(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110591
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】仮設部材の接合構造
(51)【国際特許分類】
E04G 25/00 20060101AFI20240808BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20240808BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
E04G25/00 C
E04B1/58 503G
F16F15/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015254
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】松居 健人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 起司
(72)【発明者】
【氏名】犬伏 昭
(72)【発明者】
【氏名】杉本 浩一
(72)【発明者】
【氏名】鶴 勇治
(72)【発明者】
【氏名】石井 大吾
(72)【発明者】
【氏名】仁田脇 雅史
(72)【発明者】
【氏名】飯岡 哲也
【テーマコード(参考)】
2E125
2E150
3J048
【Fターム(参考)】
2E125AA03
2E125AA13
2E125AB01
2E125AC15
2E125AG03
2E125AG12
2E125BA55
2E125BB02
2E125BB22
2E125BD01
2E125BE06
2E125BF01
2E125CA06
2E125EA15
2E125EA27
2E125EB12
2E150JE02
2E150JE26
2E150MA02Z
3J048AC03
3J048BE12
3J048DA03
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】軸力を負担する仮設部材を撤去する際に発生する衝撃音を抑制できる仮設部材の接合構造を提供する。
【解決手段】鋼製の構造部材21と、構造部材21に仮設され軸力を負担する鋼製の仮設部材3と、構造部材21および仮設部材3それぞれに接触して重なり、構造部材21および仮設部材3とボルト接合されるスプライスプレート4と、を有し、スプライスプレート4における構造部材21と接触する面および仮設部材3と接触する面には、有機ジンクリッチペイントを用いて形成された被膜層6が設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製の構造部材と、
前記構造部材に仮設され軸力を負担する鋼製の仮設部材と、
前記構造部材および前記仮設部材それぞれに接触して重なり、前記構造部材および前記仮設部材とボルト接合されるスプライスプレートと、を有し、
前記スプライスプレートにおける前記構造部材と接触する面および前記仮設部材と接触する面には、有機ジンクリッチペイントを用いて形成された被膜層が設けられている仮設部材の接合構造。
【請求項2】
前記スプライスプレートは、前記構造部材および前記仮設部材とハイテンションボルトで接合される請求項1に記載の仮設部材の接合構造。
【請求項3】
前記仮設部材は、引張軸力を負担する請求項1または2に記載の仮設部材の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮設部材の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
既存構造物の周囲および上方を覆うように新たに構造物を鉄骨などの鋼材によって構築する場合、既存構造物の上方に構築される部分は、既存構造物の周囲から複数の梁を跳ね出して施工し、これらの梁どうしを既存構造物の上方において接合することがある。既存構造物の周囲から梁を跳ね出して施工する際には、梁の上に設けられる柱を施工し、柱と梁との間に引張軸力を負担する仮設部材を設けて梁が撓むことを防止している。仮設部材は、既存構造物の周囲から張り出された梁どうしが接合された後に柱および梁から撤去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
軸力を負担する仮設部材が柱や梁などの構造部材にスプライスプレートを介してボルト接合される場合、仮設部材を構造部材から撤去するためにボルトを緩めると、仮設部材が負担する軸力が急激に解放される。この際、スプライスプレートと構造部材との間、およびスプライスプレートと仮設部材との間に滑りが生じて衝撃音(金属音)が発生することが懸念される。
【0005】
ボルト接合された鋼材間の滑りによる金属音の発生を防止する構造として、例えば、特許文献1には、接合された鋼材間に滑り材を設けて鋼材どうしがスムーズに滑るようにして、鋼材間の衝撃的な滑りによる金属音の発生を防止する構造が開示されている。しかしながら、上記の軸力を負担する仮設部材を構造部材に接合する際に滑り材を設けると、仮設部材が軸力を十分に負担できない虞があるとともに、仮設部材を構造部材から撤去するためにボルトを緩めた際に、仮設部材が負担する軸力の解放により衝撃的な滑りが生じ衝撃音が発生する虞がある。
