(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110472
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】希土類酸化物の回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20240808BHJP
C22B 59/00 20060101ALI20240808BHJP
C01F 17/224 20200101ALI20240808BHJP
【FI】
C22B7/00 F
C22B59/00
C01F17/224
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015019
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小川 和宏
(72)【発明者】
【氏名】荒井 誠也
(72)【発明者】
【氏名】山口 勉功
【テーマコード(参考)】
4G076
4K001
【Fターム(参考)】
4G076AA02
4G076AB28
4G076AC01
4G076AC10
4G076BA17
4G076BA18
4G076BA25
4G076BA39
4G076BE20
4G076CA02
4K001AA39
4K001BA22
4K001CA15
4K001DA02
4K001DB02
4K001DB03
4K001DB04
4K001DB23
4K001DB38
4K001GA17
4K001JA02
4K001KA13
(57)【要約】
【課題】ホウ素を含有するフラックスを用いた希土類酸化物の回収方法において、フラックスの使用量を低減しうる手段を提供する。
【解決手段】希土類元素含有物を含む廃棄物から希土類酸化物を回収する、希土類酸化物の回収方法であって、前記廃棄物と、アルカリ金属のホウ酸塩およびアルカリ土類金属のホウ酸塩からなる群から選択される少なくとも1種のホウ酸塩ならびに/またはその前駆体とを加熱溶融して、希土類酸化物と、前記ホウ酸塩と、易酸化性金属の酸化物とを少なくとも含む融体を調製する融体調製工程(1);および前記融体から、希土類酸化物が前記ホウ酸塩中に濃縮された希土類富化相と、Fe-C相とを分離する分離工程(2)を有する、希土類酸化物の回収方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素含有物を含む廃棄物から希土類酸化物を回収する、希土類酸化物の回収方法であって、
前記廃棄物と、アルカリ金属のホウ酸塩およびアルカリ土類金属のホウ酸塩からなる群から選択される少なくとも1種のホウ酸塩ならびに/またはその前駆体とを加熱溶融して、希土類酸化物と、前記ホウ酸塩と、易酸化性金属の酸化物とを少なくとも含む融体を調製する融体調製工程(1);および
前記融体から、希土類元素が前記ホウ酸塩中に濃縮された希土類富化相と、Fe-C相とを分離する分離工程(2)
を有する、希土類酸化物の回収方法。
【請求項2】
前記ホウ酸塩の含有量は、前記希土類元素含有物の希土類酸化物質量と、前記易酸化性金属の酸化物の含有量とにより決定される状態図における、液相線以上の量である、請求項1に記載の希土類酸化物の回収方法。
【請求項3】
前記廃棄物は、銅をさらに含み、
前記分離工程(2)において、前記融体から、希土類元素が前記ホウ酸塩中に濃縮された希土類富化相と、Fe-C相と、Cu相とを分離する、請求項1に記載の希土類酸化物の回収方法。
【請求項4】
前記易酸化性金属の酸化物は、酸化アルミニウムおよび/または二酸化ケイ素である、請求項1に記載の希土類酸化物の回収方法。
【請求項5】
前記易酸化性金属の酸化物は、酸化アルミニウムおよび二酸化ケイ素である、請求項4に記載の希土類酸化物の回収方法。
【請求項6】
前記ホウ酸塩は、テトラホウ酸ナトリウム(Na2B4O7)である、請求項5に記載の希土類酸化物の回収方法。
【請求項7】
前記希土類元素含有物は、ネオジム磁石を含む、請求項6に記載の希土類酸化物の回収方法。
【請求項8】
前記希土類元素含有物の希土類酸化物質量と、前記易酸化性金属の酸化物と、前記ホウ酸塩の含有量との総和に対する、前記酸化アルミニウムの含有量の割合は、4.1~10.8質量%であり、前記二酸化ケイ素の含有量の割合は、13.2~34.5質量%であり、前記ホウ酸塩の含有量の割合は、21.5~70質量%である、請求項5に記載の希土類酸化物の回収方法。
【請求項9】
前記希土類元素含有物の希土類酸化物質量と、前記易酸化性金属の酸化物と、前記ホウ酸塩の含有量との総和に対する、前記酸化アルミニウムの含有量の割合は、4.1~10.7質量%であり、前記二酸化ケイ素の含有量の割合は、13.2~34.1質量%であり、前記ホウ酸塩の含有量の割合は、22.5~70質量%である、請求項8に記載の希土類酸化物の回収方法。
【請求項10】
前記希土類元素含有物の希土類酸化物質量と、前記易酸化性金属の酸化物と、前記融体における前記ホウ酸塩の含有量との総和に対する、前記酸化アルミニウムの含有量の割合は、8.4~10.7質量%であり、前記二酸化ケイ素の含有量の割合は、26.9~34.1質量%であり、前記ホウ酸塩の含有量の割合は、22.5~38.7質量%である、請求項9に記載の希土類酸化物の回収方法。
【請求項11】
前記希土類元素含有物の希土類酸化物質量と、前記易酸化性金属の酸化物と、前記ホウ酸塩の含有量との総和に対する、前記酸化アルミニウムの含有量の割合は、5.4~14.0質量%であり、前記二酸化ケイ素の含有量の割合は、17.4~45.0質量%であり、前記ホウ酸塩の含有量の割合は、22.5~70質量%である、請求項5に記載の希土類酸化物の回収方法。
【請求項12】
前記希土類元素含有物の希土類酸化物質量と、前記易酸化性金属の酸化物と、前記ホウ酸塩の含有量との総和に対する、前記酸化アルミニウムの含有量の割合は、5.4~13.5質量%であり、前記二酸化ケイ素の含有量の割合は、17.4~43.5質量%であり、前記ホウ酸塩の含有量の割合は、25.0~70質量%である、請求項11に記載の希土類酸化物の回収方法。
【請求項13】
前記希土類元素含有物の希土類酸化物質量と、前記易酸化性金属の酸化物と、前記融体における前記ホウ酸塩の含有量との総和に対する、前記酸化アルミニウムの含有量の割合は、13.2~13.5質量%であり、前記二酸化ケイ素の含有量の割合は、42.7~43.5質量%であり、前記ホウ酸塩の含有量の割合は、25.0~26.4質量%である、請求項12に記載の希土類酸化物の回収方法。
【請求項14】
前記融体調製工程(1)は、下記工程(1a)~(1c)を順次有する、請求項1に記載の希土類酸化物の回収方法;
工程(1a):希土類元素含有物、アルミニウムおよびケイ素を含む前記廃棄物に、融点降下剤を添加した後、加熱溶融して、融体(1a)を得る、
工程(1b):前記融体(1a)に酸化剤を接触させて、融体(1b)を得る、
工程(1c):前記融体(1b)に前記ホウ酸塩および/またはその前駆体を添加して、融体(1c)を得る。
【請求項15】
前記分離工程(2)の後に、下記工程(3a)~(3c)を順次有する、請求項1に記載の希土類酸化物の回収方法;
工程(3a):前記工程(2)で得た希土類富化相を酸で浸出処理して、希土類元素浸出液を得る、
工程(3b):前記希土類元素浸出液中の希土類元素を塩として沈殿させて、沈殿物を得る、
工程(3c):前記沈殿物を加熱して、希土類元素を酸化物として回収する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類酸化物の回収方法に関する。より詳細には、希土類元素含有物を含む廃棄物から希土類元素を希土類酸化物として回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類元素は、ディスプレイ用蛍光体、蛍光灯、センサ、永久磁石、燃料電池など様々な製品に使用されており、パソコンや、スマートフォン、電気自動車などのハイテク機器類の製造には欠くことのできない物質である。近年、これらのハイテク機器の普及にともない、希土類元素の需要が高まっているものの、希土類元素は産出地が限られ、その産出量が少なく、価格も高騰している。このため、廃棄されたハイテク機器類の希土類元素含有物から希土類元素を回収する技術の開発や、改良が求められている。
