IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社村田製作所の特許一覧

特開2024-11061電子部品、コイル部品、および電子部品の製造方法
<>
  • 特開-電子部品、コイル部品、および電子部品の製造方法 図1
  • 特開-電子部品、コイル部品、および電子部品の製造方法 図2
  • 特開-電子部品、コイル部品、および電子部品の製造方法 図3
  • 特開-電子部品、コイル部品、および電子部品の製造方法 図4
  • 特開-電子部品、コイル部品、および電子部品の製造方法 図5
  • 特開-電子部品、コイル部品、および電子部品の製造方法 図6
  • 特開-電子部品、コイル部品、および電子部品の製造方法 図7
  • 特開-電子部品、コイル部品、および電子部品の製造方法 図8
  • 特開-電子部品、コイル部品、および電子部品の製造方法 図9
  • 特開-電子部品、コイル部品、および電子部品の製造方法 図10
  • 特開-電子部品、コイル部品、および電子部品の製造方法 図11
  • 特開-電子部品、コイル部品、および電子部品の製造方法 図12
  • 特開-電子部品、コイル部品、および電子部品の製造方法 図13
  • 特開-電子部品、コイル部品、および電子部品の製造方法 図14
  • 特開-電子部品、コイル部品、および電子部品の製造方法 図15
  • 特開-電子部品、コイル部品、および電子部品の製造方法 図16
  • 特開-電子部品、コイル部品、および電子部品の製造方法 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011061
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】電子部品、コイル部品、および電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/00 20060101AFI20240118BHJP
   H01F 27/32 20060101ALI20240118BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
H01F17/00 D
H01F27/32 140
H01F41/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112746
(22)【出願日】2022-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國森 敬介
【テーマコード(参考)】
5E044
5E062
5E070
【Fターム(参考)】
5E044CA02
5E062DD04
5E070AA01
5E070AB01
5E070CB13
(57)【要約】
【課題】回路パターンが埋設された第1絶縁層の主面上に積層された第2絶縁層を含む電子部品において、電気的特性を損なうことなく、配線層の積みずれや踏み外しを防止する。
【解決手段】電子部品は、主面を有する第1絶縁層と、第1絶縁層に埋設され、上記主面と平行な平面に沿って延在する回路パターンと、上記主面上に積層された第2絶縁層と、を備え、上記主面に直交する第1絶縁層の断面は、上記主面側の上辺の長さに対して上記主面とは反対側の下辺の長さが短い逆台形である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面を有する第1絶縁層と、
前記第1絶縁層に埋設され、前記主面と平行な平面に沿って延在する回路パターンと、
前記主面上に積層された第2絶縁層と、
を備え、
前記主面に直交する前記第1絶縁層の断面は、前記主面側の上辺の長さに対して前記主面とは反対側の下辺の長さが短い逆台形である、
電子部品。
【請求項2】
前記第1絶縁層の前記断面に沿った、前記第2絶縁層の断面は、前記第1絶縁層側とは反対側の上辺の長さに対して前記第1絶縁層側の下辺の長さが短い逆台形である、
請求項1に記載の電子部品。
【請求項3】
前記第1絶縁層の前記断面がなす逆台形の、前記上辺の端部と前記下辺の端部とにつながる2つの対向する側辺は、前記第1絶縁層の内部に向かって凹んだ曲線または折れ線をなす、
請求項1に記載の電子部品。
【請求項4】
前記第1絶縁層は、前記第1絶縁層の前記断面がなす逆台形の前記下辺の方向に沿って前記回路パターンを挟む絶縁壁を含み、
前記第1絶縁層の前記断面における前記絶縁壁の断面は、前記上辺側から前記下辺側に向かう方向に沿って幅が減少する逆テーパ形状である、
請求項1に記載の電子部品。
【請求項5】
前記第1絶縁層の前記断面がなす逆台形の、前記上辺の端部と前記下辺の端部とにつながる2つの対向する側辺の一方である第1側辺について、前記第1側辺に最も近い前記回路パターンの部分から前記第1側辺の上端まで、前記上辺に沿って測った第1距離と、前記第1側辺に最も近い前記回路パターンの部分から前記第1側辺の下端まで、前記下辺に沿って測った第2距離とは、前記第1距離に対する前記第2距離の比が1.1以上1.5未満であり、前記第2距離は、5μm以上20μm以下である、
請求項1に記載の電子部品。
【請求項6】
前記第2絶縁層の上方の最上層に積層された第3絶縁層を、さらに有し、
前記第1絶縁層の前記断面に沿った、前記第3絶縁層の断面は、前記第2絶縁層とは反対側の上辺の長さが前記第2絶縁層側の下辺の長さと同じ矩形、または、前記上辺の長さが、前記下辺の長さより短い台形である、
請求項1に記載の電子部品。
【請求項7】
前記回路パターンは、コイルを構成する、
請求項1ないし6のいずれか一項に記載の電子部品であるコイル部品。
【請求項8】
平面に沿って延在する回路パターンを形成する工程と、
前記回路パターンを覆う、前記平面と平行な主面を有する第1絶縁層を形成する工程と、
前記主面上に、第2絶縁層を積層する工程と、
を備え、
前記第1絶縁層を形成する前記工程では、前記回路パターンを覆うように感光性樹脂を配置し、前記感光性樹脂の表面に対しオフフォーカスに設定された投影露光装置からの照射光によって前記感光性樹脂を露光、現像することにより、前記主面に直交する前記第1絶縁層の断面を、前記主面側の上辺の長さに対して前記主面とは反対側の下辺の長さが短い逆台形形状に形成する、
電子部品の製造方法。
【請求項9】
