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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110657
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/42 20060101AFI20240808BHJP
   C03B 5/027 20060101ALI20240808BHJP
   C03B 5/43 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
C03B5/42
C03B5/027
C03B5/43
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015365
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100129148
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 淳也
(72)【発明者】
【氏名】愛 陸朗
【テーマコード(参考)】
4G014
【Fターム(参考)】
4G014AD01
(57)【要約】
【課題】ガラス溶融炉の側壁の消耗状態を把握する。
【解決手段】ガラス物品の製造方法は、ガラス溶融炉1内でガラス原料Fを加熱溶融して溶融ガラスGMを生成する溶融工程S1を備える。ガラス溶融炉1は、耐火物により構成されるサイドブロック5aを含む側壁5を備える。ガラス物品の製造方法は、サイドブロック5aの耐火物の成分の溶出量E3yを求める算出工程S4と、この溶出量E3yに基づいてサイドブロック5aの消耗を評価する評価工程S5と、をさらに備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス溶融炉内でガラス原料を加熱溶融して溶融ガラスを生成する溶融工程を備えるガラス物品の製造方法であって、
前記ガラス溶融炉は、耐火物により構成されるサイドブロックを含む側壁を備え、
前記溶融工程において前記サイドブロックから溶出した前記耐火物の成分の溶出量を算出する算出工程と、
前記溶出量に基づいて前記サイドブロックの消耗を評価する評価工程と、をさらに備えることを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項2】
前記サイドブロックを補修する補修工程をさらに備え、
前記補修工程は、前記評価工程の評価結果に基づいて実行される請求項1に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項3】
前記溶融ガラスからガラス物品を成形する成形工程をさらに備え、
前記算出工程は、前記ガラス物品に対して行われた成分分析の結果に基づいて、所定期間において前記サイドブロックから溶出した前記耐火物の前記成分の合計溶出量を算出する工程を備える請求項1又は2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項4】
前記溶融ガラス及び/又は前記ガラス物品を回収する回収工程をさらに備え、
前記ガラス原料は、前記回収工程で回収されたガラスから得られたカレットを含み、
前記算出工程は、前記カレットを介して前記ガラス溶融炉に持ち込まれる前記耐火物の前記成分の合計持ち込み量を算出する工程と、前記合計溶出量から前記合計持ち込み量を差し引いた値を前記溶出量とする工程と、をさらに備える請求項3に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項5】
前記評価工程では、前記溶出量と、前記溶融工程の開始前における前記サイドブロックの質量と、に基づいて前記サイドブロックの消耗を評価する請求項1又は2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項6】
前記補修工程は、前記溶出量Eと前記サイドブロックの前記質量Wとの比E/Wが百分率で15%以上45%以下であるときに実行される請求項5に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項7】
前記サイドブロックは、ジルコニア系レンガからなり、
