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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110394
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】減速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20240807BHJP
【FI】
F16H1/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023212235
(22)【出願日】2023-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2023014530
(32)【優先日】2023-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 隆
(72)【発明者】
【氏名】小川 将弘
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 優輝
(72)【発明者】
【氏名】榊原 拓実
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA37
3J027GC02
3J027GE01
3J027GE05
3J027GE14
3J027GE26
3J027GE29
(57)【要約】
【課題】偏心揺動する外歯歯車及び外歯歯車に隣接する構成要素の摩耗を抑制する。
【解決手段】減速機は、キャリアと、キャリアに回転可能に支持された軸部材と、軸部材に支持されて軸部材の回転によってキャリアに対して偏心揺動する外歯歯車と、外歯歯車及びキャリアの間に位置する環状のスペーサと、を有し。スペーサは、外歯歯車及びキャリアに接触しながら回転する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアと、
前記キャリアに回転可能に支持された軸部材と、
前記軸部材に支持されて、前記軸部材の回転によって前記キャリアに対して偏心揺動する外歯歯車と、
前記外歯歯車及び前記キャリアの間に位置し、前記外歯歯車及び前記キャリアに接触しながら回転する環状のスペーサと、を備える、減速機。
【請求項2】
偏心揺動する前記外歯歯車の外歯と噛み合う内歯を有するケースを備え、
前記スペーサは、径方向における内側から前記内歯に接触しながら回転する、請求項1に記載の減速機。
【請求項3】
前記スペーサは、環状の領域にて前記外歯歯車と接触する、請求項1又は2に記載の減速機。
【請求項4】
前記外歯歯車に含まれる外歯の歯先は、前記外歯歯車の偏心揺動により、前記スペーサの外周縁を越えて移動する、請求項1又は2に記載の減速機。
【請求項5】
前記外歯歯車に含まれるすべての外歯の歯先は、前記スペーサの内周縁よりも径方向における外側に位置する、請求項1又は2に記載の減速機。
【請求項6】
前記外歯歯車に含まれるすべての外歯の歯底は、前記スペーサの内周縁よりも径方向における外側に位置する、請求項1又は2に記載の減速機。
【請求項7】
前記外歯歯車に含まれる外歯の歯底は、前記外歯歯車の偏心揺動により、前記スペーサの内周縁を越えて移動する、請求項1又は2に記載の減速機。
【請求項8】
前記外歯歯車には、前記キャリアの柱部が通過する柱通過穴が、設けられ、
前記柱通過穴の径方向における最外位置は、前記外歯歯車の偏心揺動により、前記スペーサの内周縁を越えて移動する、請求項1又は2に記載の減速機。
【請求項9】
前記外歯歯車には、前記キャリアの柱部が通過する柱通過穴が、設けられ、
前記スペーサの内周縁は、常に、前記柱通過穴の径方向における最外位置より前記径方向における外側に位置する、請求項1又は2に記載の減速機。
【請求項10】
前記スペーサは、環状の領域にて前記キャリアと接触する、請求項1又は2に記載の減速機。
【請求項11】
偏心揺動する前記外歯歯車の外歯と噛み合う内歯を有し、前記キャリアを回転可能に支持するケースを備え、
前記スペーサの外周縁の中心は、前記キャリア及び前記ケースの相対回転軸線上に位置する、請求項1又は2に記載の減速機。
【請求項12】
偏心揺動する前記外歯歯車の外歯と噛み合う内歯を有し、前記キャリアを回転可能に支持するケースを備え、
前記スペーサは、前記キャリア及び前記ケースの相対回転軸線を中心として回転可能である、請求項1又は2に記載の減速機。
【請求項13】
前記外歯歯車は、第1外歯歯車及び第2外歯歯車を有し、
前記第1外歯歯車及び前記第2外歯歯車の間に位置する中間スペーサを備え、
前記中間スペーサの厚みは、前記環状のスペーサの厚み以上である、請求項1又は2に記載の減速機。
【請求項14】
前記キャリアは、軸方向に配列された第1キャリア部及び第2キャリア部を有し、
前記外歯歯車は、前記軸方向における前記第1キャリア部及び前記第2キャリア部の間に位置する第1外歯歯車及び第2外歯歯車を有し、
前記スペーサは、前記第1キャリア部及び前記第1外歯歯車の間に位置する第1スペーサと、前記第2外歯歯車及び前記第2キャリア部の間に位置する第2スペーサと、を有する、請求項1又は2に記載の減速機。
【請求項15】
前記第1外歯歯車及び前記第2外歯歯車の間に位置し、前記第1外歯歯車及び前記第2外歯歯車に接触しながら回転する環状の中間スペーサを備える、請求項14に記載の減速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に開示されているように、偏心揺動型の減速機が知られている。この減速機は、キャリア、軸部材、外歯歯車、及びケースを主たる構成要素として有する。軸部材は、キャリアに回転可能に保持される。外歯歯車は、軸部材の偏心体上に支持される。軸部材が回転することにより、外歯歯車はキャリアに対して偏心揺動する。ケースは、偏心揺動する外歯歯車の外歯と噛み合う内歯を有する。ケースの内歯の歯数と外歯歯車の外歯の歯数とが相違している。これにより、軸部材を介して外歯歯車を支持するキャリアは、ケースと相対回転する。軸部材に入力した回転が、キャリア及びケースの相対回転として減速して出力される。
