(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110408
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】検査カートリッジ
(51)【国際特許分類】
G01N 35/10 20060101AFI20240807BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20240807BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20240807BHJP
G01N 33/483 20060101ALN20240807BHJP
【FI】
G01N35/10 A
G01N37/00 101
G01N33/543 595
G01N33/483 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024013095
(22)【出願日】2024-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2023014726
(32)【優先日】2023-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】山根 知
(72)【発明者】
【氏名】桃崎 哲
(72)【発明者】
【氏名】東野 一郎
【テーマコード(参考)】
2G045
2G058
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045FA14
2G058AA09
2G058DA07
2G058EA14
2G058EA16
2G058EA19
(57)【要約】
【課題】効率的な検査を実施できることである。
【解決手段】本実施形態に係る検査カートリッジは、筐体と、第1流路と、第2流路と、貯留部とを含む。筐体は、検査溶液を滴下するための滴下口を有する。第1流路は、表面に前記検査溶液と結合する物質を有する親液性の第1検出面を含む。第2流路は、前記第1流路と並列し、表面に前記検査溶液と結合する物質を有する親液性の第2検出面を有する。貯留部は、前記滴下口の下方に形成され、前記第1流路と前記第2流路とに接続され、疎液性を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査溶液を滴下するための滴下口を有する筐体と、
表面に前記検査溶液と結合する物質を有する親液性の第1検出面を含む第1流路と、
前記第1流路と並列し、表面に前記検査溶液と結合する物質を有する親液性の第2検出面を有する第2流路と、
前記滴下口の下方に形成され、前記第1流路と前記第2流路とに接続された疎液性の貯留部と、
を具備する検査カートリッジ。
【請求項2】
前記第1流路および前記第2流路は、前記滴下口に対して対称に配置される、請求項1に記載の検査カートリッジ。
【請求項3】
前記貯留部は、前記第1流路および前記第2流路の端部側に接続され、
前記第1流路および前記第2流路と前記貯留部とは、前記第1流路および前記第2流路のそれぞれへ送液される前記検査溶液の量が略同量となるように形成される、請求項1に記載の検査カートリッジ。
【請求項4】
前記貯留部は、前記第1流路および前記第2流路の間かつ端部側に配置される、請求項1に記載の検査カートリッジ。
【請求項5】
前記第1流路と前記第2流路との間に配置される疎液性の隔離壁をさらに具備する、請求項1に記載の検査カートリッジ。
【請求項6】
前記第1流路と前記第2流路との間に形成され、上方に空隙を有する非検出領域をさらに具備する、請求項1に記載の検査カートリッジ。
【請求項7】
前記非検出領域は、疎液性を有する、請求項6に記載の検査カートリッジ。
【請求項8】
前記筐体は、前記第1流路、前記第2流路および前記非検出領域のそれぞれに対応する空気口を有する、請求項6に記載の検査カートリッジ。
【請求項9】
前記非検出領域から上方の前記筐体の壁面までの空隙の高さは、前記第1検出面から上方の前記筐体の壁面まで、および前記第2検出面から上方の前記筐体の壁面までのそれぞれの空隙の高さよりも低い、請求項6に記載の検査カートリッジ。
【請求項10】
前記第1検出面から上方の前記筐体の壁面まで、および前記第2検出面から上方の前記筐体の壁面までのそれぞれの空隙の高さは、略700マイクロメートルから略1400マイクロメートルであり、
前記非検出領域から上方の前記筐体の壁面までの空隙の高さは、略100マイクロメートルから略200マイクロメートルである、請求項6に記載の検査カートリッジ。
【請求項11】
前記第1検出面および前記第2検出面に対向する前記筐体の壁面の少なくとも一部に、前記検査溶液に含まれる検出対象物質と結合する物質を含む試薬が乾燥され固定される、請求項1に記載の検査カートリッジ。
【請求項12】
検査溶液を滴下するための滴下口と1以上の空気口とを有する筐体と、
前記筐体内部に位置し、表面に前記検査溶液と結合する物質を有する第1検出面と、
前記筐体内部に位置し、かつ前記第1検出面と並列し、表面に前記検査溶液と結合する物質を有する第2検出面と、
前記第1検出面と前記第2検出面との間に形成される非検出面と、を具備し、
前記第1検出面、前記第2検出面および前記非検出面の上方に空隙を有する、検査カートリッジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、検査カートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
感染症検査や血液検査などでは、粘膜上皮や血液などの検体採取が必要であり、侵襲的な医療行為のため必要最低限の実施が望まれる。また、新生児が対象の検査では、微量の検体しか採取できないケースが多く、微量検体による検査が求められる。このように、侵襲的な検体採取が必要な検査項目や微量な検体しか得られない検査項目では、微量なサンプルで検査を実施する必要があるが、微量なサンプルを用いた検査では、液体の表面張力により微量サンプルを反応検出領域に送液しづらい。
【0003】