【0003】
希土類元素含有物から希土類元素を回収する方法としては、対象物を酸や溶媒に溶解し、固液分離や溶媒抽出によって各希土類元素に分離を行う湿式法と、対象物をフラックスと共に加熱溶融し、フラックス中に希土類酸化物を抽出する乾式法が知られている。これらの方法のうち、湿式法では、酸や溶媒などの薬剤を大量に使う必要があり、処理後に廃液が大量に発生するという問題がある。また、湿式法では、対象物から酸や溶媒中に希土類元素を溶出させるのに時間がかかるといった問題もある。一方、乾式法は、フラックスの共存下で希土類元素含有物を加熱溶融させる工程のみによって容易に希土類元素の抽出を行うことができ、かつ廃液等の発生も抑えられるという点で有利である。
【0004】
乾式法におけるフラックスとして、酸化ホウ素(B2O3)やホウ酸塩等のホウ素化合物が知られている。例えば、特許文献1には、希土類磁石と鋼材を含む製品または半製品の廃棄物に、融点降下剤、酸化剤およびナトリウムホウ酸塩を添加し、溶融することで、RExOy-B2O3系スラグ(RE:Nd、Pr、Dy、Tb)とFe-C相との二相に分離して、回収することを特徴とする希土類元素含有物からの希土類元素回収方法(希土類元素を酸化物として回収する方法)が開示されている。特許文献1によれば、ナトリウムホウ酸塩をフラックスとして使用することにより、酸化ホウ素を用いた従来法と比較してスラグの粘度を低下するため、希土類元素含有物からより容易かつ効率的に希土類元素を回収することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の回収方法によると、使用するフラックス(ナトリウムホウ酸塩)の量が多く、コスト(原材料費、廃棄物処理費用)を増加させてしまうという問題点があった。また、ホウ素は、環境規制物質であり、その使用量の低減が求められていた。
【0007】
そこで本発明は、ホウ素を含有するフラックスを用いた希土類酸化物の回収方法において、フラックスの使用量を低減しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、上記湿式法において、フラックスとしてアルカリ金属またはアルカリ土類金属のホウ酸塩を使用し、フラックス中に希土類酸化物を抽出する際に、系内の易酸化性金属を酸化物の形態で共存させることで、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の一形態に係る希土類酸化物の回収方法は、希土類元素含有物を含む廃棄物から希土類酸化物を回収する、希土類酸化物の回収方法であって、前記廃棄物と、アルカリ金属のホウ酸塩およびアルカリ土類金属のホウ酸塩からなる群から選択される少なくとも1種のホウ酸塩ならびに/またはその前駆体とを加熱溶融して、希土類酸化物と、前記ホウ酸塩と、易酸化性金属の酸化物とを少なくとも含む融体を調製する融体調製工程(1);および前記融体から、希土類酸化物が前記ホウ酸塩中に濃縮された希土類富化相と、Fe-C相とを分離する分離工程(2)を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ホウ素を含有するフラックスを用いた希土類酸化物の回収方法において、フラックスの使用量が低減されうる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】希土類元素含有物としてNd
2O
3、易酸化性金属の酸化物としてAl
2O
3およびSiO
2、ホウ酸塩としてテトラホウ酸ナトリウム(Na
2B
4O
7)を用いた場合の1400℃における擬四元型状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。
【0013】
本発明の一形態は、希土類元素含有物を含む廃棄物から希土類酸化物を回収する、希土類酸化物の回収方法であって、前記廃棄物と、アルカリ金属のホウ酸塩およびアルカリ土類金属のホウ酸塩からなる群から選択される少なくとも1種のホウ酸塩ならびに/またはその前駆体とを加熱溶融して、希土類酸化物と、前記ホウ酸塩と、易酸化性金属の酸化物とを少なくとも含む融体を調製する融体調製工程(1);および前記融体から、希土類酸化物が前記ホウ酸塩中に濃縮された希土類富化相と、Fe-C相とを分離する分離工程(2)を有する、希土類酸化物の回収方法である。本形態によれば、ホウ素を含有するフラックスを用いた希土類酸化物の回収方法において、フラックスの使用量が低減されうる。
【0014】
以下、本形態に係る希土類酸化物の回収方法の各工程について、詳細に説明する。
【0015】
<融体調製工程(1)>
本工程(1)では、希土類元素含有物を含む廃棄物と、アルカリ金属のホウ酸塩およびアルカリ土類金属のホウ酸塩からなる群から選択される少なくとも1種のホウ酸塩ならびに/またはその前駆体とを加熱溶融する。これにより、希土類酸化物と、前記ホウ酸塩と、易酸化性金属の酸化物とを少なくとも含む融体を調製する。
【0016】
[廃棄物]
廃棄物は、希土類元素含有物を含む。廃棄物は、希土類元素含有物を含む製品または半製品の廃棄物でありうる。希土類元素含有物としては、希土類元素(すなわち、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム)の1種または2種以上を含むものであれば、特に制限されない。
【0017】
希土類元素含有物は、混合物、化合物、焼結物、合金、及びこれらの組み合わせなど種々の形態を取ることができる。また、希土類元素含有物は、希土類元素を含有する合金を用いた製品や、製品または半製品の廃棄物、製造工程で生じる端材や不良品などの廃棄物に含まれうる。
【0018】
希土類元素含有物の中でも、希土類元素を豊富に含む希土類磁石(その生産過程で生じるスラッジも含む)であることが好ましい。希土類磁石としては、希土類元素の1種または2種以上を含有する合金を用いた磁石であれば、特に制限されない。希土類磁石の具体例としては、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、プラセオジム磁石、サマリウム鉄窒素磁石が挙げられるが、中でも、ネオジム磁石であることが好ましい。レアアース(Nd、Pr、Dy、Tb)等の希少金属を使用したネオジム磁石が環境対応車である電気自動車(EV)/ハイブリッド電気自動車(HEV)の駆動用、発電用モータで使用されている。レアアース(希土類元素)は調達リスクがあり、天然資源に乏しい我が国において、環境対応車の需要増加が予測される中では、ネオジム磁石からのレアアースのリサイクルが重要となる。ネオジム磁石の中のレアアースをリサイクルすることで、レアアースの調達リスクを低下させることができる点で優れている。通常、ネオジム磁石は、ネオジム、鉄、ホウ素を主成分とする希土類磁石の一つとして定義されている。ただし、本明細書において、ネオジム磁石は、R、T、及びBを有するR-T-B系合金(ただし、RはNd、Pr、Dy、Tbからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを必須とし、TはFeを必須とする遷移金属であり、Bはホウ素であって、一部が炭素又は窒素で置換可能である)の磁石として定義されるものを意味する。
【0019】
