(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110533
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフ質量分析によるステロイドの分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/88 20060101AFI20240808BHJP
G01N 30/02 20060101ALI20240808BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20240808BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20240808BHJP
G01N 30/06 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
G01N30/88 E
G01N30/02 B
G01N30/72 C
G01N27/62 X
G01N27/62 V
G01N30/06 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015154
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(71)【出願人】
【識別番号】501273886
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立環境研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 宏之
(72)【発明者】
【氏名】ジャフエル オロール
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 淳
(72)【発明者】
【氏名】中山 祥嗣
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041DA09
2G041EA04
2G041FA10
2G041FA12
2G041GA03
2G041GA06
2G041HA01
(57)【要約】
【課題】試料に含まれるステロイド化合物の分析にかかる時間を短縮する。
【解決手段】本発明のステロイド化合物分析方法は、ステロイド化合物が含まれる1つの試料を複数の液体画分に分画する分画工程と、前記複数の液体画分の各々に対して、互いに異なる処理を行う処理工程と、前記処理が行われた後の前記複数の液体画分を混合して1つの混合試料溶液を調製する混合工程と、前記混合試料溶液に含まれるステロイド化合物を、液体クロマトグラフ質量分析計で分析する分析工程と、を含むものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のステロイド化合物を分析する方法であって、
ステロイド化合物が含まれる1つの試料を複数の液体画分に分画する分画工程と、
前記複数の液体画分の各々に対して、互いに異なる処理を行う処理工程と、
前記処理が行われた後の前記複数の液体画分を混合して1つの混合試料溶液を調製する混合工程と、
前記混合試料溶液に含まれるステロイド化合物を、液体クロマトグラフ質量分析計で分析する分析工程と、
を含む、ステロイド化合物分析方法。
【請求項2】
前記処理工程において複数の液体画分のうちの一つに行われる処理が、特定の構造を有するステロイド化合物の誘導体化処理を含み、残りの液体画分のうちの少なくとも一つに行われる処理が前記誘導体化処理を含まない、請求項1に記載のステロイド化合物分析方法。
【請求項3】
前記分画工程において、前記1つの試料が2つの液体画分に分画され、
前記処理工程において、前記2つの液体画分のうちの一方に行われる処理がエストラジオールの誘導体化処理を含み、他方の液体画分に行われる処理が前記誘導体化処理を含まない、請求項1に記載のステロイド化合物分析方法。
【請求項4】
請求項1に記載のステロイド化合物分析方法において、
前記分画工程が、固相抽出カラムに前記1つの試料を導入することにより、該試料を複数の液体画分に分画するものである、ステロイド化合物分析方法。
【請求項5】
請求項4に記載のステロイド化合物分析方法において、
前記固相抽出カラムが、イオン交換系の固相抽出カラムである、ステロイド化合物分析方法。
【請求項6】
請求項5に記載のステロイド化合物分析方法において、