前記耐火物の前記成分は、ジルコニアである請求項1又は2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項8】
前記補修工程は、前記サイドブロックの外側に追加の耐火ブロックを配置する工程を備える請求項2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項9】
前記補修工程は、前記サイドブロックを交換する工程を備える請求項2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項10】
前記ガラス溶融炉は、前記ガラス原料を加熱溶融する電極を備え、
前記溶融工程は、前記電極のみによって実行される請求項1又は2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項11】
ガラス溶融炉内でガラス原料を加熱溶融して溶融ガラスを生成する溶融工程を備えるガラス物品の製造方法であって、
前記ガラス溶融炉は、前記ガラス原料を加熱溶融する電極と、耐火物により構成されるサイドブロックを含む側壁と、を備え、
前記溶融工程は、前記電極のみによって実行され、
前記サイドブロックを補修する補修工程をさらに備え、
前記補修工程は、前記サイドブロックを交換する工程を備えることを特徴とするガラス物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス物品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、ガラス板、ガラス管、ガラス繊維等に代表されるガラス物品は、ガラス原料を溶解させて生成した溶融ガラスを所定の形状に成形することにより製造される。
【0003】
例えば特許文献1は、ガラス溶融炉内で溶融ガラスを連続生成する工程を備えたガラス物品の製造方法を開示している。この方法では、ガラス溶融炉内に貯留された溶融ガラスを電極により通電加熱しつつ、溶融ガラス上に連続供給したガラス原料を溶解させて新たな溶融ガラスを連続生成すると共に、溶融ガラスをガラス溶融炉の流出口から炉外に流出させる(同文献の請求項1参照)。
【0004】
溶融ガラスの生成に使用されるガラス溶融炉は、電極が設けられた底壁と、底壁の周囲に設けられる側壁(前壁、後壁及び一対の側壁)と、天井壁と、を有する(同文献の段落0036及び図1図2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/004138号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガラス溶融炉では、溶融ガラスの対流によって側壁及び底壁が浸食される。特に溶融ガラスによる側壁の浸食が進行すると、溶融ガラスの漏出を招くおそれがあり、定期的に点検、補修を行う必要がある。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、ガラス溶融炉の側壁の消耗状態を把握することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明は上記の課題を解決するためのものであり、ガラス溶融炉内でガラス原料を加熱溶融して溶融ガラスを生成する溶融工程を備えるガラス物品の製造方法であって、前記ガラス溶融炉は、耐火物により構成されるサイドブロックを含む側壁を備え、前記溶融工程において前記サイドブロックから溶出した前記耐火物の成分の溶出量を算出する算出工程と、前記溶出量に基づいて前記サイドブロックの消耗を評価する評価工程と、をさらに備えることを特徴とする。
【0009】
かかる構成によれば、溶融工程によってガラス溶融炉の側壁のサイドブロックから溶出した耐火物の成分の溶出量を、算出工程により算出し、サイドブロックの消耗をこの溶出量に基づいて評価工程により評価することで、側壁の消耗状態を的確に把握することが可能となる。
【0010】
(2) 上記の(1)に記載のガラス物品の製造方法において、前記サイドブロックを補修する補修工程をさらに備え、前記補修工程は、前記評価工程の評価結果に基づいて実行されてもよい。
【0011】
かかる構成によれば、ガラス溶融炉の側壁からの溶融ガラスの漏出を補修工程によって確実に防止し、ガラス溶融炉の寿命を長期化することができる。
【0012】
