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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110557
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】セメントの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/52 20060101AFI20240808BHJP
【FI】
C04B7/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015196
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】多田 真人
(72)【発明者】
【氏名】久我 龍一郎
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 彦次
(57)【要約】
【課題】コンクリート等の材料として用いた場合に、コンクリート等の凝結始発時間を長くすることができるセメントを製造する方法を提供する。
【解決手段】 ロータリーキルンと仕上げミルとを含むセメント製造装置を用いてセメントを製造する方法であって、ロータリーキルン内でセメントクリンカ原料を焼成して、セメントクリンカを得るクリンカ調製工程と、仕上げミル内でセメントクリンカと二水石膏を粉砕し、セメントを調製する粉砕工程を含み、粉砕工程において、セメントクリンカと二水石膏の合計量100質量部に対して1.5~3.0質量部となる量の水を散水し、かつ、仕上げミルの出口におけるセメントの温度を110℃以下に調整するセメントの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータリーキルンと仕上げミルとを含むセメント製造装置を用いてセメントを製造する方法であって、
上記ロータリーキルン内でセメントクリンカ原料を焼成して、セメントクリンカを得るクリンカ調製工程と、
上記仕上げミル内で上記セメントクリンカと二水石膏を粉砕し、上記セメントを調製する粉砕工程を含み、
上記粉砕工程において、上記セメントクリンカと上記二水石膏の合計量100質量部に対して1.5~3.0質量部となる量の水を散水し、かつ、上記仕上げミルの出口における上記セメントの温度を110℃以下に調整することを特徴とするセメントの製造方法。
【請求項2】
上記セメントの半水化率が5質量%以下で、かつ、上記セメントの強熱減量が1.45~2.00質量%である請求項1に記載のセメントの製造方法。
【請求項3】
上記仕上げミルの出口における上記セメントの温度の調整が、上記セメントクリンカの温度の調整、上記仕上げミルへの送風量の調整、及び上記仕上げミル内での上記セメントクリンカ及び上記二水石膏の粉砕量の調整の中から選ばれる一つ以上によって行われる請求項1又は2に記載のセメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
東南アジア等の赤道に近い熱帯、亜熱帯の地域においてセメントを使用する場合、環境温度が高いため、セメントを用いたコンクリート等の凝結始発時間が短くなる。このため、打込みまでに必要な時間が短くなることで施工性が損なわれたり、施工不良が発生する場合がある。
適切な凝結時間と可使時間が得られる水硬性組成物として、例えば、特許文献1には、セメントクリンカー粉砕物と石膏を含有するセメント組成物であって、前記セメントクリンカーの3CaO・Al(CA)量が10~17質量%、3CaO・SiO(CS)量が45~65質量%であり、かつ、CuOの含有量が0.1~1.2質量%であることを特徴とするセメント組成物が記載されている。
【0003】
一方、セメントの製造方法に関して、混練時間を短くでき、かつ、作業性も改良することができるセメントの製造方法として、特許文献2には、ロータリーキルンから搬出されるセメントクリンカに所定量の2水石膏を添加し仕上げミルで粉砕するセメントの製造方法において、セメントクリンカ及び2水石膏の合量に対して0.3~2.0重量%の水(粉砕助剤を含む)を散水し、かつ、仕上げミル出口におけるセメントの温度が120℃以上となるように粉砕することを特徴とするセメントの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-201519号公報
