IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋電装株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-移動装置 図1
  • 特開-移動装置 図2
  • 特開-移動装置 図3
  • 特開-移動装置 図4
  • 特開-移動装置 図5
  • 特開-移動装置 図6
  • 特開-移動装置 図7
  • 特開-移動装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110565
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】移動装置
(51)【国際特許分類】
   A61G 5/04 20130101AFI20240808BHJP
   B62K 17/00 20060101ALI20240808BHJP
   B62D 61/12 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
A61G5/04 711
A61G5/04 701
B62K17/00
B62D61/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015214
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000222934
【氏名又は名称】東洋電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】山田 一
(72)【発明者】
【氏名】鯉渕 慶比古
【テーマコード(参考)】
3D212
【Fターム(参考)】
3D212BB08
3D212BB25
3D212BB32
3D212BB42
3D212BB65
3D212BB82
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で、駆動輪が作動しない状況であっても容易な手押し移動を可能にする。
【解決手段】車輪構成体WAは、回動軸C4を中心に回動することで、第1状態と第2状態と、に遷移する。第1状態は、前輪41L、41R、後輪31L、31R、駆動輪11L、11Rの全てを接地させる状態であり、第2状態は、駆動輪11L、11Rを接地させず前輪41L、41R、後輪31L、31Rを接地させる状態である。第1状態における後輪31L、31Rのキャスタ角θよりも第2状態におけるキャスタ角θの方が大きい。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置本体と、
駆動源と、
前記駆動源によって回転駆動され、接地状態で回転することにより前記装置本体に推進力を与える駆動輪と、
前輪または後輪のうち一方の車輪である第1車輪と、
前記前輪または前記後輪のうち他方の車輪であるキャスタ式の第2車輪を含み、前記装置本体に対して回動軸を中心に回動することで、前記第1車輪、前記駆動輪および前記第2車輪を接地させる第1状態と、前記駆動輪を接地させず前記第1車輪および前記第2車輪を接地させる第2状態と、に遷移する車輪構成体と、を有し、
前記第1状態における前記第2車輪のキャスタ角よりも前記第2状態における前記第2車輪のキャスタ角の方が大きい、移動装置。
【請求項2】
前記第2車輪の車軸は、前記第2車輪のキャスタ軸に対してオフセットされており、
前記第2状態では、前記キャスタ軸周りの回転により、前記車軸が左右方向に平行で且つ前後方向において前記車軸が前記キャスタ軸に対して前記第1車輪側に位置したとき、前後方向において前記車軸は前記回動軸よりも前記第1車輪側に位置する、請求項1に記載の移動装置。
【請求項3】
前記第1状態では、前記第2車輪のキャスタ軸は鉛直方向に略平行である、請求項1に記載の移動装置。
【請求項4】
前記第2車輪は前記後輪であり、前記第2状態では、前記キャスタ軸は下方の位置ほど前記第1車輪側に位置する、請求項3に記載の移動装置。
【請求項5】
前記第2車輪の車軸は、前記第2車輪のキャスタ軸に対してオフセットされており、
前記第2車輪は、前記キャスタ軸を中心に回転する2以上の車輪からなる、請求項1に記載の移動装置。
【請求項6】
