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特開2024-110452半導体装置、及び、半導体装置の製造方法
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  • 特開-半導体装置、及び、半導体装置の製造方法 図1
  • 特開-半導体装置、及び、半導体装置の製造方法 図2
  • 特開-半導体装置、及び、半導体装置の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110452
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】半導体装置、及び、半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 25/07 20060101AFI20240808BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20240808BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20240808BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240808BHJP
   H01L 21/60 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
H01L25/08 H
C08G59/40
C09J201/00
C09J11/06
H01L21/60 311S
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014981
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】岡本 凌輔
(72)【発明者】
【氏名】上村 直弥
【テーマコード(参考)】
4J036
4J040
5F044
【Fターム(参考)】
4J036AA01
4J036AD08
4J036DA10
4J036DC02
4J036DC18
4J036DC22
4J036DC28
4J036DC36
4J036HA07
4J036JA06
4J040EC061
4J040EC121
4J040HC13
4J040MA02
4J040MA04
4J040MB05
4J040MB09
4J040NA20
5F044KK02
5F044LL11
5F044RR17
(57)【要約】
【課題】耐久性に優れ、容易に製造可能な半導体装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基板と、接合部を介して下層に接合し半導体素子及びインターポーザーの少なくとも一方から選ばれる上層と、前記上層と前記下層との間に介在する、熱硬化性樹脂組成物を硬化させた接着層と、を備え、前記熱硬化性樹脂組成物の硬化前の粘度が下記(a)及び(b)を満たす、半導体装置。
(a)流動温度に達してから5分間経過時における粘度(V5)が500mPa・s以下
(b)流動温度に達してから40分間経過時における粘度(V40)と前記粘度(V5)との比(V40/V5)が、1以上50以下。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
接合部を介して下層と接合し、半導体素子及びインターポーザーの少なくとも一方から選ばれる上層と、
前記上層と前記下層との間に介在する、熱硬化性樹脂組成物を硬化させた接着層と、
を備え、
前記熱硬化性樹脂組成物の硬化前の粘度が下記(a)及び(b)を満たす、半導体装置。
(a)流動温度に達してから5分間経過時における粘度(V5)が500mPa・s以下
(b)流動温度に達してから40分間経過時における粘度(V40)と前記粘度(V5)との比(V40/V5)が、1以上50以下
【請求項2】
前記下層が前記基板である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記基板と前記半導体素子との間に前記インターポーザーを備え、
前記上層が前記半導体素子であり、且つ、
前記下層が前記インターポーザーである、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記上層と前記下層との間隔が50μm以下である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記半導体素子の表面積が200mm2以上である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記半導体素子の表面積が600mm2以上である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂組成物が、マイクロカプセル型潜在性硬化剤、又は、液状潜在性硬化剤を含む、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記液状潜在性硬化剤が、下記式(1)、(2)及び(3)で示される化合物の少なくとも一種を含有する、請求項7に記載の半導体装置。
【化1】
(式(1)~(3)中、R1は、各々独立して、水素原子;或いは、水酸基、カルボニル基、エステル結合、若しくはエーテル結合を有していてもよい、炭素数1~15の、1価又はn価の有機基を表す。R2及びR3は、各々独立して、未置換若しくは置換基を有する、炭素数1~12のアルキル基、アリール基、アラルキル基又は、R2及びR3が連結した炭素数7以下のヘテロ環を表す。R4は、各々独立して、水素原子;或いは、酸素原子を含んでもよい、炭素数1~30の、1価又はn価の有機基を表し;nは1~3の整数を表す。)
【請求項9】
前記半導体素子が、ダイオード、トランジスタ、サイリスタ、モジュール、受光導体、センサー、集積回路、メモリ、ロジック、CPU、GPU、及び、ASICから選ばれる少なくとも1種である、請求項1~8のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項10】
基板と、
接合部を介して下層と接合し、半導体素子及びインターポーザーの少なくとも一方から選ばれる上層と、を備えた半導体装置の製造方法であって、
前記上層と前記下層との間隙を熱硬化性接着剤で充填して前記上層と前記下層とを接着する工程を含み、
前記熱硬化性接着剤の粘度が下記(a)及び(b)を満たす、半導体装置の製造方法。
(a)流動温度に達してから5分間経過時における粘度(V5)が500mPa・s以下
(b)流動温度に達してから40分間経過時における粘度(V40)と前記粘度(V5)との比(V40/V5)が、1以上50以下
【請求項11】
前記熱硬化性接着剤が、マイクロカプセル型潜在性硬化剤、又は、液状潜在性硬化剤を含む、請求項10に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記液状潜在性硬化剤が、下記式(1)、(2)又は(3)で示される化合物の少なくとも一種を含有する、請求項11に記載の半導体装置の製造方法。
【化2】
(式(1)~(3)中、R1は、各々独立して、水素原子;或いは、水酸基、カルボニル基、エステル結合、若しくはエーテル結合を有していてもよい、炭素数1~15の、1価又はn価の有機基を表す。R2及びR3は、各々独立して、未置換若しくは置換基を有する、炭素数1~12のアルキル基、アリール基、アラルキル基又は、R2及びR3が連結した炭素数7以下のヘテロ環を表す。R4は、各々独立して、水素原子;或いは、酸素原子を含んでもよい、炭素数1~30の、1価又はn価の有機基を表し;nは1~3の整数を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着層を備えた半導体装置、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の高機能化に伴い、電子機器に使用される半導体装置に求められる要求が多用化している。例えば、半導体装置の小型化や、半導体チップの大型化など用途によって求められる要求は多岐に渡る。また、近年、高集積化技術としてインターポーザーが多く活用されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
半導体装置において、半導体チップ等の電子部材と回路基板との間隙、電子部材とインターポーザーとの間隙、及び、インターポーザーと回路基板との間隙等のギャップ間に樹脂(封止材)で補強する場合、半田接合後に液状の樹脂組成物(アンダーフィル材)を供給し、これを硬化する技術が採用されている(例えば、下記特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-175009号公報
【特許文献2】特開2015-507360号公報
【特許文献3】特開2016-58627号公報
【特許文献4】特開2014-197675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従前より半導体装置の薄化に伴い、半田接合部は狭ピッチ化/狭ギャップ化している。一方、近年では半導体素子の表面積大型化も進んでいる。このように、狭いギャップ間や大型の半導体素子を用いた場合、半導体素子やインターポーザーと基板等とのギャップ間に、十分に熱硬化性樹脂組成物(熱硬化性接着剤)が浸透することが求められる。しかし、従前の接着剤や液状の樹脂組成物を用いて半田接合後に液状の熱硬化性樹脂組成物を供給しても、ギャップ間に熱硬化性樹脂組成物が十分に行き渡らず、ギャップ間を完全に充填することが困難になるという問題が生じている。このような問題に対し、NCF(Non-Conductive-Film)と呼ばれる接着フィルムを用いることも考えられるが、一般に、NCFは、半田接合部の信頼性を両立することが難しく、より簡便に、狭ピッチ化/狭ギャップ化、或いは、大型化する半導体素子に容易に対応でき、十分な耐久性を付与できる技術の開発が切望されている。
【0006】
本発明によれば、耐久性に優れ、容易に製造可能な半導体装置及びその製造方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の実施形態を含む。
<1>
基板と、
接合部を介して下層と接合し、半導体素子及びインターポーザーの少なくとも一方から選ばれる上層と、
前記上層と前記下層との間に介在する、熱硬化性樹脂組成物を硬化させた接着層と、
を備え、
前記熱硬化性樹脂組成物の硬化前の粘度が下記(a)及び(b)を満たす、半導体装置。
(a)流動温度に達してから5分間経過時における粘度(V5)が500mPa・s以下
(b)流動温度に達してから40分間経過時における粘度(V40)と前記粘度(V5)との比(V40/V5)が、1以上50以下
<2>
前記下層が前記基板である、前記<1>に記載の半導体装置。
<3>
前記基板と前記半導体素子との間に前記インターポーザーを備え、
前記上層が前記半導体素子であり、且つ、
前記下層が前記インターポーザーである、前記<1>に記載の半導体装置。
<4>
前記上層と前記下層との間隔が50μm以下である、前記<1>~<3>のいずれか一つに記載の半導体装置。
<5>
前記半導体素子の表面積が200mm2以上である、前記<1>~<4>のいずれか一つに記載の半導体装置。
<6>
前記半導体素子の表面積が600mm2以上である、前記<1>~<5>のいずれか一つに記載の半導体装置。
<7>
前記熱硬化性樹脂組成物が、マイクロカプセル型潜在性硬化剤、又は、液状潜在性硬化剤を含む、前記<1>~<6>のいずれか一つに記載の半導体装置。
<8>
前記液状潜在性硬化剤が、下記式(1)、(2)及び(3)で示される化合物の少なくとも一種を含有する、前記<7>に記載の半導体装置。
【化1】
(式(1)~(3)中、R1は、各々独立して、水素原子;或いは、水酸基、カルボニル基、エステル結合、若しくはエーテル結合を有していてもよい、炭素数1~15の、1価又はn価の有機基を表す。R2及びR3は、各々独立して、未置換若しくは置換基を有する、炭素数1~12のアルキル基、アリール基、アラルキル基、又は、R2及びR3が連結した炭素数7以下のヘテロ環を表す。R4は、各々独立して、水素原子;或いは、酸素原子を含んでもよい、炭素数1~30の、1価又はn価の有機基を表し;nは1~3の整数を表す。)
<9>
前記半導体素子が、ダイオード、トランジスタ、サイリスタ、モジュール、受光導体、センサー、集積回路、メモリ、ロジック、CPU、GPU、及び、ASICから選ばれる少なくとも1種である、前記<1>~<8>のいずれか一つに記載の半導体装置。
<10>
基板と、
接合部を介して下層と接合し、半導体素子及びインターポーザーの少なくとも一方から選ばれる上層と、を備えた半導体装置の製造方法であって、
前記上層と前記下層との間隙を熱硬化性接着剤で充填して前記上層と前記下層とを接着する工程を含み、
前記熱硬化性接着剤の粘度が下記(a)及び(b)を満たす、半導体装置の製造方法。
(a)流動温度に達してから5分間経過時における粘度(V5)が500mPa・s以下
(b)流動温度に達してから40分間経過時における粘度(V40)と前記粘度(V5)との比(V40/V5)が、1以上50以下
