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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110595
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】発酵乳
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/12 20060101AFI20240808BHJP
【FI】
A23C9/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015259
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】石井 ケイ慧
(72)【発明者】
【氏名】杉野 将尉
【テーマコード(参考)】
4B001
【Fターム(参考)】
4B001AC06
4B001AC31
4B001BC08
4B001BC12
4B001BC14
4B001DC01
4B001EC04
4B001EC05
4B001EC99
(57)【要約】
【課題】低脂肪で高タンパクでありながら、良好な粘弾性を有する新規な発酵乳を提供する。
【解決手段】脂肪含有量が0.5質量%未満であり、乳タンパク質含有量が5.6質量%以上であり、粒子群が存在し、前記粒子群の体積基準の粒度分布における90%径が15.0μm以下であり、かつ比表面積が8,000cm/cm以上である、発酵乳。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪含有量が0.5質量%未満であり、乳タンパク質含有量が5.6質量%以上であり、粒子群が存在し、前記粒子群の体積基準の粒度分布における90%径が15.0μm以下であり、かつ比表面積が8,000cm/cm以上である、発酵乳。
【請求項2】
無脂乳固形分が15.0質量%以上である、請求項1に記載の発酵乳。
【請求項3】
前記発酵乳がスプーンで食べる食品である、請求項1又は2に記載の発酵乳。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発酵乳に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨーグルト等の発酵乳の中でも、タンパク質の含有量が高い高タンパク発酵乳の市場が拡大しつつある。
高タンパク発酵乳の製法は、調乳液を発酵させた後にホエイを除去する濃縮法や、予め乳タンパク質を添加してタンパク質の含有量を高めた調乳液を発酵させる添加法が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-169477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者等の知見によれば、高タンパク発酵乳の中でも脂肪の含有量が低いものは、トロリとした粘弾性に欠ける傾向がある。
本発明は、低脂肪で高タンパクでありながら、良好な粘弾性を有する新規な発酵乳を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の態様を有する。
[1]脂肪含有量が0.5質量%未満であり、乳タンパク質含有量が5.6質量%以上であり、粒子群が存在し、前記粒子群の体積基準の粒度分布における90%径が15.0μm以下であり、かつ比表面積が8,000cm/cm以上である、発酵乳。
[2] 無脂乳固形分が15.0質量%以上である、[1]の発酵乳。
[3] 前記発酵乳がスプーンで食べる食品である、[1]又は[2]の発酵乳。
【0006】
好ましい態様として以下の態様が挙げられる。
[4] 10℃の発酵乳について、せん断速度を0.1(単位:s-1)から300(s-1)まで変化させてせん断応力を測定したときの、せん断速度10(s-1)におけるせん断応力が200Pa以下であり、せん断速度100(s-1)におけるせん断応力が200Pa以下であり、せん断速度300(s-1)におけるせん断応力が400Pa以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の発酵乳。
[5] 濃縮発酵乳である、[1]~[4]のいずれかに記載の発酵乳。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低脂肪で高タンパクでありながら、良好な粘弾性を有する新規な発酵乳が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明では以下の測定方法を用いる。
<測定方法>
本明細書では以下の測定方法を用いる。
無脂乳固形分は乳由来の固形分から乳脂肪の含有量を差し引いた値である。
【0009】
[脂肪]
