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特開2024-110528車両制御装置、解析装置および解析方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110528
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】車両制御装置、解析装置および解析方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20240808BHJP
   B60W 40/10 20120101ALI20240808BHJP
   B60W 40/06 20120101ALI20240808BHJP
   B60W 40/08 20120101ALI20240808BHJP
   B60G 23/00 20060101ALI20240808BHJP
   B60G 17/015 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W40/10
B60W40/06
B60W40/08
B60G23/00
B60G17/015 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015143
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 一二
(72)【発明者】
【氏名】加藤 彰
【テーマコード(参考)】
3D241
3D301
【Fターム(参考)】
3D241BA18
3D241BB27
3D241DA61Z
3D241DA62B
3D241DA63Z
3D241DC41Z
3D241DD02Z
3D301AA03
3D301AA04
3D301AA11
3D301AA13
3D301CA01
3D301DA38
3D301DB28
3D301EA19
3D301EA25
3D301EA27
3D301EA28
3D301EA31
3D301EA34
3D301EA62
3D301EA64
3D301EA65
3D301EA82
3D301EB13
3D301EC01
3D301EC05
3D301EC37
3D301EC53
3D301EC65
(57)【要約】
【課題】乗員の状態変化や路面状況や車両特性の変化に対応して最適な車両特性を定め、これにより最適な車両制御を実現すること。
【解決手段】実施形態の車両制御装置は、車両の進行方向の路面状況と、前記車両の乗員に関する乗員情報と、を取得する取得部と、前記路面状況と前記乗員情報とに基づいて、前記路面状況の変動の確率密度分布と、前記車両特性の変動の確率密度分布とが重ならないように、最適な車両特性を求める解析部と、前記解析部によって求めた前記最適な車両特性で、前記車両を制御する制御部と、を備える。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の進行方向の路面状況と、前記車両の乗員に関する乗員情報と、を取得する取得部と、
前記路面状況と前記乗員情報とに基づいて、前記路面状況の変動の確率密度分布と、車両特性の変動の確率密度分布とが重ならないように、最適な車両特性を求める解析部と、
前記解析部によって求めた前記最適な車両特性で、前記車両を制御する制御部と、
を備える車両制御装置。
【請求項2】
前記乗員情報と、前記路面状況の変動の確率分布と前記車両特性の変動の確率分布とが重ならない範囲の前記最適な車両特性と、が予め対応付けられた車両特性判断情報を記憶する記憶部を、さらに備え、
前記解析部は、前記車両特性判断情報において、前記路面状況と前記乗員情報とから、前記最適な車両特性を求める、
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記解析部は、前記車両の走行中において、前記路面状況と前記乗員情報とに基づいて、前記車両特性を変動させながら、前記路面状況の変動の確率密度分布と前記車両特性の変動の確率密度分布との重なり領域を求め、
前記車両制御装置は、
前記解析部により求めた前記重なり領域がなくなるような車両特性を、最適な車両特性として決定する学習処理を実行する学習部、
をさらに備えた請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記車両特性は、高周波振動の指標となる、前記車両のサスペンションのばね上加速度のオーバーオールパワー、を定めるとともに、前記車両のロールの大きさの指標となるロール率を定める、前記サスペンションの上ばねのばね定数を含み、
前記解析部は、前記路面状況の変動の確率密度分布と前記ばね上加速度のオーバーオールパワーの確率密度分布とが重ならず、かつ、前記路面状況の変動の確率密度分布と前記ロール率の確率密度分布とが重ならないように、最適なばね定数を求め、
前記制御部は、前記最適なばね定数に基づいて、前記サスペンションの減衰力制御を行う、
請求項2または3に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記車両特性は、高周波振動および低周波振動の指標となる、路面変位に対する前記車両のサスペンションのばね上変位の比を示すばね上伝達比、を定める前記サスペンションのショックアブソーバの減衰係数を含み、
前記解析部は、前記路面状況の変動の確率密度分布と前記高周波振動における前記ばね上伝達比の確率密度分布とが重ならず、かつ、前記路面状況の変動の確率密度分布と前記低周波振動における前記ばね上伝達比の確率密度分布とが重ならないように、最適な減衰係数を求め、
前記制御部は、前記最適な減衰係数に基づいて、前記サスペンションの減衰力制御を行う、
請求項2または3に記載の車両制御装置。
【請求項6】
車両の進行方向の路面状況と、前記車両の乗員に関する乗員情報と、を取得する取得部と、
前記路面状況と前記乗員情報とに基づいて、前記路面状況の変動の確率密度分布と、車両特性の変動の確率密度分布とが重ならないように、最適な車両特性を求める解析部と、
を備える解析装置。
【請求項7】
車両を制御する車両制御装置で実行される解析方法であって、
車両の進行方向の路面状況と、前記車両の乗員に関する乗員情報と、を取得するステップと、
前記路面状況と前記乗員情報とに基づいて、前記路面状況の変動の確率密度分布と、車両特性の変動の確率密度分布とが重ならないように、最適な車両特性を求めるステップと、
を含む解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、車両制御装置、解析装置および解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行中に、上下加速度センサや車高センサ等の種々の車載センサの検出値に基づいて、車両特性が最適となるように乗心地や操縦安定性等の各種デバイスの制御を行う車両制御装置が従来から知られている。
【0003】
このような車両制御装置では、車両特性を定める上で、乗心地と操縦安定性等、相反する車両特性を最適にすることは困難である。例えば、従来技術において、サスペンション装置では、相反する車両特性が適切となるように、例えば、主ばね定数、減衰力、スタビライザばね定数等の車両特性の諸元に対し適合化の試行等を行って車両特性の諸元が定められる。また、電子制御サスペンション装置等では、車両特性の適切な範囲を広げるべく、適合化を行って制御範囲が定められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-147114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来技術では、乗心地や操縦安定性の良し悪しは、乗員の感覚や好みで変化するものであり、車両メーカ側では、車両特性の諸元を、すべての乗員を考慮して定めることは困難である。また、車両制御装置に入力される路面状況等は多数の状態が考えられため、、車両メーカ側で想定する路面として、すべての路面の状態を考慮して適合した車両特性を定めることは困難である。
【0006】
例えば、ある状況で、乗心地を良好にするために、サスペンションの減衰力を小さくしても、車両の旋回時にロール量が大きくなり、操縦安定性が損なわれてしまう。また、高周波振動の乗心地を良好にするために、減衰力を小さくしても、低周波振動においては、減衰力が不足するため、乗心地が悪化する。さらには、環境変化による性能変化の例として、路面状況や、天候、車両運動特性、乗員の属性、体調等の乗員の状況の変化によって、乗員の感じ方は変化してくる。
【0007】
そこで、本発明の課題の一つは、乗員の状態変化や路面状況や車両特性の変化に対応して最適な車両特性を定め、これにより最適な車両制御を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の車両制御装置は、車両の進行方向の路面状況と、前記車両の乗員に関する乗員情報と、を取得する取得部と、前記路面状況と前記乗員情報とに基づいて、前記路面状況の変動の確率密度分布と、前記車両特性の変動の確率密度分布とが重ならないように、最適な車両特性を求める解析部と、前記解析部によって求めた前記最適な車両特性で、前記車両を制御する制御部と、を備える。