(3) 上記の(1)又は(2)に記載のガラス物品の製造方法において、前記溶融ガラスからガラス物品を成形する成形工程をさらに備え、前記算出工程は、前記ガラス物品に対して行われた成分分析の結果に基づいて、所定期間において前記サイドブロックから溶出した前記耐火物の前記成分の合計溶出量を算出する工程を備えてもよい。
【0013】
かかる構成によれば、ガラス溶融炉における側壁の消耗状態をより的確に把握することができる。
【0014】
(4) 上記の(3)に記載のガラス物品の製造方法において、前記溶融ガラス及び/又は前記ガラス物品を回収する回収工程をさらに備え、前記ガラス原料は、前記回収工程で回収されたガラスから得られたカレットを含み、前記算出工程は、前記カレットを介して前記ガラス溶融炉に持ち込まれる前記耐火物の前記成分の合計持ち込み量を算出する工程と、前記合計溶出量から前記合計持ち込み量を差し引いた値を前記溶出量とする工程と、をさらに備えてもよい。
【0015】
かかる構成によれば、ガラス溶融炉における側壁の消耗状態をより的確に把握することができる。
【0016】
(5) 上記の(1)から(4)のいずれかに記載のガラス物品の製造方法において、前記評価工程では、前記溶出量と、前記溶融工程の開始前における前記サイドブロックの質量と、に基づいて前記サイドブロックの消耗を評価してもよい。
【0017】
かかる構成によれば、ガラス溶融炉における側壁の消耗状態をより的確に把握することができる。
【0018】
(6) 上記の(5)に記載のガラス物品の製造方法において、前記補修工程は、前記溶出量Eと前記サイドブロックの前記質量Wとの比E/Wが百分率で15%以上45%以下であるときに実行され得る。
【0019】
上記の比E/Wが15%以上である場合に補修工程を行うと、補修の効果によって溶融ガラスの温度が上昇し、側壁の浸食が促進されてしまい、ガラス溶融炉の寿命が短くなるといった事態を抑制できる。一方、この比E/Wが45%以下であるときに実行すれば、補修が間に合わず、側壁から溶融ガラスが漏出するといった事態を回避できる。
【0020】
(7) 上記の(1)から(6)のいずれかに記載のガラス物品の製造方法において、前記サイドブロックは、ジルコニア系レンガからなり、前記耐火物の前記成分は、ジルコニアであってもよい。かかる構成によれば、サイドブロックの浸食を低減してガラス溶融炉の長寿命化を実現できるとともに、側壁の消耗状態を的確に把握することが可能となる。
【0021】
(8) 上記の(2)に記載のガラス物品の製造方法において、前記補修工程は、前記サイドブロックの外側に追加の耐火ブロックを配置する工程を備えてもよい。かかる構成によれば、側壁からの溶融ガラスの漏出を防止するとともに、補修にかかるコストを抑制することが可能となる。
【0022】
(9) 上記の(2)に記載のガラス物品の製造方法において、前記補修工程は、前記サイドブロックを交換する工程を備えてもよい。
【0023】
かかる構成によれば、サイドブロックを交換することで、ガラス溶融炉の側壁以外の部分(例えばガラス溶融炉の上部構造)を交換することなく再利用することができ、ガラス溶融炉を長期間使用することが可能となる。
【0024】
(10) 上記の(1)から(9)のいずれかに記載のガラス物品の製造方法において、前記ガラス溶融炉は、前記ガラス原料を加熱溶融する電極を備えてもよく、前記溶融工程は、前記電極のみによって実行されてもよい。
【0025】
かかる構成によれば、溶融工程を電極のみによって実行する場合には、溶融ガラスの対流の程度が大きくなり、側壁が消耗しやすくなるため、本発明の効果が顕著となる。
【0026】
(11) 本発明は上記の課題を解決するためのものであり、ガラス溶融炉内でガラス原料を加熱溶融して溶融ガラスを生成する溶融工程を備えるガラス物品の製造方法であって、前記ガラス溶融炉は、前記ガラス原料を加熱溶融する電極と、耐火物により構成されるサイドブロックを含む側壁と、を備え、前記溶融工程は、前記電極のみによって実行され、前記サイドブロックを補修する補修工程をさらに備え、前記補修工程は、前記サイドブロックを交換する工程を備えることを特徴とする。かかる構成によれば、サイドブロックを交換することで、ガラス溶融炉の側壁以外の部分(例えばガラス溶融炉の上部構造)を交換することなく再利用することができ、ガラス溶融炉を長期間使用することが可能となる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ガラス溶融炉の側壁の消耗状態を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】ガラス溶融炉の断面図である。
