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特開2024-110634ポリビニルアルコールフィルム、積層フィルム、積層フィルムの製造方法及びポリビニルアルコールフィルムの製造方法
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  • 特開-ポリビニルアルコールフィルム、積層フィルム、積層フィルムの製造方法及びポリビニルアルコールフィルムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110634
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコールフィルム、積層フィルム、積層フィルムの製造方法及びポリビニルアルコールフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20240808BHJP
   C08L 97/00 20060101ALI20240808BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240808BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
C08L29/04 D ZAB
C08L97/00
B32B27/30 102
C08J5/18 CEX
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015328
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501186173
【氏名又は名称】国立研究開発法人森林研究・整備機構
(71)【出願人】
【識別番号】390014856
【氏名又は名称】日本乳化剤株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】田上 英恵
(72)【発明者】
【氏名】古田 達郎
(72)【発明者】
【氏名】大橋 康典
(72)【発明者】
【氏名】山田 竜彦
(72)【発明者】
【氏名】焼田 悠介
(72)【発明者】
【氏名】今井 朋美
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA29
4F071AA73
4F071AA78
4F071AF15
4F071AF20
4F071AF21
4F071AG34
4F071AH04
4F071AH12
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
4F100AK21A
4F100AK21B
4F100AK42C
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100GB23
4F100JA07
4F100YY00A
4F100YY00B
4J002AH00X
4J002BE02W
4J002CH05X
4J002FD01X
4J002GF00
4J002GG02
4J002HA09
(57)【要約】
【課題】従来のポリビニルアルコール(PVA)フィルムは、ストレッチ性が充分ではなかった。また、さらなる用途拡大のためには、高強度でストレッチ性により優れるPVAフィルムが求められている。そこで、本発明は、高強度でストレッチ性により優れるPVAフィルム、積層フィルム及びPVAフィルムの製造方法を目的とする。
【解決手段】ポリビニルアルコールと、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物と、を含有する、ポリビニルアルコールフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールと、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物と、を含有する、ポリビニルアルコールフィルム。
【請求項2】
前記グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物の含有量が、ポリビニルアルコールフィルムの総質量に対して5質量%以上25質量%以下である、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項3】
厚さが10μm以下である、請求項1又は2に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項4】
樹脂基材の一方又は双方の面に、請求項1又は2に記載のポリビニルアルコールフィルムが積層された、積層フィルム。
【請求項5】
ポリビニルアルコールと、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物と、を含むリグニン添加溶液を、基材の一方又は双方の面に塗布し、これを乾燥して、ポリビニルアルコールフィルムとする工程を有する、積層フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の積層フィルムの製造方法により得られる積層フィルムの前記基材から、前記ポリビニルアルコールフィルムを剥離することによりポリビニルアルコールフィルムを得る、ポリビニルアルコールフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコールフィルム、積層フィルム、積層フィルムの製造方法及びポリビニルアルコールフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(PVA)は、親水性の合成樹脂で、安全性が高い。このため、PVAは、食品、医療、農業分野における包装材用のフィルム材料(特許文献1、特許文献2)、偏光フィルム(特許文献3)等、様々な用途で用いられている。
【0003】
PVAの耐久性の向上やさらなる用途拡大のため、ストレッチ性(伸縮性)を有するPVAフィルムの検討がなされている。例えば、特許文献4には、ヨウ化カリウムを添加することにより、10~50%の伸び率を有するPVAフィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/161975号
【特許文献2】国際公開第2018/003627号
【特許文献3】国際公開第2018/021274号
【特許文献4】国際公開第2020/255779号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献4に示されるPVAフィルムは、ストレッチ性が充分ではなかった。また、さらなる用途拡大のためには、高強度でストレッチ性により優れるPVAフィルムが求められている。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高強度でストレッチ性により優れるPVAフィルム、積層フィルム及びPVAフィルムの製造方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、バイオマス原料であるリグニンの誘導体を用いて、高強度でストレッチ性の高いPVAフィルムを提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
