(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110547
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】複合材料
(51)【国際特許分類】
C04B 35/577 20060101AFI20240808BHJP
【FI】
C04B35/577
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015172
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100121843
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 賢郎
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 直樹
(72)【発明者】
【氏名】西村 光
(72)【発明者】
【氏名】田中 貴広
(72)【発明者】
【氏名】坪井 文雄
(57)【要約】
【課題】精密な加工を行うことのできる複合材料を提供する。
【解決手段】複合材料10の断面SAには、シリコンを含む複数の第1領域S1と、炭化ケイ素を含む第2領域S2と、が含まれる。断面SAに含まれる複数の第1領域S1のそれぞれについて、第1領域S1の内側に配置し得る最大の内接楕円Eの短軸MNの長さであるL1を個別に算出し、L1の値と頻度との関係を示すグラフを描いた場合において、当該グラフのうち頻度が最も高くなる第1ピークP1、に対応するL1の値が1.5μm以下である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン及び炭化ケイ素を含む複合材料であって、
当該複合材料を平面に沿って切断した断面には、
前記シリコンを含む複数の第1領域と、
前記炭化ケイ素を含む第2領域と、が含まれ、
前記断面に含まれる複数の前記第1領域のそれぞれについて、前記第1領域の内側に配置し得る最大の楕円の短軸の長さであるL1を個別に算出し、前記L1の値と頻度との関係を示すグラフを描いた場合において、
当該グラフのうち頻度が最も高くなる第1ピーク、に対応する前記L1の値が1.5μm以下であることを特徴とする、複合材料。
【請求項2】
前記グラフには、前記第1ピークに加えて、頻度が2番目に高くなる第2ピークが存在することを特徴とする、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記第2ピークに対応する前記L1の値が、1.5μmよりも大きく且つ2.5μm以下であることを特徴とする、請求項2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記断面に含まれる複数の前記第1領域のそれぞれについて、更に、前記第1領域の内側に配置し得る最大の楕円の長軸の長さであるL2を個別に算出し、前記L2の値と頻度との関係を示すグラフを描いた場合において、
当該グラフのうち頻度が最も高くなる第1ピーク、に対応する前記L2の値が1.5μm以上であり且つ3.0μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の複合材料。
【請求項5】
シリコン及び炭化ケイ素を含む複合材料であって、
当該複合材料を平面に沿って切断した断面には、
前記シリコンを含む複数の第1領域と、
前記炭化ケイ素を含む第2領域と、が含まれ、
前記断面に含まれる複数の前記第1領域のそれぞれについて、前記第1領域の内側に配置し得る最大の楕円の長軸の長さであるL2を個別に算出し、前記L2の値と頻度との関係を示すグラフを描いた場合において、
当該グラフのうち頻度が最も高くなる第1ピーク、に対応する前記L2の値が1.5μm以上であり且つ3.0μm以下であることを特徴とする、複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン及び炭化ケイ素を含む複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン及び炭化ケイ素を含む複合材料は、「SiSiC」等とも称され、高い耐食性や耐熱性等を有する材料として知られている。下記特許文献1に記載されているように、上記複合材料は、例えば、粉末状の炭素及び炭化ケイ素からなる成型体に、溶融したシリコンを含浸させながら反応焼結させることにより得ることができる。
