(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011062
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】電子部品、及び電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 17/00 20060101AFI20240118BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20240118BHJP
H01F 41/04 20060101ALI20240118BHJP
H01F 27/32 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
H01F17/00 D
H01F17/04 A
H01F41/04 C
H01F27/32 140
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112747
(22)【出願日】2022-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國森 敬介
【テーマコード(参考)】
5E044
5E062
5E070
【Fターム(参考)】
5E044CA02
5E062DD04
5E070AA01
5E070AB03
5E070CB13
5E070CB17
(57)【要約】
【課題】層間方向の厚みに占める導体の割合を高めることのできる電子部品を提供する。
【解決手段】電子部品は、層間方向の下側から上側にこの順に積層された第1回路パターン20aおよび第2回路パターン20bと、第1回路パターンと第2回路パターンとの間に配置された絶縁体22と、を備え、第2回路パターンは、層間方向の下側の端部20Aが、層間方向を含む断面の断面視において、層間方向の下側に位置するほど、層間方向に垂直な寸法である幅Waが狭まる形状になっている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層間方向の下側から上側にこの順に積層された第1回路パターンおよび第2回路パターンと、
前記第1回路パターンと前記第2回路パターンとの間に配置された絶縁体と、
を備え、
前記第2回路パターンは、
前記層間方向の下側の端部が、
前記層間方向を含む断面の断面視において、前記層間方向の下側に位置するほど、前記層間方向に垂直な寸法である幅が狭まる形状になっている、
電子部品。
【請求項2】
前記第2回路パターンは、前記層間方向の下側の端部が、曲面状となっている、
請求項1に記載の電子部品。
【請求項3】
前記第2回路パターンは、前記層間方向の上側の端部が、平面状となっている、
請求項1に記載の電子部品。
【請求項4】
前記第1回路パターンは、前記層間方向の下側の端部が、平面状となっている、
請求項1に記載の電子部品。
【請求項5】
前記第1回路パターンと、前記第2回路パターンとを電気的に接続するビアをさらに備え、
前記ビアは、
前記層間方向の下側の端部が、
前記層間方向を含む断面の断面視において、前記層間方向の下側に位置するほど前記幅が狭まる形状になっている、
請求項1に記載の電子部品。
【請求項6】
前記層間方向を含む断面の断面視において、
前記第2回路パターンの前記層間方向の下側の端部が、
前記第1回路パターンの前記層間方向の上側の端部よりも、前記層間方向の下側に位置している、
請求項1に記載の電子部品。
【請求項7】
前記第1回路パターンと、前記第2回路パターンが繋がって螺旋状のコイル体を構成する、
請求項1ないし6のいずれか一項に記載の電子部品。
【請求項8】
平面上に第1回路パターンを形成する第1ステップと、
前記第1回路パターンを覆うように感光性の絶縁性材料を形成する第2ステップと、
第2回路パターン用トレンチを前記絶縁性材料の表面の露光及び現像によって形成する第3ステップと、
前記第2回路パターン用トレンチに導電性材料を充填して第2回路パターンを形成する第4ステップと、
を含み、
前記第3ステップにおいて、
前記第1回路パターンと前記第2回路パターンが積み重なっている方向である層間方向に沿って深くなるほど、前記層間方向に垂直な寸法である幅が狭まる底部を有する前記第2回路パターン用トレンチを形成する、
電子部品の製造方法。
【請求項9】
前記第3ステップにおいて、
前記第2回路パターン用トレンチの形成の後、
前記第2回路パターン用トレンチの少なくとも一部の底部に、ビア用トレンチを、当該底部の絶縁性材料に対する追加の露光及び現像によって形成する、
請求項8に記載の電子部品の製造方法。
【請求項10】
前記絶縁性材料は、主材よりも屈折率が大きなフィラー材を含む、
請求項8または9に記載の電子部品の製造方法。
【請求項11】
前記第3ステップにおいて、
前記露光に用いる光を、前記絶縁性材料の表面、又は、当該表面よりも前記絶縁性材料の内部で焦点を結ぶように照射する、
請求項8または9に記載の電子部品の製造方法。
【請求項12】
前記第3ステップにおいて、
前記第2回路パターン用トレンチが前記第1回路パターンに貫通する現像時間よりも短い現像時間で現像する、
請求項8または9に記載の電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品、及び電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、絶縁体層、及び導体層を積層した積層体を備え、当該積層体が下層の導体層と上層の導体層とを電気的に接続するビアを備える積層型の電子部品が知られている。また、特許文献1および特許文献2には、かかる積層型の電子部品の製造方法が示されている。
【0003】
特許文献1が示す製造方法は次の通りである。
先ず、熱可塑性樹脂の第1の絶縁基材、及び第3の絶縁基材のそれぞれの片面全面に、銅箔等からなる導体パターンを形成する。次に、熱可塑性樹脂の第2の絶縁基材の所定箇所にレーザ加工やエッチング等により貫通孔を形成し、この貫通孔に導電ペーストを充填する。そして、導体パターンを下方向に向けた第1の絶縁基材を最上層とし、第2の絶縁基材と、導体パターンを上方向に向けた第3の絶縁基材とを、この順に積層する。そして、第1の絶縁基材、第2の絶縁基材、及び第3の絶縁基材を加熱プレスすることで、これらを一体化する。この加熱プレスの際に、貫通孔の導電ペーストが硬化することでビアが形成される。
