(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110662
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】励磁回路及び電磁流量計
(51)【国際特許分類】
G01F 1/60 20060101AFI20240808BHJP
【FI】
G01F1/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015372
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 修
【テーマコード(参考)】
2F035
【Fターム(参考)】
2F035CA01
2F035CA02
2F035CB02
2F035CB05
(57)【要約】
【課題】励磁回路を高効率化しながら励磁周波数を向上させる。
【解決手段】励磁回路は、励磁電流切替え回路と、定電流供給回路と、電流補正回路とを有する。励磁電流切替え回路は、電磁流量計の励磁コイルに供給される励磁電流の向きを所定の周期において切り替える。定電流供給回路は、スイッチング素子及びスイッチング素子をオンオフ制御するスイッチング制御部を備えて所定の定電流を出力するスイッチング電源により構成され、励磁電流切替え回路を介して供給される励磁電流を含む電流を供給する。電流補正回路は、定電流供給回路から供給される電流の一部をバイパスする電流バイパス部及び励磁電流を検出する励磁電流検出部を備え、励磁電流検出部により検出した励磁電流と所定の目標電流との比較結果に基づいて電流バイパス部を制御することにより励磁コイルの電流を補正する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁流量計の励磁コイルに供給される励磁電流の向きを所定の周期において切り替える励磁電流切替え回路と、
スイッチング素子及び前記スイッチング素子をオンオフ制御するスイッチング制御部を備えて所定の定電流を出力するスイッチング電源により構成され、前記励磁電流切替え回路を介して供給される前記励磁電流を含む電流を供給する定電流供給回路と、
前記定電流供給回路から供給される電流の一部をバイパスする電流バイパス部及び前記励磁電流を検出する励磁電流検出部を備え、前記励磁電流検出部により検出した励磁電流と所定の目標電流との比較結果に基づいて前記電流バイパス部を制御することにより前記励磁コイルの電流を補正する電流補正回路と
を有する励磁回路。
【請求項2】
前記電流補正回路は、前記スイッチング素子のスイッチングに基づくリップル電流の補正を行う請求項1に記載の励磁回路。
【請求項3】
前記電流補正回路は、前記スイッチング制御部のオンオフ制御により高速に前記励磁コイルの電流を補正する請求項1に記載の励磁回路。
【請求項4】
前記電流補正回路は、前記励磁コイルに供給される電流の25%以下の電流をバイパスする前記電流バイパス部を備える請求項1に記載の励磁回路。
【請求項5】
前記励磁電流切替え回路における切替えの際に前記定電流供給回路の供給電流が所定の設定電流値に達した立ち上がり時点を検出する励磁電流立ち上がり検出回路と、
前記励磁電流切替え回路における切替えの開始から前記立ち上がり時点までの期間に前記励磁電流切替え回路を介して前記励磁コイルに励磁用高電圧を印加する電圧切替え回路と
を更に有する請求項1に記載の励磁回路。
【請求項6】
励磁コイルと、
前記励磁コイルに供給される励磁電流の向きを所定の周期において切り替える励磁電流切替え回路と、
スイッチング素子及び前記スイッチング素子をオンオフ制御するスイッチング制御部を備えて所定の定電流を出力するスイッチング電源により構成され、前記励磁電流切替え回路を介して供給される前記励磁電流を含む電流を供給する定電流供給回路と、
前記定電流供給回路から供給される電流の一部をバイパスする電流バイパス部及び前記励磁電流を検出する励磁電流検出部を備え、前記励磁電流検出部により検出した励磁電流と所定の目標電流との比較結果に基づいて前記電流バイパス部を制御することにより前記励磁コイルの電流を補正する電流補正回路と
を有する電磁流量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、励磁電流を供給する励磁回路及び当該励磁回路を使用する電磁流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
