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特開2024-110520胃瘻カテーテルおよび胃瘻カテーテルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110520
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】胃瘻カテーテルおよび胃瘻カテーテルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/04 20060101AFI20240808BHJP
   A61J 15/00 20060101ALI20240808BHJP
   A61M 39/02 20060101ALI20240808BHJP
   A61M 29/00 20060101ALI20240808BHJP
   A61M 25/00 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
A61M25/04
A61J15/00 Z
A61M39/02 110
A61M29/00
A61M25/00 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015119
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000200035
【氏名又は名称】SBカワスミ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】佐山 祐亮
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 圭司
(72)【発明者】
【氏名】有川 清貴
【テーマコード(参考)】
4C047
4C066
4C267
【Fターム(参考)】
4C047NN16
4C066AA05
4C066BB01
4C066CC01
4C066FF01
4C066JJ10
4C267AA02
4C267AA58
4C267BB02
4C267BB09
4C267BB12
4C267BB23
4C267CC20
4C267FF01
4C267GG03
4C267GG04
4C267GG06
4C267HH19
(57)【要約】
【課題】拡径状態を維持するための定期的な流体の再注入等の負担を軽減可能な胃瘻カテーテルおよび胃瘻カテーテルの製造方法を提供する。
【解決手段】バンパー10は気体透過性の膜11と、当該膜11に覆われた中空部15とを有する。膜11と本体部とにより囲まれた閉空間60を有する。中空部15は、閉空間60の少なくとも一部を構成している。膜11を透過する閉空間60の内外への通気量は、本体部同士またはバンパー10と本体部との隙間を介した閉空間60の内外への通気量よりも大きい。キャップが脱離すると、胃瘻カテーテルの復元力によるバンパー10の拡径に伴って膜11が展張し、膜11を透過して閉空間60へ気体が流入して閉空間60の体積が増加する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルーメンが通孔形成されて前記ルーメンの軸線方向に延在するシャフトおよび前記シャフトの基端に設けられた体表当接部を含む本体部と、
前記シャフトの先端に設けられた可撓性で縮径可能なバンパーと、
縮径状態の前記バンパーに着脱可能に外装されて前記バンパーを縮径状態に保持するキャップと、を備える胃瘻カテーテルであって、
前記バンパーは気体透過性の膜と前記膜に覆われた中空部とを有し、
前記中空部は前記膜と前記本体部とにより囲まれた閉空間の少なくとも一部を構成し、
前記膜を透過する前記閉空間の内外への通気量が、前記本体部同士または前記バンパーと前記本体部との隙間を介した前記閉空間の内外への通気量よりも大きく、
前記キャップが脱離すると、前記胃瘻カテーテルの復元力による前記バンパーの拡径に伴って前記膜が展張し、前記膜を透過して前記閉空間へ気体が流入して前記閉空間の体積が増加する、胃瘻カテーテル。
【請求項2】
前記キャップが脱離して前記閉空間の体積が増加すると、前記閉空間に存在する気体が前記膜に対して与える応力によって前記バンパーの縮径状態への変形が制限される、請求項1に記載の胃瘻カテーテル。
【請求項3】
前記本体部は前記軸線方向に延在するサブルーメンを有し、
前記サブルーメンの一端は前記中空部と接している、請求項2に記載の胃瘻カテーテル。
【請求項4】
前記サブルーメンに挿通された線状部材と、
前記線状部材の抜去用の摘まみ部材と、を有し、
前記摘まみ部材は前記体表当接部に固定されており、
前記サブルーメンの一部は封止部によって封止されており、
前記線状部材は前記封止部を貫通している、請求項3に記載の胃瘻カテーテル。
【請求項5】
前記サブルーメンの前記一端において前記サブルーメンが前記封止部によって封止されている、請求項4に記載の胃瘻カテーテル。
【請求項6】
前記バンパーは、前記シャフトの径方向において前記中空部の外側を覆う外層と前記中空部の前記径方向の内側を覆う内層とを有し、
前記外層の厚さは前記内層の一部の厚さよりも大きい、請求項5に記載の胃瘻カテーテル。
【請求項7】
前記線状部材の先端部が前記中空部に配置され、前記バンパーを拡径方向に付勢、または前記バンパーの縮径方向への変形を制限している、請求項6に記載の胃瘻カテーテル。
【請求項8】
前記サブルーメンの基端側の一部が封止部によって封止されており、
前記サブルーメンの前記封止部よりも先端側の一部が前記閉空間を構成している、請求項3に記載の胃瘻カテーテル。
【請求項9】
前記膜を透過する前記閉空間の内外への前記通気量は、前記本体部同士または前記バンパーと前記本体部との隙間を介した前記閉空間の内外への前記通気量の10倍と等しいか、それよりも大きい、請求項7または8に記載の胃瘻カテーテル。
【請求項10】
ルーメンが通孔形成されて前記ルーメンの軸線方向に延在するシャフトおよび前記シャフトの基端に設けられた体表当接部を含む本体部と、
前記シャフトの先端に設けられた可撓性で縮径可能なバンパーと、
縮径状態の前記バンパーに着脱可能に外装されて前記バンパーを縮径状態で保持するキャップと、を備える胃瘻カテーテルの製造方法であって、
前記バンパーは気体透過性の膜と前記膜に覆われた中空部とを有し、
前記中空部は前記膜と前記本体部とにより囲まれた閉空間の少なくとも一部を構成し、
前記中空部の気体の少なくとも一部が除去されて前記中空部の体積が小さくなる脱気工程と、
脱気された前記バンパーが折り畳まれ、折り畳まれた前記バンパーに対して前記閉空間の少なくとも一部が前記キャップの内部に配置されるように前記キャップが着脱可能に外装される装着工程と、を含む胃瘻カテーテルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胃瘻カテーテルおよびかかる胃瘻カテーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
胃瘻カテーテルにおいては、シャフトが瘻孔に挿通されるよう設置された後に胃瘻カテーテルが瘻孔から抜けることがないよう、胃の内部側にシャフトの径方向に対して大径の部材を設けたものがある。
この種の技術に関し、下記特許文献1の図2には、シャフト(126)の先端(図2における下端)にバルーン(118)が設けられており、バルーン(118)を膨張させて瘻孔からの脱離を防止する胃瘻カテーテルが開示されている。具体的には、同文献の胃瘻カテーテルは基端側にヘッド(114)を有し、ヘッド(114)は注入器を挿入するポートとして作用する側部開口(148)を含む。瘻孔に胃瘻カテーテルのカテーテルセグメント(122)が挿通されると、注入器が側部開口(148)に挿入される。同文献の図3に図示されるように、側部開口(148)を通じ、さらにカテーテルセグメント(122)内の内腔(膨張内腔(168))を通じて、流体(水や空気)はバルーン(118)のスリーブとカテーテルセグメント(122)との間の空間を満たし、バルーンは膨張してシャフトの径方向に大径となる。膨張したバルーンは胃壁と接触するため、胃瘻カテーテルが瘻孔から抜けて外れることを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2002-534168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のようにバルーン内腔に流体を注入してバルーンを膨張させる場合には、バルーンの膨張を維持するため、定期的に流体の再注入をする必要がある。なぜならば、バルーン(118)内の空間(バルーン(118)のスリーブとカテーテルセグメント(122)との間の空間)とバルーン(118)外の空間とは、側部開口(148)を介して通じており、バルーン内の流体の量は漏れや蒸発等により減少するためである。
このように、バルーンを流体により膨張させて膨張状態を維持する従来技術においては、定期的なメンテナンスを要するという問題が生じていた。