[1]ポリビニルアルコールと、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物と、を含有する、ポリビニルアルコールフィルム。
[2]前記グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物の含有量が、ポリビニルアルコールフィルムの総質量に対して5質量%以上25質量%以下である、[1]に記載のポリビニルアルコールフィルム。
[3]厚さが10μm以下である、[1]又は[2]に記載のポリビニルアルコールフィルム。
[4]樹脂基材の一方又は双方の面に、[1]~[3]のいずれかに記載のポリビニルアルコールフィルムが積層された、積層フィルム。
【0009】
[5]ポリビニルアルコールと、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物と、を含むリグニン添加溶液を、基材の一方又は双方の面に塗布し、これを乾燥して、ポリビニルアルコールフィルムとする工程を有する、積層フィルムの製造方法。
[6][5]に記載の積層フィルムの製造方法により得られる積層フィルムの前記基材から、前記ポリビニルアルコールフィルムを剥離することによりポリビニルアルコールフィルムを得る、ポリビニルアルコールフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリビニルアルコールフィルム、積層フィルム及びポリビニルアルコールフィルムの製造方法によれば、高強度でストレッチ性により優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る積層フィルムを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪ポリビニルアルコールフィルム≫
本発明のポリビニルアルコールフィルム(以下、「PVAフィルム」ともいう。)は、ポリビニルアルコールと、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物と、を含有する。
【0013】
<PVA>
本明細書において、「PVAフィルム」は、PVAを主成分とするフィルムをいう。主成分とは、質量基準で最も含有量の多い成分をいう。本発明のPVAフィルムにおけるPVAの含有量としては、例えば、50質量%以上99質量%以下が好ましく、60質量%以上98質量%以下がより好ましく、70質量%以上97質量%以下がさらに好ましい。
【0014】
PVAは、ビニルアルコール単位(-CH-CH(OH)-)を主の構造単位として有する重合体である。PVAは、ビニルアルコール単位の他、ビニルエステル単位やその他の単位を有していてもよい。
【0015】
PVAとしては、ビニルエステルの1種又は2種以上を重合して得られるポリビニルエステルをけん化することにより得られるものを使用することができる。ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸イソプロペニル等が挙げられる。ビニルエステルの中でも、製造の容易性、入手の容易性、コスト等の点から、分子中にビニルオキシカルボニル基(HC=CH-O-CO-)を有する化合物が好ましく、酢酸ビニルがより好ましい。
【0016】
ポリビニルエステルは、単量体として1種又は2種以上のビニルエステルのみを用いて得られたものが好ましく、単量体として1種のビニルエステルのみを用いて得られたポリビニルエステルがより好ましい。本発明の効果を大きく損なわない範囲内であれば、1種又は2種以上のビニルエステルとこれと共重合可能な他の単量体との共重合樹脂であってもよい。
【0017】
共重合可能な他の単量体に由来する構造単位の割合の上限は、共重合樹脂を構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%が好ましく、10モル%がより好ましく、5モル%がさらに好ましく、1モル%が特に好ましく、0モル%でもよい。
【0018】
ビニルエステルと共重合可能な他の単量体としては、例えば、炭素数2~30のα-オレフィン、(メタ)アクリル酸又はその塩、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド誘導体、N-ビニルアミド、ビニルエーテル、シアン化ビニル、ハロゲン化ビニル、アリル化合物、マレイン酸、マレイン酸の誘導体、イタコン酸、イタコン酸の誘導体、ビニルシリル化合物、不飽和スルホン酸又はその塩等が挙げられる。
炭素数2~30のα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルへキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等が挙げられる。
(メタ)アクリルアミド誘導体としては、例えば、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸又はその塩、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルアミン又はその塩、N-メチロール(メタ)アクリルアミド又はその誘導体等が挙げられる。
N-ビニルアミドとしては、例えば、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン等が挙げられる。
ビニルエーテルとしては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等が挙げられる。
シアン化ビニルとしては、例えば、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
ハロゲン化ビニルとしては、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等が挙げられる。
アリル化合物としては、例えば、酢酸アリル、塩化アリル等が挙げられる。
マレイン酸の誘導体としては、例えば、マレイン酸の塩、マレイン酸のエステル、マレイン酸の酸無水物等が挙げられる。
イタコン酸の誘導体としては、例えば、イタコン酸の塩、イタコン酸のエステル、イタコン酸の酸無水物等が挙げられる。
ビニルシリル化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン等が挙げられる。
本明細書において、「(メタ)アクリル」の用語は、「メタクリル」及び「アクリル」の何れか又は両方を意味する。「(メタ)アクリロ」との用語は、「メタクリロ」及び「アクリロ」の何れか又は両方を意味する。
【0019】