そのため、反応検出領域の直上または近傍に大きな開口部を設けることで微量なサンプルを表面張力の影響を受けることなく送液する解決策も考えられる。しかし、検体の検出方法として光学的な検出方法を用いる場合、開口部から反応槽に入射する外光の影響を受けやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-133836号公報
【特許文献2】特許5424610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書および図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、効率的な検査を実施できることである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態に係る検査カートリッジは、筐体と、第1流路と、第2流路と、貯留部とを含む。筐体は、検査溶液を滴下するための滴下口を有する。第1流路は、表面に前記検査溶液と結合する物質を有する親液性の第1検出面を含む。第2流路は、前記第1流路と並列し、表面に前記検査溶液と結合する物質を有する親液性の第2検出面を有する。貯留部は、前記滴下口の下方に形成され、前記第1流路と前記第2流路とに接続され、疎液性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る検査システムを示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る検査システムによる検体検査の一例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る出射光の光強度の時系列変化の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係るセンサチップの設計例を示す図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る検査カートリッジの構成例を示す図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係る検査カートリッジの構成例を示す断面図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態に係る検査カートリッジの構成例を示す断面図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態に係る検査カートリッジの構成例を示す断面図である。
【
図9】
図9は、第1実施形態に係る検査溶液が滴下された場合の検査溶液の挙動を示す概念図である。
【
図10】
図10は、第1実施形態に係る貯留部の変形例を示す図である。
【
図11】
図11は、第1実施形態に係る3つの流路が存在する場合の検査カートリッジの構成例を示す図である。
【
図12】
図12は、第1実施形態に係る3つの流路が存在する場合の貯留部の変形例を示す図である。
【
図13】
図13は、第1実施形態に係る検査カートリッジの第1変形例を示す図である。
【
図14】
図14は、第1実施形態に係る検査カートリッジの第2変形例を示す図である。
【
図15】
図15は、第1実施形態に係る検査カートリッジの第3変形例を示す図である。
【
図16】
図16は、第2実施形態に係る検査カートリッジの構成例を示す図である。
【
図17】
図17は、第2実施形態に係る検査カートリッジの構成例を示す断面図である。
【
図18】
図18は、第2実施形態に係る検査カートリッジの第1変形例に係る断面図である。
【
図19】
図19は、第2実施形態に係る検査カートリッジの第2変形例に係る断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係る検査カートリッジについて説明する。以下の実施形態では、同一の参照符号を付した部分は同様の動作を行なうものとして、重複する説明を適宜省略する。
【0009】
(第1実施形態)
本実施形態に係る検査システムについて
図1のブロック図を参照して説明する。
検査システムは、検査デバイス1(以下、検査カートリッジ1と呼ぶ)と分析装置3とを含む。分析装置3に対して着脱可能である。
【0010】
ここで、検査カートリッジ1の下部に位置する光導波路(図示せず)の上面には、複数の第1抗体が固定される。第1抗体は、検出対象物質に含まれる抗原と抗原抗体反応により特異的に反応する物質である。
【0011】
また、検査カートリッジ1に滴下される液体は、試料溶液と試薬との混合液(以下、検査溶液と呼ぶ)であることを想定する。試料溶液には、抗原を含む検出対象物質が含まれる。試薬には、試薬成分が含まれる。試薬成分には、例えば抗原と抗原抗体反応により特異的に反応する第2抗体と、第2抗体が固定化された磁性粒子とが含まれる。磁性粒子は、少なくとも一部がマグネタイトなどの磁性体材料で形成される。磁性粒子は、例えば、磁性体材料から形成された粒子の表面が高分子材料で被覆されている。なお、磁性粒子は、高分子材料で構成された粒子の表面を磁性体材料で被覆するように構成されてもよい。また、磁性粒子は、検査溶液において分散可能に構成されたものであればどのようなもので代替してもよい。
【0012】
試薬成分は、検査カートリッジ1の反応槽に満たされた検査溶液中を分散可能に移動する。そのため、磁性粒子は、磁性粒子に掛かる重力が、当該重力と逆向きに掛かる検査溶液中における浮力よりも大きくなるように選ばれる。第2抗体が固定化された磁性粒子は、第2抗体が、抗原を介して第1抗体と結合することで、光導波路の上面近傍に固定される。なお、第2抗体は、第1抗体と同じものであっても、異なるものであってもよい。
【0013】
分析装置3は、検知ユニット31と、磁場発生器32と、出力ユニット33と、入力インタフェース回路34と、記憶回路35と、システム制御回路36とを含む。
【0014】
検知ユニット31は、光源311および光検出器312を有する。
光源311は、LED(Light Emitting Diode)などのダイオードやキセノンランプなどのランプである。光源311は、検査カートリッジ1の入射側のグレーティング(図示せず)に向けて、光導波路内に光を入射可能な位置に配置される。光源311は、入射光L1を、検査カートリッジ1の透明基板を介して光導波路内に入射する。入射光L1は、光導波路内に進入し、入射側のグレーティングにより回折される。入射側のグレーティングにより回折された入射光L1は、光導波路内を全反射しながら伝播し、出射側のグレーティング(図示せず)に到達する。出射側のグレーティングに到達した光は、出射側のグレーティングにより回折され、光導波路から外部へ所定角度を有して出射光L2として出射される。なお、光源311の代わりに、光以外の電磁波などを発生するものを用いてもよい。