【0003】
上記複合材料は、比較的軽量でありながらも高い剛性を有し、更には高い熱伝導率も有する。このため、半導体製造装置等を含む様々な分野への応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献において図等で示されているように、シリコン及び炭化ケイ素を含む複合材料を切断した場合の断面には、炭化ケイ素粒子の断面である複数の領域と、これらの間を埋めるようにマトリックス状に配置されたシリコンを含む領域と、が存在する。従来の複合材料においては、焼成前の原料に含まれていた炭化ケイ素粒子は、焼成の過程で殆ど粒成長しないことが知られている。従って、上記断面に表れる炭化ケイ素粒子の領域は、概ね元の大きさを保ちながら複数に分かれたままとなっており、それらの間では比較的広い隙間が空いている。その結果、断面において、炭化ケイ素粒子の隙間を埋めているシリコンの面積は比較的大きくなっている。
【0006】
複合材料のうちシリコンの部分は、炭化ケイ素の部分に比べて強度が低い。このため、従来の複合材料では、断面におけるシリコンの面積が比較的大きいことに起因して、加工時において削れ過ぎてしまう傾向があり、半導体製造装置等で求められるような精密な加工を行うことが難しいという問題があった。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、精密な加工を行うことのできる複合材料、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る複合材料は、シリコン及び炭化ケイ素を含む複合材料であって、当該複合材料を平面に沿って切断した断面には、シリコンを含む複数の第1領域と、炭化ケイ素を含む第2領域と、が含まれる。断面に含まれる複数の第1領域のそれぞれについて、第1領域の内側に配置し得る最大の楕円の短軸の長さであるL1を個別に算出し、L1の値と頻度との関係を示すグラフを描いた場合において、当該グラフのうち頻度が最も高くなる第1ピーク、に対応するL1の値が1.5μm以下である。
【0009】
このような構成の複合材料の断面では、それぞれの第1領域について個別に算出された上記L1の値の分布を示すグラフを描くと、当該グラフのうち最も頻度の高い第1ピークに対応するL1の値が1.5μm以下となる。つまり、複合材料の断面に表れる複数の第1領域のうちの多くが、短軸が1.5μmもしくはそれ以下の楕円しか包含し得ない程度に小さな領域として分布する。その結果、断面において第1領域が占める割合は比較的小さくなっている。強度の低い部分である第1領域の割合が小さくなっており、加工時における「削れ過ぎ」が抑制されるため、当該複合材料に対しては従来に比べ精密な加工を行うことが可能となる。
【0010】
また、本発明に係る複合材料では、グラフには、第1ピークに加えて、頻度が2番目に高くなる第2ピークが存在することも好ましい。本発明者らが行った実験によれば、製造時の条件を調整し、シリコンを含む第1領域を従来よりも小さくしていくと、L1の値と頻度との関係を示す上記グラフにおいて、2つ目のピーク(第2ピーク)が現れ始めるという知見が得られている。第2ピークが現れる程度にそれぞれの第1領域を小さくすることで、従来に比べて十分に加工性を向上させることができる。
【0011】
また、本発明に係る複合材料では、第2ピークに対応するL1の値が、1.5μmよりも大きく且つ2.5μm以下であることも好ましい。L1の値が1.5μmから2.5μm以下の範囲で第2ピークが現れるよう、断面において第1領域を分布させることで、複合材料の加工性を顕著に向上させることができる。
【0012】
また、本発明に係る複合材料では、断面に含まれる複数の第1領域のそれぞれについて、更に、第1領域の内側に配置し得る最大の楕円の長軸の長さであるL2を個別に算出し、L2の値と頻度との関係を示すグラフを描いた場合において、当該グラフのうち頻度が最も高くなる第1ピーク、に対応するL2の値が1.5μm以上であり且つ3.0μm以下であることも好ましい。
【0013】
複合材料のサンプルについて、第1領域の内側に配置し得る最大の楕円の長軸の長さであるL2の値の分布も測定したところ、当該分布についても新たな知見が得られた。具体的には、それぞれの第1領域について個別に算出されたL2の値の分布を示すグラフにおいて、当該グラフのうち最も頻度の高い第1ピークに対応するL2の値が、1.5μmから3.0μmまでの範囲に収まっていれば、複合材料の加工性が向上することが確認された。
