(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110486
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】水電解システム
(51)【国際特許分類】
C25B 15/023 20210101AFI20240808BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240808BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240808BHJP
【FI】
C25B15/023
C25B1/04
C25B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015057
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100195659
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 祐介
(72)【発明者】
【氏名】村田 元
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC09
4K021CA11
4K021CA13
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC03
(57)【要約】
【課題】熱線型半導体式の濃度測定部を用いて、酸素極から排出される排出ガス中の水素濃度を精度良く取得することができる水電解システムを提供する。
【解決手段】水電解システムは、水の電気分解により酸素を生成する酸素極を含む水電解部と、酸素極から排出される排出ガスと、希釈ガスと、を混合可能な混合部と、混合部から送られる対象ガス中の水素濃度を測定する熱線型半導体式の濃度測定部と、濃度測定部が測定した水素濃度である測定水素濃度を、対象ガス中の酸素濃度を基準に補正して補正水素濃度とする濃度補正部と、補正水素濃度を用いて排出ガス中の水素濃度を算出する濃度算出部と、を備え、濃度補正部は、対象ガス中の酸素濃度が設定濃度以上である場合、測定水素濃度を増加補正して補正水素濃度とし、対象ガス中の酸素濃度が設定濃度より低い場合、測定水素濃度を減少補正して補正水素濃度とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水電解システムであって、
水の電気分解により酸素を生成する酸素極を含む水電解部と、
前記酸素極から排出される排出ガスと、希釈ガスと、を混合可能な混合部と、
前記混合部から送られる対象ガス中の水素濃度を測定する熱線型半導体式の濃度測定部と、
前記濃度測定部が測定した水素濃度である測定水素濃度を、前記対象ガス中の酸素濃度を基準に補正して補正水素濃度とする濃度補正部と、
前記補正水素濃度を用いて前記排出ガス中の水素濃度を算出する濃度算出部と、を備え、
前記濃度補正部は、
前記対象ガス中の酸素濃度が設定濃度以上である場合、前記測定水素濃度を増加補正して前記補正水素濃度とし、
前記対象ガス中の酸素濃度が前記設定濃度より低い場合、前記測定水素濃度を減少補正して前記補正水素濃度とする、水電解システム。
【請求項2】
請求項1に記載の水電解システムであって、
前記対象ガスは、前記排出ガスと前記希釈ガスとの混合ガスである、水電解システム。
【請求項3】
請求項2に記載の水電解システムであって、さらに、
前記水電解システムの異常の有無を判定する判定部を備え、
前記判定部は、前記濃度算出部によって算出された前記排出ガス中の水素濃度が閾値濃度以上である場合、前記水電解システムに異常がある旨の出力を行う、水電解システム。
【請求項4】
請求項1に記載の水電解システムであって、さらに、
前記混合部への前記排出ガスの供給の実行と停止とを切替可能な供給切替部を備え、
前記希釈ガスは、前記水電解システムが設置された室内の空気であり、
前記混合部への前記排出ガスの供給が実行されている際、前記対象ガスは、前記排出ガスと前記希釈ガスとの混合ガスであり、
前記混合部への前記排出ガスの供給が停止されている際、前記対象ガスは、前記空気である、水電解システム。
【請求項5】
請求項4に記載の水電解システムであって、さらに、
前記水電解システムの異常の有無を判定する判定部を備え、
前記混合部への前記排出ガスの供給が実行されている際、前記判定部は、前記濃度算出部によって算出された前記排出ガス中の水素濃度が第1閾値濃度以上である場合、前記水電解システムに異常がある旨の出力を行い、
前記混合部への前記排出ガスの供給が停止されている際、前記判定部は、前記補正水素濃度が第2閾値濃度以上である場合、前記水電解システムに異常がある旨の出力を行う、水電解システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水電解システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、水の電気分解(電解)により酸素を生成する酸素極と水素を生成する水素極とを含む水電解システムが知られている。水電解システムにおいて生成された水素のうち一部は微量ではあるものの電解質膜を透過して酸素極に透過することがある。酸素極へと透過したのち酸素極から排出される排出ガス中に含まれる水素は、通常時であればほとんど検知されず検知されても非常に低濃度であるが、水電解システムにおいて異常が生じた場合の指標として水素濃度は精度良く取得されるべきである。特許文献1に開示されたガス生成システムは、酸素極から排出される排出ガス中の水素濃度を検出する接触燃焼式ガスセンサを備えた水電解システムである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
接触燃焼式ガスセンサでは、センサの測定対象となる対象ガスの燃焼およびその燃焼を促進する触媒の加熱が繰り返し行われることから、シンタリング等による劣化が生じやすい。また、接触燃焼式ガスセンサは、低濃度での分解能が高くない傾向にある。そのため、酸素極から排出される排出ガスを対象ガスとし、その対象ガスに微量に含まれ得る水素を検知対象とする場合には不適であった。一方、熱線型半導体式のセンサでは、耐久性が高く低濃度での分解能も高い反面、その測定値は排出ガス中に含まれる酸素の影響を受ける。このため、熱線型半導体式のセンサを用いても、酸素極から排出される排出ガス中の水素濃度を精度良く取得しにくいという課題があった。