<11>
前記熱硬化性接着剤が、マイクロカプセル型潜在性硬化剤、又は、液状潜在性硬化剤を含む、前記<10>に記載の半導体装置の製造方法。
<12>
前記液状潜在性硬化剤が、下記式(1)、(2)又は(3)で示される化合物の少なくとも一種を含有する、前記<11>に記載の半導体装置の製造方法。
【化2】
(式(1)~(3)中、R1は、各々独立して、水素原子;或いは、水酸基、カルボニル基、エステル結合、若しくはエーテル結合を有していてもよい、炭素数1~15の、1価又はn価の有機基を表す。R2及びR3は、各々独立して、未置換若しくは置換基を有する、炭素数1~12のアルキル基、アリール基、アラルキル基、又は、R2及びR3が連結した炭素数7以下のヘテロ環を表す。R4は、各々独立して、水素原子;或いは、酸素原子を含んでもよい、炭素数1~30の、1価又はn価の有機基を表し;nは1~3の整数を表す。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐久性に優れ、容易に製造可能な半導体装置及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】熱硬化性樹脂組成物の硬化前後における本実施形態の半導体装置の一態様を示す模式図である。
図2】インターポーザーを備えた本実施形態の半導体装置の一態様を示す模式図である。
図3】複数の半導体素子を備えた本実施形態の一態様を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0011】
《半導体装置》
本実施形態の半導体装置は、基板と、接合部を介して下層と接合し半導体素子及びインターポーザーの少なくとも一方から選ばれる上層と、前記上層と前記下層との間に介在する熱硬化性樹脂組成物を硬化させた接着層と、を備え、前記熱硬化性樹脂組成物の硬化前の粘度が下記(a)及び(b)(以下、各々「条件(a)」「条件(b)」と称することがある)を満たす。
【0012】
(a)流動温度に達してから5分間経過時における粘度(V5)が500mPa・s以下
(b)流動温度に達してから40分間経過時における粘度(V40)と前記粘度(V5)との比(V40/V5)が、1以上50以下である。
【0013】
本実施形態の半導体装置は、基板と、半田等で形成された接合部を介して下層に接合し半導体素子及びインターポーザーの少なくとも一方から選ばれる上層と、を備えた半導体装置の製造方法であって、前記上層と前記下層との間隙を熱硬化性接着剤で充填して前記上層と前記下層とを接着する工程を含み、前記熱硬化性接着剤の粘度が上述の条件(a)及び条件(b)を満たす、半導体装置の製造方法によって製造することができる。
【0014】
本実施形態の半導体装置は、粘度が条件(a)及び(b)を満たす熱硬化性樹脂組成物(以下、「熱硬化性接着剤」とも称することがある。)を硬化させた接着層を有する。本実施形態における熱硬化性接着剤(以下、単に「本実施形態における接着剤」と称することがある)は、流動温度に達してから5分間経過時における粘度(V5)が500mPa・s以下であり、且つ、流動温度に達してから40分間経過時における粘度(V40)と前記粘度(V5)との比(V40/V5)が、1以上50以下であることから、加熱硬化により接着層を形成する際に熱硬化性接着剤が低粘度化している時間を一定以上維持できる。これにより、接着層を形成する際に、上層と下層との間隙(ギャップ)が狭い(例えば、50μm以下)場合や、大型の半導体素子の場合(例えば、表面積が600mm2以上)であっても、本実施形態における接着剤を上層と下層との間に注入した際に十分に浸透し、空隙の発生を抑制しつつ上層と下層とのギャップ(間隙)を容易に充填することができる。
以上のように、本実施形態における熱硬化性接着剤を用いると、上層と下層との間に、空隙が少なく上層と下層との密着性に優れる接着層を容易に形成することができるため、耐久性に優れた半導体装置を歩留まりよく容易に製造することができる。
【0015】
また、後述のようにマイクロカプセル型潜在性硬化剤、又は、液状潜在性硬化剤を含む本実施形態における熱硬化性接着剤を用いると、破壊時に凝集破壊モードとすることができる。このため、マイクロカプセル型潜在性硬化剤、又は、液状潜在性硬化剤を含む本実施形態における熱硬化性接着剤を用いると、接着層の耐衝撃性や耐久性をさらに向上させることができる。
【0016】
本実施形態における接着剤としてはエポキシ樹脂を含むものを用いることができ、さらに、マイクロカプセル型潜在性硬化剤、及び、液状潜在性硬化剤の少なくともいずれか(以下、これらを総じて単に「潜在性硬化剤」と称することがある。)を含む接着剤を好ましい例として挙げることができる。これら潜在性硬化剤は、熱硬化性樹脂と共存させた接着剤の状態であっても常温で保存が可能であり、加熱した際にも流動温度に達してから一定時間低粘度状態を維持できるとともに、所定の時間経過後は速やかに硬化させることができる。このため、潜在性硬化剤を含む熱硬化性接着剤は、取り扱い性や、極狭の間隙等への浸透性に優れることから、半導体素子、インターポーザー及び基板間に、効率よく、容易に、空隙が少なく密着性及び耐久性に優れた接着層を形成することができる。
【0017】
マイクロカプセル型潜在性硬化剤としては、例えば、旭化成株式会社製の「ノバキュア(登録商標)」(参考HP:https://asahi-kasei-nvc.com/)として入手することができる。
なお、各潜在性硬化剤を含む接着剤の詳細については後述する。
【0018】
(半導体装置の構成)
本実施形態の半導体装置は、少なくとも、基板と、接合部を介して下層に接合し半導体素子及びインターポーザーの少なくとも一方から選ばれる上層と、接着層と、を備える。本実施形態において「下層」とは、接着層以外の層であって、上層の直下に位置し、上層を接合部と介して接合される層を意味する。上層及び下層の例としては、例えば、以下の組み合わせを挙げることができる。
【0019】
【表1】
【0020】
例えば、半導体装置が、基板上に半導体素子を搭載しており、基板と半導体素子とが接合部を介して電気的に接合された構成である場合、上層が半導体素子、下層が基板となり(パターン1)、上層と下層との間に本実施形態における接着層が設けられる。
また、各パターンは組み合わせることも可能である。例えば、半導体装置が、基板と半導体素子との間にインターポーザーを備えており、半導体素子とインターポーザーとが接合部を介して電気的に接合され、且つ、インターポーザーと基板とが接合部を介して電気的に接合された構成である場合、半導体素子とインターポーザーとの関係では、上層が半導体素子、下層がインターポーザーとなり(パターン2)、インターポーザーと基板との関係では、上層がインターポーザー、下層が基板となり(パターン3)となる。この場合、各上層と下層との間には本実施形態における接着層が設けられ、表中のパターン2とパターン3とを組み合わせと見なすことができる。
【0021】
(適用例1)
本実施形態の半導体製造装置の一態様につき図1を用いて本実施形態における接着層と各部材との関係について説明する。図1は、熱硬化性樹脂組成物の硬化前後における本実施形態の半導体装置の一態様を示す模式図である。図1(A)は本実施形態における熱可塑性樹脂組成物を半導体素子及び基板間に注入している際の状態を示し、図1(B)は硬化後の接着層を備えた半導体装置を示す。以下、図1(A)及び図1(B)に共通する事項については単に“図1”と称して説明を行う。各図において共通の部材には同様の番号を付して説明を省略する。また、図1~3は模式図であり、各図に示される基板、接着層、半導体素子、インターポーザー、接合物、及び、各端子のサイズ、各部材間の大きさの比、間隙の幅等は図に示すものに限定されるものではない。
【0022】
図1に示すように、半導体装置100は、基板10と、半導体素子20と、を備える。半導体装置100において、半導体素子20が上層に該当し、基板10が下層に該当する。基板10は、半導体素子20と半田バンプ40(接合部)を介して接合可能な基板であり、その例としては、プリント配線基板等が挙げられる。基板10の半導体素子20と対向する面には、半導体素子20の端子22と対応する複数の電極パッド12が設けられており、半田バンプ40を介して基板10と半導体素子20とが電気的に接合可能なように構成されている。
【0023】
半導体素子20は、複数の端子22を有しており、半田バンプ40を介して下層である基板10に接合されている。半導体素子20としては特に限定はなく、例えば、各種ダイオード、トランジスタ、サイリスタ、モジュール、各種受光導体、各種センサー、集積回路、メモリ、ロジック、CPU、GPU、及び、ASIC等が挙げられる。また、図1(B)に示すように、半導体素子20と基板10との間には接着層30が設けられている。接着層30は、熱硬化性樹脂組成物(熱硬化性接着剤)を硬化させた樹脂層である。また、熱硬化性接着剤32は、エポキシ樹脂と、潜在性硬化剤とを含む熱硬化性樹脂組成物である。以下、接着層30の形成方法に説明する。本実施形態の半導体素子の製造方法は、上層(半導体素子20)と下層(基板10)との間隙(ギャップ)を熱硬化性接着剤で充填し、上層と下層とを接着する工程を含む。本実施形態の半導体素子の製造方法においては、図1(A)に示すように、半導体素子20と基板10とを半田バンプ40によって接合した後に、上層(半導体素子20)と下層(基板10)との間隙に熱硬化性接着剤32を充填させる。
【0024】
具体的には、まず、図1(A)に示すように樹脂抽出口50から半導体素子20と基板10との間隙に熱硬化性接着剤32を注入する。この際、熱硬化性接着剤32は流動温度にまで加熱されている。熱硬化性接着剤32の充填時における諸条件については後述する。半導体素子20と基板10との間隙に熱硬化性接着剤32が注入されると、熱硬化性接着剤32は毛細管流動現象により図1(A)中に示す矢印Xの方向に浸透し、間隙内を充填する。特に、熱硬化性接着剤32は一定時間低粘度状態を維持できるため、前記間隙内への浸透性が高く、耐久性の高い接着層を容易に形成することができる。本実施形態における熱硬化性樹脂組成物は、間隙内への注入後に、従来公知の方法等により熱硬化させることで接着層30とすることができる。
【0025】
ここで、図1(A)中、矢印Wは、上層と下層との間隔の幅(以下、「ギャップ幅」と称することがある。)を示す。近年、半導体装置の多様化・微細化が進み、上層と下層とのギャップ幅も多用化している。例えば、ギャップ幅が50μm以下(さらには30μm以下)の極狭の半導体装置の開発も進められているが、ギャップ幅が極狭の場合、本実施形態の製造方法のように、半導体素子20と基板10とを半田バンプ40によって接合した後、上層と下層との間隙に熱硬化性接着剤32を注入し、間隙内を硬化性樹脂組成物で充填させる方法が好ましい。一方、近年では表面積の大きい(例えば、600mm2)大型の半導体素子やインターポーザーを搭載した半導体装置の開発も積極的に進められている。しかし、大型の半導体素子、インターポーザー及び基板の間隙に接着剤を注入する手段によると、満遍なく間隙に接着剤を浸透させるためには、一定時間接着剤が硬化せず低粘度の状態を維持できる等の大面積に対する浸透性が求められる。この点、熱硬化性接着剤32は、上述の条件(a)及び(b)を満足するものであり、流動温度に達してから5分間経過時における粘度(V5)が500mPa・s以下であるため、ギャップ幅が極狭でありながら大型の半導体素子20を基板10上に搭載する場合であっても、密着性に優れた接着層30を容易に形成することができる。特に、硬化剤として潜在性硬化剤(ノバキュアシリーズ)を用いることが好ましく、液状の非マイクロカプセル型潜在性硬化剤を用いることがさらに好ましい、熱硬化性接着剤を用いることにより耐久性の高い接着層を容易に形成することができる。
【0026】
(適用例2)
本実施形態の半導体製造装置の別の態様につき図2を用いて本実施形態における接着層と各部材との関係について説明する。図2は、インターポーザーを備えた本実施形態の半導体装置の一態様を示す模式図である。半導体装置200は、インターポーザーを備え、複数の半導体素子がインターポーザーに搭載された半導体装置である。
【0027】
図2に示すように、半導体装置200は、基板10Aと、半導体素子20A、半導体素子20Bと、インターポーザー210と、を備える。半導体装置200において、上層と下層との組み合わせは以下の通りである。
組み合わせ(1):半導体素子20A(上層)、インターポーザー210(下層)
組み合わせ(2):半導体素子20B(上層)、インターポーザー210(下層)
組み合わせ(3):インターポーザー210(上層)、基板10A(下層)
【0028】
インターポーザー210は、半導体素子20A及び半導体素子20B、並びに、基板10Aと各半田バンプ(接合部)を介して接合される。インターポーザー210の半導体素子20A及び20Bと対向する面には、各半導体素子の端子22A又は端子22Bに対応する複数の電極パッド214が設けられており、半田バンプ40A又は40Bを介して半導体素子20とインターポーザー210とが電気的に接合可能なように構成されている。また、インターポーザー210の基板10Aと対向する面には、複数の端子212が設けられており、半田バンプ12Aを介して下層である基板10Aと電気的に接合されている。
