(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110550
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】高調波抑制装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240808BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H05K7/20 G
H05K7/20 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015179
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】日本キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小日向 夏美
(72)【発明者】
【氏名】久保田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慶一
(72)【発明者】
【氏名】高田 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】杉山 広樹
(72)【発明者】
【氏名】石川 哲也
(72)【発明者】
【氏名】石田 圭一
【テーマコード(参考)】
5E322
5H770
【Fターム(参考)】
5E322AA11
5E322BA01
5E322BA03
5E322BA04
5E322BB03
5E322BC01
5E322EA04
5E322EA11
5H770AA05
5H770BA01
5H770BA11
5H770CA02
5H770DA03
5H770DA22
5H770DA23
5H770DA30
5H770HA03X
5H770KA01Y
5H770PA02
5H770PA42
5H770QA01
5H770QA02
5H770QA22
5H770QA25
5H770QA27
(57)【要約】
【課題】独自の冷却用のファンを備えることなく電気部品を冷却することができる高調波抑制装置を提供する。
【解決手段】高調波抑制装置は、マルチレベル変換器、制御部、パッシブフィルタ、および筐体を備える。筐体は、マルチレベル変換器、制御部、およびパッシブフィルタを収容して空気調和機内に設けられ、その空気調和機の送風ファンの運転に伴い空気調和機内の空気を冷却用空気として取込む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流系統と空気調和機との間の系統ラインに接続されたマルチレベル変換器と、
前記系統ラインに流れる負荷電流の高調波成分を検出し、検出した高調波成分を抑制するために前記負荷電流に加えるべき補償電流を求め、その補償電流を前記系統ラインに供給するための補償電圧を前記電力変換器から出力させる制御部と、
前記電力変換器の出力端に接続される変換器用リアクトルを含むパッシブフィルタと、
前記マルチレベル変換器、前記制御部、および前記パッシブフィルタを収容して前記空気調和機内に設けられ、その空気調和機の送風ファンの運転に伴い前記空気調和機内の空気を冷却用空気として取込む筐体と、
を備える高調波抑制装置。
【請求項2】
前記送風ファンは、前記空気調和機の室外ユニット内の上部に設けられ、
前記筐体は、前記室外ユニット内の前記送風ファンの下方に配置される、
請求項1に記載の高調波抑制装置。
【請求項3】
前記マルチレベル変換器は、それぞれがマルチレベルの直流電圧を出力する複数の単位変換器、これら単位変換器を複数ずつ直列接続して構成される複数のクラスタ、これらクラスタがそれぞれ実装される複数のクラスタ基板を含む、
請求項1に記載の高調波抑制装置。
【請求項4】
前記筐体は、
第1通気口を有する底板と、
前記底板の両側端縁から立ち上がる一対の側板と、
前記底板の後端縁から立ち上がり、上部に第2通気口を有する背板と、
前記各側板上および前記背板上に設けられた天板と、
前記底板の前端縁、前記各側板の前端縁、および前記天板の前端縁により形成される前面開口を開閉自在に被う前面カバーと、
前記底板の前記第1通気口と前記後端縁との間の位置から、前記背板の前記第2通気口またはその近傍にかけて、前記背板に沿って直立状態で設けられ、前記前面開口と対向する側の面に、空隙を確保した状態で前記各クラスタ基板を保持する第1保持板と、
前記底板の前記第1通気口と対応する位置にその第1通気口を被う状態に設けられ、その第1通気口に流入する空気の流れを前記底板の前記前端縁側に向けてから前記底板の前記後端縁側に戻し前記各クラスタ基板と前記第1保持板との間の前記空隙に案内する第1空気流調整部材と、
を含む、
請求項3に記載の高調波抑制装置。
【請求項5】
前記筐体は、
前記底板上で前記第1通気口よりも前端縁側の部位に設けられた第3通気口と、
前記側板の少なくとも一方に設けられた第4通気口と、
前記第4通気口から流出する空気の流れを下方に向けてから上方の空間に導く第2空気流調整部材と、
前記底板の前記第3通気口と前記第2空気流調整部材との間の位置に前記前面開口に沿って直立状態で設けられ、その前面開口と対向する側の面に、前記制御部の回路基板および前記パッシブフィルタが搭載されるフィルタ基板を保持する第2保持板と、
を含む
請求項4に記載の高調波抑制装置。
【請求項6】
前記パッシブフィルタは、フィルタ用リアクトルとフィルタ用コンデンサで構成され前記系統ラインに接続されるノイズ除去用フィルタおよび前記変換器用リアクトルを前記交流系統の相ごとに含み、前記フィルタ基板にはこれらノイズ除去用フィルタおよび変換器用リアクトルが実装される、
請求項5に記載の高調波抑制装置。
【請求項7】
前記第3通気口は、前記フィルタ基板の下方に位置し、