【0015】
光検出器312は、検査溶液が収容されている反応槽内の反応状態に基づいた電気信号を出力する。具体的には、光検出器312は、光導波路の外へ出射される出射光L2を検出し、検出された出射光L2の強度を示す電気信号、すなわち光検出強度に関するデジタルデータを生成する。光検出器312により生成された光検出強度に関するデジタルデータはシステム制御回路36に供給される。
【0016】
磁場発生器32は、システム制御回路36の制御に従い検査カートリッジ1の反応槽に対して磁場を印加することで、反応槽内の磁性粒子の沈降を速め、または磁性粒子を上方に引き上げる。磁場発生器32は、磁性粒子に固定された第2抗体と光導波路の上面に固定された第1抗体との抗原を介した結合を促進させるエネルギーを発生させる。具体的には、磁場発生器32は、上磁場発生器および下磁場発生器を有する。また、磁場発生器32は、図示しない駆動回路を有する。上磁場発生器および下磁場発生器はそれぞれ、例えば永久磁石および電磁石で構成される。
【0017】
出力ユニット33は、表示回路331と、報知器332と、プリンタ333とを含む。
表示回路331は、例えば液晶ディスプレイ又はOLED(Organic LED)ディスプレイといった一般的な外部の表示装置にデータを出力する。表示回路331は、システム制御回路36の制御に従い、各種操作画面、光検出器312から供給された出射光L2の光強度を示す情報、光強度を示す情報の時系列データ、及び検出対象物質の測定結果などを表示する。測定結果は、例えば抗原の濃度、重量または個数、すなわち、抗原の量に対応した数値となる。
【0018】
報知器332は、例えばスピーカーである。報知器332は、システム制御回路36の制御の下、操作のタイミングやアラームなどを操作者に報知する。
【0019】
プリンタ333は、システム制御回路36の制御の下、例えば表示回路331から出力される各種操作画面、光検出器312から供給された出射光L2の光強度を示す情報、光強度を示す情報のデータ、および検出対象物質の測定結果などを印刷する。
【0020】
入力インタフェース回路34は、例えばトラックボール、スイッチボタン、マウス、キーボード、操作面へ触れることで入力操作を行うタッチパッド、および表示画面とタッチパッドとが一体化されたタッチパネルディスプレイによって実現される。入力インタフェース回路34は、操作者の操作に対応した操作入力信号をシステム制御回路36に出力する。なお、本実施形態において入力インタフェース回路34は、マウス、キーボードなどの物理的な操作部品を備えるものだけに限られない。例えば、装置とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号をシステム制御回路36へ出力する電気信号の処理回路も入力インタフェース回路の例に含まれる。
【0021】
記憶回路35は、磁気的若しくは光学的記録媒体又は半導体メモリなどの、プロセッサにより読み取り可能な記録媒体を有する。記憶回路35は、本実施形態に係る分析装置3の回路で実行されるプログラムを記憶する。なお、記憶回路35の記憶媒体内のプログラム及びデータの一部又は全部は電子ネットワークを介してダウンロードされるように構成してもよい。
【0022】
記憶回路35は、光検出器312から供給された出射光L2の光強度を示す情報、光強度を示す情報の時系列データ、及び測定対象となる検出対象物質の測定結果などを記憶する。
【0023】
記憶回路35は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)といった記憶媒体であり、検出対象物質の測定を行うための設定情報を記憶する。設定情報は、例えば測定に必要な所定の処理を実行するタイミングを規定する情報を含む。測定に必要な所定の処理を実行するタイミングとは、例えば下磁場の印加が開始されるタイミング、下磁場の印加が停止されるタイミング、上磁場の印加が開始されるタイミングおよび判定が実施されるタイミングである。これらのタイミングを規定する情報には、所定の時刻からの相対的な経過時間または所定の処理を実行する絶対時刻が含まれる。なお、所定の時刻からの相対的な経過時間または所定の処理を実行する絶対時刻は、予め経験的、実験的に決められ設定されていればよい。
【0024】
記憶回路35は、予め設定された閾値TAを記憶する。閾値TAは、検出対象物質の濃度に対応する光強度についての閾値である。閾値TAは、検出対象物質の定性状態を判定するために用いられる。定性状態とは、例えば測定結果が示す陽性または陰性の度合いである。閾値TAは、検出対象物質の測定結果が陽性の可能性が高いかどうかの最終的な判定をするために用いられる。なお、閾値TAは、複数の段階的な閾値であってもよい。すなわち、デジタルデータに含まれる光強度と複数の段階的な閾値を比較することで、より詳細な測定結果を表す判定を行うことが可能となる。
【0025】
システム制御回路36は、例えば分析装置3の各構成回路を制御するプロセッサである。システム制御回路36は、分析装置3の中枢として機能する。システム制御回路36は、記憶回路35から各動作プログラムを呼び出し、呼び出したプログラムを実行することで光源制御機能361、磁場制御機能362、演算機能363、判定機能364及び出力制御機能365を実現する。
【0026】
光源制御機能361は、光源311を制御し、所定の条件で光を発生させる。光源制御機能361では、システム制御回路36は、少なくとも測定開始から測定終了までの間、連続的又は間欠的に光源311から入射光L1を発生させる。
【0027】
磁場制御機能362は、記憶回路35に予め記憶されているタイムスケジュールに従って磁場発生器32を制御し、反応槽内の反応を促進させるエネルギーの印加状態を切り替える。具体的には、磁場制御機能362では、システム制御回路36は、記憶回路35から設定情報を読み出し、読み出した設定情報に基づいて磁場発生器32を制御し、磁場発生器32に磁場を発生させる。
