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特開2024-110603マーク検出方法、歪み量測定方法、学習方法、推定方法、および印刷方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110603
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】マーク検出方法、歪み量測定方法、学習方法、推定方法、および印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B65H 7/02 20060101AFI20240808BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240808BHJP
   B41J 29/38 20060101ALI20240808BHJP
   B41J 11/42 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
B65H7/02
B41J2/01 451
B41J29/38 202
B41J11/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015279
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】久保 友輔
(72)【発明者】
【氏名】山家 暢
【テーマコード(参考)】
2C056
2C058
2C061
3F048
【Fターム(参考)】
2C056EB13
2C056EB36
2C056FA13
2C056HA58
2C058AB15
2C058AC07
2C058AE04
2C058AF06
2C058GB03
2C058GB15
2C058GB36
2C058GB47
2C061AP01
2C061AQ05
2C061AR01
2C061AS06
2C061HJ01
2C061HJ06
2C061HK05
2C061HN08
2C061HN15
3F048AA05
3F048AB01
3F048AC04
3F048BB02
3F048BB09
3F048BD07
3F048CA06
3F048DA06
3F048DC11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】学習用画像が印刷された基材において、位置検出用マークの位置をより正確に検出できる技術を提供する。
【解決手段】このマーク検出方法では、複数のマーク配置位置のそれぞれに位置検出用マークが配置された学習用画像が印刷された基材における位置検出用マークの位置を検出するために、第1マーク検出工程と、検出異常判定工程と、第2マーク検出工程とを有する。第1マーク検出工程では、学習用画像が印刷された基材の撮影画像において、所定の第1条件に合致する領域を被検出領域と検出する。検出異常判定工程では、マーク配置位置と被検出領域とを比較して検出異常を判定する。第2マーク検出工程では、検出異常と判定されたマーク配置位置の周辺において、所定の第2条件に合致する領域を新たな被検出領域として検出する。これにより、位置検出用マークの位置をより正確に検出できる。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のマーク配置位置のそれぞれに位置検出用マークが配置された学習用画像が印刷された基材における前記位置検出用マークの位置を検出するマーク検出方法であって、
前記学習用画像が印刷された前記基材の撮影画像において、所定の第1条件に合致する領域を、被検出領域と検出する第1マーク検出工程と、
前記マーク配置位置と、前記被検出領域とを比較して、検出異常を判定する検出異常判定工程と、
前記検出異常と判定された前記マーク配置位置の周辺において、所定の第2条件に合致する領域を、新たな前記被検出領域として検出する第2マーク検出工程と、
を有するマーク検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載のマーク検出方法であって、
前記検出異常判定工程において、前記検出異常には、少なくとも、
前記マーク配置位置に対応する前記被検出領域が検出されていない場合と、
前記マーク配置位置と、対応する前記被検出領域との距離が所定の外れ値閾値以上である場合と、
が含まれる、マーク検出方法。
【請求項3】
請求項1に記載のマーク検出方法であって、
前記第1条件は、前記位置検出用マークとの一致度が所定の第1一致度閾値よりも大きい第1候補領域の中で、最も前記マーク配置位置に距離が近い領域であり、
前記第2条件は、前記位置検出用マークとの一致度が所定の第2一致度閾値よりも大きい第2候補領域の中で、前記検出異常と判定された前記マーク配置位置に最も距離が近い領域であり、
前記第2一致度閾値は、前記第1一致度閾値よりも一致度が低い、マーク検出方法。
【請求項4】
請求項1に記載のマーク検出方法であって、
前記位置検出用マークは、
第1の色で形成されたベース図形と、
前記ベース図形と重なる位置に、前記第1の色とは異なる第2の色で形成されたマーク図形と、
を含む、マーク検出方法。
【請求項5】
請求項4に記載のマーク検出方法であって、
前記第1の色は、白色であり、
前記第2の色は、黒色である、マーク検出方法。
【請求項6】
基材に印刷された画像の歪み量を測定する歪み量測定方法であって、
複数のマーク配置位置のそれぞれに位置検出用マークが配置された学習用画像を前記基材に印刷する印刷工程と、
前記学習用画像が印刷された前記基材を撮影し、撮影画像を取得する撮影画像取得工程と、
前記撮影画像について、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のマーク検出方法により、前記被検出領域を検出するマーク検出工程と、
前記マーク配置位置と、前記被検出領域とを比較して、前記マーク配置位置毎の前記基材の歪み量を算出する歪み量算出工程と、
を含む、歪み量測定方法。
【請求項7】
請求項6に記載の歪み量測定方法であって、
前記歪み量は、複数の前記位置検出用マークのそれぞれの、前記マーク配置位置から前記被検出領域への変位量を示す、歪み量測定方法。
