(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110588
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】ベルト式研削工具
(51)【国際特許分類】
B24B 23/06 20060101AFI20240808BHJP
B24B 55/08 20060101ALI20240808BHJP
B24B 55/05 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
B24B23/06
B24B55/08 A
B24B55/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015249
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000227386
【氏名又は名称】日東工器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100175983
【弁理士】
【氏名又は名称】海老 裕介
(72)【発明者】
【氏名】宮城 貴則
(72)【発明者】
【氏名】村上 慶一
(72)【発明者】
【氏名】半澤 啓資
【テーマコード(参考)】
3C047
3C158
【Fターム(参考)】
3C047FF07
3C047FF17
3C047JJ11
3C047KK01
3C158AA05
3C158AA16
3C158AC05
3C158CB03
(57)【要約】
【課題】テンションバーを係止する係止部材と工具本体との間の隙間に異物が侵入することを防止するようにしたベルト式研削工具を提供する
【解決手段】ベルト式研削工具1は、テンションバー12と、テンションバー12を後退した張力解放位置に係止する係止部材52と、工具本体10に取り付けられたカバー14とを備える。カバー14は、工具本体10のプーリガード部44の側方開口部46を開放する開位置と、それを閉鎖する閉位置との間でプーリガード部44の側面44aに沿って枢動可能である。カバー14は、開位置から閉位置に変位する途中の位置でカバー本体62に設けられた突起部66が工具本体10に係合して、カバー本体62に取り付けられた弾性シール部材64が工具本体10から離れるようにカバー本体62が弾性変形する。閉位置になるとカバー本体62が元の形状に戻って弾性シール部材64が係止部材52の周囲で工具本体10に密着する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前端部から後端部にまで延在し、前記前端部に回転自在に取り付けられたアイドルプーリを有する、テンションバーと、
モータ、前記モータの回転軸に取り付けられたドライブプーリ、前記ドライブプーリを周方向で部分的に覆い前記ドライブプーリの一側面の側で開口した側方開口部を画定するプーリガード部、及び前記テンションバーの前記後端部を受け入れるバー収容孔を有し、前記テンションバーを、前記アイドルプーリと前記ドライブプーリとの間に掛け回された無端研削ベルトに張力を加える張力付与位置と、前記張力付与位置から後退して前記無端研削ベルトの張力を解放する張力解放位置との間で変位可能に保持する工具本体と、
前記テンションバーと前記工具本体との間に配置されて、前記テンションバーを前記張力付与位置に向かって付勢するスプリングと、
前記工具本体に操作可能に設けられ、前記テンションバーを前記張力解放位置に保持する係止位置と、前記テンションバーの保持を解除する解除位置との間で変位可能とされた係止部材と、
前記工具本体に設けられ、前記プーリガード部の前記側方開口部を開放する開位置と、前記側方開口部を閉鎖する閉位置との間で前記プーリガード部の側面に沿って変位可能とされたカバーであって、カバー本体、前記カバー本体に取り付けられた弾性シール部材、及び前記側方開口部の側に突出するように前記カバー本体に設けられた突起部を有し、前記開位置から前記閉位置に変位する途中の位置で前記突起部が前記工具本体に係合して前記カバー本体の少なくとも一部が前記弾性シール部材とともに前記工具本体から離れるように変位し、前記閉位置となったときに前記カバー本体の前記少なくとも一部が前記弾性シール部材とともに前記工具本体に近づくように変位して前記弾性シール部材が前記係止部材の周囲で前記工具本体に密着するようにされた、カバーと、