【0028】
演算機能363は、光検出器312から供給される時系列の光強度のデジタルデータに基づいて各種演算を行う。演算機能363では、システム制御回路36は、供給される時系列の光強度のデジタルデータを用いて、光強度の平均値、光強度の変動率、変動率の積算値などの光学的変化に関する演算を行う。
【0029】
判定機能364は、後述する上磁場の印加中に光検出器312から供給される光強度のデジタルデータに基づいて検出対象物質の量に関する測定結果を生成する。具体的には、判定機能364は、検出対象物質の量(物質量、濃度等)を光強度のデジタルデータに基づいて「陽性の可能性が高い」等の定性状態を判定する。判定機能364では、システム制御回路36は、記憶回路35から設定情報および閾値TAを読み出す。システム制御回路36は、読み出した設定情報に含まれる実行タイミングに合わせて、検出対象物質の定性状態を判定する。システム制御回路36は、供給された時系列の光強度のデジタルデータに含まれる光強度が閾値TA以下であった場合、例えば検出対象物質の測定結果を陽性の可能性が高いと判定する。システム制御回路36は、デジタルデータに含まれる光強度が閾値TAより大きい場合、例えば検出対象物質の測定結果は弱陽性または陰性の可能性が高いと判定する。
【0030】
出力制御機能365は、出力ユニット33を制御し、操作者に対して検出対象物質の定性状態などの判定結果を出力する。出力制御機能365では、システム制御回路36は、表示回路331またはプリンタ333を制御し、判定結果を操作者に提示する。提示は、ディスプレイを介した表示およびプリンタを用いて印刷する方法を含む。システム制御回路36は、報知器332を制御し、判定結果を操作者に報知する。報知は、音などで知らせる方法を含む。
【0031】
次に、本実施形態に係る検査システムによる検体検査の一例について
図2のフローチャートを参照して説明する。
ステップS1では、検査カートリッジ1が、分析装置3にセットされ検査溶液が滴下される。これにより、検査カートリッジ1の反応槽が検査溶液で充填される。なお、検査溶液を検査カートリッジ1の開口10に滴下するタイミングで、磁場発生器32により、下磁場を印加してもよい。または、磁場発生器32により、上磁場および下磁場の印加を交互またはランダムに断続的に印加することで磁場を揺らしてもよい。このように磁場を印加することにより、反応槽への液滴の落下を促し、検査溶液の充填までの時間を早めることができる。
【0032】
ステップS2では、検知ユニット31の光源311から、検査カートリッジ1の光導波路に向けて一定強度の光を照射することで、光導波路内に一定強度の光が入射する。なお、光源311から、継続的に一定強度の光が入射される。
【0033】
磁場発生器32が、下磁場の印加を開始する。光導波路に入射された光は、光導波路内を全反射しながら伝播し、透明基板を介して光検出器312へ出射される。
【0034】
光が光導波路内を伝播する場合、光導波路の上面において近接場光(エバネッセント光)が発生する。反応槽内の近接場光が発生し得る、光導波路の表面近傍の領域をセンシング領域とも呼ぶ。反応槽において、光導波路の上面に固定された第1抗体は、試料溶液中の検出対象物質に含まれる抗原と反応する。第1抗体と抗原とが反応することにより、試薬成分に含まれる磁性粒子に固定化された第2抗体とも結合する。これにより、光導波路の上面の反応検出領域近傍に第2抗体が固定化された磁性粒子が保持される。
【0035】
光導波路を導波する光は、光導波路の上面近傍に固定される磁性粒子により散乱および吸収される。この結果、光導波路を導波する光は、減衰されて光導波路から出射されることになる。すなわち、入射光L1は、第1抗体と、磁性粒子に固定化される第2抗体とを結びつける抗原の量、言い換えれば、反応槽内に収容された抗原の量に応じて減衰される。
光検出器312は、光導波路から出射された光を受光し、システム制御回路36に対して、光強度のデータを所定の時間間隔で供給する。
【0036】
ステップS3では、磁場発生器32が、システム制御回路36の制御に従って、下磁場の印加を開始する。具体的には、検査カートリッジ1の下方に配置される下磁場発生器は、反応槽内の磁性粒子に鉛直下向きの磁力を印加して沈降を速めるために下磁場を発生させる。発生された鉛直下向きの磁場および重力に従って、第2抗体が固定化された磁性粒子は、磁力線に沿って整列し、鉛直下方向の力を受けて下降する。第2抗体は、光源を介して反応槽の下面に位置する反応検出領域に固定された第1抗体と結合する。
【0037】
ステップS4では、磁場発生器32が、システム制御回路36からの制御に従って、所定のタイミングで下磁場の印加を停止する。
【0038】
ステップS5では、磁場発生器32が、システム制御回路36からの制御に従って、上磁場の印加を開始する。具体的には、上磁場発生器は、検査カートリッジ1が分析装置3にセットされた場合に、検査カートリッジ1の上方に位置する。上磁場発生器は、反応槽において鉛直上向きに磁性粒子を引き上げるために上磁場を発生させる。この鉛直上向きの磁場により、抗原を介して第1の抗体と結合しなかった第2抗体で修飾された磁性粒子は、鉛直上方向の力を受けて上昇する。このとき、上磁場発生器は、所定の強さの磁場を発生させることで、未反応の磁性粒子を選択的にセンシング領域から遠ざける。すなわち、上磁場発生器は、発生させる磁場の強さを調整することで、光導波路の上面に固定される、第1抗体と抗原を介して結合した第2抗体で修飾された磁性粒子のみをセンシング領域に留めることが可能となる。
【0039】
ステップS6では、反応槽内の反応が収束したと考えられるタイミングで、システム制御回路36は、光検出器312から継続的に供給される光強度のデータの1つの値を測定値として取得する。
【0040】
ステップS7では、判定機能364によりシステム制御回路36が、ステップS7で取得した測定値と記憶回路35に記憶された閾値TAとを比較することで、例えば陽性または陰性を判定する。
【0041】
ステップS8では、出力制御機能365によりシステム制御回路36が、判定結果をユーザに提示または報知する。
【0042】
次に、出射光の光強度の時系列変化の一例について
図3を参照して説明する。