【0029】
基板10Aは、インターポーザー210と半田バンプ12A(接合部)を介して接合可能な基板である。基板10Aのインターポーザー210と対向する面には、インターポーザー210の端子212と対応する複数の電極パッドが設けられており、半田バンプ12Aを介して基板10と半導体素子20とが電気的に接合されている。
【0030】
半導体素子20A及び半導体素子20Bは、各々複数の端子22A又は端子22Bを有しており、半田バンプ40A又は半田バンプ40Bを介して下層であるインターポーザー210と電気的に接合されている。
【0031】
半導体装置200は、図2に示すように、上述の組み合わせ(1)~(3)の各々において、上層と下層との間に接着層30A、接着層30B、及び、接着層230を有する。接着層30A及び30Bは、熱硬化性樹脂組成物(熱硬化性接着剤)を硬化させた樹脂層である。接着層30A及び30Bには、硬化剤として潜在性硬化剤(ノバキュアシリーズ)を用いた熱硬化性樹脂組成物(熱硬化性接着剤)を用いることが好ましい。なお、半導体装置200において、各接着層を形成する順番については特に限定はない。
【0032】
(適用例3)
以上、説明したように、本実施形態の半導体装置は、条件(a)及び(b)を満たす熱硬化性樹脂組成物(熱硬化性接着剤)を硬化させた接着層を備えるため、耐久性に優れ、容易に製造することができる。
【0033】
本実施形態の半導体装置は、一枚の基板、乃至、インターポーザー上に複数の半導体素子を備えていてもよい。図3は、複数の半導体素子を備えた本実施形態の一態様を示す模式図であり、インターポーザーの表面を上方から観察した図である。本実施形態の半導体装置300は、例えば、図3に示すように、基板310上に搭載されたインターポーザー330上に、5つの半導体素子(半導体素子320A~320E)を配置することができる。各半導体素子320A~320E(上層)とインターポーザー330(下層)との間、及び、インターポーザー330(上層)と基板310(下層)との間には各々、図示を省略する本実施形態における接着層が形成される。
【0034】
特に限定されるものではないが、例えば、半導体素子320Eとしては、その表面積が200mm2以上とすることができ、さらに600mm2以上(さらには800mm2以上)のものを用いることができる。この場合、インターポーザー330の表面積は、例えば、1150mm2以上(さらには1600mm2以上)とすることができ、基板310の表面積は、例えば、3600mm2以上とすることができる。
【0035】
以上、説明したように、本実施形態の半導体装置は、条件(a)及び(b)を満たす熱硬化性接着剤(熱硬化性樹脂)を硬化させた接着層を備えるため、耐久性に優れ、容易に製造することができる。
【0036】
《熱硬化性樹脂組成物(熱硬化性接着剤)》
以下、本実施形態における熱硬化性樹脂組成物(熱硬化性接着剤)について説明する。上述の通り、熱硬化性樹脂組成物の硬化前の粘度が下記(a)及び(b)を満たす。
(a)流動温度に達してから5分間経過時における粘度(V5)が500mPa・s以下
(b)流動温度に達してから40分間経過時における粘度(V40)と前記粘度(V5)との比(V40/V5)が、1以上50以下
【0037】

ここで、「流動温度」とは、熱硬化性樹脂組成物を上層と下層との間隙(ギャップ)に流し込む際の温度を意味する。当該温度は、任意の温度であり対象等に応じて適宜変更可能であるが、例えば、60℃、80℃、110℃等に設定することができる。また、測定時間は、熱硬化性樹脂組成物が、流動温度(例えば、60℃、又は、110℃)に達し、一定となった状態で、粘度計が測定を開始した時点より計測することができる。
【0038】
熱硬化性樹脂組成物の粘度は、後述する実施例に記載の方法によって測定することができる。
熱硬化性樹脂組成物の流動温度に達してから5分間経過時における粘度(V5)が500mPa・s以下であり、0.1mPa・s~300mPa・sが好ましく、0.1mPa・s~200mPa・sがさらに好ましい。粘度(V5)が、500mPa・s以下であると、接着層を形成する際に、上層と下層との間隙に熱硬化性樹脂組成物を十分浸透させることができる。
熱硬化性樹脂組成物の流動温度に達する前の粘度(V0)は特に限定はないが、取り扱い性の観点から、0.1mPa・s~500Pa・sが好ましく、0.1mPa・s~300Pa・sがさらに好ましい。
流動温度に達してから40分間経過時における粘度(V40)は特に限定はないが、流動性の観点から、0.1mPa・s~25Pa・sが好ましく、0.1mPa・s~10Pa・sがさらに好ましい。
流動温度に達してから40分間経過時における粘度(V40)と前記粘度(V5)との比(V40/V5)は、1以上50以下であり、1以上20以下がさらに好ましい。比(V40/V5)が、1以上50以下であると、熱硬化性樹脂組成物の低粘度状態を十分に維持しつつ、接着層の硬化性を高めることができる。
【0039】
熱硬化性樹脂組成物の硬化方法は特に制限はなく、公知の方法によって行うことができる。例えば、まず、熱硬化性樹脂組成物をその流動温度(例えば、60~120℃に加熱し、半導体素子と基板と間隙等に充填させた後、さらに、加熱(例えば、100~180℃で1分間~120分間することで熱硬化性樹脂組成物を硬化させて接着層とすることができる。
【0040】
熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と硬化剤とを含むことができる。熱硬化性樹脂としては特に限定されるものではないが、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂等を挙げることができる。熱硬化性樹脂組成物に用いることのできるエポキシ樹脂の例としては後述するエポキシ樹脂(C)を挙げることができる。
本実施形態における硬化剤としては、潜在性硬化剤を用いることが好ましく、マイクロカプセル型潜在性硬化剤、又は、液状潜在性硬化剤を用いることがさらに好ましい。
【0041】
(1)マイクロカプセル型潜在性硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物(熱硬化性接着剤)
本実施形態における熱硬化性樹脂組成物(熱硬化性接着剤)は、マイクロカプセル型潜在性硬化剤と、熱硬化性樹脂と、で構成することができる。マイクロカプセル型潜在性硬化剤は、アミン系硬化剤(A)を含むコアと、コアを被覆するカプセル膜と、を含む。また、熱硬化性樹脂としては、後述のエポキシ化合物(C)を用いることができる。
【0042】
(1)-1:マイクロカプセル型潜在性硬化剤
(アミン系硬化剤(A))
マイクロカプセル型潜在性硬化剤は、アミン系硬化剤(A)を含むコアをカプセル膜が被覆している。本実施形態で用いられるアミン系硬化剤(A)としては、エポキシ樹脂用アミン系硬化剤が好ましい。エポキシ樹脂用アミン系硬化剤としては、例えば、変性ポリアミン系、脂肪族ポリアミン系、複素環式ポリアミン系、脂環式ポリアミン系、芳香族アミン系、ポリアミドアミン系、アミンアダクト系、ケチミン系、ウレタンアミン系の硬化剤が挙げられる。また、前述のアミン系硬化剤に更に低分子アミン化合物を含むことがより好ましい。
低分子アミン化合物としては、一級、二級及び/又は三級アミノ基を有する低分子化合物が挙げられる。
【0043】
低分子アミン化合物としては、一級、二級及び/又は三級アミノ基を有する低分子化合物が挙げられる。
一級アミノ基を有する低分子化合物としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、メタキシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、メタフェニレンジアミン等の一級アミン類;ジシアンジアミド、メチルグアニジン、エチルグアニジン、プロピルグアニジン、ブチルグアニジン、ジメチルグアニジン、トリメチルグアニジン、フェニルグアニジン、ジフェニルグアニジン、トルイルグアニジン等のグアニジン類;コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、p-オキシ安息香酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、フェニルアミノプロピオン酸ヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド等の酸ヒドラジド類が例示される。
二級アミノ基を有する低分子化合物としては、ピペリジン、ピロリジン、ジフェニルアミン、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール等が例示される。
三級アミノ基を有する低分子化合物としては、1-シアノエチル-2-ウンデシル-イミダゾール-トリメリテート、イミダゾリルコハク酸、2-メチルイミダゾールコハク酸、2-エチルイミダゾールコハク酸、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール等のイミダゾール類や、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N’-ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、1、8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7、1、5-ジアザビシクロ(4,3,0)-ノネン-5、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、ピリジン、ピコリン等が例示される。
【0044】
(カプセル膜)
マイクロカプセル型潜在性硬化剤は、コアの表面を、合成樹脂及び/又は無機酸化物を含むカプセル膜によって被覆されている構造を有するものであることが好ましい。これらの中でも、保管時の安定性と加熱時の破壊し易さを両立する観点から、カプセル膜は、合成樹脂を含むことが好ましい。
合成樹脂としては、以下に限定されないが、例えば、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ウレタン系樹脂等が挙げられる。
【0045】
-マスターバッチ型硬化剤-
マイクロカプセル型潜在性硬化剤を、次に説明するマスターバッチ型硬化剤にすることで、本実施形態における熱硬化性樹脂組成物を得る際に、硬化剤とエポキシ樹脂との混合が容易になり好ましい。
マスターバッチ型硬化剤は、マイクロカプセル型潜在性硬化剤100質量部に対してエポキシ樹脂(B)を10~5,000質量部、好ましくは20~2,000質量部、より好ましくは30~1,000を含む。エポキシ樹脂(B)が10質量部以上で取り扱いが容易なマスターバッチ型硬化剤が得られ、5,000質量部以下で実質的に硬化剤又は硬化促進剤としての性能を発揮する。
【0046】
(エポキシ樹脂(B))
本実施形態においては、エポキシ樹脂(B)及び後述するエポキシ樹脂(C)とは、1分子内に2つ以上のエポキシ基を有する化合物、及び高分子化合物である。
エポキシ樹脂(B)としては、以下に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂、ビスフェノールP型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂、テトラブロモビフェニル型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、ベンゾフェノン型エポキシ樹脂、フェニルベンゾエート型エポキシ樹脂、ジフェニルスルフィド型エポキシ樹脂、ジフェニルスルホキシド型エポキシ樹脂、ジフェニルスルホン型エポキシ樹脂、ジフェニルジスルフィド型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ヒドロキノン型エポキシ樹脂、メチルヒドロキノン型エポキシ樹脂、ジブチルヒドロキノン型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、メチルレゾルシン型エポキシ樹脂、カテコール型エポキシ樹脂等の2官能型エポキシ樹脂類;N,N-ジグリシジルアミノベンゼン型エポキシ樹脂、トリアジン型エポキシ樹脂等の3官能型エポキシ樹脂類;テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジアミノベンゼン型エポキシ樹脂等の4官能型エポキシ樹脂類;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ブロモ化フェノールノボラック型エポキシ樹脂等の多官能型エポキシ樹脂類;及び脂環式エポキシ樹脂類が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。さらに、これらをイソシアネート等で変性したエポキシ樹脂等も併用することができる。
【0047】