前記混合試料溶液の溶媒が有機酸又は有機酸塩を含むものである、ステロイド化合物分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフ質量分析装置を用いて試料中のステロイド化合物を分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステロイド化合物は、3個の六員環と1個の五員環が繋がったステロイド骨格と呼ばれる構造をもつ化合物の総称であり、側鎖の種類によって多様な生理活性を示すことが知られている。生体内には性ホルモン、副腎ステロイド等のステロイドホルモン、胆汁酸、細胞膜の構成に重要な脂質であるコレステロール等、様々な天然ステロイドが存在する。また、合成ステロイドからなる薬剤も多数開発されており、例えばスポーツ競技会でしばしば不正使用が問題になる禁止薬物の一つであるジヒドロテストステロンは合成ステロイドである。
【0003】
臨床診断、病態解析のため、あるいは禁止薬物の検査のため、生体内のステロイドの定量測定、定性測定が従来より行われている。生体内に存在する様々なステロイドを特異的に且つ一括して分析できることから、以前よりステロイドの分析に液体クロマトグラフ質量分析(LC/MSあるいはLC/MS/MS)が広く採用されている。
【0004】
生体内に存在するステロイドの量はばらつきが大きく、例えば小児や閉経後の女性の生体内には、エストラジオール等のエストロゲン(女性ホルモン)が極微量しか存在しない。このような微量のステロイド化合物でも感度良く測定できるように、試料中のステロイド化合物のうち特定の構造を有するステロイド化合物だけを誘導体化した上で、ステロイドを分析する方法が提案されている(特許文献1)。
【0005】
特許文献1に開示されている方法は、1個の水酸基を有するステロイド化合物に特異的に反応する誘導体化試薬を用いて前記ステロイド化合物の水酸基にN-アルキルピリジニウム基を導入して、ステロイド化合物を誘導体化する。試料中に1個の水酸基を有するステロイド化合物と2個以上の水酸基を有するステロイド化合物が含まれている場合、試料に前記の誘導体化試薬を添加しても、一部のステロイド化合物は誘導体化されない。2個以上の水酸基を有するステロイド化合物のLC/MS分析にとって誘導体化試薬は不要な成分となることから、従来は試料を二つに分け、一方の試料には誘導体化試薬を添加して前処理を行い、他方の試料には誘導体化試薬を添加せずに前処理を行い、それぞれの試料についてLC/MS分析を行っていた。
【0006】
ところが、少量の試料の場合に該試料を二つ以上に分けることが難しく、試料の量を増やすと、その分該試料が採取される被検者に負担がかかる。また、LC/MS分析をそれぞれの試料について行うことは、その分、分析にかかる時間が長くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、試料に含まれるステロイド化合物の分析にかかる時間を短縮することである。
である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明は、試料中のステロイド化合物を分析する方法であって、
ステロイド化合物が含まれる1つの試料を複数の液体画分に分画する分画工程と、
前記複数の液体画分の各々に対して、互いに異なる処理を行う処理工程と、
前記処理が行われた後の前記複数の液体画分を混合して1つの混合試料溶液を調製する混合工程と、
前記混合試料溶液に含まれるステロイド化合物を、液体クロマトグラフ質量分析計で分析する分析工程と、
を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、1つの試料に複数種類のステロイド化合物が含まれる場合に、それらのステロイド化合物を複数の液体画分に分画した上で、各液体画分に含まれるステロイド化合物に対して、互いに異なる処理を行うことができ、さらに、処理済みのステロイド化合物を含む液体画分を一つにまとめて液体クロマトグラフ質量分析が行われるため、分析に係る時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係るステロイド化合物分析方法を実施するための高速液体クロマトグラフ質量分析計の一実施例の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の、試料中のステロイド化合物を分析する方法では、まず、ステロイド化合物が含まれる1つの試料を複数の液体画分に分画し、前記複数の液体画分の各々に対して、互いに異なる処理を行う。その後、複数の処理済みの液体画分を混合して1つの混合試料溶液を調製し、該混合試料溶液に含まれるステロイド化合物を、液体クロマトグラフ質量分析計で分析する。
【0013】
上記の分析方法において対象とする試料としては、組織、血液、尿等の生体由来の成分を水、有機溶媒、あるいはそれらの混合液に懸濁あるいは希釈したものが挙げられる。生体由来の成分は所定の疾患患者、又は健常人から採取することができる。
