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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011046
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】破壊評価装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
G01N17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112725
(22)【出願日】2022-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 貴広
(72)【発明者】
【氏名】吉田 修一
(72)【発明者】
【氏名】板谷 雅雄
(72)【発明者】
【氏名】小川 琢矢
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 利之
【テーマコード(参考)】
2G050
【Fターム(参考)】
2G050AA02
2G050AA07
2G050BA12
(57)【要約】
【課題】機器や構造物等を簡便かつ瞬時に破壊評価し、継続運転の可否及びその期間、並びに継続検査や補修・交換といった保全対策・計画を迅速に判定する破壊評価技術を提供する。
【解決手段】破壊評価装置10は、欠陥31の亀裂モデル32の形状を示す第1パラメータ21の規定部11と、応力分布を示す第2パラメータ22の規定部12と、亀裂モデル32の形状及び応力分布に関するデータ(a,c,Pm,Pb)を入力して演算した破壊荷重25の登録部15と、亀裂寸法26及び破壊荷重25の連続変数を二軸とする座標の設定部16と、第1パラメータ21及び第2パラメータ22のいずれか一方を定数にする設定部17と、他方を離散変数にする設定部18と、これら離散変数の各々に対応する複数の線グラフを座標に重ね書きするグラフ作成部19と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象物で想定される欠陥の亀裂モデルの形状を示す第1パラメータを規定する第1規定部と、
前記評価対象物で想定される応力分布を示す第2パラメータを規定する第2規定部と、
前記亀裂モデルの形状及び前記応力分布に関するデータの入力に対し、演算により出力された前記評価対象物の破壊荷重を登録する登録部と、
前記欠陥の亀裂寸法及び前記破壊荷重の連続変数を二軸とする座標を設定する座標設定部と、
前記第1パラメータ及び前記第2パラメータのいずれか一方を定数に設定する定数設定部と、
前記第1パラメータ及び前記第2パラメータの他方を離散変数に設定する離散化設定部と、
前記離散変数の各々に対応する複数の線グラフを前記座標に重ね書きした評価グラフを作成するグラフ作成部と、を備える破壊評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の破壊評価装置において、
前記亀裂モデルは半楕円形状の表面亀裂を採用し、前記第1パラメータは前記亀裂モデルのアスペクト比とする破壊評価装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の破壊評価装置において、
前記第2パラメータは、膜応力と曲げ応力の比とする破壊評価装置。
【請求項4】
請求項3に記載の破壊評価装置において、
前記破壊荷重は、前記第2パラメータを離散変数に設定し、前記亀裂寸法と前記破壊荷重との関係を示したグラフに基づき決定したものである破壊評価装置。
【請求項5】
評価対象物で想定される欠陥の亀裂モデルの形状を示す第1パラメータを規定するステップと、
前記評価対象物で想定される応力分布を示す第2パラメータを規定するステップと、
前記亀裂モデルの形状及び前記応力分布に関するデータの入力に対し、演算により出力された前記評価対象物の破壊荷重を登録するステップと、
前記欠陥の亀裂寸法及び前記破壊荷重の連続変数を二軸とする座標を設定するステップと、
前記第1パラメータ及び前記第2パラメータのいずれか一方を定数に設定するステップと、
前記第1パラメータ及び前記第2パラメータの他方を離散変数に設定するステップと、
