(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110655
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】光ファイバの製造方法および光ファイバの製造装置
(51)【国際特許分類】
C03B 37/027 20060101AFI20240808BHJP
【FI】
C03B37/027 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015362
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】和泉 有治
【テーマコード(参考)】
4G021
【Fターム(参考)】
4G021HA02
4G021HA05
(57)【要約】
【課題】光ファイバを安定的に製造できるまでにかかる時間を低減した、光ファイバの製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】光ファイバ母材を加熱炉に順次供給しながら、光ファイバ母材を線引して光ファイバを製造する製造方法であって、光ファイバ母材を供給する目標供給速度を算出する演算ステップと、目標供給速度となるように、光ファイバ母材を供給する速度を制御する供給制御ステップと、を備え、演算ステップは、光ファイバの外径である実測外径と、光ファイバの目標外径と、を用いて光ファイバの引取速度である線速を補正した補正線速に基づいて、目標供給速度を算出する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ母材を加熱炉に順次供給しながら、前記光ファイバ母材を線引して光ファイバを製造する製造方法であって、
前記光ファイバ母材を供給する目標供給速度を算出する演算ステップと、
前記目標供給速度となるように、前記光ファイバ母材を供給する速度を制御する供給制御ステップと、を備え、
前記演算ステップは、前記光ファイバの外径である実測外径と、前記光ファイバの目標外径と、を用いて前記光ファイバの引取速度である線速を補正した補正線速に基づいて、前記目標供給速度を算出する、
光ファイバの製造方法。
【請求項2】
前記補正線速Vaは、前記光ファイバの引取速度である線速V0と、実測外径dと目標外径Dを用いて、Va=(d/D)2・V0の式により算出される、請求項1に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項3】
前記光ファイバの製造方法は、光ファイバの製造を停止している状態から良品を製造している状態まで前記線速を上昇させる線速上昇工程と、良品を製造する良品製造工程と、を備え、
前記線速上昇工程において、前記演算ステップを行う、
請求項1または請求項2に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項4】
前記線速上昇工程における前記光ファイバの目標外径は、前記良品製造工程における前記光ファイバの目標外径より小さい、
請求項3に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項5】
前記良品製造工程における目標線速は2000m/分以上である、請求項3に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項6】
光ファイバ母材を加熱する加熱炉と、前記加熱炉に前記光ファイバ母材を順次供給するフィーダと、加熱された前記光ファイバ母材を線引して光ファイバを製造する引取機と、線引きされた前記光ファイバの外径を測定する外径測定器と、制御部とを備える光ファイバを製造する製造装置であって、
前記制御部は、
前記外径測定器により測定された前記光ファイバの実測外径と、前記光ファイバの目標外径と、を用いて前記光ファイバの引取速度である線速を補正した補正線速に基づいて、前記光ファイバ母材を供給する目標供給速度を算出し、
前記目標供給速度となるように、前記フィーダを制御する、
