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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110464
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240808BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20240808BHJP
   C08L 5/00 20060101ALI20240808BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20240808BHJP
   C08L 5/08 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L23/26
C08L5/00
C08L1/02
C08L5/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015004
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100164161
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 彩
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 光
(72)【発明者】
【氏名】小野 勇
(72)【発明者】
【氏名】竹中 天斗
(72)【発明者】
【氏名】関口 俊司
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA011
4J002AB012
4J002AB054
4J002BB031
4J002BB121
4J002BB213
4J002BC031
4J002BE021
4J002CF031
4J002CF191
4J002CL001
4J002FD012
4J002GA00
4J002GC00
4J002GG00
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、木質系バイオマスを混合した樹脂組成物において、高い強度をもつ樹脂組成物を提供することである。
【解決手段】成分(A):平均粒子径が5~100μm である粉末状セルロースと、成分(B):熱可塑性樹脂と、成分(C):α,β―不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性された変性ポリオレフィン樹脂と、成分(D):アミノ基を有する多糖類を含む樹脂組成物。さらに、前記成分(C)と前記成分(D)とがグラフト反応して得られる成分(E):アミド化合物を含むことを特徴する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)~(D)を含む、樹脂組成物。
成分(A):平均粒子径が5~100μmである粉末状セルロース
成分(B):熱可塑性樹脂
成分(C):α,β―不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性された変性ポリオレフィン樹脂
成分(D):アミノ基を有する多糖類
【請求項2】
前記成分(C)と前記成分(D)とがグラフト反応して得られる成分(E):アミド化合物を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記成分(A)~(D)の配合比が、成分(A):成分(B):成分(C):成分(D)=1~50:50~99:0.5~5.0:0.05~1.0である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記成分(D)がキトサンである、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記成分(C)において、ポリオレフィン樹脂に対するα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体の変性量が、1.0~5.0重量%である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載の樹脂組成物を含む、成型用樹脂材料。
【請求項7】
下記成分(A)~(D)を加熱混錬する工程含む、樹脂組成物の製造方法。
成分(A):平均粒子径が5~100μmである粉末状セルロース
成分(B):熱可塑性樹脂
成分(C):α,β―不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性されたポリオレフィン樹脂
成分(D):アミノ基を有する多糖類
【請求項8】
前記加熱混錬工程において、前記成分(C)と前記成分(D)とを予め加熱混錬して前記成分(E)を調製した後、前記成分(A)と前記成分(B)を加え、更に加熱混錬する工程を含む、請求項7に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末状セルロース、熱可塑性樹脂、α,β―不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性されたポリオレフィン樹脂及びアミノ基を有する多糖類を含有する樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業資源としてのバイオマス材が注目されている。バイオマス材とは、植物などの生物を由来とした材料を意味する。バイオマス材は有機物であるため、燃焼させると二酸化炭素が排出される。しかしこれに含まれる炭素は、そのバイオマスが成長過程で光合成により大気中から吸収した二酸化炭素に由来するため、バイオマス材を使用し、焼却してもライフサイクルでの二酸化炭素の排出量は石油化学製品より少ない。
