(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110481
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】気液分離器及びこれを備えた空調用ヒートポンプ回路
(51)【国際特許分類】
F25B 43/00 20060101AFI20240808BHJP
F25B 43/02 20060101ALI20240808BHJP
B60H 1/32 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
F25B43/00 A
F25B43/02 A
F25B43/00 L
B60H1/32 613A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015039
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】505113632
【氏名又は名称】ヴァレオ システム テルミク
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 輝明
(72)【発明者】
【氏名】尾針 正人
(72)【発明者】
【氏名】畠山 淳
(72)【発明者】
【氏名】宮腰 竜
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211BA14
3L211BA51
3L211BA52
3L211DA28
3L211DA33
(57)【要約】
【課題】冷媒サイクルの圧縮機から吐出した吐出冷媒中の油を分離する機能と、放熱機能を奏する熱交換器を通過した後の気液混合冷媒を気相冷媒と液相冷媒とに分離する機能と、を兼ね備えた気液分離器を形成するに当たり、車両搭載性の悪化や部品点数の増加を回避する。
【解決手段】筐体101内を隔壁102によって上下に区画して、隔壁102より上方側に油分離部20を形成し、隔壁102より下方側に気液分離部30を形成する。油分離部20を、油分離室21と、この油分離室21で油が分離された気相冷媒を油分離室21から導出する導出筒22と、を有して構成し、気液分離部30を、気液分離室31と、気液混合冷媒導入路32と、液相冷媒導出路33と、を有して構成する。油分離部20で分離された油は、油分離室21から油排出部40を介して冷媒サイクル1、1Bの気液分離部30又はこれよりも下流側の部分へ排出する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒サイクル(1)の圧縮機(2)から吐出した吐出冷媒中の油を分離する機能と、放熱機能を奏することが可能な熱交換器(3,5)を通過した後の気液混合冷媒を気相冷媒と液相冷媒とに分離する機能と、を兼ね備えた気液分離器(100)であって、
筐体(101)内を隔壁(102)によって上下に区画することで、前記筐体(101)の前記隔壁(102)より上方側に油分離部(20)が形成されると共に、前記筐体(101)の前記隔壁(102)より下方側に気液分離部(30)が形成され、
前記油分離部(20)は、前記筐体(101)内の前記隔壁(102)より上方に画成された油分離室(21)と、この油分離室(21)に配されて該油分離室(21)にて油が分離された気相冷媒をこの油分離室(21)から導出する導出筒(22)と、を有して構成され、
前記気液分離部(30)は、前記筐体(101)内の前記隔壁(102)より下方に画成された気液分離室(31)と、この気液分離室(31)に前記気液混合冷媒を導入する気液混合冷媒導入路(32)と、前記気液分離室(31)で分離された液相冷媒を導出する液相冷媒導出路(33)と、を有して構成され、
前記油分離部(20)で分離された油は、前記油分離室(21)から油排出部(40)を介して前記冷媒サイクルの前記気液分離部(30)または前記気液分離部(30)よりも下流側の部分へ排出されることを特徴とする気液分離器(100)。
【請求項2】
前記油排出部(40)は、前記隔壁(102)に設けられた隔壁排出孔(41)であり、前記油分離室(21)で分離された油を前記隔壁排出孔(41)を介して前記気液分離室(31)に排出させることを特徴とする請求項1記載の気液分離器(100)。
【請求項3】
前記油排出部(40)は、前記油分離室(21)の下部から前記筐体(101)の外部へ油を排出させるものであることを特徴とする請求項1記載の気液分離器(100)。
【請求項4】
前記筐体(101)は、筒状をなし、
前記油分離部(20)は、前記筐体(101)の周壁(101a)に設けられて前記吐出冷媒を前記油分離室(21)に導入する吐出冷媒導入部(23)と、前記筐体(101)が伸びる軸方向に沿って前記筐体(101)を貫通するように配置され、前記油分離室(21)にて油が分離された気相冷媒を前記油分離室(21)から導出する前記導出筒(22)と、を設けて構成され、
前記気液分離部(30)は、気液混合冷媒を前記気液分離室(31)に導入する前記気液混合冷媒導入路(32)と、前記気液分離室(31)で分離された液相冷媒を導出する前記液相冷媒導出路(33)と、が設けられた冷媒出入口ブロック(34)を前記筐体(101)の下端開口部に固定して構成される
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の気液分離器(100)。
【請求項5】
冷媒を圧縮する圧縮機(2)、前記圧縮機(2)から吐出された冷媒が導入される請求項1乃至4のいずれかに記載の気液分離器(100)の油分離部(20)、空調装置(50)の送風空間(51)に収容されると共に前記油分離部(20)から導出された冷媒が流入する放熱用熱交換器(3)、前記放熱用熱交換器(3)から流出した冷媒が通過可能であり、冷媒流路を絞ること及び全開にすることが可能な第1の膨張弁(4)、前記第1の膨張弁(4)を通過した冷媒が流入し、外気からの吸熱又は外気への放熱を可能にする室外熱交換器(5)、前記室外熱交換器(5)から流出した冷媒を前記圧縮機(2)へ流出するか前記気液分離器(100)の気液分離部(30)へ流出する切替弁(6)、前記気液分離部(30)から導出された冷媒を減圧膨張可能とする第2の膨張弁(7)、前記空調装置(50)の送風空間(51)に収容されると共に前記第2の膨張弁(7)を通過した冷媒が流入し、前記送風空間を通過する空気から吸熱する吸熱用熱交換器(8)、を有する冷媒サイクル(1)を備えた空調用ヒートポンプ回路(A)。
