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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110454
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】くびれ検出制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/073 20060101AFI20240808BHJP
   B23K 9/10 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
B23K9/073 545
B23K9/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014983
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】馬塲 勇人
(72)【発明者】
【氏名】中俣 利昭
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AB01
4E082CA01
4E082DA01
4E082EC03
4E082EC13
4E082EE07
4E082EF07
(57)【要約】
【課題】消耗電極アーク溶接において、溶接電圧の検出信号にノイズが重畳しても、くびれの誤検出を防止して安定した溶接状態を維持すること。
【解決手段】複数の溶接電源によって共通のワークに各々アークを発生させて溶接し、溶接電源の内の少なくとも1台は、短絡期間からアークが再発生する前兆現象である溶滴のくびれを溶接電圧検出信号を用いて検出し、時刻t2にくびれを検出すると短絡負荷に通電する溶接電流Iwを減少させて時刻t3にアークを再発生させる、くびれ検出制御方法において、溶接電圧検出信号には、合算した溶接電流が通電する共通通電路のインダクタンス値によって発生する電圧値を含んでおり、短絡期間中の時刻t12に溶接電圧検出信号の2階微分値が0又は正の値に予め定めた基準値以下になったことを判別したときは、時刻t12~t13の期間中はくびれの検出を禁止する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の溶接電源によって共通のワークに各々アークを発生させて溶接し、
前記溶接電源の内の少なくとも1台は、短絡期間からアークが再発生する前兆現象である溶滴のくびれを溶接電圧検出信号を用いて検出し、このくびれを検出すると短絡負荷に通電する溶接電流を減少させてアークを再発生させる、くびれ検出制御方法において、
前記溶接電圧検出信号には、合算した溶接電流が通電する共通通電路のインダクタンス値によって発生する電圧値を含んでおり、
前記短絡期間中に前記溶接電圧検出信号の2階微分値が、0又は正の値に予め定めた基準値以下になったことを判別したときは、前記くびれの検出を禁止する、
ことを特徴とするくびれ検出制御方法。
【請求項2】
前記くびれの検出の禁止を、所定期間経過後に解除する、
ことを特徴とする請求項1に記載のくびれ検出制御方法。
【請求項3】
前記くびれの検出の禁止を、前記2階微分値が前記基準値以上になったことに基づいて解除する、
ことを特徴とする請求項1に記載のくびれ検出制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短絡期間中にアークが再発生する前兆現象である溶滴のくびれを検出して溶接電流を減少させるくびれ検出制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶接ワイヤとワークとの間で短絡期間とアーク期間とを繰り返し、短絡期間中は溶接電流を上昇させ、その後にアークが再発生する前兆現象である溶滴のくびれを検出すると溶接電流を減少させてアークを再発生させる消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法が提案されている。このくびれ検出制御方法によって、アーク再発生時の溶接電流の値が小さくなるために、スパッタ発生量が非常に少なくなり、溶融池の振動が小さくなりビード外観が良好になる。
【0003】
くびれの検出は、短絡期間中の溶接電圧の微小な変化に基づいて行われる。この微小な溶接電圧の変化を検出するために、アーク発生部の近傍に検出線が配線される。しかし、溶接電圧の検出信号には、溶接ケーブルのインダクタンス値及び溶接電流の変化に伴う電磁的ノイズが重畳する。このために、溶接ケーブルのインダクタンス値が大きくなり、かつ、溶接電流の変化が急峻になると、溶接電圧の検出信号に重畳するノイズも大きくなる。この結果、くびれの誤検出が発生し、溶接状態が不安定になるという問題がある。
【0004】
ところで、複数の溶接個所を有するワークに対して、複数の溶接電源を使用して同時に溶接を行うことがある。以下、このような場合におけるくびれ検出制御について図面を参照して説明する。
【0005】
図3は、2台の溶接電源を使用して1つのワークの2つの溶接個所を同時に溶接するための溶接装置の構成図である。2台の溶接電源は共にくびれ検出制御機能を内蔵している。以下、同図を参照して各構成物について説明する。