前記離散変数の各々に対応する複数の線グラフを前記座標に重ね書きした評価グラフを作成するステップと、を含む破壊評価方法。
【請求項6】
コンピュータに、
評価対象物で想定される欠陥の亀裂モデルの形状を示す第1パラメータを規定するステップ、
前記評価対象物で想定される応力分布を示す第2パラメータを規定するステップ、
前記亀裂モデルの形状及び前記応力分布に関するデータの入力に対し、演算により出力された前記評価対象物の破壊荷重を登録するステップ、
前記欠陥の亀裂寸法及び前記破壊荷重の連続変数を二軸とする座標を設定するステップ、
前記第1パラメータ及び前記第2パラメータのいずれか一方を定数に設定するステップ、
前記第1パラメータ及び前記第2パラメータの他方を離散変数に設定するステップ、
前記離散変数の各々に対応する複数の線グラフを前記座標に重ね書きした評価グラフを作成するステップ、を実行させる破壊評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、機器や構造物の欠陥に起因する破壊の評価技術に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電設備の高経年化や寿命延長が進み、経年劣化事象の発現リスクが高まっている。そのような状況の中、経年劣化事象の発現リスクへの対応は重要性を増している。発電設備の安定運転や稼働率の向上は、設備全体の効率利用や電力の安定供給の観点から重要である。
【0003】
機器や構造物等の保全対策・計画を判定するため、検査により経年劣化事象に関連した欠陥を検出する。そして検出された欠陥に対し、寸法測定(サイジング)を行い、機器や構造物等の破壊を評価してきた。そして、この破壊評価の結果に基づき、継続運転や補修、交換といった保全対策・計画の判断がなされてきた。
【0004】
なお破壊評価では、対象となる機器や構造物等の材料特性を設定し、モデル化された欠陥を適用し、予め整備された評価式や構造解析手法を用いる。そして、欠陥寸法に対する破壊荷重を評価し、機器や構造物等の保全対策・計画の判定がなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-60244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、通常の破壊評価のプロセスは、信頼性のある材料特性のデータ準備に手間がかる。さらに、種々の評価手法を用いた非線形解析や有限要素法解析に高度な知識が必要である。このために破壊評価は一般に困難性を伴う。特に、対象となる機器や構造物等の材料特性が供用期間中に変化する場合、破壊評価は煩雑な手順となることが避けられない。
【0007】
つまり、これまでの破壊評価は、欠陥のモデル化、必要となる各種のインプットパラメータの整備、応力解析、評価の実施、評価結果の分析、といった一連の手順に膨大な時間と労力がかかり、さらに煩雑な計算や解析を伴うものであった。
【0008】
このように、検査で検出された欠陥に対して破壊評価を実施し、構造物等の保全対策・計画を判定するまで長期間に亘る。このために検出された欠陥の処置判断に時間を要し、設備全体で停止期間の不要な長期化が余儀なくされていた。
【0009】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたもので、機器や構造物等を簡便かつ瞬時に破壊評価し、継続運転の可否及びその期間、並びに継続検査や補修・交換といった保全対策・計画を迅速に判定する破壊評価技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態に係る破壊評価装置において、評価対象物で想定される欠陥の亀裂モデルの形状を示す第1パラメータを規定する第1規定部と、前記評価対象物で想定される応力分布を示す第2パラメータを規定する第2規定部と、前記亀裂モデルの形状及び前記応力分布に関するデータの入力に対し、演算により出力された前記評価対象物の破壊荷重を登録する登録部と、前記欠陥の亀裂寸法及び前記破壊荷重の連続変数を二軸とする座標を設定する座標設定部と、前記第1パラメータ及び前記第2パラメータのいずれか一方を定数に設定する定数設定部と、前記第1パラメータ及び前記第2パラメータの他方を離散変数に設定する離散化設定部と、前記離散変数の各々に対応する複数の線グラフを前記座標に重ね書きした評価グラフを作成するグラフ作成部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態により、機器や構造物等を簡便かつ瞬時に破壊評価し、継続運転の可否及びその期間、並びに継続検査や補修・交換といった保全対策・計画を迅速に判定する破壊評価技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る破壊評価装置のブロック構成図。