希土類磁石を含む製品または半製品は、希土類磁石単体のみならず、希土類磁石を一部材として含んでいる形態であっても、本発明の希土類酸化物の回収方法を適用することができる。例えば、希土類磁石を一部材として含んでいるモータおよび空調設備のコンプレッサなどが例示される。このような、希土類磁石を含む製品または半製品の形状は、製品または半製品の要部そのままの形状であってもよいし、分解してあってもよい。モータに組み込まれた希土類磁石を廃棄されたモータから取り外すことは非常に困難である。これに対し、本形態に係る回収方法においては、廃棄モータから磁石を分離させることなく、モータそのものを処理することができる。このため、希土類磁石を含む製品または半製品のリサイクルを簡便に行うことが可能になる。また、希土類磁石をあらかじめ粉砕する必要もない。廃棄物の形状は製品種により様々であり、希土類磁石を取り出すためには、例えば、「家電リサイクルにおけるネオジム磁石回収」(2011年11月29日、財団法人家電製品協会;https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/haikibutsu_recycle/pdf/016_06_00.pdf)に記載のように、廃棄物形状に合わせた希土類磁石取り出し設備を設計する必要がある。そのためのコストが高いことが磁石リサイクルを妨げている要因の一つであった。本形態に係る回収方法によれば、廃棄物に、アルカリ金属のホウ酸塩およびアルカリ土類金属のホウ酸塩からなる群から選択される少なくとも1種のホウ酸塩(フラックス)と、必要に応じて易酸化性金属(例えば、アルミニウム、ケイ素)および/もしくはその酸化物、融点降下剤(例えば、炭素)ならびに/または酸化剤(例えば、酸化鉄)とを添加して加熱溶融して分離、回収可能なため、廃棄物から希土類磁石を取り出す必要がなく、経済性の高い方法であると言える。
【0020】
さらに、従来技術では、希土類磁石を処理する際には、加熱などによる消磁が行われているが(例えば、上記「家電リサイクルにおけるネオジム磁石回収」の9~11頁参照))、本形態に係る回収方法によれば、消磁していない希土類磁石を含む製品または半製品を用いることも可能である。
【0021】
さらにまた、製品または半製品によっては、防錆性や耐食性などを高めることを目的として、磁性鋼板などの鋼材や磁石の表面に各種メッキが施されているものがある。メッキは、希土類元素の回収の観点からは、不純物が増加するため好ましくなく、従来の方法においては、あらかじめ研磨などによって除去されている。しかしながら、本形態に係る回収方法によれば、メッキを除去することなくそのまま回収に供することができる。
【0022】
廃棄物は、希土類元素含有物以外の材料を含むものであってもよい。希土類元素含有物以外の材料としては、鋼材、銅が挙げられる。すなわち、本発明の好ましい一実施形態によれば、廃棄物は、鋼材および銅の少なくとも一方または両方をさらに含む。
【0023】
鋼材は、例えば、製品と一体化された鉄を主成分とする鋼板やネジ、製品のケース、シャーシなどを含んでいる。鉄の含有量については特に限定されない。鋼材は、磁性鋼材であってもよく、また、その組成はNi、Cr、Si、Coなどを含む各種であってもよい。希土類磁石と鋼材を含む場合には、これら全体の鉄量に対して、炭素量を適宜調整することで、希土類富化相と、Fe-C相との二相に分離させることができる。一方、鋼材を含まない場合、例えば、鉄分を希土類磁石のみが有する場合には、希土類磁石中の鉄量に対して、炭素量を適宜調整することで、希土類富化相と、Fe-C相との二相に分離させることができる。
【0024】
また、本形態において、廃棄物が銅を含む場合には、希土類富化相と、Fe-C相と、Cu相との三相に分離することができる。従来技術では、Fe-C相にアルミニウム、ケイ素が混入し、Cuのみを効率よく回収することが困難であったが、本形態に係る回収方法によれば、Cuの回収効率が向上しうる。この点については、後述する分離工程(2)の欄にて詳しく説明する。
【0025】
[ホウ酸塩および/またはその前駆体]
本形態に係る回収方法では、アルカリ金属のホウ酸塩およびアルカリ土類金属のホウ酸塩からなる群から選択される少なくとも1種のホウ酸塩をフラックスとして用いる。
【0026】
アルカリ金属のホウ酸塩およびアルカリ土類金属のホウ酸塩としては、例えば、テトラホウ酸ナトリウム(Na2B4O7)、テトラホウ酸リチウム(Li2B4O7)、テトラホウ酸カリウム(K2B4O7)、テトラホウ酸ルビジウム(Rb2B4O7)、テトラホウ酸セシウム(Cs2B4O7)、メタホウ酸ナトリウム(NaBO2)、メタホウ酸リチウム(LiBO2)、メタホウ酸カリウム(KBO2)、メタホウ酸ルビジウム(RbBO2)、メタホウ酸セシウム(CsBO2)、テトラホウ酸バリウム(BaB4O7)、テトラホウ酸マグネシウム(MgB4O7)、テトラホウ酸カルシウム(CaB4O7)、テトラホウ酸ストロンチウム(SrB4O7)、ホウ酸マグネシウム(MgB2O4)、ホウ酸カルシウム(CaB2O4)、ホウ酸ストロンチウム(SrB2O4)、ホウ酸バリウム(BaB2O4)などが挙げられる。これらのうち、アルカリ金属のホウ酸塩としては、例えば、テトラホウ酸ナトリウム(Na2B4O7)を好適に使用することができる。テトラホウ酸ナトリウム(Na2B4O7)は、背景技術で説明した、既存の乾式法でフラックスとして用いているB2O3や他の既存の乾式法で具体的に用いているホウ酸カルシウムおよびホウ酸マグネシウムよりも安価に入手することが可能であり、希土類酸化物の回収コストの低減に大いに寄与することができる。アルカリ土類金属のマグネシウム、カルシウムなどを含むホウ酸塩は、主体としてのテトラホウ酸ナトリウム(Na2B4O7)(アルカリ金属のホウ酸塩)と併用することも可能である。アルカリ土類金属のホウ酸塩としては、希土類酸化物の回収コストの低減に寄与することができることから、例えば、テトラホウ酸バリウム(BaB4O7)、ホウ酸カルシウム(CaB2O4)を好適に使用することができる。中でも希土類酸化物の回収コストの低減に大いに寄与することができることから、テトラホウ酸バリウム(BaB4O7)がより好ましい。
【0027】
本形態に係る回収方法では、ホウ酸塩に代えて、または、ホウ酸塩に加えて、加熱溶融によりホウ酸塩を生じる前駆体を添加することもできる。このような前駆体としては、ホウ酸(B2O3)とアルカリ金属の酸化物(Na2O、Li2O、K2O7、Rb2O7、Cs2O)との組み合わせ、ホウ酸(B2O3)とアルカリ土類金属の酸化物(BaO、MgO、CaO、SrO)との組み合わせ、ホウ酸(B2O3)とアルカリ金属の水酸化物(NaOH、LiOH、KOH、RbOH、CsOH)との組み合わせ、ホウ酸(B2O3)とアルカリ土類金属の水酸化物(Ba(OH)2、Mg(OH)2、Ca(OH)2、Sr(OH)2)との組み合わせ、ホウ酸(B2O3)とアルカリ金属の炭酸塩(Na2CO3、Li2CO3、K2CO3、Rb2CO3、Cs2CO3)との組み合わせ、ホウ酸(B2O3)とアルカリ土類金属の炭酸塩(BaCO3、MgCO3、CaCO3、SrCO3)との組み合わせが挙げられる。ホウ素源と、アルカリ金属源またはアルカリ土類金属源との量は、目的とするホウ酸塩の組成に合わせて適宜調整されうる。
【0028】
ホウ酸塩またはその前駆体の添加量は、希土類含有物に含まれる希土類元素と、易酸化性金属の酸化物とが均一融体(液相領域)を形成するのに十分な量であればよい。換言すると、ホウ酸塩の添加量は、希土類元素含有物の希土類酸化物質量と、易酸化性金属の酸化物の含有量とにより決定される状態図における、液相線以上の量である。ここで、本明細書において、「希土類元素含有物の希土類酸化物質量」とは、希土類元素含有物(例えば、希土類磁石)に含まれるNd、Pr、DyおよびTbが、Nd2O3、Pr2O3、Dy2O3およびTb2O3に酸化されたとみなした際の、Nd2O3、Pr2O3、Dy2O3およびTb2O3の質量の合計を指す。また、易酸化性金属の酸化物の含有量は、種類ごとの含有量を指す。例えば、易酸化性金属の酸化物としてAl2O3のみが含まれる場合は、易酸化性金属の酸化物の含有量はAl2O3の含有量を指す。易酸化性金属の酸化物としてAl2O3およびSiO2が含まれる場合は、易酸化性金属の酸化物の含有量は、Al2O3およびSiO2のそれぞれの含有量を指す。