【0003】
地球温暖化問題等の地球環境問題を背景として、省資源化、及び廃棄物の原材料を目指すマテリアルリサイクル、そして、生分解性プラスチックに代表される環境循環サイクルの推進が急務となっており、我が国でも改正リサイクル法やグリーン購入法等が整備され、これに対応した製品のニーズも高まっている。
【0004】
こうした状況において、自動車部品の材料から日用品まで幅広く使用されている樹脂成型品にバイオマス材を配合することは、ライフサイクルでの二酸化炭素排出量の削減の実践を促進するところである。例えば、特許文献1にはカルボキシルメチル化セルロースナノファイバー、第1級アミノ基を有する高分子化合物、酸変性されたポリオレフィン、ポリオレフィンを含有する複合材料が記載されている。特許文献2には木材パルプとポリマーマトリックスを含むセルロース複合材料が記載されている。特許文献3には木粉とランダムポリプロピレン樹脂を混合し、射出成形機によって木粉含有樹脂射出成形品を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2014/087767号公報
【特許文献2】特表2019-512591号公報
【特許文献3】特開2010-138337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、単に「木質系バイオマス」と「ポリプロピレン」とを混合して加熱溶融して成形する場合には、木質系バイオマスが親水性であるためにポリプロピレンと均一に混合できない、得られる成形物品の強度が弱い、などの問題があった。
【0007】
特許文献1ではポリオレフィン樹脂中に均一に分散させるためにカルボキシルメチル化セルロースナノファイバーを使用することが記載されているが、セルロースをカルボキシメチル化し、さらにナノファイバー化する工程は容易ではなく、また、著しくコストアップとなるなどの問題があった。
【0008】
特許文献1~3に記載されるような方法により、木質系バイオマスと熱可塑性樹脂との複合材料の調製は可能となったものの、容易に調製可能な更なる強度向上品の開発が望まれる。
【0009】
そこで、本発明の課題は、木質系バイオマスを混合した樹脂組成物において、高い強度をもつ樹脂組成物を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の[1]~[8]を提供する。
[1]下記成分(A)~(D)を含む、樹脂組成物。
成分(A):平均粒子径が5~100μmである粉末状セルロース
成分(B):熱可塑性樹脂
成分(C):α,β―不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性された変性ポリオレフィン樹脂
成分(D):アミノ基を有する多糖類
[2]前記成分(C)と前記成分(D)とがグラフト反応して得られる成分(E):アミド化合物を含む、[1]に記載の樹脂組成物。
[3]前記成分(A)~(D)の配合比が、成分(A):成分(B):成分(C):成分(D)=1~50:50~99:0.5~5.0:0.05~1.0である、[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
[4]前記成分(D)がキトサンである、[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
[5]前記成分(C)において、ポリオレフィン樹脂に対するα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体の変性量が、1.0~5.0重量%である、[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
[6][1]または[2]に記載の樹脂組成物を含む、成型用樹脂材料。
[7]下記成分(A)~(D)を加熱混錬する工程含む、樹脂組成物の製造方法。
成分(A):平均粒子径が5~100μmである粉末状セルロース
成分(B):熱可塑性樹脂
成分(C):α,β―不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性されたポリオレフィン樹脂
成分(D):アミノ基を有する多糖類
[8]前記加熱混錬工程において、前記成分(C)と前記成分(D)とを予め加熱混錬して前記成分(E)を調製した後、前記成分(A)と前記成分(B)を加え、更に加熱混錬する工程を含む、[7]に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、木質系バイオマスを混合した樹脂組成物において、高い強度をもつ樹脂組成物製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<成分(A):粉末状セルロース>
本発明に用いられる粉末状セルロースは、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸(すなわち、無機酸)で酸加水分解処理したパルプ等のセルロース原料を粉砕処理、あるいは酸加水分解処理を施さないパルプ等のセルロース原料を機械粉砕して得ることができる。
【0013】