図3は、縦軸が光強度を示し、横軸が時刻を示す、光強度の時系列変化のグラフCである。
【0043】
検査カートリッジ1の反応槽に対して検査溶液が滴下され、検査溶液が反応槽に充填されると、測定される光強度が増加する。これは、反応検出領域を含む光導波路上面に第1の抗体の変性を防止するために塗布した水溶性の膜が溶解するためである。
【0044】
その後、下磁場が印加されると、上述のように、反応槽の検査溶液中の第2抗体が固定された磁性粒子は、抗原を介して反応検出領域上に固定された第1抗体と結合する。またセンシング領域には、第2抗体が固定された磁性粒子が次々に侵入するため、センシング領域内の散乱・吸収体の量が増加して光強度は減少する。光強度の減少率は、時間とともに小さくなり、ある光強度値、ここではA01で平衡状態に達する。このとき磁性粒子はチェーン状に複数繋がり、クラスターを形成している。このときセンシング領域にある磁性粒子の数は見かけ上少なくなっている。
【0045】
その後、下磁場の印加が停止されると、第2抗体が固定化された磁性粒子は、下磁場から解放されるため、上記クラスターがブラウン運動で分散され、自然沈降を開始する。なお、下磁場の印加を停止してから所定期間は、いわゆるオーバーシュートが発生し、光強度が増加に転じた後、短期間で減少に転じる。オーバーシュートが収束すると、その後は光強度が減少する。これは、第2抗体が固定化された磁性粒子が次々にセンシング領域に侵入するため、散乱・吸収体の量が増加し、減少率が大きくなるからである。一定期間経過すると、第2抗体が固定化された磁性粒子の自然沈降も収束し、ある光強度値、ここでは光強度値A03に収束する。
【0046】
光強度値A03に収束した状態において、第2抗体が固定化された磁性粒子は、センシング領域に留まる。磁性粒子がセンシング領域に留まった状態で光導波路の上面において近接場光が発生すると、センシング領域に留まっている磁性粒子がこの近接場光を散乱および吸収し、近接場光を減衰させる。すなわち、センシング領域において近接場光が減衰されることにより、光導波路内を導波する光も減衰される。言い換えれば、センシング領域に留まる磁性粒子の量が多いほど、光導波路から出力される光の強度が低下する。
【0047】
磁場が無い状態では、センシング領域に留まる磁性粒子は、測定対象である抗原を介して光導波路の上面に固定された第1抗体と、磁性粒子に固定化される第2抗体とが結合したものに限られない。すなわち、未反応の磁性粒子もセンシング領域に留まりうる。このため、検出対象物質に含まれる抗原の正確な濃度を測定するためには、測定に関与しない、すなわち抗原と結合していない第2抗体が固定化された磁性粒子をセンシング領域から遠ざける必要がある。そこで、上磁場を印加することにより、未反応の磁性粒子を、センシング領域から上方へ遠ざけ、反応槽に再び浮遊させる。
【0048】
これにより、最終的にセンシング領域に留まる磁性粒子は、抗原を介して光導波路の上面に固定された第1抗体と、第2抗体とが抗原を介して結合したものがほとんどとなり、ある光強度値、ここでは光強度値A02で平衡状態に達する。光強度値A02と閾値TAとが比較されることで、判定結果が得られる。
【0049】
次に、センサチップ2の設計例について
図4を参照して説明する。
図4は、センサチップ2部分を上面側からみた図である。
【0050】
センサチップ2は、反応検出面21と、非反応検出面22と、グレーティング23aと、グレーティング23bとを含む。反応検出面21は、センサチップ2の中心部に位置し、抗体がセンサチップ2の上面(光導波路の上面)に固定(塗布)される領域である。ここでは2つの独立した領域として、反応検出面21が2列に並列するように形成される。また、反応検出面21は、表面に検出対象物質と結合する物質を有する。また、反応検出面21の表面が親液性を有するように処理される。親液性とは、液体に対する接触角が略90度よりも小さくなる性質をいい、液体が水の場合は、親水性とも呼ぶ。例えば、親液性を有する膜で反応検出面をコーティングすればよい。コーティングの材料としては、例えば、水溶性の高分子(多糖類、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、たんぱく質など)または、これらの誘導体の1つもしくは混合物が利用されればよい。または、水溶性の低分子(糖類、二糖類、多価アルコール)あるいはこれらの誘導体の1つ若しくは混合物でもよい。さらには、高分子と低分子とを含んでもよい。
【0051】
非反応検出面22は、センサチップ2の上面のうち、反応検出面21以外の部分である。具体的には、反応検出面21それぞれが独立領域となるように、1列ごとに反応検出面21の周囲を囲む領域である。また、非反応検出面22は、疎液性(撥液性)を有するように形成される。撥液性とは、液体に対する接触角が略90度よりも大きくなる性質をいい、液体が水の場合は、疎水性(撥水性)とも呼ぶ。疎液性を有する材料としては、アクリル、エポキシ、ポリ塩化ビニル、アクリルなどが挙げられる。非反応検出面22は、例えば、これらの疎液性を有する材料によるコーティングが施されればよい。
【0052】
非反応検出面22の領域では液体が弾かれるため、非反応検出面22は、親液性を有する反応検出面21に検査溶液を留める役割を果たす。
【0053】
グレーティング23aは、光を反射(回折)させる構造を有し、光導波路に光を入射させる位置に配置される。
グレーティング23bは、光を反射(回折)させる構造を有し、光導波路内の光を外部に反射させる位置に配置される。
【0054】
次に、第1実施形態に係る検査カートリッジ1の構成例について
図5から
図8を参照して説明する。
【0055】
図5は、z軸方向から見た検査カートリッジ1の反応槽部分の断面を上から見た図である。上面から見える検査カートリッジ1の筐体11は斜線で図示する。
筐体11は、例えばポリ塩化ビニルなどで形成され、疎液性を有する。筐体11の上部には、検査溶液を反応槽に滴下するための滴下口13が形成される。滴下口13は、反応検出面21の長手方向の端部側に位置し、滴下口13の下方には、滴下された検査溶液を貯留する貯留部12が形成される。貯留部12は、センサチップ2の非反応検出面22と筐体11とで形成されるため疎液性を有する。貯留部12は、2つの反応検出面21のそれぞれ端部と接続される。また、滴下口13に対向する反応検出面21の端部側には、反応槽15に検査溶液が満たされるにつれて押し出される空気を抜くための通気口14が形成される。なお、説明の便宜上、滴下口13および通気口14はそれぞれ、筐体11に設けられた開口であるが、開口位置を図示するため、貯留部12および非反応検出面22部分に図示される。