【0006】
第1溶接電源PS1は、第1溶接電圧Vw1及び第1溶接電流Iw1を出力すると共に、第1送給機FD1に第1送給制御信号Fc1を出力する。第1送給機FD1は、この第1送給制御信号Fc1を入力として、第1溶接ワイヤ11を第1溶接トーチ41内を通って送給する。第1溶接ワイヤ11とワーク2との間には第1アーク31が発生する。第1溶接ワイヤ11とワーク2との間では、短絡状態とアーク状態とが交互に繰り返されて溶接が行われる。第1溶接トーチ41は、ロボット(図示は省略)に把持されている。ワーク2は治具8に設置されている。
【0007】
第1溶接電源PS1のプラス端子と第1溶接トーチ41とは、ケーブルを介して接続されている。また、第1溶接電源PS1のマイナス端子と治具8とは、ケーブルを介して接続されている。第1溶接電圧Vw1は、第1溶接トーチ41とワーク2の表面との間に印加される電圧である。第1溶接トーチ41に検出線を接続することは容易であるが、ワーク2の表面に検出線を接続することは難しいために、治具8に接続することになる。このために、第1溶接電圧検出回路VD1は、第1溶接トーチ41と治具8との間の電圧を検出して、第1溶接電圧検出信号Vd1を出力する。この第1溶接電圧検出信号Vd1は、第1溶接電源PS1に入力される。この第1溶接電圧検出信号Vd1を使用して第1溶接ワイヤ11の溶滴に形成されるくびれを検出する。
【0008】
第2溶接電源PS2は、第2溶接電圧Vw2及び第2溶接電流Iw2を出力すると共に、第2送給機FD2に第2送給制御信号Fc2を出力する。第2送給機FD2は、この第2送給制御信号Fc2を入力として、第2溶接ワイヤ12を第2溶接トーチ42内を通って送給する。第2溶接ワイヤ12とワーク2との間には第2アーク32が発生する。第2溶接ワイヤ12とワーク2との間では、短絡状態とアーク状態とが交互に繰り返されて溶接が行われる。第2溶接トーチ42は、ロボット(図示は省略)に把持されている。
【0009】
第2溶接電源PS2のプラス端子と第2溶接トーチ42とは、ケーブルを介して接続されている。また、第2溶接電源PS2のマイナス端子と治具8とは、ケーブルを介して接続されている。第2溶接電圧Vw2は、第2溶接トーチ42とワーク2の表面との間に印加される電圧である。第2溶接トーチ42に検出線を接続することは容易であるが、ワーク2の表面に検出線を接続することは難しいために、治具8に接続することになる。このために、第2溶接電圧検出回路VD2は、第2溶接トーチ42と治具8との間の電圧を検出して、第2溶接電圧検出信号Vd2を出力する。この第2溶接電圧検出信号Vd2は、第2溶接電源PS2に入力される。この第2溶接電圧検出信号Vd2を使用して第2溶接ワイヤ12の溶滴に形成されるくびれを検出する。
【0010】
第1溶接電流Iw1は、第1溶接電源PS1のプラス端子→第1溶接トーチ41→第1溶接ワイヤ11→ワーク2→治具8→第1溶接電源PS1のマイナス端子経路で通電する。第2溶接電流Iw2は、第2溶接電源PS2のプラス端子→第2溶接トーチ42→第2溶接ワイヤ12→ワーク2→治具8→第2溶接電源PS2のマイナス端子経路で通電する。したがって、ワーク2及び治具8中を第1溶接電流Iw1及び第2溶接電流Iw2が通電する。これら第1溶接電流Iw1と第2溶接電流Iw2を合算した電流を、以下合算溶接電流Igと呼ぶことにする。そして、この合算溶接電流Igが通電するワーク2及び治具8を共通通電路と呼ぶことにする。この共通通電路は、抵抗値及びインダクタンス値L(μH)を有している。一般的に抵抗値は小さな値であるので、無視することができる。このために、共通通電路は、インダクタンス値Lのみを有していることになる。
【0011】
上記の第1溶接電圧検出信号Vd1及び第2溶接電圧検出信号Vd2は、下式のように表すことができる。
Vd1=Vw1+L・dIg/dt
Vd2=Vw2+L・dIg/dt
したがって、第1溶接電圧検出信号Vd1は、第1溶接電圧Vw1に合算溶接電流Igの変化によって共通通電路のインダクタンス値Lに発生する電圧が重畳した値となる。第2溶接電圧検出信号Vd2についても同様である。
【0012】
第1溶接電源PS1において、第1溶接電圧検出信号Vd1に基づいてくびれの検出を行うと、合算溶接電流Igの変化によって共通通電路のインダクタンス値Lに発生する電圧L・dIg/dtが第1溶接電圧Vw1にノイズとして重畳することになり、くびれの誤検出の要因となる。特に、合算溶接電流Igの変化が大きいときはノイズも大きくなる。合算溶接電流Igは、第1溶接電流Iw1と第2溶接電流Iw2との合算値となる。第1溶接電流Iw1は自身の溶接電流であり、その変化は制御されているので、ノイズへの影響は小さい。他方、第2溶接電流Iw2の変化はノイズに大きく影響する。したがって、くびれの検出を行うときに、他の溶接電流の変化が大きくなると、ノイズも大きくなり、くびれの誤検出が発生する。
【0013】
