(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110628
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 13/00 20060101AFI20240808BHJP
【FI】
B60C13/00 C
B60C13/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015321
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 翔
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB01
3D131BC35
3D131BC47
3D131GA01
3D131GA03
(57)【要約】
【課題】標章の視認性確保と、耐クラック性能の向上とを達成できる、タイヤ2の提供。
【解決手段】タイヤ2は、標章30と、前記標章30の周囲に配置される複数の小片部36とを備える。前記標章30はタイヤ2の側面20から突出する。複数の前記小片部36はそれぞれ、前記標章30の壁面38と前記側面20との間に介在する。前記小片部36の高さは前記標章30の高さよりも低い。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標章と、前記標章の周囲に配置される複数の小片部とを備え、
前記標章がタイヤの側面から突出し、
複数の前記小片部がそれぞれ、前記標章の壁面と前記側面との間に介在し、
前記小片部の高さが前記標章の高さよりも低い、
タイヤ。
【請求項2】
前記壁面と前記側面との基準境界から前記壁面に沿ってのびる、前記小片部と前記壁面との第一境界の端と、前記基準境界から前記側面に沿ってのびる、前記小片部と前記側面との第二境界の端とを結ぶ線分を基準線分としたとき、前記基準境界を通る、前記基準線分の法線に沿った、前記小片部の断面において、前記小片部の断面高さが、0.3mm以上5.0mm以下である、
請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記壁面と前記側面との基準境界から前記壁面に沿ってのびる、前記小片部と前記壁面との第一境界の端と、前記基準境界から前記側面に沿ってのびる、前記小片部と前記側面との第二境界の端とを結ぶ線分を基準線分としたとき、前記基準境界を通る、前記基準線分の法線に沿った、前記小片部の断面において、前記小片部の断面幅が、0.3mm以上3.0mm以下である、
請求項1に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記小片部が前記壁面に対してなす角度が、80度以上100度以下である、
請求項1に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記壁面と前記側面との基準境界から前記壁面に沿ってのびる、前記小片部と前記壁面との第一境界の端と、前記基準境界から前記側面に沿ってのびる、前記小片部と前記側面との第二境界の端とを結ぶ線分を基準線分としたとき、前記基準線分が前記側面に対してなす角度が、60度以下である、
請求項1に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記小片部の高さが前記標章の高さの2/3以下である、
請求項1から5のいずれか一項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤに関する。詳細には、本発明は標章を側面に設けたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの側面には標章が設けられる。標章の視認性を向上させるために、様々な検討が行われている(例えば、下記の特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、標章は、タイヤの側面から突出する凸部として形成される。標章と側面との境界部分を補強しなければ、境界に歪が集中し、クラックが生じる恐れがある。標章の視認性向上のために白色ゴムを使用した場合、クラックが生じると白色ゴムが露出する。
クラックの発生を抑制するために境界部分を補強すると、標章の輪郭を認識しづらくなり、標章の視認性が低下する。視認性向上のために、側面を基準面とする標章の高さを高くすると、タイヤの質量が増加する。