液体の流量を測定する流量計のうち、電磁流量計は、ファラデーの電磁誘導の法則を利用して流量を測定するものであり、可動部がないため耐久性に優れる等の特徴を有する。この電磁流量計は、測定管に垂直な方向に磁界を発生させて測定管を流れる導電性液体に生じた起電力を検出することにより流量を測定する。この磁界は、測定管に配置した励磁コイルに電流を流す励磁を行うことにより生成することができる。また、発生した起電力は、測定管に配置した一対の電極により検出することができる。流量の測定精度を向上させるためには、安定した磁界を発生させるとともに起電力検出の際のノイズの低減が必要となる。
【0003】
通常、所定の周期において磁界の極性を切り替える交流の励磁を行い、交流の起電力の測定を行って流量を測定する。磁界の極性の切替えは、励磁コイルに流す励磁電流の極性を切り替えることにより行うことができる。この励磁コイルに交流の励磁電流を流して駆動する回路は、励磁回路と称される。この励磁回路は、励磁コイルに電流を供給する電源回路及び励磁コイルの電流の向きを切り替える切替え回路を備えて構成される。この励磁回路における励磁電流の極性の切替えの周波数である励磁周波数を高周波数化することにより、上述のノイズを低減することができる。これは、ノイズが周波数の上昇とともにノイズレベルが低下する所謂1/fノイズに該当するためである。
【0004】
特許文献1には、この励磁回路として、高電圧と低電圧の2つの電源回路を用意しておき、極性切替え時の励磁電流の立ち上がり時に高電圧を励磁コイルに印加し、定常時に低電圧を印加する励磁回路が記載されている。励磁電流の立ち上がり時に高電圧が励磁コイルに印加されるため、励磁電流の立ち上がり時間を短縮することができる。
【0005】
特許文献2には、スイッチング制御方式による電源回路を使用して高効率化した励磁回路が記載されている。
【0006】
特許文献3には、励磁電流の値が一定となるように切替え回路のスイッチング素子の開閉を制御するスイッチング制御方式の励磁回路が記載されている。この励磁回路は、電源回路の出力にインダクタンスとダイオードの並列接続回路により構成された過電流阻止回路が接続され、励磁電流を安定化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭53-020956号公報
【特許文献2】特開平05-022949号公報
【特許文献3】特開2002-188945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の励磁回路では、ドロッパ方式の電源回路を使用するとともに励磁電流の調整をパワートランジスタにて行う方式のため、消費電力が大きいという問題がある。また、特許文献2の励磁回路では、電源回路の平滑回路に比較的大容量のキャパシタが接続されるため応答が遅くなり、励磁周波数の向上が困難という問題がある。このキャパシタの容量を小さくすると、リプルが増大するという問題が生じる。なお、特許文献3の励磁回路には、電源回路の構成について開示されていない。
【0009】
そこで、本開示では、高効率化しながら励磁周波数を向上させる励磁回路を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る励磁回路は、電磁流量計の励磁コイルに供給される励磁電流の向きを所定の周期において切り替える励磁電流切替え回路と、スイッチング素子及び上記スイッチング素子をオンオフ制御するスイッチング制御部を備えて所定の定電流を出力するスイッチング電源により構成され、上記励磁電流切替え回路を介して供給される上記励磁電流を含む電流を供給する定電流供給回路と、上記定電流供給回路から供給される電流の一部をバイパスする電流バイパス部及び上記励磁電流を検出する励磁電流検出部を備え、上記励磁電流検出部により検出した励磁電流と所定の目標電流との比較結果に基づいて上記電流バイパス部を制御することにより上記励磁コイルの電流を補正する電流補正回路とを有する。
【0011】
また、上記励磁回路において、上記電流補正回路は、上記スイッチング素子のスイッチングに基づくリップル電流の補正を行ってもよい。
【0012】
また、上記励磁回路において、上記電流補正回路は、上記スイッチング制御部のオンオフ制御より高速に上記励磁コイルの電流を補正してもよい。
【0013】
また、上記励磁回路において、上記電流補正回路は、上記励磁コイルに供給される電流の25%以下の電流をバイパスする上記電流バイパス部を備えてもよい。