特許文献1の発明では、上記の問題に対処するために、複数の溶接電源によって共通のワークに各々アークを発生させて溶接する場合において、短絡状態中に前記溶滴の抵抗値が減少したことを溶接電圧検出信号に基づいて判別したときは、くびれの検出を禁止することによって、くびれの誤検出を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第6154672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、従来技術では、複数の溶接電源によって共通のワークに各々アークを発生させて溶接する場合において、他の溶接電源の溶接電流の変化に起因するノイズによってくびれの誤検出が発生することを完全には防止することができないという問題があった。
【0016】
そこで、本発明では、溶接電圧の検出信号に他の溶接電源の溶接電流の変化に起因するノイズが重畳しても、くびれの誤検出を防止して安定した溶接状態を維持することができるくびれ検出制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
複数の溶接電源によって共通のワークに各々アークを発生させて溶接し、
前記溶接電源の内の少なくとも1台は、短絡期間からアークが再発生する前兆現象である溶滴のくびれを溶接電圧検出信号を用いて検出し、このくびれを検出すると短絡負荷に通電する溶接電流を減少させてアークを再発生させる、くびれ検出制御方法において、
前記溶接電圧検出信号には、合算した溶接電流が通電する共通通電路のインダクタンス値によって発生する電圧値を含んでおり、
前記短絡期間中に前記溶接電圧検出信号の2階微分値が、0又は正の値に予め定めた基準値以下になったことを判別したときは、前記くびれの検出を禁止する、
ことを特徴とするくびれ検出制御方法である。
【0018】
請求項2の発明は、
前記くびれの検出の禁止を、所定期間経過後に解除する、
ことを特徴とする請求項1に記載のくびれ検出制御方法である。
【0019】
請求項3の発明は、
前記くびれの検出の禁止を、前記2階微分値が前記基準値以上になったことに基づいて解除する、
ことを特徴とする請求項1に記載のくびれ検出制御方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るくびれ検出制御方法によれば、溶接電圧の検出信号に他の溶接電源の溶接電流の変化に起因するノイズが重畳しても、くびれの誤検出を防止して安定した溶接状態を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の形態に係るくびれ検出制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
図2】本発明の実施の形態に係るくびれ検出制御方法を示す図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。
図3】2台の溶接電源を使用して1つのワークの2つの溶接個所を同時に溶接するための溶接装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態に係るくびれ検出制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は、複数の溶接電源によって共通のワークに各々アークを発生させて溶接する場合において、くびれ検出制御を搭載した溶接電源である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0024】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器、整流された直流を平滑するリアクトル、誤差増幅信号Eaを入力としてパルス幅変調制御を行う変調回路、パルス幅変調制御信を入力としてインバータ回路のスイッチング素子を駆動するインバータ駆動回路を備えている。
【0025】
上記の電源主回路PMの出力端子6aと溶接トーチ4とは溶接ケーブル7aで接続されており、もう一方の出力端子6bとワーク2を設置する治具8とは溶接ケーブル7bで接続されている。
【0026】
減流抵抗器Rは、上記の電源主回路PMと出力端子6aとの間に挿入される。この減流抵抗器Rの値は、短絡負荷(0.01~0.03Ω程度)の50倍以上大きな値(0.5~3Ω程度)に設定される。このために、くびれ検出制御によって減流抵抗器Rが通電路に挿入されると、溶接電源内の直流リアクトル及び外部ケーブルのリアクトルに蓄積されたエネルギーが急放電される。トランジスタTRは、減流抵抗器Rと並列に接続されて、後述する駆動信号Drに従ってオン又はオフ制御される。
【0027】
溶接ワイヤ1は、送給機FDによって溶接トーチ4内を送給されて、ワーク2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)とワーク2の表面との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。
【0028】
上記の溶接電圧Vwは、溶接トーチ4とワーク2の表面との間に印加される電圧である。溶接トーチ4に検出線5を接続することは容易であるが、ワーク2の表面に検出線5を接続することは難しいために、治具8に接続することになる。
【0029】