【0005】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、定期的な流体の再注入等の拡径状態を維持するための負担を軽減可能な胃瘻カテーテルおよび胃瘻カテーテルの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の胃瘻カテーテルは、ルーメンが通孔形成されて前記ルーメンの軸線方向に延在するシャフトおよび前記シャフトの基端に設けられた体表当接部を含む本体部と、前記シャフトの先端に設けられた可撓性で縮径可能なバンパーと、縮径状態の前記バンパーに着脱可能に外装されて前記バンパーを縮径状態に保持するキャップと、を備える胃瘻カテーテルであって、前記バンパーは気体透過性の膜と前記膜に覆われた中空部とを有し、前記中空部は前記膜と前記本体部とにより囲まれた閉空間の少なくとも一部を構成し、前記膜を透過する前記閉空間の内外への通気量が、前記本体部同士または前記バンパーと前記本体部との隙間を介した前記閉空間の内外への通気量よりも大きく、前記キャップが脱離すると、前記胃瘻カテーテルの復元力による前記バンパーの拡径に伴って前記膜が展張し、前記膜を透過して前記閉空間へ気体が流入して前記閉空間の体積が増加することを特徴とする。
【0007】
本発明の胃瘻カテーテルの製造方法は、ルーメンが通孔形成されて前記ルーメンの軸線方向に延在するシャフトおよび前記シャフトの基端に設けられた体表当接部を含む本体部と、前記シャフトの先端に設けられた可撓性で縮径可能なバンパーと、縮径状態の前記バンパーに着脱可能に外装されて前記バンパーを縮径状態で保持するキャップと、を備える胃瘻カテーテルの製造方法であって、前記バンパーは気体透過性の膜と前記膜に覆われた中空部とを有し、前記中空部は前記膜と前記本体部とにより囲まれた閉空間の少なくとも一部を構成し、前記中空部の気体の少なくとも一部が除去されて前記中空部の体積が小さくなる脱気工程と、脱気された前記バンパーが折り畳まれ、折り畳まれた前記バンパーに対して前記閉空間の少なくとも一部が前記キャップの内部に配置されるように前記キャップが着脱可能に外装される装着工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の胃瘻カテーテルにおいては、バンパー内には膜および他の部材に囲まれた閉空間が設けられており、閉空間を囲む部材の隙間を介した閉空間内外への気体の通気量は、バンパーの膜を透過する閉空間の内外への通気量より小さく制限されている。
キャップを脱離させると、バンパーの拡径に伴って閉空間を覆う膜が展張する。膜が展張して閉空間の体積が増加するのに伴って、バンパーの膜を透過して閉空間内へ気体が流入して閉空間の圧力が維持され、これによりバンパーは膨張する。すなわち、本発明の胃瘻カテーテルにおいては、バンパーは自発的に閉空間へ気体を取り込んで膨張し、拡径状態を維持する。このため、流体の再注入等の、拡径状態を維持するための負担を軽減することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の胃瘻カテーテルによれば、バンパーは内部の閉空間へ自ら気体を取り込んで膨張し、膨張状態が維持される。これにより、流体の再注入等の、拡径状態を維持するための手間を省略できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(a)は本発明の第一実施形態にかかる胃瘻カテーテルの一例を示す模式図である。図1(b)は第一実施形態にかかる胃瘻カテーテルがキャップを外されて拡径状態となったときの模式図である。
図2図2(a)および図2(b)は第一実施形態にかかる拡径状態の胃瘻カテーテルにおける先端の一部の斜視図である。図2(b)においては内層の基端側の一部と外層を図示省略している。
図3図3(a)は第一実施形態にかかる拡径状態の胃瘻カテーテルを図2(a)中の一点鎖線で示す面に沿う断面を矢線III-IIIの方向に見た縦断面図である。図3(b)は図3(a)中に点線で示したXの拡大図である。
図4図1(b)に示す第一実施形態にかかる胃瘻カテーテルを模式的に示す縦断面図である。
図5】第一実施形態にかかる拡径状態の胃瘻カテーテルを先端側から見た図である。
図6図6(a)は第一実施形態にかかる縮径状態の胃瘻カテーテルの先端の一部の縦断面図である。図6(b)は拡径途中の胃瘻カテーテルの先端の一部の縦断面図である。
図7】脱気工程後における胃瘻カテーテルの先端の一部の縦断面図である。
図8】第二実施形態にかかる胃瘻カテーテルの模式的な縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の胃瘻カテーテルの各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
また、本発明の胃瘻カテーテルの製造方法を、順番に記載された複数の工程を用いて説明する場合があるが、その記載の順番は複数の工程を実行する順番やタイミングを限定するものではない。このため、本発明の製造方法を実施するときには、その複数の工程の順番は内容的に支障のない範囲で変更することができ、また複数の工程の実行タイミングの一部または全部が互いに重複していてもよい。
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、各図面において、対応する構成要素には共通の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
また、本発明でいう平面とは、平面を目標として物理的に形成した形状を意味しており、当然ながら幾何学的に完全な平面であることは要しない。
【0013】
<第一実施形態>
(胃瘻カテーテル)
図1(a)および図1(b)は、本発明の第一の実施形態にかかる胃瘻カテーテルの一例を示す正面模式図である。図1(b)は図1(a)の胃瘻カテーテル100のキャップ30を脱離させてバンパー10が拡径した状態を模式的に示している。
【0014】
はじめに、本実施形態の胃瘻カテーテル100の概要について説明する。
胃瘻カテーテル100は、シャフト20およびシャフト20の基端に設けられた体表当接部40を含む本体部とバンパー10とキャップ30とを備える。シャフト20は、ルーメン21が通孔形成されてルーメン21の軸線方向に延在する。バンパー10はシャフト20の先端に設けられた可撓性で縮径可能な部位である。
【0015】
次に、本実施形態の胃瘻カテーテル100について詳細に説明する。
胃瘻カテーテル100とは、胃の内部と体外とを通じさせる瘻孔に設置されて体外から胃の内部に所望の物質(栄養剤等)を投与するための器具である。
シャフト20は、胃瘻カテーテル100を瘻孔(図示せず)に取付けるとき、瘻孔に挿通されて少なくとも一部(実質的にその全長)が瘻孔内に配置される長尺の部材である。シャフト20の断面は本実施形態のように円形状でも、多角形状でもよい。胃瘻カテーテル100において、体外に配置される側(図1(a)における紙面上側)を基端側、胃の内部に配置される側(図1(a)における紙面下側)を先端側と呼称する。
ルーメン21(図3(a)参照)は、シャフト20の内部に形成されて、体外と胃の内部とを通じさせるための孔である。ルーメン21を通じて、体外から胃の内部へ栄養剤が供給される。ルーメン21はシャフト20の基端と先端とを繋ぐ方向に延在するように設けられる。すなわちルーメン21の軸線方向とはシャフト20の基端と先端とを繋ぐ方向である。以下、単に軸線方向といったときはルーメン21の軸線方向を意味する。図3(a)に図示されるように本実施形態では、ルーメン21を形成するシャフト20の内壁の一部が、軸線方向の中途において基端側から先端側に向かって窄まる形状のテーパー形状に形成されている。
図5に図示されるように、本実施形態においてルーメン21の断面の形状は、略円形である。ルーメン21の断面の形状は多角形状等でもよい。また、本実施形態では、先端側から見てシャフト20の中央にルーメン21が設けられているが、これに限られない。先端側から見たときのシャフト20の中央とルーメン21の中央がずれるようにルーメン21が形成されていてもよい。
【0016】
図1(a)に図示されるように本実施形態において、シャフト20の基端側には、体表当接部40が設けられている。体表当接部40は、胃瘻カテーテル100を腹部に設置したとき腹部の体表面(図示せず)に当接することにより胃瘻カテーテル100が瘻孔内に埋もれることがないように体外に固定するための部位である。体表当接部40は、シャフト20の軸線方向に垂直な少なくとも一方向においてシャフト20よりも大きく形成されている。本実施形態における体表当接部40は、軸線方向に垂直な一方向の両側においてシャフト20よりも大きく形成されている。すなわち、体表当接部40とシャフト20とは、合わせてT字形状となるように形成されている。体表当接部40にはルーメン21と連通する開口(図示せず)が形成されており、栄養剤は当該開口およびルーメン21を通じて胃の内部へ供給される。体表当接部40はストラップ41を有しており、ストラップ41には開口を封止するための蓋部42が形成されている。
体表当接部40とシャフト20とは、同一部材で一体的に形成されていてもよく、別部材として形成されて固着または組み合わせて本体部を構成していてもよい。
【0017】
バンパー10は、胃瘻カテーテル100が使用者の腹部に設置されたときに胃の内部に配置される部材である。図5に図示されるように、後述するキャップ30によって径方向の内向きの外力を与えていない自然状態において、バンパー10は、軸線方向から見たときシャフト20(または瘻孔)の寸法および形状よりも大きな寸法および形状を有している。換言すれば、軸線方向から見たバンパー10の外周縁の全ては、軸線方向から見たシャフト20(または瘻孔)の外周縁よりもシャフト20の径方向の外側に配置されている。ここで、シャフト20の断面が円形状か多角形状かに関わらず、シャフト20の径方向とは、シャフト20の軸線からシャフトの外側面に放射状に向かう方向とする。以下、シャフト20における径方向を単に径方向と呼称することがある。