標章の視認性を確保しながら、標章と側面との境界部分におけるクラックの発生を抑制できる技術の確立が求められている。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、標章の視認性確保と、耐クラック性能の向上とを達成できる、タイヤの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るタイヤは、標章と、前記標章の周囲に配置される複数の小片部とを備える。前記標章はタイヤの側面から突出する。複数の前記小片部はそれぞれ、前記標章の壁面と前記側面との間に介在する。前記小片部の高さは前記標章の高さよりも低い。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、標章の視認性確保と、耐クラック性能の向上とを達成できる、タイヤが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係るタイヤの一例を示す断面図である。
【
図3】
図2に示された小片部の一部を示す斜視図である。
【
図4】
図2に示された小片部の一部を示す拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0010】
本発明においては、タイヤを正規リムに組み、タイヤの内圧を正規内圧に調整し、このタイヤに荷重をかけていない状態は、正規状態と称される。
【0011】
本発明においては、特に言及がない限り、タイヤ各部の寸法及び角度は、正規状態で測定される。
正規リムにタイヤを組んだ状態で測定できない、タイヤの子午線断面における各部の寸法及び角度は、回転軸を含む平面に沿ってタイヤを切断することにより得られる、タイヤの切断面において、測定される。この測定では、左右のビード間の距離が、正規リムに組んだタイヤにおけるビード間の距離に一致するように、タイヤはセットされる。なお、正規リムにタイヤを組んだ状態で確認できないタイヤの構成は、前述の切断面において確認される。
【0012】
正規リムとは、タイヤが依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0013】
正規内圧とは、タイヤが依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
【0014】
正規荷重とは、タイヤが依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最大負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【0015】
本発明において、タイヤのトレッド部とは、路面と接地する、タイヤの部位である。ビード部とは、リムに嵌め合わされる、タイヤの部位である。サイドウォール部とは、トレッド部とビード部との間を架け渡す、タイヤの部位である。タイヤは、部位として、トレッド部、一対のビード部及び一対のサイドウォール部を備える。
【0016】
[本発明の実施形態の概要]
[構成1]
本発明の一態様に係るタイヤは、標章と、前記標章の周囲に配置される複数の小片部とを備え、前記標章がタイヤの側面から突出し、複数の前記小片部がそれぞれ、前記標章の壁面と前記側面との間に介在し、前記小片部の高さが前記標章の高さよりも低い。
【0017】
タイヤをこのように整えることにより、小片部が、標章の壁面と側面との境界(基準境界とも呼ばれる。)への歪の集中を抑制する。境界部分におけるクラックの発生が抑制される。このタイヤは、耐クラック性能の向上を図ることができる。小片部が標章の周囲に連続するのではなく、標章の周囲に間隔をあけて配置される。このタイヤでは、小片部を設けたことによる質量の増加が効果的に抑制される。小片部の高さが標章の高さよりも低いので、このタイヤは小片部を設けたことによる標章の視認性低下も抑制できる。
このタイヤは、標章の視認性を確保しながら、標章と側面との境界部分におけるクラックの発生を抑制できる。言い換えれば、このタイヤは、標章の視認性確保と、耐クラック性能の向上とを達成できる。
【0018】
[構成2]
好ましくは、前述の[構成1]に記載のタイヤにおいて、前記壁面と前記側面との基準境界から前記壁面に沿ってのびる、前記小片部と前記壁面との第一境界の端と、前記基準境界から前記側面に沿ってのびる、前記小片部と前記側面との第二境界の端とを結ぶ線分を基準線分としたとき、前記基準境界を通る、前記基準線分の法線に沿った、前記小片部の断面において、前記小片部の断面高さが、0.3mm以上5.0mm以下である。