平面内の一方向に配列された、複数の絶縁壁を形成する工程と、
前記複数の絶縁壁の間に、前記平面に沿って延在する回路パターンを形成する工程と、
前記絶縁壁と前記回路パターンを覆う、前記平面と平行な主面を有する上部壁を形成する工程と、
前記主面上に、第2絶縁層を積層する工程と、
を備え、
前記絶縁壁を形成する前記工程では、前記平面を覆うように感光性樹脂を配置し、前記感光性樹脂の表面に対しオフフォーカスに設定された投影露光装置からの照射光によって前記感光性樹脂を露光、現像することにより、前記平面に直交する前記絶縁壁の断面を、前記第2絶縁層を積層する側からその反対側に向かって幅が減少する逆テーパ状に形成し、
前記絶縁壁と前記上部壁によって、前記主面側の上辺の長さに対して前記主面とは反対側の下辺の長さが短い逆台形形状の第1絶縁層を構成する、
電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品、コイル部品、および電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板上にめっき成長させたコイルを備えるコイル部品が知られている。
特許文献1には、コイルの絶縁性を向上することを目的として、基板上に開口を有する複数の樹脂壁を絶縁壁として設けておき、絶縁壁の間に巻回部が延びるようにコイルをめっき成長させる、コイル部品の製造方法が開示されている。
また、特許文献2には、上記のような基板上の絶縁壁を、その上端部の幅が下端部の幅よりも狭いテーパ状に形成して、巻回部の強度を向上したコイル部品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-047938号公報
【特許文献2】特許第6716866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術のコイル部品は、いずれも、基板の主面の一方又は双方に巻回部を1層備えるのみであり、一の主面上に巻回部の複数の層を積層してコイルを構成することについては開示されていない。
【0005】
基板の一の主面上に2層以上の巻回部を構成しようとした場合、上層の巻回部の絶縁壁を下層の巻回部に対して精度よく位置合わせする必要がある。しかしながら、上層の絶縁壁をフォトリソグラフィにより形成する場合、露光のアライメント精度によっては、層間の位置ずれ(積みずれ)が発生し、上層の巻回部の一部が下層の巻回部の上面の範囲を超えて基板上に落ち込む「踏み外し」の状態が発生し得る。
【0006】
このような踏み外しを防止する方法として、上層の巻回部の下面が、下層の巻回部の上面の範囲内に包含されるように各層を構成すること、すなわち、巻回部の断面視において、上層の巻回部の断面形状の幅を、下層の巻回部の断面形状の幅より狭めることが考えられる。
【0007】
しかしながら、上記の構成を実現しようとした場合には、下層の幅を上層の幅より大きくするために、下層の巻回部における絶縁壁の厚みを上層の絶縁壁に対して厚くしたり、下層の巻回部に対して上層の巻回部の巻き数を減らすか又はコイル導体をより細く(例えば、狭幅に)することが必要となり得る。その結果、コイル部品としてのインダクタンス値の減少や電気抵抗の上昇といった電気的特性の低下が生じ得る。
【0008】
上述した巻回部のような、絶縁層中に回路パターンを埋設した層状の配線層を積み重ねる際に生ずる上記積みずれや踏み外し、及びこれらを防止するために生じ得る上層における絶縁壁の厚み減少や導体数の減少等は、コイル部品に限らず、電子部品一般においても望ましいものではない。
【0009】
本発明の目的は、回路パターンが埋設された第1絶縁層の主面上に積層された第2絶縁層を含む電子部品において、電気的特性を損なうことなく、配線層の積みずれや踏み外しを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一の態様は、主面を有する第1絶縁層と、前記第1絶縁層に埋設され、前記主面と平行な平面に沿って延在する回路パターンと、前記主面上に積層された第2絶縁層と、を備え、前記主面に直交する前記第1絶縁層の断面は、前記主面側の上辺の長さに対して前記主面とは反対側の下辺の長さが短い逆台形である、電子部品である。
本発明の他の態様は、平面に沿って延在する回路パターンを形成する工程と、前記回路パターンを覆う、前記平面と平行な主面を有する第1絶縁層を形成する工程と、前記主面上に、第2絶縁層を積層する工程と、を備え、前記第1絶縁層を形成する前記工程では、前記回路パターンを覆うように感光性樹脂を配置し、前記感光性樹脂の表面に対しオフフォーカスに設定された投影露光装置からの照射光によって前記感光性樹脂を露光、現像することにより、前記主面に直交する前記第1絶縁層の断面を、前記主面側の上辺の長さに対して前記主面とは反対側の下辺の長さが短い逆台形形状に形成する、電子部品の製造方法である。
本発明の他の態様は、平面内の一方向に配列された、複数の絶縁壁を形成する工程と、前記複数の絶縁壁の間に、前記平面に沿って延在する回路パターンを形成する工程と、前記絶縁壁と前記回路パターンを覆う、前記平面と平行な主面を有する上部壁を形成する工程と、前記主面上に、第2絶縁層を積層する工程と、を備え、前記絶縁壁を形成する前記工程では、前記平面を覆うように感光性樹脂を配置し、前記感光性樹脂の表面に対しオフフォーカスに設定された投影露光装置からの照射光によって前記感光性樹脂を露光、現像することにより、前記平面に直交する前記絶縁壁の断面を、前記第2絶縁層を積層する側からその反対側に向かって幅が減少する逆テーパ状に形成し、前記絶縁壁と前記上部壁によって、前記主面側の上辺の長さに対して前記主面とは反対側の下辺の長さが短い逆台形形状の第1絶縁層を構成する、電子部品の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、回路パターンが埋設された第1絶縁層の主面上に積層された第2絶縁層を含む電子部品において、電気的特性を損なうことなく、配線層の積みずれや踏み外しを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施形態に係るコイル部品の内部構造を示す模式図である。
図2図1に示すコイル部品の積層体の詳細図である。
