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特開2024-110385スチレンスルホン酸共重合体水性組成物及びその製造方法
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  • 特開-スチレンスルホン酸共重合体水性組成物及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110385
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】スチレンスルホン酸共重合体水性組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/18 20060101AFI20240807BHJP
   C08F 212/14 20060101ALI20240807BHJP
   C11D 3/37 20060101ALI20240807BHJP
   C11D 3/48 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
C08L25/18
C08F212/14
C11D3/37
C11D3/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023148846
(22)【出願日】2023-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2023014325
(32)【優先日】2023-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【弁理士】
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】尾添 真治
(72)【発明者】
【氏名】重田 優輔
【テーマコード(参考)】
4H003
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4H003EB28
4H003ED02
4H003FA19
4H003FA34
4J002BC101
4J002CH00X
4J002EV006
4J002FD186
4J002FD20X
4J002GB00
4J002GD05
4J002HA04
4J100AB02Q
4J100AB07P
4J100AB07Q
4J100BA04Q
4J100BA56P
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA04
4J100FA03
4J100FA04
4J100FA19
4J100FA28
4J100FA30
4J100JA50
4J100JA61
(57)【要約】      (修正有)
【課題】水溶性のスチレンスルホン酸塩と油溶性モノマーを用いて、組成の均一性が良好なスチレンスルホン酸共重合体水溶液を製造する方法、簡便なスチレンスルホン酸共重合体水溶液、及び保存安定性に優れたスチレンスルホン酸共重合体組成物を提供する。
【解決手段】スチレンスルホン酸塩(a)及び油溶性モノマー(b)を含む均一かつ清澄な水性モノマー溶液に、当該モノマーの総和に対して0.01重量%~10.0重量%の水溶性重合開始剤を加えてラジカル重合した後、消泡剤の存在下、水性溶媒を留去し、さらに抗菌剤を添加することにより、スチレンスルホン酸共重合体の水性組成物を簡便に製造する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分を含む、スチレンスルホン酸共重合体組成物であって、
前記組成物全量に対して、(A)成分の含有量が0.1重量%~90.0重量%であり、(B)成分の含有量が1ppm~5000ppmであり、(C)成分の含有量が100ppm~5000ppmであり、(D)成分の含有量は残部である、組成物。
(A)成分:下記一般式(1)で表されるスチレンスルホン酸構造単位(a)と下記一般式(2)及び/又は下記一般式(3)で表される油溶性モノマー構造単位(b)とを含むスチレンスルホン酸共重合体であって、スチレンスルホン酸構造単位(a)と油溶性モノマー構造単位(b)の合計に対する油溶性モノマー構造単位(b)が2モル%~80モル%のモル比であるスチレンスルホン酸共重合体
スチレンスルホン酸構造単位(a);
一般式(1)
【化4】
(式(1)中、Mはプロトン、アンモニウムカチオン、第四級アンモニウムカチオン、第四級ホスホニウムカチオン、アルカリ金属カチオン又はアルカリ土類金属カチオンを示す。)
油溶性モノマー構造単位(b);
一般式(2)
【化5】
(式(2)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rはフェニル基、置換フェニル基、シアノ基又はハロゲン原子を示す。)で表される構造単位
一般式(3)
【化6】
(式(3)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Xは酸素又は窒素原子を示し、Rは炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4の置換アルキル基を示す。)で表される構造単位
(B)成分:消泡剤
(C)成分:抗菌剤
(D)成分:水
【請求項2】
油溶性モノマー構造単位(b)がスチレン類及び/又はメタクリル酸エステル類の構造由来である、請求項1記載のスチレンスルホン酸共重合体組成物。
【請求項3】
消泡剤がポリエーテル系化合物であり、抗菌剤が有機窒素硫黄系化合物である、請求項1又は請求項2記載のスチレンスルホン酸共重合体組成物。
【請求項4】
スチレンスルホン酸共重合体のゲル浸透クロマトグラフィーで求めた重量平均分子量が5000ダルトン(Da)~600000ダルトン(Da)である請求項1又は請求項2記載のスチレンスルホン酸共重合体組成物。
【請求項5】
スチレンスルホン酸塩及び油溶性モノマーが溶解した均一なモノマー溶液に、スチレンスルホン酸塩と油溶性モノマーの合計量に対して0.01重量%~10.0重量%の水溶性重合開始剤を加えてラジカル重合した後、消泡剤の存在下、水性溶媒を留去し、さらに抗菌剤を添加する、請求項1又は請求項2記載のスチレンスルホン酸共重合体組成物の製造方法であって、
前記スチレンスルホン酸塩と油溶性モノマーの合計に対する油溶性モノマーのモル比は2モル%~80モル%であり、水性モノマー溶液中のスチレンスルホン酸塩と油溶性モノマーの合計量は3.0重量%~15.0重量%である、
方法。
【請求項6】
水性モノマー溶液に含まれる水性溶媒が、炭素数1~4のアルコール及びアセトンからなる群より選ばれる少なくとも一つと水との混合溶媒である、請求項5記載のスチレンスルホン酸共重合体組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性が良好なスチレンスルホン酸共重合体の水性組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレンスルホン酸ナトリウムは芳香族系の水溶性ポリマーであり、優れた耐熱性、化学的安定性、分散性を有することから、炭素材料の分散、各種洗浄剤、帯電防止剤、繊維処理剤、合成糊剤、水処理膜、ポリイオンコンプレックスなど幅広い産業分野において、主に水溶液の形態で流通し、利用されている。
【0003】
また、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムの骨格に、スチレンやメタクリル酸エステルなどの非水溶性成分を導入したスチレンスルホン酸ナトリウム共重合体に対するニーズがあり、上記した用途の他、インクジェット用インクの分散剤、毛髪化粧料、化学機械研磨(CMP)用の段差改質剤、フロアポリッシュ用の抗ウイルス剤、導電性ポリマーの改質剤など、幅広い用途での利用が期待されている(例えば、特許文献1~5)。何れもポリスチレンスルホン酸ナトリウムの場合と同様、スチレンスルホン酸ナトリウム共重合体水溶液での使用が想定される。
【0004】