このようにタイヤを整えることにより、小片部が基準境界への歪の集中を抑制することに効果的に貢献できる。基準境界におけるクラックの発生が抑制される。小片部による質量への影響、そして、この小片部による標章の視認性への影響も効果的に抑制される。
【0019】
[構成3]
好ましくは、前述の[構成1]又は[構成2]に記載のタイヤにおいて、前記壁面と前記側面との基準境界から前記壁面に沿ってのびる、前記小片部と前記壁面との第一境界の端と、前記基準境界から前記側面に沿ってのびる、前記小片部と前記側面との第二境界の端とを結ぶ線分を基準線分としたとき、前記基準境界を通る、前記基準線分の法線に沿った、前記小片部の断面において、前記小片部の断面幅が、0.3mm以上3.0mm以下である。
このようにタイヤを整えることにより、小片部が基準境界への歪の集中を抑制することに効果的に貢献できる。基準境界におけるクラックの発生が抑制される。小片部による質量への影響、そして、この小片部による標章の視認性への影響も効果的に抑制される。
【0020】
[構成4]
好ましくは、前述の[構成1]から[構成3]のいずれかに記載のタイヤにおいて、前記小片部が前記壁面に対してなす角度が、80度以上100度以下である。
このようにタイヤを整えることにより、小片部が基準境界への歪の集中を抑制することに効果的に貢献できる。基準境界におけるクラックの発生が抑制される。この小片部による標章の視認性への影響が効果的に抑制される。
【0021】
[構成5]
好ましくは、前述の[構成1]から[構成4]のいずれかに記載のタイヤにおいて、前記壁面と前記側面との基準境界から前記壁面に沿ってのびる、前記小片部と前記壁面との第一境界の端と、前記基準境界から前記側面に沿ってのびる、前記小片部と前記側面との第二境界の端とを結ぶ線分を基準線分としたとき、前記基準線分が前記側面に対してなす角度が、60度以下である。
このようにタイヤの製造方法を整えることにより、小片部が基準境界への歪の集中を抑制することに効果的に貢献できる。基準境界におけるクラックの発生が抑制される。
【0022】
[構成6]
好ましくは、前述の[構成1]から[構成5]のいずれかに記載のタイヤにおいて、前記小片部の高さが前記標章の高さの2/3以下である。
このようにタイヤの製造方法を整えることにより、小片部による標章の視認性への影響が抑制される。小片部による質量への影響も効果的に抑制される。
【0023】
[本発明の実施形態の詳細]
図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤ2の一例を示す。このタイヤ2は、乗用車用空気入りタイヤである。
図1は、タイヤ2の回転軸を含む平面に沿った、このタイヤ2の断面(以下、子午線断面)の一部を示す。
図1において、左右方向はタイヤ2の軸方向であり、上下方向はタイヤ2の径方向である。
図1の紙面に対して垂直な方向はタイヤ2の周方向である。径方向にのびる一点鎖線ELはタイヤ2の赤道面を表す。
図1においてタイヤ2はリムR(正規リム)に組まれている。
【0024】
タイヤ2は、例えば、要素として、トレッド4、一対のサイドウォール6、一対のクリンチ8、一対のビード10、カーカス12、ベルト14及びインナーライナー16を備える。
【0025】
トレッド4はカーカス12の径方向外側に位置する。トレッド4はトレッド面18において路面と接地する。図示されないが、トレッド4には溝が刻まれる。トレッド4は黒色の架橋ゴムからなる。
【0026】
それぞれのサイドウォール6はトレッド4の端に連なる。サイドウォール6はトレッド4の径方向内側に位置する。サイドウォール6はカーカス12の軸方向外側に位置する。サイドウォール6は黒色の架橋ゴムからなる。
【0027】
サイドウォール6及び後述するクリンチ8は、タイヤ2の側面20をなす。側面20は、前述のトレッド面18に連なる。
本発明においては、模様や文字等の装飾が側面20にある場合、側面20の輪郭は、装飾がないと仮定して得られる仮想側面に基づいて特定される。
【0028】
それぞれのクリンチ8はサイドウォール6の径方向内側に位置する。クリンチ8はリムRと接触する。クリンチ8は黒色の架橋ゴムからなる。
【0029】
それぞれのビード10はクリンチ8の軸方向内側に位置する。ビード10はサイドウォール6の径方向内側に位置する。ビード10は、コア22と、エイペックス24とを備える。
【0030】
コア22は周方向にのびる。コア22はリング状である。図示されないが、コア22は周方向に巻き回されたスチール製のワイヤを含む。エイペックス24はコア22の径方向外側に位置する。エイペックス24は外向きに先細りである。エイペックス24は硬質な架橋ゴムからなる。
【0031】
