(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110597
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】濃縮発酵乳の製造方法、光沢度向上方法、及び酸味抑制方法
(51)【国際特許分類】
A23C 9/12 20060101AFI20240808BHJP
【FI】
A23C9/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015264
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】石井 ケイ慧
(72)【発明者】
【氏名】杉野 将尉
【テーマコード(参考)】
4B001
【Fターム(参考)】
4B001BC14
4B001BC99
4B001EC01
(57)【要約】
【課題】脂肪含有量が少ないにもかかわらず、光沢に優れ、酸味が抑えられた濃縮発酵乳の提供。
【解決手段】無脂乳固形分の含有量が15.0質量%以上であり、脂肪含有量が0.5質量%未満の濃縮発酵乳を製造する方法であって、乳原料を含む調乳液を発酵させた発酵物を、分離膜を用いて濃縮する膜濃縮工程を有し、前記膜濃縮工程の前に前記発酵物を加熱処理する、濃縮発酵乳の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無脂乳固形分の含有量が15.0質量%以上であり、脂肪含有量が0.5質量%未満の濃縮発酵乳を製造する方法であって、
乳原料を含む調乳液を発酵させた発酵物を、分離膜を用いて濃縮する膜濃縮工程を有し、
前記膜濃縮工程の前に前記発酵物を加熱処理する、濃縮発酵乳の製造方法。
【請求項2】
前記膜濃縮工程における濃縮倍率が3.0~3.5倍である、請求項1に記載の濃縮発酵乳の製造方法。
【請求項3】
前記膜濃縮工程における前記発酵物の温度が40~50℃である、請求項1に記載の濃縮発酵乳の製造方法。
【請求項4】
前記加熱処理における加熱温度が53~65℃であり、加熱時間が60~180秒である、請求項1に記載の濃縮発酵乳の製造方法。
【請求項5】
無脂乳固形分の含有量が15.0質量%以上であり、脂肪含有量が0.5質量%未満の濃縮発酵乳の光沢度を向上させる方法であって、
乳原料を含む調乳液を発酵させた発酵物を、分離膜を用いて濃縮する膜濃縮工程を有し、
前記膜濃縮工程の前に前記発酵物を加熱処理する、濃縮発酵乳の光沢度向上方法。
【請求項6】
無脂乳固形分の含有量が15.0質量%以上であり、脂肪含有量が0.5質量%未満の濃縮発酵乳の酸味を抑制する方法であって、
乳原料を含む調乳液を発酵させた発酵物を、分離膜を用いて濃縮する膜濃縮工程を有し、
前記膜濃縮工程の前に前記発酵物を加熱処理する、濃縮発酵乳の酸味抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は濃縮発酵乳の製造方法、濃縮発酵乳の光沢度向上方法、及び濃縮発酵乳の酸味抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な発酵乳よりも無脂固形分の含有量を高めた濃縮発酵乳は、濃厚な食感を有し、栄養価も高いことから注目されている。
濃縮発酵乳の製造方法として、遠心分離法や膜分離法を用いて発酵乳の固形分濃度を高める方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、健康志向の高まりから、無脂肪の濃縮発酵乳が開発され、市販されているが、脂肪を含む濃縮発酵乳に比べて光沢に欠けている。
また、本発明者等の知見によれば、無脂肪の濃縮発酵乳は、脂肪を含む濃縮発酵乳と比べて酸味を強く感じやすいという課題がある。
本発明は、脂肪含有量が少ないにもかかわらず、光沢に優れ、酸味が抑えられた濃縮発酵乳を提供できる、濃縮発酵乳の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の態様を有する。