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係る複合材料は、シリコン及び炭化ケイ素を含む複合材料であって、当該複合材料を平面に沿って切断した断面には、シリコンを含む複数の第1領域と、炭化ケイ素を含む第2領域と、が含まれる。断面に含まれる複数の第1領域のそれぞれについて、第1領域の内側に配置し得る最大の楕円の長軸の長さであるL2を個別に算出し、L2の値と頻度との関係を示すグラフを描いた場合において、当該グラフのうち頻度が最も高くなる第1ピーク、に対応するL2の値が1.5μm以上であり且つ3.0μm以下である。
【0015】
このような構成の複合材料の断面では、それぞれの第1領域について個別に算出された上記L2の値の分布を示すグラフを描くと、当該グラフのうち最も頻度の高い第1ピークに対応するL2の値が、1.5μm以上であり且つ3.0μm以下の範囲内となる。つまり、複合材料の断面に表れる複数の第1領域のうちの多くが、上記条件を満たす程度に小さな領域として分布しているので、断面において第1領域が占める割合は比較的小さくなっている。強度の低い部分である第1領域の割合が小さくなっており、加工時における「削れ過ぎ」が抑制されるため、当該複合材料に対しては従来に比べ精密な加工を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、精密な加工を行うことのできる複合材料、を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態に係る複合材料の断面を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る複合材料の断面を示す図である。
【
図3】L1及びL2の算出方法について説明するための図である。
【
図4】本実施形態に係る複合材料の断面における、L1の値と頻度との関係を示すグラフである。
【
図5】本実施形態に係る複合材料の断面における、L2の値と頻度との関係を示すグラフである。
【
図6】比較例に係る複合材料の断面を示す図である。
【
図7】比較例に係る複合材料の断面における、L1の値と頻度との関係を示すグラフである。
【
図8】比較例に係る複合材料の断面における、L2の値と頻度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0019】
本実施形態に係る複合材料10は、シリコン及び炭化ケイ素を含む固形の材料であり、所謂「SiSiC」等とも称されるものである。複合材料10は、例えば半導体製造装置を構成する部品の材料として用いられるが、その具体的な用途や最終的な形状等は特に限定されない。
【0020】
後に説明するように、複合材料10は、粉末状の炭素及び炭化ケイ素からなる成型体に、溶融したシリコンを含浸させながら反応焼結させたものである。この点においては、従来のSiSiCと同様である。ただし、本実施形態に係る複合材料10は、切断した場合の断面に表れる各領域の形状において、従来のSiSiCとは異なっている。
【0021】
図1に示される画像は、複合材料10を平面に沿って切断することで現れた断面SAを、走査電子顕微鏡(SEM)で観察することにより得られた画像である。断面SAの範囲は500μm×350μmであり、拡大の倍率は250倍である。断面SAに点在している白色の領域のそれぞれは、シリコン(Si)を主に含む領域であることが確認されている。当該領域のことを、以下では「第1領域S1」とも称する。断面SAのうち、第1領域S1の周囲にある黒色の領域は、炭化ケイ素(SiC)を主に含む領域であることが確認されている。当該領域のことを、以下では「第2領域S2」とも称する。
【0022】
第1領域S1は、シリコンが100%を占める領域であってもよいが、シリコン以外の成分を含む領域であってもよい。同様に、第2領域S2は、炭化ケイ素が100%を占める領域であってもよいが、炭化ケイ素以外の成分を含む領域であってもよい。
【0023】
尚、断面SAには、第1領域S1及び第2領域S2のいずれにも該当しない領域も点在することが確認されている。このような領域としては、例えば、成型時の原料の1つである炭素粒子を含む領域等が挙げられる。
【0024】
図2には、断面SAにおける第2領域S2の分布が示されている。
図2は、
図1の断面SAに画像処理(二値化)を施すことで、それぞれの第2領域S2を黒色の領域として表したものである。
