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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110471
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】摩擦攪拌点接合装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20240808BHJP
【FI】
B23K20/12 344
B23K20/12 340
B23K20/12 364
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015018
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 章嘉
(72)【発明者】
【氏名】栗原 大知
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA02
4E167AA06
4E167BG06
4E167BG25
4E167BG26
(57)【要約】
【課題】摩擦攪拌接合後の被接合材料を塗装しようとするときに、余分な製造コストを削減することができる摩擦攪拌点接合装置を提供する。
【解決手段】板状の第1材料と、第1材料の対向面に当接するように配置された第2材料とを含む複数の材料を摩擦攪拌接合するための摩擦攪拌点接合装置1である。この装置は、中心軸線C周りに回転可能なプローブ2を備え、プローブ2は、円柱状のショルダー部3の底面4から中心軸線C上に沿って突出するピン部5と、ショルダー部3から突出し、中心軸線Cから距離が一定の円周面12と、円周面12に連続して設けられ、円周面12よりも外側に離間した離間面13と、が設けられた内壁面11と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の第1材料と、前記第1材料の対向面に当接するように配置された第2材料とを含む複数の材料を摩擦攪拌接合するための摩擦攪拌点接合装置であって、
中心軸線周りに回転可能なプローブを備え、
前記プローブは、
円柱状のショルダー部の底面から前記中心軸線上に沿って突出するピン部と、
前記ショルダー部から突出し、前記中心軸線から距離が一定の円周面と、前記円周面に連続して設けられ、前記円周面よりも外側に離間した離間面と、が設けられた内壁面と、
を有することを特徴とする摩擦攪拌点接合装置。
【請求項2】
前記内壁面の下端部は、前記ピン部が前記複数の材料に対して目標深さまで圧入されたときに前記第1材料の表面に接することを特徴とする請求項1に記載の摩擦攪拌点接合装置。
【請求項3】
前記プローブの挿入方向から視た前記内壁面の形状は多角形形状であることを特徴とする請求項1に記載の摩擦攪拌点接合装置。
【請求項4】
前記プローブの挿入方向から視た前記内壁面における前記円周面の範囲は前記離間面の範囲より広いことを特徴とする請求項1に記載の摩擦攪拌点接合装置。
【請求項5】
前記円周面と前記離間面との境界部分のうち、少なくとも前記プローブの回転方向の後方側に位置する境界部分は径断面形状が鋭角をなしていることを特徴とする請求項1に記載の摩擦攪拌点接合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌点接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、円柱状の本体軸部と、本体軸部の一側の端部に形成されるショルダー面と、ショルダー面に突設され、ショルダー面よりも小径のピン部と、を備え、少なくとも上板と下板を含む複数の板状素材を積層してなる被接合物の点接合に用いる摩擦攪拌接合ツールであって、本体軸部の外周面から半径方向外側に向けて突設する浮き上がり防止部を備える構成が開示されている。
【0003】