[1]無脂乳固形分の含有量が15.0質量%以上であり、脂肪含有量が0.5質量%未満の濃縮発酵乳を製造する方法であって、乳原料を含む調乳液を発酵させた発酵物を、分離膜を用いて濃縮する膜濃縮工程を有し、前記膜濃縮工程の前に前記発酵物を加熱処理する、濃縮発酵乳の製造方法。
[2] 前記膜濃縮工程における濃縮倍率が3.0~3.5倍である、[1]の濃縮発酵乳の製造方法。
[3] 前記膜濃縮工程における前記発酵物の温度が40~50℃である、[1]の濃縮発酵乳の製造方法。
[4] 前記加熱処理における加熱温度が53~65℃であり、加熱時間が60~180秒である、[1]の濃縮発酵乳の製造方法。
[5] 無脂乳固形分の含有量が15.0質量%以上であり、脂肪含有量が0.5質量%未満の濃縮発酵乳の光沢度を向上させる方法であって、乳原料を含む調乳液を発酵させた発酵物を、分離膜を用いて濃縮する膜濃縮工程を有し、前記膜濃縮工程の前に前記発酵物を加熱処理する、濃縮発酵乳の光沢度向上方法。
[6] 無脂乳固形分の含有量が15.0質量%以上であり、脂肪含有量が0.5質量%未満の濃縮発酵乳の酸味を抑制する方法であって、乳原料を含む調乳液を発酵させた発酵物を、分離膜を用いて濃縮する膜濃縮工程を有し、前記膜濃縮工程の前に前記発酵物を加熱処理する、濃縮発酵乳の酸味抑制方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の濃縮発酵乳の製造方法によれば、脂肪含有量が少ないにもかかわらず、光沢に優れ、酸味が抑えられた濃縮発酵乳が得られる。
本発明の濃縮発酵乳の光沢度向上方法によれば、脂肪含有量が少ない濃縮発酵乳の光沢度を向上させることができる。
本発明の濃縮発酵乳の酸味抑制方法によれば、脂肪含有量が少ない濃縮発酵乳の酸味を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<測定方法>
本明細書では以下の測定方法を用いる。
無脂乳固形分は乳由来の固形分から乳脂肪の含有量を差し引いた値である。
【0008】
[脂肪]
脂肪はレーゼゴットリーブ法を用いて測定する。具体的には、マジョニア管に試料3gを採取し、水7ml、フェノールフタレイン1滴、アンモニア水2mlを加えて軽く振とうする。その後、エタノール10ml、エチルエーテル25ml、石油エーテル25mlを加え、各液を添加する毎に栓をして2、3回振とうする。マジョニア管を遠心分離した後に溶媒層をディッシュに移し、溶媒を揮発させる。この残留物が脂肪であるので、当該残留物を秤量する。
【0009】
[タンパク質]
タンパク量は、デュマ法(酸素循環燃焼方式)によって測定する。分析機器SUMIGRAPH NC-220F(住化分析センター社製)を用いることができる。測定条件は下記のとおりである。
電気炉温度:反応炉870℃、還元炉:600℃
酸素パージ:0.2±0.02L/min
カラム温度:70±5℃
検出器:検出器温度:100℃、CURRENT:160mA
キャリアーガス:カラム温度70±5℃の時にヘリウム流量80±5mL/min
構成基準物質:Aspartic acid
測定試料量:500±100mg
基準物質量:500±100mg
【0010】
[固形分]
固形分(%)=100-水分(%)にて求める。
【0011】
[水分]
水分は混砂乾燥法を用いて定量する。具体的には、試料を一定条件で恒量となるまで乾燥し、乾燥物質量を求め算出した乾燥減量を水分量とする。
具体的には、以下の手順である。
(1)アルミニウム製秤量管に精製硅砂25gとガラス棒を入れ、乾燥機で恒量になるまで乾燥し、デシケーターに移し30分間室温で放冷し秤量する。
(2)秤量管を傾け、硅砂を一方に寄せ、試料を精秤し、机上に秤量管を写し、温湯5mlを加えガラス棒で試料を硅砂とよく撹拌均一に分散させる。
(3)沸騰した水浴上で撹拌しながら、ほとんどの水分を蒸発させる、サラサラになった所で99±1℃の乾燥機に3時間入れ、デシケーターで30分間放冷し秤量する。
乾燥、冷却、秤量を恒量になるまで繰り返し行い、以下の計算式により水分を算出する。
(水分量計算式)水分(%)=乾燥減量(g)/試料採取量(g)×100
【0012】
<濃縮発酵乳>