【0014】
また、上記励磁回路において、上記励磁電流切替え回路における切替えの際に上記定電流供給回路の供給電流が所定の設定電流値に達した立ち上がり時点を検出する励磁電流立ち上がり検出回路と、上記励磁電流切替え回路における切替えの開始から上記立ち上がり時点までの期間に上記励磁電流切替え回路を介して上記励磁コイルに励磁用高電圧を印加する電圧切替え回路とを更に有してもよい。
【0015】
本開示に係る電磁流量計は、励磁コイルと、上記励磁コイルに供給される励磁電流の向きを所定の周期において切り替える励磁電流切替え回路と、スイッチング素子及び上記スイッチング素子をオンオフ制御するスイッチング制御部を備えて所定の定電流を出力するスイッチング電源により構成され、上記励磁電流切替え回路を介して供給される上記励磁電流を含む電流を供給する定電流供給回路と、上記定電流供給回路から供給される電流の一部をバイパスする電流バイパス部及び上記励磁電流を検出する励磁電流検出部を備え、上記励磁電流検出部により検出した励磁電流と所定の目標電流との比較結果に基づいて上記電流バイパス部を制御することにより上記励磁コイルの電流を補正する電流補正回路とを有する。
【発明の効果】
【0016】
上述した励磁回路によれば、電流補正回路により励磁電流のリプルを低減することができるため、スイッチング制御方式の定電流供給回路の出力キャパシタの容量を低くすることができる。これにより、励磁回路を高効率化しながら応答速度の低下を防ぐことができ、励磁周波数を向上させることができる。上述のノイズの低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態に係る電磁流量計の構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、本開示の第1の実施形態に係る励磁回路の構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、本開示の第1の実施形態に係る励磁回路の各部の動作波形を示す図である。
【
図4】
図4は、本開示の第1の実施形態に係る励磁回路の各部の動作波形を示す図である。
【
図5】
図5は、本開示の第2の実施形態に係る励磁回路の構成例を示す図である。
【
図6】
図6は、本開示の第3の実施形態に係る励磁回路の構成例を示す図である。
【
図7】
図7は、本開示の第3の実施形態に係る励磁回路の各部の動作波形を示す図である。
【
図8】
図8は、本開示の第4の実施形態に係る励磁回路の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本開示の実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。説明は、以下の順に行う。なお、以下の各実施形態において、同一の部位には同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
1.第1の実施形態
2.第2の実施形態
3.第3の実施形態
4.第4の実施形態
【0019】
(1.第1の実施形態)
[電磁流量計の構成]
図1は、本開示の実施形態に係る電磁流量計の構成例を示す図である。同図は、電磁流量計1の構成例を表すブロック図である。電磁流量計1は、検出器30と、励磁回路10と、制御回路20と、設定・表示部50と、電源回路40とを備える。
【0020】
検出器30は、流体が導入される測定管31と、励磁コイル34と、流量に応じた起電力を検出する電極32及び33とを備える。励磁コイル34のそれぞれの端子には、信号線63が接続される。この信号線63は、励磁回路10に接続され、励磁電流を伝達する。また、信号線61は、制御回路20に接続され、電極32及び33の電圧VA及びVBを伝達する。
【0021】
励磁回路10は、励磁コイル34に励磁電流を供給する回路である。この励磁回路10は、信号線63を介して励磁コイル34に励磁電流を供給する。また、励磁回路10は、励磁電流の極性の切替えを行う。この励磁電流の切替えは、制御回路20からの励磁極性切替え信号EXD1及びEXD2に基づいて行われる。この励磁極性切替え信号EXD1及びEXD2は、信号線62により伝達される。
【0022】
制御回路20は、励磁回路10を制御するものである。この制御回路20は、信号線62を介して上述の励磁極性切替え信号EXD1及びEXD2を出力し、励磁回路10の励磁電流の出力及び極性の切替えの制御を行う。また、制御回路20は、信号線61を介して伝達される起電力に基づいて流量を検出する。制御回路20は、検出した流量を設定・表示部50に対して出力する。