しかしながら、上記したスチレンスルホン酸ナトリウム共重合体は、水溶性のスチレンスルホン酸塩と油溶性モノマーとの共重合体であり、製造方法に大きな課題があった。
すなわち、従来の製造方法は、水を重合溶媒として用いた乳化重合法(例えば、非特許文献1)と非プロトン性極性有機溶剤(例えば、非特許文献2)を重合溶媒として用いた溶液重合法に大別されるが、乳化重合法で共重合できるスチレンスルホン酸ナトリウム量は、その重合機構上、数モル%までが限界であった(例えば、非特許文献3)。一方、溶液重合法は共重合組成に制約はないが、水溶液への溶媒置換が必要であり、実用性に乏しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-17510号公報
【特許文献2】特開2014-62088号公報
【特許文献3】特開2022-56348号公報
【特許文献4】特開2012-140613号公報
【特許文献5】特開2022-114670号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】E.V.Prokhorova;Polymer Science,Ser.B,2014年,vol.56,No.1,pp21-24
【非特許文献2】R.A.Weiss;Journal of Polymer Science,1985年,vol.23,pp525-533
【非特許文献3】Jose M.Asua;Polymer,2017年,vol.117,64-75
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記背景から、水溶性のスチレンスルホン酸ナトリウムと油溶性モノマーからなるスチレンスルホン酸ナトリウム共重合体水溶液の簡便な製造方法が強く求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、スチレンスルホン酸ナトリウムなど水溶性のスチレンスルホン酸塩と、スチレンやメタクリル酸エステルなどの油溶性モノマーを特定組成の水性溶媒に均一溶解し、反応溶液に可溶な重合開始剤を添加して重合した後、特定の消泡剤の存在下で水溶性溶媒を留去し、さらに特定の抗菌剤を添加することにより、長期保存安定性が優れるスチレンスルホン酸ナトリウム共重合体水溶液を簡便に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下の発明に係る。
[1]下記(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分を含む、スチレンスルホン酸共重合体組成物であって、
前記組成物全量に対して、(A)成分の含有量が0.1重量%~90.0重量%であり、(B)成分の含有量が1ppm~5000ppmであり、(C)成分の含有量が100ppm~5000ppmであり、(D)成分の含有量は残部である、組成物。
(A)成分:下記一般式(1)で表されるスチレンスルホン酸構造単位(a)と下記一般式(2)及び/又は下記一般式(3)で表される油溶性モノマー構造単位(b)とを含むスチレンスルホン酸共重合体であって、スチレンスルホン酸構造単位(a)と油溶性モノマー構造単位(b)の合計に対する油溶性モノマー構造単位(b)が2モル%~80モル%のモル比であるスチレンスルホン酸共重合体
スチレンスルホン酸構造単位(a);
一般式(1)
【化1】
(式(1)中、Mはプロトン、アンモニウムカチオン、第四級アンモニウムカチオン、第四級ホスホニウムカチオン、アルカリ金属カチオン又はアルカリ土類金属カチオンを示す。)
油溶性モノマー構造単位(b);
一般式(2)
【化2】
(式(2)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rはフェニル基、置換フェニル基、シアノ基又はハロゲン原子を示す。)で表される構造単位
一般式(3)
【化3】
(式(3)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Xは酸素又は窒素原子を示し、Rは炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4の置換アルキル基を示す。)で表される構造単位
(B)成分:消泡剤
(C)成分:抗菌剤
(D)成分:水
[2]油溶性モノマー構造単位(b)がスチレン類及び/又はメタクリル酸エステル類の構造由来である、項[1]記載のスチレンスルホン酸共重合体組成物。
[3]消泡剤がポリエーテル系化合物であり、抗菌剤が有機窒素硫黄系化合物である、項[1]又は項[2]記載のスチレンスルホン酸共重合体組成物。
[4]スチレンスルホン酸共重合体のゲル浸透クロマトグラフィーで求めた重量平均分子量が5000ダルトン(Da)~600000ダルトン(Da)である、項[1]又は項[2]記載のスチレンスルホン酸共重合体組成物。
[5]スチレンスルホン酸塩及び油溶性モノマーが溶解した均一なモノマー溶液に、スチレンスルホン酸塩と油溶性モノマーの合計量に対して0.01重量%~10.0重量%の水溶性重合開始剤を加えてラジカル重合した後、消泡剤の存在下、水性溶媒を留去し、さらに抗菌剤を添加する、項[1]又は項[2]記載のスチレンスルホン酸共重合体組成物の製造方法であって、
上記スチレンスルホン酸塩と油溶性モノマーの合計に対する油溶性モノマーのモル比は2モル%~80モル%であり、水性モノマー溶液中のスチレンスルホン酸塩と油溶性モノマーの合計量は3.0重量%~15.0重量%である、
方法。
[6]水性モノマー溶液に含まれる水性溶媒が、炭素数1~4のアルコール及びアセトンからなる群より選ばれる少なくとも一つと水との混合溶媒である、項[5]記載のスチレンスルホン酸共重合体組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のスチレンスルホン酸共重合体組成物は、全てのモノマーが水性溶媒中に溶解した均一モノマー溶液を用いて製造され、ポリマー組成の均一性が高く、且つ保存安定性に優れた水溶液であるため、各種洗浄剤、水処理膜、ポリイオンコンプレックス、顔料分散剤、毛髪化粧料、化学機械研磨(CMP)剤、抗ウイルス剤、導電性ポリマーの改質など幅広い産業分野で極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1におけるスチレンスルホン酸ナトリウム(実線及び黒丸マーカー)とスチレン(破線及び黒四角マーカー)の重合転化率であり、横軸は重合時間(h:時間)を表し、縦軸は重合転化率(%)を表す。
図2】実施例1で得られた共重合体のGPC分子量分布曲線であり、横軸は分子量の自然対数(M:ダルトン)を表し、縦軸はUV(波長230nm)吸収ピーク強度(単位は任意)を表す。
図3】実施例1で得られたスチレンスルホン酸共重合体組成物の微生物簡易測定結果であり、ディップスライド表面の写真を示す。
図4】比較例1で得られたスチレンスルホン酸共重合体組成物の微生物簡易測定結果であり、ディップスライド表面の写真を示す。
図5】実施例6におけるスチレンスルホン酸アンモニウム(及び黒丸マーカー)とメタクリル酸n-ブチル(破線及び黒四角マーカー)の重合転化率であり、横軸は重合時間(h:時間)を表し、縦軸は重合転化率(%)を表す。
図6】実施例6で得られた共重合体のGPC分子量分布曲線であり、横軸は分子量の自然対数(M:ダルトン)を表し、縦軸はUV(波長230nm)吸収ピーク強度(単位は任意)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜変形して実施できる。
【0013】
水溶性のスチレンスルホン酸塩と油溶性モノマーを任意の割合で共重合する一般的な方法は、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒にモノマーを溶解して重合する方法である。モノマーの溶解性を考慮すれば、水とN,N-ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒が好ましく(例えば、E.V.Prokhorova;Polymer Science,Ser.B,2014年,vol.56,No.1,pp21-24参照)、重合後の溶媒留去性を考慮すればエタノールなどの低級アルコールやアセトンなどの低沸点溶媒が好ましい(例えば、東ソー・ファインケム株式会社ホームページ(https://www.tosoh-finechem.co.jp)参照)。