前記第2車輪の車軸は、前記第2車輪のキャスタ軸に対してオフセットされており、
前記第2車輪は前記第1車輪よりも幅広である、請求項1に記載の移動装置。
【請求項7】
前記車輪構成体の回動位置を、前記第1状態に対応する位置と前記第2状態に対応する位置とでロックするロック機構を有する、請求項1に記載の移動装置。
【請求項8】
前後方向において、前記駆動輪は前記第1車輪と前記第2車輪との間に位置する、請求項1に記載の移動装置。
【請求項9】
前記第1車輪は左右一対設けられる、請求項1に記載の移動装置。
【請求項10】
前記第2車輪は左右一対設けられる、請求項1に記載の移動装置。
【請求項11】
前記駆動輪は左右一対設けられる、請求項1に記載の移動装置。
【請求項12】
前記第1車輪もキャスタ式である、請求項1に記載の移動装置。
【請求項13】
前記第2車輪の車軸は、前記第2車輪のキャスタ軸に対してオフセットされており、
前記駆動源を制御する制御部と、
前記第1状態から前記第2状態への切り替えの要否を判定する判定部と、を有し、
前記制御部は、前記判定部により前記第1状態から前記第2状態への切り替えが必要と判定されたことに応じて、前記装置本体を前後方向における前記第2車輪側に移動させるよう前記駆動源を制御する、請求項1に記載の移動装置。
【請求項14】
前記第2車輪の車軸は、前記第2車輪のキャスタ軸に対してオフセットされており、
前記キャスタ軸周りに前記第2車輪を回転駆動するキャスタ駆動部と、
前記キャスタ駆動部を制御する制御部と、
前記第1状態から前記第2状態への切り替えの要否を判定する判定部と、を有し、
前記制御部は、前記判定部により前記第1状態から前記第2状態への切り替えが必要と判定されたことに応じて、前後方向において、前記車軸が前記回動軸よりも前記第1車輪側に位置するように、前記キャスタ駆動部を制御する、請求項1に記載の移動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、路面や床面などを移動する移動装置が知られている。例えば、特許文献1には、移動装置として、人が着座する電動車椅子が開示されている。特許文献1では、モータで駆動輪を回転させることで移動装置の自動走行が可能である。また、この移動装置は、駆動輪を昇降する機構を有しており、モータに電力を供給するバッテリの残量がなくなった場合、駆動輪を上昇させて浮かせることで補助輪を接地させる。これにより、駆動輪を介してモータの負荷がかかることがなくなるので、軽い操作での手押し走行が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-49252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の移動装置では、駆動輪を昇降する機構が複雑である。また、後輪となる補助輪は自在キャスタ式であり向きの自由度が高いため、手押し時における安定した直進走行が容易でない。例えば、移動装置を手押しにより真っ直ぐ進ませようとしても、意図に反して曲がってしまうおそれがあった。
【0005】
本技術は、簡単な構成で、駆動輪が作動しない状況であっても容易な手押し移動を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本技術の移動装置は、装置本体と、駆動源と、前記駆動源によって回転駆動され、接地状態で回転することにより前記装置本体に推進力を与える駆動輪と、前輪または後輪のうち一方の車輪である第1車輪と、前記前輪または前記後輪のうち他方の車輪であるキャスタ式の第2車輪を含み、前記装置本体に対して回動軸を中心に回動することで、前記第1車輪、前記駆動輪および前記第2車輪を接地させる第1状態と、前記駆動輪を接地させず前記第1車輪および前記第2車輪を接地させる第2状態と、に遷移する車輪構成体と、を有し、前記第1状態における前記第2車輪のキャスタ角よりも前記第2状態における前記第2車輪のキャスタ角の方が大きい。
【発明の効果】
【0007】
本技術によれば、簡単な構成で、駆動輪が作動しない状況であっても容易な手押し移動を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態に係る移動装置の斜視図である。
図2】移動装置の裏面図である。