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、熱線型半導体式の濃度測定部を用いて、酸素極から排出される排出ガス中の水素濃度を精度良く取得することができる水電解システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、水電解システムが提供される。この水電解システムは、水の電気分解により酸素を生成する酸素極を含む水電解部と、前記酸素極から排出される排出ガスと、希釈ガスと、を混合可能な混合部と、前記混合部から送られる対象ガス中の水素濃度を測定する熱線型半導体式の濃度測定部と、前記濃度測定部が測定した水素濃度である測定水素濃度を、前記対象ガス中の酸素濃度を基準に補正して補正水素濃度とする濃度補正部と、前記補正水素濃度を用いて前記排出ガス中の水素濃度を算出する濃度算出部と、を備え、前記濃度補正部は、前記対象ガス中の酸素濃度が設定濃度以上である場合、前記測定水素濃度を増加補正して前記補正水素濃度とし、前記対象ガス中の酸素濃度が前記設定濃度より低い場合、前記測定水素濃度を減少補正して前記補正水素濃度とする。
【0008】
熱線型半導体式の濃度測定部は、低濃度での分解能が高いことから、水素がほとんど検知されず検知されても非常に低濃度である対象ガス中の水素濃度の測定に用いるには好適である。また、熱線型半導体式の濃度測定部による測定の際には、濃度測定部表面へのガス吸着を利用して測定を行うため、加熱を原因としたシンタリング等による劣化は起きない。その一方で、濃度測定部が測定した水素濃度である測定水素濃度は、対象ガスに含まれる酸素の影響を受ける。具体的には、酸素濃度が大気組成よりも高い対象ガスを測定した場合には、酸素濃度が大気組成と同じである対象ガスを測定した場合と比べて、測定水素濃度は低くなる傾向にある。一方、酸素濃度が大気組成よりも低い対象ガスを測定した場合には、酸素濃度が大気組成と同じである対象ガスを測定した場合と比べて、測定水素濃度は高くなる傾向にある。このような傾向を考慮して、この構成によれば、測定水素濃度を対象ガス中の酸素濃度を基準に補正した補正水素濃度とすることから、どのような酸素濃度の対象ガスであったとしても、その対象ガスで測定された測定水素濃度の値を、酸素濃度が大気組成と同じであった場合に測定される値に近付けることができる。そして、酸素極から排出される排出ガスと希釈ガスとの混合ガスが対象ガスである場合には、そのような酸素の影響を軽減した補正水素濃度を用いて、酸素極から排出される排出ガス中の水素濃度を算出することから、熱線型半導体式の濃度測定部を用いて、酸素極から排出される排出ガス中の水素濃度を精度良く取得することができる。
【0009】
(2)上記形態の水電解システムにおいて、前記対象ガスは、前記排出ガスと前記希釈ガスとの混合ガスであってもよい。
排出ガスに含まれる水は、濃度測定部表面へのガス吸着を阻害する虞がある。その点、この構成によれば、濃度測定部が測定する対象ガスは排出ガスと希釈ガスとの混合ガスであるため、排出ガスと比べて湿度が低下した対象ガスを濃度測定部が測定することから、水によるガス吸着の阻害を生じにくくすることができる。また、排出ガスが水素を含む場合、その排出ガスが希釈ガスで希釈されて対象ガスが生成されるため、希釈前の排出ガスと比べて水素濃度が低下した対象ガスを低濃度での分解能が高い濃度測定部が測定することから、測定水素濃度を精度良く検出することができる。そして、そのような測定水素精度を補正した補正水素濃度を用いて排出ガス中の水素濃度を算出することから、熱線型半導体式の濃度測定部を用いて、排出ガス中の水素濃度を一層精度良く取得することができる。
【0010】
(3)上記形態の水電解システムにおいて、さらに、前記水電解システムの異常の有無を判定する判定部を備え、前記判定部は、前記濃度算出部によって算出された前記排出ガス中の水素濃度が閾値濃度以上である場合、前記水電解システムに異常がある旨の出力を行ってもよい。
この構成によれば、濃度算出部によって算出された排出ガス中の水素濃度が閾値濃度以上である場合、水電解システムに異常がある旨の出力が行われることから、水電解システムの異常に対して対応することができる。
【0011】
(4)上記形態の水電解システムにおいて、さらに、前記混合部への前記排出ガスの供給の実行と停止とを切替可能な供給切替部を備え、前記希釈ガスは、前記水電解システムが設置された室内の空気であり、前記混合部への前記排出ガスの供給が実行されている際、前記対象ガスは、前記排出ガスと前記希釈ガスとの混合ガスであり、前記混合部への前記排出ガスの供給が停止されている際、前記対象ガスは、前記空気であってもよい。
この構成によれば、混合部への排出ガスの供給が実行されている際には、排出ガスと希釈ガスとの混合ガスを対象ガスとして、濃度測定部に測定させることができる。この場合、濃度測定部が測定した水素濃度から、排出ガス中の水素濃度を算出することができる。
一方、混合部への排出ガスの供給が停止されている際には、水電解システムが設置された室内の空気を対象ガスとして、濃度測定部に測定させることができるため、水電解システムが設置された室内の空気中の水素濃度を測定する装置を水電解システムとは別個に設置することなく、同室内の空気中の水素濃度も測定することができる。
【0012】
(5)上記形態の水電解システムにおいて、さらに、前記水電解システムの異常の有無を判定する判定部を備え、前記混合部への前記排出ガスの供給が実行されている際、前記判定部は、前記濃度算出部によって算出された前記排出ガス中の水素濃度が第1閾値濃度以上である場合、前記水電解システムに異常がある旨の出力を行い、前記混合部への前記排出ガスの供給が停止されている際、前記判定部は、前記補正水素濃度が第2閾値濃度以上である場合、前記水電解システムに異常がある旨の出力を行ってもよい。
この構成によれば、濃度算出部によって算出された排出ガス中の水素濃度が第1閾値濃度以上である場合、もしくは、補正水素濃度が第2閾値濃度以上である場合、のいずれかの場合に、水電解システムに異常がある旨の出力を行われることから、水電解システムの異常に対して対応することができる。
