(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011037
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】処理方法および処理装置
(51)【国際特許分類】
D06B 11/00 20060101AFI20240118BHJP
D06B 13/00 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
D06B11/00 A
D06B13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112710
(22)【出願日】2022-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】岡田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】関野 博一
(72)【発明者】
【氏名】勝田 治
【テーマコード(参考)】
3B154
【Fターム(参考)】
3B154AA07
3B154AB19
3B154AB27
3B154AB31
3B154BA09
3B154BB12
3B154BB33
3B154BB47
3B154BB70
3B154BC08
3B154BC22
3B154BC26
3B154BD01
3B154DA09
3B154DA13
(57)【要約】
【課題】布帛に対し良好な処理を行うことができる処理方法および処理装置を提供すること。
【解決手段】噴射ノズル孔と、前記噴射ノズル孔に流入する入り口となる液体流入口と、を有するノズルを少なくとも1つ備える液体噴射部の前記噴射ノズル孔から液体を布帛に向けて噴射し、衝突させる液体噴射工程と、前記液体噴射工程を経た前記布帛に対して振動を付与する振動付与工程と、を有し、前記噴射ノズル孔のノズル孔径をd[mm]とし、前記液体流入口の口径をD[mm]としたとき、0.01mm≦d≦0.30mm、かつ、5≦D/d≦150を満足することを特徴とする処理方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射ノズル孔と、前記噴射ノズル孔に流入する入り口となる液体流入口と、を有するノズルを少なくとも1つ備える液体噴射部の前記噴射ノズル孔から液体を布帛に向けて噴射し、衝突させる液体噴射工程と、
前記液体噴射工程を経た前記布帛に対して振動を付与する振動付与工程と、を有し、
前記噴射ノズル孔のノズル孔径をd[mm]とし、前記液体流入口の口径をD[mm]としたとき、
0.01mm≦d≦0.30mm、かつ、5≦D/d≦150を満足することを特徴とする処理方法。
【請求項2】
前記液体噴射工程では、前記布帛の一方の面を支持ローラーで支持しつつ、前記布帛の他方の面に前記液体を衝突させる請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記振動付与工程では、基部、および、前記基部から突出して設けられ、前記布帛と当接する複数の突出部を有する当接部材と、前記当接部材に振動を付与する振動発生源と、を備える振動付与部を用い、前記突出部を介して前記布帛に振動を付与する請求項1または2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記液体噴射工程と前記振動付与工程との間に行われ、前記布帛に付着または含浸した前記液体を除去する液体除去工程を有する請求項1に記載の処理方法。
【請求項5】
前記液体除去工程では、前記布帛の、前記液体が衝突した面を加熱ローラーに当接させることにより行われる請求項4に記載の処理方法。
【請求項6】
布帛を搬送する搬送部と、
噴射ノズル孔と、前記噴射ノズル孔に流入する入り口となる液体流入口と、を有するノズルを少なくとも1つ備え、前記噴射ノズル孔から液体を布帛に向けて噴射し、衝突させる液体噴射部と、
前記液体が前記布帛に衝突した後、前記搬送部により搬送されている前記布帛に対して振動を付与する振動付与部と、を備え、
前記噴射ノズル孔のノズル孔径をd[mm]とし、前記液体流入口の口径をD[mm]としたとき、
0.01mm≦d≦0.30mm、かつ、5≦D/d≦150を満足することを特徴とする処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理方法および処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に示すように、布帛等に対しインクを滴下して印刷を施す捺染方法が知られている。捺染後の布帛は、布帛の本来の風合いや品質が劣りやすく、この改善が求められている。風合いとは、手触り、肌触り等の質感のことである。
【0003】
特許文献1に記載されている印刷方法では、捺染前に、布帛のうち特定の部分に熱処理を行うことにより、捺染後の風合いを高めようとする試みがなされている。また、このような熱処理に限定されず、例えば、ブラシで布帛の表面を荒らすように擦る方法等の物理的処理が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の方法では、布帛に対し良好な処理が十分になされず、特に、良好な風合いが得られないという問題がある。そのため、布帛の風合いのさらなる改善が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の処理方法は、噴射ノズル孔と、前記噴射ノズル孔に流入する入り口となる液体流入口と、を有するノズルを少なくとも1つ備える液体噴射部の前記噴射ノズル孔から液体を布帛に向けて噴射し、衝突させる液体噴射工程と、
前記液体噴射工程を経た前記布帛に対して振動を付与する振動付与工程と、を有し、
前記噴射ノズル孔のノズル孔径をd[mm]とし、前記液体流入口の口径をD[mm]としたとき、
0.01mm≦d≦0.30mm、かつ、5≦D/d≦150を満足することを特徴とする。
【0007】
本発明の処理装置は、布帛を搬送する搬送部と、
噴射ノズル孔と、前記噴射ノズル孔に流入する入り口となる液体流入口と、を有するノズルを少なくとも1つ備え、前記噴射ノズル孔から液体を布帛に向けて噴射し、衝突させる液体噴射部と、
前記液体が前記布帛に衝突した後、前記搬送部により搬送されている前記布帛に対して振動を付与する振動付与部と、を備え、
前記噴射ノズル孔のノズル孔径をd[mm]とし、前記液体流入口の口径をD[mm]としたとき、
0.01mm≦d≦0.30mm、かつ、5≦D/d≦150を満足することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の処理方法を実行する処理装置の第1実施形態の概略構成図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す処理装置が備える液体噴射部の拡大縦断面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す処理装置が備える振動付与部の断面側面図である。
【
図4】
図4は、本発明の処理方法を実行する処理装置の第2実施形態の概略構成図である。
【
図5】
図5は、
図4に示す処理装置が備える振動付与部が布帛に振動を付与している状態を示す部分断面側面図である。
【
図6】