かかる技術では、浮き上がり防止部の下面部には、本体軸部から半径方向外側に向かって空隙部が形成されている。この空隙部は本体軸部の外周面から浮き上がり防止部の外周縁部までの間に形成されていて、接合時に接合部近傍で生じるバリを入り込ませるための空間となっている。そして、バリが突出できる空間を確保することによって、バリが浮き上がり防止部に接触して溶着しないようにするとともに、接合部近傍の塑性流動が阻害されないようにする役割を果たしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-23068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の技術によっても、空隙部でバリが突出できる空間を確保することで、先端部が外側に拡がるようにバリが形成される(特許文献1の図8の符号9等参照)。そのため、各材料を摩擦攪拌接合で点接合した後に当該材料を電着塗装しようとする場合に、当該バリ部分に塗装不良が生じやすい。そのため、当該塗装不良を抑制するためには、摩擦攪拌接合工程後に、当該バリを除去する工程を設けなければならず、余分な工程を行うことによる製造コストの増大が生じていた。
【0006】
そこで、本願発明は、摩擦攪拌接合後の被接合材料を塗装しようとするときに、余分な製造コストを削減することができる摩擦攪拌点接合装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、板状の第1材料と、前記第1材料の対向面に当接するように配置された第2材料とを含む複数の材料を摩擦攪拌接合するための摩擦攪拌点接合装置であって、中心軸線周りに回転可能なプローブを備え、前記プローブは、円柱状のショルダー部の底面から前記中心軸線上に沿って突出するピン部と、前記ショルダー部から突出し、前記中心軸線から距離が一定の円周面と、前記円周面に連続して設けられ、前記円周面よりも外側に離間した離間面と、が設けられた内壁面と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、摩擦攪拌接合後の被接合材料を塗装しようとするときに、余分な製造コストを削減することができる摩擦攪拌点接合装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態1に係る摩擦攪拌点接合装置を圧入側から視た平面図である。
図2】実施形態1に係る摩擦攪拌点接合装置の圧入側から視た斜視図である。
図3】実施形態1に係る摩擦攪拌点接合装置の動作を経時的に説明する縦断面図である。
図4】実施形態1に係る摩擦攪拌点接合装置の動作を経時的に説明する縦断面図である。
図5】実施形態1に係る摩擦攪拌点接合装置の動作を経時的に説明する縦断面図である。
図6】実施形態1に係る摩擦攪拌接合後の被接合材の縦断面図である。
図7】実施形態1に係る摩擦攪拌接合後の被接合材の平面図である。
図8】実施形態2に係る摩擦攪拌点接合装置を圧入側から視た平面図である。
図9】実施形態2に係る摩擦攪拌点接合装置の圧入側から視た斜視図である。
図10】実施形態3に係る摩擦攪拌点接合装置を圧入側から視た平面図である。
図11】実施形態3に係る摩擦攪拌点接合装置の圧入側から視た斜視図である。
図12】実施形態3における摩擦攪拌接合中の被接合材の縦断面図である。
図13図12のA-A切断断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を複数例説明する。
[実施形態1]
各実施形態にかかる摩擦攪拌点接合装置は、板状の第1材料と、第1材料の対向面に当接するように配置された第2材料とを含む複数の材料(被接合材)を摩擦攪拌接合により点接合するための装置である。
【0011】
図1は、実施形態1に係る摩擦攪拌点接合装置を圧入側から視た平面図である。図2は、同摩擦攪拌点接合装置の圧入側から視た斜視図である。
この摩擦攪拌点接合装置1は、中心軸線C周りに回転可能なプローブ2を備えている。図1図2は、このプローブ2の圧入側(先端側)のみを示している。プローブ2の基端側は、図示しないロボットアーム等に支持されていて、被接合材の所望の位置(第1材料と第2材料とが重ねられている部分の任意の箇所)を摩擦攪拌接合により点接合できる構成としている。
【0012】
プローブ2の先端側は円柱状のショルダー部3を備えている。ショルダー部3の底面4には、中心軸線Cを軸芯とし、中心軸線Cに沿って圧入側(先端側)に突出する円柱状のピン部5が設けられている。そして、底面4のピン部5の周囲にはプローブ2の基端側に窪んだ凹部6が形成されている。凹部6の外周部には、圧入側(先端側)に突出する突出部7が形成されている。
【0013】