発酵乳の定義は、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令に「乳又はこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させ、糊状または液状にしたもの又はこれらを凍結したもの」と規定されており、成分規格において無脂乳固形分は8.0%以上と規定されている。
本実施形態の濃縮発酵乳は、上記の規定を満たす発酵乳であって、濃縮発酵乳の総質量に対する無脂乳固形分が15.0質量%以上となるように濃縮された濃縮発酵乳である。無脂乳固形分が高いほど、濃厚感に優れる。
濃縮発酵乳の無脂乳固形分は、濃厚感に優れる点からは16.0質量%以上が好ましく、16.5質量%以上がより好ましい。無脂乳固形分の上限は特に限定されないが、物性や風味の点からは25.0質量%以下が好ましく、20.0質量%以下がより好ましい。
【0013】
濃縮発酵乳の総質量に対する脂肪含有量は0.5質量%未満であり、無脂肪又は脂肪ゼロ、等と製品表示できる。以下において、脂肪含有量が0.5質量%未満であることを「略無脂肪」ということもある。
脂肪含有量に対する無脂乳固形分の質量比を表す無脂乳固形分/脂肪含有量は、150/1~30/1が好ましく、75/1~30/1がより好ましい。
【0014】
濃縮発酵乳の総質量に対するタンパク質含有量は特に限定されないが、例えば9~12質量%が好ましく、10~12質量%がより好ましく、11~12質量%がさらに好ましい。タンパク質含有量が上記範囲の下限値以上であると濃厚さを感じられる組織や風味が得やすく、上限値以下であると荒れた表面や固まったような組織になりにくい。
【0015】
濃縮発酵乳の総質量に対して、水分以外の全固形分は15~25質量%が好ましく、16.5~20.5%がより好ましく、17~20質量%がさらに好ましい。
全固形分が上記範囲の下限値以上であると、製品の外観における光沢の差を感じやすく、本発明を適用することによる効果が大きい。上記範囲の上限値以下であると固形分量増加に起因する組織の荒れなどの影響を受けにくい。
【0016】
<濃縮発酵乳の製造方法>
本実施形態の濃縮発酵乳の製造方法は、乳原料を含む調乳液を発酵させた発酵物を、分離膜を用いて濃縮する膜濃縮工程を有し、膜濃縮工程の前に発酵物を加熱処理する加熱処理工程を有する。
【0017】
<調乳液の調製工程>
調乳液は、これに発酵菌を作用させて発酵させ、発酵物とするものであり、乳原料および必要に応じて水を含む。
調乳液の組成は、発酵後に所定の濃縮倍率で濃縮したときに所望の組成となるように設計することができる。
調乳液は、全成分を溶解し、必要に応じて均質化した後、好ましくは加熱殺菌処理して調製する。
【0018】
調乳液の加熱殺菌処理において、加熱温度は85~95℃が好ましく、前記加熱温度に保持する加熱時間は5~15分が好ましい。加熱殺菌処理の終了後は、次の発酵工程における所定の発酵温度に温度調整することが好ましい。
【0019】
乳原料は、発酵乳の製造において公知の乳由来原料を用いることができる。
乳原料の例として、牛乳、水牛乳、やぎ乳、羊乳、馬乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、脱脂粉乳、クリーム、バター、乳清蛋白質濃縮物(WPC)、乳清蛋白質分離物(WPI)、乳蛋白質濃縮物(MPC)、ミセラカゼインアイソレート(MCI)、ミルクプロテインアイソレート(MPI)等が挙げられる。乳原料は1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
特に本実施形態の濃縮発酵乳は略無脂肪であるため、組成調整の点で、乳原料が、脱脂乳、脱脂濃縮乳及び脱脂粉乳から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
【0020】
<発酵工程>
発酵工程では、調乳液の調製工程で得られた調乳液に、発酵菌を添加(接種)し、発酵菌に応じた発酵温度に保持して発酵させた後、冷却して発酵物を得る。発酵の進行に伴って調乳液のpHが低下するため、所望の終点pHに達したら冷却して発酵を終了する。終点pHは例えば4.0~5.0が好ましく、4.2~4.8がより好ましい。