【請求項6】
前記放熱用熱交換器(3)と前記第1の膨張弁(4)との間と、前記切替弁(6)と前記気液分離部(30)との間と、を接続するバイパス通路(9)と、
前記放熱用熱交換器(3)から流出した冷媒の前記第1の膨張弁(4)への流れと前記バイパス通路(9)への流れの切り替え又は流量比を調整する調整弁(10)と、
前記気液分離部(30)を導出した冷媒を減圧膨張可能とする第3の膨張弁(11)と、前記第3の膨張弁(11)を通過した冷媒が流入し、発熱体(12)から吸熱する発熱体冷却用熱交換器(13)と、
を更に有することを特徴とする請求項5記載の空調用ヒートポンプ回路(A)。
【請求項7】
前記油分離部(20)で分離された油は、前記圧縮機(2)の吸入側であって、前記室外熱交換器(5)、前記吸熱用熱交換器(8)、及び前記発熱体冷却用熱交換器(13)より下流側となる部位に排出されることを特徴とする請求項6記載の空調用ヒートポンプ回路(A)。
【請求項8】
熱媒体を循環させるポンプ(61)、前記循環する熱媒体が流入しこの熱媒体を前記冷媒サイクル(1)の前記油分離部(20)から導出された冷媒と熱交換させる冷媒熱媒体熱交換器(62)、前記空調装置(50)の送風空間(51)に収容されると共に前記循環する熱媒体が流入しこの熱媒体を放熱可能な熱媒体放熱用熱交換器(63)、を有する熱媒体サイクル(60)を備え、
前記冷媒サイクル(1)は、前記放熱用熱交換器(3)に代えて前記冷媒熱媒体熱交換器(62)が用いられることを特徴とする請求項5に記載の空調用ヒートポンプ回路(A)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される空調用ヒートポンプ回路の冷媒サイクルに用いられる気液分離器であって、油分離器能を備えた気液分離器と、この気液分離器を備えた空調用ヒートポンプ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両に搭載される空調用ヒートポンプ回路として、例えば、特許文献1(特開2020-69929号公報)及び特許文献2(特開2019-188852号公報)に示されるものが公知となっている。
【0003】
前者の空調用ヒートポンプ回路は、冷媒を圧縮する圧縮機と、空調ユニットの空気流通路内に設けられ、圧縮機から吐出された高温高圧の冷媒が流入し、この冷媒の熱を空気流通路内の空気に放熱する放熱用熱交換器と、暖房時に冷媒を減圧膨張する室外膨張弁と、冷房時に冷媒の熱を空気に放熱する放熱器として機能し、暖房時に蒸発器として機能する室外熱交換器と、冷媒を減圧膨張する室内膨張弁と、空気流通路内に設けられて冷房時及び除湿時に冷媒を蒸発させ、車室内や車室外から供給される空気から吸熱する吸熱器と、アキュムレータと、が冷媒配管により順次接続して構成されている。
【0004】
このような空調用ヒートポンプ回路においては、暖房モードに設定されると、圧縮機から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱用熱交換器に流入し、空気流通路内を通風する空気と熱交換してこの空気を加熱する。また、冷房モードに設定されると、圧縮機から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱用熱交換器に流入するが、放熱用熱交換器に殆ど空気を流さないため、ここで熱交換することなく通過して室外熱交換器に流入し、ここで外気に放熱する。
【0005】
また、後者の空調用ヒートポンプ回路は、冷媒が循環する冷媒サイクルと、熱媒体としての温水が循環する温水サイクルとを備え、冷媒サイクルは、冷媒を圧縮するコンプレッサと、冷媒と熱媒体サイクルの温水との間で熱交換を行う冷媒熱媒体熱交換器と、冷媒と外気との間で熱交換を行う室外熱交換器と、暖房運転時に、室外熱交換器から流入するガス状冷媒をコンプレッサに導き、冷房運転時に、室外熱交換器から流入する液状冷媒を膨張弁を介して空調装置の送風空間に設けられたエバポレータに導く受液器と、を備えている。また、温水サイクルは、ポンプと、空調装置の送風空間に設けられたヒータコアと、補助加熱器としての温水ヒータと、前記冷媒熱媒体熱交換器と、を備えている。
【0006】
このような空調用ヒートポンプ回路においては、暖房モードに設定されると、コンプレッサで圧縮された高温冷媒は冷媒熱媒体熱交換器へ供給され、この冷媒熱媒体熱交換器の内部で温水サイクルの温水に放熱し、その後、室外熱交換器へ供給される。冷媒熱媒体熱交換器で冷媒によって加熱された温水は、ヒータコアに供給され、送風空間のヒータコアを通過する空気を加熱する。
【0007】
また、冷房モードに設定されると、コンプレッサで圧縮された高温高圧冷媒は、冷媒熱媒体熱交換器を通って、室外熱交換器へと流れる。冷房モードでは、温水サイクル内の温水は循環していないので、冷媒は冷媒熱媒体熱交換器では殆ど熱交換が行われず、室外熱交換器へ流入されて外気に放熱する。
【0008】
このように、これらの空調用ヒートポンプ回路においては、圧縮機から吐出した冷媒は、暖房モードでは、放熱用熱交換器や冷媒熱媒体熱交換器において、空気流通路内の空気や冷媒熱媒体熱交換器を流れる温水と熱交換して放熱され、また、冷房モードでは、室外熱交換器において外気と熱交換して放熱されるが、圧縮機から吐出される冷媒中には潤滑油が混在しているので、この混在する潤滑油の量が多いと、放熱用熱交換器や冷媒熱媒体熱交換器での熱交換性能(放熱性能)や、室外熱交換器での熱交換性能(放熱性能)が低下する不都合がある。
【0009】