【特許文献2】特開2001-163644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
気温が高い環境下において、コンクリート等の凝結始発時間を適切にする方法としては、使用する材料の温度を低くする方法、遅延型の混和剤を使用する方法等が知られている。しかし、材料の温度を低くするためには、冷却施設が必要であり、遅延型の混和剤を使用した場合、混和剤にかかるコストが過大になるという問題がある。
本発明の目的は、コンクリート等の材料として用いた場合に、コンクリート等の凝結始発時間を長くすることができるセメントを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ロータリーキルン内でセメントクリンカ原料を焼成して、セメントクリンカを得る工程と、仕上げミル内でセメントクリンカと二水石膏を粉砕する際に、セメントクリンカと二水石膏の合計量100質量部に対して1.5~3.0質量部となる量の水を散水し、かつ、仕上げミルの出口におけるセメントの温度を110℃以下に調整する工程を含むセメントの製造方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[3]を提供するものである。
[1] ロータリーキルンと仕上げミルとを含むセメント製造装置を用いてセメントを製造する方法であって、上記ロータリーキルン内でセメントクリンカ原料を焼成して、セメントクリンカを得るクリンカ調製工程と、上記仕上げミル内で上記セメントクリンカと二水石膏を粉砕し、上記セメントを調製する粉砕工程を含み、上記粉砕工程において、上記セメントクリンカと上記二水石膏の合計量100質量部に対して1.5~3.0質量部となる量の水を散水し、かつ、上記仕上げミルの出口における上記セメントの温度を110℃以下に調整することを特徴とするセメントの製造方法。
[2] 上記セメントの半水化率が5質量%以下で、かつ、上記セメントの強熱減量が1.45~2.00質量%である前記[1]に記載のセメントの製造方法。
[3] 上記仕上げミルの出口における上記セメントの温度の調整が、上記セメントクリンカの温度の調整、上記仕上げミルへの送風量の調整、及び上記仕上げミル内での上記セメントクリンカ及び上記二水石膏の粉砕量の調整の中から選ばれる一つ以上によって行われる前記[1]又は[2]に記載のセメントの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のセメント製造方法によれば、コンクリート等の材料として用いた場合に、コンクリート等の凝結始発時間を長くすることができるセメントを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のセメント組成物は、ロータリーキルンと仕上げミルとを含むセメント製造装置を用いてセメントを製造する方法であって、ロータリーキルン内でセメントクリンカ原料を焼成して、セメントクリンカを得るクリンカ調製工程と、仕上げミル内でセメントクリンカと二水石膏を粉砕し、セメントを調製する粉砕工程を含み、粉砕工程において、セメントクリンカと二水石膏の合計量100質量部に対して1.5~3.0質量部となる量の水を散水し、かつ、仕上げミルの出口におけるセメントの温度を110℃以下に調整するものである。
本発明で用いられるロータリーキルン及び仕上げミルを含むセメント製造装置としては、特に限定されるものではなく、セメント製造工場で一般的に使用されているものであればよい。また、セメント製造装置には、通常、ロータリーキルンと仕上げミルの間に、セメントクリンカを冷却するためのクリンカクーラーが設けられている。
以下、工程ごとに詳しく説明する。
【0009】
[クリンカ調製工程]
本工程は、ロータリーキルン内でセメントクリンカ原料を焼成して、セメントクリンカを得る工程である。
セメントクリンカ原料としては、石灰石、生石灰、消石灰等のカルシウム含有原料(CaO源);珪石、粘土等の珪素含有原料(SiO源);粘土等のアルミニウム含有原料(Al23源);鉄滓、鉄ケーキ等の鉄含有原料(Fe23源)等のセメントクリンカの製造に用いられる一般的な原料を使用することができる。また、セメントクリンカ原料として、産業廃棄物、一般廃棄物、発生土等を使用してもよい。