軸線方向からみてバンパー10がシャフト20(または瘻孔)よりも大きな寸法および形状を有している状態をバンパー10が拡径している、または拡径状態であると呼称する。縮径状態とは、軸線方向からみて、バンパー10が拡径状態よりも小さな寸法または形状を有していることをいう。拡径状態から縮径状態に遷移することを縮径するといい、縮径状態から拡径状態に遷移することを拡径するという。また、後述する線状部材50(付勢部51)についても同様に拡径状態、または縮径状態の語を用いることがある。
【0018】
バンパーが有する可撓性とは、バンパー10の一部(後述する外層12または内層13等)を折畳んだり押潰したりしてバンパー10を縮径状態にできる程度に十分な柔軟性を有し、また縮径状態のバンパー10が自己拡開力により拡径状態に復元することをいう。
可撓性を有するバンパー10は、外力により折畳まれ、または押潰されて縮径状態に変形可能であるが、外力が弱まった、または外力を受けない状態になると、自己の復元力によって拡径状態に復元する。
また、バンパー10の少なくとも一部が可撓性を有していればよい。バンパー10の全体が可撓性を有していてもよく、一部のみが可撓性を有していてもよい。バンパー10の一部のみが可撓性を有する場合は、他の一部は剛直であってもよく、または折畳み可能であるが元の形状への復元力を有していなくてもよい。例えば、後述する大径縁11aおよびその近傍の膜11の一部のみが可撓性を有して、後述する内層13、先端面16および側周面17は薄膜に形成されて折畳み可能であるが自己の復元力によって折畳みを解消できないものであってもよい。
バンパー10の拡径状態への復元は、後述する線状部材50等の他の部材の復元力の補助を受けてもよい。
【0019】
本実施形態における拡径状態のバンパー10は、図5に図示されるように、軸線方向からみて外縁が星形(六芒星)形状となるように形成されている。また、バンパー10の先端側には、開口部14が設けられている。開口部14は、ルーメン21と連通している。本実施形態において開口部14の形状は軸線方向からみたバンパー10の形状と同じで星形形状であり、開口部14の寸法はバンパー10の最大径よりも小さく、ルーメン21の最大径よりも大きい。本実施形態に代えて、開口部14が軸線方向からみたときのバンパー10の最大径となるようにしてもよい。
【0020】
図3(a)に図示されるように、バンパー10は気体透過性の膜11(本実施形態における後述する外層12および内層13)と、当該膜11に覆われた中空部15とを有する。
ここでバンパー10における膜11とは、バンパー10のうち、上述の可撓性を有して薄く形成された部分である。膜11は、例えばシリコーンゴム、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂材料等の樹脂材料によって成形されていることが好ましい。自然状態のバンパー内の体積(中空部15の体積)の下限は好ましくは1000[mm]であり、より好ましくは1400[mm]である。同体積の上限は好ましくは2000[mm]であり、より好ましくは1700[mm]である。膜11の厚さの下限は好ましくは0.1[mm]であり、より好ましくは0.2[mm]である。同厚さの上限は好ましくは0.5[mm]であり、より好ましくは0.3[mm]である。また、中空部15を画成する膜11の総面積の下限は好ましくは500[mm]であり、より好ましくは800[mm]である。同面積の上限は好ましくは1500[mm]であり、より好ましくは1000[mm]である。
ここで気体透過性とは、一定時間あたり一定量の気体が膜を通じて移動できることを言う。より具体的には、膜11には、外見上、ヒトが目視可能な大きさの孔が形成されておらず、微細な通気孔が形成された微多孔膜であり、気体は当該通気孔を通じて膜11を通過することができる。膜11の有する気体透過性は低く、具体的には、ヒトが肉眼で目視可能な下限サイズの孔を通じて出入りする単位時間あたりの気体の通過量よりも、膜11全体を介した気体の通気量の方が小さいことが好ましい。膜11の気体透過性について、膜11の気体透過係数(常温における窒素ガスの気体透過係数)の下限は好ましくは0.05[cm/24hrs・atm]であり、さらに好ましくは0.1[cm/24hrs・atm]である。当該気体透過係数の上限は好ましくは0.5[cm/24hrs・atm]であり、さらに好ましくは0.3[cm/24hrs・atm]である。ここでいう膜11の気体透過性とは、中空部15の内外の圧力差を1気圧としたときに膜11を24時間あたりに通過する空気の体積[cm]である。また、胃瘻カテーテル100を真空減圧してバンパー10を縮径状態にした状態から大気圧曝露した場合に、バンパー10が自然状態(拡径状態であり、かつ閉空間60が大気圧である状態)に復元するまでの時間(以下、復元時間)の下限は15分以上が好ましく30分以上がより好ましい。上限は90分以下が好ましく60分以下がより好ましい。真空減圧状態から大気圧下で自然状態に復元する時間が30分以上であることで、大気圧下に一定時間静置した胃瘻カテーテル100についてキャップ30が脱離し始めて即座にバンパー10が拡径しようとしてキャップ30の脱離不良が発生することが抑制される点で好ましい。また、60分以下であることで、胃瘻カテーテル100を留置して所定の時間が経過すれば胃瘻カテーテル100の抜け防止の効果が得られ、胃瘻カテーテル100留置後の使用者の拘束時間を短縮できる点で好ましい。なお、後述するように、バンパー10が減圧後の縮径状態から自然状態に至るときには、気体は膜11の通気孔を通じて中空部15へ流入するだけでなく、部材間の隙間を通じても中空部15へ流入する。しかしながら、中空部15への気体の流入経路は膜の通気孔が主たる経路であり、上述のバンパー10の復元時間は膜11の気体透過性におよそ依存する。また、仮に、部材間の隙間を通じた気体の流入量(後述する部材間通気量)が、膜11の通気孔を通じた気体の流入量(後述する膜透過通気量)と同程度であったとしても、バンパー10の復元時間は最短で上述の時間の半分になるに過ぎず、上述の効果を得るためには十分である。
膜11の一部のみが気体透過性を有していてもよく、膜11の全体が気体透過性を有していてもよい。膜11の一部のみを薄膜に形成して気体透過性を有するように構成してもよく、膜11の一部のみを気体透過性を有する素材で形成してもよい。
【0021】
中空部15とは、バンパー10内部に設けられた空洞部分である。本実施形態では、中空部15は、径方向におけるシャフト20の先端部の外側を一周するように設けられている。すなわち、中空部15はシャフト20の周方向に延在している。後述するように本実施形態において中空部15は基端側の一部を除いた略全体を膜11(外層12および内層13)に覆われて取り囲まれることにより形成されているが、これに限られない。すなわち、膜11は中空部15の少なくとも一部を覆っていればよく、中空部15は全体がバンパー10の膜11に覆われている必要はない。一部がバンパー10に覆われて他の一部はバンパー以外の部材に覆われていてもよい。少なくとも径方向において中空部15の外側は膜11に覆われていることが好ましい。例えば、中空部15の径方向の外側は膜11に覆われており、径方向の内側はシャフト20の周面によって画成されて(覆われて)いてもよい。
また、中空部15の一部は膜11または他の部材に覆われており、他の一部は他の空間と通じていてもよい。本実施形態では、中空部15は基端側において後述するようにサブルーメン22における先端側空間22aと通じている。
【0022】
本実施形態においては、図3(a)に図示されるように、バンパー10は外層12および内層13を有する。外層12とは、径方向において中空部15の外側を覆う部材であり、バンパー10の外側を構成する薄膜の部材である。内層13は中空部15の径方向の内側を覆う部材であり、径方向においてバンパー10の内側を構成する薄膜の部材である。換言すると、外層12と内層13との間には上述の中空部15が存在している。
本実施形態に代えて、外層12と内層13とが一体となった膜11が中空部15を覆っていてもよい。この場合において、膜11のうち径方向において中空部15の外側を覆う一部を外層12、中空部15の内側を覆う一部を内層13と言う。
【0023】
図2(a)に図示されるように外層12は基端側の大径部12aと先端側の小径部12bとを含む。本実施形態において大径部12aは、基端側から先端側に向けて中途まで(具体的には後述する大径縁11aまで)は大径となるように形成されて、大径縁11aより先端側に向けては窄まるように形成されている。本実施形態において、大径部12aの基端側から大径縁11aまでの外表面を側周面17と呼び、大径部12aの大径縁11aから先端側までの外表面を先端面16と呼ぶ。
ここでバンパー10の大径縁11aとは、拡径状態において軸線方向からみてバンパー10における最も大径の部分の外周縁である。本実施形態における大径縁11aは、軸線方向の中途において大径部12aを一周する部分である。大径縁11aは、バンパー10の最も先端側の外周縁であっても、軸線方向における中途の外周縁であってもよい。例えば、バンパー10が先端に向けて単調に大径となるラッパ状に形成されている場合は、バンパー10の最も先端側の外周縁(開口部14を形成するバンパー10の一部)が大径縁11aとなる。