本発明において、原料として使用するセルロース原料であるパルプは、木材由来のパルプが好ましい。木材由来のパルプとしては、広葉樹由来のパルプ、針葉樹由来のパルプが挙げられるが特に広葉樹由来の化学パルプが好ましい。これらの木材由来の化学パルプのパルプ化法(蒸解法)は、特に限定されるものではなく、サルファイト蒸解法、クラフト蒸解法、ソーダ・キノン蒸解法、オルガノソルブ蒸解法等を例示することができる。これらの中では、サルファイト蒸解法やクラフト蒸解法が好ましい。化学パルプとしては、クラフトパルプ(KP)、溶解クラフトパルプ(DKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解サルファイトパルプ(DSP)等が挙げられる。化学パルプは未漂白化学パルプ、漂白化学パルプのいずれも使用することができる。また、砕木パルプ(GP)、リファイナーグラウンドウッドパルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等、が挙げられる。機械パルプとしては、砕木パルプ(GP)、リファイナーグラウンドウッドパルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等、の機械パルプを使用することもできる。
【0014】
パルプ化法(蒸解法)によりパルプ中の着色物質であるリグニンが溶解して取り除かれて白色化する。パルプの白色度をさらに高めるために、漂白処理を行なうことができる。漂白処理方法としては、特に限定されるものではなく、一般的に使用される方法を用いることができる。例えば、任意に通常の方法で脱リグニンしたパルプに対し、塩素処理(C)、二酸化塩素漂白(D)、アルカリ抽出(E)、次亜塩素酸塩漂白(H)、過酸化水素漂白(P)、アルカリ性過酸化水素処理段(Ep)、アルカリ性過酸化水素・酸素処理段(Eop)、オゾン処理(Z)、キレート処理(Q)などを組み合わせて、D-E/P-D、C/D-E-H-D、Z-E-D-PZ/D-Ep-D、Z/D-Ep-D-P、D-Ep-D、D-Ep-D-P、D-Ep-P-D、Z-Eop-D-D、Z/D-Eop-D、Z/D-Eop-D-E-D等のシーケンスで行うことができる(シーケンス中の「/」は、「/」の前後の処理を洗浄なしで連続して行なうことを意味する)。セルロース原料としてのパルプの白色度は、ISO 2470に基づいて、80%以上であることが好ましい。
以下に、本発明の粉末状セルロースの製造方法を例示する。
【0015】
粉末状セルロースは、原料パルプスラリー調製工程、酸加水分解反応工程、中和・洗浄・脱液工程、乾燥工程、粉砕工程、分級工程を経て製造される。
【0016】
より詳細には、次の通りである。原料パルプスラリー調製工程は、セルロース原料を用いて原料パルプスラリーを調製する工程である。酸加水分解反応工程は、原料パルプスラリーを、酸濃度0.10~1.0Nで加水分解して加水分解物を調製する工程である。中和・洗浄・脱液工程は、加水分解物を中和し、洗浄した後、脱液する工程である。乾燥工程は、脱液した加水分解物を乾燥して乾燥物を得る工程である。分級工程は、乾燥物を粉砕して粉砕物を得る工程である。斯かる工程を経て、本発明の粉末状セルロースを製造できる。
【0017】
本発明の粉末状セルロースの製造方法で使用できるパルプは、流動状態でもシート状でも可能である。パルプ漂白工程からの流動パルプを原料とする場合は、加水分解反応槽へ投入する前に、濃度を高める必要があり、スクリュープレスやベルトフィルターなどの脱水機で濃縮した後、反応槽へ所定量を投入する。パルプのドライシートを原料とする場合は、ロールクラッシャー等の解砕機等でパルプをほぐした後、反応槽へ投入する。
【0018】
次に、酸濃度0.1~30重量%に調整したパルプ濃度3~10重量%(固形分換算)の分散液を、反応温度が80~100℃、反応時間が30分間~3時間の条件で酸加水分解処理する。加水分解処理されたパルプはアルカリ剤を添加して中和し、洗浄する。その後、脱液工程で加水分解処理されたパルプと廃酸とに固液分離する。加水分解処理されたパルプを乾燥機で乾燥し、粉砕機で規定の大きさに機械的に粉砕・分級する。なお、中和・洗浄・脱液後、乾燥の前に脱水して固形分濃度を調整してもよい。乾燥前に固形分濃度を調整することで、粉末状セルロースの物性値を制御しやすくなる。
【0019】
本発明の粉末状セルロースの製造方法に用いる粉砕機としては、以下を例示することができる。
カッティング式ミル:メッシュミルHAシリーズ(株式会社ホーライ製)、ナイフミル(パルマン社製)、カッターミル(東京アトマイザー製造株式会社製)、セントリカッター(日本コークス工業製)、ロータリーカッターミル(株式会社奈良機械製作所製)、ターボカッター(フロイント・ターボ株式会社製)等。
ハンマー式ミル:ジョークラッシャー(株式会社マキノ製)、アトマイザーTAP(東京アトマイザー製造株式会社製)、マイクロパルベライザ(ホソカワミクロン株式会社製)、ファインインパクトミル(ホソカワミクロン株式会社製)、アトマイザー(株式会社セイシン企業製)及びハンマークラッシャー(槇野産業株式会社製)。
衝撃式ミル:ACMパルベライザ(ホソカワミクロン株式会社製)、イノマイザ(ホソカワミクロン株式会社製)、CUM型遠心ミル(日本コークス工業製)、イクシードミル(槇野産業株式会社製)、ウルトラプレックス(槇野産業株式会社製)、コントラプレックス(槇野産業株式会社製)、コロプレックス(槇野産業株式会社製)、インペラーミル(株式会社セイシン企業製)、トルネードミル(三庄インダストリー株式会社製)、ネアミル(株式会社ダルトン製)、HT形微粉砕機(株式会社ホーライ製)、自由粉砕機(株式会社奈良機械製作所製)、ニューコスモマイザー(株式会社奈良機械製作所製)、ターボミル(フロイント・ターボ株式会社製)、スパーパウダーミル(株式会社西村機械製作所製)、ブレードミル(日清エンジニアリング株式会社製)、スーパーローター(日清エンジニアリング株式会社製)、ウイレー粉砕機(株式会社吉田製作所製)、及びユニバーサルミル(株式会社徳寿工作所製)。
