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特開2024-110641アルミニウム形材の部分着色方法、アルミニウム形材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110641
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】アルミニウム形材の部分着色方法、アルミニウム形材
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/00 20060101AFI20240808BHJP
   C25D 11/18 20060101ALI20240808BHJP
   C25D 11/22 20060101ALI20240808BHJP
   C25D 11/12 20060101ALI20240808BHJP
   C25D 17/00 20060101ALI20240808BHJP
   C25D 17/08 20060101ALI20240808BHJP
   C25D 11/20 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
C25D11/00 308
C25D11/18 301C
C25D11/18 305
C25D11/18 307
C25D11/22 A
C25D11/12 A
C25D17/00 A
C25D17/08 Q
C25D11/20 304Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015341
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005005
【氏名又は名称】不二サッシ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 晶全
(72)【発明者】
【氏名】小林 聖卓
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕士
(57)【要約】
【課題】陽極酸化塗装複合皮膜を有するアルミニウム形材の加工によって形材に生じた素地の露出箇所に、均一な着色を施すことができる技術を提供すること。
【解決手段】陽極酸化塗装複合皮膜を有するアルミニウム形材に露出した素地を陽極酸化処理し、前記素地の表面にアルマイト皮膜を形成する部分アルマイト処理工程と、前記素地の表面に形成した前記アルマイト皮膜に染料を吸着させて封孔処理する部分着色工程を有する、アルミニウム形材の部分着色方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極酸化塗装複合皮膜を有するアルミニウム形材に露出した素地を陽極酸化処理し、前記素地の表面にアルマイト皮膜を形成する部分アルマイト処理工程と、
前記素地の表面に形成した前記アルマイト皮膜に染料を吸着させて封孔処理する部分着色工程を有する、アルミニウム形材の部分着色方法。
【請求項2】
前記素地が、前記アルミニウム形材の切断面に露出した素地である、請求項1に記載のアルミニウム形材の部分着色方法。
【請求項3】
前記素地が、更に、前記陽極酸化塗装複合皮膜を有するアルミニウム形材の表面に露出した素地を含む、請求項2に記載のアルミニウム形材の部分着色方法。
【請求項4】
前記表面に露出した素地が、切削加工によるものである、請求項3に記載のアルミニウム形材の部分着色方法。
【請求項5】
前記陽極酸化塗装複合皮膜が、一次電解工程と二次電解着色工程と電着塗装工程を経て形成されてなる、請求項1に記載のアルミニウム形材の部分着色方法。
【請求項6】
前記部分アルマイト処理工程を、前記切断面を電解浴に浸漬して行う、請求項2に記載のアルミニウム形材の部分着色方法。
【請求項7】
前記部分アルマイト処理工程を、前記アルミニウム形材の長手方向を鉛直に配置して行う、請求項6に記載のアルミニウム形材の部分着色方法。
【請求項8】
前記部分アルマイト処理工程を、前記切断面を、電解浴に浸漬した多孔質体の上に配置して行う、請求項7に記載のアルミニウム形材の部分着色方法。
【請求項9】