マスターバッチ型硬化剤に含まれるエポキシ樹脂(B)は、取り扱い性と耐熱性との観点から、ビスフェノール型エポキシ樹脂を含むことが好ましく、保存安定性と良好な反応性とを付与する観点からビスフェノールF型エポキシ樹脂を含むことがより好ましく、十分な機械特性を付与する観点から、さらにビスフェノールA型エポキシ樹脂を含むことがさらに好ましい。
【0048】
マスターバッチ型硬化剤は、マイクロカプセル型潜在性硬化剤とエポキシ樹脂(B)とを含むが、その機能を低下させない範囲で、その他の成分を含有することができる。その他の成分の含有量は、好ましくは30質量%未満である。
【0049】
(1)-2:エポキシ樹脂(C)
エポキシ樹脂(C)に、マイクロカプセル型潜在性硬化剤及び/又はマスターバッチ型硬化剤(以下本実施形態における潜在性硬化剤と称す)を混合して本実施形態における接着剤(本実施形態における熱硬化性樹脂組成物)が得られる。
【0050】
本実施形態における熱硬化性樹脂組成物に用いられるエポキシ樹脂(C)は、前述のエポキシ樹脂(B)として挙げた化合物が例示できる。
【0051】
また、本実施形態に用いられるエポキシ樹脂(C)には、エポキシ樹脂の高分子量体で、自己成膜性を有する一般にフェノキシ樹脂と呼ばれる樹脂をも包含される。
本実施形態における潜在性硬化剤とエポキシ樹脂(C)の混合比は、硬化性、硬化物の特性の面から決定されるものであるが、好ましくはエポキシ樹脂(C)100質量部に対して、本実施形態における潜在性硬化剤中に含まれるマイクロカプセル型潜在性硬化剤量が0.1~100質量部となる量で用いればよい。より好ましくは、0.2~80質量部、更に好ましくは、0.5~60質量部である。0.1質量部以上で実用的に満足し得る硬化性能を得ることができ、100質量部以下で、マイクロカプセル型潜在性硬化剤が偏在することなく、バランスの良い硬化性能を有する硬化剤を与える。
【0052】
(1)-3:他の硬化剤(D)
本実施形態における接着剤は、本実施形態における潜在性硬化剤以外に、硬化剤(D)を併用することができる。
硬化剤(D)としては、アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、フェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤、活性エステル系硬化剤、触媒型硬化剤、等が挙げられる。
【0053】
アミン系硬化剤としては、以下に限定されないが、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン等が挙げられる。
脂肪族アミンとしては、以下に限定されないが、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタミン、m-キシレンジアミン、トリメチルへキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、イソフォロンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン等が挙げられる。
芳香族アミンとしては、以下に限定されないが、例えば、ジアミノジフェニルメタン、m-フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ジエチルトルエンジアミン、トリメチレンビス(4-アミノベンゾエート)、ポリテトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエート、KAYAHARD A-A(日本化薬製)、エタキュア100(三井化学ファイン製)等が挙げられる。
【0054】
アミド系硬化剤としては、以下に限定されないが、例えば、(C-3)ジシアンジアミド及びその誘導体であるグアニジン系化合物、又はアミン系化合物に酸無水物を付加させた化合物、並びにヒドラジド系化合物が挙げられる。
ヒドラジド系化合物としては、以下に限定されないが、例えば、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドテレフタル酸ジヒドラジド、p-オキシ安息香酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、フェニルアミノプロピオン酸ヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド等が挙げられる。
グアニジン系化合物としては、以下に限定されないが、例えば、ジシアンジアミド、メチルグアニジン、エチルグアニジン、プロピルグアニジン、ブチルグアニジン、ジメチルグアニジン、トリメチルグアニジン、フェニルグアニジン、ジフェニルグアニジン、トルイルグアニジン等が挙げられる。
【0055】
フェノール系硬化剤としては、以下に限定されないが、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂、ビフェニル変性フェノールアラルキル樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、アミノトリアジン変性フェノール樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール-フェノール共縮合ノボラック樹脂、ナフトール-クレゾール共縮合ノボラック樹脂、アリルアクリルフェノール樹脂等が挙げられる。
【0056】
酸無水物系硬化剤としては、以下に限定されないが、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
【0057】
活性エステル系硬化剤を構成する活性エステル化合物としては、特開2004-277460号公報に開示されている活性エステル化合物を用いてもよく、また市販のものを用いることもできる。市販されている活性エステル化合物としては、以下に限定されないが、例えば、ジシクロペンタジエニルジフェノール構造を含むもの、フェノールノボラックのアセチル化物、フェノールノボラックのベンゾイル化物が好ましく、特にジシクロペンタジエニルジフェノール構造を含むものがより好ましい。ジシクロペンタジエニルジフェノール構造を含むものとしては、以下に限定されないが、例えば、EXB9451、EXB9460、EXB9460S、HPC-8000-65T(DIC(株)製)、フェノールノボラックのアセチル化物としてDC808(ジャパンエポキシレジン(株)製)、フェノールノボラックのベンゾイル化物としてYLH1026(ジャパンエポキシレジン(株)製)等が挙げられる。
【0058】
触媒型硬化剤としては、以下に限定されないが、例えば、カチオン系熱硬化触媒、BF3-アミン錯体等が挙げられる。
【0059】
上述の他の硬化剤(D)としては、マイクロカプセル型潜在性硬化剤と併用した際に、良好な保存安定性を維持しつつ、十分な硬化物強度を付与する観点から、ジシアンジアミド、フェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤、活性エステル系硬化剤が好ましい。
【0060】
硬化剤(D)を使用する場合、エポキシ樹脂(C)100質量部に対して、他の硬化剤(D)を1~200質量部、本実施形態における潜在性硬化剤をマイクロカプセル型潜在性硬化剤の全量が0.1~100質量部となる量で用いるのが好ましい。
硬化剤(D)を上述の範囲で用いることで硬化性と貯蔵安定性とに優れた組成物を与え、耐熱性、耐水性に優れた硬化物を得ることができる。
【0061】
(1)-4:添加剤
本実施形態におけるマイクロカプセル型潜在性硬化剤を用いて接着剤を製造する場合には、上述のした成分(A)~(D)以外に、添加剤として、上述のエポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂以外のポリマー、エポキシ系反応性希釈剤、有機フィラー、無機フィラー、顔料、染料、流れ調整剤、増粘剤、離型剤、湿潤剤、難燃剤、界面活性剤、光重合開始剤等を、さらに含むことができる。
【0062】
エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂以外のポリマーとしては、以下に限定されないが、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリマレイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、並びに、カルボキシル基、ヒドロシキシル基、ビニル基及びアミノ基等の官能基や芳香環を有するエラストマー類等が挙げられる。
【0063】
エポキシ系反応性希釈剤とは、硬化構造に組み込まれることが可能なエポキシ基を有する化合物であり、接着剤中に含有することで、接着剤を低粘度化する効果のある化合物である。本明細書では、上述のエポキシ樹脂(B)、(C)に例示した化合物を除外し、かつ25℃における粘度が1mPa・s以上3Pa・s未満である化合物をエポキシ系反応性希釈剤とする。
【0064】
エポキシ系反応性希釈剤としては、以下に限定されないが、n-ブチルグリシジルエーテル、t-ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、スチレンオキシド、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、p-sec-ブチルフェニルグリシジルエーテル、t-ブチルフェニルグリシジルエーテル、1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、1,3-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル-3,4-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ジシクロペンタジエンジメタノールジグリシジルエーテル、ビニルシクロヘキセンジオキシド、三菱ケミカル社製の商品名:YX-8000、阪本薬品工業社製の商品名:SR-8EGS、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、tert-ブチルハイドロキノンジグリシジルエーテル、ポリオキシアルキレンビスフェノールAのジグリシジルエーテル、N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジル-o-トルイジン、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、N,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)-4-(2,3-エポキシプロポキシ)アニリン等が挙げられる。
【0065】
有機フィラーとしては、以下に限定されないが、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ブタジエンゴム、ポリエステル、ポリウレタン、ポリビニルブチラール、ポリアリレート、ポリメチルメタクリレート、アクリルゴム、ポリスチレン、NBR、SBR、シリコーン変性樹脂、及びこれらを成分として含む共重合体の有機微粒子が挙げられる。
【0066】
無機フィラーとしては、以下に限定されないが、例えば、タルク、焼成クレー、未焼成クレー、マイカ、ガラス等のケイ酸塩;酸化チタン、酸化アルミニウム(アルミナ)、溶融シリカ(溶融球状シリカ、溶融破砕シリカ)、合成シリカ、結晶シリカ等の酸化シリカ等の酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の炭酸塩;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物;硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩;亜硫酸カルシウム等亜硫酸塩;ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩;窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素等の窒化物が挙げられる。
【0067】
顔料としては、以下に限定されないが、例えば、カオリン、酸化アルミニウム三水和物、水酸化アルミニウム、チョーク粉、石こう、炭酸カルシウム、三酸化アンチモン、ペントン、シリカ、エアロゾル、リトポン、バライト、二酸化チタン等が挙げられる。
【0068】
染料としては、以下に限定されないが、例えば、茜、藍等の植物由来の染料や、黄土、赤土等の鉱物由来の染料といった天然染料、アリザリン、インディゴ等の合成染料の他、蛍光染料等が挙げられる。
【0069】
流れ調整剤としては、以下に限定されないが、例えば、シランカップリング剤等の有機シラン化合物;チタンテトライソプロポキシドやチタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)のような有機チタン化合物;ジルコニウムテトラノルマルブトキシドやジルコニウムテトラアセチルアセトネート等の有機ジルコニウム化合物等が挙げられる。
【0070】
増粘剤としては、以下に限定されないが、例えば、ゼラチンのような動物性増粘剤;多糖類やセルロースのような植物性増粘剤;ポリアクリル系増粘剤、変性ポリアクリル系増粘剤、ポリエーテル系増粘剤、ウレタン変性ポリエーテル系増粘剤、カルボキシメチルセルロース等の化学合成系増粘剤等が挙げられる。