溶接電圧検出回路VDは、溶接トーチ4と治具8との間の電圧を検出線5によって入力して、溶接電圧検出信号Vdを出力する。上述したように、溶接電圧検出信号Vdは、下式のように表すことができる。
Vd=Vw+L・dIg/dt
したがって、溶接電圧検出信号Vdは、溶接電圧Vwに合算溶接電流Igの変化によって共通通電路のインダクタンス値Lに発生する電圧L・dIg/dtが重畳した値となる。
【0030】
溶接電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、溶接電流検出信号Idを出力する。
【0031】
短絡判別回路SDは、上記の溶接電圧検出信号Vdを入力として、この値が予め定めた短絡/アーク判別値Vta(10V程度)未満であるときは短絡期間にあると判別してHighレベルとなり、以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。
【0032】
くびれ検出禁止回路STは、上記の短絡判別信号Sd及び上記の溶接電圧検出信号Vdを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときに以下の1)~3)のいずれかの処理を行い、くびれ検出禁止信号Stを出力する。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときに溶接電圧検出信号Vdの2階微分値が、0又は正の値に予め定めた基準値以下になるとHighレベル(禁止)となり、その後に短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)になるとLowレベル(許可)に戻るくびれ検出禁止信号Stを出力する。
2)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときに溶接電圧検出信号Vdの2階微分値が予め定めた基準値以下になるとHighレベル(禁止)となり、その後に予め定めた第1所定期間が経過するとLowレベル(許可)に戻るくびれ検出禁止信号Stを出力する。第1所定期間は短絡期間が終了するまでの期間であり、例えば0.5msに設定される。
3)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときに溶接電圧検出信号Vdの2階微分値が予め定めた基準値以下になるとHighレベル(禁止)となり、その後に2階微分値が基準値以上になり第2所定期間が経過するとLowレベル(許可)に戻るくびれ検出禁止信号Stを出力する。第2所定期間は短絡期間が終了するまでの期間であり、例えば0.3msに設定される。
【0033】
くびれ検出回路NDは、上記の短絡判別信号Sd、上記の溶接電圧検出信号Vd、上記の溶接電流検出信号Id及び上記のくびれ検出禁止信号Stを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)であり、かつ、くびれ検出禁止信号StがLowレベル(許可)である期間中の溶接電圧検出信号Vdの上昇率(微分値)が予め定めたくびれ検出基準値以上になった時点でくびれの形成状態が基準状態に達したと判別してHighレベルになり、その後に短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)になるとLowレベルに戻るくびれ検出信号Ndを出力する。したがって、くびれ検出禁止信号StがHighレベル(禁止)である期間中は、くびれの検出が禁止される。また、溶接電圧検出信号Vdの値を溶接電流検出信号Idの値で除算して溶滴の抵抗値を算出し、この抵抗値の上昇率(微分値)がそれに対応するくびれ検出基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。
【0034】
低レベル電流設定回路ILRは、予め定めた低レベル電流設定信号Ilrを出力する。
【0035】
電流比較回路CMは、上記の低レベル電流設定信号Ilr及び上記の溶接電流検出信号Idを入力として、Id<IlrのときはHighレベルになり、Id≧IlrのときはLowレベルになる電流比較信号Cmを出力する。
【0036】
駆動回路DRは、上記の電流比較信号Cm及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化するとLowレベルに変化し、その後に電流比較信号CmがHighレベルに変化するとHighレベルに変化する駆動信号Drを上記のトランジスタTRのベース端子に出力する。したがって、この駆動信号Drはくびれが検出されるとLowレベルになり、トランジスタTRがオフ状態になり通電路に減流抵抗器Rが挿入されるので、短絡負荷を通電する溶接電流Iwは急減する。そして、急減した溶接電流Iwの値が低レベル電流設定信号Ilrの値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルになり、トランジスタTRがオン状態になるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の状態に戻る。この結果、溶接電流Iwは、低レベル電流設定信号Ilrの値を維持する。
