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特開2024-110449揮発性防カビ剤およびこれを利用した防カビ方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110449
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】揮発性防カビ剤およびこれを利用した防カビ方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 65/00 20090101AFI20240808BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
A01N65/00 H
A01P3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014974
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大▲崎▼ 久美子
(72)【発明者】
【氏名】石原 亨
(72)【発明者】
【氏名】田澤 寿明
(72)【発明者】
【氏名】徳本 健人
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA03
4H011BB22
(57)【要約】
【課題】天然成分でありながらも十分な防カビ効果を有する揮発性防カビ剤を提供する。
【解決手段】ハラタケ科コガネタケ属に属するキノコ、ツガサルノコシカケ科カンバタケ属に属するキノコ、キクラゲ科キクラゲ属に属するキノコ、ハナビラタケ科ハナビラタケ属に属するキノコ、キシメジ科キシメジ属に属するキノコおよびシロキクラゲ科シロキクラゲ属に属するキノコからなる群から選ばれる1種または2種以上の溶媒抽出物を有効成分として含有することを特徴とする揮発性防カビ剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハラタケ科コガネタケ属に属するキノコ、ツガサルノコシカケ科カンバタケ属に属するキノコ、キクラゲ科キクラゲ属に属するキノコ、ハナビラタケ科ハナビラタケ属に属するキノコ、キシメジ科キシメジ属に属するキノコおよびシロキクラゲ科シロキクラゲ属に属するキノコからなる群から選ばれる1種または2種以上の溶媒抽出物を有効成分として含有することを特徴とする揮発性防カビ剤。
【請求項2】
ハラタケ科コガネタケ属に属するキノコが、コガネタケである請求項1項記載の揮発性防カビ剤。
【請求項3】
ツガサルノコシカケ科カンバタケ属に属するキノコが、シロカイメンタケである請求項1項記載の揮発性防カビ剤。
【請求項4】
キクラゲ科キクラゲ属に属するキノコが、アラゲキクラゲである請求項1項記載の揮発性防カビ剤。
【請求項5】
ハナビラタケ科ハナビラタケ属に属するキノコが、ハナビラタケである請求項1項記載の揮発性防カビ剤。
【請求項6】
キシメジ科キシメジ属に属するキノコが、ミネシメジである請求項1項記載の揮発性防カビ剤。
【請求項7】
シロキクラゲ科シロキクラゲ属に属するキノコが、ハナビラニカワタケである請求項1項記載の揮発性防カビ剤。
【請求項8】
カビが、クラドスポリウム属、アオカビ属およびコウジカビ属に属するカビの1種または2種以上である請求項1項記載の揮発性防カビ剤。
【請求項9】
カビが、クロドスポリウム・スフェロスペルマム、ペニシリウム・シトリナム、アスペルギルス・ニガーからなる群から選ばれる1種または2種以上である請求項1項記載の揮発性防カビ剤。
【請求項10】
請求項1~9の何れか1項に記載の揮発性防カビ剤を揮発させてカビに適用し、カビの育成を阻害することを特徴とする防カビ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性防カビ剤およびこれを利用した防カビ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、物品の保存の際には防カビ剤が使用されており、例えば、衣類や光学製品、書類、書籍、書画、骨董品の防カビ剤として、開口部を有する容器とその内部に配置された蒸散性防カビ剤と開口部を閉鎖するガス透過性フィルムとからなる防カビ部材が提案されている(特許文献1)。
【0003】