【0071】
離型剤としては、以下に限定されないが、例えば、フッ素系離型剤、シリコーン系離型剤、(メタ)アクリル酸グリシジルと炭素数16~22の直鎖アルキル(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体からなるアクリル系離型剤等が挙げられる。
【0072】
湿潤剤としては、以下に限定されないが、例えば、アクリルポリリン酸エステルのような、酸性基を有する不飽和ポリエステルコポリマー系湿潤剤等が挙げられる。
【0073】
難燃剤としては、以下に限定されないが、例えば、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、塩素化合物や臭素化合物等のハロゲン系難燃剤、縮合リン酸エステル等のリン系難燃剤、三酸化アンチモンや五酸化アンチモン等のアンチモン系難燃剤、シリカ充填剤等の無機酸化物等が挙げられる。
【0074】
界面活性剤としては、以下に限定されないが、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩やアルキルポリオキシエチレン硫酸塩等のアニオン性界面活性剤、アルキルジメチルアンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤、アルキルジメチルアミンオキシドやアルキルカルボキシベタイン等の両性界面活性剤、炭素数25以上の直鎖状アルコールや脂肪酸エステル等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0075】
アクリレートモノマーとしては、以下に限定されないが、例えば、ポリアルキレンオキシドの両末端に(メタ)アクリロイル基を有する化合物、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン型多官能(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール型多官能(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール型多官能(メタ)アクリレート、ビスフェノールA構造を有するジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエン構造を有するジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0076】
光重合開始剤としては、以下に限定されないが、例えば、ビス-(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(BASF製:イルガキュア819)、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(BASF製イルガキュアTPO)等のアシルフォスフィンオキサイド類、1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタンジオン 2-(O-ベンゾイルオキシム)(BASF製:イルガキュアOXE01)、1-[6-(2-メチルベンゾイル)-9-エチル-9H-カルバゾ-ル-3-イル]エタノン-O-アセチルオキシム(BASF製イルガキュアOXE02)等のオキシム類、及び芳香環を有する増感剤等が挙げられる。
【0077】
(2)液状潜在性硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物(熱硬化性接着剤)
本実施形態における熱硬化性樹脂組成物(熱硬化性接着剤)は、液状潜在性硬化剤と、熱硬化性樹脂とで構成することができる。液状潜在性硬化剤としては、後述する式(1)、(2)又は(3)で示される化合物を含む組成物である。また、熱硬化性樹脂としては、後述のエポキシ化合物を用いることができる。液状潜在性硬化剤を用いると、特に極狭のギャップ間用途に有利であると共に、チップ下の銅接着性や破断強度にさらに優れる。
【0078】
(2)-1:液状潜在性硬化剤
液状潜在性硬化剤は、本実施形態における式(1)、(2)又は(3)で示される化合物を含み、その他の成分を含んでもよい。なお、「液状潜在性硬化剤」とは、常圧下25℃において、その外観から固体成分が確認されない潜在性硬化剤を意味する。
【0079】
液状潜在性硬化剤は、後述の前記液状潜在性硬化剤が、下記式(1)、(2)及び(3)で示される化合物の少なくとも一種を含有する。式(1)、(2)又は(3)で示される化合物を含有する組成物は、硬化温度制御又は粘度制御の観点から、特性の向上効果が得られるため、本実施形態における液状潜在性硬化剤は、式(1)、(2)又は(3)で示される化合物を複数含むことが好ましい。なお、同じ式で表されるが構造が異なる式(1)、(2)又は(3)で示される化合物を複数含んでもよい。
【0080】
特に粘度制御の観点からは、前記式(1)及び式(3)で表される化合物を含むことが好ましい。
式(1)、(2)又は(3)で示される化合物を複数含む場合、その含有割合に関しては、前記式(1)で表される化合物を0.1質量%~99.5質量%含むものとすることにより粘度制御が容易になる傾向にある。
【0081】
式(1)、(2)又は(3)で示される化合物を複数含む液状潜在性硬化剤は、複数の式(1)、(2)又は(3)で示される化合物を混合することにより得てもよく、後述する式(1)、(2)又は(3)で示される化合物の製造方法において、複数の式(1)、(2)又は(3)で示される化合物を同時に製造することによって得ることもできる。
【0082】
〔式(1)、(2)又は(3)で示される化合物〕
本実施形態における液状潜在性硬化剤は、下記式(1)、(2)又は(3)で表される。
【0083】
【化3】
【0084】
(式(1)~(3)中、R1は、各々独立して、水素原子、又は、水酸基、カルボニル基、エステル結合、若しくはエーテル結合を有していてもよい、炭素数1~15の、1価又はn価の有機基を表し、R2及びR3は、各々独立して、未置換又は置換基を有する、炭素数1~12のアルキル基、アリール基、アラルキル基、又は、R2及びR3が連結した炭素数7以下のヘテロ環を表し、R4は、各々独立して、水素原子、又は、酸素原子を含んでもよい、炭素数1~30の、1価又はn価の有機基を表し、nは1~3の整数を表す。)
【0085】
本実施形態における液状潜在性化合物は、式(1)、(2)又は(3)で示される化合物の状態では硬化性能を有する置換基が存在しないため、室温においてエポキシ樹脂と相溶させてもエポキシ基との付加反応は起こらない。しかし、以下の反応式で表されるように、加熱することでN-N結合が開裂し、アシルナイトレンと3級アミンを生じる。さらにアシルナイトレンは1,2-転移反応によりイソシアネートとなる。ここで生成したイソシアネートと3級アミンは硬化性能を有しており、エポキシ基と付加反応を起こして硬化に至る。すなわち、本実施形態における式(1)、(2)又は(3)で示される化合物は、潜在性硬化剤として機能する。
【0086】
【化4】
【0087】
また、本実施形態における式(1)、(2)又は(3)で示される化合物は、水酸基を有しているため、以下の反応式で表されるように、加熱により生成したイソシアネートと3級アミンの付加反応が起こり、1分子中に3級アミンとウレタン結合を有する構造へと変化する。この構造はイソシアネートと3級アミンより優れた硬化性能を有するため、本実施形態における式(1)、(2)又は(3)で示される化合物は優れた硬化性能を有する潜在性硬化剤として機能する。
【0088】
【化5】
【0089】
なお、式(2)で表される化合物は、n価の結合基R1により式(1)で表される化合物が連結された化合物であり、式(3)で表される化合物は、n価の結合基R4により式(1)で表される化合物が連結された化合物である。式(2)で表される化合物の場合、加熱により、n価のイソシアネート化合物と1価の三級アミンを生成し、式(3)で表される化合物の場合、加熱により、1価のイソシアネート化合物とn価の三級アミンを生成する。
【0090】
本実施形態における式(1)、(2)又は(3)で示される化合物のN-N結合の分解温度の頂点温度(Tpeak)は、好ましくは100℃以上250℃以下であり、より好ましくは100℃以上220℃以下であり、さらに好ましくは100℃以上200℃以下であり、さらにより好ましくは100℃以上180℃以下である。
peakが100℃以上であることにより、保存安定性がより向上する傾向にある。また、Tpeakが250℃以下であることにより、式(1)、(2)又は(3)で示される化合物の硬化性能がより向上する傾向にある。なお、ここで、N-N結合の分解温度の頂点温度(Tpeak)とは、N-N結合の分解に係る発熱ピークの頂点温度であって、示差熱分析における発熱ピークのピーク温度をいう。
【0091】
また、本実施形態における式(1)、(2)又は(3)で示される化合物のN-N結合の分解温度の立ち上がり温度(Tonset)は、好ましくは80℃以上200℃以下であり、より好ましくは80℃以上185℃以下であり、さらに好ましくは80℃以上170℃以下であり、さらにより好ましくは80℃以上160℃以下である。
onsetが80℃以上であることにより、保存安定性がより向上する傾向にある。また、Tonsetが200℃以下であることにより、式(1)、(2)又は(3)で示される化合物の硬化性能がより向上する傾向にある。なお、ここで、N-N結合の分解温度の立ち上がり温度(Tonset)とは、示差熱分析における発熱ピークの立ち上がり温度をいう。より具体的には、発熱ピークの立ち上がり部分の最大傾斜の接線と、基線(ベースライン)の外挿線との交点を立ち上がり温度(Tonset)とする。
【0092】
前記頂点温度(Tpeak)と前記立ち上がり温度(Tonset)の差(Tpeak-Tonset)は、好ましくは45℃以下であり、より好ましくは40℃以下であり、さらに好ましくは35℃以下であり、さらにより好ましくは30℃以下である。差(Tpeak-Tonset)が45℃以下であることにより、加熱によるN-N結合の分解が速やかに進行し、硬化反応の反応急峻性がより向上する傾向にある。また、差(Tpeak-Tonset)の下限は、特に制限されないが、好ましくは5℃以上であり、より好ましくは10℃以上であり、さらに好ましくは15℃以上である。
【0093】
頂点温度(Tpeak)、立ち上がり温度(Tonset)、及び差(Tpeak-Tonset)は、本実施形態における式(1)、(2)又は(3)で示される化合物の官能基を調整することにより制御することができる。例えば、R1は、N-N結合の開裂の低エネルギー化に寄与し、R2及びR3は、立体障害による不安定化による開裂反応の低エネルギー化に寄与しやすい傾向にある。したがって、後述するR1、R2及びR3として、硬化性能の向上に寄与する基やそれ以外の基を適宜組み合わせて用いることにより、これら温度を制御することができる。
【0094】
本実施形態における式(1)、(2)又は(3)で示される化合物は、常温において液状の化合物である。
本実施形態においては、常温において液状であることを表す指標として、25℃における粘度を用いることができる。本実施形態における式(1)、(2)又は(3)で示される化合物の25℃における粘度は、1300Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは900Pa・s以下であり、さらに好ましくは800Pa・s以下であり、さらにより好ましくは700Pa・s以下である。
なお、25℃における粘度の下限値は特に制限されないが、0.01Pa・s以上であることが好ましい。
本実施形態における式(1)、(2)又は(3)で示される化合物が常温において液状の化合物であり、特に、25℃における粘度が1300Pa・s以下であることにより、エポキシ樹脂組成物への溶解性や分散性、基材等への浸透性がより向上する。
なお、本実施形態における式(1)、(2)又は(3)で示される化合物の粘度は、式(1)~式(3)中のR1~R4の官能基を調整することにより、上述の数値範囲に制御できる。
【0095】
式(1)、(2)又は(3)における、R1は、N-N結合の開裂の低エネルギー化に寄与し、R2及びR3は、立体障害による不安定化による開裂反応の低エネルギー化に寄与し、R4は、化合物の液状化、得られる硬化物のガラス転移温度の低下の抑制に寄与すると考えられるが、特に制限されない。以下、各基の詳細について説明する。
【0096】
式(1)、(2)及び(3)中、R1は、各々独立して、水素原子、又は、水酸基、カルボニル基、エステル結合、若しくはエーテル結合を有していてもよい、炭素数1~15の、1価又はn価の有機基を表す。このような有機基としては、特に制限されないが、例えば、炭化水素基、炭化水素基中の炭素原子に結合した水素原子が、水酸基又はカルボニル基により置換された基、又は、炭化水素基を構成する炭素原子の一部がエステル結合やエーテル結合に置き換えられた基が挙げられる。このような炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、エチルヘキシル基等の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基;ビニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、オクチニル基、デシニル基、ドデシニル基、ヘキサデシニル基、オクタデシニル基等のアルケニル基;フェニル基等アリール基;又は、メチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基等のアルキル基とフェニル基の組み合わせからなるアラルキル基が挙げられる。