【0029】
以下、「希土類元素含有物の希土類酸化物質量と、易酸化性金属の酸化物の含有量とにより決定される状態図における、液相線以上の量」について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、希土類元素含有物としてNd
2O
3、易酸化性金属の酸化物としてAl
2O
3およびSiO
2、ホウ酸塩としてテトラホウ酸ナトリウム(Na
2B
4O
7)を用いた場合の1400℃における擬四元型状態図である。
図1に示す正四面体の各辺は、4成分の濃度を表示する。例えば、
図1に示す正四面体において、Nd
2O
3とNa
2B
4O
7とを頂点とする辺について考える。この辺上の任意の点AにおけるNd
2O
3:Na
2B
4O
7の組成比(質量比)は、「点Aから頂点(Na
2B
4O
7)の距離」:「点Aから頂点(Nd
2O
3)」に相当する(てこの原理)。ここで、正四面体の左に位置する正三角形の各辺は、Nd
2O
3、Al
2O
3およびSiO
2の濃度を表示しており、当該正三角形の面上に示される一の点(例えば、
図1において矢印が指す点X)は、これら3成分の組成を示す。より詳細には、
図1に示す正四面体において、Nd
2O
3とAl
2O
3とSiO
2とを頂点とする正三角形について考える。この面上の点XにおけるNd
2O
3:Al
2O
3:SiO
2の組成比(質量比)は、「Al
2O
3とSiO
2とを結ぶ線分から点Xまでの垂線の距離」:「Nd
2O
3とSiO
2とを結ぶ線分から点Xまでの垂線の距離」:「Nd
2O
3とAl
2O
3を結ぶ線分から点Xまでの垂線の距離」に相当する。3成分の組成は、本工程(1)において添加されるNd
2O
3、Al
2O
3およびSiO
2の量により一義的に決定される。点Xから頂点(Na
2B
4O
7)に向かって引かれた直線は、点Xで示される3成分の組成に対して、Na
2B
4O
7を添加した際の、当該3成分とNa
2B
4O
7との濃度を表示する。頂点(Na
2B
4O
7)に近づくにつれて、Na
2B
4O
7の濃度が高くなることを意味する。点Xで示される3成分の組成に対して、Na
2B
4O
7の濃度を高くしていくと、ある濃度において固相・液相混合領域から、液相領域(均一融体を生成する領域)へと変化する。固相・液相混合領域から、液相領域へと変化する境界は、「液相線」と称され、液相線上では、通常、液相と一部の固相とが平衡で存在する。なお、
図1に示す擬四元型状態図においては、固相・液相混合領域と液相領域との境界は面として存在するため、このような場合の境界を「液相面」とも称することがある。ただし、本明細書においては、境界が線であるか面であるかにかかわらず、用語を統一して「液相線」と称するものとする。ホウ酸塩の含有量が「液相線以上の量」であるとは、液相線に対応する濃度であるか、または液相領域における濃度であることを指す。
図1に示す場合において、「液相線以上の量」は、前記直線と液相線との交点(図示せず)から頂点(Na
2B
4O
7)を結ぶ線分(ただし、頂点(Na
2B
4O
7)は除く)により表されるNa
2B
4O
7濃度に相当する。
【0030】
なお、上記では「希土類元素含有物の希土類酸化物質量と、易酸化性金属の酸化物の含有量とにより決定される状態図における、液相線以上の量」について擬四元型状態図を用いて説明したが、状態図を作成しなくとも、当該「液相線以上の量」を求めることができる。すなわち、予め系内に存在しうる希土類元素含有物の希土類酸化物質量と、易酸化性金属の酸化物の含有量とを求めておけば、この組成に対してホウ酸塩濃度を上昇させていくことで液相線に対応するホウ酸塩濃度を実験的に求めることができる。これにより、希土類元素含有物に含まれる希土類元素および易酸化性金属(酸化物)の組成がいかなる場合であっても、均一融体を生成する組成を把握することが可能である。よって、本形態に係る回収方法は、様々な元素組成を有する廃棄物についても適用することが可能である。
【0031】
[易酸化性金属および/またはその酸化物]
本工程(1)では、前述した希土類元素含有物を含む廃棄物と、ホウ酸塩および/またはその前駆体とに加えて、易酸化性金属および/またはその酸化物が添加されうる。本明細書において、「易酸化性金属」とは、後述する酸化剤(例えば、酸化鉄(Fe2O3))よりも酸化されやすい金属または半金属を指す。易酸化性金属としては、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)などが挙げられる。中でも、易酸化性金属は、アルミニウム(Al)および/またはケイ素(Si)の少なくとも一方または両方であることが好ましく、アルミニウム(Al)およびケイ素(Si)を併用することがより好ましい。また、これらの易酸化性金属の酸化物の形態で添加されてもよい。易酸化性金属の酸化物としては、酸化アルミニウム(Al2O3:アルミナ)、二酸化ケイ素(SiO2:シリカ)、酸化チタン(TiO2:チタニア)、酸化ジルコニウム(ZrO2:ジルコニア)などが挙げられる。中でも、酸化アルミニウム(Al2O3:アルミナ)および/または二酸化ケイ素(SiO2:シリカ)の少なくとも一方または両方であることが好ましく、酸化アルミニウム(Al2O3:アルミナ)および二酸化ケイ素(SiO2:シリカ)を併用することがより好ましい。なお、希土類元素含有物を含む廃棄物中に、十分な量の易酸化性金属および/またはその酸化物が含まれる場合には、別途の添加は不要である。よって、好ましい一実施形態によれば、廃棄物は、希土類元素含有物および易酸化性金属を含む。より好ましい一実施形態によれば、廃棄物は、希土類元素含有物、アルミニウムおよびケイ素を含む。
【0032】
[融点降下剤]
廃棄物には、鉄元素が多く含まれうる。例えば、廃棄モータには、希土類磁石単体と比較して、モータの電磁鋼板部分に由来する鉄元素が非常に多く含まれている。廃棄物が多量の鉄元素を含む場合には、鉄の融点は1538℃と高いことから、相分離の効率や溶解時のエネルギー低減を考慮すると、融点降下剤の共存下で廃棄物を溶融することが好ましい。融点降下剤としては、炭素を用いることが好ましい。炭素は、鉄の酸化を防ぎ、鉄が希土類富化相へ移動するのを防止する効果があるため、分離性が向上されうる。炭素の供給源としては、例えば、加熱炉(溶融炉)に炭素るつぼを使用すること、炉壁を炭素コーティングすること、銑鉄等のFe-C合金、コークス、グラファイト、市販の加炭材、プラスチック、有機物等を添加剤として反応系に添加することなどが例示される。また、例えば、二酸化炭素、炭化水素系ガスなどのガス状の炭素源を吹き込むこと等が例示される。さらに、後述するように、融点降下剤として炭素を用いる場合において、Fe-C合金を生成する目的で添加する電解鉄などの高純度鉄も融点降下剤に含まれるものとする。また、上記したように加熱炉やその炉壁を炭素供給源(融点降下剤)とする場合、炉壁の表面の炭素材が、廃棄物等が溶融した融体中に溶け出すことで、融点降下剤として添加される形態となる。
【0033】
また、希土類磁石を含有する電磁鋼板の廃棄物に、融点降下剤を添加して加熱溶融する際には、電解鉄を添加することができる。電解鉄は、希土類磁石を含有する電磁鋼板を1500℃以上の高温で加熱溶融する際には必ずしも必要ではないが、融点降下剤として炭素を添加した場合には、電解鉄と融点降下剤中の炭素が反応して、Fe-C合金を生成する。このように、電磁鋼板の加熱溶融に先だって、1200℃程度の温度で溶融するFe-C合金を生成することにより、電磁鋼板の溶融を促進し、より短時間かつ低温度で電磁鋼板の溶融状態を達成することができる。
【0034】