【0004】
特許文献2が示す製造方法は次の通りである。
先ず、第1絶縁層の表面にフォトリソグラフィによって溝を形成する。次に、この溝内に導電ペーストを塗布して溝内にコイル導体層を形成する。次いで、第1絶縁層上およびコイル導体層上に絶縁ペーストをスクリーン印刷によって塗布して第2絶縁層を形成し、この第2絶縁層にビア導体層を形成する。そして、これらの工程を複数繰り返して積層体を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6424453号公報
【特許文献2】特開2020-194976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の製造方法は次の課題を有している。
特許文献1の製造方法により得られる積層体は、第1の絶縁基材の導体パターンが形成された面と、第3の絶縁基材の導体パターンが形成された面と、が第2の絶縁基材を挟んで対向する、いわゆるサンドイッチ構造となる。このため、特許文献1の製造方法では対向する2つの導体パターン間の間隔を狭めることはできるものの、積層数をそれ以上増やす場合は、絶縁基材を介して積層することになるため、絶縁基材を介する導体パターン間の間隔を狭めることができない。したがって、層間方向における電子部品の厚みに占める導体パターンの割合を高めることができない。
【0007】
特許文献2の製造方法は、第1絶縁層に形成したコイル導体層が溝から突出している場合、当該第1絶縁層に積層する第2絶縁層の厚みが薄いと、第2絶縁層がコイル導体層の部分で盛り上がることで、層間方向を含む断面視において第2絶縁層が波打った形状となり、第2絶縁層の上への他の層の形成に支障を来たす。このため、第1絶縁層に形成したコイル導体層の突出を吸収する程度には第2絶縁層を厚くする必要があり、第2絶縁層を薄くするには限界があるため、層間方向における電子部品の厚みに占めるコイル導体層の割合を大きくできない。
【0008】
本発明は、層間方向の厚みに占める導体の割合を高めることができる電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一の態様は、層間方向の下側から上側にこの順に積層された第1回路パターンおよび第2回路パターンと、前記第1回路パターンと前記第2回路パターンとの間に配置された絶縁体と、を備え、前記第2回路パターンは、前記層間方向の下側の端部が、前記層間方向を含む断面の断面視において、前記層間方向の下側に位置するほど、前記層間方向に垂直な寸法である幅が狭まる形状になっている。
本発明の他の態様は、平面上に第1回路パターンを形成する第1ステップと、前記第1回路パターンを覆うように感光性の絶縁性材料を形成する第2ステップと、第2回路パターン用トレンチを前記絶縁性材料の表面の露光及び現像によって形成する第3ステップと、前記第2回路パターン用トレンチに導電性材料を充填して第2回路パターンを形成する第4ステップと、を含み、前記第3ステップにおいて、前記第1回路パターンと前記第2回路パターンが積み重なっている方向である層間方向に沿って深くなるほど、前記層間方向に垂直な寸法である幅が狭まる底部を有する前記第2回路パターン用トレンチを形成する、電子部品の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、層間方向の厚みに占める導体の割合を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るコイル部品の内部構造を示す模式図である。
【
図2】積層体の層間方向を含む断面の断面視における第2回路パターンとビアのそれぞれを拡大して示す図である。
【
図3】コイル部品の製造工程の一例を示す図である。
【
図5】絶縁性材料の内部における光の散乱、回折及び反射を示す図である。
【
図6】曲線部を有するトレンチの形成過程を示す図である。
【
図7】現像時間と第2回路パターン用トレンチの形状との関係を示す図である。
【
図8】露光の光の焦点位置とトレンチの形状との関係を示す図である。
【
図9】本発明の第2実施形態にかかるコイル部品の内部構造の模式図である。
【
図10】コイル部品におけるコイル体の配線トポロジーを示す図である。
【
図11】コイル部品の製造工程の一例を示す図である。
【
図12】本発明の他の実施形態に係る積層体の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
本実施形態では、積層型の電子部品の一例としてコイル部品を説明する。なお、図面は、一部に模式図を含む場合がある。また、模式図における寸法や比率は実際の数値と異なる場合がある。
【0013】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態に係るコイル部品1の内部構造の模式図である。
コイル部品1は、絶縁性材料から成る支持板3の平面上に一方向に積み重なった第1回路パターン20a及び第2回路パターン20bと、第1回路パターン20aと第2回路パターン20bとの間に配置された絶縁性材料から成る絶縁体22と、を備える。第1回路パターン20a、第2回路パターン20b、および絶縁体22は、積層体10を構成する。積層体10の表面には、一対の外部電極(図示せず)が設けられる。
【0014】
ここで、第1回路パターン20aと第2回路パターン20bとが積み重なっている方向を層間方向(層間方向とも称される)と定義し符号Zを付す。また、層間方向Zに直交する平面をXY平面と定義する。XY平面のX方向は、図面の左右方向に対応し、Y方向は図面の奥行き方向に対応する。
【0015】
また、本明細書において、層間方向Z、X方向、及びY方向の各方向について用いる「上」や「下」、「左」、「右」の各用語は、相対的方向の区別のために図面に基づいて便宜的に用いられており、絶対的な方向を示す鉛直方向、及び水平方向、並びに、電子部品の実装状態や使用状態における姿勢を基準とした方向に対応するものではない。
以下、層間方向に沿って支持板3の方向を「下側」、これに対向する方向を「上側」と称する。
【0016】