図6は、
図4に示す処理装置が備える振動付与部が布帛に振動を付与している状態を示す部分断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の処理方法および処理装置を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0010】
<第1実施形態>
図1は、本発明の処理方法を実行する処理装置の第1実施形態の概略構成図である。
図2は、
図1に示す処理装置が備える液体噴射部の拡大縦断面図である。
図3は、
図1に示す処理装置が備える振動付与部の断面側面図である。
【0011】
なお、
図1~
図4では、上側を「上方」または「上」と言い、下側を「下方」または「下」とも言う。また、
図1において、左側が、布帛100の搬送方向上流側であり、右側が、布帛100の搬送方向下流側である。
【0012】
本発明の処理方法は、
図1に示す処理装置1により実行される。本発明の処理方法は、例えば、布帛100に印刷を施す印刷工程の前処理として行われるが、これに限定されるものではない。
【0013】
本発明の処理方法を実行する対象は、布帛である。布帛を構成する繊維としては、特に限定されないが、例えば、綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維、ポリプロピレン、ポリエステル、アセテート、トリアセテート、ポリアミド、ポリウレタン等の合成繊維、ポリ乳酸等の生分解性繊維、および、これらの混紡繊維が挙げられる。風合いを良好とする効果を得易い観点で、綿またはポリエステル布帛を用いることが好ましい。
【0014】
布帛は、上記の繊維を、織物、編物、不織布等いずれの形態にしたものでもよい。また、本実施形態で使用する布帛の目付は、特に限定されないが、例えば、1.0oz以上10.0oz以下であってもよく、好ましくは2.0oz以上9.0oz以下であり、より好ましくは3.0oz以上8.0oz以下であり、さらに好ましくは、4.0oz以上7.0oz以下である。布帛の目付がこのような範囲であれば、良好な記録、すなわち印刷を行うことができる。
【0015】
本実施形態における布帛の種類としては、例えば、布地、および衣類やその他の服飾品が挙げられる。布地としては、例えば、織物、編物、および不織布が挙げられる。衣類やその他の服飾品としては、例えば、縫製後のTシャツ、ハンカチ、スカーフ、タオル、手提げ袋、布製のバッグ、カーテン、シーツ、ベッドカバー、壁紙等のファーニチャー類、および縫製前の部品としての裁断前後の布地が挙げられる。これらの形態としては、ロール状に巻かれた長尺のもの、所定の大きさに切断されたもの、製品形状のもの等が挙げられる。なお、布帛は、予め処理液を付与したものを用いてもよい。
【0016】
布帛としては、色材によって予め着色された布帛を用いてもよい。布帛が予め着色される色材としては、例えば、顔料、酸性染料、塩基性染料等の水溶性染料、分散剤を併用する分散染料、および反応性染料が挙げられる。布帛に綿布帛を用いる場合には、綿の染色に適した反応性染料や顔料を用いることが好ましい。顔料を用いる場合には、比較的多様な種類の布帛の着色に対応できる点で好ましい。顔料を用いて着色された布帛は、固形分が布帛の表面に多量に存在することに起因して風合いが低下しやすいところ、本発明の処理方法を実行することにより、風合いを改善し、布帛本来の風合いに近づけることができる。
【0017】
図1に示すように、処理装置1は、搬送部2と、液体噴射部4と、液体除去部5と、振動付与部3と、搬送部2、液体噴射部4、液体除去部5および振動付与部3の作動を制御する制御部6と、を備える。この処理装置1では、布帛として、連続した帯状をなす布帛100を処理する。
【0018】
搬送部2は、布帛100を搬送する装置であり、搬送方向上流側に位置し、ロール状に巻回された布帛100を巻き出す繰出部21と、搬送方向下流側に位置し、処理がなされた布帛100をロール状に巻き取る巻取部22と、中間ローラー23と、中間ローラー24と、中間ローラー25と、中間ローラー26と、を有する。
【0019】
繰出部21は、布帛100が巻回されているローラー211と、ローラー211に回転力を付与する図示しない第1モーターと、を有する。ローラー211が
図1中時計回りに回転することにより、ローラー211に巻回されている布帛100が繰り出される。
【0020】
巻取部22は、布帛100が巻回されているローラー221と、ローラー221に回転力を付与する図示しない第2モーターと、を有する。ローラー221が
図1中時計回りに回転することにより、布帛100を巻き取ってロール状に巻回することができる。
【0021】
制御部6は、第1モーターおよび第2モーターへの通電条件を制御することにより、ローラー211およびローラー221の回転速度、すなわち、搬送速度を調整することができる。なお、制御部6は、第1モーターの回転速度と第2モーターの回転速度とを制御すること、すなわち、布帛100の巻き出し速度と巻き取り速度の速度差を調整することにより、搬送中における布帛100の張力を適宜設定することができる。
【0022】
中間ローラー23、中間ローラー24、中間ローラー25および中間ローラー26は、布帛100の搬送経路において、繰出部21および巻取部22の間に設けられている。中間ローラー23、中間ローラー24、中間ローラー25および中間ローラー26は、繰出部21側から巻取部22に向かって、すなわち、搬送方向上流側から搬送方向下流側に向かって、布帛100の搬送経路上に順次配置されている。中間ローラー23、中間ローラー24、中間ローラー25および中間ローラー26は、布帛100を搬送経路の上流側から下流側へ向けて送る送りローラーとして機能する。
【0023】
中間ローラー24は、液体噴射部4の一部を兼ねており、液体が噴射される布帛100を支持する支持ローラーとして機能する。中間ローラー25は、液体除去部5の一部を兼ねており、乾燥ヒーターとしても機能する。すなわち、中間ローラー25は、布帛100を加熱する加熱ローラーである。
【0024】
中間ローラー23および中間ローラー25は、搬送中の布帛100の下面側に接触し、中間ローラー24および中間ローラー26は、搬送中の布帛100の上面側に接触する。
【0025】
中間ローラー23、中間ローラー24、中間ローラー25および中間ローラー26は、それぞれ、自ら回転駆動する主動ローラーであってもよく、自らは回転駆動力を有さない従動ローラーであってもよい。
【0026】
中間ローラー23、中間ローラー24、中間ローラー25および中間ローラー26が主動ローラーである場合、各ローラーには図示しないモーターが内蔵または接続されており、制御部6によって各モーターへの通電条件が制御される。
【0027】
このような搬送部2により、布帛100を搬送経路の上流側から下流側へ向けて所望の速度で安定的に搬送することができる。
【0028】
なお、布帛100の搬送方向における張力の調整は、ローラー211およびローラー221等の主動ローラーの軸トルクをモニターし、その軸トルクを調整することで実現することができる。布帛100の搬送方向における張力を調整して、適正な値とすることにより、後述する処理をさらに良好かつ適正に行うことができ、布帛100の風合い品質を効果的に向上させることができる。
【0029】