【0023】
設定・表示部50は、制御回路20に設定信号を出力するものである。また、設定・表示部50は、制御回路20が検出した流量の表示を行う。
【0024】
電源回路40は、電磁流量計1の各部に電源等を供給する回路である。この電源回路40は、制御回路20に電源電圧Vctlを供給する。また、電源回路40は、励磁回路10に入力電圧Vin、電源電圧Vcc及び基準電圧Vrefを供給する。入力電圧Vinは、励磁回路10のスイッチング制御方式の電源回路に入力される。電源電圧Vccは、励磁回路10のIC等に供給される電源である。基準電圧Vrefは、後述するバイパス電流を制御する際の基準となる電圧である。
【0025】
[励磁回路の構成]
図2は、本開示の第1の実施形態に係る励磁回路の構成例を示す図である。同図は、励磁回路10の構成例を表す回路図である。励磁回路10は、定電流供給回路100と、電流補正回路110と、励磁電流切替え回路130とを備える。
【0026】
定電流供給回路100は、スイッチング制御方式の電源回路である。この定電流供給回路100は、入力電圧Vinを励磁コイル34に印加する電圧に変換するとともに定電流を出力する回路である。この定電流供給回路100は、励磁コイル34の励磁電流を含む電流を供給する。定電流供給回路100は、スイッチング素子101と、ダイオード104と、インダクタ102と、キャパシタ103と、抵抗105と、スイッチング制御部109とを備える。
【0027】
抵抗105は、励磁コイル34の電流を検出するものである。この抵抗105は、励磁電流切替え回路130の励磁コイル34の電流が流れるノードと接地端子との間に接続される。
【0028】
スイッチング制御部109は、スイッチング素子101のスイッチング信号を生成するものである。このスイッチング制御部109は、抵抗105により検出した電流検出信号と内部の基準電圧との比較を行い、比較結果に基づいてスイッチング素子101に出力するスイッチング信号のオン及びオフ時間の比率を制御する。
【0029】
スイッチング素子101は、スイッチング制御部109からのスイッチング信号に基づいて、入力電圧Vinのオン状態及びオフ状態を切り替えるものである。スイッチング素子101がオン状態の時に入力電圧Vinがインダクタ102に供給される。スイッチング素子101には、例えば、MOSトランジスタを使用することができる。
【0030】
インダクタ102は、スイッチング素子101がオン状態のときに入力電圧Vinからの電流が流れ、エネルギーを蓄積する。また、インダクタ102は、スイッチング素子101がオフ状態のときに蓄積したエネルギーを放出する。
【0031】
キャパシタ103は、出力電流のリップル成分を平滑化するためのキャパシタである。このキャパシタ103は、インダクタ102とともに平滑回路を構成する。
【0032】
ダイオード104は、スイッチング素子101がオフ状態の時にインダクタ102の電流を環流させるものである。
【0033】
ここで、キャパシタ103は、容量が大きいほど出力電流のリップル成分を減らすことができる。しかし、大容量のキャパシタ103を使用すると、励磁電流の極性切替え後の電流の立ち上がり時間が長くなる。一方、キャパシタ103の容量が小さすぎると、抵抗105の電流検出信号のリップル成分が大きくなり、出力電流が不安定となる虞れがある。また、抵抗105の電流検出信号のリップル成分が大きいと、スイッチング制御部109の許容入力電圧範囲を超えてしまう虞れがある。このため、キャパシタ103は、スイッチング制御部109の許容入力電圧範囲内かつスイッチング制御部109の電流制御が不安定にならない範囲の必要最低限の容量とし、電流立ち上がり時間を短縮する。
【0034】
電流補正回路110は、定電流供給回路100から供給される電流の一部をバイパスする電流バイパス部120及び励磁コイル34の励磁電流を検出する励磁電流検出部を備え、励磁コイル34の電流を補正するものである。この電流補正回路110は、励磁電流検出部により検出した励磁電流と所定の目標電流との比較結果に基づいて前記電流バイパス部を制御することにより前記励磁コイルの電流を補正する。同図の電流補正回路110は、定電流供給回路100から励磁コイル34に供給される出力電流Ioutの一部をバイパス電流Ibypだけバイパスさせて適正な励磁電流に補正する。