しかしながら前者の方法は、スチレンスルホン酸共重合体水溶液への溶媒置換が極めて煩雑であり、実用性に乏しかった。一方、後者において溶媒置換は比較的容易と予想されたが、水溶性溶剤を留去する際の発泡が激しく、溶媒置換に長時間を要したり、冷却管などの装置内を汚染する課題があった。これはスチレンスルホン酸塩と油溶性モノマーからなる共重合体の界面活性が高いためである。さらに何れの方法で得たスチレンスルホン酸共重合体水溶液も、長期保存中にカビが発生し易い課題があった。カビの発生を抑制する方法として、水酸化ナトリウムなどのアルカリを添加する方法があり、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液で適用される場合もあるが、共重合組成によってはスチレンスルホン酸共重合体が加水分解したり、取り扱い時の安全性に課題があった。
【0014】
本発明者らは、水と特定の水溶性有機溶剤からなる混合溶媒にモノマーを完全溶解して、均一溶液とし、モノマー溶液に可溶な重合開始剤を加えて重合した後、特定の消泡剤の存在下、水溶性有機溶剤を留去することにより、組成分布が狭いスチレンスルホン酸共重合体水溶液を簡便に製造できること、及び当該スチレンスルホン酸共重合体水溶液に特定の抗菌剤を添加することにより、水溶液の均一性を損なうことなく、長期保存時のカビを抑制できることを見出し、本発明に至った。
【0015】
以下、本発明のスチレンスルホン酸共重合体組成物について詳しく説明する。
本発明のスチレンスルホン酸共重合体は、スチレンスルホン酸構造単位と油溶性モノマー構造単位からなるランダム共重合体であり、構造単位の合計に対する油溶性モノマー構造単位は2モル%~80モル%である。最適なモル比は用途によって異なるが、油溶性モノマー構造単位が2モル%未満では、油溶性モノマー構造単位によって期待される分散性、耐湿性、造膜性などの特徴が発現しないことがある。一方、80モル%を超えるとスチレンスルホン酸共重合体の水溶性を維持できなくなることがある。
【0016】
本発明において、スチレンスルホン酸構造単位としては、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸リチウム、スチレンスルホン酸カリウム、スチレンスルホン酸アンモニウム、スチレンスルホン酸第四級アンモニウム、スチレンスルホン酸第四級ホスホニウム、スチレンスルホン酸カルシウム及びスチレンスルホン酸マグネシウム由来の構造単位があげられ、用途に応じて使い分けることができる。
【0017】
本発明において、油溶性モノマー構造単位としては、主にスチレン、t-ブトキシスチレン、ヒドロキシスチレン、アセトキシスチレン、ビニル安息香酸などスチレン類由来の構造単位、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチルなどメタクリル酸エステル由来の構造単位である。
【0018】
本発明において、消泡剤はスチレンスルホン酸共重合体水溶液の製造時、あるいは使用時の発泡を抑制するものであり、シリコーン系、鉱油系、油脂系、脂肪酸系、脂肪酸エステル系、アミド系、アルコール系、リン酸エステル系、金属石鹸系、ポリエーテル系及び疎水性シリカ粒子などが最終用途に応じて使用できる。消泡剤など添加剤の残留が嫌われる電子材料用途では、水洗除去し易いポリエーテル系がより好ましいが、添加量は可能な限り少ない方が好ましい。スチレンスルホン酸共重合体組成物中の消泡剤の含有量としては、1ppm~5000ppmであり、1ppm未満では消泡効果が不十分となることがあり、1000ppmを超えるとスチレンスルホン酸共重合体組成物から分離することがあるため、1ppm~1000ppmがより好ましい。
【0019】
一般的な水溶性ポリマーの水溶液と同様、スチレンスルホン酸共重合体の水溶液に、空気中に漂うカビの胞子が混入するなどして菌糸に成長することがある。これを抑制するため、本発明のスチレンスルホン酸共重合体組成物は抗菌剤や防腐剤を含有する。
抗菌剤、防腐剤としては、スチレンスルホン酸共重合体との相互作用によってスチレンスルホン酸共重合体を不溶化しないものであれば良く、有機四級アンモニウム塩系化合物、有機沃素系化合物、有機窒素硫黄系化合物、有機窒素ハロゲン系化合物及び有機窒素硫黄ハロゲン系化合物などの化合物が使用できる。
スチレンスルホン酸共重合体組成物中の含有量は100ppm~5000ppmであり、100pm以下では抗菌効果が不十分となることがあり、5000ppmを超えると各種用途で使用する際に不純物としての悪影響が無視できなくなったり、スチレンスルホン酸共重合体組成物から分離することがあるため、100ppm~2000ppmがより好ましい。例えば、本発明のスチレンスルホン酸共重合体組成物をインクジェット用インクの分散剤として用いる場合、抗菌剤などの添加剤がインク中の異物発生を誘発することがあるため、抗菌剤の添加量は可能な限り少ない方が良い。
【0020】
次に本発明のスチレンスルホン酸共重合体組成物の製造方法について詳しく説明する。
例えば、スチレンスルホン酸塩、油溶性モノマー、重合開始剤、重合溶媒及び必要に応じて分子量調節剤あるいは連鎖移動剤を重合容器に一括で仕込んで重合する一括添加重合法、モノマーあるいはモノマーと分子量調節剤との混合溶液と重合開始剤を重合容器へ逐次添加しながら重合する逐次添加重合法などが挙げられる。
これらの内でも、重合熱の除去が容易な逐次添加重合法が好ましく用いられる。但し、リビングラジカル重合法を利用する場合、逐次添加重合法よりも全一括添加重合の方が、重合転化率や分子量制御性の面で好ましい場合もある。この際、モノマー溶液は清澄な均一溶液であり、重合系内は終始清澄な均一溶液を維持する。モノマー溶液及び重合溶液の均一性が損なわれると、スチレンスルホン酸共重合体の組成分布が広がることがある。
【0021】
本発明において、油溶性モノマーとしては、例えば、N-シクロヘキシルマレイミド、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-(クロロフェニル)マレイミド、N-(メチルフェニル)マレイミド、N-(イソプロピルフェニル)マレイミド、N-(スルフォフェニル)マレイミド、N-メチルフェニルマレイミド、N-ブロモフェニルマレイミド、N-ナフチルマレイミド、N-ヒドロキシフェニルマレイミド、N-メトキシフェニルマレイミド、N-カルボキシフェニルマレイミド、N-(ニトロフェニル)マレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-(4-アセトキシ-1-ナフチル)マレイミド、N-(4-オキシ-1-ナフチル)マレイミド、N-(3-フルオランチル)マレイミド、N-(5-フルオレセイニル)マレイミド、N -(1-ピレニル)マレイミド、N-(2 ,3-キシリル)マレイミド、N-(2 ,4-キシリル)マレイミド、N-(2 ,6-キシリル)マレイミド、N-(アミノフェニル)マレイミド、N-(トリブロモフェニル)マレイミド、N-[4-(2-ベンゾイミダゾリル)フェニル]マレイミド、N-(3 ,5-ジニトロフェニル)マレイミド、N-(9-アクリジニル)マレイミド等のマレイミド類、フマル酸ジブチル、フマル酸ジプロピル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジシクロヘキシルなどのフマル酸ジエステル類、フマル酸ブチル、フマル酸プロピル、フマル酸エチルなどのフマル酸モノエステル類、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジプロピル、マレイン酸ジエチルなどのマレイン酸ジエステル類、マレイン酸ブチル、マレイン酸プロピル、マレイン酸エチル、マレイン酸ジシクロヘキシルなどのマレイン酸モノエステル類、フマル酸、メサコン酸などの二塩基酸、スチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、フロロスチレン、トリフロロスチレン、ニトロスチレン、シアノスチレン、α-メチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、p-シアノスチレン、p-アセトキシスチレン、塩化p-スチレンスルホニル、エチルp-スチレンスルホニル、メチルp-スチレンスルホニル、プロピルp-スチレンスルホニル、p-ブトキシスチレン、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、3-イソプロペニル-α,α’-ジメチルベンジルイソシアネートなどのスチレン類、ブチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、2- フェニルビニルアルキルエーテル、ニトロフェニルビニルエーテル、シアノフェニルビニルエーテル、クロロフェニルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸デシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ボルニル、アクリル酸2-エトキシエチル、アクリル酸2―ブトキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸メトキシエチレングリコール、アクリル酸エチルカルビトール、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、アクリル酸3-(トリメトキシシリル) プロピル、ポリエチレングリコールアクリレート、アクリル酸グリシジル、2-(アクリロイルオキシ)エチルフォスフェート、アクリル酸2,2,3,3-テトラフロロプロピル、アクリル酸2,2,2-トリフロロエチル、アクリル酸2,2,3,3,3-ペンタフロロプロピル、アクリル酸2,2,3,4,4,4-ヘキサフロロブチルなどのアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸s e c-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ボルニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸グリシジル、ポリエチレングリコールメタクリレート、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、メタクリル酸メトキシエチレングリコール、メタクリル酸エチルカルビトール、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル、2-(メタクリロイルオキシ)エチルフォスフェート、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル、メタクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル、メタクリル酸3-(ジメチルアミノプロピル、メタクリル酸2-(イソシアナート)エチル、メタクリル酸2,4,6-トリブロモフェニル、メタクリル酸2,2,3,3-テトラフロロプロピル、メタクリル酸2,2,2-トリフロロエチル、メタクリル酸2,2,3,3,3-ペンタフロロプロピル、メタクリル酸2,2,3,4,4,4-ヘキサフロロブチルなどのメタクリル酸エステル類、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、2-シアノ-1,3-ブタジエン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、2-(N-ピペリジルメチル)-1,3-ブタジエン、2-トリエトキシメチル-1,3-ブタジエン、2-(N ,N-ジメチルアミノ)-1,3-ブタジエン、N-(2-メチレン-3-ブテノイル)モルホリン、2-メチレン-3-ブテニルホスホン酸ジエチルなどの1 ,3-ブタジエン類、その他、アクリルアミド、メタクリルアミド、スルフォフェニルアクリルアミド、スルフォフェニルイタコンイミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、塩化ビニル、α-シアノエチルアクリレート、無水シトラコン酸、ビニル酢酸、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサミック酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、モノ2-(メタクリロイルオキシ)エチルフタレート、モノ2-(メタクリロイルオキシ)エチルサクシネート、モノ2-(アクリロイルオキシ)エチルサクシネート、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルジメトキシシラン、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ジアセトンメタクリレート、ビニルスルホン酸、イソプレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-1-メチルスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルピロリドン、デヒドロアラニン、二酸化イオウ、イソブテン、N-ビニルカルバゾール、ビニリデンジシアニド、パラキノジメタン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ノルボルネン、N-ビニルカルバゾール等が挙げられる。これらの中で、スチレンスルホン酸塩との共重合性、入手性などを考慮すると、スチレン類、メタクリル酸エステル類、アクリル酸エステル類、マレイミド類がより好ましい。
【0022】
本発明において用いられる重合溶媒としては、上記モノマー混合物を均一に溶解できるものであれば特に制限はないが、例えば、水とメタノール、エタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、プロパノール、1-プロパノール、2-プロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、メトキシエタノール、エトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1,2-ジメトキシプロパン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジヒドロレボグルコセノン等のエーテル類、アセトニトリル及びアセトンなどの混合溶媒が挙げられる。
重合時のモノマー濃度は高いほど重合速度や生産性の面で好ましいが、殆ど水にしか溶解しないスチレンスルホン酸塩と殆ど水に溶解しない油溶性モノマーを重合溶媒に均一溶解させて共重合するため、必然的にモノマー濃度は低くなる。よってモノマー溶液及び重合系内のモノマー濃度は通常3.0重量%~15.0重量%である。
【0023】
本発明において用いられるラジカル重合開始剤としては、例えば、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン、シクロヘキサノンパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエート、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などのパーオキサイド系化合物、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリックアシッド)、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1’-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェートジハイドレート、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]}ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレート、1,1’-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルメタン)、4,4’-ジアゼンジイルビス(4-シアノペンタン酸)・α-ヒドロ-ω-ヒドロキシポリ(オキシエチレン)重縮合物などのアゾ化合物等があげられる。