図2図1のII-II矢視線に係る断面図である。
図3】ガラス物品の製造方法を示すフローチャートである。
図4】ガラス物品の製造方法を示すフローチャートである。
図5】ガラス物品の製造方法における補修工程を示すガラス溶融炉の断面図である。
図6】ガラス溶融炉の側壁における耐火物の溶出量と、サイドブロックの消耗量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。図1乃至図6は、本発明に係るガラス物品の製造方法の一実施形態を示す。
【0030】
図1及び図2は、本方法に使用されるガラス溶融炉を示す。ガラス溶融炉1は、溶融ガラスGMを生成する溶融槽2と、溶融槽2の上方に位置する上部構造物3と、を備える。
【0031】
溶融槽2は、炉底を構成する底壁4と、炉壁を構成する側壁5とを備える。
【0032】
底壁4は、耐火物により構成される複数のボトムブロック4aを含む。底壁4は、ボトムブロック4aを複数の層となるように上下に積層することにより構成される。底壁4の各層は、横方向に並べて配置された複数のボトムブロック4aにより構成される。ボトムブロック4aは、例えば高ジルコニア電鋳耐火レンガ、デンスジルコン焼成レンガ等を含む。
【0033】
底壁4は、その壁面から上方に突出する複数の電極6を有する。電極6は、棒状に構成されるが、板状又はブロック状に構成されてもよい。電極6は、例えばモリブデンで構成されるが、この構成に限定されない。
【0034】
図2に示すように、底壁4は、側壁5よりも外方に突出する延長部4bを有する。延長部4bは、ガラス溶融炉1を補修する際に、補修材料を設置するためのものである。
【0035】
側壁5は、耐火物により構成される複数のサイドブロック5aを含む。本実施形態では、サイドブロック5aとして、上下方向に沿って長尺状の耐火ブロックを例示するが、これに限らず、複数の耐火ブロックを上下に積載してもよい。
【0036】
サイドブロック5aに使用される耐火物としては、例えば電鋳レンガまたは焼成レンガが用いられる。電鋳レンガは、焼成レンガと比較して、比抵抗が低く、高温の溶融ガラスGMに対する耐食性が高い。電鋳レンガとしては、例えば、HZFC等の高ジルコニア電鋳レンガ、AZS(アルミナジルコニアシリカ)電鋳レンガ等が挙げられる。高ジルコニア電鋳レンガは、例えばジルコニアの含有量が80質量%以上である。サイドブロック5aには、ジルコニア系レンガを用いることが好ましく、具体的には、高ジルコニア電鋳レンガを用いることが好ましい。
【0037】
図1に示すように、上部構造物3の一部には、溶融槽2にガラス原料Fを供給するための原料供給部7が設けられている。原料供給部7は、上部構造物3に形成された開口を介してスクリューフィーダからなる供給装置8によりガラス原料Fを供給する。供給装置8としては、スクリューフィーダに限らず、各種フィーダを用いてもよい。
【0038】
図2に示すように、上部構造物3は、溶融槽2の側壁5上に配置された第一受け部9と、第一受け部9上に配置されたブレストウォール10と、ブレストウォール10上に配置された第二受け部11と、中央部が上方に湾曲したアーチ形状を有する天井アーチ12と、を備える。
【0039】
第一受け部9は、サイドブロック5aの上方に位置する第一部分と、溶融槽2よりも外側に突出する第二部分とを有する。
【0040】
ブレストウォール10は、第一受け部9を介してサイドブロック5a上に立設されており、第二受け部11を介して天井アーチ12を支持する。天井アーチ12は、迫構造(アーチ構造)を有しており、上部構造物3における天井である。上部構造物3の各部は、耐熱性および耐食性に優れた耐火物(焼成耐火物、電鋳耐火物等)により形成されている。
【0041】
上記溶融槽2および上部構造物3は、図示しない支持構造物によって支持されている。例えば、支持構造物は、溶融槽2の底壁4を下方から支持する梁と、上部構造物3を支持するとともに溶融槽2の横方向の移動を規制する支柱とを備える。支柱には、金具等を介して、第一受け部9および第二受け部11がそれぞれ固定されている。また、支柱には、溶融槽2の底壁4及びサイドブロック5aを押して横方向の移動を規制する押さえ金具が固定されている。
【0042】