そこで、例えば特許文献3に示されるように、圧縮機の吐出経路上に油分離部を設け、圧縮された冷媒中に混在する潤滑油を圧縮機内で分離させて圧縮機内に保持させ、圧縮機から流出する潤滑油の量を低減させる方法が考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2020-069929号公報
【特許文献2】特開2019-188852号公報
【特許文献3】特開2009-92060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、圧縮機の吐出経路上に油分離部を設けた場合においても、一部の潤滑油は圧縮機からサイクル経路に流出して放熱用熱交換器等に流入されるので、放熱用熱交換器等の熱交換性能(放熱性能)の低下は依然として懸念される。また、圧縮機内の潤滑油は、可動部や摺動部によって加熱されるため、潤滑油を冷却するためには圧縮機外への潤滑油の流出は支障のない範囲で許容されるものであるが、このような場合においても、熱交換器の熱交換性能の低下を回避するために、熱交換器への潤滑油の流入抑制を図る手段を別途考える必要がある。さらに、油分離部を具備しない圧縮機も多数存在するため、そのような圧縮機を利用した空調用ヒートポンプ回路においても、熱交換器への潤滑油の流入を抑える手段が必要となる。
【0012】
そこで、熱交換器での熱交換性能を確保するために、熱交換器よりも上流側に油分離器を追加配備することが有効となるが、空調用ヒートポンプ回路の構成部品として油分離器を新たに追加配備しようとすると、限られた設置空間の中で油分離器の設置空間を確保しなければならないため、設置場所によっては車両搭載性の悪化が懸念され、また、部品点数の増加を招く不都合がある。
【0013】
また、昨今においては、圧縮機の周りに冷媒サイクルで必要となる構成部品を集約させてモジュール化する要請もあるため、油分離器を別個独立の機器として配備することはモジュール化を図る上でも支障を伴い易くなるため、他の機器と一体化させることが好ましい。
【0014】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、圧縮機から吐出した冷媒中の油を分離する機能を追加するにあたり、その機能を追加する箇所について鋭意検討を重ねた結果、油分離部を気液分離器に合体させることで、上述した種々の問題点を解消できることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、車両搭載性の悪化や部品点数の増加を回避でき、また、モジュール化の要請にも対応することが可能な油分離機能を有する気液分離器と、これを備えた空調用ヒートポンプ回路を提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を達成するために、本発明に係る気液分離器は、冷媒サイクル(1)の圧縮機(2)から吐出した吐出冷媒中の油を分離する機能と、放熱機能を奏することが可能な熱交換器(3,5)を通過した後の気液混合冷媒を気相冷媒と液相冷媒とに分離する機能と、を兼ね備えた気液分離器(100)であって、
筐体(101)内を隔壁(102)によって上下に区画することで、前記筐体(101)の前記隔壁(102)より上方側に油分離部(20)が形成されると共に、前記筐体(101)の前記隔壁(102)より下方側に気液分離部(30)が形成され、
前記油分離部(20)は、前記筐体(101)内の前記隔壁(102)より上方に画成された油分離室(21)と、この油分離室(21)に配されて該油分離室(21)にて油が分離された気相冷媒をこの油分離室(21)から導出する導出筒(22)と、を有して構成され、
前記気液分離部(30)は、前記筐体(101)内の前記隔壁(102)より下方に画成された気液分離室(31)と、この気液分離室(31)に前記気液混合冷媒を導入する気液混合冷媒導入路(32)と、前記気液分離室(31)で分離された液相冷媒を導出する液相冷媒導出路(33)と、を有して構成され、
前記油分離部(20)で分離された油は、前記油分離室(21)から油排出部(40)を介して前記冷媒サイクルの前記気液分離部(30)または前記気液分離部(30)よりも下流側の部分へ排出されることを特徴としている。
【0016】
したがって、筐体(101)内を隔壁(102)によって上下に区画して筐体(101)のうち隔壁(102)より上方側に油分離部(20)を形成すると共に、筐体(101)のうち隔壁(102)より下方側に気液分離部(30)を形成したので、冷媒サイクル上で必要となる気液分離器に油分離機能を合体させることが可能となり、部品点数を減らしてコストの低減を図ると共に、他の機器とのモジュール化を容易にして車両搭載性を良くすることが可能となる。
【0017】
ここで、前記油排出部(40)を、前記隔壁(102)に設けられた隔壁排出孔(41)とし、前記油分離室(21)で分離された油を前記隔壁排出孔(41)を介して前記気液分離室(31)に排出させるようにしてもよい。このような構成においては、油分離室と気液分離室が隔壁排出孔を介して連通されるので、油分離室で分離された油を油分離室の圧力を利用して気液分離室へ効果的に排出させることができ、また、構造の簡素化を図ることが可能となる。
【0018】
また、前記油排出部(40)は、前記油分離室(21)の下部から前記筐体(101)の外部へ油を排出させる構成としてもよい。このような構成によれば、油分離部で分離された油を気液分離器の外部に排出し、冷媒サイクルの気液分離部よりも下流側の任意の部分に導くことが可能となる。
【0019】
前記気液分離器(100)は、具体的には、
前記筐体(101)を筒状に形成し、
前記油分離部(20)を、前記筐体(101)の周壁(101a)に設けられて前記吐出冷媒を前記油分離室(21)に導入する吐出冷媒導入部(23)と、前記筐体(101)が伸びる軸方向に沿って前記筐体(101)を貫通するように配置され、前記油分離室(21)にて油が分離された気相冷媒を前記油分離室(21)から導出する前記導出筒(22)と、を設けて構成し、
前記気液分離部(30)を、気液混合冷媒を前記気液分離室(31)に導入する前記気液混合冷媒導入路(32)と、前記気液分離室(31)で分離された液相冷媒を導出する前記液相冷媒導出路(33)と、が設けられた冷媒出入口ブロック(34)を前記筐体(101)の下端開口部に固定して構成してもよい。