第1回路パターン20aと第2回路パターン20bとは、XY平面に沿って延伸し、第1回路パターン20aの一部と第2回路パターン20bの一部とが、ビア24により互いに電気的に接続されて、巻線形状のコイル体を構成している。
【0017】
コイル部品1は、その一部に積層体10を内包すればよい。すなわち、コイル部品1は、層間方向Zを含む断面の断面視において、断面の全部が
図1に示す積層体10の構造である必要はなく、当該断面の一部に積層体10の構造を含んでいればよい。
【0018】
絶縁体22は、絶縁性材料を主材とし、コイル部品1の素体の主たる構成要素である。すなわち、コイル部品1は、絶縁体22により構成された絶縁性の素体の内部に上述のコイル体が埋設された構造を有している。
【0019】
本実施形態において、絶縁体22を構成する絶縁性材料は、例えばガラスの焼結体である。当該ガラスは、例えば、ガラス粉末を感光性の絶縁性樹脂に混合したガラスペーストに、素体の強度を確保するため酸化アルミニウム(Al2O3)を主材とするフィラー材も含ませたものを焼成して形成される。かかる絶縁性材料から成る絶縁体22は非磁性体でもあることから、コイル部品1は、Q値(quality factor)が高く、また磁気損失が抑えられており、ギガヘルツ帯の高周波信号用の各種の回路や、無線通信回路などに好適なものとなっている。ただし、絶縁体22を構成する絶縁性材料は、ガラスや非磁性体に限定されず、アルミナやフェライトなどの他の焼結体や、非磁性体の樹脂、磁性粉含有樹脂を硬化させたものであってもよい。
【0020】
支持板3は、絶縁体22と同様に絶縁性材料を主材とする層であり、同様の絶縁性材料からなる。支持板3および絶縁体22は、絶縁性材料の領域として一体化している。なお、支持板3は、その主面上に第1回路パターン20aが形成された層であればよく、実際に支持機能やそれを担保する強度などを有する必要は無い。また、支持板3は多層構造となっていてもよく、その多層の一部が着色されてマーカー機能を有していてもよい。
【0021】
第1回路パターン20a、第2回路パターン20b、およびビア24は、導電性材料で形成される。
本実施形態において、導電性材料は、例えば銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)、アルミニウム(Al)、あるいはこれらを主成分として含む合金などの金属である。当該金属は、金属粉末を樹脂に混合した導電性ペーストを焼結させたものであってもよいし、当該金属を薄膜法で形成したものであってもよい。
【0022】
図2は、積層体10の層間方向Zを含む断面の断面視における第2回路パターン20bとビア24のそれぞれを拡大して示す図である。なお、以下では、層間方向Zを含む断面を「層間方向断面」と称する。また、層間方向断面は、第2回路パターン20bの延伸する方向を横切る横断面であり、かつ、ビア24の中心を通る断面である。もしコイル部品1がこのような断面を取得できない構造の場合は、第2回路パターン20bの横断面と、ビア24の中心を通る断面と、をそれぞれ別に取得し、それぞれを層間方向断面とすればよい。
【0023】
同図に示すように、コイル部品1は、層間方向Zの下側から上側にこの順に積層された第1回路パターン20aおよび第2回路パターン20bと、第1回路パターン20aと第2回路パターン20bとの間に配置された絶縁体22と、を備える。すなわち、層間方向Zの上側は第1回路パターン20aから第2回路パターン20bに向かう方向であり、層間方向Zの下側は第2回路パターン20bから第1回路パターン20aに向かう方向である。
【0024】
上述したように、コイル部品1は、第1回路パターン20aと、第2回路パターン20bとを電気的に接続するビア24をさらに備える。層間方向断面視において、第2回路パターン20b及びビア24の外形には、曲線部52、53が含まれている。これら曲線部52、53は、第2回路パターン20b及びビア24の層間方向Zにおける下側の端部20A、24Aに形成されている。これらの曲線部52、53により、第2回路パターン20b及びビア24は、それぞれ、層間方向の下側の端部が、層間方向を含む断面の断面視において、層間方向の下側に位置するほど、層間方向に垂直な寸法であるX方向の幅Wa、Wbが狭まる形状になっている。なお、幅Waは、層間方向断面視における第2回路パターン20bの層間方向に垂直な寸法であり、幅Wbは、層間方向断面視におけるビア24の層間方向に垂直な寸法である。
【0025】
すなわち、第2回路パターン20bは、層間方向Zの下側の端部が、曲面状となっており、これにより、第2回路パターン20bの下部において比較的薄くなった絶縁体22との密着性を向上させ、第2回路パターン20bと絶縁体22との間で剥離が起こることを抑制できる。
【0026】
また、層間方向Zにおける曲線部52と反対側の、第1回路パターン20aの層間方向の上側の端部である部位51は、X方向に略直線状になっており、当該略直線状な部位51にビア24が接続されている。すなわち、第1回路パターン20a及び第2回路パターン20bは、層間方向Zの上側の端部が、平面状となっており、これにより、第1回路パターン20a及び第2回路パターン20bの断面積を大きくすることで、直流電気抵抗を低減できる。なお、本実施形態では、第1回路パターン20aは、
図1に示すように、層間方向Zの下側の端部も平面状となっており、第1回路パターン20aの直流電気抵抗を更に低減し得る。
【0027】
本実施形態では、また、ビア24の幅Wbの最大値は第2回路パターン20bの幅Waの最大値よりも小さくなっており、第2回路パターン20bとビア24との接続部分17に段形状が形成されている。
【0028】
このように、第2回路パターン20b及びビア24が層間方向Zにおいて幅Wa、Wbが狭まる形状を有することで、幅Wa、Wbが略一定である場合に比べ、後述するように、層間方向Zの厚みに占める導体(すなわち、第1回路パターン20a及び第2回路パターン20b)の割合を高めることができる。また、第2回路パターン20b及びビア24上記の形状を有することにより、第2回路パターン20bの端部20A、及びビア24の端部24Aのそれぞれの周囲に絶縁体22の絶縁性材料が入り込む構造となり、積層体10における層間の密着性を向上させることができる。特に、接続部分17が段形状となることで密着性を更に向上させることができる。