光ファイバの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバの製造方法および光ファイバの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、光ファイバの線引速度(線速)の一定時間当たりの変化量を設定し、当該設定変化量と、線引速度の実際の変化量との差に基づいて、線引される光ファイバ母材の加熱炉への供給速度を制御する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、生産性の向上のため、光ファイバを製造する際の線速は上昇傾向にある。したがって、光ファイバの製造装置の設計上の上限に近い線速で、光ファイバを製造することがあり、時折、線速が予め設定された目標線速を上回って、製造装置の上限線速(機械線速)に達することがある。
【0005】
ところで、光ファイバの外径が目標外径から外れた場合は、特許文献1のように、線速を制御することで外径を修正する制御を行うことが知られているが、それだけでは光ファイバの外径を適切に制御できないことがあり、目標線速で安定するまでに時間がかかることがあった。
【0006】
本開示は、光ファイバを安定的に製造できるまでにかかる時間を低減した、光ファイバの製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る光ファイバの製造方法は、
光ファイバ母材を加熱炉に順次供給しながら、前記光ファイバ母材を線引して光ファイバを製造する製造方法であって、
前記光ファイバ母材を供給する目標供給速度を算出する演算ステップと、
前記目標供給速度となるように、前記光ファイバ母材を供給する速度を制御する供給制御ステップと、を備え、
前記演算ステップは、前記光ファイバの外径である実測外径と、前記光ファイバの目標外径と、を用いて前記光ファイバの引取速度である線速を補正した補正線速に基づいて、前記目標供給速度を算出する。
【0008】
本開示の一態様に係る光ファイバの製造装置は、
光ファイバ母材を加熱する加熱炉と、前記加熱炉に前記光ファイバ母材を順次供給するフィーダと、加熱された前記光ファイバ母材を線引して光ファイバを製造する引取機と、線引きされた前記光ファイバの外径を測定する外径測定器と、制御部とを備える光ファイバを製造する製造装置であって、
前記制御部は、
前記外径測定器により測定された前記光ファイバの実測外径と、前記光ファイバの目標外径と、を用いて前記光ファイバの引取速度である線速を補正した補正線速に基づいて、前記光ファイバ母材を供給する目標供給速度を算出し、
前記目標供給速度となるように、前記フィーダを制御する。
【発明の効果】
【0009】
上記開示の構成によれば、光ファイバを安定的に製造できるまでにかかる時間を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、光ファイバの製造装置の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本実施形態における線速、補正線速、計測外径、供給速度の一例を示した図である。
【
図3】
図3は、比較例における線速、計測外径、供給速度の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の一態様に係る光ファイバの製造方法は、
光ファイバ母材を加熱炉に順次供給しながら、前記光ファイバ母材を線引して光ファイバを製造する製造方法であって、
前記光ファイバ母材を供給する目標供給速度を算出する演算ステップと、
前記目標供給速度となるように、前記光ファイバ母材を供給する速度を制御する供給制御ステップと、を備え、
前記演算ステップは、前記光ファイバの外径である実測外径と、前記光ファイバの目標外径と、を用いて前記光ファイバの引取速度である線速を補正した補正線速に基づいて、前記目標供給速度を算出する。
上記の方法によれば、線速だけでなく、実測外径と目標外径とを考慮に入れた補正線速に基づいて目標供給速度を算出するので、実測外径が目標外径から外れようとしたときにも、供給速度を修正できる。これにより、線速の上限貼り付き状態を解消しやすくなり、外径制御をスムーズに行うことができるので、良品の光ファイバを製造する工程(良品製造工程)を早く開始できる。
【0012】
(2)前記(1)の光ファイバの製造方法において、
前記補正線速Vaは、前記光ファイバの引取速度である線速V0と、実測外径dと目標外径Dを用いて、Va=(d/D)2・V0の式により算出されることが好ましい。
上記方法において補正線速Vaは、光ファイバ母材の単位時間あたりの溶融量に比例する。線速が増減しなくとも外径が増減した場合(母材溶融量が変化した場合)は、補正線速も同じ割合で増減するので、補正線速に応じて供給速度を制御することにより、外径制御をより安定して行える。