【0097】
また、R1で表される有機基は、その他置換基を有してもよい。置換基としては、特に制限されないが、例えば、ハロゲン原子、アルコキシ基、カルボニル基、シアノ基、アゾ基、アジ基、チオール基、スルホ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、アシル基、アルデヒド基が挙げられる。
【0098】
1が表す有機基の炭素数は1~15であり、好ましくは1~12であり、より好ましくは1~7である。R1が表す有機基の炭素数が上述の範囲内であることにより、上述の粘度を充足する液状の式(1)、(2)又は(3)で示される化合物が得られやすく、また式(1)、(2)又は(3)で示される化合物の硬化性能がより向上する傾向にある。また、R1が表す有機基の炭素数が上述の範囲内であることにより、原料の入手容易性がより向上する。
【0099】
上述の中でも、式(1)又は(3)におけるR1は、下記式(4)又は(5)、で表される基であることが好ましい。このような基を有することにより、上述の粘度を充足する液状の式(1)、(2)又は(3)で示される化合物が得られやすく、また式(1)、(2)又は(3)で示される化合物の硬化性能がより向上する傾向にある。
【0100】
【化6】
【0101】
(式(4)、(5)中、R11は、各々独立して、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、アリール基、又は、炭素数7~9のアラルキル基を表し、nは、各々独立して、0~6の整数を示す。)
【0102】
上述の中でも、式(5)においてnが0又は1である基が好ましい。これにより、式(1)又は(3)で表される化合物は、R1-C(=O)-構造中に、ジケトン構造を有する。このようなジケトン構造は、式(1)、(2)又は(3)で示される化合物の硬化性能をより向上させる傾向にある。
【0103】
なお、式(4)又は(5)におけるR11の炭素数とnは、式(4)又は(5)で表される基の炭素数の最大値が15を超えないように調整される。
【0104】
また、式(2)におけるR1は、下記式(6)又は(7)、で表される基であることが好ましい。このような基を有することにより、上述の粘度を充足する液状の式(1)、(2)又は(3)で示される化合物が得られやすく、また式(1)、(2)又は(3)で示される化合物の硬化性能がより向上する傾向にある。
【0105】
【化7】
【0106】
(式(6)、(7)中、R12及びR13は、各々独立して、単結合、炭素数1~5のアルキル基、アリール基、又は、炭素数7~9のアラルキル基を表す。)
【0107】
上述の中でも、式(7)においてR13は単結合又はメチル基が好ましい。これにより、式(2)で表される化合物は、R1-C(=O)-構造中に、ジケトン構造を有する。このようなジケトン構造は、式(1)、(2)又は(3)で示される化合物の硬化性能をより向上させる傾向にある。
【0108】
式(1)、(2)及び(3)中、R2及びR3は、各々独立して、未置換又は置換基を有する、炭素数1~12のアルキル基、アリール基、アラルキル基、又はR2及びR3が連結した炭素数7以下のヘテロ環を表す。
【0109】
2又はR3で表される炭素数1~12のアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基等の直鎖状アルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、t-ブチル基、ネオペンチル基、2-ヘキシル基、2-オクチル基、2-デシル基、2-ドデシル基等の分岐状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、シクロデシル基、シクロドデシル基等の環状アルキル基が挙げられる。また、上述のアルキル基は、直鎖状アルキル基又は分岐状アルキル基と環状アルキル基とを組み合わせたものであってもよい。さらに、上述のアルキル基は、不飽和結合基を含んでいてもよい。
【0110】
2又はR3で表されるアルキル基の炭素数は、各々独立して、1~12であり、好ましくは2~10であり、より好ましくは5~10である。非対称ジアルキルヒドラジンのアルキル基の炭素数が少ないジメチルヒドラジンなどの化合物は、R2又はR3で表されるアルキル基の炭素数を2以上とすることにより、このような毒性等のリスクのある原料の使用を回避することができる。また、R2又はR3で表されるアルキル基の炭素数を5以上とすることにより、上述の粘度を充足する液状の式(1)、(2)又は(3)で示される化合物が得られやすく、また式(1)、(2)又は(3)で示される化合物の硬化性能がより向上する傾向にある。
【0111】
また、R2又はR3で表されるアリール基としては、特に制限されないが、例えば、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。さらに、R2又はR3で表されるアラルキル基としては、特に制限されないが、例えば、メチルフェニル基、エチルフェニル基、メチルナフチル基、ジメチルナフチル基が挙げられる。このなかでも、R2及びR3は、少なくとも一方がアラルキル基であることが好ましく、メチルフェニル基(ベンジル基)がより好ましい。これにより、式(1)、(2)又は(3)で示される化合物の硬化性能がより向上する傾向にある。なお、R2又はR3で表されるアリール基及びアラルキル基の炭素数は、特に制限されないが、6~20であることが好ましい。
【0112】
2又はR3で表されるアルキル基、アリール基、又はアラルキル基の置換基としては、特に制限されないが、例えば、ハロゲン原子、アルコキシ基、カルボニル基、シアノ基、アゾ基、アジ基、チオール基、スルホ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、アシル基、アルデヒド基が挙げられる。
【0113】
2及びR3は、連結して炭素数7以下のヘテロ環を構成してもよい。このようなヘテロ環としては、特に制限されないが、例えば、下記式(8)で表される、R23と式(1)、(2)又は(3)中のN+により形成されるヘテロ環が挙げられる。なお、R23は、R2及びR3が連結した基を示す。
【0114】
【化8】
【0115】
(式(8)中、R23は、N+とともに、ヘテロ環構造を形成する基を表す。)
【0116】
23とN+とが形成するヘテロ環としては、特に制限されないが、例えば、アゼチジン環等の4員環;ピロリジン環、ピロール環、モルホリン環、チアジン環等の5員環;ピペリジン環等の6員環;ヘキサメチレンイミン環、アゼピン環等の7員環等が挙げられる。
【0117】
このなかでも、ヘテロ環としては、ピロール環、モルホリン環、チアジン環、ピペリジン環、ヘキサメチレンイミン環、アゼピン環が好ましく、6員環及び7員環がより好ましい。このような基を有することにより、上述の粘度を充足する液状の式(1)、(2)又は(3)で示される化合物が得られやすく、また式(1)、(2)又は(3)で示される化合物の硬化性能がより向上する傾向にある。
【0118】
また、置換基としては、特に限定されないが、例えば、アルキル基、アリール基、又は上述のしたR2及びR3における置換基が挙げられる。さらに、ヘテロ環が置換基としてアルキル基を有する場合、N+に隣接する炭素原子に結合したメチル基などを例示することができる。
【0119】
式(1)、(2)及び(3)中、R4は、水素原子、又は、酸素原子を含んでもよい、炭素数1~30の、1価又はn価の有機基を表す。このような有機基としては、特に制限されないが、例えば、炭化水素基、炭化水素基中の炭素原子に結合した水素原子が、水酸基、カルボニル基、又はケイ素原子を含む基により置換された基、又は、炭化水素基を構成する炭素原子の一部がエステル結合やエーテル結合、ケイ素原子に置き換えられた基が挙げられる。このような炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、エチルヘキシル基等の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基;ビニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、オクチニル基、デシニル基、ドデシニル基、ヘキサデシニル基、オクタデシニル基等のアルケニル基;フェニル基等のアリール基;又は、メチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基等のアルキル基とフェニル基の組み合わせからなるアラルキル基が挙げられる。
【0120】
また、R4で表される炭化水素基には、ビスフェノールA型骨格、ビスフェノールAP型骨格、ビスフェノールB型骨格、ビスフェノールC型骨格、ビスフェノールE型骨格、ビスフェノールF型骨格などのビスフェノール骨格が含まれる。ビスフェノール骨格を含む有機基としては、特に制限されないが、例えば、各ビスフェノール骨格の水酸基にポリオキシアルキレン基が付加した基が挙げられる。
【0121】
これらのなかでも、式(1)又は(2)におけるR4で表される有機基は、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基が好ましく、アルキル基、アルケニル基がより好ましく、分岐状アルキル基及び分岐状アルケニル基がさらに好ましい。なお、これら好ましい基は置換基を有してもよい。このような基を有することにより、上述の粘度を充足する液状の式(1)、(2)又は(3)で示される化合物が得られやすく、また式(1)、(2)又は(3)で示される化合物の硬化性能がより向上する傾向にある。また、式(1)、(2)又は(3)で示される化合物を用いて得られる硬化物のTgがより向上する傾向にある。
【0122】
4が表す有機基の炭素数は、上述のしたように1~30であり、好ましくは1~20であり、より好ましくは1~15であり、さらに好ましくは1~8である。R4が表す有機基の炭素数が上述の範囲内であることにより、前記粘度を充足する液状の式(1)、(2)又は(3)で示される化合物が得られやすく、また式(1)、(2)又は(3)で示される化合物の硬化性能がより向上する傾向にある。また、式(1)、(2)又は(3)で示される化合物を用いて得られる硬化物のTgがより向上し、さらに、R4が表す有機基の炭素数が上述の範囲内であることにより、原料の入手容易性がより向上する。
【0123】
上述の中でも、式(1)又は(2)におけるR4は、直鎖状若しくは分岐状の炭素数3~12のアルキル基、又は、直鎖状若しくは分岐状の炭素数3~6のアルケニル基が好ましい。このような基を有することにより、上述の粘度を充足する液状の式(1)、(2)又は(3)で示される化合物が得られやすく、また式(1)、(2)又は(3)で示される化合物の硬化性能がより向上する傾向にある。
【0124】
また、式(3)におけるR4は、下記式(9)又は(10)で表される基であることが好ましい。このような基を有することにより、上述の粘度を充足する液状の式(1)、(2)又は(3)で示される化合物が得られやすく、また式(1)、(2)又は(3)で示される化合物の硬化性能がより向上する傾向にある。
【0125】
【化9】
(式(9)、(10)中、R41及びR42は、各々独立して、炭素数1~5のアルキル基、アリール基、又は、アラルキル基を表し、nは、各々独立して、0~10の整数を示す。)
【0126】
本実施形態における液状潜在性硬化剤は、前記式(2)又は(3)で表され、式(2)又は(3)中のnが2又は3であることが好ましく、nが2であることがより好ましい。これにより、硬化性の向上の効果が得られる。
【0127】
〔式(1)、(2)又は(3)で示される化合物及び液状潜在性硬化剤の製造方法〕
本実施形態における式(1)、(2)又は(3)で示される化合物の製造方法は、上述の構造を有する式(1)、(2)又は(3)で示される化合物を得られる方法であれば特に制限されない。
本実施形態における液状潜在性硬化剤の製造方法は、後述する方法により得た複数の式(1)、(2)又は(3)で示される化合物を混合する方法、複数種の式(1)、(2)又は(3)で示される化合物を同時に製造し、混合体を得る方法がある。
本実施形態における式(1)、(2)又は(3)で示される化合物の製造方法としては、例えば、カルボン酸エステル化合物(A)、ヒドラジン化合物(B)、及びグリシジルエーテル化合物(C)、を反応させる反応工程を有する方法が挙げられる。
以下、当該製造方法について説明する。
【0128】
カルボン酸エステル化合物(A)としては、特に限定されないが、例えば、モノカルボン酸エステル化合物やジカルボン酸エステル化合物が挙げられる。
