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  • 特開-密封装置および軸受 図1
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  • 特開-密封装置および軸受 図6
  • 特開-密封装置および軸受 図7
  • 特開-密封装置および軸受 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110622
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】密封装置および軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/74 20060101AFI20240808BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20240808BHJP
   F16J 15/24 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
F16C33/74 Z
F16C17/02 Z
F16J15/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015315
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】星野 航平
【テーマコード(参考)】
3J011
3J043
3J216
【Fターム(参考)】
3J011AA07
3J011AA20
3J011BA02
3J011JA01
3J011KA02
3J011SE04
3J043AA16
3J043BA03
3J043BA07
3J043CA06
3J043CA12
3J043CB14
3J043HA02
3J043HA10
3J216AA05
3J216AA12
3J216BA07
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CC09
3J216CC67
3J216DA03
3J216DA30
(57)【要約】
【課題】確実な密封性が確保される密封装置および密封装置を備える軸受を提供する。
【解決手段】第一の部材2または第二の部材3のうちの一方の部材に設けられたリング状のケース6と、ケース6に設けられ、第一の部材2または第二の部材3のうちの他方の部材に接触するリング状のシール体7と、シール体7を前記他方の部材に付勢する付勢部材8と、を有する密封装置4、および、両部材2、3の間に形成される軸受空間を密封する密封装置4と、を有する軸受1を構成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の部材(2)と前記第一の部材(2)に対して軸周りに相対回転する第二の部材(3)との間に形成される軸受空間を密封する密封装置であって、
前記第一の部材(2)または前記第二の部材(3)のうちの一方の部材に設けられたリング状のケース(6)と、
前記ケース(6)に設けられ、前記第一の部材(2)または前記第二の部材(3)のうちの他方の部材に接触するリング状のシール体(7)と、
前記シール体(7)を前記他方の部材に付勢する付勢部材(8)と、
を有することを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記シール体(7)を突出する方向と直交する方向に付勢する付勢部材(8)をさらに有する請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
複数の前記シール体(7)が径方向に同心状に接触しつつ配置されており、前記各シール体(7)の周方向の一部を切断した合い口(10)が形成され、その合い口(10)の両端が周方向に摺動することで前記シール体(7)が拡縮径可能となっており、複数の前記シール体(7)のそれぞれの合い口(10)の周方向位置がずれるように配置されている請求項2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記各シール体(7)に形成された合い口(10)の両端が、軸方向に法線をもつ合わせ面(11)で摺動する請求項3に記載の密封装置。
【請求項5】
複数の前記シール体(7)が軸方向に同心状に接触しつつ配置されており、前記各シール体(7)の周方向の一部を切断した合い口(10)が形成され、その合い口(10)の両端が周方向に摺動することで前記シール体(7)が拡縮径可能となっており、複数の前記シール体(7)のそれぞれの合い口(10)の周方向位置がずれるように配置されている請求項2に記載の密封装置。
【請求項6】
前記各シール体(7)に形成された合い口(10)の両端が、径方向に法線をもつ合わせ面(11)で摺動する請求項5に記載の密封装置。
【請求項7】