【0009】
当該構成により、一例として、車両特性の値が背反する制御においても、乗員の状態変化や路面状況や車両特性の変化に対応して最適な車両特性を定め、これにより最適な車両制御を実現することができる。
【0010】
また、実施形態の車両制御装置において、前記乗員情報と、前記路面状況の変動の確率分布と前記車両特性の変動の確率分布とが重ならない範囲の前記最適な車両特性と、が予め対応付けられた車両特性判断情報を記憶する記憶部を、さらに備え、前記解析部は、前記車両特性判断情報において、前記路面状況と前記乗員情報とから、前記最適な車両特性を求める。
【0011】
当該構成により、一例として、乗員情報と、路面状況の変動の確率分布と前記車両特性の変動の確率分布とが重ならない範囲の最適な車両特性とが予め対応付けられた車両特性判断情報に基づいて、車両特性の値が背反する制御においても、乗員の状態変化や路面状況や車両特性の変化に対応して最適な車両特性を定め、これにより最適な車両制御を実現することができる。
【0012】
また、実施形態の車両制御装置において、前記解析部は、前記車両の走行中において、前記路面状況と前記乗員情報とに基づいて、前記車両特性を変動させながら、前記路面状況の変動の確率密度分布と前記車両特性の変動の確率密度分布との重なり領域を求め、前記車両制御装置は、前記解析部により求めた前記重なり領域がなくなるような車両特性を、最適な車両特性として決定する学習処理を実行する学習部、をさらに備える。
【0013】
当該構成により、車両の走行中において、車両特性の値が背反する制御においても、乗員の状態変化や路面状況や車両特性の変化に対応して最適な車両特性を動的に定めることができ、これにより、より最適な車両制御を実現することができる。
【0014】
また、実施形態の車両制御装置において、前記車両特性は、高周波振動の指標となる、前記車両のサスペンションのばね上加速度のオーバーオールパワー、を定めるとともに、前記車両のロールの大きさの指標となるロール率を定める、前記サスペンションの上ばねのばね定数を含み、前記解析部は、前記路面状況の変動の確率密度分布と前記ばね上加速度のオーバーオールパワーの確率密度分布とが重ならず、かつ、前記路面状況の変動の確率密度分布と前記ロール率の確率密度分布とが重ならないように、最適なばね定数を求め、前記制御部は、前記最適なばね定数に基づいて、前記サスペンションの減衰力制御を行う。
【0015】
当該構成により、一例として、ばね定数の値が背反する制御においても、乗員の状態変化や路面状況や車両特性の変化に対応して最適なばね定数を定め、これにより最適な減衰力制御を実現することができる。
【0016】
また、実施形態の車両制御装置において、前記車両特性は、高周波振動および低周波振動の指標となる、路面変位に対する前記車両のサスペンションのばね上変位の比を示すばね上伝達比、を定める前記サスペンションのショックアブソーバの減衰係数を含み、前記解析部は、前記路面状況の変動の確率密度分布と前記高周波振動における前記ばね上伝達比の確率密度分布とが重ならず、かつ、前記路面状況の変動の確率密度分布と前記低周波振動における前記ばね上伝達比の確率密度分布とが重ならないように、最適な減衰係数を求め、前記制御部は、前記最適な減衰係数に基づいて、前記サスペンションの減衰力制御を行う。
【0017】
当該構成により、一例として、減衰係数の値が背反する制御においても、乗員の状態変化や路面状況や車両特性の変化に対応して最適な減衰係数を定め、これにより最適な減衰力制御を実現することができる。
【0018】
また、実施形態の解析装置は、車両の進行方向の路面状況と、前記車両の乗員に関する乗員情報と、を取得する取得部と、前記路面状況と前記乗員情報とに基づいて、前記路面状況の変動の確率密度分布と、前記車両特性の変動の確率密度分布とが重ならないように、最適な車両特性を求める解析部と、を備える。
【0019】
当該構成により、一例として、車両特性の値が背反する制御においても、乗員の状態変化や路面状況や車両特性の変化に対応して最適な車両特性を定め、これにより最適な車両制御を実現することができる。
【0020】
また、実施形態の解析方法は、車両を制御する車両制御装置で実行される解析方法であって、車両の進行方向の路面状況と、前記車両の乗員に関する乗員情報と、を取得するステップと、前記路面状況と前記乗員情報とに基づいて、前記路面状況の変動の確率密度分布と、前記車両特性の変動の確率密度分布とが重ならないように、最適な車両特性を求めるステップと、を含む。
【0021】
当該構成により、一例として、車両特性の値が背反する制御においても、乗員の状態変化や路面状況や車両特性の変化に対応して最適な車両特性を定め、これにより最適な車両制御を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1-1】図1-1は、第1の実施形態にかかる車両の車室の一部が透視された状態が示された例示的な斜視図である。
図1-2】図1-2は、第1の実施形態にかかる車両の例示的な平面図である。
図2図2は、第1の実施形態にかかる車両が有する撮像装置の配置の一例を示す図である。
図3図3は、第1の実施形態にかかる車両が有する車両制御システムの構成の例示的なブロック図である。
図4図4は、第1の実施形態におけるサスペンションシステムにおいて背反する性能を説明するための模式図である。
図5図5は、車両2自由度モデルを示す図である。
図6図6は、ロールセンタの高さと車体の重心高さを示すための車両の模式図である。
図7図7は、周波数応答関数のグラフの一例を示す図である。
図8図8は、信頼性工学におけるストレス-ストレングスモデルのグラフを示す図である。
図9図9は、第1の実施形態にかかる車両が有するECUの機能構成の一例を示す図である。
図10図10は、第1の実施形態の車両特性判断情報のデータ構造の一例を示す図である。
図11図11は、第1の実施形態において路面状況の一例を示す図である。
図12図12は、第1の実施形態において、高周波乗心地の制御およびロールの大きさの制御に関する路面による変動と車両特性による変動の夫々の確率密度分布の一例を示す図である。
図13図13は、第1の実施形態において、路面ごとに路面による変動と車両特性による変動の夫々の確率密度分布の一例を示す図である。
図14図14は、第1の実施形態において、高周波乗心地の制御および低周波乗心地の制御に関する路面による変動と車両特性による変動の夫々の確率密度分布の一例を示す図である。
図15図15は、第1の実施形態にかかる車両制御システムによる車両制御処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図16図16は、第2の実施形態にかかる車両が有するECUの機能構成の一例を示す図である。
図17図17は、第2の実施形態にかかる車両制御システムによる車両制御処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用、結果、および効果は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能であるとともに、基本的な構成に基づく種々の効果や、派生的な効果のうち、少なくとも一つを得ることが可能である。
【0024】
(第1の実施形態)
本実施形態の車両1は、例えば、不図示の内燃機関を駆動源とする自動車、すなわち内燃機関自動車であってもよいし、不図示の電動機を駆動源とする自動車、すなわち電気自動車や燃料電池自動車等であってもよいし、それらの双方を駆動源とするハイブリッド自動車であってもよいし、他の駆動源を備えた自動車であってもよい。また、車両1は、種々の変速装置を搭載することができるし、内燃機関や電動機を駆動するのに必要な種々の装置、例えばシステムや部品等を搭載することができる。また、車両1における車輪3の駆動に関わる装置の方式や、数、レイアウト等は、種々に設定することができる。
【0025】
図1-1は、第1の実施形態にかかる車両の車室の一部が透視された状態が示された例示的な斜視図である。図1-2は、第1の実施形態にかかる車両の例示的な平面図である。図2は、第1の実施形態にかかる車両が有する撮像装置の配置の一例を示す図である。図3は、第1の実施形態にかかる車両が有する車両制御システムの構成の例示的なブロック図である。
【0026】
まず、図1-1~図3を用いて、本実施形態にかかる車両1の構成の一例について説明する。
図1-1に例示されるように、車体2は、不図示の乗員が乗車する車室2aを構成している。車室2a内には、乗員としての運転者の座席2bに臨む状態で、操舵部4や、加速操作部5、制動操作部6、変速操作部7等が設けられている。
【0027】
操舵部4は、例えば、ダッシュボード24から突出したステアリングホイールである。加速操作部5は、例えば、運転者の足下に位置されたアクセルペダルである。制動操作部6は、例えば、運転者の足下に位置されたブレーキペダルである。変速操作部7は、例えば、センターコンソールから突出したシフトレバーである。なお、操舵部4や、加速操作部5、制動操作部6、変速操作部7等は、これらには限定されない。
【0028】