【0020】
また、油分離室(21)の下部から筐体(101)の外部へ油を排出させる油排出部40の構成としては、以下のような構成が可能である。すなわち、油排出部(40)は、前記隔壁(102)に設けられた隔壁排出孔(41)と、前記冷媒出入口ブロック(34)に設けられた油排出路(35)と、前記隔壁排出孔(41)と前記油排出路(35)とを接続する中継管路(42)と、により構成してもよい。
また、油排出部(40)は、前記隔壁(102)に設けられた隔壁排出孔(41)と、前記筐体(101)の周壁(101a)に設けられた周壁孔(44)と、前記隔壁排出孔(41)と前記周壁孔(44)とを接続する中継管路(43)と、により構成してもよい。
さらに、油排出部(40)は、前記油分離室(21)の下部に臨む前記筐体(101)の周壁(101a)に設けられた周壁排出孔(45)によって構成してもよい。
【0021】
以上の気液分離器が用いられる冷媒サイクルを備えた空調用ヒートポンプ回路としては、冷媒を圧縮する圧縮機(2)、前記圧縮機(2)から吐出された冷媒が導入される請求項1乃至4のいずれかに記載の気液分離器(100)の油分離部(20)、空調装置(50)の送風空間(51)に収容されると共に前記油分離部(20)から導出された冷媒が流入する放熱用熱交換器(3)、前記放熱用熱交換器(3)から流出した冷媒が通過可能であり、冷媒流路を絞ること及び全開にすることが可能な第1の膨張弁(4)、前記第1の膨張弁(4)を通過した冷媒が流入し、外気からの吸熱又は外気への放熱を可能にする室外熱交換器(5)、前記室外熱交換器(5)から流出した冷媒を前記圧縮機(2)へ流出するか前記気液分離器(100)の気液分離部(30)へ流出する切替弁(6)、前記気液分離部(30)から導出された冷媒を減圧膨張可能とする第2の膨張弁(7)、前記空調装置(50)の送風空間(51)に収容されると共に前記第2の膨張弁(7)を通過した冷媒が流入し、前記送風空間を通過する空気から吸熱する吸熱用熱交換器(8)、を有する冷媒サイクル(1)を備える構成としてもよい。
【0022】
このような構成においては、圧縮機(2)と放熱用熱交換器(3)との間に配置される気液分離器(100)の油分離部(20)によって圧縮機(2)から吐出された冷媒中の油が分離され、分離された油が冷媒サイクル(1)の気液分離部(30)または気液分離部(30)よりも下流側の部分へ排出されるので、放熱機能を奏することが可能な熱交換器(放熱用熱交換器(3)やこれより下流側の室外熱交換器(5))への油の流入を抑えることが可能となる。すなわち、圧縮冷媒中の油を分離させて放熱用熱交換器(3)や室外熱交換器(5)を迂回するように排出するので、放熱用熱交換器(3)や室外熱交換器(5)での熱交換性能の低下を回避することが可能となる。
【0023】
また、圧縮機(2)から吐出した冷媒は、油分離部(20)の油分離室(21)を経由して放熱用熱交換器(3)へ導かれるので、油分離室(21)をマフラー室として機能させることが可能となり、吐出冷媒の脈動を油分離室(21)で低減させ、吐出冷媒の脈動に伴う放熱用熱交換器(3)での騒音を低減することが可能となる。
【0024】
空調用ヒートポンプ回路(A)は、前記放熱用熱交換器(3)と前記第1の膨張弁(4)との間と、前記切替弁(6)と前記気液分離部(30)との間と、を接続するバイパス通路(9)と、前記放熱用熱交換器(3)から流出した冷媒の前記第1の膨張弁(4)への流れと前記バイパス通路(9)への流れの切り替え又は流量比を調整する調整弁(10)と、前記気液分離部(30)を導出した冷媒を減圧膨張可能とする第3の膨張弁(11)と、前記第3の膨張弁(11)を通過した冷媒が流入し、発熱体(12)から吸熱する発熱体冷却用熱交換器(13)と、を更に有するようにしてもよい。
【0025】
このように、バイパス通路(9)と調整弁(10)とを備えることで、暖房運転や除湿暖房運転の自由度を向上させることが可能となる。また、第3の膨張弁(11)と発熱体冷却用熱交換器(13)を備えることで、発熱体(12)から吸熱し、暖房運転のエネルギとして利用することが可能となる。
【0026】
なお、前記油分離部(20)で分離された油は、前記圧縮機(2)の吸入側であって、前記室外熱交換器(5)、前記吸熱用熱交換器(8)、及び前記発熱体冷却用熱交換器(13)より下流側となる部位に排出されるようにするとよい。このような構成においては、冷媒サイクルを構成する全ての熱交換器の下流側に油分離部20で分離された油を排出させることが可能となるので、いずれの熱交換器においても熱交換性能を損なうことがなくなる。
【0027】
以上までの構成は、放熱用熱交換器(3)によって空調装置の送風空気を直接温める空調用ヒートポンプ回路について説明したが、熱媒体を循環させるポンプ(61)と、循環する熱媒体が流入しこの熱媒体を前記冷媒サイクル(1)の前記油分離部(20)から導出された冷媒と熱交換させる冷媒熱媒体熱交換器(62)と、前記空調装置(50)の送風空間(51)に収容されると共に前記循環する熱媒体が流入しこの熱媒体を放熱可能な熱媒体放熱用熱交換器(63)と、を有する熱媒体サイクル(60)を備える場合には、前記冷媒サイクル(1)は、前記放熱用熱交換器(3)を冷媒熱媒体熱交換器(62)に置き替えて用いるようにしてもよい。このような構成においては、熱媒体サイクル(60)を介して空調装置(50)の送風空間(51)の空気を温めるものであり、このような構成においても、冷媒熱媒体熱交換器(62)への油の流入の効果的に抑えることが可能となり、冷媒熱媒体熱交換器(62)での熱交換性能の低下を回避することが可能となる。
【発明の効果】
【0028】
以上述べたように、本発明に係る気液分離器によれば、圧縮機から吐出した吐出冷媒中の油を分離する油分離部を気液分離器に合体させたので、冷媒サイクルに油分離機能を追加配備するに当たって、車両搭載性の悪化や部品点数の増加を回避でき、また、モジュール化の要請にも対応することが可能となる。
