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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110524
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】表面保護フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20240808BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20240808BHJP
   C09J 7/29 20180101ALI20240808BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240808BHJP
   B32B 27/32 20060101ALN20240808BHJP
【FI】
B32B27/00 B
C09J7/38
C09J7/29
C08J5/18 CES
B32B27/32 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015138
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000222462
【氏名又は名称】東レフィルム加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】井上 則英
(72)【発明者】
【氏名】赤澤 雅
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4J004
【Fターム(参考)】
4F071AA16
4F071AA17
4F071AA18
4F071AA20
4F071AE05
4F071AE09
4F071AF28
4F071AH12
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC16
4F100AK01A
4F100AK05B
4F100AK06A
4F100AK68B
4F100AT00B
4F100BA03
4F100BA07
4F100EH20
4F100EJ91
4F100GB41
4F100JA06A
4F100JA06B
4F100JA11A
4F100JA13B
4F100JK16
4F100YY00A
4J004AA07
4J004AA09
4J004AB01
4J004BA02
4J004CA04
4J004CB03
4J004CC03
4J004FA04
(57)【要約】
【課題】ロール状に巻きやすく、フィッシュアイの少ない表面保護フィルムを提供する。
【解決手段】背面層、中間層、粘着層の三層からなり、背面層が主成分として120℃におけるメルトテンションが200mN以上であり、103℃における1/2等温結晶化時間が100秒以上である樹脂からなる表面保護フィルム。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
背面層、中間層、粘着層の三層を有し、
背面層が、無機粒子を含有せず、120℃におけるメルトテンションが200mN以上であり、103℃における1/2等温結晶化時間が100秒以上である樹脂を主成分として有する表面保護フィルム。
【請求項2】
背面層の算術平均粗さRaが0.10μm以上である請求項1記載の表面保護フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面保護フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
家電製品や光学部材、建築材料などに使用される樹脂版、金属板の表面保護として表面保護フィルムが好適に使用されている。こういった表面保護フィルムは樹脂板や金属板といったいわゆる被着体に対して粘着させる必要があるため、片面すなわち粘着層は粘性が高くべたつきの強い樹脂が用いられる。一方、粘着面に対して反対側の面である背面層は、表面保護フィルムをロール状へ巻き取る際の巻き取りやすさや、ロール状から繰り出す際の繰り出しやすさのため、シリカなどの無機粒子などを配合して、その背面層の表面を粗らして、粘着層と背面層の摩擦係数を軽減する手法が取られている。
【0003】
しかしながら、下記特許文献1のように、無機粒子や無機粒子の有機化合物などが配合された背面層では、背面層と搬送ロールなどが接触した場合に無機粒子が脱落する可能性があり、特に異物混入が厳に避けられる状況では、無機粒子が背面層に配合された表面保護フィルムを使用することは望ましくない。また、表面保護フィルムの製膜において、樹脂の押し出し中に無機粒子が凝集し、無機粒子が核となってフィッシュアイが多発する可能性もあり、特に光学部材用の低フィッシュアイが求められる用途には相応しくない。
【0004】
また、上記のような無機粒子によるフィッシュアイや脱落をなくすことを鑑み、無機粒子を配合しないと、背面層表面の粗さがなくなるので粘着層と背面層の摩擦係数が高くなり、表面保護フィルムをロール状に巻き取る際に空気の噛みこみが抜けず巻き上げたロールに凹凸ができるなどロールをきれいに巻き上げることができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-146665号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記問題を解決し、背面層に無機粒子などを配合することなく異物混入やフィッシュアイ発生の恐れがなく、きれいにロール状に巻きあげることができる表面保護フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、次のような構成とすることで目的が達成できることを見い出した。