を備える、ベルト式研削工具。
【請求項2】
前記突起部が前記工具本体に係合したときに前記カバー本体が弾性変形することにより前記弾性シール部材が前記工具本体から離れるように変位し、前記カバーが前記閉位置となったときに前記カバー本体が元の形状に戻ることにより前記弾性シール部材が前記工具本体に近づいて前記係止部材の周囲で前記工具本体に密着するようにされた、請求項1に記載のベルト式研削工具。
【請求項3】
前記カバーが、前記モータの回転軸線と略平行な枢動軸線の周りで前記開位置と前記閉位置との間で枢動可能とされた、請求項1に記載のベルト式研削工具。
【請求項4】
前記カバー本体が、前記開位置から前記閉位置に向かう方向での前記弾性シール部材の進行方向前方側で前記工具本体の側に突出したシール部材ガード部を有する、請求項1に記載のベルト式研削工具。
【請求項5】
前記カバーが前記閉位置にあるときに、前記カバーが前記開位置に変位する方向で前記突起部が前記工具本体に係合して、前記カバーが前記開位置に向かって変位することが抑止されるようにされた、請求項1に記載のベルト式研削工具。
【請求項6】
前記弾性シール部材がシリコンスポンジである、請求項1に記載のベルト式研削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト式研削工具に関し、より詳細には無端研削ベルトの交換の際にテンションバーを後退した位置に保持するための係止構造を備えたベルト式研削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ベルト式研削工具は、モータにより回転駆動されるドライブプーリと、回転自在に取り付けられたアイドルプーリと、これらドライブプーリとアイドルプーリとの間に掛け回された無端研削ベルトと、を備え、ドライブプーリの回転に伴って回転駆動される無端研削ベルトを加工対象物に当接させることにより、該加工対象物の研削を行なうようにした工具である。アイドルプーリを支持しているテンションバーは、モータを保持している工具本体に前後方向で変位可能に保持され、工具本体内に設けられたスプリングによって前方に付勢されている。このスプリングの付勢力によってアイドルプーリが無端研削ベルトの内周面に押し付けられることにより、ドライブプーリとアイドルプーリとに掛け回されている無端研削ベルトに適度な張力が付与されるようになっている。
【0003】
無端研削ベルトを交換するためには、無端研削ベルトに付与されている張力を解放する必要がある。そのためには、テンションバーをスプリングの付勢力に抗して後方に変位させなければならない。テンションバーを後退した位置に手で保持したまま無端研削ベルトの交換を行なうことは難しいため、通常はテンションバーを後退した位置に保持しておくための係止構造が設けられている。例えば特許文献1には、テンションバーを保持する内部空間に連通する開口を工具本体に形成し、この開口にL字状の係止部材(プッシュボタン)を配置して、係止部材をテンションバーに係止することによりテンションバーを後退した位置に保持するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような係止部材は工具本体に対して可動となっているため、工具本体と係止部材との間に隙間が生じることになる。この隙間から研削粉や埃などの異物が侵入すると、工具本体に対する係止部材の動きが悪くなり、テンションバーを係止する位置に変位しなくなったり、逆にテンションバーを係止した状態を解除できなくなったりする虞がある。また、異物が工具本体の奥にまで侵入してしまうと、テンションバーの変位が妨げられて、無端研削ベルトに適切な張力を付加できなくなるなどの他の不具合が生じる可能性もある。
【0006】
そこで本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて、テンションバーを係止する係止部材と工具本体との間の隙間に異物が侵入することを防止するようにしたベルト式研削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、
前端部から後端部にまで延在し、前記前端部に回転自在に取り付けられたアイドルプーリを有する、テンションバーと、