前記第一の部材(2)が内輪、前記第二の部材(3)が前記第一の部材の外周側に設けられた外輪であって、前記シール体(7)が前記第一の部材(2)の外周面に接触しており、前記ケース(6)の内径(cr)が、前記各シール体(7)の内径(sr)よりも大きく、かつ、前記各シール体(7)の前記合わせ面(11)の径(fr)よりも小さい請求項6に記載の密封装置。
【請求項8】
宇宙環境で使用される請求項1から7のいずれか1項に記載の密封装置。
【請求項9】
前記第一の部材(2)と、
前記第一の部材(2)に対して軸周りに相対回転する前記第二の部材(3)と、
前記第一の部材(2)と前記第二の部材(3)との間に設けられ、前記両部材(2、3)の間に形成される軸受空間を密封する請求項1から7のいずれか1項に記載の密封装置(4)と、を有する軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸受の密封装置、および、この密封装置を採用した軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な軸受においては、内輪と外輪の間にゴム製のシール体を設けることによって、軸受空間に異物が侵入するのを防止している。ところが、ゴムは低温や高温などの環境下において分子構造の変化による硬化、脆化、劣化などによって伸縮性が低下するため、宇宙環境などの温度が極低温から高温まで変化する厳しい温度環境下では適用できないという問題がある。
【0003】
この問題を解決するために、例えば下記特許文献1においては、温度変化の影響を受けにくいシール部材(シール体)として軸心方向の内側に配置される繊維製シールと、軸心方向の外側に配置される樹脂製シールとからなる複合シールを備えた軸受を提案している(本文献の段落0045~0046、図8などを参照)。このシール部材は、径拘束部材の付勢力によって内輪の外周面に接触するとともに、このシール体を軸方向から挟み込む2枚の固定板のストレート部と弾性湾曲部の弾性力によって軸方向の所定位置に保持されている。
【0004】
樹脂製シールには空気抜き穴が形成されており、この空気抜き穴から軸受空間の空気を逃がすことができるよう構成されている。また、繊維製シールによって、空気抜き穴から軸受空間に異物が侵入するのを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-168068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に係る構成においては、樹脂製シールに形成された空気抜き穴、および、繊維製シールの繊維の隙間を通って、軸受外部から軸受空間に異物が侵入するおそれがあり、密封性の点で懸念がある。また、2枚の固定板の弾性力によってシール部材を保持しているため、軸受空間の内圧が大きく変化した際に固定板がその弾性力に抗して軸方向に変形してシール部材の保持力が損なわれ、密封性が低下するおそれもある。
【0007】
そこで、この発明は、確実な密封性が確保される密封装置および軸受を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、この発明においては、
第一の部材と前記第一の部材に対して軸周りに相対回転する第二の部材との間に形成される軸受空間を密封する密封装置であって、
前記第一の部材または前記第二の部材のうちの一方の部材に設けられたリング状のケースと、
前記ケースに設けられ、前記第一の部材または前記第二の部材のうちの他方の部材に接触するリング状のシール体と、
前記シール体を前記他方の部材に付勢する付勢部材と、
を有することを特徴とする密封装置を構成した。
【0009】
このようにすると、このケースの中に設けられたシール体が確実に保持され、高い密封性が確保される。また、密封装置のシール体が拡径することで軸受空間の空気を逃がすことができる。その一方で、軸受空間の内圧の低下に伴って付勢部材の付勢力によってシール体が拡縮径して第一の部材または第二の部材と接触することで確実な密封性が確保される。
【0010】
上記の密封装置においては、前記シール体を突出する方向と直交する方向に付勢する付勢部材をさらに有する構成とすることができる。このようにすると、シール体の軸方向の位置決めがなされるため、このシール体による密封性をさらに高めることができる。
【0011】
上記のすべての密封装置においては、複数の前記シール体が径方向に同心状に接触しつつ配置されており、前記各シール体の周方向の一部を切断した合い口が形成され、その合い口の両端が周方向に摺動することで前記シール体が拡縮径可能となっており、複数の前記シール体のそれぞれの合い口の周方向位置がずれるように配置されている構成とすることができる。このように、複数の前記シール体のそれぞれの合い口の周方向位置がずれるように配置することで、軸受空間の内圧の変化に伴ってシール体を容易に拡縮径することができるとともに、この合い口を通って軸受空間に異物が侵入するのを防止することができる。