また、布帛100の搬送方向と交わる方向、すなわち、布帛100の幅方向における張力の調整は、中間ローラー23~26に対し、コンケープ下降を施した逆クラウン状のローラーや、中央部から左右対称に傾斜配列されたヘリカル構造を有するローラーや、外側方向に湾曲した形状で搬送するエキスパンダー型ローラー等を用いることにより、実現することができる。布帛100の幅方向における張力を調整して、適正な値とすることにより、後述する処理をさらに良好かつ適正に行うことができ、布帛100の風合い品質を効果的に向上させることができる。
【0030】
図1に示すように、液体噴射部4は、液体101を布帛に向けて噴射し、衝突させる液体噴射工程を実行する部分である。液体噴射部4は、液体101を噴射する少なくとも1つのノズル41と、噴射する液体101を貯留する液体タンク43と、液体タンク43内の液体101を液体噴射部4へ送るポンプ42と、搬送中の布帛100を液体噴射部4において支持する支持ローラーとしての中間ローラー24と、を備える。本実施形態では、ノズル41は、
図1中紙面手前側から奥側に向かって、すなわち、搬送中の布帛100の幅方向に沿って複数設けられている。配置されるノズル41の数は、特に限定されないが、例えば2個以上、100個以内とすることができる。ノズル41の数は、布帛100の材質、特性、幅の寸法等の諸条件に応じて適宜決定される。
【0031】
複数のノズル41の配置も特に限定されず、本実施形態では、
図1中紙面手前側から奥側に向かって、1列に配置されているが、2列または3列以上配置されていてもよい。
【0032】
図2に示すように、ノズル41は、例えば円柱状の内部空間である液体流入口412を有する第1部分44と、その上方に形成され、液体流入口412に連通する噴射ノズル孔411およびこれに続くテーパ部413を有する第2部分45とを備える。
【0033】
液体流入口412は、噴射ノズル孔411に液体が流入する入り口である。噴射ノズル孔411の孔形は円形である。ここで、噴射ノズル孔411のノズル孔径をd[mm]、液体流入口412の口径をD[mm]とする。
【0034】
ポンプ42により加圧され、液体流入口412に流入した液体101は、高圧の噴流となって噴射ノズル孔411から
図2中上方へ向けて噴射される。
図2中の符号Fは液体101の噴射方向を示す。
【0035】
噴射ノズル孔411から噴射された液体101の噴流は、噴射直後は連続流であるが、液体101の表面張力によって直ぐに液滴化して液滴の群に分裂する。その液滴の群を布帛100に次々に衝突させることで所定の処理が実行される。
【0036】
また、ノズル41は、液滴を、噴射ノズル孔411の吐出側の端面から液体噴射方向Fにおいて、例えば100mm以上150mm以下程度にわたって直進性良く飛翔させる。
【0037】
図2に示すように、噴射ノズル孔411のノズル孔径dは、0.01mm≦d≦0.30mmとする。さらに、噴射ノズル孔411内に液体101が流入する入り口となる液体流入口412の口径Dのノズル孔径dに対する比D/dは、5≦D/d≦150を満足するものとする。これにより、液体噴射工程における処理を良好に行うことができる。すなわち、布帛100の繊維の配列の乱れ、交差する繊維束の交差位置ずれ、部分的な構造破壊を行うことができる。よって、布帛100の表面の起毛状態を良好にすることができ、布帛100の風合いを高めることができる。
【0038】
ノズル孔径dの好ましい範囲は、0.02mm≦d≦0.25mmであり、より好ましい範囲は、0.02mmd≦0.15mmである。
比D/dの好ましい範囲は、8≦D/d≦80である。
上記のような数値の理由を以下に説明する。
【0039】
噴射ノズル孔411のノズル孔径dが大きすぎると、布帛100に衝突する液体101の液滴が大きすぎて、布帛100の繊維の種類によっては処理を良好に行うことができない場合がある。また、噴射された液体101が液滴になるまでの距離が長くなる傾向を示し、装置の大型化を招くおそれがある。
【0040】
一方、噴射ノズル孔411のノズル孔径dが小さすぎると、噴出された液滴が小さすぎて、布帛100の繊維の種類によっては処理を良好に行うことができない場合がある。
【0041】
比D/dが大きすぎると、液体流入口412の口径Dが大きすぎたり、ノズル孔径dが小さすぎたりして、布帛100の繊維の種類によっては処理を良好に行うことができない場合がある。
【0042】
一方、比D/dが小さすぎると、液体流入口412の口径Dが小さすぎたり、ノズル孔径dが大きすぎたりして、布帛100の繊維の種類によっては処理を良好に行うことができない場合がある。
【0043】
液体流入口412の口形すなわち横断面形状は、噴射ノズル孔411が1つの場合は円形、複数の場合は楕円形または長円形に形成される。なお、液体流入口412の口形は、円形、楕円形、長円形に限定されず、正方形、長方形等であってもよい。液体流入口412の口形が楕円形、長円形の場合、口径Dは、長軸と短軸の平均値になる。液体流入口412の口形が正方形または長方形の場合、口径Dは、正方形の1辺の寸法、長方形の短辺と長辺の平均の寸法になる。
【0044】
噴射ノズル孔411から噴射される液体101の噴射圧力は、0.2MPa以上10MPa以下であることが好ましく、2MPa以上8MPa以下であることがより好ましい。これにより、布帛100の処理をより確実に良好に行うことができる。
【0045】
また、
図2に示すように、ノズル41は、液体101の流れ方向に向かって内径がDからdへと急峻に縮径している構造である。これにより、噴射される液体101が噴射ノズル孔411の内面に触れにくい縮流を形成することができる。よって、噴射ノズル孔411の内面の面粗さの影響を受け難くなり、均一な大きさの液滴が形成しやすくすることができる。
【0046】
具体的には、ノズル41は、噴射ノズル孔411の液体流出側である第2部分45に、液体噴射方向Fに向かって拡径するテーパ部413を有している。テーパ部413は、ノズル孔径dが比較的に小さいノズル41の機械的強度を高める機能を有する。また、テーパ部413は、噴射ノズル孔411から噴射される液体101の液滴の飛翔範囲を規制する機能を有する。
【0047】
テーパ部413の角度θは、特に限定されず、例えば、30°以上150°以下とすることができる。図示の構成では、概ねθ=90°となっているが、噴射ノズル孔411の形成が容易である範囲で前記角度を大きくしても小さくしてもよい。
【0048】
液体101を布帛100に向けて噴射するに際し、噴射ノズル孔411と布帛100との距離は、特に限定されないが、
図2に示す平均距離をSとしたとき、5mm≦S≦200mmであるのが好ましく、50mm≦S≦150mmであるのがより好ましい。Sをこのような範囲の値とすることで、布帛100への液体101の衝突が過不足なく行え、より良好な処理がなされる。
【0049】
ノズル41と液体タンク43との間の流路には、ポンプ42が設けられている。ポンプ42は、制御部6によって作動が制御され、噴射ノズル孔411から噴射される液体101の噴射圧力が例えば前述した値となるよう、液体流入口412に液体101を送液する。
【0050】