脂肪はレーゼゴットリーブ法を用いて測定する。具体的には、マジョニア管に試料3gを採取し、水7ml、フェノールフタレイン1滴、アンモニア水2mlを加えて軽く振とうする。その後、エタノール10ml、エチルエーテル25ml、石油エーテル25mlを加え、各液を添加する毎に栓をして2、3回振とうする。マジョニア管を遠心分離した後に溶媒層をディッシュに移し、溶媒を揮発させる。この残留物が脂肪であるので、当該残留物を秤量する。
【0010】
[タンパク質]
タンパク量は、デュマ法(酸素循環燃焼方式)によって測定する。分析機器SUMIGRAPH NC-220F(住化分析センター社製)を用いることができる。測定条件は下記のとおりである。
電気炉温度:反応炉870℃、還元炉:600℃
酸素パージ:0.2±0.02L/min
カラム温度:70±5℃
検出器:検出器温度:100℃、CURRENT:160mA
キャリアーガス:カラム温度70±5℃の時にヘリウム流量80±5mL/min
構成基準物質:Aspartic acid
測定試料量:500±100mg
基準物質量:500±100mg
【0011】
[固形分]
固形分(%)=100-水分(%)にて求める。
【0012】
[水分]
水分は混砂乾燥法を用いて定量する。具体的には、試料を一定条件で恒量となるまで乾燥し、乾燥物質量を求め算出した乾燥減量を水分量とする。
具体的には、以下の手順である。
(1)アルミニウム製秤量管に精製硅砂25gとガラス棒を入れ、乾燥機で恒量になるまで乾燥し、デシケーターに移し30分間室温で放冷し秤量する。
(2)秤量管を傾け、硅砂を一方に寄せ、試料を精秤し、机上に秤量管を写し、温湯5mlを加えガラス棒で試料を硅砂とよく撹拌均一に分散させる。
(3)沸騰した水浴上で撹拌しながら、ほとんどの水分を蒸発させる、サラサラになった所で99±1℃の乾燥機に3時間入れ、デシケーターで30分間放冷し秤量する。
乾燥、冷却、秤量を恒量になるまで繰り返し行い、以下の計算式により水分を算出する。
(水分量計算式)水分(%)=乾燥減量(g)/試料採取量(g)×100
【0013】
乳原料の発酵では、カゼインミセルが集合し、その塊が集合してカードを形成してゲル化する。ゲル化(カード形成)した発酵物には、カード粒子を含む粒子群が存在する。
[90%径]
レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置で発酵乳の粒度分布(粒子径分布ともいう。)を測定し、体積基準の粒度分布より90%径を求める。
【0014】
[比表面積]
比表面積(単位:cm/cm)は、単位体積(1cm)あたりの粒子の表面積の総計(cm)である。
本明細書における比表面積は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置が検知した粒度分布データに基づいて求めた値である。なお、前記粒度分布データに基づいて求めた比表面積の値は、他の測定原理で測定された比表面積とは必ずしも一致しない。
【0015】
本発明の発酵乳の実施形態を説明する。
<発酵乳>
発酵乳の定義は、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令に「乳又はこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させ、糊状または液状にしたもの又はこれらを凍結したもの」と規定されており、成分規格において無脂乳固形分は8.0%以上と規定されている。
【0016】
本実施形態の発酵乳は、上記の規定を満たす発酵乳であって、脂肪含有量が0.5質量%未満、乳タンパク質含有量が5.6質量%以上のものである。
乳タンパク質含有量が5.6質量%以上であると濃厚感に優れる。
脂肪含有量が0.5質量%未満であると、無脂肪又は脂肪ゼロと製品表示できる。以下において、脂肪含有量が0.5質量%未満であることを「無脂肪」ということもある。
【0017】
本実施形態の発酵乳は粒子群が存在し、前記粒子群の体積基準の粒度分布における90%径が15.0μm以下であり、比表面積が8,000cm/cm以上である。
90%径及び比表面積の測定方法は、後述の実施例に記載の方法であり、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所社製品名「粒子径分布測定装置LA-950V2」)を使用して求められたものとすることができる。
【0018】
本実施形態の発酵乳は、低脂肪で高タンパクでありながら、上記90%径及び上記比表面積を満たすことにより、良好な粘弾性を有する性状が得られる。
具体的には、10℃の発酵乳について、せん断速度を0.1(単位:s-1)から300(s-1)まで変化させてせん断応力を測定したときの、せん断速度10(s-1)におけるせん断応力(以下、「せん断応力(10)」という)が150Pa以下であり、せん断速度100(s-1)におけるせん断応力(以下、「せん断応力(100)」という)が200Pa以下であり、せん断速度300(s-1)におけるせん断応力(以下、「せん断応力(300)」という)が400Pa以下である性状が得られる。