【0029】
なお、本実施形態の積層体10において、第2回路パターン20bの下部における絶縁体22の層間方向Zの厚みは1μm以上5μm以下である。また、層間方向断面視において、第2回路パターン20bのX方向の幅は10μm以上30μm以下であり、層間方向Zの厚みは10μm以上30μmである。また、コイル部品1の全体の寸法としては、長手方向の寸法が、1.0mm以下であり、特に0.4mm以下であることが好ましい。また、層間方向の寸法は、0.5mm以下であり、特に0.2mm以下であることが好ましい。さらに、長手方向及び層間方向の両方に直交する方向の寸法は、0.5mm以下であり、特に0.2mm以下であることが好ましい。
【0030】
次いで、本実施形態にかかるコイル部品1の製造方法を詳述する。
図3は、コイル部品1の製造工程の一例を示す図である。なお、断面を示す各図において、ハッチングは断面を明示するものではなく、感光性のガラスペースト(絶縁性材料)が未硬化の状態であることを示している。
先ず、平面上、すなわち支持板3の上面に1層目の第1回路パターン20aを、導電性ペーストの印刷、及び当該導電性ペーストの乾燥によって形成する(ステップSa1)。ステップSa1は、本開示における、平面上に第1回路パターンを形成する第1ステップに相当する。
【0031】
次いで、第1回路パターン20aを覆うように、支持板3の上面3Aに、絶縁体22となる感光性のガラスペーストである絶縁性材料25を印刷し、その後、当該絶縁性材料25を乾燥する(ステップSa2)。ステップSa2は、本開示における、第1回路パターンを覆うように感光性の絶縁性材料を形成する第2ステップに相当する。ステップSa1、Sa2により、絶縁体22に埋設された第1回路パターン20aが形成される。
【0032】
次に、第2回路パターン20bとビア24とを形成する処理を行う。
具体的には、先ず、絶縁性材料25の表面に、後述の露光現像処理を施すことで第2回路パターン用トレンチ62、及びビア用トレンチ63を形成する(ステップSa3)。ステップSa3は、本開示における、第2回路パターン用トレンチを前記絶縁性材料の表面の露光及び現像によって形成する第3ステップに相当する。
【0033】
第2回路パターン用トレンチ62は、第1回路パターン20aに到達しない深さDa、すなわち、第1回路パターン20aとの間に所定厚みの絶縁体22が得られる深さDaに形成される溝である。
一方、ビア用トレンチ63は、第2回路パターン用トレンチ62の一部の底部に形成され、絶縁体22を貫通して下層の第1回路パターン20aに至る貫通孔である。以下では、第2回路パターン20bの下部における絶縁体22の所定厚みを「層間距離α」と称する。ビア用トレンチ63を底部に含む第2回路パターン用トレンチ62の全体の深さDbは、第2回路パターン用トレンチ62の深さDaと層間距離αの合算値となる。
【0034】
また、ステップSa3によって形成された第2回路パターン用トレンチ62、及びビア用トレンチ63は、層間方向断面視において、上記曲線部52、53に対応した形状の曲線部62A、63Aを、それぞれの底部に含んでいる。すなわち、第3ステップであるステップSa3では、第1回路パターン20aと第2回路パターン20bが積み重なっている方向である層間方向に沿って深くなるほど、層間方向に垂直な寸法である幅Waが狭まる底部を有する第2回路パターン用トレンチ62を形成する。
【0035】
このように、ステップSa3の露光現像処理では、互いに深さDa、Dbが異なり、かつ曲線部62A、63Aを含む第2回路パターン用トレンチ62、及び、ビア用トレンチ63が同じ処理ステップの中で形成されており、処理工程の簡略化が図られている。なお、かかる露光現像処理については後述する。
【0036】
次に、第2回路パターン用トレンチ62、及びビア用トレンチ63に導電性ペーストを印刷によって充填し、当該導電性ペーストを乾燥する(ステップSa4)。これにより、第2回路パターン20b及びビア24が形成される。ステップSa4は、本開示における、第2回路パターン用トレンチに導電性材料を充填して第2回路パターンを形成する第4ステップに相当する。
【0037】
その後、積層体10を所定の条件で焼成した後、バレル加工を施し、積層体10の表面に外部電極を設け、当該外部電極にスズ(Sn)やニッケル(Ni)等のメッキ処理を施すことで、積層型のコイル部品1が完成する。ただし、外部電極は第2回路パターン20bと同時に積層体10の内部(すなわち、絶縁性材料25の内部)に形成してもよい。
なお、ステップSa1からステップSa4の印刷には、スクリーン印刷やインクジェット印刷を用いることができ、本実施形態では、スクリーン印刷が用いられる。
【0038】
本実施形態の製造方法によれば、絶縁性材料25に形成する第2回路パターン用トレンチ62の深さを、フォトリソグラフィを用いて精度よく制御することができるので、第2回路パターン20bと第1回路パターン20aとの間の絶縁性材料25の厚みを薄く制御して、導体である第1回路パターン20aと第2回路パターン20bが、絶縁性材料25の全体としての層間方向の厚み(すなわち、積層体10の層間方向の厚み)に占める割合を高めることができる。
【0039】
また、第2回路パターン20bの下部における絶縁体22の厚み、すなわち層間距離αは、第2回路パターン用トレンチ62の深さDaによって制御されるため、上述の特許文献2のように、導体層の上に絶縁体層をスクリーン印刷で形成する構成に比べ、印刷性能の制限を受けることなく、1μm以上5μm以下の薄い層間距離αを実現できる。これにより、導体である第1回路パターン20aおよび第2回路パターン20bが、積層体10の層間方向Zの厚みに占める割合を増やすことができ、より性能の高いコイル部品1を得ることができる。
【0040】
次いで、ステップSa3における露光現像処理について詳述する。
図4は、露光現像処理の処理工程を示す図である。
第3ステップであるステップSa3の露光現像処理では、絶縁性材料25の表面の露光及び現像により第2回路パターン用トレンチ62を形成した後に、第2回路パターン用トレンチ62の少なくとも一部の底部に、ビア用トレンチ63を、当該底部の絶縁性材料25に対する追加の露光及び現像を行って形成する。
【0041】