中間ローラー24は、中間ローラー23よりも下方に設けられており、中間ローラー24の外周面に布帛100を巻き付けて、布帛100を下側に向けて湾曲突状に変形させ、この状態を保つよう布帛100を搬送しつつ支持する。ノズル41は、中間ローラー24によって支持された状態の布帛100に対して液滴を噴射する。すなわち、ノズル41は、中間ローラー24の湾曲形状に倣ってノズル41側に向かって湾曲した布帛100に液体101を噴射し、衝突させる。これにより、液体101が衝突している布帛100の挙動が安定し、さらに良好な処理を行うことができる。
【0051】
液体101としては、例えば、水道水、工業用水、井戸水、純水、RO水等の各種水が挙げられる。
【0052】
液体除去部5は、乾燥工程を行う部分であり、加熱ローラーである中間ローラー25と、中間ローラー25の上側を覆うケーシング51と、ケーシング51と中間ローラー25との間に送風を行う送風部52と、を有する。ここで、乾燥工程における乾燥とは、布帛100に付着または含侵した水分を除去または減少させることを言い、加熱の有無を問わない。この意味で、乾燥工程は、布帛100に付着または含浸した液体101を除去する液体除去工程の一例と言える。なお、液体除去工程の他の例としては、布帛100に例えば圧力を加えて脱水する脱水工程が挙げられる。
【0053】
中間ローラー25は、中間ローラー23および中間ローラー24よりも上方に設けられており、
図1中時計回りに回転する。中間ローラー25は、その外周面に布帛100を巻き付けて、布帛100を上側に向けて湾曲突状に変形させ、この状態を保つよう布帛100を搬送しつつ支持する。
【0054】
布帛100は、加熱された中間ローラー25の外周面と所定時間接触して昇温し、乾燥がなされる。本実施形態の場合、中間ローラー25の外周面に接触するのは、布帛100の、液体101が衝突した面であり、その反対側の面は中間ローラー25の外周面に接触しない。布帛100の、液体101が衝突した面とその反対側の面とを比較すると、前者に対し加熱ローラーを接触させた方がより乾燥効率が高く、また処理効果も高いからである。ただし、本発明では、布帛100に加熱ローラーを接触させる面は、これに限定されず、布帛100の、液体101が衝突した面と反対側の面のみに加熱ローラーを接触させる構成や、複数の加熱ローラーを配置して布帛100の両面に加熱ローラーを接触させる構成であってもよい。
【0055】
ケーシング51は、中間ローラー25の上方の外周面に倣って湾曲した内面を有する部材であり、中間ローラー25に巻き付いている布帛100の表面に沿って流れる気流を形成する機能を有する。また、ケーシング51は、内部、すなわち、中間ローラー25側に空気を取り入れる取り入れ口511を有する。取り入れ口511には、送風部52が接続されている。
【0056】
図示されていないが、送風部52は、モーターおよびこのモーターにより駆動するファンを有し、ファンの駆動により取り入れ口511へ所定の風量で空気を送り込む。この送風部52は、制御部6によって通電条件が制御され、送風量や送風のタイミングが調整される。
【0057】
送風部52が作動し、取り入れ口511から取り入れられた空気は、ケーシング51と中間ローラー25との間で布帛100の表面に沿った気流を形成する。この気流により、中間ローラー25の外周面上を搬送されている布帛100を乾燥することができる。すなわち、布帛100に付着または含浸した液体101を除去または減少することができる。
【0058】
図1に示すように、取り入れ口511は、ケーシング51の頂部に設けられているため、取り入れ口511から取り入れられた空気は、中間ローラー25の最上部付近で、互いに反対方向である矢印A1方向と矢印A2方向とに分かれる。すなわち、取り入れ口511から、搬送方向上流側に向かう気流と、搬送方向下流側に向かう気流とが形成される。より詳しく説明すると、乾燥の前半では、布帛100の搬送方向と反対方向の気流(カウンターフロー)により乾燥がなされ、乾燥の後半では、布帛100の搬送方向と同方向の気流(パラレルフロー)により乾燥がなされる。これにより、乾燥の前半では、乾燥の後半に比べ、搬送されている布帛100に対する気流の相対速度が速くなるため、効率の良い乾燥を行うことができる。
【0059】
搬送方向上流側に向かう気流の流量と、搬送方向下流側に向かう気流の流量との比率は、特に限定されず、例えば、1:5~5:1の範囲で適宜設定することができる。本実施形態の場合、1:1となっている。
【0060】
なお、図示されていないが、取り入れ口511の内部または直下に角度可変の整流板を設け、搬送方向上流側に向かう気流の流量と、搬送方向下流側に向かう気流の流量との比率を調整可能としてもよい。この場合、搬送方向上流側に向かう気流の流量、搬送方向下流側に向かう気流の流量のいずれか一方が0であってもよい。
【0061】
中間ローラー25の中心部には、ヒーター53が設けられており、ヒーター53の作動により、中間ローラー25の外周面は、所定の温度に加熱される。ヒーター53は、制御部6によって通電条件が制御され、発熱量が調整される。これにより、中間ローラー25の外周面は、所望の加熱温度、例えば35℃以上95℃以下の所定の温度に加熱される。これにより、前記送風部52による気流の形成のみの場合に比べ、乾燥効率がより向上する。
【0062】
なお、送風部52により供給される空気流の温度は、常温でもよいが、送風部52の出側に図示しないヒーターを設置し、加熱された温風を取り入れ口511に供給するような構成、すなわち加熱乾燥を行う構成としてもよい。この場合、空気流の温度管理も、制御部6により通電条件を制御することにより調整することができる。空気流の温度は、例えば35℃以上95℃以下の所定の温度とすることができる。
【0063】
このような乾燥工程、すなわち液体除去工程を経ることにより、液体噴射工程を経た布帛100に含まれる液体101を十分に除去することができる。その結果、布帛100の含水率の低下により重量が低減し、後述する振動付与工程において振動が付与された際、布帛100の慣性重量が小さくなり、振動の伝搬性も向上する。よって、布帛100の全体に対し、振動が十分かつ迅速に伝搬され付与される。これにより、振動付与による処理をより良好に行うことができる。
【0064】
また、液体除去部5を用いて布帛100の乾燥を行うこと、特に、空気流を用いた乾燥や、加熱乾燥を行うことにより、液体噴射工程を経た布帛100を自然乾燥する場合に比べて、乾燥効率が高く、よって、布帛100の搬送経路長を短くすることができる。その結果、装置の小型化を図ることができる。また、乾燥時間の短縮が図れ、処理時間の合計も短くなる。
【0065】
なお、乾燥工程における布帛100の乾燥は、送風部52による空気流の形成、ヒーター53による中間ローラー25の加熱のいずれか一方のみでもよいが、双方を組み合わせることによる相乗効果により、効率の良い乾燥を行うことができ、乾燥に要する搬送経路長および乾燥時間のさらなる短縮にも寄与する。
【0066】
さらに、乾燥工程の前に、前述した液体除去工程の他の例として挙げたような、布帛100に圧力を加えて脱水する脱水工程を付加してもよい。これにより、乾燥工程における乾燥時間がより短縮される。
【0067】
振動付与部3は、液体噴射工程および乾燥工程を経た布帛100に対して振動を付与する振動付与工程を実行する部分である。