前記部分アルマイト処理工程を、前記アルミニウム形材の全体を電解浴に浸漬して行う、請求項1に記載のアルミニウム形材の部分着色方法。
【請求項10】
前記部分アルマイト処理工程を、前記アルミニウム形材の長手方向を水平に配置して行う、請求項9に記載のアルミニウム形材の部分着色方法。
【請求項11】
陽極酸化塗装複合皮膜を有するアルミニウム形材であって、
請求項1~10の何れかに記載の方法で着色された着色面を有する、アルミニウム形材。
【請求項12】
前記陽極酸化塗装複合皮膜がJIS H 8602 2010に規定の塗膜性能を有する、請求項11に記載のアルミニウム形材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム形材の部分着色方法及びアルミニウム材に関する。
【背景技術】
【0002】
JIS H 8602 2010は、アルミニウムおよびアルミニウム合金の展伸材(以下、アルミニウム材)の素地の防食、美観などを目的として施す陽極酸化塗装複合皮膜について規定する。ここで、陽極酸化塗装複合皮膜とは、「アルミニウムおよびアルミニウム合金に平均皮膜厚さ5μm以上の陽極酸化処理を施した後、塗装を施すことによって陽極酸化皮膜の性能に塗膜の性能を付加して、耐食性、耐候性、装飾性などの品質を向上させた皮膜」を意味する。
【0003】
アルミニウム材のうち、長手材である形材では、通常、陽極酸化塗装複合皮膜処理後に各用途に応じたサイズに切断する短尺処理が行われる。前記の切断により素地が露出した箇所には、製品用途に応じ着色が施される。
【0004】
アルミニウム材の選択箇所を部分的に陽極酸化処理する技術として、選択箇所以外をマスキングにより被覆して部分的に陽極酸化処理を行う手法が知られている(特許文献1等)。しかし、当該従来技術では、マスキング箇所と素地露出箇所の境界部分において着色が不均一となる傾向がある。また、マスキングを行うための作業工程及び作業時間が増えることとなる。
【0005】
アルミニウム材からなる製品に複数の色調を施す技術として、陽極酸化処理後に染色して封孔処理を行った後にレーザー加工により素地を露出させ、再び、陽極酸化処理を行って素地部分にアルマイト皮膜を形成し、当該アルマイト皮膜に染色して封孔処理を行う技術(特許文献2)が開示されている。特許文献2は、具体的には、アルミニウム製の時計ケースに複数の色調を施す技術である。しかし、特許文献2の手法を用いて複数の色調を施したアルミニウム材では十分な耐侯性が期待できない場合があり、構造材や建材として用いられる形材であって、JIS H 8602 2010に規定の塗膜性能を要求される形材には適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-13442号公報
【特許文献2】特開平6-256993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、陽極酸化塗装複合皮膜を有するアルミニウム形材の加工によって形材に生じた素地の露出箇所に、均一な着色を施すことができる技術を提供することを目的とする。前記加工として、切断加工や切削加工を例示することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記目的を達成するために、以下の手段を提供する。
【0009】
<アルミニウム形材の部分着色方法>
[1]
陽極酸化塗装複合皮膜を有するアルミニウム形材に露出した素地を陽極酸化処理し、前記素地の表面にアルマイト皮膜を形成する部分アルマイト処理工程と、
前記素地の表面に形成した前記アルマイト皮膜に染料を吸着させて封孔処理する部分着色工程を有する、アルミニウム形材の部分着色方法。
[2]
前記素地が、前記アルミニウム形材の切断面に露出した素地である、[1]に記載のアルミニウム形材の部分着色方法。
[3]
前記素地が、更に、前記陽極酸化塗装複合皮膜を有するアルミニウム形材の表面に露出した素地を含む、[2]に記載のアルミニウム形材の部分着色方法。
[4]
前記表面に露出した素地が、切削加工によるものである、[3]に記載のアルミニウム形材の部分着色方法。
[5]
前記陽極酸化塗装複合皮膜が、一次電解工程と二次電解着色工程と電着塗装工程を経て形成されてなる、[1]~[4]の何れかに記載のアルミニウム形材の部分着色方法。
[6]