【0013】
(3)前記(1)または(2)の光ファイバの製造方法は、
光ファイバの製造を停止している状態から良品を製造している状態まで前記線速を上昇させる線速上昇工程と、良品を製造する良品製造工程と、を備え、
前記線速上昇工程において、前記演算ステップを行うことが好ましい。
線速上昇工程では、上限貼り付き状態になりやすく、それに伴い外径の制御も難しくなるが、上記の方法によれば、より安定して線速と外径を制御することができる。
【0014】
(4)前記(3)の光ファイバの製造方法において、
前記線速上昇工程における前記光ファイバの目標外径は、前記良品製造工程における前記光ファイバの目標外径より小さいことが好ましい。
線速上昇工程は良品製造工程と比較して、光ファイバの外径制御が難しく、製造された光ファイバの外径がしばしば増大したり減少したりすることが知られている。しかしながら、上記の方法のように線速上昇工程における目標外径を細くすることで、外径の制御が不安定な状態であっても、光ファイバを引き取る際に、製造装置を通過しやすくなる。
【0015】
(5)前記(3)または(4)の光ファイバの製造方法において、
前記良品製造工程における目標線速は2000m/分以上であってもよい。
線速2000m/分以上のように線速が大きいとき、製造装置の設計上の線速の上限値に達することがあるが、上記の製造方法は、線速が上限値に達した場合であっても、外径の制御を行いやすい。また、良品製造工程の線速が大きいときは、線速上昇工程における光ファイバの外径の制御がより難しくなるため、目標外径を細くすることで、光ファイバを引き取る際に、より製造装置を通過しやすくなる。
【0016】
(6)本開示の一態様に係る光ファイバの製造装置は、
光ファイバ母材を加熱する加熱炉と、前記加熱炉に前記光ファイバ母材を順次供給するフィーダと、加熱された前記光ファイバ母材を線引して光ファイバを製造する引取機と、線引きされた前記光ファイバの外径を測定する外径測定器と、制御部とを備える光ファイバを製造する製造装置であって、
前記制御部は、
前記外径測定器により測定された実測外径と、前記光ファイバの目標外径と、を用いて前記光ファイバの引取速度である線速を補正した補正線速に基づいて、前記光ファイバ母材を供給する目標供給速度を算出し、
前記目標供給速度となるように、前記フィーダを制御する。
上記構成の光ファイバの製造装置によれば、演算部は、線速だけでなく、実測外径と目標外径とを考慮に入れた補正線速に基づいて実測供給速度を算出するので、実測外径が目標外径から外れようとしたときに供給速度を修正できる。これにより、線速の上限貼り付き状態を解消しやすくなり、外径制御をスムーズに行うことができるので、良品の光ファイバを製造する工程を早く開始できる。
【0017】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示に係る光ファイバの製造方法の実施の形態の例を、図面を参照しつつ説明する。以下の説明では、異なる図面であっても同一又は相当の要素には同一の符号又は名称を付し、重複する説明を適宜省略する。また、各図面に示された各部材の寸法は、説明の便宜上のものであって、実際の各部材の寸法とは異なる場合がある。
【0018】
まず、光ファイバを製造するための製造装置1について説明をする。
図1は、光ファイバの製造装置1の一例を示す概略図である。
図1に示すように、光ファイバの製造装置1は、加熱炉2と、フィーダ3と、外径測定器4と、ダイス5と、樹脂硬化装置6と、キャプスタン7と、ダンサローラ8,9と、巻取りボビン10と、制御部20と、を備える。
【0019】
加熱炉2は、光ファイバ母材Gを加熱する円筒型の炉である。加熱炉2はヒータを備えており、加熱炉2の内部空間に供給された光ファイバ母材Gを軟化させて線引き可能な温度に温めることができる。加熱炉2の内部空間には、ヘリウムや窒素等のパージガスを供給されてもよい。
【0020】
フィーダ3は、光ファイバ母材Gの上部を把持する。フィーダ3は、光ファイバ母材Gを、加熱炉2に送る。加熱炉2内に供給された光ファイバ母材Gは、加熱されて軟化し、下方に引き伸ばされて細径化することで、ガラスファイバG1が形成される。製造されたガラスファイバG1は、冷却装置(図示せず)により冷却されることで、その形状が安定する。
なお、ガラスファイバG1は光ファイバの一例である。
【0021】