これらの中で、リビングラジカル重合法を利用する場合には、制御性の観点から、パーオキサイド系開始剤よりもアゾ系開始剤が好ましい。経済性の観点から上記したパーオキサイド系重合開始剤を使用する場合、必要に応じて、アスコルビン酸、エリソルビン酸、アニリン、三級アミン、ロンガリット、ハイドロサルファイト、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウムなどの還元剤を併用することができる。
ラジカル重合開始剤の使用量は、全モノマーに対し、通常、0.01重量%~10重量%であり、目的物の純度を考慮すると、0.01重量%~5重量%がより好ましい。
【0024】
本発明において用いられる分子量調節剤(連鎖移動剤)は、特に限定されるものではないが、例えば、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオサリチル酸、3-メルカプト安息香酸、4-メルカプト安息香酸、チオマロン酸、ジチオコハク酸、チオマレイン酸、チオマレイン酸無水物、ジチオマレイン酸、チオグルタール酸、システイン、ホモシステイン、5-メルカプトテトラゾール酢酸、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸、3-メルカプトプロパン-1,2-ジオール、メルカプトエタノール、1,2-ジメチルメルカプトエタン、2-メルカプトエチルアミン塩酸塩、6-メルカプト-1-ヘキサノール、2-メルカプト-1-イミダゾール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、システイン、N-アシルシステイン、グルタチオン、N-ブチルアミノエタンチオール、N,N-ジエチルアミノエタンチオールなどのメルカプタン類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルチウラムジスルフィド、2,2’-ジチオジプロピオン酸、3,3’-ジチオジプロピオン酸、4,4’-ジチオジブタン酸、2,2’-ジチオビス安息香酸などのジスルフィド類、ヨードホルムなどのハロゲン化炭化水素、ベンジルジチオベンゾエート、2-シアノプロプ-2-イルジチオベンゾエート、4-シアノ-4-(チオベンゾイルチオ)ペンタン酸、4-シアノ-4-(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニルペンタン酸、S,S-ジベンジルトリチオカーボネート、3-((((1-カルボキシエチル)チオ)カーボノチオイル)チオ)プロパン酸、シアノメチル(3,5-ジメチル-1H-ピラゾール)カルボジチオエートなどのチオカルボニルチオ化合物、α-ヨードベンジルシアニド、1-ヨードエチルベンゼン、エチル2-ヨード-2-フェニルアセテート、2-ヨード-2-フェニル酢酸、2-ヨードプロパン酸、2-ヨード酢酸などの沃化アルキル化合物、ジフェニルエチレン、p-クロロジフェニルエチレン、p-シアノジフェニルエチレン、α-メチルスチレンダイマー、有機テルル化合物、イオウ、過酸化水素などが挙げられる。これらの中で、リビングラジカル重合によって分子量分布を狭くしたい場合には、制御性の観点から、連鎖移動剤としてチオカルボニルチオ化合物や沃化アルキル化合物が好ましい。
本発明において、重合温度は通常のラジカル重合と同様、10℃~100℃であり、より好ましくは40℃~90℃で、重合転化率の観点から、さらに好ましくは60℃~90℃である。
【0025】
重合時間は、3時間~50時間が好ましく、さらに好ましくは3時間~30時間である。逐次添加法にて重合する場合、分子量調節剤を含むモノマー混合物と重合開始剤の連続添加を行う時間は、通常1時間~4時間である。
【0026】
上記したリビングラジカル重合法の場合、ドーマント種から可逆的にラジカルを生成しながら重合が進行し、暴走反応が起こり難いため、逐次添加重合法よりも全一括添加重合の方が、重合転化率や分子量制御性の面で好ましい場合もある。
【0027】
本発明のスチレンスルホン酸共重合体の重量平均分子量は、用途に応じて調整することが出来るが、好ましくは5000ダルトン~600000ダルトンである。5000ダルトン未満では重合開始剤や連鎖移動剤由来の残渣が増加し、600000ダルトンを超えると水溶性を維持できなくなることがあるため、より好ましくは5000ダルトン~100000ダルトンである。
【0028】
本発明において用いられる(B)成分としての消泡剤は、消泡効果があり、且つ本発明のスチレンスルホン酸共重合体を凝集させることがなければ特に限定されないが、水洗除去性の面でポリエーテル系化合物が好ましい。ポリエーテル系消泡剤はノニオン性界面活性剤の一種であり、高級アルコール、脂肪酸、アルキルフェノールなどに由来する炭化水素を疎水基とし、親水基としてエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドを付加重合したものである。例えば、デフォーマー(登録商標)SN-444(サンノプコ株式会社)、アンチフロス(登録商標)(第一工業製薬株式会社製)M-9、F-233、消泡剤No.5(花王株式会社製)、ビスマー(登録商標)CS、ビスマー(登録商標)EC、ビスフォーム(株式会社日新化学研究所製)、消泡剤PE-M(富士フイルム和光純薬株式会社製)、アデカ(登録商標)プルロニック(株式会社ADEKA(登録商標)製)L-62、L-64、プラウノン(登録商標)(青木油脂工業株式会社製)P-171、EP-480などを用いることが挙げられる。
【0029】
本発明において、消泡剤の使用量の下限としてはその消泡効果を奏する量であれば特に限定されない。通常、組成物中、5ppm以上、好ましくは20ppm以上、特に100ppm以上が好ましい。消泡剤の添加量の上限としては、その経済性などを考慮し、また例えば消泡剤の添加により組成物中の成分が組成物より固体成分として析出したり、液体成分として相分離するなどの支障が出る可能性がありうる。そのため例えば、組成物中、2000ppm以下、好ましくは500ppm以下、特に250ppm以下が好ましい。
【0030】
なお消泡剤添加の効果としては目的物の適切な取得や作業工程の円滑な実施が挙げられる。例えば実施例にも記載の通り、重合体を含む反応物中の溶媒を留去する際、減圧下で行なうと発泡してしまい目的物も流出してしまって収量が減ぜられたり、発泡により作業が適正に行うことが難しくなり、減圧度を調整しながら時間をかけて行うことになることが挙げられる。
【0031】
本発明において用いられる(C)成分としての抗菌剤は、抗菌効果があり、且つ本発明のスチレンスルホン酸共重合体を凝集させることがなければ特に限定されないが、抗菌性の面で、有機窒素硫黄系化合物が好ましく、ネオシントール(登録商標)AFシリーズ、BCシリーズ(住友エンバイロメンタルサイエンス株式会社)、ビオサイド(登録商標)W-K500(株式会社タイショーテクノス製)、アクアス(登録商標)ビオレストKEシリーズ(アクアス株式会社)、スラオフ(登録商標)717A(大阪ガスケミカル株式会社)を用いることが挙げられる。
なお、本発明において抗菌物質を含む防腐剤や、細菌の増殖を抑制したり殺したりする働きのある化学療法剤である抗菌薬も抗菌剤とする。
【0032】
本発明において、抗菌剤の使用量の下限としてはその抗菌・防腐効果を奏する量であれば特に限定されない。通常、組成物中、50ppm以上、好ましくは250ppm以上、特に1000ppm以上が好ましい。抗菌剤の添加量の上限としては、例えば抗菌剤の添加により抗菌剤自体又はその他の成分が組成物より固体成分として析出したり、液体成分が相分離するなどの支障が出る可能性がありうる。そのため例えば、組成物中、10000ppm以下、好ましくは5000ppm以下、特に2000ppm以下が好ましい。