試料に含まれるステロイド化合物としては、生体内で産生された天然ステロイド、人工的に合成された合成ステロイドが挙げられ、いずれのステロイド化合物も本発明の分析対象となり得る。また、混合試料溶液に含まれるステロイド化合物は、試料に含まれるステロイド化合物と実質的には同じものであるが、所定の処理によって誘導体化されたステロイド化合物も含まれる。
【0014】
上記の分析方法の分画工程では、複数の液体画分のそれぞれにステロイド化合物が含まれるように、1つの試料を分画することが理想的であるが、分画の結果として、複数の液体画分のうちの一部にステロイド化合物が含まれないケースもあり得る。
処理工程では、分画工程において得られた複数の液体画分のそれぞれに含まれることが予想されるステロイド化合物に適した処理が、各液体画分に対して行われる。
【0015】
典型的には、分画工程において、試料を2つの液体画分に分画し、一方の液体画分に対して行われる処理はステロイド化合物の誘導体化処理を含み、他方の液体画分に対して行われる処理は前記誘導体化処理を含まない、とすることができる。
したがって、この場合は、誘導体化が必要なステロイド化合物と、誘導化が不要なステロイド化合物が、それぞれ別の液体画分に含まれるような条件で、1つの試料を分画することになる。
【0016】
混合工程において、前記処理が行われた後の前記複数の液体画分を混合して1つの混合試料溶液を調製する場合、混合試料溶液が有機酸又は有機酸塩緩衝液を溶媒として含むようにするとよい。
【0017】
一般的に有機酸とは、酢酸、蟻酸、シュウ酸、乳酸、酒石酸、クエン酸。トリフルオロ酢酸などを含むカルボン酸類のことであり、上記有機酸塩緩衝液としては、例えば、蟻酸アンモニウム緩衝液や酢酸アンモニウム緩衝液を用いることができる。有機溶媒も特に限定されないが、典型的にはアセトニトリルを用いることができる。
【0018】
即ち、本発明の一態様として、移動相は蟻酸アンモニウム緩衝液とアセトニトリルとの混合液とすることができる。また、その際に、時間経過に伴い蟻酸アンモニウム濃度を上昇させるグラジエント分析を行うようにするとよい。
【0019】
例えば蟻酸アンモニウムは、正電荷のアンモニウムイオンと負電荷の蟻酸イオンとを含み、液体クロマトグラフのカラム中の固定相のイオン交換機能による試料中の酸化ハロゲン酸イオンを保持する作用に寄与する。また蟻酸アンモニウム等の有機酸塩緩衝液は揮発性塩であるから、質量分析計の例えばESIイオン源に導入されても析出などの問題を生じにくい。一方、アセトリトリル等の有機溶媒は極性溶媒であり、カラム中の固定相の疎水性相互作用(つまり逆相の機能) に寄与し、さらに質量分析計の例えばESI源において試料分子を効率良くイオン化するのにも寄与する。
【0020】
図1は、ステロイド化合物分析方法の分析工程で用いられる質量分析計の一例である、高速液体クロマトグラフ質量分析計(HPLC/MS)の概略構成図である。
図1において、第1送液ポンプ2は第1移動相容器1から移動相Aを吸引して所定流量で送出し、第2送液ポンプ4は第2移動相容器3から移動相Bを吸引して所定流量で送出する。移動相Aと移動相Bとは混合器5で混合され、インジェクタ6を経てカラム7に送出される。インジェクタ6では分析対象である液体試料がマイクロシリンジなどを用いて移動相中に注入され、液体試料は移動相の流れに乗ってカラムオーブン7内のカラム71に送り込まれる。試料中の各種成分はカラム71を通過する際に分離され、時間差がついてカラム71の出口から溶出する。
【0021】
カラム71からの溶出液は切替バルブ9を介して検出器としての質量分析計8に送られ、ESIイオン源81のスプレイノズルから略大気圧雰囲気中に噴霧され、溶出液に含まれる成分分子はイオン化される。生成されたイオンはイオンレンズ82で収束され、四重極マスフィルタ83で質量電荷比に応じて分離されて、イオン検出器84に到達し検出される。時間の経過に伴って溶出液中に含まれる成分の種類、つまり質量分析に供される成分の種類は変化する。四重極マスフィルタ83は予め設定された1乃至複数の質量電荷比のイオンを検出するようにイオン選択(SIM)モードで駆動される。したがって、イオン検出器84で得られる検出信号は各成分を反映したものとなり、図示しないデータ処理部では、検出信号に基づいて、目的成分である酸化ハロゲン酸化合物に対応したマスクロマトグラムが作成され、該クロマトグラムに現れるピークに基づいて目的成分の定性、定量が行われる。
【0022】
なお、質量分析計8のイオン源はESIによるものに限らず、大気圧化学イオン化法(APCI)や大気圧光イオン化法(APPI)によるものでもよい。また、質量分離器は、四重極マスフィルタに限らず飛行時間型質量分析器等でもよい。さらに、トリプル四重極型質量分析計のように、MS/MS分析又はMSn分析が可能な質量分析計でもよい。