また、車室2a内には、表示出力部としての表示装置8や、音声出力部としての音声出力装置9が設けられている。表示装置8は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)や、OELD(Organic Electroluminescent Display)等である。音声出力装置9は、例えば、スピーカである。また、表示装置8は、例えば、タッチパネル等、透明な操作入力部10で覆われている。乗員は、操作入力部10を介して表示装置8の表示画面に表示される画像を視認することができる。また、乗員は、表示装置8の表示画面に表示される画像に対応した位置で、手指等で操作入力部10を触れたり押したり動かしたりして操作することで、操作入力を実行することができる。
【0029】
これら表示装置8や、音声出力装置9、操作入力部10等は、例えば、ダッシュボード24の車幅方向すなわち左右方向の中央部に位置されたモニタ装置11に設けられている。モニタ装置11は、スイッチや、ダイヤル、ジョイスティック、押しボタン等の不図示の操作入力部を有することができる。また、モニタ装置11とは異なる車室2a内の他の位置に不図示の音声出力装置を設けることができるし、モニタ装置11の音声出力装置9と他の音声出力装置から、音声を出力することができる。なお、モニタ装置11は、例えば、ナビゲーションシステムやオーディオシステムと兼用されうる。また、車室2a内には、表示装置8とは別の表示装置12が設けられている。
【0030】
また、図2に示すように、ハンドルコラム202には、ドライバーモニタカメラ201が設置されている。このドライバーモニタカメラ201は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)カメラ等である。ドライバーモニタカメラ201は、座席2bに着座する運転者302の顔が、視野中心に位置するように、視野角および姿勢が調整されている。このドライバーモニタカメラ201は、運転者302の顔を順次撮像し、撮像により得た画像についての画像データを順次出力する。
【0031】
また、図1-1,1-2に例示されるように、車両1は、例えば、四輪自動車であり、左右二つの前輪3Fと、左右二つの後輪3Rとを有する。これら四つの車輪3は、いずれも転舵可能に構成されうる。図3に例示されるように、車両1は、少なくとも二つの車輪3を操舵する操舵システム13を有している。
【0032】
図3に例示されるように、操舵システム13は、アクチュエータ13aと、トルクセンサ13bとを有する。操舵システム13は、ECU14(Electronic Control Unit)等によって電気的に制御されて、アクチュエータ13aを動作させる。操舵システム13は、例えば、電動パワーステアリングシステムや、SBW(Steer By Wire)システム等である。操舵システム13は、アクチュエータ13aによって操舵部4にトルク、すなわちアシストトルクを付加して操舵力を補ったり、アクチュエータ13aによって車輪3を転舵したりする。この場合、アクチュエータ13aは、一つの車輪3を転舵してもよいし、複数の車輪3を転舵してもよい。また、トルクセンサ13bは、例えば、運転者が操舵部4に与えるトルクを検出する。
【0033】
また、図3に例示されるように、車体2には、複数の撮像部15として、例えば四つの撮像部15a~15dが設けられている。撮像部15は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)やCIS(CMOS Image Sensor)等の撮像素子を内蔵するデジタルカメラである。撮像部15は、所定のフレームレートで動画データを出力することができる。撮像部15は、それぞれ、広角レンズまたは魚眼レンズを有し、水平方向には例えば140°~190°の範囲を撮影することができる。また、撮像部15の光軸は斜め下方に向けて設定されている。よって、撮像部15は、車両1が移動可能な路面や車両1が駐車可能な領域を含む車体2の周辺の外部の環境を逐次撮影し、撮像画像データとして出力する。
【0034】
撮像部15aは、例えば、車体2の後側の端部2eに位置され、リヤトランクのドア2hの下方の壁部に設けられている。撮像部15bは、例えば、車体2の右側の端部2fに位置され、右側のドアミラー2gに設けられている。撮像部15cは、例えば、車体2の前側、すなわち車両前後方向の前方側の端部2cに位置され、フロントバンパー等に設けられている。撮像部15dは、例えば、車体2の左側、すなわち車幅方向の左側の端部2dに位置され、左側の突出部としてのドアミラー2gに設けられている。ECU14は、複数の撮像部15で得られた画像データに基づいて演算処理や画像処理を実行し、より広い視野角の画像を生成したり、車両1を上方から見た仮想的な俯瞰画像を生成したりすることができる。なお、俯瞰画像は、平面画像とも称されることができる。
【0035】
本実施形態では、車体2の前側に設けられた撮像装置としての撮像部15cによって、車両1の進行方向である前方の路面を撮像する。なお、車両1が後進する場合には、車両の1の後方が進行方向となり、撮像部15aが車両1の後方の路面を撮像するように構成してもよい。
【0036】
また、図1-1,1-2に例示されるように、車体2には、複数の測距部16,17として、例えば四つの測距部16a~16dと、八つの測距部17a~17hとが設けられている。測距部16,17は、例えば、超音波を発射してその反射波を捉えるソナーである。ソナーは、ソナーセンサ、あるいは超音波探知器とも称されることができる。ECU14は、測距部16,17の検出結果に車両1の周囲に位置された障害物等の物体の有無や当該物体までの距離を測定することができる。すなわち、測距部16,17は、物体を検出する検出部の一例である。なお、測距部17は、例えば、比較的近距離の物体の検出に用いられ、測距部16は、例えば、測距部17よりも遠い比較的長距離の物体の検出に用いられうる。また、測距部17は、例えば、車両1の前方および後方の物体の検出に用いられ、測距部16は、車両1の側方の物体の検出に用いられることができる。
【0037】
また、図3に例示されるように、車両制御システム100では、ECU14や、モニタ装置11、操舵システム13、測距部16,17等の他、ブレーキシステム18、サスペンションシステム30、舵角センサ19、アクセルセンサ20、シフトセンサ21、車輪速センサ22等が、電気通信回線としての車内ネットワーク23を介して電気的に接続されている。車内ネットワーク23は、例えば、CAN(controller area network)として構成されている。
【0038】
ECU14は、車内ネットワーク23を通じて制御信号を送ることで、操舵システム13、ブレーキシステム18等を制御することができる。また、ECU14は、車内ネットワーク23を介して、トルクセンサ13b、ブレーキセンサ18b、舵角センサ19、測距部16、測距部17、アクセルセンサ20、シフトセンサ21、車輪速センサ22等の検出結果や、操作入力部10等の操作信号等を、受け取ることができる。
【0039】
ECU14は、例えば、CPU14a(Central Processing Unit)や、ROM(Read Only Memory)14b、RAM(Random Access Memory)14c、表示制御部14d、音声制御部14e、SSD(Solid State Drive、フラッシュメモリ)14f等を有している。
【0040】
CPU14aは、例えば、表示装置8,12で表示される画像に関連した画像処理や、車両1の目標位置の決定、車両1の移動経路の演算、物体との干渉の有無の判断、車両1の自動制御、自動制御の解除、サスペンションシステム30の減衰制御、ばね定数切替え制御、ステアリング制御、スタビライザ制御等の、各種の演算処理および制御を実行することができる。CPU14aは、ROM14b等の不揮発性の記憶装置にインストールされ記憶されたプログラムを読み出し、当該プログラムにしたがって演算処理を実行することができる。
【0041】
RAM14cは、CPU14aでの演算で用いられる各種のデータを一時的に記憶する。また、表示制御部14dは、ECU14での演算処理のうち、主として、撮像部15で得られた画像データを用いた画像処理や、表示装置8で表示される画像データの合成等を実行する。また、音声制御部14eは、ECU14での演算処理のうち、主として、音声出力装置9で出力される音声データの処理を実行する。また、SSD14fは、書き換え可能な不揮発性の記憶部であって、ECU14の電源がオフされた場合にあってもデータを記憶することができる。なお、CPU14aや、ROM14b、RAM14c等は、同一パッケージ内に集積されうる。また、ECU14は、CPU14aに替えて、DSP(Digital Signal Processor)等の他の論理演算プロセッサや論理回路等が用いられる構成であってもよい。また、SSD14fに替えてHDD(Hard Disk Drive)が設けられてもよいし、SSD14fやHDDは、ECU14とは別に設けられてもよい。
【0042】