また、本発明に係る空調用ヒートポンプ回路によれば、圧縮機と放熱用熱交換器との間に配置される気液分離器の油分離部で圧縮機から吐出された冷媒中の油が分離され、分離された油が冷媒サイクルの気液分離部または気液分離部よりも下流側の部分へ排出されるので、放熱機能を奏することが可能な放熱用熱交換器や室外熱交換器への油の流入を抑えることが可能となり、これらの熱交換器での熱交換性能の低下を回避することが可能となる。特に、分離された油を冷媒サイクルを構成する全ての熱交換器の下流側に排出させるようにすれば、いずれの熱交換器においても熱交換性能を損なうことがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、本発明に係る気液分離器を備えた空調用ヒートポンプ回路の第1の実施形態を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る気液分離器の第1の実施形態を示す断面図である。
【
図3】
図3は、気液分離器の他の実施形態を示す図であり、(a)は、気液分離器の第2の実施形態を示す図であり、(b)は、気液分離器の第3の実施形態を示す図であり、(c)は、気液分離器の第4の実施形態を示す図である。
【
図4】
図4は、
図1で示す空調用ヒートポンプ回路による運転モード毎の状態を示す図であり、(a)は暖房モード(暖房モード1)の状態を示す図、(b)は冷房モードの状態を示す図である。
【
図5】
図5は、
図1で示す空調用ヒートポンプ回路による他の暖房モード(暖房モード2)の状態を示す図である。
【
図6】
図6(a)は、暖房モード1でバッテリ冷却をも実行する状態を示す図であり、
図6(b)は、冷房モードでバッテリ冷却をも実行する状態を示す図である。
【
図7】
図7は、
図1で示す空調用ヒートポンプ回路による除湿モードの状態を示す図であり、(a)は、除湿暖房モードの状態を示す図であり、(b)は、除湿冷房モードの状態を示す図である。
【
図8】
図8は、
図1で示す空調用ヒートポンプ回路による他の暖房モード(暖房モード3)の状態を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明に係る気液分離器を備えた空調用ヒートポンプ回路の第2の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る気液分離器及びこれを用いた空調用ヒートポンプ回路の実施形態を図面に基づき説明する。
<空調用ヒートポンプ回路の第1の実施形態>
図1において、車両に搭載される空調用ヒートポンプ回路Aの第1の実施形態が示されている。この空調用ヒートポンプ回路Aは、冷媒サイクル1によって構成されているもので、内部を冷媒が循環し、この冷媒を圧縮する圧縮機2と、圧縮機2から吐出された冷媒が導入される気液分離器100に設けられた油分離部20と、空調装置50の送風空間51に収容されて油分離部20から導出された冷媒が流入する放熱用熱交換器3と、放熱用熱交換器3から流出した冷媒が通過可能であり、冷媒流路を絞ること及び全開にすることが可能な第1の膨張弁4と、第1の膨張弁4を通過した冷媒が流入し、外気からの吸熱又は外気への放熱を可能にする室外熱交換器5と、室外熱交換器5から流出した冷媒を前記圧縮機2へ流出させるか気液分離器100に設けられた気液分離部30へ流出させる切替弁6と、気液分離部30から導出された冷媒を減圧膨張可能とする第2の膨張弁7と、空調装置50の送風空間51に収容されると共に第2の膨張弁7を通過した冷媒が流入し、送風空間51を通過する空気から吸熱する吸熱用熱交換器8と、を有している。それぞれの膨張弁(第1の膨張弁4,第2の膨張弁7,第3の膨張弁11)は外部からの制御で開度や開閉状態が調節される電子弁で用いられている。なお、放熱用熱交換器3は、室内放熱器とか、インナーコンデンサとも呼ばれる。また、吸熱用熱交換器8は、エバポレータとも呼ばれる。
【0031】
また、空調用ヒートポンプ回路Aは、放熱用熱交換器3と第1の膨張弁4との間と、切替弁6と気液分離部30との間と、を接続するバイパス通路9と、放熱用熱交換器3から流出した冷媒の第1の膨張弁4への流れとバイパス通路9への流れを切り替える、又は、第1の膨張弁4への流れとバイパス通路9への流れの流量比を調整する調整弁10と、前記気液分離部30を導出した冷媒を減圧膨張可能とする第3の膨張弁11と、この第3の膨張弁11を通過した冷媒が流入し、発熱体(例えば、バッテリやインバータ等)12から吸熱する発熱体冷却用熱交換器13と、を更に有している。
【0032】
冷媒は、機能を発揮する成分であれば特に限定しないが、例えばフロン系の媒体(HFC-134a、R-1234yf)や二酸化炭素(CO2)が用いられる。
【0033】
圧縮機2は内部に冷媒の圧縮機構を有し、圧縮機構が回転されることで冷媒を吸引するとともに高温高圧の状態に圧縮し、吐出する機能を有する。本発明に用いられる圧縮機2の種類は、機能を発揮するものであれば特に限定しないが、例えば電動モータで駆動される電動圧縮機が用いられる。
【0034】
なお、空調用ヒートポンプ回路Aは、切替弁6を有するとして説明したが、冷媒の流路を切り替える機能を有するものであれば特に限定はなく、三方弁や、複数の開閉弁によって構成されていてもよい。
【0035】
<気液分離器の第1の実施形態>
気液分離器100は、
図2に示されるように、油分離部20と気液分離部30とを一体化したもので、筒状の筐体101内を隔壁102によって上下に区画することで、筐体101のうち隔壁102より上方側に油分離部20が形成され、筐体101のうち隔壁102より下方側に気液分離部30が形成されている。
【0036】
油分離部20は、筐体101内の隔壁102より上方に画成された油分離室21と、この油分離室21に配されて該油分離室21にて油が分離された気相冷媒を油分離室21から導出する導出筒22と、を有して構成されている。導出筒22は、筐体101が伸びる軸方向に沿って筐体101の上端部を貫通するように配置され、筐体101の周壁101aには、圧縮機2から吐出した吐出冷媒を油分離室21に導入する吐出冷媒導入部23が形成されている。導出筒22の取り付け位置や吐出冷媒導入部23の形成位置は、吐出冷媒導入部23から導入された冷媒が導出筒22の周囲を旋回するように設定され、旋回する過程で油が分離された気相冷媒を導出筒22を介して気液分離器100の上端から導出させ、図示しない冷媒配管を介して放熱用熱交換器3へ導くようにしている。