質量分析計に接続される液体クロマトフラフとしては、ナノフロー液体クロマトグラフ、ミクロフロー液体クロマトグラフ、高速液体クロマトグラフ、超高速液体クロマトグラフ等、種々の液体クロマトグラフを用いることができる。要は分析の対象となる試料及びステロイド化合物の種類、性質に応じた適宜の質量分析計と液体クロマトグラフを組み合わせて用いるとよい。
【0023】
次に、生体試料中のステロイド化合物の分析に先立ち行われる混合試料溶液の調製手順について
図3を参照して説明する。以下に示す手順は、ステロイド化合物の一つであるエストラジオールを分析対象とする場合の手順の一例である。
図2にエストラジオールの化学構造を示す。エストラジオールは副腎皮質において産生される女性ホルモン(エストロゲン)の一種であり、2個の水酸基と1個のメチル基を有している。エストラジオールは、2個の水酸基のうちの一方に2-フルオロ-1-メチルピリジニウム基を導入することにより誘導体(NMP-E2)とされた後、質量分析計8で分析されるものとする。
【0024】
[固相抽出]
固相抽出カラム(または固相抽出カートリッジ)を用いて、前記試料に含まれるステロイド化合物を複数の液体画分に分画する。固相抽出カラムは固相としての充填剤が充填されたカートリッジからなる。充填剤は、試料溶液に含まれるステロイド化合物のうち、分析対象となるステロイド化合物とそれ以外のステロイド化合物を分離可能なものが採用され、例えばウォーター社の逆相系と陰イオン交換系の混合充填剤(製品名:Oasis MAX)を用いることができる。
【0025】
[固相抽出カラムのコンディショニング:ステップ101]
コンディショニングは、固相抽出カラムの充填剤を濡らして該充填剤の官能基を活性化するために行われる。コンディショニングに用いられるコンディショニング液としては、メタノール、100mmol/Lの重炭酸アンモニウム/25%アンモニウム水(50:2, v/v)の混合溶液、90%アセトニトリル、水/メタノール/酢酸混合溶液(90:10:1, v/v/v)の混合溶液、等を用いることができる。充填剤をコンディショニング液で濡らす操作は1回でもよく、複数回行われてもよい。
【0026】
[生体試料中のステロイド化合物の分離]
生体試料中のステロイド化合物を分離する先立ち分離用試料を調製する(ステップ102)。まず、生体試料を生体試料が収容されている容器内にメタノール、容積比率が90対10対1(90:10:1(v/v/v))の水/メタノール/酢酸を添加し、ボルテックスにて攪拌する。これにより分離用試料が得られる。生体試料としては、被検体から採取された組織、血液、尿、胆汁等を用いることができる。
【0027】
続いて、コンディショニングされた固相抽出カラムの充填剤に分離用試料を流す(ロード)(ステップ103)。次に、分離用試料に含まれるステロイド化合物と不要成分の極性に合わせた適宜の洗浄液を充填剤に流す(洗浄)(ステップ104)。これにより充填剤に吸着していた不要成分が固相抽出カラムから排出される。洗浄液としては、例えば25%メタノール、100mmol重炭酸アンモニウム/25%アンモニア水(50:2(v/v))、水/25%アンモニア水(95:5(v/v))を用いることができる。
【0028】
次に、固相抽出カラムの充填剤に溶離液を流して、該充填剤に保持されていたステロイド化合物のうち一部のステロイド化合物を溶出する(溶離1、ステップ105)。この場合、目的物であるステロイド化合物が充填剤に保持されるか、或いは目的物であるステロイド化合物が充填剤から溶出されるような溶離液が用いられる。ここでは、目的物であるエストラジオールを含むステロイド化合物は充填剤に保持されるような溶離液(以下、第1溶離液と呼ぶ)が用いられることとする。このような第1溶離液としては、例えば90%アセトニトリルが挙げられる。この結果、固相抽出カラムに目的物であるステロイド化合物が含まれる画分(目的画分)が残り、目的物が含まれない画分(以下、非目的画分)が固相抽出カラムから溶出される。なお、目的画分にはエストラジオール以外のステロイド化合物が含まれていても良いが、非目的画分にはエストラジオールが含まれないように、適切な第1溶離液が選ばれる。
【0029】
続いて、溶出されてきた非目的画分を回収し(ステップ106)、窒素ガスを用いて40℃で蒸発乾固する(ステップ107)。
一方、目的画分が充填剤に保持されている固相抽出カラムの該充填剤に第1溶離液とは別の溶離液(第2溶離液)を流して(溶離2、ステップ108)、目的画分を充填剤から溶出させ、回収する(ステップ109)。第2溶離液としては、例えば、ACN:水:酢酸=45:25:30となるように調製された溶液を用いることができる。前記酢酸には例えば30%酢酸が用いられる。
【0030】