【0013】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、水電解システムの制御方法、水電解システムにおける水の電気分解を制御するコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、そのコンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態の水電解システムの構成を示した説明図である。
【
図2】水電解部を構成する水電解セルの詳細な構成を示した説明図である。
【
図3】熱線型半導体式の濃度測定部による測定の傾向を説明する説明図である。
【
図4】対数に対応する目盛りに変換したグラフの説明図である。
【
図5】規格化した測定水素濃度の各々を示す説明図である。
【
図6】第4実施形態の水電解システムの構成を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態の水電解システム1の構成を示した説明図である。水電解システム1は、水の電気分解により酸素及び水素を生成するシステムである。水電解システム1は、タンク5と、酸素気液分離部10と、水電解部20と、DC電源25と、水素気液分離部30と、制御部40と、除湿部50と、送気ポンプ60と、送気ポンプ70と、混合部80と、濃度測定部90と、を備える。
【0016】
タンク5は、水を貯蔵するタンクである。流路F1は、タンク5と酸素気液分離部10とを接続する流路である。酸素気液分離部10には、タンク5から水が供給される。酸素気液分離部10は、流路F4を介して、水電解部20にて生成された酸素と水との混合ガスを受け入れたのち、この混合ガスから少なくとも一部の水を分離する。流路F4は、水電解部20にて生成された酸素と水との混合ガスを酸素気液分離部10へ供給するための流路である。混合ガスのうち気体部分は、酸素気液分離部10の重力方向上側部分と除湿部50とを接続する流路F2を介して、除湿部50に送られる。混合ガスから分離された水やタンク5から供給された水は、流路F3を介して、水電解部20へ供給される。
【0017】
流路F3は、酸素気液分離部10から水電解部20へ水を供給するための流路である。流路F3を形成している配管(不図示)には、循環ポンプPが設けられている。循環ポンプPは、酸素気液分離部10から水電解部20に向けて水を送り出すことによって、酸素気液分離部10、流路F3、水電解部20および流路F4の間で水を循環させる。
【0018】
水電解部20は、水の電気分解(電解)により酸素及び水素を生成する。水電解部20にて生成された酸素と水との混合ガスは、流路F4を介して、酸素気液分離部10に送られる。水電解部20にて生成された水素と水との混合ガスは、流路F5を介して、水素気液分離部30に送られる。流路F5は、水電解部20にて生成された水素と水との混合ガスを水素気液分離部30へ供給するための流路である。流路F4および流路F5を形成している配管(不図示)には調整弁が設けられていてもよい。複数のセル電圧センサ21Vは、水電解部20を構成している水電解セル21(
図2にて説明)の各々の電圧を測定する。
【0019】
水素気液分離部30は、水電解部20にて生成された水素と水との混合ガスから少なくとも一部の水を分離する。混合ガスのうち気体部分は、水素気液分離部30の重力方向上側部分に接続された流路(不図示)を介して、水電解システム1の外部に送られる。混合ガスから分離された水は、水素気液分離部30の重力方向下側部分に接続された流路(不図示)を介して、水電解部20へ供給される。混合ガスから分離された水は、同流路を介して、酸素気液分離部10へ供給されてもよい。
【0020】
制御部40は、水電解システム1が備える各種センサから得た情報に基づいて、水電解システム1全体の作動を制御する。制御部40による制御としては、例えば、循環ポンプPが送り出す水量の制御、DC電源25から水電解部20への電力供給の制御が挙げられる。
【0021】
図2は、水電解部20を構成する水電解セル21の詳細な構成を示した説明図である。水電解部20は、複数の水電解セル21が積層されて構成されている。水電解セル21は、PEM(Polymer Electrolyte Membrane:固体高分子電解質膜)型水電解セルである。水電解セル21は、膜電極接合体(以下、「MEA」と呼ぶ)22を有する。MEA22は、プロトン(H
+)と水を通すことが可能な電解質膜24の両面に、水を分解し酸素と水素イオンと電子を生成する酸素極26と、水素イオンと電子から水素を生成する水素極28と、が接合されたものである。酸素極26のうち電解質膜24とは反対側の表面には、金属メッシュ等から成る給電体26fが設けられている。酸素極26および給電体26fの周囲には、ガスケット26gが設けられている。一方、水素極28のうち電解質膜24とは反対側の表面には、同様に、給電体28fが設けられているとともに、水素極28および給電体28fの周囲には、ガスケット28gが設けられている。
【0022】
これらガスケット26g、給電体26f、MEA22、ガスケット28g、給電体28fの接合体は、酸素極26側に設けられたセパレータ26sおよび水素極28側に設けられたセパレータ28sによって挟持されている。この接合体を挟持した状態において、セパレータ26sは、水電解部20に供給される水および水電解部20で生成された酸素と水との混合ガスが流れる流路Fcを形成している。また、セパレータ28sは、水電解部20で生成された水素と水との混合ガスが流れる流路Faを形成している。セパレータ26sおよびセパレータ28sは、いわゆる複極板である。
【0023】
上述したように、
図2を用いて説明した水電解セル21が積層されて、水電解部20(
図1参照)が構成されている。すなわち、水電解部20は、水の電気分解により酸素を生成する複数の酸素極26を含む。酸素極26の各々で生成された酸素と水との混合ガスは、酸素極26の各々から排出される排出ガスともいえる。これ以降、排出ガスとは、酸素極26の各々から排出されたガスのことを指す。この排出ガスは、流路F4を介して、酸素気液分離部10に受け入れられる。
【0024】
排出ガスは、上述したように、酸素気液分離部10にて少なくとも一部の水が分離されたのち、流路F2を介して、除湿部50に送られる。除湿部50は、流路F2を介して送られてきた排出ガスを除湿する。
【0025】