図3図2に示す積層体の製造工程を示す図である。
図4図2に示す積層体の、図3に続く製造工程を示す図である。
図5】第2の実施形態に係るコイル部品の構成を示す図である。
図6図5に示すコイル部品の積層体の部分詳細図である。
図7図6に示す積層体の寸法定義について説明する図である。
図8図7に示す積層体の製造工程を示す図である。
図9図7に示す積層体の、図8に続く製造工程を示す図である。
図10】第3の実施形態に係るコイル部品の構成を示す図である。
図11図10に示すコイル部品の積層体の部分詳細図である。
図12図11に示す積層体の製造工程を示す図である。
図13図11に示す積層体の、図12に続く製造工程を示す図である。
図14】第4の実施形態に係るコイル部品の構成を示す図である。
図15図14に示すコイル部品の積層体の部分詳細図である。
図16図15に示す積層体を磁性層に埋設する工程の一例を示す図である。
図17図15に示す積層体の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
以下の実施形態では、絶縁層が積層された積層体を含む電子部品の一例としてコイル部品を説明する。なお、図面は、一部に模式図を含む場合がある。また、模式図における寸法や比率は実際の数値と異なる場合がある。
【0014】
[第1実施形態]
まず、第1の実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るコイル部品1の内部構造を示す模式図である。
コイル部品1は、主面Laを有する第1絶縁層21aと、第1絶縁層21aに埋設され、第1絶縁層21aの主面Laと平行な平面に沿って延在する回路パターン22と、第1絶縁層21aの主面La上に積層された第2絶縁層21bと、を備える。なお、コイル部品1では、第1絶縁層21aに回路パターン22が埋設された配線層15aと、第2絶縁層21bに回路パターン22が埋設された配線層15bとが積み重ねられて積層体10を構成する。配線層15aおよび配線層15bは、図示上方から視た平面視がリング状であり、回路パターン22は、その一部が積層体10の内部において互いに接続されてコイル部を形成している。2層に積み重なった配線層15aおよび15bのそれぞれの回路パターン22は、互いに同じ方向に延在している。図1では、回路パターン22の延在方向は、紙面法線方向である。従って、図1は、回路パターン22の延在方向と直交する面に沿った、コイル部品1の断面を示している。以下、第1絶縁層21aおよび第2絶縁層21bを総称して絶縁層21ともいい、配線層15aおよび配線層15bを総称して配線層15ともいうものとする。
【0015】
図2は、図1のA部における積層体10の部分詳細図であり、第1絶縁層21aの主面Laに直交する第1絶縁層21aの断面を示している。当該断面は、回路パターン22の延在方向に直交する面に沿った積層体10の断面である。以下、回路パターン22の延在方向に直交する面に沿った積層体10の断面を、積層体断面ともいう。なお、積層体断面は、コイル部品1の中心部分を含む断面である。
積層体10は、絶縁層21に回路パターン22が埋設された2つの配線層15を含み、これらの配線層15が下蓋層3の上に一方向に積み重なっている。
【0016】
なお、積層体10において、配線層15の各層の主面は、その面内に凹凸を含んでもよく、また、積層方向を含む断面の断面視において歪みを含んでもよい。
【0017】
図2に示すように、本実施形態では、特に、下蓋層3上に形成された積層体10の積層体断面における第1絶縁層21aの断面の形状は、主面La側の上辺24aの長さL2に対して主面Laとは反対側の下辺24bの長さL1が短い逆台形である。図示上側の第2絶縁層21bも同様に構成される。ここで、上辺24aの端部と下辺24bの端部とにつながる2つの対向する辺を、側辺24cというものとする。
【0018】
上記の構成により、コイル部品1では、下側の配線層15aの上面上における上側の配線層15bの配置の余裕度が(L1-L2)の大きさで確保されることとなる。したがって、コイル部品1の製造工程における、下側の配線層15aに対する上側の配線層15bの積みずれや踏み外しの発生を効果的に防止することができる。
【0019】
また、コイル部品1では、上側の配線層のサイズを下側の配線層に対して小さくしてピラミッド状に配線層を積層するのではなく、配線層15のそれぞれは、図2に示すように、同じ断面形状および同じサイズで形成され得る。すなわち、積層体断面に沿った、第2絶縁層21bの断面は、第1絶縁層21a側とは反対側の上辺の長さL2に対して第1絶縁層21a側の下辺の長さL1の長さが短い逆台形である。このため、コイル部品1では、下側の配線層15aの回路パターン22間の絶縁層21の量を上側の配線層15bに対して多くしたり、又は下側の配線層15aに対して上側の配線層15bの回路パターン22の数を減らしたり若しくは回路パターン22の幅を狭くする必要はない。また、コイル部品1では、絶縁層21の断面(したがって、配線層15の断面)が逆台形形状であるため、例えば配線層の断面を幅L2の矩形とする従来構成に比べて、積層体10を埋設する磁性層2の体積を増やすことができるので、コイル部品1としてのインダクタンス値を向上することができる。
【0020】
すなわち、コイル部品1では、インダクタンス値や電気抵抗等の電気的特性を損なうことなく、積層体10を形成する際の配線層15の積みずれや踏み外しを防止することができる。その結果、コイル部品1では、良好な特性を、高い製造歩留まりで安定に実現することができる。
【0021】
一例として、回路パターン22の幅wは5μm以上100μm以下、回路パターン22の厚みt1は5μm以上100μm以下、回路パターン22の相互の間隔gは5μm以上30μm以下である。また、例えば、回路パターン22の上部における絶縁層21の厚みt2は5μm以上40μm以下、絶縁層21の厚みt3は10μm以上140μm以下である。
【0022】
また、第1絶縁層21aの断面がなす逆台形の2つの側辺24cの一方又は双方について、側辺24c(例えば、図示右側の第1側辺)に最も近い回路パターン22の部分(すなわち、図示右端の回路パターン22)から側辺24cの上端まで、上辺24aに沿って測った第1距離L3と、側辺24cに最も近い回路パターン22の部分から側辺24cの下端まで、下辺24bに沿って測った第2距離L4とは、次の式(1)および式(2)を満たす範囲に設定されることが好ましい。