図2において、第2領域S2の周囲にある白色の領域は、第1領域S1と概ね一致する。
【0025】
図2に示されるように、複合材料10の断面SAにおいては、第1領域S1が複数存在しており、これらが互いに離間した状態で略一様に分散配置されている。第1領域S1の殆どは、第2領域S2によって外側から、且つ全周に亘って囲まれている。
図1のように250倍もしくはそれ以下の倍率で観察し得られた画像においては、第2領域S2は、粒界を介することなく連続した単一の領域となっているように観察される。
【0026】
尚、第2領域S2が「粒界を介することなく連続した単一の領域」として観察されるのは、少なくとも、走査電子顕微鏡により250倍もしくはそれ以下の倍率で観察した場合であればよい。第1領域S1の全周を囲んでいる第2領域S2を、250倍を超える倍率で詳細に観察した場合においては、当該第2領域S2を分断する粒界や、これに相当する境界が観察されてもよい。
【0027】
また、それぞれの第1領域S1のそれぞれが、以下に述べる条件を満たすような小さな領域として分布しているのであれば、
図1のような250倍もしくはそれ以下の倍率で得られた画像において、第2領域S2を複数に分断するような粒界が観察されてもよい。
【0028】
図3(A)に示されるのは、断面SAにある複数の第1領域S1のうちの一つであって、
図2において矢印ARで示される第1領域S1のみを抜き出して模式的に描いたものである。
図3(B)に示されるのは、
図3(A)と同じ第1領域S1に、これに対応する内接楕円Eを重ねて描いた図である。「内接楕円E」とは、第1領域S1の内側に全体が収まるよう配置し得る最大の楕円のことである。内接楕円Eの長軸MJや短軸MNのそれぞれの長さや両者の比率は、内接楕円Eが第1領域S1からはみ出ない範囲において自由に設定し得る。内接楕円Eは、第1領域S1からはみ出ない範囲でその面積が最大となるように、長軸MJ及び短軸MNを調整した結果得られる楕円、ということもできる。内接楕円Eの形状は、それぞれの第1領域S1の形状に対応して一意に定まる。
【0029】
内接楕円Eの短軸MNの長さのことを、以下では「L1」とも表記する。また、内接楕円Eの長軸MJの長さのことを、以下では「L2」とも表記する。
【0030】
図2の断面SAに含まれる複数の第1領域S1のそれぞれについて、対応する内接楕円Eの短軸MNの長さL1を個別に算出すると、L1の分布を示すグラフを描くことができる。このようなグラフは、例えば、
図4に示されるヒストグラムとして描くことができる。
図4のグラフの横軸は、L1の値を所定範囲毎に区分した「階級」を表している。数値の単位は「μm」である。
図4のグラフの縦軸は、上記のそれぞれの階級毎に、当該階級にL1が属している第1領域S1の「度数」、すなわち、断面SAにおけるL1の頻度を表している。
【0031】
尚、L1の値と頻度との関係を示すグラフは、
図4のようにヒストグラムとして描いてもよいが、他のグラフとして描いてもよい。例えば正規分布のグラフのように、連続した曲線としてL1の頻度を表すグラフを描いてもよい。
【0032】
図4に示されるように、断面SAについてL1の頻度を表すグラフを描くと、当該グラフには2つのピークP1、P2が現れる。
【0033】
ピークP1は、
図4のグラフのうち頻度が最も高くなるピークである。ピークP1は、
図4のグラフにおける「第1ピーク」に該当する。ピークP1に対応するL1の値は、概ね1.15μmである。「ピークP1に対応するL1の値」とは、本実施形態のようにヒストグラムとしてグラフが描かれている場合には、ピークP1が属する階級の範囲内における任意の値のことである。例えば、ピークP1が属する階級の範囲の中間値と設定することができる。
図4の例の場合、ピークP1は0.981~1.311の階級に属しているので、ピークP1に対応するL1の値は、(0.981+1.311)/2=1.146μmとなる。
【0034】
ピークP2は、
図4のグラフのうち頻度が2番目に高くなるピークである。ピークP2は、
図4のグラフにおける「第2ピーク」に該当する。ピークP2に対応するL1の値は、概ね2.14μmである。「ピークP2に対応するL1の値」とは、先に述べた「ピークP1に対応するL1の値」と同様に定義されるものであるから、説明を省略する。
図4の例の場合、ピークP2は1.971~2.301の階級に属しているので、ピークP2に対応するL1の値は、(1.971+2.301)/2=2.136μmとなる。
【0035】