大径部12aには径方向の内側に窪んで軸線方向に沿って延在する凹部12a1が、バンパー10の周方向に複数形成されている。本実施形態において、バンパー10の周方向に略等間隔で六つの凹部12a1が形成された結果、軸線方向からみたバンパー10の形状が星形となっている。
小径部12bは、基端側から先端側にかけて軸線方向から見たときの形状および寸法は同じであり、具体的には大径部12aの先端側と同等の形状および寸法である。小径部12bは大径部12aと同様に、径方向の内側に窪んで軸線方向に沿って延在する凹部12b1を、バンパー10の周方向に複数有する。大径部12aの凹部12a1および小径部12bの凹部12b1は軸線方向からみて重なる位置に配置されている。すなわち、大径部12aの凹部12a1と小径部12bの凹部12b1とは軸線方向に続くひと続きの凹部を形成している。
図2(b)に図示されるように、内層13は基端側の傾斜部13aと先端側の先端部13bとを含む。傾斜部13aは、基端側から先端側に向けて大径となるように形成されている。傾斜部13aおよび先端部13bには、径方向の内側に窪んで軸線方向に沿って形成された凹部13a1または凹部13b1がそれぞれ形成されている。また、凹部13a1および凹部13b1は軸線方向から見て重なるよう配置され、傾斜部13aの凹部13a1と先端部13bの凹部13b1とは軸線方向に沿うひと続きの凹部を形成している。
図3(a)に図示されるように、外層12の小径部12bの内側面と内層13の先端部13bの外側面とが接するように外層12と内層13とは固着されている。すなわち、バンパー10を形成する薄膜のうち開口部14を形成する一部は、他の一部(シャフト20に固着している部分を除いて中空部15とバンパー10の外部とを隔てている一部。具体的には先端面16、側周面17および傾斜部13a)と比べて肉厚に形成されている。本実施形態では、後述するように大径縁11aとその近傍は肉厚に形成されている。外層12と内層13との接着部は、大径縁11aとその近傍よりも肉厚でもよく、当該部位よりも肉薄でもよく、当該部位と同程度の厚さを有していてもよい。
【0024】
図2(b)および図3(a)に図示されるように、シャフト20の外面のうち先端側の部分は先端に向かって小径となる階段状に形成されている。シャフト20は、基端側に筒部20aを有し、筒部20aよりも先端側に筒部20aに続けて第一先端部20bを有する。第一先端部20bの外側面は筒部20aの外側面よりも径方向の内側に配置されている。シャフト20は第一先端部20bよりも先端側に第一先端部20bに続けて、さらに第二先端部20cを有する。第二先端部20cの外側面は第一先端部20bの外側面よりも径方向の内側に配置されている。径方向における第一先端部20bの外側において、第一先端部20bの外側面を一周するように外層12の基端側の一部が配置されている。図3(a)に図示されるように本実施形態において、筒部20aの外側面と第一先端部20bの外側面との径方向における高さの差は、外層12の基端側の一部の厚さと同等である。すなわち、筒部20aの外側面と外層12の外側面とはおよそ連なっている。また、第二先端部20cの径方向における外側において、第二先端部20cの外側面を一周するように内層13が配置されている。本実施形態において、第一先端部20bの外側面と第二先端部20cの外側面との径方向における高さの差は、内層13の基端側の一部における厚さよりも大きくなっている。
【0025】
本実施形態において図3(a)に図示されるように、外層12の厚さは、内層13の厚さの少なくとも一部の厚さよりも大きい。外層12の厚さは内層13の所定の一部の厚さより大きければよく、内層13全体における任意の部位の厚さより大きくてもよい。特に、外層12のうち中空部15を覆う領域(本実施形態では先端面16、側周面17および大径縁11aの近傍)の厚さが、内層13のうち中空部15を覆う領域(本実施形態では傾斜部13a)の少なくとも一部の厚さよりも大きいことが好ましい。
本実施形態においては、外層12(後述する肉厚部12c、側周面17、大径縁11aの近傍、先端面16および小径部12bのそれぞれ)の厚さは、内層13全体における任意の部位の厚さより大きい。また、内層13のうち中空部15を覆う傾斜部13aの厚さは特に小さく形成されており、外層12の厚さよりも小さい。言い換えると、内層13のうち、シャフト20や外層12と接合されておらず単膜で存在し、バンパー10の外部と中空部15とを隔てる部位である傾斜部13aは、外層12よりも厚さが小さく気体透過性がより高いことが好ましい。一方、外層12は肉厚部12cが特に厚く形成されているが、外層12のうち中空部15を覆う領域(先端面16、大径縁11aの近傍および側周面17)に限れば、先端面16と側周面17との境界である大径縁11aの近傍が最も厚く形成されている。大径縁11aの近傍の厚さは、内層13の少なくとも一部の厚さより大きい。
外層12を厚く、内層13の一部を薄く形成することによって、バンパー10に自己拡開力を十分に付与しつつ、膜11の気体透過性も担保することができる。外層12を厚く形成することにより、外層12に弾性復元力が付与される。外層12が自身の弾性復元力により自己拡開すると、外層12と接続する内層13は外層12によって拡径方向に引っ張られるため、内層13が展張し、バンパー10全体が拡径状態に復元することが補助される。特に拡径状態において径方向外側へ最も突出している大径縁11aおよびその近傍を厚く構成することによって、大径縁11aおよびその近傍は自身の弾性復元力により拡径し、先端面16および側周面17を拡径方向に引っ張ることで外層12全体および内層13の拡径を補助する。また、内層13の少なくとも一部を薄く形成することによって、当該部分の気体透過性を高めることができる。すなわち、内層13の少なくとも一部が薄く形成された場合は、閉空間60の内外への通気は、薄く形成された当該部分を介して専ら起こる。
また、内層13のうち径方向において最も外側に配置される部位の厚さ(本実施形態においては先端部13b)は、内層13のうち径方向において当該部位よりも内側に配置される部位の厚さよりも大きいことが好ましい。内層13のうち径方向において最も外側に配置される部位の厚さは、他の部材と接着している場合は他の部材を含む厚さであってもよい。例えば、本実施形態においては、内層13のうち最も径方向の外側に配置される先端部13bは、小径部12bと接着することで、先端部13bと小径部12bとを合わせた厚さは、傾斜部13aの厚さおよび第二先端部20cに固着している部分の厚さよりも大きい。内層13のうち径方向の外側に配置されて肉厚である部位は、他の部位よりも大きな自己復元力を有する。このため、内層13はまず当該肉厚部から自己拡開し、当該肉厚部の自己拡開に伴い他の部位が拡径方向に引っ張られ、内層13全体が拡径状態に遷移する。
また、本実施形態のように大径縁11aおよびその近傍が後述する線状部材50(付勢部51)により付勢されている場合には、大径縁11aおよびその近傍を厚く形成することによって、線状部材50の付勢力によって当該部位が不測に破れることを防止できる。
【0026】
キャップ30はバンパー10を縮径状態で保持するための部材である。図6(a)に図示されるように本実施形態においてキャップ30はバンパー10を径方向の外側および先端側において覆っている。本実施形態では、キャップ30の先端において軸線方向からみて中央に孔31が設けられている。孔31は軸線方向にみてルーメン21と重なっている。本実施形態の形状に限られず、キャップ30は、縮径状態のバンパー10の外側を隙間なく覆う緻密な面状のキャップ30でもよく、線状やメッシュ状で隙間がある部材で構成されたキャップ30であって縮径状態のバンパー10を拘束するものでもよい。また、本実施形態では径方向からみてバンパー10の全長さ領域(軸線方向における全長さ領域)をキャップ30が覆っているが、これに代えて、径方向からみてバンパー10の一部長さ領域(軸線方向における一部長さ領域)のみをキャップ30が覆っていてもよい。
キャップ30の内側面は、縮径状態のバンパー10によって径方向の外向きに付勢されている。バンパー10による付勢に耐えるために十分な強度および剛性を有することによって、キャップ30はバンパー10を縮径状態で保持している。
図6(a)に図示されるように、外層12における基端側の一部(肉厚部12c)は、周方向全部において径方向の外側に向かって突出するように肉厚となっている。本実施形態では、キャップ30の内径が、肉厚部12cの外径よりも若干小さく、肉厚部12cはキャップ30の内側面に圧接している。これにより、キャップ30はバンパー10から不測に外れないよう係止されている。本実施形態に代えて、径方向の外向きに突出した突出部がシャフト20(筒部20a)の外側面に設けられ、当該突出部によりキャップ30が外れないよう係止されていてもよい。また、縮径したバンパー10がキャップ30の内側面を径方向の外向きに付勢することによってキャップ30の脱離が防止されていてもよい。
胃瘻カテーテル100を瘻孔に挿通した後、先端側から把持鉗子等の器具によってキャップ30を引っ張って取り外す、またはルーメン21を通じて基端側から挿通されてキャップ30の孔31の直径よりも太径の心棒によって基端側からキャップ30を押し出して突き落とすことによって、キャップ30は胃瘻カテーテル100から脱離する。縮径状態にバンパー10を保持するキャップ30が胃瘻カテーテル100から脱離すると、バンパー10は拡径し、胃瘻カテーテル100が瘻孔から抜去されることを防止する。
キャップ30はセルロース等の易消化性の材料で作られていてもよい。その場合、脱離したキャップ30は体内において消化されるためキャップ30を回収する工程を省略できる。