また、特に繊維製品、毛皮製品、人形等の保存用には、防カビ剤が使用されている。例えば、防虫成分としての蒸散性ピレスロイドとともに、o-フェニルフェノール(以下、「OPP」ということがある)、p-クロローm-キシレノール、3-メチル-4-イソプロピルフェノール、イソチオシアン酸アリル、オクチルイソチアゾリン等の防カビ剤を配合することが記載されている(特許文献2)。また、気化性防菌防カビ剤としてN-n-ブチルカバミン酸-3-ヨード-2-プロピニルエステルが記載されている(特許文献3)。
【0004】
キノコの抽出物が特定の細菌類に対して効果を有することも開示されている。例えば、ヤマブシタケ、アミガサタケ、キクラゲ、ブナシメジ、ナメコ、ブクリョウ、ウスヒラタケ、ハナビラタケ等からなる群より選択される1種又は2種以上の子嚢菌類又は担子菌類の水及び/又は有機溶媒抽出物を有効成分とすることによる抗菌剤、及びそれを含有する口腔用組成物並びに飲食品について開示されている(特許文献4)。また、Piptoporus属のキノコ、Mycoleptodonoides属のキノコ、Climacodon属のキノコ、Gloiothele属のキノコ、Lopharia属のキノコ、Microporus属のキノコ、Scytinostroma属のキノコ、Neolentinus属のキノコ、Hebeloma属のキノコ、Ischnoderma属のキノコ、Laetiporus属のキノコ、Daedaleopsis属のキノコ、Steccherinum属のキノコ、Trametes属のキノコ、Boidinia属のキノコ、Cymatoderma属のキノコ、Scopuloides属のキノコ、Ceriporia属のキノコおよびPleurotus属のキノコからなる群より選択される1種またはそれ以上のキノコの菌糸体、子実体、またはその廃菌床から発せられる揮発性物質を植物に適用することを特徴とする、植物病原菌の防除方法について開示されている(特許文献5)。
【0005】
しかし、これらのキノコの抽出物はいずれも細菌類に対する効果であり、カビ等の真菌類に対する効果については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭61-187303号公報
【特許文献2】特開平11-139903号公報
【特許文献3】特開平5-85909号公報
【特許文献4】特開2012-51897号公報
【特許文献5】特開2011-167073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、天然成分でありながらも十分な防カビ効果を有する揮発性防カビ剤を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題に鑑み、キノコの抽出物の防カビ効果について鋭意検索を行ったところ、特定のキノコの溶媒抽出物が揮発性で防カビ効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、ハラタケ科コガネタケ属に属するキノコ、ツガサルノコシカケ科カンバタケ属に属するキノコ、キクラゲ科キクラゲ属に属するキノコ、ハナビラタケ科ハナビラタケ属に属するキノコ、キシメジ科キシメジ属に属するキノコおよびシロキクラゲ科シロキクラゲ属に属するキノコからなる群から選ばれる1種または2種以上の溶媒抽出物を有効成分として含有することを特徴とする揮発性防カビ剤を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、上記揮発性防カビ剤を揮発させてカビに適用し、カビの育成を阻害することを特徴とする防カビ方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の揮発性防カビ剤は、揮発して高い防カビ効果を有するものである。このものはキノコ由来であるため、ヒトや動物に対して特に安全性が高いと考えられる。従って、本発明によれば、ヒトや動物に対して安全性が高い揮発性防カビ剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】防カビスクリーニング試験の断面図を示す図である。
図2】防カビスクリーニング試験の平面図を示す図である。
図3】防カビ試験の断面図を示す図である。
図4】防カビ試験の平面図を示す図である。
図5】製品例2の衣類カバーを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の揮発性防カビ剤は、ハラタケ科コガネタケ属に属するキノコ、ツガサルノコシカケ科カンバタケ属に属するキノコ、キクラゲ科キクラゲ属に属するキノコ、ハナビラタケ科ハナビラタケ属に属するキノコ、キシメジ科キシメジ属に属するキノコおよびシロキクラゲ科シロキクラゲ属に属するキノコからなる群から選ばれる1種または2種以上の溶媒抽出物を有効成分として含有するものである。
