(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110573
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】二次電池用正極
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20240808BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015224
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】樋口 将成
(72)【発明者】
【氏名】大田 正弘
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA12
5H050AA14
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB05
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA13
5H050FA02
5H050FA08
5H050HA05
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン伝導性を向上でき、かつ固体電解質層との接合強度を向上できる二次電池用正極を提供すること。
【解決手段】二次電池用正極であって、正極集電体と、正極活物質層と、を有し、正極活物質層は、正極活物質を有し、正極活物質と、メジアン径150nm以下の固体電解質とが接触している、二次電池用正極。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池用正極であって、
正極集電体と、正極活物質層と、を有し、
前記正極活物質層は、正極活物質を有し、
前記正極活物質と、メジアン径150nm以下の固体電解質とが接触している、二次電池用正極。
【請求項2】
前記正極活物質層の少なくとも一方の積層表面に形成される接着剤層を更に有し、
前記接着剤層は、前記メジアン径150nm以下の固体電解質を主成分とする、請求項1に記載の二次電池用正極。
【請求項3】
前記メジアン径150nm以下の固体電解質の含有量は、前記二次電池用正極の厚み方向で固体電解質層を積層する積層表面側ほど多く含有される、請求項1又は2に記載の二次電池用正極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用正極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人々が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギーへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギーの効率化に貢献する二次電池に関する研究開発が行われている。
【0003】
このような二次電池としては、正極と負極との間に電解液及びセパレータが配置された液体電池や、電解液に代えて、固体電解質を用いた固体電池が挙げられる。固体電池は、固体電解質が不燃性であるために安全性が向上する点や、より高いエネルギー密度を有する点において優れており、特に注目を集めている。
【0004】
固体電池に関する技術としては、例えば、長いサイクルライフ、高いリチウムの繰り返し使用効率、及び高エネルギー密度を備え、電池の組み立ての容易さを高めることを課題とし、負極層の表面層と接触する多層構造にリチウムイオン伝導性のポリマー層を備える、電気化学電池に関する発明が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された技術は、金属リチウムを含む負極層のリチウムイオン伝導性等の機能を向上させる技術であるが、一方で、正極層のリチウムイオン伝導性の向上や、固体電解質層との接合強度の向上が求められている。しかし、固体電池における正極層と固体電解質層との界面は固体接触であることから、リチウムイオン伝導性や接合強度の向上と、固体接触を向上させるための熱間圧延による、材料変質や集電箔の破断、応力緩和による母材破壊の防止とはトレードオフの関係にあり、性能向上のボトルネックとなっていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、リチウムイオン伝導性を向上でき、かつ固体電解質層との接合強度を向上できる二次電池用正極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明は、二次電池用正極であって、正極集電体と、正極活物質層と、を有し、前記正極活物質層は、正極活物質を有し、前記正極活物質と、メジアン径150nm以下の固体電解質とが接触している、二次電池用正極に関する。