【0012】
複数のシール体を径方向に同心状に配置した構成においては、前記各シール体に形成された合い口の両端が、軸方向に法線をもつ合わせ面で摺動する構成とすることができる。このようにすると、径方向に配置したシール体の合い口を通って軸受空間に異物が侵入するのを一層防止することができる。
【0013】
上記のすべての密封装置においては、複数の前記シール体が軸方向に同心状に接触しつつ配置されており、前記各シール体の周方向の一部を切断した合い口が形成され、その合い口の両端が周方向に摺動することで前記シール体が拡縮径可能となっており、複数の前記シール体のそれぞれの合い口の周方向位置がずれるように配置されている構成とすることもできる。このように、複数の前記シール体のそれぞれの合い口の周方向位置がずれるように配置することで、軸受空間の内圧の変化に伴ってシール体を容易に拡縮径することができるとともに、この合い口を通って軸受空間に異物が侵入するのを防止することができる。
【0014】
複数のシール体を軸方向に同心状に配置した構成においては、前記各シール体に形成された合い口の両端が、径方向に法線をもつ合わせ面で摺動する構成とすることができる。このようにすると、軸方向に配置したシール体の合い口を通って軸受空間に異物が侵入するのを一層防止することができる。
【0015】
径方向に法線をもつ合わせ面で摺動する構成においては、前記第一の部材が内輪、前記第二の部材が前記第一の部材の外周側に設けられた外輪であって、前記シール体が前記第一の部材の外周面に接触しており、前記ケースの内径が、前記各シール体の内径よりも大きく、かつ、前記各シール体の前記合わせ面の径よりも小さい構成とするのが好ましい。このようにすると、シール体を第一の部材の外周面に確実に接触させて、合い口からの異物の侵入を防止することができる。
【0016】
上記のすべての密封装置は、宇宙環境で使用することができる。
【0017】
上記のすべての密封装置は、前記第一の部材と、前記第一の部材に対して軸周りに相対回転する前記第二の部材と、前記第一の部材と前記第二の部材との間に設けられ、前記両部材の間に形成される軸受空間を密封する密封装置と、を有する軸受に採用することができる。このようにすると、この密封装置による高い密封性を有する軸受を提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明では、第一の部材または第二の部材のうちの一方の部材に設けられたリング状のケースと、前記ケースに設けられ、前記第一の部材または前記第二の部材のうちの他方の部材に接触するリング状のシール体と、前記シール体を他方の部材に付勢する付勢部材と、を有する密封装置を構成し、この密封装置を軸受に採用したので、軸受の確実な密封性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明に係る軸受および密封装置の一実施形態を示す断面図
図2図1に示す軸受および密封装置の要部を示す断面図
図3図2中のIII-III線に沿う断面図
図4図1に示す密封装置に用いられるシール体の斜視図
図5図1に示す密封装置の変形例を示す断面図
図6図5中のVI-VI線に沿う断面図
図7図5に示す密封装置に用いられるシール体の斜視図
図8図5に示す密封装置の寸法関係を示すための側面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明に係る軸受1およびこの軸受1に採用される密封装置4の一実施形態を図1から図4に基づいて説明する。以下の説明においては、内外輪の回転軸に沿う方向を軸方向、前記回転軸に対し直交する方向を径方向、前記回転軸を中心とする円弧に沿う方向を周方向という。
【0021】
この軸受1は、図1に示すように、第一の部材2(以下、内輪と称し、第一の部材2と同じ符号を付する。)と、内輪2の外周側に設けられこの内輪2に対して軸周りに相対回転する第二の部材3(以下、外輪3と称し、第二の部材3と同じ符号を付する。)と、内輪2と外輪3との間に設けられ、内外輪2、3の間に形成される軸受空間を密封する密封装置4と、を主要な構成要素としている。この実施形態に係る軸受1は、内輪2と外輪3との間が固体潤滑材5による滑り摩擦によって支持されて軸周りに相対回転する滑り軸受である。
【0022】
内輪2と外輪3の軸方向の両端部には、密封装置4を取り付けるための凹部が形成されている。固体潤滑材5は、内輪2と外輪3の間、および、内輪2に形成された凹部の密封装置4に臨む面にそれぞれ設けられている。
【0023】
密封装置4は、図2に拡大して示すように、内輪2に臨む開口を有するリング状のケース6と、ケース6の中に設けられるリング状のシール体7と、シール体7を開口から突出する方向に付勢する付勢部材8(以下、径方向付勢部材8aと称する。)と、シール体7を前記突出する方向と直交する方向に付勢する付勢部材8(以下、軸方向付勢部材8bと称する。)と、を有する。
【0024】