気流式ミル:ギャザーミル(ポラリス株式会社製)、CGS型ジェットミル(日本コークス工業製)、スパイラルジェット(ホソカワミクロン株式会社製)、カウンタジェットミル(ホソカワミクロン株式会社製)、ミクロンジェット(ホソカワミクロン株式会社製)、クロスジェットミル(株式会社栗本鐵工所製)、超音速ジェット粉砕機(日本ニューマチック工業株式会社製)、スーパージェットミル(日清エンジニアリング株式会社製)、セレンミラー(増幸産業株式会社製)、ニューミクロシクトマット(株式会社増野製作所製)、及びクリプトロン(株式会社アーステクニカ社製)。
竪型ローラーミル:竪型ローラーミル(セイシン企業株式会社製)、ローラーミル(コトブキ技研工業株式会社製)、VXミル(株式会社栗本鐵工所)、KVM型竪形ミル(株式会社アーステクニカ)、及びISミル(株式会社IHIプラントエンジニアリング)。
これらの中では、微粉砕性に優れる、マイクロパルベライザ(ホソカワミクロン株式会社製)、自由粉砕機(株式会社奈良機械製作所製)、ターボミル(フロイント産業株式会社製)、スパーパウダーミル(株式会社西村機械製作所製)、ブレードミル(日清エンジニアリング株式会社製)、竪型ローラーミル(セイシン企業株式会社製)、メッシュミルHAシリーズ(株式会社ホーライ製)、ナイフミル(パルマン社製)超音速ジェットミル(日本ニューマチック工業株式会社製)、又はカレントジェット(日清エンジニアリング株式会社製)を用いることが好ましい。
【0020】
本発明において、パルプの粉砕を2段階で行ってもよい。例えば、パルプを、平均粒子径が100μm以下である粉砕物を得る第1粉砕工程、続いて前記第1粉砕工程で得た粉砕物をさらに粉砕し、平均粒子が50μm以下である粉砕物を得る第2粉砕工程、を有する方法にて粉末状セルロースを製造することができる。
【0021】
本発明の粉末状セルロースに、機能性付与、若しくは機能性向上を目的として、粉末状セルロースの原料とその他有機成分及び/又は無機成分を、1種単独若しくは2種類以上任意の割合で混合し、粉砕することも可能である。また、原料に使用するセルロース原料の重合度を大幅に損なわない範囲で、化学的処理を施すことが可能である。
【0022】
本発明の粉末状セルロースの平均粒子径は、5~100μmが好ましく、5~50μmがより好ましい。粉末状セルロースの平均粒子径が100μmより大きいと、樹脂との均一な混合が困難になり、粉砕物と樹脂との混合物を射出する装置出口で、樹脂体が細かく切れる、冷却処理装置への搬出が困難となる、などの問題が生じ得る。
【0023】
なお、平均粒子径とは、レーザー光散乱法(レーザー回折法)により測定した体積50%平均粒子径(D50)であり、レーザー回折/散乱式粒度分布測定器(マルバーン製、機器名:マスターサイザー2000)等で測定することができる。
【0024】
本発明の粉末状セルロースの見掛け比重は、好ましくは0.20g/ml以上であり、より好ましくは0.30g/ml以上である。上限としては、好ましくは0.60g/ml以下であり、より好ましく0.55g/ml以下であり、さらに好ましくは0.50g/ml以下である。
なお、本明細書において、見掛け比重は、100mlメスシリンダーに試料を10g投入し、メスシリンダーの底を試料の高さが低下しなくなるまでたたき続け(手動にて10分間を目安)、平らになった表面の目盛を読み、算出した値である。
【0025】
本発明における粉末状セルロースの配合率は、成分(A)~(D)を含む樹脂組成物を100重量%とした場合、1~50重量%が好ましく、10~30重量%がより好ましい。粉末状セルロースの配合率が1~50重量%の範囲だと、熱可塑性樹脂の機械特性を損なわずに、バイオマス度の高い樹脂組成物を得ることができる。
【0026】
<成分(B):熱可塑性樹脂>
本発明に用いる熱可塑性樹脂は、粒状に成形されたものが扱い易さの点で好ましいが、どのような形態でもよい。また、2種類以上の熱可塑性樹脂を同時に利用することもできる。
【0027】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポルスチレン系樹脂などが挙げられるが、これらに限定されず、熱により可塑化し成形が可能である樹脂であればいずれも用いることができる。中でも、LDPE(低密度ポリエチレン)などのポリエチレンおよびポリプロピレンが成形性の観点から好ましい。
【0028】
本発明においては、熱可塑性樹脂として生分解性樹脂を用いてもよい。熱可塑性を有する生分解性樹脂としては、これらに限定されないが、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリグリコール、ポリカプロラクトン、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0029】
本発明における熱可塑性樹脂の配合率は、成分(A)~(D)を含む樹脂組成物を100重量%とした場合、50~99重量%が好ましく、60~90重量%がより好ましく、70~80重量%がさらに好ましい。熱可塑性樹脂の配合率が50~99重量%の範囲だと、熱可塑性樹脂の機械特性を損なわずに、バイオマス度の高い樹脂組成物を得ることができる。
【0030】
<成分(C):α,β―不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性された変性ポリオレフィン樹脂>
(ポリオレフィン樹脂)
ポリオレフィン樹脂としては、特に制限はないが、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
ポリオレフィン樹脂は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。後者の場合、それぞれの樹脂の配合比は特に限定されない。
【0031】