せん断応力の測定方法は、後述の実施例に記載の方法であり、せん断応力は粘弾性測定装置(Anton Paar社製品名「MCR-301」)を使用して求められたものとすることができる。
【0019】
一般的に、せん断速度の目安として、例えば、重力による液ダレは10-1~10(s-1)、ディップは10~100(s-1)、混合又は撹拌は10~1,000(s-1)等が知られている(太陽化学株式会社、食と健康Lab、学術コラム、「ゼロからのレオロジー」、増渕 雄一、[2022年11月29日検索]、インターネット<https://www.taiyokagaku.com/lab/column/27/>。J.F.Steffe,Rheological Methods in Food Process Engineering,2nd Ed.,Freeman Press 1997、[2022年11月29日検索]、インターネット<http://www.phariyadi.staff.ipb.ac.id/files/2013/02/STEFFE-Rheology-Book.pdf>。)。
例えば、あまり伸びずに破断する性状のような、粘弾性に欠ける発酵乳は、せん断応力が高くなる傾向があり、特にせん断応力(10)及びせん断応力(100)が高い。また、せん断応力(10)に対するせん断応力(100)の比を表す(100)/(10)及びせん断応力(100)に対するせん断応力(300)の比を表す(300)/(100)が小さい傾向が見られる。
一方、トロリと変形しやすい性状のような、良好な粘弾性を有する発酵乳は、せん断応力(10)、せん断応力(100)及びせん断応力(300)が低い。また(100)/(10)及び(300)/(100)が大きい傾向が見られる。
【0020】
本実施形態の発酵乳において、せん断応力(10)は200Pa以下が好ましく、180Pa以下がより好ましく、150Pa以下がさらに好ましい。せん断応力(10)の下限値は特に限定されないが、液ダレし難い点からは15Pa以上が好ましく、20Pa以上がさらに好ましい。
せん断応力(100)は200Pa以下が好ましく、180Pa以下がより好ましく、160Pa以下がさらに好ましい。せん断応力(100)の下限値は特に限定されないが、喫食時の好ましい物性の点からは50Pa以上が好ましく、75Pa以上がより好ましい。
せん断応力(300)は400Pa以下が好ましく、300Pa以下がより好ましく、250Pa以下がさらに好ましい。せん断応力(300)の下限値は特に限定されないが、喫食時の好ましい物性の点からは150Pa以上が好ましく、180Pa以上がより好ましく、200Pa以上がさらに好ましい。
(100)/(10)は1.0以上が好ましく、2.0以上がより好ましく、3.0以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、例えば4.5以下が好ましく、4.0以下がより好ましく、3.5以下がさらに好ましい。
(300)/(100)は1.5以上が好ましく、1.8以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、例えば3.5以下が好ましく、3.2以下がより好ましく、3.0以下がさらに好ましい。
【0021】
本実施形態の発酵乳の乳タンパク質含有量は、5.6質量%以上であるが、6質量%以上であってもよく、7質量%以上であってもよい。乳タンパク質含有量の上限値は特に限定されないが、風味や物性の点からは13.0質量%以下が好ましく、12.0質量%以下がより好ましい。
【0022】
本実施形態の発酵乳において、前記90%径は15.0μm以下であるが、14.0μm以下であってもよく、13.0μm以下であってもよい。前記90%径の下限値は特に限定されないが、例えば8.0μm以上であり、10.0μm以上であってもよく、12.0μm以上であってもよい。
前記比表面積は8,000cm/cm以上であるが、9,000cm/cm以上であってもよく、10,000cm/cm以上であってもよい。前記比表面積の上限値は特に限定されないが、例えば13,000cm/cm以下であり、12,000cm/cm以下であってもよく、11,000cm/cm以下であってもよい。
【0023】
本実施形態の発酵乳は、無脂乳固形分が8質量%以上であり、濃厚感に優れる点からは15.0質量%以上が好ましく、16.5質量%以上がより好ましい。無脂乳固形分の上限は特に限定されないが、食感のなめらかさに優れる点からは25.0質量%以下が好ましく、20.0質量%以下がより好ましい。
脂肪含有量に対する無脂乳固形分の質量比を表す無脂乳固形分/脂肪含有量は、150/1~30/1が好ましく、75/1~30/1がより好ましい。