(1)背面層、中間層、粘着層の三層を有し、背面層が、無機粒子を含有せず、120℃におけるメルトテンションが200mN以上であり、103℃における1/2等温結晶化時間が100秒以上である樹脂を主成分として有する表面保護フィルム。
(2)背面層の算術平均粗さRaが0.10μm以上である(1)に記載の表面保護フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明の表面保護フィルムは、無機粒子を背面層に含むことがないためにフィッシュアイや粒子脱落のおそれが無く、かつ巻き上げ時にきれいにロール状に巻くことができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の表面保護フィルムは、背面層、中間層、粘着層の三層を有し、背面層の主成分となる樹脂の120℃におけるメルトテンションは200mN以上であり、好ましくは200mN以上300mN以下、より好ましくは230mN以上270mN以下である。120℃におけるメルトテンションが200mN未満である場合、口金から吐出された後の樹脂の挙動において、樹脂の収縮が少なく背面層の表面が平滑なまま吐出されるため、背面層と粘着層を重ね合わせたときに滑りにくく、ロール状にスリットして巻き上げる際に空気の噛みこみを排出することができず、巻き上げたロールがきれいにならない。逆に、120℃におけるメルトテンションが300mN超である場合、口金から吐出された後の樹脂の挙動に非常に大きな収縮がかかることがあり、Tダイで表面保護フィルムの樹脂を吐出した場合には樹脂が強く収縮し、うまく引き取れないことがあり、ネックインが多発することがある。また、リングダイで表面保護フィルムの樹脂を吐出した場合には収縮する力が強すぎることがあり、ブロー比が安定せず表面保護フィルムの厚みに大きなムラが発生することがある。尚、ここで言う主成分とは80重量%以上100重量%以下を指す。
【0010】
本発明の表面保護フィルムは、背面層に103℃における1/2等温結晶化時間が100秒以上である樹脂を主成分として用いるが、好ましくは100秒以上200秒以下、より好ましくは120秒以上180秒以下である。103℃における1/2等温結晶化時間が100秒未満である樹脂を使用した場合、樹脂の結晶化にかかる時間は早いが樹脂の結晶部分については多数に小さく結晶化され、結晶部分と非晶部分から構成されるいわゆる海島構造において、結晶部分で構成される島の大きさが小さく、背面層の表面が平滑となってしまい巻き上げたロールがきれいにならない。103℃における1/2等温結晶化時間が200秒より上である樹脂を主成分として用いた場合、結晶部分が少数で大きくなることがあり、海島構造がなだらかとなり背面層の表面がやや平滑となってしまい、巻き上げたロールがきれいにならないことがある。
【0011】
本発明の表面保護フィルムの背面層に主成分として用いる樹脂は、120℃におけるメルトテンションが200mN以上であり、103℃における1/2等温結晶化時間が100秒以上である樹脂からなるが、該樹脂は好ましくは90重量%以上100重量%以下、より好ましくは95重量%以上100重量%以下であることが望ましい。
【0012】
本発明の表面保護フィルムの背面層の算術平均粗さRaは0.10μm以上であり、好ましくは0.10μm以上0.20μm以下、より好ましくは0.14μm以上0.17μm以下である。算術平均粗さRaが0.10μm未満であると背面層の表面が平滑になることがあり、巻き上げたロールがきれいにならないことがある。また0.20μm超であると、背面層の粗さが粘着面に転写して粘着面表面が粗れてしまうことがあり、粘着力が不足したり被着体にきれいに貼合できないことがあり、表面保護フィルムとしての要求を満たすことができなくなるおそれがある。
【0013】
本発明の表面保護フィルムの背面層に用いられる樹脂としては、上記の120℃におけるメルトテンションが200mN以上であり、103℃における1/2等温結晶化時間が100秒以上であり、算術平均粗さRaは0.10μm以上であることを満たす樹脂であれば特に制限されるものではなく、従来より用いられている樹脂、例えば高圧法低密度ポリエチレンや中密度ポリエチレンなどが好適に用いられる。
【0014】
本発明の表面保護フィルムの中間層においては特に制限されるものではなく、従来より用いられている樹脂、例えば低圧法高密度ポリエチレンや高圧法低密度ポリエチレン、プロピレンホモポリマーやプロピレン-エチレンブロックコーポリマーなど、表面保護フィルムの要求特性に合わせて好適に使用することができる。また、用途によっては、着色剤や耐候剤などの添加剤や、特にTダイ方式での製膜にて発生するエッジ部分などを回収・再利用したものを配合してもよい。
【0015】
本発明の表面保護フィルムの粘着層においても特に制限されるものではなく、従来より用いられている樹脂、例えばエチレン-酢酸ビニル共重合体や直鎖状低密度ポリエチレン、スチレン-ブタジエンラバーなどが好適に使用できる。また、粘着力の調整のためにロジンやテルペン、クマロンインデンなどといった粘着力を増強する粘着付与財を配合してもよい。
【0016】
本発明の表面保護フィルムの厚さについては特に制限は無いが、好ましくは厚さが30~80μm、より好ましくは40~60μmである。
【0017】
本発明の表面保護フィルムは背面層、中間層、粘着層の三層を有するが、それぞれの層の厚み比率については特に制限されるものではない。しかし、表面保護フィルムとして取り回しのしやすさを意味する引張弾性率や、破断のしにくさを意味する破断強度などといった性能は使用する樹脂の種類と配合量に影響されるため、より特徴のある表面保護フィルムとするためには中間層にフィルムの特徴が強く出る樹脂を配合し、中間層の厚みを厚くするとよい。そのため、各層の厚み比率については、好ましくは背面層:中間層:粘着層が1:3:1近傍、より好ましくは1:7:2である。
【0018】
