(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110656
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】スポット溶接方法及びスポット溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 11/30 20060101AFI20240808BHJP
B23K 11/24 20060101ALI20240808BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
B23K11/30
B23K11/24 315
B23K11/11 540
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015364
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】森田 智也
(72)【発明者】
【氏名】今本 和伸
【テーマコード(参考)】
4E165
【Fターム(参考)】
4E165AA02
4E165AA03
4E165AB02
4E165AB03
4E165BB04
4E165BB12
4E165BB21
4E165BB25
4E165CA02
4E165CA13
4E165DA13
4E165EA11
(57)【要約】
【課題】複数の金属板を重ね合わせた板組みが高強度鋼板やめっき鋼板を含む場合であっても、割れ等の欠陥がない高精度の溶接部を少エネルギーで形成することを可能にする。
【解決手段】2枚の鋼板(高強度鋼板)21,22を重ね合わせた板組み20に鋼板21,22同士を接合する点状の溶接部10を形成するに際し、板組み20を板厚方向に加圧している第1電極2Aを介して溶接部形成用の第1電流4を板組み20に供給する第1給電工程を実施し、その後、板組み20と第1電極2Aとを非接触にした状態で、板組み20のうち第1電極20による加圧位置よりも径方向外側の所定位置を板厚方向に加圧している第2電極2Aを介して第1電流よりも電流値が小さい第2電流を板組み20に供給する第2給電工程を実施する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属板を重ね合わせた板組みに金属板同士を接合する点状の溶接部を形成するに際し、
前記板組みを板厚方向に加圧している第1正電極を介して溶接部形成用の第1電流を前記板組みに供給する第1給電工程を実施し、その後、
前記板組みと前記第1正電極とを非接触にした状態で、前記板組みのうち前記第1正電極による加圧位置よりも径方向外側の所定位置を板厚方向に加圧している第2正電極を介して前記第1電流よりも電流値が小さい第2電流を前記板組みに供給する第2給電工程を実施することを特徴とするスポット溶接方法。
【請求項2】
複数の金属板を重ね合わせた板組みに前記金属板同士を接合する点状の溶接部を形成するスポット溶接装置であって、
前記板組みに対して板厚方向の加圧力を付与しつつ溶接部形成用の第1電流を前記板組みに供給可能な第1正電極と、該第1正電極の径方向外側に配置され、前記板組みに対して板厚方向の加圧力を付与しつつ前記第1電流よりも電流値が小さい第2電流を前記板組みに供給可能な第2正電極と、
前記第1正電極及び前記第2正電極の何れか一方が前記板組みに接触したときに他方が前記板組みに対して非接触となるように、前記第1正電極及び前記第2正電極を前記板組みの板厚方向に沿って進退移動させる直動機構と、を備えることを特徴とするスポット溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接方法及びスポット溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板等の金属板を複数枚重ね合わせた板組みにおいて金属板同士を接合するための方法の一つに抵抗スポット溶接(以下、単に「スポット溶接」と言う。)がある。スポット溶接は、板組みに押し当てた(板組みを板厚方向に加圧する)電極を介して板組みに電流を供給することにより金属板同士の接触部を溶融させた後、この溶融部分を急冷・凝固させることにより金属板同士を接合した点状の溶接部を得る方法である。スポット溶接としては、先端部(先端面)が板組みを挟んで対向するように同軸配置された正負一対の電極間に溶接部を形成するダイレクトスポット溶接が広く採用されている。