ブレーキシステム18は、例えば、ブレーキのロックを抑制するABS(Anti-lock Brake System)や、コーナリング時の車両1の横滑りを抑制する横滑り防止装置(ESC:Electronic Stability Control)、ブレーキ力を増強させる(ブレーキアシストを実行する)電動ブレーキシステム、BBW(Brake By Wire)等である。ブレーキシステム18は、アクチュエータ18aを介して、車輪3ひいては車両1に制動力を与える。また、ブレーキシステム18は、左右の車輪3の回転差などからブレーキのロックや、車輪3の空回り、横滑りの兆候等を検出して、各種制御を実行することができる。ブレーキセンサ18bは、例えば、制動操作部6の可動部の位置を検出するセンサである。ブレーキセンサ18bは、可動部としてのブレーキペダルの位置を検出することができる。ブレーキセンサ18bは、変位センサを含む。
【0043】
舵角センサ19は、例えば、ステアリングホイール等の操舵部4の操舵量を検出するセンサである。舵角センサ19は、例えば、ホール素子などを用いて構成される。ECU14は、運転者による操舵部4の操舵量や、自動操舵時の各車輪3の操舵量等を、舵角センサ19から取得して各種制御を実行する。なお、舵角センサ19は、操舵部4に含まれる回転部分の回転角度を検出する。
【0044】
アクセルセンサ20は、例えば、加速操作部5の可動部の位置を検出するセンサである。アクセルセンサ20は、可動部としてのアクセルペダルの位置を検出することができる。アクセルセンサ20は、変位センサを含む。
【0045】
シフトセンサ21は、例えば、変速操作部7の可動部の位置を検出するセンサである。シフトセンサ21は、可動部としての、レバーや、アーム、ボタン等の位置を検出することができる。シフトセンサ21は、変位センサを含んでもよいし、スイッチとして構成されてもよい。
【0046】
車輪速センサ22は、車輪3の回転量や単位時間当たりの回転数を検出するセンサである。車輪速センサ22は、検出した回転数を示す車輪速パルス数をセンサ値として出力する。車輪速センサ22は、例えば、ホール素子などを用いて構成されうる。ECU14は、車輪速センサ22から取得したセンサ値に基づいて車両1の移動量などを演算し、各種制御を実行する。なお、車輪速センサ22は、ブレーキシステム18に設けられている場合もある。その場合、ECU14は、車輪速センサ22の検出結果を、ブレーキシステム18を介して取得する。
【0047】
サスペンションシステム30は、車両1の車体2と車輪3との間に配置される。サスペンションシステム30は、路面からの車両1に対する衝撃による車両1の振動を吸収するバネ(スプリング)と、当該バネの振動を減衰させかつ当該バネの振動の減衰力を変更可能な減衰力可変ダンパと、を備える。本実施形態では、サスペンションシステム30は、ECU14と協働して、ソレノイドアクチュエータ等の減衰力調整装置を制御して、減衰力可変ダンパの減衰力を変更する。これにサスペンションシステム30は、路面からの車両1に対する衝撃による車体の上下方向、横方向、前後方向の振動を減衰させるAVS(Adaptive Variable Suspension System)を実現する。
【0048】
サスペンションシステム30に対して車体2側の車両の部分(ばね上とも称する)とサスペンションシステム30に対して車輪3側の車両1部分(ばね下とも称する)のそれぞれの近傍には、不図示の加速度センサが設けられている。
【0049】
なお、上述した各種センサやアクチュエータの構成や、配置、電気的な接続形態等は、一例であって、種々に設定(変更)することができる。
【0050】
ここで、サスペンションシステム30の性能として、高周波乗心地、低周波乗心地、ロールの大きさ、接地性、舵の効き、リア(Rr)しっかり感等がある。ただし、これらの性能は、互いに背反することがある。
【0051】
図4は、第1の実施形態におけるサスペンションシステム30において背反する性能を説明するための模式図である。
図4に示すように、高周波乗心地とロールの大きさは互いに背反し(背反A)、高周波乗心地と低周波乗心地は互いに背反し(背反B)、高周波乗心地と接地性は互いに背反し(背反C)、舵の効きとRrしっかり感は互いに背反する(背反D)。
【0052】
まず、背反Aの高周波乗心地とロールの大きさの背反について説明する。
高周波乗心地とは、サスペンションシステム30のばね上の高周波振動による乗心地を意味する。高周波振動は、例えば10Hz以上のサスペンション振動やエンジンの振動を感じるブルブル感(Tremble feel)、ゴツゴツ感(Harshness)と称される。また、ロールは、路面状況等から車両1に加わる水平成分の振動である横揺れを意味する。
【0053】
図5は、車両2自由度モデルを示す図である。当該モデルにおいて、Kはサスペンションシステム30のばね定数であり、Cはサスペンションシステム30の減衰係数である。Kはタイヤのばね定数である。質量mは、サスペンションシステム30の下にあるブレーキやホイールで構成される質量であり、ばね下と称される。質量mは、サスペンションの上にある車体や乗員等で構成される質量であり、ばね上と称される。Xは路面変位を示し、Xはばね下の変位を示し、Xはばね上の変位を示す。
【0054】
このとき、高周波乗心地の指標となるばね上加速度のオーバーオールパワーPは、次の(1)式で示される(「自動車工学-基礎-」社団法人自動車技術会,p.138より)。ここで、(1)式におけるω、ω、μ、ζは、(2)式で示される。(1)式は、(3)式に簡略化される。
【0055】
【数1】
【0056】
【数2】
【0057】
高周波乗心地を改善するためには、ばね上加速度のオーバーオールパワーPが小さい方がよい。このため、(3)式よりサスペンションのばね定数Kは小さい値の方が好ましい。
【0058】
図6は、ロールセンタの高さと車体の重心高さを示すための車両の模式図である。
ここで、Wは、車体重量、yの2階微分は、車体の横加速度を示す。また、前後のサスペンションのロール剛性をそれぞれKφf、Kφr、地面から前後のロールセンタ高さをそれぞれh、h、前後の車輪のトレッドをそれぞれd、d、車体重心点とロール軸間距離をh、水平面内での前後車軸と車両重心点間の距離をl、lとする。このとき、ロール角φは、(4)式で表される(「自動車の運動と制御 第2版」東京電機大学出版局p.175,176より)。そして、(4)式ロールの大きさの指標となるロール率Rは(5)式で示される。
【0059】
【数3】
【0060】
【数4】
【0061】
ロールの大きさを改善するためにはロール率は小さい方がよい。このため、(5)式よりサスペンションシステム30のばね定数Kは大きい値の方が好ましい。
【0062】
このように、高周波乗心地の改善にはサスペンションシステム30のばね定数Kは小さい方がよく、一方、ロールの大きさの改善にはサスペンションシステム30のばね定数Kは大きい方がよい。従って、高周波乗心地の改善とロールの大きさの改善は背反することになる。
【0063】
次に、背反Bの高周波乗心地と低周波乗心地の背反について説明する。
低周波乗心地は、サスペンションシステム30のばね上の低周波振動による乗心地を意味する。低周波振動は、主として、サスペンションシステム30のばねによる車体振動で、1~2Hzのフワフワとした振動となる。フワフワ感(Float feel)と称される場合がある。
図5に示す車両2自由度モデルから、路面変位Xに対するばね上変位Xを伝達関数で示すと、振動伝達率X/Xは、(6)式で示される(「自動車工学-基礎-」社団法人自動車技術会,p.137より)。対するばね上変位ここで、sはラプラス演算子であり、ω、ω、μ、ζは、(7)式で示される。
【0064】
【数5】
【0065】
(6)式において、s=jωを代入して周波数応答関数を算出する。
図7は、周波数応答関数のグラフの一例を示す図である(「自動車工学-基礎-」社団法人自動車技術会より)。図7のグラフにおいて横軸は周波数であり、縦軸は振動伝達率X/Xである。
【0066】
図7に示されるとおり、低周波の領域では、ζが大きくなると、振動伝達率X/Xは小さくなり(すなわち、低周波振動が小さくなり)、低周波乗心地が改善する。一方、高周波の領域では、ζが小さくなると、振動伝達率X/Xは小さくなり(すなわち、高周波振動が小さくなり)、高周波乗心地が改善する。
【0067】
ここで、ζは、(7)式より減衰係数Cで表されるため、低周波乗心地の改善には減衰係数Cが大きく方がよく、高周波乗心地の改善には減衰係数Cは小さい方がよい。従って、高周波乗心地の改善と低周波乗心地の改善は背反することになる。
【0068】
このため、本実施形態では、信頼性工学における故障確率の考え方を採用してこのような問題を解決している。
【0069】
一般的に、信頼性は、製品固有のストレングス(「強度」とも称する)とそれに加わるストレス(「応力」あるいは「負荷」とも称する)との関係で定まってくる。故障は、製品の強度以上にストレスが加わったときに生じうるとされている。(例えば「信頼性工学入門」塩見弘著、丸善株式会社 参照)。
【0070】