具体的には、先ず、上述のステップSa2における印刷によって形成された未硬化の絶縁性材料25の表面から所定距離だけ層間方向Zの上方に離れた位置に、フォトマスク72、72を配置した状態で1度目の露光を実行し(ステップSb1)、そして現像する(ステップSb2)。本実施形態の感光性の絶縁性材料25はネガ型の材料であり、この1度目の露光及び現像では、フォトマスク72、72のそれぞれの直下に深さDa(<Db)の第2回路パターン用トレンチ62が形成される。
【0042】
次いで、ビア用トレンチ63の形成対象の第2回路パターン用トレンチ62から層間方向Zの上方に所定距離だけ離れた位置にフォトマスク72を配置しつつ、他の第2回路パターン用トレンチ62にはフォトマスク72を配置しない状態で2度目の露光を実行し(ステップSb3)、そして、現像する(ステップSb4)。
この2度目(すなわち、追加の)の露光及び現像により、ビア24の形成対象の第2回路パターン用トレンチ62の底部にビア用トレンチ63が形成される。一方、ステップSb3における2度目の露光では、第2回路パターン用トレンチ62のうちビア24の形成対象ではない部分の底部(例えば、図示左方の第2回路パターン用トレンチ62の底部)が硬化することで、第2回路パターン用トレンチ62の当該底部と第1回路パターン20aとの間の絶縁性材料25の厚みを、層間距離αに相当する厚みに形成する。
【0043】
かかる露光現像処理によれば、第2回路パターン用トレンチ62と、ビア用トレンチ63とが形成されるため、これら第2回路パターン用トレンチ62及びビア用トレンチ63の両方に導電性ペーストを充填する処理(
図3:ステップSa4)を実行することで、第2回路パターン20b及びビア24を同時に形成することができる。
また、第2回路パターン用トレンチ62の形成によって、第1回路パターン20aと第2回路パターン20bと間に絶縁体22の層が形成されるので、第1回路パターン20aと第2回路パターン20bと間に絶縁体層を別途に形成する処理が不要となり処理工程の簡略化を図ることができる。
【0044】
ところで、本実施形態では、絶縁性材料25は、主材よりも屈折率が大きなフィラー材を含んでおり、絶縁性材料25に対する露光及び現像によって第2回路パターン用トレンチ62及びビア用トレンチ63を形成する際には、それぞれの底部に上述の曲線部62A、63Aが形成されるようになっている。
【0045】
詳述すると、
図5に示すように、絶縁性材料25として用いるガラスペースト18には、フィラー材19が含まれており、このフィラー材19には、素体の強度を確保するために酸化アルミニウムが用いられている。酸化アルミニウムは屈折率が絶縁性材料25(より正確には、絶縁性材料25の主材である絶縁性樹脂)に比べて高いため、感光性の絶縁性材料25を露光して第2回路パターン用トレンチ62、及びビア用トレンチ63を形成するとき、
図5に示すように、絶縁性材料25の内部で、露光に用いる光Hの散乱、回折、及び反射が生じる。この光Hの散乱、回折、及び反射を、酸化アルミニウムの含有量によって適切に調整することにより、以下の処理を実現できる。
【0046】
具体的には、
図6に示すように、平行光の露光の光Hを照射する露光時には、ガラスペースト18の表面から深くなるほど、露光の光HがX方向に散乱によって拡がり、フォトマスクMの直下にも入り込むように、フィラー材19の酸化アルミニウムの含有量を調整する。この場合、層間方向断面視において、光硬化する硬化エリア80の形状は、ガラスペースト18の表面から深くなるほどフォトマスクMの中心Moに向かって入り込む略テーパー形状となり、フォトマスクMの直下の未硬化エリア82は略Vの字状となる。そして、未硬化エリア82が現像によって除去されることで、略Vの字状のトレンチ86が形成される。現像時には、未硬化エリア82の深部(Vの字状の頂点部)が溶解しないように現像時間が調整される。これにより、点線Lで示すように、トレンチ86の面は滑らかな曲線状となり、曲線を含む曲線部87を底部に含むトレンチ86が形成される。かかるトレンチ86が第2回路パターン用トレンチ62及びビア用トレンチ63に対応する。
【0047】
なお、上記の処理は、フィラー材19の酸化アルミニウムの含有量で調整する方法に限られない。例えば、フィラー材のサイズを露光の光Hの波長の数倍(例えば2倍や3倍)程度にすることで、散乱や回折、反射を顕著に生じさせることができ、曲線部87を含むトレンチ86が形成し易くなる。本実施形態のフィラー材は、サイズが1μm又は1μm以下となっている。
また、散乱を生じさせるフィラー材には、酸化アルミニウム(Al2O3)の他にも、二酸化ケイ素(SiO2)や窒化ケイ素(SiN)を用いることができる。
【0048】
なお、フィラー材19の光学的作用を利用する他にも、現像時間制御や、露光に用いる光Hの焦点位置制御を行うことで、曲線部62A、63Aを有した第2回路パターン用トレンチ62及びビア用トレンチ63を形成することができる。
【0049】
現像時間制御は、
図4の露光現像処理において、ステップSb2、及びステップSb4における現像時間をブレイクポイントBPよりも短縮して現像を行う制御である。ブレイクポイントBPは、絶縁性材料の表面から下層の第1回路パターン20aに至る範囲が未硬化エリア82となった状態において、当該未硬化エリア82の略全てが溶融して下層の第1回路パターン20aに貫通するトレンチ86が形成される現像時間である。なお、ステップSb2とステップSb4とでは、下層の第1回路パターン20aまでの絶縁性材料の厚みが異なるため、ブレイクポイントBPも異なっている。
【0050】
すなわち、現像時間制御では、
図4に示す露光現像処理(すなわち、第3ステップであるステップSa3)のステップSb2において、第2回路パターン用トレンチ62は、その形成箇所における絶縁性材料25が第1回路パターン20aに貫通する現像時間であるブレイクポイントBPよりも短い現像時間で現像する。また、ステップSb4では、ビア用トレンチ63は、その形成箇所における絶縁性材料25の未硬化エリア82の略全てが溶融する現像時間であるブレイクポイントBPよりも短い現像時間で現像する。
【0051】
以下、ステップSb2における2つの第2回路パターン用トレンチ62の現像を例にして、