【0003】
特許文献1に記載された減速機において、偏心揺動する外歯歯車は、キャリア又は主軸受に接触することにより、軸方向への移動を規制される。したがって、外歯歯車が高速で偏心揺動すると、外歯歯車及びキャリアに摩擦による摩耗が生じ得る。
【0004】
外歯歯車及びキャリアに摩耗が生じると、所望の回転量を高精度に出力することができなくなる。隣接する二つの構成要素の摩耗量は、圧力と相対移動速度の影響を受け得る。圧力又は相対移動速度が大きくなると、摩耗量が大きくなり、更には焼き付き等の損傷が生じ得る。高速回転する減速機において、相対移動速度が大きくなり、外歯歯車を含む構成要素の摩耗がより顕著となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-180278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、偏心揺動型の減速機における、外歯歯車の偏心揺動に起因した構成要素の摩耗抑制を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施の形態は、次の<1>~<16>に関する。
【0008】
<1> キャリアと、
前記キャリアに回転可能に支持された軸部材と、
前記軸部材に支持されて、前記軸部材の回転によって前記キャリアに対して偏心揺動する外歯歯車と、
前記外歯歯車及び前記キャリアの間に位置し、前記外歯歯車及び前記キャリアに接触しながら回転する環状のスペーサと、を備える、減速機。
【0009】
<2> 偏心揺動する前記外歯歯車の外歯と噛み合う内歯を有するケースを備え、
前記スペーサは、径方向における内側から前記内歯に接触しながら回転する、<1>の減速機。
【0010】
<3> 前記スペーサは、環状の領域にて前記外歯歯車と接触する、<1>又は<2>の減速機。
【0011】
<4> 前記外歯歯車に含まれる外歯の歯先は、前記外歯歯車の偏心揺動により、前記スペーサの外周縁を越えて移動する、<1>~<3>のいずれかの減速機。
【0012】
<5> 前記外歯歯車に含まれるすべての外歯の歯先は、前記スペーサの内周縁よりも径方向における外側に位置する、<1>~<4>のいずれかの減速機。
【0013】
<6> 前記外歯歯車に含まれるすべての外歯の歯底は、前記スペーサの内周縁よりも径方向における外側に位置する、<1>~<5>のいずれかの減速機。
【0014】
<7> 前記外歯歯車に含まれる外歯の歯底は、前記外歯歯車の偏心揺動により、前記スペーサの内周縁を越えて移動する、<1>~<6>のいずれかの減速機。
【0015】
<8> 前記外歯歯車には、前記キャリアの柱部が通過する柱通過穴が、設けられ、
前記柱通過穴の径方向における最外位置は、前記外歯歯車の偏心揺動により、前記スペーサの内周縁を越えて移動する、<1>~<7>のいずれかの減速機。
【0016】
<9> 前記外歯歯車には、前記キャリアの柱部が通過する柱通過穴が、設けられ、
前記スペーサの内周縁は、常に、前記柱通過穴の径方向における最外位置より前記径方向における外側に位置する、<1>~<8>のいずれかの減速機。
【0017】
<10> 前記スペーサは、環状の領域にて前記キャリアと接触する、<1>~<9>のいずれかの減速機。
【0018】
<11> 偏心揺動する前記外歯歯車の外歯と噛み合う内歯を有し、前記キャリアを回転可能に支持するケースを備え、
前記スペーサの外周縁の中心は、前記キャリア及び前記ケースの相対回転軸線上に位置する、<1>~<10>のいずれかの減速機。
【0019】
<12> 偏心揺動する前記外歯歯車の外歯と噛み合う内歯を有し、前記キャリアを回転可能に支持するケースを備え、
前記スペーサは、前記キャリア及び前記ケースの相対回転軸線を中心として回転可能である、<1>~<11>のいずれかの減速機。
【0020】
<13> 前記外歯歯車は、第1外歯歯車及び第2外歯歯車を有し、
前記第1外歯歯車及び前記第2外歯歯車の間に位置する中間スペーサを備え、
前記中間スペーサの厚みは、前記環状のスペーサの厚み以上である、<1>~<11>のいずれかの減速機。
【0021】
<14> キャリアと、
前記キャリアに回転可能に支持された軸部材と、
前記軸部材に支持されて、前記軸部材の回転によって前記キャリアに対して偏心揺動する第1外歯歯車及び第2外歯歯車と、
前記第1外歯歯車及び第2外歯歯車の一方と前記キャリアとの間に位置し、前記一方及び前記キャリアに接触しながら回転する環状のスペーサと、
前記第1外歯歯車及び第2外歯歯車の間に位置し、前記環状のスペーサの厚み以上の厚みを有する中間スペーサと、を備える、減速機。
【0022】
<15> 前記キャリアは、軸方向に配列された第1キャリア部及び第2キャリア部を有し、
前記外歯歯車は、前記軸方向における前記第1キャリア部及び前記第2キャリア部の間に位置する第1外歯歯車及び第2外歯歯車を有し、
前記スペーサは、前記第1キャリア部及び前記第1外歯歯車の間に位置する第1スペーサと、前記第2外歯歯車及び前記第2キャリア部の間に位置する第2スペーサと、を有する、<1>~<14>のいずれかの減速機。
【0023】
<16> 前記第1外歯歯車及び前記第2外歯歯車の間に位置し、前記第1外歯歯車及び前記第2外歯歯車に接触しながら回転する環状の中間スペーサを備える、<15>の減速機。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、偏心揺動型の減速機において、外歯歯車の偏心揺動に起因した摩耗を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、一実施の形態を説明するための図であって、減速機を示す縦断面図である。
図2図2は、図1のII-II線に沿った断面図である。
図3図3は、図1に示された減速機に含まれ得るスペーサ及び外歯歯車を示す平面図である。
図4図4は、図3に示されたスペーサ及び外歯歯車を、図3とは異なる相対位置にて示す平面図である。
図5図5は、図4に対応する図であって、スペーサ及び外歯歯車の一変形例を示す図である。
図6図6は、図2に対応する図であって、スペーサ及び外歯歯車の他の変形例を示す図である。