【0014】
ハラタケ科コガネタケ属に属するキノコとしては、特に限定されず、例えば、コガネタケが挙げられる。これらのキノコの中でも特にコガネタケが好ましい。
【0015】
ツガサルノコシカケ科カンバタケ属に属するキノコとしては、特に限定されず、例えば、シロカイメンタケ、カンバタケ、コカンバタケ等が挙げられる。これらのキノコの中でも特にシロカイメンタケが好ましい。
【0016】
キクラゲ科キクラゲ属に属するキノコとしては、特に限定されず、例えば、アラゲキクラゲ、キクラゲ、ヒダキクラゲ等が挙げられる。これらのキノコの中でも特にアラゲキクラゲが好ましい。
【0017】
ハナビラタケ科ハナビラタケ属に属するキノコとしては、特に限定されず、例えば、ハナビラタケ等が挙げられる。これらのキノコの中でも特にハナビラタケが好ましい。
【0018】
キシメジ科キシメジ属に属するキノコとしては、特に限定されず、例えば、ミネシメジ、シモコシ、バカマツタケ、オウシュウマツタケ、キシメジ、ニセマツタケ、アカゲシメジ、シロシメジ、アメリカマツタケ、マツタケ、ハエトリシメジ、シモフリシメジ、マツタケモドキ、サマツモドキ、ヒメチシオシメジ、ニオイキシメジ、カキシメジ、クダアカゲシメジ、ネズミシメジ等が挙げられる。これらのキノコの中でも特にミネシメジが好ましい。
【0019】
シロキクラゲ科シロキクラゲ属に属するキノコとしては、特に限定されず、例えば、ハナビラニカワタケ、コガネニカワタケ、シロキクラゲ等が挙げられる。これらのキノコの中でも特にハナビラニカワタケが好ましい。
【0020】
上記キノコの中でもハラタケ科コガネタケ属に属するキノコ、ツガサルノコシカケ科カンバタケ属に属するキノコ、キクラゲ科キクラゲ属に属するキノコ、ハナビラタケ科ハナビラタケ属に属するキノコが好ましく、ハラタケ科コガネタケ属に属するキノコ、ツガサルノコシカケ科カンバタケ属に属するキノコがより好ましい。
【0021】
上記キノコの溶媒抽出物は、従来公知の方法に従って得ることができ、キノコの子実体、菌糸体等を溶媒で抽出すればよく、例えば、キノコの子実体そのもの、あるいは子実体を適宜粉砕したものから溶媒抽出したり、子実体から組織分離された菌糸体を培養した培地から、必要により菌糸体を除去し、溶媒抽出すればよい(例えば、Hamamoto et al. 2021, Journal of Applied Microbiology, ISSN1364-5072, doi:10.1111/jam.15020参照)。キノコの菌糸体を培養する培地の種類は、培養するキノコの種類にあわせて適宜選択すればよいが、例えば、MMN培地(Marx 1969, Phytopathology 59: 153-163.)、ジャガイモ・ブドウ糖寒天培地(PDA)培地、麦芽エキス・ブドウ糖寒天(MA)培地、ジャガイモ・ブドウ糖液体培地(PDB)培地、Hyponex Glucose培地(HYG:(1.5 g of Hyponex powder(Hyponex Japan Co. Ltd., Osaka, Japan), 1.0 g of yeast extract, 5.0 g of sucrose, 5.0 g of glucose, and pH = 6.0))等が挙げられる。また、培養条件も培養するキノコの種類にあわせて適宜選択すればよいが、例えば、20~30℃、好ましくは23~27℃で1~50日、好ましくは10~30日培養すればよい。菌糸体の除去の方法も特に限定されず、濾過、吸引濾過、遠心分離等で行えばよい。
【0022】
溶媒抽出の方法は特に限定されず、分配抽出、減圧蒸留、水蒸気蒸留等でよい。また、抽出に用いられる溶媒の種類は特に限定されないが、通常抽出に用いられる溶媒、例えば、水、ベンゼン、トルエン、四塩化炭素、クロロホルム、エタノール、メタノール、n-ブタノール、ヘキサン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、アセトン、アセトニトリル、ジクロロメタン又はこれらの混合溶媒を用いることができる。これらのうち、酢酸エチルを用いることが好ましい。
【0023】