図3】第1状態の移動装置の左側面図である。
図4】第2状態の移動装置の左側面図である。
図5】フレーム部およびその関連部品の斜視図である。
図6】本実施形態、変形例に係る、車輪構成体の模式的な左側面図である。
図7】第2の実施形態に係る移動装置の主要部のブロック図である。
図8】姿勢切り替え処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本技術の実施形態を説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、本技術の第1の実施形態に係る移動装置の斜視図である。
【0011】
この移動装置100は、一例として、人が搭乗して移動する装置である。移動装置100は、電動車椅子などに適用されるが、これに限定されず、遊具等の各種用途に適用可能である。また、人が乗る装置に限定されない。
【0012】
図2図3はそれぞれ、移動装置100の裏面図、左側面図である。以降、各部の方向を、図1等に示したX、Y、Z座標軸を基準として呼称する。ここでは便宜上、+X方向を前方とし、+Z方向を上方とし、+Y方向を搭乗者から見て左方とする。Z方向は、床面などの接地面101(図3)に垂直な鉛直方向である。
【0013】
移動装置100は装置本体102を有し、装置本体102が、2つの前輪41L、41R、2つの駆動輪11L、11R、2つの後輪31L、31Rの回転によって移動可能となっている。
【0014】
装置本体102は、座面部13、背もたれ部14、足置き部19と、駆動ボックス12(図2)と、を有する。駆動ボックス12内には駆動源8が配置される。駆動輪11L、11Rはそれぞれ、左右方向(Y方向)に平行な車軸の軸心C3L、C3Rを中心に回転する(図2)。駆動輪11L、11Rは、駆動源8によって回転駆動される。
【0015】
駆動輪11L、11Rは、床面等の接地面101に接触した接地状態で回転することにより、装置本体102に推進力を与える。駆動源8は、駆動輪11L、11Rのそれぞれに対応するモータ(不図示)を有し、駆動輪11L、11Rを独立して駆動可能である。駆動源8は、駆動輪11L、11Rの回転方向を切り替えることにより、前進、後進を切り替えることができる。また、駆動源8は、駆動輪11L、11Rの回転方向を互いに異ならせることで装置本体102を旋回させることも可能である。なお、電動による装置本体102の通常走行時に、搭乗者が前進、後進、旋回の操作をする操作部が、肘掛け部(不図示)または座面部13に配置される。
【0016】
前輪41L、41R(第1車輪)、後輪31L、31R(第2車輪)は、いずれもキャスタ式の車輪である。これらはいずれも駆動力を有しない。装置本体102は、メインフレーム6を含む。メインフレーム6の後部には、手押し部15を含む背面フレームが固定されている。メインフレーム6の前部には前フレーム16が固定されている。前フレーム16に対して前キャスタ部40L、40Rが取り付けられている。
【0017】
前キャスタ部40Lは、車輪支持部42Lおよび前輪41Lを含む。車輪支持部42Lは、前フレーム16におけるキャスタ支持部7Lに対して相対的に、キャスタ軸(不図示)のキャスタ軸心C6Lを中心に回転する。前輪41Lは、車輪支持部42Lに対して相対的に、軸心C2Lを中心に回転する。
【0018】
前キャスタ部40Rは、車輪支持部42Rおよび前輪41Rを含む(図2)。車輪支持部42Rは、前フレーム16におけるキャスタ支持部(不図示)に対して相対的に、キャスタ軸(不図示)のキャスタ軸心C6Rを中心に回転する。前輪41Rは、車輪支持部42Rに対して相対的に、軸心C2R(図2)を中心に回転する。
【0019】
メインフレーム6の後部には左右2つのアーム17L、17Rが固定されている。アーム17L、17Rに対して車輪構成体WAが取り付けられている。車輪構成体WAは、回動フレーム20および後キャスタ部30L、30Rを含む。回動フレーム20は、フレーム部21と、フレーム部21の左右に設けられたキャスタ支持部22L、22R(図1)とを含む。キャスタ支持部22L、22Rにそれぞれ、後キャスタ部30L、30Rが取り付けられている。車輪構成体WAは、アーム17L、17Rに対して相対的に回動軸C4(厳密には不図示の軸部の軸心)を中心に回動する。