【0006】
そこで本発明は、軸力を負担する仮設部材を構造部材から撤去する際の衝撃音の発生を抑制できる仮設部材の接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る仮設部材の接合構造は、鋼製の構造部材と、前記構造部材に仮設され軸力を負担する鋼製の仮設部材と、前記構造部材および前記仮設部材それぞれに接触して重なり、前記構造部材および前記仮設部材とボルト接合されるスプライスプレートと、を有し、前記スプライスプレートにおける前記構造部材と接触する面および前記仮設部材と接触する面には、有機ジンクリッチペイントを用いて形成された被膜層が設けられている。
【0008】
本発明では、スプライスプレートにおける構造部材と接触する面および仮設部材と接触する面に有機ジンクリッチペイントを用いて形成された被膜層が設けられている。これにより、本発明では、軸力を負担する仮設部材を構造部材から撤去するためにボルトを緩めた時にスプライスプレートと構造部材とが滑る際に生じる衝撃音、およびスプライスプレートと仮設部材とが滑る際に生じる衝撃音の発生を抑制できる。
【0009】
本発明に係る仮設部材の接合構造は、前記スプライスプレートは、前記構造部材および前記仮設部材とハイテンションボルトで接合されていてもよい。
【0010】
本発明では、スプライスプレートが構造部材および仮設部材それぞれとハイテンションボルトで高強度に接合されている場合であっても、軸力を負担する仮設部材を構造部材から撤去するためにボルトを緩めた際の衝撃音の発生を抑制できる。
【0011】
本発明に係る仮設部材の接合構造は、前記仮設部材は、引張軸力を負担するようにしてもよい。
【0012】
本発明では、仮設部材が引張軸力を負担する場合であっても、軸力を負担する仮設部材を構造部材から撤去するためにボルトを緩めた際の衝撃音の発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、軸力を負担する仮設部材を撤去する際の衝撃音の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態による仮設部材の接合構造の側面図である。
【
図2】
図1と直交する方向から見た仮設部材の接合構造の側面図である。
【
図3】(a)は本実施形態による仮設部材の接合構造の試験体Aの側面図、(b)は(a)の鋼材を示す図、(c)は、(a)のスプライスプレートを示す図である。
【
図4】(a)スプライスプレートにブラスト処理を行った従来の仮設部材の接合構造の試験体Bの側面図、(b)は(a)の鋼材を示す図、(c)は、(a)はスプライスプレートを示す図である。
【
図5】本実施形態による仮設部材の接合構造の荷重と音圧レベルとの関係を示すグラフである。
【
図6】従来の形態による仮設部材の接合構造の荷重と音圧レベルとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態による仮設部材の接合構造について、
図1および
図2に基づいて説明する。
図1および
図2に示す本実施形態による仮設部材の接合構造1は、構造物2の構造部材21と、構造物2の構築や改修などが行われる際に仮設される仮設部材3との接合構造である。構造部材21および仮設部材3は、いずれも鋼製である。仮設部材3は、構造物2の構築や改修などが行われる際に、構造物2を安定した構造にするために仮設される。仮設部材3は、引張軸力を負担する。仮設部材3は、構造物の構築や改修などが完了したら構造部材21から撤去される。
【0016】
仮設部材の接合構造1は、構造部材21と、仮設部材3と、スプライスプレート4と、ハイテンションボルト5と、を有する。構造部材21および仮設部材3は、いずれもH形鋼である、構造部材21と仮設部材3とは、互いの長さ方向の端部同士を突き合わせるようにして接合される。スプライスプレート4およびハイテンションボルト5は、構造部材21および仮設部材3のウェブ22,32どうしを接合する。スプライスプレート4およびハイテンションボルト5は、構造部材21および仮設部材3のフランジ23,33どうしを接合する。スプライスプレート4は、構造部材21と仮設部材3とにわたるように設置され、構造部材21および仮設部材3それぞれにハイテンションボルト5によってボルト接合される。
【0017】
スプライスプレート4は、一方の面が構造部材21および仮設部材3それぞれと接触する。スプライスプレート4における構造部材21および仮設部材3それぞれと接触する面を摩擦面41と表記する。スプライスプレート4の摩擦面41には、有機ジンクリッチペイントを用いて形成された被膜層6が形成されている。被膜層6は、スプライスプレート4の摩擦面41に有機ジンクリッチペイントを塗布することによって形成されている。被膜層6は、例えば、スプライスプレート4の摩擦面41にスプレータイプの有機ジンクを吹き付けて形成されている。一般的には、有機ジンクリッチペイントは、防食処理として鋼材に塗布される。本実施形態では、鋼材どうしの滑りにより発生する衝撃音を吸収するために鋼材に有機ジンクリッチペイントが塗布される。