【0056】
図5に示すように、滴下口13に対して2つの反応検出面21が対称に配置されているため、滴下口13から貯留部12に滴下された検査溶液は、2つの反応検出面21に対し略同量送液される。よって、検査溶液が微量(滴下デバイスによる1~2滴)であっても反応検出面21に均等に送液できる。
【0057】
図6は、検査カートリッジ1を
図5のA-A’面で切断した場合の断面図である。
検査カートリッジ1は、筐体11の底面にセンサチップ2が貼り付けられた構成である。センサチップ2とセンサチップ2に対向する筐体11の上部との間には空間が形成され、当該空間が反応槽15となる。また、筐体11の上部に形成される滴下口13は、筐体11上面から反応槽15に向かって狭くなるテーパー形状を有する。滴下口13の大きさは、検査溶液が反応槽15にスムーズに送液される大きさを想定し、例えば、通気口14よりも大きい径であればよい。
【0058】
滴下口13の下方に、貯留部12が形成される。
図6の例では、貯留部12の底面部分が反応検出面21と平行であるが、貯留部12から反応検出面21に検査溶液がより拡がりやすいよう、貯留部12の底面部分が傾斜してもよい。
【0059】
センサチップ2は、ここでは図示しないが、透明基板と光導波路とを含む。透明基板は、樹脂または光学ガラスなどで形成され、光源311から入射してきた光を光導波路へ通過させる。また、透明基板は、光導波路を通過した光を外部に通過させる。なお、透明基板は、光導波路とは異なる屈折率の素材で形成され、光導波路との境界面で光を全反射させる。つまり、光を光導波路内に閉じ込めるクラッドとしての役割を果たす。また、透明基板は、光導波路を物理的に保護する役割も果たす。
【0060】
光導波路は、透明基板の上に積層され、内部を光が通過する。すなわち、光導波路は、光ファイバーにおけるコア(心材)同様の役割を果たす。光が透過する材料、例えば樹脂または光学ガラスにより形成される。樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂またはアクリル樹脂を用いることができる。光導波路の上面に、反応検出面21が形成される。
【0061】
次に、
図7は、検査カートリッジ1を
図5のB-B’面で切断した場合の断面図である。
反応検出面21aと反応検出面21bとの間には、疎液性の隔離壁111が形成される。隔離壁111は、例えば筐体11の一部であり、筐体11と一体成形されることを想定するが、疎液性を有する別の材料による部品で形成されてもよい。
図7に示すように、筐体11と隔離壁111と反応検出面21aとで、検査溶液が反応検出面21aに濡れ広がる第1流路71が形成される。同様に、筐体11と隔離壁111と反応検出面21bとで第2流路72が形成される。
【0062】
次に、
図8は、検査カートリッジ1を
図5のC-C’面で切断した場合の断面図である。言い換えれば、貯留部12の断面図であり、貯留部12が反応検出面21aおよび反応検出面21bの端部と接続される。貯留部12に対して第1流路71および第2流路72が対称に配置されているため、
図7の隔離壁111により、第1流路71および第2流路72に滴下口13から滴下された検査溶液が略同量送液される。
【0063】
次に、検査カートリッジ1に検査溶液が滴下された場合の検査溶液の挙動について、
図9の概念図を参照して説明する。
図9は、
図6の断面図であり、
図9左図は、検査カートリッジ1の滴下口13に対して滴下デバイス(図示せず)により検査溶液90が滴下された直後の状態を示す。滴下口13は、上面ほど直径が大きくなるテーパー形状であるため、検査者は検査溶液90を確実に滴下しやすくなる。
【0064】
図9中央図は、検査溶液90が滴下された後に、貯留部12に試料液が一時的に貯留されている状態を示す。貯留部12は疎液性を有するため、親液性を有する反応検出面21のほうに、液体が濡れ拡がる(送液される)。また、この際、第1流路と第2流路とは、貯留部12に対して対称に配置されているため、略同量の検査溶液90が第1流路と第2流路とに流れ込むこととなる。
【0065】
図9右図は、検査溶液90が反応検出面21に濡れ広がり、反応槽15に検査溶液90が充填された状態を示す。
図9右図に示すように、貯留部12に一時的に貯留された検査溶液90は、親液性を有する反応検出面21のほうに濡れ拡がるため、検査溶液90は貯留部12にはほとんど残らず、1~2滴といった微量の検査溶液90であっても、第1流路および第2流路の各反応検出面21に検査溶液90を送液することができる。
【0066】
次に、貯留部12の変形例について
図10を参照して説明する。
図10は、
図5と同様の検査カートリッジ1の断面図である。
図10では、貯留部12の領域を、第1流路と第2流路との間かつ端部側に設計した例を示す。さらに、貯留部12の大きさおよび位置に合わせて、貯留部12が下方に位置するように滴下口13が形成される。
このように貯留部12の容積が小さくなるように形成することで、貯留部12から反応検出面21を有する各流路に検査溶液が流れやすくなる。
【0067】
なお、上述の例では、反応検出面21が2列である2つの流路を形成することを想定するが、反応検出面21が1列である1流路でもよいし、3流路以上の流路が形成されてもよい。この場合、反応検出面21に塗布される抗体は、列ごとに異なってもよいし、同一でもよい。特に、反応検出面21が3列以上形成される場合は、少なくとも2つの列が同じ抗体であってもよい。
【0068】
次に、3つ以上の流路の例として、3つの流路が存在する場合の検査カートリッジ1の構成例について
図11を参照して説明する。
図11は、
図5と同様の図であるが、反応検出面21が3列存在する場合を示す。このように反応検出面21を含む流路が3列ある場合でも、滴下口13に対して流路が対称に配置されるため、貯留部12の検査溶液が各反応検出部を含む流路に略同量送液することができる。