【請求項8】
請求項6に記載の歪み量測定方法であって、
前記歪み量は、隣り合う前記マーク配置位置同士の間隔と、対応する前記被検出領域同士の間隔の変化を示す、歪み量測定方法。
【請求項9】
長尺帯状の基材を長手方向に搬送しつつ、前記基材の表面にインクを吐出する印刷装置において、前記基材の歪み量を推定する推定モデルを機械学習する学習方法であって、
複数のマーク配置位置のそれぞれに位置検出用マークが配置された学習用画像に対して、請求項6に記載の歪み量測定方法により、前記基材の歪み量を測定する歪み量測定工程と、
前記学習用画像を入力変数とし、前記歪み量測定工程で測定した前記歪み量を教師データとして、機械学習により、前記基材の歪み量を推定した推定結果を出力可能な推定モデルを生成する学習工程と、
を含む、学習方法。
【請求項10】
請求項9に記載の学習方法であって、
前記学習用画像は、濃度値または印字率が異なる複数の領域を含む画像データである、学習方法。
【請求項11】
長尺帯状の基材を長手方向に搬送しつつ、前記基材の表面にインクを吐出する印刷装置において、前記基材の歪み量を推定する推定方法であって、
印刷すべき画像データである入稿データを取得するデータ取得工程と、
前記入稿データの印刷よりも前に、請求項9に記載の学習方法によって学習した前記推定モデルに前記入稿データを入力し、前記推定モデルの出力した前記推定結果を取得する推定工程と、
を含む、推定方法。
【請求項12】
請求項11に記載の推定方法を用いた印刷方法であって、
前記データ取得工程および前記推定工程を実行した後、
前記推定結果に基づいて前記基材に対するインクの吐出位置を補正しつつ、前記基材の表面にインクを吐出する印刷工程を実行する、印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺帯状の基材を長手方向に搬送しつつ、基材の表面にインクを吐出する印刷装置において、基材の伸縮による歪み量を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長尺帯状の基材を長手方向に搬送しつつ、複数のヘッドからインクを吐出することにより、基材に画像を印刷するインクジェット方式の印刷装置が知られている。インクジェット方式の印刷装置は、複数のヘッドから、それぞれ異なる色のインクを吐出する。そして、各色のインクにより形成される単色画像の重ね合わせによって、基材の表面に多色画像を印刷する。
【0003】
この種の印刷装置では、基材がインクを吸収する時、または、基材上のインクが乾燥する時に、基材が僅かに伸縮する。その結果、基材9の表面に形成される印刷画像に、歪みが生じる。また、基材の伸縮により、複数のヘッドから吐出されるインクの位置がずれる場合がある。
【0004】
基材の伸縮量は、基材にかかる張力、基材の種類、インクの種類などの諸条件により異なる。また、同種の印刷装置の間でも、機差により、基材の伸縮量が異なる場合がある。さらに、基材の伸縮状態は、印刷される画像データに応じて異なるものとなるが、従来、基材の伸縮状態を、印刷前に知ることはできなかった。
【0005】
そこで、特許文献1に記載の印刷装置では、このような基材の伸縮による印刷品質の低下をなるべく抑えるために、印刷画像中の座標を識別するための位置検出用マークが付された学習用画像を用いて機械学習により推定モデルを生成し、当該推定モデルを用いて入稿データに応じた基材の伸縮状態を、印刷前に推定している。これにより、基材の伸縮による歪みに応じてインクの吐出位置を補正し、ヘッド間の印刷画像のずれを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-110632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような推定モデルを生成するにあたり、より精度の高い推定モデルとするためには、学習用画像の印刷画像において、座標を識別するための位置検出用マークをより正確に検出する必要がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、学習用画像が印刷された基材において、位置検出用マークの位置をより正確に検出できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、複数のマーク配置位置のそれぞれに位置検出用マークが配置された学習用画像が印刷された基材における前記位置検出用マークの位置を検出するマーク検出方法であって、前記学習用画像が印刷された前記基材の撮影画像において、所定の第1条件に合致する領域を、被検出領域と検出する第1マーク検出工程と、前記マーク配置位置と、前記被検出領域とを比較して、検出異常を判定する検出異常判定工程と、前記検出異常と判定された前記マーク配置位置の周辺において、所定の第2条件に合致する領域を、新たな前記被検出領域として検出する第2マーク検出工程と、を有する。
【0010】
本願の第2発明は、第1発明のマーク検出方法であって、前記検出異常判定工程において、前記検出異常には、少なくとも、前記マーク配置位置に対応する前記被検出領域が検出されていない場合と、前記マーク配置位置と、対応する前記被検出領域との距離が所定の外れ値閾値以上である場合と、が含まれる。
【0011】
本願の第3発明は、第1発明または第2発明のマーク検出方法であって、前記第1条件は、前記位置検出用マークとの一致度が所定の第1一致度閾値よりも大きい第1候補領域の中で、最も前記マーク配置位置に距離が近い領域であり、前記第2条件は、前記位置検出用マークとの一致度が所定の第2一致度閾値よりも大きい第2候補領域の中で、前記検出異常と判定された前記マーク配置位置に最も距離が近い領域であり、前記第2一致度閾値は、前記第1一致度閾値よりも一致度が低い。
【0012】
本願の第4発明は、第1発明ないし第2発明のいずれか一発明のマーク検出方法であって、前記位置検出用マークは、第1の色で形成されたベース図形と、前記ベース図形と重なる位置に、前記第1の色とは異なる第2の色で形成されたマーク図形と、を含む。
【0013】
本願の第5発明は、第4発明のマーク検出方法であって、前記第1の色は、白色であり、前記第2の色は、黒色である。