【0037】
気液分離部30は、筐体101内の隔壁102より下方に画成された気液分離室31と、この気液分離室31に、気液混合冷媒を導入する気液混合冷媒導入路32と、気液分離室31で分離された液相冷媒を導出する液相冷媒導出路33と、を接続して構成されている。具体的には、アルミ合金等によって構成された冷媒出入口ブロック34に、気液混合冷媒を気液分離室31に導入する気液混合冷媒導入路32と、気液分離室31で分離された液相冷媒を導出する液相冷媒導出路33と、を削り出し等によって一体に形成し、この冷媒出入口ブロック34を筐体101の下端開口部に羅合させる等により固定させている。
【0038】
隔壁102は、例えばアルミ板を筐体内部の空間の断面形状に合わせた形状とし、筐体101の周壁101aの内面に全周に亘って当接させ、その部分をろう付け等により固定させている。この例では、隔壁102の略中央に隔壁排出孔41が形成され、この隔壁排出孔41に向かって隔壁102が下方へ傾斜するテーパ状に形成されている。
【0039】
したがって、油分離室21で分離された油は、隔壁102の上面に流れ落ちた後に、隔壁排出孔41に向かって流れて集められ、この隔壁排出孔41を介して気液分離室31に滴下し、気液分離室31に溜まっている液冷媒中に溶け込み、液冷媒と一緒に気液分離器100から排出されて、膨張弁(第2の膨張弁7,第3の膨張弁11)へ導かれる。
【0040】
このように、冷媒サイクル1で必要となる油分離部20を圧縮機2以外の冷媒サイクル上に設けるに当たり、高圧ライン(圧縮機2の吐出口からそれぞれの膨張弁までの間)上の気液分離器(レシーバタンク)100に合体させるようにしたので、油分離部20を冷媒サイクル1上に単独で設ける必要がなく、部品点数を減らしてコストの低減を図ると共に、他の機器とのモジュール化を容易にして車両搭載性を良くすることが可能となる。
【0041】
また、上述の気液分離器100は、油分離室21が気液分離室31の上方に配置され、また、油分離室21と気液分離室31は、いずれも高圧ライン上に設けられるものの、油分離室21は、気液分離室31よりも上流側の冷媒が導入されるので、油分離室21の圧力は、気液分離室31の圧力よりも相対的に高くなっている。このため、油分離室21と気液分離室31が隔壁102に形成された隔壁排出孔41を介して連通されているので、油分離室21の下部に溜められる油は、重力と油分離室21と気液分離室31の圧力差とが相俟って、気液分離室31へ効果的に排出させることが可能となる。
【0042】
このように、筐体101の上部に設けられた油分離部20によって分離された油は、隔壁102に設けられ隔壁排出孔41を介して筐体101の下部に設けられた気液分離部30に排出されるので、気液分離器100の構造の簡素化を図ることが可能となる。また、気液分離器100(油分離部20,気液分離部30)は、後述する運転モードでも説明するように、膨張弁で減圧膨張させる前の冷媒(高圧ラインの冷媒)を処理するので(換言すれば、気液分離器100は高圧ラインに配置されるので)、冷媒を膨張弁で減圧膨張させた後の低圧ライン上で気液分離を行うアキュムレータに油分離部を設ける場合に比べて気液分離器100の小型化を図り易くなる。
【0043】
図3に気液分離器100の他の実施形態が示されている。
図2で示す気液分離器100は、分離された油を気液分離室31に戻すものであったが、
図3に示される気液分離器100の各例は、分離された油を油排出部40を介して気液分離器100の外部へ流出させる構成となっている。気液分離器100の外部に流出された油は、サイクル上で気液分離室31よりも下流側の任意の位置に戻されることが可能である。
【0044】
<気液分離器の第2の実施形態>
分離された油を油排出部40を介して気液分離器100の外部へ流出させる構成として、
図3(a)で示される気液分離器100は、
図2に示される気液分離器100に対して、冷媒出入口ブロック34に油排出路35をさらに形成し、油排出部40を、隔壁102に設けられた隔壁排出孔41と、冷媒出入口ブロック34に設けられた油排出路35と、隔壁排出孔41と油排出路35とを接続する中継管路42とによって構成している。中継管路42は、例えば、アルミ等の金属管で構成され、隔壁102の隔壁排出孔41の周囲と冷媒出入口ブロック34の油排出路35の流入開口端とにろう付け等により接続されている。
【0045】
<気液分離器の第3の実施形態>
また、
図3(b)で示される例では、
図2に示される気液分離器100に対して、筐体101の周壁101aに周壁孔44を設け、油排出部40を、隔壁102に設けられた隔壁排出孔41と、筐体101の周壁101aに設けられた周壁孔44と、隔壁排出孔41と周壁孔44とを接続する中継管路43とによって構成している。中継管路43はアルミ等の金属管で構成され、隔壁102の隔壁排出孔41の周囲と周壁101aの内面のうち周壁孔44の周囲とにそれぞれ、ろう付け等によって接続される。
【0046】
<気液分離器の第4の実施形態>
図3(c)で示される例では、
図2に示される気液分離器100に対して、隔壁102に排出孔を設けず、油排出部40を、油分離室21の下部に臨む筐体101の周壁101aに周壁排出孔45を設けて構成する。この周壁排出孔45には、配管を接続可能なアダプタ46を固定しておくとよい。また、この例においては、隔壁102は周壁101aの周壁排出孔45が形成された箇所に向かって下方へ傾斜させるようにするとよい。
【0047】
そして、油排出部40から排出された油は、油分離部20より下流側の任意の箇所へ排出することが可能であるが、好ましくは、いずれかの熱交換器の下流側、より好ましくは、圧縮機2の吸入側であって、冷媒サイクル1の放熱用熱交換器3よりも下流側に配置される全ての熱交換器(室外熱交換器5、吸熱用熱交換器8、及び発熱体冷却用熱交換器(13)より下流側となる部位に排出させることが好ましい(後述する各運転モードを示す図中において、気液分離器100から延びる破線の矢印は、全ての熱交換器より下流側となる部位へ油を戻す場合を示している)。