図7図7は、図1の部分拡大図である。
図8図8は、図7と同様の断面図であって、スペーサ及び外歯歯車の更に他の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。図1図8は、本発明の一実施の形態を説明するための図である。一部の図において示された構成等が、他の図において省略されていることもある。図面間で、縮尺および縦横の寸法比等が異なることもある。
【0027】
まず、図1及び図2を参照して、減速機10の全体的な構成について説明する。減速機10は、モータ等の駆動手段から回転を入力される。減速機10は、入力された回転を減速して出力する。減速機10は、主要な構成として、ケース20、キャリア30、外歯歯車40、及び軸部材50を有する。ケース20は、キャリア30を収容する。ケース20及びキャリア30の間には、主軸受12が設けられている。ケース20及びキャリア30は、回転軸線RAを中心として相対回転可能である。減速機10は、入力された回転を減速して、ケース20及びキャリア30の相対回転として出力する。
【0028】
回転軸線RAと平行な方向を軸方向D1と呼ぶ。後に言及する周方向D3は、図2に示すように、回転軸線RAを中心とする円環に沿った方向である。図1に示すように、径方向D2は、回転軸線RAに直交する方向である。径方向D2における回転軸線RAに近い側を内側と呼び、径方向D2における回転軸線RAから離れる側を外側と呼ぶ。
【0029】
キャリア30は、軸部材50を回転可能に保持する。軸部材50の軸回転軸線SRAは、軸方向D1と平行である。駆動手段は、軸部材50に回転を入力する。軸部材50は、偏心体55を有する。偏心体55は、軸部材50の回転中心から偏心している。外歯歯車40は、軸部材50に貫通されている。外歯歯車40は、偏心体55上に位置している。軸部材50の回転にともなって、外歯歯車40は偏心揺動する。外歯歯車40は、ケース20の内面に設けられた内歯25と噛み合う外歯45を有する。内歯25及び外歯45の歯数は異なる。軸部材50に回転が入力されると、内歯25と外歯45とが噛み合うようにして、外歯歯車40が偏心揺動する。内歯25と外歯45との歯数差により、外歯歯車40及び軸部材50を支持するキャリア30は、ケース20に対して相対回転する。
【0030】
以下、ケース20、キャリア30、外歯歯車40、及び軸部材50について、図示された具体的な構成に基づき、順に詳述する。
【0031】
ケース20は、内歯25を有する。内歯25は、周方向D3に配列されている。周方向D3は、回転軸線RAを中心とする円環に沿った方向である。図示された例において、減速機10は、軸方向D1に配列された二つの外歯歯車40A,40Bを有する。各内歯25は、軸方向D1に延び、二つの外歯歯車40A,40Bの外歯45と噛み合う。
【0032】
図示されたケース20は、略円筒状のケース本体21と、ケース本体21の内面に保持された内歯ピン24と、を有する。図2に示すように、ケース本体21には、周方向D3に配列された複数のピン溝21aが、形成されている。ピン溝21aは、軸方向D1に延び、円柱状の内歯ピン24を収容保持している。各内歯ピン24が、一つの内歯25を構成する。内歯ピン24は、内歯ピン24の中心軸線CA(図1参照)を中心として、ピン溝21a内で回転可能でもよい。
【0033】
キャリア30は、一対の主軸受12を介して、ケース20内に保持されている。キャリア30は、回転軸線RAを中心として、ケース20に対して回転可能である。図示されたキャリア30は、互いに固定されたキャリアプレート31及びキャリアベース32を有する。キャリアプレート31は、板状の第1キャリア部31aを有する。キャリアベース32は、板状の第2キャリア部32aと、第2キャリア部32aから延び出した柱部32bと、を有する。柱部32bは、第2キャリア部32aから第1キャリア部31aに向けて軸方向D1に突出する。第2キャリア部32a及び柱部32bは、一体的に形成されてもよい。複数の柱部32bが、周方向D3に間隔をあけて設けられている。図示された具体例において、三つの柱部32bが設けられている。外歯歯車40は、軸方向D1において、第1キャリア部31a及び第2キャリア部32aの間に位置する。
【0034】
図示されたキャリア30は、中央穴34及び貫通穴35を設けられている。中央穴34及び貫通穴35は、キャリアプレート31及びキャリアベース32をそれぞれ貫通する。中央穴34は、回転軸線RA上に位置する。キャリア30には、複数の貫通穴35が設けられている。複数の貫通穴35は、周方向D3に間隔をあけて、位置している。
【0035】
軸部材50は、キャリア30に回転可能に保持される。図示された軸部材50は、キャリア30の貫通穴35に挿入されている。キャリア30と軸部材50との間には、一対の主軸軸受13が設けられている。主軸軸受13を介して、軸部材50は、キャリア30に対して軸回転軸線SRAを中心として回転可能である。軸回転軸線SRAは、軸方向D1と平行である。図示された減速機10は、複数の貫通穴35にそれぞれ挿入された複数の軸部材50を有する。複数の軸部材50は、周方向D3に間隔をあけて、位置している。図示された具体例において、三つの貫通穴35が設けられている。図示された例において、三つの軸部材50が設けられている。
【0036】
図示された軸部材50は、軸本体部51と、軸本体部51上に位置する一対の偏心体55と、を有する。偏心体55は、円柱状の部分である。偏心体55は、軸本体部51から拡径している。偏心体55は、軸部材50の回転中心である軸回転軸線SRAから偏心している。一対の偏心体55は、第1偏心体55A及び第2偏心体55Bを含む。第1偏心体55A及び第2偏心体55Bは、軸回転軸線SRAから逆側に同一の偏心量だけ偏心している。言い換えると、軸方向D1に直交する断面において、第1偏心体55Aの中心及び第2偏心体55Bの中心は、軸回転軸線SRA上の一点を中心として点対称な位置にある。
【0037】