【0014】
本願の第6発明は、基材に印刷された画像の歪み量を測定する歪み量測定方法であって、複数のマーク配置位置のそれぞれに位置検出用マークが配置された学習用画像を前記基材に印刷する印刷工程と、前記学習用画像が印刷された前記基材を撮影し、撮影画像を取得する撮影画像取得工程と、前記撮影画像について、第1発明ないし第5発明のいずれか一発明のマーク検出方法により、前記被検出領域を検出するマーク検出工程と、前記マーク配置位置と、前記被検出領域とを比較して、前記マーク配置位置毎の前記基材の歪み量を算出する歪み量算出工程と、を含む。
【0015】
本願の第7発明は、第6発明の歪み量測定方法であって、前記歪み量は、複数の前記位置検出用マークのそれぞれの、前記マーク配置位置から前記被検出領域への変位量を示す。
【0016】
本願の第8発明は、第6発明の歪み量測定方法であって、前記歪み量は、隣り合う前記マーク配置位置同士の間隔と、対応する前記被検出領域同士の間隔の変化を示す。
【0017】
本願の第9発明は、長尺帯状の基材を長手方向に搬送しつつ、前記基材の表面にインクを吐出する印刷装置において、前記基材の歪み量を推定する推定モデルを機械学習する学習方法であって、複数のマーク配置位置のそれぞれに位置検出用マークが配置された学習用画像に対して、第6発明ないし第8発明のいずれか一発明の歪み量測定方法により、前記基材の歪み量を測定する歪み量測定工程と、前記学習用画像を入力変数とし、前記歪み量測定工程で測定した前記歪み量を教師データとして、機械学習により、前記基材の歪み量を推定した推定結果を出力可能な推定モデルを生成する学習工程と、を含む。
【0018】
本願の第10発明は、第9発明の学習方法であって、前記学習用画像は、濃度値または印字率が異なる複数の領域を含む画像データである。
【0019】
本願の第11発明は、長尺帯状の基材を長手方向に搬送しつつ、前記基材の表面にインクを吐出する印刷装置において、前記基材の歪み量を推定する推定方法であって、印刷すべき画像データである入稿データを取得するデータ取得工程と、前記入稿データの印刷よりも前に、第9発明または第10発明の学習方法によって学習した前記推定モデルに前記入稿データを入力し、前記推定モデルの出力した前記推定結果を取得する推定工程と、を含む。
【0020】
本願の第12発明は、第11発明の推定方法を用いた印刷方法であって、前記データ取得工程および前記推定工程を実行した後、前記推定結果に基づいて前記基材に対するインクの吐出位置を補正しつつ、前記基材の表面にインクを吐出する印刷工程を実行する。
【発明の効果】
【0021】
本願の第1発明~第12発明によれば、1回目に位置検出用マークを検出した後に、検出異常に対して再度位置検出用マークの検出を行う。これにより、学習用画像が印刷された基材において、位置検出用マークの位置をより正確に検出できる。
【0022】
特に、本願の第3発明によれば、1回目に一致度の高い領域を検出した後に、検出異常の位置検出用マークについては、一致度を下げて再検出を行う。これにより、マーク周辺に汚れがある場合等の事情で一致度が小さくなってしまった位置検出用マークを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】印刷装置の構成を示した図である。
図2】印刷部の付近における印刷装置の部分上面図である。
図3】印刷装置の各部とコンピュータとの接続を示したブロック図である。
図4】コンピュータの機能を概念的に示したブロック図である。
図5】学習処理の流れを示すフローチャートである。
図6】学習用データの例を示した図である。
図7】学習用データの一部分の拡大図である。
図8】撮影画像の一例の一部分の拡大図である。
図9】学習用データの例を示した図である。
図10】歪み量計測工程の流れを示すフローチャートである。
図11】マーク配置位置と第1候補領域との例を示した図である。
図12】マーク配置位置と第2候補領域との例を示した図である。
図13】基材の伸縮状態の計測方法の一例を示した図である。
図14】基材の伸縮状態の計測方法の他の例を示した図である。
図15】印刷処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
<1.印刷装置の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る印刷装置1の構成を示した図である。この印刷装置1は、長尺帯状の基材9(印刷媒体)を搬送しつつ、複数のヘッド21~24から基材9へ向けてインクの液滴を吐出することにより、基材9の表面に画像を印刷する装置である。基材9は、印刷用紙であってもよく、あるいは、樹脂製のフィルムであってもよい。また、基材9は、金属箔や、ガラス製の基材であってもよい。図1に示すように、印刷装置1は、搬送機構10、印刷部20、カメラ30、およびコンピュータ40を備えている。
【0026】
搬送機構10は、基材9をその長手方向に沿う搬送方向に搬送する機構である。本実施形態の搬送機構10は、巻き出し部11、複数の搬送ローラ12、および巻き取り部13を有する。基材9は、巻き出し部11から繰り出され、複数の搬送ローラ12により構成される搬送経路に沿って搬送される。各搬送ローラ12は、搬送方向に対して垂直な方向に延びる軸を中心として回転することにより、基材9を搬送経路の下流側へ案内する。搬送後の基材9は、巻き取り部13へ回収される。また、基材9には、搬送方向の張力が掛けられている。これにより、搬送中における基材9の弛みや皺が抑制される。
【0027】
印刷部20は、搬送機構10により搬送される基材9に対して、インクの液滴(以下「インク滴」と称する)を吐出する処理部である。本実施形態の印刷部20は、第1ヘッド21、第2ヘッド22、第3ヘッド23、および第4ヘッド24を有する。第1ヘッド21、第2ヘッド22、第3ヘッド23、および第4ヘッド24は、基材9の搬送方向に沿って、間隔をあけて配列されている。基材9は、4つのヘッド21~24の下方を、印刷面を上方に向けた状態で搬送される。
【0028】