図8は、信頼性工学におけるストレス-ストレングスモデルのグラフを示す図である(「信頼性工学入門」塩見弘著、丸善株式会社 より)。図8のグラフにおいて、横軸は時間であり、縦軸はストレスあるいはストングスである。図8に示すように、時間t=0では、アイテムのストレングスの確率密度分布とそれに作用するストレスの確率密度分布とは、互いに重なってはおらず、二つの分布の間には、安全余裕と称される間隔が存在する。二つの確率密度分布が重ならずに安全余裕が存在する場合には、故障は発生していない。
【0071】
しかし、このように二つの分布の間に十分な安全余裕を見込んでも、図8に示すように、時間の経過につれて劣化曲線で示すように、ストレングスが劣化し、ついにはストレングスの確率密度分布とストレスの確率密度分布が重なってしまい、このストレスがストレングスより大きくなるという重なり部分ができ、故障が発生する。
【0072】
本実施形態では、このような信頼性工学の故障確率の考え方を、「乗員の快適性」に当てはめて以下のように考える。
【0073】
快適性は、乗員固有の感受性(製品固有のストレングス)と、乗員に加わる運動量(ストレス)との関係で決まってくる。不快と感じることを故障と捉え、不快と感じることは、不快と感じる以上の運動量が加わったときにおこる。
【0074】
乗員固有の感受性は、乗員の属性(例えば、年齢、性別、身長、体重、体調など)によって変動する。
乗員の運動量は、車両諸元(例えば、質量、ばね定数、減衰力、ホイールベース、重心高など)や、乗員の乗車位置、および、車両への入力(路面凹凸、路面μ、車速など)によって変動する。
【0075】
本実施形態では、乗員固有の感受性および乗員の運動量の双方の変動(ばらつき)を確率密度分布(正規分布)として捉え、その平均値と標準偏差が変動するものと考え、その分布の重なりの量によって故障率、すなわち、不快と感じる確率を推定する。本実施形態では、さらに上記の劣化曲線を、後述する乗員情報により考慮している。
【0076】
以下、実施形態の具体的構成について説明する。
まず、図9を用いて、本実施形態にかかる車両1が有するECU14の機能構成の一例について説明する。図9は、第1の実施形態にかかる車両が有するECU14の機能構成の一例を示す図である。
【0077】
本実施形態にかかるECU14は、図9に示すように、取得部141と、ドライバー情報取得部148と、解析部142と、制御部140と、記憶部150とを少なくとも有する車両制御装置として機能する。また、取得部141と、ドライバー情報取得部148と、解析部142と、記憶部150とで解析装置として機能する。
【0078】
制御部140は、図9に示すように、減衰力制御部144と、ばね定数切替制御部145と、ステアリング制御部146と、スタビライザ制御部147と、を主に備えている。
【0079】
また、取得部141、ドライバー情報取得部148、解析部142、減衰力制御部144、ばね定数切替制御部145、ステアリング制御部146、スタビライザ制御部147等の各種の機能モジュールは、一例であり、同様の機能を実現できれば、各機能モジュールが統合されたり、細分化されたりしていても良い。
【0080】
ドライバー情報取得部148は、ドライバーモニタカメラ201で撮像された画像を解析して、車両1の運転者302や同乗者等の乗員に関す乗員情報を取得する。ドライバー情報取得部は取得部の一例である。例えば、ドライバー情報取得部148は、撮像画像に基づいて、乗員の乗車位置、乗員の属性、乗員の状態等を乗員情報として取得する。
【0081】
具体的には、ドライバー情報取得部148は、ドライバーモニタカメラ201による撮像画像内に映る乗員の位置から、車室内における乗員の乗車位置を推定することができる。また、ドライバー情報取得部148は、ドライバーモニタカメラ201に映る乗員の顔面画像および全身画像等から、乗員の性別、年代、体格等の属性を推定する。
【0082】
また、ドライバー情報取得部148は、ドライバーモニタカメラ201に映る乗員の胸部の動き等から、その乗員の心拍および呼吸等を検出することができる。さらに、検出された乗員の心拍および呼吸等から、実験式等から、乗員の状態を推測可能なドーパミン、セロトニン等の分泌量を推定するように、ドライバー情報取得部148を構成してもよい。
【0083】
乗員情報は、上述した信頼性工学のストレス-ストレングスモデルにおける劣化曲線を定めるものである。すなわち、例えば、乗員の年齢などの乗員情報により、快不快の判断も変わり、2つの確率密度分布の間隔も変わってくる。このため、本実施形態では、劣化曲線を乗員情報で定まるものとして、乗員情報を最適な車両特性の決定のための判断要素としている。
【0084】
取得部141は、車両1の進行方向の路面状況を取得する。具体的には、取得部141は、撮像部15cで撮像された車両1の進行方向の路面を撮像した撮像画像を取得し、当該撮像画像を解析して、路面状況としての路面の起伏状態(すなわち、凹凸の状態)を決定する。
【0085】
また、取得部141は、車両1の現在の車両特性を取得する。具体的には、取得部141は、各種車載センサから検知情報を取得し、検知情報に基づいて車両特性を求める。本実施形態では、例えば、サスペンションシステム30に対するばね上とサスペンションシステム30に対するばね下のそれぞれの近傍に設けられた加速度センサから、ばね上加速度またはばね下加速度に基づく車両特性、さらには、高周波振動、低周波振動、ロール率等を求める。ここで、車両特性は、車両諸元とも称される。
【0086】
記憶部150は、HDDやSSD等の記憶媒体である。記憶部150には、車両特性判断情報151が保存されている。
図10は、第1の実施形態の車両特性判断情報151のデータ構造の一例を示す図である。車両特性判断情報151は、図10に示すように、乗員情報と、路面状況と、最適な車両特性と、が対応付けられている。本実施形態では、車両出荷前に、乗員情報の変化ごとに、路面状況の変動の確率分布と車両特性の変動の確率分布とが重ならない範囲の最適な車両特性を求めておき、乗員情報と、路面状況と、上記最適な車両特性とを対応付けたルールを、車両特性判断情報151として記憶部150に保存しておく。
【0087】
解析部142は、取得部141で取得された路面状況と、ドライバー情報取得部148で取得した乗員情報とに基づいて、路面状況の変動の確率密度分布と、車両特性の変動の確率密度分布とが重ならないように、最適な車両特性を求める。
【0088】
本実施形態では、解析部142は、車両特性判断情報151を参照して路面状況と乗員情報とから、最適な車両特性を取得する。
【0089】
具体的には、車両特性は、高周波振動の指標となる、車両1のサスペンションシステム30のばね上加速度のオーバーオールパワー、を定めるとともに、車両1のロールの大きさの指標となるロール率を定める、サスペンションシステム30の上ばねのばね定数Kを含んでいる。
【0090】
そして、解析部142は、路面状況の変動の確率密度分布とばね上加速度のオーバーオールパワーの確率密度分布とが重ならず、かつ、路面状況の変動の確率密度分布とロール率の確率密度分布とが重ならないように、最適なばね定数Kを求める。
【0091】
本実施形態では、車両特性判断情報151には、路面状況の変動の確率密度分布とばね上加速度のオーバーオールパワーの確率密度分布とが重ならず、かつ、路面状況の変動の確率密度分布とロール率の確率密度分布とが重ならないように、最適なばね定数Kが乗員情報ごとに登録されている。このため、解析部142は、この車両特性判断情報151を参照して、最適なばね定数Kを求めている。
【0092】
以下、詳細に説明する。
図11は、第1の実施形態の解析部142の説明のために、路面状況の一例を示す図である。図11に示す例では、車両1が走行する道路は、初め直線でその後、カーブする形態となっている。また、図11の例では、直線部分の路面1はアスファルトであり、路面の凹凸は小さい。直線部分の路面2は石畳であり、路面の凹凸は大きい。カーブの部分の路面3は砂利であり、路面の凹凸は中程度となっている。
【0093】
図12は、第1の実施形態において、高周波乗心地の制御およびロールの大きさの制御に関する路面による変動と車両特性による変動の夫々の確率密度分布の一例を示す図である。図12(a)は高周波乗心地の制御における路面による変動と車両特性による変動の夫々の確率密度分布の一例を示す。図12(b)はロールの大きさの制御における路面による変動と車両特性による変動の夫々の確率密度分布の一例を示す。図12(a)(b)において、縦軸は確率密度であり、横軸は快適さを推量する車両特性(車両諸元)である。具体的には、図12(a)において、路面による変動の確率密度分布の横軸は振幅であり、右方向に向かって増加する。車両特性(車両諸元)による変動の確率密度分布の横軸は減衰比であり、右方向に向かって減少する。
【0094】
図12(a)に示すように、路面による変動にその確率密度分布は、図12(a)の左右に移動する。また、車両特性(車両諸元)の変動にその確率密度分布は、図12(a)の左右に移動する。そして、二つの確率密度分布が重なる場合が生じ得る。
【0095】
二つの確率密度分布が重なった場合、重なり領域1501は、上述した信頼性工学における故障確率となり、乗心地に適用した場合には、不快に相当する。言い換えれば、重なりが負の場合には、快の状態であり、重なりが正の場合には不快の状態を意味する。そして、この重なり部分の面積が不快になる確率を示している。すなわち、重なりの面積が大きいほど、不快の確率は大きい。