【0020】
後キャスタ部30Lは、キャスタ軸33L、車輪支持部32Lおよび後輪31Lを含む。車輪支持部32Lは、キャスタ支持部22Lに対して相対的に、キャスタ軸33Lのキャスタ軸心C5Lを中心に回転する。後輪31Lは、車輪支持部32Lに対して相対的に、車軸34Lの軸心C1Lを中心に回転する。
【0021】
後キャスタ部30Rは、キャスタ軸33R、車輪支持部32Rおよび後輪31Rを含む(図2)。車輪支持部32Rは、キャスタ支持部22Rに対して相対的に、キャスタ軸33Rのキャスタ軸心C5Rを中心に回転する。後輪31Rは、車輪支持部32Rに対して相対的に、車軸34Rの軸心C1Rを中心に回転する。後輪31L、31Rはそれぞれ、キャスタ軸心C5L、C5Rを挟んで配置された2つの車輪からなる(図2)。
【0022】
回動軸C4は、軸心C3L、C3Rと同様に左右方向(Y方向)に平行である。図3に示す状態において、キャスタ軸心C6L、C6R、キャスタ軸心C5L、C5Rは、いずれも鉛直方向(Z方向)に略平行である。軸心C2L、C2Rは、それぞれキャスタ軸心C6L、C6Rに対して略垂直である。図3に示す接地状態において、前キャスタ部40L、40Rがそれぞれキャスタ軸心C6L、C6R周りに回転しても、軸心C2L、C2Rは接地面101に対して常に略平行である。
【0023】
軸心C1L、C1Rは、それぞれキャスタ軸心C5L、C5Rに対して略垂直である。図3に示す接地状態において、後キャスタ部30L、30Rがキャスタ軸心C5L、C5R周りに回転しても、軸心C1L、C1Rは接地面101に対して常に略平行である。なお、図2では、後キャスタ部30Lの回転位置と後キャスタ部30Rの回転位置とが異なる状態を例示している。
【0024】
軸心C2L、C2Rはそれぞれ、キャスタ軸心C6L、C6Rに対してオフセットされている。軸心C1L、C1Rはそれぞれ、キャスタ軸心C5L、C5Rに対してオフセットされている。従って、キャスタ軸心C6L、C6Rの延長線は軸心C2L、C2Rを通らず、キャスタ軸心C5L、C5Rの延長線は軸心C1L、C1Rを通らない。
【0025】
図4は、移動装置100の左側面図である。車輪構成体WAは、回動軸C4を中心に回動することで、第1状態と第2状態と、に遷移することができる。図3が第1状態を示し、図4が第2状態を示している。
【0026】
第1状態(図3)は、前輪41L、41R、後輪31L、31R、駆動輪11L、11Rの6つの車輪全てを接地させる(接地面101に当接させる)状態である。第2状態(図4)は、駆動輪11L、11Rを接地させず前輪41L、41R、後輪31L、31Rを接地させる状態である。すなわち、第2状態では駆動輪11L、11Rが接地面101から浮く。
【0027】
第1状態において、キャスタ軸心C6L、C6R周りの前キャスタ部40L、40Rの回転位置は問わない。第2状態において、キャスタ軸心C5L、C5R周りの後キャスタ部30L、30Rの回転位置は問わない。ただし、第2状態においては、後述するようにキャスタ軸心C5L、C5Rが後傾することから、キャスタ軸心C5L、C5R周りの後キャスタ部30L、30Rの回転位置によって、駆動輪11L、11Rと接地面101との間隔が異なる。
【0028】
図5は、フレーム部21およびその関連部品の斜視図である。フレーム部21の大径部24の-Y側の端部には、溝部26が形成されている。大径部24の+Y側の端部には、円周方向の2箇所に凹部25a、25bが形成されている。一方、図1に示すように、アーム17Rには、突起部9が設けられている。アーム17Lにはストッパ18が、左右方向の軸心(不図示)を中心に回動自在に設けられている。
【0029】
突起部9は溝部26に挿入係合されている。突起部9が溝部26の形成方向における端部と当接することで、アーム17L、17Rに対するフレーム部21の回動限界が規制される。また、ストッパ18の突起部18aが凹部25a、25bのいずれかに嵌まることで、アーム17L、17Rに対するフレーム部21の回動位置が2箇所で規制される。すなわち、突起部18aが凹部25aに嵌まった状態が第1状態に対応し、突起部18aが凹部25bに嵌まった状態が第2状態に対応する。ストッパ18は、図3の時計方向に、自重または弾性部材等によって常に付勢されている。
【0030】