前記第4通気口は、前記フィルタ基板に近い側の前記側板に設けられている、
請求項6に記載の高調波抑制装置。
【請求項8】
前記各クラスタ基板は、前記底板の前記後端縁に沿う方向に並ぶ状態で前記第1保持板に保持され、
前記制御部の前記回路基板および前記パッシブフィルタの前記フィルタ基板は、前記底板の前記後端縁に沿う方向に並ぶ状態で前記第2保持板に保持されている、
請求項6に記載の高調波抑制装置。
【請求項9】
前記各単位変換器は、第1および第2スイッチ素子を直列接続しその第1および第2スイッチ素子の相互接続点が一方の出力端となり第3および第4スイッチ素子を直列接続しその第3および第4スイッチ素子の相互接続点が他方の出力端となるブリッジ回路と、このブリッジ回路に並列接続された複数の直流コンデンサを含み、
前記各クラスタ基板は、前記各単位変換器を前記底板の前記後端縁に沿う方向と直行する方向に並ぶ状態で搭載している、
請求項4に記載の電力抑制装置。
【請求項10】
前記各クラスタ基板は、前記前面開口に対向する側の表面および前記第1保持板に対向する側の裏面を有し、前記各単位変換器の前記第1ないし第4スイッチ素子および前記各直流コンデンサを通電路形成用の導電パターンと共に前記表面に搭載し、
前記各クラスタ基板の裏面には前記表面の前記導電パターンと熱的につながっている導電パターンが設けられ、その裏面の導電パターンは前記空隙に臨んでいる、
請求項4に記載の高調波抑制装置。
【請求項11】
前記表面の導電パターンと前記裏面の導電パターンとは、前記各クラスタ基板を貫通するように設けられた複数のスルーホールによって熱的につながっている、
請求項10に記載の高調波抑制装置。
【請求項12】
前記裏面の導電パターン側の前記スルーホールの孔の周囲に半田が設けられている、
請求項11に記載の高調波抑制装置。
【請求項13】
前記裏面の導電パターンには、その表面上に複数のランドと、このランド上の半田とが設けられている、
請求項12に記載の高調波抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、高調波を抑制する高調波抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイオード整流器など非線形な特性を持つ負荷たとえば空気調和機を交流系統に接続した場合、負荷に流れる電流(負荷電流)に高調波成分が生じる。この高調波成分は交流系統を通して他の負荷へ悪影響を与えるため、それをいかに抑制するかが重要な課題となっている。
【0003】
対策として、負荷電流に含まれる高調波成分を抑制する高調波抑制装置が使用される。高調波抑制装置は、ノイズ除去用フィルタおよび変換器用リアクトルを介して交流系統と負荷との間の系統ラインに接続される変換器たとえば2レベル変換器を含み、負荷電流の高調波成分に対する抑制用の電圧をその変換器のスイッチングにより生成し、生成した電圧を系統ラインに供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高調波抑制装置は、据付け済みの負荷である空気調和機に対し必要に応じて追加されるオプション機器であるとともに、その内部には発熱部品となるスイッチング素子やキャパシタおよびトランスが含まれることから、これらの電気部品を冷却するためのファンを装置内に備える。しかしながら、このファンは装置の重量の増加やコストの上昇を招く大きな要因となっている。
【0006】
本発明の実施形態の目的は、独自の冷却用のファンを備えることなく電気部品を冷却することができる高調波抑制装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の高調波抑制装置は、交流系統と空気調和機との間の系統ラインに接続されたマルチレベル変換器と;前記系統ラインに流れる負荷電流の高調波成分を検出し、検出した高調波成分を抑制するために前記負荷電流に加えるべき補償電流を求め、その補償電流を前記系統ラインに供給するための補償電圧を前記電力変換器から出力させる制御部と;前記電力変換器に接続される変換器用リアクトルを含むパッシブフィルタと;前記マルチレベル変換器、前記制御部、および前記パッシブフィルタを収容して前記空気調和機内に設けられ、その空気調和機の送風ファンの運転に伴い前記空気調和機内の空気を冷却用空気として取込む筐体と;を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】
図2は同実施形態における各単位変換器の構成を示すブロック図。
【
図3】
図3は同実施形態に係わる室外ユニットの筐体の構成を概略的に示す斜視図。
【
図4】
図4は同実施形態の筐体の構成を分解して示す斜視図。
【
図6】
図6は
図4の各クラスタ基板を筐体の前面開口側から視た図。
【
図7】
図7は
図4の制御回路基板とフィルタ基板を筐体の前面開口側から視た図。
【
図8】
図8は
図4の各クラスタ基板上の電気部品を空気の流れと共に示す斜視図。
【
図9】
図9は
図4の1つのクラスタ基板の表面側の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、交流系統(3相交流電源、電力系統、配電系統などを含む)1の系統ライン(電源ライン)Lr,Ls,Ltに負荷となる空気調和機2が接続されている。ここでは、定格200Vの3相交流電源を例に説明する。
【0010】