【0096】
図12(a)に示すように、高周波乗心地では、車両特性のばね定数Kを増加させると、車両特性による変動の確率密度分布は、図12(a)の左方向に移動していく。すなわち、車両特性による変動の確率密度分布は、路面による変動の確率密度分布と重なる方向に移動していく。
【0097】
図12(b)において、路面による変動の確率密度分布の横軸は曲率であり、右方向に向かって減少する。車両特性(車両諸元)による変動の確率密度分布の横軸はロール率であり、右方向に向かって減少する。ここで、ロール率は、横0.5G時のロール角である。
【0098】
図12(b)に示すように、車両特性のばね定数Kを増加させると、車両特性による変動の確率密度分布は、図12(b)の右方向に移動していく。すなわち、車両特性による変動の確率密度分布は、路面による変動の確率密度分布と離れる方向に移動していく。
【0099】
このように、ばね定数Kを増加させると、高周波乗心地の制御では、路面による変動の確率分布と車両特性による変動の確率密度分布が重なっていくが、ロールの大きさの制御では、路面による変動の確率分布と車両特性による変動の確率密度分布は離れていき、ばね定数は、両者において背反している。
【0100】
このため、本実施形態では、高周波乗心地の制御およびロールの大きさの制御の双方の路面による変動の確率密度分布と車両特性による変動の確率密度分布とに、上述のような重なり領域1501が生じないような最適な車両特性、すなわち最適なばね定数Kを、路面状況および乗員情報に応じて予め定めておき、車両特性判断情報151として記憶部150に保存しておく。そして、車両1の走行時において、解析部142は、取得部141で取得した路面状況とドライバー情報取得部148で取得した乗員情報に対応する最適なばね定数Kを決定している。
【0101】
より具体的には以下のとおりである。
図13は、第1の実施形態において、路面ごとに路面による変動と車両特性による変動の夫々の確率密度分布の一例を示す図である。
【0102】
図13(a-1)は、路面1(アスファルト)における高周波乗心地の制御における路面による変動と車両特性による変動の確率密度分布を示し、図13(a-2)は、路面1(アスファルト)におけるロールの大きさの制御における路面による変動と車両特性による変動の確率密度分布を示す。図13(b-1)は、路面2(石畳)における高周波乗心地の制御における路面による変動と車両特性による変動の確率密度分布を示し、図13(b-2)は、路面2(石畳)におけるロールの大きさの制御における路面による変動と車両特性による変動の確率密度分布を示す。図13(c-1)は、路面3(砂利)における高周波乗心地の制御における路面による変動と車両特性による変動の確率密度分布を示し、図13(c-2)は、路面3(砂利)におけるロールの大きさの制御における路面による変動と車両特性による変動の確率密度分布を示す。
【0103】
いずれの図も、図12と同様に、縦軸は確率密度であり、横軸は快適さを推量する車両特性(車両諸元)である。具体的には、図13(a-1)、(b-1)、(c-1)において、路面による変動の確率密度分布の横軸は振幅であり、右方向に向かって増加する。図13(a-1)、(b-1)、(c-1)において、車両特性(車両諸元)による変動の確率密度分布の横軸は減衰比であり、右方向に向かって減少する。
【0104】
図13(a-2)、(b-2)、(c-2)において、路面による変動の確率密度分布の横軸は曲率であり、右方向に向かって減少する。図13(a-2)、(b-2)、(c-2)において、車両特性(車両諸元)による変動の確率密度分布の横軸はロール率であり、右方向に向かって減少する。
【0105】
車両1がアスファルトで凹凸が小さい路面1上を走行する場合において、図13(a-1),(a-2)に示すように、路面による変動の確率密度分布と車両特性による変動の確率密度分布は重なっていないものとする。すなわち、快の状態である。ここで、図12で示したとおり、高周波乗心地の制御では、ばね定数K増加で車両特性による変動の確率密度分布は路面による変動の確率密度分布に近づく方向に移動する。また、図13で示したとおり、ロールの大きさの制御では、ばね定数K増加で車両特性による変動の確率密度分布は路面による変動の確率密度分布から離れる方向に移動する。
【0106】
車両1が、石畳で凹凸が大きい路面2を走行する場合においては、図13(b-1)に示すように、高周波乗心地の路面による変動の確率密度分布は、振幅が増加する右方向に移動する。そして、かかる移動に図13(b-1)に示すように、路面による変動の確率密度分布が右方向に移動して、車両特性による変動の確率密度分布と重なってしまう。
【0107】
このため、解析部142は、二つの確率密度分布が重なる前に、ばね定数Kを減少させて、車両特性による変動の確率密度分布を、右方向に移動、ずなわち、路面による変動の確率密痔分布から離すように制御する。これにばね定数Kが減少することから、図13(b-2)に示すように、ロールの大きさにおける車両特性による変動の確率密度分布が、左方向、すなわち、路面による変動の確率密度分布に近づく方向に移動する。
【0108】
車両1がさらに走行して、砂利で凹凸が中程度だが、カーブの路面3を走行する場合においては、図13(c-2)に示すように、ロールの大きさの路面による変動の確率密度分布は、曲率が減少する右方向に移動する。そして、かかる移動に図13(c-2)に示すように、路面による変動の確率密度分布が右方向に移動して、車両特性による変動の確率密度分布と重なり、不快な状態となってしまう。
【0109】
このため、解析部142は、二つの確率密度分布が重なる前に、ばね定数Kを増加させて、車両特性による変動の確率密度分布を、右方向に移動、すなわち、路面による変動の確率密度分布から離すように制御する。これにばね定数が増加することから、図13(c-1)に示すように、高周波乗心地における車両特性による変動の確率密度分布が、左方向、すなわち、路面による変動の確率密度分布に近づく方向に移動する。
【0110】
また、車両特性は、高周波振動および低周波振動の指標となる、路面変位に対する車両1のサスペンションシステム30のばね上変位の比を示すばね上伝達比、を定めるサスペンションシステム30のショックアブソーバの減衰係数Cを含んでいる。
【0111】
そして、解析部142は、路面状況の変動の確率密度分布と高周波振動におけるばね上伝達比の確率密度分布とが重ならず、かつ、路面状況の変動の確率密度分布と低周波振動におけるばね上伝達比の確率密度分布とが重ならないように、最適な減衰係数Cを求める。
【0112】
本実施形態では、車両特性判断情報151には、路面状況の変動の確率密度分布と高周波振動におけるばね上伝達比の確率密度分布とが重ならず、かつ、路面状況の変動の確率密度分布と低周波振動におけるばね上伝達比の確率密度分布とが重ならないように、最適な減衰係数Cが、乗員情報ごとに登録されている。このため、解析部142は、この車両特性判断情報151を参照して、最適な減衰係数Cを求めている。
【0113】
以下、詳細に説明する。
図14は、第1の実施形態において、高周波乗心地の制御および低周波乗心地の制御に関する路面による変動と車両特性による変動の夫々の確率密度分布の一例を示す図である。図14(a)は、高周波乗心地の制御における路面による変動と車両特性による変動の夫々の確率密度分布の一例を示す。図14(b)は、低周波乗心地の制御における路面による変動と車両特性による変動の夫々の確率密度分布の一例を示す。図14(a)(b)において、縦軸は確率密度であり、横軸は快適さを推量する車両特性(車両諸元)である。具体的には、図14(a)において、路面による変動の確率密度分布の横軸は振幅であり、右方向に向かって増加する。車両特性(車両諸元)による変動の確率密度分布の横軸は減衰力であり、右方向に向かって減少する。
【0114】
図14(a)に示すように、路面による変動にその確率密度分布は、図14(a)の左右に移動する。また、車両特性(車両諸元)の変動にその確率密度分布は、図14(a)の左右に移動する。そして、二つの確率密度分布が重なる場合が生じ得る。
【0115】
二つの確率密度分布が重なった場合、重なり領域は、図12と同様に故障確率となり、乗心地に適用した場合には、不快に相当する。言い換えれば、重なりが負の場合には、快の状態であり、重なりが正の場合には不快の状態を意味する。そして、重なりの面積が大きいほど、不快の確率は大きい。
【0116】
図14(a)に示すように、高周波乗心地では、車両特性の減衰係数Cを増加させると、車両特性による変動の確率密度分布は、図14(a)の左方向に移動していく。すなわち、車両特性による変動の確率密度分布は、路面による変動の確率密度分布と重なる方向に移動していく。
【0117】
図14(b)において、路面による変動の確率密度分布の横軸は振幅であり、右方向に向かって増加する。車両特性(車両諸元)による変動の確率密度分布の横軸は減衰力であり、右方向に向かって増加する。
【0118】
図14(b)に示すように、車両特性の減衰係数Cを増加させると、車両特性による変動の確率密度分布は、図14(b)の右方向に移動していく。すなわち、車両特性による変動の確率密度分布は、路面による変動の確率密度分布と離れる方向に移動していく。