【0035】
電流補正回路110は、励磁電流検出素子である抵抗112、オペアンプ118及び抵抗113乃至116からなる差動増幅回路、基準電圧Vref、オペアンプ119、電流制御素子117及び抵抗111を備える。抵抗112及び差動増幅回路は、上述の励磁電流検出部を構成する。また、電流制御素子117及び抵抗111は、直列に接続されて電流バイパス部120を構成する。なお、電流制御素子117には、MOSトランジスタを適用することができる。
【0036】
抵抗112は、励磁電流Iexを検出するための抵抗であり、目標電流値Ispに応じた定数にする必要がある。
【0037】
オペアンプ118及び抵抗113乃至116からなる差動増幅回路は、抵抗112の両端の電圧を増幅する差動増幅回路である。抵抗113乃至116を全て同じ定数にする場合には、差動増幅回路の増幅率は1倍となる。このとき、励磁電流Iexの一部が、差動増幅回路に流れ込むが、抵抗113乃至116を十分に大きな定数にすることにより、差動増幅回路に流れ込む電流を無視することができる。
【0038】
オペアンプ119、電流制御素子117及び抵抗111は、励磁電流検出信号に該当する差動増幅回路のオペアンプ118の出力電圧と基準電圧Vrefとの電圧差に応じてバイパス電流Ibypを制御する回路である。このとき、電流補正回路110は、励磁電流Iexが目標電流値Ispに対して小さい場合に、オペアンプ118等の回路によってバイパス電流Ibypを減らす方向に制御し、励磁電流Iexが目標電流値Ispよりも大きい場合にオペアンプ118等の回路によってバイパス電流Ibypを増やす方向に制御する。
【0039】
定電流供給回路100の出力電流Iout、バイパス電流Ibyp及び励磁電流Iexの関係は、次式のように表すことができる。
|Iex|=Iout-Ibyp
ここで、|Iex|は励磁電流Iexの絶対値を表す。すなわち、定電流供給回路100の出力電流Ioutの制御目標電流値は、励磁電流Iexの目標電流値Ispの絶対値よりも大きい値に設定される。この出力電流Iout及び励磁電流Iexの目標電流値Ispの差分を電流補正回路110のバイパス電流Ibypによりバイパスして消費させることとなる。これにより、定電流供給回路100の出力電流Ioutにリップル成分が含まれている場合であっても電流補正回路110により抑制することができ、より直流化することが可能となる。
【0040】
また、励磁電流Iexの精度は、基準電圧Vref及び電流補正回路110の部品の精度によって決まるため、定電流供給回路100の出力電流Ioutの電流精度を高める必要はなく、出力電流Ioutの温度ドリフトも問題にはならない。このため、スイッチング制御部109には一般的に流通している安価なスイッチング式DC-DCコンバータ用IC(例えば、TI社のLM3401)を使用することができる。
【0041】
なお、オペアンプ118及び119の周波数特性は、スイッチング制御部109のスイッチング周波数に対して、十分な帯域幅を有することが望ましい。具体的には、スイッチング制御部109のスイッチング周波数が500kHzのとき、オペアンプ118及び119のユニティゲイン周波数が5MHz以上であることが望ましい。これにより、定電流供給回路100の出力電流Ioutのリップル成分を十分に抑制することができ、励磁電流Iex(励磁極性切替え後の定常電流)をより直流化することが可能となる。また定電流供給回路100の電流制御速度よりも電流補正回路110の電流制御速度の方が速くなるため、互いの制御の干渉を防ぐことができる。
【0042】
また、前述のように、定電流供給回路100の出力電流Ioutの制御目標電流値は、励磁電流Iexの目標電流値Ispの絶対値よりも大きい値に設定する必要があるが、この出力電流Ioutの制御目標電流値は、必要最小値としておくことが望ましい。電流補正回路のバイパス電流Ibypを必要最小値にすることができ、電流制御素子117及び抵抗111の損失を最小に抑えることができるためである。
【0043】
励磁電流切替え回路130は、励磁コイル34に供給される励磁電流の向きを所定の周期において切り替えるものである。この励磁電流切替え回路130は、4つのスイッチ(同図のスイッチ131乃至134)を備えるブリッジ回路(いわゆるHブリッジ回路)により構成することができる。スイッチ131乃至134の導通及び非導通を切り替えることにより、励磁コイル34に印加される励磁電圧Vex及び励磁電流Iexの極性を切り替えることができる。これらスイッチ131乃至134には、MOSトランジスタを適用することができる。スイッチ131乃至134は、信号線62を介して制御回路20から入力される励磁極性切替え信号EXD1及びEXD2に基づいて導通及び非導通が制御される。