モノカルボン酸エステル化合物の具体例としては、乳酸メチル、乳酸エチル、マンデル酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、吉草酸メチル、イソ吉草メチル、ピバル酸メチル、ヘプタン酸メチル、オクタン酸メチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、クロトン酸メチル、イソクロトン酸メチル、ベンゾイルギ酸メチル、2-メトキシベンゾイルメチル、3-メトキシベンゾイルメチル、4-メトキシベンゾイルメチル、2-エトキシベンゾイルメチル、4-t-ブトキシベンゾイルメチル等が挙げられる。また、これらに替えて、エチルエステル類、プロピルエステル類等を用いてもよい。ジカルボン酸エステル化合物の具体例としては、しゅう酸ジメチル、マロン酸ジメチル、こはく酸ジメチル、酒石酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、ピメリン酸ジメチル、スベリン酸ジメチル、アゼライン酸ジメチル、セバシン酸ジメチル、マレイン酸ジメチル、フマル酸ジメチル、イタコン酸ジメチル、フタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジメチル、1,3-アセトンジカルボン酸ジメチル、及び1,3-アセトンジカルボン酸ジエチル等が挙げられる。また、これらに替えて、ジエチルエステル類、ジプロピルエステル類等を用いてもよい。
【0129】
これらの中でも、硬化性と液状化の観点から、乳酸エチル、マンデル酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、吉草酸メチル、イソ吉草メチル、ピバル酸メチルアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、クロトン酸メチル、イソクロトン酸メチル、ベンゾイルギ酸メチル、しゅう酸ジメチル、マロン酸ジメチル、こはく酸ジメチル、酒石酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、ピメリン酸ジメチル、スベリン酸ジメチル、アゼライン酸ジメチル、マレイン酸ジメチル、フマル酸ジメチル、フタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジメチル、1,3-アセトンジカルボン酸ジメチル、及び1,3-アセトンジカルボン酸ジエチルが好ましい。
【0130】
さらにこれらの中でも、入手容易性の観点から、乳酸エチル、マンデル酸メチル、ベンゾイルギ酸メチル、しゅう酸ジメチル、マロン酸ジメチル、こはく酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、及び1,3-アセトンジカルボン酸ジエチルがより好ましい。カルボン酸エステル化合物(A)は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0131】
ヒドラジン化合物(B)としては、特に限定されないが、例えば、ジメチルヒドラジン、ジエチルヒドラジン、メチルエチルヒドラジン、メチルプロピルヒドラジン、メチルブチルヒドラジン、メチルペンチルヒドラジン、メチルヘキシルヒドラジン、エチルプロピルヒドラジン、エチルブチルヒドラジン、エチルペンチルヒドラジン、エチルヘキシルヒドラジン、ジプロピルヒドラジン、ジブチルヒドラジン、ジペンチルヒドラジン、ジヘキシルヒドラジン、メチルフェニルヒドラジン、エチルフェニルヒドラジン、メチルトリルヒドラジン、エチルトリルヒドラジン、ジフェニルヒドラジン、ベンジルフェニルヒドラジン、ジベンジルヒドラジン、ジニトロフェニルヒドラジン、1-アミノピペリジン、N-アミノホモピペリジン、1-アミノ-2,6-ジメチルピペリジン、1-アミノピロリジン、1-アミノ-2-メチルピロリジン、1-アミノ-2-フェニルピロリジン、及び1-アミノモルホリン等が挙げられる。
【0132】
これらの中でも、硬化性と液状化の観点から、ジメチルヒドラジン、ジベンジルヒドラジン、1-アミノピペリジン、1-アミノピロリジン、及び1-アミノモルホリンが好ましい。さらにこれらの中でも、入手容易性と安全性から、ジベンジルヒドラジン、及び1-アミノピペリジンがより好ましい。ヒドラジン化合物(B)は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0133】
グリシジルエーテル化合物(C)としては、特に限定されないが、例えば、単官能のモノグリシジルエーテル化合物や2官能以上のポリグリシジルエーテル化合物を用いることができる。モノグリシジルエーテル化合物の具体例としては、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、n-ブチルグリシジルエーテル、t-ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、ドデシルグリシジルエーテル高級アルコールグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、オルソフェニルフェノールグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、ビフェニリルグリシジルエーテル、4-t-ブチルフェニルグリシジルエーテル、t-ブチルジメチルシリルグリシジルエーテル、3-[ジエトキシ(メチル)シリル]プロピルグリシジルエーテル等が挙げられる。ポリグリシジルエーテル化合物の具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールグリシジルエーテル、ヘキサンジオールグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等の脂肪族系ポリグリシジルエーテル、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル、ビスフェノールF型ジグリシジルエーテル、ビスフェノールS型ジグリシジルエーテル、エチレンオキサイド付加型ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル、プロピレンオキサイド付加型ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル、及びこれらの縮合物の水素化物等の脂環族系ポリグリシジルエーテル化合物、レゾルシノールジグリシジルエーテル等の芳香族系ポリグリシジルエーテル化合物などが挙げられる。
【0134】
これらの中でも、硬化性と液状化の観点から、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、n-ブチルグリシジルエーテル、t-ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、t-ブチルジメチルシリルグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールグリシジルエーテル、ヘキサンジオールグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル、ビスフェノールF型ジグリシジルエーテル、エチレンオキサイド付加型ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル、プロピレンオキサイド付加型ビスフェノールA型ジグリシジルエーテルが好ましい。
【0135】
さらにこれらの中でも、入手容易性と硬化物のTgの観点から、n-ブチルグリシジルエーテル、t-ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、エチレンオキサイド付加型ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル、ブタンジオールグリシジルエーテル、ヘキサンジオールグリシジルエーテル、及びプロピレンオキサイド付加型ビスフェノールA型ジグリシジルエーテルがより好ましい。グリシジルエーテル化合物(C)は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0136】
反応系に対するカルボン酸エステル化合物(A)、ヒドラジン化合物(B)、及びグリシジルエーテル化合物(C)の添加量は、官能基のモル比で表すことができる。カルボン酸エステル化合物(A)のカルボン酸エステル基は、ヒドラジン化合物(B)の1級アミン1モルに対し、好ましくは0.8~3.0モルであり、より好ましくは0.9~2.8モルであり、さらに好ましくは0.95~2.5モルである。また、グリシジルエーテル化合物(C)のグリシジル基は、ヒドラジン化合物(B)の1級アミン1モルに対し、好ましくは0.8~2.0モルであり、より好ましくは0.9~1.5モルであり、さらに好ましくは0.95~1.4モルである。
グリシジルエーテル化合物(C)のグリシジル基の、ヒドラジン化合物(B)の1級アミン1モルに対する添加量を制御することで、式(1)及び式(3)で表される化合物を含む組成物(液状潜在性硬化剤)を同時に製造することができる。具体的にはグリシジルエーテル化合物(C)のグリシジル基は、ヒドラジン化合物(B)の1級アミン1モルに対し、好ましくは0.1~3.0モルであり、より好ましくは0.3~2.0モルであり、さらに好ましくは0.5~1.0モルである。
【0137】
本実施形態における式(1)、(2)又は(3)で示される化合物、液状潜在性硬化剤の製造方法においては、カルボン酸エステル化合物(A)、ヒドラジン化合物(B)、及びグリシジルエーテル化合物(C)の反応は、溶媒を用いなくても反応が進行するが、反応を均一に進行させる観点から、溶媒を用いることが好ましい。
【0138】
溶媒は、カルボン酸エステル化合物(A)、ヒドラジン化合物(B)、及びグリシジルエーテル化合物(C)と反応しないものであれば、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、t-ブチルアルコール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル類などが挙げられる。
【0139】
反応温度は、好ましくは10~70℃であり、より好ましくは20~60℃である。反応温度が10℃以上であることにより、反応の進行が速くなり、得られる式(1)、(2)又は(3)で示される化合物の純度がより向上する傾向にある。また、反応温度が60℃以下であることにより、グリシジルエーテル化合物(C)同士の高分子化反応を効率よく抑制できるため、式(1)、(2)又は(3)で示される化合物の純度がより向上する傾向にある。
【0140】
反応時間としては、好ましくは、1~7日であり、より好ましくは1~6日であり、さらに好ましくは1~4日である。
【0141】
反応終了後、得られた反応物は、洗浄、抽出、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の公知の精製方法により、精製することができる。例えば、有機溶剤に溶解させた反応液を水により洗浄した後に、有機層を常圧或いは減圧下で加熱することによって、未反応の原料や有機溶剤を反応液から除去し、式(1)、(2)又は(3)で示される化合物を回収することができる。さらには、得られた反応物を、カラムクロマトグラフィーで精製し、式(1)、(2)又は(3)で示される化合物を回収することができる。
洗浄に用いる溶媒は、原料の残留物が溶解できれば特に限定はされないが、収率、純度、除去容易性の観点から、ヘキサン、ペンタン、シクロヘキサンが好ましい。
【0142】
抽出に用いる有機溶剤は、目的の式(1)、(2)又は(3)で示される化合物が溶解できれば特に限定されないが、収率、純度、除去容易性の観点から、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トルエン、ジエチルエーテル、メチルイソブチルケトンが好ましく、酢酸エチル、クロロホルム、トルエン、メチルイソブチルケトンがより好ましい。
【0143】
カラムクロマトグラフィーに用いる充填剤は、アルミナ、シリカゲル等の公知のものを用いることができ、また、展開溶媒は、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、アセトン、メチルイソブチルケトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の公知のものを単独又は混合して用いることができる。
【0144】
(2)-2:エポキシ樹脂
本実施形態における熱硬化性樹脂組成物(熱硬化性接着剤)は、上述のように、液状潜在性硬化剤と、エポキシ樹脂と、を含んで構成することができる。本実施形態における液状潜在性硬化剤は、必要に応じて、上述の本実施形態における式(1)、(2)又は(3)で示される化合物及び式(1)、(2)又は(3)で示される組成物以外の他の硬化剤や、各種用途のエポキシ樹脂組成物において用いることが一般に知られている任意成分を更に含有してもよい。
【0145】
エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、例えば、上述の(1)-2に記載のエポキシ樹脂を用いることができる。