空気調和機2は、複数のダイオードのブリッジ接続により構成され交流系統1の系統電圧(交流電圧)Vr,Vs,Vtを全波整流する全波相整流回路(ダイオード整流器)3、この全波整流回路3の出力端に直流リアクトル4を介して接続された平滑コンデンサ5、この平滑コンデンサ5の両端に接続されたインバータ6、このインバータ6の出力端に接続された圧縮機モータ7、平滑コンデンサ5の両端に接続されたインバータ8、このインバータ8の出力端に接続された送風ファンモータ(室外ファンモータ)9を含む。インバータ6,8は、平滑コンデンサ5の直流電圧をスイッチングにより所定周波数の交流電圧に変換し、その交流電圧を圧縮機モータ7の駆動電力および送風ファンモータ9の駆動電力としてそれぞれ出力する。ここでは圧縮機駆動用のインバータ6と送風機用のインバータ8を同じ全波整流回路3の出力端に共通接続しているが、インバータ6,8の夫々に別の整流回路を設け、インバータ6,8の直流電源を分ける構成としてもよい。
【0011】
交流系統1と空気調和機2との間の系統ラインLr,Ls,Ltに、本実施形態の高調波抑制装置10が接続されている。高調波抑制装置10のことをアクティブフィルタ10ともいう。
【0012】
高調波抑制装置10は、パッシブフィルタ11を介して系統ラインLr,Ls,Ltに空気調和機2とは並列の関係に接続されたモジュラーマルチレベル変換器(MMC)でなるマルチレベル変換器40、系統ラインLr,Ls,Ltにおけるパッシブフィルタ11の接続位置と空気調和機2との間に配置され交流系統1から空気調和機2の全波整流回路3に流れる電流(負荷電流という)Ir,Isを検出する検出器15、系統ラインLr,Ls,Ltに接続され交流系統1の系統電圧(交流電圧)Vr,Vs,Vtを検出する検出器16、パッシブフィルタ11とマルチレベル変換器40との接続間に配置されマルチレベル変換器40からパッシブフィルタ11に流れる補償電流Icr,Icsを検出する検出器17、これら検出器15,16,17の検出結果に応じてマルチレベル変換器40を制御して系統ラインLr,Ls,Ltに流れる高調波を低減・抑制する制御部30を含む。
【0013】
パッシブフィルタ11は、系統ラインLr,Ls,Ltに一端が接続されるフィルタ用リアクトル12r,12s,12tおよびこれらフィルタ用リアクトル12r,12s,12tの他端に接続されかつ互いに星形結線されたフィルタ用コンデンサ13r,13s,13tにより構成されたノイズ除去用フィルタ18を含むとともに、このノイズ除去用フィルタ18とマルチレベル変換器40の出力端(コネクタ端子)40r,40s,40tとの間に接続される変換器用リアクトル14r,14s,14tを含むとともに、これらノイズ除去用フィルタ18および変換器用リアクトル14r,14s,14tが搭載されて実装される後述の1つのフィルタ基板92を含む。フィルタ用リアクトル12r,フィルタ用コンデンサ13r,変換器用リアクトル14rによりLCL回路が形成され、フィルタ用リアクトル12s,フィルタ用コンデンサ13s,変換器用リアクトル14sによりLCL回路が形成され、フィルタ用リアクトル12t,フィルタ用コンデンサ13t,変換器用リアクトル14tによりLCL回路が形成されている。
【0014】
ノイズ除去用フィルタ18は、マルチレベル変換器40のスイッチングにより生じる高周波ノイズが系統ラインLr,Ls,Ltに流れて他の電気機器に悪影響を与えないよう、その高周波ノイズをフィルタ用リアクトル12r,12s,12tおよびフィルタ用コンデンサ13r,13s,13tにて除去する。変換器用リアクトル14r,14s,14tは、マルチレベル変換器40のスイッチングにより生じる電流リップルを抑える。
【0015】
マルチレベル変換器40は、それぞれがマルチレベルの直流電圧を出力する複数の単位変換器50、これら単位変換器50を複数ずつ直列接続して構成されかつ系統ラインLr,Ls,Ltの各相に対応する3つのクラスタ41,42,43、このクラスタ41,42,43がそれぞれ実装される後述の両面基板でなるクラスタ基板41x,42x,43xを含む。
【0016】
系統ラインLrに出力端(一端側)40rが接続されるクラスタ41は、それぞれが複数レベル(マルチレベル)の直流電圧をスイッチングにより選択的に生成し出力する複数の単位変換器(セル)50を直列接続(カスケード接続)してなるいわゆる多直列変換器クラスタである。ここでは、例として、クラスタ41,42,43はそれぞれ3つ単位変換器50を備えている。クラスタ41は、3つの単位変換器50の出力電圧(セル出力電圧)Vcr1,Vcr2,Vcr3を適宜足し合わせることにより高調波を低減するための正弦波に近い波形の交流電圧Vcr0(=Vcr1+Vcr2+Vcr3)を生成し、それを出力端40rから出力することでマルチレベルの電圧出力が可能となる。直列接続される単位変換器50の数を増やせば、さらに段数を上げることも可能である。
【0017】
系統ラインLsに出力端(一端側)40sが接続されるクラスタ42も、クラスタ41と同一回路構成であり、各単位変換器50の出力電圧Vcs1,Vcs2,Vcs3を適宜足し合わせることにより高調波を低減するための正弦波に近い波形の交流電圧Vcs0(=Vcs1+Vcs2+Vcs3)を生成し、それを出力端40sから出力する。
【0018】
系統ラインLtに出力端(一端側)40tが接続されるクラスタ43も、クラスタ41と同一回路構成であり、各単位変換器50の出力電圧Vct1,Vct2,Vct3を適宜足し合わせることにより高調波を低減するための正弦波に近い波形の交流電圧Vct0(=Vct1+Vct2+Vct3)を生成し、それを出力端40tから出力する。これらクラスタ40r~40tの出力端(他端側)は、点Pで共通接続されている。
【0019】
クラスタ41の各単位変換器50の具体的な構成を代表として
図2に示す。