発酵菌は、発酵乳の製造において公知の、乳酸菌または酵母を使用できる。発酵菌は2種以上組み合せて使用することができる。
発酵菌として乳酸菌スターターを用いることが好ましい。例えば、ラクトバチルス・ブルガリクス(L.bulgaricus)、ラクトコッカス・ラクチス(L.lactis)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(S.thermophilus)等のヨーグルト製造に通常用いられている乳酸菌スターターの1種または2種以上を用いることが好ましく、ラクトバチルス・ブルガリクスとストレプトコッカス・サーモフィラスの2種からなる乳酸菌スターターが特に好ましい。これらの乳酸菌スターターは市販品から入手可能である。また、発酵後の発酵物の凝集性が高くなる乳酸菌スターターが好ましい。このような乳酸菌スターターとして、市販品としては、例えば、FD-DVS Mild1.0(Christian Hansen社製)の使用が好ましい。
【0021】
具体的には、調乳液に発酵菌を添加し(発酵工程の開始)、所定の発酵温度に保持して発酵させる。発酵によりカードが形成される。
調乳液のpHが目標の値に達したら、10℃以下に冷却して発酵物を得る。冷却することにより、発酵菌の活性が低下し発酵が抑えられる。10℃以下に冷却された時点を発酵工程の終了時とする。得られた発酵物は、撹拌してカードを粉砕した状態で次の工程に供する。
【0022】
<加熱処理工程>
次いで、発酵工程で得られた発酵物を濃縮工程に供する前に、所定の加熱温度で加熱処理する。前記所定の加熱温度は53~65℃が好ましく、56~60℃がより好ましい。加熱温度が上記範囲の下限値以上であると濃縮発酵乳の酸味を抑える効果が得られやすい。上限値以下であると濃縮発酵乳のなめらかさが損なわれ難い。
前記所定の加熱処理に保持する加熱時間は60~180秒が好ましい。加熱時間が上記範囲の下限値以上であると濃縮発酵乳の酸味を抑える効果が得られやすい。上限値以下であると濃縮発酵乳のなめらかさが損なわれ難い。
加熱処理条件において、特に本実施形態の濃縮発酵乳は略無脂肪であるため、処理温度を上記範囲内で低めに、処理時間を上記範囲内で短めとすることが好ましい。例えば、加熱温度が58~60℃かつ加熱時間が60~120秒、加熱温度が56~58℃かつ加熱時間が90~150秒、又は加熱温度が53~56℃かつ加熱時間が120~180秒とすることができる。
【0023】
加熱処理装置としては、例えば、プレート式加熱殺菌機、チューブラー式加熱殺菌機、直接加熱式殺菌機、ジャケット付きタンク等の加熱殺菌装置を用いることができる。
特に本実施形態の濃縮発酵乳は略無脂肪であるため、熱履歴調整のしやすさやの点でプレート式加熱殺菌機を用いることが好ましい。
加熱処理後は、次の濃縮工程における所定の濃縮温度に温度調整する。
【0024】
<膜濃縮工程>
膜濃縮工程では、加熱処理工程を経た発酵物(加熱処理発酵物)を、分離膜を用いて濃縮して目的の濃縮発酵乳を得る。
分離膜としては、限外ろ過膜(UF膜)、精密濾過膜等を用いることができる。
本発明者等の知見によれば、遠心分離法で濃縮して得られる略無脂肪の濃縮発酵乳は、表面の光沢に欠けるが、分離膜を用いて濃縮することにより略無脂肪でありながら良好な光沢を有する濃縮発酵乳が得られる。
【0025】
濃縮工程において、濃縮される発酵物の温度(濃縮温度)は35~50℃が好ましく、40~50℃がより好ましい。濃縮温度が上記範囲の下限値以上であると分離膜による濃縮を円滑に行いやすく、上限値以下であると光沢のある性質が損なわれ難い。
特に本実施形態の濃縮発酵乳は略無脂肪であるが、濃縮時間の点で、濃縮温度は40~50℃が好ましい。
【0026】
濃縮前の質量を、濃縮後の質量で除した値で表される濃縮倍率は、2.5~3.5倍が好ましく、2.8~3.5倍がより好ましく、3.0~3.5倍がさらに好ましい。濃縮倍率が上記範囲の下限値以上であると濃密な組織の発酵乳が得やすく、上限値以下であると組織の荒れや過剰な粘度上昇が生じ難い。
特に本実施形態の濃縮発酵乳は略無脂肪であるため、無脂肪組成で高粘度の物性を維持する点で、濃縮倍率は3.0~3.5倍が好ましい。
【0027】