【0024】
本実施形態の発酵乳は、乳原料、発酵菌(発酵に使用した乳酸菌、酵母等)及び水を含む。これら以外のその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、発酵乳の製造において公知の成分を使用できる。例えば、ショ糖、オリゴ糖等の糖類、安定剤、香料、糖類以外の甘味料等が挙げられる。
【0025】
本実施形態の発酵乳を製造する方法は特に限定されない。公知の製造方法を用いることができる。
例えば、乳由来の原料を含む調乳液を発酵させ、得られた発酵物を濃縮して高タンパク発酵乳を得る濃縮法で製造できる。
又は、例えば、乳タンパク濃縮物等を添加してタンパク質の含有量を高めた調乳液を発酵させ、濃縮工程を経ないで目的の高タンパク発酵乳を得る添加法で製造することもできる。
発酵乳の粒度分布を制御しやすい点では濃縮法が好ましい。
濃縮法で得られた高タンパク発酵乳は、乳タンパク濃縮物等のタンパク調製原料由来の好ましくない風味がなく、添加法で得られた高タンパク発酵乳に比べて、トロリとした良好な粘弾性を有する。
【0026】
調乳液は乳原料及び水を含む。前記その他の成分を含んでもよい。後述の膜濃縮法を用いる場合は、膜濃縮後に、別途殺菌したその他の成分を添加することが好ましい。
調乳液の調製に用いられる乳原料は、乳由来の原料であり、発酵乳の製造において公知の乳原料を用いることができる。例えば、生乳、クリーム、脱脂濃縮乳、脱脂粉乳、乳タンパク質濃縮物等が挙げられる。乳原料は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
調乳液の調製工程では、原材料を混合し、好ましくは均質化処理を行い、加熱殺菌処理する。均質化処理および加熱殺菌処理は常法により行うことができる。
【0027】
調乳液の発酵工程では、調乳液に発酵菌を添加(接種)し、発酵菌に応じた発酵温度に保持して発酵させた後、冷却して発酵物を得る。発酵の進行に伴って調乳液のpHが低下するため、所望の終点pHに達したら冷却して発酵を終了する。
発酵菌は、発酵乳の製造において公知の、乳酸菌、ビフィズス菌、または酵母を使用できる。発酵菌は2種以上組み合せて使用することができる。
発酵菌として乳酸菌スターターを用いることが好ましい。例えば、ラクトバチルス・ブルガリクス(L.bulgaricus)、ラクトコッカス・ラクチス(L.lactis)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(S.thermophilus)等のヨーグルト製造に通常用いられている乳酸菌スターターの1種または2種以上を用いることが好ましい。乳酸菌スターターを用いる場合、ビフィズス菌スターター、例えば、ビフィドバクテリウム・ロンガム(B.longum)等を併用してもよい。これらのスターターは市販品から入手可能である。
【0028】
発酵物を濃縮する方法としては、例えば遠心分離法、膜分離法等の公知の方法を用いることができる。膜分離法としては、例えば限外ろ過膜(UF膜)を用いる方法、精密ろ過膜(MF膜)を用いる方法等が挙げられる。
前記90%径は、例えば濃縮条件によって調整できる。具体的に、濃縮される発酵物の温度(濃縮温度)を低くすると90%径が小さくなる傾向がある。また、濃縮後の質量に対する濃縮前の質量(濃縮前/濃縮後)で表される濃縮倍率を高くすると90%径が小さくなる傾向がある。
前記比表面積は、例えば製造時の温度条件によって調整できる。具体的に、濃縮温度や濃縮工程前の加熱処理温度を下げると比表面積が大きくなる傾向がある。
【0029】
発酵の終了後、濃縮前に発酵物を加熱処理してもよい。濃縮前に加熱処理すると、濃縮後の発酵乳において、90%径が増大し、比表面積が低下する傾向がある。またせん断応力(10)、せん断応力(100)及びせん断応力(300)は低下する傾向がある。
発酵物の加熱処理温度は53~65℃が好ましく、56~60℃がより好ましい。
加熱処理温度に保持する加熱処理時間は、60~180秒が好ましい。
【0030】
発酵乳の形態は、スプーンで食べる食品が好ましい。スプーンで食べる食品である発酵乳の製品形態は、開口部を有する容器に発酵乳が収容された容器入り発酵乳が好ましい。
スプーンで食べる食品である発酵乳の性状は、流動性を有さない固形でもよく、流動性を有する半固形でもよい。
本実施形態の発酵乳は、スプーン等ですくったときにトロリとした粘弾性が感じられる。
【0031】
本実施形態の発酵乳を有する発酵乳製品は、発酵乳とソースを有してもよい。ソースは流動性を有する液状でもよく、流動性を有しないゲル状でもよい。ソースは発酵乳製品において公知のソースを用いることができる。
発酵乳とソースを有する発酵乳製品の好ましい態様として下記(1)~(3)が挙げられる。