上記のようにして得られるキノコの溶媒抽出物は、本発明の揮発性防カビ剤としてそのまま用いてもよいが、これらを濃縮乾固させたもの、または、この濃縮乾固させたものを必要により適当な溶媒に分散させて液剤とすることもできる。また、それらを担体に担持させて固形剤とすることもできる。なお、キノコの溶媒抽出物には、固形分が概ね10~500mg/ml、好ましくは50~200mg/ml程度含まれている。
【0024】
本発明の揮発性防カビ剤を分散させる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、ブタノール、ヘキサン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル、ジクロロメタン又はこれらの混合溶媒を用いることができる。これらのうちメタノールを用いることが好ましい。
【0025】
本発明の揮発性防カビ剤を担持させる担体としては、特に限定されないが、例えば、木、セルロース、紙、レーヨン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタン、羊毛、タルク、クレー、素焼き、布、不織布、シリカ、タルク、活性炭、シリカゲル、ゼオライト、セルロースビーズ、活性炭、セラミック等が挙げられ、またトリイソプロピルトリオキサン、シクロドデカン等の昇華性担体等を挙げることもできる。
【0026】
本発明の揮発性防カビ剤はさらに他の揮発性の薬剤と混合したり併用することができる。他の揮発性の薬剤としては、防虫剤、香料、消臭剤、有害物質除去剤、青果物鮮度保持剤等を上げることができる。防虫剤と混合することにより、防虫防カビ剤を提供することができる。また、香料と混合することにより防カビ性芳香剤を提供することができる。
【0027】
上記防虫剤としては、パラジクロロベンゼン、ナフタリン、樟脳、2-フェノキシエタノール、エムペントリン、フェノトリン、アレスリン、トランスフルトリン、プロフルトリン、メトフルトリン等のピレスロイド系化合物である。
【0028】
上記芳香成分としては、麝香、霊猫香、竜延香等の動物性香料、アビエス油、アクジョン油、アルモンド油、アンゲリカルート油、ページル油、ベルガモット油、パーチ油、ボアバローズ油、カヤブチ油、ガナンガ油、カプシカム油、キャラウェー油、カルダモン油、カシア油、セロリー油、シナモン油、シトロネラ油、コニャック油、コリアンダー油、クミン油、樟脳油、ジル油、エストゴラン油、ユーカリ油、フェンネル油、ガーリック油、ジンジャー油、グレープフルーツ油、ホップ油、レモン油、レモングラス油、ナツメグ油、マンダリン油、ハッカ油、パイン油、オレンジ油、セージ油、スターアニス油、テレピン油等の植物性香料を挙げることができる。この香料として、合成香料又は抽出香料等の人工香料を用いることもでき、例えば、ピネン、リモネン等の炭化水素系香料、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、メントール、ボルネオール、ベンジルアルコール、アニスアルコール、βフェネチルアルコール等のアルコール系香料、アネトール、オイゲノール等のフェノール系香料、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、シトラール、シトロネラール、ベンズアルデヒド、シンナミックアルデヒド、クミンアルデヒド等のアルデヒド系香料、カルボン、メントン、樟脳、アセトフェノン、イオノン等のケトン系香料、γ―ブチルラクトン、クマリン、シネオール等のラクトン系香料、オクチルアセテート、ベンジルアセテート、シンナミルアセテート、プロピオン酸ブチル、安息香酸メチル等のエステル系香料等が挙げられる。さらに、上記香料の2種以上を混合した調合香料も使用することができる。
【0029】
更に本発明の揮発性防カビ剤は、他の従来公知の揮発性防カビ剤と混合して用いることもできる。
【0030】
このような従来公知の揮発性防カビ剤としては、アリルイソシアネート、チモール、パラクロロメタキシレノール、オルトフェニルフェノール等のフェノール系化合物、3-ヨード-2-プロピニルブチルカーバメート、3-メチル-4-イソプロピルフェノール、N-(フルオロジクロロメチルチオ)-フタルイミドおよび/またはN-ジクロロフルオロメチルチオ-N ' ,N '- ジメチル-N-フェニルスルファミドを上げることができる。
【0031】
以上説明した本発明の揮発性防カビ剤は、空間に揮発させてカビに適用し、カビの育成を阻害することにより防カビをすることができる。この場合、本発明の揮発性防カビ剤は、防カビ剤として10mg程度揮発させることにより防カビ効果を発揮することができる。ここで揮発性とは、常温常圧で大気中に容易に揮発する性質のことをいう。