濃縮後は20℃以下に冷却することが好ましい。
濃縮工程で得られた濃縮発酵乳を容器に充填して、容器入り濃縮発酵乳製品が得られる。
【0028】
本実施形態の濃縮発酵乳は、乳原料及び水以外のその他の原料を含んでもよい。
乳原料及び水以外のその他の原料は、発酵乳の製造において公知の成分を用いることができる。その他の原料の例として、糖類(ショ糖、オリゴ糖等)、甘味料、植物性脂肪、安定剤、香料等が挙げられる。その他の原料は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
その他の原料を含む濃縮発酵乳を製造する方法は、前記発酵工程、前記加熱処理工程及び前記膜濃縮工程を行った後に、予め加熱殺菌したその他の原料を添加して混合する工程を有する方法が好ましい。発酵工程に供する調乳液は、その他の原料を含まないことが好ましい。
【0029】
本実施形態の濃縮発酵乳を有する濃縮発酵乳製品は、濃縮発酵乳とソースを有してもよい。ソースは流動性を有する液状でもよく、流動性を有しないゲル状でもよい。ソースは発酵乳製品において公知のソースを用いることができる。
濃縮発酵乳とソースを有する濃縮発酵乳製品の好ましい態様として下記(1)~(3)が挙げられる。
(1)濃縮発酵乳とソースとを有し、濃縮発酵乳及びソースが、それぞれ別個の容器に収容されている濃縮発酵乳製品。例えば、容器入り濃縮発酵乳と、容器入りソースとが一体的に包装されている「ソース付き濃縮発酵乳製品」が好ましい。
(2)濃縮発酵乳とソースとを有し、これらが同じ容器に収容されている濃縮発酵乳製品。例えば、濃縮発酵乳層と1層以上のソース層が積層されていることが好ましい。ソース層は、濃縮発酵乳層より上層でもよく下層でもよく、両方でもよい。
(3)同じ容器に濃縮発酵乳と内部ソースの1種以上が収容されており、これとは別の容器に外部ソースが収容されている濃縮発酵乳製品。例えば、濃縮発酵乳層と、1層以上の内部ソース層が積層されていることが好ましい。内部ソース層は、濃縮発酵乳層より上層でもよく下層でもよく、両方でもよい。例えば、内部ソース層を有する容器入り濃縮発酵乳と、外部ソースを収容した容器入りソースとが一体的に包装されている「ソース付き内部ソース含有濃縮発酵乳製品」が好ましい。
【0030】
<濃縮発酵乳の光沢度向上方法>
本実施形態の濃縮発酵乳の光沢度向上方法は、乳原料を含む調乳液を発酵させた発酵物を、分離膜を用いて濃縮する膜濃縮工程を有し、膜濃縮工程の前に発酵物を加熱処理する加熱処理工程を有する。
濃縮発酵乳、乳原料、調乳液、発酵物、膜濃縮工程及び加熱処理工程は、好ましい態様も含めて上記濃縮発酵乳の製造方法の実施形態と同様である。
本実施形態によれば、略無脂肪の濃縮発酵乳の光沢度を向上させることができる。
具体的に、後述の実施例に示すように、非接触イメージ分光測色計「MetaVue3200(Xrite社製)」を用い、測定角度45°で測定した光沢度を向上させることができる。
光沢度の値が大きいほど濃縮発酵乳の光沢に優れる。光沢度を高めることにより濃縮発酵乳の外観を向上させ、製品の差別化を図ることができる。
【0031】
<濃縮発酵乳の酸味抑制方法>
本実施形態の濃縮発酵乳の酸味抑制方法は、乳原料を含む調乳液を発酵させた発酵物を、分離膜を用いて濃縮する膜濃縮工程を有し、膜濃縮工程の前に発酵物を加熱処理する加熱処理工程を有する。
濃縮発酵乳、乳原料、調乳液、発酵物、膜濃縮工程及び加熱処理工程は、好ましい態様も含めて上記濃縮発酵乳の製造方法の実施形態と同様である。
本実施形態によれば、略無脂肪の濃縮発酵乳の酸味を抑制することができる。
【実施例0032】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下において、含有割合を表す「%」は特に断りのない限り「質量%」である(表も同様である)。
【0033】
<評価方法>
【0034】
[光沢度]
非接触イメージ分光測色計「MetaVue3200(Xrite社製)」を用いて、各サンプルを以下の条件で測定した。
光源からサンプル表面までの距離は1.6mm、測定径は6.0mmとした。
サンプル表面に対し45°のフルスペクトラムトリプルLED光を照射し、0°の反射光を光沢度センサーで受光した。