除湿部50にて除湿された排出ガスは、流路F6を介して、水電解システム1の外部に送られる。流路F6から分岐した流路F7は、除湿部50にて除湿された排出ガスを送気ポンプ60へ供給するための流路である。送気ポンプ60は、流路F8を介して混合部80へ供給する排出ガスの流量を調整可能なポンプである。送気ポンプ60による排出ガスの流量の調整は、制御部40によって制御される。流路F8は、送気ポンプ60と混合部80とを接続する流路である。
【0026】
送気ポンプ70は、水電解システム1が設置された室内の空気を取り込み、流路F9を介して混合部80へ供給するその空気の流量を調整可能なポンプである。送気ポンプ70による空気の流量の調整も、制御部40によって制御される。流路F9は、送気ポンプ70と混合部80とを接続する流路である。
【0027】
混合部80は、排出ガスと、希釈ガスと、を混合可能な部位である。ここで、希釈ガスは、送気ポンプ70から送られてくる空気である。すなわち、混合部80は、流路F8を介して送気ポンプ60から送られてくる排出ガスと、流路F9を介して送気ポンプ70から送られてくる空気と、を混合可能な部位である。本実施形態では、混合部80は、比較的大きな直径を有する円筒形状の容器である。このような容器に対して、流路F8,F9および後述する流路F10は、排出ガスと空気との混合を促すために、異なる方向から接続されている。
【0028】
流路F10は、混合部80で混合されたガスを水電解システム1の外部に送るための流路である。濃度測定部90は、流路F10を形成している配管(不図示)に設けられた熱線型半導体式の水素濃度センサであり、混合部80から送られる対象ガス中の水素濃度を測定する。ここでいう対象ガスとは、濃度測定部90が測定する対象のガスのことであり、流路F10を流れるガスのことである。本実施形態では、対象ガスは、排出ガスと希釈ガスとの混合ガスである。濃度測定部90が測定した対象ガス中の水素濃度を示す信号は、制御部40に向けて出力される。なお、酸素濃度が大気組成と同じである対象ガスを濃度測定部90が測定した場合の水素濃度の値は、同様の対象ガスをガスクロマトグラフィーで測定した場合の水素濃度の値に基づいて校正されているものとする。
【0029】
図3は、熱線型半導体式の濃度測定部90による測定の傾向を説明する説明図である。
図3に示すグラフの縦軸は、濃度測定部90が測定した水素濃度である測定水素濃度(ppm)を表す。
図3に示すグラフの横軸は、濃度測定部90による測定に用いた対象ガス中の酸素濃度(%)を表す。この対象ガスは、水電解部20における電解条件(電流や温度、酸素極に供給される単位時間あたりの流量等)を一定にすることで排出ガスの構成(排出ガスの大部分を占める酸素量と微量の水素量)を一定にし、その排出ガスと希釈ガス(窒素と空気とを任意の配合比で混合したガス)とを一定の割合で混合して生成したガスである。測定に用いられた各々の対象ガスに含まれる希釈ガス中の窒素量と空気量と(窒素と空気との配合比)を調整することによって対象ガス中の酸素濃度を調整しつつ、対象ガス全体に占める排出ガスの割合は一定であることから、対象ガス中の水素濃度は、希釈ガス中の配合比に関わらず一定になっている。
【0030】
図3中の四角S1~S3は、流量26L/minの条件下で各々の酸素濃度の対象ガスを濃度測定部90に測定させた結果を示している。四角S1~S3は、それぞれ酸素濃度が異なる対象ガスを流量26L/minの条件下で濃度測定部90に測定させた結果を示している。ここで、四角S1~S3の結果を得るために用いられた各々の対象ガス中の水素濃度は一定であることから、四角S1~S3が示す測定水素濃度は、本来それぞれ同じ値となるべきである。しかし、四角S1~S3が示す測定水素濃度は、それぞれ異なる値となっていた。
【0031】
図3中の三角T1~T5は、流量32.5L/minの条件下で各々の酸素濃度の対象ガスを濃度測定部90に測定させた結果を示している。
図3中の丸C1~C3は、流量52L/minの条件下で各々の酸素濃度の対象ガスを濃度測定部90に測定させた結果を示している。ここでも、三角T1~T5および丸C1~C3の結果を得るために用いられた各々の対象ガス中の水素濃度は一定であるにも関わらず、三角T1~T5および丸C1~C3が示す測定水素濃度は、それぞれ異なる値となっていた。なお、
図3において、四角S1、三角T2および丸C2は、酸素濃度が約20%の(地球上の大気組成と同じ組成とする)対象ガスを濃度測定部90に測定させた結果にあたる。
【0032】
図4は、
図3に示すグラフの縦軸および横軸を対数に対応する目盛りに変換したグラフを示す。
図4および次に説明する
図5では、図示の都合上、四角S1~S3、三角T1~T5および丸C1~C3の符号の図示を省略しているが、各々の四角、三角および丸は四角S1~S3、三角T1~T5および丸C1~C3に対応している。
図4に示すように、四角、三角および丸の各々が示す結果を基に引いたそれぞれの回帰直線の傾きは、ほぼ同じであることが確認された。
【0033】
図5は、
図3の四角、三角および丸の各々が示す測定水素濃度を、各々の基準となる測定水素濃度で除して規格化した場合の結果を示している。ここで、各々の基準とは、四角の各々にとっては四角S1が示す測定水素濃度であり、三角の各々にとっては三角T2が示す測定水素濃度であり、丸の各々にとっては丸C2が示す測定水素濃度である。
図5に示すように、規格化した四角、三角および丸の各々を基に引いたそれぞれの回帰曲線の曲率は、ほぼ同じであることが確認された。
【0034】
四角、三角および丸の各々が示す結果は、異なる流量条件下での結果である。このため、
図4および
図5が示す結果から、熱線型半導体式の濃度測定部90による測定において流量条件の差異が与える影響は大きくないことが確認された。また、
図3~
図5が示す結果から、熱線型半導体式の濃度測定部90による測定においては、対象ガス中の酸素濃度の影響を考慮すべきであることが確認された。詳細には、酸素濃度が大気組成よりも高い対象ガスを濃度測定部90が測定した場合には、酸素濃度が大気組成と同じである対象ガスを濃度測定部90が測定した場合と比べて、測定水素濃度は低くなる傾向にあることが確認された(
図3において、四角S1に対する四角S2,S3、三角T2に対する三角T3~T5および丸C2に対する丸C3を参照)。一方、酸素濃度が大気組成よりも低い対象ガスを濃度測定部90が測定した場合には、酸素濃度が大気組成と同じである対象ガスを濃度測定部90が測定した場合と比べて、測定水素濃度は高くなる傾向にあることが確認された(