【0037】
電流制御設定回路ICRは、上記の短絡判別信号Sd、上記の低レベル電流設定信号Ilr及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、以下の処理を行い、電流制御設定信号Icrを出力する。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)に変化した時点から予め定めた初期期間中は、予め定めた初期電流設定値を電流制御設定信号Icrとして出力する。
2)その後は、初期電流設定値から上昇する電流制御設定信号Icrを出力する。
3)上昇中に、くびれ検出信号NdがHighレベル(くびれ検出)に変化すると、電流制御設定信号Icrの値を低レベル電流設定信号Ilrの値に切り換えて維持する。
4)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化し、予め定めた遅延期間Tdが経過すると、電流制御設定信号Icrを、予め定めたアーク時傾斜で予め定めた高レベル電流設定値まで上昇させ、その値を維持する。
【0038】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icr及び上記の溶接電流検出信号Idを入力として、両値の誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0039】
電圧設定回路VRは、アーク期間中の溶接電圧を設定するための予め定めた電圧設定信号Vrを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、この電圧設定信号Vr及び上記の溶接電圧検出信号Vdを入力として、両値の誤差を増幅して電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0040】
制御切換回路SWは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)に変化した時点から、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化して上記の遅延期間及び上記の高電流期間が経過した時点までの期間中は電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力し、それ以外の期間中は電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。この回路により、短絡期間+遅延期間Td+高電流期間中は定電流制御となり、それ以外のアーク期間中は定電圧制御となる。
【0041】
送給速度設定回路FRは、予め定めた送給速度設定信号Frを出力する。送給制御回路FCは、この送給速度設定信号Frを入力として、この設定値に相当する送給速度で溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給機FDに出力する。
【0042】
図2は、本発明の実施の形態に係るくびれ検出制御方法を示す図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(C)はくびれ検出信号Ndの時間変化を示し、同図(D)は駆動信号Drの時間変化を示し、同図(E)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(F)はくびれ検出禁止信号Stの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0043】
(1)時刻t1の短絡発生から時刻t2のくびれ検出時点までの動作
時刻t1において溶接ワイヤ1がワーク2と接触すると短絡期間になり、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは数V程度の短絡電圧値に急減する。そして、図1の溶接電圧検出信号Vdの値が短絡/アーク判別値Vta未満になったことを判別して、同図(E)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベルからHighレベルに変化する。これに応動して、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t1においてアーク期間の溶接電流値から減少し、時刻t1~t11の初期期間中は予め定めた初期電流値となり、時刻t11~t2の期間中は次第に上昇する。同図(C)に示すように、くびれ検出信号Ndは、後述する時刻t2~t3のくびれ時間Tn中はHighレベルとなり、それ以外の期間はLowレベルとなる。同図(D)に示すように、駆動信号Drは、後述する時刻t2~t21の期間はLowレベルとなり、それ以外の期間はHighレベルとなる。したがって、同図において時刻t2以前の期間中は、駆動信号DrはHighレベルとなり、図1のトランジスタTRがオン状態となるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の溶接電源と同一の状態となる。例えば、上記の初期期間は0.5ms程度であり、初期電流値は50A程度であり、上記の溶接電流Iwの上昇速度は100A/ms程度であり300A程度まで上昇する。