5μm≦L4≦20μm (1)
1.1≦L3/L4≦1.5 (2)
【0023】
なお、図2では図示上側の配線層15の図示右側端部においてL3およびL4を定義しているが、図示左側の端部においても、同様にL3およびL4が定義でき、式(1)および式(2)に示す条件が適用されることがより好ましい。図示上側の配線層15bにおいても同様である。
【0024】
式(1)において、下辺の長さL4は、5μm未満であると、配線層15とその下に隣接する層との密着性が弱く、絶縁性が低下するおそれがある。また、下辺の長さL4が20μmより大きいと、積層体10を覆う磁性層2の体積の減少により、インダクタンス値に有意な低下が認められ得る。
【0025】
また、式(1)においてL4が下限値5μmである場合には、式(2)における下限値1.1に相当するL3の値は5.5μmであり、下側の配線層15に対する上側の配線層15の配置の許容誤差は、左右の片方向において0.5μm(=L3-L4)となる。この許容誤差は、配線層15を形成する際のフォトリソグラフィ工程に用いられる一般的なマスクアライナのアライメント精度を想定した値である。従い、使用するマスクアライナのアライメント精度が0.5μmより大きい場合には、これに応じて式(2)の下限値を調整するものとすることができる。
【0026】
なお、上記において、第1絶縁層21aの断面の上辺24aの長さL2は、第1絶縁層21aの上面に段差又は凹凸がある場合には、第1絶縁層21aを上方から視た平面投影視における注目部分の最大幅として測定され得る。上記長さL4の測定についても同様に、上記平面投影視において測定するものとすることができる。また、L1、L2、L3、L4は、それぞれ、回路パターン22の延在方向に沿って変化する場合には、回路パターン22の延在方向に沿って所定距離(例えば1mm)以上の、注目部分を含む区間における平均値とすることができる。第2絶縁層21bおよび後述する他の実施形態における寸法の測定においても同様である。
【0027】
コイル部品1の積層体10は、以下のように作製され得る。
図3および図4は、積層体10の製造工程を示す図である。
図3において、まず、平坦な基板40の上に樹脂を塗布して下蓋層3を形成し(S100)、下蓋層3の平坦な表面に、シード層41を形成する(S102)。基板40は、例えば、平坦なセラミック板である。また、シード層41は、SAP(Semi Additive Process;セミアディティブ工法)によるめっき成長を行うための、銅金属から成る給電膜であり、スパッタまたは無電解めっきを用いて形成され得る。
【0028】
次に、シード層41の上にレジスト42を塗布し、フォトリソグラフィを用いたパターンニングにより、回路パターン22を形成するための開口部43を設ける(S104)。続いて、電解めっきにより開口部43内において銅金属をめっき成長して回路パターン22を形成し(S106)、レジスト42を除去する(S108)。
【0029】
図4を参照し、次に、シード層41をエッチングにより除去する(S110)。ここで、ステップS102からS110までの工程は、本開示における、平面に沿って延在する回路パターン22を形成する工程に対応する。
【0030】
次に、真空加熱環境下で、絶縁層21となる感光性樹脂である絶縁ドライフィルム44を基板40に対してプレスし、回路パターン22の隙間に絶縁ドライフィルム44が充填されるように回路パターン22を覆う(S112)。絶縁ドライフィルム44は、いわゆる感光性永久膜または永久レジストであり、本実施形態では、ネガタイプである。
【0031】
続いて、フォトリソグラフィを用いたパターンニングにより、絶縁ドライフィルム44のうち回路パターン22を覆う部分を残して他の部分を除去する(S114)。これにより、露光現像された感光性樹脂である絶縁ドライフィルム44により、下蓋層3の表面と平行な主面Laを有する第1絶縁層21aが形成される。ここで、ステップS112およびS114は、本開示における、回路パターン22を覆う、回路パターン22が形成された平面と平行な主面Laを有する第1絶縁層21aを形成する工程に対応する。
【0032】
ステップS114におけるフォトリソグラフィ工程では、特に、投影露光装置を絶縁ドライフィルム44の表面に対してオフフォーカスに設定する。本実施形態では、具体的には、投影露光装置の焦点を、絶縁ドライフィルム44の表面から離して(すなわち、表面から図示上方向にずらして)設定する。これにより、現像後において下蓋層3上に残される絶縁ドライフィルム44は、図4に示すように、逆台形形状の断面を有するものとなる。なお、絶縁ドライフィルム44がポジタイプである場合には、投影露光装置のフォーカス位置を、絶縁ドライフィルム44の内部方向へずらすことで(すなわち、表面より図示下方向にずらすことで)、同様の逆台形形状の断面を形成することができる。
【0033】
一般に、フォトリソグラフィにおける露光機のフォーカス位置は、高精度のパターンニングを行う観点から、通常はレジスト等の感光性樹脂の表面上に精度良く設定される。これに対し、本実施形態では、投影露光装置の焦点位置を、意図的に、絶縁ドライフィルム44の表面に対してオフフォーカスに設定することで、その後の露光、現像により、逆台形形状の断面を有する絶縁ドライフィルム44を第1絶縁層21aとして下蓋層3上に残す。
【0034】
これにより、主面Laに直交する第1絶縁層21aの断面を、主面La側の上辺の長さに対して主面Laとは反対側の下辺の長さが短い逆台形形状に形成する。
【0035】
続いて、上記形成された配線層15aの上面に対し、上述したステップS102からS114までの工程を繰り返すことにより、第1絶縁層21aの主面Laの上に、2層目の配線層15bの第2絶縁層21bを積層して、積層体10を形成する(S116)。ここで、2層目の配線層15bの形成に際しては、下蓋層3上において2つの絶縁層21のそれぞれの断面が、上辺の長さに対して下辺の長さが短い逆台形に形成されることから、上述したように1層目(下側)の配線層15aに対する2層目(上側)の配線層15bの積みずれや踏み外しの発生が防止される。