モータ、前記モータの回転軸に取り付けられたドライブプーリ、前記ドライブプーリを周方向で部分的に覆い前記ドライブプーリの一側面の側で開口した側方開口部を画定するプーリガード部、及び前記テンションバーの前記後端部を受け入れるバー収容孔を有し、前記テンションバーを、前記アイドルプーリと前記ドライブプーリとの間に掛け回された無端研削ベルトに張力を加える張力付与位置と、前記張力付与位置から後退して前記無端研削ベルトの張力を解放する張力解放位置との間で変位可能に保持する工具本体と、
前記テンションバーと前記工具本体との間に配置されて、前記テンションバーを前記張力付与位置に向かって付勢するスプリングと、
前記工具本体に操作可能に設けられ、前記テンションバーを前記張力解放位置に保持する係止位置と、前記テンションバーの保持を解除する解除位置との間で変位可能とされた係止部材と、
前記工具本体に設けられ、前記プーリガード部の前記側方開口部を開放する開位置と、前記側方開口部を閉鎖する閉位置との間で前記プーリガード部の側面に沿って変位可能とされたカバーであって、カバー本体、前記カバー本体に取り付けられた弾性シール部材、及び前記側方開口部の側に突出するように前記カバー本体に設けられた突起部を有し、前記開位置から前記閉位置に変位する途中の位置で前記突起部が前記工具本体に係合して前記カバー本体の少なくとも一部が前記弾性シール部材とともに前記工具本体から離れるように変位し、前記閉位置となったときに前記カバー本体の前記少なくとも一部が前記弾性シール部材とともに前記工具本体に近づくように変位して前記弾性シール部材が前記係止部材の周囲で前記工具本体に密着するようにされた、カバーと、
を備える、ベルト式研削工具を提供する。
【0008】
当該ベルト式研削工具においては、カバーが閉位置となったときに弾性シール部材が係止部材の周囲で工具本体に密着するようになっているため、係止部材と工具本体との間の隙間を外部から隔離して、外部の異物が隙間に侵入することを防止することができる。また、カバーの突起部が工具本体に係合することで弾性シール部材が工具本体から離れるようになっているため、弾性シール部材が工具本体に当たってカバー本体から外れてしまったり工具本体と摺動して摩耗したりすることを防止することが可能となる。
【0009】
また、前記突起部が前記工具本体に係合したときに前記カバー本体が弾性変形することにより前記弾性シール部材が前記工具本体から離れるように変位し、前記カバーが前記閉位置となったときに前記カバー本体が元の形状に戻ることにより前記弾性シール部材が前記工具本体に近づいて前記係止部材の周囲で前記工具本体に密着するようにすることができる。
【0010】
また、前記カバーが、前記モータの回転軸線と略平行な枢動軸線の周りで前記開位置と前記閉位置との間で枢動可能とすることができる。
【0011】
また、前記カバー本体が、前記開位置から前記閉位置に向かう方向での前記弾性シール部材の進行方向前方側で前記工具本体の側に突出したシール部材ガード部を有するようにすることができる。
【0012】
このようなシール部材ガード部を設けることにより、弾性シール部材が工具本体に当たることをより確実に防止することが可能となる。
【0013】
また、前記カバーが前記閉位置にあるときに、前記カバーが前記開位置に変位する方向で前記突起部が前記工具本体に係合して、前記カバーが前記開位置に向かって変位することが抑止されるようにすることができる。
【0014】
また、前記弾性シール部材がシリコンスポンジであるようにすることができる。
【0015】
以下、本発明に係るベルト式研削工具の実施形態を添付図面に基づき説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るベルト式研削工具の斜視図である。
【
図2】
図1のベルト式研削工具の上面断面図である。
【
図3】
図1のベルト式研削工具が備えるカバーの表面側を示す斜視図である。
【
図5】テンションバーが張力解放位置に保持された状態でのベルト式研削工具の斜視図である。
【
図7】
図1の状態からカバーを開位置と閉位置の間の位置にまで枢動させた状態でのベルト式研削工具の斜視図である。
【
図8】
図1の状態からカバーを開位置と閉位置の間の位置にまで枢動させた状態でのベルト式研削工具の別の方向から見た斜視図である。
【
図9】
図7及び
図8の状態におけるカバーの周囲の拡大上面図である。
【