ケース6は、軸受空間の内圧変化に耐えてその形状を維持し得る剛性を有している。ケース6は、軸受1の軸方向内側に位置する内ケース6aと、軸方向外側に位置する外ケース6bで構成される。内ケース6aの外周には、軸方向外向きに延びるフランジ6cが形成されている。このフランジ6cの先端を外ケース6bの外周の内側面に突き当てた状態で、内ケース6aと外ケース6bは、締結部材9(ボルト)で一体に固定される。内ケース6aと外ケース6bを一体に固定することで、ケース6内に内輪2に臨む開口を有する環状の空間が形成される。ケース6は、この締結部材9によって外輪3に固定される。
【0025】
シール体7は、ケース6に形成された開口から突出して内輪2の外周面に接触している。このシール体7は、ケース6よりも剛性が低く、温度変化に対する耐性を有する素材からなり、例えばケース6がステンレス鋼やチタン合金などの金属で構成されている場合、シール体7はポリエーテルエーテルケトン(PEEK)や、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を主成分とするフッ素系樹脂で構成することができる。
【0026】
図1から図4に示すように、この実施形態においては、2本のシール体7が径方向に同心状に接触しつつ配置されている。以下、径方向内側のシール体7を内径シール体7a、径方向外側のシール体7を外径シール体7bと称する。内径シール体7aと外径シール体7bには、周方向の一部をステップ状に切断した合い口10がそれぞれ形成されている。図4に示すように、内径シール体7aの合い口10と外径シール体7bの合い口10は、周方向位置がずれるように、具体的には、周方向の反対位置に形成されている。合い口10の両端には、軸方向に法線をもつ合わせ面11が形成されている。この合わせ面11で合い口10の両端が周方向に摺動することで、内径シール体7aおよび外径シール体7bは拡縮径可能となっている。
【0027】
接触しつつ配置された内径シール体7aと外径シール体7bの間にはキー穴が形成されており、そのキー穴に両シール体7a、7bの間に介在する共通のキー部材12が軸方向から挿入されている。このキー部材12によって、両シール体7a、7b同士が軸周りに相対回転不能とされている。内径シール体7aと外径シール体7bの軸周りの相対回転を防止するために、キー部材12以外の手段を採用することもできる。また、例えば内径シール体7aと外径シール体7bの間に所定の大きさの摩擦力が生じている場合などは、キー部材12を用いない構成とすることができる場合もある。
【0028】
径方向付勢部材8aは、ケース6内に形成された環状の空間の内部に収容されている。この実施形態では、径方向付勢部材8aとして、無負荷状態における内径が外径シール体7bの外径よりも小さいコイルばねを採用している。この径方向付勢部材8aの内周縁によって、シール体7は内輪2の外周面に向かって押圧される。コイルばね以外に、内径が外径シール体7bの外径よりも小さいC字形ばねを採用することもできる。
【0029】
軸方向付勢部材8bは、ケース6(内ケース6a)の内面とシール体7(内径シール体7a、外径シール体7b)との間に介在するように設けられている。軸方向付勢部材8bは、軸受外部の異物が直接接触しない非暴露側、すなわち、シール体7に対して軸方向内側に設けられている。この実施形態では、軸方向付勢部材8bとしてウェーブスプリングを採用している。このウェーブスプリングは、単巻型または多重巻型のいずれを採用することもできる。この軸方向付勢部材8bによって、シール体7は外ケース6bに向かって押圧される。ウェーブスプリング以外の弾性体によって、シール体7を軸方向に付勢する構成とすることもできる。
【0030】
宇宙環境での極低温から高温までの幅広い温度に適応するために、内輪2、外輪3、ケース6(内ケース6a、外ケース6b)、締結部材9、キー部材12、径方向付勢部材8a、軸方向付勢部材8bの素材として、ステンレス鋼やチタン合金などの金属を採用するのが好ましく、シール体7、固体潤滑材5の素材として、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)や、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を主成分とするフッ素系樹脂を採用するのが好ましいが、素材の種類は例示に過ぎずこれに限定されない。
【0031】
上記実施形態に係る軸受1の作用を説明する。シール体7(内径シール体7a、外径シール体7b)は、径方向付勢部材8aの付勢力によって付勢され、内径シール体7aは内輪2の外周面に押し付けられた状態となっている。ここで、この軸受1が宇宙などの低圧環境下におかれて軸受空間の内圧が相対的に上昇すると、密封装置4のケース6に対する脆弱部であるシール体7が、径方向付勢部材8aの付勢力に抗して拡径して(図3中の矢印を参照)、このシール体7と内輪2の外周面との間に生じた隙間から軸受空間の空気が逃される。そして、軸受空間の内圧が低下すると、径方向付勢部材8aの付勢力によって、再びシール体7が内輪2の外周面に押し付けられて、軸受空間の密封性が確保される。