図2は、印刷部20の付近における印刷装置1の部分上面図である。図2中に破線で示したように、各ヘッド21~24の下面には、基材9の幅方向と平行に配列された複数のノズル201が設けられている。各ヘッド21~24は、複数のノズル201から基材9の上面へ向けて、多色画像の色成分となるK(ブラック)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の各色のインク滴を、それぞれ吐出する。
【0029】
すなわち、第1ヘッド21は、搬送経路上の第1印刷位置X1において、基材9の上面に、K色のインク滴を吐出する。第2ヘッド22は、第1印刷位置X1よりも下流側の第2印刷位置X2において、基材9の上面に、C色のインク滴を吐出する。第3ヘッド23は、第2印刷位置X2よりも下流側の第3印刷位置X3において、基材9の上面に、M色のインク滴を吐出する。第4ヘッド24は、第3印刷位置X3よりも下流側の第4印刷位置X4において、基材9の上面に、Y色のインク滴を吐出する。
【0030】
なお、ヘッド21~24の搬送方向下流側に、基材9の印刷面にインクを定着させる定着部が、さらに設けられていてもよい。定着部は、例えば、基材9へ向けて加熱された気体を吹き付けて、基材9に付着したインクを乾燥させる。ただし、定着部は、UV硬化性のインクに紫外線を照射することにより、インクを硬化させるものであってもよい。
【0031】
カメラ30は、印刷部20を通過した基材9の印刷面を撮影する撮像装置である。カメラ30は、4つのヘッド21~24よりも搬送経路の下流側の撮影位置X5において、基材9の印刷面に対向して配置される。カメラ30には、例えば、CCDやCMOS等の撮像素子が、幅方向に複数配列されたラインセンサが使用される。カメラ30は、基材9の印刷面を撮影することにより、撮影画像を取得する。そして、カメラ30は、得られた撮影画像を、コンピュータ40へ送信する。
【0032】
コンピュータ40は、印刷装置1を制御するための情報処理装置である。図3は、コンピュータ40と、印刷装置1の各部との接続を示したブロック図である。図3中に概念的に示したように、コンピュータ40は、CPU等のプロセッサ401、RAM等のメモリ402、およびハードディスクドライブ等の記憶部403を有する。記憶部403には、後述する学習処理および印刷処理を実行するためのコンピュータプログラム404が、記憶されている。
【0033】
図3に示すように、コンピュータ40は、上述した搬送機構10、4つのヘッド21~24、およびカメラ30と、それぞれ通信可能に接続されている。また、コンピュータ40は、外部記憶装置であるサーバ2と、通信可能に接続されている。サーバ2には、入稿データD1が記憶されている。入稿データD1は、製品としての印刷物を得るために、印刷装置1において印刷すべき画像データである。コンピュータ40は、サーバ2から入稿データD1を取得し、当該入稿データD1に基づいて、搬送機構10および4つのヘッド21~24を動作制御する。これにより、印刷装置1における印刷処理が進行する。また、サーバ2には、後述する学習処理に使用される多数の学習用データD2も、記憶されている。
【0034】
<2.コンピュータの機能について>
この印刷装置1では、4つのヘッド21~24が、インク滴を吐出することによって、基材9の上面に、それぞれ単色画像を印刷する。そして、4つの単色画像の重ね合わせにより、基材9の上面に、多色画像が形成される。したがって、仮に、4つのヘッド21~24から吐出されるインク滴の基材9上における位置が相互にずれていると、印刷物の画像品質が低下する。このような、基材9上における単色画像の相互の位置ずれ(見当ずれ)を許容範囲内に抑えることが、高品質な印刷物を得るための重要な要素となる。
【0035】
また、基材9にインクが吸収されるとき、または、基材9上のインクが乾燥するときには、基材9が不均一に伸縮する。このような基材9の伸縮が生じると、印刷面に形成される印刷画像が歪む。また、基材9の伸縮が生じると、上記の見当ずれも生じやすくなる。そこで、この印刷装置1のコンピュータ40は、入稿データD1に基づいて、基材9の伸縮状態を印刷前に推定し、その推定結果を利用して、インク滴の吐出位置を補正しつつ印刷を行う機能を有する。図4は、コンピュータ40の当該機能を、概念的に示したブロック図である。
【0036】
図4に示すように、コンピュータ40は、データ取得部41、歪み量計測部42、学習部43、推定部44、補正値算出部45、および動作制御部46を有する。データ取得部41、歪み量計測部42、学習部43、推定部44、補正値算出部45、および動作制御部46の各機能は、コンピュータ40のプロセッサ401が、コンピュータプログラム404に従って動作することにより、実現される。
【0037】
データ取得部41は、入稿データD1および学習用データD2を取得するための処理部である。データ取得部41は、サーバ2から入稿データD1および学習用データD2を読み出す。また、データ取得部41は、読み出した学習用データD2を、歪み量計測部42、学習部43および動作制御部46へ入力する。また、データ取得部41は、読み出した入稿データD1を、推定部44および動作制御部46へ入力する。
【0038】
歪み量計測部42は、学習用データD2とカメラ30から送信される撮影画像D3とに基づいて、基材9の歪み量を計測するための処理部である。基材9の歪み量の計測方法については、後述する。歪み量計測部42は、計測された基材9の歪み量D4を、学習部43へ入力する。
【0039】
学習部43は、画像データと、その画像データを印刷したときの基材9の伸縮状態との関係を学習するための処理部である。この印刷装置1は、製品となる印刷物を得るための入稿データD1の印刷よりも前に、学習部43による学習処理を行う。学習処理時には、上述した動作制御部46と、学習部43とに、学習用画像である学習用データD2が入力される。動作制御部46は、学習用データD2に基づいて、搬送機構10および印刷部20を動作制御する。これにより、基材9の印刷面に、学習用データD2が印刷される。また、学習処理時には、カメラ30が、印刷後の基材9を撮影する。
【0040】