単位変換器50は、還流ダイオードDを有する半導体スイッチ素子(第1および第2スイッチ素子)Q1,Q2を直列接続しその半導体スイッチ素子Q1,Q2の相互接続点が一方の出力端となりかつ還流ダイオードDを有する半導体スイッチ素子(第3および第4スイッチ素子)Q3,Q4を直列接続しその半導体スイッチ素子Q3,Q4の相互接続点が他方の出力端となるブリッジ回路、このブリッジ回路に並列接続された複数たとえば3つの直流コンデンサC1、制御部30からの駆動信号に応じて半導体スイッチ素子Q1~Q4を駆動するゲートドライブ回路58、このゲートドライブ回路58の動作用電圧を各直流コンデンサC1の電圧から生成する給電回路53、各直流コンデンサCの電圧を検出して制御部30に知らせる電圧検出回路51を含み、半導体スイッチ素子Q1~Q4のスイッチング(オン,オフ)による複数の通電路の選択的な形成により複数レベルの直流電圧を生成し出力する。半導体スイッチ素子Q1~Q4は、例えば低損失で耐圧が100~200V程度のシリコン製の低耐圧MOSFETである。
【0020】
各単位変換器50のブリッジ回路の負側ラインと半導体スイッチ素子Q2との間の通電路に、電流検知用のシャント抵抗器(第1シャント抵抗器)S1が挿入接続されている。各単位変換器50のブリッジ回路の負側ラインと半導体スイッチ素子Q4との間の通電路にも、電流検知用のシャント抵抗器(第2シャント抵抗器)S2が挿入接続されている。
なお、クラスタ42,43についても、クラスタ42と同一回路構成である。
【0021】
制御部30は、検出器15で検出される負荷電流Ir,Isおよびその負荷電流Ir,Isから算出した負荷電流Itに含まれる高調波成分を検出し、検出した高調波成分を抑制するために負荷電流Ir,Is,Itに加えるべき補償電流の目標値Icrs,Icss,Ictsを求め、その補償電流の目標値Icrs,Icss,Ictsと実際に流れている補償電流値Icr,Ics,Ictとの差に基づき系統ラインLr,Ls,Ltに供給するために必要な補償電圧Vcr0,Vcs0,Vct0をマルチレベル変換器40で生成し出力させる。この際、実際に流れている補償電流値Ictは、補償電流Icr,Icsを検出する検出器17の検出結果から算出する。
【0022】
[空気調和機2の室外ユニット]
高調波抑制装置10は、据付け済みの空気調和機2の室外ユニット60、もしくは製造過程にある室外ユニット60に対し必要に応じてその内部に組み込まれるオプション機器であり、
図3に示すように筐体70に収まった状態で空気調和機2の室外ユニット60に収容される。逆に言うと空気調和機2の室外ユニット60の内部機器は、予め高調波抑制装置10をその内部に後からでも収納可能なように配置されている。
【0023】
室外ユニット60は、縦長の直方体形状をなし、矩形状の底板61,この底板61の両側端縁から立ち上がる一対の側板62,63、底板61の後端縁から立ち上がる背板64、これら側板62,63上および背板64上に設けられた天板65、底板61の前端縁と側板62,63の前端縁および天板65の前端縁により形成される前面開口を開閉自在に被う前面カバー60fにより構成されている。室外ユニット60の内部には、その両側板62,63と背板64に沿った形でコ字状に折り曲げ成形された室外熱交換器100が底板61に立設されている。そして、両側板62,63及び背板64における室外熱交換器100と対面する位置には、室外ユニット60の吸込口となる開口が設けられている。
【0024】
天板65はその中央に排気口65aを有し、その排気口65aに対応する筐体60内に送風ファン(室外ファン)66を含むファンユニット67が収容されている。ファンユニット67は、送風ファン66であるプロペラファンと送風ファンモータ9及びこれらを筐体の略中心位置に上向きで支持するアングルなどの支持部材を含む。送風ファン66は、室外熱交換器100の上端と同じもしくは少し上の位置に設置されている。上記送風ファンモータ9により駆動され、両側板62,63及び背面64の開口を通して室外空気を吸込み、吸込んだ室外空気を筐体60内の室外熱交換器100を通過させた後、排気口65aを通して上方の室外空間に排出する。
【0025】
上記圧縮機モータ7を内蔵する密閉型圧縮機やアキュームレータ等を含む圧縮機ユニット68が筐体60の底板61に設けられ、その圧縮機ユニット68と上部のファンユニット67との間の空間に高調波抑制装置10の筐体70が着脱自在に配置される。ファンユニット67の下方には、筐体70と横並びの位置に、上記全波相整流回路3、直流リアクトル4、平滑コンデンサ5、インバータ6,8などを納めた空気調和機2の電気部品箱69が配置されている。筐体70は、室外熱交換器100から排気口65aに至る通風経路に配置され、送風ファン66の運転によって生じる通風によって内部が冷却されるようになっている。
【0026】
[高調波抑制装置10の筐体70]
高調波抑制装置10の筐体70およびその周辺部の構成を
図4に示し、その筐体70の要部の断面を
図5に示す。筐体70は、横長で、厚み(奥行)が薄い直方体形状をなす。筐体70は、前端縁側の部位に通気口(第3通気口)71aを有し後端縁側の部位に通気口(第1通気口)71bを有する矩形状の底板71、この底板71の両側端縁から立ち上がる一対の側板72,73、底板71の後端縁から立ち上がって上部に通気口(第2通気口)74aを有する背板74、側板72,73上および背板74上に設けられた天板75、底板71の前端縁,側板72,73の前端縁,および天板75の前端縁により形成される前面開口を開閉自在に被う板状の前面カバー100により構成される。筐体70の外郭を形成する底板71、側板72,73、背板74、天板75および前面カバー100は、耐久性や火災からの延焼防止のために板金で形成されている。
側板72には、室外ユニット60に収容された際に室外ユニット60に筐体70を固定するためのブラケットBが設けられている。
【0027】
底板71の通気口71bと後端縁との間の位置から、背板74の通気口74aまたはその近傍にかけて、背板74に沿って矩形状の板金製の保持板(第1保持板)80が直立状態でかつ上記前面開口を通して着脱自在に設けられている。この保持板80は、周縁が背面74側に折り返されており、その折り返し部分が底板71、側板72,73、および天板75に例えば螺子止めされることで筐体70に固定される。また、保持板80は、上記前面開口と対向する側の面に、