ポリビニルエステルは、上記単量体の1種又は2種以上に由来する構造単位を有することができる。
【0020】
PVAとしては、グラフト共重合がされていないものを好ましく使用することができる。ただし、本発明の効果を大きく損なわない範囲内であれば、PVAは1種又は2種以上のグラフト共重合可能な単量体によって変性されたものであってもよい。グラフト共重合は、ポリビニルエステル及びそれをけん化することにより得られるPVAのうちの少なくとも一方に対して行うことができる。グラフト共重合可能な単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸又はその誘導体、不飽和スルホン酸又はその誘導体、炭素数2~30のα-オレフィン等が挙げられる。ポリビニルエステル又はPVAにおけるグラフト共重合可能な単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステル又はPVAを構成する全構造単位のモル数に基づいて、5モル%以下であることが好ましい。
【0021】
PVAはそのヒドロキシ基の一部が架橋されていてもよいし、架橋されていなくてもよい。また、PVAはそのヒドロキシ基の一部がアセトアルデヒド、ブチルアルデヒド等のアルデヒド化合物等と反応してアセタール構造を形成していてもよい。
【0022】
PVAの重合度の下限値としては、1,000が好ましく、1,500がより好ましく、1,700がさらに好ましい。PVAの重合度が上記下限値以上であると、PVAフィルムのストレッチ性をより高められる。PVAの重合度の上限値としては、10,000が好ましく、8,000がより好ましく、5,000がさらに好ましい。PVAの重合度が上記上限値以下であると、PVAの製造コストの上昇や成膜時における不良発生を抑制できる。
PVAの重合度は、JIS K6726-1994の記載に準じて測定した平均重合度を意味する。
【0023】
PVAのけん化度は、PVAフィルムの耐湿熱性が良好になることから、90モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましく、99モル%以上がさらに好ましく、99.3モル%以上が特に好ましい。PVAのけん化度の上限は100モル%であってもよい。なお、PVAのけん化度とは、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対するビニルアルコール単位のモル数の割合(モル%)をいう。けん化度は、JIS K6726-1994の記載に準じて測定することができる。
【0024】
<グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物>
グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、グリコールリグニンの水酸基にアルキレンオキシドが付加された構造を有する改質リグニンである。すなわち、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、グリコールリグニンのフェノール性水酸基に、アルキレンオキシド由来のオキシアルキレン基をさらに含むリグニン誘導体である。
【0025】
(リグニン)
リグニンはセルロース、ヘミセルロースと共に植物を構成する天然バイオマスであり、木材中のおよそ20~35質量%を占める。草本植物においてもリグニンを含むものは多い。リグニンは、植物細胞壁の物理強度を向上させるとともに、生物による分解を防ぐ役目や、細胞壁に疎水性を付与して水の流動性を制御する役目も果たしている。リグニンの基本骨格はパラヒドロキシフェニルプロパンであり、メトキシル基を0~2個有するp-クマリルアルコール、コニフェニルアルコール、シナピルアルコールが脱水素重合して生成する不規則高分子である。
本実施形態のPVAフィルムは、リグニンを含有することで、バイオマス原料を有効利用できる。
リグニンは非常に複雑な分子構造をしているため、化学構造を一般式等で一律に特定することは困難である。
リグニンとしては、天然リグニンと工業リグニンとが挙げられ、細部の構造や工業リグニンの調製方法等は特に限定されない。
本明細書において、「天然リグニン」は、植物から取り出す前の状態にある、植物中に存在するリグニン、すなわち、植物に由来するリグニンをいう。「工業リグニン」は、利用できる形態に加工された、植物から取り出した後のリグニンをいう。工業リグニンとしては、例えば、グリコールリグニン、リグニンスルホン酸等が挙げられる。
【0026】
天然リグニンとしては、例えば、木本系植物由来リグニン、草本系植物由来リグニンが挙げられる。
木本系植物由来リグニンとしては、例えば、針葉樹に含まれる針葉樹系リグニン、広葉樹に含まれる広葉樹系リグニン等が挙げられる。
針葉樹としては、例えば、エゾマツ、アカマツ、スギ、ヒノキ等が挙げられる。
広葉樹としては、例えば、シラカバ、ブナ、ナラ等が挙げられる。
草本系植物由来リグニンとしては、例えば、イネ科植物に含まれるイネ系リグニン等が挙げられる。
イネ科植物としては、例えば、麦わら、稲わら、トウモロコシ、竹、葦等が挙げられる。
【0027】
工業リグニンは、主に酸やアルカリの水溶液中で、植物を蒸解することにより得られる。酸の水溶液を利用して工業リグニンを得る方法としては、亜硫酸法が広く用いられており、リグニンスルホン酸が製造される。アルカリの水溶液を利用して工業リグニンを得る方法としては、クラフト法が広く用いられており、クラフトリグニンが製造される。この他に工業リグニンを得る方法としては、例えば、リグノセルロースをポリエチレングリコール、ジエチレングリコール等グリコール系溶媒を使用して、硫酸を触媒として加溶媒分解を行なう方法等が挙げられる。
工業リグニンとしては、原料として天然リグニンを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
(グリコールリグニン)
グリコールリグニンは、植物をグリコール溶媒により酸触媒存在下、加溶媒分解して得られる改質リグニンである。
グリコールリグニンの品質安定性という観点から、原料となるリグノセルロースとしては、針葉樹系リグノセルロースが好ましく、スギがより好ましい。
【0029】
グリコールリグニンの具体的な製造方法としては、例えば、特開2017-197517号公報に記載の方法等が挙げられる。
例えば、針葉樹であるスギの木粉を、グリコール(例えば、ポリエチレングリコール200)を溶媒として、酸触媒(例えば、所定触媒量の硫酸;触媒量としては好ましくは0.1~2.0質量%、より好ましくは0.2~1.0質量%)存在下に、加熱処理(例えば、120~180℃、より好ましくは130~140℃の温度で、0.5~4時間、より好ましくは1~3時間、さらに好ましくは1~1.5時間)する。
その後、中和工程(例えば、所定濃度の水酸化ナトリウム溶液、好ましくはpH10.5以上に調製)を経て、パルプ残渣画分(主成分:セルロース、ヘミセルロース)を分離し、可溶性画分を得る。次いで、その可溶性画分を酸性に戻して(例えば、所定濃度の硫酸を添加する)、生じる沈殿を常法により分離、洗浄、乾燥することでグリコールリグニンを得ることができる。