図3に示すように、振動付与工程は、一対の当接部材36と、それらに対応する一対の振動発生源32と、を有する。振動付与部3は、搬送されている布帛100に対して振動を付与する機能を有する。これにより、布帛100の表面を処理することができる。なお、振動付与部3が布帛100に対して行う処理としては、「屈曲」、「叩き」、「伸展」および「摺擦」の処理が挙げられる。本実施形態において振動付与部3により行われる処理は、「屈曲」および「叩き」に該当する。このことに関しては、後に詳述する。
【0068】
当接部材36は、本実施形態では、搬送される布帛100の厚さ方向上側および下側にそれぞれ配置されている。すなわち、上下方向に配置された一対の当接部材36の間を布帛100が搬送される構成となっている。
【0069】
各当接部材36は、配置位置が異なること以外は、同様の構成であるため、以下、一方の当接部材36について代表的に説明する。
【0070】
図3に示すように、当接部材36は、板状またはブロック状の基部361と、基部361から突出して設けられた複数の突出部362と、を有する。当接部材36は、布帛100の搬送経路を介して上下方向に一対設けられている。突出部362は、基部361から布帛100の搬送経路に向かう方向に突出している。振動発生源32で生じた振動は、当接部材36の基部361を振動させ、その振動は、突出部362を介して布帛100に伝搬され、付与される。これにより、布帛100は、局所的にかつ十分な振動が付与され、より効果的に処理がなされる。その結果、良好な風合いが得られる。
【0071】
本実施形態では、突出部362は、円柱状をなす剛体で構成されている。ただし、この構成に限定されず、突出部362は、例えば、球状、円すい状、板状をなしていてもよい。
【0072】
また、各当接部材36は、布帛100を介して互いに反対側に位置する突出部362同士が、基部361の
図3中上方から見た平面視(以下単に「平面視」と言う。)で、重ならずに、すなわちずれて配置された、いわゆる千鳥状をなしていてもよい。これにより、振動の振幅を比較的大きくしても突出部362同士が干渉してしまうのを防止することができる。よって、振動付与部3を通過する布帛100の屈曲の効果が十分に得られるという利点がある。
【0073】
また、布帛100を介して反対側に位置する突出部362は、布帛100の平面視において、ずれていなくてもよい。この場合、後述する叩き効果が高く得られる。
【0074】
このような当接部材36によれば、布帛100に対して屈曲および叩きを施すことができ、布帛100の処理を良好に行うことができる。
【0075】
前記屈曲とは、次のようなことを言う。
【0076】
布帛100に所定の張力を付与しつつ布帛100が当接部材36の突出部362と接触した状態で当接部材36に振動を付与すると、突出部362の先端を支点Pとして、布帛100には繊維の屈曲角度が大きくなる変形動作が生じる。これを繰り返すことで、平行する繊維間の会合力の緩和、交差する繊維束の接合点の解放、繊維の部分的な構造破壊が進行する。これにより、布帛100が有する剛性感を小さくすることができる。
【0077】
また、振動を付与する際、突出部362と布帛100との接触面積を小さくして、振動付与時に形成される支点に対する屈曲角度または湾曲角度を大きくすることが好ましい。すなわち、隣接する支点P間の距離をある程度大きくして、布帛100への振動付与時に布帛100の変形による振幅が大きくなることが好ましい。これにより、伝達する振動エネルギーによる布帛100の振幅が大きくなり、繊維の屈曲角度が大きくなるため、布帛100が有する剛性をより低くすることができ、風合いをより良好なものとすることができる。
【0078】
また、振動を付与する際、布帛100が有する固有振動数に応じた振動周期/振動振幅および張力を付与して振動することが好ましい。これにより、布帛100が共振状態となる。よって、小さな振動エネルギーにより効果的な屈曲動作を繰り返すことが可能になり、効率良く布帛100の風合いを高めることができる。
【0079】
前記叩きとは、次のようなことを言う。
布帛100に比較的小さな張力を付与するとともに布帛100の両面から当接部材36が嵌合した状態で当接部材36に振動を付与する。この際、突出部362を布帛100の一方の面に対する垂直方向と、他方の面に対する垂直方向から互いに交差、もしくは衝突するように、布帛100を両面から突出部362同士が嵌合し合う状態で布帛100に振動が付与される。布帛100は、振動の付与により繊維束の圧縮と復元を繰り返す。この際、平行する繊維間の配列の乱れ、交差する繊維束の交差位置ずれ、繊維の部分的な構造破壊が進行する。これにより、繊維間の空隙の拡大、繊維束同士の距離の拡大、繊維の一部が切断することによる毛羽立ちが進行して布帛の嵩高感が増大し、布帛の風合いを高めることができる。
【0080】
また、上下の突出部362同士が互いに接触しないように、例えば千鳥状に配置した場合には、突出部362によって変形した布帛100は、当接部材36の基部361との衝突による比較的弱い叩き動作と、突出部362の先端を支点Pとした比較的弱い屈曲動作を同時に繰り返すことが可能になり、効率良く布帛100の風合いを高めることができる。
【0081】
なお、突出部362が、布帛100が重力による自由落下と跳ね上げを繰り返すように配置されている場合、布帛100は、突出部362同士の衝突により両面から微小時間内に強い集中応力が付与されて、繊維束の圧縮と復元を繰り返す。この際、平行する繊維間の配列の乱れ、交差する繊維束の交差位置ずれ、繊維の部分的な構造破壊が進行する。これにより、繊維間の空隙の拡大、繊維束同士の距離の拡大、繊維の一部が切断することによる毛羽立ちが進行して布帛の嵩高感が増大し、効率良く布帛100の風合いを高めることができる。
【0082】
以上のような屈曲、叩きによる効果により、布帛100の風合いを良好に高めることができる。
【0083】
突出部362の先端は、丸みを帯びていることが好ましい。これにより、突出部362が布帛100を傷つけてしまうのをより効果的に防止することができる。なお、突出部362の先端は、尖っていてもよい。なお、丸みを帯びている場合の突出部362の先端の湾曲曲率は、例えば、曲率半径1mm以上100mm以下であることが好ましく、3mm以上80mm以下がより好ましい。これにより、布帛100の表面に印捺がされている場合であっても、突出部362の衝突による処理痕の発生を十分に抑えることができる。
【0084】
突出部362の長さ、すなわち、基部361から突出部362の先端までの長さは、1mm以上100mm以下が好ましく、10mm以上50mm以下がより好ましい。これにより、突出部362を布帛100の一方の面に対する垂直方向と他方の面に対する垂直方向とから互いに交差し合う状態で振動を付与した際に、上下の突出部362による叩きの効果をより良好なものとすることができる。
【0085】
突出部362の構成材料としては、特に限定されず、例えば、各種樹脂材料、各種金属材料、各種セラミックス材料等が挙げられる。毛羽立ちを良好とする観点では、金属材料を用いることが好ましい。金属材料としては、特に限定されないが、黄銅、スチール、ステンレス等を好適に用いることができる。スチールを用いる場合には、より確実に毛羽立たせることができる。布帛100が顔料で着色されている場合には、黄銅を用いることにより、着色部分のダメージを抑えながら毛羽立たせることができる。
【0086】