(1)発酵乳とソースとを有し、発酵乳及びソースが、それぞれ別個の容器に収容されている発酵乳製品。例えば、容器入り発酵乳と、容器入りソースとが一体的に包装されている「ソース付き発酵乳製品」が好ましい。
(2)発酵乳とソースとを有し、これらが同じ容器に収容されている発酵乳製品。例えば、発酵乳層と1層以上のソース層が積層されていることが好ましい。ソース層は、発酵乳層より上層でもよく下層でもよく、両方でもよい。
(3)同じ容器に発酵乳と内部ソースの1種以上が収容されており、これとは別の容器に外部ソースが収容されている発酵乳製品。例えば、発酵乳層と、1層以上の内部ソース層が積層されていることが好ましい。内部ソース層は、発酵乳層より上層でもよく下層でもよく、両方でもよい。例えば、内部ソース層を有する容器入り発酵乳と、外部ソースを収容した容器入りソースとが一体的に包装されている「ソース付き内部ソース含有発酵乳製品」が好ましい。
【実施例0032】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<せん断応力の測定方法>
粘弾性測定装置(Anton Paar社製品名「MCR-301」)を使用し、測定温度10℃の条件で、せん断速度を0.1(s-1)から300(s-1)まで上昇させながらせん断応力(単位:Pa)を測定した。得られた流動曲線から、せん断速度が10(s-1)であるときのせん断応力(10)、せん断速度100(s-1)であるときのせん断応力(100)、及びせん断速度が300(s-1)であるときのせん断応力(300)を得た。
【0033】
<発酵乳の粒度分布の測定方法>
発酵乳を10℃で保存したものをサンプルとし、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA社製品名:Partica LA-950V2)を用い、下記の測定条件で粒度分布を測定した。
詳細には、まず、装置に付属のフローセルを接続し、循環している分散媒にサンプルを滴下し、循環、撹拌を行って試料を調製した。試料透過率が所定の値に達した段階で、装置を稼働させてレーザー回折/散乱データをキャッチした。キャッチしたデータに基づいて粒度分布を得て、得られた粒度分布における体積基準の90%径を、発酵乳の90%径とした。また、得られた粒度分布に基づく比表面積を求めた。
(測定条件:湿式)
分散媒:水
サンプル屈折率:1.600-0.000
分散方法:超音波照射なし、界面活性剤及び分散剤は使用しない。
循環速度:目盛り「5」(流量2.3L/min、モーター回転数1160rpm)
撹拌速度:目盛り「2」
試料透過率:85.0±5.0%
【0034】
[例1]
(発酵物の製造)
脱脂濃縮乳、脱脂粉乳および水を混合し、均質化して調乳液を調製した。これを加熱殺菌処理し、発酵温度まで冷却した後、市販の乳酸菌スターターを添加して発酵させた。所定のpHに達したら、10℃に冷却して発酵を終了させた後、撹拌してカードを粉砕して発酵物を得た。
(濃縮工程)
上記で得た発酵物に対して、限外ろ過膜を用いて濃縮して発酵乳を得た。得られた発酵乳を容器に充填し、10℃まで冷却して容器入り発酵乳を得た。
調整乳の組成、濃縮条件(濃縮温度、濃縮倍率)を調整して、表1に示した、濃縮後の発酵乳の組成、90%径及び比表面積を得た。得られた発酵乳のせん断応力は表1に示す通りとなった(以下、同様)。
【0035】
[例2]
例1において、濃縮工程の前に加熱処理工程(58℃、1分間)を設けたほかは、例1と同様にして容器入り発酵乳を製造した。
【0036】
[例3、4]
例3、4は、無脂肪の製品表示を有する高タンパクの容器入り発酵乳である市販品A、Bを測定対象とした測定結果である。
【0037】
[例5]
例5は、無脂肪の製品表示を有する高タンパクの容器入り発酵乳であって、無脂肪発酵乳を水切り濃縮することで製造された市販品Cを測定対象とした測定結果である。
【0038】
[例6]
例6は、脂肪を4%含む高タンパクの容器入り発酵乳である市販品Dを測定対象とした測定結果である。
【0039】
【表1】
【0040】
例3~6はいずれも高タンパク発酵乳であるが、無脂肪である例3~5は、脂肪を含む例6と比べて、明らかにトロリとした粘弾性に劣る性状であった。
表1に示されるせん断応力の測定値において、例3~5は例6と比べて、せん断応力(10)及び(100)が高く、(100)/(10)及び(300)/(100)が小さかった。
これに対して、90%径を15.0μm以下、かつ比表面積を8,000cm/cm以上とした例1、2では、例3~5と比べて、せん断応力(10)、(100)及び(300)がいずれも低く、また(100)/(10)及び(300)/(100)がいずれも大きく、低脂肪で高タンパクでありながら、良好な粘弾性を有する新規な発酵乳が得られた。
また、例1、2の発酵乳は、例6と比べても、せん断応力(10)、(100)及び(300)がいずれも低く、(100)/(10)及び(300)/(100)がいずれも大きかった。