軸本体部51は、キャリアプレート31の第1キャリア部31aへの挿入部となる第1軸受支持部52aと、キャリアベース32の第2キャリア部32aへの挿入部となる第2軸受支持部52bと、を有する。軸受支持部52a,52bは、それぞれ、主軸軸受13を支持している。一対の偏心体55A,55Bは、軸方向D1において、一対の軸受支持部52a,52bの間に位置する。図示された軸部材50は、軸本体部51に固定された入力歯車59を更に有する。図示された例において、第1軸受支持部52a、第1偏心体55A、第2偏心体55B、第2軸受支持部52b、及び入力歯車59は、軸方向D1における第1側(図1における右側)から第2側(図1における左側)へ向けて、この順で位置している。
【0038】
図示された減速機10は、外歯歯車40として、第1外歯歯車40A及び第2外歯歯車40Bを有する。第1外歯歯車40Aは、複数の軸部材50の第1偏心体55A上に位置している。第2外歯歯車40Bは、複数の軸部材50の第2偏心体55B上に位置している。第1外歯歯車40A及び第2外歯歯車40Bは、軸方向D1において、キャリアプレート31の第1キャリア部31aとキャリアベース32の第2キャリア部32aとの間に位置している。第1外歯歯車40Aは、軸方向D1において、第1キャリア部31aと第2外歯歯車40Bとの間に位置している。第2外歯歯車40Bは、軸方向D1において、第1外歯歯車40Aと第2キャリア部32aとの間に位置している。
【0039】
図示された外歯歯車40は、円板状の中央板部41と、中央板部41の周縁部に配列された外歯45と、を有する。中央板部41には、中央穴42及び柱通過穴43が設けられている。中央穴42は、回転軸線RA上に位置している。中央穴42は、中央穴34と軸方向D1に対面している。図示された例において、複数の柱通過穴43が、周方向D3に間隔をあけて位置している。キャリア30の柱部32bが、柱通過穴43を貫通している。図示された具体例において、三つの柱通過穴43が設けられている。
【0040】
中央板部41には、更に、複数の軸通過穴44が設けられている。図示された具体例において、三つの軸通過穴44が、周方向D3に間隔をあけて位置している。軸通過穴44内には、偏心体55が配置されている。偏心体55と外歯歯車40との間には、軸受15が設けられている。軸部材50の第1偏心体55A上に、第1軸受15Aを介して、第1外歯歯車40Aが支持されている。軸部材50の第2偏心体55B上に、第2軸受15Bを介して、第2外歯歯車40Bが支持されている。
【0041】
各外歯歯車40は、複数の偏心体55上に支持される。複数の軸部材50に含まれる偏心体55は、位相を揃えられている。したがって、複数の軸部材50が回転することにより、外歯歯車40は偏心揺動する。言い換えると、複数の軸部材50が回転することにより、外歯歯車40は、回転軸線RAを中心とする円周経路を並進移動する。第1外歯歯車40A及び第2外歯歯車40Bは、半位相ずらして、動作する。
【0042】
以上の構成を有した減速機10に、モータ等の駆動手段から回転が入力される。例えば、駆動手段の出力歯車が、回転軸線RA上に配置され、複数の軸部材50の入力歯車59と噛み合う。出力歯車が回転すると、軸部材50が回転して、外歯歯車40が偏心揺動する。このとき、外歯歯車40の外歯45はケース20の内歯25と噛み合う。外歯45と内歯25との歯数差に起因して、軸部材50を介して外歯歯車40を支持するキャリア30と、ケース20とが、回転軸線RAを中心として相対回転する。ケース20が固定されている場合には、キャリア30の回転が出力される。キャリア30が固定されている場合には、ケース20の回転が出力される。
【0043】
減速機10の動作中、外歯歯車40は、キャリア30の第1キャリア部31a及び第2キャリア部32aの間で偏心揺動する。外歯歯車40は、キャリア30又は主軸受12に接触することにより、軸方向D1への移動を規制され、偏心体55上に維持される。外歯歯車40の偏心揺動の周期は、軸部材50の回転周期と同一である。したがって、外歯歯車40は高速で偏心揺動する。
【0044】
従来の偏心揺動型の減速機では、偏心揺動による外歯歯車のキャリアに対する相対移動により、外歯歯車及びキャリアの間で摩擦が生じ得る。摩擦によって、外歯歯車及びキャリアは摩耗し得る。外歯歯車及びキャリアの摩耗が進むと、減速機を構成する構成要素間の遊びや隙間が大きくなり、減速機から所望の回転量を高精度に出力することが難しくなる。隣接する二つの構成要素の摩耗量は、圧力と相対移動速度の影響を受けることが知られている。圧力又は相対移動速度が大きくなると、摩耗量が大きくなり、更には焼き付き等の損傷が生じ得る。高速回転する減速機において、相対移動速度が大きくなり、外歯歯車を含む構成要素の摩耗がより顕著となる。摩耗を低減するには、相対移動速度を小さくすることが有効である。摩耗を低減するには、圧力を小さくすることも有効である。
【0045】
このような不具合に対し、本実施の形態による減速機は、外歯歯車40及びキャリア30の間に位置する環状スペーサ60を有する。スペーサ60は、外歯歯車40及びキャリア30に接触しながら回転することができる。このスペーサ60によれば、外歯歯車40、キャリア30の摩耗、更には、スペーサ60の摩耗を効果的に抑制することができる。以下、一具体例およびその変形例に基づき、スペーサ60について説明する。異なる構成例の間で、対応する構成要素、部材、部位等については同一の符号を付すとともに、重複する説明を省略する。
【0046】
なお、以下に説明するスペーサ60は、図1及び図2の具体例を参照しながら説明した上述の減速機10に適用可能である。その一方で、スペーサ60の適用対象は、図1及び図2に示された具体例に限られない。
【0047】
図1図6は、スペーサ60を含む減速機10の一具体例及びその変形例を示す図である。減速機10は、キャリア30と、キャリア30に回転可能に支持された軸部材50と、軸部材50に支持されて、軸部材50の回転によってキャリア30に対して偏心揺動する外歯歯車40と、を有する。図示された減速機10は、外歯歯車40の外歯45と噛み合う内歯25を有するケース20を有する。ケース20は、キャリア30を回転可能に支持する。図示された減速機10において、スペーサ60は、第1スペーサ60A及び第2スペーサ60Bを含む。第1スペーサ60Aは、軸方向D1における第1キャリア部31a及び第1外歯歯車40Aの間に位置する。第1スペーサ60Aは、第1キャリア部31a及び第1外歯歯車40Aに接触しながら回転可能である。第2スペーサ60Bは、軸方向D1における第2キャリア部32a及び第2外歯歯車40Bの間に位置する。第2スペーサ60Bは、第2キャリア部32a及び第2外歯歯車40Bに接触しながら回転可能である。