【0032】
本発明の揮発性防カビ剤を揮発させるにあたっては、例えば、不織布等のシート状物を構成する素材に当該材料を混合し、当該素材と当該材料をともにシート化する形態や、当該材料を含む懸濁液を不織布等のシート状物に付与し、必要に応じて液体を蒸発させる方法により、当該材料を吸収コアに担持させる形態等が好ましい。また、本発明の揮発性防カビ剤を揮発させるにあたっては、例えば、適当な揮発装置を用いて揮発させる方法や、ポンプスプレー、エアゾール、超音波振動子、加圧液噴霧スプレーまたは加圧空気霧化噴霧装置等の霧化装置を用い、霧化させた状態で揮発させる方法等が挙げられ、これらの方法により、通常の生活空間中に揮発させることが可能である。
【0033】
シート状物に構成する場合は、当該材料を繊維とともに抄き込んで湿式不織布とする形態を特に挙げることができる。当該材料を繊維とともに抄き込むことで、当該材料を不織布に比較的容易に担持させることができる。
【0034】
本発明の揮発性防カビ剤をシート状物に付与する方法としては、ディップコーター法、スプレーコーター法、フローコーター法、ダイコーター法、ロールコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、バーコーター法、スピンコーター法等、公知のコーティング方法が挙げられる。
【0035】
また、本発明の揮発性防カビ剤を不織布に処理する方法は印刷により塗布することができる。印刷は、何ら特別な印刷設備、加工設備等を必要とせず、スクリーン印刷、グラビア印刷、平版印刷、インクジェット方式等、既存の印刷機をそのまま使用することができる。
【0036】
本発明の揮発性防カビ剤は空間中に揮発させて収納対象物等を防カビすることができる。例えば、タンス、クローゼット、衣装ケース、小物入れ、カメラケース等の中に揮発させ収納物である衣類や革製品、カメラ等の精密機器等に発生するカビを防ぐことができる。
【0037】
また、本発明の揮発性防カビ剤はトイレ内や浴室内に揮発させることにより、トイレの手洗い部、便器、床やふろ場の床、壁、浴槽の防カビをすることができる。
【0038】
また、本発明の揮発性防カビ剤は食品収納庫内に揮発させることにより、かんきつ類やリンゴ、乳製品、小麦粉、パン、もち等の食品の防カビをすることができる。
【0039】
更に、本発明の揮発性防カビ剤は居住空間に揮発させることにより、布団やソファー、壁や床、畳等を防カビすることができる。
【0040】
また更に、本発明の揮発性防カビ剤を処理した不織布等を用いて衣類カバーを作成することにより、防カビ性を有する衣類カバーを製造することもできる。
【0041】
本発明の揮発性防カビ剤で育成を阻害できるカビの種類は特に限定されないが、例えば、クラドスポリウム属、アオカビ属およびコウジカビ属に属するカビの1種または2種以上、好ましくは全種類が挙げられる。これらのカビの中でもクロドスポリウム・スフェロスペルマム(Cladosporium sphaerospermum)、ペニシリウム・シトリナム(Penicillium citrinum)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)の1種または2種以上、好ましくは全種類の育成を好ましく阻害できる。
【0042】
なお、本発明の揮発性防カビ剤は、上記したカビの1種類にしか効果がなかったとしても、それにあった用途に用いることができる。例えば、クラドスポリウム属に属するカビに効果があれば、例えば、浴室、洗面所、トイレの壁面や硬質表面や湿気の高いクローゼット等に収納された衣服の防カビの用途に、アオカビ属に属するカビに効果があれば、例えば、ミカン等の柑橘類、小麦粉等の穀類や乳製品の防カビや居住空間の防カビの用途に、コウジカビ属に属するカビに効果があれば、例えば、パンやもち等の防カビの用途に用いることができる。
【実施例0043】
以下、実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0044】
実 施 例 1
防カビスクリーニング試験:
複数のキノコ菌株についてペニシリウム・シトリナム(Penicillium citrinum)NBRC6352 (以下、PCと略す)を用いて防カビ試験を行った。
(1)キノコ菌株の作製