【0030】
加溶媒分解に用いられる蒸解溶媒としてのグリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリプロピレングリコール、グリセリン、及びポリグリセリンからなる群から選ばれる1種以上を用いることができる。これらのグリコールとしては、ポリエチレングリコール中の少なくとも1のエチレンオキシ基がプロピレンオキシ基に置き換わっていてもよく、ポリプロピレングリコール中の少なくとも1のプロピレンオキシ基がエチレンオキシ基に置き換わっていてもよい。
用いる蒸解溶媒が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリプロピレングリコール、ポリグリセリン等の重合体の場合、得られるグリコールリグニンの熱溶融性に応じて、これら重合体の分子量を選択することができる。
例えば、ポリエチレングリコールを選択する場合、質量平均分子量100~2000、より好ましくは質量平均分子量200~600のポリエチレングリコールを用いることができる。
蒸解溶媒としてのグリコールの使用量としては、例えば、リグノセルロース1質量部に対して、2~10質量部が好ましく、3~6質量部がより好ましい。
【0031】
グリコールリグニンは、酸触媒下での加溶媒分解中に、リグノセルロース中のリグニンのベンジル位水酸基部位が、グリコール溶媒由来のグリコール鎖(例えば、(ポリ)エチレングリコール鎖)により置換される。リグニンには、フェノール性水酸基、ベンジル位水酸基、及びその他の水酸基が含まれている。このため、グリコールリグニンは、リグニン基本骨格中のベンジル位水酸基がグリコール鎖により置換された基本構造を有している。
ここでいうグリコール鎖は、グリコール溶媒に直接由来するグリコール鎖のみならず、さらに2分子以上のグリコール溶媒の重縮合により鎖長延長されたグリコール鎖を含んでいてもよい。また、(ポリ)アルキレングリコール鎖とは、モノアルキレングリコール、あるいはジアルキレングリコール等のポリアルキレングリコールからなるグリコールの一方の末端水酸基が、リグニン骨格とエーテル結合したグリコール鎖のことを指す。
【0032】
(グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物)
グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、グリコールリグニンの水酸基にアルキレンオキシドが付加された構造を有する改質リグニンである。
アルキレンオキシドは、主にグリコールリグニンのフェノール性水酸基に付加するものと考えられる。すなわち、本実施形態のグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、ベンジル位にグリコールリグニン原料由来のグリコール鎖が置換されていると共に、さらにフェノール性水酸基にアルキレンオキシド由来のグリコール鎖(すなわち(ポリ)アルキレングリコール鎖)を有するものと考えられる。グリコールリグニン原料由来のグリコール鎖は、アルキレンオキシドによりさらに鎖長延長されていてもよい。
【0033】
グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、アルカリ存在下に、グリコールリグニンにアルキレンオキシドを反応させることにより製造される。
アルキレンオキシドとしては、例えば、炭素数2~18、より好ましくは炭素数2~8のアルキレンオキシドを用いることができる。より具体的には、エチレンオキシド、プロピレンオキシド(例えば、1,2-エポキシプロパン)、イソブチレンオキシド、1-ブテンオキシド、2-ブテンオキシド、トリメチルエチレンオキシド、テトラメチルエチレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、ジペンタンエチレンオキシド、ジヘキサンエチレンオキシド等の脂肪族エポキシド;トリメチレンオキシド、テトラメチレンオキシド、テトラヒドロフラン、オクチレンオキシド等の脂環式エポキシド;スチレンオキシド、1,1-ジフェニルエチレノキシド等の芳香族エポキシド等を例示できる。
【0034】
PVAとの相溶性が良好なことから、アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド(1,2-ブチレンオキシド又は2,3-ブチレンオキシド)が好ましく、エチレンオキシドがより好ましい。
【0035】
グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、グリコールリグニンにアルキレンオキシドを付加させることで得られる。グリコールリグニンにアルキレンオキシドを付加させることで、グリコールリグニンのフェノール性水酸基に、アルキレンオキシド由来のグリコール鎖をさらに含む、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物を得ることができる。
グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、より具体的には、以下の方法で得ることができる。
【0036】
まず、グリコールリグニンの溶液ないしスラリーを調製する。用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、あるいは水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物が好適に用いられる。
用いる溶媒としては、水、あるいは水に可溶で、ある程度の沸点(100~400℃)を有する極性溶媒(ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等)を好適に用いることができる。
用いるアルカリの量は、グリコールリグニンの質量に対して、0.1~5質量%が好ましく、0.5~3質量%がより好ましい。
【0037】
次いで、得られたグリコールリグニンのアルカリ溶液をアルキレンオキシドと反応させる。
アルキレンオキシドの付加反応は、オートクレーブ中、好ましくは50~200℃、より好ましくは70~180℃、さらに好ましくは100~160℃であり、溶媒の沸点に近い温度(沸点から50~20℃低い温度)で行うことが好ましい。
反応時間は、2~20時間が好ましく、3~15時間がより好ましい。
【0038】
反応系の雰囲気は、空気雰囲気でもよいが、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。
アルキレンオキシドの添加量は、目的とする用途に応じて、グリコールリグニンに対してどの程度の量のグリコール鎖を導入すべきかに依存する。アルキレンオキシドの添加量は、例えば、グリコールリグニン100質量部に対して1~500質量部が好ましく、1~400質量部がより好ましい。