【0003】
なお、本明細書で言う「溶接部」は、JIS Z3001-1:2018に記載された「溶接部」の定義に準ずる。すなわち、「溶接部」とは、「溶接金属(ナゲット)及び熱影響部を含んだ部分の総称」である。上記の「溶接金属」とは、「溶接部の一部で、溶接中に溶融凝固した金属」であり、「熱影響部」とは、「溶接・切断などの熱で組織、冶金的性質、機械的性質などが変化を生じた、溶融していない母材の部分」である。熱影響部は「HAZ」とも称される。
【0004】
近年、例えば自動車の車体を構成する板組みにおいては、低燃費/低電費化(軽量化)及び衝突安全性向上等を目的として、高張力鋼板や超高張力鋼板などの高強度鋼板を採用するケースが増加している(例えば、特許文献1)。しかしながら、高強度鋼板を含む板組みでは、高強度鋼板を含まない板組みに比べ、所望の接合強度を有する溶接部(ナゲット)を得ることが難しいという問題がある。そこで、高強度鋼板を含む板組みをスポット溶接する場合には、高強度鋼板を含まない板組みをスポット溶接する場合に比べ、板組みに付与する板厚方向の加圧力を大きくする、板組みに大エネルギーを付与する(板組みに供給する電流の電流値を大きくする、通電時間を長くする等)、などといった対策が講じられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-116223号公報
【特許文献2】特開平7-68388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、高強度鋼板を含む板組みをスポット溶接するに当たり、板組みに対して高加圧力及び大エネルギーを付与すると、金属組織(機械的特性や硬度等)が互いに異なる溶接金属(ナゲット)とその周囲の熱影響部の境界部で大きな応力が発生し易くなるため、溶接部に割れ(亀裂)等の欠陥が発生し易くなる。また、亜鉛めっき鋼板のようなめっき鋼板を含む板組みをスポット溶接するに当たり、板組みに対して高加圧力及び大エネルギーを付与すると、めっきの構成元素(例えば亜鉛)が熱影響部の結晶粒界に凝集し易くなるため、上記同様、溶接部に割れ等の欠陥が発生し易くなる。
【0007】
上記のような欠陥の発生を防止するための方法として、溶接部の形成後に、溶接部の形成に使用した電極を介して板組みに再度電流を供給することにより、溶接部に軟化処理(焼鈍又は焼き戻し)を施すことが知られている(例えば、特許文献2)。しかしながら、溶接部のうち、特にナゲットの金属組織は、溶融状態からの急冷により形成された凝固組織であることから、ナゲットを軟化させるには多くのエネルギー(十分な通電時間や電流量)が必要になる。そのため、板組みをスポット溶接するために必要となる総時間・コストの増大が不可避となる。
【0008】
上記の実情に鑑み、本発明は、複数の金属板を重ね合わせた板組みが高強度鋼板やめっき鋼板を含む場合であっても、割れ等の欠陥がない高精度の溶接部を少エネルギーで形成することを可能にする技術手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために創案された本発明は、複数の金属板を重ね合わせた板組みに金属板同士を接合する点状の溶接部を形成するに際し、
板組みを板厚方向に加圧している第1正電極を介して溶接部形成用の第1電流を板組みに供給する第1給電工程を実施し、その後、
板組みと第1正電極とを非接触にした状態で、板組みのうち第1正電極による加圧位置よりも径方向外側の所定位置を板厚方向に加圧している第2正電極を介して第1電流よりも電流値が小さい第2電流を板組みに供給する第2給電工程を実施することを特徴とする。
【0010】