図7を参照しながら現像時間制御について説明する。同図に示すように、現像時間がブレイクポイントBP以上である場合、2つの第2回路パターン用トレンチ62は、下層の第1回路パターン20aに貫通する貫通孔となるのに対し、現像時間がブレイクポイントBPより短くなると、2つの第2回路パターン用トレンチ62は貫通孔とならず、下層の第1回路パターン20aとの間に未硬化の絶縁性材料25が残る。
【0052】
この未硬化の絶縁性材料25は、ステップSb3の再度の露光により光硬化し、第2回路パターン20bの下部の絶縁体22の部分となる。現像時間が短いほど、第2回路パターン用トレンチ62の深さDaは浅くなるといったように現像時間と深さDaには相関がみられることから、現像時間の調整により、第2回路パターン用トレンチ62の深さDaを制御し、第2回路パターン20b下部の絶縁体22の厚みを所望の厚み(所望の層間距離α)とすることができる。
【0053】
また、第2回路パターン用トレンチ62が下層の第1回路パターン20aに貫通しない深さDaとなる現像時間で現像を停止した場合、第2回路パターン用トレンチ62の底部の形状は曲線状となり、これにより、底部に曲線部62Aが形成されることとなる。
なお、現像時間がブレイクポイントBPより短い場合には、現像時間がブレイクポイントBPに近づくほど、曲線部62Aの曲率は大きくなる。ただし、現像時間をブレイクポイントBPより十分に長い時間とした場合には、絶縁性材料25の未硬化部分はすべて除去されるので、曲率は、硬化形状(すなわち、露光光の侵入度合い)に依存することとなり、現像時間とは無関係となる。
【0054】
焦点位置制御は、
図4の露光現像処理において、ステップSb1、及びステップSb3のそれぞれで、露光に用いる光Hの焦点位置Pを調整する制御である。
具体的には、焦点位置制御では、
図4に示す露光現像処理(第3ステップであるステップSa3)のステップSb1及びステップSb3において、それぞれ、絶縁性材料25の露光に用いる光を、絶縁性材料25の表面、又は、当該表面よりも絶縁性材料25の内部で焦点を結ぶように照射する。
【0055】
図8に示すように、フォトマスクMを通過した光Hを集光レンズに通して絶縁性材料25の表面に照射する場合、集光レンズの焦点位置Pが絶縁性材料25の表面よりも層間方向Zの下側(すなわち、絶縁性材料25の内部)に位置するとき、平行光の光Hを照射したときに比べて絶縁性材料25の内部の照度が高くなる。このため、
図6に示した硬化エリア80がフォトマスクMの中心Moにより近い領域まで拡がり、この結果、
図8に示すように、X方向の幅が全体的に狭まったトレンチ86が形成される。なお、この場合、トレンチ86の底部のみならず全体が曲線部87(層間方向Zの下側に向かうほど幅が狭まる形状)になっているとも言える。
【0056】
集光レンズの焦点位置Pが絶縁性材料の表面の近傍に位置するとき、表面近傍での光Hの散乱等の影響が少ないため、トレンチ86の開口部近傍の側面86Sは略垂直(層間方向Zに略平行)となる。また、表面から深くなるほど光Hの散乱等の影響が大きくなることで、前掲
図6を参照して説明したように、トレンチ86の底部に曲線部87が形成される。
【0057】
このように、集光レンズの焦点位置Pを絶縁性材料の表面の近傍、及び、表面よりも下方に配置した状態で露光することで、曲線部87を有するトレンチ86を形成できる。
【0058】
ただし、集光レンズの焦点位置Pが絶縁性材料25の表面よりも上方に位置するときは、表面から深くなるほど光Hの照度が弱まること、及び、散乱等の影響が大きくなることに起因して、平行光の光Hを照射したときに比べ、表面から深い箇所で絶縁性材料25が硬化し難くなる。この結果、
図8に示すように、トレンチ86が逆テーパー形状となるばかりか、開口部の幅が狭まることから導電ペーストの充填が難しくなる。
【0059】
なお、フィラー材19、現像時間制御、及び焦点位置制御のいずれか2つ以上を任意に組み合わせて用いることで、曲線部87を有するトレンチ86を形成してもよい。
【0060】
[第2実施形態]
図9は、本実施形態にかかるコイル部品100の内部構造の模式図である。なお、同図において、
図1で説明した部材については同一の符号を付して、その説明を省略する。
同図に示すように、本実施形態のコイル部品100が備える積層体110は、層間方向断面視において、第1実施形態に示す第1回路パターン20aと同様の構成を有する4つの第1回路パターン30a、30b、30c、30dと、第2回路パターン20bと同様の構成を有する4つの第2回路パターン32a、32b、32c、32dとが、支持板3上に交互に積み重ねられている。以下、第1回路パターン30a、30b、30c、30dを総称して第1回路パターン30ともいい、第2回路パターン32a、32b、32c、32dを総称して第2回路パターン32ともいうものとする。
【0061】
積層体110は、層間方向断面視において、第2回路パターン32aの層間方向Zの下側の端部32Aが、その下の第1回路パターン30aの層間方向Zの上側の端部よりも、層間方向Zの下側に位置している。
第1回路パターン30cおよび第2回路パターン32cも、上記と同様に構成されている。
【0062】
これにより、コイル部品100の積層体110では、導体である第1回路パターン30および第2回路パターン32が積層体110の層間方向Zの厚みに占める割合を、積層体10、または複数の第2回路パターン20bが多層に構成される後述の積層体11(
図12)に比べて、更に高めることができる。
【0063】
積層体110では、また、層間方向断面視において、それぞれの第1回路パターン30の一部と、隣接する第2回路パターン32の一部とは、ビア24を介さずに直接、接合するように形成されて、コイル体を構成する。
【0064】
図10は、コイル部品100における上記コイル体の配線トポロジーを示す図である。なお、「配線トポロジー」は、第1回路パターン30のそれぞれと、第2回路パターン32のそれぞれと、の接続関係を模式的に表すことを指す。また、同図において、第1回路パターン30および第2回路パターン32のそれぞれの符号に付した括弧書きは、その第1回路パターン30または第2回路パターン32が形成されている層の層番号(
図9参照)を示している。