アルキレンオキシドの添加方法は、一度に添加してもよく、2回以上に分けて添加してもよく、少量ずつ連続滴下により添加してもよい。
【0039】
本実施形態のグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物のフェノール性水酸基量は、アルキレンオキシドによる改質の程度を示す一指標となりうる。フェノール性水酸基量は、溶媒への相溶性を向上させる観点からは、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物1g当たり1.0mmol未満が好ましく、0.5mmol未満がより好ましく、0.3mmol未満がさらに好ましい。
ここで、フェノール性水酸基量の測定は、イオン化示差スペクトル法に基づいて行うことができる。
【0040】
単位リグニン含有率(1質量%)当たりのグリコール鎖含有率(質量%)の比は、リグニンに導入されたグリコール鎖の量を示す一つの指標となる。単位リグニン含有率当たりのグリコール鎖含有率の比は、例えば、0.4~4.0が好ましく、0.8~3.5がより好ましく、1.5~3.0がさらに好ましい。単位リグニン含有率当たりのグリコール鎖含有率の比が上記数値範囲内であると、PVAとの相溶性をより高められる。
ここで、リグニン含有率(質量%)は、280nmにおける紫外線(UV)吸収に基づくリグニン量(UVリグニン法)によって得られるUVリグニン率を意味する。
グリコール鎖含有率(質量%)は、100質量%から前記リグニン含有率(質量%)と溶剤含有率(質量%)との合計(質量%)を差し引いた値である。
ここで、溶剤含有率(質量%)とは、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物に任意選択的に含まれていてもよい溶剤の含有率である。溶剤含有率は、例えば、グリコールリグニンをアルキレンオキシド付加する際に、反応試薬として用いたアルキレンオキシドに由来する(ポリ)アルキレングリコール溶剤の含有率(質量%)や、反応溶媒として用いた溶剤(例えば、ジメチルアセトアミド等)等の含有率(質量%)を合算した値である。
(ポリ)アルキレングリコール溶剤の含有率は、例えば、Weibull(ワイブル)法によって測定できる。ここで、(ポリ)アルキレングリコールとは、モノアルキレングリコール及びジアルキレングリコール等のポリアルキレングリコールを包含する概念として用いている。
【0041】
グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物の質量平均分子量は、例えば、1,000~20万が好ましく、2,000~10万がより好ましく、5,000~5万がさらに好ましい。グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物の質量平均分子量が上記下限値以上であると、PVAフィルムの強度をより高められる。グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物の質量平均分子量が上記上限値以下であると、PVAとの相溶性をより高められる。
グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、較正曲線作成用標準物質としてポリエチレンオキシドを用いた較正曲線より求めることができる。
【0042】
PVAフィルムにおけるグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物の含有量は、PVAフィルムの総質量に対して、5質量%以上25質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましく、5質量%以上15質量%以下がさらに好ましい。グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物の含有量が上記下限値以上であると、PVAフィルムのストレッチ性をより高められる。加えて、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物の含有量が上記下限値以上であると、バイオマス原料をより有効利用できる。グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物の含有量が上記上限値以下であると、PVAフィルムの強度の低下をより抑制できる。
【0043】
PVAフィルムは、PVAとグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物以外に、フィラー、アンチブロッキング剤(AB剤)、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含有してもよい。
これらの添加剤は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの添加剤の含有量は、例えば、PVAフィルムの総質量に対して、0~10質量%が好ましい。
【0044】
PVAフィルムの厚さは、例えば、10μm以下が好ましく、8μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。PVAフィルムの厚さが上記上限値以下であると、PVAフィルムの厚さを均一にでき、表面の外観を良好にできる。PVAフィルムの厚さの下限値は特に限定されないが、例えば、0.1μmとされる。
PVAフィルムの厚さは、例えば、シックネスゲージ等で測定できる。
【0045】
≪積層フィルム≫
本発明の積層フィルムは、樹脂基材の一方又は双方の面に、本発明のPVAフィルムが積層されたフィルムである。
以下、本発明の一実施形態に係る積層フィルムについて、図面を参照して説明する。
【0046】
図1に示すように、積層フィルム1は、樹脂基材10と、樹脂基材10の一方の面10aに位置するPVA層20とを備える。
【0047】
積層フィルム1の厚さTは、特に限定されないが、例えば、10~500μmが好ましく、20~400μmがより好ましく、30~300μmがさらに好ましい。厚さTが上記下限値以上であると、積層フィルム1の強度をより高められる。厚さTが上記上限値以下であると、積層フィルム1の柔軟性が高められ、取扱いが容易になる。
積層フィルム1の厚さTは、例えば、シックネスゲージ等で測定できる。
【0048】
<樹脂基材>
樹脂基材10としては、後述する樹脂で構成されるフィルム等が挙げられる。
樹脂基材10を構成する樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、セロファン、エンジニアリングプラスチック等が挙げられる。
オレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、炭素数2~10のオレフィンの重合体、プロピレン-エチレン共重合体等が挙げられる。
ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