上記のような第2給電工程を第1給電工程に続けて実施すれば、第1給電工程で金属板同士の接触部に形成される溶接部のうち、その中央部付近に形成されたナゲットが完全に冷え固まるまでの間、ナゲットの周囲の熱影響部を保温する(熱影響部の冷却速度を遅くする)ことが可能となる。これにより、板組みが高強度鋼板を含む場合には、板組みに形成される溶接部のうちナゲットと熱影響部の境界部で大きな応力が発生するのを抑制又は防止することができるので、上記応力に由来する割れ等の欠陥発生を可及的に防止することができる。また、板組みがめっき鋼板を含む場合には、めっきの構成元素が熱影響部の結晶粒界に凝集するのを防止することができるので、めっき構成元素の凝集に由来する割れ等の欠陥発生を可及的に防止することができる。
【0011】
そして、第2給電工程において、第2電流は、凝固した(冷え固まった)溶接部を軟化させるために板組みに供給されるわけではなく、溶接部の一部(ナゲットの周囲の熱影響部)の冷却速度を遅くするために板組みに供給されるものであるから、第2電流の電流値は第1電流の電流値よりも小さくて足り、また板組みに対する第2電流の供給量(第2正電極を介しての通電時間)は少なくて済む。そのため、割れ等の欠陥がない高精度の溶接部を少エネルギーで形成することができる。
【0012】
上記の第2給電工程においては、第2正電極により板組みを板厚方向に加圧してから板組みと第1正電極の接触状態を解消し、その後、第2正電極を介して第2電流を板組みに供給するようにすることができる。
【0013】
また、上記の目的は本発明に係るスポット溶接装置によって達成することもできる。すなわち、本発明に係るスポット溶接装置は、複数の金属板を重ね合わせた板組みに金属板同士を接合する点状の溶接部を形成するものであって、
板組みに対して板厚方向の加圧力を付与しつつ溶接部形成用の第1電流を板組みに供給可能な第1正電極と、第1正電極の径方向外側に配置され、板組みに対して板厚方向の加圧力を付与しつつ第1電流よりも電流値が小さい第2電流を板組みに供給可能な第2正電極と、
第1正電極及び第2正電極の何れか一方が板組みに接触したときに他方が板組みに対して非接触となるように、第1正電極及び第2正電極を板組みの板厚方向に沿って進退移動させる直動機構と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上より、本発明によれば、複数の金属板を重ね合わせた板組みが高強度鋼板やめっき鋼板を含む場合であっても、割れ等の欠陥がない高精度の溶接部を少エネルギーで形成することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(a)図は、本発明の一実施形態に係るスポット溶接装置の要部を概念的に示す図、(b)図は、(a)図のA-A線矢視断面図である。
【
図2】
図1のスポット溶接装置による溶接手順(本発明に係るスポット溶接方法の実施手順)を示す図であり、(a)図は第1給電工程の初期段階を示す図、(b)図は第1給電工程の途中段階を示す図、(c)図は第2給電工程の初期段階を示す図、(d)図は第2給電工程の途中段階を示す図である。
【
図3】(a)図及び(b)図共に、本発明の他の実施形態に係るスポット溶接装置の部分断面図である。
【
図4】本発明の他の実施形態に係るスポット溶接装置の要部を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
まず、
図1(a)(b)に基づき、本発明の実施形態に係るスポット溶接方法を実施するために用いられるスポット溶接装置1の概要を説明する。スポット溶接装置1は、複数の金属板を重ね合わせてなる平置き(水平)姿勢の板組み20をスポット溶接する際に使用されるものであり、対をなすかたちで設けられた第1電極2A,2Bとからなる第1の電極組2と、対をなすかたちで設けられた第2電極3A,3Bとからなる第2の電極組3とを備える。
【0018】
第1の電極組2を構成する第1電極2A,2Bは、一般的な丸棒電極や角棒電極からなり[ここでは丸棒電極。
図1(b)を参照]、凸球面状に形成された先端部が板組み20を挟んで互いに対向するように同軸配置されている。