図3において、三角T2に対する三角T1および丸C2に対する丸C1を参照)。
【0035】
図3~
図5により確認された傾向を考慮して、制御部40は、濃度補正部として、濃度測定部90が測定した水素濃度である測定水素濃度を、対象ガス中の酸素濃度を基準に補正して補正水素濃度C
C
H2とする。すなわち、制御部40は、対象ガス中の酸素濃度が設定濃度以上である場合、測定水素濃度を増加補正して補正水素濃度C
C
H2とする。また、制御部40は、対象ガス中の酸素濃度が設定濃度より低い場合、測定水素濃度を減少補正して補正水素濃度C
C
H2とする。ここで、対象ガス中の酸素濃度の把握については後述する。設定濃度には、大気組成と同じ酸素濃度が設定される。また、増加補正および減少補正の程度は、互いに水素濃度は同じであるが酸素濃度が異なる種々の対象ガスを同じ流量条件下で濃度測定部90に予め測定させた測定水素濃度において、酸素濃度が大気組成と同じである対象ガスの測定水素濃度と、他の対象ガスの測定水素濃度と、の差に応じてそれぞれ決定される。なお、互いに水素濃度が同じである対象ガスの群は、種々の濃度ごとに準備されており、各々の群が種々の流量条件下で濃度測定部90に測定されるものとする。また、この測定の事前には、酸素濃度が大気組成と同じである対象ガスの測定水素濃度は、同様の対象ガスをガスクロマトグラフィーで測定した水素濃度に基づいて校正されているものとする。この測定水素濃度の校正には、同様の対象ガスをガスクロマトグラフィーで測定した水素濃度に加えて、その水素濃度と同時に測定した酸素濃度および窒素濃度が参照されてもよい。
【0036】
本実施形態において、補正水素濃度C
C
H2は、下記の数式1で表される。
【数1】
数式1において、C
O
H2は酸素極26から排出された排出ガス中の酸素濃度(%)を示す。V
0は送気ポンプ60が流路F8を介して混合部80へ送る排出ガスの流量(L/min)を示す。V
1は送気ポンプ70が流路F9を介して混合部80へ送る空気の流量(L/min)を示す。制御部40は、送気ポンプ60および送気ポンプ70の流量を調整していることから、V
0の値およびV
1の値を取得可能である。したがって、制御部40は、補正水素濃度C
C
H2、流量V
0および流量V
1を数式1に代入することによって、排出ガス中の酸素濃度C
O
H2を算出することができる。すなわち、制御部40は、濃度算出部として、補正水素濃度C
C
H2を用いて排出ガス中の水素濃度C
O
H2を算出する。
【0037】
測定水素濃度の補正する際の基準となる対象ガス中の酸素濃度の把握について説明する。本実施形態では、対象ガス中の希釈ガスは酸素濃度が自明の空気であること、対象ガス中の排出ガスはほぼ酸素であるとみなされること(詳細は後述の数式3の説明を参照)、制御部40がV0の値およびV1の値を取得可能であることに基づいて、制御部40は、対象ガス中の酸素濃度を把握可能である。具体的には、制御部40は、第2実施形態で説明する数式2の右辺を用いて、対象ガス中の酸素濃度を把握することが可能である。
【0038】
また、制御部40は、判定部として、水電解システム1の異常の有無を判定する。詳細には、制御部40は、濃度算出部によって算出された排出ガス中の水素濃度CO
H2が閾値濃度以上である場合、水電解システム1に異常がある旨の出力を行う。閾値濃度は、水素の爆発下限界濃度である4%を目安に、例えば、0.4%が設定される。水電解システム1に異常がある旨の出力は、水電解システム1の管理者への報知であってもよいし、水電解部20による電解を停止させるために、DC電源25から水電解部20への電力供給の停止制御や水電解部20への水の供給停止制御であってもよい。水の供給停止制御は、循環ポンプPによる水の送り出しを停止することによって実行される。
【0039】
以上説明したように、第1実施形態の水電解システム1によれば、濃度測定部90は熱線型半導体式であるため低濃度での分解能が高いことから、水素がほとんど検知されず検知されても非常に低濃度である対象ガス中の水素濃度の測定に用いるには好適である。また、熱線型半導体式の濃度測定部90による測定の際には、濃度測定部90表面へのガス吸着を利用して測定を行うため、加熱を原因としたシンタリング等による劣化は起きない。その一方で、濃度測定部90が測定した水素濃度である測定水素濃度は、
図3~
図5で説明したように、対象ガスに含まれる酸素の影響を受ける。具体的には、酸素濃度が大気組成よりも高い対象ガスを濃度測定部90が測定した場合には、酸素濃度が大気組成と同じである対象ガスを濃度測定部90が測定した場合と比べて、測定水素濃度は低くなる傾向にある。一方、酸素濃度が大気組成よりも低い対象ガスを濃度測定部90が測定した場合には、酸素濃度が大気組成と同じである対象ガスを濃度測定部90が測定した場合と比べて、測定水素濃度は高くなる傾向にある。このような傾向を考慮して、第1実施形態の水電解システム1によれば、測定水素濃度を対象ガス中の酸素濃度を基準に補正した補正水素濃度C
C
H2とすることから、どのような酸素濃度の対象ガスであったとしても、その対象ガスで測定された測定水素濃度の値を、酸素濃度が大気組成と同じであった場合に測定される値に近付けることができる。そして、第1実施形態の水電解システム1においては、そのような酸素の影響を軽減した補正水素濃度C
C
H2を用いて、酸素極26から排出される排出ガス中の水素濃度C
O
H2を算出することから、熱線型半導体式の濃度測定部90を用いて、酸素極26から排出される排出ガス中の水素濃度C
O
H2を精度良く取得することができる。
【0040】
排出ガスに含まれる水は、濃度測定部90表面へのガス吸着を阻害する虞がある。その点、第1実施形態の水電解システム1によれば、濃度測定部90が測定する対象ガスは排出ガスと希釈ガスとの混合ガスであるため、排出ガスと比べて湿度が低下した対象ガスを濃度測定部90が測定することから、水によるガス吸着の阻害を生じにくくすることができる。また、排出ガスが水素を含む場合、その排出ガスが希釈ガスで希釈されて対象ガスが生成されるため、希釈前の排出ガスと比べて水素濃度が低下した対象ガスを低濃度での分解能が高い濃度測定部90が測定することから、測定水素濃度を精度良く検出することができる。そして、そのような測定水素精度を補正した補正水素濃度CC