【0033】
本発明において用いられる(D)成分としての水は、本発明のスチレンスルホン酸共重合体組成物が上記の通り、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分を含む構成であることから、本発明の組成物の用途に応じた量と質となればよい。
例えばイオン交換水、蒸留水、限外ろ過透過水、水道水、冷水、温水など、目的に応じて用いることができる。組成物中の組成量としては、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の量に応じて、任意に加えることで良い。場合によっては、組成物の溶液を維持するための量とするなど、適宜量を調整することができる。
【0034】
本発明のスチレンスルホン酸共重合体組成物は、上記の通り、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分を含むが、さらに目的に応じて第5成分や複数の成分を加えることもできる。例えば、該組成物に濡れ性を付与するための濡れ剤(湿潤剤)を加えることができる。濡れ剤としては該組成物に含まれる各成分を凝集させることがなければ特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、プロパノール、1-プロパノール、2-プロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、メトキシエタノール、エトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1,2-ジメトキシプロパン、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、及びアセトンなどが挙げられる。
【0035】
上記の方法で得られた重合直後のスチレンスルホン酸共重合体の溶液は、水性の有機溶剤を含み、低濃度であるため、減圧蒸留などの方法で水性有機溶剤、水及び未反応の油溶性モノマーを留去し、濃縮する。この際、水溶性溶剤の濃度が低下するに従って発泡が激しくなるため、濃縮操作に長い時間が掛かったり、突沸等によって冷却管などの装置内を汚染する。この発泡を抑制するため、上記した消泡剤を所定量添加する。消泡剤の添加は、モノマー溶液の均一性や重合性に悪影響を及ぼさない限り、重合時又は重合後の何れでも良い。水溶性溶媒を除去し、濃縮されたスチレンスルホン酸共重合体組成物中のポリマー濃度は高いほど、保管及び輸送コストの面で好ましいが、使用時は用途に応じて0.1重量%~90.0重量%の範囲で濃度調整される。
【実施例0036】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。
【0037】
<ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による重合転化率と分子量の測定>
東ソー株式会社製 HLC-8320を用いて原料モノマーと重合物の定量(面積%)を行った。重合溶液と下記溶離液をサンプル瓶に精秤し、約0.1wt%溶液を調製し、以下の条件でGPC測定を行った。重合前の各モノマー由来のピーク面積と重合後のモノマー由来のピーク面積から、転化率を算出した。
カラム=TSKgel(登録商標) ガードカラムAW-H+TSKgel(登録商標) AW6000+TSKgel(登録商標) AW3000+TSKgel(登録商標) AW2500
溶離液=硫酸ナトリウム水溶液(0.05mol/L)/アセトニトリル=65/35(Vol比)溶液
流速・注入量・カラム温度=0.6ml/min、注入量=10μl、カラム温度=40℃
検出器=UV検出器(波長230nm)
検量線=標準ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(創和科学製)を用いて、ピークトップ分子量と溶出時間から作成した。
【0038】
<微生物簡易測定>
三愛石油株式会社製の微生物簡易測定器具 サンアイバイオチェッカー(登録商標)Mを用いてカビの発生状況を確認した。
使用説明書に従いディップスライドをスチレンスルホン酸共重合体組成物に浸した後、余分な溶液を振り切ってから容器に戻し、30℃で10日間培養し、スライド表面を目視観察した。スライド表面の黒い異物の有無により保存安定性を判定した。
【0039】
<スチレンスルホン酸共重合溶液の固形分測定>
秤量瓶にサンプル液を約1.5g精秤し、真空乾燥機中、110℃で3時間乾燥した。乾燥前後の重量変化からサンプル液の固形分を算出した。
【0040】
<不溶分の走査型電子顕微鏡(SEM)観察>
スチレンスルホン酸共重合体溶液中に発生した不溶分を定量濾紙で濾別し、純水洗浄した後、50℃で3時間真空乾燥した。株式会社日立ハイテクノロジーズ社製S-4500を用い、加速電圧15kV、倍率3000倍で乾燥物のSEM観察を行った。
【0041】
<使用試薬>
実施例に記載の化合物は下記を使用したが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。
パラスチレンスルホン酸ナトリウム(NaSS);東ソー・ファインケム株式会社製(純度88.8%)
パラスチレンスルホン酸アンモニウム(AmSS);東ソー・ファインケム株式会社製(純度92.1%)
スチレン(St);富士フイルム和光純薬株式会社製、特級
パラt-ブトキシスチレン(PTBS);東ソー・ファインケム株式会社製(純度97%)
メタクリル酸n-ブチル(BMA);富士フイルム和光純薬株式会社製(純度>95%)
メタクリル酸2,2,2-トリフルオロエチル;東京化成工業株式会社製(純度>98%)
2,2‘-アゾビス-(2-アミジノプロパン)二塩酸塩;富士フイルム和光純薬株式会社製(商品名V-50)
3-メルカプト-1,2-プロパンジオール;富士フイルム和光純薬株式会社製
消泡剤:サンノプコ株式会社製、デフォーマー(登録商標)SN-444(商品名)
消泡剤:サンノプコ株式会社製、デフォーマー(登録商標)SN-5061(商品名)
消泡剤:第一工業製薬株式会社製、アンチフロス(登録商標)M-9(商品名)
抗菌剤:大阪ガスケミカル株式会社製、スラオフ(登録商標)717A(商品名)
抗菌剤:住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社製、ネオシントール(登録商標)BC-220(商品名)
【0042】
実施例1 NaSS/St共重合体組成物の製造(1)
還流冷却管、窒素導入管、パドル型撹拌機を取り付けた2Lガラス製四つ口フラスコに、イオン交換水428.10g、NaSS粉末53.50gを仕込み、常温で撹拌しながら溶解した。ここへスチレン24.10gと2-プロパノール370.00gを加え、常温で攪拌しながら溶解し、モノマーの清澄な均一溶液を得た。ここへ重合開始剤V-50を1.50g添加し、常温で攪拌しながら溶解した。続いて系内をアスピレーターで減圧した後、窒素を導入する操作を繰返して脱気した。その後、反応器を75℃のオイルバスに浸漬し、攪拌しながら10時間重合した。その後、重合開始剤V-50を0.50g追加添加し、75℃で更に10時間重合を継続した。その後、重合開始剤V-50を0.15g追加添加し、75℃で更に8時間重合を継続した。
【0043】
シリンジを用いて反応液を抜出し、GPCで重合転化率を追跡した結果、重合時間と共にNaSSとスチレンがほぼ同じ速度で消費されたことを確認した(図1)。ポリマーは単峰性の分子量分布を示し(図2)、且つ反応液が終始透明だったことから、組成分布が狭いスチレンスルホン酸ナトリウム/スチレン共重合体が生成したと判断した。
上記重合溶液に消泡剤デフォーマー(登録商標)SN-444を添加し、ロータリーエバポレーターを用いて40℃~60℃で溶媒留去を行った。発泡は少なく、約30分でスムーズに濃縮できた。イオン交換水を用いて固形分を調整し、固形分20.5重量%のポリマー水溶液344gを取得した(重合処方と結果の詳細は表1参照)。回収率は93%だった。