図10】カバーを閉位置とした状態でのベルト式研削工具の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態に係るベルト式研削工具1は、
図1及び
図2に示すように、工具本体10と、工具本体10に前後方向で変位可能に保持されたテンションバー12と、工具本体10に取り付けられたカバー14と、を備える。工具本体10の後端には、バッテリBが着脱可能に装着されるバッテリ装着部16が設けられており、当該ベルト式研削工具1はバッテリ装着部16に装着されたバッテリBを電源として駆動するようになっている。
【0018】
テンションバー12は、前端部18から後端部20にまで長手軸線Lに沿って延在し、その前端部18にはアイドルプーリ22が回転自在に取り付けられている。
【0019】
工具本体10は、ハウジング24と、ハウジング24内に収容されたモータ26と、モータ26の回転軸28に取り付けられたドライブプーリ30とを備える。ハウジング24は、モータ26を収容しているモータハウジング32と、モータハウジング32に取り付けられたグリップ用アダプタ34と、グリップ用アダプタ34に取り付けられたグリップ部材36とからなる。工具本体10はさらに、モータハウジング32に取り付けられたブラケット38と、ブラケット38に取り付けられたバー支持部材40とを備える。バー支持部材40は、テンションバー12の後端部20を受け入れてテンションバー12を長手軸線Lに沿った前後方向で変位可能に保持するバー収容孔42と、ドライブプーリ30を周方向でその上方位置から後方を回って下方位置に至るまで覆うプーリガード部44とを有する。プーリガード部44は、ドライブプーリ30の一側面の側で開口してドライブプーリ30を露出させる側方開口部46を画定している。アイドルプーリ22とドライブプーリ30との間には無端研削ベルト48が掛け回されている。
【0020】
バー収容孔42内において、工具本体10の一部であるバー支持部材40とテンションバー12との間にスプリング50が配置されている。このスプリング50は、テンションバー12を工具本体10に対して長手軸線Lの前方側(
図2で見て左方側)に付勢している。無端研削ベルト48は、このスプリング50の付勢力によって張力が加えられた状態とされる。テンションバー12は、無端研削ベルト48に張力を加える張力付与位置(
図1、
図2)と、張力付与位置からスプリング50の付勢力に抗して後退して無端研削ベルト48の張力を解放する張力解放位置(
図5、
図6)との間で変位可能となるように工具本体10に保持されている。
【0021】
工具本体10のバー支持部材40にはさらに、テンションバー12を張力解放位置に保持するための係止部材52が操作可能に設けられている。係止部材52は、バー支持部材40の側面に開口した取付開口部54内に位置する操作部56と、長手軸線Lを横断する方向に延びる係止部58とからなり、全体としてL字状の形状を有している。係止部材52は、スプリング59によって長手軸線Lを横断する方向で外側に付勢されている。
図6に示すように、テンションバー12が張力解放位置になると、テンションバー12に形成された係止溝60が係止部材52の係止部58と整合する位置となり、係止部材52はバー支持部材40の外側に向かって(図で見て下方に向かって)変位して係止位置となる。そうすると、係止部58が係止溝60に係合してテンションバー12は張力解放位置に保持される。この状態で係止部材52の操作部56を押し込むと、係止部材52は係止部58が係止溝60から外れた解除位置となり、係止部材52によるテンションバー12の保持が解除される。その結果、テンションバー12はスプリング50の付勢力により張力付与位置に向かって変位する。
【0022】
カバー14は、
図3及び
図4に示すように、板状のカバー本体62と、カバー本体62に接着して取り付けられた弾性シール部材64と、カバー本体62に形成された突起部66とを有する。またカバー本体62には、図で見て弾性シール部材64の下側で弾性シール部材64の側面を覆うように突出したシール部材ガード部68を有する。シール部材ガード部68は、カバー本体62を折り曲げることにより形成されている。カバー本体62にはさらに、上部から後方位置にまで延びる押圧部70と、カバー14を工具本体10に取り付けるための取り付け穴72と、カバー14を工具本体10に固定するための切欠き部74とを有する。カバー14は、プーリガード部44に設けられた円形凸部(図示しない)に取り付け穴72を嵌めて、円形凸部に形成されたネジ穴に取り付けねじ76(