ポリアミド系樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66等の脂肪族系ポリアミド、ポリメタキシリレンアジパミド等の芳香族系ポリアミド等が挙げられる。
ビニル系樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等が挙げられる。
アクリル系樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル等の(メタ)アクリル系単量体の単独又は共重合体等が挙げられる。なお、(メタ)アクリル系単量体とは、アクリル酸系単量体及びメタクリル酸系単量体の1種以上をいう。
エンジニアリングプラスチックとしては、例えば、ポリカーボネート、ポリイミド等が挙げられる。
これらの樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
物性や入手のしやすさ等の観点から、樹脂基材10としては、ポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、ポリアミド系樹脂フィルムが好ましく、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂フィルム、ナイロンフィルムがより好ましく、PET系樹脂フィルムがさらに好ましい。
【0050】
樹脂基材10は、単一の樹脂で構成された単層フィルム、複数の樹脂を用いた単層又は2層以上のフィルムのいずれでもよい。
物性や入手のしやすさ等の観点から、樹脂基材10としては、ポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、ポリアミド系樹脂フィルムが好ましく、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂フィルム、ナイロンフィルムがより好ましく、PET系樹脂フィルムがさらに好ましい。
【0051】
樹脂基材10は、フィラー、アンチブロッキング剤(AB剤)、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、酸化防止剤等の添加剤を含有してもよい。
これらの添加剤は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
樹脂基材10において、PVA層20が形成される一方の面10aには、薬品処理、溶剤処理、コロナ処理、低温プラズマ処理、オゾン処理等の表面処理が施されていてもよい。これにより、形成されるPVA層20との密着性をより高められる。
【0053】
樹脂基材10の厚さT10は、材質や構成等を勘案して決定され、例えば、5~490μmが好ましく、10~390μmがより好ましく、20~290μmがさらに好ましい。厚さT10が上記下限値以上であると、積層フィルム1の強度をより高められる。厚さT10が上記上限値以下であると、積層フィルム1の柔軟性が高められ、取扱いが容易になる。
樹脂基材10の厚さT10は、例えば、シックネスゲージ等で測定できる。
【0054】
<PVA層>
PVA層20は、PVAとグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物と溶媒とを含む樹脂組成物(リグニン添加溶液)の硬化物(PVAフィルム)である。
ここで、「硬化物」とは、手で触れたときに樹脂組成物が手に付着しない程度に充分に硬化しているものをいう。
積層フィルム1は、PVA層20を備えることで、バイオマス原料を有効利用できる。
PVA層20は、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物を含有するため、PVA層20の強度をより高められ、ストレッチ性をより高められる。
【0055】
本実施形態の樹脂組成物の25℃における粘度は、例えば、5~10000mPa・sが好ましく、10~5000mPa・sがより好ましく、100~1000mPa・sがさらに好ましい。樹脂組成物の25℃における粘度が上記下限値以上であると、PVA層20を形成しやすい。樹脂組成物の25℃における粘度が上記上限値以下であると、樹脂組成物の流動性を維持でき、取扱いが容易になる。
樹脂組成物の25℃における粘度は、例えば、樹脂組成物を25℃に調温し、B型粘度計(TOKIMEC社製)を用いて、ローターNo.2、回転数60rpm、ローター回転開始から1分間経過後に示す値を読み取ることで測定できる。
【0056】
PVA層20の厚さT20は、10μm以下が好ましく、8μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。厚さT20が上記上限値以下であると、PVAフィルムの厚さを均一にでき、表面の外観を良好にできる。厚さT20の下限値は特に限定されないが、例えば、0.1μmとされる。
厚さT20は、例えば、シックネスゲージ等で測定できる。
【0057】
≪積層フィルムの製造方法≫
本発明の積層フィルムの製造方法は、ポリビニルアルコールと、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物と、を含むリグニン添加溶液を、基材の一方又は双方の面に塗布し、これを乾燥して、ポリビニルアルコールフィルムとする工程を有する。
【0058】
<リグニン添加溶液>
リグニン添加溶液は、ポリビニルアルコールとグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物とを含む。
リグニン添加溶液におけるポリビニルアルコールの含有量は、例えば、リグニン添加溶液の総質量に対して、1質量%以上50質量%以下が好ましく、3質量%以上30質量%以下がより好ましく、5質量%以上20質量%以下がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの含有量が上記下限値以上であると、PVAフィルムの強度をより高められる。ポリビニルアルコールの含有量が上記上限値以下であると、リグニン添加溶液の粘度を低減でき、リグニン添加溶液の塗布のしやすさ(塗布性)をより高められる。
【0059】
リグニン添加溶液におけるグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物の含有量は、例えば、リグニン添加溶液の総質量に対して、0.1質量%以上25質量%以下が好ましく、0.3質量%以上15質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上10質量%以下がさらに好ましい。グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物の含有量が上記下限値以上であると、PVAフィルムのストレッチ性をより高められる。加えて、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物の含有量が上記下限値以上であると、バイオマス原料をより有効利用できる。グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物の含有量が上記上限値以下であると、PVAフィルムの強度の低下をより抑制できる。