【0036】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図5は、第2の実施形態に係るコイル部品4の構成を示す図である。図5において、図1に示すコイル部品1と同じ構成要素については、図1における符号と同じ符号を用いて示すものとし、上述した図1についての説明を援用する。コイル部品4は、コイル部品1と同様の構成を有するが、積層体10に代えて積層体50を有する点が異なる。積層体50は、積層体10と同様に、図示上方から視た平面視がリング状に構成されている。
【0037】
図6は、図5のB部における積層体50の部分詳細図であり、積層体10の構成を示した図2に相当する図である。図6において、図2に示す積層体10と同じ構成要素については、図2における符号と同じ符号を用いて示すものとし、上述した図2についての説明を援用する。
【0038】
図6に示す積層体50は、下蓋層3の上に積み重なった2つの配線層55aおよび55bを有する。配線層55aは、主面Lbを有する第1絶縁層51aと、第1絶縁層51aに埋設された回路パターン52を有する。また、配線層55bは、第1絶縁層51aの主面Lb上に積層された第2絶縁層51bと、第2絶縁層51bに埋設された回路パターン52を有する。第1絶縁層51aは、第1絶縁層21aと同様に、その断面が、上辺56aの長さL2に対して下辺56bの長さL1が短い逆台形である。
【0039】
第1絶縁層51aは、その断面がなす逆台形の下辺56bの方向に沿って回路パターン52を挟む絶縁壁53aと、回路パターン52を覆う上部壁54aと、を有する。特に、絶縁壁53aは、すべて、その断面が、下蓋層3の向かう方向、すなわち上辺56aから下辺56bに向かう方向に沿って幅が減少する逆テーパ形状である。回路パターン52は、逆テーパ形状の絶縁壁53aの間にあって、その断面の形状が、下蓋層3に向かう方向に沿って幅が増加する台形形状である。第2絶縁層51bは、絶縁壁53aに対応する絶縁壁53bと、上部壁54aに対応する上部壁54bと、を有し、第1絶縁層51aと同様の形状を有する。以下、配線層55aおよび配線層55bを総称して配線層55ともいい、第1絶縁層51aおよび第2絶縁層51bを総称して絶縁層51ともいうものとする。また、絶縁壁53aおよび絶縁壁53bを総称して絶縁壁53ともいい、上部壁54aおよび上部壁54bを総称して上部壁54ともいうものとする。
【0040】
上記のような形状の絶縁層51は、その製造工程において、上述のような投影露光装置のオフフォーカス設定により複数の絶縁壁53の全てを一度に逆テーパ形状に形成し、その後に、これらの絶縁壁53の間に回路パターン52をめっき成長させることにより形成され得る。このように、積層体50では、回路パターン52の形成前に予め絶縁層51の絶縁壁53を形成することができるので、絶縁壁53とその下の構成要素(第1絶縁層51aでは、その下にある下蓋層3、および、第2絶縁層51bでは、その下にある第1絶縁層51a)との高い密着性を確保して、回路パターン52間の絶縁性を高めることができる。
【0041】
図7に示すように、配線層55については、図2に示す配線層15と同様に、回路パターン52の厚みt1、回路パターン52の相互の間隔g、回路パターン52の上部における絶縁層51の厚みt2、および絶縁層51の厚みt3が定義され得る。また、図2に示す絶縁層21と同様に、絶縁層51の断面がなす逆台形の側辺56cの一方又は双方について、側辺56cに最も近い回路パターン52から、上辺56aに沿って測った側辺56cの上端までの第1距離L3と、下辺56bに沿って測った側辺56cの下端までの第2距離L4と、が定義され得る。これらの寸法の具体例および好ましい条件については、上述した絶縁層21と同様である。
【0042】
積層体50は、以下のように作製され得る。
図8及び図9は、積層体50の製造工程を示す図である。図8及び図9において、図3及び図4と同じ構成要素については、図3及び図4における符号と同じ符号を用いて示すものとし、上述した図3及び図4についての説明を援用する。
【0043】
図8において、まず、平坦な基板40の上に樹脂を塗布して下蓋層3を形成し(S200)、下蓋層3の平坦な表面に、めっき成長のための銅金属層であるシード層41を形成する(S202)。
【0044】
次に、フォトリソグラフィによりシード層41をパターンニングしてシードパターン45を形成する(S204)。続いて、上述した図4におけるステップS112、S114と同様に、シードパターン45上に感光性樹脂である絶縁ドライフィルムをプレスして密着させたのち、この絶縁ドライフィルムをフォトリソグラフィによりパターンニングする。これにより、下蓋層3の表面上においてシードパターン45を挟む位置に、シードパターン45に沿って延在する絶縁壁53aを形成する(S206)。
【0045】
ここで、ステップS206では、上述した図4のステップS114と同様に、フォトリソグラフィ工程中において投影露光装置をオフフォーカス設定とする。これにより、すべての絶縁壁53aの断面を、後の工程において第2絶縁層51bを積層する主面Lbの側からその反対側に向かって幅が減少する逆テーパ状に形成する。
続いて、隣接する絶縁壁53a間において電解めっきにより銅金属をめっき成長して、台形状断面を持つ回路パターン52を形成する(S208)。
【0046】
図9を参照し、次に、絶縁壁53aと回路パターン52とを覆うように絶縁ドライフィルム44をプレスして密着させたのち(S210)、フォトリソグラフィにより絶縁ドライフィルム44の不要部分を除去して上部壁54aとし、下蓋層3上に1層目の配線層55aを形成する(S212)。これにより、絶縁壁53aと回路パターン52とを覆う、下蓋層3の表面がなす平面と平行な主面Lbを有する上部壁54aを形成する。逆テーパ形状の絶縁壁53aと上部壁54aとは、主面Lb側の上辺の長さに対して主面Lbとは反対側の下辺の長さが短い逆台形形状の第1絶縁層51aを構成する。
【0047】
続いて、上記形成された配線層55の上面に対し、上述したステップS202からS212までの工程を繰り返すことにより、上記形成された配線層55aの上に配線層55bを形成して、積層体50を形成する(S214)。
【0048】