前記部分アルマイト処理工程を、前記切断面を電解浴に浸漬して行う、[2]に記載のアルミニウム形材の部分着色方法。
[7]
前記部分アルマイト処理工程を、前記アルミニウム形材の長手方向を鉛直に配置して行う、[6]に記載のアルミニウム形材の部分着色方法。
[8]
前記部分アルマイト処理工程を、前記切断面を、電解浴に浸漬した多孔質体の上に配置して行う、[7]に記載のアルミニウム形材の部分着色方法。
[9]
前記部分アルマイト処理工程を、前記アルミニウム形材の全体を電解浴に浸漬して行う、[1]に記載のアルミニウム形材の部分着色方法。
[10]
前記部分アルマイト処理工程を、前記アルミニウム形材の長手方向を水平に配置して行う、[9]に記載のアルミニウム形材の部分着色方法。
【0010】
<アルミニウム形材>
[11]
陽極酸化塗装複合皮膜を有するアルミニウム形材であって、
[1]~[10]の何れかに記載のアルミニウム形材の部分着色方法で着色された着色面を有する、アルミニウム形材。
[12]
前記陽極酸化塗装複合皮膜がJIS H 8602 2010に規定の塗膜性能を有する、[11]に記載のアルミニウム形材。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、陽極酸化塗装複合皮膜を有するアルミニウム形材の加工によって形材に生じた素地の露出箇所に、均一な着色を施すことができる。また、マスキングを必要としないので、作業時間の短縮が可能となる。さらに、マスキングを廃棄する必要もないので、廃棄物の削減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態における部分アルマイト処理工程の模式図である。
図2】他の実施形態における部分アルマイト処理工程の模式図である。
図3】試験片を治具で固定した状態を示す写真である。
図4】実施例及び比較例における部分着色箇所を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[アルミニウム形材の部分着色方法]
本開示におけるアルミニウム形材の部分着色方法は、陽極酸化塗装複合皮膜を有するアルミニウム形材に露出した素地を陽極酸化処理し、前記素地の表面にアルマイト皮膜を形成する部分アルマイト処理工程と、前記素地の表面に形成した前記アルマイト皮膜に染料を吸着させて封孔処理する部分着色工程を有する。
【0014】
(部分アルマイト処理工程)
本工程で部分アルマイト処理を施す箇所は、陽極酸化塗装複合皮膜を有するアルミニウム形材に露出した素地である。好適には、前記アルミニウム形材の切断面に露出した素地、具体的には、陽極酸化塗装複合皮膜の形成後にアルミニウム形材を各用途に応じたサイズに短尺処理を行った際の切断面に露出した素地である。前記素地が、更に、前記陽極酸化塗装複合皮膜を有するアルミニウム形材の表面に露出した素地を含んでもよい。前記表面に露出した素地は、切り欠き加工又はレーザー加工の少なくとも一方によって、アルミニウム形材の表面をロゴ等の形状となるように凹状に加工したものであってもよい。
【0015】
本工程で用いるアルミニウム形材は、特に限定されず、各用途に応じて選択された合金からなるアルミニウムビレットに圧力を加えてダイス金型から押出す等、周知の方法で製造されたものを使用することができる。
【0016】
本工程で用いるアルミニウム形材に形成されている陽極酸化塗装複合皮膜はJIS H 8602 2010に規定の塗膜性能を有することが好ましい。前記陽極酸化塗装複合皮膜の膜厚は、好ましくは12μm以上であり、より好ましくは12~27μmである。
【0017】
陽極酸化塗装複合皮膜の形成方法は特に限定されない。例えば、アルミニウム形材に、常法に従って脱脂、エッチング、中和等の前処理を施し、同じく常法に従って陽極酸化処理を施した後に、該陽極酸化皮膜に塗装を施し、その後に焼付処理を施すことによって形成することができる。
陽極酸化塗装複合皮膜は、一次電解工程と二次電解着色工程と電着塗装工程を経て形成されてなるものであってもよい。すなわち、一次電解工程で形成された陽極酸化皮膜に、二次電解着色工程で電解着色を行った後、電着塗装工程でアクリル樹脂塗料等を用いた電着塗装を施したものであってもよい。
【0018】