【0009】
(1)の発明によれば、リチウムイオン伝導性を向上でき、かつ固体電解質層との接合強度を向上できる二次電池用正極を提供できる。
【0010】
(2) 前記正極活物質層の少なくとも一方の積層表面に形成される接着剤層を更に有し、前記接着剤層は、前記メジアン径150nm以下の固体電解質を主成分とする、(1)に記載の二次電池用正極。
【0011】
(2)の発明によれば、リチウムイオン伝導性を向上でき、かつ固体電解質層との接合強度を向上できる二次電池用正極を容易に実現できる。
【0012】
(3) 前記メジアン径150nm以下の固体電解質の含有量は、前記二次電池用正極の厚み方向で固体電解質層を積層する積層表面側ほど多く含有される、(1)又は(2)に記載の二次電池用正極。
【0013】
(3)の発明によれば、リチウムイオン伝導性、及び固体電解質層との接合強度をより好ましく向上できる二次電池用正極を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る二次電池用正極を有する電極積層体を示す断面図である。
【
図2】本発明の二次電池用正極に含まれる固体電解質粒子のメジアン径を示すグラフである。
【
図3】本発明の二次電池用正極に含まれる固体電解質粒子のメジアン径を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<二次電池>
本発明の一実施形態に係る二次電池用正極を有する二次電池は、固体電解質を有する固体二次電池である。固体二次電池は、
図1に示す電極積層体1を有する。電極積層体1は、
図1に示すように、二次電池用正極である正極2と、負極3と、正極2と負極3との間に積層される固体電解質層4と、を有する。電極積層体1は、ラミネートフィルム等の外装体に収容されて用いられる。
【0016】
図1においては、1つの正極2の両面に2つの固体電解質層4が積層され、更に2つの固体電解質層4の外表面にそれぞれ負極3が積層される構成を図示している。一方で、本発明の二次電池用正極2を有する電極積層体の構成は上記には限定されず、正極と負極とが固体二次電池を介して積層される構成であればよく、正極、負極、及び固体電解質層の積層数は特に限定されない。
【0017】
(正極)
本実施形態に係る正極2は、
図1に示すように、正極活物質層21と、正極集電体22と、接着剤層23と、を有する。本実施形態においては、正極集電体22の両面に正極活物質層21が積層され、更にそれぞれの正極活物質層21の外表面に接着剤層23が積層される。
【0018】
正極活物質層21は、正極活物質を必須として含む層である。正極活物質は、特に限定されず、固体二次電池の正極活物質として公知の物質を用いることができる。正極活物質としては、例えば、LiCoO2、LiNiO2、NCM(Li(NixCoyMnz)O2、(0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1))等の三元系正極材料、LiVO2、LiCrO2等の層状正極活物質粒子、LiMn2O4、Li(Ni0.25Mn0.75)2O4、LiCoMnO4、Li2NiMn3O8等のスピネル型正極活物質、LiCoPO4、LiMnPO4、LiFePO4等のオリビン型正極活物質等を用いることができる。
【0019】
正極活物質層21は、正極活物質以外に、固体電解質、導電助剤、バインダ等をさらに含んでいてもよい。固体電解質、導電助剤、バインダ等は、特に限定されず、固体二次電池の電極材料として公知の物質を適用することができる。また、正極活物質層21は、後述するメジアン径150nm以下の固体電解質を含んでいてもよい。固体電解質はメジアン径が100nmであると好ましい。
【0020】
正極集電体22は、特に限定されず、固体二次電池の正極集電体として公知の物質を用いることができる。正極集電体22としては、例えば、ステンレス(SUS)箔、アルミニウム(Al)箔等の金属箔が挙げられる。
【0021】
接着剤層23は、正極活物質層21と固体電解質層4との接合強度、及びリチウムイオン伝導性を向上させるために設けられる層であり、メジアン径(D50)150nm以下の固体電解質(以下、「ナノスケールSE」と記載する場合がある)を主成分とすることが好ましい。固体電解質はメジアン径が100nmであると好ましい。詳細には、接着剤層23において、ナノスケールSEが50質量%以上含まれることがより好ましく、90質量%以上含まれることが更に好ましく、100質量%含まれることが最も好ましい。接着剤層23には、本発明の効果を阻害しない範囲内で、バインダ等の他の物質が含まれていてもよい。