上記と同様に、
図2の断面SAに含まれる複数の第1領域S1のそれぞれについて、対応する内接楕円Eの長軸MJの長さL2を個別に算出すると、L2の分布を示すグラフを描くことができる。このようなグラフは、例えば、
図5に示されるヒストグラムとして描くことができる。
図5のグラフの横軸及び縦軸のそれぞれの定義は、
図4の場合と同様であるから説明を省略する。L2の分布を示すグラフについても、例えば正規分布のグラフのように連続した曲線として描いてもよい。
【0036】
図5に示されるように、L2の頻度を表すグラフにおいては、単一のピークP11のみが現れる。ピークP11は、グラフのうち頻度が最も高くなるピークである。ピークP11は、
図5のグラフにおける「第1ピーク」に該当する。ピークP11に対応するL2の値は、概ね2.18μmである。「ピークP11に対応するL2の値」とは、先に述べた「ピークP1に対応するL1の値」と同様に定義されるものであるから、説明を省略する。
図4の例の場合、ピークP11は1.828~2.528の階級に属しているので、ピークP11に対応するL2の値は、(1.828+2.528)/2=2.178μmとなる。
【0037】
上記のような構成の複合材料10と対比するために、比較例に係る複合材料11について説明する。
図6(A)の画像は、比較例に係る複合材料11を平面に沿って切断することで現れた断面SBを、走査電子顕微鏡(SEM)で観察することにより得られた画像である。
図1と同様に、断面SBの範囲は500μm×350μmであり、拡大の倍率は250倍である。
図6(B)は、
図6(A)の一部を拡大した上で模式的に描き直したものである。
【0038】
図6(B)において符号「S11」が付されている領域は、
図2の第1領域S1と同様に、シリコンを主に含む領域である。
図6(B)において符号「S12」が付されている領域は、
図2の第2領域S2と同様に、炭化ケイ素を主に含む領域である。
【0039】
図6の比較例では、領域S12(炭化ケイ素)が比較的大きな粒子として存在しており、断面SBにおいて当該粒子が複数存在している。また、複数の領域S12の中には、互いに当接した状態となっているものもあるが、それぞれの領域S12の間は粒界により隔てられている。更に、それぞれの領域S12が比較的大きいことに起因して、その隙間にある複数の領域S11(シリコン)のそれぞれは比較的広くなっている。
【0040】
この比較例においても、領域S11のそれぞれについて内接楕円Eを描き、その短軸MNの長さL1の分布や、長軸MJの長さL2の分布を算出することができる。
【0041】
図7に示されるグラフは、断面SB(
図6)におけるL1の分布を、
図4と同様の方法で示すものである。
図7に示されるように、この比較例におけるL1の頻度を表すグラフにおいては、単一のピークP1のみが現れる。ピークP1は、
図7のグラフのうち頻度が最も高くなるピークであり、当該グラフにおける「第1ピーク」に該当する。ピークP1に対応するL1の値は、概ね2.33μmであり、本実施形態における値(先に述べた1.15μm)よりも大きな値となっている。
【0042】
図8に示されるグラフは、断面SB(
図6)におけるL2の分布を、
図5と同様の方法で示すものである。
図8に示されるように、この比較例におけるL2の頻度を表すグラフにおいても、単一のピークP11のみが現れる。ピークP11は、
図8のグラフのうち頻度が最も高くなるピークであり、当該グラフにおける「第1ピーク」に該当する。ピークP11に対応するL2の値は、概ね3.83μmであり、本実施形態における値(先に述べた2.18μm)よりも大きな値となっている。
【0043】
以上のように、本実施形態の複合材料10では、断面SAにある複数の第1領域S1のそれぞれについて算出されるL1の分布のピークが、比較例よりも小さな値において表れるよう、第1領域S1のそれぞれが小さくなっている。
【0044】
このような構成の複合材料10では、断面SAにおいて第1領域S1が占める割合は比較的小さくなっている。一般に知られているように、第1領域S1に含まれるシリコンは、第2領域S2に含まれる炭化ケイ素に比べると強度が低い。複合材料10では、強度の低い部分である第1領域S1の割合が小さくなっており、加工時における「削れ過ぎ」が抑制されるため、従来に比べ精密な加工を行うことが可能となっている。
【0045】
図9には、本実施形態に係る複合材料10の加工性と、比較例に係る複合材料11の加工性とを比較した実験の結果が示されている。