H2を用いて排出ガス中の水素濃度CO
H2を算出することから、熱線型半導体式の濃度測定部90を用いて、排出ガス中の水素濃度CO
H2を一層精度良く取得することができる。
【0041】
また、第1実施形態の水電解システム1では、濃度算出部によって算出された排出ガス中の水素濃度CO
H2が閾値濃度以上である場合、水電解システム1に異常がある旨の出力が行われることから、水電解システム1の異常に対して対応することができる。
【0042】
<第2実施形態>
第2実施形態の水電解システム(不図示)は、第1実施形態の水電解システム1と比べて、濃度測定部90が異なる点と、濃度算出部として制御部40が機能する際に数式1とは異なる数式を用いる点と、を除いて、第1実施形態の水電解システム1と同じであることから、見かけ上の構成は、
図1と同様である。
【0043】
第2実施形態の水電解システムにおいては、濃度測定部90は、熱線型半導体式の水素濃度センサに加えて、ガルバニ電池式の酸素濃度センサを含む。ガルバニ電池式の酸素濃度センサは、高濃度での分解能が高い。すなわち、第2実施形態の水電解システムにおいては、対象ガス中の水素濃度に加えて対象ガス中の酸素濃度の測定も可能である。
【0044】
本実施形態において、濃度測定部90が測定した酸素濃度である測定酸素濃度C
O2は、下記の数式2で表される。
【数2】
C
O
O2は酸素極26から排出された排出ガス中の酸素濃度(%)を示す。C
1
O2は送気ポンプ70が流路F9を介して混合部80へ送る空気(第2実施形態の水電解システム1が設置された室内の空気)中の酸素濃度(%)を示す。すなわち、C
1
O2が示す酸素濃度は、大気組成と同じ酸素濃度である。また、排出ガスの構成は大部分を酸素が占めつつ微量の水素を含むものであることから、排出ガス中の酸素濃度C
O
O2は、排出ガス中の水素濃度C
O
H2との関係から、下記の数式3で表すように100%とみなすことができる。
【数3】
数式2に対して数式3で得られた情報を代入するとともに、数式2の右辺における各項をV
0で除すると、下記の数式4で表される。
【数4】
制御部40は、測定酸素濃度C
O2、空気中の酸素濃度C
1
O2を数式4に代入することによって、V
1/V
0の値を算出することができる。一方、第1実施形態にて説明した数式1において、右辺の分数中における各項をV
0で除すると、下記の数式5で表される。
【数5】
数式5における補正水素濃度C
C
H2は、濃度測定部90が測定した水素濃度である測定水素濃度を、対象ガス中の酸素濃度(測定酸素濃度C
O2)を基準に補正することによって得られる。制御部40は、この補正水素濃度C
C
H2と、上記の数式4を用いて算出されたV
1/V
0の値と、を数式5に代入することによって、排出ガス中の酸素濃度C
O
H2を算出することができる。すなわち、制御部40は、第2実施形態においても、濃度算出部として、補正水素濃度C
C
H2を用いて排出ガス中の水素濃度C
O
H2を算出する。なお、第1実施形態では、制御部40は、数式1を用いて排出ガス中の水素濃度C
O
H2を算出したが、第2実施形態では、制御部40は、数式4,5を用いて排出ガス中の水素濃度C
O
H2を算出する。以上説明した第2実施形態の水電解システムにおいても、第1実施形態と同様に、排出ガス中の水素濃度C
O
H2を精度良く取得することができる。むろん、排出ガス中の水素濃度C
O
H2が閾値濃度以上である場合には、水電解システムに異常がある旨の出力を行ってもよい。
【0045】
<第3実施形態>
第3実施形態の水電解システム(不図示)は、第1実施形態の水電解システム1と比べて、濃度測定部90が異なる点と、濃度測定部90が測定する対象ガスが切り替わる点と、を除いて、第1実施形態の水電解システム1と同じであることから、見かけ上の構成は、
図1と同様である。
【0046】
第3実施形態の水電解システムにおいては、第2実施形態と同様に、濃度測定部90は、熱線型半導体式の水素濃度センサに加えて、ガルバニ電池式の酸素濃度センサを含む。すなわち、第3実施形態の水電解システムにおいても、対象ガス中の水素濃度に加えて対象ガス中の酸素濃度の測定も可能である。
【0047】
第1実施形態では、対象ガスは、常に排出ガスと希釈ガスとの混合ガスであったが、第3実施形態では、対象ガスは、排出ガスと希釈ガスとの混合ガス、もしくは、水電解システムが設置された室内の空気である。詳細には、第3実施形態では、送気ポンプ60は、混合部80への排出ガスの供給の実行と停止とを切替可能な供給切替部にあたり、この切替は、制御部40によって制御される。すなわち、混合部80への排出ガスの供給が実行されている際、対象ガスは、排出ガスと希釈ガスとの混合ガスである。そして、混合部80への排出ガスの供給が実行されている際、制御部40は、水電解システムの異常の有無を判定する判定部として、排出ガス中の水素濃度CO
H2が第1閾値濃度以上である場合、水電解システムに異常がある旨の出力を行う。ここでいう水素濃度CO
H2は、制御部40が濃度算出部として機能した際に算出される水素濃度CO
H2である。第1閾値濃度は、第1実施形態と同様、水素の爆発下限界濃度である4%を目安に、例えば、0.4%が設定される。
【0048】
一方、混合部80への排出ガスの供給が停止されている際、混合部80には送気ポンプ70からの希釈ガス(水電解システムが設置された室内の空気)のみが送られてくることから、対象ガスは、その空気である。この場合、その空気中の水素濃度を、対象ガス中の水素濃度として、濃度測定部90が測定する。また、制御部40は、濃度補正部として、濃度測定部90が測定したその空気中の水素濃度である測定水素濃度を、その空気中の酸素濃度を基準に補正して補正水素濃度CC
H2とする。このとき、その空気中の酸素濃度は大気組成と同じ酸素濃度(すなわち設定濃度)である可能性が高く、そのような場合には増加補正や減少補正が行われないが、そうした増加補正や減少補正が行われなかった測定水素濃度であっても、補正水素濃度CC
H2とみなすこととする。そして、混合部80への排出ガスの供給が停止されている際、制御部40は、水電解システムの異常の有無を判定する判定部として、補正水素濃度CC