【0044】
同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが上昇を継続している期間中に次第に上昇する。これは、溶滴にくびれが次第に形成されるためである。そして、くびれの形成状態が基準状態に達したことを、図1の溶接電圧検出信号Vdの上昇率(微分値)が予め定めたくびれ検出基準値以上になったことによって検出する。このくびれを検出している時刻t11~t2の期間中に、他の溶接電源の溶接電流が急峻に変化すると、上述したように、溶接電圧検出信号Vdに合算溶接電流Igの変化によって共通通電路のインダクタンス値Lに発生する電圧L・dIg/dtがノイズとして重畳することになる。他の溶接電源の溶接電流(合算溶接電流Ig)における上昇する場合の変化は下降する場合の変化に比べて緩やかであるので、重畳するノイズは小さくなり、くびれの誤検出を生じることはない。しかし、他の溶接電源の溶接電流の下降する変化は、急峻である場合もある。このような場合には、負の値の大きなノイズが重畳することになる。ノイズが重畳していないときは、溶接電圧検出信号Vdの上昇率はくびれの形成に伴って経時的に大きくなる。すなわち、溶接電圧検出信号Vdの2階微分値は正の値の基準値以上になる。この状態において、上記のノイズが重畳すると、溶接電圧検出信号Vdの2階微分値が、0又は正の値に予め定めた基準値以下となり、くびれの誤検出が発生する状態となる。このことを考慮して、以下の場合には、くびれの検出を一時的に禁止するようにしている。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときに溶接電圧検出信号Vdの2階微分値が、0又は正の値に予め定めた基準値以下になるとHighレベル(禁止)となり、その後に短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)になるとLowレベル(許可)に戻るくびれ検出禁止信号Stを出力する。
2)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときに溶接電圧検出信号Vdの2階微分値が予め定めた基準値以下になるとHighレベル(禁止)となり、その後に予め定めた第1所定期間が経過するとLowレベル(許可)に戻るくびれ検出禁止信号Stを出力する。第1所定期間は短絡期間が終了するまでの期間であり、例えば0.5msに設定される。
3)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときに溶接電圧検出信号Vdの2階微分値が予め定めた基準値以下になるとHighレベル(禁止)となり、その後に2階微分値が基準値以上になり第2所定期間が経過するとLowレベル(許可)に戻るくびれ検出禁止信号Stを出力する。第2所定期間は短絡期間が終了するまでの期間であり、例えば0.3msに設定される。
【0045】
同図は、時刻t12に他の溶接電源の溶接電流に急峻に下降する変化があった場合であり、時刻t12~t13の期間中は、同図(F)に示すように、くびれ検出禁止信号StがHighレベルとなっている。したがって、この期間中は、くびれの検出を一時的に禁止することによって、くびれの誤検出を防止している。同図は、上記の禁止処理が2)又は3)の場合である。
【0046】
(2)時刻t2のくびれ検出時点から時刻t3のアーク再発生時点までの動作
時刻t2において、同図(F)に示すように、くびれ検出禁止信号StがLowレベル(許可)であり、くびれの形成状態が基準状態に達したことを溶接電圧検出信号Vdに基づいて検出すると、同図(C)に示すように、くびれ検出信号NdはHighレベルに変化する。これに応動して、同図(D)に示すように、駆動信号DrはLowレベルになるので、図1のトランジスタTRはオフ状態となり減流抵抗器Rが通電路に挿入される。このために、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは急減する。そして、時刻t21において、溶接電流Iwが低レベル電流値Ilまで減少すると、同図(D)に示すように、駆動信号DrはHighレベルに戻るので、図1のトランジスタTRはオン状態となり減流抵抗器Rは短絡される。この結果、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t21からアークが再発生する時刻t3まで低レベル電流値Ilを維持する。したがって、トランジスタTRは、時刻t2にくびれが検出されてから時刻t21に溶接電流Iwが低レベル電流値Ilに減少するまでの期間のみオフ状態となる。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが小さくなるので時刻t2から一旦減少した後に急上昇する。例えば、上記の低レベル電流値Ilは40A程度に設定される。
【0047】
(3)時刻t3のアーク再発生から遅延期間Tdが経過して時刻t4の高電流期間が終了するまでの動作