このような融点降下剤の添加量は、溶融温度が最も低くなるという理由により共晶点の組成付近とすることが好ましい。融点降下剤として炭素を使用する場合は、炭素飽和の状態、すなわち、融体中にそれ以上炭素が溶け込まない状態で加熱溶融を行うことが融点降下や酸化防止効果の観点で好ましい。一般的な目安としては、融点降下剤の添加量は、廃棄物の鉄元素量に対して、5質量%~10質量%の範囲とすることが考慮される。上記範囲は、あくまで融点降下剤を銑鉄等のFe-C合金、コークス、グラファイト、市販の加炭材、プラスチック、有機物等を添加剤として反応系に添加する場合や二酸化炭素、炭化水素系ガスなどのガス状の炭素源を吹き込む場合の目安である。融点降下剤として、炭素るつぼや炉壁を炭素コーティングしたものを炭素の供給源として使用または併用する場合には、上記範囲に制限されるものではない。但し、これら加熱炉(溶融炉)の一部を炭素源として使用する場合、定期的に炉壁の補修やるつぼの交換を行う必要があることから、他の炭素源を使用するのが好ましい。
【0035】
[酸化剤]
本形態に係る回収方法では、希土類元素含有物に含まれる希土類元素を希土類酸化物の形態に変換した後に相分離するため、本工程(1)において、希土類元素を酸化するための酸化剤が添加されうる。また、易酸化性金属(例えば、Alおよび/またはSi)が含まれる場合には、酸化剤により易酸化性金属酸化物の形態に変換された後、相分離が行われる。ここで、系内の易酸化性金属の少なくとも90モル%以上が易酸化性金属酸化物の形態に変換されることが好ましく、95モル%以上が易酸化性金属酸化物の形態に変換されることがより好ましく、99モル%以上が易酸化性金属酸化物の形態に変換されることがさらに好ましく、100モル%が易酸化性金属酸化物の形態に変換されることが好ましい。酸化物の形態の割合を多くすることにより、ホウ酸塩の使用量をよりいっそう低減することができる(特に、後述するホウ酸塩の還元に伴う使用量の増加をより効果的に抑制できる)。また、易酸化性金属の回収をより効率よく行うことも可能となる。酸化剤は、加熱溶融した希土類元素含有物および易酸化性金属に添加されることにより、希土類元素および易酸化性金属の酸化に十分な酸素を供給することができる。希土類元素および易酸化性金属の酸化を促進することは、相分離性と希土類酸化物の回収率を向上させる観点で好ましい。
【0036】
酸化剤としては、例えば、空気、酸素、二酸化炭素などの酸化性のガスや、酸化鉄、酸化鉄を含む複合酸化物などが例示される。中でも、酸化鉄は、希土類元素および易酸化性金属の酸化に十分な酸素を供給するだけではなく、回収される鉄の不純物を低減することができるため好ましい。
【0037】
酸化鉄の添加量は、廃棄物中の希土類元素含有物(例えば、希土類磁石)の希土類元素量および易酸化性金属量に対して酸素量が1.5倍~2.0倍のモル比とすることが好ましい。なお、不活性雰囲気下において、酸化鉄を添加しない場合、添加したホウ酸塩が磁石中の希土類元素と反応して還元されてしまい、フラックスとしての機能が低下するおそれがある。よって、酸化鉄を添加しない場合は、空気、酸素、二酸化炭素などの酸化性のガスの存在下で本工程(1)を行うことが好ましい。
【0038】
本工程(1)では、上記で説明したように、希土類元素含有物を含む廃棄物と、ホウ酸塩および/またはその前駆体とを加熱溶融する。この際の加熱温度は、1250℃~1700℃が好ましい。1250℃以上であれば、均一融体(液相領域)を生成しやすい。また、加熱溶融に用いる溶融炉に使用されている耐火物の耐久性の観点から、1700℃以下であることが好ましい。さらに希土類富化相とFe-C相との二相分離性を向上させる観点から、加熱温度は1400℃~1600℃であることがより好ましい。1400℃以上であれば、希土類元素含有物(例えば、希土類磁石)が溶融しやすくなる。また、純鉄の融点が1535℃であること;傾注により、希土類富化相とFe-C相とを密度差により分離することが容易となることから、1600℃以下がより好ましい。
【0039】
なお、上記温度範囲よりも高い温度に加熱することは二相分離性を悪化させるので避けることが好ましい。ただし、当該温度範囲に保持する前にいったん当該温度範囲よりも高温に加熱しておくことは鉄など高融点物質中に混入している希土類元素を溶かし出す上で有効である。このため、加熱溶融時の温度変化としては、二相分離に好適な上記温度範囲に加熱し、その後冷却する場合がある。また、均質な融体を形成するために二相分離により好適な上記温度範囲よりも高温(例えば1600℃超から1700℃以下)に加熱して、次いで、温度を低下させて二相分離により好適な上記温度範囲に保持し、その後冷却する場合がある。
【0040】
相分離性を向上させる観点から、加熱溶融された融体を、上記温度範囲に10分以上保持することが好ましく、60分以上保持することがより好ましい。ただし、保持時間が長すぎても理論的な分配比を超えた効果は生じないことから、経済性を考慮すれば、保持時間は180分以下とするのが好ましい。
【0041】
廃棄物が銅をさらに含み、希土類富化相とFe-C相とCu相との三相に分離する場合の好ましい加熱温度範囲も上記と同様である。
【0042】
本工程(1)は、下記工程(1a)~(1c)を順次有することが好ましい;
工程(1a):希土類元素含有物、アルミニウムおよびケイ素を含む前記廃棄物に、融点降下剤を添加した後、加熱溶融して、融体(1a)を得る、
工程(1b):前記融体(1a)に酸化剤を接触させて、融体(1b)を得る、
工程(1c):前記融体(1b)に前記ホウ酸塩および/またはその前駆体を添加して、融体(1c)を得る。
【0043】
これら工程(1a)~(1c)によれば、より簡便な操作で、相分離に適した融体を調製することが可能となる。
【0044】
本工程(1)で得られる融体は、希土類酸化物と、ホウ酸塩と、易酸化性金属の酸化物とを少なくとも含む。ここで、易酸化性金属の酸化物が酸化アルミニウムおよび二酸化ケイ素であり、ホウ酸塩がテトラホウ酸ナトリウム(Na2B4O7)である場合における、これらの成分の組成は、以下の範囲であることが好ましい。すなわち、本発明の好ましい一実施形態によれば、希土類元素含有物の希土類酸化物質量と、易酸化性金属の酸化物と、ホウ酸塩の含有量との総和に対する、酸化アルミニウムの含有量の割合は、4.1~10.8質量%であり、二酸化ケイ素の含有量の割合は、13.2~34.5質量%であり、ホウ酸塩の含有量の割合は、21.5~70質量%である。本発明のより好ましい一実施形態によれば、上記総和に対する酸化アルミニウムの含有量の割合は、4.1~10.7質量%であり、二酸化ケイ素の含有量の割合は、13.2~34.1質量%であり、ホウ酸塩の含有量の割合は、22.5~70質量%である。本発明のさらに好ましい一実施形態によれば、上記総和に対する、酸化アルミニウムの含有量の割合は、8.4~10.7質量%であり、二酸化ケイ素の含有量の割合は、26.9~34.1質量%であり、ホウ酸塩の含有量の割合は、22.5~38.7質量%である。このような組成となるように、希土類元素含有物、ホウ酸塩またはその前駆体、および易酸化性金属またはその酸化物を添加することにより、均一融体がより容易に得られる。
【0045】
また、本発明の好ましい一実施形態によれば、希土類元素含有物の希土類酸化物質量と、易酸化性金属の酸化物と、ホウ酸塩の含有量との総和に対する、酸化アルミニウムの含有量の割合は、5.4~14.0質量%であり、二酸化ケイ素の含有量の割合は、17.4~45.0質量%であり、ホウ酸塩の含有量の割合は、22.5~70質量%である。本発明のより好ましい一実施形態によれば、上記総和に対する酸化アルミニウムの含有量の割合は、5.4~13.5質量%であり、二酸化ケイ素の含有量の割合は、17.4~43.5質量%であり、ホウ酸塩の含有量の割合は、25.0~70質量%である。本発明のさらに好ましい一実施形態によれば、上記総和に対する酸化アルミニウムの含有量の割合は13.2~13.5質量%であり、二酸化ケイ素の含有量の割合は、42.7~43.5質量%であり、ホウ酸塩の含有量の割合は、25.0~26.4質量%である。このような組成となるように、希土類元素含有物、ホウ酸塩またはその前駆体、および易酸化性金属またはその酸化物を添加することにより、均一融体がより容易に得られる。