ポリプロピレンとは、基本単位がプロピレンである重合体を表す。エチレン-プロピレン共重合体とは、基本単位がエチレン及びプロピレンである共重合体を表す。プロピレン-1-ブテン共重合体とは、基本単位がプロピレン及び1-ブテンである共重合体を表す。エチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体とは、基本単位がプロピレン、1-ブテン及びエチレンである共重合体を表す。
ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、及びエチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体は、それぞれの基本単位以外のオレフィン成分を少量含有していてもよい。このようなオレフィン成分は、例えば、変性ポリオレフィン樹脂の製造までの工程で混入することがある。ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、及びエチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体における上記オレフィン成分の含有量は、樹脂本来の性能を著しく損なわない量であればよい。
【0032】
ポリオレフィン樹脂の成分組成は、特に限定されるものではないが、全ポリオレフィン樹脂中のプロピレン成分は、50モル%以上が好ましい。
【0033】
上記のポリオレフィン樹脂を、α,β-不飽和カルボン酸及び/またはその誘導体により変性することにより、変性ポリオレフィン樹脂が得られる。
【0034】
(α,β-不飽和カルボン酸及び/またはその誘導体)
α,β-不飽和カルボン酸とは、カルボキシ基を有するα,β-不飽和化合物を意味する。α,β-不飽和カルボン酸の誘導体とは、前記不飽和化合物の無水物、モノ又はジエステル、アミド、イミド等を意味する。
α,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体としては、例えば、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、アコニット酸、及びこれらの無水物;フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノブチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジプロピル、フマル酸ジブチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジプロピル、マレイン酸ジブチル、マレイミド、N-フェニルマレイミドが挙げられる。
変性ポリオレフィン樹脂を得る際には、α,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体を1種単独で、或いは2種以上を組み合わせて、使用することができる。後者の場合、それぞれの化合物の配合比は特に限定されない。
【0035】
α,β-不飽和カルボン酸及び/またはその誘導体は、α,β-不飽和ジカルボン酸を含むことが好ましい。また、無水イタコン酸、無水マレイン酸及びマレイン酸からなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましく、無水イタコン酸、無水マレイン酸及びマレイン酸からなる群より選ばれる1種以上であることがより好ましく、無水マレイン酸がさらに好ましい。
【0036】
変性ポリオレフィン樹脂における、α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体のグラフト量は、0.1重量%以上が好ましく、0.5重量%以上がより好ましく、1.0重量%以上が更に好ましい。0.1重量%以上であることにより、難付着性基材や金属との付着性が向上する。上限は、20.0重量%以下が好ましく、10.0重量%以下がより好ましく、5.0重量%以下がさらに好ましい。20.0重量%以下であることにより、組成物の機械的物性を大きく損なう低分子量で、高極性の副生物の生成が抑えられる。変性ポリオレフィン樹脂の、α,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体のグラフト量は、0.1~20.0重量%が好ましく、1.0~10.0重量%がより好ましく、1.0~5.0重量%がさらに好ましい。
変性ポリオレフィン樹脂のα,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体のグラフト量は、アルカリ滴定法により求めることができる。
【0037】
変性ポリオレフィン樹脂製造の際、ポリオレフィン樹脂にグラフト重合しないα,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体、すなわち未反応物は、例えば貧溶媒で抽出する方法などにより、変性ポリオレフィン樹脂製造の過程で除去してもよい。
【0038】
上記ポリオレフィン樹脂は、α,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体以外の化合物によりさらに変性されてもよい。α,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体以外の化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルでポリオレフィン樹脂をさらに変性することにより、混合する極性物質との相溶性が向上する。
【0039】
(メタ)アクリル酸エステルとは、分子中に(メタ)アクリロイル基を少なくとも1個含む化合物である。本明細書中「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基及び/またはメタクリロイル基を意味する。(メタ)アクリル酸エステルは、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