【0019】
図示は省略しているが、第1電極2A,2Bは、両電極2A,2B間にスポット溶接用(溶接部形成用)の高電流を発生させるために、トランスを介して電源と電気的に接続されている。本実施形態では、
図2(a)に示すように、板組み20の上側に配置された第1電極2Aがトランスの正極端子と電気的に接続された正電極であり、板組み20の下側に配置された第1電極2Bがトランスの負極端子と電気的に接続された負電極である。
【0020】
第2の電極組3を構成する第2電極3A,3Bの双方は円筒状をなし[
図1(b)を参照]、先端部が第1の電極組2(を構成する第1電極2A,2B)よりも所定量径方向外側で板組み20を挟んで対向するように同軸配置されている。具体的には、
図2(c)(d)に示すように、板組み20に形成される溶接部10のうちナゲット11の周囲に形成される熱影響部12を、第2電極3A,3B間への通電時に発生する電流(第2電流5)が流れるように、第2電極3A,3Bのサイズや配置位置等が調整される。なお、第1電極2A,2B間への通電時間、及び第1電極2A,2B間を流れる電流(第1電流4)の電流値を制御することによってナゲット11の大きさ(ナゲット径)をコントロールすることができるので、熱影響部12の形成位置は容易に推定可能である。
【0021】
図示は省略しているが、第2電極3A,3Bも電源と電気的に接続されている。ここでは、板組み20の上側に配置した第2電極3Aが電源の正極端子と電気的に接続された正電極であり、板組み20の下側に配置した第2電極3Bが電源の負極端子と電気的に接続された負電極である。第2電極組3は、第1電極組2と同様にトランスを介して電源と電気的に接続しても良いし、トランスを介さずに電源と電気的に接続しても良い。これは、第2の電極組3への通電時に板組み20に供給する(第2電極3A,3B間に発生させる)第2電流5の電流値を、第1の電極組2への通電時に板組み20に供給する(第1電極2A,2B間に発生させる)第1電流4の電流値よりも意図的に小さくするからである。具体的には、第2電流5の電流値は、第1電流4の電流値の50%以下とする。但し、第1電流4及び第2電流5の電流値や、第1の電極組2及び第2の電極組3への通電時間は、板組み20を構成する金属板の重ね合わせ枚数、金属板の材質、金属板の板厚等に応じて設定される。
【0022】
板組み20の上側に同軸配置された第1電極2Aと第2電極3Aは図示しない絶縁手段によって絶縁され、また、板組み20の下側に同軸配置された第1電極2Bと第2電極3Bも図示しない絶縁手段によって絶縁されている。
【0023】
スポット溶接装置1は、板組み20の上側に同軸配置された2つの電極2A,3Aの何れか一方が板組み20に接触した(板組み20を板厚方向に加圧している)ときに他方が板組み20に対して非接触となるように、第1電極2A及び第2電極3Aを板組み20の板厚方向(鉛直方向)に進退移動させる直動機構と、板組み20の下側に同軸配置された2つの電極2B,3Bの何れか一方が板組み20に接触したときに他方が板組み20に対して非接触となるように、第1電極2B及び第2電極3Bを板組み20の板厚方向に進退移動させる直動機構と、を備える。上記の直動機構としては、板組み20に対する各電極2A,2B,3A,3Bの相対位置、さらに言えば板組み20に付与すべき板厚方向の加圧力を精密に調整できるようなもの、例えば、サーボモータを駆動源とした直動アクチュエータが用いられる。
【0024】
以上で説明した第1の電極組2及び第2の電極組3や、これらを板組み20の板厚方向に進退移動させる直動機構は、例えば、溶接ロボットに設けられた3次元移動可能なロボットアームの先端に装着した溶接ガンに保持される。すなわち、本発明に係るスポット溶接方法は、溶接ロボットを用いて自動で実施することができる。
【0025】
次に、溶接対象物である、複数の金属板を重ね合わせた板組み20について説明する。板組み20は、引張強度490MPa以上の高張力鋼板や引張強度980MPa以上の超高張力鋼板からなるいわゆる高強度鋼板、あるいは、表面に亜鉛めっきやアルミニウムめっき等のめっき層を有するめっき鋼板を少なくとも1枚含むものとされる。