カーカス12は、トレッド4、一対のサイドウォール6、及び一対のクリンチ8の内側に位置する。カーカス12は一対のビード10の間、すなわち、一対のビード10の、第一ビード10と第二ビード10(図示されず)との間を架け渡す。
カーカス12の構成に特に制限はない。カーカス12の構成はタイヤ2の仕様が考慮され適宜決められる。
【0032】
カーカス12は少なくとも1枚のカーカスプライ26を備える。このタイヤ2のカーカス12は1枚のカーカスプライ26で構成される。カーカスプライ26はそれぞれのビード10で折り返される。
【0033】
図示されないが、カーカスプライ26は並列された多数のカーカスコードを含む。これらカーカスコードは赤道面と交差する。このタイヤ2のカーカス12はラジアル構造を有する。有機繊維からなるコードがカーカスコードとして用いられる。有機繊維としては、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が例示される。スチールコードがカーカスコードとして用いられてもよい。
【0034】
ベルト14は径方向においてトレッド4とカーカス12との間に位置する。このタイヤ2のベルト14はカーカス12に積層される。
【0035】
ベルト14は、径方向に並ぶ複数のベルトプライ28を備える。このタイヤ2のベルト14は2枚のベルトプライ28を備える。
【0036】
図示されないが、各ベルトプライ28は並列した多数のベルトコードを含む。各ベルトコードは赤道面に対して傾斜する。このタイヤ2のベルトコードにはスチールコードが用いられる。
【0037】
インナーライナー16は、カーカス12の内側に位置する。インナーライナー16はタイヤ2の内面を構成する。インナーライナー16は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー16は、タイヤ2の内圧を保持する。
【0038】
このタイヤ2は凸部30を備える。凸部30はサイドウォール6の外面に設けられる。凸部30は側面20から突出する。
【0039】
図2は凸部30の平面図である。凸部30は、凸部本体32と、凸部本体32の周囲を囲う外壁部34とを備える。
このタイヤ2の凸部本体32は白色の架橋ゴムからなる。外壁部34は、トレッド4、サイドウォール6、クリンチ8と同様、黒色の架橋ゴムからなる。
図2に示されるように凸部30は「A」という文字を表す。凸部30は標章である。
本発明において、標章は、文字、記号、図形、模様等を含むものである。標章は、タイヤのメーカ名、ブランド名、タイヤサイズ、製造年週等の情報を表示するために好適に用いられる。
【0040】
このタイヤ2は、タイヤ2の側面20から突出する標章30を備える。
標章30の周囲には複数の小片部36が配置される。このタイヤ2は、標章30と、この標章30の周囲に配置される複数の小片部36とを備える。複数の小片部36は、標章30の外周に沿って間隔をあけて配置される。
【0041】
図3及び4は小片部36を示す。
図3及び4に示されるように、小片部36は側面20から突出する。小片部36は標章30の壁面38からも突出する。隣接する小片部36の間は凹みである。標章30の周囲には、間隔をあけて配置された小片部36により、凹凸が構成される。
【0042】
小片部36は、標章30の壁面38と、タイヤ2の側面20との間に介在する。小片部36は壁面38と接合し、側面20とも接合する。
小片部36と壁面38との境界(以下、第一境界40)は、壁面38と側面20との境界(以下、基準境界42)から壁面38に沿ってのびる。符号PS1で示される位置は、第一境界40の端である。第一境界40の端PS1は、壁面38において基準境界42から最も離れた位置で表される。
小片部36と側面20との境界(以下、第二境界44)は、基準境界42から側面20に沿ってのびる。符号PS2で示される位置は、第二境界44の端である。第二境界44の端PS2は、側面20において基準境界42から最も離れた位置で表される。
【0043】
小片部36は斜面46を備える。斜面46は、第一境界40の端PS1と、第二境界44の端PS2との間を架け渡す。斜面46は、基準境界42側に凸な湾曲面で構成される。斜面46が平面で構成されてもよい。
タイヤ2の側面20を基準面とする、標章30の高さ方向において、端PS1が小片部36の頂である。小片部36と側面20との境界、すなわち第二境界44が、小片部36の底面である。
【0044】
図4において一点鎖線CLは小片部36の中心線である。角度αは、中心線CLと壁面38との交点における壁面38の接線と、中心線CLとがなす角度である。本発明においては、この角度αが、小片部36が壁面38に対してなす角度である。