図5に示すように、フレーム部21にはペダル23および操作部7が取り付けられている。ユーザがペダル23を足で踏み込み操作することで、フレーム部21を含む車輪構成体WAの全体が図3の時計方向に回動する。第1状態において、ユーザは、ストッパ18を手等で持ち上げることで突起部18aを凹部25aから外し、さらにペダル23を踏み込む。すると、フレーム部21が回動し、突起部18aが凹部25bに嵌まると第2状態となる。
【0031】
また、第2状態において、ユーザがペダル23または操作部7を手または足で引き上げることで、車輪構成体WAの全体が図3の反時計方向に回動し、突起部18aが凹部25aに嵌まると第1状態となる。ストッパ18と凹部25a、25bとが嵌合する機構により、車輪構成体WAの回動位置を、第1状態に対応する位置と第2状態に対応する位置とでロックするロック機構が構成される。これにより、第1状態と第2状態との安定化が実現される。なお、ロック機構はストッパ18と凹部25a、25bとで構成されるものに限定されない。
【0032】
図3図4に示すように、輪31L、31Rに関し、側面視においてキャスタ軸心C5L、C5Rと鉛直方向(Z方向)とが成す鋭角を、後輪31L、31Rのキャスタ角θとする。第1状態(図3)におけるキャスタ角θは設計上、“0”に設定されている。一方、第2状態(図4)におけるキャスタ角θは30~50°程度である。従って、第1状態におけるキャスタ角θよりも第2状態におけるキャスタ角θの方が大きい。
【0033】
第2状態になることで駆動輪11L、11Rが浮くので、仮にバッテリ切れ等によって駆動輪11L、11Rが作動しない状況であっても、ユーザは負荷を受けることなく手押し部15を把持した軽い手押し走行が可能となる。また、第2状態ではキャスタ角θが大きくなるので、後キャスタ部30L、30Rは、軸心C1L、C1Rが左右方向に略平行となるような回転位置で安定しやすい。従って、安定した直進走行が容易となる。
【0034】
なお、第1状態から第2状態に遷移させる際、ユーザは、事前に後輪31L、31Rを前側に回転させておくのが好ましい。これは、第2状態のうち、図4に示すように、キャスタ軸心C5L、C5R周りの後キャスタ部30L、30Rの回転位置が前側となる状態が最も安定するからである。
【0035】
第2状態では、キャスタ軸心C5L、C5Rは下方の位置ほど前側に位置し、いわゆる後傾姿勢となる。これにより、ホイールベースが短くなるので、手押し走行時の取り回し性が向上する。また、手押しする者の足が後輪31L、31Rに接触しにくくなる。
【0036】
第2状態のうち図4に示す状態は、キャスタ軸心C5L、C5R周りの後キャスタ部30L、30Rの回転により、軸心C1L、C1Rが左右方向に平行で且つ前後方向において軸心C1L、C1Rがキャスタ軸心C5L、C5Rに対して前輪41L、41R側に位置した状態である。
【0037】
図4に示す直線L4は、回動軸C4を通り鉛直方向に平行な仮想直線である。図4に示す第2状態では、軸心C1L、C1Rは、前後方向において回動軸C4よりも前輪41L、41R側(直線L4よりも前側)に位置する。図4に示す状態は、第2状態のうち最も安定的な状態となる。
【0038】
これは、まず、第一に、キャスタ軸心C5L、C5R周りの後キャスタ部30L、30Rの回転による軸心C1L、C1Rの位置のうち、図4に示す位置は、後部の車高(例えば、回動軸C4の位置)が最も低くなる位置だからである。さらに第二に、軸心C1L、C1Rが回動軸C4よりも前にあることで、装置本体102の自重により、回動軸C4を中心とした時計方向の回転モーメントが常に作用する。そのため、車輪構成体WAが回動軸C4周りに反時計方向に回動することが抑制されるからである。すなわち、装置本体102の自重により、図4に示す第2状態は安定しており、不用意に第1状態に戻ってしまうことが抑制される。従って、仮にストッパ18と凹部25a、25bとによるロック機構がない構成においても、第2状態に関してはいわゆる簡易的なロック機能が果たされる。そして、この簡易的なロック状態では、後輪31L、31Rは図4の時計方向または反時計方向に回転しやすい姿勢になるので、装置本体102が前後方向に直進することが円滑となる。
【0039】