図1等に示す板組み20は、2枚の高強度鋼板21,22を重ね合わせたものであるが、3枚以上の金属板を重ね合わせたものとされる場合もある。各鋼板21,22の板厚は特に限定されないが、板組みが例えば自動車の車体を構成するものである場合、板厚0.5mm以上2.5mm以下の鋼板21,22が使用される。鋼板21,22は、材料組成を同じくした同種の鋼板であっても良いし、材料組成が互いに異なる異種鋼板であっても良い。
【0026】
スポット溶接装置1は概ね以上の構成を有し、第1給電工程と第2給電工程とを順に実施することで、2枚の鋼板21,22を重ね合わせた板組み20の溶接予定箇所に点状の溶接部10を(自動で)形成する。以下、
図2(a)~(d)に基づいて第1及び第2給電工程を説明する。
【0027】
[第1給電工程]
第1給電工程では、まず、
図2(a)に示すように、溶接対象である板組み20を平置き姿勢で配置した後、直動機構を駆動することにより、板組み20の溶接予定箇所を挟んで対向配置した第1正電極2A及び第1負電極2Bの先端部を板組み20の上面及び下面にそれぞれ押し当てる。これにより、板組み20が対をなす第1電極2A,2Bによって板厚方向に挟持され、2枚の鋼板21,22が第1電極2A,2B間で接触する。第1給電工程の実施中、第2の電極組3を構成する第2電極3A,3Bは板組み20に対して非接触である。
【0028】
次いで、第1電極2A,2Bによって板組み20に対して板厚方向の加圧力を付与しつつ、第1電極2A,2B間に通電すると、
図2(b)に示すように、正電極である第1電極2Aを介して板組み20に溶接部10を形成するための第1電流4が供給される。これに伴い、第1電極2A,2B間(に介在する板組み20内)を電子が流れると、まず、板組み20のうち電気抵抗が大きい箇所、ここでは対向配置された第1電極2A,2B間にできる鋼板21,22同士の接触部で発熱が生じるため、当該接触部に鋼板21,22の構成金属が溶融して混ざり合った金属溶融物13が生成される。以降、板組み20を加圧している第1電極2A,2B間への通電が継続されるのに伴い、金属溶融物13が成長する。そして、金属溶融物13が所定の大きさまで成長すると、第1電極2A,2B間への通電を停止する。第1電極2A,2Bは、少なくとも板組み20を加圧している間、その内部を冷却液が流通するようになっている。そのため、第1電極2A,2B間への通電が停止されると、金属溶融物13が急冷されて凝固し、鋼板21,22同士を接合した溶接金属(ナゲット)11が形成される。
【0029】
第1電極2A,2B間に通電するのに伴い、金属溶融物13の周囲にはHAZとも称される熱影響部12が形成される。熱影響部12は、JIS Z 3001-1:2018に規定された「熱影響部」の定義に準じ、溶接時(第1電極2A,2B間への通電時)の熱で組織や機械的性質などが変化した、溶融していない母材(鋼板21,22)の部分、である。
【0030】
[第2給電工程]
第1電極2A,2B間への通電が停止されると、直動機構を駆動することにより、第1電極2Aを上昇させて板組み20と第1電極2Aの接触状態を解消(第1正電極2Aによる加圧力を解放)する一方、第2電極3Aを下降させて板組み20の上面に押し当てると共に、第1電極2Bを下降させて板組み20と第1電極2Bの接触状態を解消(第1電極2Bによる加圧力を解放)する一方、第2電極3Bを上昇させて板組み20の下面に押し当てる[
図2(c)参照]。このとき、駆動機構は、第2電極3A,3Bが板組み20に押し当てられてから(第2電極3A,3Bにより板組み20を板厚方向に加圧してから)、第1電極2A,2Bと板組み20の接触状態が解消されるように、各電極2A,2B,3A,3Bを昇降移動させる。
【0031】
次いで、第2電極3A,3Bを板組み20に押し当てつつ(第2電極3A,3Bにより板組み20を板厚方向に加圧しつつ)、第2電極3A,3B間に通電することにより、