【0044】
励磁極性切替え信号EXD1は、スイッチ131及び134に共通に入力される。また、励磁極性切替え信号EXD2は、スイッチ132及び133に共通に入力される。励磁極性切替え信号EXD1及びEXD2がそれぞれHレベル及びLレベルの時、スイッチ131及び134が導通し、スイッチ132及び133が非導通となる。この場合、同図の矢印の方向に励磁電流Iexが流れる。この電流の極性を正極性とする。また、励磁極性切替え信号EXD1及びEXD2がそれぞれLレベル及びHレベルの時、スイッチ131及び134が非導通となり、スイッチ132及び133が導通する。この場合には、励磁電流Iexの向きが逆転し、負極性となる。
【0045】
[動作波形の説明]
図3及び4は、本開示の第1の実施形態に係る励磁回路の各部の動作波形を示す図である。
図3は、励磁回路10の各部の動作波形を表す図である。
図4は、
図3の励磁電流立ち上がり後の期間T1部分を拡大した波形である。
【0046】
この実施例1では、励磁電流Iexの目標電流値Ispとして+100mA(正極性時)及び-100mA(負極性時)を想定したものである。同図の「Vsw」はスイッチング素子101のスイッチング波形を表す。「Vout」は、定電流供給回路100の出力電圧波形を表す。「Vex」は、励磁コイル34の励磁電圧波形を表す。「Iout」は、定電流供給回路100の出力電流波形を表す。この定電流供給回路100の出力電流波形には、リップル成分が含まれている。「Ibyp」は、電流補正回路110によるバイパス電流波形を表す。「Iex」は、出力電流Ioutからバイパス電流Ibyp分だけ差し引いた補正後の励磁電流波形を表す。なお、「Iout」、「Ibyp」及び「Iex」における縦軸の単位は[mA]である。また、「Ibyp」の縦軸のスケールは「Iout」の1/4(30mA)としている。
【0047】
定電流供給回路100の出力電流Ioutはリップル電流を含むため、100mAよりもやや高い電流(例えば、目標電流110mA)で制御されている。この100mAを超える分を電流補正回路110のバイパス電流Ibypにより、バイパスしている。このとき、平滑用のキャパシタ103は必要最小限の容量としているので、励磁電流の立ち上がりの大きな遅れは認められない。また、立ち上がり後の励磁電流Iexは、目標値Isp(±100mA)に高安定かつ高精度に制御され、リップル成分も除去されている。更に、バイパス電流Ibypは、励磁電流Iexの約1/10に押さえられているため、電流制御素子117の発熱を低減することができる。このため、電流制御素子117に許容電流値の小さい小型トランジスタが使用可能となり、放熱器を省略することができる。なお、バイパス電流Ibypは、励磁コイル34に供給される励磁電流Iexの25%以下にすることができる。
【0048】
[第1の実施形態における効果]
このように、本開示の第1の実施形態の励磁回路10は、スイッチング制御方式の定電流供給回路100の出力電流Ioutの一部をバイパスして補正する電流補正回路110を備える。この電流補正回路110により、出力電流Ioutに含まれるリップル成分を除去することができるため、励磁コイル34の励磁電流を安定化することができる。また、電流補正回路110によりリップル成分が除去されるため、定電流供給回路100の出力電圧平滑用のキャパシタ103に小容量のキャパシタを適用することができる。このため、励磁電流の極性の切替え後の立ち上がりを高速化することができ、極性切替え周波数を向上させることができる。これにより、流量測定の際のノイズを低減することができる。
【0049】
また、本開示の第1の実施形態の励磁回路10は、スイッチング制御方式の定電流供給回路100を使用するとともに定電流供給回路100の出力電流Ioutと、目標電流値Ispとの差分のみを電流補正回路110の電流バイパス部120により消費させる。これにより、ドロッパ方式の励磁回路と比較して効率を向上させることができる。
【0050】
(2.第2の実施形態)
上述の第1の実施形態の励磁回路10は、定電流供給回路100の電流検出のための抵抗105をローサイド側に配置していた。これに対し、本開示の第2の実施形態の励磁回路10は、抵抗105をハイサイド側に配置する点で、上述の第1の実施形態と異なる。