直径90mm、高さ20mmのシャーレ(内容積127.17ml)にPDA培地及びMA培地の中央に下記表1に示すキノコの菌糸片(直径6mm)を置き、25℃で12日間培養した。
【0045】
【表1】
【0046】
(2)PC胞子懸濁液の作製
グリセリン溶液(グリセリン80質量%、水20質量%)0.1mlをポテトデキストロース寒天培地に塗抹し、25℃で14日間培養した。その後白金耳で約7cm程度カビをかきとり、上記で作成したそれぞれのポテトデキストロース液体培地中に懸濁した。次いで、懸濁液をフィルター入りチップを通して菌糸を除き、それぞれのカビ懸濁液を得た。血球計算盤で胞子数を5か所測定し、平均値を求め下記の計算式により胞子数を求めた。最終的に5.0×105個/ml程度になるように希釈した。
【0047】
【数1】
【0048】
上記で培養したシャーレの蓋側を下にし、蓋側に水を含んだキムワイプ2を敷き、その上にPC胞子懸濁液3を滴下したスライドガラス4を設置した。その上に、培養したキノコ菌株5のある底側を蓋側の上にかぶせて、パラフィルムでシャーレの周囲を巻いて密封し、25℃24時間培養した。培養後、0.002mlのラクトフェノールブルー溶液を滴下して菌糸及び胞子を染色した。スライドガラスを被せ、顕微鏡を用いて100倍の倍率(接眼レンズ10倍、対物レンズ10倍)で胞子数及び発芽した胞子数をカウントし、下記計算式より抑制率を求めた。その結果を表2に示す。
【0049】
【数2】
【0050】
【表2】
【0051】
以上の結果よりキノコ菌株1~6についてはPCの発芽を抑制した。
【0052】
実 施 例 2
防カビ試験:
上記でPCの発芽を抑制した、コガネタケ(本発明品1)、シロカイメンタケ(本発明品2)、アラゲキクラゲ(本発明品3)、ハナビラタケ(本発明品4)、ミネシメジ(本発明品5)、ハナビラニカワタケ(本発明品6)の6種のキノコの菌糸体抽出物の防カビ効果について更に下記の試験を実施した。
【0053】
(1)試験液の調製
(コガネタケ培養液の調製)
MMN培地上で生育したコガネタケの菌株についてMMN液体培地に接種し、25℃で30日間振とう培養した。培養ろ液を吸引ろ過機でろ過して菌糸を取り除き、得られたろ液を酢酸エチルで分配抽出した。得られた酢酸エチル分配層をエバポレーターで濃縮乾固し、100質量%メタノールで濃度10mg/0.1mLになるように再懸濁し試験液とした。
【0054】
(シロカイメンタケ培養液の調製)
PDA培地上で生育したシロカイメンタケの菌株についてPDB液体培地に接種し、25℃で12日間振とう培養した。培養ろ液を吸引ろ過機でろ過して菌糸を取り除き、得られたろ液を酢酸エチルで分配抽出した。得られた酢酸エチル分配層をエバポレーターで濃縮乾固し、100質量%メタノールで濃度10mg/0.1mLになるように再懸濁し試験液とした。
【0055】
(アラゲキクラゲ培養液の調製)
MA培地上で生育したコガネタケの菌株についてMA液体培地に接種し、25℃で30日間振とう培養した。培養ろ液を吸引ろ過機でろ過して菌糸を取り除き、得られたろ液を酢酸エチルで分配抽出した。得られた酢酸エチル分配層をエバポレーターで濃縮乾固し、100質量%メタノールで濃度10mg/0.1mLになるように再懸濁し試験液とした。
【0056】
(ハナビラタケ培養液の調整)
MA培地上で生育したハナビラタケの菌株についてMA液体培地に接種し、25℃で30日間振とう培養した。培養ろ液を吸引ろ過機でろ過して菌糸を取り除き、得られたろ液を酢酸エチルで分配抽出した。得られた酢酸エチル分配層をエバポレーターで濃縮乾固し、100質量%メタノールで濃度10mg/0.1mLになるように再懸濁し試験液とした。
【0057】
(ミネシメジ培養液の調製)
MA培地上で生育したミネシメジの菌株についてMA液体培地に接種し、25℃で30日間振とう培養した。培養ろ液を吸引ろ過機でろ過して菌糸を取り除き、得られたろ液を酢酸エチルで分配抽出した。得られた酢酸エチル分配層をエバポレーターで濃縮乾固し、100質量%メタノールで濃度10mg/0.1mLになるように再懸濁し試験液とした。
【0058】
(ハナビラニカワタケ培養液の調製)
HYG培地上で生育したハナビラニカワタケの菌株についてHYG液体培地に接種し、25℃で30日間振とう培養した。培養ろ液を吸引ろ過機でろ過して菌糸を取り除き、得られたろ液を酢酸エチルで分配抽出した。得られた酢酸エチル分配層をエバポレーターで濃縮乾固し、100質量%メタノールで濃度10mg/0.1mLになるように再懸濁し試験液とした。
【0059】
(2)防カビ試験