【0032】
また、密封装置4内の空気は、軸方向付勢部材8bとして用いられるウェーブスプリングの隙間からシール体7の内径側に逃げられるようになっており、この内径側において軸受空間の空気と合流して軸受1の外部に逃される。
【0033】
図1に示す軸受1の変形例を図5から図7に示す。この変形例に係る軸受1は、基本的な構成は図1に示す軸受1と共通するが、密封装置4の構成の一部が相違している。この変形例に係る密封装置4は、2本のシール体7が軸方向に同心状に接触しつつ配置されている。以下、軸方向内側のシール体7を内側シール体7c、軸方向外側のシール体7を外側シール体7dと称する。内側シール体7cと外側シール体7dの合い口10は、周方向位置がずれるように、具体的には、周方向の反対位置に形成されている。合い口10の両端には、径方向に法線をもつ合わせ面11が形成されている。この合わせ面11で合い口10の両端が周方向に摺動することで、内側シール体7cおよび外側シール体7dは拡縮径可能となっている。
【0034】
接触しつつ配置された内側シール体7cと外側シール体7dの間にはキー穴が形成されており、そのキー穴に両シール体7c、7dの間に介在する共通のキー部材12が径方向から挿入されている。このキー部材12の機能などについては上記と同じなので説明は省略する。
【0035】
この変形例においては、図8に示すように、ケース6の内径crは、シール体7の内径srよりも大きく、かつ、シール体7の合わせ面11の径frよりも小さくなるよう構成されている。これにより、合い口10からの異物の侵入を防止しつつ、内輪2の外周面とシール体7を確実に当接させて高い密封性を確保している。
【0036】
上記実施形態に係る軸受1は、ケース6の素材をステンレス鋼やチタン合金などの金属とし、軸受空間の内圧変化に耐えてその形状を維持し得る剛性を有する構成としたので、軸受空間の内圧が大きく変化してもケース6の変形が生じにくい。このため、このケース6の中に設けられたシール体7が確実に保持され、高い密封性が確保される。また、シール体7の素材をポリエーテルエーテルケトンまたはポリテトラフルオロエチレンを主成分とするフッ素樹脂などの温度変化に対する耐性を有する樹脂とし、シール体7の剛性をケース6の剛性よりも相対的に小さくした。このため、密封装置4の脆弱部であるシール体7が拡径することで軸受空間の空気を逃がすことができるとともに、宇宙などの大きな温度変化が生じる環境下でも高い密封性が確保される。
【0037】
また、上記実施形態に係る軸受1は、径方向付勢部材8aおよび軸方向付勢部材8bによってシール体7を付勢するため、軸受1に温度変化が生じた場合や、シール体7に摩耗や変形によって軌道輪との間に径差が生じた場合でも、このシール体7のシール面に隙間が生じるのを防止するとともに、シール体7の追従性を高めることができる。
【0038】
また、上記実施形態に係る軸受1は、複数のシール体7に周方向の一部を切断した合い口10を形成するとともに、その合い口10の周方向位置がずれるように配置したので、軸受空間の内圧の変化に伴ってシール体7を容易に拡縮径することができるとともに、この合い口10を通って軸受空間に異物が侵入するのを防止することができる
【0039】
また、上記実施形態に係る軸受1は、接触しつつ配置された複数のシール体7同士が、このシール体7の間に介在するキー部材12によって軸周りに相対回転不能とされている。このため、シール体7同士の合い口の相対的な位相が固定されるため、合い口10からの異物の侵入を確実に防止することができる。
【0040】
また、上記実施形態に係る軸受1は、内輪2の外周面とシール体7が摺動する構成としたが、外輪3の内周面とシール体7が摺動する構成とすることもできる。この場合、径方向付勢部材8aは、例えば無負荷状態における外径がシール体7の内径よりも大きいコイルばねを採用し、この径方向付勢部材8aの外周縁によって、シール体7を外輪3の内周面に向かって押圧することができる。
【0041】
また、上記実施形態に係る軸受1は、密封装置4を2本のシール体7で構成したが、その本数は適宜変更することができる。
【0042】
また、上記実施形態に係る軸受1は、密封滑り軸受を例示して説明したが、内輪2と外輪3の間に転動体が設けられた転がり軸受に適用することも可能である。
【0043】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0044】
2 第一の部材(内輪)
3 第二の部材(外輪)
4 密封装置
6 ケース
7 シール体
8 付勢部材
10 合い口
11 合わせ面
cr ケースの内径
sr シール体の内径
fr 合わせ面の径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8