突出部7の内周面である内壁面11は、ショルダー部3から圧入側(先端側)に突出していて、その周方向に、中心軸線Cからの距離が一定の面である円周面12と、円周面12に連続して設けられ円周面12よりも外側に離間した面である離間面13と、が交互に出現するようにそれぞれ設けられている。円周面12は、図1において中心軸線Cを中心として破線で示す仮想的な円18の円弧の一部をプローブ2の長さ方向に連続させた面である。しかし、本実施形態1では、円周面12は、円18にほぼ接しているだけのごく狭い面であり、ほぼ直線的な面となっている。そして、プローブ2の挿入方向から視た内壁面11の形状は多角形形状である。図1図2の例では、これは四角形形状であるが、三角形形状でも五角形形状でもよい。そのため、内壁面11は、離間面13の最も外側に離間した部分である角部14を備えている。
【0014】
次に、摩擦攪拌点接合装置1の動作について説明する。図3図5は、この順番で経時的に摩擦攪拌点接合装置1の動作を説明する縦断面図である。図3において、摩擦攪拌点接合装置1による接合の対象となる被接合材101は、板状の第1材料102と、第1材料102の対向面103に当接するように配置された第2材料104とを含む複数の材料からなる。本例では、被接合材101は、第2材料104の対向面105に当接するように配置された第3材料106も備えている。もちろん、被接合材101は、第1材料102と第2材料104だけでもよいし、さらに第4材料があってもよい。被接合材101の各材料のそれぞれは、例えばアルミニウム、鉄等の金属材料であることが一般的である。
【0015】
まず、前記したロボットアーム等により、プローブ2(ショルダ部3もピン部5も一体に回転)を操作して、プローブ2の先端部を被接合材101に押し当て、プローブ2を回転させる。これにより、被接合材101におけるピン部5の周囲で塑性流動が生じ、被接合材101内にピン部5が圧入される。
次に、図4に示すように、図3の段階よりも被接合材101の奥深くピン部5を圧入する。これにより、被接合材101のピン部5を圧入した部分の周囲からバリ111が先端部ほど外側に拡がるように形成されていく。
【0016】
次に、図5に示すように、図4の段階よりも被接合材101の奥深くピン部5を圧入する。このとき、第1材料102、第2材料104、第3材料106の材料が同じ場合は塑性流動されて練り混ぜ合わされる。
この際、ピン部5と内壁面11との間で、バリ111がピン部5、内壁面11よりも外側に張り出すのを制限することが可能となる。つまり、円周面12により、バリ111の外周部を円環面状に成形しつつ、離間面13を設けることにより、円周面12とバリ111との摩擦発熱によるバリ111の塑性流動を抑制することができ、内壁面11の下端部を超えてバリ111が外側に流出することを抑制することができる。
【0017】
そして、内壁面11の下端部(突出部7の先端部)は、ピン部5が被接合材101に対して目標深さまで圧入されたときに、第1材料102の表面に接する。ピン部5が被接合材101に対して目標深さまで圧入されたか否かは、プローブ2の先端部の現在位置の検出や被接合材101表面のセンシング等により実現できるので、ピン部5が被接合材101に対して目標深さまで圧入されたときには、内壁面11の下端部(突出部7の先端部)は第1材料102の表面に接するようにプローブ2は設計されている。
【0018】
以上のような工程を経て被接合材101は摩擦攪拌接合される。図6は、この摩擦攪拌接合後の被接合材の縦断面図であり、図7は、同平面図である。被接合材101からは摩擦攪拌接合後にピン部5が引き抜かれて、孔121が残る。この孔121の内周部は摩擦攪拌接合作業中には加熱攪拌していたが、当該作業の終了後には冷却固化して第1材料102、第2材料104、第3材料106が接合される。孔121の外表面周囲には円環状の突起部122が形成される。突起部122は前記のバリ111が成形されたものであり、その縦方向の断面形状はほぼ矩形状である。
【0019】
このように、被接合材101の摩擦攪拌接合後には、先端部が外周側に反ったようなバリ111が残ることはなく、断面形状が矩形状である突起部122が残る。そのため、摩擦攪拌接合工程後に突起部122を除去しないまま、被接合材101を電着塗装しても、突起部122の周囲に塗装不良が生じにくい。そのため、擦攪拌接合工程後に突起部122を除去する工程を設けなくても被接合材101を適切に電着塗装できるので、摩擦攪拌接合後の被接合材101を塗装しようとするときに、余分な製造コストを削減することができる。
【0020】