【0119】
このように、減衰係数Cを増加させると、高周波乗心地の制御では、路面による変動の確率分布と車両特性による変動の確率密度分布が重なっていくが、低周波乗心地の制御では、路面による変動の確率分布と車両特性による変動の確率密度分布は離れていき、減衰係数Cは、両者において背反している。
【0120】
このため、本実施形態では、高周波乗心地の制御および低周波乗心地の制御の双方の路面による変動の確率密度分布と車両特性による変動の確率密度分布とに、上述のような重なり領域が生じないような最適な車両特性で、すなわち最適な減衰係数Cを、路面状況および乗員情報に応じて予め定めておき、車両特性判断情報151として記憶部150に保存しておく。そして、車両1の走行時において、解析部142は、取得部141で取得した路面状況とドライバー情報取得部148で取得した乗員情報に対応する最適な減衰係数Cを決定している。
【0121】
図9に戻り、制御部140は、解析部142によって求めた最適な車両特性で、車両1を制御する。
具体的には、制御部140の減衰力制御部144は、解析部142で決定された最適なばね定数Kまたは最適な減衰係数Cを用いて、サスペンションシステム30の減衰力制御を実行する。
【0122】
制御部140のばね定数切替制御部145は、解析部142で決定された最適なばね定数Kを用いてサスペンションシステム30のばね定数切替制御を実行する。
【0123】
制御部140のステアリング制御部146は、操舵システム13のステアリング制御を実行する。制御部140のスタビライザ制御部147は、車両1のスタビライザ制御を実行する。
【0124】
次に、以上のように構成された本実施形態にかかる車両制御システム100による車両制御処理について説明する。
図15は、第1の実施形態にかかる車両制御システム100による車両制御処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【0125】
まず、取得部141は、撮像部15cで撮像された車両1の進行方向である前方の路面の画像を取得する(S11)。取得部141は、取得した撮像画像を解析し、路面状況(すなわち、路面の起伏状態)を決定する(S13)。
【0126】
次に、ドライバー情報取得部148は、ドライバーモニタカメラ201による撮像画像を解析して乗員情報を取得する(S15)。また、取得部141は、各種車載センサからの検知情報に基づいて、現在の車両特性を取得する(S17)。
【0127】
次に、解析部142は、記憶部150の車両特性判断情報151を参照して、乗員情報と路面状況とから、対応する最適な車両特性を決定する(S19)。そして、制御部140は、解析部142で決定された最適な車両特性で車両1の制御を実行する(S21)。すなわち、例えば、車両特性がサスペンションの上ばねのばね定数Kであれば、ばね定数切替制御部145が、サスペンションシステム30の上ばねのばね定数Kを最適なばね定数Kに切り替える。また、車両特性がサスペンションシステム30のショックアブソーバの減衰係数Cであれば、減衰力制御部144が、サスペンションシステム30のショックアブソーバの減衰係数Cを最適な減衰係数Cに設定して、減衰力制御を実行する。
【0128】
このように本実施形態では、車両制御システム100は、車両1の進行方向の路面状況と、車両の乗員に関する乗員情報と、を取得し、路面状況と乗員情報とに基づいて、信頼性工学における、路面状況の変動の確率密度分布と、車両特性の変動の確率密度分布とが重ならないように、最適な車両特性を求め、求めた最適な車両特性で、車両を制御する。
【0129】
このため、本実施形態によれば、車両特性の値が背反する制御においても、乗員の状態変化や路面状況や車両特性の変化に対応して最適な車両特性を定めることができる。これにより本実施形態によれば、最適な車両制御を実現することができる。特に、本実施形態では、乗員情報により、信頼性工学における劣化曲線を考慮して、最適な車両特性を求めているので、例えば、乗員の年齢等による不快の感じ方を判断に採用することができ、より正確に、最適な車両特性を定め、最適な車両制御を実現することができる。
【0130】
また、本実施形態では、車両制御システム100は、乗員情報と、路面状況の変動の確率分布と車両特性の変動の確率分布とが重ならない範囲の最適な車両特性と、が予め対応付けられた車両特性判断情報151を記憶部150に記憶しておき、車両特性判断情報151において、路面状況と前記乗員情報とから、最適な車両特性を求める。
【0131】
このため、本実施形態によれば、乗員情報と、路面状況の変動の確率分布と車両特性の変動の確率分布とが重ならない範囲の最適な車両特性とが予め対応付けられた車両特性判断情報151に基づいて、車両特性の値が背反する制御においても、乗員の状態変化や路面状況や車両特性の変化に対応して最適な車両特性を定めることができる。これにより、本実施形態によれば、最適な車両制御を実現することができる。
【0132】
また、本実施形態では、車両制御システム100において、車両特性は、高周波振動の指標となる、車両1のサスペンションシステム30のばね上加速度のオーバーオールパワー、を定めるとともに、車両1のロールの大きさの指標となるロール率を定める、サスペンションシステム30の上ばねのばね定数を含み、路面状況の変動の確率密度分布とばね上加速度のオーバーオールパワーの確率密度分布とが重ならず、かつ、路面状況の変動の確率密度分布とロール率の確率密度分布とが重ならないように、最適なばね定数を求め、最適なばね定数に基づいて、サスペンションの減衰力制御を行う。
【0133】
このため、本実施形態によれば、ばね定数の値が背反する制御においても、乗員の状態変化や路面状況や車両特性の変化に対応して最適なばね定数を定め、これにより最適な減衰力制御を実現することができる。
【0134】
また、本実施形態では、車両制御システム装置100において、車両特性は、高周波振動および低周波振動の指標となる、路面変位に対する車両1のサスペンションシステム30のばね上変位の比を示すばね上伝達比、を定めるサスペンションシステム30のショックアブソーバの減衰係数を含み、路面状況の変動の確率密度分布と高周波振動におけるばね上伝達比の確率密度分布とが重ならず、かつ、路面状況の変動の確率密度分布と低周波振動におけるばね上伝達比の確率密度分布とが重ならないように、最適な減衰係数を求め、最適な減衰係数に基づいて、サスペンションシステム30の減衰力制御を行う。
【0135】
このため、本実施形態によれば、減衰係数の値が背反する制御においても、乗員の状態変化や路面状況や車両特性の変化に対応して最適な減衰係数を定めることができ、これより最適な減衰力制御を実現することができる。
【0136】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、車両の出荷前に、路面状況の変動の確率密度分布と、車両特性の変動の確率密度分布とが重ならないような最適な車両特性を路面状況と乗員情報に対応付けて車両特性判断情報151として予め定めておいた。そして、車両1の走行時には、解析部142が、当該車両特性判断情報151を参照して、現在の路面状況と乗員情報に応じた上記最適な車両特性を決定していた。この第2の実施形態では、車両1の走行時に、現在の現在の路面状況と乗員情報から、路面状況の変動の確率密度分布と、車両特性の変動の確率密度分布とが重ならない車両特性を求め、最適かどうかを判断して、最適な車両特性を決定し学習するものである。
【0137】
第2の実施形態にかかる車両1および車両制御システム1100の構成は、第1の実施形態と同様である。
【0138】
第2の実施形態にかかる車両制御システム1100では、ECU14で実行される機能が第1の実施形態と異なっている。
次に、図16を用いて、本実施形態にかかる車両1が有するECU14の機能構成の一例について説明する。図16は、第2の実施形態にかかる車両が有するECU14の機能構成の一例を示す図である。
【0139】
本実施形態にかかるECU14は、図16に示すように、ドライバー情報取得部148と、取得部141と、解析部1142と、学習部1141と、制御部140と、記憶部150とを少なくとも有する車両制御装置として機能する。ドライバー情報取得部148、取得部141、制御部140、記憶部150については、第1の実施形態と同様である。
【0140】
解析部1142は、車両の走行中において、取得部141で取得した路面状況および現在の車両特性と、ドライバー情報取得部148で取得した乗員情報とに基づいて、路面状況の変動の確率密度分布と、車両特性の変動の確率密度分布と求め、二つ確率密度分布の重なり領域の面積を算出する。解析部1142は、かかる算出処理を、車両特性の値を変動させながら繰り返し実行する。
【0141】
より具体的には、車両特性は、第1の実施形態と同様に、サスペンションシステム30の上ばねのばね定数K、サスペンションシステム30のショックアブソーバの減衰係数Cを含んでいる。
【0142】
そして、解析部1142は、車両1の走行中に、路面状況の変動の確率密度分布とばね上加速度のオーバーオールパワーの確率密度分布との重なり領域を、ばね定数Kの値を変動させながら繰り返し算出する。