図5に示す複数のスペーサ85によって空隙Aを確保した状態で、各々が縦長形状のクラスタ基板41x,42x,43xを保持する。とくに、クラスタ基板41x,42x,43xは、底板71の後端縁に沿う方向(筐体70の奥行方向と直交する方向)に並ぶ状態で保持板80に保持される。クラスタ基板41x,42x,43xは、前面カバー100側から見て保持板80の正面の内側に位置する。
【0028】
各スペーサ85は、弾性部材で成形されており、保持板80の裏面側から、保持板80に形成されている複数のスペーサ挿通孔およびクラスタ基板41x,42x,43xのそれぞれ四隅に形成されているスペーサ挿通孔を通してクラスタ基板41x,42x,43xの表面側に挿通される。挿通された各スペーサ85は、基端の鍔部が保持板80の裏面に面接触し、先端部がクラスタ基板41x,42x,43xの表面側で拡がってクラスタ基板41x,42x,43xを固定・係止する。
【0029】
底板71の通気口71bと対応する位置にその通気口71bを被う状態に台座状の空気流調整部材(第1空気流調整部材)81が設けられている。この空気流調整部材81は、
図5に破線矢印で示すように、底板71の下方空間から通気口71bに流入する空気の流れを受けてその空気の流れを底板71の前端縁側に向ける段状の仕切壁82、この仕切壁82に沿って前端縁側に向かう空気の流れを底板71の後端縁側へと戻すように跳ね返す前壁83、この前壁83の上縁から保持板80へと板状に延びて前壁83で跳ね返された空気流の流れを保持板80側に導く上壁84、この上壁84における保持板80への当接部位の近傍にその保持板80の板面に沿って形成された3つの通気口84a,84b,84cを含む。このような折り返した空気通路を形成することで塵埃の吸込みや雨水の侵入を防ぐようになっている。また、通気口71bは、小動物や昆虫の侵入を防ぐために直径が1cm未満のパンチングメタルで形成されている。同様に筐体70の外装に設けられた通気口71a、通気口74aも同様にパンチングメタルで形成されている。
【0030】
矩形型の通気口84a,84b,84cはクラスタ基板41x,42x,43xと保持板80との間の空隙Aの下方に開放状態で位置しており、上壁84と仕切壁82に沿って保持板80側に向かう空気の流れが通気口84a,84b,84cを通って空隙Aに導かれる。空隙Aに導かれた空気は、空隙A内を上昇して背板74の上部の通気口74aへと向かい、その通気口74aから流出する。
【0031】
背板74の外面において通気口74aと対応する位置に空気流調整部材(第2空気流調整部材)77が設けられている。この空気流調整部材77は、通気口74aから流出する空気の流れを受けてその空気の流れを下方に向ける仕切壁78とこの仕切壁78の外側に所定の距離を離して覆うカバー部79を有し、この仕切壁78を経た空気の流れをカバー部79との間の通路を通して上方へと戻し、仕切壁78とカバー部79の間の開口77aから室外ユニット60内部の上方空間に導く。カバー部79の上端は仕切壁78とほぼ同じ高さ位置となっており、カバー部79の下端は、背板74に螺子等で固定されている。このカバー部79の下端には、上述の空気の流れを強く妨げることなく、開口77aから入り込む雨水を排水でき、かつ空気の流れをほとんど妨げないように小さい排水孔(図示せず)が設けられている。
【0032】
底板71の通気口71bよりも前面カバー100寄りに設けられた通気口71aと空気流調整部材81との間の位置に、筐体70の前面開口に沿って板金製で矩形状の保持板(第2保持板)90が直立状態でかつ筐体70の前面開口を通して着脱自在に設けられている。
【0033】
なお、通気口71aは、底板71の右寄りに設けられ、その幅寸法は、底板71の幅いっぱいに設けられている通気口71bの概ね半分程度である。この保持板90は、両側縁部にフランジ90aが形成されており、そのフランジ90aが筐体70の両側板72,73の内面に上下方向に取付けられている板金製の帯状の取付け部材79,79に螺子止めされるとともに天板75等にも螺子止めされることで上記前面開口を通して着脱自在に筐体70内に固定される。これにより、保持板90は、側面72,73、天板75、底板71によって周囲の4辺がほぼ隙間のない状態で固定されている。したがって、保持板90が筐体70内に取り付けられることで保持板90と保持板80との間は所定の通風経路を除き概ね密閉されることになり、保持板90と保持板80との間の空間と保持板90と前面カバー100との間の空間とはほぼ空気の流れがない状態となる。
【0034】
そして、保持板90は、筐体70の前面開口と対向する側の面上に、制御部30の回路基板91およびパッシブフィルタ11のフィルタ基板92をスペーサを用いて保持する。とくに、回路基板91およびフィルタ基板92は、底板71の後端縁に沿う方向(筐体70の奥行方向と直交する方向)に並ぶ状態で保持板90に保持される。回路基板91およびフィルタ基板92は、前面開口、すなわち、前面カバー100側から見て、保持板90の周縁よりも内側に固定されている。フィルタ基板92の下方に通気口71aが位置する。
【0035】
側板72,73のうちフィルタ基板92に近い側に位置する図中右側の側板73には、その側板73の外面から突出する形で、通気口74aとほぼ同じ高さ位置に上方に開口76aを有するフード形状の空気流調整部材(第3空気流調整部材)76が設けられている。空気流調整部材76の内側の側板73には、四角形の通気口(第4通気口)73aが開口されている。この通気口73aを上から覆い、下部に開口73cを有するフード状のカバー板73bが側板73にスポット溶接等で固着されている。このカバー板73bの空気流調整部材76と対向する面は下向きに斜め前方向に傾斜している。このため、筐体70内の空気は、通気口73aから図中右に流れたあと、下方に方向転換し、開口73cを通って、カバー板73bの外側を上方向に流れて、空気流調整部材76の開口76aから室外ユニット60内部空間の送風ファン66による主流の空気の流れに合流する。