【0046】
<分離工程(2)>
本工程(2)では、工程(1)で得た融体から、希土類元素がホウ酸塩中に濃縮された希土類富化相と、Fe-C相とを分離する。融体の状態では、相対的に密度の高いFe-C相が下層、相対的に密度の低い希土類富化相が上層に分離する。ここで、希土類富化相には、ホウ酸塩により抽出された希土類酸化物に加え、易酸化性金属の酸化物(例えば、Al2O3および/またはSiO2)も含まれうる。特許文献1に記載の回収方法では、「ナトリウムホウ酸塩の添加量が、希土類磁石の質量に対して、0.5~10倍となるように・・・」と記載されている。このナトリウムホウ酸塩の添加量を、本明細書における「希土類元素含有物の希土類酸化物質量」に対する割合で表現をすると、「ナトリウムホウ酸塩の添加量は、ナトリウムホウ酸塩添加量と希土類元素含有物の希土類酸化物質量との総和に対し、60質量%~となるように・・・」となる。本形態に係る回収方法によれば、フラックス(ホウ酸塩)中に希土類酸化物を抽出する際に、易酸化性金属の酸化物を共存させることで、従来技術よりもフラックスの使用量を少なくしても均一融体を得ることが可能となった。後述の参考例7の組成においては、ホウ酸塩の含有量は、ホウ酸塩と、希土類元素含有物の希土類酸化物質量との総和に対して、少なくとも41質量%まで低減できることが分かる。また、本発明者らの検討によると、廃棄物の種類によっては、希土類酸化物質量から予想される、均一融体を得るために必要なホウ酸塩の量よりも、多くの量のホウ酸塩が必要となる場合があることが判明した。この現象は、廃棄物が易酸化性金属を含む場合に、易酸化性金属によりホウ酸塩が還元されて、フラックスとしての機能が低下することによると考えられた。本形態に係る回収方法によれば、易酸化性金属を酸化物の形態に変換することにより、ホウ酸塩の還元による機能低下を抑制できるため、ホウ酸塩の使用量を低減することが可能となる。よって、これらの点において、本形態に係る回収方法は、従来技術と比較して有利な効果を有している。
【0047】
希土類富化相およびFe-C相が形成された後は、液相状態にある間に各相を分液することにより、各相を分離回収することができる。本形態に係る回収方法に依れば、フラックスとしてホウ酸塩を用いることで、希土類富化相が低粘度となるため、傾注によって炉の上部から希土類富化相を取り出すことができ、分離が容易である。
【0048】
また、分液の方法としては、密度の高い相から順番に炉底から排出する方法がある。さらに別の方法としては、融体を冷却して固化させてから、相の境界に沿ってカッター等で切断してもよい。冷却する際は、分離性を挙げるために、固化するまでは徐冷するのが好ましいが、急冷して固化させることもできる。
【0049】
廃棄物が銅を含む場合においては、融体は、希土類富化相と、Fe-C相と、Cu相との三相に分離する。すなわち、本発明の好ましい一実施形態によれば、廃棄物は、銅をさらに含み、分離工程(2)において、融体から、希土類元素がホウ酸塩中に濃縮された希土類富化相と、Fe-C相と、Cu相とを分離する。融体が銅を含む場合においては、密度の低い順に、希土類富化相(上層)と、Fe-C相(中層)と、Cu相(下層)とに分離される。これらの相は、二相分離の場合と同様に、傾注する方法、炉底から排出する方法、固化させて切断する方法のいずれの方法によっても取り出すことが可能である。従来技術のように、アルミニウム、ケイ素を酸化物の形態に変換しない場合、アルミニウム、ケイ素はFe-C相に含有され、これにより、Fe-C相とCu相との分離が困難となる場合があった。本形態に係る回収方法によれば、易酸化性金属を酸化物の形態に変換することにより、易酸化性金属の酸化物は希土類富化相に含有されることとなる。その結果、易酸化性金属はFe-C相にほとんど含まれなくなるため、Fe-C相とCu相との相分離性が良好となり、Cuを効率よく回収することが可能となった。よって、この点においても本形態に係る回収方法は、従来技術と比較して有利な効果を有している。
【0050】
<工程(3a)~(3c)>
本形態に係る回収方法では、上記分離工程(2)の後に、希土類富化相から希土類酸化物を回収する工程(3a)~(3c)をさらに有しうる。すなわち、本発明の好ましい一実施形態によれば、前記分離工程(2)の後に、下記工程(3a)~(3c)を順次有する;
工程(3a):前記工程(2)で得た希土類富化相を酸で浸出処理して、希土類元素浸出液を得る、
工程(3b):前記希土類元素浸出液中の希土類元素を塩として沈殿させて、沈殿物を得る、
工程(3c):前記沈殿物を加熱して、希土類元素を酸化物として回収する。
【0051】
工程(3a)の浸出処理に用いる酸としては、例えば、シュウ酸、塩酸、硫酸などが例示される。工程(3a)において酸浸出を行って希土類元素を溶解した後、工程(3b)アルカリ(例えば、水酸化アンモニウム、硫酸アンモニウム、水酸化ナトリウム)を添加してpH調整(例えば、pH2)することによって、沈殿物(希土類元素の塩)を析出させる。この際、ホウ酸塩由来の成分は、浸出液中に溶解したままであるので、固液分離することによって沈殿物(希土類元素の塩)を回収することが可能である。その後、工程(3c)において、沈殿物(希土類元素の塩)を600℃~1000℃で30分~90分間焼成することにより、希土類酸化物として回収することができる
さらに、本形態に係る回収方法では、工程(3a)~(3c)の後に、酸化物を金属に還元する既存法である溶融塩電解法(溶融塩還元法)やCa還元法(カルシウム還元法)などの公知の方法によって、得られた希土類酸化物を希土類元素の単体に還元して回収することもできる。
【0052】
なお、以下の実施形態も本発明の範囲に含まれる:請求項2の特徴を有する請求項1に記載の回収方法;請求項3の特徴を有する請求項1または2に記載の回収方法;請求項4の特徴を有する請求項1~3のいずれか1項に記載の回収方法;請求項5の特徴を有する請求項4に記載の回収方法;請求項6の特徴を有する請求項1~5のいずれか1項に記載の回収方法;請求項7の特徴を有する請求項1~6のいずれか1項に記載の回収方法;請求項8の特徴を有する請求項5に記載の回収方法;請求項9の特徴を有する請求項8に記載の回収方法;請求項10の特徴を有する請求項9に記載の回収方法;請求項11の特徴を有する請求項5に記載の回収方法;請求項12の特徴を有する請求項11に記載の回収方法;請求項13の特徴を有する請求項12に記載の回収方法;請求項14の特徴を有する請求項1~13のいずれか1項に記載の回収方法;請求項15の特徴を有する請求項1~14のいずれか1項に記載の回収方法。
【実施例0053】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0054】
<液相線の確認>
[参考例1]
純度99.9質量%のNd2O3 0.127gと、Na2B4O7 0.7gと、Al2O3 0.041gと、SiO2 0.132gとを混合したものを本参考例の試料とした。なお、Nd2O3と、Al2O3と、SiO2との質量比は、Nd2O3:Al2O3:SiO2=42.3:13.7:44.0である。この試料を、内径8mm、厚さ1mm、高さ50mmの鉄坩堝に挿入し、カンタル炉にて1400℃、空気雰囲気で24時間加熱保持した。所定の時間保持した試料を水冷により急冷した。急冷した試料について、光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡(SEM)による組織観察と、X線回折装置(XRD)による相の同定とを行った。これらの結果に基づき、Nd2O3に対するNa2B4O7フラックスの溶解能を調べた。その結果、急冷した試料において、均一融体が冷却されてガラス化した組織のみが観察されたことから、本参考例の試料は高温で均一融体を生成したことが確認された。