【0018】
有機ジンクリッチペイントによる被膜層6の厚さは、例えば、80μm以上とし、より好ましくは80μm以上120μm以下とする。本実施形態では、スプライスプレート4における構造部材21および仮設部材3それぞれと接触する側の面の全面に被膜層6が形成されている。なお、被膜層6は、少なくともスプライスプレート4における構造部材21および仮設部材3それぞれと接触する面に形成されていればよい。
【0019】
本実施形態による仮設部材の接合構造1は、スプライスプレート4の摩擦面41に有機ジンクリッチペイントを用いて形成された被膜層6が設けられている。これにより、本実施形態による仮設部材の接合構造1では、ハイテンションボルト5を緩めた時にスプライスプレート4と構造部材21とが滑る際に生じる衝撃音、およびスプライスプレート4と仮設部材3とが滑る際に生じる衝撃音の発生を抑制できる。
【0020】
被膜層6をスプライスプレート4の摩擦面41にスプレータイプの有機ジンクを吹き付けて形成する場合、現場において吹付作業を行うことができる。例えば、アルミ溶射によって被膜層を形成する場合は、工場において溶射を行う必要がある。このように、本実施形態による仮設部材の接合構造1では、現場において被膜層6を容易に形成できる。
【0021】
本実施形態による仮設部材の接合構造1は、スプライスプレート4は、構造部材21および仮設部材3とハイテンションボルト5によって接合されている。本実施形態による仮設部材の接合構造1では、スプライスプレート4が構造部材21および仮設部材3とハイテンションボルトで高強度に接合されている場合であっても、ハイテンションボルト5を緩めた際の衝撃音の発生を抑制できる。
【0022】
本実施形態による仮設部材の接合構造1は、仮設部材3は、引張軸力を負担している。本実施形態による仮設部材の接合構造1では、仮設部材3が引張軸力を負担する場合であっても、ハイテンションボルト5を緩めた際の衝撃音の発生を抑制できる。
【0023】
摩擦面41に有機ジンクリッチペイントを用いて形成した被膜層6を設けたスプライスプレート4と、スプライスプレート4が接合される鋼材71,72とのすべり耐力およびすべり音を計測するすべり試験を実施した。鋼材71,72は、上記の実施形態における構造部材21および仮設部材3に相当する。試験では、
図3に示すスプライスプレート4の摩擦面41に被膜層6を設けた試験体A、および
図4に示すスプライスプレート4の摩擦面41に被膜層6を設けずブラスト処理した試験体Bの両方に荷重をかけ、音圧を測定した。試験体Aの被膜層6は、スプライスプレート4の摩擦面41にスプレータイプの有機ジンクを塗装して形成した。試験体Aは、上記の実施形態の仮設部材の接合構造1に相当する。試験体Bは、従来の仮設部材の接合構造に相当する。
【0024】
試験体A、試験体Bともに、スプライスプレートには、SS400を使用した。試験体A、試験体Bともに、ハイテンションボルトには、M22を使用した。
【0025】
図5に、試験体Aの試験結果の荷重と音圧レベルの時刻歴記録を示す。
図6に、試験体Bの試験結果の荷重と音圧レベルの時刻歴記録を示す。一般的には、荷重がピークを迎えた時に滑り音(衝撃音)を伴い滑り現象が発生することがわかる。
図5からは、スプライスプレート4の摩擦面41に被膜層6を設けた試験体Aでは、荷重のピークを迎えても音圧レベルにほとんど変化がないことが確認できる。一方で、
図6からは、スプライスプレート4の摩擦面41に被膜層6を設けずブラスト処理した試験体Bは、荷重のピークを迎えたと同時に滑り音(衝撃音)が発生していることが確認できる。試験体Aの結果と試験体Bの結果の比較から、スプライスプレート4の摩擦面41に有機ジンクリッチペイントを用いて形成した被膜層6を設けることによって滑り音を効果的に制御できることを確認した。
【0026】
以上、本発明による仮設部材の接合構造の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、スプライスプレート4は、構造部材21および仮設部材3とハイテンションボルト5によってボルト接合されているが、ハイテンションボルト5に代わって普通ボルトによってボルト接合されていてもよい。
仮設部材3は、引張軸力を負担してなくてもよい。
上記の実施形態では、構造部材21および仮設部材3は、いずれもH形鋼であるが、H形鋼以外の鋼材であってもよい。
上記の実施形態では、構造部材21と仮設部材3とは、それぞれの長さ方向の端部どうしがスプライスプレート4を介して接合されているが、それぞれの長さ方向の端部以外が接合されていてもよい。構造部材21および仮設部材3のいずれか一方の長さ方向の端部と、他方の長さ方向の端部以外とが接合されていてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 接合構造
2 構造物
3 仮設部材
4 スプライスプレート
5 ハイテンションボルト
6 被膜層
21 構造部材