以下、上記構成のガラス溶融炉1を使用してガラス物品を製造する方法について説明する。図3に示すように、本方法は、ガラス溶融炉1によって溶融ガラスGMを生成する溶融工程S1と、溶融ガラスGMからガラス物品を成形する成形工程S2と、ガラス物品を切断する切断工程S3と、を備える。
【0043】
溶融工程S1では、原料供給部7からガラス原料Fをガラス溶融炉1の溶融槽2に供給する。その後、溶融槽2内のガラス原料Fを加熱溶融し、溶融ガラスGMを生成する。すなわち、溶融工程S1では、ガラス溶融炉1内の温度を、ガラス原料Fが溶融可能な温度以上の操業温度に維持するように、電極6のみによる通電加熱を行う。さらに、溶融工程S1では、ガラス溶融炉1内に貯留された溶融ガラスGMを通電加熱しつつ、溶融ガラスGM上に連続供給したガラス原料Fを溶融して新たな溶融ガラスGMを生成してガラス溶融炉1外に排出することで、溶融ガラスGMを連続的に生成することができる。
【0044】
溶融ガラスGMは、例えば、無アルカリガラスであってもよく、アルミノシリケートガラスであってもよい。溶融工程S1では、溶融ガラスGMの種類に対応して配合されたガラス原料Fが溶融槽2に投入される。ここで、「無アルカリガラス」とは、アルカリ成分(アルカリ金属酸化物)が実質的に含まれていないガラスであり、具体的には、アルカリ成分の重量比が3000ppm以下のガラスを意味する。なお、アルカリ成分の重量比は、好ましくは1000ppm以下であり、より好ましくは500ppm以下であり、最も好ましくは300ppm以下である。
【0045】
ガラス溶融炉1の流出口2aから排出された溶融ガラスGMは、成形工程S2において、ガラス溶融炉1より下流に設けられた図示しない成形炉で成形される。
【0046】
本実施形態に係るガラス物品は、特に限定されるものではなく、本実施形態は、公知の各種用途のガラス物品の製造に適用することができる。上記ガラス物品は、例えば、ガラス板であってもよく、ガラス管あるいはガラス繊維等であってもよい。溶融ガラスGMが無アルカリガラスであり、オーバーフロー法やフロート法等でガラス板を成形する場合には、得られるガラス物品としてのガラス板は、ディスプレイ用ガラス基板として好適できある。また、溶融ガラスGMが例えばアルミノシリケートガラスであり、オーバーフロー法やフロート法等でガラス板を成形する場合には、得られるガラス物品としてのガラス板は、化学強化可能なカバーガラスとして好適である。
【0047】
切断工程S3では、成形工程S2で成形されたガラス物品を所定の形状及び寸法に切断する。例えばオーバーフロー法によって成形工程S2を実施した場合には、成形されたガラスリボンの一部を切断し、枚葉状のガラス板を形成する。
【0048】
さらに、切断工程S3では、ガラス物品を所定形状及び所定寸法に切断する際に、不要部が除去される。例えばガラス物品がガラス板の場合には、その幅方向における端部を不要部として切断・除去する。切断工程の後工程として、必要に応じて、所望の寸法のガラス板を切り出す再切断工程や、ガラス板の端面を研削・研磨する端面加工工程、ガラス板を洗浄する洗浄工程、ガラス板を検査する検査工程、ガラス板を梱包する梱包工程等が設けられる。
【0049】
本方法は、切断等で除去された不要部に係るガラス片や各種工程で破損したガラス板、検査で不合格となったガラス板等を回収する工程(回収工程)を備える。回収工程では、回収したガラス物品等を細かく粉砕し、カレットとしてガラス原料Fに添加する。また、回収工程は、設備のメンテナンス時等に実施される場合がある。すなわち、回収工程において、ガラス溶融炉等から溶融ガラスが回収され、カレットとしてガラス原料Fに添加される場合がある。このように再利用されるカレットがガラス原料Fに占める割合(カレット利用率)は、例えば質量%で5%以上70%以下である。
【0050】
本方法は、図4に示すように、側壁5を構成するサイドブロック5aの耐火物の成分の溶出量を求める算出工程S4と、この溶出量に基づいてサイドブロック5aの消耗を評価する評価工程S5と、評価工程S5による評価結果に基づいてガラス溶融炉1の補修を行う補修工程S6と、をさらに備える。
【0051】
図5に示すように、溶融工程S1では、溶融槽2内の溶融ガラスGMの対流によって側壁5の内面が徐々に浸食される。この浸食により、側壁5を構成するサイドブロック5aの耐火物の成分が溶融ガラスGMに混入(以下「溶出」という)する。耐火物の成分の溶出量は、例えばWDX(波長分散型X線分析)又は化学分析によって評価することができる。耐火物の成分の溶出量の測定は、ガラス溶融炉1から排出された溶融ガラスGMを採取することにより行われる。これに限らず、成形されたガラス物品又は切断工程S3により生じた不要部に対して成分分析を行うことにより、耐火物の成分の溶出量を測定してもよい。