ロータリーキルン内において、セメントクリンカ原料を焼成することによって、セメントクリンカを得ることができる。セメントクリンカ原料の焼成温度は、セメントクリンカの製造における一般的な温度でよく、例えば、1400℃以上、好ましくは1,400~1,550℃である。
得られたセメントクリンカは、通常、ロータリーキルンの後流側に配設されたクリンカクーラーに投入され、冷却された後、仕上げミルに投入される。
使用するセメントクリンカ原料の種類及びその量は、目的とするセメント(後述する粉砕工程で調製されるセメント)に応じて適宜調整すればよい。
目的とするセメントの種類としては、特に限定されず、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、及び、耐硫酸塩セメント等が挙げられる。
【0010】
[粉砕工程]
本工程は、仕上げミル内でセメントクリンカと二水石膏を粉砕し、セメントを調製する工程である。
ロータリーキルンで得られたセメントクリンカと二水石膏は、仕上げミルに投入されて、粉砕される。
仕上げミルの種類としては、特に限定されるものでなく、例えば、チューブミルやローラーミル等を使用することができる。
二水石膏の量は、特に限定されるものではなく、目標とするセメントに応じて、適宜定めればよい。二水石膏の量は、例えば、セメントの強度発現性及び流動性等の観点から、得られるセメント中の全SOの割合が、好ましくは1.0~3.5質量%となる量である。
また、粉砕工程において、無水石膏、半水石膏等の他の石膏も用いてもよい。他の石膏の量は、得られるセメントの半水化率をより小さくして、セメントを含むコンクリート等の凝結始発時間を短くし、作業性を向上させる観点から、セメントクリンカ100質量部に対して、好ましくは5質量部以下である。
【0011】
本工程において、セメントクリンカと二水石膏の合計量100質量部に対して1.5~3.0質量部、好ましくは1.7~2.8質量部、より好ましくは1.8~2.6質量部、さらに好ましくは1.9~2.4質量部、特に好ましくは2.0~2.2質量部となる量の水を散水する。上記量が1.5質量部未満であると、仕上げミル出口におけるセメントの温度を110℃以下にすることが困難になる。上記量が3.0質量部を超えると、本工程で得られるセメントを含むコンクリート等の強度発現性が悪化する。
散水の方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、仕上げミル内で、セメントクリンカと二水石膏を粉砕しながら散水してもよく、セメントクリンカ及び二水石膏の少なくともいずれか一方(特にセメントクリンカ)に散水した後、これらの材料を仕上げミルに投入してもよい。
また、散水の際に、材料の粉砕効率を向上する観点から、水と粉砕助剤を予め混合してなる液体を用いてもよい。粉砕助剤としては、セメントの製造における粉砕工程において一般的に使用される種類を、一般的な量で使用することができる。
【0012】
本工程において、仕上げミルの出口におけるセメントの温度を、110℃以下、好ましくは108℃以下、より好ましくは105℃以下、さらに好ましくは103℃以下、特に好ましくは102℃以下に調整する。上記温度が110℃を超えると、本工程で得られるセメントを含むコンクリート等の凝結始発時間が短くなり、作業性が低下する。上記温度の下限値は、特に限定されないが、セメントの固結を防ぎ、上記温度の調整の容易性等の観点から、好ましくは80℃、より好ましくは90℃、特に好ましくは95℃である。
仕上げミルの出口におけるセメントの温度の調整は、例えば、仕上げミルに投入されるセメントクリンカの温度の調整(例えば、ロータリーキルンの焼成温度の調整、クリンカクーラー内の温度や冷却時間の調整等による、セメントクリンカの温度の調整)、仕上げミルへの送風量の調整、及び仕上げミル内でのセメントクリンカ及び二水石膏の粉砕量の調整(単位時間当たりのセメントクリンカ及び二水石膏の粉砕量の調整)等の中から選ばれる一つ以上によって行うことができる。
また、上記セメントの温度の調整は、水の散水量を上述した数値範囲内で調整することによっても調整することができる。
【0013】
本工程において、セメントの半水化率は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0質量%である。上記半水化率が5質量%以下であれば、本工程で得られるセメントを含むコンクリート等の凝結始発時間をより長くし、作業性をより向上させることができる。