ここで、図8および図9に示す工程において、ステップS206は、平面内の一方向に配列された複数の絶縁壁を形成する工程に対応し、ステップ208は、複数の絶縁壁の間に、平面に沿って延在する回路パターンを形成する工程に対応する。また、ステップS210およびS212は、絶縁壁と回路パターンを覆う、平面と平行な主面を有する上部壁を形成する工程に対応し、ステップS214は、上記主面の上に第2絶縁層を積層する工程に対応する。
【0049】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
図10は、本発明の第3の実施形態に係るコイル部品5の構成を示す図である。図10において、図1に示すコイル部品1と同じ構成要素については、図1における符号と同じ符号を用いて示すものとし、上述した図1についての説明を援用する。コイル部品5は、コイル部品1と同様の構成を有するが、積層体10に代えて積層体60を有する点が異なる。積層体60は、積層体10と同様に、図示上方から視た平面視がリング状に構成されている。
【0050】
図11は、図10のC部における積層体60の部分詳細図であり、積層体10の構成を示した図2に相当する図である。図11において、図2と同じ構成要素については、図2における符号と同じ符号を用いて示すものとし、上述した図2についての説明を援用する。
【0051】
図11に示す積層体60は、図2に示す積層体10と同様の構成を有するが、配線層15aおよび15bに代えて、下蓋層3上に積み重なった2つの配線層65aおよび65bを有する点が異なる。配線層65aは、配線層15aと同様の構成を有するが、第1絶縁層21aに代えて第1絶縁層61aを有する。第1絶縁層61aは、第1絶縁層21aと同様の構成を有するが、その断面形状が第1絶縁層21aと異なる。具体的には、第1絶縁層61aの断面形状は、第1絶縁層61aの主面Lcの側の上辺66aの長さL2が下辺66bの長さL1より短い略台形形状をなし、かつ、2つの側辺66cが、それぞれ第1絶縁層61aの内部に向かって凹んだ弓なりの曲線をなす。
【0052】
配線層65bは、配線層15bと同様の構成を有するが、第2絶縁層21bに代えて、上述した第1絶縁層61aと同様の構成を有する第2絶縁層61bを含む。以下、第1絶縁層61aおよび第2絶縁層61bを総称して絶縁層61ともいい、配線層65aおよび配線層65bを総称して配線層65ともいうものとする。
【0053】
上述した構成により、積層体60を用いるコイル部品5では、絶縁層61の側辺がなす凹み部分に、磁性層2が入り込む追加のスペースが確保されるので、図2に示すような凹みのない絶縁層21を用いる場合に比べ、磁性層2の体積を増やして、コイル部品5としてのインダクタンス値を向上することができる。
【0054】
なお、積層体60において、絶縁層61の断面がなす逆台形形状の左右2つの側辺は、本実施形態では曲線をなすものとしたが、絶縁層61の内部に向かって凹部を形成する折れ線で構成されていてもよい。この場合にも、折れ線で構成される側辺の凹形状に磁性層2が入り込むことにより、コイル部品5のインダクタンス値を向上することができる。
【0055】
積層体60は、以下のように作製され得る。
図12及び図13は、積層体60の製造工程を示す図である。図12及び図13において、図3及び図4と同じ構成要素については、図3および図4における符号と同じ符号を用いて示すものとし、上述した図3及び図4についての説明を援用する。
【0056】
図12に示すステップS300からS308までの工程、並びに図13に示すステップS310およびS312の工程は、それぞれ、図3に示すステップS100からS108までの工程、並びに図4に示すステップS110およびS112の工程と同様であるので、上述した図3および図4についての説明を援用する。
【0057】
図13のステップS314では、上述したステップS114と同様に、投影露光装置をオフフォーカスに設定して、フォトリソグラフィを用いたパターンニングを行うことにより、絶縁ドライフィルム44のうち回路パターン22を覆う部分を残して他の部分を除去する。ただし、ステップS314では、特に、フォトリソグラフィにおける露光量を、ステップS114における露光量よりも少なく設定する。これにより、フォトリソグラフィにおける露光工程に続く現像工程において過現像状態を作り出し、パターンニングした絶縁ドライフィルム44の側面部分に凹形状を形成する。これにより、下蓋層3上に1層目の配線層65が形成される。
【0058】
続いて、上記形成された配線層65の上面に対し、ステップS302からS314までの工程を繰り返すことにより、上記形成された配線層65の、第1絶縁層61aの主面Lcの上に、2層目の配線層65が形成され、積層体60が形成される(S316)。
【0059】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。
図14は、本発明の第4の実施形態に係るコイル部品6の構成を示す図である。図14において、図1に示すコイル部品1と同じ構成要素については、図1における符号と同じ符号を用いて示すものとし、上述した図1についての説明を援用する。コイル部品6は、コイル部品1と同様の構成を有するが、積層体10に代えて積層体70を有する点が異なる。積層体70は、積層体10と同様に、図示上方から視た平面視がリング状に構成されている。
【0060】
図15は、図14のD部における積層体70の部分詳細図であり、積層体10の構成を示した図2に相当する図である。図15において、図2に示す積層体10と同じ構成要素については、図2における符号と同じ符号を用いて示すものとし、上述した図2についての説明を援用する。
【0061】
図15に示す積層体70は、図2に示す積層体10と同様の構成を有するが、下蓋層3から最も遠い第2絶縁層21bの上方の最上層に積層された、第3絶縁層71をさらに有する。第3絶縁層71と、第3絶縁層71に埋設された回路パターン72とは、配線層75を構成する。第3絶縁層71は、絶縁層21と同様の構成を有するが、その断面形状が絶縁層21と異なる。すなわち、第1絶縁層21aの断面に沿った第3絶縁層71の断面は、第2絶縁層21bとは反対側の上辺75aの長さL5が第2絶縁層21b側の下辺75bの長さL6と同じ矩形である。
【0062】
上記の構成を有する積層体70は、最上層となる配線層75の第3絶縁層71の断面形状が、配線層15のような逆台形形状ではなく矩形であることから、コイル部品6の製造工程において、磁性層2への埋設が容易となる。