【0036】
すなわち、空気流調整部材(第3空気流調整部材)76における構造は、上述の空気流調整部材77と類似する構造をなしており、同様に空気通路を折り曲げることで雨水の侵入を防いでいる。なお、空気流調整部材76にも、空気流調整部材77と同様に、上方向きの開口76aから入り込む雨水を排水でき、かつ上述の空気の流れをほとんど妨げないように下端に小さい排水孔(図示せず)が設けられている。
【0037】
そして、空気調和機2の送風ファン66の運転によって空気流調整部材76の外側が負圧になることで、開口76aは排気口として機能する。
【0038】
図6に示すようにクラスタ基板41x,42x,43xを保持した保持板80が筐体70内に収められて固定された後、
図7に示すように回路基板91およびフィルタ基板92を保持した保持板90が筐体70内に収められ固定される。そして、筐体70の前面開口が前面カバー100の螺子止めによって閉塞されて、組立てが完了する。そして、この筐体70が
図3のように空気調和機2の室外ユニット60に収容される。
【0039】
室外ユニット60内の筐体70は、送風ファン66の運転に伴い、空気流調整部材77の上方の開口77aの位置および空気流調整部材76の上方の開口76aの位置が共に負圧となる。このため、室外ユニット60内の空気が筐体70の底板71の通気口71aを通って筐体70内に流入する。通気口71aは、右側のフィルタ基板92の下方にのみ設けられていることから、流入した空気が
図7に破線で示すように通気口71aの直上にある保持板90上のフィルタ基板92に導かれる。導かれた空気は、筐体70内を上昇しながら、フィルタ基板92上のリアクトル12r~14tを冷却し、その後、側板74の通気口74aおよび空気流調整部材76を通って室外ユニット60内の上方空間に流れる。ここで、制御部30の回路基板91の周辺ではほとんど風が流れないが、もともと回路基板91は、制御回路であってマイクロコンピュータなどの低電力の電気部品しか搭載されておらず、ほとんど冷却する必要がないことから、通風量が極めて少なくても問題はない。
【0040】
同時に、
図5に破線矢印で示すように、室外ユニット60内の空気が底板71の通気口71bを通って筐体70内に流入し、流入した空気が空気流調整部材81によってクラスタ基板41x,42x,43xと保持板80との間の空隙Aに導かれる。空隙Aに導かれた空気は、空隙A内を上昇しながら、クラスタ基板41x,42x,43xをその裏面から冷却し、その後、背板74の通気口74aおよび空気流調整部材77を通って室外ユニット60内の上方空間に流れる。クラスタ基板41x,42x,43xの裏面を冷却することで、クラスタ基板41x,42x,43xの表面側に搭載されたもっとも高温となる発熱部品である半導体スイッチ素子Q1~Q4を間接的に冷却することができる。なお、通気口71bを通って筐体70内に流入した空気の一部は、クラスタ基板41x,42x,43xの表面を通って通気口74aに流れ出すが、その量はわずかであり、流入した空気の大半は、クラスタ基板41x,42x,43xの裏面を流れる。
【0041】
クラスタ基板41x,42x,43x上の電気部品の配置およびクラスタ基板41x,42x,43xに対する空隙A内の空気の流れ方向を
図8に示している。クラスタ基板41x,42x,43xは、各単位変換器50を底板71の前記後端縁に沿う方向と直行する方向(空隙A内の空気の流れに沿う方向)に並ぶ状態で搭載している。
【0042】
クラスタ基板41x,42x,43xは、筐体70の前面開口に対向する側の表面Puおよび保持板80に対向する側の裏面Pdを有し、各単位変換器50の半導体スイッチ素子Q1~Q4および3つの直流コンデンサC1、リードを含む複数の電子部品44r,44s,44t、出力端(コネクタ端子)40r,40s,40tなどを通電路形成用の導電パターンと共に表面Puに搭載している。とくに、半導体スイッチ素子Q1~Q4については、クラスタ基板41x,42x,43xの表面Puに素子本体を当接させるいわゆる面実装するとともに、後述するように素子本体の熱をクラスタ基板41x,42x,43xに直接的に放出させる構成としている。これにより半導体スイッチ素子Q1~Q4に放熱フィンを取付ける必要がなくなり、構成の簡略化が図れる。
【0043】
通気口71bは、クラスタ基板41x,42x,43xの横幅寸法と同じかそれよりもわずかに長い横寸法を備えるため、空気の流れが偏ることなくクラスタ基板41x,42x,43xの裏面をほぼ均等に空気が流れる。また、クラスタ基板41x,42x,43xは空気の流れ方向と直交する方向に並んでいるので、冷却用の空気がクラスタ基板41x,42x,43xに対し均一に供給される。なお、半導体スイッチ素子Q1~Q4や各コンデンサC1と同じ実装面である各クラスタ基板41x,42x,43xの表面Puには、様々な電子部品44r,44s,44tや出力端(コネクタ端子)40r,40s,40tが設けられているが、半導体スイッチ素子Q1~Q4に比して発熱の度合いは低い。
【0044】
クラスタ基板41x,42x,43xは互いに同様の構成であって、かつ、各クラスタ基板41x,42x,43x上の各単位変換器50は、上下に3つが併設された同一構成なので、代表としてクラスタ基板41xの表面Pu側の最上部に位置する単位変換器50部分の構成を
図9に示し、同基板41xの裏面側Pdの構成を