【0055】
[参考例10]
純度99.9質量%のNd2O3 0.072gと、Na2B4O7 0.7gと、Al2O3 0.054gと、SiO2 0.174gとを混合したものを本参考例の試料とした。なお、Nd2O3と、Al2O3と、SiO2との質量比は、Nd2O3:Al2O3:SiO2=24.0:18.0:58.0である。この試料を、内径8mm、厚さ1mm、高さ50mmの鉄坩堝に挿入し、カンタル炉にて1400℃、空気雰囲気で24時間加熱保持した。所定の時間保持した試料を水冷により急冷した。急冷した試料について、光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡(SEM)による組織観察と、X線回折装置(XRD)による相の同定とを行った。これらの結果に基づき、Nd2O3に対するNa2B4O7フラックスの溶解能を調べた。その結果、急冷した試料において、均一融体が冷却されてガラス化した組織のみが観察されたことから、本参考例の試料は高温で均一融体を生成したことが確認された。
【0056】
[参考例2~15、比較参考例1~7]
純度99.9質量%のNd2O3と、Na2B4O7と、Al2O3と、SiO2とを、下記表1の組成となるように、秤量し、混合したものを、各例の試料とした。なお、参考例2~9および比較参考例1~6においては、Nd2O3と、Al2O3と、SiO2との質量比は、参考例1における質量比とほぼ同じ(誤差±0.1質量%)であった。また、参考例11~15および比較参考例7においては、Nd2O3と、Al2O3と、SiO2との質量比は、参考例10における質量比とほぼ同じ(誤差±0.1質量%)であった。この試料を、内径8mm、厚さ1mm、高さ50mmの鉄坩堝に挿入し、カンタル炉にて1350℃または1400℃(表1参照)、空気雰囲気で24時間加熱保持した。所定の時間保持した試料を水冷により急冷した。急冷した試料について、光学顕微鏡およびSEMによる組織観察と、XRDによる相の同定とを行った。これらの結果に基づき、Nd2O3に対するNa2B4O7フラックスの溶解能を調べた。そして、急冷した試料において、均一融体が冷却されてガラス化した組織のみが観察されるか否かにより、高温で均一融体を生成したものであるか、液相と固相とが混合した状態となったものであるかを判断した。
【0057】
結果を下記表1に示す。表1において、「L」は均一融体を生成したものを表し、「L+S」は、液相と固相とが混合した状態となったものを表す。
【0058】
【0059】
表1に示す結果から、Nd
2O
3と、Al
2O
3と、SiO
2との質量比がNd
2O
3:Al
2O
3:SiO
2=42.3:13.7:44.0であり、融体の温度が1400℃である場合においては、Na
2B
4O
7と、Nd
2O
3と、Al
2O
3と、SiO
2との総質量に対する、Na
2B
4O
7の割合が20.0質量%より大きく22.5質量%以下の範囲内に液相線が存在することが分かる。よって、当該組成においては、Na
2B
4O
7の割合が少なくとも22.5質量%以上(Nd
2O
3およびNa
2B
4O
7の合計質量に対して、Na
2B
4O
7の質量の割合が、少なくとも41質量%以上)であれば、均一融体が生成することを確認した。なお、参考例1~7および比較参考例1~6における組成は、
図1に示す擬四元型状態図における点Xと頂点(Na
2B
4O
7)とを結ぶ線分上の組成に相当する。
【0060】
また、表1に示す結果から、Nd
2O
3と、Al
2O
3と、SiO
2との質量比がNd
2O
3:Al
2O
3:SiO
2=24.0:18.0:58.0であり、融体の温度が1400℃である場合においては、Na
2B
4O
7と、Nd
2O
3と、Al
2O
3と、SiO
2との総質量に対する、Na
2B
4O
7の割合が20.0質量%より大きく25.0質量%以下の範囲内に液相線が存在することが分かる。よって、当該組成においては、Na
2B
4O
7の割合が少なくとも25.0質量%以上(Nd
2O
3およびNa
2B
4O
7の合計質量に対して、Na
2B
4O
7の質量の割合が、少なくとも58.1質量%以上)であれば、均一融体が生成することを確認した。なお、参考例10~15および比較参考例7における組成は、
図1に示す擬四元型状態図における点Yと頂点(Na
2B
4O
7)とを結ぶ線分上の組成に相当する。
【0061】
<希土類酸化物の回収>
[実施例1]
日本ルツボ株式会社製黒鉛炭化珪素坩堝(フェニックス)(型番:CD 100HP、1回の最大処理量:100kg)内に、希土類元素含有物と鋼材とを含む廃棄物としてのロータ15.1kgならびに融点降下剤としての銑鉄2,000gおよび加炭材920gを入れ、高周波誘導炉を用いて加熱した。なお、上記ロータには、希土類元素含有物としてのネオジム磁石(磁石1)1,771gが挿入されており、その組成は、Nd:21.0質量%、Pr:5.0質量%、Dy:2.5質量%、Tb:0.4質量%、B:1.0質量%、Fe:70.2質量%であった。また、上記ロータは、ケイ素290gおよびアルミニウム103gを含有していた。1440℃に昇温して溶融した後、酸化剤として酸化鉄(Fe2O3)1,980gを添加し、さらに大気下で炭素棒で溶湯(融体)を撹拌し、酸化鉄と空気中の酸素により、希土類成分、ケイ素およびアルミニウムを十分に酸化させた。その後、ホウ酸塩としてのテトラホウ酸ナトリウム(Na2B4O7)746gを投入し、炭素棒で溶湯(融体)を撹拌した。
【0062】
30分間保持後、傾注により坩堝内から希土類富化相であるRExOy-Na2B4O7系スラグ(RE:Nd、Pr、DyおよびTb)と、溶融Fe-C相とをそれぞれ取り出し、空冷した。なお、ネオジム磁石(磁石1)の組成は、誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)法により決定した。本実施例における希土類元素含有物の希土類酸化物質量(磁石1に含まれるNd、Pr、DyおよびTbが、Nd2O3、Pr2O3、Dy2O3およびTb2O3に酸化したとみなした際の、Nd2O3、Pr2O3、Dy2O3およびTb2O3の質量の合計)、易酸化性金属の酸化物(SiO2およびAl2O3)のそれぞれの量およびホウ酸塩(Na2B4O7)の量を下記表2に示す。なお、希土類酸化物質量と、Al2O3と、SiO2との質量比は、上記参考例1~7および比較参考例1~6とほぼ同じであり、希土類酸化物質量:Al2O3:SiO2=42.2:13.8:44.0であった。
【0063】
【0064】
回収されたFe-C相の成分分析結果を下記表3に示す。Fe-C相中の残存RE(RE:Nd、Pr、DyおよびTb)量は、Fe-C相の総質量に対して、合計0.03質量%であり、Fe-C相中には希土類元素はほとんど含まれておらず、ネオジム磁石中の希土類成分はスラグ相(希土類富化相)に移行したものと考えられる。Fe-C相の組成は、ICP-AES法により決定した。
【0065】
【0066】
回収された希土類富化相(RExOy-Na2B4O7系スラグ)10gを6mol/l塩酸200mlで酸浸出し、ろ過によりろ液を得た。ろ液に1mol/lシュウ酸水溶液100mlを加え、アンモニア水を添加することによりpH2に調整した。pH調整液を撹拌しながら40℃で1~2時間保持することで、希土類シュウ酸塩の沈殿物を得た。ろ過により、希土類シュウ酸塩を分離し、マッフル炉にて900℃で60分間焼成することで、希土類酸化物を含有する粉末を得た。当該粉末の分析結果を下記表4に示す。粉末中の希土類酸化物の量は、粉末の総質量に対して、合計98.5質量%であった。粉末の組成は、ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光分析)法により決定した。