【0052】
算出工程S4では、側壁5のサイドブロック5aから溶出した耐火物の主成分であるジルコニア(ZrO)の質量、すなわち溶出量を上記の成分分析により算出することで、側壁5の消耗の程度を推定することができる。
【0053】
算出工程S4は、上記の成分分析の結果に基づいてサイドブロック5aの耐火物の成分の合計溶出量を算出する第一算出工程と、ガラス原料F(カレット)を介してガラス溶融炉1に持ち込まれる耐火物の成分の合計持ち込み量を算出する第二算出工程と、合計溶出量から合計持ち込み量を差し引いた値を側壁5の耐火物の溶出量とする第三算出工程と、を備える。
【0054】
第一算出工程では、一定期間において側壁5から溶出した耐火物のジルコニア成分の合計溶出量を算出する。合計溶出量の計算に係る期間としては、例えば、日、月、又は年を用いることができる。
【0055】
第一算出工程では、溶融槽2の流出口2aから排出された溶融ガラスGMを定期的に採取し(例えば一日一回)、溶融ガラスGMに含まれるジルコニアの成分比率R1(質量%)を成分分析により測定する。
【0056】
ガラス溶融炉1から排出される溶融ガラスGMの一日あたりの流量をM(ton/日)とすると、例えば各日の溶出量E1(ton)は、以下の式(1)により算出され、例えば一年間の合計溶出量E1y(ton)は、各日の溶出量E1(ton)を積算することにより算出される。
E1=M×R1 ・・・(1)
【0057】
第二算出工程では、回収工程によって製造されたカレットが一定期間にガラス溶融炉1に持ち込まれた合計持ち込み量を算出する。ガラス原料Fに係るカレット利用率をR2(質量%)とし、カレットに含まれるジルコニアの成分比率をR3(質量%)とすると、例えば各日の持ち込み量E2(ton)は、以下の式(2)により算出され、例えば一年間の合計持ち込み量E2y(ton)は、各日の溶出量E2(ton)を積算することにより算出される。
E2=M×R2×R3 ・・・(2)
【0058】
第三算出工程では、上記の合計溶出量E1及び合計持ち込み量E2に基づいて、一定期間における側壁5からのジルコニア成分の溶出量が算出される。例えば一年間の側壁5の溶出量E3y(ton)は、以下の式(3)により算出される。
E3y=E1y-E2y ・・・(3)
【0059】
評価工程S5では、算出工程S4により求められた溶出量E3yに基づいてサイドブロック5aの消耗を評価する。図6は、溶出量E3yとサイドブロック5aの消耗量との関係を示すグラフである。サイドブロック5aの消耗量は、浸食によるサイドブロック5aの厚みの減少量(mm)であり、例えばパネラテック社のスマートメルターを利用して測定することができる。図6に示すように、溶出量がE3y1からE3y3へと増加するにつれてサイドブロック5aの消耗量がC1からC3へと増加していることが確認できる。溶出量E3yとサイドブロック5aの消耗量との関係は、例えば一次関数で補間できる。このため、溶出量E3yに基づいてサイドブロック5aの消耗量を把握することができる。
【0060】
本実施形態の評価工程S5では、算出工程S4により求められた溶出量E3yと、溶融工程S1の開始前におけるサイドブロック5aの質量Wと、に基づいて側壁5の消耗率R4(百分率)を算出する。消耗率R4は、側壁5の溶出量E3yと、溶融工程S1の開始前における側壁5の質量W(ton)との比E3y/Wにより算出される(R4=(E3y/W)×100)。
【0061】
上記の算出工程S4及び評価工程S5は、例えば算出工程S4及び評価工程S5を管理するコンピュータの演算処理により実行される。
【0062】
補修工程S6は、側壁5の消耗率R4が15%以上45%以下の範囲内にある場合に実行される。側壁5の消耗率R4が15%未満であるときに補修工程S6を実行すると、この補修の効果によって溶融槽2内の溶融ガラスGMの温度が上昇し、溶融ガラスGMによる側壁5の浸食が促進され、ガラス溶融炉1の寿命が短くなるおそれがある。また、側壁5の消耗率R4が45%を超えると、側壁5から溶融ガラスGMが漏出するおそれがある。
【0063】