【0046】
図9の表における「短軸の第1ピーク」とは、それぞれのサンプルの断面についてL1の分布を示すグラフを描いた場合における、当該グラフの第1ピークに対応するL1の値のことである。つまり、
図4や
図7のピークP1に対応するL1の値のことである。単位は「μm」である。
図9においては、1つのサンプルにおける複数の断面のそれぞれについて、ピークP1に対応するL1の値を算出し、得られたそれぞれの値を「短軸の第1ピーク」として範囲で示してある。測定対象の各断面の画像は、
図1と同様に500μm×350μmの範囲の画像とし、拡大の倍率は250倍とした。L1の分布の測定に用いる断面の範囲は、上記よりも広い範囲であってもよい。
【0047】
本実施形態に係る複合材料10では、短軸の第1ピークは0.98μm~1.3μmの範囲で算出された。本実施形態では、断面の取り方によることなく、短軸の第1ピークは常に1.5μm以下の範囲内に収まることが確認された。一方、比較例に係る複合材料11では、短軸の第1ピークは0.98μm~8.0μmの範囲で算出された。
【0048】
図9の表における「短軸の第2ピーク」とは、本実施形態のサンプルの断面についてL1の分布を示すグラフを描いた場合における、当該グラフの第2ピークに対応するL1の値のことである。つまり、
図4のピークP2に対応するL1の値のことである。単位は「μm」である。
図9においては、1つのサンプルにおける複数の断面のそれぞれについて、ピークP2に対応するL1の値を算出し、得られたそれぞれの値を「短軸の第2ピーク」として範囲で示してある。測定対象の各断面の画像は、短軸の第1ピークの算出に用いた画像と同じである。
【0049】
本実施形態に係る複合材料10では、短軸の第2ピークは1.9μm~2.4μmの範囲で算出された。本実施形態では、断面の取り方によることなく、短軸の第2ピークは常に1.5μmよりも大きく且つ2.5μm以下の範囲内に収まることが確認された。尚、比較例においては第2ピークが現れなかったため、「短軸の第2ピーク」の算出は行っていない。
【0050】
図9の表における「長軸の第1ピーク」とは、それぞれのサンプルの断面についてL2の分布を示すグラフを描いた場合における、当該グラフの第1ピークに対応するL2の値のことである。つまり、
図5や
図8のピークP11に対応するL2の値のことである。単位は「μm」である。
図9においては、1つのサンプルにおける複数の断面のそれぞれについて、ピークP11に対応するL2の値を算出し、得られたそれぞれの値を「長軸の第1ピーク」として範囲で示してある。測定対象の各断面の画像は、短軸の第1ピーク等の算出に用いた画像と同じである。
【0051】
本実施形態に係る複合材料10では、長軸の第1ピークは1.7μm~2.7μmの範囲で算出された。本実施形態では、断面の取り方によることなく、長軸の第1ピークは常に1.5μm以上であり且つ3.0μm以下の範囲内に収まることが確認された。一方、比較例に係る複合材料11では、長軸の第1ピークは1.1μm~16.0μmの範囲で算出された。
【0052】
以上のような短軸の第1ピーク、短軸の第2ピーク、及び長軸の第1ピークのそれぞれを算出するにあたっては、走査電子顕微鏡を用いた観察で得られた
図1や
図6の画像に対し、画像解析ソフトウェアを用いて二値化処理を施すことで、それぞれの第2領域S2のみを抽出し
図2のような画像を作成した。その後、上記画像解析ソフトウェアが有する解析機能を用いて、各第1領域S1についての内接楕円Eの作成や、L1やL2の算出、及び統計処理を行うことで、短軸の第1ピーク等を算出した。
【0053】
図9の表における「加工深さ」とは、それぞれのサンプルの表面に対し同一の条件でサンドブラスト加工を行った後、当該表面に形成された凹部の深さをゲージにより測定し、測定結果をmmの単位で表したものである。
図9の例では、本実施形態及び比較例のそれぞれについて、1つのサンプルにおける3か所の部分のそれぞれにサンドブラスト加工を行っており、それぞれの部分の加工深さを測定している。
図9に示される「平均加工深さ」は、上記3か所の加工深さの平均値である。本実施形態に係る複合材料10では、測定された平均加工深さは2.89mmであった。比較例に係る複合材料11では、測定された平均加工深さは4.83mmであった。このように、本実施形態に係る複合材料10では、比較例に比べて平均加工深さが小さく抑えられており、精密な加工がより行いやすい材料であることが確認された。