【0063】
図16は、コイル部品6の作製時における、積層体70を磁性層2に埋設する工程の一例を示す図である。積層体70は、例えば、断面がE字形の磁性ペレット2aの開口部に挿入されたのち、断面がI字形の磁性ペレット2bが、図示上方から白抜き矢印の方向へ加圧溶融されることにより、磁性ペレット2a及び2bが構成する磁性層2の内部に埋設される。なお、積層体70を磁性層2に埋設する工程は、上記に限られず、例えば、磁性粉を樹脂に含有させたシート状のものを、積層体70の上下それぞれから挟み込むように配置し、当該シートを加熱プレスすることにより、積層体70を当該シートが構成する磁性層2の内部に埋設してもよい。
【0064】
その際、積層体70の最上層である配線層75の第3絶縁層71の断面が逆台形ではなく矩形であることから、図示上方から加圧溶融される磁性ペレット2bは、積層体70の外表面に沿った流れを形成しやすく、磁性ペレット2aの開口内において磁性ペレット2aと積層体70との隙間へ容易に流れ込むことができる。このため、積層体70を用いたコイル部品6では、積層体70と磁性層2と間にボイド(泡状の空間)が発生しにくく、インダクタンス値の製造ばらつきを生じにくい。
【0065】
また、積層体70を用いた場合には、図15に示すように、最上層である配線層75の第3絶縁層71の上辺75aの長さL5及び下辺75bの長さL6を、その下の配線層15の絶縁層21の上辺の長さL2より短くすることで、すべての配線層を配線層15とする構成に比べて、磁性層2の体積を増やすことができ、コイル部品6のインダクタンス値を更に向上することができる。
【0066】
なお、積層体70の最上層の配線層の断面は、矩形に限らず台形であってもよい。
図17は、そのような、積層体70の変形例である積層体80の構成を示す図であり、積層体70の構成を示す図15に相当する図である。積層体80は、積層体70に代えて、コイル部品6に用いることができる。図17において、図15に示す積層体70の構成要素と同じ構成要素については、図15における符号と同じ符号を用いて示すものとし、上述した図15についての説明を援用する。
【0067】
図17に示す積層体80は、積層体70と同様の構成を有するが、その最上層に、配線層75に代えて配線層85を有する点が異なる。配線層85は、配線層75と同様の構成を有するが、第3絶縁層71に代えて第3絶縁層81を有する点が異なる。第3絶縁層81は、第3絶縁層71と同様の構成を有するが、その断面形状が、上辺85aの長さL7が下辺85bの長さL8より短い台形である。
【0068】
上記の構成を有する積層体80は、例えば、図16に示す工程により磁性層2内に埋設される場合に、最上層に位置する配線層85の台形断面の側辺を、加圧溶融された磁性ペレット2bが容易に滑り降りることができる。このため、積層体80は、積層体70に比べて、コイル部品を作製する際の磁性層2への埋設が更に容易になると共に、磁性層2におけるボイドの発生も更に抑制され得る。
【0069】
[その他の実施形態]
積層体10、50、60、70、80は、上述した実施形態では、それぞれ、配線層15、55、または65を2層有するものとしたが、3層以上有するものとしてもよい。
【0070】
また、上述した実施形態では、積層体を有する電子部品の一例としてコイル部品1、4、5、6を示したが、本発明が実施され得る電子部品は、その一部に積層体10、50、60、70、または80と同様の断面構造を有する積層体を含む、コイル部品以外の任意の電子部品であり得る。そのような積層体の平面視は、リング状に限らず、電子部品における回路設計に応じて、任意の形状を有し得る。
【0071】
また、上述した第1実施形態では、積層体断面、すなわちコイル部品の中心部分を含み第1絶縁層21aの主面Laに直交する第1絶縁層21aの断面について、特に限定しなかったが、第1絶縁層21aの断面形状が逆台形となるのは少なくとも一つの積層体断面であればよい。当該積層体断面に直交する第1絶縁層21aの断面においては、第1絶縁層21aの断面は、上辺24aの長さが下辺24bの長さと同じ矩形、または、上辺の長さ24aが、下辺24bの長さより短い台形であってもよい。ただし、コイル部品の中心部分を含み第1絶縁層21aの主面Laに直交するどの角度の積層体断面においても、第1絶縁層21aの断面形状が逆台形となることがより好ましい。他の実施形態においても同様である。
【0072】
また、回路パターン22、52は、上述した実施形態ではコイル部を構成するものとしたが、回路パターン22、52の構成は、これには限られない。回路パターン22、52は、スパイラル状、1ターン未満の周回形状、直線状、またはミアンダ状などであってもよい。
【0073】
また、上述した実施形態および変形例に示す特徴構成は、任意の電子部品において相互に組み合わせて用いることができる。例えば、電子部品は、上述した積層体10、50、60、70、および80と同様の構成を有する任意の数の積層体の任意に組み合わせを備え得る。あるいは、電子部品は、上述した配線層15、55、65、75、および85と同様の構成を有する任意の数の配線層を任意に組み合わせた積層体を備えるものとすることができる。
【0074】
なお、上述した全ての実施形態および変形例は、本発明の一態様を例示したものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において任意に変形及び応用が可能である。
【0075】
また、上述した実施形態における水平、及び垂直等の方向や各種の数値、形状、材料は、特段の断りがない限り、それら方向や数値、形状、材料と同じ作用効果を奏する範囲(いわゆる均等の範囲)を含む。
【0076】
[上記実施形態によりサポートされる構成]
上述した実施形態及び変形例は、以下の構成をサポートする。
【0077】
(構成1)主面を有する第1絶縁層と、前記第1絶縁層に埋設され、前記主面と平行な平面に沿って延在する回路パターンと、前記主面上に積層された第2絶縁層と、を備え、前記主面に直交する前記第1絶縁層の断面は、前記主面側の上辺の長さに対して前記主面とは反対側の下辺の長さが短い逆台形である、電子部品。