【0048】
したがって、気液分離器100の油分離部20で分離された油を冷媒サイクル中の放熱用熱交換器3よりも下流側に配置された熱交換器(室外熱交換器5、吸熱用熱交換器8、及び発熱体冷却用熱交換器13)より下流側の部位に排出させる場合には、いずれの熱交換器に対しても油の流入を抑えて熱交換性能の低下を回避することが可能となる。
【0049】
以上のような気液分離器100を備えた冷媒サイクル1について、次に運転モード毎に冷媒の流れと作用を説明する。
<暖房モード1>
先ず、室外熱交換器5を介して外気から吸熱する暖房モード1に設定された場合には、調整弁10について、放熱用熱交換器3から流出した冷媒を第1の膨張弁4へ導くように設定し、切替弁6について、室外熱交換器5から流出した冷媒を圧縮機2へ流出するように設定し、第1の膨張弁4を絞った状態とし、送風空間51の放熱用熱交換器3より上流側に設けられたエアミックスドア52をフルホット位置に設定する。
【0050】
すると、
図4(a)に示されるように、圧縮機2から吐出した冷媒は、気液分離器100の油分離部20に導入され、ここで冷媒中の油が分離され、油が分離された冷媒が放熱用熱交換器3へ流入される。この暖房モード1においては、エアミックスドア52がフルホット位置に設定されているので、放熱用熱交換器3に流入された冷媒は、送風空間51を流れる空気に放熱し、その後、第1の膨張弁4によって減圧膨張された後に室外熱交換器5によって外気から吸熱し、しかる後に圧縮機2へ戻される。
【0051】
したがって、放熱用熱交換器3へ流入される冷媒は、油分離部20で油が分離されているので、冷媒中の油に起因する熱交換性能(放熱性能)の低下を抑えることが可能となり、空気を効率よく加熱することが可能となる。また、圧縮機2から吐出した冷媒を、放熱用熱交換器3へ導く前に油分離室21を経由させることができるので、油分離室21をマフラー室として機能させることができ、吐出冷媒の脈動を油分離室21で低減させ、吐出冷媒の脈動に伴う放熱用熱交換器3での騒音を低減することが可能となる。
【0052】
<冷房モード>
冷媒サイクル1が冷房モードに設定された場合には、調整弁10について、放熱用熱交換器3から流出した冷媒を第1の膨張弁4へ導くように設定し、切替弁6について、室外熱交換器5から流出した冷媒を気液分離器100の気液分離部30へ流出するように設定し、第1の膨張弁4を全開状態とし、エアミックスドア52をフルクール位置に設定する。
【0053】
すると、
図4(b)に示されるように、圧縮機2から吐出した冷媒は、気液分離器100の油分離部20に導入され、ここで冷媒中の油が分離され、油が分離された冷媒が放熱用熱交換器3へ流入される。冷房モードにおいては、エアミックスドア52はフルクール位置に設定されているので、放熱用熱交換器3で送風空間51を流れる空気と熱交換することはなく、第1の膨張弁4へ至る。この第1の膨張弁4は、全開状態に設定されているので、冷媒はここで減圧膨張されることなく室外熱交換器5に流入し、ここで外気に対して放熱する。
【0054】
その後、気液分離器100の気液分離部30に流入して気相冷媒が分離され、液相冷媒が第2の膨張弁7に至り、ここで減圧膨張されて吸熱用熱交換器(エバポレータ)8に流入し、ここを通過する空気を冷却して吸熱し、しかる後の圧縮機2へ戻される。したがって、室外熱交換器5へ流入する冷媒は、気液分離器100の油分離部20で油が分離された後の冷媒であるので、室外熱交換器5での熱交換性能(放熱性能)の低下を回避することが可能となる。特に、気液分離器100として、
図3で示す気液分離器100が用いられる場合には、分離された油を吸熱用熱交換器(エバポレータ)8より下流側に排出させることが可能となるので、吸熱用熱交換器(エバポレータ)8での熱交換性能(吸熱性能)の低下も回避することが可能となる。
【0055】
<暖房モード2>
次に、発熱体冷却用熱交換器13を介して発熱体(例えば、バッテリやインバータ等)12から吸熱する暖房モード2に設定された場合には、調整弁10について、放熱用熱交換器3から流出した冷媒をバイパス通路9へ導くように設定し、第2の膨張弁7を閉とし、第3の膨張弁11を絞り状態とし、エアミックスドア52をフルホット位置に設定する。
【0056】
すると、
図5に示されるように、圧縮機2から吐出した冷媒は、気液分離器100の油分離部20に導入され、ここで冷媒中の油が分離され、油が分離された冷媒が放熱用熱交換器3に流入される。エアミックスドア52はフルホット位置に設定されているので、放熱用熱交換器3に流入された冷媒は、送風空間51を流れる空気に放熱し、その後、バイパス通路9を介して気液分離部30に送られる。そして、この気液分離部30によって気相冷媒が分離された後に、第3の膨張弁11へ流入し、ここで減圧膨張された後に発熱体冷却用熱交換器13によって発熱体12から吸熱し、しかる後に圧縮機2へ戻される。
【0057】
したがって、放熱用熱交換器3へ流入される冷媒は、油分離部20で油が分離されているので、放熱用熱交換器3での熱交換性能(放熱性能)の低下を抑えることが可能となり、空気を効率よく加熱することが可能となる。また、吐出冷媒の脈動を油分離室21で低減させ、吐出冷媒の脈動に伴う放熱用熱交換器3で生じる騒音を低減することが可能となる。また、気液分離器100として、
図3で示す気液分離器100が用いられる場合には、分離された油を発熱体冷却用熱交換器13よりも下流側に排出させることが可能となるので、発熱体冷却用熱交換器13での熱交換性能(吸熱性能)の低下を回避し、発熱体12からの吸熱も効率よく行うことが可能となる。
【0058】
<暖房モード1+バッテリ冷却>
なお、
図5に示す発熱体12から吸熱する暖房モード2においては、冷媒を室外熱交換器5を迂回させ、バイパス通路9を流して発熱体12を冷却するサイクルを形成する場合を示したが、発熱体12の冷却を実行する直前で暖房モード1が実行されている場合には、冷媒をバイパス通路9を経由させる