外径測定器4は、加熱炉2の下流側に設けられている。加熱炉2から出て冷却されたガラスファイバG1は、外径測定器4によりその外径が測定される。外径測定器4としては、ガラスファイバG1の外径を測定可能なものであれば特に制限されず、例えば、レーザ光式の測定器を用いることができる。なお、外径測定器4は、パスライン上の複数箇所に設けられていても良い。
【0022】
ダイス5は、外径測定器4の下流側に設けられている。ダイス5には、ガラスファイバG1の周囲に被覆するための樹脂が供給されている。ダイス5の内部をガラスファイバG1が通ることで、ガラスファイバG1の周囲に樹脂が塗布される。
【0023】
樹脂硬化装置6は、ダイス5の下流側に設けられている。樹脂硬化装置6は、ダイス5によってガラスファイバG1の周囲に塗布された樹脂を硬化させる。被覆する樹脂が紫外線硬化型樹脂である場合、樹脂硬化装置6は紫外線照射装置である。被覆する樹脂が熱硬化型樹脂である場合、樹脂硬化装置6は加熱装置である。ガラスファイバG1は、ダイス5および樹脂硬化装置6を通過することにより、被覆層が形成された光ファイバ素線G2となる。
なお、ダイス5および樹脂硬化装置6は被覆ユニットの一例である。また、光ファイバ素線G2は光ファイバの一例である。
【0024】
光ファイバ素線G2は、樹脂硬化装置6の下流に設けられた直下ローラを介して、キャプスタン7に引き込まれる。キャプスタン7は、光ファイバ素線G2を所定の速度で引き取る引取機の一例であって、複数のローラに巻回されたキャプスタンベルト7aと、キャプスタンベルト7aと密着して設けられるキャプスタンローラ7bと、を備える。キャプスタンローラ7bが回転することで、光ファイバ素線G2は、キャプスタンベルト7aとキャプスタンローラ7bとの間に引き込まれて、さらに下流側へ送られる。
【0025】
光ファイバ素線G2は、キャプスタン7よりも下流側に設けられたダンサローラ8,9を介して、巻取りボビン10に送られる。ダンサローラ8,9は、送られてきた光ファイバ素線G2の張力や搬送速度の変動を緩和する。巻取りボビン10は回転することで、光ファイバ素線G2を巻き取ることができる。
【0026】
制御部20は、フィーダ3、外径測定器4、および、キャプスタン7と通信可能に接続されている。
制御部20は、外径測定器4からガラスファイバG1の実測外径dのデータを取得することができる。
【0027】
制御部20は、キャプスタン7からキャプスタンローラ7bの回転数などの光ファイバ素線G2の線引速度(線速V0)に関する情報を受け取るとともに、キャプスタンローラ7bの回転数を制御して線速V0を変化させることができる。
線速V0を変化させると製造されるガラスファイバG1の外径を変化させることができる。例えば、供給速度Vsが変化しない状態で、線速V0を上昇させると、光ファイバ母材Gの供給速度Vsは変化しないにもかかわらず時間当たりに製造される光ファイバ素線G2の長さは増大するので、製造されるガラスファイバG1の外径は細くなる。供給速度Vsが変化しない状態で、線速V0を低下させると、光ファイバ母材Gの供給速度Vsは変化しないにもかかわらず時間当たりに製造される光ファイバ素線G2の長さは減少するので、製造されるガラスファイバG1の外径は太くなる。
【0028】
また、制御部20は、フィーダ3に対して光ファイバ母材Gを下降させる速度である供給速度Vsを制御することができる。
供給速度Vsを変化させると製造されるガラスファイバG1の外径を変化させることができる。例えば、ファイバ心線の線引速度(線速V0)が変化しない状態で、供給速度Vsを上昇させると、光ファイバ母材Gの溶融量が増大するので、製造されるガラスファイバG1の外径は太くなる。逆に、線速V0が変化しない状態で、供給速度Vsを低下させると、光ファイバ母材Gの溶融量が減少するので、製造されるガラスファイバG1の外径は細くなる。
【0029】
このように、光ファイバ母材Gの供給速度Vs及びキャプスタンローラ7bの回転数(線速V0)を変化させることで、製造されるガラスファイバG1の外径も変化させることができる。
【0030】
本実施形態の制御部20は、以下の制御を繰り返すことで、線速V0が目標線速となるように、かつ、ガラスファイバG1の外径が目標外径Dとなるように、光ファイバ母材Gの供給速度Vsを制御する。
制御部20は、外径測定器4から実測外径dを、キャプスタン7からキャプスタンローラ7bの回転数などの光ファイバ素線G2の線引速度(線速V0)に関する情報を取得する。