本実施形態によれば、後輪31L、31Rを含む車輪構成体WAは、装置本体102に対して回動軸C4を中心に回動することで、第1状態と第2状態と、に遷移することができる。第2状態では駆動輪11L、11Rを介してモータの負荷がかかることがなくなるので、軽い手押し走行が可能となる。また、第1状態における後輪31L、31Rのキャスタ角θよりも第2状態におけるキャスタ角θの方が大きいので、装置本体102を手押しにより真っ直ぐ進ませようとする際、意図に反して曲がってしまうおそれが少なく、安定した直進走行が容易となる。また、駆動輪11L、11Rを昇降する機構を必要としないので構成が複雑化しない。よって、簡単な構成で、駆動輪11L、11Rが作動しない状況であっても容易な手押し移動を可能にすることができる。
【0040】
また、軸心C1L、C1Rはそれぞれ、キャスタ軸心C5L、C5Rに対してオフセットされている。図4に示す第2状態では、キャスタ軸心C5L、C5R周りの回転により、軸心C1L、C1Rが左右方向に平行で且つ前後方向において軸心C1L、C1Rがキャスタ軸心C5L、C5Rに対して前輪41L、41R側に位置する。この状態では、軸心C1L、C1Rは、前後方向において回動軸C4よりも前輪41L、41R側(直線L4よりも前側)に位置する。これにより、第2状態を安定させ、不用意に第1状態に戻ってしまうことが抑制される。
【0041】
また、第2状態では、キャスタ軸心C5L、C5Rは後傾姿勢となるので、ホイールベースが短縮され手押し走行時の取り回し性を向上させることができる。また、手押しする者の足が後輪31L、31Rに接触することを抑制することができる。
【0042】
また、後輪31L、31Rはそれぞれ、キャスタ軸心C5L、C5Rを挟んで配置された2つの車輪からなる。従って、軸心C1L、C1Rがキャスタ軸心C5L、C5Rに対してオフセットされていることと相まって、後輪31L、31Rが接地する際、軸心C1L、C1Rが左右方向に平行となる姿勢になりやすい。これにより、直進安定性を向上させることができる。なお、直進安定性向上の観点からは、各後輪は、対応するキャスタ軸を中心に回転する2以上の車輪であればよく、車輪数は3以上でもよい。あるいは、各後輪を、接地する面の幅が広い(例えば、前輪よりも幅広の)1つの車輪で構成してもよい。
【0043】
次に、図6(b)で、軸心C1L、C1Rの位置設定に関する変形例を説明する。図6(a)は、上述した本実施形態での車輪構成体WAの模式的な左側面図である。図6(b)は、変形例に係る車輪構成体WAの模式的な左側面図である。図6(b)に示す変形例を採用してもよい。
【0044】
図6(a)、(b)では代表して後輪31Lとキャスタ軸心C5Lと軸心C1L(P1、P2)との関係を示すが、後輪31Rとキャスタ軸心C5Rと軸心C1Rとの関係もこれと同様に考えることができる。
【0045】
各図において、点P1、点P2は、左右方向に平行となった状態における軸心C1Lの位置を示している。キャスタ軸心C5L周りの後キャスタ部30Lの回転位置のうち、軸心C1Lが左右方向に平行となる回転位置は2つある。そのうち第1の回転位置に対応する軸心C1Lの位置は、図4で示した軸心C1Lの位置である点P1である。第2の回転位置に対応する軸心C1Lの位置は点P2である。
【0046】
図4図6(a)で示す本実施形態では、点P1は直線L4より前側にあるが、点P2は直線L4より後側にある。上述したように、軸心C1Lが点P1にあるときは、第2状態のうち、後部の車高が最も低くなるので安定性が高い。一方、第2状態のうち、軸心C1Lが点P2にあるときは、軸心C1Lが点P1にあるときと比べると安定性が劣る。ただし、突起部18aと凹部25bとの嵌合により第2状態での安定性は確保されている。
【0047】
一方、図6(b)に示す変形例では、点P1だけでなく点P2も直線L4より前側にある。従って、第2状態においては、装置本体102の自重により、キャスタ軸心C5L周りの後キャスタ部30Lの回転位置にかかわらず、回動軸C4を中心とした時計方向の回転モーメントが常に作用する。従って、変形例の方が、第2状態を安定させ、不用意に第1状態に戻ってしまうことを抑制する効果が高い。このような変形例は、回動フレーム20の寸法・形状、第2状態におけるキャスタ軸心C5Lの傾斜角度、車輪支持部32Lの寸法・形状等を適宜設計することで実現可能である。