【0069】
次に、3つの流路が存在する場合の貯留部12の変形例について
図12を参照して説明する。
図12に示すように、貯留部12は、各流路の間に設計され、ここでは2つの貯留部12が形成される。ここでは滴下口13を2カ所配置し、それぞれの滴下口13から滴下されることを想定するが、これに限らない。例えば、滴下口13は、筐体11の上面に1カ所配置され、筐体11の上面から貯留部12に到達するまでの筐体11の内部において2本に分岐し、2つの貯留部12それぞれに検査溶液が送液される構造でもよい。
【0070】
次に、第1実施形態に係る検査カートリッジ1の第1変形例について
図13を参照して説明する。
図13は、
図6と同様の断面図であるが、反応検出面21の対向面、言い換えれば反応検出面21を含む流路の上面側に、補助部材16が配置される。言い換えれば、補助部材16は、貯留部12が存在する端部と反対方向の端部に向かって下方に傾斜する貯留部12から検査溶液が流路に送液される方向に向かって、当該流路が狭くなるように形成される。補助部材16は、筐体11との一体成形であってもよいし、疎液性を有する材料が上面側に貼り付けられても良い。
【0071】
図13の構造によれば、流路の容積が小さくなり、さらには流路の径の大きさによっては毛細管現象も生じるため、貯留部12から検査溶液がさらに流路へ流れやすくなる。
【0072】
次に、第1実施形態に係る検査カートリッジ1の第2変形例について
図13を参照して説明する。
図14は、
図6と同様の断面図である。第2変形例では、滴下口13の筐体11表面周囲に堤17を形成してもよい。堤17を形成することで、検査溶液を滴下口13に滴下しやすくなることに加え、検査溶液が反応槽15からあふれにくくなる。堤17は、筐体と一体成形でもよいし、疎液性を有する別材料により形成されてもよい。
【0073】
次に、第1実施形態に係る検査カートリッジ1の第3変形例について
図15を参照して説明する。
図15では、反応検出面21の対抗面、言い換えれば流路上面に位置する壁面の少なくとも一部の領域に、検出対象物質を検出するための検出試薬18が塗布乾燥され固定される。検出試薬18が固定される場合は、固定される厚みを考慮して、筐体11の反応槽15の上面部分が凹構造で形成されてもよい。
【0074】
また、検出試薬18が均一に塗布乾燥されるように親水膜によるコーティングまたは微細な多数の凸構造で形成されてもよい。凸構造は、直方体、円柱、円錐または角錐、あるいは半球状などであればよい。
【0075】
検出試薬18が固定されている場合、検査溶液の代わりに、検出対象物質を含む試料液を滴下することで、流路内で試料液と検出試薬18とが混合されつつ、検査溶液として反応検出面21に濡れ拡がることになる。よって、例えば検出対象物質と試薬とを検査カートリッジ1の滴下前に混合する必要がなく、検査工程を簡略化でき、検査者の負担も低減できる。
【0076】
なお、上述した本実施形態に係る検査カートリッジは、粘膜上皮を含む検査溶液や血液などの比較的粘性の低い液体はもちろん、痰、鼻汁などといった粘性の高い液体にも適用可能である。
【0077】
以上に示した第1実施形態によれば、検査カートリッジの反応槽において、検査溶液を滴下するための滴下口の下方に疎液性の貯留部が存在し、当該貯留部と親液性を有する反応検出面を有する1以上の流路とが接続される。これにより、疎液性を有する貯留部に滴下された検査溶液は、親液性を有する反応検出面に濡れ拡がりやすい。さらには、滴下口に対して各流路が対称に配置されるため、検査溶液が微量であったとしても、反応検出面に均一且つ迅速に検査溶液を送液することができる。
【0078】
(第2実施形態)
第1実施形態のように、隔離壁によって流路が仕切られ、各流路が独立して形成される場合、各流路への検査溶液の送液タイミングのずれにより、均一に検査溶液が送液されない可能性がある。この場合、流路に気泡が発生したり、各流路での検査溶液の反応時間にずれが生じるため、一部の検査結果で正しい結果が得られない可能性がある。そのため、第2実施形態では、第1実施形態において、流路に挟まれた隔離壁が形成された部分に空隙を有する点が第1実施形態と異なる。
【0079】
第2実施形態に係る検査カートリッジ1について
図16を参照して説明する。
図16は、z軸方向から見た検査カートリッジ1の反応槽部分の断面を上から見た図である。なお、
図5の場合と同様に、滴下口13および通気口14はそれぞれ、筐体11に設けられた開口であるが、開口位置を重畳して図示する。
2つの反応検出面21(反応検出領域ともいう)の間に、非検出領域24が形成される。非検出領域24は、第1実施形態の非反応検出面22と同様に、疎液性を有する。非検出領域24は、例えば、筐体11の一部である。
さらに、空気穴である通気口14が、2つの反応検出面21に対してだけではなく、非検出領域24に対しても、x軸方向の延長線上の滴下口13の反対側に形成される。
【0080】
続いて、第2実施形態に係る検査カートリッジ1のB-B’面での断面図を
図17に示す。
図7では、隔離壁111が存在していた領域が空隙となり、筐体11と、反応検出面21aと、反応検出面21bと、非検出領域24とにより、反応槽15内に検査溶液の流路が形成される。 次に、第2実施形態に係る検査カートリッジ1の第1変形例について
図18を参照して説明する。
【0081】
図18は、
図17と同様の検査カートリッジ1のB-B’面での断面図である。反応検出面21aおよび反応検出面21bに対向する天面側、すなわち、反応槽15の上面側の筐体が、テーパー形状となる。具体的には、反応槽15の上面から反応検出面21aに向かって広がるようにテーパー形状となる。同様に、反応槽15の上面から反応検出面21bに向かって広がるようにテーパー形状となる。
【0082】
さらに、非検出領域24から筐体11の壁面、つまり反応槽15の上面までの空隙の高さhaが、反応検出面21aから反応槽15の上面まで、および反応検出面21bから反応槽15の上面までのそれぞれの空隙の高さhbよりも低い。具体的には、反応検出面21aから反応槽15の上面まで、および反応検出面21bから反応槽15の上面までのそれぞれの空隙の高さhbは、例えば、略700マイクロメートルから略1400マイクロメートルに設計される。一方、非検出領域24から反応槽15の上面までの空隙の高さhaは、例えば、略100マイクロメートルから略200マイクロメートルに設計される。これにより、検査溶液を反応検出面に効率よく展開できる。