構成1の電子部品では、第1絶縁層が逆台形形状に形成されるので、その上に積み重ねられる第2絶縁層の積みずれや踏み外しを防止することができる。
【0078】
(構成2)前記第1絶縁層の前記断面に沿った、前記第2絶縁層の断面は、前記第1絶縁層側とは反対側の上辺の長さに対して前記第1絶縁層側の下辺の長さが短い逆台形である、構成1に記載の電子部品。
構成2の電子部品では、積み重ねられる絶縁層のそれぞれを互いに同じ断面を有するように構成され得るので、絶縁層の積みずれや踏み外しを避けるために上層における絶縁層の幅を狭くする必要がなく、従って上層の回路パターンの幅を狭くする等の制約が生じない。このため、構成2の電子部品によれば、電気的特性を損なうことなく、配線層の積みずれや踏み外しを防止することができる。
【0079】
(構成3)前記第1絶縁層の前記断面がなす逆台形の、前記上辺の端部と前記下辺の端部とにつながる2つの対向する側辺は、前記第1絶縁層の内部に向かって凹んだ曲線または折れ線をなす、構成1または2に記載の電子部品。
構成3の電子部品によれば、積層体を磁性体などの電気材料の中に埋め込む場合に、絶縁層の側辺に形成される凹部に、電気材料が入り込む追加のスペースを確保できるので、電子部品の電気特性を向上することができる。
【0080】
(構成4)前記第1絶縁層は、前記第1絶縁層の前記断面がなす逆台形の前記下辺の方向に沿って前記回路パターンを挟む絶縁壁を含み、前記第1絶縁層の前記断面における前記絶縁壁の断面は、前記上辺側から前記下辺側に向かう方向に沿って幅が減少する逆テーパ形状である、構成1ないし3のいずれかに記載の電子部品。
構成4の電子部品によれば、例えば、その製造工程において回路パターンの形成前に、投影露光装置のオフフォーカス設定により複数の絶縁壁の全てを一度に逆テーパ形状に形成して、最終的な絶縁層全体の断面を逆台形形状とすることができる。このように、構成3の電子部品によれば、回路パターン形成前に絶縁壁が形成され得るので、回路パターン間の絶縁性を高めることができる。
【0081】
(構成5)前記第1絶縁層の前記断面がなす逆台形の、前記上辺の端部と前記下辺の端部とにつながる2つの対向する側辺の一方である第1側辺について、前記第1側辺に最も近い前記回路パターンの部分から前記第1側辺の上端まで、前記上辺に沿って測った第1距離と、前記第1側辺に最も近い前記回路パターンの部分から前記第1側辺の下端まで、前記下辺に沿って測った第2距離とは、前記第1距離に対する前記第2距離の比が1.1以上1.5未満であり、前記第2距離は、5μm以上20μm以下である、構成1ないし4のいずれかに記載の電子部品。
構成5の電子部品によれば、フォトリソグラフィ工程に用いられる一般的なアライメント精度を有するマスクアライナを用いて、配線層間における積みずれや踏み外しのない積層体を形成することができる。
【0082】
(構成6)前記第2絶縁層の上方の最上層に積層された第3絶縁層を、さらに有し、前記第1絶縁層の前記断面に沿った、前記第3絶縁層の断面は、前記第2絶縁層とは反対側の上辺の長さが前記第2絶縁層側の下辺の長さと同じ矩形、または、前記上辺の長さが、前記下辺の長さより短い台形である、構成1ないし5のいずれかに記載の電子部品。
構成6の電子部品によれば、積層体を磁性体などの電気材料の中に埋め込む場合に、積層体の外表面における電気材料の流れを容易にして、ボイドのない良好な埋設状態を容易に実現することができる。
【0083】
(構成7)前記回路パターンはコイルを構成する、構成1ないし5のいずれかに記載の電子部品であるコイル部品。
構成7のコイル部品によれば、インダクタンス値や電気抵抗等の電気特性を損なうことなく、配線層の積みずれや踏み外しを防止して、良好な特性を高い製造歩留まりで安定に実現することができる。
【0084】
(構成8)平面に沿って延在する回路パターンを形成する工程と、前記回路パターンを覆う、前記平面と平行な主面を有する第1絶縁層を形成する工程と、前記主面上に、第2絶縁層を積層する工程と、を備え、前記第1絶縁層を形成する前記工程では、前記回路パターンを覆うように感光性樹脂を配置し、前記感光性樹脂の表面に対しオフフォーカスに設定された投影露光装置からの照射光によって前記感光性樹脂を露光、現像することにより、前記主面に直交する前記第1絶縁層の断面を、前記主面側の上辺の長さに対して前記主面とは反対側の下辺の長さが短い逆台形形状に形成する、電子部品の製造方法。
構成8の電子部品の製造方法によれば、構成1に記載の電子部品を容易に作製することができる。
【0085】
(構成9)平面内の一方向に配列された、複数の絶縁壁を形成する工程と、前記複数の絶縁壁の間に、前記平面に沿って延在する回路パターンを形成する工程と、前記絶縁壁と前記回路パターンを覆う、前記平面と平行な主面を有する上部壁を形成する工程と、前記主面上に、第2絶縁層を積層する工程と、を備え、前記絶縁壁を形成する前記工程では、前記平面を覆うように感光性樹脂を配置し、前記感光性樹脂の表面に対しオフフォーカスに設定された投影露光装置からの照射光によって前記感光性樹脂を露光、現像することにより、前記平面に直交する前記絶縁壁の断面を、前記第2絶縁層を積層する側からその反対側に向かって幅が減少する逆テーパ状に形成し、前記絶縁壁と前記上部壁によって、前記主面側の上辺の長さに対して前記主面とは反対側の下辺の長さが短い逆台形形状の第1絶縁層を構成する、電子部品の製造方法。
構成9の電子部品の製造方法によれば、構成4に記載の電子部品を容易に作製することができる。
【符号の説明】
【0086】
1、4、5、6…コイル部品、2…磁性層、2a、2b…磁性ペレット、3…下蓋層、10、50、60、70、80…積層体、15、15a、15b、55、55a、55b、65、65a、65b、75、85…配線層、21、51、61…絶縁層、21a、51a、61a…第1絶縁層、21b、51b、61b…第2絶縁層、71、81…第3絶縁層、24a、56a、66a、75a、85a…上辺、24b、56b、66b、75b、85b…下辺、24c、56c、66c…側辺、22、52…回路パターン、40…基板、41…シード層、42…レジスト、43…開口部、44…絶縁ドライフィルム、53、53a、53b…絶縁壁、54、54a、54b…上部壁、La、Lb,Lc…主面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17