なお、セメントの半水化率とは、セメントに含まれる石膏の半水化率であり、下記式(1)によって得ることができる。
半水化率(質量%)=セメントに含まれている半水石膏の質量(SO換算)/(セメントに含まれている二水石膏の質量(SO換算)+セメントに含まれている半水石膏の質量(SO換算))×100 ・・・(1)
【0014】
本工程において、セメントの強熱減量は、本工程で得られるセメントを含むコンクリート等の凝結始発時間をより長くし、作業性をより向上させる観点から、好ましくは1.45~2.00質量%、より好ましくは1.48~1.80質量%、特に好ましくは1.50~1.60質量%である。また、上記強熱減量が2.00質量%以下であれば、得られるセメントの強度発現性をより向上することができる。
上記半水化率及び強熱減量は、粉砕工程における散水量及び仕上げミルの出口におけるセメントの温度を調整することで、調整することができる。
セメントのブレーン比表面積は、本工程で得られるセメントを含むコンクリート等の凝結始発時間をより長くし、強度を向上させる観点から、好ましくは2,800~5,000cm/g、より好ましくは3,250~4,500cm/g、特に好ましくは3,500~4,000cm/gである。
【0015】
本発明のセメント製造方法によって製造されたセメントは、該セメントを、ペースト、モルタル、またはコンクリートの材料として用いた場合に、コンクリート等の凝結始発時間をより長くすることができる。特に、気温が高い(例えば、28℃以上、好ましくは30~40℃)の環境下において、ペースト、モルタル、またはコンクリートを調製した場合、通常、凝結始発時間が短くなるが、本発明のセメント製造方法によって得られたセメントによれば、コンクリート等の凝結始発時間を適切にする(本発明のセメントの製造方法以外の方法によって得られたセメントを用いた場合と比較してより長くする)ことができる。
【実施例0016】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[セメントクリンカの調製]
ロータリーキルンを用いて、セメントクリンカ原料を焼成し、表1に示す化学組成を有するセメントクリンカを得た。
なお、上記化学組成は、「JIS R 5204:2019(セメントの蛍光X線分析方法)」に準拠して測定した。
【0017】
【表1】
【0018】
[実施例1~3、比較例1~3]
上記セメントクリンカと二水石膏を、粉砕能力が180トン/時間である仕上げミル(チューブミル)に投入して、水(予め、500ppmとなる量(質量基準)のトリエタノールアミン系粉砕助剤(SIKA社製)を混合してなるもの)を散水しながら、セメントクリンカ及び二水石膏を粉砕して、セメントを調製した。
上記調製における、セメントクリンカ及び二水石膏の合計量100質量部に対する、散水した水の量(表4中、「散水量」と示す)、及び、仕上げミル出口におけるセメントの温度(表4中、「出口セメント温度」と示す)を表4に示す。
得られたセメントについて、ブレーン比表面積、凝結始発時間、強熱減量、及び半水化率を、以下の測定方法に従って測定した。結果を表4に示す。
[測定方法]
(1)ブレーン比表面積:「ASTM C204」に準拠して測定した。
(2)凝結始発時間:「ASTM C191」に準拠して測定した。
(3)強熱減量:「ASTM C114」に準拠して測定した。
(4)半水化率:「廣瀬哲、高橋真理、松里広昭、浅海順治、山崎之典、浅賀喜与志:熱重量分析法によるセメント中の半水セッコウと二水セッコウの定量、無機マテリアル、VOL.2、NO.254、14~17,(1995)」に記載の熱重量分析法に準拠してセメント中の半水石膏と二水石膏の量を測定した後、得られた数値と上述した式(1)を用いて算出した。
また、得られたセメントの化学組成及び鉱物組成(ボーグ式を用いて算出したもの)を表2~3に示す。
【0019】
[比較例4]
比較例2で得られたセメントを、90℃、相対湿度70%の条件下で7日間静置し、風化させた。静置後のセメントについて、凝結始発時間、及び、強熱減量を実施例1と同様にして測定した。
結果を表4に示す。
【0020】
【表2】
【0021】
【表3】
【0022】
【表4】
【0023】
表4から、実施例1~3のセメントの凝結始発時間(196~211分)は、比較例1~4の凝結始発時間(92~128分)よりも長いことがわかる。