図5で示す暖房モード2に切り替えるのではなく、
図6(a)に示されるように、冷媒を室外熱交換器5を通過させる状態を維持したまま、発熱体冷却用熱交換器13へ冷媒を供給するとよい。
これは、暖房モード1や冷房モードでは、第1の膨張弁4を介して室外熱交換器5へ冷媒を流通させているので、それより上流側で冷媒の流れを変更すると冷媒の流れを大きく変更させなければならず、モードの切り替えに時間を要するが、室外熱交換器5よりも下流側で冷媒の流れを変更する場合には、冷媒の流れに無駄が少なく、モードの切替が速やかに行えることによるものである。
【0059】
このため、発熱体12の冷却を実行する直前が暖房モード1である場合には、
図6(a)に示されるように、暖房モード1の状態から、第1の膨張弁4を全開、第2の膨張弁7を閉、第3の膨張弁11を絞り状態とし、切替弁6について、室外熱交換器5から流出した冷媒を気液分離器100の気液分離部30へ流出するように切り替えることで、室外熱交換器5および気液分離部30を介して冷媒を発熱体冷却用熱交換器13へ導く。
<冷房モード+バッテリ冷却>
また、
図4(b)に示される冷房モードのときに発熱体12の冷却をも実行するモードへ移行する場合には、
図6(b)に示されるように、冷房モードの状態において、さらに第3の膨張弁11を絞り状態として発熱体冷却用熱交換器13にも冷媒を流すとよい。
【0060】
<除湿モード>
次に、除湿モードに設定する場合においては、暖房モード1に対して、
図7(a)に示されるように、バイパス通路9へも冷媒を流し、この冷媒を第2の膨張弁7によって適宜減圧膨張させた後に吸熱用熱交換器8に流入させる。これにより、送風空間51の空気を吸熱用熱交換器8によって除湿させることが可能となり、除湿暖房モードを形成することができる。この場合においても、気液分離器100として、
図3で示す気液分離器100が用いられる場合には、分離された油を吸熱用熱交換器8よりも下流側に排出させることが可能となるので、吸熱用熱交換器8での除湿性能の低下を回避することが可能となる。また、冷房モードに対して、
図7(b)に示されるように、エアミックスドア52の位置を中間位置に設定することで、除湿冷媒モードを形成することが可能となる。
【0061】
<暖房モード3>
なお、上述したサイクル構成においては、
図4(a)に示す外気からの吸熱による暖房モード1と、
図5に示すバッテリからの吸熱による暖房モード2とを兼ね備えるために、
図8に示されるように、調整弁10によって、放熱用熱交換器3から流出した冷媒を第1の膨張弁4へ導く割合と、バイパス通路9へ導く割合とを適宜調整し、第2の膨張弁7を閉とし、第3の膨張弁11を絞り状態とし、エアミックスドア52をフルホット位置に設定してもよい。この場合においても、気液分離器100として、
図3で示す気液分離器100が用いられる場合には、分離された油を室外熱交換器5や発熱体冷却用熱交換器13よりも下流側に排出させることが可能となるので、室外熱交換器5や発熱体冷却用熱交換器13での吸熱性能の低下を回避することが可能となる。
【0062】
<空調用ヒートポンプ回路の第2の実施形態>
図9において、本発明に係る気液分離器100を備えた空調用ヒートポンプ回路Aの第2の実施形態が示されている。この空調用ヒートポンプ回路Aにおいては、冷媒サイクル1と熱媒体サイクル60とによって構成されている。
【0063】
熱媒体サイクル60は、熱媒体を循環させるポンプ61、循環する熱媒体が流入しこの熱媒体を冷媒サイクル1の油分離部20から導出された冷媒と熱交換させる冷媒熱媒体熱交換器62、前記空調装置50の送風空間51に収容されると共に、循環する熱媒体が流入しこの熱媒体を放熱させる熱媒体放熱用熱交換器63、を備えている。
【0064】
冷媒熱媒体熱交換器62は、冷媒サイクル1の冷媒が流通する冷媒通路部62aと、熱媒体サイクル60の熱媒体が流通する熱媒体通路部62bと、を備え、冷媒通路部62aを流れる冷媒と熱媒体通路部62bを流れる熱媒体との間で熱を伝達させるもので、水コンデンサと呼ばれることがある。
【0065】
冷媒サイクル1Bは、
図1に示す冷媒サイクル1において、前記放熱用熱交換器3に代えて冷媒熱媒体熱交換器62を用いるようにしたものである。なお、冷媒サイクル1Bの他の構成は、
図1に示す構成と同様であるので、同一箇所に同一符号を付して説明を省略する。
【0066】
すなわち、この例では、圧縮機2から吐出された冷媒によって送風空間51の空気を直接加熱するのではなく、圧縮機2から吐出された冷媒によって冷媒熱媒体熱交換器62を介して熱媒体サイクル60の熱媒体を加熱し、この熱媒体によって送風空間51の空気を間接的に加熱するようにしている。冷媒サイクル1では、圧縮機2から吐出された冷媒によって送風空間51の空気を直接的に加熱するので、ダイレクト式ヒートポンプと呼ばれることがある。一方、この冷媒サイクル1Bでは、送風空間51の空気を間接的に加熱するので、インダイレクト式ヒートポンプと呼ばれることがある。
【0067】
このような冷媒サイクルにおいても、圧縮機2から冷媒熱媒体熱交換器62へ供給される冷媒は気液分離器100の油分離部20によって油が除去されているので、冷媒熱媒体熱交換器62での冷媒と熱媒体との熱交換性能の低下を回避することが可能となる。
【0068】
なお、この実施形態においても、
図2乃至
図3で示す気液分離器100を適宜選択して用いることが可能である。
【符号の説明】
【0069】
A 空調用ヒートポンプ回路
1 冷媒サイクル
1B 冷媒サイクル
3 放熱用熱交換器
20 油分離部
21 油分離室
22 導出筒
30 気液分離部
31 気液分離室
32 気液混合冷媒導入路
33 液相冷媒導出路
34 冷媒出入口ブロック
40 油排出部
41 隔壁排出孔
45 周壁排出孔
60 熱媒体サイクル
61 ポンプ
62 冷媒熱媒体熱交換器
63 熱媒体放熱用熱交換器
100 気液分離器
101 筐体
101a 周壁
102 隔壁