【0048】
隣接する二つの構成要素の摩耗量は、圧力又は相対移動速度の影響を受けることが知られている。スペーサ60を設けることによって、スペーサ60が存在しなかった場合におけるキャリア30及び外歯歯車40の相対動作を、外歯歯車40及びスペーサ60の相対動作と、スペーサ60及びキャリア30の相対動作と、に分配することができる。スペーサ60が回転することにより、キャリア30及びスペーサ60の相対移動速度および外歯歯車40及びスペーサ60の相対移動速度を、スペーサ60を設けなかった場合におけるキャリア30及び外歯歯車40の相対移動速度より、低減することができる。スペーサ60が環状であることから、キャリア30及びスペーサ60の接触面積を確保できる。スペーサ60が環状であることから、キャリア30及びスペーサ60の相対移動を滑らかにできる。これらにより、隣接する二つの構成要素間の圧力を低減することができる。
【0049】
以上のように、スペーサ60を設けることによって、相対移動速度および圧力を低減することができる。結果として、スペーサ60を設けることによって、キャリア30や外歯歯車40等の減速機10の構成要素の摩耗を効果的に抑制することができる。摩耗を抑制することにより、長期間に亘って、減速機10から所望の回転量を高精度に出力することができる。減速機10の寿命を伸ばすことができるともに、減速機10の信頼性を向上することができる。
【0050】
図示された具体例においては、スペーサ60は、第1スペーサ60A及び第2スペーサ60Bを含む。軸方向D1における第1キャリア部31a及び第1外歯歯車40Aの間に位置する第1スペーサ60Aが、第1キャリア部31a及び第1外歯歯車40Aに接触しながら回転する。これにより、第1スペーサ60Aが設けられていない場合における第1キャリア部31a及び第1外歯歯車40Aの摩耗量の合計より、第1スペーサ60Aが設けられている場合における第1キャリア部31a、第1外歯歯車40A及び第1スペーサ60Aの摩耗量の合計を小さくすることが可能となる。軸方向D1における第2キャリア部32a及び第2外歯歯車40Bの間に位置する第2スペーサ60Bが、第2キャリア部32a及び第2外歯歯車40Bに接触しながら回転する。これにより、第2スペーサ60Bが設けられていない場合における第2キャリア部32a及び第2外歯歯車40Bの摩耗量の合計より、第2スペーサ60Bが設けられている場合における第2キャリア部32a、第2外歯歯車40B及び第2スペーサ60Bの摩耗量の合計を小さくすることが可能となる。このようにして、第1キャリア部31a、第1スペーサ60A、第1外歯歯車40A、第2外歯歯車40B、第2スペーサ60B、及び第2キャリア部32aの摩耗を抑制することができる。
【0051】
図1に示された減速機10は、第1外歯歯車40A及び第2外歯歯車40Bの間に位置する環状の中間スペーサ60Cを有する。中間スペーサ60Cは、第1外歯歯車40A及び第2外歯歯車40Bの接触しながら回転することができる。中間スペーサ60Cは、第1スペーサ60A及び第2スペーサ60Bと同様に機能することができる。すなわち、中間スペーサ60Cが設けられていない場合における第1外歯歯車40A及び第2外歯歯車40Bの摩耗量の合計より、中間スペーサ60Cが設けられている場合における第1外歯歯車40A、中間スペーサ60C及び第2外歯歯車40Bの摩耗量の合計を小さくすることが可能となる。このようにして、第1外歯歯車40A、中間スペーサ60C及び第2外歯歯車40Bの摩耗を抑制することができる。
【0052】
なお、第1スペーサ60A、第2スペーサ60B、及び中間スペーサ60Cを区別することなく、「スペーサ60」と表現する場合、「スペーサ60」に関する記載は、第1スペーサ60A、第2スペーサ60B、中間スペーサ60Cのいずれにも適用可能である。同様に、「外歯歯車40」に関する記載は、第1外歯歯車40A及び第2外歯歯車40Bのいずれにも適用可能である。「偏心体55」に関する記載は、第1偏心体55A及び第2偏心体55Bのいずれにも適用可能である。「軸受15」に関する記載は、第1軸受15A及び第2軸受15Bのいずれにも適用可能である。
【0053】
図2によく示されているように、スペーサ60は、径方向における内側から内歯25に接触しながら回転することができる。スペーサ60は、ケース20の内歯25と接触することにより、径方向D2における外側への移動を規制される。内歯25上でのスペーサ60の回転は円滑となる。内歯25を構成する内歯ピン24がピン溝21a内で回転可能である場合、スペーサ60は、内歯25上でより円滑に回転することができる。スペーサ60が円滑に回転可能であることにより、スペーサ60とスペーサ60に隣接する構成要素との間の相対移動速度および圧力をより効果的に低減することができる。これにより、キャリア30、外歯歯車40、及びスペーサ60等の減速機10の構成要素の摩耗をより効果的に抑制することができる。
【0054】
スペーサ60は、内周縁66及び外周縁67を有する。外周縁67の中心は、回転軸線RA上に位置してもよい。ここで、「中心」とは、軸方向D1からの観察において、言い換えると軸方向D1に直交する面への投影において、対象となる部分の輪郭によって取り囲まれる形状の重心を意味する。すなわち、外周縁67の中心とは、外周縁67によって取り囲まれる形状の重心を意味する。一例として軸方向D1からの観察において外周縁67が円形状である場合、外周縁67の中心は、当該円の中心に一致する。この構成によれば、スペーサ60により均一に圧力が加えられるようになる。これにより、スペーサ60と、スペーサ60に隣接する構成要素と、の間の相対移動速度および圧力をより効果的に低減することができる。結果として、スペーサ60と、スペーサ60に隣接する構成要素と、の摩耗をより効果的に抑制することができる。