振動発生源32は、振動を発生させる振動子321を有する。振動子321は、制御部6と電気的に接続されている。また、制御部6が振動子321への通電条件を制御することにより、振動子321の振動の条件、特性が調整される。
【0087】
また、振動発生源32は、振動伝達部材322を有する。振動伝達部材322は、剛体で構成され、振動子321が内蔵された筐体と、当接部材36の基部361とを接続し、振動子321が発生させた振動を当接部材36に伝達する。これにより、当接部材36を介して布帛100に振動を伝達することができる。
【0088】
布帛100に付与される振動の振幅は、0.1mm以上100mm以下であることが好ましく、0.2mm以上80mm以下であることがより好ましい。これにより、布帛100の処理をより効果的に行うことができる。
【0089】
また、布帛100に付与される振動の周波数は、1Hz以上1000Hz以下であることが好ましく、10Hz以上100Hz以下)であることがより好ましい。これにより、布帛100の処理をより効果的に行うことができる。
【0090】
また、布帛100に付与される振動は、搬送中の布帛100の厚さ方向、すなわち
図3中上下方向に沿った成分を含むものであることが好ましい。これにより、処理をより効果的に行うことができる。
【0091】
また、布帛100に付与される振動は、搬送中の布帛100の搬送方向に沿った成分を含むものであることが好ましい。これにより、処理をさらに効果的に行うことができる。
【0092】
また、布帛100に付与される振動は、搬送中の布帛100の搬送方向と交わる方向、特に、搬送中の布帛100の幅方向に沿った成分を含むものであることが好ましい。これにより、処理をより良好に行うことができる。
【0093】
本実施形態では、
図3に示す構成の振動付与部3について説明したが、振動付与部3の構成は、これに限定されない。例えば、当接部材36の搬送方向上流側または下流側に、別途、図示しないブラシローラーを設置し、搬送中の布帛100に回転するブラシローラーのブラシを当接させる構成としてもよい。また、
図3に示す当接部材36に代え、当接部材としてブラシローラーを用いてもよい。これらの場合、伸展および摺擦の現象を発生させる処理を行うことができる。なお、このようなブラシローラーは、布帛100の両面側にそれぞれ配置しても、片面側のみに配置してもよい。
【0094】
前記伸展とは、次のようなことを言う。
【0095】
布帛100に比較的大きな張力を付与すると同時に布帛100の裏面がブラシの毛と接触した状態で当接部材36に小さな周期、大きな振幅の振動を付与する。この時、布帛100に作用する比較的大きな張力の影響により、布帛100は、ブラシの毛の位相に応じて伸展と緩和の動作を繰り返すことになる。布帛100を構成する繊維束がブラシの毛との接触部位を支点とした伸び縮み動作を繰り返すことによって、非伸縮性の布帛100においては微小なエンボス状の残留歪みを形成することができる。微小なエンボス状の残留歪みは、非伸縮性の布帛において嵩高感を向上させる効果を有し、効率良く布帛100の風合いを高めることができる。
【0096】
前記摺擦とは、次のようなことを言う。
【0097】
布帛100に所定の張力を付与すると同時に布帛100の表面がブラシの毛と接触した状態で振動伝達部材に振動を付与する。これにより、ブラシの毛が布帛100を貫通することがなく、布帛100との接触状態を保持することができ、振動エネルギーを効果的に伝達することができる。その結果、布帛100の表面の起毛状態を良好にすることができる。
【0098】
以上述べたように、本発明の処理方法は、噴射ノズル孔411と、噴射ノズル孔411に流入する入り口となる液体流入口412と、を有するノズル41を少なくとも1つ備える液体噴射部4の噴射ノズル孔411から液体101を布帛100に向けて噴射し、衝突させる液体噴射工程と、液体噴射工程を経た布帛100に対して振動を付与する振動付与工程と、を有し、噴射ノズル孔411のノズル孔径をd[mm]とし、液体流入口412の口径をD[mm]としたとき、0.01mm≦d≦0.30mm、かつ、5≦D/d≦150を満足する。
【0099】
このような本発明の処理方法により、布帛100に対し良好な処理がなされる。特に、処理された布帛100は、良好な風合いが得られる。より詳しくは、布帛100は、液体101の衝突と振動の付与との異なる2つの方法で処理され、これらの相乗効果により、風合いに優れたものとなる。
【0100】
また、本発明の処理装置は、布帛を搬送する搬送部2と、噴射ノズル孔411と、噴射ノズル孔411に流入する入り口となる液体流入口412と、を有するノズル41を少なくとも1つ備え、噴射ノズル孔411から液体101を布帛100に向けて噴射し、衝突させる液体噴射部4と、液体101が布帛100に衝突した後、搬送部2により搬送されている布帛100に対して振動を付与する振動付与部3と、を備え、噴射ノズル孔411のノズル孔径をd[mm]とし、液体流入口412の口径をD[mm]としたとき、0.01mm≦d≦0.30mm、かつ、5≦D/d≦150を満足する。
【0101】
このような本発明の処理装置により、布帛100に対し良好な処理がなされる。特に、処理された布帛100は、良好な風合いが得られる。より詳しくは、布帛100は、液体101の衝突と振動の付与との異なる2つの方法で処理され、これらの相乗効果により、風合いに優れたものとなる。
【0102】
処理方法における液体噴射工程では、布帛100の一方の面を支持ローラーである中間ローラー24で支持しつつ、布帛100の他方の面に液体101を衝突させる。これにより、布帛100の挙動が安定した状態で液体を衝突させることができるので、さらに良好な処理を行うことができる。
【0103】
処理方法における振動付与工程では、基部361、および、基部361から突出して設けられ、布帛100と当接する複数の突出部362を有する当接部材36と、当接部材36に振動を付与する振動発生源32と、を備える振動付与部3を用い、突出部362を介して布帛100に振動を付与する。これにより、布帛100は、局所的にかつ十分な振動が付与され、より効果的に処理がなされる。その結果、良好な風合いが得られる。
【0104】
処理方法においては、液体噴射工程と振動付与工程との間に行われ、布帛100に付着または含浸した液体101を除去する液体除去工程を有する。これにより、振動付与工程により布帛100へ振動を付与する際、布帛100の慣性重量が小さくなり、振動の伝搬性も向上する。よって、振動付与による処理をより良好に行うことができる。
【0105】
また、液体除去工程では、布帛100の、液体101が衝突した面を加熱ローラーとしての中間ローラー25に当接させることにより行われる。これにより、布帛100に対し、より短い経路で効率の良い乾燥すなわち液体除去を行うことができ、合計処理時間短縮、処理装置の小型化に寄与する。
【0106】
なお、本実施形態では、布帛100を連続的に処理する構成であるが、本発明ではこれに限定されず、布帛100に対し行う液体噴射工程、液体除去工程、振動付与工程のうちの少なくとも1つを、バッチ式で処理してもよい。
【0107】
<第2実施形態>
図4は、本発明の処理方法を実行する処理装置の第2実施形態の概略構成図である。
図5は、
図4に示す処理装置が備える振動付与部が布帛に振動を付与している状態を示す部分断面側面図である。
図6は、
図4に示す処理装置が備える振動付与部が布帛に振動を付与している状態を示す部分断面側面図である。