図2】(A)表面に欠陥が開口する評価対象物の正面図、(B)同・縦断面図、(C)評価対象物の表面に開口する欠陥の亀裂モデルの説明図。
図3】(A)評価対象物の断面に作用する応力分布を示す図、(B)応力分布のうち膜応力の成分を示す図、(C)応力分布のうち曲げ応力の成分を示す図。
図4】亀裂モデルのアスペクト比で表した第1パラメータを離散変数に設定した評価グラフ。
図5】膜応力と曲げ応力の比で表した第2パラメータを離散変数に設定した評価グラフ。
図6】第2パラメータを離散変数に設定し、初期欠陥寸法と破壊荷重との関係を示すグラフ(初期欠陥深さが5mmの場合)。
図7】第2パラメータを離散変数に設定し、初期欠陥寸法と破壊荷重との関係を示すグラフ(初期欠陥深さが10mmの場合)。
図8】第2パラメータを離散変数に設定し、初期欠陥寸法と破壊荷重との関係を示すグラフ(初期欠陥深さが15mmの場合)。
図9】第2パラメータを離散変数に設定し、初期欠陥寸法と破壊荷重との関係を示すグラフ(初期欠陥深さが20mmの場合)。
図10】本発明の実施形態に係る破壊評価方法の工程及び破壊評価プログラムのアルゴリズムを説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施形態に係る破壊評価装置10のブロック構成図である。この図1及び図2に示すように破壊評価装置10は、評価対象物30で想定される欠陥31の亀裂モデル32の形状を示す第1パラメータ21を規定する第1規定部11と、この評価対象物30で想定される応力分布(図3(A))を示す第2パラメータ22を規定する第2規定部12と、を備えている。
【0014】
さらに破壊評価装置10は、亀裂モデル32の形状及び応力分布(図3(A))に関するデータ(a,c,Pm,Pb)の入力に対し演算部20から出力された評価対象物30の破壊荷重25を登録する登録部15と、欠陥31の亀裂寸法26及び破壊荷重25の連続変数を二軸とする座標を設定する座標設定部16と、第1パラメータ21及び第2パラメータ22のいずれか一方を定数に設定する定数設定部17と、第1パラメータ21及び第2パラメータ22の他方を離散変数に設定する離散化設定部18と、これら離散変数の各々に対応する複数の線グラフを座標に重ね書きした評価グラフ27(図4図5参照)を作成するグラフ作成部19と、を備えている。
【0015】
図2(A)は表面に欠陥31が開口する評価対象物30の正面図である。図2(B)は同、評価対象物30の縦断面図である。図2(C)は欠陥31の亀裂モデル32の説明図である。第1規定部11では、この欠陥31に対し半楕円形状の表面亀裂を模した亀裂モデル32を規定している。
【0016】
なお亀裂モデル32の寸法については、例えば炉内構造物の目視等による欠陥検査における検出限界を考慮し、半楕円形状の周方向内表面欠陥であれば、最小寸法を深さ1mm×長さ10mm等をとる。そして、設定した最小寸法の初期欠陥を基準として、適切な寸法間隔で亀裂モデル32の形状を規定する。
【0017】
なお評価対象物30としては、ボルトやナットのようなパーツである場合の他に、原子炉圧力容器や炉心シュラウド、再循環系配管等の圧力バウンダリなどの大型構造物である場合も含む。また評価対象物30は、原子力発電設備のその他の機器や構造物の部位も対象となり、また、原子力発電設備に限定されることなく、他の発電設備の構造物も対象にすることができる。
【0018】
本実施形態で表面亀裂の欠陥31を規定する第1パラメータ21は、半楕円形状の亀裂モデル32の亀裂深さaと、亀裂長さ(半長)cの比であるアスペクト比(a/c)としている。なお、第1規定部11で対象となる欠陥31は、例示した表面亀裂に限定されず、表面に開口を有しない内部亀裂も対象となり得る。また亀裂モデル32の形状を規定する第1パラメータ21もアスペクト比(a/c)に限定する必要はない。