【0054】
本発明者らは、
図1等に示される本実施形態とは別に、製造条件を変えながら複数種類の複合材料10を作成し、それぞれのサンプルについて、「短軸の第1ピーク」等の各種指標の算出や平均加工深さの測定を行っている。当該測定によれば、
図4のピークP1のような短軸の第1ピークが、1.5μm以下の範囲内であれば、従来に比べて平均加工深さが小さくなり、加工性が十分に向上することが確認された。また、
図4のピークP2のような短軸の第2ピークがグラフに表れ、且つ、1.5μmよりも大きく且つ2.5μm以下の範囲内であれば、加工性が更に向上することが確認された。更に、
図5のピークP11のような長軸の第1ピークが、1.5μm以上であり且つ3.0μm以下の範囲内であれば、加工性はより顕著に向上することも確認された。長軸の第1ピークが1.5μm以上であり且つ3.0μm以下の範囲内である、という指標は、短軸の第1ピーク等とは独立の指標として用いることも可能である。
【0055】
複合材料10の製造方法について説明する。以下では、SiSiCの製造方法として公知となっている点については適宜説明を簡略化もしくは省略する。
【0056】
先ず、原料である炭素粉末と炭化ケイ素粉末をそれぞれ所定量秤量し、バインダーや分散材と共に純水に分散混合させてスラリーを作成する。得られたスラリーを、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥させながら、炭素と炭化ケイ素を含んだ造粒粉を作成する。
【0057】
このとき、バインダーや分散材を適宜選定することで、得られる造粒粉の真球度を高めることができる。目標とする真球度の値は、従来のSiSiC材料に用いられる造粒粉の真球度に比べて高い値に設定するのが好ましい。
【0058】
造粒粉の真球度を高くする目的は、造粒粉に十分な流動性を持たせるためである。造粒粉の流動性は、従来においては過剰と思われるほどに高めておくことが好ましい。尚、造粒粉の流動性は、造粒粉の真球度のみならず、造粒粉の大きさによっても変化する。このため、例えばスラリーを噴霧乾燥する際、供給する空気の流量を調整することで造粒粉の大きさを制御し、最適な流動性を持った造粒粉を得ておくことが好ましい。
【0059】
その後、得られた造粒粉を所定の金型に投入し、乾式一軸圧プレス成型によって成型体を得る。造粒粉の流動性を予め上記のように高めておくことで、造粒粉は金型内に十分に密に充填される。その結果、気孔径の小さい成型体を得ることができる。
【0060】
尚、成型方法としては、流動性の高い造粒粉を十分に密に充填し得る方法であれば、上記のような乾式一軸圧プレスとは別の方法を採用してもよい。例えば、CIP(Cold Isostatic Pressing:冷間等方圧プレス)を用いて成型しもよいし、3Dプリンターを用いて粉を敷きながら造形して行く方式でもよい。
【0061】
成型が完了した後は、得られた成型体に金属シリコンを載置して、減圧下にて焼成する。溶融したシリコンが成型体に含浸され、炭素粉末との反応焼結が行われることで、
図1等に示される複合材料10を得ることができる。
【0062】
本実施形態では上記のように、造粒粉の流動性を従来よりも高めておき、金型内において十分に密に充填させながら成型体を得ることとしている。その結果、シリコンと炭素粉末との反応が、材料の全体においてより均一に行われるようになることで、第2領域S2が比較的広い範囲に亘り形成され、第1領域S1が従来よりも小さくなったものと考えられる。
【0063】
造粒粉の流動性を十分に高めることなく、従来と同様の製法で複合材料を形成した場合には、
図6の比較例と同様の断面を有する複合材料が作成される。尚、
図6の複合材料11を作成するにあたっては、本実施形態との構造の違いをより顕著なものとするために、鋳込み成型によって成型体を作成している。
【0064】
具体的には、先ず、炭素粉末と炭化ケイ素粉末をそれぞれ所定量秤量し、バインダーや分散材と共に純水に分散混合させてスラリーを作成した。その後、得られたスラリーを石膏型に流し込み、鋳込み成型によって成型体を得た。成型が完了した後は、得られた成型体に金属シリコンを載置して、減圧下にて焼成した。
【0065】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0066】
10:複合材料
SA:断面
S1:第1領域
S2:第2領域
E:内接楕円
MJ:長軸
MN:短軸
P1,P11:第1ピーク
P2:第2ピーク