【0108】
以下、これらの図を参照して本発明の処理方法および処理装置の第2実施形態について説明するが、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0109】
本発明の第2実施形態の処理方法は、
図4に示す処理装置1により実行される。
【0110】
図4に示すように、液体噴射部4の搬送方向下流側に位置する液体除去部5は、脱水部7と、脱水部7より搬送方向下流側に位置する乾燥部8と、を有する。
【0111】
また、搬送部2は、一対の中間ローラー27と、一対の中間ローラー28と、中間ローラー29と、中間ローラー30と、を有する。一対の中間ローラー27、一対の中間ローラー28、中間ローラー29および中間ローラー30は、布帛100の搬送経路において、乾燥部8および巻取部22の間に設けられている。一対の中間ローラー27、一対の中間ローラー28、中間ローラー29および中間ローラー30は、繰出部21側から巻取部22に向かって、すなわち、搬送方向上流側から搬送方向下流側に向かって、布帛100の搬送経路上に順次配置されている。一対の中間ローラー27、一対の中間ローラー28、中間ローラー29および中間ローラー30は、布帛100を搬送経路の上流側から下流側へ向けて送る送りローラーとして機能する。
【0112】
一対の中間ローラー27は、一方が布帛100の一方の面側と接触し、他方が布帛100の他方の面側と接触した状態において互いに反対方向に回転する。これにより、布帛100を乾燥部8から振動付与部9へ向けて送ることができる。また、一対の中間ローラー27は、振動付与部9の上方に設けられており、下方に向けて布帛100を折り返すようにして送る。
【0113】
一対の中間ローラー28は、一方が布帛100の一方の面側と接触し、他方が布帛100の他方の面側と接触した状態において互いに反対方向に回転する。これにより、布帛100を振動付与部9から巻取部22に送り出すことができる。また、一対の中間ローラー28は、振動付与部9の下方に設けられており、図中右側に向けて布帛100を折り返すようにして送る。
【0114】
中間ローラー29は、布帛100の上面側と接触し、中間ローラー30は、布帛100の上面側と接触する。
【0115】
一対の中間ローラー27、一対の中間ローラー28、中間ローラー29および中間ローラー30は、それぞれ、自ら回転駆動する主動ローラーであってもよく、自らは回転駆動力を有さない従動ローラーであってもよい。
【0116】
一対の中間ローラー27、一対の中間ローラー28、中間ローラー29および中間ローラー30が主動ローラーである場合、各ローラーには図示しないモーターが内蔵または接続されており、制御部6によって各モーターへの通電条件が制御される。
【0117】
脱水部7は、液体噴射部4の搬送方向下流側に設けられており、布帛100に付着または含侵した水分を除去または減少させる機能を有する。脱水部7は、脱水工程を行う部分であり、一対のスクイズローラー71を有する。
【0118】
一対のスクイズローラー71は、一方が布帛100の上面側に接触し、他方が布帛100の下面側と接触した状態において互いに反対方向に回転する。また、一対のスクイズローラー71は、図示しない付勢部材により互いに接近する方向に付勢されており、通過する布帛100を加圧し、布帛100に含まれた水分を搾り出し、脱水する。布帛100より搾り出された水分は、回収容器72に回収される。
【0119】
このように、液体噴射部4によって水分が付着または含侵した布帛100は、一対のスクイズローラー71の間を通過する際、スクイズされて、すなわち脱水されて含水率が低下し、この状態で乾燥部8に送り出される。なお、脱水部7が行う脱水工程は、布帛100に付着または含侵した水分を除去または減少させる液体除去工程の一部であると言うことができる。
【0120】
なお、
図4に示す構成において、スクイズローラー71に代え、ブレード状のスキージーを用いることもできる。例えば、布帛100を挟むように、弾性体で構成される一対のブレード状のスキージーを配置し、両スキージーにより布帛100に付着または含侵した水分をスクイズし、脱水する構成とすることもできる。
【0121】
スクイズローラー71やスキージーの布帛100との接触面における表面性状、例えば表面粗さを適宜設定しておくこと、さらには、前記接触面の布帛100に対する接触圧を適宜設定しておくことにより、布帛100の処理をより良好にすること、特に風合いをより高めることができる。
【0122】
乾燥部8は、脱水部7の搬送方向下流側に設けられており、布帛100に付着または含侵した水分を除去または減少させる機能、すなわち脱水処理後の布帛100に残存した水分を除去または減少させる機能を有する。乾燥部8は、乾燥工程を行う部分であり、3つの折り返しローラー81、折り返しローラー82および折り返しローラー83を有する。折り返しローラー81、折り返しローラー82および折り返しローラー83は、上流側から下流側に向かってこの順で配置されている。
【0123】
折り返しローラー81および折り返しローラー83は、同じ高さでかつ左右に離間して配置されている。折り返しローラー82は、折り返しローラー81および折り返しローラー83よりも下側に配置されている。また、折り返しローラー82は、図中左右方向において、折り返しローラー81および折り返しローラー83の間に配置されている。
【0124】
折り返しローラー81および折り返しローラー83は、布帛100の下面側に接触し、折り返しローラー82は、布帛100の上面側に接触する。布帛100は、3か所で折り返され、折り返しローラー81、82、83を通過する間に、上下方向で1往復するよう構成されている。そして、布帛100は、この1往復する間に自然乾燥がなされる。このような自然乾燥に要する搬送経路は、十分に長く設定されている。なお、乾燥部8における搬送経路は、図示の構成に限定されず、例えば、上下方向に1往復半または2往復以上の搬送経路が設定されていてもよい。また、往復の方向は上下方向に限定されない。
【0125】
第2実施形態では、乾燥部8の上流側に脱水部7を設けていること、すなわち、乾燥工程に先立って脱水工程を実行することにより、乾燥工程における負荷が軽減され、乾燥効率が高い。そのため、乾燥部8における乾燥を自然乾燥としても、十分な乾燥を比較的短い時間で行うことができる。
【0126】
また、第2実施形態の処理装置1では、
図4中上下方向の搬送経路を1往復または1往復以上設け、この上下方向の搬送経路に乾燥部8を設置しているため、搬送経路の
図4中左右方向の長さを短くすることができる。よって、装置の小型化、装置設置の省スペース化を図ることができる。
以上のような構成の処理装置1により、乾燥部8は、自然乾燥により布帛100を乾燥させることができる。このような乾燥部8によれば、加熱のためのヒーターを省略することができるため、乾燥に費やす電気エネルギーを節減することができる。乾燥部8が行う乾燥工程は、布帛100に付着または含侵した水分を除去または減少させる液体除去工程の一部であるということができる。
【0127】
なお、第2実施形態において、乾燥部8を他の構成、例えば、第1実施形態のような加熱乾燥、冷風乾燥、温風乾燥とすることもできる。また、第2実施形態において、脱水部7を省略することもできる。
【0128】
図4~