CH2=CR1COOR2 ・・・(1)
【0040】
一般式(1)中、R1は、水素原子又はメチル基を表し、メチル基が好ましい。R2はCnH2n+1を表す。ここで、nは、1~18の整数を表し、1~15の整数が好ましく、1~13の整数がより好ましい。
【0041】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、1-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリンが挙げられる。この中でも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレートが好ましく、オクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
(メタ)アクリル酸エステルは、1種であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。後者の場合、それぞれの化合物の配合比は特に限定されない。
【0042】
変性ポリオレフィン樹脂における、(メタ)アクリル酸エステルのグラフト量は、0.1~20.0重量%が好ましく、0.5~10.0重量%がより好ましく、1.0~5.0重量%がさらに好ましい。
変性ポリオレフィン樹脂の(メタ)アクリル酸エステルのグラフト量は、1H-NMRにより求め得る。
【0043】
本発明における変性ポリオレフィン樹脂の融点は、90~160℃が好ましく、120~160℃がより好ましく、140~150℃がさらに好ましい。融点が90℃以下だと結晶性が低いため、樹脂組成物の機械的物性が低下する。
【0044】
本発明における変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、100,000以下が好ましく、80,000以下がより好ましく、70,000以下がさらに好ましい。重量平均分子量の下限値としては、10,000以上が好ましく、30,000以上がより好ましく、50,000以上がさらに好ましい。重量平均分子量が上記範囲内だと、溶解時に適度な流動性を有することから、粉末状セルロースの極性基と反応しやすく、粉末状セルロースの分散性をさらに向上させることができる。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により得られる標準ポリスチレン換算の相対値である。
【0045】
本発明における変性ポリオレフィン樹脂の配合率は、成分(A)~(D)を含む樹脂組成物を100重量%とした場合、0.5~5.0重量%が好ましく、0.5~4.5重量%がより好ましい。変性ポリオレフィン樹脂の配合率が0.5~5.0重量%の範囲だと、樹脂組成物の機械的物性を損なわずに、セルロースの分散性を向上させることができる。
【0046】
<成分(D):アミノ基を有する多糖類>
本発明で用いるアミノ基を有する多糖類としては、特に限定されないが、キトサンを含むことが好ましい。アミノ基を有する多糖類を含むことで、多糖類由来のアミノ基と、変性ポリオレフィン樹脂由来のα,β-不飽和カルボン酸及び/またはその誘導体とが加熱混錬時に反応し、ポリオレフィン骨格とセルロース類似構造とがアミド結合を介してグラフトされたアミド化合物を調製することができる。
【0047】
アミノ基を有する多糖類としてキトサンを使用する場合、脱アセチル化度は70%以上が好ましい。脱アセチル化度が70%未満であると、キトサン中のアミノ基量が少ないゆえに変性ポリオレフィン樹脂との反応性が低下し、相溶化剤としての機能も低下する。
なお、脱アセチル化はポリビニル硫酸カリウムによるコロイド滴定で測定できる。
【0048】
アミノ基を有する多糖類としてキトサンを使用する場合、固形状であることが好ましい。粒度は、1~50μmであることが好ましく、1~10μmであることがより好ましい。粒度が1~50μmのキトサンを使用することで、作業性、及び変性ポリオレフィン樹脂との相溶性が向上する。
なお、キトサンの粒度はレーザー回折散乱式粒度分布測定装置で測定できる。
【0049】
アミノ基を有する多糖類としてキトサンを使用する場合、キトサン1%の酢酸水溶液に対する溶液粘度は、1~100mPa・sが好ましく、1~10mPa・sがより好ましい。溶液粘度が100mPa・s以上だと、変性ポリオレフィン樹脂との相溶性、及び反応性が低下する。
なお、キトサンの溶液粘度はB型粘度計で測定できる。
【0050】
本発明におけるアミノ基を有する多糖類の配合率は、成分(A)~(D)を含む樹脂組成物を100重量%とした場合、0.05~1.0重量%であることが好ましく、0.1~1.0重量%がより好ましく、0.1~0.8重量%がさらに好ましい。アミノ基を有する多糖類の配合率が0.05%以下の場合、α,β―不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性された変性ポリオレフィンと反応するキトサン量が少なく、セルロースの分散性の向上に寄与しない。また、配合率が1.0%より大きい場合、未反応のキトサンが増え、樹脂組成物の機械的物性に悪影響を与える。
【0051】
<成分(E):アミド化合物>
本発明におけるアミド化合物は、多糖類由来のアミノ基と、変性ポリオレフィン樹脂由来のα,β-不飽和カルボン酸及び/またはその誘導体とが加熱混錬時に反応することで調製できる。本化合物は、ポリオレフィン骨格とセルロース類似構造とがアミド結合を介してグラフトされた構造を取っており、このような化合物は、熱可塑性樹脂と粉末状セルロースのいずれにも近しい骨格を有するため、熱可塑性樹脂中に粉末状セルロースを均一に分散させ、樹脂組成物の強度を向上させるための相溶化剤として機能する。