【0083】
次に、第2実施形態に係る検査カートリッジ1の第2変形例について
図19を参照して説明する。
第2変形例では、非検出領域24上において、部分的に隔離壁111を配置される。
図19の例では、隔離壁111と非検出領域24とが断続的に形成される。隔離壁111の大きさ、および隔離壁111が配置される間隔は、検査溶液の粘度や液量などに応じて、気泡が形成されにくい態様で適宜設計されればよい。これにより、隔離壁111によって非検出領域24に物理的に検査溶液が留まらないようにさせつつ、反応検出面に効率よく検査溶液を展開できる。
【0084】
なお、
図16から
図19までは、検出反応面が2つ、すなわち流路が2つである場合を例としたが、流路が3つ以上ある場合でも、流路間に挟まれる非検出領域の上方に同様に空隙に形成されればよい。
【0085】
以上に示した第2実施形態によれば、検査カートリッジは、各反応検出面に挟まれた非検出領域、言い換えれば各流路に挟まれた非検出領域の上方に空隙を有する。また、非検出領域に対しても空気口を形成する。これにより、検査カートリッジに滴下された検査溶液が、反応槽内全体に送液されるため、一部の流路にのみ送液されるといった、各流路への送液タイミングのずれが生じにくくなる。また、非検出領域に対しても空気口を形成することで、空気口から反応槽内の空気が検査カートリッジ外へ適宜排出されるため、反応槽内に気泡が発生するリスクを低減することができる。結果として、効率的な検査を実施できる。
【0086】
なお、上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))などの回路を意味する。プロセッサが例えばCPUである場合、プロセッサは記憶回路に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。一方、プロセッサが例えばASICである場合、プログラムが記憶回路に保存される代わりに、当該機能がプロセッサの回路内に論理回路として直接組み込まれる。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。さらに、図における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。すなわち、効率的な検査を実施できる。
【0087】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0088】
以上の実施形態に関し、発明の一側面及び選択的な特徴として以下の付記を開示する。
(付記1)
検査溶液を滴下するための滴下口を有する筐体と、
表面に前記検査溶液と結合する物質を有する親液性の第1検出面を含む第1流路と、
前記第1流路と並列し、表面に前記検査溶液と結合する物質を有する親液性の第2検出面を有する第2流路と、
前記滴下口の下方に形成され、前記第1流路と前記第2流路とに接続された疎液性の貯留部と、
を含む検査カートリッジ。
【0089】
(付記2)
前記第1流路および前記第2流路は、前記滴下口に対して対称に配置されてもよい。
【0090】
(付記3)
前記貯留部は、前記第1流路および前記第2流路の端部側に接続され、
前記第1流路および前記第2流路と前記貯留部とは、前記第1流路および前記第2流路のそれぞれへ送液される前記検査溶液の量が略同量となるように形成されてもよい。
【0091】
(付記4)
前記貯留部は、前記第1流路および前記第2流路の間かつ端部側に配置されてもよい。
【0092】
(付記5)
検査カートリッジは、前記第1流路と前記第2流路との間に配置される疎液性の隔離壁をさらに含んでもよい。
【0093】
(付記6)
前記第1流路と前記第2流路との間に形成され、上方に空隙を有する非検出領域をさらに含んでもよい。
【0094】
(付記7)
前記非検出領域は、疎液性を有してもよい。
【0095】
(付記8)
前記第1流路、前記第2流路および前記非検出領域に対してそれぞれ空気口が形成されてもよい。
【0096】
(付記9)
前記非検出領域から上方の前記筐体の壁面までの空隙の高さは、前記第1検出面から上方の前記筐体の壁面まで、および前記第2検出面から上方の前記筐体の壁面までのそれぞれの空隙の高さよりも低くてもよい。
【0097】
(付記10)
前記第1検出面から上方の前記筐体の壁面まで、および前記第2検出面から上方の前記筐体の壁面までのそれぞれの空隙の高さは、略700マイクロメートルから略1400マイクロメートルであってもよく、
前記非検出領域から上方の前記筐体の壁面までの空隙の高さは、略100マイクロメートルから略200マイクロメートルであってもよい。
【0098】
(付記11)
前記第1検出面および前記第2検出面に対向する前記筐体の壁面の少なくとも一部に、前記検査溶液に含まれる検出対象物質と結合する物質を含む試薬が乾燥され固定されてもよい。
【0099】
(付記12)
検査溶液を滴下するための滴下口と1以上の空気口とを有する筐体と、
前記筐体内部に位置し、表面に前記検査溶液と結合する物質を有する第1検出面と、
前記筐体内部に位置し、かつ前記第1検出面と並列し、表面に前記検査溶液と結合する物質を有する第2検出面と、
前記第1検出面と前記第2検出面との間に形成される非検出面と、を含み、
前記第1検出面、前記第2検出面および前記非検出面の上方に空隙を有する、検査カートリッジ。
【符号の説明】
【0100】
1 検査カートリッジ
2 センサチップ
3 分析装置
11 筐体
12 貯留部
13 滴下口
14 通気口
15 反応槽
16 補助部材
17 堤
18 検出試薬
21,21a,21b 反応検出面
22 非反応検出面
23a,23b グレーティング
24 非検出領域
31 検知ユニット
32 磁場発生器
33 出力ユニット
34 入力インタフェース回路
35 記憶回路
36 システム制御回路
71 第1流路
72 第2流路
90 検査溶液
311 光源
312 光検出器
331 表示回路
332 報知器
333 プリンタ
361 光源制御機能
362 磁場制御機能
363 演算機能
364 判定機能
365 出力制御機能