【0060】
リグニン添加溶液は、ポリビニルアルコールとグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物以外に、溶媒を含む。
溶媒としては、例えば、水、水可溶性有機溶媒、水と1種以上の水可溶性有機溶媒との混合溶媒、2種以上の水可溶性有機溶媒の混合溶媒、芳香族系有機溶媒、1種以上の芳香族系有機溶媒と1種以上の水可溶性有機溶媒との混合溶媒等が挙げられる。
水可溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のポリ(アルキレン)グリコール、ポリビニルアルコール、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
芳香族系有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
リグニン添加溶液の溶媒としては、水、水可溶性有機溶媒が好ましく、水がより好ましい。
【0061】
リグニン添加溶液における溶媒の含有量は、例えば、リグニン添加溶液の総質量に対して、50質量%以上99質量%以下が好ましく、60質量%以上95質量%以下がより好ましく、70質量%以上90質量%以下がさらに好ましい。溶媒の含有量が上記下限値以上であると、リグニン添加溶液の塗布性をより高められる。溶媒の含有量が上記上限値以下であると、リグニン添加溶液を乾燥する時間を短くでき、PVAフィルムを形成する効率をより高められる。
【0062】
リグニン添加溶液は、ポリビニルアルコール、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物、溶媒以外の任意成分を含んでいてもよい。
任意成分としては、例えば、可塑剤、硬化剤、顔料、顔料分散剤、乳化剤、増粘剤、酸化防止剤、フィラー、アンチブロッキング剤(AB剤)、帯電防止剤、滑剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
これらの任意成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
リグニン添加溶液における任意成分の含有量は、例えば、リグニン添加溶液の総質量に対して、0~10質量%が好ましい。
【0063】
リグニン添加溶液を、基材の一方又は双方の面に塗布する方法は、特に限定されず、公知のウェットコート法を用いることができる。
ウェットコート法としては、例えば、ロールコート法、グラビアコート法、リバースコート法、ダイコート法、スクリーン印刷法、スプレーコート法等が挙げられる。
リグニン添加溶液を基材に塗布する方法としては、成膜性(厚さが均一で、表面の外観が良好な塗膜を成膜できること)により優れることから、アプリケーター等を用いて塗布する方法(ロールコート法)が好ましい。
【0064】
リグニン添加溶液を基材に塗布した後は、リグニン添加溶液からなる塗膜を加熱し、乾燥し、溶媒を揮発させることで、PVAフィルム(PVA層)を形成できる。
リグニン添加溶液からなる塗膜を乾燥する方法としては、例えば、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等の公知の乾燥方法を用いることができる。
塗膜の乾燥温度は、例えば、100~180℃が好ましく、105~150℃がより好ましく、110~130℃がさらに好ましい。塗膜の乾燥温度が上記下限値以上であると、溶媒を揮発させる速度を高められ、PVAフィルムを形成する効率をより高められる。塗膜の乾燥温度が上記上限値以下であると、PVAフィルムの厚さをより均一にでき、表面の外観をより良好にできる。
【0065】
塗膜の乾燥時間は、例えば、1~60分間が好ましく、2~30分間がより好ましく、5~20分間がさらに好ましい。塗膜の乾燥時間が上記下限値以上であると、溶媒を充分に揮発させることができ、PVAフィルムの強度をより高められる。塗膜の乾燥時間が上記上限値以下であると、PVAフィルムを形成する効率をより高められる。
【0066】
本実施形態の積層フィルム1は、樹脂基材10の一方の面10aにPVA層20(ポリビニルアルコールフィルム)を形成することで得られる。
PVA層20を形成する場合、例えば、樹脂基材10の一方の面10aに、フィルターを用いてろ過した樹脂組成物(リグニン添加溶液)をウェットコート法により塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥(溶媒を除去)することで、樹脂組成物の硬化物であるPVA層20を形成できる。
【0067】
本実施形態の積層フィルム1は、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物を含むPVA層20を備えるため、バイオマス原料を有効利用できる。
グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、グリコールリグニンにアルキレンオキシドが付加しているため、グリコールリグニンに比べて水及び有機溶剤への相溶性をより良好にでき、成膜性をより高められる。
【0068】
≪PVAフィルムの製造方法≫
本発明のPVAフィルムは、上述した積層フィルムの基材から、PVAフィルムを剥離することにより得られる。
【0069】
<基材>
基材としては、表面が平滑であればよく、例えば、樹脂基材、ガラス基材、金属基材、石製基材、木製基材、これらの複合基材等が挙げられる。
これらの基材の中でも、取扱い性に優れることから、基材としては樹脂基材が好ましい。
【0070】
PVA層を形成した後は、基材からPVA層を剥離することで、PVAフィルムを得ることができる。
基材からPVA層を剥離する方法は特に限定されず、例えば、基材を引っ張って物理的に剥離してもよく、PVA層を形成した基材を薬液に浸漬し、化学的に剥離してもよい。
基材からPVA層を剥離する方法としては、PVAフィルムの表面の外観を良好にしやすいことから、物理的に剥離する方法が好ましい。
【実施例0071】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例で用いたリグニン誘導体は、以下の通りである。
【0072】
[使用原料]
<リグニン誘導体>
リグニン誘導体1:特開2021-147409号公報に記載の作製例2と同様の方法で得られたグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物(アルキレンオキシド=エチレンオキシド、グリコールリグニン(GL)とエチレンオキシド(EO)との質量比(GL/EO質量比):1/2)。