次に、制御部20は取得した実測外径dとガラスファイバG1の目標外径Dとを用いて線速V0を補正した補正線速Vaを算出し、算出された補正線速Vaに基づいて目標供給速度を算出する(演算ステップ)。
続いて、制御部20は、目標供給速度となるように、光ファイバ母材Gの供給速度Vsを制御する(供給制御ステップ)。
【0031】
なお、補正線速Vaは、線速V0と実測外径dと目標外径Dとを用いて、次の式により算出されることが望ましい。
Va=(d/D)2・V0
上記の式で算出された補正線速Vaは、光ファイバ母材Gの溶融量と比例する。
または、実測外径dと目標外径Dとの差が所定の閾値Eを超えた場合に、次の式のように線速V0に対して一定の線速変化量Wを加減することでもよい。
Va=V0+W (d-D<-E のとき)
Va=V0 (-E≦d-D≦Eのとき)
Va=V0-W (E<d-D のとき)
【0032】
次に、光ファイバ素線G2の製造装置1における供給速度Vsの制御を上記のようにすることによる作用と効果について、特許文献1のように線速を参照して供給速度を制御する製造装置(比較例)と比較して説明する。
図2は、本実施形態における線速V0、補正線速Va、計測外径、供給速度Vsの一例を示した図である。
図3は、比較例における線速、計測外径、供給速度の一例を示した図である。
【0033】
光ファイバ素線G2の製造を開始すると、制御部20はフィーダ3に光ファイバ母材Gの供給を開始させる。光ファイバ母材Gが十分に軟化して下方へ引き伸ばすことが可能となると、種落とし作業およびパスラインへの線掛け作業を行った後、制御部20はキャプスタン7に所定の線速V0での光ファイバ素線G2の引き取りを開始させる。制御部20は、ガラスファイバG1の実測外径dが目標外径Dとなるよう、線速V0を制御する。すなわち、制御部20は、実測外径dが目標外径Dより小さい場合は線速V0を減少させ、実測外径dが目標外径Dより大きい場合は線速V0を増加させる。制御部20は、線速V0を目標線速まで上昇させると同時に、本実施形態においては、補正線速Vaに基づいて供給速度Vsを算出し、その供給速度Vsで光ファイバ母材Gを降下させるようにフィーダ3を制御する。以降、線速V0が目標線速付近で安定し、ガラスファイバG1の外径が目標外径D付近で安定する時点より前の工程を線速上昇工程と呼ぶ。また、線速V0が目標線速付近で安定し、ガラスファイバG1の外径が目標外径D付近で安定する時点より後の工程を良品製造工程と呼ぶ。良品製造工程において、出荷に値する良品の光ファイバ素線G2が製造される。
【0034】
ところで、特に線速上昇工程において、線速の制御は不安定になりやすいことが知られている。例えば、線速を目標線速にまで上昇させようとすると、ガラスファイバG1の外径の制御の影響により目標線速をオーバーシュートすることがあり、このとき線速が製造装置で製造可能な線速の機械線速に達する場合がある(
図2、
図3参照)。特に近年は、生産効率の向上のため、目標線速が機械線速に近い状態で光ファイバを製造することが求められているため、目標線速を少しでもオーバーシュートすると、機械線速に達しやすい。
【0035】
このような、線速が機械線速に達している状態(以下、上限貼り付き状態という)において、供給速度(つまり、母材溶融量)が線速に対して過剰な場合、ガラスファイバの外径が異常に太くなることがある。
【0036】
例えば、比較例の製造装置は、特許文献1のように、光ファイバの線引速度(線速)の一定時間当たりの変化量を設定し、当該設定変化量と、線引速度の実際の変化量との差に基づいて、線引される光ファイバ母材の加熱炉への供給速度を制御する。換言すれば、供給速度の制御のために、実測外径は用いられない。
【0037】
この場合、外径の制御は、線速の操作のみによって行われる。例えば、外径が太くなった場合は、母材溶融量に対して線速が遅すぎるということであるから、線速を速くすることによってガラスファイバの外径が小さくなるように、線速を制御している。
【0038】
しかしながら、外径の制御を線速の操作のみによって行う場合には次のような問題が起こりうる。上限貼り付き状態で、実測外径が目標外径よりも大きくなった場合、これ以上線速を大きくできないので、外径を小さくしにくい。さらに、特許文献1のように、供給速度の制御は線速の変化量に応じて行われる場合は、線速の変化量が0となるので供給速度も一定のままとなりやすい。したがって、供給速度(母材溶融量)が線速に対して過剰な状態が続くので、