以下のカビ胞子についての防カビ試験を行った。
(1)クロドスポリウム・スフェロスペルマム(Cladosporium sphaerospermum) NBRC6348 (以下、CSと略す)
(2)ペニシリウム・シトリナム(Penicillium citrinum)NBRC6352 (以下、PCと略す)
(3)アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger) NBRC9455 (以下、ANと略す)
【0060】
(コロジオンガラスの作製)
コロジオン(5質量%):ジエチルエーテル=1:1の溶液を調製し、洗浄したスライドガラス(25mm×75mm)を上記溶液に1分間浸した。溶液からスライドガラスを取り出し、1分間、乾燥させ、コロジオンガラスを作製した。
(カビ胞子懸濁用のポテトデキストロース(PDB)液体培地の調整)
各カビ胞子の懸濁用のポテトデキストロース(PDB)液体培地を滅菌水を用いて下記濃度に調整した。
CS用:PDB濃度1質量%
PC用:PDB濃度40質量%
AN用:PDB濃度1.3質量%
【0061】
(カビ胞子懸濁液の調整)
それぞれのカビのグリセリン溶液(グリセリン80質量%、水20質量%)0.1mlをポテトデキストロース寒天培地に塗抹し、25℃で14日間培養した。その後白金耳で約7cm程度カビをかきとり、上記で作成したそれぞれのポテトデキストロース液体培地中に懸濁した。次いで、懸濁液をフィルター入りチップを通して菌糸を除き、それぞれのカビ懸濁液を得た。血球計算盤で胞子数を5か所測定し、平均値を求め下記の計算式により胞子数を求めた。最終的に5.0×105個/ml程度になるように希釈した。
【0062】
【数3】
【0063】
直径75mm、高さ120mmの腰高シャーレ(内容積500ml)の蓋側に滅菌水1mlで湿らせたろ紙7を配置しその上にコロジオンガラス8を設置し各胞子懸濁液0.01mlをコロジオンガラスに3点滴下(9)した。一方、腰高シャーレの底側にろ紙10を落下しないようにピンセットで押しつけセッティングし、各発明品のキノコ抽出液を0.1ml均一に滴下した。その後すぐに0.9mlのヘキサンを滴下し、2分間室温で乾燥させた。乾燥後、底側を蓋側の上にかぶせて、パラフィルムでシャーレの周囲を巻いて密封し、25℃18時間培養した。培養後、0.002mlのラクトフェノールブルー溶液を滴下して菌糸及び胞子を染色した。スライドガラスを被せ、顕微鏡を用いて100倍の倍率(接眼レンズ10倍、対物レンズ10倍)で胞子数及び発芽した胞子数をカウントし、3か所の平均値を求めた。下記計算式より抑制率を求めた。なお、ブランクとして、本発明品に変え、メタノール0.1mlを滴下したものを用いた。結果を表3に示す。
【0064】
【数4】
【0065】
【表3】
【0066】
表3から明らかなように、本発明品1~6のキノコの溶媒抽出物は揮発して防カビ効果を示した。本発明品1~4はCS、PC、ANの全てに防かび効果を示し、特に本発明品1~2はCS、PC、ANの全てに優れた防かび効果を示した。
【0067】
製 品 例 1
<防虫シートの作製>
目付15g/mのSMMS不織布(PP製)(旭化成株式会社製)上に、上記で得た本発明品1の揮発性防カビ剤を、グラビア印刷を用いてべた印刷することにより塗布した。次いで不織布を乾燥することにより、防カビシートを得た。
【0068】
製 品 例 2
<ハンガー用衣類カバーの作製>
ポリプロピレンフィルム(厚さ0.025mm)と、上記で得た防カビシートを重ね合わせ、超音波を使用して、図5に示す正面シート11と背面シート12の形状に切断すると同時に、首部13および下部16を除いた上辺周縁部14と側辺周縁部15にて両シートを接着することにより、防カビ効果を有する衣類カバー20を作製した。この衣類カバーはハンガー17にかけて使用する。
【産業上の利用可能性】
【0069】
上記したとおり本発明の揮発性防カビ剤組成物は、揮発して優れた防カビ効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0070】
シャーレ
2 キムワイプ
3 PC胞子懸濁液
4 スライドガラス
5 培養したキノコ菌株
腰高シャーレ
7 湿らせたろ紙
8 コロジオンガラス
9 胞子懸濁液
10 ろ紙(キノコ抽出液)
11 正面シート
12 背面シート
13 首部
14 上辺周縁部
15 側辺周縁部
16 下部
17 ハンガー
20 衣類カバー
図1
図2
図3
図4
図5