図10に示している。この最上部の単位変換器50の下に次の単位変換器50が配置され、その下方に最後の単位変換器50が設置されている。各単位変換器50の部品及びその配置は同一である。
【0045】
クラスタ基板41xは、ガラスエポキシ樹脂などの絶縁体41aを基部とした両面基板で、単位変換器50となる半導体スイッチ素子Q1~Q4、各直流コンデンサC1、電圧検出回路51、給電回路53、ゲートドライブ回路58等を、通電路形成用の導電パターンL1~L8と共に、当該クラスタ基板41xの表面Puに搭載している。
【0046】
銅箔からなる導電パターンL1は、ブリッジ回路の正側ラインと半導体スイッチ素子Q1との間の通電路を形成する。導電パターンL2は、半導体スイッチ素子Q1,Q2の相互間の通電路を形成する。導電パターンL3は、半導体スイッチ素子Q2とシャント抵抗器S1との間の通電路を形成する。導電パターンL4は、シャント抵抗器S1とブリッジ回路の負側ラインとの間の通電路を形成する。導電パターンL5は、ブリッジ回路の正側ラインと半導体スイッチ素子Q3との間の通電路を形成する。導電パターンL6は、半導体スイッチ素子Q3,Q4の相互間の通電路を形成する。導電パターンL7は、半導体スイッチ素子Q4とシャント抵抗器S2との間の通電路を形成する。導電パターンL7は、シャント抵抗器S2とブリッジ回路の負側ラインとの間の通電路を形成する。
【0047】
とくに、導電パターンL1~L8は、
図10に示すように、クラスタ基板41xの裏面Pdに対応する位置に同様の導電パターンL1´~L8´が形成されて、各導電パターンL1~L8から各導電パターンL1´~L8´に貫通して設けられ、内表面に銅メッキが施された円筒形のスルーホール50aによって表裏のそれぞれのパターンが電気的及び熱的につながっている。この裏面Pdは、半田塗布面であり、クラスタ基板41xの表面Puに取り付けられる表面実装部品以外の電気部品は、その端子がクラスタ基板41xを貫通してクラスタ基板41xの裏面Pdで半田付けされる。さらに裏面Pdには、通電路形成用の導電パターンL1´~L8´の他に必要な導電パターン、例えば、各直流コンデンサCとスイッチ素子Q1~Q4との間を接続する導電パターン50b,2,50c,50d等が形成されている。裏面Pdの導電パターンL1´~L8´は、空隙Aに臨んでいる。このため、筐体70内に取込まれて空隙Aを流れる空気は、クラスタ基板41xの裏面Pd側の導電パターンL1´~L8´を冷却し、これが熱的に接触する導電パターンL1~L8に伝わって半導体スイッチ素子Q1~Q4を冷却する。
【0048】
ここで、裏面の導電パターンL1´~L8´の面積が広いとフロー半田付けの際に、パターン全体が大量の半田で覆われてしまい、その半田がブリッジを起こして隣の他の導電パターンと導通してしまうなどの問題が生じる。そこで、
図9、10に示すように導電パターンL1~L8中にクラスタ基板41xの表面Puと裏面Pdをつなぐように貫通した多数のスルーホール50aを設ける。
【0049】
なお、図面の煩雑さを避けるため、
図9,
図10の導電パターンL5~L8、導電パターンL5´~L8´については、導電パターン表面のスルーホール50a等を省略しているが、導電パターンL5~L8はそれぞれ導電パターンL1~L4と同じで、導電パターンL5´~L8´はそれぞれ導電パターンL1´~L4´と同じ構成である。
【0050】
導電パターンL3,L4の裏面にあたる導電パターンL3´,L4´においてスルーホール50aの周辺を除き、導電パターンL3´,L4´の表面にレジスト41cを施し、半田の大量付着を防止する。もしくは、
図9,
図10の導電パターンL1,L2のようにクラスタ基板41xの表面Puと裏面Pdをつなぐように貫通した少数のスルーホール50aを設けるとともに、
図10に示す導電パターンL1,L2の裏面にあたる導電パターンL1´,L2´においては、スルーホール50aに加えて、さらに周囲がレジスト41cで囲まれたほぼ正方形の小さなランド50sを設ける。
【0051】
より具体的に
図10のA-A線に沿った一部断面図である
図11を参照して説明する。
ランド50sでは、半田付け前には導電パターンL1´,L2´の銅材がクラスタ基板41xの裏面Pdに露出している。同様に、スルーホール50a周囲の外側にレジスト41cが施される。このため、ランド50sと同様にスルーホール50a周囲は導電パターンL1´,L2´の銅材がクラスタ基板41xの裏面Pdに露出している。これらのレジスト41cを設けることで次のフロー半田付け工程において、レジスト41cの層が上に施されていないスルーホール50aの周囲および矩形のランド50sにのみ半田41bが付着して
図11に示す最終形態となる。これにより導電パターンL1´,L2´への半田の大量付着が防止できる。したがって、厳密に言うと、導電パターンL1´~L8´は、空隙Aに直接露出してはおらず、その間に半田41bを介して空隙Aの空気と熱的につながっている。半田41bは金属製であり、導電パターンL1´~L8´の銅箔より熱伝達率は低いが、表面が平坦な導電パターンL1´~L8´の銅箔より表面積が増加し、十分な放熱が可能である。
【0052】