図3のように機械線速に達した後に実測外径が目標外径よりも大きい状態が続きやすい。このように、上限貼り付き状態となると、ガラスフファイバの外径が目標外径に近づかせる制御が機能しにくくなるので、良品の光ファイバを製造できるまでに時間がかかりやすい。
【0039】
一方、本実施形態における製造装置1において、線速V0が機械線速に達すると、比較例と同様に、母材溶融量が線速V0に対して過剰であるため、実測外径dが目標外径Dよりも増大し始める。このとき、比較例と同様に、線速V0は上げられないので、線速V0を上昇させることで外径を細くする制御はできない。
しかしながら、線速V0は一定でも外径は太くなるので補正線速Vaは上昇する。これにより、制御部20は補正線速Vaの変化量に応じて目標供給速度を現在の供給速度Vsよりも低下させることができる。供給速度Vsを低下させることで、母材溶融量が低下する。母材溶融量が低下することにより、線速V0に対する母材溶融量のバランスが取れるので、ガラスファイバG1の外径を細くして目標外径Dに近づけることができる。
したがって、外径の制御を補正線速Vaに基づいて行うことで、比較例よりも早い時間で良品製造工程に移ることができる。
【0040】
このように、本実施形態の製造方法および製造装置1において、線速V0だけでなく、実測外径dと目標外径Dとを考慮に入れた補正線速Vaに基づいて目標供給速度を算出する。このとき、実測外径dが目標外径Dから外れようとしたときにも、供給速度Vsを修正できる。これにより、線速V0の上限貼り付き状態を解消しやすくなり、外径制御をスムーズに行うことができるので、良品の光ファイバ素線G2を製造する工程(良品製造工程)を早く開始できる。
【0041】
上記の補正線速Vaが、Va=(d/D)2・V0の式により算出される場合、補正線速Vaは、光ファイバ母材Gの単位時間あたりの溶融量に比例する。線速V0が増減しなくとも外径が増減した場合(母材溶融量が変化した場合)は、補正線速Vaも同じ割合で増減するので、補正線速Vaに応じて供給速度Vsを制御することにより、外径制御をより安定して行える。
【0042】
補正線速Vaに基づく目標供給速度の決定は、特に、線速上昇工程においておこなわれることが望ましい。線速V0の制御は、線速上昇工程において特に難しく、上限貼り付き状態になりやすい。これに伴い、光ファイバの一例であるガラスファイバG1の外径の制御も難しくなりやすいが、上記の方法によれば、より安定して線速V0と外径を制御することができる。
【0043】
なお、線速上昇工程におけるガラスファイバG1の目標外径Dは、良品製造工程におけるガラスファイバG1の目標外径Dよりも小さいことが好ましい。線速上昇工程は良品製造工程と比較して、ガラスファイバG1の外径制御が難しく、製造されたガラスファイバG1の外径がしばしば増大したり減少したりすることが知られている。しかしながら、線速上昇工程における目標外径Dを細くすることで、外径の制御が不安定な状態であっても、光ファイバ素線G2を引き取る際に、ダイス5等の製造装置1を通過しやすくなる。
【0044】
また、良品製造工程における目標線速が2000m/分以上であるような場合に本実施形態の製造方法を適用することが望ましい。近年、大量かつ短時間に製造することを目的として、機械線速に近い目標線速で光ファイバ素線G2の製造がおこなわれることがある。線速V0が2000m/分以上のように線速V0が大きいとき、機械線速に達することがあるが、上記の製造方法は、線速V0が機械線速に達した場合であっても、外径の制御を行いやすい。
【0045】
以上、本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。また、上記説明した構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等に変更することができる。また、上記説明した各例が含む要素は、互いに組みわせることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 製造装置
2 加熱炉
3 フィーダ
4 外径測定器
5 ダイス
6 樹脂硬化装置
7 キャプスタン
7a キャプスタンベルト
7b キャプスタンローラ
8 ダンサローラ
9 ダンサローラ
10 ボビン
20 制御部
G 光ファイバ母材
G1 ガラスファイバ
G2 光ファイバ素線