図1)を螺合することにより工具本体10に取り付けられている。カバー14は、取り付けねじ76を通る枢動軸線P(
図2)の周りで、プーリガード部44の側方開口部46を開閉するようにしてプーリガード部44の側面44a(
図9)に沿って枢動可能とされている。カバー14の枢動軸線Pは、モータ26の回転軸線Rと平行である。当該実施形態においては、弾性シール部材64はシリコンスポンジにより形成されている。
【0023】
無端研削ベルト48の交換を行なう際には、カバー14をプーリガード部44の側方開口部46を開放した開位置としてドライブプーリ30が側方開口部46から露出した状態とし(
図1、
図2)、次いでテンションバー12を押し込んで係止部材52により張力解放位置に保持された状態とする(
図5、
図6)。そうすると、無端研削ベルト48の張力が解放されて、無端研削ベルト48をアイドルプーリ22及びドライブプーリ30から取り外すことができるようになる。新しい無端研削ベルト48をアイドルプーリ22及びドライブプーリ30の周囲に取り付けたら、係止部材52の操作部56を押して係止部材52を解除位置とし、テンションバー12を再び張力付与位置とする(
図1、
図2)。そして、カバー14を開位置から側方開口部46を閉鎖する閉位置にまで枢動させる。ここで、
図7~
図9に示すように、カバー14が開位置から閉位置に至る途中の位置で、カバー14の突起部66が工具本体10のプーリガード部44に係合する。そうすると、
図9から分かるように、カバー本体62の先端部分62aがそこに取り付けられた弾性シール部材64とともに工具本体10から離れるようにカバー本体62が弾性変形する。カバー14の押圧部70がプーリガード部44に係合する位置にまでカバー14を枢動させると、カバー14は
図10及び
図11に示す閉位置となる。カバー14がこの閉位置になると、突起部66とプーリガード部44との係合が解除されてカバー本体62は元の形状に戻る。これにより、カバー本体62の先端部分62aが弾性シール部材64とともに工具本体10のバー支持部材40に近づくように変位して、弾性シール部材64が係止部材52の周囲で工具本体10に密着した状態となる。弾性シール部材64が工具本体10に密着することで、工具本体10と係止部材52との間の隙間が外部から隔離されて、隙間に周囲の異物が侵入することが防止される。また、上述のようにカバー本体62が変形することにより、弾性シール部材64が工具本体10に対して枢動方向で当たることがなくなり、弾性シール部材64がカバー本体62から剥がれてしまうことを防止することが可能となる。さらには、弾性シール部材64が工具本体10に対して枢動方向で摺動することも無くなるか又はほぼ無くなるため、弾性シール部材64が擦れて摩耗したり破損したりすることも防止することが可能となる。このような構成により弾性シール部材64には大きな負荷がかからないようになるため、弾性シール部材64としてより柔軟性のある材料を使用することが可能となり、工具本体10に対する密着性を高めることが容易になる。
【0024】
カバー14が閉位置になると、プーリガード部44の側方開口部46がカバー14で覆われてドライブプーリ30が隠れた状態となる。これにより、回転駆動中のドライブプーリ30に誤って触れてしまうことを防止することができる。また、カバー14の突起部66がプーリガード部44の内側において開位置に向かう方向で係合した状態となる。これにより、カバー14が閉位置に軽く止められて開位置に向かって自由に枢動してしまうことが抑止される。さらに、工具本体10に螺合されている止めねじ78がカバー14の切欠き部74を通るようになる。この止めねじ78を締付けることによりカバー14を閉位置により確実に固定しておくことができる。
【0025】