【0019】
図3(A)は評価対象物30の断面に作用する応力分布を示す図である。図3(B)は応力分布のうち膜応力Pmの成分を示す図である。図3(C)は応力分布のうち曲げ応力Pbの成分を示す図である。第2規定部12では、第2パラメータ22を、膜応力Pmと曲げ応力Pbの比(Pm/Pb)で規定している。なお第2パラメータ22は、(Pm/Pb)に限定されず、評価対象物30で想定される応力分布を規定するものであれば適宜用いられる。
【0020】
演算部20は、亀裂モデル32の形状及び応力分布に関するデータ(a,c,Pm,Pb)の入力に対し、評価対象物30の破壊荷重25(Pf)を出力し登録部15に登録する。これら入力変数と破壊荷重25(Pf)とは、次の関係式(1)で表される。なお演算部20の詳細については後述する。
f=f(Pm,Pb,a,c)・・・(1)
【0021】
図4は亀裂モデル32のアスペクト比(a/c)で表した第1パラメータ21を離散変数に設定した評価グラフ27aである。図5は膜応力Pmと曲げ応力Pbの比(Pm/Pb)で表した第2パラメータ22(Pm/Pb)を離散変数に設定した評価グラフ27bである。なお評価グラフ27の横軸に示す亀裂寸法26は、亀裂深さaで示しているが、亀裂長さ(半長)cで示してもよい。
【0022】
図1に戻って説明を続ける。座標設定部16は、評価グラフ27の横軸に亀裂寸法26(a)の連続変数を設定する。そして、評価グラフ27の縦軸に破壊荷重25(Pf)の連続変数を設定する。これら二軸のスケールは、任意に設定することができる。
【0023】
定数設定部17で第2パラメータ22(Pm/Pb)を定数に設定した場合、離散化設定部18は第1パラメータ21(a/c)を離散変数に設定する。このとき定数設定部17は、Pm+Pbも一定にする拘束条件を付している。さらに離散化設定部18は、a/c=0.1~2.0と、図4に示すように離散変数の範囲及び間隔も設定する。その結果、グラフ作成部19は、これら離散変数(a/c)の各々に対応する複数の線グラフを平面座標(a-Pf)に重ね書きした評価グラフ27a(27)を作成する。
【0024】
また定数設定部17で第1パラメータ21(a/c)を定数に設定した場合、離散化設定部18は第2パラメータ22(Pm/Pb)を離散変数に設定する。そして、離散化設定部18は、Pm+Pbを一定にする拘束条件を付し、Pm/Pb=0.1~2.0と、図5に示すように離散変数の範囲及び間隔を設定する。その結果、グラフ作成部19は、これら各々の離散変数(Pm/Pb)に対応する複数の線グラフを平面座標(a-Pf)に重ね書きした評価グラフ27b(27)を作成する。
【0025】
なお、縦軸の破壊荷重25(Pf)は、安全率(SF)を考慮して、保守的に割下げた値を用いても良い。各線の下側が非破壊、上側が破壊、と判定される領域となる。また説明において、評価グラフ27(27a,27b)をグラフ表示させることを前提としているが、図示するように評価グラフ27を視認させる必要性は無い。つまり、例えば、欠陥寸法と許容される負荷荷重との関係を示す数値表の形式や関数の形式で表す場合もある。関数の場合には、測定した欠陥の亀裂モデル32の形状及び応力分布(図3(A))に関するデータ(a,c,Pm,Pb)を入力することで、破壊判定を精度良く瞬時に実施・表示することができる。
【0026】
さらに、二次元的に表される評価グラフ27に加えて、三次元的な表示をしても良い。更に、これらのグラフ表示と関数形とを組合せて、視覚的にも精度的にもユーザーの利便性に沿う形にすることが可能である。
【0027】
評価部28は、評価グラフ27に基づいて、評価対象物30が破壊する限界条件を、評価するものである。つまり、評価対象物30に負荷した荷重と欠陥31の亀裂寸法とに対する破壊の限界条件を、第1パラメータ21及び第2パラメータ22に照らして評価できる。または、既知の第1パラメータ21及び第2パラメータ22に対する破壊の限界条件を、負荷した荷重と欠陥31の亀裂寸法に照らして評価できる。
【0028】