【0045】
図5は
図4のV-V線に沿った断面図である。
図4においてV-V線は、小片部36の中心線CLに一致する。
図5において両矢印Hで示される長さは標章30の高さである。標章30の高さHは基準境界42から標章30の頂面48までの壁面38の長さで表される。両矢印hは小片部36の高さである。小片部36の高さhは基準境界42から小片部36の頂PS1までの壁面38の長さで表される。
【0046】
図5に示されるように、標章30の壁面38の輪郭は直線で表される。標章30の頂面48とこの壁面38とがなす角度は略90度である。
標章30の壁面38は、標章30の頂面48の輪郭に沿ってのびる。頂面48に平行な平面に沿った、この標章30の断面の輪郭は、標章30の頂面48の輪郭に一致する。
この標章30を上から見たとき、タイヤ2において標章30と側面20との境界が明確に表される。この標章30は良好な視認性を有する。
【0047】
前述したように、標章30の周囲には複数の小片部36が配置され、複数の小片部36はそれぞれ標章30の壁面38と側面20との間に介在する。
小片部36は、壁面38と側面20との境界(前述の基準境界42)を補強する。小片部36は基準境界42への歪の集中を抑制する。基準境界42におけるクラックの発生が抑制される。このタイヤ2は、耐クラック性能の向上を図ることができる。
【0048】
小片部36は標章30の周囲に連続するのではなく、標章30の周囲に間隔をあけて配置される。このタイヤ2は、小片部36を設けたことによる質量の増加を効果的に抑制できる。
【0049】
小片部36の頂PS1は、標章30の高さ方向において、標章30の頂面48よりも下方に位置する。小片部36の高さhは標章の高さHよりも低い。このタイヤ2は、小片部36を設けたことによる標章30の視認性低下も抑制できる。それどころか、小片部36を設けなかった場合に比べて、標章30の視認性が向上する。
【0050】
このタイヤ2は、標章30の視認性を確保しながら、標章30と側面20との境界部分におけるクラックの発生を抑制できる。言い換えれば、このタイヤ2は、標章30の視認性確保と、耐クラック性能の向上とを達成できる。
【0051】
図5において、実線BSは第一境界40の端PS1と、第二境界44の端PS2とを結ぶ線分である。線分BSは基準線分とも呼ばれる。実線LSは、第一境界40の端PS1と、第二境界44の端PS2とを通る直線である。この直線LSは、基準線分BSを含む。VI-VI線は、基準境界42を通る、基準線分BSの法線である。
【0052】
図6は、
図5のVI-VI線に沿った小片部36の断面である。このタイヤ2の小片部36の断面は矩形である。この小片部36の断面が、
図7に示されるような、椀様の形状で構成されてもよい。
【0053】
図6において両矢印SHで示される長さは、この小片部36の断面における、小片部36の断面高さである。両矢印SWで示される長さは、この小片部36の断面における、小片部36の断面幅である。
【0054】
小片部36の断面高さSHは、0.3mm以上5.0mm以下であるのが好ましい。
小片部36の断面高さSHが0.3mm以上に設定されることにより、小片部36が基準境界42への歪の集中を抑制することに効果的に貢献できる。基準境界42におけるクラックの発生が抑制される。この観点から、断面高さSHは0.5mm以上であるのがより好ましく、1.0mm以上であるのがさらに好ましい。
小片部36の断面高さSHが5.0mm以下に設定されることにより、小片部36による質量への影響、そして、この小片部36による標章30の視認性への影響が効果的に抑制される。この観点から、断面高さSHは4.5mm以下であるのがより好ましく、4.0mm以下であるのがさらに好ましい。
【0055】
小片部36の断面幅SWは、0.3mm以上3.0mm以下であるのが好ましい。
小片部36の断面高さSHが0.3mm以上に設定されることにより、小片部36が基準境界42への歪の集中を抑制することに効果的に貢献できる。基準境界42におけるクラックの発生が抑制される。この観点から、断面幅SWは0.5mm以上であるのがより好ましく、1.0mm以上であるのがさらに好ましい。
小片部36の断面幅SWが3.0mm以下に設定されることにより、小片部36による質量への影響、そして、この小片部36による標章30の視認性への影響が効果的に抑制される。この観点から、断面幅SWは2.5mm以下であるのがより好ましく、2.0mm以下であるのがさらに好ましい。
【0056】