また、内壁面11の下端部は、ピン部5が被接合材101に対して目標深さまで圧入されたときに第1材料102の表面に接する。そのため、内壁面11の下端部が被接合材101の表面に接することにより、切削により除去されたバリ111が内壁面11の外に出ることを抑制することができ、バリ111の除去作業を軽減できる。
さらに、内壁面11は、プローブ2の先端側から視たら多角形形状をしている。すなわち、内壁面11はシンプルな形状である。そのため、プローブ2の製造工程における内壁面11の加工性は良好で、製造コストを低減することができる。
【0021】
[実施形態2]
以下に説明する各実施形態において、その前に説明する実施形態と同様の部材等は、当該実施形態と同様の符号を用いて詳細な説明は省略する。
【0022】
図8は、実施形態2に係る摩擦攪拌点接合装置を圧入側から視た平面図である。図9は、同摩擦攪拌点接合装置の圧入側から視た斜視図である。
本実施形態2に係る摩擦攪拌点接合装置1Aが実施形態1に係る摩擦攪拌点接合装置1と異なるのは次の点である。すなわち、プローブ2の挿入方向から視た内壁面11における円周面12の範囲は、離間面13の範囲より広いことである。実施形態1では、円周面12の範囲が狭いために円周面12はほぼ直線的な面であったが、本実施形態2では、円周面12は仮想的な円18の円弧形状の面をなしている。そのため、実施形態1とは異なり、実施形態2では、プローブ2の挿入方向から視た内壁面11の形状は単純な多角形形状をなしてはおらず、もう少し複雑な形状である。
【0023】
このように、プローブ2の挿入方向から視た内壁面11における円周面12の範囲は、離間面13の範囲より広いことにより、本実施形態2では次のような実施形態1では奏し得ない作用効果を奏する。すなわち、摩擦攪拌接合時に円周面12は中心軸線Cから一定距離の面であって、前記のバリ111を成形するだけなので、円周面12にとってバリ111は過度に大きな抵抗とはならない。そして、内壁面11には、その円周面12の範囲が広い。一方、離間面13は前記のバリ111を成形または切削するので、離間面13にとってバリ111は、ある程度の大きな抵抗とはなるが、その離間面13の範囲は狭い。
また、円周面12とバリとの摩擦発熱により加熱されたバリが離間面13により冷却される時間が短くなるため、成形または切削する際にかかる抵抗が小さくなる。
そのため、摩擦攪拌接合時におけるプローブ2の回転の際のトルクの変動は抑制することができる。よって、プローブ2の小型化や長寿命化が可能となる。
【0024】
[実施形態3]
図10は、実施形態3に係る摩擦攪拌点接合装置を圧入側から視た平面図である。図11は、同摩擦攪拌点接合装置の圧入側から視た斜視図である。
本実施形態3に係る摩擦攪拌点接合装置1Bが実施形態2に係る摩擦攪拌点接合装置1Aと異なるのは次の点である。すなわち、円周面12と離間面13との境界部分のうち、少なくともプローブ2の回転方向(矢印43方向)の後方側に位置する境界部分(境界部分41)は径断面形状が鋭角θをなしていることである。
【0025】
図12は、本実施形態3における摩擦攪拌接合中の被接合材の縦断面図であり、図13は、図12のA-A切断断面図である。摩擦攪拌接合中で成形途上の前記の突起部122には、図13に示すように、成形途上の突起部122からはみ出したはみ出し部122aが生じ得る。しかし、プローブ2の回転方向の後方側に位置する境界部分41は径断面形状で円周面12と離間面13とが鋭角θをなしている。すなわち、当該境界部分41は鋭利である。そのため、はみ出し部122aも鋭利な境界部分41により、確実に切り取られる。そのため、突起部122の外周部にバリが残りにくく、プローブ2にかかる負荷を軽減できる。また、突起部122をきれいな円環形状に成形できるので、その後の電着塗装の不良も更に生じにくい。
【0026】
以上、各実施形態について説明したが、各実施形態は本発明の一例構成例に過ぎないのは言うまでもなく、本発明は、これら以外にも様々な形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0027】
1,1A,1B 摩擦攪拌点接合装置
2 プローブ
3 ショルダー部
4 底面
5 ピン部
11 内壁面
12 円周面
13 離間面
41 境界部分
42 先端
101 被接合材
102 第1材料
104 第2材料
C 中心軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13