【0051】
[励磁回路の構成]
図5は、本開示の第2の実施形態に係る励磁回路の構成例を示す図である。同図は、
図2と同様に、励磁回路10の構成例を表す回路図である。同図の励磁回路10は、抵抗105が入力電圧Vinの供給ノードとスイッチング素子101との間に配置され、ハイサイド電流検出タイプのDC-DCコンバータ用ICをスイッチング制御部109に使用する点で、
図2の励磁回路10と異なる。ハイサイド電流検出タイプのスイッチング式DC-DCコンバータ用ICには、例えば、TI社のLM3409を使用することができる。
【0052】
抵抗105がハイサイド側に移動するため、抵抗112の一端を接地することができる。オペアンプ119の非反転入力端子を抵抗112に直接接続することが可能となり、
図2の差動増幅回路を省略することができる。なお、同図の抵抗112は、励磁電流検出部に該当する。
【0053】
これ以外の電磁流量計1の構成は本開示の第1の実施形態における電磁流量計1の構成と同様であるため、説明を省略する。
【0054】
[第2の実施形態における効果]
このように、本開示の第2の実施形態の励磁回路10は、差動増幅回路を省略するため、これらの部品の定数のばらつきや温度ドリフトの影響が除去される。このため、励磁電流の制御を高精度化することができる。
【0055】
(3.第3の実施形態)
本開示の第3の実施形態の励磁回路10は、励磁電流立ち上がり検出回路及び電圧切替え回路を更に備える点で、上述の第1の実施形態の励磁回路10と異なる。
【0056】
[励磁回路の構成]
図6は、本開示の第3の実施形態に係る励磁回路の構成例を示す図である。同図は、
図2と同様に、励磁回路10の構成例を表す回路図である。同図の励磁回路10は、励磁電流立ち上がり検出回路140及び電圧切替え回路150を更に備える点で、
図2の励磁回路10と異なる。なお、本開示の第3の実施形態の電源回路40は、励磁用高電圧VinHを励磁回路10に更に供給する。この励磁用高電圧VinHは、入力電圧Vinより高い電圧である。
【0057】
励磁電流立ち上がり検出回路140は、励磁電流Iexが予め設定された設定電流値に到達したことを検出する機能を有している。具体的には、励磁電流立ち上がり検出回路140は、コンパレータ141及び抵抗142乃至144からなる回路により構成され、抵抗105により検出した励磁電流の電流検出信号と比較電圧Vthとの比較を行う。そして、励磁電流立ち上がり検出回路140は、その比較結果を出力信号Vcmpとして後段の電圧切替え回路150に出力する。なお、比較電圧Vthは、電源電圧Vccを抵抗142及び143により分圧した電圧である。また、抵抗144は、比較動作にヒステリシス特性を持たせるための抵抗である。
【0058】
電圧切替え回路150は、励磁極性切り替え直後(励磁電流立ち上がり前)に励磁用高電圧VinHを励磁電流切替え回路130に供給する回路である。この電圧切替え回路150は、スイッチ151及び駆動回路152を備え、励磁電流立ち上がり検出回路140からの出力信号Vcmpに基づいて、励磁用高電圧VinHの印加ノードを励磁電流切替え回路130に接続し、励磁用高電圧VinHを供給する。
【0059】
なお、同図の定電流供給回路100の出力には逆流防止のためのダイオード153が接続される。励磁電流立ち上がり後は、励磁電流立ち上がり検出回路140からの出力信号Vcmpの出力が停止され、電圧切替え回路150により励磁用高電圧VinHの供給も停止される。これによりダイオード153が導通し、定電流供給回路100の出力電圧Voutが励磁電流切替え回路130に供給される。
【0060】
[動作波形の説明]
図7は、本開示の第3の実施形態に係る励磁回路の各部の動作波形を示す図である。
図7は、
図3と同様に、励磁回路10の各部の動作波形を表す図である。同図において、「Vhb」は、励磁電流切替え回路130に供給される電圧波形を表す。また、「Ihb+Ibyp」は、励磁電流切替え回路130に供給される電流Ihbとバイパス電流Ibypとの合計電流の波形を表す。これ以外は、
図3と同じ表記を適用する。
【0061】