【0027】
また、キャップ30内において縮径状態のバンパー10は不定形にまたは定形に折畳まれている。本実施形態においては、図6(a)に図示されるように、バンパー10の少なくとも一部は、後述する線状部材50の付勢部51の一部とともに先端側に倒れるように(軸線方向に沿って寝た状態となるように)縮径されている。バンパー10の他の一部も同様に先端側に倒れるように縮径されていてもよく、他の一部は基端側に倒れるように縮径していてもよい。または、本実施形態に代えてバンパー10を全体的に基端側に倒すようにバンパー10を縮径してもよい。他にも、バンパー10を径方向内向きに押潰すようにして縮径してもよい。
【0028】
本実施形態では、図4にて模式的に図示するように、本体部(シャフト20またはシャフト20および体表当接部40)は内部に軸線方向に延在するサブルーメン22を有する。サブルーメン22の一端は中空部15と接している。ここで、本体部とは胃瘻カテーテル100のうちバンパー10およびキャップ30を除く構造をいい、シャフト20および体表当接部40のほか、後述する蓋部42、線状部材50および封止部23を含む。ルーメン21を基端側から先端側に向かって一方向的に通過させる逆止弁(図示せず)をシャフト20または体表当接部40に設ける場合は、かかる逆止弁も本体部に含まれる。サブルーメン22とは、胃瘻カテーテル100を瘻孔から抜去するときに中空部15と体外とを通じさせるための孔である。サブルーメン22は少なくとも一部が軸線方向に延在していればよい。例えば体表当接部40の内部に形成されたサブルーメン22の一部が軸線方向に延在することを要さない。
図3(a)に図示されるようにサブルーメン22はシャフト20の先端の端面において開口しており、当該開口部分においてサブルーメン22と中空部15とは接している。ここでサブルーメン22と中空部15とが接しているとは、本実施形態のようにサブルーメン22内の先端側の空洞部分(後述する先端側空間22a)と中空部15とが連続していることに限られない。後述するように、サブルーメン22の最先端部が封止部23により封止され、サブルーメン22の最先端部に空洞がなく、外見上は封止部23と中空部15とが接していることがある。この場合においても、サブルーメン22の包絡体積の最先端面と中空部15とは接しており、サブルーメン22と中空部15とが接しているというものとする。
また、図4に図示されるように、サブルーメン22の基端部は体表当接部40まで延びており、体表当接部40において屈曲し、さらに体表当接部40の延在方向(軸線方向に対して直交する方向)に延びている。
【0029】
図3(b)に図示されるように、サブルーメン22の一部は封止部23によって封止されている。図3(b)においては、図3(a)に比べて後述する線状部材50を細く図示している。封止部23はサブルーメン22における封止部23より先端側(中空部15側)の空間と基端側の空間との通気を制限する部材である。本実施形態では軸線方向の中途においてサブルーメン22の一部長さ領域がサブルーメン22の壁面とは異なる部材で埋められることによって封止されている。封止部23はシャフト20の壁面と同じ部材で一体的に形成されていてもよく、シャフト20とは別部材でもよい。封止部23は樹脂等の通気量の小さい材料で埋められることで通気量が制限されていてもよく、例えば綿等の通気量の大きい材料が圧縮されてサブルーメン22内に配置されることによって通気量が小さく制限されていてもよい。また、封止部23とサブルーメン22の壁面とは密着していてもしていなくてもよい。後述するように膜透過通気量よりも通気量が大きくならない程度に、封止部23とサブルーメン22との間には若干の隙間が生じていてもよい。同様に、封止部23と後述する線状部材50とは密着していて、サブルーメン22が実質的に気密に閉止されていてもよい。または、封止部23と線状部材50との間には、後述する部材間通気量が大きくならない程度に若干の隙間が生じていてもよい。
封止部23の軸線方向の長さは任意であるが、サブルーメン22の幅(軸線方向と直交する方向における長さ)よりも大きいことが好ましい。
また、サブルーメン22において封止部23よりも基端側の空間はサブルーメン22の外部(胃瘻カテーテル100の外部)と十分に通気していてもよく、サブルーメン22における封止部23よりも基端側の空間とサブルーメン22の外部とは通気が制限されていてもよい。
封止部23の構造としては他にも、封止部23は、通気量を制限するためにサブルーメン22における封止部23が設けられていない他の長さ領域よりも狭くなった部位であってもよい。例えば、封止部23は、サブルーメン22の壁面から突出した弁が設けられた構造でもよい。具体的には、封止部23の先端側(中空部15側)から基端側へ気体が流入することを防ぐため、封止部23は先端側に向けてサブルーメン22から突出した弁でもよい。
封止部23を設けることによって、サブルーメン22を通じた閉空間60の内外への通気を制限することができる。また、仮にバンパー10の膜11が不測に傷ついて膜11に破れが生じた場合、体表面側へサブルーメン22を通じて消化液を含む胃の内容物が漏出することがある。サブルーメン22内に封止部23を設けることにより、胃の内容物がサブルーメン22を通ることを堰き止めることができる。
【0030】
本実施形態においては、サブルーメン22の中空部15と接している一端(先端側の一端)においてサブルーメン22が封止部23によって封止されている。ここで、サブルーメン22における一端が封止されているとは、サブルーメン22の一端部の一部長さ領域が封止されていることをいい、サブルーメン22の最先端が封止されている態様に限定されない。すなわち、サブルーメン22の最先端を含む一端部が封止部23で封止されて、サブルーメン22において封止部23よりも先端側に空間が実質的にない状態でもよく、サブルーメン22において封止部23よりも先端側に若干の空間があってもよい。
サブルーメン22の先端が封止部23によって封止されていることによって、仮にバンパー10の膜11に不測の破れが生じた場合に、胃の内容物がサブルーメン22内に入りこむことが良好に防止できる。これによってサブルーメン22から線状部材50を安定して抜去することができる。
サブルーメン22の最先端を含む一端部が封止部23によって封止されている場合は、胃の内容物のサブルーメン22への侵入を十分に防止することができる。この場合、封止部23の一部がサブルーメン22の先端側の外部に漏出または突出していてもよく、そのような漏出または突出部分がなく封止部23の一端(端面)とシャフト20の端面の一部(本実施形態においては第一先端部20bの端面)とが軸線方向において同程度の高さに配置されていてもよい。
本実施形態では、図3(b)に図示されるようにサブルーメン22において封止部23よりも先端側に若干の空間(先端側空間22a)が設けられている。先端側空間22aが設けられていることによって、封止部23の一部長さ領域がサブルーメン22の先端側の外部に不測に突出または漏出することが防止される。サブルーメン22への胃の内容物の侵入を十分に防止するために、軸線方向における先端側空間22aの長さは、軸線方向における封止部23の長さより小さいことが好ましい。
本実施形態に代えて、封止部23は、サブルーメン22の長さ方向のどこを封止していてもよい。すなわち、封止部23は、サブルーメン22の先端側を封止していてもよく、サブルーメン22の基端側を封止していてもよい。ここで先端側または基端側とは、軸線方向においてシャフト20の中央よりも先端側のいずれか一部の長さ領域または基端側のいずれか一部の長さ領域を意味する。第二実施形態のように、サブルーメン22の基端側の一端を封止部23が封止していてもよい。
【0031】
胃瘻カテーテル100(本体部)は、サブルーメン22に挿通された線状部材50と、線状部材50の抜去用の摘まみ部材43と、を有する。線状部材50は、弾性復元力を有する部材であり、例えば超弾性合金で作られた中実で長尺の部材である。本実施形態では、線状部材50の先端部(付勢部51)は、バンパー10を拡径方向に付勢または縮径方向への変形を制限する付勢部51を有する。図3(a)に図示されるように付勢部51はバンパー10の膜11の径方向の内側、すなわち中空部15に配置される。また、図3(a)および図5に図示されるように拡径状態において付勢部51を構成する線状部材50に囲まれた面は、シャフト20の軸心方向から見て全体として一定の面積を有する。具体的には、拡径状態における付勢部51の面積は、シャフト20(または瘻孔)の断面積より大きい。このため付勢部51は瘻孔から胃瘻カテーテル100が抜けることを防止できる。より具体的には、バンパー10の内部に配置された付勢部51はバンパー10を拡径方向に付勢している、またはバンパー10が縮径状態に変形しようとしたときその変形を防止する。付勢部51によって拡径状態が保たれているバンパー10は、胃瘻カテーテル100が瘻孔から抜けることを防止している。本実施形態では、図3(a)に図示されるように付勢部51は、外層12(特に大径縁11a)の内側に配置されて、大径縁11aにおいて拡径方向に外層12を付勢、または縮径しようとする外層12の変形を制限している。より詳細には、図5に図示されるように、付勢部51は、大径縁11aの少なくとも一部(本実施形態においては星形形状の大径縁11aの凹み部分であり、軸線方向における凹部12a1の中途部分)に内接または近接するようにバンパー10の内部に配置されている。
