフィン[A2]、および非共役ポリエン[A3]に由来する構造単位のモル分率を示し、[EX]はエチレン[A1]-炭素数4~20のα-オレフィン[A2]ダイアッド連鎖分率を示す。
本発明の比較例で用いたエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体を以下に示す。
【0102】
<エチレン系共重合体組成物(架橋物)の物性>
-デュロメーターA硬度-
JIS K 6253に従い、架橋シートの硬度(タイプAデュロメーター、HA)の測定を行った。また、平滑な表面をもっている厚さ2mmの架橋シート6枚を用いて、平らな部分を積み重ねて厚み約12mmの試験片とした。ただし、試験片に異物の混入したもの、気泡のあるもの、およびキズのあるものは用いなかった。また、試験片の測定面の寸法は、押針先端が試験片の端から12mm以上離れた位置で測定できる大きさとした。
【0103】
<引張破断点応力(TB)、および、引張破断点伸び(EB)>
架橋シートの引張破断点応力(TB)、および、引張破断点伸び(EB)を以下の方法で測定した。
架橋シートを打抜いてJIS K 6251(1993年)に記載されている3号形ダンベル試験片を調製し、この試験片を用いてJIS K6251第3項に規定される方法に従い、測定温度25℃、引張速度500mm/分の条件で引張り試験を行ない、引張破断点応力(TB)および引張破断点伸び(EB)を測定した。
【0104】
<接着性(剥離試験)>
厚さ3mmの未架橋シートを、繊維基材層(Y)である、RFL処理をしたナイロン繊維の織布[綾羽工業(株)製]の上に置いて、200トンプレス成形機を用いて170℃で15分間加圧し未架橋シートを架橋し積層体を得た。当該積層体から幅25mmの試験片を打ち抜き、200mm/分の引張速度でT剥離試験を行い、剥離強度(N/cm)を測定した。剥離強度(N/cm)の値が大きいほど、層(X)と繊維基材層(Y)との接着性に優れるといえる。
【0105】
〔実施例1〕
上記で作製したエチレン系共重合体(A)を30秒素練りし、素練りしたエチレン系共重合体(A)100質量部に対して、架橋助剤として酸化亜鉛(ZnO#1)を5質量部、滑剤としてステアリン酸を1質量部、老化防止剤としてテトラキス[メチレン(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ)ヒドロシンナメート]メタン〔商品名:Irganox 1010、BASFFジャパ(株)製〕を2質量部、および、2-メルカプトベンゾイミダゾール(商品名:サンダントMB、三新化学工業(株)社製)を4質量部、カーボンブラック〔旭カーボン(株)製、商品名:旭#70〕を50質量部、ならびに、軟化剤〔商品名:ダイアナプロセスオイルPW-380、出光興産(株)製〕10質量部を容量1.7リットルのバンバリーミキサー((株)神戸製鋼所製)で2分間混練した。その後、ラムを上昇させ掃除を行ない、さらに、1分間混練を行ない、約150℃で排出し配合物を得た。この混練は充填率70%で行なった。
【0106】
次に、この配合物172質量部を、8インチロ-ル(前ロールの表面温度50℃、後ロールの表面温度50℃、前ロールの回転数16rpm、後ロールの回転数18rpm)に巻き付けて、有機過酸化物(B)として、ジクミルパーオキサイド(化薬アクゾ(株)製、商品名:三井DCP-40C)を6.8質量部、および、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン(日油(株)製、商品名:パーヘキサ25B-40)を1.7質量部、加えて10分間混練した後、シート状に分出し、厚さ2mm、3mmの未架橋のシート状のエチレン系共重合体組成物(未架橋シート)を調製した。
【0107】
得られた厚さ2mmの未架橋シートを、100トンプレス成形機を用いて170℃で15分間加圧し、架橋シートを作製した。得られた架橋シートについてデュロメーターA硬度、シートの引張破断点応力(TB)、および、引張破断点伸び(EB)を上記方法で測定した。結果を表1に示す。
【0108】
〔実施例2および実施例3〕
有機過酸化物(B)を表1に記載の種類および含有量に変更した以外は、実施例1と同様にしてエチレン系共重合体組成物(未架橋シート)を作製した。得られた架橋シートのデュロメーターA硬度、シートの引張破断点応力(TB)、および、引張破断点伸び(EB)を上記方法で測定した。また、未架橋シートを用いて剥離試験を行った。その結果を表1に示す。
【0109】
〔比較例1および2〕
有機過酸化物(B)を表1に記載の種類および含有量に変更した以外は、実施例1と同様にしてエチレン系共重合体組成物(未架橋シート)を作製した。得られた架橋シートのデュロメーターA硬度、シートの引張破断点応力(TB)、および、引張破断点伸び(EB)を上記方法で測定した。また、未架橋シートを用いて剥離試験を行った。その結果を表1に示す。
【0110】
【0111】
表1に示されるように、本発明に係る実施例1~3の積層体は、比較例1の積層体と比較して、機械物性を維持しつつ、かつ、層(X)と繊維基材層(Y)との接着性に優れていることがわかる。