【0055】
スペーサ60は、回転軸線RAを中心として回転可能でもよい。この構成によれば、外歯歯車40の偏心揺動にともなってスペーサ60が回転し易くなる。これにより、スペーサ60と、スペーサ60に隣接する構成要素と、の間の相対移動速度および圧力をより効果的に低減することができる。結果として、スペーサ60と、スペーサ60に隣接する構成要素と、の摩耗をより効果的に抑制することができる。
【0056】
図示された例において、スペーサ60は円環状である。スペーサ60は、板状であって、隣接する構成要素に面接触可能な第1面61及び第2面62を有する。図2に示すように、内周縁66は円環状である。外周縁67は円環状である。内周縁66の中心と、外周縁67の中心は一致してもよい。すなわち、内周縁66及び外周縁67は同心でもよい。外周縁67は、ケース20の内歯25に内接してもよい。すなわち、外周縁67は、ケース20の内歯25に内接する円と同径でもよい。或いは、外周縁67は、ケース20の内歯25に内接する円の直径より、僅かに小さい直径を有してもよい。このような例によれば、スペーサ60の外周縁67の中心は、回転軸線RA上に位置し得る。スペーサ60は、回転軸線RAを中心として回転し得る。結果として、スペーサ60と、スペーサ60に隣接する構成要素と、の摩耗をより効果的に抑制することができる。
【0057】
図2に示すように、環状のスペーサ60が、偏心揺動する外歯歯車40と環状の領域にて接触してもよい。この例によれば、スペーサ60と外歯歯車40との接触面積を大きく確保することができる。また、軸方向D1に直交した姿勢にスペーサ60を安定して保持することができる。これらにより、スペーサ60と、スペーサ60に隣接する構成要素と、の間の相対移動速度および圧力をより効果的に低減することができる。結果として、スペーサ60と、スペーサ60に隣接する構成要素と、の摩耗をより効果的に抑制することができる。
【0058】
図2に示すように、外歯歯車40は、回転軸線RAから偏心している。言い換えると、任意のタイミングにおいて、軸方向D1からの観察において、回転軸線RAから外歯歯車40の各外歯45の歯先46又は歯底47までの距離は、一定ではない。回転軸線RAから外歯歯車40の各外歯45の歯先46又は歯底47までの距離は、変化する。これに対し、図示されたスペーサ60の中心C60は、回転軸線RA上に位置する円環状である。この例において、任意の状態において、環状のスペーサ60が、偏心揺動する外歯歯車40と環状の領域にて接触することができる。つまり、環状のスペーサ60が、偏心揺動する外歯歯車40と常に環状の領域にて接触してもよい。
【0059】
なお、歯先46とは、中央板部41から径方向における外側に最も離れた部分を意味する。一般的に、歯先46は、当該外歯45の周方向における中心となる位置に現れる。歯底47とは、中央板部41に径方向に最も接近する部分を意味する。歯底47は、周方向に隣り合う他の外歯に最も接近する部分である。
【0060】
第1スペーサ60A及び第2スペーサ60Bは、環状の領域にてキャリア30と接触してもよい。この構成によれば、第1スペーサ60A及び第2スペーサ60Bとキャリア30との接触面積を大きく確保することができる。また、軸方向D1に直交した姿勢に第1スペーサ60A及び第2スペーサ60Bを安定して保持することができる。これらにより、第1スペーサ60A及び第2スペーサ60Bとキャリア30との間の圧力を低減して、第1スペーサ60A、第2スペーサ60B、及びキャリア30の摩耗をより効果的に抑制することができる。
【0061】
図示された例のように、第1スペーサ60A及び第2スペーサ60Bが、回転軸線RAを中心として、キャリア30に対して回転する場合、円環状の第1スペーサ60A及び円環状の第2スペーサ60Bは、キャリア30の一定の領域に接触することができる。すなわち、任意のタイミングにおいて、第1スペーサ60A及び第2スペーサ60Bは、環状の領域にてキャリア30と接触することができる。
【0062】
外歯歯車40は偏心揺動する。したがって、外歯歯車40の各外歯45は、スペーサ60に対する相対位置を変化させる。図3図5は、スペーサ60と外歯歯車40との径方向D2における位置関係を説明するための図である。図3図5は、軸方向D1から観察したスペーサ60及び外歯歯車40を示している。図3は、外歯歯車40の偏心揺動により径方向D2における最も外側に移動した外歯45Xを、スペーサ60とともに、示している。図4及び図5は、外歯歯車40の偏心揺動により径方向D2における最も内側に移動した外歯45Yを、スペーサ60とともに、示している。図3図5に示す例において、スペーサ60は、円環状である。スペーサ60の中心C60は、内周縁66の中心及び外周縁67の中心に一致する。スペーサ60の中心C60は、回転軸線RA上に位置する。図3図5には、外歯歯車40の中心C40も示している。外歯歯車40の中心C40は、円板状である中央板部41の重心に一致する。
【0063】
図3に示された例において、径方向D2における最も外側に移動した外歯45Xの歯先46は、スペーサ60の外周縁67よりも径方向D2における外側に位置している。図4に示された例において、径方向D2における最も内側に移動した外歯45Yの歯先46は、スペーサ60の外周縁67よりも径方向D2における内側に位置している。この例では、外歯歯車40に含まれる外歯45の歯先46は、外歯歯車40の偏心揺動により、スペーサ60の外周縁67を越えて移動することができる。この例において、図2に示すように、一部の外歯45の歯先46は、スペーサ60の外周縁67よりも径方向D2における外側に位置し、且つ、残りの外歯45の歯先46は、スペーサ60の外周縁67よりも径方向D2における内側に位置する。
【0064】
外歯歯車40に含まれる外歯45の歯先46が、外歯歯車40の偏心揺動にともなって、スペーサ60の外周縁67を跨いで移動することにより、次の作用効果を期待することができる。
【0065】