図2(d)に示すように、正電極である第2電極3Aを介して板組み20に電流(第2電流5)を供給する。第2電極3A,3Bによる板組み20の加圧位置、及び第2電流5の電流値は上段で説明したように調整されることから、電極3Aを介して板組み20に供給された第2電流5は、板組み20のうちナゲット11の周囲に形成された熱影響部12を保温する(熱影響部12が急冷されるのを阻止する)ように板組み20内を板厚方向に流れる。これにより、2枚の鋼板21,22に跨って形成されたナゲット11が完全に冷え固まる過程でナゲット11と熱影響部12の境界部で大きな応力が発生するのを抑制又は防止することができるので、上記応力に由来する割れや亀裂等の欠陥が溶接部10に発生するのを防止できる。
【0032】
この第2給電工程において、第2電流5は、完全に凝固した溶接部10(ナゲット11)を軟化させるために板組み20に供給されるわけではなく、ナゲット11の周囲の熱影響部12の冷却速度を遅くするために板組み20に供給される。そのため、第2電流5の電流値は第1電流4の電流値よりも小さくて足り、また板組み20に対する第2電流5の供給量(第2電極3A,3B間の通電時間)は少なくて済む。以上のことから、本発明に係るスポット溶接方法によれば、割れ等の欠陥がない高精度の溶接部10を少エネルギーで板組み20に形成することができる。
【0033】
以上、本発明の一実施形態について説明を行ったが、本発明の実施の形態は上記のものに限定されない。
【0034】
例えば、第2の電極組3を構成する第2電極3A,3Bは、上述した円筒状のものに替えて、
図3(a)(b)に示すように、円弧状をなしたものを第1電極2A,2Bの周方向に間隔を空けて複数配置するようにしても良い。
図3(a)は、それぞれが円弧状をなした4つの第2電極3Aを周方向に間隔を空けて配置した場合を示し、
図3(b)は、それぞれが円弧状をなした2つの第2電極3Aを周方向に間隔を空けて配置した場合を示している。
【0035】
また、以上では、板組み20の上側に配置した第1電極2A及び第2電極3Aを何れも正電極とし、板組み20の下側に配置した第1電極2B及び第2電極3Bを何れも負電極としたが、電極の極性はこれと逆にしても構わない。また、板組み20の上側に配置した第1電極2Aと第2電極3Aの極性を互いに異ならせると共に、板組み20の下側に配置した第1電極2Bと第2電極3Bの極性を互いに異ならせても構わない。具体例を挙げると、板組み20の上側に配置した第1電極2A,3Aのそれぞれを正電極及び負電極にすると共に、板組み20の下側に配置した第2電極2B,3Bのそれぞれを負電極及び正電極とする。各電極の極性をどのようにするかは、板組み20の構成に応じて選択することができる。
【0036】
また、第2給電工程で熱影響部12に第2電流5を精度良く流すことができるのであれば、第2の電極組3のうち、負電極となる側の電極(例えば、板組み20の下側に配置される電極)は、
図4に示すように、第1の電極組2を構成する第1電極2A,2Bのうち負電極となる側の電極(2B)を兼用しても構わない。
【0037】
また、以上で説明した実施形態では、板組み20を構成する2枚の金属板21,22の双方を高強度鋼板としたが、本発明に係るスポット溶接方法及び装置は、亜鉛めっき鋼板等のめっき鋼板を含む板組み20に、金属板同士を接合する溶接部10を形成する際にも好ましく適用することができる。その場合には、めっきの構成元素が熱影響部12の結晶粒界に凝集するのを防止することができるので、めっき構成元素の凝集に由来する割れ等の欠陥が溶接部10に発生するのを可及的に防止することができる。
【0038】
また、本発明に係るスポット溶接方法は、溶接ロボットによって自動で実施する場合のみならず、作業者による人手作業で板組み20に点状の溶接部10を形成する場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 スポット溶接装置
2 第1の電極組
2A 第1電極(正電極)
2B 第1電極
3 第2の電極組
3A 第2電極(正電極)
3B 第2電極
4 第1電流
5 第2電流
10 溶接部
11 ナゲット(溶接金属)
12 熱影響部
13 金属溶融物
20 板組み
21,22 鋼板(金属板)