学習部43は、学習用データD2を入力変数とし、歪み量計測部42において計測された歪み量D4を教師データとして、教師あり機械学習アルゴリズムにより、学習処理を行う。学習部43は、このような学習処理を、所定の終了条件を満たすまで繰り返す。これにより、学習部43は、入力された画像データに基づいて、基材9の伸縮状態を示す推定結果を出力できる推定モデルMを生成する。学習処理の詳細については、後述する。
【0041】
学習部43は、機械学習アルゴリズムとして、例えば、ディープラーニング(多層ニューラルネットワーク)を使用する。ただし、学習部43が使用する機械学習アルゴリズムは、ディープラーニングに限定されるものではない。ディープラーニングに代えて、マルコフ確率場(MRF)やボルツマンマシンなど他の機械学習アルゴリズムを使用してもよい。
【0042】
推定部44は、入稿データD1に基づいて、その入稿データD1を印刷したときの基材9の歪み量を推定するための処理部である。推定部44は、学習部43により生成された推定モデルMを使用して、推定処理を行う。推定部44は、データ取得部41が取得した入稿データD1を、推定モデルMへ入力する。すると、推定モデルMから、入稿データD1に対応する基材9の歪み量が出力される。推定部44は、この推定モデルMから出力された歪み量を、推定結果D5とする。
【0043】
補正値算出部45は、推定結果D5に基づいて、補正値D6を算出するための処理部である。補正値算出部45は、推定結果D5が示す基材9の歪み量をキャンセルする方向の補正値D6を算出する。算出された補正値D6は、動作制御部46へ入力される。
【0044】
動作制御部46は、搬送機構10および4つのヘッド21~24を動作制御するための処理部である。動作制御部46は、上述した学習用データD2を印刷する場合には、学習用データD2に基づく指令値を、搬送機構10および4つのヘッド21~24へ出力する。これにより、搬送機構10および4つのヘッド21~24を動作させて、基材9の印刷面に学習用データD2を印刷する。一方、動作制御部46は、入稿データD1を印刷する場合には、入稿データD1に基づく指令値を、補正値D6により補正する。そして、動作制御部46は、補正後の指令値を、搬送機構10および4つのヘッド21~24へ出力する。これにより、搬送機構10および4つのヘッド21~24を動作させて、基材9の印刷面に入稿データD1を印刷する。
【0045】
<3.学習処理について>
続いて、上述した印刷装置1において実行される学習処理について、説明する。図5は、学習処理の流れを示すフローチャートである。この学習処理は、製品としての印刷物を得るための入稿データD1の印刷よりも前に、実行される。
【0046】
図5に示すように、学習処理を行うときには、まず、データ取得部41が、サーバ2から学習用データD2を読み出す。そして、データ取得部41は、学習部43と動作制御部46とに、学習用データD2を入力する(ステップS1:入力工程)。
【0047】
図6は、学習用データD2の例を示した図である。図6のように、学習用データD2は、絵柄やパターン等の画像51に、複数のグリッドマーク52が組み込まれた画像データである。複数の学習用データD2は、互いに異なる画像51を有するものとされる。基材9の歪み量は、基材9に吐出されるインクの量により異なる。このため、学習用データD2の画像51は、濃度値または印字率が異なる複数の領域を含む画像であることが望ましい。これにより、濃度値または印字率に応じた基材9の歪み量を学習することができる。
【0048】
グリッドマーク52は、学習用データD2内の所定の座標位置を示す位置検出用マークである。グリッドマーク52は、学習用データD2の複数のマーク配置位置に配置される。本実施形態では、グリッドマーク52は、学習用データD2の全体に亘って配列されている。また、複数のグリッドマーク52は、基材9の搬送方向および幅方向に沿って、互いに間隔をあけて配列されている。また、学習用データD2において、複数のグリッドマーク52は、画像51よりも前面側に配置されている。
【0049】
図7は、学習用データD2の一部分の拡大図である。図7のように、本実施形態のグリッドマーク52は、ベース図形521とマーク図形522とで構成されている。ベース図形521は、白色(濃度値0%)に塗り潰された矩形の図形である。マーク図形522は、ベース図形521の前面側に重なる黒色(濃度値100%)の十字状の図形である。図7の上側の領域ように、黒色の背景の上にグリッドマーク52が配置された場合、背景とマーク図形522とは、同じ黒色であるが、マーク図形522は、白色のベース図形521上にあるため、マーク図形522を識別できる。また、図7の下側の領域のように、白色の背景の上にグリッドマーク52が配置された場合、ベース図形521と背景は、同じ白色であるため境界が識別できないが、黒色のマーク図形522は識別できる。
【0050】
このように、本実施形態では、グリッドマーク52が、白色のベース図形521と、ベース図形521の前面側に重なる黒色のマーク図形522とで構成されるため、背景となる画像51の色にかかわらず、マーク図形522を識別することができる。
【0051】
動作制御部46は、学習用データD2に基づいて、搬送機構10および4つのヘッド21~24の動作を制御する。これにより、基材9の印刷面に学習用データD2を印刷する(ステップS2:印刷工程)。すなわち、基材9の印刷面に、画像51とともに複数のグリッドマーク52が印刷される。また、カメラ30は、学習用データD2が印刷された基材9の印刷面を撮影する(ステップS3:撮影画像取得工程)。撮影により得られた撮影画像D3は、カメラ30からコンピュータ40へ送信されて、歪み量計測部42へ入力される。
【0052】
歪み量計測部42は、カメラ30から送信された撮影画像D3に基づいて、基材9の歪み量を計測する(ステップS4:歪み量計測工程)。歪み量計測工程(S4)については、詳細な説明を後述する。歪み量計測部42は、得られた基材9の歪み量D4を、学習部43へ入力する。
【0053】
学習部43は、ステップS1においてデータ取得部41から入力された学習用データD2を入力変数とし、ステップS4で計測された基材9の歪み量D4を教師データとして、教師あり機械学習プログラムにより、機械学習を行う。このとき、学習部43は、画像データに基づいて基材9の歪み量を推定するための推定モデルMを用意する。推定モデルMは、入力された学習用データD2に基づいて、歪み量の推定結果を出力する。学習部43は、推定モデルMから出力される推定結果が、教師データである歪み量D4に近づくように、推定モデルMのパラメータを調整する(ステップS5:学習工程)。