まず、図4に示すように、外歯45の歯先46が外周縁67よりも径方向D2における内側に移動した際、スペーサ60の外歯歯車40に対面する面61,62(図4の例では、第2面62)は、少なくとも部分的に外歯歯車40に覆われず露出する。これにより、スペーサ60の外歯歯車40に対面する面61,62(図4の例では、第2面62)への潤滑油供給が促進され、スペーサ60及び外歯歯車40の摩耗を効果的に抑制することができる。
【0066】
また、スペーサ60が、外歯45の歯先46によって構成される外歯歯車40の外周縁と接触して擦られることにより、スペーサ60の外歯歯車40に対する相対回転が促進される。また、外歯歯車40の周方向D3への移動速度は、径方向D2における最も外側に位置する外周縁において最も速くなり、外歯歯車40の周方向D3への周長は、径方向D2における最も外側に位置する外周縁において最も長くなる。したがって、スペーサ60を設置することにより、外歯歯車40とキャリア30との高速の相対移動速度を分配することができる。また、外歯歯車40及びキャリア30とスペーサ60との接触面積を大きく確保して圧力を低減することができる。これらにより、圧力及び相対移動速度を低減することができる。
【0067】
以上の結果として、スペーサ60と、スペーサ60に隣接する外歯歯車40と、の間の相対移動速度および圧力を低減して、スペーサ60及び外歯歯車40の摩耗をより効果的に抑制することができる。
【0068】
また、図4及び図2に示すように、外歯歯車40に含まれるすべての外歯45の歯先46は、スペーサ60の内周縁66よりも径方向D2における外側に位置してもよい。この例によれば、スペーサ60と外歯歯車40との接触面積を大きく確保することができる。また、軸方向D1に直交した姿勢にスペーサ60をより安定して保持することができる。これらにより、スペーサ60と、スペーサ60に隣接する構成要素と、の間の相対移動速度および圧力をより効果的に低減することができる。これにより、スペーサ60と、スペーサ60に隣接する構成要素と、の摩耗をより効果的に抑制することができる。
【0069】
更に、図4に示すように、径方向D2における最も内側に移動した外歯45Yの歯底47は、スペーサ60の内周縁66よりも径方向D2における外側に位置してもよい。この例によれば、スペーサ60と外歯歯車40とが環状の領域で接触することができ、スペーサ60と外歯歯車40との接触面積を安定して大きく確保することができる。また、軸方向D1に直交した姿勢にスペーサ60をより安定して保持することができる。これらにより、スペーサ60と、スペーサ60に隣接する構成要素と、の間の圧力をより効果的に低減することができる。結果として、スペーサ60と、スペーサ60に隣接する構成要素と、の摩耗をより効果的に抑制することができる。
【0070】
図4に示された例とは異なり、図5に示すように、径方向D2における最も内側に移動した外歯45Yの歯底47は、スペーサ60の内周縁66よりも径方向D2における内側に位置してもよい。図3に示された例において、径方向D2における最も外側に移動した外歯45Yの歯底47は、スペーサ60の内周縁66よりも径方向D2における外側に位置している。図3及び図5に示された例において、外歯歯車40に含まれる外歯45の歯底47は、外歯歯車40の偏心揺動により、スペーサ60の内周縁66を越えて移動することができる。この例において、一部の外歯45の歯底47は、スペーサ60の内周縁66よりも径方向D2における内側に位置し、且つ、残りの外歯45の歯底47は、スペーサ60の内周縁66よりも径方向D2における外側に位置する。
【0071】
外歯歯車40に含まれる外歯45の歯底47が、外歯歯車40の偏心揺動にともなって、スペーサ60の内周縁66を跨いで移動することにより、次の作用効果を期待することができる。
【0072】
まず、外歯45の歯底47が内周縁66よりも径方向D2における内側に移動した際、スペーサ60の外歯歯車40に対面する面61,62(図5の例では、第2面62)は、少なくとも部分的に径方向D2に沿った全幅に亘って、外歯歯車40に覆われず露出する。これにより、スペーサ60の外歯歯車40に対面する面61,62(図5の例では、第2面62)への潤滑油供給が促進され、スペーサ60及び外歯歯車40の摩耗を効果的に抑制することができる。
【0073】
以上の結果として、スペーサ60と、スペーサ60に隣接する外歯歯車40と、の間の相対移動速度および圧力を低減して、スペーサ60、外歯歯車40及びキャリア30の摩耗をより効果的に抑制することができる。
【0074】
上述したように、外歯歯車40には、キャリア30の柱部32bが通過する柱通過穴43が、設けられている。図2に示された例において、柱通過穴43は、スペーサ60の内周縁66よりも径方向D2における内側に位置している。この例によれば、スペーサ60と外歯歯車40との接触面積を大きく確保することができる。したがって、スペーサ60と、スペーサ60に隣接する外歯歯車40と、の間の相対移動速度および圧力を低減して、スペーサ60及び外歯歯車40の摩耗をより効果的に抑制することができる。
【0075】
図2に示された例において、スペーサ60の内周縁66は、常に、柱通過穴43の径方向D2における最外位置より径方向D2における外側に位置していた。この例によれば、スペーサ60と柱部32bとの接触を安定して回避することができる。しかしながら、図2に示された例とは異なり、図6に示すように、柱通過穴43の径方向D2における最外位置は、外歯歯車40の偏心揺動により、スペーサ60の内周縁66を越えて移動してもよい。この例によれば、スペーサ60の外歯歯車40に対面する面61,62(図6の例では、第2面62)は、外歯歯車40の偏心揺動にともなって、柱通過穴43内に露出する。これにより、スペーサ60の外歯歯車40に対面する面61,62(図6の例では、第2面62)への潤滑油供給が促進され、スペーサ60及び外歯歯車40の摩耗を効果的に抑制することができる。
【0076】
外歯歯車40の柱通過穴43内をキャリア30の柱部32bが通過している。図6に示された例において、柱部32bは、スペーサ60の内周縁66よりも径方向D2における内側に位置している。これにより、柱部32bとスペーサ60との接触を回避することができる。図示された例において、スペーサ60は、ケース20の内歯25に接触することにより径方向D2への移動を規制され、回転軸線RAを中心として配置されている。したがって、柱部32bを有するキャリア30及びスペーサ60は、径方向D2へ実質的に相対移動しない。したがって、柱部32bとスペーサ60との接触を安定して回避することができる。