図6に示すように、同図中上下方向に延びる搬送経路上に振動付与部9が設置され、該振動付与部9により、同図中下方へ向かって搬送されている布帛100に対し振動を付与する。なお、本発明は、これに限らず、
図4~
図6中上方または左右方向へ向かって搬送されている布帛100に対し振動を付与する構成であってもよい。
【0129】
図4~
図6に示すように、振動付与部9は、布帛100を挟んで離間して配置される一対の当接部材91と、振動発生源92と、振動伝達部93と、を有する。
【0130】
一対の当接部材91は、それぞれ、板状の基部911と、基部911から突出して設けられた複数の突出部912と、を有する。当接部材91は、布帛100の搬送経路を介して左右方向に一対設けられている。突出部912は、基部911から布帛100の搬送経路に向かう方向に突出している。図中左側の各突出部912と、図中右側の各突出部912とは、基部911の
図5中左方向から見た平面視で互いにずれて配置されている。
【0131】
振動発生源92は、一対のモーター921と、各モーター921にそれぞれ固定された一対のカム922と、を有する。カム922は、モーター921の出力回転軸に固定され、一方の基部911に当接している。また、両カム922は、それぞれモーター921の出力回転軸方向から見て楕円形状をなしている。各モーター921は、通電により同じ回転数で回転するよう制御部によって作動が制御される。各モーター921の駆動により、カム922は回転し、
図5に示すような長軸が左右方向に沿った状態と、
図6に示すような短軸が左右方向に沿った状態と、をとり得る。両カム922は、同形状、同寸法であり、同方向、同速度、同位相で回転する。
【0132】
なお、
図5および
図6では示されていないが、1つのモーター921の出力回転軸に対し、当該出力回転軸の長手方向、すなわち布帛100の幅方向に沿って複数のカム922が所定間隔をおいて固定されていてもよい。この場合、前記複数のカム922のそれぞれは、同形状、同寸法であり、同方向、同速度、同位相で回転するのが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0133】
振動伝達部93は、支持板931と、支持板932と、支持板931および支持板932を連結する一対の連結部933と、一対の付勢部934と、を有する。支持板931は、各モーター921を支持する。支持板932は、支持板931に対し、当接部材91および振動発生源92を介して離間して平行に配置されている。支持板932は、一対の当接部材91のうち、図中左側の当接部材91を支持する。
【0134】
連結部933は、棒状をなし、支持板931と支持板932との間に設置され、これらを所定の間隔を隔てた位置関係で固定している。
図5中右側の当接部材91の基部911には、
図5中上下方向に離間して配置された一対の貫通孔915が形成されており、各貫通孔915には、連結部933が挿通されている。これにより、
図5中右側の当接部材91は、連結部933の長手方向に沿って移動することができる。この当接部材91の移動は、各モーター921の駆動により生じ、両当接部材91は、接近、離間を繰り返す。
【0135】
付勢部934は、コイルバネで構成され、連結部933の外周部でかつ両基部911の間に設置されている。付勢部934は、圧縮された状態で設置されており、
図5中右側の当接部材91を振動発生源92側に向かって付勢している。これにより、
図5中右側の当接部材91の基部911は、カム922の回転角度にかかわらず、カム922の外周面すなわちカム面に当接した状態を維持する。
【0136】
このような構成によれば、モーター921の駆動に伴うカム922の回転により、
図5中右側の当接部材91は、
図5に示す状態から
図6に示す状態に移行し、さらに
図5に示す状態に戻るという一連の動作を繰り返す。この際、付勢部934の付勢力により、
図5中右側の当接部材91の基部911は、カム922のカム面に押圧された状態を維持し、よって、当接部材91に規則的な振動が発生する。この振動が当接部材91の突出部912に接触する布帛100に伝達される。よって、布帛100に対し良好な処理を行うことができ、布帛100の風合いを高めることができる。
【0137】
図5に示す状態では、同図中右側の当接部材91は同図中左側の当接部材91に最も接近し、
図6に示す状態では、同図中右側の当接部材91は同図中左側の当接部材91から最も離間する。両当接部材91の離間距離の差が、振動付与部9で付与される振動における振幅に対応する。
【0138】
このようなことから、例えば、用いるカム922の形状、例えば楕円形の長軸と短軸のそれぞれの寸法を適宜選択することにより、布帛100に付与する振動の振幅を調整することができる。また、用いるカム922の形状を楕円形以外の任意の形状とすることもでき、これにより、布帛100に付与する振動の振動パターンや振動特性を適宜設定することもできる。
【0139】
また、一方のカム922と他方のカム922とで、回転に位相差を設けたり、形状や寸法を異なるものとしたりすることもでき、これによっても、布帛100に付与する振動の振動パターンや振動特性を適宜設定することができる。
【0140】
第2実施形態の処理装置1では、振動付与部9は、
図4中下側に向かって搬送される搬送経路において布帛100に対して振動を与えているため、布帛100の搬送経路の
図4中左右方向の長さを短くすることができる。よって、装置の小型化、装置設置の省スペース化を図ることができる。
【0141】
さらに、前述したように、
図4中上下方向の搬送経路に乾燥部8を設置していることと相まって、さらなる装置の小型化、装置設置の省スペース化を図ることができる。
【0142】
以上、本発明の処理方法および処理装置を図示の各実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。また、処理方法および処理装置の各工程、各部は、同様の機能を発揮し得る任意の工程、構造物と置換することができる。また、任意の工程、構造物が付加されていてもよい。
【符号の説明】
【0143】
1…処理装置、2…搬送部、3…振動付与部、4…液体噴射部、5…液体除去部、6…制御部、7…脱水部、8…乾燥部、9…振動付与部、21…繰出部、22…巻取部、23…中間ローラー、24…中間ローラー、25…中間ローラー、26…中間ローラー、27…中間ローラー、28…中間ローラー、29…中間ローラー、30…中間ローラー、32…振動発生源、36…当接部材、41…ノズル、42…ポンプ、43…液体タンク、44…第1部分、45…第2部分、51…ケーシング、52…送風部、53…ヒーター、71…スクイズローラー、72…回収容器、81…折り返しローラー、82…折り返しローラー、83…折り返しローラー、91…当接部材、92…振動発生源、93…振動伝達部、100…布帛、101…液体、211…ローラー、221…ローラー、321…振動子、322…振動伝達部材、361…基部、362…突出部、411…噴射ノズル孔、412…液体流入口、413…テーパ部、511…取り入れ口、911…基部、912…突出部、915…貫通孔、921…モーター、922…カム、931…支持板、932…支持板、933…連結部、934…付勢部、A1…矢印、A2…矢印、F…液体の噴射方向、P…支点、θ…角度、S…平均距離、d…ノズル孔径、D…口径