【0054】
その後、学習部43は、所定の終了条件を満たすか否かを判定する(ステップS6)。終了条件は、例えば、推定結果と教師データとの差が、予め設定された閾値よりも小さくなること、とすればよい。また、終了条件は、ステップS1~S5の繰り返し回数が、予め設定された閾値に到達すること、としてもよい。終了条件を満たしていない場合(ステップS6:No)、コンピュータ40は、上述したステップS1~S5の処理を繰り返す。その際、学習用データD2は、異なる画像51のものを使用してもよい。
【0055】
ステップS1~S5の学習処理が繰り返されることにより、推定モデルMの推定精度が向上する。やがて、終了条件が満たされると(ステップS6:Yes)、学習部43は、学習処理を終了する。これにより、入力された画像データに基づいて、その画像データを印刷したときの基材9の歪み量を精度よく推定できる、学習済みの推定モデルMが生成される。学習部43は、生成された推定モデルMを、推定部44へ提供する。
【0056】
なお、所定数の学習用データD2を、1つの学習用データセットとしてもよい。そして、複数の学習用データセットについて、学習処理を行ってもよい。この場合、1つの学習用データセットに含まれる所定数の学習用データD2を印刷する間は、ステップS6の終了条件の判断を行うことなく、ステップS1~S5の処理を繰り返してもよい。そして、1つの学習用データセットに含まれる全ての学習用データD2について、ステップS1~S5の処理が完了した時点で、ステップS6の終了条件の判断を行ってもよい。ステップS6において終了条件を満たさない場合には、別の学習用データセットについて、ステップS1~S5の学習処理を行ってもよい。
【0057】
<4.歪み量計測工程について>
ここで、ステップS4の歪み量計測工程の流れについて説明する。歪み量計測工程(S4)では、撮影画像D3からグリッドマーク52を識別して、基材9の歪み量D4を計測する。図10は、歪み量計測工程(S4)の流れを示すフローチャートである。
【0058】
このとき、撮影画像D3に撮影された学習用データD2の印刷結果において、グリッドマーク52上に汚れが付着した場合や、学習用データD2に含まれる画像に、グリッドマーク52に類似する部分が存在する場合には、撮影画像D3中のグリッドマーク52を精度よく認識できない虞がある。
【0059】
図8は、グリッドマーク52上に汚れ50が付着した場合の撮影画像D3の例の一部を拡大した拡大図である。グリッドマーク52のテンプレート画像と撮影画像D3との一致度を算出して撮影画像D3中のグリッドマーク52を抽出する方法では、図8の例のようにグリッドマーク52上にインクなどによる汚れ50が付着した場合、一致度が低くなって検出されにくくなり、不検出の原因となる。
【0060】
図9は、グリッドマーク52に類似する部分を有する学習用データD2の例である。図9の例の学習用データD2は、画像51が、トンボマーク511や、星を表す絵柄512などの、グリッドマーク52と類似した部分を有する。このため、これらのトンボマーク511や絵柄512が、グリッドマーク52として誤検出される場合がある。
【0061】
このような不検出や誤検出を抑制するために、この歪み量計測部42は、図10に示すように、第1マーク検出工程(S41)と第2マーク検出工程(S43)との2段階で撮影画像D3からグリッドマーク52を検出して、基材9の歪み量D4を計測する。図10は、ステップS4の歪み量計測工程の流れを示したフローチャートである。
【0062】
図10に示すように、歪み量計測工程(S4)において、歪み量計測部42は、まず、撮影画像D3から、所定の第1条件に合致する領域を被検出領域として検出する(ステップS41:第1マーク検出工程)。ここで、第1条件は、グリッドマーク52との一致度が所定の第1一致度閾値よりも大きい第1候補領域の中で、最もマーク配置位置に距離が近いことである。なお、マーク配置位置とは、学習用データD2中のグリッドマーク52の配置された位置であり、すなわち、基材9の印刷位置に歪みが生じていない場合の理想的なグリッドマーク52の位置である。
【0063】
第1マーク検出工程(S41)では、まず、撮影画像D3の全領域に対して、グリッドマーク52との一致度を算出する。そして、グリッドマーク52との一致度が所定の第1一致度閾値よりも大きい第1候補領域Qを抽出する。図11は、学習用データD2においてグリッドマーク52が配置されたマーク配置位置Pにおけるマーク図形522と、第1候補領域Qにおけるマーク図形522との例を示した図である。図9において、マーク配置位置Pの例は破線の十字マークで示されており、第1候補領域Qの例は実線の十字マークで示されている。
【0064】
第1マーク検出工程(S41)では、このような第1候補領域Qから、それぞれのマーク配置位置Pに最も距離の近いものが、当該マーク配置位置Pの被検出領域として選択される。
【0065】
図11の例では、複数のマーク配置位置Pのうち、マーク配置位置P1の近傍に第1候補領域Qが存在しない。このため、マーク配置位置P1に対応する被検出領域は検出されていない。また、マーク配置位置P2の周辺には、2つの第1候補領域Q21,Q22がある。このとき、マーク配置位置P2に対応する被検出領域には、2つの第1候補領域Q21,Q22のうち、マーク配置位置P2との距離が近い第1候補領域Q21が選択される。また、マーク配置位置P3に対する被検出領域は、最も距離の近い第1候補領域Q3である。しかしながら、マーク配置位置P3と第1候補領域Q3との距離は、他のマーク配置位置Pと対応する被検出領域との距離と比べて明らかに長い。
【0066】
次に、歪み量計測部42は、第1マーク検出工程(S41)で検出された第1候補領域と、マーク配置位置Pとを比較して、検出異常を判定する(ステップS42:検出異常判定工程)。この検出異常判定工程(S42)において、検出異常には、少なくとも、不検出の場合と、外れ値とが含まれる。
【0067】