【0022】
接着剤層23は、正極活物質層21の少なくとも一方の積層表面に形成されることが好ましい。具体的な態様としては、接着剤層23は、正極活物質層21と固体電解質層4との間に形成されることが好ましい。
【0023】
接着剤層23にナノスケールSEが含まれることで、正極活物質層21と接着剤層23の界面において、正極活物質とナノスケールSEとが接触する面積を、通常の粒径を有する固体電解質を用いた場合よりも大きくすることができる。これによって、正極2と固体電解質層4との接合強度、及びリチウムイオン伝導性を向上させることができる。また、イオンパスも比較的安定する。なぜなら、正極活物質粒子の表面には凹凸が形成されており、ナノスケールSEが上記凹凸内に配置されるためである。これによって、活物質の伸縮によるナノスケールSEとの接触界面剥離が生じ難くなると考えられる。
【0024】
接着剤層23を備えて正極2が形成されることで、電極積層体1の歪みを低減することができる。なぜなら、正極2、負極3、及び固体電解質層4を加圧して一体化させる際に、接着剤層23の圧縮変形量が大きいことで、正極2、負極3、及び固体電解質層4の歪みを小さくすることができるためである。従って、圧縮変形量が小さい高密度化された正極活物質層21、負極活物質層31、及び固体電解質層4を有して電極積層体1を構成することが可能になる。また、電極積層体1の積層面積を大きくすることが可能になる。
【0025】
なお、
図1の態様では、正極2が正極活物質層21とは別に接着剤層23を備える構成を図示しているが、本発明は、上記の態様には限定されない。即ち、正極2は接着剤層23を有しないか、或いは、正極活物質層21と接着剤層23とが別の層として区別できない程度に一体化されていてもよい。この場合、ナノスケールSEの含有量は、正極2の厚み方向で固体電解質層4を積層する積層表面側ほど多く含有されることが好ましい。これにより、正極2においてナノスケールSEを均質に分散させるよりも、正極2内の固体電解質の粒界によるイオン伝導の抵抗の上昇を低減しつつも、正極2における接合強度を向上できるからである。結果として、正極2と固体電解質層4との好ましい接合強度、及びリチウムイオン伝導性が得られる。
【0026】
(負極)
負極3は、負極活物質層31と、負極集電体32と、を含む。本実施形態において、
図1に示すように、負極活物質層31は、固体電解質層4と接するように積層され、電極積層体1の最外層に負極集電体32が積層される。
【0027】
負極活物質層31は、負極活物質を必須として含む層である。負極活物質は、特に限定されず、固体二次電池の負極活物質として公知の物質を用いることができる。負極活物質としては、例えば、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)等のリチウム遷移金属酸化物、TiO2、Nb2O3及びWO3等の遷移金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、グラファイト、ソフトカーボン及びハードカーボン等の炭素材料、シリコン単体、シリコン合金、シリコン化合物等のシリコン系材料、並びにリチウム金属、リチウム合金及び金属インジウム等が挙げられる。
【0028】
負極活物質層31は、負極活物質以外に、固体電解質、導電助剤、バインダ等をさらに含んでいてもよい。固体電解質、導電助剤、バインダ等は、特に限定されず、固体二次電池の電極材料として公知の物質を適用することができる。
【0029】
負極集電体32は、特に限定されず、固体二次電池の負極集電体として公知の物質を用いることができる。負極集電体としては、銅(Cu)箔、ステンレス(SUS)箔、アルミニウム(Al)箔等の金属箔が挙げられる。
【0030】
(固体電解質層)
固体電解質層4は、固体電解質を必須として含む層である。固体電解質層4には、上記以外に、バインダ等が含まれていてもよい。固体電解質層4は、本実施形態において、正極2と負極3との間に積層される。
【0031】
固体電解質としては、特に限定されないが、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質、窒化物系固体電解質、ハロゲン化物系固体電解質等が挙げられる。
【0032】
バインダとしては、特に限定されないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリイソブテン(PIB)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレン-酢酸ビニル共重合体(PEVA)、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