小片部36が壁面38に対してなす角度αは、80度以上100度以下であるのが好ましい。これにより、小片部36が基準境界42への歪の集中を抑制することに効果的に貢献できる。基準境界42におけるクラックの発生が抑制される。この小片部36による標章30の視認性への影響が効果的に抑制される。この観点から、角度αは85度以上95度以下であるのがより好ましい。特に好ましくは、角度αは90度である。
【0057】
角度αが90度未満である、又は90度を超える場合、小片部36は壁面38に対して傾斜する。この場合、小片部36の傾斜の向きが同じになるように、複数の小片部36が標章30の周囲に配置されるのが好ましい。
【0058】
図5において角度βは、基準線分BSが側面20に対してなす角度である。側面20が湾曲している場合は、第二境界44の端PS2における、側面20の接線と基準線分BSとがなす角度で、角度βは表される。
【0059】
基準線分BSが側面20に対してなす角度βは60度以下であるのが好ましい。これにより、小片部36が基準境界42への歪の集中を抑制することに効果的に貢献できる。基準境界42におけるクラックの発生が抑制される。この観点から、角度αは55度以下であるのがより好ましく、50度以下であるのがさらに好ましい。
角度αは30度以上であるのが好ましい。この場合も、小片部36が基準境界42への歪の集中を抑制することに効果的に貢献できる。基準境界42におけるクラックの発生が抑制される。この観点から、角度αは35度以上であるのがより好ましく、40度以上であるのがさらに好ましい。
【0060】
小片部36の高さhは標章30の高さHの2/3以下であるのが好ましい。これにより、小片部36による標章30の視認性への影響が効果的に抑制される。小片部36による質量への影響も効果的に抑制される。この観点から、小片部36の高さhは標章30の高さHの1/2以下であるのがより好ましい。小片部36が基準境界42への歪の集中を抑制することに効果的に貢献できる観点から、小片部36の高さhは標章30の高さHの1/6以上であるのが好ましい。
【0061】
以上説明したように、本発明によれば、標章の視認性確保と、耐クラック性能の向上とを達成できる、タイヤが得られる。
【実施例0062】
以下、実施例などにより、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0063】
[実施例1]
図1に示された基本構成を備え、下記の表1に示された仕様を備えた乗用車用タイヤ(タイヤサイズ=265/70R18)を得た。
実施例1では、小片部の断面高さSHは1.5mm、断面幅SWは1.5mmに設定された。小片部が壁面に対してなす角度αは90度に設定された。基準線分BSが側面に対してなす角度βは45度に設定された。小片部の高さhは標章の高さHの1/3に設定された。
【0064】
[比較例1]
小片部を設けなかった他は実施例1と同様にして、比較例1のタイヤを得た。
【0065】
[視認性]
試作タイヤをリム(サイズ=18×7.5J)に組み、空気を充填して内圧を250kPaに調整した。このタイヤを、試験車両の全輪に装着した。標章の視認性に関する官能評価を行った。その結果が、比較例1を33とした指数で下記表1に示されている。数値が大きいほど、標章の視認性に優れる。
【0066】
[耐クラック性]
試作タイヤをリム(サイズ=18×7.5J)に組み、空気を充填して内圧を250kPaに調整した。このタイヤをドラム式走行試験機に装着した。14kNの縦荷重をタイヤに負荷し、このタイヤをドラム(半径=1.7m)の上で走行させた。走行速度は80km/hに設定された。5万km走行後、タイヤの外観を観察し、標章と側面との境界部分におけるクラックの発生の有無を確認した。クラックの発生があった場合は、クラックの長さと数を計測した。その結果が、比較例1を33とした指数で下記表1に示されている。数値が大きいほど、クラックの発生が抑制され、耐クラック性に優れる。
【0067】
[質量]
試作タイヤの質量をシミュレーションにより算出した。その結果が、比較例1を33とした指数で下記表1に示されている。数値が大きいほど、タイヤは軽い。
【0068】
【0069】
表1に示されるように、実施例では、標章の視認性確保と、耐クラック性能の向上とを達成できることが確認されている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。なお、小片部の高さhが標章の高さHと等しい場合については、視認性が比較例1よりも低下し、質量が実施例1よりも増加することが明らかなため、試作タイヤを製造しなかった。