【0048】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、第1状態から第2状態に円滑に遷移させるためには、ユーザが、事前に後輪31L、31Rを前側に回転させておく作業が必要とされた。本技術の第2の実施形態では、この作業を自動で実施できるようにする。
【0049】
図7は、本実施形態に係る移動装置100の主要部のブロック図である。移動装置100は、制御部201のほか、複数の構成部を有する。複数の構成部として、制御部201に、操舵部202、SW203、記憶部204、SW検知部205、バッテリ残量検知部206、故障検知部207、キャスタ駆動部208が電気的に接続されている。これらは主として駆動ボックス12内に配置されるが、配置位置は問わない。
【0050】
制御部201は、不図示のCPUを含み、移動装置100の全体を制御する。記憶部204は、ROM、RAM、不揮発メモリ等を含み、制御部201により実行されるプログラムが上記ROM等に格納されている。
【0051】
操舵部202は駆動源8(図2)を含み、制御部201によって制御される。例えば、操舵部202は、駆動輪11L、11Rを独立して回転させ、それらの回転方向および回転数を制御することで移動装置100の直進や旋回等の操舵を実現する。SW203はユーザによって操作される。SW203の構成は問わない。SW検知部205はSW203の操作を検知する。SW203のオン操作が検知されることで、電動走行のための姿勢から手押し走行のための姿勢(手押し姿勢と称する)に移動装置100を遷移させる処理を開始する指示が制御部201に入力される。手押し姿勢は、図4に示す姿勢である。
【0052】
バッテリ残量検知部206は、駆動源8を動作させるための不図示のバッテリの残量を検知する。故障検知部207は、駆動機構の故障、例えば駆動源8の動作に関する故障の発生を検知する。例えば、故障検知部207は、負荷センサ等で構成され、駆動源8のモータの負荷が所定値を超えると故障が発生したと判定する。キャスタ駆動部208は必須でない。キャスタ駆動部208については、後述する変形例で説明する。
【0053】
図8は、姿勢切り替え処理を示すフローチャートである。この処理は、制御部201が、記憶部204に記憶されたプログラムを実行することにより実現される。この処理は、移動装置100の不図示の電源がオンにされると開始される。なお、現在の状態が第1状態か第2状態かを検出する機構を設け、第1状態の場合にだけ図8の姿勢切り替え処理が実行されるようにしてもよい。
【0054】
ステップS101では、判定部としての制御部201は、電動走行姿勢から手押し姿勢への切り替え(車輪構成体WAでいえば第1状態から第2状態への切り替え)の要否を判定する。SW検知部205によりSW203のオン操作が検知されると、制御部201は、第2状態への切り替え、つまり手押し姿勢への切り替えが必要と判定する。
【0055】
なお、このほか、バッテリ残量や駆動機構の故障の有無も、手押し姿勢への切り替え要否の判定に用いてもよい。すなわち、制御部201は、SW203のオン操作が検知されたこと、バッテリ残量検知部206によりバッテリ残量が所定以下であることが検知されたこと、故障検知部207により駆動機構の故障が検知されたこと、の少なくとも1つが生じた場合に、手押し姿勢への切り替えが必要と判定してもよい。
【0056】
そして制御部201は、手押し姿勢への切り替えが必要でないと判定した場合は、判定処理を終了する。手押し姿勢への切り替えが必要と判定すると、制御部201は、ステップS102に進み、切り替え処理を実行して、図8の姿勢切り替え処理を終了する。
【0057】
切り替え処理(ステップS102)では、制御部201は、装置本体102を前後方向における後輪31L、31R側(後ろ側)に所定量だけ移動させるよう、操舵部202を介して駆動源8を制御する。具体的には、駆動輪11L、11Rを共に後進方向に回転させることで、装置本体102を後方へ少し移動させる。
【0058】