例えば図4及び図5において、亀裂寸法(亀裂深さ)がasである欠陥31が検出されている評価対象物30にPsの荷重が負荷された場合、アスペクト比が0.5以上で、応力分布(Pm/Pb)が0.5以上であれば破壊の恐れがないといった保守的な判定を瞬時にできる。なお評価部28は、上述したような決定論に基づく評価だけでなく、例えば確率論に基づく確率論的破壊力学(PFM)に基づいて評価することもできる。
【0029】
このようにして、破壊評価装置10で作成された評価グラフ27(27a,27b)を用いて、原子炉施設等で行う調査で発見した欠陥が、構造物に及ぼす影響を評価する。このような、欠陥の形状(第1パラメータ21)や構造物の応力分布(第2パラメータ22)を考慮して破壊荷重25(Pf)を表した評価グラフ27は、欠陥31の調査に先立って、予め準備しておくことができる。これにより、評価対象物30の破壊に関する評価期間を短縮することができ、プラントの停止期間が延長されるような事態を回避することができる。
【0030】
演算部20は、欠陥31を有する評価対象物30に作用する応力から、破壊パラメータを評価し、公知の方法により破壊荷重25(Pf)を演算する。そのような、破壊パラメータとしては、脆性破壊に対する線形破壊力学基準の評価では応力拡大係数、延性破壊に対する弾塑性破壊力学や塑性崩壊基準の評価ではJ積分や崩壊荷重(最大荷重)が挙げられる。応力拡大係数の算出方法として、日本機械学会維持規格やASME Boiler & Pressure Vessel Code Section XIなどの規格基準に掲載されている簡易評価式や、Raju&Newmanの式や影響関数法などの広く知られている簡易評価式を用いてもよく、有限要素法(FEM)解析を用いて算出してもよい。
【0031】
応力拡大係数Kとしては、面内開口形のモードI、面内せん断形のモードII、および面外せん断形のモードIIIの3つのモードについてそれぞれ応力拡大係数Kが算出される。ただし、たとえば、これらの3つのモードを、モードIに集約しモードIで代表させるように安全側に設定してもよい。以下、モードIで代表させる場合を例にとって説明する。この場合、応力拡大係数Kは、応力拡大係数Kで表される。評価対象物30に遠方応力σが付加されているとする。各時点での深さaの欠陥についての応力拡大係数Kは、次式(2)で算出することができる。
応力拡大係数K=σ√(πa) ・・・(2)
【0032】
弾塑性破壊力学評価に必要なJ積分は、上述した応力拡大係数を用いて参照応力法により求める方法や、FEM解析により直接求める方法がある。また、延性亀裂進展に伴う破壊挙動を評価する手法として、GTNモデル(Gurson-Tvergaard-Needleman model)による数値解析があり、この手法によって、欠陥を有する構造物の限界荷重、即ち構造物が耐えうる荷重の最大値を求めることができる。更に、塑性崩壊基準の評価では、極限解析により、同様に限界荷重を求めることができる。
【0033】
図6図9は、それぞれ初期亀裂寸法(欠陥深さ)が5mm、10mm、15mm、20mmの場合において、Pm/Pbで表した第2パラメータ22を離散変数に設定し、亀裂寸法と破壊荷重25(Pf)との関係を示すグラフである。このように、破壊荷重25(Pf)は、欠陥31の亀裂寸法及び欠陥31に負荷する応力に基づき決定したものである。すなわち、上述した破壊パラメータに対して求まる限界荷重を破壊荷重25(Pf)とした。そして、膜応力(Pm)と曲げ応力(Pb)の比(Pm/Pb)の全ケースに対して繰り返し計算することで、所定の亀裂寸法に対し任意の負荷荷重に対する破壊荷重の曲線を評価する。このような図6図9の評価結果に基づき、図4及び図5に示す評価グラフ27(27a,27b)が構築される。
【0034】
なお破壊荷重25(Pf)は、上述した方法以外にも、例えば、構造物に負荷される荷重から、破壊判定基準に相当する初期寸法を逆解析により求める方法がある。また、破壊と判定する負荷荷重を設定し、その条件を満足する初期亀裂寸法を応答曲面として逆解析により求めることもできる。
【0035】
図10のフローチャートに基づいて、本発明の実施形態に係る破壊評価方法の工程及び破壊評価プログラムのアルゴリズムを説明する。まず、評価対象物30で想定される欠陥31の亀裂モデル32の形状を示す第1パラメータ21を規定する(S11)。そして、評価対象物30で想定される応力分布(図3(A))を示す第2パラメータ22を規定する(S12)。
【0036】