同図のタイミングt0において、励磁コイル34の励磁極性が負極性から正極性に切り替わる。このタイミングt0では、励磁電流切替え回路130の電流Ihbとバイパス電流Ibypとの合計電流(Ihb+Ibyp)及び励磁電流Iexはともにゼロになっており、電流検出信号VFBもゼロとなる。このため、立ち上がり検出回路の比較電圧Vth>電流検出信号VFBとなり、励磁電流立ち上がり検出回路140は、Hレベルの出力信号Vcompを出力する。これにより、電圧切替え回路150のスイッチ151が導通し、励磁用高電圧VinHが励磁電流切替え回路130を介して励磁コイル34に供給される。
【0062】
タイミングt1において、励磁コイル34の励磁電流が徐々に立ち上がり、比較電圧Vth≦電流検出信号VFBとなったタイミングt1において励磁電流立ち上がり検出回路140の出力はLレベルに反転する。これにより、電圧切替え回路150のスイッチ151が非導通になり、入力電圧Vinを電源電圧とする定電流供給回路100の出力電圧Voutが逆流防止のダイオード153を介して励磁電流切替え回路130に供給される。
【0063】
これ以外の電磁流量計1の構成は本開示の第1の実施形態における電磁流量計1の構成と同様であるため、説明を省略する。
【0064】
[第3の実施形態における効果]
このように、本開示の第3の実施形態の励磁回路10は、励磁電流の立ち上がり時に励磁用高電圧VinHが励磁コイル34に供給されるため、
図2の励磁回路10よりも励磁電流の立ち上がり時間を短縮することができる。これにより、
図2の励磁回路10よりも励磁電流の増加及び励磁周波数の向上が可能となる。計測安定性をさらに向上させることができる。
【0065】
(4.第4の実施形態)
上述の第3の実施形態の励磁回路10は、定電流供給回路100の電流検出のための抵抗105をローサイド側に配置していた。これに対し、本開示の第4の実施形態の励磁回路10は、抵抗105をハイサイド側に配置する点で、上述の第3の実施形態と異なる。
【0066】
[励磁回路の構成]
図8は、本開示の第4の実施形態に係る励磁回路の構成例を示す図である。同図は、
図6と同様に、励磁回路10の構成例を表す回路図である。同図の励磁回路10は、抵抗105が入力電圧Vinの供給ノード及びスイッチング素子101の間に配置され、ハイサイド電流検出タイプのDC-DCコンバータ用ICをスイッチング制御部109に使用する点で、
図6の励磁回路10と異なる。また、同図の励磁回路10は、差動増幅回路が省略され、励磁電流の立ち上がり検出の抵抗を抵抗112と兼用している点で、
図6の励磁回路10と異なる。
【0067】
これ以外の励磁回路10の構成は本開示の第3の実施形態における励磁回路10の構成と同様であるため、説明を省略する。
【0068】
[第4の実施形態における効果]
このように、本開示の第4の実施形態の励磁回路10は、差動増幅回路を省略するため、これらの部品の定数のばらつきや温度ドリフトの影響が除去される。このため、励磁電流の制御を高精度化することができる。
【0069】
(他の実施形態)
上述の実施形態1乃至4では、定電流供給回路100として、降圧型の回路を使用した例を示したが、昇圧型の回路や昇降圧型の回路を使用しても構わない。
【0070】
また、還流用のダイオード104を使用したダイオード整流方式の回路例を示したが、この部分をMOSトランジスタなどのスイッチング素子に置き換えて同期整流方式としても良い。これにより、定電流供給回路100の効率が更に向上し、より低発熱の励磁回路10にすることができる。
【0071】
以上、実施形態の一例を説明したが、これらは例示であり、本実施形態は上記した説明に限定されるものではない。発明の開示の欄に記載の態様を始めとして、実施形態の構成や詳細は、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で実施することができる。また、各実施形態については、矛盾しない範囲で任意に組み合わせて実施することができる。
【0072】
なお、本明細書に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものでは無く、また他の効果があってもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 電磁流量計
10 励磁回路
30 検出器
31 測定管
34 励磁コイル
100 定電流供給回路
101 スイッチング素子
105、111~116、142~144 抵抗
110 電流補正回路
117 電流制御素子
120 電流バイパス部
130 励磁電流切替え回路
131~134、151 スイッチ
140 励磁電流立ち上がり検出回路
150 電圧切替え回路