また、本発明の表面保護フィルムに印刷などの加工を容易にするために、背面層表面に、表面処理、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理などを施しても良い。
【実施例0019】
以下、具体的な実施例に基づいて、本発明の表面保護フィルムを詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下に示す方法で測定、評価した。
【0020】
(1)120℃でのメルトテンション
樹脂を株式会社東洋精機製作所製キャピログラフ「1D PMD-C」を用い、温度を120℃、押出速度を10mm/min、引取速度を10mm/min、キャピラリー形状をφ1×20mmとし、JIS K7199(1999年)に準じメルトテンションを測定した。
【0021】
(2)103℃における1/2等温結晶化時間
樹脂を株式会社島津製作所製示差走査熱量計「DSC-60A plus」を用い、試料5mg、窒素雰囲気下にて、昇温速度100℃/minで200℃まで昇温し5分間200℃を保持し、その後に降温速度100℃/minで103℃まで冷却し、その後103℃にて保持したときの等温結晶化におけるピークトップ時間(1/2等温結晶化時間)を測定した。
【0022】
(3)層算術平均粗さ
23℃環境下にて一日放置後、株式会社小坂研究所製の高精度微細形状測定器(SURFCORDER ET4000A)を用い、JIS B0601-1994に準拠し、背面層をフィルム横方向に2mm、長手方向(マシン方向)に10μm間隔で21回測定し3次元解析を行い、背面層の算術平均粗さ(Ra)を求めた(単位はμm)。尚、触針先端半径2.0μmのダイヤモンド針を使用、測定力100μN、カットオフ0.8mmで測定した。
【0023】
(4)フィッシュアイ個数
目視にてフィッシュアイの個数を大きさに関わらず1m2分カウントした。
【0024】
(5)背面層と粘着層を向かい合わせた時の摩擦係数
サンプルを3日以上、室温23℃、湿度50RH%雰囲気下で保管し、しかる後に表面保護フィルムの背面層表面と粘着層表面を重ね、摩擦係数を測定した。
【0025】
<実施例1>
120℃でのメルトテンションが230mN、103℃における1/2等温結晶化時間が120秒である低密度ポリエチレン(LDPE)を背面層として、中間層は高密度ポリエチレン(HDPE:密度0.961g/cm、MFR7.5g/10分)、粘着層はエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA:密度0.930g/cm、MFR9.4g/10分、VA含量10%)とし、背面層/中間層/粘着層の厚み比率が10%:65%:25%となるよう、Tダイ型複合製膜機で共押し出しして、全体の厚さが50μmの表面保護フィルムを得た。
【0026】
<実施例2>
実施例1において、背面層の低密度ポリエチレンを120℃でのメルトテンションが230mN、103℃における1/2等温結晶化時間が120秒である代わりに、120℃でのメルトテンションが280mN、103℃における1/2等温結晶化時間が100秒としたこと以外は実施例1と同様とし、表面保護フィルムを作成した。
【0027】
<実施例3>
実施例1において、背面層の低密度ポリエチレンを120℃でのメルトテンションが230mN、103℃における1/2等温結晶化時間が120秒である代わりに、120℃でのメルトテンションが200mN、103℃における1/2等温結晶化時間が105秒としたこと以外は実施例1と同様とし、表面保護フィルムを作成した。
【0028】
<比較例1>
実施例1において、背面層の低密度ポリエチレンを120℃でのメルトテンションが230mN、103℃における1/2等温結晶化時間が120秒である代わりに、120℃でのメルトテンションが180mN、103℃における1/2等温結晶化時間が130秒としたこと以外は実施例1と同様とし、表面保護フィルムを作成した。
【0029】
<比較例2>
実施例1において、背面層の低密度ポリエチレンを120℃でのメルトテンションが230mN、103℃における1/2等温結晶化時間が120秒である代わりに、120℃でのメルトテンションが330mN、103℃における1/2等温結晶化時間が90秒としたこと以外は実施例1と同様とし、表面保護フィルムを作成した。
【0030】
<比較例3>
実施例1において、背面層の低密度ポリエチレンを120℃でのメルトテンションが230mN、103℃における1/2等温結晶化時間が120秒である代わりに、120℃でのメルトテンションが180mN、103℃における1/2等温結晶化時間が90秒としたこと以外は実施例1と同様とし、表面保護フィルムを作成した。
【0031】
<比較例4>
実施例1において、背面層に120℃でのメルトテンションが230mN、103℃における1/2等温結晶化時間が120秒である低密度ポリエチレンに加え、0.5重量%となるよう直径3μmの無機粒子を配合したこと以外は実施例1と同様とし、表面保護フィルムを作成した。
【0032】
実施例1~3、並びに比較例1~4の評価結果を表1に示す。
【0033】
実施例1~3の表面保護フィルムは、いずれもフィッシュアイ個数が少なく、また背面層と粘着層を向かい合わせた時の静摩擦係数・動摩擦係数が低く、ロール状に巻き取った後もきれいな姿を保持している。
【0034】
一方、比較例1~3の表面保護フィルムは、いずれも背面層と粘着層を向かい合わせた時の摩擦係数が2.0近傍と高く、ロール状にスリットして巻き上げる際に空気の噛みこみを排出することができず巻き上げたロールにしわやエア溜まりによる突起ができたりしてきれいに巻き上がらなかった。また、比較例4の表面保護フィルムはきれいにロール状に巻き上げることができたものの、無機粒子の凝集物を核とするフィッシュアイが多発したほか表面保護フィルムの背面層が搬送ロールに接する際、無機粒子が脱落し搬送ロールに白粉異物の付着が見られた。
【0035】
【表1】