次に、亀裂モデル32の形状及び応力分布に関するデータ(Pm,Pb,a,c)の入力に対し演算により出力した評価対象物30の破壊荷重25を登録する(S13)。そして、亀裂寸法26及び破壊荷重25の連続変数を二軸とする座標を設定する(S14)。
【0037】
次に、第1パラメータ21及び第2パラメータ22のいずれか一方を定数に設定し(S15(S15A,S15B))、第1パラメータ21及び第2パラメータ22の他方を離散変数に設定する(S16(S16A,S16B))。そして、これら離散変数の各々に対応する複数の線グラフを座標に重ね書きした評価グラフ27(27a,27b)を作成する(S17(S17A,S17B))。
【0038】
次に、評価対象物30を検査して欠陥31を検出する(S18)。そして、この欠陥31に亀裂モデル32を対応させて寸法を設定するとともに第1パラメータ21(アスペクト比(a/c))を取得する(S19)。さらに評価対象物30に作用する応力分布の第2パラメータ22(膜応力Pmと曲げ応力Pbの比(Pm/Pb))を取得する(S20)。
【0039】
次に、検出された欠陥31の亀裂寸法、第1パラメータ21及び第2パラメータ22を評価グラフ27(27a,27b)に照合し(S21)、破壊荷重25(Pf)を評価する(S22、END)。
【0040】
このように評価グラフ27を予め整備しておくことで、検査の現場やモニタリングにより検出した欠陥31の寸法を基に、評価対象物30の破壊評価を迅速化することができる。ところで、欠陥31について、検査による実測ができない場合や、測定結果自体に多分な不確かさが含まれる場合や、深さや長さ、形状と言ったパラメータに不明なものが含まれる場合が想定される。このような場合は、利用可能な寸法情報を活用しつつ、対象部位の状態や幾何学的形状、求められる機能、過去の実績等に基づき、保守的かつ技術的に適切と判断できる欠陥寸法を設定しても良い。
【0041】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の破壊評価装置によれば、亀裂モデルの形状を示す第1パラメータ及び応力分布を示す第2パラメータを規定することにより、機器や構造物等を簡便かつ瞬時に破壊評価し、継続運転の可否及びその期間、並びに継続検査や補修・交換といった保全対策・計画を迅速に判定することが可能となる。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0043】
以上説明した破壊評価装置は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、又はCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスやキーボードなどの入力装置と、通信I/Fとを、備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。このため破壊評価装置の構成要素は、コンピュータのプロセッサで実現することも可能であり、破壊評価プログラムにより動作させることが可能である
【0044】
また破壊評価プログラムは、ROM等に予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供するようにしてもよい。
【0045】
また、本実施形態に係る破壊評価プログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしてもよい。また、破壊評価装置は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワーク又は専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【符号の説明】
【0046】
10…破壊評価装置、11…第1規定部、12…第2規定部、15…登録部、16…座標設定部、17…定数設定部、18…離散化設定部、19…グラフ作成部、20…演算部、21…第1パラメータ、22…第2パラメータ、25…破壊荷重、26…亀裂寸法、27(27a,27b)…評価グラフ、28…評価部、30…評価対象物、31…欠陥、32…亀裂モデル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10