図5に示すように、補修工程S6では、溶融工程S1を継続しつつ、追加の耐火ブロック13を側壁5の外側において、側壁5の外面に接触するように設置する。補修工程S6では、複数の耐火ブロック13を底壁4の延長部4b上に積載する。
【0064】
耐火ブロック13の耐火物としては、側壁5のサイドブロック5aと同一の成分により構成されるもの(例えば電鋳レンガまたは焼成レンガ)が用いられる。これに限らず、耐火ブロック13は、ジルコニアを主成分として含むものであれば、側壁5と異なる成分を含むものであってもよい。
【0065】
補修工程S6後は、残存する側壁5と追加した耐火ブロック13とを合わせて、新たな側壁と見做すことができる。すなわち、補修工程S6後では、残存する側壁5の質量W1と、追加された耐火ブロック13の質量W2との和(W1+W2)を新たな側壁5の質量Wと見做して、その後の算出工程S4、評価工程S5及び補修工程S6を実行することが可能である。
【0066】
上記の他、補修工程S6は、使用済みの側壁5を新たなものと交換する交換工程を備える。交換工程は、ガラス溶融炉1における操業の全期間を通じてその合計溶出量が所定量となった場合に実行される。交換工程は、ガラス溶融炉1の操業(溶融工程S1)を停止し、溶融槽2から溶融ガラスGMを除去した後に実行される。交換工程では、溶融ガラスGMに浸食された側壁5、及び側壁5に重ねられた耐火ブロック13を除去し、新たなサイドブロック5aを底壁4の所定位置に設置することで側壁5を構成する。これに加え、底壁4についても補修(ボトムブロック4aの交換)を行ってもよい。
【0067】
上部構造物3は、既述のように支持構造物に支持されているため、交換工程中に移動させる必要がない。上記のように電極6のみによって溶融工程S1を実施した場合には、溶融ガラスGMの上部における温度が比較的低く維持されるため、上部構造物3は消耗し難くなる。このため、上部構造物3を補修することなく溶融槽2の補修のみを行うことで、ガラス溶融炉1を再利用することができる。これにより、ガラス溶融炉1を長寿命化することで、ガラス物品の製造コストを抑制することができる。
【0068】
以上説明した本実施形態に係るガラス物品の製造方法によれば、溶出量E3yを算出工程S4により算出し、この溶出量E3yに基づいてサイドブロック5aの消耗率R4を評価工程S5により評価することで、側壁5の消耗状態を的確に把握することが可能となる。
【0069】
特に、本方法では、溶融槽2の底壁4に設けられた電極6のみによって溶融工程S1を行う場合に、溶融ガラスGMの液面がガラス原料Fによって覆われることで、溶融ガラスGMの液面近傍の温度が低く、底壁4の近傍の温度が高くなる。これにより、溶融槽2内では、溶融ガラスGMに下部から上部に向かう対流が生じ、側壁5の消耗が激しくなる。このような場合であっても、側壁5の消耗状態を的確に把握し、側壁5からの溶融ガラスGMの漏出を確実に防止できる。
【0070】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0071】
上記の実施形態では、電極6のみによりガラス原料Fの加熱溶融を行う全電融炉(全電気溶融炉)からなるガラス溶融炉1を例示したが、本発明はこの構成に限定されない。ガラス溶融炉1は、電極6による加熱とバーナの燃焼による加熱とを併用するものであってもよい。バーナは、例えば、上部構造物3に配置され、溶融工程S1の開始時(立ち上げ時)に使用され、あるいは溶融工程S1の実行中に使用され得る。バーナの燃料として水素及び/又は天然ガスといった炭化水素を用いてもよく、水素を用いる場合、環境負荷の低減を図ることができる。
【0072】
上記の実施形態では、ガラス溶融炉1の底壁4は、予め延長部4bを有する構成であったが、本発明はこの構成に限定されない。延長部4bは、溶融工程S1の実行中に底壁4の端部に追加のボトムブロックを配置することにより構成されてもよい。また、溶融工程S1の実行中に、延長部4bに接触するように追加のボトムブロックを設置することで、延長部4bの長さをさらに延長することも可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 ガラス溶融炉
5 側壁
5a サイドブロック
6 電極
13 耐火ブロック
F ガラス原料
GM 溶融ガラス
S1 溶融工程
S2 成形工程
S3 切断工程
S4 算出工程
S5 評価工程
S6 補修工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6