本実施形態において、図5に図示されるように付勢部51は、線状部材50の端部が一または複数回、円形状に周回するように形成された部分である。付勢部51の形状は、円に限られず多角形状に周回するように形成されていてもよい。付勢部51(周回している線状部材50。以下、周回部51ともいう)は、図5に図示されるように大径縁11aに沿うように配置される。ここで周回部51と大径縁11aとが沿うとは、周回部51と大径縁11aとが互いに近接して配置されていればよく、周回部51の形状と大径縁11aの形状とが一致していなくてもよい。例えば、本実施形態において周回部51は円形状であり、大径縁11aは星形状であるが、周回部51と大径縁11aとは互いに近接して配置されており互いに沿った状態である。
線状部材50はさらにシャフト20の延在方向に沿う軸部52を有する。図3(a)に図示されるように、軸部52の一部はサブルーメン22に配置される。図3(b)に図示されるように、線状部材50(軸部52)は封止部23を貫通している。ここで軸部52が封止部23を貫通するとは、封止部23の略中央を軸部52が貫通することだけでなく、サブルーメン22の縁部を軸部52が通ることによってサブルーメン22の壁面と封止部23との間を軸部52が通ることも含む。
軸部52と周回部51とは、図3(a)または図5に図示されるように、軸線方向に直交する方向に延在する仲介部53によって繋がれている。軸部52と仲介部53との境界は湾曲して形成されている。仲介部53の長さは周回部51の半径よりも短い。
図4に図示されるように、軸部52の基端側の一部は、サブルーメン22に沿って体表当接部40の内部まで延びており、軸部52の基端側の一端は摘まみ部材43に埋込まれる等して固定されている。線状部材50は後述するようにサブルーメン22から抜き取るが、摘まみ部材43は線状部材50を抜き取る際に容易に線状部材50を引き抜けるよう一定の大きさを有した部材である。摘まみ部材43の形は平面状であっても厚みがあってもよく、形状は問わない。
摘まみ部材43は、胃瘻カテーテル100を瘻孔に留置した状態で使用者の体外に配置される部材であって、線状部材50が接続されている。摘まみ部材43は体表当接部40に固定されている。摘まみ部材43は体表当接部40の表面に露出して配置されていてもよく、体表当接部40の内部に埋込まれて胃瘻カテーテル100を抜去する直前に取り出されるものであってもよい。本実施形態では、体表当接部40の一端の一部が摘まみ部材43となっている。
【0032】
胃瘻カテーテル100は内部に膜11と本体部とにより囲まれた閉空間60を有する。中空部15は、閉空間60の少なくとも一部を構成している。ここで閉空間60が膜11と本体部とに囲まれているとは、閉空間60の略全体が膜11(外層12または内層13)と本体部(シャフト20または体表当接部40)とに囲まれていることをいう。図3(a)および図3(b)に図示されるように、本実施形態では、閉空間60は外層12、内層13、シャフト20(特に第一先端部20b)の端面の一部、サブルーメン22の壁面および後述する封止部23の端面によって画成されている。換言すると、本実施形態において、閉空間60は中空部15および後述するサブルーメン22の先端側空間22aを含む。すなわち、本実施形態の閉空間60はサブルーメン22の先端側空間22aを含む点において中空部15と相違する。
中空部15が閉空間60の一部である本実施形態に代えて、閉空間60の全部が中空部15である態様でもよい。すなわち、封止部23がサブルーメン22の最先端に配置されていてサブルーメン22の最先端に実質的に空間がなく、閉空間60が膜11およびシャフト20の端面(封止部23の端面と面一の面)によって画成されていてもよい。
本体部同士または本体部とバンパー10との隙間とは、各部材同士に挟まれた空間を意味し、各部材同士が互いに密着しており、各部材同士の間に実質的に空間がない場合は各部材同士の境界部分を意味する。また、本体部同士の隙間とは、本体部を構成する異なる部材同士の隙間を言う。例えば、本実施形態における本体部同士の隙間とは、サブルーメン22の壁面と後述する封止部23との隙間、および線状部材50と封止部23との隙間である。また、本実施形態における本体部とバンパー10との隙間とは、外層12とシャフト20(第一先端部20bの外側面および筒部20aの先端側の端面)との隙間および内層13とシャフト20(第二先端部20cの外側面および第一先端部20bの端面の一部)との隙間である。
【0033】
閉空間60は液密に閉じられた空間である。閉空間60への空気の出入りは、膜11を透過して行われることが支配的である。膜11を透過する閉空間60の内外への通気量(以下、膜透過通気量)は、本体部同士またはバンパー10と本体部との隙間を介した閉空間60の内外への通気量(以下、部材間通気量)よりも大きい。膜透過通気量とは、膜11の面部分を透過する気体の通気量および固着している外層12(小径部12b)と内層13(先端部13b)との境界を通じて透過する気体の通気量が含まれる。本実施形態において、部材間通気量とは、外層12とシャフト20との隙間、内層13とシャフト20との隙間、および封止部23を設けたサブルーメン22を通じた通気量(例えば、封止部23と後述する線状部材50との隙間および封止部23とサブルーメン22の壁面との隙間を通じた通気量を含む)である。膜透過通気量は、部材間通気量の好ましくは10倍と等しいかそれよりも大きく、より好ましくは25倍と等しいかそれよりも大きい。また、膜透過通気量は、封止部23を設けたサブルーメン22を通じた通気量の好ましくは10倍以上、より好ましくは25倍以上である。
特に、膜透過通気量が、封止部23を設けたサブルーメン22を通じた通気量よりも大きいことが好ましい。さらには膜11の面部分を介した通気量が、封止部23を設けたサブルーメン22を通じた通気量よりも大きく、部材間通気量よりも大きいことが好ましい。具体的には、膜11の面部分を介した通気量が、封止部23を設けたサブルーメン22を通じた通気量の好ましくは10倍以上、より好ましくは25倍以上である。
このように閉空間60の内外への通気量が調整されていることによって、閉空間60の内外への気体の移動は専ら膜11の透過を通じて(特に膜11の面部分における透過を通じて)行われる。また、上述のように、膜透過通気量は、ヒトが肉眼で目視可能な下限サイズの孔を通じた気体の通過量よりも小さく制限されており、すなわち、閉空間60の内外への通気量は小さく制限されている。
胃瘻カテーテル100が瘻孔に設置される前から胃瘻カテーテル100が瘻孔から抜去される前(後述するように閉空間60の内外を通気させる前)まで、膜透過通気量が部材間通気量よりも大きい状態が維持されている。
【0034】
以下、キャップ30を脱離させた後におけるバンパー10の拡径の態様について説明する。図6(b)は、図6(a)のようにバンパー10を拘束するキャップ30が取り外されてバンパー10が拡径途中の胃瘻カテーテル100を表す縦断面図である。
キャップ30が脱離すると、胃瘻カテーテル100の復元力によるバンパー10の拡径に伴って膜11が展張し、膜11を透過して閉空間60へ気体(空気)が流入して閉空間60の体積が増加する。胃瘻カテーテル100の復元力とは、元形状に復元しようとする線状部材50が後述する膜11に対して与える付勢力によってバンパー10が拡径状態に復元しようとする復元力でもよく、バンパー10自身が拡径状態に復元しようとすることによる復元力でもよく、これら両方による復元力であってもよい。
本実施形態においては、バンパー10自身の復元力(特に大径縁11aの近傍の肉厚部分の復元力を含む)および線状部材50が大径縁11aの近傍を径方向外向きに付勢する付勢力によって、バンパー10は拡径する。具体的には、バンパー10の一部(本実施形態においては大径縁11aおよびその近傍)が拡径方向へ移動し、この移動に伴って当該一部と続いている膜11(本実施形態においては先端面16および側周面17)が面内方向に引っ張られるようにして張り広げられる。例えば、本実施形態において、側周面17は先端側および基端側から、先端面16は大径縁11a側および開口部14側から引っ張られる。膜11が展張すると、中空部15は中空部15の外方へと広げられる。中空部15内の圧力を維持するため、バンパー10の膜11を透過して気体が中空部15へと流入し、バンパー10が自発的に膨張する。例えば、中空部15が外方に広がろうとすると、上述したように中空部15(閉空間60)への気体の流入は小さく制限されているため、一時的に中空部15(閉空間60)が陰圧となる。膜透過通気量は部材間通気量よりも大きいため、陰圧となった中空部15を含む閉空間60へ、専ら膜11を透過して気体が流入し、中空部15内部の陰圧が解消される。このように、膜11の展張に伴って中空部15へ膜11を透過して気体が流入することが連続的に行われることで、中空部15が自発的に膨張する。
図6(b)においては、拡径途中において膜11のうち線状部材50によって直接付勢される大径縁11aを除く一部(先端面16または側周面17)が平面となるように張られている態様を図示しているがこれに限られない。拡径途中の中空部15が陰圧である状態において、膜11のうち線状部材50によって直接付勢される大径縁11aを除く一部は、中空部15側に凹むように撓んでいてもよい。
【0035】