調色ソフトウェア「Color iControl」を用いて光沢度の値を算出した。
【0035】
[香味の評価]
<香味評価(1)>
濃縮発酵乳をパネリスト90名(女性90名)が試食し、酸味の強さについて下記の評価基準で評価した。90名の平均値を評価結果とした。
<酸味の強さの評価基準>
5:強い。
4:やや強い。
3:どちらともいえない。
2:やや弱い。
1:弱い。
<香味評価(2)>
濃縮発酵乳を、パネリスト64名(男性22名、女性42名)が試食し、香味評価(1)と同一の評価基準で評価した。66名の平均値を評価結果とした。
<香味評価(3)>
濃縮発酵乳を、訓練されたパネリストA~Eの5名が試食し、香味評価(1)と同一の評価基準で評価した。5名の平均値を評価結果とした。
【0036】
<原料>
以下の原料を用いた。
脱脂濃縮乳:森永乳業社製、脂肪0.3%、タンパク質12.4%、無脂乳固形分34.6%。
クリーム:森永乳業社製、脂肪45.5%、タンパク質1.6%、無脂乳固形分4.5%。
スターター:FD-DVS Mild1.0(Christian Hansen社製)。
【0037】
以下の例1は実施例であり、例2は比較例である。例3、4は市販品を用いた参考例である。
【0038】
[例1]
(発酵物の製造)
脱脂濃縮乳、クリームおよび水を混合して、脂肪含有量0.1%、無脂乳固形分9.6%の調乳液を調製した。これを90℃で10分間殺菌し、38℃まで冷却した後、乳酸菌スターターを濃度が1%となるように添加して、38℃で発酵させた。pHが4.8となった時点で、10℃に冷却して発酵を終了させた後、撹拌してカードを粉砕して発酵物を得た。発酵時間は約4.5時間であった。
(加熱処理工程)
得られた発酵物を、58℃に2分間保持する条件で加熱処理した後、45℃に冷却し、加熱処理発酵物を得た。加熱処理装置はプレート式熱交換器およびホールディングチューブを用いた。
(濃縮工程)
45℃に調温した加熱処理発酵物を、限外ろ過膜(Alfa-laval社製、分画分子量25000Da)を用いて、濃縮倍率が3.2倍になるように濃縮した後、容器に充填し、10℃まで冷却して容器入り濃縮発酵乳を得た。
得られた濃縮発酵乳の全固形分、無脂乳固形分、脂肪含有量、タンパク質含有量、脂肪含有量に対する無脂乳固形分の質量比を表す無脂乳固形分/脂肪を表1に示す(以下、同様)。
製造直後の容器入り濃縮発酵乳を、10℃で24時間静置した製品について、表1に示す項目を評価した。評価結果を表1及び表2(香味評価(3)の詳細)に示す(以下、同様)。
香味評価は上記香味評価(2)及び(3)の方法で行った。
【0039】
[例2]
例1において、濃縮前の加熱処理工程を行わないほかは、例1と同様にして容器入り濃縮発酵乳を製造し、評価した。
すなわち、例1と同様にして発酵物を製造し、得られた発酵物を濃縮温度である45℃に温度調整し、例1と同様にして濃縮した後、容器に充填し、10℃まで冷却して容器入り濃縮発酵乳を得た。
香味評価は上記香味評価(1)の方法で行った。
【0040】
[例3、4]
無脂肪の製品表示を有する容器入り濃縮発酵乳である市販品A、及び脂肪を4%含む容器入り濃縮発酵乳である市販品Bについて、表1に示す項目を評価した。
香味評価は上記香味評価(1)、(2)及び(3)の方法で行った。
【0041】
【0042】
【0043】
表1の結果に示すように、濃縮発酵乳の外観を目視したとき、脂肪を含む市販品Bは良好な光沢を有するのに対して、略無脂肪の市販品Aは明らかに光沢が劣っていた。一方、例1、2の濃縮発酵乳は、市販品Bと比べて遜色ない良好な光沢を有していた。
機械的に光沢度を測定すると、例2の光沢度は市販品Bより高かった。例2の濃縮発酵乳が、略無脂肪でありながら、市販品Bより高い光沢度を示したことは驚くべき結果である。
また、酸味の強さについて、例2の濃縮発酵乳は市販品Aより酸味が強く感じられるという評価結果であったのに対して、例1の濃縮発酵乳は市販品Aより酸味が弱く感じられるという評価結果であった。
このように例1の濃縮発酵乳は、略無脂肪でありながら、脂肪を含む濃縮発酵乳と同等以上の光沢を有し、酸味が抑えられたものであった。