不検出とは、マーク配置位置に対応する被検出領域(第1候補領域)が検出されていない場合である。また、外れ値とは、マーク配置位置と、対応する被検出領域(第1候補領域)との距離が、所定の外れ値閾値以上である場合である。なお、外れ値閾値は、経験的に予め決められた固定値であってもよい。また、外れ値閾値は、撮影画像D3全体におけるマーク配置位置と第1候補領域の距離から統計的に求められる数値であってもよい。その場合、外れ値閾値として、例えば、撮影画像D3全体におけるマーク配置位置と第1候補領域の距離の平均値の定数倍としてもよい。
【0068】
図11の例では、マーク配置位置P1の近傍に第1候補領域Qが存在しないため、マーク配置位置P1が不検出に該当する。また、マーク配置位置P3と、マーク配置位置P3に対する被検出領域である第1候補領域Q3との距離が、所定の外れ値閾値以上であるため、マーク配置位置P3が外れ値に該当する。
【0069】
続いて、歪み量計測部42は、撮影画像D3のうち、検出異常判定工程(S42)において検出異常と判定されたマーク配置位置Pの周辺において、所定の第2条件に合致する領域を新たな被検出領域として検出する(ステップS43:第2マーク検出工程)。
【0070】
ここで、第2条件は、グリッドマーク52との一致度が所定の第2一致度閾値よりも大きい第2候補領域の中で、最もマーク配置位置に距離が近いことである。ここで、第2一致度閾値は、第1マーク検出工程(S41)で用いられる第1一致度閾値よりも一致度が低い。このため、第1マーク検出工程(S41)では第1候補領域として抽出されなかった領域が、第2候補領域として抽出される。
【0071】
第2マーク検出工程(S42)では、検出異常と判定されたマーク配置位置Pの周辺領域に対して、グリッドマーク52との一致度を算出する。そして、グリッドマーク52との一致度が所定の第2一致度閾値よりも大きい第2候補領域Rを抽出する。図12は、図11の例におけるマーク配置位置Pにおけるマーク図形522と、第2候補領域Rにおけるマーク図形522との例を示した図である。そして、このような第2候補領域Rから、それぞれのマーク配置位置Pに最も距離の近いものが、当該マーク配置位置Pの被検出領域として選択される。
【0072】
図12の例では、第1候補領域Qが不検出であったマーク配置位置P1の周辺領域A1において、4つの第2候補領域R11,R12,R13,R14が抽出された。そして、4つの第2候補領域R11,R12,R13,R14のうち、マーク配置位置P1との距離が最も近い第2候補領域R11が被検出領域として選択される。
【0073】
また、外れ値であると判定されたマーク配置位置P3の周辺領域A3において、3つの第2候補領域R31,R32,R33が抽出された。このうち、第2候補領域R33は、第1マーク検出工程(S41)で抽出された第1候補領域Q3と同じである。そして、3つの第2候補領域R31,R32,R33のうち、マーク配置位置P3との距離が最も近い第2候補領域R31が新たな被検出領域として選択される。
【0074】
このように、第1マーク検出工程(S41)において一致度の高い候補領域を検出した後に、検出異常のマーク配置位置については、第2マーク検出工程(S42)において一致度を下げて候補領域の再検出を行う。これにより、マーク周辺に汚れがある場合等の事情で一致度が小さくなってしまったグリッドマーク52を検出することができる。
【0075】
第2マーク検出工程(S43)において各マーク配置位置に対して、被検出領域が確定すると、歪み量計測部42は、被検出領域のマーク座標を検出する(ステップS44:マーク座標検出工程)。具体的には、被検出領域について、幅方向の各座標に対して搬送方向に輝度値を合計し、合計輝度値にガウス関数をフィッティングして、当該近似関数の頂点から幅方向の中心座標を算出する。一方、被検出領域について、搬送方向の各座標に対して幅方向に輝度値を合計し、合計輝度値にガウス関数をフィッティングして、当該近似関数の頂点から搬送方向の中心座標を算出する。これにより、被検出領域におけるグリッドマーク52の中心座標を検出できる。
【0076】
その後、マーク座標検出工程(S44)で検出された被検出領域の中心座標と、学習用データD2におけるグリッドマーク52の中心座標とを比較して、マーク配置位置毎の基材9の歪み量D4を算出する(ステップS45:歪み量算出工程)。
【0077】
図13は、基材9の歪み量D4の算出方法の一例を示した図である。図13の例では、歪み量計測部42は、撮影画像D3中の被検出領域のグリッドマーク52の位置を計測する。具体的には、撮影画像D3中の特定のグリッドマーク52を原点として、当該原点に対する他のグリッドマーク52の座標位置を、それぞれ計測する。そして、計測された座標位置と、学習用データD2におけるグリッドマーク52の座標位置(マーク配置位置)との差を、歪み量として算出する。すなわち、図13の方法では、基材9における各グリッドマーク52の変位量を計測する。歪み量計測部42は、このような歪み量の計測を、撮影画像D3中の全てのグリッドマーク52について行う。その結果、基材9における歪み量の分布を示すベクトルマップが得られる。
【0078】
図13の計測方法により得られるベクトルマップは、基材9の各部の座標位置の変位量を表すものとなる。この場合、後述する推定モデルMから出力される推定結果も、基材9の各部の座標位置の変位量を表すものとなる。このため、図13の計測方法を採用すれば、補正値算出部45において、基材9に吐出されるインクの座標位置を補正する際に、推定結果を利用しやすくなる。
【0079】
図14は、基材9の歪み量D4の計測方法の一例を示した図である。図14の例では、歪み量計測部42は、撮影画像D3中の隣り合う被検出領域のグリッドマーク52の間隔を計測する。そして、計測されたグリッドマーク52の間隔と、学習用データD2におけるグリッドマーク52の間隔との差を、歪み量として算出する。すなわち、図14の方法では、隣り合うグリッドマーク52の間隔の変化を計測する。歪み量計測部42は、このような歪み量の計測を、撮影画像D3中の全ての隣り合うグリッドマーク52について行う。その結果、基材9における歪み量の分布を示すヒートマップが得られる。
【0080】