本実施形態に係る正極2を用いることで、上述のように、正極2と固体電解質層4との好ましい接合強度、及びリチウムイオン伝導性が得られるため、正極/固体電解質層界面の抵抗が低下し、電池容量や耐久性が改善される。また、電極積層体1の製造プロセスにおいて、各層をロールプレス等の方法によって圧延処理する際に、低温化が可能となるため、製造プロセスを簡易化でき、製造コストを低減できる。
【0034】
<固体電池の製造方法>
本実施形態に係る固体電池の製造方法は、正極2、負極3、固体電解質層4を形成する工程と、これらの各層を一体化する工程と、を有する。
【0035】
正極2を形成する工程は、例えば、正極活物質を含む電極合材スラリーを調製して正極集電体22上に塗工し、正極活物質層21を形成する工程を有する。正極2が、接着剤層23を含む場合、上記形成された正極活物質層21上に、更にナノスケールSEを含むスラリーを塗工する工程を有していてもよい。
【0036】
ナノスケールSEを接着剤層23内で偏析させる方法として、接着剤層23に使用する溶媒を2種類以上用いる方法、及び接着剤層23の乾燥方法を多段化する方法が挙げられる。前者については、固体電解質層に対する溶解度が異なる溶媒を2種以上用いる。これにより、溶解度が高い溶媒が固体電解質層に浸透するため、接着剤層内でのナノスケールSEの濃度分布が発生する。後者については、接着剤を塗布した後の乾燥工程において、緩やかな乾燥条件と急速な乾燥条件を組み合わせた多段乾燥工程によりナノスケールSEの偏析が可能である。緩やかな乾燥条件で接着剤層表層の溶媒が揮発することでナノスケールSEの濃度分布が発生するためである。
【0037】
負極3を形成する工程は、特に限定されず、例えば、電極合材スラリーを調製して負極集電体32上に塗工し、負極活物質層31を形成する工程を有する。上記以外に、負極活物質層としてリチウム金属又はリチウム合金等の金属箔を用いる場合、負極集電体32と上記金属箔とをクラッド材等により接合する工程を有していてもよい。
【0038】
固体電解質層4を形成する工程は、特に限定されないが、例えば、固体電解質を含む固体電解質スラリー調製して上記形成された正極2、又は負極3上に塗工する工程を有するものであってもよい。又は、上記の工程に変えて、独立したシート状の固体電解質層4を形成する工程を有していてもよい。
【0039】
正極2、負極3、及び固体電解質層4を一体化する工程は、特に限定されず、公知の一軸プレス、ロールプレス等により各層を加圧して一体化する工程を有していてもよい。上記加圧して一体化する工程は、各層を加圧すると同時に加温する工程であってもよい。本実施形態に係る正極2を用いる場合、上記加圧して一体化する工程における温度(プレス温度)を低温化し、かつプレス圧を低減することが可能である。例えば、従来であればプレス圧1000MPa、プレス温度140℃以上であったものを、例えばプレス圧500MPa、プレス温度80℃~90℃とすることが可能である。これによって、熱による材料変質や圧延による集電箔の破断、応力緩和による母材破壊等を抑制できる。
【0040】
(ナノスケールSEの調製方法)
正極2に含まれるナノスケールSEの調製方法について以下に説明する。ナノスケールSEの調製方法は、例えば、溶媒、及び分散剤が添加された固体電解質を粉砕及び分散する工程を有する。
【0041】
上記溶媒は、固体電解質との反応性、及び乾燥条件などを考慮して選定することができ、例えばトルエン等を用いることができる。上記分散剤は、溶媒への可溶性、及びイオン伝導性への影響を考慮して選定することができ、例えば多価アルコール系分散剤等を用いることができる。
【0042】
上記固体電解質を粉砕及び分散する工程には、例えばビーズミル、ジェットミル等を用いることができる。
【0043】
図2は、ビーズミルを用いて固体電解質を粉砕及び分散した場合の固体電解質粒子の粒子径分布を示すグラフである。
図2のグラフにおける横軸が粒子径(μm)、左縦軸が頻度(%)、右縦軸が通過分積算(%)を示す。
図2のグラフにおける固体電解質粒子のメジアン径は131nmであった。
【0044】
図3は、固体電解質の粉砕にジェットミルを用いた場合の固体電解質粒子の粒子径分布を示すグラフである。
図3のグラフにおける固体電解質粒子のメジアン径は143nmであった。
【0045】
図2、及び
図3の結果から、上記ナノスケールSEの調製方法によって、メジアン径150nm以下の固体電解質が調製できる結果が明らかである。
【0046】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0047】
2 正極(二次電池用正極)
21 正極活物質層
22 正極集電体
23 接着剤層