スルーホール50aの銅メッキ部分で、表裏面Pu,Pdの導電パターンL1~L8,L1´,L8´を熱的につなげることで、表面Puに搭載された発熱部品であるスイッチ素子Q1~Q4の発熱を効率よく裏面Pdの導電パターンL1´,L2´側に移動させることができる。一方、ランド50sは、裏面の導電パターンL1´,L2´の熱を放熱する機能しかないため、スイッチ素子Q1~Q4の発熱に対する放熱効率からするとスルーホール50aの方がランド50sよりも優れる。このため、スルーホール50aの数を多くすることができるのであれば、ランド50sは設けなくてもよい。またスルーホール50aはクラスタ基板41xの表面Puと裏面Pdを貫通する孔の周囲に銅メッキを施したものであるが、ここでは、電気的及び熱的に表裏面Pu,Pd間の導電パターンをつなげる機能を有すればよいため、スルーホール50aの孔全体を銅材やアルミ材等の電気的な導通部材であって、かつ良好な熱伝達特性を有する部材で埋めて、空間的な孔は無くしてもよい。また、各ランド51sは半田41bのブリッジが発生しない一辺が4mm未満の長さで、その形状を正方形としているが、形状は正方形に限らず矩形、円形等としてもよい。なお、ここでは表面Puの導電パターンL1~L8と裏面Pdの導電パターンL1´~L8´の形状をほぼ同じ形状としたが、主として放熱するのは裏面であることから裏面の導電パターンL1´~L8´の大きさ(面積)を表面Puの導電パターンL1~L8のそれよりも大きくして、裏面Pd側での放熱性をさらに向上させてもよい。
【0053】
また、マルチレベル変換器40では、複数の直列接続された単位変換器50で電圧を分散・分担して出力するため、個々の単位変換器50内の半導体スイッチ素子Q1~Q4として例えば例えば低損失で耐圧が100~200V程度のシリコン製の低耐圧MOSFETを用いることができる。このため、従来の2レベル変換器に比べてスイッチ素子の数は多くなるが、個々のスイッチ素子Q1~Q4の発熱量が大幅に低減できる。
【0054】
以上説明した通り、マルチレベル変換器40の各クラスタ基板41X,42x,43xの背面Pdへの放熱構造を形成し、室外ユニット60の送風ファン65による強い風を、各クラスタ基板41X,42x,43xの背面側の間隙Aに流して各クラスタ基板41X,42x,43xの背面Pdを効率よく冷却することで、高調波抑制装置10の外側に大型のアルミ製のヒートシンクを設けたり、独自の冷却用のファンを設けたりする必要がない。
【0055】
一方、各クラスタ基板41X,42x,43xの表面Puには、半導体スイッチ素子Q1~Q4、直流コンデンサC1の他に電子部品44r,44s,44tやゲートドライブ回路58、給電回路53及び電圧検出回路51を構成する多数の各種電気・電子素子が搭載されている。これらの素子には小さい表面実装部品が含まれており、これらの素子の表面や端子に塵埃が付着すると故障の原因となる。しかしながら、上記構成によって各クラスタ基板41X,42x,43xの背面Pdの間隙Aに流す一方、各クラスタ基板41X,42x,43xの表面Puには、ほとんど風を流さない。この結果、屋外の細かい塵埃が各クラスタ基板41X,42x,43xの表面Puに付着することが抑制され、信頼性が向上する。
【0056】
なお、高調波抑制装置10は、高調波の発生源である室外ユニット60が運転しているときにしか動作しない。したがって、高調波抑制装置10が動作する際には基本的に送風ファン60がすでに運転していることになる。このため、高調波抑制装置10の動作中に発熱部品が冷却できる。なお、空気調和機2が冷暖房可能なヒートポンプ式の冷凍サイクルを備える機種の場合、冬場の除霜運転において、圧縮機モータ7の運転中に送風ファン60を停止する期間が生じる。しかしながら、除霜運転は室内熱交換器100の表面が凍結するほど屋外が低温の状況にあるときに実行される。このような低外気温状態では、送風ファン60による通風がなくとも自然に筐体70が冷やされるため、各クラスタ基板41X,42x,43x及びフィルタ基板92も冷却されて高調波抑制装置10の冷却不足は生じない。
【0057】
このように高調波抑制装置10は、独自の冷却用のファンや大型のヒートシンクを備える必要がないので、重量の軽減およびコストの低減が図れる。
【0058】
また、筐体70では、発熱の大きい各単位変換器50や電子部品44r,44s,44tが搭載されるクラスタ基板41x,42x,43xを保持板80に設け、次に発熱の大きいリアクトル12r~14tが搭載されるフィルタ基板92を保持板90に設けているので、発熱が大きい両電気部品を筐体70の奥行方向において熱的に分離することができる。発熱が大きい両電気部品の互いの熱干渉を防止することができる。
【0059】
さらに、制御部30の回路基板91を筐体70の前面開口に近い側の保持板90に搭載しているので、制御部30に対する保守面のアクセスがし易い。回路基板91をフィルタ基板92と横並びに配置しているので、発熱の大きいリアクトル12r~14tから回路基板91への熱影響をできるだけ低減することができる。また、保持板90においては、フィルタ基板92側に強い風を流して左側に位置する制御部30の回路基板91側には極力風を流さないようにして、屋外の塵埃が回路基板91に付着することを抑制して、信頼性を向上させている。
【0060】
なお、上記実施形態および変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、書き換え、変更を行うことができる。これら実施形態および変形例は、発明の範囲は要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0061】
1…交流系統(三相交流電源)、2…空気調和機、Lr,Ls,Lt…系統ライン、10…高調波抑制装置、11…パッシブフィルタ、12r~12t…フィルタ用リアクトル、13r~13t…フィルタ用コンデンサ、14r~14t…変換器用リアクトル、30…制御部、40…マルチレベル変換器、41,42,43…クラスタ、Q1~Q4…半導体スイッチ素子(第1~第4スイッチ素子)、C1…直流コンデンサ、41x,42x,43x…クラスタ基板、50…単位変換器、60…室外ユニット、65…送風ファン、70…筐体、71a…通気口(第3通気口)、71b…通気口(第1通気口)、74a…通気口(第2通気口)、73a…通気口(第4通気口)、77…空気流調整部材(第2空気流調整部材)、80…保持板(第1保持板)、81…空気流調整部材(第1空気流調整部材)、90…保持板(第2保持板)、91…回路基板、92…フィルタ基板。