図10には、第1層から第4層までの第1回路パターン30および第2回路パターン32が構成する配線トポロジーが示されている。第5層から第8層までの第1回路パターン30および第2回路パターン32が構成する配線トポロジーは、
図10と同様の構成される。
【0065】
同図に示すように、第1回路パターン30および第2回路パターン32のそれぞれは、コイル体の半巻分に相当する。第1回路パターン30および第2回路パターン32のそれぞれは、層間方向Zから視た平面視において略C字状の形状を有し、平面視における第1回路パターン30の端点30Tと第2回路パターン32の端点32Tがビア24を介さずに直接的に接合することで電気的に導通する。これにより、第1回路パターン30と、第2回路パターン32とが繋がって、螺旋状のコイル体を構成している。
【0066】
次いで、かかるコイル部品100の製造方法について説明する。
図11は、コイル部品100の製造工程の一例を示す図である。
先ず、前掲
図4で示したステップSa1、及びステップSa2の処理により、第1回路パターン30aを、ガラスペーストから成る未硬化の絶縁性材料25に埋設する。
【0067】
次いで、未硬化の絶縁性材料25の表面を露光及び現象することで、2つの第2回路パターン用トレンチ62を形成する(ステップSc1)。
この処理において、2つの第2回路パターン用トレンチ62のうち、下層の第1回路パターン30aに接続しない方は、当該第1回路パターン30aに対してX方向にずれた位置(すなわち、層間方向Zの延長線上に第1回路パターン30aが存在しない位置)に形成され、第1回路パターン30aに接続される方は、当該第1回路パターン30aの真上に形成される。
【0068】
また、第2回路パターン用トレンチ62は、その深さDdが、絶縁性材料25の表面から第1回路パターン30aまでの距離Deよりも深くなるように露光及び現像によって形成される。これにより、第1回路パターン30aの真上に形成された第2回路パターン用トレンチ62は、当該第1回路パターン30aに貫通する。一方、第1回路パターン30aに対してX方向にずれた位置に形成された第2回路パターン用トレンチ62は、端部32Aが第1回路パターン20aの高さ範囲Rに入り込む深さに形成される。なお、この第2回路パターン用トレンチ62も第1実施形態と同様に、その底部に曲線部62Aを有している。
【0069】
次いで、2つの第2回路パターン用トレンチ62のそれぞれに導電性ペーストを印刷によって充填し、当該導電性ペーストを乾燥する(ステップSc2)。これにより、第2回路パターン32aが形成される。次に、3層目の第1回路パターン30bを導電性ペーストの印刷によって印刷し、当該導電性ペーストを乾燥する(ステップSc3)。そして、表面に露出した第1回路パターン30bを覆うように、感光性のガラスペーストである絶縁性材料25を印刷し、その後、当該絶縁性材料25を乾燥する(ステップSc4)。
【0070】
これらステップSc1からSc4の処理により、層間方向断面視において、第2回路パターン32aの層間方向Zの下側の端部32Aが、その下の第1回路パターン30aの層間方向Zの上側の端部よりも層間方向Zの下側に位置するように、第1回路パターン30aおよび第2回路パターン32aが形成される。そして、ステップSc1からSc4の処理を繰り返すことにより、他の第1回路パターン30および第2回路パターン32を形成して、所望の巻数の螺旋状のコイル体を含む積層体110を製造する。
【0071】
[他の実施形態]
第1実施形態のコイル部品1では、積層体10が、一つの第1回路パターン20aと一つの第2回路パターン20bとが2層に積み重ねられて構成されているが、積層体の構成は、これには限られない。例えば、積層体は、
図12に示す積層体11のように、一つの第1回路パターン20aと、複数(
図12の例では7つ)の第2回路パターン20bとが、多層に積み重ねられて構成されてもよい。この場合には、第1回路パターン20aと複数の第2回路パターン20bとが、電気的に直列に繋がって螺旋状のコイル体を構成する。
【0072】
上記のような複数の第2回路パターン20bは、
図3に示すステップSa4の後に、絶縁体22の上面に露出した第2回路パターン20bを覆うように、感光性のガラスペーストである絶縁性材料25を更に印刷および乾燥する図示しないステップSa5を実行するものとし、ステップSa3からステップSa5の処理を繰り返すことにより製造され得る。
【0073】
第2実施形態のコイル部品100の積層体110では、第1回路パターン30aと第2回路パターン32a、および第1回路パターン30cと第2回路パターン32cにおいて、第2回路パターン32の層間方向Zの下側の端部が、その下の第1回路パターン30の層間方向Zの上側の端部よりも、層間方向Zの下側に位置しているものとした。ただし、これは一例であって、第1回路パターン30bと第2回路パターン32b、及び又は、第1回路パターン30dと第2回路パターン32dも、上記と同様に構成されていてもよい。
【0074】
また、上述した実施形態におけるコイル部品1、100において、絶縁体22を構成する絶縁性材料25は、例えばフェライトの焼結体や、フェライトの粉末を含む樹脂などの磁性体であってもよい。かかるコイル部品1、100は、電源回路等に搭載されるパワーインダクタの用途や、交流信号からなるノイズを除去するノイズフィルタに適したものとなる。
【0075】
本発明は、コイル部品1、100に限らず、他の任意の積層型の電子部品に適用することができる。また、各図に示す第1回路パターン20a、第2回路パターン20b、及び又はビア24の、数や位置などは、本発明が適用される電子部品に応じて変わるものである。
【0076】
なお、上述した各実施形態は、あくまでも本発明の一態様の例示であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲において任意に変形、及び応用が可能である。
また、上述した実施形態における水平、及び垂直等の方向や各種の数値、形状、材料は、特段の断りがない限り、それら方向や数値、形状、材料と同じ作用効果を奏する範囲(いわゆる均等の範囲)を含む。
【0077】
[上記実施形態等によりサポートされる構成]
上述した実施形態、変形例、および応用例は、以下の構成をサポートする。
【0078】