カバー14を開位置から閉位置にまで枢動させるときには、通常はカバー14の押圧部70を押すようにする。そうすることで、突起部66が工具本体10に係合したときのカバー本体62の弾性変形が妨げられず、上述のように弾性シール部材64が途中で工具本体10に当たらないようになる。しかしながら、カバー14を操作する際に弾性シール部材64に近い部分が工具本体10の側に押されてしまうこともあり得る。そうすると、カバー14の突起部66が工具本体10に係合している状態において、押圧部70を押して操作したときに比べて弾性シール部材64が工具本体10により近い位置になる可能性がある。当該ベルト式研削工具1においては、このような場合でも、弾性シール部材64が工具本体10に強く当たってしまうことが、カバー本体62に形成されたシール部材ガード部68によって防止されるようになっている。すなわち、シール部材ガード部68は、カバー本体62が開位置から閉位置に向かう方向での弾性シール部材64の進行方向前方側に形成されているため、カバー本体62が工具本体10の側に押されてしまったとしてもカバー14の閉位置への枢動時にシール部材ガード部68が工具本体10に当たって、弾性シール部材64が工具本体10に枢動方向で強く当たることを回避することができる。
【0026】
カバー14を閉位置から開位置に枢動させるときにも、突起部66がプーリガード部44に係合して弾性シール部材64は工具本体10から離れて移動する。そのため、カバー14を開く際にも弾性シール部材64は工具本体10から大きな負荷を受けない。
【0027】
当該ベルト式研削工具1においては、カバー14を閉位置とすることにより弾性シール部材64が係止部材の周囲で工具本体10に密着するため、係止部材52と工具本体10の隙間から異物が侵入することを防止することができる。また、カバー14を開位置から閉位置に変位させる途中で弾性シール部材64が工具本体10から離れるようになっているため、弾性シール部材64がカバー14の枢動方向で工具本体10に当たったり、工具本体10に対して強く摺動することが防止されるため、弾性シール部材64が外れたり損傷したりすることを防止することが可能となる。また、弾性シール部材64に強い負荷が作用しないようになっているため、弾性シール部材64を形成するための材料の選択幅が広がり、弾性が高くより柔軟な材料を採用して工具本体10への密着性を高くすることが容易となる。
【0028】
以上に本発明の実施形態について説明をしたが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。例えば、カバーは枢動するように取り付けられているが、プーリガード部の側面に沿って直線的に変位するなど、他の移動形態をとるようにしてもよい。また、上記実施形態では、カバーの突起部が工具本体に係合したときにカバー本体が弾性変形することにより弾性シール部材が工具本体から離れるようにしているが、カバーを工具本体に対して枢動軸線の方向で変位可能に取り付けてスプリングやゴム材料などの弾性部材でカバーを工具本体の側に付勢した状態とし、突起部が工具本体に係合したときに弾性部材の付勢力に抗してカバー全体が工具本体から離れる方向に変位することで弾性シール部材が工具本体から離れるようにし、カバーが閉位置となったときに弾性部材の付勢力でカバーが工具本体の側に戻るように変位することにより弾性シール部材が工具本体に密着するようにしてもよい。又は、カバーを枢動軸線に対して僅かに傾動可能なように工具本体に取り付けて弾性部材によりカバーを工具本体の側に付勢した状態とし、突起部が工具本体に係合したときに弾性部材の付勢力に抗してカバー全体が傾動して弾性シール部材が工具本体から離れるようにし、カバーが閉位置となったときに弾性部材の付勢力でカバーが工具本体の側に戻るように傾動することにより弾性シール部材が工具本体に密着するようにしてもよい。また、弾性シール部材は、ゴム材料などの任意の弾性材料から形成することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 ベルト式研削工具
10 工具本体
12 テンションバー
14 カバー
16 バッテリ装着部
18 前端部
20 後端部
22 アイドルプーリ
24 ハウジング
26 モータ
28 回転軸
30 ドライブプーリ
32 モータハウジング
34 グリップ用アダプタ
36 グリップ部材
38 ブラケット
40 バー支持部材
42 バー収容孔
44 プーリガード部
44a 側面
46 側方開口部
48 無端研削ベルト
50 スプリング
52 係止部材
54 取付開口部
56 操作部
58 係止部
59 スプリング
60 係止溝
62 カバー本体
62a 先端部分
64 弾性シール部材
66 突起部
68 シール部材ガード部
70 押圧部
72 取り付け穴
74 切欠き部
76 取り付けねじ
78 止めねじ
B バッテリ
L 長手軸線
P 枢動軸線
R 回転軸線