【0067】
【0068】
[実施例2]
日本ルツボ株式会社製黒鉛坩堝(型番:NO.8、1回の最大処理量:8kg)内に、希土類元素含有物と鋼材と銅とを含む廃棄物としてのロータ688kg、ステータ747g、融点降下剤としての加炭材79gおよび相分離を促進するための銅723gを入れ、高周波誘導炉を用いて加熱した。なお、上記ロータには、希土類元素含有物としてのネオジム磁石(磁石1)110gが挿入されており、その組成は、Nd:21.0質量%、Pr:5.0質量%、Dy:2.5質量%、Tb:0.4質量%、B:1.0質量%、Fe:70.2質量%であった。また、上記ロータおよび上記ステータは、合計でケイ素37g、アルミニウム13gおよび銅134gを含有していた。1400℃に昇温して溶融した後、酸化剤として酸化鉄(Fe2O3)159gを添加し、さらに大気下で炭素棒で溶湯(融体)を撹拌し、酸化鉄と空気中の酸素により、希土類成分、ケイ素およびアルミニウムを十分に酸化させた。その後、ホウ酸塩としてのテトラホウ酸ナトリウム(Na2B4O7)80gを投入し、炭素棒で溶湯(融体)を撹拌した。
【0069】
30分間保持後、空冷した後、切断により坩堝内から希土類富化相であるRExOy-Na2B4O7系スラグ(RE:Nd、Pr、DyおよびTb)と、Fe-C相と、Cu相とをそれぞれ取り出した。なお、ネオジム磁石(磁石1)の組成は、誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)法により決定した。本実施例における希土類元素含有物の希土類酸化物質量(磁石1に含まれるNd、Pr、DyおよびTbが、Nd2O3、Pr2O3、Dy2O3およびTb2O3に酸化したとみなした際の、Nd2O3、Pr2O3、Dy2O3およびTb2O3の質量の合計)、易酸化性金属の酸化物(SiO2およびAl2O3)のそれぞれの量およびホウ酸塩(Na2B4O7)の量を下記表5に示す。なお、希土類酸化物質量と、Al2O3と、SiO2との質量比は、上記参考例10~15および比較参考例7とほぼ同じであり、希土類酸化物質量:Al2O3:SiO2=26.3:17.6:56.1であった。
【0070】
【0071】
回収されたFe-C相の成分分析結果を下記表6に示す。Fe-C相中の残存RE(RE:Nd、Pr、DyおよびTb)量は、Fe-C相の総質量に対して、合計0.04質量%であり、Fe-C相中には希土類元素はほとんど含まれておらず、ネオジム磁石中の希土類成分はスラグ相(希土類富化相)に移行したものと考えられる。Fe-C相の組成は、ICP-AES法により決定した。
【0072】
【0073】
回収されたCu相の成分分析結果を下記表7に示す。Cu相中の残存RE(RE:Nd、Pr、DyおよびTb)量は、Cu相の総質量に対して、合計0.02質量%であり、Cu相中には希土類元素はほとんど含まれておらず、ネオジム磁石中の希土類成分はスラグ相(希土類富化相)に移行したものと考えられる。Cu相の組成は、ICP-AES法により決定した。
【0074】
【0075】
回収された希土類富化相(RExOy-Na2B4O7系スラグ)10gを6mol/l塩酸200mlで酸浸出し、ろ過によりろ液を得た。ろ液に1mol/lシュウ酸水溶液100mlを加え、アンモニア水を添加することによりpH2に調整した。pH調整液を撹拌しながら40℃で1~2時間保持することで、希土類シュウ酸塩の沈殿物を得た。ろ過により、希土類シュウ酸塩を分離し、マッフル炉にて900℃で60分間焼成することで、希土類酸化物を含有する粉末を得た。当該粉末の分析結果を下記表8に示す。粉末中の希土類酸化物の量は、粉末の総質量に対して、合計98.4質量%であった。粉末の組成は、ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光分析)法により決定した。
【0076】
【0077】
[実施例3]
日本ルツボ株式会社製黒鉛坩堝(型番:NO.8、1回の最大処理量:8kg)内に、希土類元素含有物と鋼材と銅とを含む廃棄物としてのロータ688kg、ステータ150g、融点降下剤としての加炭材48gおよび相分離を促進するための銅500gを入れ、高周波誘導炉を用いて加熱した。なお、上記ロータには、希土類元素含有物としてのネオジム磁石(磁石1)110gが挿入されており、その組成は、Nd:21.0質量%、Pr:5.0質量%、Dy:2.5質量%、Tb:0.4質量%、B:1.0質量%、Fe:70.2質量%であった。また、上記ロータおよび上記ステータは、合計でケイ素21.0g、アルミニウム7.0gおよび銅26.8gを含有していた。1400℃に昇温して溶融した後、酸化剤として酸化鉄(Fe2O3)86gを添加し、さらに大気下で炭素棒で溶湯(融体)を撹拌し、酸化鉄と空気中の酸素により、希土類成分、ケイ素およびアルミニウムを十分に酸化させた。その後、ホウ酸塩としてのテトラホウ酸ナトリウム(Na2B4O7)37.5gを投入し、炭素棒で溶湯(融体)を撹拌した。
【0078】
30分間保持後、空冷した後、切断により坩堝内から希土類富化相であるRExOy-Na2B4O7系スラグ(RE:Nd、Pr、DyおよびTb)と、Fe-C相と、Cu相とをそれぞれ取り出した。なお、ネオジム磁石(磁石1)の組成は、誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)法により決定した。本実施例における希土類元素含有物の希土類酸化物質量(磁石1に含まれるNd、Pr、DyおよびTbが、Nd2O3、Pr2O3、Dy2O3およびTb2O3に酸化したとみなした際の、Nd2O3、Pr2O3、Dy2O3およびTb2O3の質量の合計)、易酸化性金属の酸化物(SiO2およびAl2O3)のそれぞれの量およびホウ酸塩(Na2B4O7)の量を下記表9に示す。なお、希土類酸化物質量と、Al2O3と、SiO2との質量比は、上記参考例1~7および比較参考例1~6とほぼ同じであり、希土類酸化物質量:Al2O3:SiO2=38.9:13.9:47.2であった。
【0079】
【0080】
回収されたFe-C相の成分分析結果を下記表10に示す。Fe-C相中の残存RE(RE:Nd、Pr、DyおよびTb)量は、Fe-C相の総質量に対して、合計0.02質量%であり、Fe-C相中には希土類元素はほとんど含まれておらず、ネオジム磁石中の希土類成分はスラグ相(希土類富化相)に移行したものと考えられる。Fe-C相の組成は、ICP-AES法により決定した。
【0081】
【0082】
回収されたCu相の成分分析結果を下記表11に示す。Cu相中の残存RE(RE:Nd、Pr、DyおよびTb)量は、Cu相の総質量に対して、合計0.02質量%であり、Cu相中には希土類元素はほとんど含まれておらず、ネオジム磁石中の希土類成分はスラグ相(希土類富化相)に移行したものと考えられる。Cu相の組成は、ICP-AES法により決定した。
【0083】
【0084】
回収された希土類富化相(RExOy-Na2B4O7系スラグ)10gを6mol/l塩酸200mlで酸浸出し、ろ過によりろ液を得た。ろ液に1mol/lシュウ酸水溶液100mlを加え、アンモニア水を添加することによりpH2に調整した。pH調整液を撹拌しながら40℃で1~2時間保持することで、希土類シュウ酸塩の沈殿物を得た。ろ過により、希土類シュウ酸塩を分離し、マッフル炉にて900℃で60分間焼成することで、希土類酸化物を含有する粉末を得た。当該粉末の分析結果を下記表12に示す。粉末中の希土類酸化物の量は、粉末の総質量に対して、合計98.5質量%であった。粉末の組成は、ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光分析)法により決定した。
【0085】
【0086】
以上で示した参考例、比較参考例および実施例から分かるように、本形態に係る回収方法によれば、ホウ素を含有するフラックスを用いた希土類酸化物の回収方法において、フラックスの使用量が低減されうる。