H2が第2閾値濃度以上である場合、水電解システムに異常がある旨の出力を行う。第2閾値濃度についても、第1閾値濃度と同様に設定されてもよいし、第1閾値濃度とは異なる基準で設定されてもよい。なお、混合部80への排出ガスの供給が実行から停止に切り替わった直後では、流路F10を流れるガスには排出ガスが残存している。排出ガスの構成は酸素が大部分を占めつつ微量の水素を含むものであることから、流路F10を流れるガス中の酸素濃度を監視することで、流路F10を流れるガスに排出ガスが含まれなくなったのを確認することができる。このため、混合部80への排出ガスの供給が実行から停止に切り替わってから、流路F10を流れるガスに排出ガスが含まれなくなるまでの時間を経過したのちに濃度測定部90による測定が実行され、その測定結果に基づく補正水素濃度CC
H2が第2閾値濃度と比較されるのが好ましい。
【0049】
以上説明した第3実施形態の水電解システムによれば、混合部80への排出ガスの供給が実行されている際には、排出ガスと希釈ガスとの混合ガスを対象ガスとして、濃度測定部90に測定させることができる。この場合、濃度測定部90が測定した水素濃度から、第1実施形態で説明したように排出ガス中の水素濃度CO
H2を算出することができる。一方、混合部80への排出ガスの供給が停止されている際には、水電解システムが設置された室内の空気を対象ガスとして、濃度測定部90に測定させることができるため、水電解システムが設置された室内の空気中の水素濃度を測定する装置を水電解システムとは別個に設置することなく、同室内の空気中の水素濃度も測定することができる。また、水電解システムが設置された室内の空気が対象ガスである場合と比べて、排出ガスと希釈ガスとの混合ガスが対象ガスである場合には、対象ガスに含まれる酸素濃度が高いために濃度測定部90による測定への負担が大きいことから、対象ガスを適宜切り替えることによって、濃度測定部90の寿命を延ばすことができる。
【0050】
また、第3実施形態の水電解システムでは、排出ガス中の水素濃度CO
H2が第1閾値濃度以上である場合、もしくは、補正水素濃度CC
H2が第2閾値濃度以上である場合、のいずれかの場合に、水電解システムに異常がある旨の出力を行われることから、水電解システムの異常に対して対応することができる。
【0051】
<第4実施形態>
図6は、本発明の第4実施形態の水電解システム1aの構成を示した説明図である。第4実施形態の水電解システム1aは、第1実施形態の水電解システムと比べて、濃度測定部90が異なる点と、ブロア45を備える点と、濃度算出部として制御部40が機能する際に数式1とは異なる数式を用いる点と、を除いて、第1実施形態の水電解システム1と同じである。
【0052】
第4実施形態の水電解システム1aにおいては、第2,3実施形態と同様に、濃度測定部90は、熱線型半導体式の水素濃度センサに加えて、ガルバニ電池式の酸素濃度センサを含む。すなわち、第4実施形態の水電解システム1aにおいても、対象ガス中の水素濃度に加えて対象ガス中の酸素濃度の測定も可能である。なお、本実施形態においては、対象ガスは、常に排出ガスと希釈ガス(水電解システム1aが設置された室内の空気)との混合ガスである。
【0053】
ブロア45は、水電解システム1aが設置された室内の空気を取り込み、流路F11を介して、流路F2へ供給するその空気の流量を調整可能な装置である。ブロア45による空気の流量の調整も、制御部40によって制御される。流路F11は、流路F2から分岐してブロア45に接続する流路である。水電解システム1aでは、DC電源25から水電解部20へ供給する電力が比較的低い場合、排出ガス中の水素濃度が高まる傾向にある。ここでいう供給する電力が比較的低い場合としては、水電解部20へ電力を変動させて供給する際に電力が減少する局面や水電解システム1aの起動直後もしくは停止直前が挙げられる。このような場合には、ブロア45から流路F2へ空気を供給することによって排出ガスを希釈する。
【0054】
本実施形態において、水電解部20による電解が実行されており、且つ、ブロア45から流路F2へ空気が供給されている際(以降、排出ガス希釈時とする)に、濃度測定部90が測定した酸素濃度である測定酸素濃度C
O2は、下記の数式6で表される。
【数6】
数式6において、C
O
O2およびC
1
O2は、数式2で説明したものと同様の酸素濃度(%)を示す。また、V
0およびV
1は、数式1で説明したものと同様の流量(L/min)を示す。V
2は流路F4内を流れる排出ガスの流量(L/min)を示す。V
3はブロア45が流路F11を介して流路F2へ送る空気の流量(L/min)を示す。
【0055】
数式6の右辺は、以下の数式7~9を用いて導出される。
【数7】
【数8】
【数9】
数式7は、排出ガス希釈時に、流路F2のうち流路F11が分岐した位置L(
図6参照)から除湿部50寄りの部分を流れるガス中の酸素濃度(%)を示す。数式8は、数式7にV
0を乗じたものであり、排出ガス希釈時に、流路F8を流れるガス中の酸素ガス流量(L/min)を示す。数式9は、送気ポンプ70が流路F9を介して混合部80へ送る空気中の酸素ガス流量(L/min)を示す。混合部80から流路F10へ流れる対象ガスの流量を示すV
0+V
1を分母とし、数式8と数式9との和を分子とすることで、数式6の右辺が導出される。
【0056】
数式6の説明に戻る。制御部40は、送気ポンプ70およびブロア45の流量を調整していることから、V1の値およびV3の値を取得可能である。また、制御部40は、DC電源25から水電解部20への電力供給を制御していることから、この電力を参照することによってV2の値を推定可能である。したがって、制御部40は、測定酸素濃度CO2、排出ガス中の酸素濃度CO
O2(数式3より既知)、空気中の酸素濃度C1
O2、流量V1、V2、V3を数式6に代入することによって、流量V0を算出することができる。
【0057】
また、本実施形態において、補正水素濃度C
C
H2は、下記の数式10で表される。
【数10】
ここでの補正水素濃度C
C
H2も、濃度測定部90が測定した対象ガス中の水素濃度である測定水素濃度を、対象ガス中の酸素濃度(測定酸素濃度C
O2)を基準に補正して求められる。制御部40は、補正水素濃度C
C
H2、流量V
1、V
2、V
3および数式6から算出した流量V
0を数式10に代入することによって、排出ガス中の酸素濃度C
O
H2を算出することができる。すなわち、第4実施形態においても、制御部40は、濃度算出部として、補正水素濃度C
C