【0143】
また、解析部1142は、路面状況の変動の確率密度分布と高周波振動におけるばね上伝達比の確率密度分布との重なり領域の面積を、減衰係数Cの値を変動させながら繰り返し算出する。
【0144】
なお、現在の車両特性を用いずに、任意の車両特性により、当該任意の確率密度分布を求めて上記重なり領域の面積を算出し、車両特性の値を変動させて繰り返し実行するように解析部1142を構成してもよい。
【0145】
学習部1141は、解析部1142により求めた重なり領域がなくなるような車両特性を、最適な車両特性として決定する学習処理を実行する。学習処理としては、一例として、強化学習が用いられる。具体的には、学習部1141は、解析部1142で算出された重なり領域の面積を算出する。そして、学習部1141は、当該重なり部分の面積が小さい程大きい値となる報酬関数に、求めた該重なり部分の面積を入力して報酬関数の出力値である報酬を求める。そして、解析部1142による算出を繰り返し実行さる。学習部1141は、実行するごとに出力される面積を報酬関数に入力して報酬を求め、報酬が最大となる車両特性の値を最適な車両特性と決定する学習処理を行う。
【0146】
なお、本実施形態では、学習処理として強化学習を採用しているが、これに限定されるものではなく、学習部1141に他の学習アルゴリズムを採用することもできる。
【0147】
次に、以上のように構成された本実施形態にかかる車両制御システム1100による車両制御処理について説明する。
図17は、第2の実施形態にかかる車両制御システム1100による車両制御処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【0148】
路面の画像の取得から現在の車両特性の取得までの処理(S11~S17)は、第1の実施形態と同様に行われる。
【0149】
現在の車両特性が取得されたら、解析部1142は、取得した乗員情報、現在の路面状況および現在の車両特性から、路面による変動の確率密度分布と車両特性による変動の確率密度分布を求め、2つの確率密度分布の重なり領域の面積を求める(S31)。
次に、学習部1141は、この時点での車両特性が最適か否かを判断する(S33)。具体的には、学習部1141は、S31で求めた重なり領域の面積が最小となるかを上述した報酬関数によって判断する。
【0150】
S33で、車両特性が最適でない場合(S33:No)、解析部1142は、車両特性の値を変動させ(S35)、処理はS31へ戻る。これにより、S31の処理が車両特性を変動させながら繰り返し実行されることになる。
【0151】
S33で、2つの確率密度分布が重ならず、車両特性が最適である合(S33:Yes)には、制御部140は、最適な車両特性を用いて車両1の各制御を実行する(S21)。
【0152】
このように本実施形態の車両制御システム1100では、車両1の走行中において、路面状況と乗員情報とに基づいて、車両特性を変動させながら、路面状況の変動の確率密度分布と車両特性の変動の確率密度分布との重なり領域を求め、重なり領域がなくなるような車両特性を、最適な車両特性として決定する学習処理を実行する。
【0153】
このため、本実施形態によれば、車両の走行中において、車両特性の値が背反する制御においても、乗員の状態変化や路面状況や車両特性の変化に対応して最適な車両特性を動的に定めることができ、これにより、より最適な車両制御を実現することができる。
【0154】
(変形例)
なお、上述した実施形態には種々の変形例を適用することができる。
例えば、上述した実施形態では、高周波乗心地とロールの大きさの背反A、高周波乗心地と低周波乗心地の背反Bについて説明したが、これら以外の背反、すなわち、高周波乗心地と接地性の背反C、舵の効きとRrしっかり感の背反Dについても同様の手法で適用することが可能である。
【0155】
また、上述の実施形態では、入力する路面状況として、路面の起伏状態(すなわち、凹凸の状態)を例にあげて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、路面の摩擦係数(すなわち、路面の滑りやすさ)、路面の勾配、カント(すなわち、路面のカーブ部分の内側と外側の高低差)を路面状況として用いるように構成してもよい。さらに、事故発生状況、気象状況、他車による影響などを入力して、最適な車両特性を決定するように解析部142,1142を構成してもよい。
【0156】
また、上述の実施形態では、車両特性として、ばね定数、減衰係数を用いたが、これらに限定されるものではない。例えば、車速、積載量、接地加重、重心高さ、タイヤの種類、減衰比、剛性等を車両特性として設定するように解析部を構成することができる。さらに、乗車人数、積載物の繊細さ、乗員の属性や体格等の繊細さ、を車両特性として設定するように解析部142,1142を構成することができる。
【0157】
また、上述の実施形態および変形例では、劣化曲線である快不快を左右する要素として乗員情報を用いたが、これに限定されるものではない。例えば、乗員の目的(例えば、寝台、団らん、通勤、ビジネス、観光、緊急搬送、乗り合いなど)、車両1の経年劣化や疲労による性能変化、乗員の疲れ、酔いの状態、空腹の状態、心理状態を劣化曲線として考慮するように解析部142,1142を構成してもよい。
【0158】
上述の実施形態および変形例では、CPU14aが、ROM14bやSSD14f等の記憶装置に記憶されるプログラムを読み出して実行することにより、ドライバー情報取得部148、取得部141、解析部142、1142、学習部1141、減衰力制御部144、ばね定数切替制御部145、ステアリング制御部146、スタビライザ制御部147等の各種の機能モジュールを実現する。
【0159】
上記実施形態および変形例では、ドライバー情報取得部148、取得部141、解析部142、1142、学習部1141、減衰力制御部144、ばね定数切替制御部145、ステアリング制御部146、スタビライザ制御部147等の各種の機能モジュールは、CPU14a等のプロセッサが、ROM14bやSSD14f等の記憶装置に記憶されるプログラムを読み出して実行することにより実現される。ただし、これに限定するものではない。例えば、ドライバー情報取得部148、取得部141、解析部142、1142、学習部1141、減衰力制御部144、ばね定数切替制御部145、ステアリング制御部146、スタビライザ制御部147等の各種の機能モジュールは、独立したハードウェアにより実現することも可能である。
【0160】
なお、上記実施形態および変形例の車両制御装置、車両制御システム100,1100で実行される車両制御プログラムは、ROM等に予め組み込まれて提供される。
【0161】
上記実施形態および変形例の車両制御装置、車両制御システム100,1100で実行される車両制御プログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して提供するように構成してもよい。
【0162】
さらに、上記実施形態および変形例の車両制御装置、車両制御システム100,1100で実行される車両制御プログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成しても良い。また、上記実施形態および変形例の車両制御装置、車両制御システム100,1100で実行される車両制御プログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成しても良い。
【0163】
上記実施形態および変形例の車両制御装置、車両制御システム100,1100で実行される車両制御プログラムは、上述した各部(すなわち、ドライバー情報取得部148、取得部141、解析部142、1142、学習部1141、減衰力制御部144、ばね定数切替制御部145、ステアリング制御部146、スタビライザ制御部147等)を含むモジュール構成となっており、実際のハードウェアとしてはCPUが上記ROMから車両制御プログラムを読み出して実行することにより上記各部が主記憶装置上にロードされ、ドライバー情報取得部148、取得部141、解析部142、1142、学習部1141、減衰力制御部144、ばね定数切替制御部145、ステアリング制御部146、スタビライザ制御部147等が主記憶装置上に生成されるようになっている。
【0164】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0165】
1…車両、2…車体、14…ECU、15,15a,15b,15c,15d…撮像部、22…車輪速センサ、30…サスペンションシステム、100、1100…車両制御システム、140…制御部、141…取得部、142,1142…解析部、144…減衰力制御部、145…ばね定数切替制御部、146…ステアリング制御部、147…スタビライザ制御部、145…ドライバー情報取得部150…記憶部、151…車両特性判断情報、201…ドライバーモニタカメラ1141…学習部、1501…重なり領域。
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17