(構成1)層間方向の下側から上側にこの順に積層された第1回路パターンおよび第2回路パターンと、前記第1回路パターンと前記第2回路パターンとの間に配置された絶縁体と、を備え、前記第2回路パターンは、前記層間方向の下側の端部が、前記層間方向を含む断面の断面視において、前記層間方向の下側に位置するほど、前記層間方向に垂直な寸法である幅が狭まる形状になっている、電子部品。
構成1の電子部品における、層間方向に垂直な幅が狭まる形状の第2回路パターンは、当該第2回路パターンを形成するためのトレンチをフォトリソグラフィを用いて絶縁体に設けることで形成することができる。このため、構成1の電子部品では、第2回路パターンと第1回路パターンとの間の絶縁体の厚みを薄く制御して、導体である第1回路パターンと第2回路パターンが層間方向の厚みに占める割合を高めることができる。
【0079】
(構成2)前記第2回路パターンは、前記層間方向の下側の端部が、曲面状となっている、構成1に記載の電子部品。
構成2の電子部品によれば、第2回路パターンの下側の端部の周りに絶縁体が入り込むので、第2回路パターンと絶縁体との密着性を向上させることができる。
【0080】
(構成3)前記第2回路パターンは、前記層間方向の上側の端部が、平面状となっている、構成1に記載の電子部品。
構成3の電子部品によれば、第2回路パターンの断面積を大きくして、第2回路パターンの直流電気抵抗を低減し得る。
【0081】
(構成4)前記第1回路パターンは、前記層間方向の下側の端部が、平面状となっている、構成1ないし3のいずれかに記載の電子部品。
構成4の電子部品によれば、第1回路パターンの断面積を大きくして、第1回路パターンの直流電気抵抗を低減し得る。
【0082】
(構成5)前記第1回路パターンと、前記第2回路パターンとを電気的に接続するビアをさらに備え、前記ビアは、前記層間方向の下側の端部が、前記層間方向を含む断面の断面視において、前記層間方向の下側に位置するほど前記幅が狭まる形状になっている、構成1ないし4のいずれかに記載の電子部品。
構成5の電子部品によれば、ビアの下側の端部に絶縁体が入り込むので、ビアと絶縁体との密着性を向上させることができる。
【0083】
(構成6)前記層間方向を含む断面の断面視において、前記第2回路パターンの前記層間方向の下側の端部が、前記第1回路パターンの前記層間方向の上側の端部よりも、前記層間方向の下側に位置している、構成1ないし5のいずれかに記載の電子部品。
構成6の電子部品によれば、導体である第1回路パターンと第2回路パターンが層間方向の厚みに占める割合を、更に高めることができる。
【0084】
(構成7)前記第1回路パターンと、前記第2回路パターンが繋がって螺旋状のコイル体を構成する、構成1ないし6のいずれかに記載の電子部品。
構成7の電子部品によれば、導体である第1回路パターンと第2回路パターンが層間方向の厚みに占める割合を高めて、直流抵抗が小さくインダクタンス値の高い、良好な電気特性を有するコイル部品を構成することができる。
【0085】
(構成8)平面上に第1回路パターンを形成する第1ステップと、前記第1回路パターンを覆うように感光性の絶縁性材料を形成する第2ステップと、第2回路パターン用トレンチを前記絶縁性材料の表面の露光及び現像によって形成する第3ステップと、前記第2回路パターン用トレンチに導電性材料を充填して第2回路パターンを形成する第4ステップと、を含み、前記第3ステップにおいて、前記第1回路パターンと前記第2回路パターンが積み重なっている方向である層間方向に沿って深くなるほど、前記層間方向に垂直な寸法である幅が狭まる底部を有する前記第2回路パターン用トレンチを形成する、電子部品の製造方法。
構成8の製造方法によれば、絶縁性材料に形成する第2回路パターン用トレンチの深さを、フォトリソグラフィを用いて精度よく制御することができるので、第2回路パターンと第1回路パターンとの間の絶縁性材料の厚みを薄く制御して、導体である第1回路パターンと第2回路パターンが層間方向の厚みに占める割合を高めることができる。
【0086】
(構成9)前記第3ステップにおいて、前記第2回路パターン用トレンチの形成の後、前記第2回路パターン用トレンチの少なくとも一部の底部に、ビア用トレンチを、当該底部の絶縁性材料に対する追加の露光及び現像によって形成する、構成8に記載の電子部品の製造方法。
構成9の製造方法によれば、ビア用トレンチを、第2回路パターン用トレンチの形成に続く追加の露光及び現像により形成するので、第2回路パターンおよびビアを別々の工程で形成する場合に比べて、処理工程を簡略化できる。
【0087】
(構成10)前記絶縁性材料は、主材よりも屈折率が大きなフィラー材を含む、構成8または9に記載の電子部品の製造方法。
構成10の製造方法によれば、第2回路パターン用トレンチ及びビア用トレンチを露光及び現像によって形成する際に、それぞれの底部に曲線部を形成することができる。
【0088】
(構成11)前記第3ステップにおいて、前記露光に用いる光を、前記絶縁性材料の表面、又は、当該表面よりも前記絶縁性材料の内部で焦点を結ぶように照射する、構成8ないし10のいずれかに記載の電子部品の製造方法。
構成11の製造方法によれば、底部に曲線部を有する第2回路パターン用トレンチ又はビア用トレンチを、露光光の焦点制御により形成することができる。
【0089】
(構成12)前記第3ステップにおいて、前記第2回路パターン用トレンチが前記第1回路パターンに貫通する現像時間よりも短い現像時間で現像する、構成8ないし11のいずれかに記載の電子部品の製造方法。
構成12の製造方法によれば、底部に曲線部を有する第2回路パターン用トレンチ又はビア用トレンチを、露光後の現像時間を制御することにより形成することができる。
【符号の説明】
【0090】
1、100…コイル部品(電子部品)、10、11、110…積層体、18…ガラスペースト(絶縁性材料)、19…フィラー材、20a、30、30a、30b、30c、30d…第1回路パターン、20b、32、32a、32b、32c、32d…第2回路パターン、20A、32A…第2回路パターンの端部、22…絶縁体、24…ビア、24A…ビアの端部、25…絶縁性材料、52、53、62A、63A、87…曲線部、62…第2回路パターン用トレンチ、63…ビア用トレンチ、80…硬化エリア、82…未硬化エリア、86…トレンチ、R…高さ範囲、Wa、Wb…幅、Z…層間方向、α…層間距離。