基材9が伸縮した場合、基材9上の各領域の変位量は、その領域の伸縮量だけではなく、他の領域の伸縮量にも影響する。このため、基材9の歪み量は、それらの伸縮量を累積した値となる。しかしながら、図14の計測方法により得られるヒートマップは、基材9の領域ごとの局所的な歪み量を表すものとなる。したがって、当該ヒートマップは、後述するステップS5において、教師データとして取り扱いやすい。
【0081】
<5.印刷処理について>
続いて、上述した学習処理の後に、印刷装置1において実行される印刷処理について、説明する。図15は、印刷処理の流れを示すフローチャートである。
【0082】
図15に示すように、印刷処理を行うときには、まず、印刷すべき入稿データD1を取得する(ステップS7:データ取得工程)。具体的には、データ取得部41が、サーバ2から入稿データD1を読み出す。そして、データ取得部41は、推定部44と動作制御部46とに、入稿データD1を入力する。
【0083】
推定部44は、学習部43により生成された推定モデルMに、入稿データD1を入力する。そうすると、推定モデルMは、基材9の歪み量の推定結果D5を出力する(ステップS8:推定工程)。この推定結果D5は、印刷装置1において入稿データD1を印刷した場合の、インクによる基材9の歪み量の推定値を示すものである。推定部44は、得られた推定結果D5を、補正値算出部45へ出力する。
【0084】
補正値算出部45は、推定部44から出力された推定結果D5に基づいて、補正値D6を算出する(ステップS9)。この補正値D6は、基材9に対するインク滴の吐出位置を微調整するための制御値である。補正値算出部45は、推定結果D5が示す基材9の歪みをキャンセルする方向に、補正値D6を設定する。例えば、基材9の伸縮により、基材9ある部分が幅方向の一方側へ変位すると推定される場合、補正値算出部45は、インク滴の吐出位置を幅方向の他方側へ補正するように、補正値D6を算出する。そして、補正値算出部45は、算出された補正値D6を、動作制御部46へ入力する。
【0085】
その後、動作制御部46は、データ取得部41から取得した入稿データD1と、補正値算出部45から取得した補正値D6とに基づいて、搬送機構10および4つのヘッド21~24を動作制御する。動作制御部46は、入稿データD1により指定されるインクの吐出位置を、補正値D6に従って補正する。この補正は、例えば、入稿データD1のピクセルごとに行う。そして、基材9の印刷面の補正後の吐出位置に、インク滴を吐出する。これにより、基材9の印刷面に、入稿データD1が印刷される(ステップS10:印刷工程)。
【0086】
以上のように、この印刷装置1では、入稿データD1の印刷よりも前に、入稿データD1に基づいて、インクによる基材9の歪み量を推定する。このため、当該推定結果を考慮して、インクの吐出位置を補正しながら、基材9の印刷面にインク滴を吐出できる。その結果、印刷画像のゆがみが小さく、見当ずれも少ない、高品質な印刷物を得ることができる。
【0087】
<6.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0088】
<6-1.第1変形例>
上記の実施形態では、学習用データD2において、複数のグリッドマーク52が、等間隔に配列されていた。しかしながら、複数のグリッドマーク52の間隔は、必ずしも均等でなくてもよい。例えば、画像51の濃度値の変化または印字率の変化が大きい部分には、グリッドマーク52を、他の部分よりも密に配置してもよい。
【0089】
<6-2.第2変形例>
上記の実施形態では、グリッドマーク52が、白色のベース図形521と、黒色のマーク図形522とで構成されていた。しかしながら、ベース図形521の色は、必ずしも白色に限定されるものではない。また、マーク図形522の色は、必ずしも黒色に限定されるものではない。例えば、ベース図形521が黒色で、マーク図形522が白色であってもよい。また、ベース図形521およびマーク図形522は、他の色であってもよい。すなわち、グリッドマーク52は、ベース図形521が第1の色で形成され、マーク図形522が、第1の色とは異なる第2の色で形成されていればよい。また、ベース図形521およびマーク図形522の形状も、上記の実施形態とは異なる形状であってもよい。
【0090】
<6-3.第3変形例>
上記の実施形態では、学習処理において、推定モデルMに入力される情報は、学習用データD2のみであった。しかしながら、学習用データD2に加えて、印刷装置1内の各種のセンサの検出値や、基材9の種類などの付加的な情報を、推定モデルMに入力してもよい。その場合、印刷処理においても、推定モデルMに対して、入稿データD1に加えて、上記の付加的な情報を入力するとよい。このようにすれば、推定モデルMは、付加的な情報も考慮して、より精度の高い推定結果D5を出力することが可能となる。
【0091】
<6-4.他の変形例>
また、上記の実施形態では、図2のように、各ヘッド21~24において、ノズル201が幅方向に一列に配置されていた。しかしながら、各ヘッド21~24において、ノズル201が2列以上に配置されていてもよい。
【0092】
また、上記の実施形態の印刷装置1は、4つのヘッド21~24を備えていた。しかしながら、印刷装置1が備えるヘッドの数は、1~3つ、あるいは5つ以上であってもよい。例えば、印刷装置1は、K,C,M,Yの各色に加えて、特色のインクを吐出するヘッドを備えていてもよい。
【0093】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0094】
1 印刷装置
2 サーバ
9 基材
10 搬送機構
20 印刷部
30 カメラ
40 コンピュータ
41 データ取得部
42 歪み量計測部
43 学習部
44 推定部
45 補正値算出部
46 動作制御部
51 画像
52 グリッドマーク
404 コンピュータプログラム
D1 入稿データ
D2 学習用データ
D3 撮影画像
D4 歪み量
D5 推定結果
D6 補正値
M 推定モデル
P,P1,P2,P3 マーク配置位置
Q,Q21,Q22,Q3 第1候補領域
R,R11,R12,R13,R14,R31,R32,R33 第2候補領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15