【0146】
(2)-3:他の硬化剤
本実施形態における液状潜在性硬化剤は、他の硬化剤を併用してもよい。他の硬化剤としては、特に限定されないが、例えば、イミダゾール類、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン、ポリアルキレングリコールポリアミン、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとより合成されるポリアミド樹脂等のアミン系硬化剤;ジシアンジアミド等のアミド系硬化剤;無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等の酸無水物系硬化剤;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂、ビフェニル変性フェノールアラルキル樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、アミノトリアジン変性フェノール樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール-フェノール共縮合ノボラック樹脂、ナフトール-クレゾール共縮合ノボラック樹脂等の多価フェノール化合物類及びこれらの変性物等のフェノール系硬化剤;BF3-アミン錯体、グアニジン誘導体等が挙げられる。これらの硬化剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0147】
前記他の硬化剤の中でも、浸透性を重視する場合は、酸無水物系硬化剤を、さらに含むことが好ましい。
【0148】
本実施形態における熱硬化性樹脂組成物中、液状潜在性硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂の総量100質量部に対して、好ましくは1~50質量部であり、より好ましくは1~30質量部であり、さらに好ましくは2~20質量部である。液状潜在性硬化剤の含有量を上述の範囲とすることにより、硬化反応が十分に促進するとともに、一層良好な硬化物性が得られる傾向にある。
【0149】
本実施形態における液状潜在性硬化剤において、液状潜在性硬化剤以外の他の硬化剤を併用するものとした場合であって、液状潜在性硬化剤を硬化促進剤として用いる場合には、液状潜在性硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂の総量100質量部に対して、好ましくは0.1~30質量部であり、より好ましくは0.5~20質量部であり、さらに好ましくは1~15質量部である。硬化促進剤としての硬化剤の含有量を上述の範囲とすることにより、他の硬化剤の硬化触媒として機能し、硬化反応が十分に促進するとともに、一層良好な硬化物性が得られる傾向にある。
【0150】
本実施形態における式(1)、(2)又は(3)で示される化合物を含む液状潜在性硬化剤を硬化促進剤として用い、上述のした酸無水物系硬化剤を硬化剤として用いるエポキシ樹脂組成物においては、エポキシ樹脂のエポキシ基に対する、酸無水物系硬化剤の酸無水物基の当量比(酸無水物基/エポキシ基)は、好ましくは0.80~1.20であり、より好ましくは0.85~1.15であり、さらに好ましくは0.90~1.10である。
エポキシ樹脂と酸無水物系硬化剤の使用量を上述の範囲とすることにより、硬化反応が十分に促進するとともに、一層良好な硬化物性が得られる傾向にある。
【0151】
本実施形態における熱硬化性樹脂組成物は液状潜在性硬化剤とエポキシ樹脂とに加えて、必要に応じて無機充填剤を更に含有してもよい。無機充填剤としては、特に限定されないが、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、タルク、窒化ケイ素、窒化アルミ等が挙げられる。
【0152】
無機充填剤の含有量は、本実施形態の効果が得られる範囲であれば特に限定されない。本実施形態における熱硬化性樹脂組成物が液状潜在性硬化剤を含む場合、無機充填剤の含有量は、通常、90質量%以下であることが好ましい。無機充填剤の含有量を上述の範囲とすることにより、エポキシ樹脂組成物の粘度が十分低く、取扱性に優れる傾向にある。
【0153】
(2)-4:その他の成分
本実施形態における液状潜在性硬化剤は、必要に応じて、難燃剤、シランカップリング剤、離型剤、顔料等の他の配合剤を更に含有してもよい。これらは、本実施形態の効果が得られる範囲であれば、適宜好適なものを選択することができる。難燃剤としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン化物、リン原子含有化合物、窒素原子含有化合物、無機系難燃化合物等が挙げられる。
【0154】
本実施形態における式(1)、(2)又は(3)で示される化合物は、常温で液状であることが好ましい形態であり、かかる場合、特にエポキシ樹脂との相溶性に優れ、その他の成分を添加したエポキシ樹脂組成物としても、好適に用いることができる。以下、エポキシ樹脂組成物について説明する。
その他の成分としては、例えば、無機充填剤、難燃剤、コアシェルゴム粒子、シランカップリング剤、離型剤、顔料等の他の配合剤が挙げられる。本実施形態における式(1)、(2)又は(3)で示される化合物、又は式(1)、(2)又は(3)で示される組成物以外のその他の成分を含む場合、その含有量は、90質量%以下であることが好ましい。本実施形態の硬化剤は、上述のした本実施形態における式(1)、(2)又は(3)で示される化合物と、エポキシ樹脂と、を含む
【0155】
以上、本発明について実施形態を用いて説明したが、本発明は上述の説明に限定されるものではない。
【実施例0156】
本発明を、合成例、実施例及び比較例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、以下において「部」及び「%」は、特に断りがない限り質量基準である。
【0157】
熱硬化性接着剤として使用するエポキシ樹脂組成物(熱硬化性樹脂組成物)を後述する実施例に従って調製した。また、得られたエポキシ樹脂組成物について、後述する諸特性をそれぞれ測定した。
【0158】
〔(1)粘度パラメーター測定〕
後述する実施例及び比較例にて得られたエポキシ樹脂組成物に対して、レオメーター(HAAKE MARS、Thermo scientific製)により、測定温度一定(60℃又は110℃)、オシレーションモード(f=1Hz)にて、エポキシ樹脂組成物を加温した際の、動的粘度η’-温度曲線を取得した。測定開始後、5分間時点と40分間時点とでの動的粘度の値を用いて下記式により、粘度パラメーターの値を算出した。なお、測定時間は、流動温度に達した熱板上にエポキシ樹脂組成物を滴下し、エポキシ樹脂組成物が測定用プレートで挟み込まれてから10秒後に測定を開始した時点より計測した。
【0159】
粘度パラメーター〔比(V40/V5)〕
=40分後の動的粘度η’〔V40〕÷5分後の動的粘度η’〔V5〕
【0160】
〔(2)浸透面積の測定〕
厚さ18μm若しくは36μmの銅箔2枚を10mm間隔で挟んだ2枚のガラス板の開口部にエポキシ樹脂組成物を垂らし、60℃若しくは110℃の小型高温チャンバーの中に入れ、15分間保持し、エポキシ樹脂組成物が浸透した面積を測定した。以下の基準に基づき“浸透性”を評価した。
【0161】
〔基準〕
(60℃での浸透性試験)
〇:浸透面積が≧200mm2であった。
×:浸透面積が<200mm2であった。
【0162】
(110℃での浸透性試験)
〇:浸透面積が≧600mm2であった。
×:浸透面積が<600mm2であった。
【0163】
〔(3)銅に対するせん断接着強度〕
後述する実施例及び比較例のエポキシ樹脂組成物を使用して、JISK6850に準拠して試験片を作製した。また、被着体として、JISC3141に準拠した幅25mm×長さ100mm×厚み1.6mmの被着体(冷間圧延銅板)を用いた。内温が160℃で安定したESPEC株式会社製の小型高温チャンバー「ST-110B2」の中に、未硬化の試験片に入れて、2時間加熱を行い、せん断接着強度測定試験片を得た。2時間後、構造体(せん断接着強度測定試験片)を小型高温チャンバーから取出し、室温環境下に放置し、室温になるまで冷やした。室温冷却後に、島津製作所社製「AGX-5kNX」を使用して、ロードセル5kN、5mm/minの速さで、試験片の接着面が破断して試験片が分離する最大荷重を測定し、分離した最大荷重を接着面積で割り返した値をせん断接着強度とした。得られたせん断接着強度から、以下の基準に基づき“接着性”を評価した。
【0164】
〔基準〕
〇:せん断接着強度が、≧5.5MPaであった。
×:せん断接着強度が、<5.5MPaであった。
【0165】
〔(4)破断強度試験〕
後述する実施例及び比較例のエポキシ樹脂組成物を使用して、JIS K7171に準拠して試験片を作製した。内温が160℃で安定したESPEC株式会社製の小型高温チャンバー「ST-110B2」の中に、未硬化の試験片に入れて、2時間加熱を行い、破断強度試験片を得た。2時間後、構造体(破断強度試験片)を小型高温チャンバーから取出し、室温環境下に放置し、室温になるまで冷やした。室温冷却後に、島津製作所社製「AGS-H 5kN」を使用して、試験片が破断するのにかかる力(破断強度)を測定した。以下の基準に基づき“破断強度”を評価した。
【0166】
〔基準〕
〇:破断強度が、≧15Nであった。
×:破断強度が、<15Nであった。
【0167】
[実施例1]
ビスフェノールF型エポキシ樹脂50部(DIC株式会社製 「EXA-830CRP」)と、トリグリシジル-p-アミノフェノール樹脂50部(三菱ケミカル社製 「jER630」)と、液状潜在性硬化剤30部(化合物A(式(3)の構造を有する化合物))と、カーボンブラック0.1部と、シランカップリング剤1部(信越化学工業株式会社製 「KBM-403」)とをプラスチック製の撹拌容器に入れ、これを自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製 「ARE-310」)で撹拌混合し、得られた組成物と球状化フィラー60wt%(平均粒径0.5μm)を三本ロール(AIMEX社製BR-150HCV)で混錬して、エポキシ樹脂組成物を調製した。
また、上述の粘度パラメーターの測定方法(1)により“粘度パラメーター”を評価し、浸透面積の測定方法(2)により“浸透性”を評価し、せん断接着強度の測定方法(3)により“接着性”を評価し、破断強度試験(4)により“破断強度”を評価した。
【0168】
[実施例2]
硬化剤成分を液状潜在性硬化剤18.9部(化合物A(式(3)の構造を有する化合物))と、3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン26.1部に変更した以外は、実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物を調製し、粘度パラメーター、浸透性、接着性、破断強度を評価した。
【0169】
[比較例1]
硬化剤成分を3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン45部に変更した以外は、実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物を調製し、粘度パラメーター、浸透性、接着性、破断強度を評価した。
【0170】
[実施例3]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂100部(三菱ケミカル社製 「jER828」)と球状化フィラー30質量%(平均粒径0.5μm)とを三本ロール(AIMEX社製BR-150HCV)で混錬して、得られた組成物とマイクロカプセル型潜在性硬化剤30部(旭化成株式会社製 「ノバキュアTM HXA9322HP」)とをプラスチック製の撹拌容器に入れ、これを自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製 「ARE-310」)で撹拌混合して、エポキシ樹脂組成物を調製した。また、上述の粘度パラメーターの測定方法(1)により“粘度パラメーター”を評価し、浸透面積の測定方法(2)により“浸透性”を評価した。
【0171】
[実施例4]
硬化剤成分をマイクロカプセル型潜在性硬化剤30部(旭化成株式会社製 「ノバキュアTM HXA9382HP」)に変更した以外は、実施例3と同様にエポキシ樹脂組成物を調製し、粘度パラメーター、浸透性を評価した。
【0172】
[比較例2]
硬化剤成分を2-エチル-4-メチルイミダゾール10部に変更した以外は、実施例5と同様にエポキシ樹脂組成物を調製し、粘度パラメーター、浸透性を評価した。
【0173】
【表2】
【0174】
各表の結果から、流動温度における5分後の粘度が500mpas以下であり、且つ、40分後の粘度を5分後の粘度で割ったときの値が1以上50以下である熱硬化性接着剤を用いた場合、大面積への浸透性に優れることが確認された。
さらに、各表の結果から、特定の構造を有する液状潜在性硬化剤を用いたエポキシ樹脂組成物は良好な浸透性、接着性、破断強度を発現することが確認された。
図1
図2
図3