本工程の陽極酸化処理は、図1に示すように、アルミニウム形材1の切断面を電解浴2に浸漬して行ってもよい。
アルミニウム形材1の切断面を電解浴2に浸漬する方法は特に限定されないが、例えば、図1に示すように、前記アルミニウム形材の長手方向を鉛直にして、その切断面を、電解浴に浸漬した多孔質体3の上に配置して行ってもよい。
多孔質体3として、スポンジやスコッチブライト(登録商標)を用いることができる。
【0019】
本工程の陽極酸化処理は、図2に示すように、前記アルミニウム形材の全体を電解浴に浸漬して行ってよい。
アルミニウム形材1の全体を電解浴2に浸漬する方法は特に限定されないが、例えば、図2に示すように、前記アルミニウム形材の長手方向を水平に配置して、治具4で吊り下げてもよい。
【0020】
(部分着色工程)
本工程では、前記素地の表面に形成した前記アルマイト皮膜に染料を吸着させて封孔処理を行う。
【0021】
アルマイト皮膜は微細孔を有するため、部分アルマイト処理工程を経たアルミニウム形材を染料液中に浸漬すると、部分アルマイト処理で形成されたアルマイト皮膜の微細孔に染料が吸着する。当該手法によれば、電解により金属を析出させて着色する二次電解着色とは異なる色調での着色を行うことができる。また、電解を行わない当該手法によれば、電解の影響による陽極酸化塗装複合皮膜の劣化の懸念がなく、JIS H 8602 2010に規定の塗膜性能を維持することができる。
【0022】
[アルミニウム形材]
上記のように、本発明の方法で部分着色されたアルミニウム形材は、形材端部に均一な着色が施された着色面を有し、かつ、表面の陽極酸化塗装複合皮膜がJIS H 8602 2010に規定の塗膜性能を備える。
部分着色箇所は、形材端部の他に、形材表面の一部にロゴ等の形状で設けることもできる。
【実施例0023】
次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0024】
<試験片>
以下の試験片を使用した。
表面に陽極酸化塗装複合皮膜を有するアルミニウム合金(JIS 6063 T5、厚さ5mm、幅120mm、長さ120mm)を、幅60mm、長さ60mmに切断して、切断面にアルミニウム合金の素地が露出した試験片を得た。
【0025】
<治具>
上記試験片を電解浴に浸漬するための治具として以下のものを使用した。
図3に示すように、Tig溶接用のアルミニウム製のワイヤ(φ0.8mm)を任意の長さに切断し、素地が露出した面に接して通電が行われるように加工して治具を形成した。なお、図3では、マスキングを施した試験片に治具を取り付けた例を示している。マスキングなしの試験片に治具を用いる場合は図3中のマスキングの有無のみが異なる。
【0026】
<陽極酸化条件>
以下の条件で、陽極酸化処理を行った。
・陽極酸化処理時間;30分
・陽極酸化皮膜厚さ;9μm
・陽極酸化処理の処理浴;硫酸濃度;15質量%
・陽極酸化処理の処理浴;温度;20℃
・陽極酸化処理電流密度;1A/dm
【0027】
<実施例>
試験片の表面にマスキングを行わず、治具で固定し、治具ごと試験片全体を電解浴に浸漬した。
上記条件で陽極酸化を行い、試験片の素地部分にアルマイト皮膜を形成した。
試験片の素地部分に形成したアルマイト皮膜を染色液に5分間浸漬し、染料を吸着させた後、沸騰水による封孔処理を30分間行った。
上記各処理により試験片の素地部分を部分着色した。当該箇所の写真を図4(実施例)に示す。
【0028】
<比較例>
試験片の表面にマスキングを行った以外は、上記実施例と同様にして、試験片の素地部分を部分着色した。当該箇所の写真を図4(比較例)に示す。
【0029】
[外観]
図4に示すように、比較例ではマスキング箇所と素地露出箇所の境界部分において着色が不均一となる箇所が確認されたが、実施例によれば、均一に着色された着色面が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の製造方法で得たアルミニウム形材は、例えば、構造材や建材として用いられるが、特にこれら例示の用途に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0031】
1 アルミニウム形材
2 電解浴
3 多孔質体
4 治具(陽極)
5 試験片
6 マスキング
7 台座
8 陰極
図1
図2
図3
図4