このように中空部15の体積が増加して膨張したことによって、バンパー10は軸線方向から見てシャフト20よりも十分大径となるため、胃瘻カテーテル100が瘻孔から抜けそうになると腹壁に当接して胃瘻カテーテル100が瘻孔から抜けることを防止できる。具体的には、キャップ30が脱離して閉空間60の体積が増加すると、閉空間60に存在する気体が膜11に対して与える応力によってバンパー10の縮径状態への変形が制限される。これにより、バンパー10が拡径状態を維持するため、胃瘻カテーテル100が不測に抜けることが防止される。例えば胃瘻カテーテル100が基端側に引っ張られてバンパー10が胃壁に押し当てられることによって、バンパー10が外力を受けて縮径状態に変形しようとすることがある。バンパー10が胃壁に押し当てられた場合、閉空間60(中空部15)は圧迫されて陽圧になることで閉空間60内の気体は専ら膜11を透過して漏れようとする。一方、膜透過通気量は十分小さいため、閉空間60内の気体が漏出する速度は小さく、所定の時間、気体は閉空間60に留まり続けて閉空間60の内部の陽圧が維持される。当該所定の時間において、閉空間60の内部に存在する気体が膜11を閉空間60の外方に向けて付勢し続けるため、バンパー10の縮径が制限される。すなわち、バンパー10の拡径状態が維持され、胃瘻カテーテル100が瘻孔から抜けることが防止される。
線状部材50を有する本実施形態においては、上述のように中空部15内の気体によってバンパー10の縮径状態への変形が制御されていることに加えて、線状部材50の付勢力によってもバンパー10の縮径状態への変形が制御されている。
【0036】
(胃瘻カテーテルの抜去方法)
以下、胃瘻カテーテル100を瘻孔から抜去する方法を説明する。
胃瘻カテーテル100は後述するように線状部材50を有しており、線状部材50を抜去することによって閉空間60の内部と外部とを通気させてバンパー10を縮径させた後、胃瘻カテーテル100は抜去される。
【0037】
胃瘻カテーテル100を抜去する場合、はじめに線状部材50を胃瘻カテーテル100から抜き取る。本実施形態においては体表当接部40の一端である摘まみ部材43を引くことで中空部15およびサブルーメン22から線状部材50を除去する。摘まみ部材43とともに線状部材50が抜去されると、サブルーメン22の基端側が開口し、また、線状部材50が貫通していた封止部23に通孔(以下、封止部孔)が形成される。これにより、基端側の開口および封止部孔を通じて閉空間60の内外への通気量が増加する。すなわち、部材間通気量が膜透過通気量よりも大きくなり、閉空間60の内外への通気は専らサブルーメン22を通じて行われるようになる。なお、封止部23に通孔が形成された後においても、通孔形成前に閉空間60であった部分について閉空間60と呼称する。
この状態において胃瘻カテーテル100を瘻孔から抜き取ろうとすると、バンパー10は胃壁に当接しながら自然に縮径し、胃壁に対して大きな応力を与えずに胃の内部から取り除かれることができる。具体的には、胃壁によってバンパー10を外から内向きに押す応力が与えられると、中空部15が圧迫されて陽圧となる。中空部15内の気体はサブルーメン22を通じて胃瘻カテーテル100の外部へ即座に漏出し、中空部15内の陽圧は解消されるため、中空部15内の気体は膜11を介して胃壁に対して強い応力を与えることはない。また、バンパー10の膜11は胃瘻カテーテル100の抜去に伴う胃壁からの応力によって容易に変形する程度の柔軟性を有するため、瘻孔付近の胃壁に当接することによって容易に縮径状態に変形できる。このように、線状部材50が除去されたバンパー10は瘻孔を挿通しようとすると、中空部15の体積を減少させながら、胃壁に大きな応力を与えずに縮径し、瘻孔を抜けることができる。
また、本実施形態においては、膜11を内側から径方向の外向きに付勢する線状部材50(付勢部51)がバンパー10内から除去されることによって、より容易にバンパー10は縮径する。
【0038】
(胃瘻カテーテルの製造方法)
以下、本実施形態の胃瘻カテーテル100を製造するための方法(以下、本方法という場合がある。)について説明する。
図1は、本方法の胃瘻カテーテル100の構成を示す模式図である。
【0039】
はじめに、本方法の概要について説明する。
上述のように、本方法で製造する胃瘻カテーテル100は、ルーメン21が通孔形成されてルーメン21の軸線方向に延在するシャフト20およびシャフト20の基端に設けられた体表当接部40を含む本体部と、シャフト20の先端に設けられた可撓性で縮径可能なバンパー10と、縮径状態のバンパー10に着脱可能に外装されてバンパー10を縮径状態で保持するキャップ30と、を備える。バンパー10は気体透過性の膜11と膜11に覆われた中空部15とを有し、中空部15は膜11と本体部とにより囲まれた閉空間60の少なくとも一部を構成する。
本方法は、脱気工程と装着工程とを含む。
【0040】
つぎに、本方法を詳細に説明する。
脱気工程においては、中空部15の気体の少なくとも一部が除去されて中空部15の体積が小さくなる。中空部15内部の気体の略全部を除去してもよく、中空部15内部の気体の一部のみを除去してもよい。ここでいう気体とは空気である。
本実施形態においては、バンパー10が拡径状態である胃瘻カテーテル100の外気を閉空間60に比べて負圧、または実質的に真空にすることで、バンパー10の膜11を透過して中空部15内部の気体が除去される。真空減圧直後の膜11内外の気圧差(中空部15と外気との気圧差)の下限は好ましくは0.05[MPa]であってより好ましくは0.08[MPa]である。同気圧差の上限は好ましくは0.4[MPa]であってより好ましくは0.2[MPa]である。またはバンパー10を圧迫して中空部15を胃瘻カテーテル100の外部よりも陽圧にすることでバンパー10の膜11を透過して中空部15内部の気体が除去される。このとき、一部の気体は中空部15から部材間(本体部同士または本体部と膜11)の隙間を通じて閉空間60の外部へ通気してもよい。
中空部15の気体が脱気されると、中空部15の体積が減り、膜11の一部はバンパー10を除く他の部材(シャフト20または線状部材50等)に沿うように配置される。例えば図7に図示されるように、側周面17の基端側の一部はシャフト20の外周面および軸部52に沿っており、側周面17の先端側の一部は付勢部51の延在方向に沿って配置されている。また、他の部材に沿うように配置された膜11(本実施形態においては例えば側周面17)は面内方向から張力を与えられていてもよい。
また、拡径状態において曲折するように賦形された膜11は、脱気後において当該曲折部分を折り目として平面状に潰れていることがある。例えば、本実施形態においては、拡径状態において外層12は大径縁11aにて曲折するように賦形されて形成されている。脱気後は、図7に図示されるように、外層12のうち大径縁11aを挟んだ先端面16と側周面17の基端側の一部とは略平行状態で配置されている。すなわち、大径縁11aを折り目として外層12は平面状に折畳まれるように潰されている。また、図2(a)および図2(b)に図示されるように外層12および内層13は襞状に賦形されている。外層12または内層13も、脱気工程後に襞の形状に合わせて面状に折畳まれていてもよい。具体的には、襞の稜線を折り目として、当該稜線を挟んだ一方側の一部の面と他方側の一部の面とが沿うように膜11が折畳まれていてもよい。
このように曲折するよう賦形された曲折部分を折り目とした膜11が折畳まれることに代えて、脱気工程の結果、曲折するように賦形された曲折部分が平面となるように膜11が押し潰されていてもよい。例えば先端面16と側周面17とが略同一面上となるように曲折部分が押潰されていてもよい。同様に襞の稜線を挟んだ一方側と他方側との面が略平面となるように襞が潰されていてもよい。
本実施形態に代えて、バンパー10に外力を与えていない自然状態の中空部15の体積よりも中空部15の体積が小さくなるように膜11を押潰した、または折畳んだ状態でバンパー10をシャフト20に固着させることで、脱気工程を行ってもよい。
【0041】
装着工程において、脱気されたバンパー10が折り畳まれ、折り畳まれたバンパー10に対して閉空間60の少なくとも一部がキャップ30の内部に配置されるようにキャップ30が着脱可能に外装される。
上述したように、バンパー10は定形に折畳まれて縮径されていてもよく、不定形に折畳まれて縮径されていてもよい。上述のように脱気工程後において曲折部分を折り目として膜11の一部の面同士が沿っている場合、面同士の沿った状態が維持されながらバンパー10は折畳まれる。そのため、縮径状態のバンパー10においては、曲折するよう賦形されていた膜11の曲折部分を折り目として膜11が折畳まれて、当該折り目を挟んだ両側の面が互いに対向するように配置されている。例えば、図6(a)に図示されるように、先端面16と側周面17の先端側の一部とは、大径縁11aを折り目に折畳まれて、互いに対向している。ここで面同士が対向しているとは、当該面同士がなす角度が拡径状態よりも小さいことをいい、好ましくは当該面同士が互いに略平行であることをいう。
キャップ30は、潰れて縮径した閉空間60の全部、特に中空部15の全部がキャップ30の内部に配置されるようにバンパー10に外装されてもよく、閉空間60、特に中空部15の一部のみを覆うようにバンパー10に外装してもよい。中空部15をキャップ30の内部に配置することで、外力を与えていない自然状態(拡径状態)よりも中空部15の体積が小さい状態を維持することができる。
バンパー10を折畳んだ後にバンパー10にキャップ30を外装してもよく、バンパー10を折畳みながらキャップ30をバンパー10に外装してもよい。例えば、バンパー10の一部のみを折畳んで、バンパー10をキャップ30に押し込みながらバンパー10をさらに折畳んでもよい。