リグニン誘導体2:特開2021-147409号公報に記載の作製例3~5と同様の方法で得られたグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物(アルキレンオキシド=エチレンオキシド、GL/EO質量比:1/4)。
リグニン誘導体3:以下のグリコールリグニンの調製で得られたグリコールリグニン。
リグニン誘導体4:リグニンスルホン酸マグネシウム、サンエキス(登録商標)P321、日本製紙株式会社製。
リグニン誘導体5:リグニンスルホン酸ナトリウム、サンエキス(登録商標)P252、日本製紙株式会社製。
リグニン誘導体6:リグニンスルホン酸ナトリウム、パールレックス(登録商標)NP、日本製紙株式会社製。
リグニン誘導体7:リグニンスルホン酸ナトリウム、バニレックス(登録商標)N、日本製紙株式会社製。
【0073】
≪グリコールリグニンの調製≫
質量平均分子量400のポリエチレングリコールにより変性されたリグニン(以下、単に「グリコールリグニン」ともいう。)を以下の手順で製造した。
まず、市販の質量平均分子量400のポリエチレングリコール(PEG400)230質量部と、酸触媒としての硫酸0.68質量部(PEG400 100質量部に対して、0.3質量部)を、反応容器に入れて撹拌した。
次いで、絶乾スギ木粉46質量部を、反応容器に投入し、常圧下140℃に昇温して、撹拌しながら90分間反応させた。
次いで、反応容器を冷却し、温度が40℃以下になったことを確認した後、水酸化ナトリウム(0.2mol/L)を280質量部投入して、30分間撹拌した。
次いで、得られた固形成分(パルプ)を、フィルタープレスにより除去し、溶液成分を回収した。
次いで、得られた溶液成分に、硫酸を添加し、pHを1.8に調製した。これにより、グリコールリグニンの懸濁液を得た。
その後、グリコールリグニンを遠心分離により回収した。続いてグリコールリグニンを水に懸濁させて撹拌しながら洗浄を行った後、遠心分離により回収し、乾燥させた。
【0074】
[実施例1~6]
≪積層フィルムの作製≫
ポリビニルアルコールPVA-117((株)クラレ製)の10質量%水溶液を調製した。PVAとリグニン誘導体との固形分比が表1の配合比になるようにPVA-117の10質量%水溶液にグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物(リグニン誘導体1又は2)を添加してリグニン添加溶液を調製した。
得られたリグニン添加溶液を、アプリケーターを用いてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの一方の面に塗布し、120℃に設定したオーブン内に10分間入れて乾燥させた。そして、PETフィルム上に膜厚5μm、10μm又は30μmのPVA層が形成された積層フィルムをそれぞれ得た。表1中、「-」は、グリコールリグニンを用いていないことを示す。
【0075】
[比較例1~14]
グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物に代えて、表1の固形分比になるようにリグニン誘導体(リグニン誘導体3~7)を添加した以外は、実施例1と同様にリグニン添加溶液を調製し、積層フィルムを得た。
なお、比較例1では、リグニン誘導体を添加せず、PVA-117の10質量%水溶液をPETフィルム上に塗布して、実施例1と同様に積層フィルムを得た。
【0076】
≪成膜性の評価≫
各例で得られた積層フィルムのPVA層の表面を目視で観察し、下記評価基準に基づいて、成膜性を評価した。結果を表2に示す。
《評価基準》
○:表面の荒れがなく、色ムラのない均一な膜が形成されている。
×:膜の表面が荒れている又は色ムラがある。
【0077】
≪PVAフィルムの評価≫
厚さ10μmのPVA層が形成された積層フィルムを、ハンドプレス機及びダイセット((株)野上技研製)を用いて15mm×75mmに切り出した。切り出した積層フィルムのPVA層をPETフィルムから剥離し、PVAフィルムを得た。
得られたPVAフィルムについて、小型卓上試験機EZ-LX((株)島津製作所製)を用いて引張強度を測定した。測定条件は、以下の通りとした。
<測定条件>
・ロードセル:1kN。
・引張速度:5mm/min。
・チャック間距離:50mm。
【0078】
引張強度測定で得られた強度伸び曲線の最大強度となる上降伏点におけるひずみ(%)と応力(MPa)、PVAフィルム破断時における伸び(%)と応力(MPa)、弾性率(MPa)を記録した。結果を表2に示す。表中「-」は、引張強度を測定しなかったことを示す。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
表2に示すように、本発明を適用した実施例1~6は、リグニン誘導体を加えていないPVAフィルム(比較例1)、リグニンスルホン酸を添加して作製したPVAフィルム(比較例3~比較例13)よりも破断点における伸びが大きかった。実施例1~2と実施例4~5とを比較すると、実施例1~2の方が弾性率が高く、エチレンオキシドの付加量が少ないグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物の方が高弾性率であった。
グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物を30質量%添加した積層フィルムでは、膜厚30μmにおいてPVA層の表面にうね状のムラが発生し、成膜性が悪くなったが、膜厚10μm以下においては成膜性が良好であった(実施例3及び実施例6)。
グリコールリグニンでは、リグニン添加溶液を調製した段階において不溶成分が多く存在し、そのPVAフィルムでは、膜面に荒れが見られ、均一な膜を得ることができなかった(比較例2)。このため、比較例2では引張強度を測定しなかった。
グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物に代えてリグニンスルホン酸(リグニン誘導体4)を添加した比較例3~5は、リグニン添加溶液を調製した段階において不溶成分が多く存在し、その積層フィルムでは、膜厚30μmの場合において、PVA層の膜面に荒れが見られ、均一な膜を得ることができなかった。しかし、膜厚10μm以下で作製した積層フィルムにおいて比較的均一なPVAフィルムを作製可能であったため、引張強度を測定することが可能であった。リグニンスルホン酸(リグニン誘導体7)を30質量%添加した比較例14は、PVAフィルムが脆く、引張強度を測定することができなかった。
以上の結果から、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物を添加したPVAフィルムは、高強度でストレッチ性に優れることが確認できた。
加えて、本発明のPVAフィルムは、成膜性が良好であるため、フィルムのピンホールやクラック発生を抑制する表面保護膜のためのコーティング膜としての利用が期待される。
【符号の説明】
【0082】
1 積層フィルム
10 樹脂基材
10a 一方の面
20 ポリビニルアルコール層
図1