時刻t3においてアーク3が再発生すると、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは急増し、図1の溶接電圧検出信号Vdの値は短絡/アーク判別値Vta以上となるので、同図(E)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベルに変化する。これに応動して、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは定電流制御によって、時刻t3~t31の遅延期間Td中は低レベル電流値Ilを維持し、時刻t31~t4の高電流期間中は上昇して高レベル電流値に達するとその値を維持する。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、時刻t3~t31の遅延期間Td中はアーク電圧値となり、時刻t31~t4の高電流期間中はそれよりも大の高レベル電圧値となる。同図(C)に示すように、くびれ検出信号Ndは、時刻t3にアークが再発生するので、Lowレベルに変化する。例えば、上記の遅延期間Tdは0.1ms程度に設定され、上記の高電流期間は1ms程度に設定され、上記の高電流値は400A程度に設定される。
【0048】
(4)時刻t4の高電流期間終了時点から時刻t5の次の短絡発生までのアーク期間の動作
時刻t4において高電流期間が終了すると、溶接電源は定電流制御から定電圧制御へと切り換えられる。このために、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、アーク負荷に応じて高レベル電流値から次第に減少する。同様に、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは高レベル電圧値から次第に減少する。
【0049】
以下、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態によれば、短絡期間中に溶接電圧検出信号の2階微分値が、0又は正の値に予め定めた基準値以下になったことを判別したときは、くびれの検出を禁止する。このようにすると、他の溶接電源の溶接電流の変化に起因するノイズによるくびれの誤検出をを防止して安定した溶接状態を維持することができる。従来技術のように、溶接電圧検出信号の値が減少したことによってくびれの検出を禁止する場合には、本実施の形態のように、溶接電圧検出信号の2階微分値が0又は正の値の基準値になった状態におけるくびれの誤検出を防止することができない。したがって、本実施の形態では、従来技術のくびれの誤検出の防止を含めて、より広い範囲のくびれの誤検出を防止することができる。
【0050】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、くびれの検出の禁止を、所定期間経過後に解除する。このようにすれば、短絡期間中の一部期間のみくびれの検出を禁止して、当該短絡期間中にくびれの検出を正確に行うことができるので、くびれの検出精度を向上させることができる。
【0051】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、くびれの検出の禁止を、2階微分値が基準値以上になったことに基づいて解除する。このようにすれば、くびれの検出を禁止する期間を必要最小限にすることができるので、くびれの検出精度をさらに向上させることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 溶接ワイヤ
11 第1溶接ワイヤ
12 第2溶接ワイヤ
2 ワーク
3 アーク
31 第1アーク
32 第2アーク
4 溶接トーチ
41 第1溶接トーチ
42 第2溶接トーチ
5 検出線
6a、6b 出力端子
7a、7b 溶接ケーブル
8 治具
CM 電流比較回路
Cm 電流比較信号
DR 駆動回路
Dr 駆動信号
Ea 誤差増幅信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
Fc1 第1送給制御信号
Fc2 第2送給制御信号
FD 送給機
FD1 第1送給機
FD2 第2送給機
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
ICR 電流制御設定回路
Icr 電流制御設定信号
ID 溶接電流検出回路
Id 溶接電流検出信号
Ig 合算溶接電流
Il 低レベル電流値
ILR 低レベル電流設定回路
Ilr 低レベル電流設定信号
Iw 溶接電流
Iw1 第1溶接電流
Iw2 第2溶接電流
L 共通通電路のインダクタンス
ND くびれ検出回路
Nd くびれ検出信号
PM 電源主回路
R 減流抵抗器
SD 短絡判別回路
Sd 短絡判別信号
ST くびれ検出禁止回路
St くびれ検出禁止信号
SW 制御切換回路
Td 遅延期間
TR トランジスタ
VD 溶接電圧検出回路
Vd 溶接電圧検出信号
VD1 第1溶接電圧検出回路
Vd1 第1溶接電圧検出信号
VD2 第2溶接電圧検出回路
Vd2 第2溶接電圧検出信号
VR 電圧設定回路
Vr 電圧設定信号
Vta 短絡/アーク判別値
Vw 溶接電圧
Vw1 第1溶接電圧
Vw2 第2溶接電圧
図1
図2
図3