回収された目的画分を蒸発乾固し(ステップ110)、そこに誘導体化試薬を加える(ステップ111)。誘導体化試薬は、2-フルオロ-1-メチルピリジニウムp-トルエンスルホナート(FMP-TS)とトリエチルアミンとアセトニトリルを混合したものからなる。その後、誘導体化試薬が加えられた目的画分を40℃で15分間加温する(ステップ112)。これによりエストラジオールが誘導体化される。再度、誘導体化されたのちの目的画分を蒸発乾固し(ステップ113)、該目的画分の乾固物と、ステップ107で得られた非目的画分の乾固物を混合し、そこに水/アセトニトリル(4:1(v/v))を100μL加えて、混合試料溶液を調製する(ステップ114)。
【0031】
ステップ114により得られた混合試料溶液は上述したHPLC/MSに導入されて、該混合試料溶液中のステロイド化合物が一斉分析される。一般的に、エストラジオールはその他のステロイド化合物に比べて含有量が少なく、その他のステロイド化合物とまとめて質量分析すると感度がなり、正確性に劣っていた。これに対して、上記の実施形態ではエストラジオールを誘導体化した上で、その他のステロイド化合物とまとめて質量分析するため、エストラジオールの含有量を高感度に測定することができる。
【0032】
なお、混合試料溶液をHPLC/MSに導入して分析する際、混合試料溶液に含まれる未反応の誘導体化試薬がカラム71から溶出する時間帯においては、溶出液が質量分析計8に送られないように切替バルブ9を切り替えるとよい。未反応の誘導体化試薬がステロイド化合物とともに質量分析計8に導入されると、バックグラウンドが上昇して目的成分の分析感度が低下したり、質量分析計8が汚れたりするが、上述したように切り替えることで、そのような不具合を防止できる。
【0033】
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解され
【0034】
(第1項)第1項のステロイド化合物分析方法は、
ステロイド化合物が含まれる1つの試料を複数の液体画分に分画する分画工程と、
前記複数の液体画分の各々に対して、互いに異なる処理を行う処理工程と、
前記処理が行われた後の前記複数の液体画分を混合して1つの混合試料溶液を調製する混合工程と、
前記混合試料溶液に含まれるステロイド化合物を、液体クロマトグラフ質量分析計で分析する分析工程と、
を含むものである。
【0035】
第1項のステロイド化合物分析方法によれば、1つの試料に複数種類のステロイド化合物が含まれる場合に、それらのステロイド化合物を複数の液体画分に分画した上で、各液体画分に含まれるステロイド化合物に対して、互いに異なる処理を行うことができ、さらに、処理済みのステロイド化合物を含む液体画分を一つにまとめて液体クロマトグラフ質量分析が行われるため、分析に係る時間を短縮することができる。
【0036】
(第2項)第2項のステロイド化合物分析方法は、
第1項のステロイド化合物分析方法であって、
前記処理工程において、複数の液体画分のうちの一つに行われる処理が、特定の構造を有するステロイド化合物の誘導体化処理を含み、残りの液体画分のうちの少なくとも一つに行われる処理が前記誘導体化処理を含まないこととすることができる。
【0037】
第2項のステロイド化合物分析方法によれば、特定の構造を有するステロイド化合物の分析感度を高めることができる。誘導体化処理には、特定の構造を別の構造に置換する処理、特定の構造に含まれる1又は複数の元素を同位体元素に置換する処理等が含まれる。
【0038】
(第3項)第3項のステロイド化合物分析方法は、第1項のステロイド化合物分析方法であって、
前記分画工程において、前記1つの試料が2つの液体画分に分画され、
前記処理工程において、前記2つの液体画分のうちの一方に行われる処理がエストラジオールの誘導体化処理を含み、他方の液体画分に行われる処理が前記誘導体化処理を含まないものとすることができる。
【0039】
第3項のステロイド化合物分析方法によれば、試料に含まれるエストラジオールが微量であっても該エストラジオールを高感度に分析することができる。
【0040】
(第4項)第4項のステロイド化合物分析方法は、
第1項のステロイド化合物分析方法における、前記分画工程が、固相抽出カラムに前記1つの試料を導入することにより、該試料を複数の液体画分に分画するものである。
【0041】
(第5項)第5項のステロイド化合物分析方法は、第4項のステロイド化合物分析方法において、前記固相抽出カラムが、イオン交換系の固相抽出カラムであるものである。
【0042】
(第6項)第6項のステロイド化合物分析方法は、
第5項のステロイド化合物分析方法において、前記混合試料溶液の溶媒が有機酸又は有機酸塩を含むものである。
【符号の説明】
【0043】
1…第1移動相容器
2…第1送液ポンプ
3…第2移動相容器
4…第2送液ポンプ
5…混合器
6…インジェクタ
7…カラム
8…質量分析計
81…ESIイオン源
82…イオンレンズ
83…四重極マスフィルタ
84…イオン検出器