【0052】
本発明におけるアミド化合物の配合量は、成分(A)~(D)を含む樹脂組成物を100重量%とした場合、0.5重量%以上が好ましく、0.8重量%以上であればより好ましい。アミド化合物の配合量が0.5重量%以下だと、熱可塑性樹脂中に粉末状セルロースを分散させる相溶化剤としての機能が低下し、所望の強度が得られない。
【0053】
<その他の成分>
本発明においては、さらに熱可塑性エラストマーを添加してもよい。熱可塑性エラストマーを添加することにより、射出成形時に切断や割れ等が生じない粘りが高い成形用樹脂材料を安定的に製造することができる。
【0054】
本発明において使用する熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系熱可塑性エラストマーを挙げることができる。より具体的には、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)共重合体、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)共重合体およびその変性物、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン(SEPS)共重合体、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレン(SBBS)共重合体等のブロック共重合体を挙げることができる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0055】
また、本発明において使用する熱可塑性エラストマーとしては、ポリオレフィン系エラストマーを挙げることができる。より具体的には、エチレン・ブテン共重合体、EPR(エチレン-プロピレン共重合体)、変性エチレン・ブテン共重合体、EEA(エチレン-エチルアクリレート共重合体)、変性EEA、変性EPR、α-オレフィン共重合体、変性IR(イソプレンゴム)、エチレン-アクリル酸変性体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、及びその酸変性物、及びそれらを主成分とする混合物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0056】
本発明において使用する好ましい熱可塑性エラストマーとしては、スチレン・ブタジエン系ブロック共重合体、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)共重合体およびその変性物、エチレン・オクテン系共重合体、プロピレン・エチレン系共重合体等が挙げられる。スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)共重合体においては、スチレン含有率が10~20質量%であることが好ましい。
【0057】
<樹脂組成物>
本発明は、粉末状セルロース、熱可塑性樹脂、α,β―不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性された変性ポリオレフィン樹脂及びアミノ基を有する多糖類を含有する樹脂組成物を加熱混錬することで得ることができる。
【0058】
樹脂組成物中の各成分の配合比は、粉末状セルロース:熱可塑性樹脂:α,β―不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性された変性ポリオレフィン樹脂:アミノ基を有する多糖類=1~50:50~99:0.5~5.0:0.05~0.1であることが好ましい。各成分が上記配合比であると、機械特性に優れた樹脂組成物を得ることができる。
【0059】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではないが、一例としては、上述した各成分を加熱、溶融、混練等することで樹脂組成物を得ることができる。
【0060】
本発明の樹脂組成物の製造方法おいて一般的な樹脂成形に用いられる装置を用いることができる。例えば、一般的なエクストルーダー、混錬試験装置、二軸混錬押出機を用いることが出来る。混錬試験装置としては、東洋精機のラボプラストミルシリーズを使用できる。また、二軸混錬押出機としては日本製鋼所製のTEXシリーズを使用できる。
【0061】
本発明の樹脂組成物の製造方法は、α,β―不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性された変性ポリオレフィン樹脂とアミノ基を有する多糖類とを予め加熱混錬する工程を経る。この工程を経ることで、変性ポリオレフィン樹脂由来のα,β-不飽和カルボン酸及び/またはその誘導体と、多糖類由来のアミノ基とが反応し、ポリオレフィン骨格とセルロース類似構造とがアミド結合を介してグラフトされたアミド化合物を調製することができる。
【0062】
上記アミド化合物に熱可塑性樹脂と粉末状セルロースとを加えてさらに加熱混錬することで、アミド化合物が熱可塑性樹脂中において粉末状セルロースを均一に分散させるための相溶化剤として機能し、本発明である強度に優れた樹脂組成物を製造できる。
【0063】
本発明の樹脂組成物の製造方法において、α,β―不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性された変性ポリオレフィン樹脂とアミノ基を有する多糖類とを予め加熱混錬する際の温度は、通常100~300℃、好ましくは130~250℃、より好ましくは150~220℃である。温度条件が上記範囲内だと、アミド結合が生じ、所望の化合物を得ることができる。
【0064】