脱気工程後からキャップ30を外装するまでの間において、膜11を透過して気体が閉空間60へ流入していてもよいが、キャップ30をバンパー10に外装する直前において中空部15の体積が自然状態の中空部15の体積よりも小さいことが好ましい。
脱気工程後にバンパー10を縮径させ、またキャップ30を外装することで、中空部15の体積が小さくなるためバンパー10を容易に縮径させ、またキャップ30内に収めることができる。
本実施形態に代えて、装着工程を実施した後に脱気工程を実施してもよい。
【0042】
<第二実施形態>
図8は本実施形態にかかる胃瘻カテーテル100の一例を示す模式的な縦断面図である。
はじめに、本実施形態の胃瘻カテーテル100の概要について説明する。
本実施形態にかかる胃瘻カテーテル100は、第一実施形態と同様に、ルーメン21が通孔形成されてルーメン21の軸線方向に延在するシャフト20およびシャフト20の基端に設けられた体表当接部40を含む本体部と、シャフト20の先端に設けられた可撓性で縮径可能なバンパー10と、縮径状態のバンパー10に着脱可能に外装されてバンパー10を縮径状態に保持するキャップ30と、を備える。バンパー10は気体透過性の膜11と膜11に覆われた中空部15とを有し、中空部15は膜11と本体部とにより囲まれた閉空間60の少なくとも一部を構成する。また、膜11を透過する閉空間60の内外への通気量が、本体部同士またはバンパー10と本体部との隙間を介した閉空間60の内外への通気量よりも大きい。また、本体部は軸線方向に延在するサブルーメン22を有し、サブルーメン22の一端は中空部15と接している。
本実施形態の胃瘻カテーテル100は、閉空間60がシャフト20の基端側まで延在している点および線状部材50を有しないという点で上記第一実施形態と相違する。
本実施形態の胃瘻カテーテル100は、サブルーメン22の基端側の一部が封止部23によって封止されており、サブルーメン22の封止部23よりも先端側の一部が閉空間60を構成していることを特徴とする。
【0043】
次に、本実施形態の胃瘻カテーテル100について詳細に説明する。
サブルーメン22の基端側の一部が封止部23によって封止されているとは、軸線方向におけるシャフト20の中央よりも基端側に位置するサブルーメン22の一部長さ領域が封止部23によって封止されていることを意味する。好ましくは、体表当接部40内においてサブルーメン22が封止されている。本実施形態のように、サブルーメン22の基端側の一端が閉口して封止されていてもよい。すなわち、封止部23が体表当接部40と一体であって封止部23がサブルーメン22の一端に配置されていてもよい。
閉空間60はサブルーメン22における封止部23よりも先端側の一部長さ領域またはサブルーメン22の全長さ領域、および中空部15を含む。本実施形態においては、サブルーメン22の全長さ領域が閉空間60の一部を構成する。
【0044】
本実施形態では、閉空間60が基端側まで延びていることによって、胃瘻カテーテル100を瘻孔から抜去する際に体表側から容易に閉空間60の内外を通気させることができる。具体的には、サブルーメン22の基端側の一部に孔を形成することで閉空間60の内外を通気させることができる。例えば、体表当接部40とシャフト20とを切り離すことによってサブルーメン22を開口させることができる。他にも、サブルーメン22を含むように体表当接部40の一端を切り取ることによって(例えば図8における一点鎖線Iに沿って体表当接部40を切ることによって)、サブルーメン22を開口させることができる。
閉空間60の内外が通気すると、第一実施形態と同様に、バンパー10は容易に収縮して瘻孔を通ることができる。
【0045】
また、本実施形態の胃瘻カテーテル100は線状部材50を有しておらず、キャップ30を脱離するとバンパー10が自身の復元力のみによって拡径状態に至ることができる程度に十分な復元力をバンパー10自身が有している。すなわち、膜11は一定の厚みを有するまたは弾性の大きい材料で形成される等して所定の弾性を有し、キャップ30が脱離すると膜11自身の復元力によって拡径状態に復元する。ただし、胃瘻カテーテル100の抜去時の中空部15の気体による応力を受けないときにおいて、胃壁に対して強い応力を与えずに容易に縮径できる程度には、本実施形態のバンパー10(特に膜11)は柔軟性を有していることが好ましい。
【0046】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
以下の変形例は適宜組み合わせることができる。
【0047】
第二実施形態においてサブルーメン22が設けられていなくてもよい。すなわち、閉空間60が基端側に延びておらず、閉空間60がおよそ中空部15のみから構成されていてもよい。この場合、胃瘻カテーテル100を瘻孔から抜去するためには、バンパー10に通孔を形成して閉空間60の内外を通気させればよい。例えば、経口によって胃の内部へ配置した器具によってバンパー10の膜11に通孔を形成してもよく、ルーメン21から挿入した器具によって膜11(特に内層13)に通孔を形成してもよい。
【0048】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)ルーメンが通孔形成されて前記ルーメンの軸線方向に延在するシャフトおよび前記シャフトの基端に設けられた体表当接部を含む本体部と、
前記シャフトの先端に設けられた可撓性で縮径可能なバンパーと、
縮径状態の前記バンパーに着脱可能に外装されて前記バンパーを縮径状態に保持するキャップと、を備える胃瘻カテーテルであって、
前記バンパーは気体透過性の膜と前記膜に覆われた中空部とを有し、
前記中空部は前記膜と前記本体部とにより囲まれた閉空間の少なくとも一部を構成し、
前記膜を透過する前記閉空間の内外への通気量が、前記本体部同士または前記バンパーと前記本体部との隙間を介した前記閉空間の内外への通気量よりも大きく、
前記キャップが脱離すると、前記胃瘻カテーテルの復元力による前記バンパーの拡径に伴って前記膜が展張し、前記膜を透過して前記閉空間へ気体が流入して前記閉空間の体積が増加する、胃瘻カテーテル。
(2)前記キャップが脱離して前記閉空間の体積が増加すると、前記閉空間に存在する気体が前記膜に対して与える応力によって前記バンパーの縮径状態への変形が制限される、(1)に記載の胃瘻カテーテル。
(3)前記本体部は前記軸線方向に延在するサブルーメンを有し、
前記サブルーメンの一端は前記中空部と接している、(2)に記載の胃瘻カテーテル。
(4)前記サブルーメンに挿通された線状部材と、
前記線状部材の抜去用の摘まみ部材と、を有し、
前記摘まみ部材は前記体表当接部に固定されており、
前記サブルーメンの一部は封止部によって封止されており、
前記線状部材は前記封止部を貫通している、(3)に記載の胃瘻カテーテル。
(5)前記サブルーメンの前記一端において前記サブルーメンが前記封止部によって封止されている、(4)に記載の胃瘻カテーテル。
(6)前記バンパーは、前記シャフトの径方向において前記中空部の外側を覆う外層と前記中空部の前記径方向の内側を覆う内層とを有し、
前記外層の厚さは前記内層の一部の厚さよりも大きい、(5)に記載の胃瘻カテーテル。
(7)前記線状部材の先端部が前記中空部に配置され、前記バンパーを拡径方向に付勢、または前記バンパーの縮径方向への変形を制限している、(6)に記載の胃瘻カテーテル。
(8)前記サブルーメンの基端側の一部が封止部によって封止されており、
前記サブルーメンの前記封止部よりも先端側の一部が前記閉空間を構成している、(3)に記載の胃瘻カテーテル。
(9)前記膜を透過する前記閉空間の内外への前記通気量は、前記本体部同士または前記バンパーと前記本体部との隙間を介した前記閉空間の内外への前記通気量の10倍と等しいか、それよりも大きい、(7)または(8)に記載の胃瘻カテーテル。
(10)ルーメンが通孔形成されて前記ルーメンの軸線方向に延在するシャフトおよび前記シャフトの基端に設けられた体表当接部を含む本体部と、
前記シャフトの先端に設けられた可撓性で縮径可能なバンパーと、
縮径状態の前記バンパーに着脱可能に外装されて前記バンパーを縮径状態で保持するキャップと、を備える胃瘻カテーテルの製造方法であって、
前記バンパーは気体透過性の膜と前記膜に覆われた中空部とを有し、
前記中空部は前記膜と前記本体部とにより囲まれた閉空間の少なくとも一部を構成し、
前記中空部の気体の少なくとも一部が除去されて前記中空部の体積が小さくなる脱気工程と、
脱気された前記バンパーが折り畳まれ、折り畳まれた前記バンパーに対して前記閉空間の少なくとも一部が前記キャップの内部に配置されるように前記キャップが着脱可能に外装される装着工程と、を含む胃瘻カテーテルの製造方法。
【符号の説明】
【0049】
100 胃瘻カテーテル
10 バンパー
11 膜
11a 大径縁
12 外層
12a 大径部
12a1 凹部
12b 小径部
12b1 凹部
12c 肉厚部
13 内層
13a 傾斜部
13a1 凹部
13b 先端部
13b1 凹部
14 開口部
15 中空部
16 先端面
17 側周面
20 シャフト
20a 筒部
20b 第一先端部
20c 第二先端部
21 ルーメン
22 サブルーメン
22a 先端側空間
23 封止部
30 キャップ
31 孔
40 体表当接部
41 ストラップ
42 蓋部
43 摘まみ部材
50 線状部材
51 付勢部、周回部
52 軸部
53 仲介部
60 閉空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8