上記ポリマー水溶液に抗菌剤としてスラオフ(登録商標)717Aを添加し、本発明のスチレンスルホン酸共重合体組成物とした。当該組成物について微生物簡易測定(30℃×10日間培養)を行った結果、カビの発生は見られなかった(図3)。
【0044】
【表1】
【0045】
実施例2 スチレンスルホン酸ナトリウム/スチレン共重合体組成物の製造(2)
実施例1においてモノマー組成を変更し、スチレンスルホン酸ナトリウムとスチレンの共重合を実施した。尚、重合開始剤V-50は重合開始時に2.50g添加し、75℃で10時間重合した後、0.40g追加し、さらに75℃で10時間重合した後、0.10g追加し、合計24時間重合した。
【0046】
実施例1と同様、GPCで重合転化率を追跡した結果、重合時間と共にNaSSとスチレンがほぼ同じ速度で消費されたことを確認した。ポリマーは単峰性の分子量分布を示し、且つ反応液が終始透明だったことから、組成分布が狭いスチレンスルホン酸ナトリウム/スチレン共重合体が生成したと判断した。
実施例1と同様、上記重合溶液に消泡剤を添加し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した。発泡は少なく、約30分でスムーズに濃縮できた。イオン交換水を用いて固形分を調整し、固形分21.0重量%のポリマー水溶液440gを取得した(重合処方と結果の詳細は表1参照)。回収率は95%だった。
実施例1と同様、上記ポリマー水溶液に抗菌剤を添加し、本発明のスチレンスルホン酸共重合体組成物とした。当該組成物について微生物簡易測定(30℃×10日間培養)を行った結果、カビの発生は見られなかった。
【0047】
実施例3 NaSS/St共重合体組成物の製造(3)
実施例1において、モノマー組成を変更し、連鎖移動剤としてチオグリセロールを添加してスチレンスルホン酸ナトリウムとスチレンの共重合を実施した。尚、重合開始剤V-50は重合開始時に6.00g添加し、75℃で10時間重合した後、1.00g追加し、さらに75℃で10時間重合した後、0.30g追加し、合計24時間重合した。
【0048】
実施例1と同様、GPCで重合転化率を追跡した結果、重合時間と共にNaSSとスチレンがほぼ同じ速度で消費されたことを確認した。ポリマーは単峰性の分子量分布を示し、且つ反応液が終始透明だったことから、組成分布が狭いスチレンスルホン酸ナトリウム/スチレン共重合体が生成したと判断した。
実施例1と同様、上記重合溶液に消泡剤を添加し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した。発泡は少なく、約30分でスムーズに濃縮できた。イオン交換水を用いて固形分を調整し、固形分20.6重量%のポリマー水溶液446gを取得した(重合処方と結果の詳細は表1参照)。回収率は94%だった。
実施例1と同様、上記ポリマー水溶液に抗菌剤を添加し、本発明のスチレンスルホン酸共重合体組成物とした。当該組成物について微生物簡易測定(30℃×10日間培養)を行った結果、カビの発生は見られなかった。
【0049】
実施例4 NaSS/PTBS共重合体組成物の製造
実施例1において、StをPTBSへ変更してスチレンスルホン酸ナトリウムの共重合を実施した。尚、重合開始剤V-50は重合開始時に1.00g添加し、75℃で10時間重合した後、0.40g追加し、さらに75℃で10時間重合した後、0.10g追加し、合計28時間重合した。
【0050】
実施例1と同様、GPCで重合転化率を追跡した結果、重合時間と共にNaSSとPTBSがほぼ同じ速度で消費されたことを確認した。ポリマーは単峰性の分子量分布を示し、且つ反応液が終始透明だったことから、組成分布が狭いスチレンスルホン酸ナトリウム/PTBS共重合体が生成したと判断した。
実施例1と同様、上記重合溶液に消泡剤を添加し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した。発泡は少なく、約30分でスムーズに濃縮できた。イオン交換水を用いて固形分を調整し、固形分20.5重量%のポリマー水溶液299gを取得した(重合処方と結果の詳細は表1参照)。回収率は93%だった。
実施例1と同様、上記ポリマー水溶液に抗菌剤を添加し、本発明のスチレンスルホン酸共重合体組成物とした。当該組成物について微生物簡易測定(30℃×10日間培養)を行った結果、カビの発生は見られなかった。
【0051】
比較例1 NaSS/St共重合体組成物の製造(4)
実施例1と同じ条件でスチレンスルホン酸ナトリウムとStの共重合を実施した結果、実施例1と同等の重合転化率で共重合が進行し、同等の分子量を有する共重合体が得られた。
【0052】
上記重合溶液に消泡剤を添加せず、ロータリーエバポレーターによる溶媒留去を試みた。その結果、溶媒留去の初期は2-プロパノールによって泡が壊れたが、2-プロパノールの減少に従って発泡が激しくなった。しばしばトラップまで泡が留出したため、何度も減圧度を調整しながら、長時間(約100分)掛けて濃縮した。イオン交換水を用いて固形分を調整し、固形分20.5重量%のポリマー水溶液301gを取得した(重合処方と結果の詳細は表1参照)。突沸によるロスが生じたため、実施例1~4と比べて回収率は低く、82%だった。
上記スチレンスルホン酸共重合体水溶液について微生物簡易測定(30℃×10日間培養)を行った結果、カビの発生が一部見られた(図4)。
【0053】
実施例5 NaSS/BMA共重合組成物の製造(1)
還流冷却管、窒素導入管、パドル型撹拌機を取り付けた2Lガラス製四つ口フラスコに、イオン交換水362.00g、NaSS粉末73.20gを仕込み、常温で撹拌しながら溶解した。ここへメタクリル酸n-ブチル45.01gと99.5%エタノール249.50gを加え、常温で攪拌しながら溶解し、モノマーの清澄な均一溶液を得た。ここへ重合開始剤V-50を2.00g添加し、常温で攪拌しながら溶解した。続いて系内をアスピレーターで減圧した後、窒素を導入する操作を繰返して脱気した。その後、反応器を70℃のオイルバスに浸漬し、攪拌しながら12時間重合した。
シリンジを用いて反応液を抜出し、GPCで重合転化率を追跡した結果、重合時間と共にNaSSとメタクリル酸n-ブチルがほぼ同じ速度で消費されたことを確認した。ポリマーは単峰性の分子量分布を示し、且つ反応液が終始透明だったことから、組成分布が狭いスチレンスルホン酸ナトリウム/メタクリル酸n-ブチル共重合体が生成したと判断した。
上記重合溶液に消泡剤アンチフロス(登録商標)M-9を添加し、ロータリーエバポレーターを用いて40℃~60℃で溶媒留去を行った。発泡は少なく、約30分でスムーズに濃縮できた。イオン交換水を用いて固形分を調整し、固形分20.3重量%のポリマー水溶液522gを取得した(重合処方と結果の詳細は表2参照)。回収率は93%だった。
上記ポリマー水溶液に抗菌剤としてネオシトール(登録商標)BC-220を添加し、本発明のスチレンスルホン酸共重合体組成物とした。当該組成物について微生物簡易測定(30℃×10日間培養)を行った結果、カビの発生は見られなかった。
【0054】
実施例6 AmSS/BMA共重合組成物の製造(1)
還流冷却管、窒素導入管、パドル型撹拌機を取り付けた2Lガラス製四つ口フラスコに、イオン交換水365.00g、AmSS粉末70.00gを仕込み、常温で撹拌しながら溶解した。ここへメタクリル酸n-ブチル47.02gと99.5%エタノール245.00gを加え、常温で攪拌しながら溶解し、モノマーの清澄な均一溶液を得た。ここへ重合開始剤V-50を2.00g添加し、常温で攪拌しながら溶解した。続いて系内をアスピレーターで減圧した後、窒素を導入する操作を繰返して脱気した。その後、反応器を70℃のオイルバスに浸漬し、攪拌しながら12時間重合した。
シリンジを用いて反応液を抜出し、GPCで重合転化率を追跡した結果、重合時間と共にAmSSとメタクリル酸n-ブチルがほぼ同じ速度で消費されたことを確認した(図5)。ポリマーは単峰性の分子量分布を示し、且つ反応液が終始透明だったことから、組成分布が狭いスチレンスルホン酸アンモニウム/メタクリル酸n-ブチル共重合体が生成したと判断した(図6)。