本発明の樹脂組成物の製造方法において、熱可塑性樹脂、粉末状セルロース、上記工程で得られたポリオレフィン骨格、及びセルロース類似構造を有する化合物(相溶化剤)を加熱混錬する際の温度は、通常100~300℃、好ましくは130~250℃、より好ましくは150~220℃である。温度条件が上記範囲内だと、粉末状セルロースが熱可塑性樹脂中に均一に分散し、所望の強度を有する樹脂組成物を得ることができる。
【0065】
<樹脂組成物の用途>
本発明の樹脂組成物は、成形用樹脂材料として使用することができる。本発明を成形用樹脂材料として使用した場合、種々の目的に合わせた成形が可能であり、プラスチック製品の代替品として利用できる。本発明の成形用樹脂材料より得られる成形物品としては、例えば、トレー等、自動車部品、自動車のダッシュボード等の内装、飛行機の荷物入れ、輸送用機器の構造部材、家電製品の筐体(ハウジング)、電化製品部材、カード、トナー容器等の各種容器、建築材、育苗ポット、農業用シート、筆記具、木製品、家庭用器具、ストロー、コップ、玩具、スポーツ用品、港湾用部材、建築部材、発電機用部材、工具、漁具、包装材料、3Dプリンター造形物、パレット、食品容器、食器、カトラリー(スプーン、フォーク等)、箸、各種シート類等に幅広く適用可能である。
【実施例0066】
以下では、本発明の実験例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実験例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、部および%は重量部および重量%を示し、数値範囲はその端点を含むものとして記載する。
【0067】
<α,β―不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性された変性ポリオレフィン樹脂の製造>
[製造例1]
プロピレン―エチレン共重合体(プロピレン成分98モル%、エチレン成分2%、Tm=150℃)100部、無水マレイン酸3.5部、及びジクミルパーオキサイド3.0部を攪拌機にて予混合し、同方向2軸押出機にて180℃で加熱混錬して変性ポリオレフィン樹脂(a)を得た。得られた変性ポリオレフィン樹脂(a)の無水マレイン酸のグラフト重量は、1.8重量%、重量平均分子量は6万(ポリスチレン換算値)、融点は145℃であった。
【0068】
<樹脂組成物の製造>
[実施例1]
成分(C)として変性ポリオレフィン樹脂(a)34部をラボプラストミル(4M150 東洋精機(株)に添加して180℃で2分間溶融させ、成分Dとしてキトサン(製品名:ダイキトサンFP-4、大日精化工業社製、脱アセチル度:73.9%、粒度:4.5μm、1%酢酸溶液粘度:4mPa・s)5.9部を添加し、60rpmで5分間混錬した。その後、成分(B)としてポリプロピレン(製品名:BC10HRF、プライムポリマー社製)を添加し、180℃で十分溶融させた。最後に、成分(A)として粉末状セルロース(W-100GK、平均粒子径37μm、日本製紙株式会社製)を添加し、180℃、150rpmで混錬することで、樹脂組成物(1)を得た。添加した各原料の配合比(重量比)は成分(A):成分(B):成分(C):成分(D)=20:79:0.85:0.15であった。
【0069】
[実施例2]
原料の配合比(重量比)を成分(A):成分(B):成分(C):成分(D)=20:75:4.25:0.75とした以外は実施例1と同様の操作を行い、樹脂組成物(2)を得た。
【0070】
[比較例1]
キトサンを配合せず、原料の配合比(重量比)を成分(A):成分(B):成分(C):成分(D)=20:79:1:0とした以外は実施例1と同様の操作を行い、樹脂組成物(3)を得た。
【0071】
[比較例2]
実施例2において、成分(C)として変性ポリオレフィン樹脂(a)の代わりにポリオレフィン樹脂(製造例1で使用した原料樹脂、プロピレン―エチレン共重合体(プロピレン成分98モル%、エチレン成分2%、Tm=150℃))を用いたこと以外、同様の操作を行って樹脂組成物(4)を得た。
【0072】
[比較例3]
成分(B)に使用しているポリプロピレン(製品名:BC10HRF、プライムポリマー社製)を、樹脂組成物(5)とした。
【0073】
[比較例4]
変性ポリオレフィン樹脂(a)、及びキトサンを配合せず、原料の配合比(重量比)を成分(A):成分(B):成分(C):成分(D)=20:80:0:0とした以外は実施例1と同様の操作を行い、樹脂組成物(6)を得た。
【0074】
[比較例5]
変性ポリオレフィン樹脂(a)を配合せず、原料の配合比(重量比)を成分(A):成分(B):成分(C):成分(D)=20:79.25:0:0.75とした以外は実施例1と同様の操作を行い、樹脂組成物(7)を得た。
【0075】
実施例1、2及び比較例1~5で得られた樹脂組成物より、手押し型射出成型機(IMC-18D1型、井元製作所社製)を用いてテストピースを作成した。具体的には、成型機のシリンダーを200℃にした後、樹脂組成物をシリンダー内に充填し、1分間保持した。その後、専用の金型に射出し、各樹脂組成物のテストピースを調製した。
【0076】
[引張強さ]:
JIS K 7171試験方法に準じて、80×80×4mmのテストピースにて試験速度2mm/minで測定した。
【0077】
[シャルピー衝撃強度]:
JIS K 7111-1:2012に準じて測定した。
【0078】
【表1】
【0079】
表1に示されるように、粉末状セルロース、熱可塑性樹脂、α,β―不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性されたポリオレフィン樹脂及びアミノ基を有する多糖類を含有する樹脂組成物は、引っ張り強さが向上し、シャルピー衝撃強度維持率を高水準で保つことができた。