H2を用いて排出ガス中の水素濃度C
O
H2を算出する。以上説明した第4実施形態の水電解システム1aにおいても、第1~3実施形態と同様に、排出ガス中の水素濃度C
O
H2を精度良く取得することができる。むろん、排出ガス中の水素濃度C
O
H2が閾値濃度以上である場合には、水電解システム1aに異常がある旨の出力を行ってもよい。
【0058】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0059】
上述した実施形態では、水電解部20は、複数の水電解セル21が積層されて構成されていたが、これに限られない。水電解部20は、単独の水電解セル21で構成されていてもよい。
【0060】
上述した実施形態では、混合部80は、円筒形状の容器であったが、これに限られない。例えば、混合部80は、流路F8を介して送気ポンプ60から送られてくる排出ガスと、流路F9を介して送気ポンプ70から送られてくる希釈ガスと、を効率的に混合可能な部位である限り、任意の形状を選択することができる。また、上述した実施形態では、排出ガスと空気との混合を促すために、流路F8,F9および流路F10が異なる方向から接続されているとしたが、これに限られない。異なる方向から流路F8,F9および流路F10を接続する代わりに、流路F8,F9および流路F10のうち少なくとも1本の流路の内部にスタティックミキサーが備えられていてもよい。むろん、異なる方向から接続した流路F8,F9および流路F10のうち少なくとも1本の流路の内部にスタティックミキサーが備えられていてもよい。
【0061】
上述した実施形態では、測定水素濃度を増加補正するか、もしくは、減少補正するかの基準である設定濃度には、大気組成と同じ酸素濃度が設定されていたが、これに限られない。例えば、設定濃度には、大気組成とは異なる任意の酸素濃度が設定されてもよい。なお、この場合には、増加補正および減少補正の程度は、互いに水素濃度は同じであるが酸素濃度が異なる種々の対象ガスを同じ流量条件下で濃度測定部90に予め測定させた測定水素濃度において、酸素濃度が設定濃度と同じである対象ガスの測定水素濃度と、他の対象ガスの測定水素濃度と、の差に応じてそれぞれ決定する。また、この測定の事前には、酸素濃度が設定濃度と同じである対象ガスの測定水素濃度は、同様の対象ガスをガスクロマトグラフィーで測定した水素濃度に基づいて校正されているものとする。
【0062】
上述した第4実施形態では、制御部40は、数式6を用いて流量V0の値を算出していたが、これに限られない。制御部40は、送気ポンプ60の流量を調整しており、V0の値が取得可能であるならば、V0の値を取得してもよい。
【0063】
上述した第3実施形態では、混合部80への排出ガスの供給の実行と停止との切り替えによって、排出ガスと希釈ガスとの混合ガス、もしくは、水電解システムが設置された室内の空気のいずれかに対象ガスが切り替えられていたが、第4実施形態においても同様に、対象ガスが切り替えられてもよい。むろん、この場合にも、濃度測定部90が測定する対象ガスに応じて、第1閾値濃度もしくは第2閾値濃度を用いて、水電解システム1aの異常の有無が判定されてもよい。
【0064】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【0065】
本発明は、以下の形態としても実現することが可能である。
[適用例1]
水電解システムであって、
水の電気分解により酸素を生成する酸素極を含む水電解部と、
前記酸素極から排出される排出ガスと、希釈ガスと、を混合可能な混合部と、
前記混合部から送られる対象ガス中の水素濃度を測定する熱線型半導体式の濃度測定部と、
前記濃度測定部が測定した水素濃度である測定水素濃度を、前記対象ガス中の酸素濃度を基準に補正して補正水素濃度とする濃度補正部と、
前記補正水素濃度を用いて前記排出ガス中の水素濃度を算出する濃度算出部と、を備え、
前記濃度補正部は、
前記対象ガス中の酸素濃度が設定濃度以上である場合、前記測定水素濃度を増加補正して前記補正水素濃度とし、
前記対象ガス中の酸素濃度が前記設定濃度より低い場合、前記測定水素濃度を減少補正して前記補正水素濃度とする、水電解システム。
[適用例2]
適用例1に記載の水電解システムであって、
前記対象ガスは、前記排出ガスと前記希釈ガスとの混合ガスである、水電解システム。
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載の水電解システムであって、さらに、
前記水電解システムの異常の有無を判定する判定部を備え、
前記判定部は、前記濃度算出部によって算出された前記排出ガス中の水素濃度が閾値濃度以上である場合、前記水電解システムに異常がある旨の出力を行う、水電解システム。
[適用例4]
適用例1から適用例3までのいずれかに記載の水電解システムであって、さらに、
前記混合部への前記排出ガスの供給の実行と停止とを切替可能な供給切替部を備え、
前記希釈ガスは、前記水電解システムが設置された室内の空気であり、
前記混合部への前記排出ガスの供給が実行されている際、前記対象ガスは、前記排出ガスと前記希釈ガスとの混合ガスであり、
前記混合部への前記排出ガスの供給が停止されている際、前記対象ガスは、前記空気である、水電解システム。
[適用例5]
適用例1から適用例4までのいずれかに記載の水電解システムであって、さらに、
前記水電解システムの異常の有無を判定する判定部を備え、
前記混合部への前記排出ガスの供給が実行されている際、前記判定部は、前記濃度算出部によって算出された前記排出ガス中の水素濃度が第1閾値濃度以上である場合、前記水電解システムに異常がある旨の出力を行い、
前記混合部への前記排出ガスの供給が停止されている際、前記判定部は、前記補正水素濃度が第2閾値濃度以上である場合、前記水電解システムに異常がある旨の出力を行う、水電解システム。
【符号の説明】
【0066】
1,1a…水電解システム
5…タンク
10…酸素気液分離部
20…水電解部
21…水電解セル
21V…セル電圧センサ
24…電解質膜
25…DC電源
26…酸素極
26f,28f…給電体
26g,28g…ガスケット
26s,28s…セパレータ
28…水素極
30…水素気液分離部
40…制御部
45…ブロア
50…除湿部
60,70…送気ポンプ
80…混合部
90…濃度測定部
F1~F11…流路
Fa,Fc…流路
P…循環ポンプ