上記重合溶液に消泡剤アンチフロス(登録商標)M-9を添加し、ロータリーエバポレーターを用いて40℃~60℃で溶媒留去を行った。発泡は少なく、約30分でスムーズに濃縮できた。イオン交換水を用いて固形分を調整し、固形分20.4重量%のポリマー水溶液516gを取得した(重合処方と結果の詳細は表2参照)。回収率は92%だった。
上記ポリマー水溶液に抗菌剤としてネオシトール(登録商標)BC-220を添加し、本発明のスチレンスルホン酸共重合体組成物とした。当該組成物について微生物簡易測定(30℃×10日間培養)を行った結果、カビの発生は見られなかった。
【0055】
実施例7 AmSS/TFEM共重合組成物の製造(1)
還流冷却管、窒素導入管、パドル型撹拌機を取り付けた2Lガラス製四つ口フラスコに、イオン交換水250.00g、AmSS粉末50.02gを仕込み、常温で撹拌しながら溶解した。ここへメタクリル酸2,2,2-トリフルオロエチル60.03gとアセトン380.20gを加え、常温で攪拌しながら溶解し、モノマーの清澄な均一溶液を得た。ここへ重合開始剤V-50を5.00g添加し、常温で攪拌しながら溶解した。続いて系内をアスピレーターで減圧した後、窒素を導入する操作を繰返して脱気した。その後、反応器を70℃のオイルバスに浸漬し、攪拌しながら20時間重合した。
シリンジを用いて反応液を抜出し、GPCで重合転化率を追跡した結果、重合時間と共にAmSSとメタクリル酸2,2,2-トリフルオロエチルがほぼ同じ速度で消費されたことを確認した。ポリマーは単峰性の分子量分布を示し、且つ反応液が終始透明だったことから、組成分布が狭いスチレンスルホン酸アンモニウム/メタクリル酸2,2,2-トリフルオロエチルが生成したと判断した。
上記重合溶液に消泡剤アンチフロス(登録商標)M-9を添加し、ロータリーエバポレーターを用いて40℃~60℃で溶媒留去を行った。発泡は少なく、約30分でスムーズに濃縮できた。イオン交換水を用いて固形分を調整し、固形分20.6重量%のポリマー水溶液510gを取得した(重合処方と結果の詳細は表2参照)。回収率は95%だった。
上記ポリマー水溶液に抗菌剤としてネオシトール(登録商標)BC-220を添加し、本発明のスチレンスルホン酸共重合体組成物とした。当該組成物について微生物簡易測定(30℃×10日間培養)を行った結果、カビの発生は見られなかった。
【0056】
比較例2 NaSS/BMA共重合体組成物の製造(2)
実施例5と同じ条件でスチレンスルホン酸ナトリウムとメタクリル酸n-ブチルの共重合を実施した結果、実施例5と同等の重合転化率で共重合が進行し、同等の分子量を有する共重合が得られた。
上記重合溶液に消泡剤を添加せず、ロータリーエバポレーターによる溶媒留去を試みた。その結果、溶媒留去の初期はエタノールによって泡が壊れたが、エタノールの減少に従って発泡が激しくなった。しばしばトラップまで泡が留出したため、何度も減圧度を調整しながら、約2時間掛けて濃縮した。イオン交換水を用いて固形分を調整し、固形分20.1重量%のポリマー水溶液469gを取得した(重合処方と結果の詳細は表2参照)。突沸によるロスが生じたため、実施例5と比べて回収率が低く82%だった。
上記スチレンスルホン酸共重合体水溶液について微生物簡易測定(30℃×10日間培養)を行った結果、カビの発生が一部見られた。
【0057】
比較例3 AmSS/BMA共重合体組成物の製造(2)
実施例6と同じ条件でスチレンスルホン酸アンモニウムとメタクリル酸n-ブチルの共重合を実施した結果、実施例6と同等の重合転化率で共重合が進行し、同等の分子量を有する共重合が得られた。
上記重合溶液に消泡剤を添加せず、ロータリーエバポレーターによる溶媒留去を試みた。その結果、溶媒留去の初期はエタノールによって泡が壊れたが、エタノールの減少に従って発泡が激しくなった。しばしばトラップまで泡が留出したため、何度も減圧度を調整しながら、約2時間掛けて濃縮した。イオン交換水を用いて固形分を調整し、固形分20.2重量%のポリマー水溶液469gを取得した(重合処方と結果の詳細は表2参照)。突沸によるロスが生じたため、実施例6と比べて回収率が低く83%だった。
上記スチレンスルホン酸共重合体水溶液について微生物簡易測定(30℃×10日間培養)を行った結果、カビの発生が一部見られた。
【0058】
比較例4 AmSS/TFEM共重合体組成物の製造(2)
実施例7と同じ条件でスチレンスルホン酸アンモニウムとメタクリル酸2,2,2-トリフルオロエチルの共重合を実施した結果、実施例7と同等の重合転化率で共重合が進行し、同等の分子量を有する共重合が得られた。
上記重合溶液に消泡剤を添加せず、ロータリーエバポレーターによる溶媒留去を試みた。その結果、溶媒留去の初期はアセトンによって泡が壊れたが、アセトンの減少に従って発泡が激しくなった。しばしばトラップまで泡が留出したため、何度も減圧度を調整しながら、約2時間掛けて濃縮した。イオン交換水を用いて固形分を調整し、固形分20.2重量%のポリマー水溶液455gを取得した(重合処方と結果の詳細は表2参照)。突沸によるロスが生じたため、実施例7と比べて回収率が低く83%だった。
上記スチレンスルホン酸共重合体水溶液について微生物簡易測定(30℃×10日間培養)を行った結果、カビの発生が一部見られた。
【0059】
【表2】
【0060】
比較例5
実施例6と同じ条件でスチレンスルホン酸アンモニウムとメタクリル酸n-ブチルの共重合を実施した結果、実施例6と同等の重合転化率で共重合が進行し、同等の分子量を有する共重合が得られた。
上記重合溶液に消泡剤としてデフォーマーSN-5061(サンノプコ株式会社製)を0.0002g添加し、ロータリーエバポレーターによる溶媒留去を試みた。その結果、溶媒留去の初期はエタノールによって泡が壊れたが、エタノールの減少に従って発泡が激しくなった。何回か減圧度を調整しながら、約70分掛けて濃縮した。イオン交換水を用いて固形分を調整し、固形分20.5重量%のポリマー水溶液451gを取得した(重合処方と結果の詳細は表3参照)。発泡によるロスが生じたため、実施例6と比べて回収率が低く82%だった。消泡剤の添加量が少なかったためである。
上記ポリマー水溶液に抗菌剤としてスラオフ(登録商標)717Aを0.4g添加し、本発明のスチレンスルホン酸共重合体組成物とした。当該組成物について微生物簡易測定(30℃×10日間培養)を行った結果、カビの発生は見られなかった。
【0061】
比較例6
実施例6と同じ条件でスチレンスルホン酸アンモニウムとメタクリル酸n-ブチルの共重合を実施した結果、実施例6と同等の重合転化率で共重合が進行し、同等の分子量を有する共重合が得られた。
上記重合溶液に消泡剤として、シリコーン系化合物を構成成分として含むデフォーマーSN-5061(サンノプコ株式会社製)を0.012g添加し、ロータリーエバポレーターによる溶媒留去を試みた。その結果、発泡は少なく、約30分でスムーズに濃縮できた。イオン交換水を用いて固形分を調整し、固形分20.3重量%のポリマー水溶液514gを取得した(重合処方と結果の詳細は表3参照)。回収率は93%だった。
上記ポリマー水溶液に抗菌剤としてスラオフ(登録商標)717Aを0.011g添加し、本発明のスチレンスルホン酸共重合体組成物とした。当該組成物について微生物簡易測定(30℃×10日間培養)を行った結果、カビの発生が一部見られた。抗菌剤の添加量が少なかったためである。
【0062】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のスチレンスルホン酸共重合体組成物は、全てのモノマーが水性溶媒中に溶解した均一モノマー溶液を用いて製造され、ポリマー組成の均一性が高く、且つ保存安定性に優れた水溶液であるため、各種洗浄剤、水処理膜、ポリイオンコンプレックス、顔料分散剤、毛髪化粧料、化学機械研磨(CMP)剤、抗ウイルス剤、導電性ポリマーの改質など幅広い産業分野で極めて有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6