【0077】
図1に示された減速機10において、外歯歯車40は、第1外歯歯車40A及び第2外歯歯車40Bを含む。第1外歯歯車40A及び第2外歯歯車40Bは、軸方向D1に配置されている。減速機10は、キャリア30と外歯歯車40との間に位置する環状のスペーサ60A,60Bと、第1外歯歯車40A及び第2外歯歯車40Bに位置する中間スペーサ60Cと、を含む。
【0078】
スペーサ60は、キャリア30に対して径方向D2に大きく相対移動しない。外歯歯車40は、キャリア30及びスペーサ60に対して軸方向D1に相対移動する。このため、図7及び図8に示すように、キャリア30とスペーサ60A,60Bとの接触面積は比較的大きくすることが可能である。キャリア30とスペーサ60との接触面積は比較的小さくなる。図7及び図8に示すように、第1外歯歯車40A及び第2外歯歯車40Bの偏心揺動の位相が大きくずれる領域(典型的には、位相が180度ずれる領域)において、キャリア30とスペーサ60との接触面積は最も小さくなる。
【0079】
このとき、図7及び図8に示すように、スペーサ60A,60Bは、軸方向D1における一方の側からキャリア30と比較的に大きな面積で接触することができる。スペーサ60A,60Bは、軸方向D1における一方の側からキャリア30によって安定して支持され得る。したがって、スペーサ60A,60Bは、外歯歯車40からのスラスト力(軸方向D1への力)を局所的な領域に加えられた状態においても、姿勢を安定して維持することができる。
【0080】
一方、図7及び図8に示すように、中間スペーサ60Cと第1外歯歯車40Aとが接触する領域と、中間スペーサ60Cと第2外歯歯車40Bとが接触する領域は、径方向D2にずれることもある。しかも、中間スペーサ60Cと外歯歯車40A,40Bとの接触面積はそもそも小さい。これらにより、中間スペーサ60Cは、外歯歯車40からのスラスト力によって、第1スペーサ60A及び第2スペーサ60Bよりも変形し易い。特に、第1外歯歯車40A及び第2外歯歯車40Bの偏心揺動の位相が大きくずれる領域において、中間スペーサ60Cは、局所的に変形し得る。
【0081】
中間スペーサ60Cの変形を抑制する観点において、中間スペーサ60Cの厚みTCを大きくすることが有効である。図7及び図8に示すように、中間スペーサ60Cの厚みTCを第1スペーサ60Aの厚みTA以上とし、かつ中間スペーサ60Cの厚みTCを第2スペーサ60Bの厚みTB以上としてもよい。図8に示すように、中間スペーサ60Cの厚みTCを第1スペーサ60Aの厚みTAより大きくし、かつ中間スペーサ60Cの厚みTCを第2スペーサ60Bの厚みTBより大きくしてもよい。スペーサ60の厚みとは、当該スペーサ60の軸方向D1に沿った長さである。
【0082】
上述したように中間スペーサ60Cの厚みTCを大きくすることによって、中間スペーサ60Cの変形を抑制することができる。これにより、中間スペーサ60Cと外歯歯車40とが面で接触した状態を維持することができ、中間スペーサ60Cと外歯歯車40との接触面積を確保することができる。また、軸方向D1に直交する面上に中間スペーサ60Cが広がるように、中間スペーサ60Cの姿勢をより安定して維持することができる。これらにより、中間スペーサ60Cの摩耗を抑制することができる。
【0083】
さらに、中間スペーサ60Cの厚みTCを大きくすることによって、次の作用効果も享受することができる。中間スペーサ60Cの厚みTCを大きくすることによって、上述したように、中間スペーサ60Cの変形を抑制することができる。中間スペーサ60Cの変形が抑制されることによって、中間スペーサ60Cと外歯歯車40との局所的な接触等に起因した異音の発生を抑制することができる。
【0084】
以上に説明してきた一実施の形態において、減速機10は、キャリア30と、キャリア30に回転可能に支持された軸部材50と、軸部材50に支持されて軸部材50の回転によってキャリア30に対して偏心揺動する外歯歯車40と、外歯歯車40及びキャリア30の間に位置する環状スペーサ60と、を有する。スペーサ60は、外歯歯車40及びキャリア30に接触しながら回転する。このスペーサ60によれば、キャリア30及び外歯歯車40の相対動作を、外歯歯車40及びキャリア30の相対動作と、キャリア30及びスペーサ60の相対動作と、に分配することができる。これにより、隣り合う二つの構成要素間の相対移動速度を低減することができ、キャリア30や外歯歯車40等の減速機10の構成要素の摩耗を効果的に抑制することができる。
【0085】
一具体例およびその変形例を参酌して一実施の形態を説明してきたが、上述の例が一実施の形態を限定することを意図していない。上述した一実施の形態は、その他の様々な具体例で実施されることが可能であり、その要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、追加を行うことができる。
【0086】
例えば、スペーサ60の適用対象が、複数の軸部材50を有する減速機である例を示したが、この例に限られない。スペーサ60の適用対象が、回転軸線RA上に位置する一つの軸部材50のみを有する減速機としてもよい。
【0087】
本明細書で開示した実施形態のうち、複数の物体で構成されているものは、当該複数の物体を一体化してもよく、逆に一つの物体で構成されているものを複数の物体に分けることができる。一体化されているか否かにかかわらず、発明の目的を達成できるように構成されていればよい。
【符号の説明】
【0088】
10:減速機
15:軸受
20:ケース
30:キャリア
31a:第1キャリア部
32a:第2キャリア部
40,40A,40B,40C:外歯歯車
50:軸部材
55:偏心体
60:スペーサ60
61,62:面
66:内周縁
67:外周縁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8