ここで、軸心C1L、C1Rがキャスタ軸心C5L、C5Rに対してオフセットされているので、装置本体102が後進したことに伴い、車輪支持部32L、32Rがキャスタ支持部22L、22Rに対してキャスタ軸心C5L、C5Rを中心に回転する。そして軸心C1L、C1Rが、左右方向に略平行で且つキャスタ軸心C5L、C5Rよりも前に位置するようになる(図3に示す回転位置とは逆の位置)。この状態になると、ユーザがペダル23を足で踏み込み操作することで、簡単に図4に示す姿勢へ遷移する。
【0059】
本実施形態によれば、簡単な構成で、駆動輪11L、11Rが作動しない状況であっても容易な手押し移動を可能にすることに関し、第1の実施形態と同様の効果を奏することができる。さらに、姿勢切り替え処理が実行されることで、ペダル23を足で踏み込み操作する際に安定した第2状態(簡易的なロック状態)に遷移させやすい。
【0060】
本実施形態における変形例を説明する。キャスタ駆動部208は、例えば、モータであり、キャスタ支持部22L、22Rのそれぞれに設けられる。キャスタ駆動部208は、制御部201により制御され、後キャスタ部30L、30Rを、キャスタ軸心C5L、C5R周りに回動駆動する。この変形例では、切り替え処理(ステップS102)が異なる。
【0061】
切り替え処理(ステップS102)では、制御部201は、キャスタ駆動部208を制御する。そして制御部201は、軸心C1L、C1Rが、左右方向に略平行で且つキャスタ軸心C5L、C5Rよりも前に位置するように、後キャスタ部30L、30Rを、キャスタ軸心C5L、C5R周りに回動駆動する。後キャスタ部30L、30Rは、図3に示す回転位置とは逆の位置になる。
【0062】
この変形例によっても、第2の実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0063】
以上、本技術をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本技術はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この技術の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本技術に含まれる。上述の実施形態の一部を適宜組み合わせてもよい。
【0064】
例えば、以下のように変形してもよい。
【0065】
車輪構成体WAは、第1状態から第2状態へ遷移するために、回動軸C4を中心に図4の時計方向に回動する構成であった。しかし、簡単な構成で、駆動輪が作動しない状況であっても容易な手押し移動を可能にする観点に限れば、第1状態から第2状態へ遷移する際の車輪構成体WAの回動方向は図4の反時計方向であってもよい。この場合、第2状態ではキャスタ軸心C5L、C5Rは前傾姿勢となってもよい。
【0066】
なお、直進安定性の効果を強く求めない場合は、後輪31L、31Rがキャスタ式であることは必須でない。また、前輪41L、41Rについてもキャスタ式であることは必須でない。
【0067】
なお、前後方向において、駆動輪は前輪と後輪との間に位置したが、これに限らない。例えば、駆動輪が前輪より前、または後輪より後ろに配置されてもよい。
【0068】
なお、前輪、駆動輪、後輪はいずれも左右一対設けられたが、これらのうち少なくとも1つは左右方向中央に1つだけ設けられてもよい。仮に、駆動輪が1つだけの構成とした場合、移動装置100を左右に旋回させる機構として、前輪を操舵可能に構成してもよい。あるいは、駆動輪の向きを可変にして操舵可能に構成してもよい。
【0069】
なお、第1状態と第2状態とに遷移する車輪構成体WAを、後輪に適用したが、前輪に適用してもよい。この場合、前後方向の相対的な位置関係については、上記説明した実施形態とは反対に考えてよい。従って、第1車輪は、前輪または後輪のうち一方の車輪で、キャスタ角θが可変である第2車輪は、前輪または後輪のうち他方の車輪であればよい。
【0070】
なお、各実施形態において、「略」を付したものは完全を除外する趣旨ではない。例えば、「略平行」、「略垂直」は、それぞれ完全な平行、垂直を含む趣旨である。
【符号の説明】
【0071】
8 駆動源、 41L、41R 前輪、 31L、31R 後輪、 11L、11R 駆動輪、 102 装置本体、 WA 車輪構成体、 C4 回動軸、 θ キャスタ角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8